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フランス

ムッシュ・ディオールの庭、エレガンスのゆりかご【フランス庭便り】
クリスチャン・ディオールの邸宅と庭園を紐解く フランスのモード界の巨匠クリスチャン・ディオール(1905-1957)。ニュー・ルックと呼ばれた花開く花弁と茎をイメージしたエレガントなシルエットのドレスは一世を風靡し、モード史の新たなページを開いたことで知られます。そのディオールがクチュリエとなったのは、じつは40歳を過ぎてから。彼の創造の着想源となったのは、幼少時代を母と過ごしたノルマンディー地方、グランヴィルの英仏海峡を見下ろす豊かな庭に囲まれた、瀟洒なアールデコ様式の邸宅での暮らしでした。ディオールが生誕から6歳までを過ごし、その後パリに居を移した後も20代後半まで度々休暇を過ごしに訪れたこの邸宅は、現在はディオール美術館として公開され、また庭園はグランヴィル市の公園となっています。 ノルマンディー地方、グランヴィルでの母との想い出 ディオールのエレガンスのゆりかごとなった邸宅と庭は、上流階級の避暑地として賑わった海沿いの港町グランヴィルにあります。地元の肥料工場経営で財を成した事業家であった父が、19世紀末に建設されたランブ邸と呼ばれる邸宅と土地を購入したのは、ディオールが生まれる前。館と庭園は数年をかけて母マドレーヌの趣味が隅々まで行き届いた姿に改修されました。 常に優雅に装い、花と庭を愛した母マドレーヌは、幼いディオールにとっての憧れであり、クチュリエ・ディオールにとっては永遠の美のミューズだったといえるでしょう。彼の幸せな幼少時代の記憶の象徴となった邸宅のバラ色とグレーの組み合わせは、じつにシックでエレガントで、クチュリエ・ディオールが好んで使ったカラー・コーディネイトにもなりました。また、スズランやバラなど、庭を飾ったお気に入りの花々は、彼のデザインの至る所に使われています。 海を望む、松林のある庭園 約1ヘクタールほどの邸宅敷地の正門から曲線を描く園路を進むと、木々の奥にバラ色とグレーの建物がゆっくりと姿を現します。邸宅の背景には優美な松の木立が控え、また他方には海岸線を見晴らす絶景が待っているという立地に、まずうっとり。 大きく伸びた松の木々は、少年ディオールにとって忘れられない存在感のある風景だったようです(現在、春~夏には松林の芝地の横に、気持ちのよいテラスが設けられて、食事やドリンクを楽しむことができます)。 邸宅の前庭にあるバラの植栽は、生誕100年を記念して新たに加わったものなのだそう。 美しいジャルダン・ディベール(「冬の庭」または温室) そして邸宅の正面のアクセントになっているのは、美しいガラス張りのジャルダン・ディベール(「冬の庭」または温室)。サンルームといってもいいかと思いますが、冬の寒さに弱い柑橘類や観葉植物などを収容するとともに、お茶を飲んだりして寛ぐサロンとしても機能する、インドア・グリーン・スペースです。19世紀の城館や邸宅では、こうした「冬の庭」を作ることが大流行しました。 母マドレーヌと青年ディオールのパーゴラ 母マドレーヌの影響で幼い頃から花々に親しんだディオールは、老舗セーサリーのカタログの植物名を暗記するほどに読み込む園芸好きな少年だったのだそうです。そして建築家になることを夢見る青年となったディオールは、温室を取り払った庭の一角に、母のためにパーゴラと池のコーナーを設計します。 端正な直線で構成された白塗りのパーゴラにはバラが伝い、木陰が心地よいアウトドア・リビングスペースを作ります。同じく白塗りのベンチも彼のデザインで、アールデコ風の、当時最先端のスタイル。母マドレーヌの優雅なアール・ド・ヴィーヴル(暮らしの芸術)の生きる暮らしから受け継いだ、クラシカルでエレガント、温かな気品に満ちたディオールの感性が、庭のしつらいにもそのまま反映されているようです。 野の花とバラの花々と 池を眺めるパーゴラのコーナーからの小径は、隣のローズガーデンにつながります。その小径の脇のボーダーに揺れるのは、爽やかな野の花のような植物たち。ムッシュ・ディオールは、バラなどの華やかな花と同様に、グランヴィル周辺の野原で出会う草花の自然な風情を愛しました。 庭にも、そうした優しげな草花が、彼が好んだ気取りすぎないナチュラルな心落ち着く雰囲気を加えています。英仏海峡の向こうはイギリスの地であることも手伝ってか、どことなくイギリスのコテージガーデンのボーダー植栽のような雰囲気も。 そしてパーゴラのコーナに続く、母マドレーヌのローズガーデンだった場所は、2018年に約100本の新たな品種が加わり、さらに拡張されたローズガーデンとなりました。花姿の美しさと香り、そして強靭さを基準に選ばれたさまざまな品種のバラ。今はまだ小さいのですが、これからどんどん育って、さらに充実した姿になることが期待される空間です。 ジャルダン・ド・グランヴィル 最後に、マドレーヌのバラ園にも、そして邸宅正面のバラのパルテールにも植えられている、現在のメゾン・ディオールと切り離せないバラがあります。その名も「ジャルダン・ド・グランヴィル(Jardin de Granvill グランヴィルの庭)」。グランヴィルの沿岸に自生する野バラからアンドレ・イヴ社のためにジェローム・ラトーによって作出されたこのバラは、2010年のパリ、バガテル国際ニューローズ・コンクールでも1等賞を受賞した名花です。 花弁は、ほぼ白に近い淡いピンク色の柔らかなテクスチャー、フェミニンな優美さ、官能性を呼び起こすような素晴らしい香り、さらに無農薬栽培が可能な強靭さを併せ持つバランスのよいバラ。 また、このバラは庭園を飾るばかりでなく、ディオール・ブランドのパルファンやコスメティックの原料として、グランヴィルにほど近いバラ農園でも無農薬栽培されているのだそうです。 さて、デザイナーやアーティストの自邸の庭には、彼らの個性豊かな暮らしの様子や、また創造活動に直結するようなさまざまな要素が垣間見られるのが非常に興味深いところです。庭と花々の美を愛したムッシュ・ディオールの庭では、パーゴラの下でしばし静かに佇むだけで、ディールのオートクチュールを纏う優雅な貴婦人になったような気分になります。 ●クリスチャン・ディオールに捧げられたバラと、コレクションの一部をご紹介した記事はこちら。
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フランス

南仏プロヴァンスの夏 ラベンダーの花咲くセナンク修道院【フランス庭便り】
険しい渓谷に現れる修道院とラベンダー畑 セナンク修道院は、「フランスの美しい村」として観光客に大人気の鷹巣の村ゴルドからそう遠くないところにあります。とはいえ、村からはずっと上り坂、徒歩で行けなくはないけれどもかなりハード。実際は車やバスを利用しないとなかなか行きにくい場所なのですが、今回は電動のレンタサイクルで行ってみました! これがなかなか快適です。車で動くよりも、風を感じて、風景の中にどっぷりと浸かることができて、本当におすすめ。電動アシストを最大限にしながら峠の坂を上っていくと、よくぞこんなところを選んだなというような、ゴツゴツの岩山に囲まれた修道院とラベンダー畑が見えてきます。 修道院の前に広がるラベンダー畑 私が訪れたのは、6月の最終日。標高が高いこの場所では、例年はまだ花盛りには少し早い時期なのだそうですが、今年はすでに猛暑日もあってか開花の進行も早く、そこそこにラベンダー色に染まり始めたいいタイミングで訪れることができました。 修道院の建物のすぐ前のラベンダー畑は立ち入り禁止ですが、その外側に広がる畑には立ち入ることもできて、実際に近づいて香りを楽しんだり、写真を撮ったりすることもできます。 今も修道僧が暮らす、ロマネスク建築の修道院 現在フランスで名所旧跡として一般公開されている修道院は、すでに美術館に転用されるなどで本来の修道院としては利用されなくなっていることが多い中、12世紀に始まったシトー会セナンク修道院は、現在も祈りと勉強と労働で一日を過ごす厳しい戒律に従って6名の修道僧が暮らす、いわば生きた修道院。大量の観光客が押し寄せる観光名所となったラベンダー畑の傍らで、日々の祈りと労働の暮らしが淡々と続けられています。 ラベンダー畑の管理やハチミツの生産といった作業は、修道僧たちの毎日の労働として行われています(といっても、人数も少ないので、広大なラベンダー畑の世話は手が追いつかず、外部の協力も得ているとのこと)。彼らが育てたラベンダーやハチミツはお土産コーナーに並び、収益は修道院の維持と彼らの生活を支えています。 清貧を旨とするシトー会は、12人の修道僧と1人の長がグループになって母体の修道院からスピンアウトし、新たな地を開拓していくというスタイルで発展していくのですが、新たな修道院をつくるための土地選びの基準は、修行に没頭できる人里離れた自然の中の、ライフラインとなる水、修道院を建てるための石と木材が調達できるところという、ごくシンプルなものでした。その条件に見合っていたのが、現在セナンク修道院が立っている岩だらけの山間だったと聞くと、なるほどとその立地にも合点がいきます。 修道院の建物内はガイドツアーでのみ見学可、同じ建物の一角でほぼ毎日行われているミサには誰でも参加できます。ラベンダー畑や建物を外から眺めるだけでなく、何らかの形で中まで見学すると、ここが祈りの場であるということを肌で感じることができます。 ●ミサの際に修道士たちが合唱している祈りの歌。毎日欠かさず歌っているから、当然かもしれないけれども上手! 中世の中庭と回廊、植物紋の装飾が素敵 修道院建築で欠かせないのが、中庭と回廊です。左右対称、正方形の中庭は、ごくシンプル。この時期ひときわ目を楽しませてくれたのは、アメリカアジサイ‘アナベル’の白。歴史的なものではないでしょうが、簡素な雰囲気に上品な華を添えていました。回廊は、各部屋への移動に使われるばかりでなく、明るいので、季節のいい時期には読書の場所にもなったそうです。 シトー会では精神修行の妨げとなるものは一切排除する、よって建物には基本的には装飾もなく、着彩もない、極めてシンプルなしつらいが基本です。一つ二つの例外を除いては、キリスト像さえありません。が、この回廊を縁取る列柱の柱頭に注目すると、控えめながら、さまざまな植物紋様を見ることができます。植物は精神修行の妨げにはならないとされたのかしら。植物好きとしては、嬉しい限り。 意外と新しい、祈りの場に咲く癒やしのラベンダー畑 ところで、修道院のトレードマークになっているラベンダー畑、つくられたのは1970年代になってからと、長い修道院の歴史の中ではごく最近のこと。以前には雑穀が栽培されていたようです。現在では、アクセスの悪さにもかかわらず多くの人々がこのラベンダー畑を訪れるようになっているばかりでなく、鎮静や殺菌などさまざまな効用をもつハーブであるラベンダーと、生きた祈りの場であるこの修道院の組み合わせは、癒やしの人と植物のマリアージュという点でも大成功、であるように思います。 南仏プロヴァンスで栽培されている主なラベンダー ちなみにラベンダーは150種以上あるのだそうですが、セナンク修道院が位置するヴォークルーズ県などの地域で栽培されているラベンダーは、大きく分けて2種類。そのうちの一つは真正ラベンダーLavandula angustifoliaで、プロヴァンス地方では標高800~1,400mのガリーグと呼ばれる灌木地帯にもともと野生で生えている種。古来より薬用として使われ、近隣の街グラースが香水のメッカとなってからは、その繊細な香りが重宝され、香水工房のために大量に栽培されるようになりました。 もう一つは、1950年代に導入された園芸種のラベンダー、ラバンジン・グロッソLavandin grossoestで、標高800mほどまでの地域で栽培ができ、生育旺盛、多収穫で病気にも強いため、採油や切り花目的などの栽培の中心品目になったもの。プロヴァンスの道路脇やガーデンなどのオーナメンタルとしてよく見かけるのは、こちらのタイプが多いようです。 自然と人の営みがつくるラベンダー風景 プロヴァンスのガリーグと呼ばれる灌木地帯は、もともと野生のラベンダーも生えている場所。ラベンダーの栽培の歴史は古く、2,000年以上前のローマ時代に遡ります。中世からその鎮静作用や消毒効果が重用され、また、近世になってからは香水の材料のエッセンシャルオイルの原料として、大々的に栽培されるようになり、多くの農家を支えてきました。乾いた気候と山間の岩石だらけの土壌でも栽培可能なラベンダーは、大変貴重な農作物でもあるのです。 セナンク修道院ばかりでなく、プロヴァンスにはラベンダーの名所といわれる場所がたくさんあります。人の営みの必要から作られたラベンダーの畑なのですが、夏の開花時期は、いつもの風景にラベンダーの青色のパッチワークが加わって、より一層プロヴァンスらしい、美しい風景が堪能できるのは何よりです。
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【2022年 英国チェルシーフラワーショー】3年ぶりの5月開催! 今年の見どころ&ショーガーデン部門解説①
