イングリッシュガーデン旅案内【英国】中世から建つ美しき古城「ブロートン・カースル」前編

庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。今回は、英国オックスフォードシャー州にある古城「ブロートン・カースル」をご紹介します。中世の石造りの屋敷を背景に、バラや宿根草が茂る美しい庭からは、イングリッシュガーデンのエッセンスが感じられます。
目次
長い歴史を持つブロートン城

ブロートン・カースルは、コッツウォルズ特別自然美観地域の北東側に位置しています。濠に囲まれた美しい石造りの屋敷と、その南側に作られた「貴婦人の庭(レイディーズガーデン)」で有名な、人気の高い観光スポットです。

ブロートン・カースルは、1300年頃、イングランド王のエドワード1世に仕えたジョン・ドゥ・ブロートン卿が石造りのマナーハウス(領主の館)を建てたことに始まります。屋敷は1377年に、ウィンチェスター主教のウィリアム・オブ・ウィッカムによって買い取られ、以来、その子孫となるファインズ家に受け継がれてきました。日本でいえば、鎌倉時代の終わりから室町時代の話です。

ウィリアム・オブ・ウィッカムは国政で重要な位置を占めた人物で、オックスフォード大学のニュー・カレッジや、英国最古の男子寄宿学校であるウィンチェスター・カレッジの設立、ウィンザー城の建設にも携わりました。ブロートン・カースルには、17世紀にイングランド王が宿泊したという歴史もあります。
現在も続くファインズ家には、探検家や作家、画家など、才能のある人物が多く、映画『ハリー・ポッター』シリーズでヴォルデモートを演じた俳優のレイフ・ファインズと、その弟のジョセフ・ファインズも親族だそう。

庭好きにとっては、屋敷の南側にある貴婦人の庭(レイディーズガーデン)は必見。一方を屋敷に、三方を石塀で囲まれたウォールドガーデンでは、石造りの古い建物を背景にどんな花景色が広がるのか、楽しみです。
それでは、庭巡りを始めましょう。
濠に囲まれた屋敷

まずは濠にかかる石橋を渡って、かつての守衛所(ゲートハウス)を抜けていきます。1406年、このゲートハウスに銃眼付きの胸壁が設けられたことで、マナーハウスは「カースル(城)」と呼ばれるようになりました。

屋敷は3つの小川が交わる地点に建てられ、それから、屋敷を囲む大きな濠がつくられました。濠と屋敷の大部分は、当時と変わらない姿を保っているそうです。

銃眼のあるゲートハウス。ブロートンの建物や塀には、コッツウォルドストーンと呼ばれる石灰岩が使われています。ブロートン・カースルのあるコッツウォルズの東側は、鉄分を多く含んだ赤茶色の石が採れるそう。大きさが不揃いな石に古さを感じますね。

前庭の端に、ひっそりとバラが咲いています。

600年近く経っていると思われる石塀に、優しいピンクのバラがよく合います。ここでしか出会えない趣のあるガーデンシーンに感動。

マナーハウスが見えてきました。1階右端が1300年頃に建てられた最も古い部分で、1554年に3階建てへと改築されました。17世紀にはすっかり荒れてしまったこともあったそうですが、長い年月の間に改修を繰り返しながら、維持されてきました。
左側に銃眼付きの胸壁が見えますが、城というよりマナーハウスの印象が強い屋敷ですね。内部はのちほど見学することにして、まずは右手から庭のほうに回ります。

屋敷の西側、濠の外には、ブロートン・パークの草地が広がっています。

低い石塀に伝うバラ。風化した石とバラが作り出す、野趣のある景色です。

屋敷脇の植え込みは、銅葉の茂みがアクセントになっています。

赤紫のバラと銅葉の美しい組み合わせ。

石塀に囲まれたウォールドガーデン、頭上にクレマチスが絡んだ貴婦人の庭への入り口が見えました。
貴婦人の庭(レイディーズガーデン)

屋敷の南側にある貴婦人の庭に入りました。先ほどのアーチから入って、振り返ったところ。砂利敷きの小道には落ち葉一つなく、銀葉のグラウンドカバー、銅葉の茂み、壁面を覆う緑と、このエリアだけでも数多くの植物が景色を作っています。

