ガーデニングの本場、英国におけるカリスマ的ガーデナーだったクリストファー・ロイド(1921-2006)。彼は卓越した園芸家であり、同時に、ウィットあふれる語り口で人気の園芸作家でした。英国イースト・サセックス州にあるグレート・ディクスターは、クリストファーが生まれ育ち、また、園芸家として40年以上にわたって実験的なガーデニングを続けた庭です。人々を魅了する、独創性にあふれる庭を訪ねます。

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時代を先駆けたガーデナー

グレート・ディクスターのボーダー
宿根草だけでなく灌木なども組み合わせたミックスボーダー。

クリストファー・ロイドは、1950年代から生家のグレート・ディクスターを実験場にして、新しいガーデニングに挑戦し続けた園芸家でした。そして、ミックスボーダー(混植花壇)やメドウガーデンなど、自らが体験から得た新しい考え方を、英米の有名ガーデン誌や新聞、著書で伝え、プロやアマチュアのガーデナーたちに刺激を与え続けました。

グレート・ディクスターはクリストファーにとって、ガーデナー仲間との意見交流の場でもありました。彼は、園芸家ベス・チャトーなどの友人を招いて、菜園で収穫した野菜を使った手料理をふるまいつつ、園芸談議を楽しみました。英国園芸界で活躍する人々が集まるこの庭は、ガーデニングの新しい潮流が生まれる場所だったのです。

グレート・ディクスターのメドウガーデン
屋敷の南西に広がるメドウガーデン。

2006年、クリストファーは84歳で惜しまれつつ他界しましたが、彼が愛し、精力を注いだ庭と屋敷は、現在グレート・ディクスター・チャリタブル・トラストという公益財団に引き継がれ、その遺志を受け継ぐガーデナーたちによって、管理、運営されています。詳しくは「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」前編でご紹介していますのでご覧ください。

さて、前編では、入り口から屋敷を中心に時計回りに庭を巡り、屋敷の南西側のメドウまでやってきました。庭巡りを続けましょう。

色彩豊かなロングボーダー

グレート・ディクスターのロングボーダー

メドウの縁には、屋敷へと延びる、幅広い敷石の小道と細長い花壇「ロングボーダー」があります。雑誌などでもよく紹介されている有名な花壇です。優しい色合いのメドウとは対照的に、このロングボーダーは彩り豊か。たくさんの種類の植物が小道にこぼれるように茂り、競い合って咲いています。

グレート・ディクスターのロングボーダー

小道を進んでいくと、植物の種類が変わることで色彩も変化していきます。花壇の植栽は、6月中旬~8月中旬に花盛りとなるよう考えられているそう。また、クリストファーは、5月末からは土が見えないくらい植え込むべきと考え、この花壇を「綿密に織られたタペストリーのよう」にしたいと思っていました。

グレート・ディクスターのロングボーダー
赤花のバラを背景に、ルナリアの丸いタネの莢が面白い景色を作っていた一角。

このロングボーダーはミックスボーダー(混植花壇)で、さまざまな植物が使われています。宿根草だけでなく、灌木や一年草、つる植物など、植物の種類にかかわらずなんでも使うのが、クリストファー流。ロングボーダーには斑入り葉の灌木や、真紅やピンクの花を咲かせたバラの茂みも所々にあって、ボリュームたっぷりです。訪れた6月中旬は、バラに加え、ポピーやルピナスの赤い花がアクセントとなって、強い印象の景色をつくっていました。

名建築家ラッチェンス設計の円形階段

グレート・ディクスターの円形階段

ロングボーダーの端まで来て、視線の先を遮っていたマルベリーの大木の茂みを抜けると、左手に、円形のデザインが目を引く個性的な石階段がありました。その先にはメドウが広がっています。

グレート・ディクスターの円形階段

この円形の石階段や、ロングボーダー前の敷石の小道は、20世紀の初めに活躍した名建築家、エドウィン・ラッチェンスによって設計されたものです。アールを描く石のステップの側面には、こぼれ種で広がったのか、ポツポツとエリゲロンの可愛い花が咲いていて、石階段の固い印象を和らげています。使われている石自体100年以上経っているので、趣があります。