賑わいを見せた3年ぶりの春のチェルシー 英国王立園芸協会(以下RHS、The Royal Horticultural Society)が主催するチェルシーフラワーショー(以下チェルシー)は、イギリスの園芸ファンが待ち望む、園芸界の一大イベント。ロンドンのチェルシー王立病院を会場に、毎年5月末に開かれます。2020年に起きた新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、それに伴うロックダウンにより、2020年はオンライン開催、2021年は異例の9月開催となりましたが、この春は例年通りに開催され、かつての輝きを取り戻しました。 会場には、RHS総裁でもあるエリザベス女王もピンクのコートドレスでお出ましに。今年は女王の在位70年を祝う〈プラチナ・ジュビリー〉のイベントが続きますが、チェルシーの会場にも、女王がお好きだというスズランの鉢植えを70個飾ったディスプレイが設置されるなど、お祝いムードにあふれました。 会場で最も注目を集めるのは、展示ガーデンの数々です。RHSが時流を反映して製作する特別展示ガーデン(フィーチャーガーデン)では、今年は〈BBCスタジオ・アワー・グリーン・プラネット&RHSビー・ガーデン〉と題して、生息数の減少が危惧されているミツバチを助けるガーデンがつくられました。デザインは、BBC(英国放送協会)の人気ガーデン番組〈ガーデナーズ・ワールド〉でおなじみのデザイナー、ジョー・スウィフト。ミツバチやマルハナバチが好む草花ばかりを集めた植栽で、巣箱や水場も工夫された、ハチも人も嬉しい庭です。 チェルシーはガーデンデザインにおける最高峰の舞台であり、そこで見られるガーデンデザインは、服飾の世界におけるファッションショーのように、時代の流れを反映しています。今年は去年の流れを汲んで、ミツバチの保護や環境保全、サステナビリティ(持続可能性)といった視点のあるデザインが見られました。 グレートパビリオンと呼ばれる大テントの中では、バラならバラ、ダリアならダリアと、特定の植物を専門的に扱い、定評のある種苗会社各社が、自社の植物を使って美しいディスプレイを作り上げ、新しい園芸品種の発表を行います。チェルシーは、園芸やガーデニングに関する新しい情報にあふれる場なのです。 パンデミック後の新しい取り組み 今年のチェルシーでは、新しく〈プロジェクト・ギビング・バック〉というチャリティの仕組みが導入されました。これは、簡単にいうと、チャリティを応援するチャリティ。パンデミックにより経営困難に陥った慈善団体を支援したいと考えた、2人の篤志家が始めた慈善プロジェクトです。 チェルシーは英国において注目度の高い、テレビ放映も行われるイベント。そこに慈善団体が自らの理念を伝える展示ガーデンをつくれば、世間に対して大きな宣伝となります。展示ガーデンの製作には莫大な費用がかかりますが、それを全額負担して、慈善団体には支持や寄付を集める機会を、そしてガーデンデザイナーにはチェルシー挑戦のチャンスを与えようという、なんとも太っ腹な慈善プロジェクト、それが、この〈プロジェクト・ギビング・バック〉です。ガーデン大国、そしてチャリティ大国である英国ならではの、驚きの発想ですね。 ただし、実際にチェルシーに参加してガーデンをつくれるかどうかは、RHSによって通常通り行われる選考審査の結果次第となります。このプロジェクトは2024年までの期間限定で行われますが、今年は、同プロジェクトの支援を受けた12の慈善団体による展示ガーデンが、無事選考審査を通り、製作されました。 展示ガーデンの審査方法 展示ガーデンは、いくつかのカテゴリーに分かれて審査されます。世界屈指のガーデンデザイナーが大きなサイズの庭を設計し、3週間の工期で作り上げる〈ショーガーデン部門〉に、癒やしの場としての個人の小さな庭を想定した〈サンクチュアリガーデン部門〉、都会の限られたバルコニー空間をデザインする〈バルコニーガーデン部門〉に、鉢植えを駆使した〈コンテナガーデン部門〉。それから今年は、前述の〈プロジェクト・ギビング・バック〉と連動して、構造物よりも植物の使い方に注目した〈オール・アバウト・プランツ部門〉が新設されました。 これらの展示ガーデンは、8名からなる審査員団により、RHS独自の基準に則って審査され、金、銀、銅などに評価されます。ガーデンデザイナーは一般に、RHSの主催するほかのフラワーショーで、小さなサイズの展示ガーデンに挑戦することから始め、より有名なフラワーショーの、より大きなサイズの展示ガーデンづくりへとステップアップしていきます。そして、その最高の舞台がチェルシー。ここで金賞(ゴールドメダル)を得ること、そして各部門での大賞(ベスト・イン・ショー)を受賞することは、園芸に携わる人々にとって大変な栄誉です。 審査員は、園芸、ガーデニング、ガーデンデザインにおける知識や技術を持つ専門家で構成されています。展示ガーデンにどのような目的や機能があり、軸となる植物は何で、特徴は何か。審査員たちは庭の概要を前もって書面で伝えられていますが、そういった設計の意図が実現されているかどうかも審査のポイントで、庭がどんなに美しく仕上がっていても、設計意図にそぐわない場合は減点対象となります。このほかに、意欲(独自性)、全体的な印象、デザイン、建造物、植栽の観点からも審査が行われます。 チェルシーでは、審査員団の審査とは別に、ショーの様子を放映するBBCと共同で、会場とインターネットによる一般人気投票〈ピープルズ・チョイス〉も行われます。RHSの審査員の判断と、一般の人気は必ずしも一致しないのが面白いところ。それでは、今回注目された〈ショーガーデン部門〉の受賞作品を見ていきましょう。 金賞&ベストショーガーデン〈ア・リワイルディング・ブリテン・ランドスケープ〉 資金提供:リワイルディング・ブリテン、プロジェクト・ギビング・バック デザイン:ルル・アークハート&アダム・ハント 金賞、及び、大賞となるベストショーガーデンを受賞したのは、〈ア・リワイルディング・ブリテン・ランドスケープ〉。前述の〈プロジェクト・ギビング・バック〉によって参加した慈善団体〈リワイルディング・ブリテン〉がスポンサーのガーデンです。 木々や草花の茂る、このナチュラルなガーデンは、じつは、イングランド南西部にあるビーバーの棲む川辺の景色を再構築したものです。「リワイルディング(rewilding)」とは、「再野生化」を意味する言葉で、人によって開発された場所を自然な状態に戻したり、絶滅の危機に瀕した、その生態系にとって重要な役割を果たす生き物を再び野に放つことによって、生態系を回復させたりすることをいいます。英国では、環境保全の一手段として、さまざまな再野生化の動きが各地で進められていますが、慈善団体〈リワイルディング・ブリテン〉は、人間が少し手助けすれば、自然は自ら治癒する力を持っているという考えのもと、再野生化を推し進めようと活動しています。 このガーデンは、一度は絶滅してしまったビーバーが戻ったことで「再野生化」され、生態系が回復した、実在する風景をモチーフにしています。 英国ではかつて、国内の川辺に野生のヨーロッパビーバーが生息していましたが、肉や毛皮、海狸香(かいりこう、ビーバーの持つ香嚢から得られる香料)のための乱獲で、400年前に絶滅してしまいました。しかし、2013年、デボン州東部のオットー川で1組のビーバー一家の姿が確認されます。どこからやってきたのかはっきりせず、害獣として駆除されそうになったビーバーですが、そこから5年の生態観察調査が行われた結果、ビーバーがじつは、豊かな生態系を作り出すカギとなる、生態系の回復に役立つ生き物であると判明します。国はビーバーを駆除しない方針を打ち出し、現在、オットー川には15組のビーバー家族が棲みつき、近隣エリアの国立公園でもビーバーが再導入されました。 この展示ガーデンという小さなスペースの中に、ビーバーが作り上げた川辺の景色が、見事に再構築されています。セイヨウサンザシ、ハシバミ、カエデの生える林のはずれを流れる小川は、自然の土木技師と呼ばれるビーバーが木の枝を積み上げて作ったダムを経て、湿地帯の草地へと流れ込みます。 ダムは、土やゴミをろ過して水をきれいにし、魚や昆虫が棲みやすい環境を作ります。魚や昆虫の数が増えれば、それらを餌とする野鳥も増えます。ダムはまた、水の流れを緩やかにして湿地帯の草原を作り出し、ミズハタネズミやカワウソに棲み処を与えます。そうやって、生物多様性はどんどん豊かになっていくのです。 展示ガーデンのダムを形作る木の枝は、実際にビーバーがかじり取って積んだものが使われています。ガーデナーは、ビーバーの気持ちになってダムを組んだそう。草原の植栽には、ビーバーの棲むイングランド南西部に自生するワイルドフラワーやグラス類が使われています。 ビーバーの棲み処のあるダムの脇には、人間が身を隠しながらビーバーを観察できる小屋があり、そこには、湿地帯の上に渡された簡素な木道を通って行くことができます。この木道は、サマセット州の湿地帯で遺物として発見された、新石器時代の木道の構造を取り入れたもの。遥か昔に発案された素朴な形状が、ナチュラルな風景に馴染んでいます。 ガーデンデザイナーのルル・アークハートとアダム・ハントは、初出場で金賞を獲得し、さらに、大賞を受賞するという快挙を果たしました。ビーバーのような生態系のカギとなる生き物を導入することで「再野生化」が行われ、生物多様性にあふれた、驚くほど豊かな景観が生まれることを、このガーデンは教えてくれます。 金賞&最優秀建設賞:〈メディテ・スマートプリー “ビルディング・ザ・フューチャー”〉 デザイン:サラ・エベリー 資金提供:メディテ・スマートプリー社 ナチュラルなビーバーの庭とは対照的に、インパクトのある、いかにもショーガーデン! といったダイナミックな景観で注目を集めたのが、こちらの庭。森のはずれをイメージした緑主体のガーデンで、アプローチに鉄鋼のようなオブジェが置かれ、その先の中央部には、上から3本の細い滝が流れる大きな岩場がどーんと据えられています。 設計を担ったのは、チェルシーで金賞を何度も受賞しているベテランデザイナーのサラ・エベリー。この岩場は、イングランド南西部、コーンウォール州北部の海岸線で見られる断崖にインスピレーションを得てデザインされましたが、よく見ると、立てた状態のMDF(中密度繊維板。繊維状にした木材を接着剤と合わせ、熱や圧力で固めた合板)を何枚も重ね合わせて、立体的な造形にしていることが分かります。 このガーデンの隠れた主役は、じつは、このメディテ・スマートプリー社のMDF。この庭は、汎用性があり、健康的な建材であるこの合板を使いこなすことで、未来のサステナブルな景観と建築を表現しています。 MDFは一般に湿気に弱いなどの弱点がありますが、同社のMDFは軽量で耐久性が高く、屋外の使用にも長年耐えられるというもの。地上での使用は50年、地下での使用は25年という、長期の製品保証があります。間伐材から作られ、二酸化炭素の排出も抑えられるこのMDFは、コンクリートやプラスチック、金属に代わる、サステナブルな建材として、注目を集めています。 ガーデンに植わる樹木には、カバノキやシナノキ、マツの類など、メディテ・スマートプリー社が原料の木材を得ている、アイルランドの森に自生する種類が使われています。滝の落ちる池の周りには、湿気を好む珍しい植物の数々や、英国の森のはずれに自生するキンポウゲやプリムラ、シャクといった植物が植えられて、青々とした景色を作ります。一方、岩場の中は「グロット」(庭園につくられる装飾的な洞窟)として空洞になっていて、ベンチに座って休むことができます。 ガーデンデザインにおいて、サステナブルという点をますます重要に感じるという、デザイナーのサラ。ガーデンづくりは、植物も資材も、よりサステナブルなものが求められています。 チェルシーフラワーショーの世界、いかがでしたか。続編もお読みください。
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フランス

パリのアーバン・ガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン 2022 JARDINS JARDIN 2022 」
パリのガーデニングのトレンドをチェック! 日本と同様、6月ともなると芍薬、薔薇、紫陽花とどんどん花が咲き毎日忙しい季節ですが、フランスではガーデンイベントが集中する時期でもあります。 さて、今年17回目を迎える「ジャルダン・ジャルダン」は、毎年6月の初めの4日間パリの中心に位置するチュイルリー公園で開催されるアーバンガーデンに特化したガーデンショーです。 ジャルダン(Jardin)はフランス語で庭のことですが、「Jardins(複数)jardin(単数)」というショーの名前は、大きな庭(チュイルリー公園)jardinの中に小さな庭Jardinsがたくさん作られるところからついた呼び名なのだそう。毎年2万人もが訪れるジャルダン・ジャルダンは、小粒ながらも、街の中心にあるので手軽に訪れることができ、パリのガーデニングのトレンドが一気に分かる、とても楽しいショーです。 会期中は連日、ポタジェの野菜栽培入門や、フラワーアレンジメントのワークショップ、またガーデン関連のレクチャーなど、庭好きには嬉しいプログラムがたくさん組まれています。 チュイルリー公園とは ルーヴル美術館のすぐ隣のチュイルリー公園は、ル・ノートルの設計した庭園の一つでもある歴史的な場所です。モネの睡蓮の部屋で有名なオランジュリー美術館も、この公園の中にあります。現在はリノベーションされて、歴史的な姿をとどめつつもより快適な都市公園となっており、西洋菩提樹の並木道の木陰や大きな噴水の周りのベンチでのひと休みも心地よい、パリの住人にも観光客にも愛される場所です。数日間のための仮設のショーガーデンも、公園の緑の背景に助けられ、とてもいい感じ。 アーバンガーデンがテーマ 街中で行われるこのガーデンショーには、アーバンガーデン、都市に緑を呼び戻そうというテーマが特徴としてあります。過密な都市部での緑の大切さが見直されてきて久しいですが、都市に緑を呼び戻そう、緑のある暮らしを楽しもうといった、積極的なメッセージを発信してきました。 コロナ禍による数カ月のロックダウンは、フランスでも、特に都市部で、緑の空間がいかに人の暮らしにとって大事かということを実感するきっかけになりました。これを機に、ポタジェ(菜園)を始めた人もたくさんいるそうです。 田舎の広い庭とパリの小さなテラスでは、同じガーデニングでもアプローチが少し違うところも出てくるのは想像に難くありません。ジャルダン・ジャルダンには、たとえスペースは限られていても、緑のあるライフスタイル、パリのテラスや小さな庭を快適に楽しむスタイリッシュなデザイン・アイデアや、ガーデニング・グッズなどがたくさん。ガーデニングまわりのトレンドを知る絶好のチャンスでもあります。 