1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。高校生の時から芸能活動を始め、舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や主演映画『冷たい床』はさまざまな国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。映画や舞台、女優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。世界中を旅しながら難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちに寄り添っている。
YouTube『サヘル・ローズチャンネル』
https://www.youtube.com/channel/UCE3h8QRgs4GS_ClgReaAMVA
サヘル・ローズ -タレント/女優/コメンテーター-
1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。高校生の時から芸能活動を始め、舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や主演映画『冷たい床』はさまざまな国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。映画や舞台、女優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。世界中を旅しながら難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちに寄り添っている。
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サヘル・ローズ -タレント/女優/コメンテーター-の記事
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人物
サヘル・ローズさんのプライベートローズガーデン2021レポート
みなさん、お久しぶりです! 今年もバラの妖精たちが踊り出しました。 いかがお過ごしでしょうか? コロナによって奪われてしまった日常が多いと思います。 おかしな言い方になるかもしれませんが、こんなにも日常がありがたかったのだと、いまさらながらに痛感します。 当たり前の日々なんて存在しない。そう学びながらも、きっといろいろな葛藤や苦しみで、どんどん心が圧迫されている方もいると思います。 深呼吸できていますか? たまには空を見上げていますか? でも、『苦しい』ときは無理をせずに、うつむいてもいいと思います。 足元に広がる美しい花たちの視線を感じることも、大事な癒やしです。 奪われたことが本当に多いコロナ2年目。去年もバラが咲き誇るこの時期が緊急事態宣言中でした。今年も同じく。 でも、バラたちは力強くこちらをみています。そして素晴らしい笑顔で 「おはよう。また、会えたね。」 と言ってくれるのです。 私は幸せな親です、こんなにも愛おしいこども……いや、兄妹たちがいて幸せ。 まだ『親』にはなれません(笑) コロナでマスク生活になり、花の香りをかげないのが寂しくなります。 「花の言葉は香り」と、私はよく表現しています。その言霊に触れられないのが、ちょっぴり切ないです。しかし、去年と同様に庭はコロナなんて感じさせないほどパワーアップしています。 じつは、我が庭では140種類のバラを植えている事が判明(自分でもこれまでちゃんと数え切れていませんでした)。正直、あの小さなスペースにこの数はよくないとは思います。風通しも、日差しも、水はけも、本当に条件が100%バラのために整っているとはいえません。でも、一生懸命こちらの思いに答えてくれるバラたちに、ただただ感謝しています。 それに、それだけの愛情とエネルギーを、この庭を手入れする母は注いでいます。母はバラが大好き。私にサヘル・ローズ(砂漠に咲くバラ)という名を授けてくれたのも母です。母が買ってくれる私の服もバラ柄ばかり(笑)。 そんな母が何よりも喜ぶのが、ご近所や地域の方々が『今年も華やかで美しいね。素晴らしいバラ園をありがとう』とおっしゃってくださる言葉です。 私の住んでいる地域にはご高齢の方も多く、車椅子や松葉杖を使いながら散歩されている方も少なくないのです。歩くことや動くことにも苦痛が伴い、出かけるのも容易ではないかもしれないのに、『このお庭のおかげで、外に出たくなるの』と素敵な笑顔を向けてくださいます。そんな言葉を少なからずかけていただくなかで、私のなかで植物に対してまた新たな気づきがありました。 そっか、バラや花はただ美しいだけではなく、誰かの生きがいにもなれるんだ。言葉を交わさなくても人と植物は『命の対話』で勇気をもらったり、励まされたりするんですね。 そんな言葉をかけていただくと、「よかった、ちゃんと庭づくりを続けてきて」と思うのです。