イングリッシュガーデン旅案内【英国】石塀に映えるロマンチックな花景色「ブロートン・カースル」後編

庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。英国オックスフォードシャー州にある古城「ブロートン・カースル」の後編をお届けします。古びた石塀を背に、バラや宿根草がのびやかに咲く花景色は、これぞイングリッシュガーデンと思わせるもの。屋敷のインテリアも必見です。
目次
西向きのバトルメントボーダー

前編では、石塀に囲まれたウォールドガーデン、「貴婦人の庭(レイディーズガーデン)」を巡りましたが、後編では石塀の外側にのびる花壇(ボーダー)を見ていきましょう。
こちらは、入り口の守衛所(ゲートハウス)脇にある、銃眼付きの胸壁(バトルメント)に沿ってつくられた花壇、バトルメントボーダーです。

ブルー、シルバー、黄色の植物を使ったシックな植栽。案内をしてくれたガーデナーのクリス・ホプキンスさんによると、オーナーである第21代セイ・アンド・セール男爵は、このような落ち着いた色調の植栽を好まれるそうです。


石塀に沿って南に進んでいくと、赤や赤紫など、深い色を使った植栽に変化します。こちらは男爵夫人好みの植栽。女性らしさが感じられます。

ワインレッドのバラとジギタリスがコラボし、間にはゲラニウムやポピーの葉が茂っています。

こちらがガーデナーのクリスさん。27年間、ほぼ一人でこの庭の管理をしてきたという方です。後ろ姿は北海道、上野ファームのガーデナー上野砂由紀さん。

雨上がりの庭に、花々の香りにつられてお腹を空かせたハチがやってきます。

ガーデナーのクリスさんは、植物や色彩の好みが異なる男爵と夫人のどちらにも満足してもらえるよう、植栽のバランスに配慮していると言います。

西側の石塀に小さな窓があります。その周囲に適度なバランスでクレマチスやつるバラが色を添えて、ナチュラルな雰囲気ですね。

つるバラの伝う小窓から、石塀の中に広がる庭が見えます。

大きなバラの茂みのそばには、銅葉のヒューケラやシックなアメリカテマリシモツケ、シルバーグリーンのリクニスなどが組み合わされて、葉色の変化を見せています。いつまでも眺めていたい美しい景色です。

花壇の反対側にある生け垣の端は、ピンクのバラで彩られています。その向こうに、広大なブロートン・パークの草地が続きます。

ウォールドガーデンの南西の角に立つと、建物と左右の庭が一望できます。ここでは、銅葉のセイヨウニワトコ ‘ブラックレース’がいいアクセントになり、手前にはデルフィニウムが大株に茂っています。

角を回って、南向きの花壇までやってきました。

振り返ると、濠の水面の先に緑の景色が広がって…。
南向きのサウスボーダー

南側の石塀にも貴婦人の庭(レイディーズガーデン)への入り口がありました。

バラに彩られる南側のアーチから、貴婦人の庭の中心にあるハニーサックルや生け垣が覗いています。

サウスボーダーのこの青花はゲラニウム・ヒマラエンセ‘グレイブタイ’。石塀を伝うつるバラは‘ゴールドフィンチ’。ブルーと淡い黄色が爽やかな一角。

ラムズイヤーのシルバーリーフに黄花のエルサレム・セージが引き立ちます。

カスミソウのような花が無数に咲いていて、「なんだかカスミソウのお化けみたい!」と同行者が楽しげに眺めていました。「これは、クランベ・コーディフォリアですよね。立派な株ですねー」と上野さん。

白花のクランベ・コーディフォリア越しに、石壁のアーチの方角を見ると、つるバラと調和して白花が引き立っています。
東向きのボーダー

白いつるバラが絡むアーチの反対側からの景色。このアーチは14世紀の建設当初にはエントランス部分だったと考えられています。

アーチの角を回って、東向きのボーダーに来ました。

ウォールドガーデンの内側と外側、一歩進むごとに新しい景色に変わり、いつまでも巡っていたいブロートン・カースルの庭。上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、庭巡りのあと、こう話していました。
「よく手入れされて、ゲラニウムやバラもとてもよい状態で咲き始めていました。(私の庭のある)北海道では育てられないのですが、植えてみたいなと思う、おばけカスミソウみたいな、クランベ・コーディフォリアもありましたね。
ガーデナーが、オーナーと奥様の意思を反映しながら、庭づくりに試行錯誤していました。上野ファームも、私がデザインしている所と、母がすべて植栽のデザインをする所を、きっちり分けています。好みも、好きな花も違うので、担当を分けて、それぞれのよさを出すようにしています」
「ブロートンの庭のように、ガーデンにはオーナーがいて、ヘッドガーデナーがいますが、オーナーの意向をどう反映するかが、ヘッドガーデナーの腕の見せ所ですよね。ガーデナーのクリスさんは、数年前まではご自分で芝刈りもして、ほぼ一人で27年間働いてきたとか。相当な仕事量をこなしてきたのだろうなと、同じガーデナーとして仕事の裏側も気になりました。6月は、ご覧のように爽やかで華やかな庭でしたが、春もチューリップを植えて華やかにしているそうですよ」
イギリスの歴史を感じる屋敷