そこかしこにフレンチ・タッチ フランスっぽいな、と思うのは、たとえば入り口近くの立地のよい場所に毎年出展されているオートクチュールのメゾン、シャネルのガーデン。シャネルのパルファンやコスメティックに使われているバラやカメリアなどの花々は、原材料の段階から、こだわりを持って生産されており、契約農家によってサステナブルな農法で栽培されています。 今年は、コスメティックのラインNo.1の鍵の材料であるカメリアにフォーカスして、アグロフォレストリーを実践する契約農家で栽培されるカメリアの歴史や効用を紹介する展示でした。 ナチュラル・スタイルが主流 全体的なここ数年の傾向では、フランスでもナチュラル・スタイルのガーデンが定着している模様です。緑いっぱいのオフィスをイメージしたガーデンや、植栽とともに鏡を上手に使って狭い空間を広く見せたり、水を使いながらも循環型のシステムにすることで節水もしつつ、目にも耳にもやさしいリフレッシュメント・癒やしの空間を演出するなど、アーバン・ガーデンならではのしつらいは、なかなか参考になります。 セラピー・ガーデン ガーデンとガーデニングの癒やしの効果は、日常土に触れている方なら実感済みだと思います。しかし、そうした癒やしが最も必要であろう、たとえば病院などで癒やしを意識したガーデンを備えているようなところはまだまだ少ないのです。 こちらでは、フランスのセラピー・ガーデン協会が、病院のためのモデルガーデンを提案。香りのよい植物の小道の先には、小さなポタジェがあったり、診察室の窓から見えるのは、日本庭園からインスパイアされた、水の流れるつくばいコーナー。フランスでの和風庭園のイメージは、安らぎ、静けさなのかな、というのが、こんなところからもうかがえます。 スローフラワー フランスのスローフラワー栽培を推進するフランス花協会の出展ブースも。サスティナブルな方法でローカルに季節の花々を栽培し消費者に届けようというスローフラワーのムーブメントは静かに広がっています。ブースに並ぶさまざまな花は、すべてこの時期にフランスの各地で収穫されたもの。各地の生産者が持ち寄った花々を使って、一般消費者へのアピールのためにアレンジメントのワークショップが開催されます。 おしゃれなコンポスト・ポット そして、ショーの楽しみの一つには、新しいガーデニング・グッズとの出会いもあります。私が注目したのは、このコンポスト・ポット。素焼きのストロベリー・ポットのような形状で、真ん中に入れる野菜屑などがコンポスト化してポットのポケットに植え付けた植物がよく育つというもの。 においが気にならない工夫もされているので、場所の限られたバルコニーなどでも使い勝手がよさそうです。といっても、処理できるコンポストの量は限られているので、形ばかりと思われるかもしれませんが、それでもゼロよりはいいですよね。まずは小さなことから始めてみる…きっかけは大事だと思います。 パリのおしゃれなガーデンショー、ジャルダン・ジャルダン、いかがでしたか。アクセスも容易なので、機会があればパリへの旅行のついでにでも覗いてみてください。楽しいガーデンイベントですよ。
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フランスも庭シーズン! ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル〜後編〜【フランス庭便…
歴史と現代アートが出会うロワールの古城 ショーモン城の城館の歴史は15世紀の城砦に遡り、16世紀のフランス・ルネサンス期はカトリーヌ・ド・メディシス、ついでディアーヌ・ド・ポワティエが城主になるなどフランス王室との縁が深く、預言者ノストラダムスが滞在した部屋なども見学できます。 その一方で、現在では現代アートセンターができて、アーティストインレジデンスなどを行っており、歴史的な見学コースと並行して、世界的な巨匠・若手作家を合わせたアート作品の展示が多数あります。 レジデンスに選ばれた作家が、城内の特定の場所を選んで構想・制作する作品は、一定期間の企画展示の時もあれば、恒久的な常設展示になることもあり、さまざまです。また、城に付随する 建物、例えばパトリック・ブランの壁面緑化の立体作品などがある旧厩舎も同様に、アート展示の場として活用されています。 ナチュラル&アーティーなイギリス風景式庭園 ところで、ショーモン城に庭園がつくられたのは、じつは19世紀も後半になってからでした。当時の城主はそれまで城の周りにあった村落をすべて、教会や墓地も含めてロワール河沿いに移します。著名造園家アンリ・デュシェンヌが、緩やかな芝生の丘陵に大樹が点在する、現在に続く広大なイギリス風景式庭園を設計しました。ロワール河を見晴らす庭園の城館近くに植えられた古いレバノン杉は、建物の石材の白色をより引き立てて見事な景観を作っています。 そして、この歴史的庭園は、歳月を経た大樹の数々だけでなく、現代アートのインスタレーションが散策路に点在するアート・ガーデンになっています。世界的に活躍する作家たちがこの庭園のために制作した作品は、散策がより印象深いものになるような、どれも場のエスプリに繋がった、人と庭、自然や時間との関わりに想いを誘うものが多いように思います。 各作品を訪ねつつ、森林浴もできてしまう気持ちのよいこの空間。かつては芝生がしっかり刈り込まれたクラシックな緑の風景でしたが、サスティナブルなメンテナンスが主流となってきた最近では、一部をワイルドフラワーの草原として残したりと、さらにナチュラル感が溢れる雰囲気に変化してきているのも興味深いところです。 フランスの城に欠かせないポタジェ(菜園)も素敵 さて、フランスの城に欠かせない庭といえば、果樹や野菜にハーブ、花々と盛りだくさんのポタジェ(フランス風の菜園)です。ショーモンシュルロワール城にも、もちろんポタジェが! こちらは歴史的というよりは、自由な遊び心が感じられる場所。 お洒落さは欠かせない、といった感じの造形的なパーゴラなどに、実用的な温室が入り混じるざっくり感もポタジェらしくていい感じです。春先から盛夏にかけてどんどん表情が変わっていくのも面白いものです。 新しい庭園パーク、グアルプ草原 そして、数年前から新たに加わった10ヘクタールほどのグアルプ草原(Prés du Goualoup)も見逃せません。パリ、チュイルリー庭園のリノベーションなどでも知られる造園家ルイ・ベネシュが設計したこの広大な公園スペースには、やはり現代アートのインスタレーション作品に加え、オールド・ローズやクレマチス、ピオニー(シャクヤク)、ダリア、アスターなどのプランツ・コレクションの植栽がなされています。 また世界の庭園文化からインスパイアされた、さまざまなスタイルの小さな庭があるのも魅力です。例えばイギリス、アフリカ、中国、韓国、日本などスタイルの異なる、いずれもコンテンポラリーなデザインのスモール・ガーデンが設えられていて、一歩進む度に驚きがあるような散策路が用意されています。 今年はさらに、南仏コート・ダジュールのガーデンデザインの大御所、ジャン・ムスがデザインした地中海風のスモールガーデンが増えていました。オリーブやサイプレスと白砂利のコントラストがあると、一気に地中海っぽい雰囲気が作れるなあ、など、庭の雰囲気作りのアイデアの参考になるTipsもたくさん見つけることができるでしょう。 多彩なカフェやレストランも魅力的 さて、一日中庭や城を見て回っていたら、さすがにお腹も空いてきます。当然、敷地内にはいくつかカフェ・レストランがありますので、ご安心を。アートやガーデンに関する本を閲覧しながら休憩できる小さなライブラリー付きのカフェや、オープンエアでオーガニックのローカルフードを提供するレストランの傍らにある、ガストロノミー・レストランでは、毎回のガーデンフェスティバルのテーマからインスパイアされるメニューを提案(こちらもアーティスティックなプレゼンテーションかつ美味しくておすすめです。ハイシーズンは要予約)。 来訪者が気分に合わせて使い分けができるような、気の利いたこだわりのあるセクションで、どれをとっても心地のよい時間が過ごせます。 進化し続けるガーデン&アートの聖地 季節によって庭園の表情は大きく変わりますが、ショーモンシュルロワールではアート&ガーデンフェスティバルの毎年異なるテーマからの新たな創造に触れることができるのが魅力です。 また常設の展示や庭園の中にも常に変化があって、訪れる度に必ず新たな発見があるのがすごいところ。今年はさらに、敷地内に新たなホテルレストランが加わるということで、年々充実していくショーモンシュルロワール、何度でも訪れたくなる充実のシャトー&ガーデンです。 ●『ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル~前編~』も併せてお読みください。
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フランスも庭シーズン! ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル〜前編〜【フランス庭便…
アートと自然が出合うロワールの古城、ショーモンシュルロワール城 15世紀以来の歴史をもつフランス王家に縁の深いショーモンシュルロワール城に、現在に続く英国風の庭園が作られたのは19世紀になってから。この城の面白いところは、歴史的であるばかりでなく、現代においてもどんどん進化している点です。 城館は現代アートセンターとなって、若手や国際的な巨匠の作品制作や展示の場になり、庭園にも数多くの一流の現代アートのインスタレーション作品が設置されます。 また、毎年春から秋にかけての約7カ月にわたり、フランス最大規模のガーデンフェスティバルが開催されるなど、アートと自然を結ぶクリエイティブな活動が常に注目される、非常に魅力的な場所なのです。 30周年を迎えた老舗国際ガーデンフェスティバル 今年で30周年を迎える、ショーモンシュルロワール城の国際ガーデンフェスティバルは、多い年には約53万人もの入場者を集める人気のガーデンショーです。毎年異なるテーマに沿って公募された、300件を超える応募作品の中から選ばれた二十数個の庭デザインが、それぞれ約200㎡強の区画のショーガーデンとして作庭・展示されます。 城の庭園の一角に位置するショー会場は、敷地の庭園や森林とシームレスにつながっており、自然な雰囲気の中でのどかな散策を楽しみつつ、ショーガーデンの見学ができるのも大きな魅力です。 若手庭園デザイナーの登竜門 応募書類は匿名で審査されます。フランスでは若手の庭園デザイナーの登竜門として定評あるガーデンショーで、また庭園デザイナーや造園家ばかりでなく、アーティストや建築家など他分野のクリエーターたちとの混合チームでの作品なども多く見られるなど、開かれた雰囲気のショーでもあります。 今年の出展者の顔ぶれは、フランス、イギリス、ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリア、チェコ、スロバキアのほか米国からも。コロナ禍以前には毎年、日本や中国、韓国などアジアからの出展もありました。ヨーロッパ地域が多いながらも国際色豊かです。 出来上がったガーデンデザインには、さらなる審査があり、全体的なクリエイションのクオリティ、アイデアの斬新さ、植栽のハーモニーなど、さまざまな基準で選ばれるいくつかの賞が用意されており、授賞式は6月に行われます。 国際的な著名造園家の招聘 また、30周年という節目の年ゆえ、ショーガーデンにカルト・ヴェールと名付けられた自由裁量の招聘枠が加えられ、キャスリーン・グスタフソンやジャクリーヌ・オスティといった、国際的な大御所ランドスケープ・アーキテクトがデザインした小さな庭が見られるのも、今年の面白いところです。 今年のテーマは「理想の庭」 さて、毎年異なるフェスティバルのテーマは、時代のトレンドを反映したものが多いように思われます。30周年を迎える今年のテーマは、ズバリ「理想の庭」。 都市化がこれ以上ないほど進み、地球温暖化が目前の問題となっている現在、人と自然の関係性から見た「理想の庭」とはどんなものなのか? 癒やしの空間、または安心安全な野菜や果物を育てるポタジェ、あるいはアートと同じような価値を持つ空間かもしれない? 「理想の庭」からインスパイアされる、新たな演出方法や素材や技術を用いて表現する庭とはどんなものだろうか? みなさんなら、どんな庭を想像しますか? 季節を追って変化する植栽デザイン さて、このガーデンショーの大きな特徴は、長期にわたる開催であること。春から晩秋にかけて約7カ月にわたって開催されるため、ロンドンのチェルシーガーデンショーなど、数日間の開催期間中に最高に完成された姿のガーデンを演出するガーデンショーとは異なり、季節の変化に合わせて、成長し変化する植栽を工夫しなければなりません。 春先と盛夏、または晩秋では、同じショーガーデンでも植栽次第でその表情が大きく変わっていくのも面白いところです。訪れる園芸愛好家にとっては、変化していく植物の姿をそのまま見られるので、自宅の庭づくりの参考にしやすいという利点もありそうです。ちなみに園内のガーデニング関連のショップでは、植物の種子や苗を購入することもできます。 見学を充実させる豊かなアメニティ このように、ガーデンショーの展示をゆっくり眺めるだけでも軽く半日は楽しめますが、隣接するイギリス式庭園や、城や旧厩舎の展示、ポタジェ、クレマチスなどのプランツコレクション、さらには隣接するグアルプ公園の異文化からインスパイアされたさまざまなガーデン……などなど、全部を見て回ろうとしたら、一日では足りないほど。幸い素敵なレストランやカフェも充実しており、丸一日、大満足で過ごすことができます。 敷地内のほかのガーデンについても、また次の機会にご紹介できたらと思います。 ●ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル(後編)は近日公開!