本当のところ、バラは植え付けも一苦労ですし、トゲだらけの枝の隙間をぬって虫をとったり、花殻を摘んだり、いろいろと手間が多いのも事実。水も肥料も大好きで、ややお嬢様気質のバラさんですが、そうやって手間をかけた以上の喜びを私たちに返してくれます。 花は人生の友であり、私の一部です。母にとっても私にとってもバラは生きがいになっています。 よくバラは育てるのが難しいと思われがちですが、よい土とお日様と水があれば基本的には大丈夫! あとは育てながら学んでいけばいいのです。専門家になる必要は全然ないのです。私も専門家ではないので、失敗も悔しい思いもし、病気で枯らすこともあります。枯らしてしまうと悲しい気持ちにもなりますが、失敗からは多くの学びもあります。バラに限らず植物を育てていると、新しい発見がたくさんありますよ。 そして、やっぱり美しい花が咲くのは何度経験しても私自身が感動しますし、それを見て喜んでくれる人の笑顔を見るのも最高の幸せです。 そのためならいくらでも頑張れます。 でも、本当はマスクなしで皆様にはこの素晴らしい花々、バラたちの香りを感じてほしいと思います。近い将来、そんな日がくるよう心から願います。 今年は写真ではありますが、2021年版のサヘルと母、フローラのローズガーデンをお楽しみくださいね。
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人物
今年もありがとう〜サヘル・ローズさんのプライベートガーデンより
『今年もありがとう』 この言葉を、一年で最も多く耳にする季節があります。 それが5月です。そう、花咲く5月。 暖かい太陽の日差しを浴びて、ターコイズブルーの大空の下で娘たちが眼を覚まし、ドレスに着替え踊り出す季節。 娘とは、バラさんたちのこと。不思議な感覚なのですが、バラは私にとって妹のような存在です。 わがままな妹であり、鮮やかな自慢の妹たち。 そして、私の母にとっては娘たち。だから、我が家は大家族なのです。 そのバラたちが紡ぎ出すコトバ。それに重なるように地元の方々からいただくコトバ。それは『今年もありがとう』。 この言葉を聞くと、とても励みになります。 今年も美しく空に向かって、咲き誇っています。 凛と、光の中へ。 背筋を伸ばした妹たち。 今年はアナタたちにとって世界はどんな風に映っていますか? このコロナウイルスが長引くにつれ、人々の表情や瞳に影が広がっていく。 だからといって、「頑張っていきましょう」とは、言えない。 みんな、今を耐えている。いろんな感情を呑み込みながら、家族の明日を考えながら。不安で、怖くても笑っていようとする人々。 もちろん、私もよ。強くないよ、私も。 でも、今年は今までで一番、この季節を濃密に感じています。 こうして時間ができた分、自然に触れている時間が長くなっています。 そこには、土の香りや庭の変化、妹たちの身長が伸びたこと。 中には、散髪したいと思うくらい伸び放題になった、たくさんの枝。 バラたちは、いつの間にか大きくなっていた。 これまで、忙しくて気づけなかった新しい多くのことを発見できて、本当にいい学びになりました。 だからね、不安にかられても、お庭に行くたびに今年は特に励まされる。 妹たちがね、「こらーーー!! なに下ばかり見とるんだ!」って、上品さをかなぐり捨てて私を叱るのです。 私がバラを愛でる時、一番好きな時間帯が16時。自分好みの色彩と夕日がかなり幻想的になるのです。 花弁から透ける太陽のぬくもり。朝方にはさまざまな香りが交差していく。 水やりでは、なるべく葉っぱや花びらを濡らさないように。 でも、水滴が時々、バラ色に染まっていく。お庭中が宝石箱のように美しく輝きだすのです。 バラの楽しみ方はさまざま。見る時間帯でも表情が異なります。 アナタの好みの時間帯をぜひ探してみてはいかがでしょうか? そうそう、昨日は夜中に母と懐中電灯を持ってお庭へ行きました。 素晴らしいバラの香りが、ひんやりとした空気の中で泳いでいるようだった。 夜の楽しみ方も発見。 朝が少女で、昼がお母さんで、夜は女性的。 バラの一生を見ることができます。 しかし、美しい妹たちには虫がつき始めました。泣きたい。いいえ、もう泣いています。黒点病とアブラムシ。さらには、アイツが今年もやってきたのです。 バラをいじめるチュウレンジハバチ。 でも、負けません。妹たちは私が守ります。 そう、来年も美しく咲いて欲しいから。 私からも咲いてくれた妹たちへ 『今年もありがとう』と伝えたい。 ●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。
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ストーリー
バラの息吹〜サヘル・ローズさんの動画付きプライベートガーデン案内〜