グレート・ディクスターの円形階段

メドウに立って、円形の石階段を正面から見てみると、上段に背景となる屋敷、中段にローダンセのピンクの花、下段に石階段と、高低差を生かした立体的なデザインであることが分かります。右側に茂るブラック・マルベリーの木は、もともとは対で両側に生えていたもので、ローダンセの花壇と同じく左右対称のデザインとなっていました。

円形階段とローダンセ
石のステップに咲く一年草のローダンセ。

ラッチェンスは、ガーデンデザイナーのガートルード・ジーキル女史とともにつくり上げたヘスタークーム・ガーデンズでも、似たような円形の石階段を設計しています。庭のアクセントとなる素敵なデザインですね。

花に飾られた石階段を、上ったり、降りたり。次のエリアに向かう過程も、とても楽しめました。

グレート・ディクスターのメドウガーデン

円形の石階段からメドウの中へと、放射状に3本の小道が伸びています。右手の小道を先に進むと、濃い緑の壁に囲まれたエリアがありました。中に入ってみると……

異国情緒たっぷりのエキゾチックガーデン

グレート・ディクスターのエキゾチックガーデン

他のエリアとはがらりと印象が変わって、緑一色の世界。背丈を超えるほど成長したバショウや木生シダなどが、自由に葉を広げて、面白いコントラストを見せています。ここはエキゾチックガーデンと呼ばれるエリア。もともとは整形式のローズガーデンとして設計された場所ですが、連作障害でバラが育たなくなったため、クリストファーが大改造を行いました。バラからの大胆な方向転換。きっと雰囲気が一新したことでしょうね。

グレート・ディクスターのエキゾチックガーデン

小道の先を隠すように葉が垂れて、ジャングルのような雰囲気です。葉を楽しむための植物の多くは、イギリスの寒さに耐えられるものが選ばれています。6月の段階では緑一色の景色ですが、晩夏から秋にかけて、この庭にはダリアやカンナ、こぼれ種で増えるサンジャクバーベナの花が咲いて、とてもカラフルになるそう。その頃の景色も、ぜひ見てみたいものですね。

楽しみいっぱいのナーセリー

グレート・ディクスター

さて、エキゾチックガーデンを出て敷地の奥へと進むと、花苗やテラコッタポットなどが並ぶナーセリー&ショップにたどり着きました。このナーセリーは1954年に、クリストファーが、自分が好きな植物を売るという形で始めたもの。特に、彼が大好きだったクレマチスは多くの品種が取り揃えられていて、今でもクレマチス専門店として知られています。

グレート・ディクスターのおショップ

ナーセリー&ショップのエリアには建物が2つあって、小さいほうでは特製ブレンドの土の量り売りや、グレート・ディクスターのマークの付いたタネ袋などが売られていました。大きいほうでは、書籍やハサミ、オリジナルバッグや誘引紐など、心惹かれる商品がたくさん。店先には、アンティークのジョウロやダックスフントを模したジョウロなど、ユニークなグッズもありました(クリストファーはダックスフンドが大好きで、ずっと飼っていました。庭園では今もその子孫が飼われています)。

グレート・ディクスターのおショップ

ガーデンの中で見かけた低い木柵も、山積みになって売られていました。これはガーデンハードルという、英国の庭で伝統的に柵やゲートとして使われているもの。グレート・ディクスターでは築500年の納屋を使って、伝統的な木工品づくりも行っています。古くからある近くの森からヨーロッパグリやクリ、オークなどの木材を切り出して、柵のほかにもスツールやベンチ、はしごなどを作成します。これは、森を守ると同時に、木工品づくりの伝統技術を伝えていくためでもあります。

グレート・ディクスターのロッジア
飲食スペースとして使われている草屋根のロッジア。奥の白い壁は、雑貨のショップ。

ショップ付近では、草屋根のロッジア(イタリア式の、片側に壁のない屋根付き柱廊)が飲食スペースとして使われていて、用意されたテーブルや椅子で休憩する人の姿がありました。