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フランスの城で春のガーデニングフェア開催! ポタジェにも注目の「サン=ジャン=ド=ボールギャール城」【…
専門ナーサリーが一堂に集まる貴重な機会 年2回、春夏の週末に城の庭園内で開催されるこのガーデニングフェアには、フランス内外の各種ナーサリーや園芸ツールなどを扱う200を超える専門店が出展します。タイミングによって花の咲く様子が見られる草花もあれば、そうでないものもありますが、出展ナーサリーの扱う植物は安定的に質が高く、信頼して買い物ができると園芸愛好家の人々に好評。 特に、各地に散らばっているナーサリーをそれぞれ訪ねるのは園芸ファンといえどもなかなか大変。また、バラに限らず、シャクヤクやアジサイ、アイリス、アリウム、ダリアあるいはハーブ類、果樹類や紅葉する樹木類など、さまざまな異なる得意分野を持った地方の専門ナーサリーが一堂に集まるガーデニングフェアは、その場での買い物はもちろん、気になった植物やナーサリーをメモして後日の注文にも生かせる、貴重な機会となっています。 リラックスした心地よい雰囲気が魅力 また、このガーデニングフェアの魅力は、なんといっても会場が城の庭園の中であること。ゆったりとした木々や草地といった緑に囲まれた中でのガーデニングフェアは、そぞろ歩きをしているだけでもエネルギーチャージができる場所。自分の庭の一角に置いた時の雰囲気を容易に想像できるガーデンツールの展示など、見ているだけでも楽しいものです。 春のガーデニングショーの注目株は? 今の時期、バラやシャクヤクは、展示用に早く咲くようにハウスで栽培されたもの以外は、基本的にはようやく葉っぱが出始めているところ。でも春からのガーデニングの仕事始めに、早速定植することができるので、苗木選びもリアリティがあって楽しいものです。ハーブ類の栽培もこれからがベストタイミングですし、ダリアの球根なども、夏に向かってこれからが植えどきです。逆に秋のフェアでは春球根が主になるなど、季節によって品揃えは変わりますが、それは季節感の味わいでもあります。 ちょっと休憩、ランチどころは? ガーデニングフェアといえば、フード・トラックやレストランも欠かせません。いつもは青空レストランが城の敷地の裏側に設置されるのですが、今年は悪天候の日もあったため、レストランスペースはテントの中に。しかし、通常もっともよく見られるのが、サンドイッチなどをフードトラックで購入し、あるいは自宅からランチを持参して、城館の正面の絶景を眺めながら食べたり、ポタジェ(菜園)でピクニックをする人々の姿です。この、人気のピクニック・スペースにもなっているポタジェのほうも覗いてみましょう。 17世紀のデザインを伝える、花咲く歴史的ポタジェ ガーデニングフェアの絶好のランチスペースにもなっているポタジェ。じつは17世紀のフォーマルガーデンスタイルの姿を今日に伝える、貴重な歴史的庭園でもあります。 かつては城内に暮らす数十名の人々の自給自足のための野菜・果物、そして花々を栽培する場であったこのポタジェ、現在は、昔野菜などの一般的には栽培されなくなった希少種を中心とした野菜や、季節を通じて次々と入れ替わり咲き乱れる花々が栽培され、「花咲くポタジェ」として愛され続けています。 こうした、実用(野菜果樹栽培)とオーナメンタル(花々)がバランスよく組み合わされた姿は、まさにフランスのポタジェガーデンの魅力といっていいでしょう。 クレマチスやバラが這う石壁に囲われた約2ヘクタールほどの面積の中央部分が、フランスの昔ながらの野菜など、希少種を栽培する野菜畑。真ん中の丸い池の水は、ポタジェの散水にも利用されます。 中央の野菜畑は、リンゴや洋ナシといったエスパリエ仕立ての果樹で区切られ、また春先のチューリップやスイセンに始まり、アリウムやシャクヤクやバラ、アイリス、と季節を追って次々と入れ替わり、3月から11月までさまざまな花が咲き乱れるボーダーに囲まれています。庭園内とポタジェを合わせて、全体で10万球もの球根が植えられているのだそう。 緑が瑞々しい果樹園コーナーと珍しいブドウの温室 ポタジェの一画を占めるデザインも素敵な温室は、ブドウ栽培用の珍しいもの。その奥にはリンゴなどの果樹が植えられた草地が広がります。ガーデニングフェアが開催されている昼どきには、果樹園の草地や、南向きの日差しが暖かい温室近くに、ピクニックする人々がどんどん集まってくるのが微笑ましい。 私もピクニックしたい気持ちはやまやまながら、諸事情によりこの日は叶わず。絶景ポイントで風に吹かれながら、ノルマンディー風タルトとカフェをいただいたのみ(しかも写真は撮り忘れ)でした。それでも十分ほくほく満足してしまうガーデニングフェアです。 どの季節にもそれぞれの良さがいっぱいの歴史的ポタジェの散策が楽しめて、かつ、フランスの日常生活の中に根付くガーデニング周りの様子がダイレクトにうかがえるのが、このフェアの一番楽しいところです。
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早春の「ポタジェ・デュ・ロワ(王の菜園)」を訪ねて【フランス庭便り】
ヴェルサイユの隠れた憩いの場 ルイ14世は美食家であり、野菜や果樹の栽培への関心も高かったことから、王自らが宮殿から馬に乗ってポタジェまで散策に出ていたのだそうで、「王の門」と呼ばれる立派な鋳造の門が現在も残っています。王にとって、公の場である宮廷を離れてほっと一息つく、憩いの場であったのかもしれません。古の「ポタジェ・デュ・ロワ」は王家の食卓に上がる多種多様な野菜や果実が栽培されていましたが、もちろん単なる菜園・果樹園ではありません。王の散策の場にもふさわしい美観を備えつつ、王家の食卓ならではの贅沢を満足させるスペシャルな菜園だったのです。 フレンチ・フォーマルなスタイル ポタジェを訪れてまず驚くのが、徹底的なフォーマル・ガーデン・スタイルの構成です。9ヘクタールの敷地全体が壁で囲われた沈床型のウォールド・ガーデンになっています。グラン・カレと呼ばれる正方形の中央区画には、円形の噴水を中心に、エスパリエ仕立てのリンゴや洋ナシなどの果樹で仕切られた、野菜栽培のスペースが整然と並びます。その周りには、伝統品種や新品種などバラエティに富んだ果樹が、さまざまなエスパリエ仕立ての独特な樹形で栽培されています。 エスパリエ仕立てとは、フランスの果樹栽培のための伝統的な剪定方法。現在でもリンゴや洋ナシを中心に4,000本ほどを栽培するポタジェ・デュ・ロワは、これだけの規模でその様子が見られる、世界でも唯一の貴重な場所です。 ウォールド・ガーデンとエスパリエ仕立ての効用 ところで、沈床型のウォールド・ガーデンをぐるりと囲む厚い土壁にも、壁に沿わせるエスパリエ仕立ての剪定にも、じつはスペシャルな果樹栽培のための理由がありました。土壁は果樹が外部からの冷風に直接晒されるのを防ぐとともに、日中の太陽の熱を蓄え、夜間の急激な温度の降下を抑えて、果樹栽培に好都合の微気候を作り出します。また、平面的なエスパリエ仕立てには、果実に満遍なく日光が当たるように、また収穫がしやすいようにという配慮から生まれたものです。 17世紀にも野菜の促成栽培 贅を尽くした王宮の食卓には、例えば3月にイチゴ、6月にイチジク、12~1月にアスパラガスが並んだといいます(ちなみにイチゴもイチジクもルイ14世の大好物だったそうです)。現代であれば何ら驚きもないのですが、ハウス栽培などなかった時代です。通常の露地栽培の収穫期に大幅に先駆けて現れるこれらの野菜や果実は、まさにミラクル。宮廷人たちにとっても大変な贅沢でした。 では、どうやって実現したのか? ルイ14世の命を受け、ポタジェの造園と管理を行ったのは、庭師で果樹栽培の専門家として名高かったラ・カンティニ。彼は当時最新の栽培技術の開発に余念がなく、宮殿の厩舎から出る馬糞を用いた堆肥の発熱を利用した促成栽培術で宮廷を驚かせ、称賛を集めたのでした。 伝統そして革新 創始者ラ・カンティニのイノベーション精神は後世に受け継がれ、フランス革命などさまざまな時代の変遷を経て現在に至ります。「ポタジェ・デュ・ロワ」のモットーは、歴史の伝承とともに常に革新的であること。世界的にも希少な17世紀のフレンチ・フォーマル・ガーデンの姿を留めたポタジェでは、フランスの昔ながらの固有種を多く栽培し、また伝統的な園芸技術であるエスパリエ仕立ての剪定など、技術の伝承が行われています。そうした伝統の継承を自らの使命として大切にする一方で、今の時代に対応する新たな試みが次々と行われているのも、このポタジェの大切な側面です。 アグロエコロジーへ フランスでは、オーガニックの食材が一般化しているだけでなく、2016年から公共の緑地での薬剤散布が法律で禁止されるなど、人の健康や環境保護が社会的に重大なテーマになっています。先駆精神に富んだこのポタジェでは、2000年代には無農薬の自然農法への切り替えが始まり、パーマカルチャーの手法を取り入れるなどして、できる限り無農薬、栽培品種によっては完全無農薬栽培へと移行してきました。 特に土壌や生態系といった自然環境を保護しつつ、サステナブルな方法で人間と自然の共存を目指す未来の農業、アグロエコロジーへの取り組みが積極的に進められています。また、一般の来場者の見学に門戸を開き、園芸講座や各種イベントが行われ、歴史的庭園の姿やサステナブルな都市農業のあり方を人々に伝える教育普及も現在のポタジェの大事な役割です。 春を待つポタジェの魅力 庭園を訪れる際には、どの季節が見頃なのか、という問いが常にありますが、「ポタジェ・デュ・ロワ」は年間通じて見学が可能です。春にはモモやリンゴの花が咲き、夏は緑が溢れ、秋には黄葉とともに、カボチャ類など秋の収穫物がコロコロと畑を彩る…と季節による変化を追うのも、興味深く楽しいものです。 冬の間は果樹類の葉っぱも落ちて、若干寂しいのではと思われがちですが、じつは自慢のエスパリエ仕立ての木々のグラフィックな魅力を十二分に堪能できる、特別な時期でもあります。この機会に、変化に富んだポタジェの四季の表情を皆様に楽しんでいただけたら嬉しいです。 遠藤浩子さんが案内する「ポタジェ・デュ・ロワ」オンラインサロン開催※終了しました 記事でご紹介したフランスの「ポタジェ・デュ・ロワ」と中継をつなぎ、この時期しか見られない春のポタジェの様子を、庭園文化研究家、遠藤浩子さんがご案内するサロン。開催は、2022年4月14日(木)18:30スタート(フランス時間11:30)。 サロンへのご参加には、ガーデンストーリークラブへのご入会が必要です。
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珠玉のプロヴァンススタイル・ガーデン「ラ・ルーヴ庭園」
プロヴァンス・スタイルの「ラ・ルーヴ庭園」 太陽がいっぱいの南仏プロヴァンスのガリーグと呼ばれる灌木林には、自生のタイムやローズマリーの群生が広がり、西洋ウバメガシやカシの木、ツゲなどの自生樹種が山野を彩ります。リュベロンの小さな村ボニューにある「ラ・ルーヴ庭園」は、そうしたローカルな自然を取り込んだ、元祖コンテンポラリーなプロヴァンス・スタイルのガーデンです。 フレンチ・シックなガーデンデザイン リュベロンの山を望み、岩壁を這うようにつくられた庭園のテラスに入ると、さまざまな常緑灌木が球形または大刈り込みのように繋がり、立体的な緑の絨毯が広がるような姿に驚かされます。フレンチ・フォーマル・ガーデンというとシンメントリーで幾何学的な、整ったイメージですが、それとも違うのだけれども、大変シックに美的に整っており、同時に庭の生きた魅力に満ちているのを感じます。歩を進める度に微妙に庭の眺めが変わり、細長い庭園の園路を進んでいくと、ラベンダー畑やブドウ畑からインスパイアされたのであろうプロヴァンス風景のコーナーがあったりと、決して広くはない庭園なのに、変化に富んだ散策が楽しめます。 土地の自然を取り込む自生樹種をチョイス トレードマークともいえるツゲやローズマリーなどをはじめとするすべての刈り込みの灌木類は、庭を遠巻きに囲む山々にある自生樹種が選ばれています。土地の風土に適した、手入れがなくとも育つ丈夫な木々が庭に取り込まれ、それぞれの緑のトーンやテクスチャーの違いが豊かな表情を見せます。それはまた、プロヴァンスの明るい透明な光の具合によって、さらに輝きを増すのです。刈り込みの常緑樹木には変化が少ないように思われるかもしれませんが、季節によって、また朝昼晩の光の違いによって、生き生きと変化する絶妙な庭の風景を作り出しています。プロヴァンス独特の自然の産物である樹木の緑や太陽の光が最大限に生かされ、独自のスタイルとなっているのが、このガーデンの特筆すべきところです。 ラ・ルーヴとの運命の出会い この庭をつくったのは、元エルメスのデザイナーでもあった女性、ニコル・ド・ヴェジアン(Nicole de Vésian/1919~1999)。