一年で一番の楽しみが、この季節です。 心を込めて育てたバラさんたちが、 『お母さん、おはよう』と声をかけてきてくれます。 えっ、バラは喋らない? いいえ、しっかりこちらが声をかけてあげれば、バラたちも言葉を返してくれます。 もちろん、それは人の言葉ではありません。けれども、力強い芽吹きは私を励ましてくれていますし、硬かったつぼみがフワッとほどける瞬間、甘美な香りでバラが語りかける言葉を、私は確かに聞くことができます。 だから今、このStay Homeの難局にあっても、ちっとも寂しくはないのです。どうか平穏な日々が戻りますようにと祈る私を、バラたちは美しい花を開いて励ましてくれます。 その一方で、正直、うちの子たちはワガママなのです。 甘えん坊なのです。だからこそ、私はバラに夢中になってしまいます。 バラは育てるのが難しいとよくいわれますが、ある意味正解であり、不正解でもあります。バラにはたくさんの品種があり、色や咲き方、枝の伸び具合など見た目に豊かな個性があると同時に、病気や害虫、寒さ、暑さの苦手具合にも差があります。だから、ほとんど手をかけなくても、わんさか花を咲かせてくれる丈夫で元気いっぱいの品種もありますし、病虫害対策をして、手をかけないと枯れてしまう品種もあります。 バラ栽培が難しいといわれるのは、そうした品種の個性次第ですが、私はそれを「難しい」とは思っていないのです。だって、人間みたいだと思いませんか。病気になったり怪我をしたり(虫に食べられたり)、暑くて夏バテしたり。私はそのたびに大慌てで、大きな噴霧器を背負って消毒や殺虫作業に追われ、一苦労。「お母さんが助けてあげるからね!」という気持ちで必死です。 肥料を施していても、弱い品種は病気になります。おかげで、私はよく図書館に行ってはバラの本を借りています。 何の虫なのかしら? どこから来るの? どうして病気にかかるのかしら? 何をしてあげたらいい? 知りたいことが次々に出てきて、知れば知るほどバラの世界、植物の世界、自然界、この世界が神秘に満ちていることに気づき、面白くて仕方がありません。 ここ数年、図書館で借りた本の履歴を振り返ってみると、バラか植物の本ばかり。 時々、目当ての本が見つけられず、そんな時は知り合いに写真を送って、アドバイスをもらったりもしています。 我が家のバラは、2月ぐらいから2週間に1度、殺虫剤を噴霧しているのですが、ちょうど今の時期、5月から虫さんたちがつぼみや葉っぱの裏側にひそみ始めます。 ここからが戦いです。 我が子たちを守る戦いです。 バラのつぼみや新芽を食べるバラゾウムシ、ハバチの幼虫たち、コガネムシ、テッポウムシ、黒点病、ウドン粉病。バラ栽培も長くなると、これらとの戦い方も、だんだんと上手になってくるものです。 夏には照りつける太陽からも、台風からも守ってやらなければなりません。去年は台風によってアーチが2つ折れてしまい、仕方なく模様替えをしました。 また、クレマチスが大きくなり、ツルが伸びていくので、それをバラとうまく絡ませて誘引するようにしているのですが、この瞬間が一番痛いのです。 バラのトゲ攻撃。なるべく革の手袋をするようにはしているのですが、ヒモを結んだりする細かな作業があり、ついつい手袋をとってしまいます。 おかげで撮影現場では『猫を飼ってるの?』と聞かれるほど傷だらけ。 トゲにも個性があって、それほどトゲがない子もいるし、荒々しいトゲだらけの剛毛(笑)タイプもいます。トゲに刺された時も、私は「ちょっと!痛いじゃない!」とバラに文句を言いながら作業をしています。 刺されて痛いものの、バラとそうやってお話ししながら作業をするのは、とっても楽しいです。 愛しい我が子がつぼみから花開いた瞬間、 美しく、香り豊かで、目はウルウル。 お世話の甲斐あって美しい花を咲かせてくれたとき、私はバラと心が通ったのだと感じ、しみじみ嬉しくなります。 思わず、『今年も生まれてきてくれてありがとう』と言います。 バラ栽培や園芸は、私たちが植物を育てているのではなく、 いつのまにか私たちの心が育っていくのです。 花や植物に育てられている。 私はそう感じています。 毎日、水やりをしたり 季節の花の花がら摘みをしたり、 雑草抜きをしたりと、庭の手入れを母と一緒にしています。 庭仕事は、私にとっても母にとっても生き甲斐です。 みなさまとも園芸を通して交流ができれば幸いです。 バラの見頃まで、あと少しです。 ワクワク。 待っていてくださいね。 バラが咲き始めた春の優しい日差しが降り注ぐ、私の小さなバラの庭をご案内します。 ●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。
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ストーリー
花を愛するアナタへ〜サヘル・ローズより