グレート・ディクスターのおショップ

苗コーナーも広く、たくさんの品種が並んでいます。奥に見える濃い緑の壁からバショウの葉が伸び出ているエリアが、先にご紹介したエキゾチックガーデンです。

トピアリーとメドウ

グレート・ディクスターのメドウガーデン

ナーセリー&ショップのエリアを出ると、目の前に、再びメドウが広がっていました。草むらの中に、セイヨウイチイのトピアリーがリズミカルに配置され、広いスペースにアクセントをつけています。トピアリーは、アーツ&クラフツスタイルの庭で欠かせない要素ですが、日本庭園で見る松の刈り込みのようでもあって、親しみを持てました。クリストファーの父、ナサニエルはトピアリーが大好きで、昔は庭園内にもっとたくさんのトピアリーが立っていたそうです。クリストファーは「トピアリーは存在感があって、長い影をつくる時など、植わっているというより、住んでいるように見える」という言葉を残しています。確かに、ずんぐりむっくりの森の妖精のようにも見えますね。

グレート・ディクスターのメドウとトピアリー

一方、母のデイジーは、メドウが大好きでした。このトピアリー・ローンと呼ばれる庭は、クリストファーの両親が好きだったものがどちらもある場所です。

メドウとはもともと牧草地のことですが、イングリッシュガーデンでは、草原に小さな花々が咲く風景が、メドウ、もしくは、メドウガーデンとして、ガーデンデザインの中に取り入れられており、広い敷地を持つガーデンには、たいていメドウを思わせるエリアがあります。数あるメドウの中でも、ここグレート・ディクスターの庭は格別です。クリストファーの母は、この庭ができた1910年代からメドウをつくっていたので、彼は幼い頃からメドウに親しんできました。クリストファーは園芸家となってからも、美しいメドウガーデンづくりに試行錯誤し、精通していたので、メドウづくりの第一人者と目されていました。彼は2004年に刊行した著書Meadowsで、その知識を伝えています。

コモン・スポティッド・オーキッド
薄紫の花はコモン・スポティッド・オーキッドという、ヨーロッパの野生種のラン。

グレート・ディクスターのメドウは多様性に富むもので、ヨーロッパの野生種のランも育っています。メドウはまた、チョウやガ、昆虫など野生生物の棲む場所としても重要なものになっています。

素朴な花が、まるで自然に咲き広がっているように見えますが、このような景色は、じつはとてもテクニックを必要とするもので、人の手が入ることによってはじめて実現するといわれます。植物同士がバランスよく一緒に成長するように、また、意図しない植物の侵入を避けたり、特定の植物が繁茂しすぎないようにしたり、種まきから成長過程を調整することも、メドウガーデンづくりのテクニックとか。

だからこそ、この景色は毎年必ずしも同じになるとは限りません。またいつか訪れるチャンスがあるかしらと心の片隅で思いながら、そよぐ風や野鳥の声に耳を澄ませて、そこにいる時間を楽しみました。

グレート・ディクスターのバラ

メドウに囲まれた小道を、建物のある方向へ進むと、屋根につるバラが絡むロッジアが見えてきました。その左横を進んで、次のブルーガーデンに入ります。

グレート・ディクスターの小道

よく手入れされた芝生の中に、敷石の小道がまっすぐに通っています。建物に沿って、緑が生き生きと茂っていました。この小道や階段、レンガ造りのアーチも、ラッチェンスの設計です。

グレート・ディクスターのエスパリエ

屋根に迫るほど大きな果樹のエスパリエがありました。リンゴの木でしょうか、石の壁にぴったり沿って、枝がきれいに誘引されています。こんなに大きなエスパリエを見たのは初めて!