南仏プロヴァンスの土地の魅力に魅せられ、ラ・ルーヴ(仏語で狼のこと)と名付けられた村外れの邸宅と土地を購入したのは1989年、70歳の時でした。山の眺めに向かって大きく開かれた3,000㎡ほどの土地がたちまち彼女を魅了し、建物の中も見ずに購入を即決したのだとか。そして、70歳にして彼女の最初の庭づくりが始まったのです。 70歳にして初めての作庭 当初は庭づくりの知識などなかったので、何人かの庭師を雇って作庭を始めました。植物の知識はなくとも、このような庭にしたい、という絶対的なイメージがあって、そのクリエーションを庭師たちの職人技が支えていく、そんな感じだったのでしょう。その作庭の方法はデザイナーとしては独特で、「図面も描かないし、長さも測らない」。すべて現場で、植栽前に植物の配置を何度も並べ替えて、徹底的に目視で確認して決定するというやり方です。庭師たちにとってはたまったものではなかったことでしょう。しかし、一緒に仕事をしていくうちに、あうんの呼吸が生まれ、後に、彼女の庭を訪れたセレブたちから次々と庭園デザインの仕事が舞い込むようになった時には、必ずお気に入りの庭師たちとのチームで仕事を受け、海外からの依頼を受けた際にも自分の庭師たちを連れていったのだそうです。 フランスのみならず、特に英米からの来訪者が多かったそうですが、ある美術評論家は彼女の庭を美術作品のごとき「傑作」だ、とたたえ、ニコルには音楽での絶対音感のような、絶対的な空間造形の感覚があるのだろうと評しています。 ローカルな素材への愛着 見事な刈り込みの緑の造形の他にも、庭の主たる構成に見えるのは、ローカルな石への愛着。ルネサンス庭園にあるような非常にシンプルな球形の石造彫刻や、地元の廃墟となった庭園や建物からリサイクルした石がふんだんに使われています。 日本庭園への憧憬 ところで、石と刈り込みの緑といえば、日本庭園にも共通するアイテム。プロヴァンスの自然と彼女の感性から生まれたであろうデザインでありながらも、日本人から見たら、どこか日本庭園に通じる雰囲気も感じられるのも、この庭の不思議な魅力です。その背景にある哲学や美学は異なるものであろうとも、アシンメトリーな構成や、シンプリシティや自然へのリスペクトを追求する庭づくりには、伝統的な日本庭園を彷彿とさせる完成された美観と静けさが満ちています。ニコルはデザイナーの仕事で何度も日本を訪れており、日本庭園も見ていたはず。何らかの形でインスパイアされた部分があるのかもしれません。 80歳の時、ニコルは次の庭をつくるべく別の土地を購入し、そのためラ・ルーヴ庭園を売却しています。残念ながら新たな庭を完成する前に世を去ってしまうのですが、その次作には、なんと日本風の庭園を作る構想を立ていたのだそう。つくられなかった庭がどんなものになったのか、興味深いところです。 生き続けるラ・ルーヴ庭園 その後のラ・ルーヴ庭園の所有者は何代か変わり、現在は、やはりこの庭園に魅了された元ギャラリストの夫妻が所有者となっています。庭は生き物なので、継続的な手入れが欠かせません。長い年月の間には、庭の木が成長しすぎてバランスが崩れたり、あるいは枯死したりといった事態も起こります。また、作庭当時に比べて夏の暑さが一層厳しくなるなどの気候の変動に対応し、一部植物のチョイスを変えるなど、常に調整が必要です。所有者はニコルがつくり上げた庭園のエスプリを尊重しつつ、今も大切に庭を育て続けており、見学も可能です。 何歳からでも庭づくりを 70歳からの作庭で、いくつもの名園をつくり上げたニコル・ド・ヴェジアン。デザイナーとしての素養と慧眼のうえに、晩年の彼女に目覚めた自然への愛、庭づくりへの情熱が生んだ、彼女独自のプロヴァンス・スタイル・ガーデン。そうして生まれたガーデンは、彼女が亡くなってからも、多くの人々を魅了し、世界中に影響を与え続けています。
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シャンティイ城のガーデニングショー【フランス庭便り】
シャンティイ城のガーデニングショー 秋は暖かな季節の名残を惜しみつつも、来春の植栽などを考え始める、ガーデナーにとってある意味心躍る季節ではないでしょうか。そんな時期、フランスの園芸好きの人々が心待ちにしている年中行事の一つが、ジュルネ・デ・プラント(プランツデー/植物の日)。毎年春と秋に開催されるシャンティイ城のガーデニングショーです。 なぜお城でガーデニングショー開催? シャンティイ城といえば、ルーヴル美術館に次ぐほどレベルの高い美術コレクションや、ル・ノートル設計のフォーマル・ガーデンがあることでも有名なお城です。パリから車で1時間ほど。電車でもアクセスできるので、観光スポットとしても人気です。 そんな場所で、なぜガーデニングショー? と思われるかもしれませんね。このガーデニングショーの発端は、30年以上前に遡ります。最初はクルソン城という別のお城で、全仏植物園協会の会合が開かれた際に、その余興として植物の交換会をやろうという計画が立ち上がります。会員の中にはナーサリーを営む人もいて、最終的には植物の販売会が開催されることになりました。すると、隣国イギリスでしか売っていないと思われていた植物をフランスのナーサリーでも扱っていたなど、さまざまな嬉しいサプライズがあって大成功! これがきっかけとなって恒例開催されることになったのだそう。その後、庭好き・植物好きのクルソン城の城主夫妻が主導して32年続いたガーデニングショーは、シャンティイ城に引き継がれ、この城での開催は2021年で6年目となります。 会場そのものが魅力的 ちなみにフランスのお城は、仏文化省に文化遺産として登録されているものだけでも11,000件。登録されていないものも含めれば45,000件ほどと推測されています(その8割以上は個人所有)。膨大な面積の森と広い庭園に囲まれたフランスのお城は、じつは豪華な結婚式や企業イベントなどに最適な場所として利用されることが多くあります。このガーデニングショーの会場でも、お城の建物や庭園、森の木々を背景に、販売スタンドやショーガーデンが立ち並ぶ風景には、自然の美しさばかりではない非日常感があって、ウキウキ度も倍増です。 遠方のナーサリーの植物を一度に見られる 毎年、春秋の週末3日間に行われるこのガーデニングショーには、いつも2~3万人の来場者があるそうです。まずその魅力の一つは、普段はなかなか見て回ることができない遠方のナーサリーが一堂に集まること。フランス国内だけでなく、ベルギーやドイツなど近隣諸国からも国境を越えて出展者が集まり、全部合わせると180ほどにもなります。 また、ナーサリーの出店資格は専門家コミッティーによって厳正に審査されるので、その質の高さも折り紙付き。普段あまりお目にかかれないバラ専門、アジサイ専門、多年草専門、カエデ専門などさまざまな専門ナーサリーが集まるうえ、おしゃれかつ実用的なガーデニング道具やウェアなどのショップも並びます。 最近はパリ市内でもおしゃれなガーデニングショップが増えてきましたが、季節の植木苗などを購入するのには、一般的なチェーンのガーデニングショップやホームセンターが一番近い、ということも多いのが実情です。そうした一般的なショップでは見つかりにくい珍しい植物がその場で選べるのは、本当に魅力的。そんな訳で財布の紐もゆるゆるになりがちな、大変危険な場所でもあります。 生産者や専門家たちと直接コミュニケーション 遠方のナーサリーが集まっているガーデニングショーは、植物好きの交流の機会であることも大きな魅力です。業界人の間でのコミュニケーションもあれば、顧客側にとっても、直接生産者に質問をしたり、育て方のアドバイスを聞いたりというコミュニケーションの中で仕事への姿勢が分かり、その後彼らの通信販売をなども安心して利用することができます。また、会場では「果樹の剪定の仕方」など、さまざまなワークショップや講演、親子向けのアクティビティなどもプログラムされていますので、ずっと気になっていた植物を入手したり、新しい品種を発見したり、興味のある項目を学んだり、と飽きることなく丸一日楽しむことができます。 シャンティイ城の隠れ名物デザート「クレーム・シャンティイ」 会期中はお城の敷地内、英国式庭園部分の広い芝生のエリアがショー会場となり、出店スタンドのテントなどのほかに、軽食を販売するトラックがいたり、休憩所などが設けられていたり。青空の下でのランチやおやつも完備されています。なかでも有名なシャンティイ城の名物デザートは、元祖クレーム・シャンティイ。 クレーム・シャンティイとは、生クリームを泡立てた、つまりホイップクリームのことなのですが、この城で17世紀コンデ公に仕えた有名な料理人ヴァテールが考案したのが始まりといわれています。すでに18世紀には、シャンティイ城を訪れた海外の王族をはじめ多数のゲストが、庭園内の田舎家風の園亭で軽食の際にサーヴされるクレーム・シャンティイの美味しさに感動の言葉を残していて、その噂は国境を越えて広がっていたとか。 毎回、このガーデニングショーを訪れるたび、植物探しに熱中するあまり、その味を知らずに終わってしまいます。今回は、ぜひこの元祖クレーム・シャンティイを味わってみなければと心に決めていました。ショー会場を少し離れて、アングロ=シノワ風と呼ばれる自然風の庭園の中を歩いて行くと、マリーアントワネットの王妃の村里にあるような田舎家風の園亭が見えてきます。内部は現在レストランになっており、天気のよい日には、庭で食事やお茶を楽しめます。 期待のクレーム・シャンティイは………ボリューム満点、通常のホイップクリームよりさらにしっかりどっしりとした感じで、味が濃くて美味しかったです! 甘みをつけるにはバニラ風味の砂糖を混ぜる。ポイントは極限までホイップすること。それ以上ホイップするとクリームが分離してバターになってしまうという、その直前までホイップするのがポイントなのだそう。定番は、イチゴやフランボワーズなどの赤い果実や、シャーベット、アイスクリームなどに添えて出されるのですが、冷静になってカロリーを考えると、ちょっと恐ろしくもあり。でも、今日はたくさん歩いたから、まぁよしとしよう! と心の中でかなり言い訳をしてしまいました(笑)。 ちなみに私の今回の主な戦利品は、これからが植え時のスイセンなどの春の球根類と巨大なアガパンサス。それに大好きなワイルドチューリップの球根も見つけて大満足です。
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】石塀に映えるロマンチックな花景色「ブロートン・カースル」後編
西向きのバトルメントボーダー 前編では、石塀に囲まれたウォールドガーデン、「貴婦人の庭(レイディーズガーデン)」を巡りましたが、後編では石塀の外側にのびる花壇(ボーダー)を見ていきましょう。 こちらは、入り口の守衛所(ゲートハウス)脇にある、銃眼付きの胸壁(バトルメント)に沿ってつくられた花壇、バトルメントボーダーです。 ブルー、シルバー、黄色の植物を使ったシックな植栽。案内をしてくれたガーデナーのクリス・ホプキンスさんによると、オーナーである第21代セイ・アンド・セール男爵は、このような落ち着いた色調の植栽を好まれるそうです。 石塀に沿って南に進んでいくと、赤や赤紫など、深い色を使った植栽に変化します。こちらは男爵夫人好みの植栽。女性らしさが感じられます。 ワインレッドのバラとジギタリスがコラボし、間にはゲラニウムやポピーの葉が茂っています。 こちらがガーデナーのクリスさん。27年間、ほぼ一人でこの庭の管理をしてきたという方です。後ろ姿は北海道、上野ファームのガーデナー上野砂由紀さん。 雨上がりの庭に、花々の香りにつられてお腹を空かせたハチがやってきます。 ガーデナーのクリスさんは、植物や色彩の好みが異なる男爵と夫人のどちらにも満足してもらえるよう、植栽のバランスに配慮していると言います。 西側の石塀に小さな窓があります。その周囲に適度なバランスでクレマチスやつるバラが色を添えて、ナチュラルな雰囲気ですね。 つるバラの伝う小窓から、石塀の中に広がる庭が見えます。 大きなバラの茂みのそばには、銅葉のヒューケラやシックなアメリカテマリシモツケ、シルバーグリーンのリクニスなどが組み合わされて、葉色の変化を見せています。いつまでも眺めていたい美しい景色です。 花壇の反対側にある生け垣の端は、ピンクのバラで彩られています。その向こうに、広大なブロートン・パークの草地が続きます。 ウォールドガーデンの南西の角に立つと、建物と左右の庭が一望できます。ここでは、銅葉のセイヨウニワトコ ‘ブラックレース’がいいアクセントになり、手前にはデルフィニウムが大株に茂っています。 角を回って、南向きの花壇までやってきました。 振り返ると、濠の水面の先に緑の景色が広がって…。 南向きのサウスボーダー 南側の石塀にも貴婦人の庭(レイディーズガーデン)への入り口がありました。 