みなさま、いかがお過ごしでしょうか? 世界中を席巻している新型コロナウイルス。 多くの方々がお亡くなりになってしまい そして感染している方も多数いらっしゃいます。 未だに目に見えないウイルスに 明日をどう迎えるのか? 不安に感じていませんか? 感じていないと言ったら、私自身は嘘になるかな。 映画の世界でしか見たことがなかった。 他人事のように感じていたウイルス。 今は自分たちもその『当事者』になった。 人任せにできないのが真実。 無関心でいられないのが現実。 日本で緊急事態宣言が発表されてから、 もうすぐ1カ月が経とうとしています。 ふと、風に乗って香る甘い蜜。 この季節は本来は花たちの舞踏会だったね。 本当は色とりどりのドレスを着た花たちが 踊り出す美しいキセツ。 しかし、花畑や花のイベントへ 今年は行くことができない。 私もお庭を毎年、 地域の方々のために綺麗にしています。 でも今年は、交流することができるかどうか分かりません。 それでも花たちは目覚め始めます。 一生懸命、このキセツのために準備をして ようやく目を覚ました花たちには 『美しく生まれてきてくれてありがとう』と伝えたい。 小さな花を、今だからこそ、育ててみませんか? 土に触れたり、生命の芽吹く姿を見ているだけで 人間には生きる糧にもなります。 私はそう、信じています。 小さな、アナタの心を育ててみてね。 花はアナタの心。 だからこそ、 こういう時だからこそ、 真心を込めて 自分と触れ合うように 花を愛でてね。 アナタの大切な心を抱きしめながら。 ●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。
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ストーリー
女優サヘル・ローズさんの都会のバラ園で生まれる国際交流
失敗を繰り返しながらのバラ園づくり このバラの庭は、もともとは石ころだらけで酸性が強く、植物を栽培するには向かない土地でした。そういうことも最初はよく分からなかったので、どうしてうまく育たないんだろうという疑問から、いろいろ調べたり人に聞いたりして、庭づくりはまずは土作りからなんだ! ということを学びました。石ころを取り除いて、中和剤を入れて土壌改良した結果、バラは育つようにはなったのですが、同じように世話をしているのに、どうも調子の悪い子がいるんですね。例えば‘ヨハネ・パウロ2世’という品種があるのですが、日当たりのよい場所に植えて肥料もやっているのに、なんだか株が元気がないんです。なんでかなって、毎日観察していたら、白くキレイな花が咲いた時、花弁に火傷のような痕ができてしまっているのを発見。それで、「あっ! 日差しが強すぎるんだ!」って気づいたんです。バラはどれも陽射しが大好きと思っていたけれど、品種によって個性があるんですね。このバラは少し柔らかい日差しを好むようで、移植したら調子がよくなりました。 こんなふうに、庭づくりはいつもトライ&エラー。植物は喋れない分、しっかり見てあげることがとても大切だなって思いますね。よく観察すると、サインをちゃんと出しているんですよね。そして、やり方を変えるとちゃんと応えてくれる。それが私にとっては植物と会話をしているようで、とても楽しいんです。 幸せの連鎖を生む小さなバラ園 この庭は今年で3年目を迎えますが、じつは地域でちょっと有名になり始めているんです。母がスーパーに行って買い物をしていたら、「あそこのバラの庭って、お宅の庭なんでしょう?」って声をかけられたそうなんです。「あそこに外国の方が手入れしているキレイなバラの庭があるから行ってごらんって聞いて、見に行ったのよ。とてもキレイね。楽しみにしているわ」って。そうやって皆さんが口コミで広げてくださって、見にきてくださる方が増えているんです。 母は日本に来てもう長いのですが、私ほど日本語が堪能ではないので、これまではあまり同じマンションの方ともお話ししなかったんです。喋る相手が私ばかりで、とても寂しかったと思います。それがこのバラの庭をきっかけに、母にたくさんお友だちができて、それが私はとても嬉しいの。母が庭の手入れに行くと、時々同じマンションのご高齢の方とか、お一人住まいの方が、庭のベンチに座ってランチしているんですって。そういう方から「あなたのバラの庭からとても元気をもらえるわ。ありがとう」と感謝されたって、嬉しそうに私に話してくれました。自分のためだけじゃなくて、この庭が地域の皆さんの喜びになっているということが、母にとっても大きな喜びで、私にとってもすごく嬉しいことです。そういう喜びや幸せの連鎖を、世代や国を越えて生み出せるところが、庭ってすごいなって思います。 忙しい時ほど、花と目線を合わせて 私も同じように地域の公園や花壇をいつも楽しみにしているんです。恵比寿駅の花壇、とてもキレイなのをご存じですか。季節のお花で「EBISU」の文字が象ってあるんですよ。私も花を育てているから分かるんですけど、きっと見る人が喜んでくれるんだろうなって思いながら、いろいろ工夫してつくっていると思うんですよ。先日、お手入れしている方がいらしたので、「エビスって書いてあるんですね、すごく素敵」って声をかけたら、「嬉しい! やっと気づいてくれた!」って、笑顔で返してくださって、声をかけてよかったと思いました。都会は今、皆さんとても忙しくなってしまっていますが、忙しい時ほど花と目線を合わせてみてほしいなって思います。自分の足元を見てみると、自分を見上げて咲いている花があって、花が励ましてくれているように感じたり、その花を育てている人の温かい気持ちにも癒やされたりするものです。