さて、次は屋敷の中を巡っていきましょう。
まずは、1300年頃に建てられた屋敷の最も古い部分が残っているというグレートホール。イギリスのお城など、古い建物は薄暗いことが多いのですが、このグレートホールは16世紀半ばの改修で組み込まれた、チューダー様式の大きな窓から光が入り、明るさがあります。

天井には垂れ飾りが。1760年代に改修された時のもの。

暖炉の脇には、革製の消火バケツと剣が並びます。これらの不揃いの古いレンガは建設当時のものでしょうか。

絵になる窓辺のコーナー。
アン王妃の部屋、ギャラリー

次は、アン王妃の部屋(クイーン・アンズ・ルーム)です。イングランド王、ジェームズ1世の王妃、アン・オブ・デンマークが、1604年と1608年に、この部屋に滞在したといわれています。暖炉の上に飾られた肖像画がアン王妃。石造りの暖炉は16世紀半ばに設けられたものです。

暖炉には、石工によって彫られた精巧な飾りがあります。天蓋付きのベッドは18世紀後半のもの。

2階の廊下にあたるギャラリー。1760年代にゴシック様式に改修された際、内装も新たに施されました。ここには16世紀からの一族の肖像画が集められています。

窓から外の緑が見えます。

美しい壁紙が特徴的なベリー・ロッジ・ルーム。壁紙はフランス、アルザス地方にあるズベール社の1840年頃のものです。家具の多くは、男爵の祖父母の屋敷、ベリー・ロッジから運ばれたものだそう。
王の部屋、そして屋上へ

次は、1604年にジェームズ1世が宿泊したという、王の部屋(キングス・チェンバー)です。印象的なグリーンの中国風の壁紙は手描きだとか。ベッドは現代の家具作家、ロビン・ファーロングの手による特注品。現代的な要素がアンティークとうまくミックスされています。

暖炉の上には、フランス製の漆喰仕上げの装飾が施されています。ギリシャ神話のモチーフです。


ギャラリーの反対側にも、対になる長椅子が置かれたコーナーがありました。


ドアノブの飾りが素敵です。

屋敷の西側、屋上に出てみると、貴婦人の庭(レイディーズガーデン)が眼下に! アヤメの花を様式化した、よく紋章に用いられる「フルール・ド・リス」という意匠と、円を組み合わせたデザインです。生け垣で模様を描く、パーテアという庭園様式は、高い場所から眺めて楽しむものなのだなと、実感します。
●貴婦人の庭の植栽については「ブロートン・カースル」前編をご覧ください。

西側壁面に沿って花壇がのび、濠の向こうには、730万㎡という耕作地や牧草地が続きます。

こちらは、守衛所(ゲートハウス)に近いほうの花壇、バトルメントボーダー。

さて、次は西の端にある大広間、グレートパーラー。漆喰仕上げの天井が見事です。

天井は古いものですが、壁紙や扉、羽目板などは19世紀半ばのもの。何度も改修を繰り返して、城の長い歴史が続いていくのですね。

椅子の布地に合わせたピンクの生花が素敵です。きっと男爵夫人が活けられたものですね。

東を向いた窓からは、芝生の上にリズミカルに並ぶ立方体のトピアリーが見えます。

南向きの窓からは、貴婦人の庭が見えます。

1階に降りて、再び貴婦人の庭へと出てみましょう。

さて、お庭をもう一周してきましょうか。

帰り際、前庭の端には、古い厩を改修したティールームとショップがありました。
長い歴史を経て、今も暮らす人に愛され、大切に維持されているブロートン・カースル。部屋の窓や屋上からの眺めも素晴らしく、庭では、私たちも育てている同じ種類の草花にも多数出合うこともでき、親しみを感じました。また、「ガーデン」とは、次の世代、また次の世代へと、いつまでも受け継いでいけるものなのだと教えてくれる場所でした。
Information
ブロートン・カースル〈Broughton Castle〉
Banbury, Oxon OX15 5EB
https://broughtoncastle.com
車では、ロンドンから北西へ約1時間40分。電車では、ロンドン・メリルボーン駅から最寄りのバンベリー駅(Banbury)まで約1時間、駅からタクシーで約10分。
現在は新型コロナ感染症予防のため閉館中。2021年シーズンは6月1日に開園予定だが、ホームページ等で要確認(2021年3月19日時点の情報)。例年の開園日時は、4~9月の水曜、日曜、祝日。14:00~17:00(最終入場16:30)
Credit
写真&文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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