バラに彩られる南側のアーチから、貴婦人の庭の中心にあるハニーサックルや生け垣が覗いています。 サウスボーダーのこの青花はゲラニウム・ヒマラエンセ‘グレイブタイ’。石塀を伝うつるバラは‘ゴールドフィンチ’。ブルーと淡い黄色が爽やかな一角。 ラムズイヤーのシルバーリーフに黄花のエルサレム・セージが引き立ちます。 カスミソウのような花が無数に咲いていて、「なんだかカスミソウのお化けみたい!」と同行者が楽しげに眺めていました。「これは、クランベ・コーディフォリアですよね。立派な株ですねー」と上野さん。 白花のクランベ・コーディフォリア越しに、石壁のアーチの方角を見ると、つるバラと調和して白花が引き立っています。 東向きのボーダー 白いつるバラが絡むアーチの反対側からの景色。このアーチは14世紀の建設当初にはエントランス部分だったと考えられています。 アーチの角を回って、東向きのボーダーに来ました。 ウォールドガーデンの内側と外側、一歩進むごとに新しい景色に変わり、いつまでも巡っていたいブロートン・カースルの庭。上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、庭巡りのあと、こう話していました。 「よく手入れされて、ゲラニウムやバラもとてもよい状態で咲き始めていました。(私の庭のある)北海道では育てられないのですが、植えてみたいなと思う、おばけカスミソウみたいな、クランベ・コーディフォリアもありましたね。 ガーデナーが、オーナーと奥様の意思を反映しながら、庭づくりに試行錯誤していました。上野ファームも、私がデザインしている所と、母がすべて植栽のデザインをする所を、きっちり分けています。好みも、好きな花も違うので、担当を分けて、それぞれのよさを出すようにしています」 「ブロートンの庭のように、ガーデンにはオーナーがいて、ヘッドガーデナーがいますが、オーナーの意向をどう反映するかが、ヘッドガーデナーの腕の見せ所ですよね。ガーデナーのクリスさんは、数年前まではご自分で芝刈りもして、ほぼ一人で27年間働いてきたとか。相当な仕事量をこなしてきたのだろうなと、同じガーデナーとして仕事の裏側も気になりました。6月は、ご覧のように爽やかで華やかな庭でしたが、春もチューリップを植えて華やかにしているそうですよ」 イギリスの歴史を感じる屋敷 さて、次は屋敷の中を巡っていきましょう。 まずは、1300年頃に建てられた屋敷の最も古い部分が残っているというグレートホール。イギリスのお城など、古い建物は薄暗いことが多いのですが、このグレートホールは16世紀半ばの改修で組み込まれた、チューダー様式の大きな窓から光が入り、明るさがあります。 天井には垂れ飾りが。1760年代に改修された時のもの。 暖炉の脇には、革製の消火バケツと剣が並びます。これらの不揃いの古いレンガは建設当時のものでしょうか。 絵になる窓辺のコーナー。 アン王妃の部屋、ギャラリー 次は、アン王妃の部屋(クイーン・アンズ・ルーム)です。イングランド王、ジェームズ1世の王妃、アン・オブ・デンマークが、1604年と1608年に、この部屋に滞在したといわれています。暖炉の上に飾られた肖像画がアン王妃。石造りの暖炉は16世紀半ばに設けられたものです。 暖炉には、石工によって彫られた精巧な飾りがあります。天蓋付きのベッドは18世紀後半のもの。 2階の廊下にあたるギャラリー。1760年代にゴシック様式に改修された際、内装も新たに施されました。ここには16世紀からの一族の肖像画が集められています。 窓から外の緑が見えます。 美しい壁紙が特徴的なベリー・ロッジ・ルーム。壁紙はフランス、アルザス地方にあるズベール社の1840年頃のものです。家具の多くは、男爵の祖父母の屋敷、ベリー・ロッジから運ばれたものだそう。 王の部屋、そして屋上へ 次は、1604年にジェームズ1世が宿泊したという、王の部屋(キングス・チェンバー)です。印象的なグリーンの中国風の壁紙は手描きだとか。ベッドは現代の家具作家、ロビン・ファーロングの手による特注品。現代的な要素がアンティークとうまくミックスされています。 暖炉の上には、フランス製の漆喰仕上げの装飾が施されています。ギリシャ神話のモチーフです。 ギャラリーの反対側にも、対になる長椅子が置かれたコーナーがありました。 ドアノブの飾りが素敵です。 屋敷の西側、屋上に出てみると、貴婦人の庭(レイディーズガーデン)が眼下に! アヤメの花を様式化した、よく紋章に用いられる「フルール・ド・リス」という意匠と、円を組み合わせたデザインです。生け垣で模様を描く、パーテアという庭園様式は、高い場所から眺めて楽しむものなのだなと、実感します。 ●貴婦人の庭の植栽については「ブロートン・カースル」前編をご覧ください。 西側壁面に沿って花壇がのび、濠の向こうには、730万㎡という耕作地や牧草地が続きます。 こちらは、守衛所(ゲートハウス)に近いほうの花壇、バトルメントボーダー。 さて、次は西の端にある大広間、グレートパーラー。漆喰仕上げの天井が見事です。 天井は古いものですが、壁紙や扉、羽目板などは19世紀半ばのもの。何度も改修を繰り返して、城の長い歴史が続いていくのですね。 椅子の布地に合わせたピンクの生花が素敵です。きっと男爵夫人が活けられたものですね。 東を向いた窓からは、芝生の上にリズミカルに並ぶ立方体のトピアリーが見えます。 南向きの窓からは、貴婦人の庭が見えます。 1階に降りて、再び貴婦人の庭へと出てみましょう。 さて、お庭をもう一周してきましょうか。 帰り際、前庭の端には、古い厩を改修したティールームとショップがありました。 長い歴史を経て、今も暮らす人に愛され、大切に維持されているブロートン・カースル。部屋の窓や屋上からの眺めも素晴らしく、庭では、私たちも育てている同じ種類の草花にも多数出合うこともでき、親しみを感じました。また、「ガーデン」とは、次の世代、また次の世代へと、いつまでも受け継いでいけるものなのだと教えてくれる場所でした。
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】中世から建つ美しき古城「ブロートン・カースル」前編
長い歴史を持つブロートン城 ブロートン・カースルは、コッツウォルズ特別自然美観地域の北東側に位置しています。濠に囲まれた美しい石造りの屋敷と、その南側に作られた「貴婦人の庭(レイディーズガーデン)」で有名な、人気の高い観光スポットです。 ブロートン・カースルは、1300年頃、イングランド王のエドワード1世に仕えたジョン・ドゥ・ブロートン卿が石造りのマナーハウス(領主の館)を建てたことに始まります。屋敷は1377年に、ウィンチェスター主教のウィリアム・オブ・ウィッカムによって買い取られ、以来、その子孫となるファインズ家に受け継がれてきました。日本でいえば、鎌倉時代の終わりから室町時代の話です。 ウィリアム・オブ・ウィッカムは国政で重要な位置を占めた人物で、オックスフォード大学のニュー・カレッジや、英国最古の男子寄宿学校であるウィンチェスター・カレッジの設立、ウィンザー城の建設にも携わりました。ブロートン・カースルには、17世紀にイングランド王が宿泊したという歴史もあります。 現在も続くファインズ家には、探検家や作家、画家など、才能のある人物が多く、映画『ハリー・ポッター』シリーズでヴォルデモートを演じた俳優のレイフ・ファインズと、その弟のジョセフ・ファインズも親族だそう。 庭好きにとっては、屋敷の南側にある貴婦人の庭(レイディーズガーデン)は必見。一方を屋敷に、三方を石塀で囲まれたウォールドガーデンでは、石造りの古い建物を背景にどんな花景色が広がるのか、楽しみです。 それでは、庭巡りを始めましょう。 濠に囲まれた屋敷 まずは濠にかかる石橋を渡って、かつての守衛所(ゲートハウス)を抜けていきます。1406年、このゲートハウスに銃眼付きの胸壁が設けられたことで、マナーハウスは「カースル(城)」と呼ばれるようになりました。 屋敷は3つの小川が交わる地点に建てられ、それから、屋敷を囲む大きな濠がつくられました。濠と屋敷の大部分は、当時と変わらない姿を保っているそうです。 銃眼のあるゲートハウス。ブロートンの建物や塀には、コッツウォルドストーンと呼ばれる石灰岩が使われています。ブロートン・カースルのあるコッツウォルズの東側は、鉄分を多く含んだ赤茶色の石が採れるそう。大きさが不揃いな石に古さを感じますね。 前庭の端に、ひっそりとバラが咲いています。 600年近く経っていると思われる石塀に、優しいピンクのバラがよく合います。ここでしか出会えない趣のあるガーデンシーンに感動。 マナーハウスが見えてきました。1階右端が1300年頃に建てられた最も古い部分で、1554年に3階建てへと改築されました。17世紀にはすっかり荒れてしまったこともあったそうですが、長い年月の間に改修を繰り返しながら、維持されてきました。 左側に銃眼付きの胸壁が見えますが、城というよりマナーハウスの印象が強い屋敷ですね。内部はのちほど見学することにして、まずは右手から庭のほうに回ります。 屋敷の西側、濠の外には、ブロートン・パークの草地が広がっています。 低い石塀に伝うバラ。風化した石とバラが作り出す、野趣のある景色です。 屋敷脇の植え込みは、銅葉の茂みがアクセントになっています。 赤紫のバラと銅葉の美しい組み合わせ。 石塀に囲まれたウォールドガーデン、頭上にクレマチスが絡んだ貴婦人の庭への入り口が見えました。 貴婦人の庭(レイディーズガーデン) 屋敷の南側にある貴婦人の庭に入りました。先ほどのアーチから入って、振り返ったところ。砂利敷きの小道には落ち葉一つなく、銀葉のグラウンドカバー、銅葉の茂み、壁面を覆う緑と、このエリアだけでも数多くの植物が景色を作っています。 紫のアリウムと黄色いシシリンチウム・ストリアツム。優しい色合いの花々が出迎えてくれます。 西側の石塀には小窓があって、紫のフジが伝います。訪れたのは7月上旬。バラがちょうど満開で、緑もみずみずしくて、花と緑の香り漂う中で何度も深呼吸。 この庭は、1890年代に屋敷に暮らしていたゴードン=レノックス公爵夫人によってつくられました。この方は、当時一番のおしゃれさんとして、社交界で有名だったとか。きっと庭づくりのセンスもあったのですね。 現在の植栽は、オーナーである第21代セイ・アンド・セール男爵と男爵夫人によって考えられたもの。 コッツウォルドストーンで組まれた石塀や屋敷の壁に合うように、柔らかな色調の花が選ばれていますが、これは、1970年に、有名なガーデンデザイナーのランニング・ローパーから受けた助言に基づいているそうです。 フルール・ド・リスを描いたパーテア この庭は、低い生け垣で模様を描く「パーテア」と呼ばれるスタイルの、整形式庭園です。屋敷の屋上からは、アヤメの花を様式化した意匠(フルール・ド・リス)と円が組み合わさった、デザインの全体が見られるとのこと。楽しみです。 庭がつくられた当時の写真資料を見ると、生け垣の高さは足元程度で厚みもなく、素っ気ないくらいシンプルな景色が写っていました。しかし、長い年月の中で、生け垣は腰高にしっかりと育ち、花壇の茂みも大きな、緑豊かな庭となっています。 庭を囲む石塀と生け垣、つまり、庭の骨格は、130年の間変わっていないです。イングリッシュガーデンの歴史が感じられますね。 庭がつくられた当初、中心には日時計のような、シンプルな石造りのオブジェが置かれていましたが、現在はハニーサックルがこんもり茂っています。円形に区切られた地際では、パッチワークのように配植されたタイムが花を咲かせていました。 時の流れが生み出す、格別の雰囲気を醸す石塀です。よく見ると、石材の色や仕上げに違いがあります。修復された形跡でしょうか。 その古びた石塀を背に、バラやジギタリス、ゲラニウムといった草花が茂ります。ロマンチックな、これぞイングリッシュガーデンという花景色。 庭に植えられているバラは約60種とのこと。草花とナチュラルに調和し合っていました。 家壁の窪みの奥に、木製ベンチが置かれているスペースを見つけました。 いろいろな種類の花に囲まれたベンチです。小花がふわふわと咲いて、素朴ながら心落ち着く景色。 屋敷に沿って進むと、貴婦人の庭の外に出るアーチがありました。 石塀の外には芝生が アーチを抜けると、木の扉の上に白いつるバラが伝い広がっています。 貴婦人の庭の外側、石塀に沿ってつくられた東向きのボーダーです。 貴婦人の庭からアーチを抜けると石段があって、小さなテラスへと繋がっています。 テラスの先は屋敷の壁に沿って、植え込みが続きます。 大木のセアノサスがブルーの茂みを作り、傍にはテーブルとイスのセットが。遠くの景色を眺める憩いの場所です。 貴婦人の庭は、屋敷南側の、西側半分に位置しているのですが、東側には緑の芝生が広がっていて、大きな立方体のようなトピアリーが6つ点在しています。 さて、石塀の中の庭に戻ってみると……、あそこでゲストと話している方は、オーナーの男爵夫人! 庭に出て手入れ中だった男爵夫人とお話しすることができました。いつもご自身で花を摘んで、部屋に活けるそうです。 後編では、ウォールドガーデン外側の美しい花壇や、屋敷の素晴らしい内装、貴婦人の庭の全体像をご紹介します。