上を向けないような辛い時も、時にはあるでしょ。そんな時は、花と目線を合わせてみると、全然違う世界が見えるはずですよ。 国際化の中で必要とされる緑のオアシス だから、若い方や子どもたちにも、植物との暮らしを楽しんでほしいなって思うんです。子どもたちが庭に遊びに来た時は、時々咲いているお花を切って持たせてあげるんです。都会だと、あまりそういう経験をする機会は少ないでしょうから、花にまつわる素敵な思い出を持ってくれたらいいなと思って。普通だったら今、都会で他人同士がそうやって関わることはあまりないと思うんです。他人との接触に際して「コワイ」という感覚を持ってしまう世の中で、特に小さな子どもに対してや、外国人との関わり方などではそれが顕著です。けれども、日本はこれからどんどん外国の方と接する機会が増えていくはずです。 私と母のバラの庭は、場所柄さまざまな国の方がよく通るんです。そういう方々が「キレイね」って言って立ち寄ってくださって、いろいろな肌色の人と子どもたちとが、この小さなバラ園で言葉は通じなくても交流してくれて、一緒に写真を撮っている姿なんかを見ると、本当にこの庭をつくってよかったなって思います。そういうのを見たり、母の例を見ていると、庭って人と人との橋渡しをする力を持っているんだなって思います。これから日本も加速度的に国際化を迫られる中で、お互いに文化の違いを理解しなくちゃいけないし、言葉の問題など、いろいろな不安や課題もありますが、庭や公園って、意外にもその一つの解決になるんじゃないかって思っています。言葉は通じなくても、「きれいだね」とか「リラックスするね」という感覚を共有できる場所の存在は、とても大事だと思います。 花を育てる喜びをプレゼント 私、季節になるとヒヤシンスの球根を毎年、人にプレゼントするんです。花を育てる楽しさを共有してもらいたくて。あえて植物を育てたことのない人ばかりにプレゼントしています。植物を育てたことがないので、球根だけあげてもきっと土に植えるまでのハードルが高いので、鉢植えにした状態で渡して、「お水だけこういう間隔であげてね」って言って。ヒヤシンスって必ず咲いてくれるし、まだお花があまり咲かない早春に、窓辺などでいち早く咲いてくれるでしょう。そして花が咲くと本当に香水のようにいい香りがするじゃないですか。みんなとっても喜んでくれるんです。育っていく過程や花を育てる喜びを知ってほしくて、あえてそんな花のプレゼントをしています。そんなふうに私なりのやり方で、植物好きをひっそり着々と増やしているんです(笑)。 ●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。 写真/albert_sun3 取材・まとめ/3 and garden
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ストーリー
サヘル・ローズさんが実践するベランダガーデンの楽しみ
サヘル・ローズさんが実践する ベランダガーデンの野菜栽培 我が家では毎年、夏に向けてベランダでキュウリとプチトマト、トマト、ピーマン、唐辛子、ハーブ類(バジル、パセリ、パクチー…などいろいろ!)スイスチャードなど、たくさんの野菜を育てています。家族は私と母の2人なので、ベランダの菜園で十分、夏中のサラダをまかなうくらいの収穫はあるんですよ。摘みたてのものをいただくのでフレッシュだし、自分たちで育てていると、完熟したものを味わえたり、ちょっと変わった野菜が食卓を彩るのも楽しいものです。 育てる楽しさと苦労を知り プロの農家のスゴさも実感! だけど、やっぱりプロの農家さんはすごいなぁとも思います。一生懸命に育てても、売っているものに味が追いつかないものがあって、なんでこんなに味が濃くなるんだろうって。きっと美味しくするための土作りとか、いろんな工夫や改良を重ねていらっしゃるんだろうなぁって思います。ナスも大好きなので育てていたのですが、以前、虫がたくさんついて苦労したので、もっぱらスーパーで買っています。ジャガイモも花がすごく可愛いので育てたいのですが、やはり虫がつくので害虫対策を考えてから、もう一度チャレンジしてみたいなと思っています。どなたか、よい方法があったらぜひ教えてくださいね。こうやって自分の手で育ててみると、一つの野菜ができるまでにどのくらいの時間と労力がかかるのか身をもって知ることができるので、スーパーで並んでいる野菜を買うときも楽しくなります。 『サヘル・ローズさんが語るガーデニングの原点、土の癒しパワー』 ベランダガーデンを楽しむ サヘルさんちのバルコニーの条件 我が家のバルコニーは横長で奥行きの浅い、いわゆる普通のマンションのバルコニーです。そこに鉢を並べて野菜や花を育てています。母は見た目が可愛いほうが好きなので、レリーフのついた鉢やハンギングバスケットを多用しています。水は洗濯機の水道の蛇口の一つをベランダ専用にして、そこにホースをつないで部屋からバルコニーへ引っ張っているので、普通のお庭の水やりと変わりません。