グレート・ディクスター

次のエリアへ行く前に振り返ると、階段脇の一角に、いろんな種類のギボウシがバランスよく配置されていました。鉢植えのギボウシがたっぷり日差しを受けて、生き生きと葉を広げています。

グレート・ディクスターのウォールガーデン

次のエリアは、四方を壁にぐるりと囲まれたウォールガーデンです。

グレート・ディクスターのウォールガーデン
ウォールガーデンの奥から、ブルーガーデンの入り口を見た角度。

中は広い敷石のテラスになっていて、その周りを地植えの木々や鉢植えの植物が囲んでいます。中央付近は、小石を無数に敷き詰めたペイビングとなっていて、クリストファーの愛犬、2匹のダックスフンドがモチーフとなった模様が浮き上がっていました。テラスのペイビングの細かさから、相当のエネルギーが注がれた場所なんだなぁと実感します。

グレート・ディクスターのウォールガーデン

ウォールガーデンの一角は、カンパニュラやゲラニウム、フラックスなど、青系の花々の鉢植えが飾られて、爽やかな印象でした。

グレート・ディクスターのサンクンガーデン

さて、庭巡りの最後を飾るのは、サンクン・ガーデンです。サンクン・ガーデン(もしくは、サンク・ガーデン)とは沈床式庭園のこと。イギリスのガーデンデザインでよく取り入れられる手法ですが、庭の中央の「床」が、周囲より一段、もしくは数段低く「沈んで」いて、そこに噴水が設けられたり、花壇が作られたりします。この庭の場合は、中央に八角形の池が作られていて、睡蓮が咲いていました。

グレート・ディクスターのサンクンガーデン

もともとこの場所にはクロッケー用の芝生がありましたが、クリストファーの父ナサニエルが、1921年にこのように設計し直しました。ナサニエルは、建築や庭の設計にとても興味を持っていた人で、地域の古い建築に関した本を著してもいます。テラスの周りには芝生が広がっていますが、第一次世界大戦中はその芝生を掘り起こして、野菜を作っていたそうです。

池の水面に映る空の雲や植物のシルエットは、一幅の絵のよう。ベンチに座って、静かな時間を楽しみました。

オリエンタル・ポピー
オリエンタル・ポピーが咲くハイガーデン(前編でご紹介)。

グレート・ディクスターの広大な庭のメンテナンスには何人ものガーデナーが関わって、こぼれ種から発芽した芽の抜き取りや植え直しなど、とても繊細に行われています。一年で一番忙しい時期は、1月から2月にかけて。グレート・ディクスターは「英国で最も手のかかる庭」として知られますが、植えっぱなしでも育つ宿根草でさえ、よりよい状態を求めて、毎年植え替えるのだそうです。ここではガーデナー教育にも力が注がれていて、屋敷には研修生が住み込んで庭作業に励んでいます。ここを卒業したガーデナーは、他のガーデンで実力のある人材として活躍しているそうです。

かつて、庭づくりの巨匠として、イギリスのガーデニングに影響を与え続けたクリストファー・ロイド。新しいガーデニングに挑もうとするその精神は、ヘッド・ガーデナーのファーガス・ギャレットをはじめとするガーデナーたちに引き継がれています。クリストファーが愛し、築き上げたグレート・ディクスターは、今も新しい景色を生み出し、進化し続けるガーデンとして、多くの人々に驚きと感動を与えています。

「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」前編もどうぞご覧ください。

Information

グレート・ディクスター 〈Great Dixter House & Gardens〉

Great Dixter, Northiam, Rye, East Sussex TN31 6PH, U.K.

https://www.greatdixter.co.uk/

ロンドンからは、南東へ車で2時間弱。電車では、ロンドン、セント・パンクラス・インターナショナル駅(St Pancras International)からライ駅(Rye)まで(アッシュフォード・インターナショナル駅(Ashford International)で乗り換え)、約1時間~1時間半。駅前から路線バスで最寄りのバス停、ディクスター・ロード(Dixter Road)まで約25分、そこから庭園まで徒歩10分。または、ライ駅から庭園までタクシーで約20分。路線バスはヘイスティングス駅(Hastings)出発のルートもあり。

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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