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英国キューガーデンの多肉植物&サボテン・コレクションを訪ねて〈後編〉
世界のさまざまな気候を再現する温室 前編でもご紹介したプリンセス・オブ・ウェールズ・コンサバトリーは、近代的な設備を誇る、広さ4,500㎡の温室です。温室内は冷涼な乾燥地帯から熱帯雨林まで、異なる10の気候がコンピュータ制御によって再現されています。ゾーンによって気温や湿度が変わるので、植物を世話するガーデナーたちは、出入りするたびに上着を着たり脱いだり、体温調節が大変なのだとか。 この温室の基礎部分には、動物学者で植物学者のデビッド・アッテンボロー卿によって、1985年にタイムカプセルが置かれました。中に入っているのは、絶滅の危機にある穀物類のタネ。カプセルは、100年後の2085年に開けられる予定ですが、その頃の世界はどうなっているでしょうか。 それでは、前編に続いて、乾燥熱帯や砂漠気候ゾーンのサボテンや多肉植物を見ていきましょう。 メキシコや南米のサボテン その2 ミルチロカクツス・ゲオメトリザンス (Myrtillocactus geometrizans) メキシコ原産の、4~5mに育つ低木状のサボテン。まさに、メキシコと聞いて思い浮かべるサボテンの形をしていますね。日本では「リュウジンボク(竜神木)」の名で流通しています。 左:オプンチア・クイテンシス (Opuntia quitensis) ペルー、エクアドル原産のウチワサボテンの一種。可愛らしい、明るいオレンジの花の後にできる果実は食べられるそうですが、どんな味なのでしょう。 右:フェロカクツス・シュワルツィー (Ferocactus schwarzii) メキシコ原産の樽形に育つサボテン。まるで折り紙で作ったようなきれいな形です。鮮やかな黄色の花が咲き、日本では「オウサイギョク(黄彩玉)」の名で流通しています。 オプンチア・フィカス=インディカ (Opuntia ficus-indica) メキシコ原産で、オプンチア属の中では最もポピュラーなウチワサボテンの一種。英名は、棘だらけのナシ(プリックリー・ペア)といい、果実は食用に売られています。南米ではウチワ形の茎も食べられているそう。エキスが化粧品に使われるなど、商用として重要な役割を果たすサボテンです。 左:ペレスキア・グランディフォリア(Pereskia grandifolia) ブラジル原産。5mほどまで伸びて、樹木のような姿をしたサボテンですが、幹のように見える茶色の部分には棘が生えています。半八重のバラのような花が咲くことからローズカクタスとも呼ばれます。日本では「オオバキリン」の名で流通。 右:オプンチア・ファルカータ (Opuntia falcata) こちらも樹木のような、変わり種のサボテン。 ミルチロカクツス・コカル(Myrtillocactus cochal) 英名で、燭台サボテン(キャンデラブラ・カクタス)というように、燭台を思わせる形をしています。メキシコ原産。 サボテンの根元にはエケベリア(Echeveria)が。 左:セダム ‘ブリート’ (Sedum ‘Brrito’) 長く垂れる茎に丸みを帯びた葉が連なるセダム。日本では、「玉つづり」か「新玉つづり」の名で流通しています。 右:セダム・パキフィルム (Sedum pachyphyllum) メキシコ原産ベンケイソウ科の多肉植物。欧米ではジェリービーンズの名で呼ばれますが、日本では「乙女心」の名で流通しています。 左:フェロカクツス・ピロスス (Ferocactus pilosus) 赤い棘が目を引く、メキシコ原産のサボテン。円柱状で、3m近くまで育ちます。鮮やかな濃いオレンジの花が咲きます。 右:プヤ・フェルギネア(Puya ferruginea) ボリビアやエクアドルを原産地とするパイナップル科の植物。 ダイナミックな魅力のアガベ 温室内には、存在感たっぷりのアガベもたくさん植わっています。 アガベ・アテヌアタ (Agave attenuata) (流通名はアガベ・アテナータとも) 高さ1~1.5mほどに育った立派なアガベ。メキシコ原産の常緑のアガベで、葉には棘がありません。英名で、キツネの尻尾のアガベ(フォックステイル・アガベ)といわれるように、1.5~3mほどの長くて太い花穂が中心から伸びて、くるりと垂れます。 左:アガベ・テクイラナ (Agave Tequilana) メキシコの高地、ハリスコ州原産の、テキーラの原料となるアガベ。ブルーアガベ、テキーラアガベとも呼ばれます。テキーラ作りには、葉の根元にある大きく育った球茎が使われます。 中:アガベ・フィリフェラ (Agave filifera) メキシコ原産、葉の端から白い糸状の繊維が生えているのが特徴。高さ60cmほどの小ぶりなアガベ。 左:アガベ・ミシオヌム (Agave missionum) 立ち姿が美しいアガベ。葉の周りに細かい棘があります。 右:アガベ・チタノタ (Agave titanota) 葉の周りに大きな棘があって、どう猛な印象のアガベ。一回結実性で、花が咲くと枯れてしまいます。 左:ボーカルネア・ストリクタ (Beaucarnea stricta) 細い葉を放射状に広げるボーカルネア。6~10mに育ちます。 右は植物名が分かりませんでしたが、ボーカルネアの仲間でしょうか。放射状に見事に広がる細葉が印象的です。 ジャングル感満載 湿潤熱帯ゾーン 乾燥地帯のゾーンを抜けると、今度は湿度が高くムンムンする熱帯ゾーンに来ました。植生がガラリと変わってジャングルのよう。面白い体験です。 中央の塊は、チランジア・ストリクタ(Tillandsia stricta)。 南米原産のパイナップル科の植物で、チランジアの仲間はエアプランツと呼ばれます。カーテンのように掛かっているのも、同じチランジア属の仲間、チランジア・ウスネオイデス。 エアプランツの美しい競演。 温室内は加湿されています。 左:エクメア・ブラクテアタ (Aechmea bracteate) パイナップル科の植物で、原産地はメキシコから中南米にかけて。 右:クリプタンツス・アカウリス (Cryptanthus acaulis var. ruber) ブラジル原産。葉の色が渋いですね。 躍動感のある、パイナップル科の植物の競演。 温室のエリアごとに、湿度の高さや室温の微妙な変化があり、植物のグループが変わる様子を見ながら、まるで旅をしているような気分になれた温室散策。貴重な植物を保存維持することは、繊細な作業の連続なのだろうなと感じました。また、あのサボテンや多肉たちが成長した姿を見に行ける日を楽しみにしています。 温室の外には大きなアガベが育っていました。
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英国キューガーデンの多肉植物&サボテン・コレクションを訪ねて〈前編〉
世界の10の気候を再現する温室 英国キュー王立植物園、通称キューガーデンで有名な温室といえば、ヴィクトリア朝に建てられた、テンパレートハウスとパームハウスという2つの優美な大温室。時代の栄華を今に伝える、キューガーデンのアイコンです。一方、1987年に開館した、広さ4,500㎡のプリンセス・オブ・ウェールズ・コンサバトリーは、近代的な設備を誇ります。 温度や湿度、養分、光のレベルといった、植物に必要な生育条件は、植物の種類によって異なりますが、この温室の中では、冷涼な乾燥地帯から熱帯雨林まで、異なる10の気候がコンピュータ制御によって再現されています。 例えば、湿潤熱帯ゾーンの池に浮かぶのは、アマゾン川原産のオオオニバス(ヴィクトリア・アマゾニカ)。湿度の高い、暖かな室内にはつる性の植物が伝って、ジャングルのような雰囲気です。このオオオニバスの種子がキューガーデンに初めてもたらされたのは19世紀半ばのことですが、それ以来、栽培が続けられているというのは、さすがですね。温室内の池にはナマズなどの魚が棲んでいて、また館内では5匹の大型トカゲ、インドシナウォータードラゴンが飼われています。トカゲはゴキブリなど虫の駆除に役立ってくれるそう。温室内で、小さな生態系が作られているのですね。 それでは、乾燥熱帯や砂漠気候のゾーンに生育する多肉植物やサボテンを見ていきましょう。 アフリカ東部~南部原産の多肉植物 樹木やヤシのように大きく育った多肉植物の数々。アロエがヤシの木のような姿になっています。ここまで大きな多肉植物を見るのは初めてで、驚かされます。 左:クラッスラ・ポルツラケア (Crassula portulacea) 原産地、南アフリカ・ケープ州の露地では3m以上になるといわれますが、この温室でも樹木のように大きく育っています。日本では、新芽に5円玉を通して育てた「金のなる木」として、有名です。 右:パキポディウム・ラメレイ (Pachypodium lamerei) マダカスカル島原産のキョウチクトウ科の多肉植物で、ヤシのような姿をしていることから、マダガスカル・パームとも呼ばれます。先端に咲く香りのよい白花は、確かにキョウチクトウに似た花姿。 ケイリドプシス属 (Cheiridopsis) こちらは南アフリカ原産の小型の多肉植物。「ケイリドプシス」の名は、袖という意味のギリシャ語に由来します。 同じくケイリドプシスの仲間。 ケイリドプシス属は100種ほどあって、日本でもさまざまなものが流通しています。 アロエ・ジュクンダ (Aloe jucunda) ソマリアを原産とする矮性の小さなアロエで、よく群生します。すっと伸びた花穂が素敵。 希少な多肉ユーフォルビア ユーフォルビア・グリセオラ (Euphorbia griseola subsp. griseola) 見事に育った、南アフリカ原産の多肉ユーフォルビア。トゲが多くて、一見するとサボテンのようです。多肉ユーフォルビアとサボテンは異なる植物ですが、どちらも乾燥した土地に適応しようと、それぞれ同じような進化を遂げたために、共通した特徴を持つといわれます。 ユーフォルビア(トウダイグサ)属は約2,000種が含まれる大きな属で、多肉ユーフォルビアは850種。そのうちの723種がアフリカやマダガスカル原産です。多肉ユーフォルビアのほとんどは絶滅が危惧されており、輸出が制限されています。 ユーフォルビア・ミリイ (Euphorbia milii var. milii) マダガスカル島原産の多肉ユーフォルビアで、日本では「ハナキリン」の名で流通しています。マダガスカル島原産の多肉ユーフォルビアの多くは、絶滅の危機にあるそうです。 窓際には、バラエティ豊かな多肉ユーフォルビアの鉢植えコレクションがありました。 左:ユーフォルビア・ステノクラーダ (Euphorbia stenoclada Baill) 木の枝のようなユニークな形。この姿からは想像がつきませんが、樹木のように大きく育つそうです。 右:ユーフォルビア・ハンディエンシス (Euphorbia handiensis) カナリア諸島原産。まるっきりサボテンみたいな姿ですね。 左:ユーフォルビア・ビグエリー (Euphorbia viguieri Denis) マダガスカル原産。日本では、「噴火竜」(ユーフォルビア・ビグエリー)の名で流通。 右:ユーフォルビア・デカリー (Euphorbia decaryi Guill) 同じくマダガスカル原産。日本では、「ちび花キリン」の名で流通。ハナキリンのように茎が立ち上がるようです。 ユーフォルビア・ビセレンベキー (Euphorbia bisellenbeckii) アフリカ東部原産。まるでむちむちとした手を四方に伸ばしているようです。多肉ユーフォルビアは、本当にさまざまな姿をしていますね。 メキシコや南米のサボテン その1 見事に育ったサボテンや多肉植物の数々。室温もほんのり暖かく、砂漠地帯にやってきたような気分になります。 エキノカクツス・グルソニー (Echinocactus grusonii) メキシコ北東部原産の直径1mほどになるという大きなサボテン。美しく立派に育っています。日本でも「キンシャチ」の名で流通していますが、原産地では絶滅寸前と危惧される種です。英名の一つに、姑のクッション(マザーインローズ・クッション)というユーモアたっぷりのものが。お尻がトゲだらけになっちゃいますね…。 大きく育ったウチワサボテンの仲間を背景に、柱状のサボテンは寝転んでいるかのような対照的な姿を見せています。 エキノプシス・テレゴナ (Echinopsis thelegona) 海の生き物を思わせるユニークなフォルムをした、南米アルゼンチン原産のサボテン。