ジョウロに水を入れて何度も運ぶには鉢の数が多いので、このほうが楽です。ラッキーなことに、日当たりはとてもよいのです。バルコニーは東向きで、午前中の明るい陽射しが当たり、西日が避けられるのは、植物にとってはよい環境です。 サヘルさんが実践するベランダの 限られたスペースを有効活用する工夫 ① 階段状の台を使う マンションのバルコニーという限られたスペースを上手に生かすには、いくつかのコツがあります。地面の面積はどうしても限られるので、縦に空間を使いこなすことが大事。我が家では階段状の台を置いて、そこにいくつもの鉢を並べています。こうした台を利用すると、より多くの鉢を置くことができるというメリットのほかにも、鉢の高さが上がった分、風通しもよくなり、日照も得やすくなります。 私たちは動くことができるので数十cmの環境の差をあまり感じませんが、動けない植物にとっては、わずかな風通しの違いがとても重要。生育に大きな違いが出たり、ときには同じように世話をしていたつもりでも、ちょっとした場所の違いで枯れてしまう鉢もあります。夏場は場合によってはバルコニー床の温度が50℃近くになることもあるので、コンクリートに直置きにするより、台を使って鉢の下にも風が通り抜ける空間を作ってあげたほうが、植物も快適に過ごせます。鉢を置くときは植物のサイズを考えて、下の段に大きいものを、上の段に小さいものを置くと、陽射しを妨げず健やかに育ってくれます。 ② ハンギング鉢を使う また、吊り下げて使うハンギング鉢も空間を有効活用できるベランダガーデンの必須アイテムです。ハンギングバスケットは初心者にとてもオススメ。観葉植物をセレクトすれば、部屋もおしゃれに演出できます。枝垂れる植物を3つくらい選んで高さに差をつけながら吊り下げると、急におしゃれ感が出るんですよ。家具を吟味してセンスのよい空間をつくるより、ずっと簡単に、しかもリーズナブルにお部屋を素敵に演出できるので、新生活を始めてお部屋づくりをしている方にはぜひ取り入れてほしいです。地面に置いてある鉢だと、意識していないと水やりなどのお世話を忘れがちですが、ハンギングで常に目に入る位置にあると、変化にも気付きやすいし、植物がすごく身近な存在になります。植物を育てるって、慣れていない人にとっては、しゃがんで何かするというのが、いかにも「園芸」って感じでハードルが高くなりがちのような気がするんです。だから最初は植物のほうの高さを上げて、「育てる」っていうんじゃなくて「見る」という感覚で気楽に取り入れればいいと思います。 ハンギングに合う植物 ハンギングに選ぶ植物は、枝垂れる葉をもつもので、初心者の方は葉の肉厚なものがオススメです。多肉植物のような肉厚の葉をもつ植物は、自分の体内に水分を貯蓄しておくシステムがあるので、水やりは少なくて済みます。光と風は必要なので、戸外か室内なら陽の当たる場所に置いて、風通しに気をつけてさえやれば、すくすく育ってくれますよ。 グリーンネックレス ポトス シュガーバイン リプサリス ディスキディア ③ つる植物を育てる それから、アーチやフェンスなど構造物を使って仕立てられるつる植物も、ベランダガーデンにはとても有効。我が家は母の名前でもあるジャスミンとブドウ、ブラックベリーを育てています。ブドウはワインに使われるシャルドネなど、3種類。アーチやベランダのフェンスにつるを絡ませて、グリーンカーテンのように仕立てています。果実もちゃんと実って、鳥も食べにくるんですよ。私たちが生で食べるには、やっぱり売っているものにはかなわないのですが、それでも美味しくいただくよい方法を発見したんです。それが干しブドウ! 樹上で水分が飛ぶくらいまで果実が熟成してから収穫し、ザルの上でさらに干すと、すごく味の濃い干しブドウになるんです。ブドウは葉の形も果実もとても美しい果樹で、ベランダでも育てられるのでオススメです。 カレンダーをめくるように 花を飾って暮らす 植物との暮らしを外から始めるのが大変そうだったら、家に花を飾るっていうところから始めてもいいと思うんです。季節の花を知るというだけで、とても豊か。カレンダーをめくるように、季節ごとに花を変えるのを習慣にしてみてはいかがですか。日本には生け花という素晴らしい文化があるのですから、ぜひ若い方にも花のある暮らしを楽しんでほしいなと思いますね。我が家では、母がベランダで咲いている花を集めてきて飾るのですが、鉢で育てている花だけだって、可愛いブーケにできるものですよ。 『サヘル・ローズさんが語るガーデニングライフとバラに託す大きな夢』 植物との暮らしは 発見と学びがいっぱい! そうそう! 先日、お仕事でバラのブーケをもらったんですけど、とても美しいバラで。それを花瓶に入れて飾っていたら、ある日、根っこが生え始めたんですよ! すごいですよね、この生命力。とても感動しました。だから、それを土に植えたらどうなるかなって、今ベランダの鉢植えで実験しているところなんです。‘サムライ’という切りバラの品種で、真紅のすごく素敵なバラなんです。苗が流通していないので、このまま育ってくれたら嬉しいなぁって、ベランダでチャレンジ中です。 植物と暮らしていると、こんなふうに大人になってもいろんな発見や学びがあって、常にワクワクしていられる! 最近、私はバラを勉強中なのですが、同じバラでも品種ごとに生育の個性があるっていうことが分かってきて、すごく面白い! 失敗もあるけれど、そこから学ぶこともたくさんあり、人との出合いもあって幸せです。 写真(上記以外)/albert_sun3 取材・まとめ/3 and garden