紫のアリウムと黄色いシシリンチウム・ストリアツム。優しい色合いの花々が出迎えてくれます。

西側の石塀には小窓があって、紫のフジが伝います。訪れたのは7月上旬。バラがちょうど満開で、緑もみずみずしくて、花と緑の香り漂う中で何度も深呼吸。

この庭は、1890年代に屋敷に暮らしていたゴードン=レノックス公爵夫人によってつくられました。この方は、当時一番のおしゃれさんとして、社交界で有名だったとか。きっと庭づくりのセンスもあったのですね。

現在の植栽は、オーナーである第21代セイ・アンド・セール男爵と男爵夫人によって考えられたもの。

コッツウォルドストーンで組まれた石塀や屋敷の壁に合うように、柔らかな色調の花が選ばれていますが、これは、1970年に、有名なガーデンデザイナーのランニング・ローパーから受けた助言に基づいているそうです。
フルール・ド・リスを描いたパーテア

この庭は、低い生け垣で模様を描く「パーテア」と呼ばれるスタイルの、整形式庭園です。屋敷の屋上からは、アヤメの花を様式化した意匠(フルール・ド・リス)と円が組み合わさった、デザインの全体が見られるとのこと。楽しみです。

庭がつくられた当時の写真資料を見ると、生け垣の高さは足元程度で厚みもなく、素っ気ないくらいシンプルな景色が写っていました。しかし、長い年月の中で、生け垣は腰高にしっかりと育ち、花壇の茂みも大きな、緑豊かな庭となっています。

庭を囲む石塀と生け垣、つまり、庭の骨格は、130年の間変わっていないです。イングリッシュガーデンの歴史が感じられますね。

庭がつくられた当初、中心には日時計のような、シンプルな石造りのオブジェが置かれていましたが、現在はハニーサックルがこんもり茂っています。円形に区切られた地際では、パッチワークのように配植されたタイムが花を咲かせていました。

時の流れが生み出す、格別の雰囲気を醸す石塀です。よく見ると、石材の色や仕上げに違いがあります。修復された形跡でしょうか。

その古びた石塀を背に、バラやジギタリス、ゲラニウムといった草花が茂ります。ロマンチックな、これぞイングリッシュガーデンという花景色。


庭に植えられているバラは約60種とのこと。草花とナチュラルに調和し合っていました。

家壁の窪みの奥に、木製ベンチが置かれているスペースを見つけました。

いろいろな種類の花に囲まれたベンチです。小花がふわふわと咲いて、素朴ながら心落ち着く景色。

屋敷に沿って進むと、貴婦人の庭の外に出るアーチがありました。
石塀の外には芝生が

アーチを抜けると、木の扉の上に白いつるバラが伝い広がっています。


貴婦人の庭の外側、石塀に沿ってつくられた東向きのボーダーです。

貴婦人の庭からアーチを抜けると石段があって、小さなテラスへと繋がっています。

テラスの先は屋敷の壁に沿って、植え込みが続きます。

大木のセアノサスがブルーの茂みを作り、傍にはテーブルとイスのセットが。遠くの景色を眺める憩いの場所です。

貴婦人の庭は、屋敷南側の、西側半分に位置しているのですが、東側には緑の芝生が広がっていて、大きな立方体のようなトピアリーが6つ点在しています。


さて、石塀の中の庭に戻ってみると……、あそこでゲストと話している方は、オーナーの男爵夫人!

庭に出て手入れ中だった男爵夫人とお話しすることができました。いつもご自身で花を摘んで、部屋に活けるそうです。

後編では、ウォールドガーデン外側の美しい花壇や、屋敷の素晴らしい内装、貴婦人の庭の全体像をご紹介します。
Information
ブロートン・カースル〈Broughton Castle〉
Banbury, Oxon OX15 5EB
https://broughtoncastle.com
車では、ロンドンから北西へ約1時間40分。電車では、ロンドン・メリルボーン駅から最寄りのバンベリー駅(Banbury)まで約1時間、駅からタクシーで約10分。
現在は新型コロナ感染症予防のため閉館中。2021年シーズンは6月1日に開園予定だが、ホームページ等で要確認(2021年3月19日時点の情報)。例年の開園日時は、4月~9月の水曜、日曜、祝日。14:00~17:00(最終入場16:30)
Credit
写真&文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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