大きなつぼみがついていますが、夏の夜に漏斗形の白花が咲くそう。環境のストレスがないからか、成長途中の段差が一切なく、のびのびと育っているんだなぁと感心。 クレイストカクツス・ウィンテリ (Cleistocactus winteri) こちらもモニョモニョ動き出しそうな、南米ボリビア原産のサボテン。サーモンピンクの花が咲いています。 次は、小さなサイズのサボテンたち。 エキノプシス・フアスカ (Echinopsis huascha) アルゼンチン原産のサボテン。細かい棘がびっしり。虫が侵入する隙間もなさそう。 エキノケレウス・ストラミネウス (Echinocereus stramineus) アメリカ南部やメキシコの砂漠などに自生するサボテン。藁のような色をした棘に覆われています。「藁でできた」という意味を持つ学名ストラミネウスは、その姿に由来するとか。 左:マミラリア・ボカサナ (Mammillaria bocasana) メキシコ北東部原産。全体がモワモワとした産毛に覆われているように見えるところから、英名は化粧用パフサボテン(パウダーパフ・カクタス)。細かい棘が柔らかそうに見えます。 右:マミラリア・スピノシッシマ (Mammillaria spinosissima subsp. spinosissima) メキシコ原産。赤味を帯びた棘が可愛らしい。 左:マミロイディア・カンディダ (Mammilloydia candida) メキシコ原産。英名でスノーボール・カクタスといわれるように、初めは丸い雪玉のようですが、成長につれ柱状になり、30cmくらいまで伸びます。 右:エキノプシス・スピニフロラ (Echinopsis spiniflora) アルゼンチン北西部原産。つぼみがついていますが、目を引く大きな白花が咲きます。 テフロカクツス・フェベリ (Tephrocactus weberi) アルゼンチン北西部原産。これもニョロニョロ動き出しそうな姿です。 オプンチア・ミクロダシス (Opuntia microdasys ‘Albata’) 棘が綿毛のように見えることから、英名ではウサギの耳(バニー・イヤーズ)、または天使の羽(エンジェル・ウィングス)と呼ばれる、キュートな印象のサボテン。 多肉植物もサボテンも、じっくり観賞すると本当にさまざまな姿のものがありますね。 後編では、乾燥熱帯地域原産のサボテンや、湿潤熱帯ゾーンの植物をご案内します。
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】注目のガーデナーが生み出す21世紀のイングリッシュガーデン「マル…
オープンガーデンで大人気 今回訪れているのは、クラシカルなガーデンデザインと表情豊かな植栽で人々を魅了する、マルバリーズ・ガーデンズ。ここは個人邸の庭ですが、英国の慈善団体、ナショナル・ガーデン・スキーム(NGS)のオープンガーデンに参加していて、年に数回、一般公開が行われます。また、庭園独自の一般公開日も設けられていますが、その人気は高く、どちらの日程も発表されるなり、あっという間に予約が埋まってしまうそう。 この大人気の庭園を作り上げたのは、2010年からヘッドガーデナーを務めるマット・リースさんです。彼は、英国王立植物園キューガーデンと、英国王立園芸協会のウィズリーガーデンという、世界最高峰の2つの庭園で経験を積んだ後に、20世紀を代表する名ガーデナー、故クリストファー・ロイドの自邸、グレート・ディクスターで7年間修業したガーデナー。生前のロイドから直に庭づくりを学んだという、貴重な経験を持つ人物です。 「マルバリーズ・ガーデンズ」前編では、マットさんが一から作り上げた、セイヨウイチイの生け垣に囲まれた美しいガーデンルームの数々をご紹介していますので、ぜひご覧ください。 では、庭巡りを続けましょう。 屋敷を彩るテラスボーダー 小さなウッドランドガーデンの木々の間を抜けていくと、アーチの先は明るく開けていました。左奥に屋敷が見え、その脇に、植栽豊かなボーダーが広がっています。 「ここは、先日発売されたガーデン誌〈The English Garden(2019年7月号)〉の表紙になったんですよ。写真は早朝ですね。4月には、別のガーデン誌〈Gardens Illustrated〉でも紹介されました」 屋敷に沿って、敷石の小道と花壇が長く伸びています。石と石の隙間にも緑がのぞいて、ナチュラルな雰囲気。黄色の穂を立ち上げるエルサレムセージ(フロミス・フルティコサ)や、オレンジの花穂のエレムルス、フランネルソウ、ゲラニウム、ユーフォルビアなどが混ざり咲いて、花々の競演は、遠く、奥まで続いています。 イタリア風のレンガ造りの屋敷は、ヴィクトリア朝時代の1870年に建てられたもの。テラスガーデンの植栽が、この屋敷をより美しく見せています。屋敷を背に立つと、花壇の先に芝生があって、その向こうには、パークランド(草原)が遠くまで広がっています。 このテラスボーダーは、マットさんにとって「実験」を行う場。植物の性質を確かめたり、植物同士の組み合わせを試したり、新しいものに挑戦する場所です。たくさんの草花が混じり合う植栽を魅力的に保つためには、頻繁に植え替えを行うなど、こまめなメンテナンスが欠かせませんが、マットさんは労力を惜しみません。さすが、「世界一、忙しい庭」と呼ばれるグレート・ディクスターで修業したガーデナーさんです。 ゲラニウムにジギタリス、バーバスカム、セリンセ、オリエンタルポピー、エリンジウムなど、たくさんの植物が混じり咲くボーダー。それぞれが自由に茂り、ラフな雰囲気が心地よい楽しい一角。左側には、パーゴラがあります。 花壇の中で、オレンジがかった明るい色を添えていたのは、一重のハイブリッドティー、‘ミセス・オークリー・フィッシャー(Mrs. Oakley Fisher)’。これは、マットさんにとって大切なバラなのだそう。なぜなら、名園シシングハースト・カースル・ガーデンを作り上げた、ヴィタ・サックヴィル=ウェストから、マットさんの師匠であるクリストファー・ロイドに贈られ、その後、ロイドからマットさんに贈られたものだから。20世紀を代表する2人の偉大なガーデナーから、新時代を牽引するガーデナーの一人であるマットさんへと託されたバラは、イギリスの庭園史の流れを象徴しているかのように思えます。 マットさんは、師匠ロイドの著書だけでなく、イングリッシュガーデンの基礎を作り上げたウィリアム・ロビンソンや、ロマンチックな植栽を得意としたヴィタ・サックヴィル=ウェストが書き残した本からも、多くを学んできたそうです。 無数の植物がコレクションされたガーデンに圧倒されてしまいますが、まだ他にもガーデンがあるとのことで、次のエリアに向かいます。 対比を楽しむトピアリーメドウ 最初、車で入ってきた時に目にしたトピアリーメドウにやってきました。真っ赤なポピーの咲くメドウに、エレガントなスタイルに刈り込まれたトピアリーがいくつも立っています。赤と緑の色彩が鮮やか! メドウにはワイルドフラワーが咲きますが、時期によっては真っ白な花が咲き広がるなど、色彩が変化するようです。 「ポピーなどが咲く自然なメドウを、人工的なトピアリーと並べることで、対比の面白さを見せているガーデンです。トピアリーの形は、鳥のようにしたいと思っています」 刈り込まれたトピアリーの頂上付近をよく見ると、まだ整形されていないよう。この部分を伸ばして、鳥を形作るのでしょうか。 グレート・ディクスターにも似たスタイルのメドウガーデンがありますが、この庭は師匠のロイドに捧げるオマージュかもしれませんね。 トピアリーメドウの奥には、柵に囲われたニワトリ用のスペースがあって、キュートな小屋が建っています。じつは、これらのニワトリもガーデナーさんたちがお世話しているとのこと。この他に、ヒツジやウシも飼われています。 クラシカルな美しさ ホワイトガーデン どんどん進んでいくと、レンガ塀でぐるりと囲われた、大きなウォールドガーデンにやってきました。扉の向こうに、ホワイトガーデンが見えます。 このウォールドガーデンの中には、英国の有名なランドスケープデザイナー、トム・スチュワート=スミスが、前オーナーのために作った庭がありました。多年草を取り入れた、モダンな要素のある、個性的なデザインの庭だったそうです。 「しかし、私たちはこの場所を、例えば、ウィリアム・ロビンソンが作ったような、ナチュラルな、イングリッシュガーデンの伝統を感じるものにしたかったので、すべて作り直しました」 ウィリアム・ロビンソンは、19世紀後半に活躍した造園家。整形式庭園全盛期の、人工的な庭園が人気を博していた時代に、植物の自然な姿を生かした庭づくりを提唱し、現代に続くイングリッシュガーデンの基礎を築きました。ミックスボーダーやメドウガーデンなど、植物が思い思いに咲き乱れる、イングリッシュガーデンのナチュラルなイメージは、ロビンソンの時代に生まれたものです。 ホワイトガーデンは作り直してから6~7年経ちますが、3年程前に生け垣を足して、エリアを拡大したそうです。人の背丈以上に伸びた白花のバラや宿根草などが、奥に建つガラス温室を覆い隠すように茂っています。 ガーデンの途中に、再び水音の演出を発見。四角く組まれた石の中心から隙間へと流れ落ちる水が底で反響して、涼しげな音が周囲に響いています。 小さな噴水は、全部で4つ。景色に静かな変化を与えています。 エレガントな雰囲気のキッチンガーデン ホワイトガーデンの隣には、野菜や果物、切り花を育てるキッチンガーデンがありました。ツゲの低い生け垣に囲まれて、季節の野菜が整然と育っています。2つの白い構造物は、果樹を育てるための大きなフルーツケージ。他の庭園にあるものを参考に、マットさん自身がデザインしたものだそう。装飾性の高い白いケージときれいに刈り込まれた生け垣が、このキッチンガーデンに優美な雰囲気を与えています。 2棟のフルーツケージの中にあるのは、サクランボの木。収穫が2度できるように、早く実る木と、遅く実る木が、それぞれ1本ずつ植えられています。果実が鳥に食べられないように、ケージはぐるりとネットで囲まれています。 訪ねた時は、ちょうど、サクランボが実っていて、足元には、イチゴが広がっていました。2段ベッドのような、効率的な空間の使い方ですね。 「2010年にここをオーナーが買い、その2~3カ月後に私は雇われ、それ以来、すべての植栽やデザインを行ってきました。これまでいろいろ手を加えてきましたが、これからももっと変えていきます。プロジェクトがたくさん待っていますが、まだまだ新しい植栽法にチャレンジして、植え込みも毎年変化させていく予定です。日本は幾度か行きましたが、北海道の庭はまだ見たことがありません。クマに遭遇しないように気をつけながら、いつか行ってみたいと思っています」 マットさんは最後に、未来の庭への思いをそう話してくれました。 ホワイトガーデンとキッチンガーデンが接する地点には、向こうまでずっと続く、緑のトンネルがありました。花は終わっていましたが、キングサリのトンネルのようです。長さを尋ねてみると「80mかな」と、あまり気にしていない様子。黄金色の花が満開の頃、ここにはどんなゴージャスな景色が現れるのでしょう。 マルバリーズ・ガーデンズの庭巡りを終えて、同行した北海道上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、このように話していました。 「マルバリーズはインスタグラムで見つけたガーデンで、書籍などでも情報を得ていましたが、これが初訪問となりました。インスタでは分からなかったことも見ることができて、非常に勉強になりました。 日本では、一年草は植え替えることが定着していますが、宿根草については、一度植えたら抜いたり移動したりしてはいけない、という意識が強いですよね。(でも、ここでは宿根草も植え替えていて)イギリスに来る度、マットさんのような、果敢にチャレンジするガーデナーたちの姿を目にして、私も多くの刺激を受けます」 「帰国したらすぐに植え替えたいもののイメージも、もう頭の中にあります。よく、宿根草は植え替えちゃいけないんですか? と訊かれますが、色合わせに失敗したなとか、もう少し色を足したいな、と思う場合は、一年草でも宿根草であっても、根がダメージを受けやすいものを除いて、春や秋のタイミングで植え替えていくのは、庭にとって非常に大切なことです。マットさんも、庭の成長とともに植栽を変えていくことが、いちばん面白いことだと話していました。ガーデン雑誌でもまだ十分に紹介されていない最新のガーデン、見せていただけてよかったです」 イギリスの庭巡り、残念ながら2020年は中止となりましたが、またいつか訪れて、ガーデナーさんたちの交流によって庭が進化していく様子を、ガーデンストーリーでお伝えすることができたらと、強く願っています。




