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ストーリー
サヘル・ローズさんが語るガーデニングライフとバラに託す大きな夢
植物とのおしゃべりから始まる私の一日 私の一日はバルコニーの植物たちに、「おはよう」って声をかけるところから始まります。フジやジャスミン、クレマチスなどのつる植物を窓辺に這わせているのですが、つる植物はイランでも好まれ、カーテンの代わりに窓を覆っているのをよく見ます。そのつる植物ですが、我が家の子たちは朝一番に、とっても美しい風景で私を起こしてくれます。葉っぱたちは朝日に照らされて、切り絵のような葉影模様を室内に描いてくれるんです。風が吹いてその模様がそよそよと動くと、まるで草花が話しかけてきてくれているように感じます。そんな植物たちのささやきに耳を傾けながら迎える朝は、とても気持ちのいい一日の始まりです。 それからバルコニーでは、木苺、ブラックベリー、イチゴなどのベリー類も育てています。夏に実ったころには毎朝、水をあげながらベリーを摘んで食べます。とっても美味しいですよ! それに季節の野菜。自分で栽培した野菜はとびきり美味しいですね。レモンの木も随分大きくなりました。レモンは柑橘なので冬に実るのですが、焼いたお魚に自家製レモンを添えていただくのも、我が家の定番メニューです。考えてみると、結構、食べられるものがいっぱいですね(笑)。 あとは私の好きな緑の子たち。観葉植物です。最近ハマったのが、ビルベルギア ‘ダース・ベイダー’。黒い葉に斑が入ってすごくカッコいい! それに‘断崖の女王’。すっごくふわふわして気持ちがいい! 一目惚れして3つも買いました。どちらも名前が面白いじゃないですか。‘断崖の女王’って、すごい名前ですけど、本当に素敵な可愛い花を咲かせるんですよ。仕事から帰ってくると、私はまずそのバルコニーへ行き、植物の手入れをします。疲れたから今日は植物の手入れをしない、という日はないですね。私がどんなにお腹が空いていようが、庭のあの子たちに先にゴハンを食べさせないと、と思います。葉っぱに触れたり水をあげたりしていると、疲れがスーッと抜けていきます。植物を育てたことがない人は、可愛いなと思った植物をまずはそばに置いてみるといいと思います。そうすると、相手は生き物ですから、きっと興味が湧いて育て方などを調べてみたりするようになるものです。そして失敗しても、自分には向いてないなどと思わないでください。どんなに優れた園芸家だって、失敗したことがないなんて人は一人もいないのです。 庭を家族の一員にしてみませんか? 植物や庭は、愛情をかけて育てていれば家族の一員になってくれます。忙しくて自分で水やりできないときは、「お母さん、ちょっと水あげておいて」とお願いすればいいのです。こんなことも家族の会話のきっかけになるのですから。それに一緒に庭仕事をしていると、普段口に出せなかったことが話せたりします。土や草花をいじりながら、「そういえばね、こないだこんなことがあってね」というふうに。不思議と面と向かっているときよりも、ガーデニングの最中のほうが話しやすかったりするものです。庭があると草むしりが面倒という声を聞くこともありますが、私は結構好き。雑草を抜いていると、最初はいろんなことが頭に浮かんだりするのですが、そのうちそれが消えていって、「無」の状態というか、一種の瞑想状態になります。気がついたら3時間くらい経っていたりして、頭の中が本当にスッキリしているんです。ただ、立ち上がった瞬間、「イタタタ…」ってなりますけどね(笑)。だから、庭があるとちょっとした悩みを家族で話せたり、まあいっか、って自分で思えたり、ガーデニングをしているうちに自然に解決していたってことがしばしばあります。 もちろん、一人暮らしの人にもガーデニングはオススメです。家と会社の行き来だけでは心がだんだん疲れてきてしまいますが、自分で育てた花をたった一輪室内に飾るだけで、なんだかとても充実した気持ちになりますよ。都会生活の人こそ、花を家に飾ってほしいなと思います。実は私の家は花瓶だらけ。イランでは花を飾らない家は見たことがありませんでした。結婚すると必ず花瓶を買ったり贈ったりするほど、家の中に花を飾るのはイランでは当たり前のことなのです。日本に来てからも、母は家に花を絶やしたことがありません。花が買えない貧しい頃も、母は道端で摘んだ草花をジャムの空き瓶に飾っていました。立派な花瓶でなくても、それで十分可愛かったし、花が家を彩っていると、辛い状況にあってもホッとしました。花を飾る母に、「きれいだね」って言うだけで、張り詰めた空気が緩んだものです。 母にプレゼントした庭は都会の小さなバラ園に バラはすべて、1階の地面の庭におろしました。この庭は、私が母にプレゼントしたものです。当初は数えるほどだったバラが、いつの間にか増えて、今では100種類以上。もう、数えられません(笑)。もう植えるスペースはないよって私は言うのですが、母はバラの本をめくりながら、「次はこれがいい」といつも目を輝かせて話し、天気のよい日には、ほとんど一日中この庭にいます。私は庭で母の笑顔をたくさん見られるようになったのが、嬉しくて仕方がありません。 母はイランの裕福な家庭に生まれ、良家の子女として大学へ通い、ボランティアとして活動している最中に孤児になった私と出会いました。そのままずっとイランにいれば、明日の食べ物に困るような暮らしをすることはなかったはずです。だけど、彼女は安定し約束された未来ではなく、私を施設から引き取り、母として生きる道を選んでくれました。以来、母はまさしく身を削って私を大学まで出してくれました。そんな母がずっと望んでいたこと。それが、花を育てることでした。 だから私はそんな母に恩返しがしたくて、仕事を始めて自分で収入を得られるようになったときに、庭をプレゼントしました。母はこの庭でガーデニングを始めてから、とても生き生きし始めました。20代そこそこで母になり、異国の地で苦労を重ねながら働き、子育てをしてきた母は、本当の年齢より年老いてしまっていましたが、庭を始めてから本当に若返りました。バラの手入れをしていると話しかけられることも多く、母にとってはこの庭がいろいろな人との交流の場にもなっているようです。 母は私のように日本語が堪能ではないので、コミュニケーションの範囲がどうしても限られてしまい、私が仕事で家を空けることがあると、とても寂しい思いをさせてきました。でも、今ではバラが咲く頃になると、バラの花を通してたくさんの人とお話をする機会があります。実はこの庭のバラを家に飾りたいという方がいらして、花を切って差し上げたことがあったのです。そしたらそういう方が一人、二人とだんだん増えて、今では何十人というリストができているくらい! 我が家の庭のバラの花待ちリスト(笑)。自分たちが手をかけて大切に育てた花を、そんな風に心待ちにして楽しんでくれる人がたくさんいるということが、母も私もとても幸せです。 母はとにかくバラが好き。部屋の中もバラ模様にあふれています。絨毯もバラ、カーテンもバラ、時計もバラ、本棚もバラの本だらけ。放っておくと家がバラだらけになってしまうので、私の部屋だけはなんとか守っています(笑)。 この間も母が1カ月ほどイランへ帰国していて日本へ電話をかけてきたときも、まず聞くのはバラの様子です。娘じゃなくて、バラが心配なのねって内心思いましたけど(笑)。でも、そんな風に夢中になっている母を見るのが、私は嬉しいのです。 母と私の大きな夢 「サヘル・ローズ」というバラを子どもたちに そんな母の夢が「サヘル・ローズ」という名前のバラをつくることです。「砂浜に咲くバラ」という名前のバラをつくるのが、生きる目標だと話しています。私はそれを聞いて、もしも本当にそういうバラができるなら、日本にあるすべての児童養護施設に、「サヘル・ローズ」を植えようという新たな目標ができました。私はチャリティー活動をするなかで、いろんな施設を訪れていますが、残念なことに花が植えられているところはほとんどありません。私は自分と同じ境遇の子どもたちに、花を見せてあげたいし、育ててほしいと思うのです。かつて私が土に触れて癒されてきたように、辛いことを乗り越えていけるように。そして、植物を育てることで、目には見えないものや、しゃべらない生き物に対しても、心を寄せられるように。園芸は植物を育てながら、人の心も育ててくれるから。 日本には600以上の施設がありますが、その全ての施設に「サヘル・ローズ」を寄贈するのが30代になってできた私の夢です。イメージは白バラです。子どもたちが何色にでもなれるように。最初はみんな真っ白、無色。そこから自分の色を見つけられるように。当の母は「赤がいい!」なんて言ってますけどね(笑)。 「サヘル・ローズ」というバラをつくること。そして、そのバラを子どもたちに贈ること。それが今の母と私の、大きな大きな目標です。 Photo/3) ch_ch/ 4) Deborah Lee Rossiter/ 5) Nonchanon/ 7)kay roxby/ 11)Vicky Jirayu/ 12)Nadya Lukic/Shutterstock.com Photo/1、8〜10)albert_sun3 取材・まとめ・写真(上記以外)/3 and garden
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ストーリー
サヘル・ローズさんが語るガーデニングの原点、土の癒やしパワー
私と母、それぞれの庭への思い 私は今、都内のマンションで母と暮らしながら、ベランダともう一つ、地上スペースにも小さなバラ園を持ち、花を育てています。花が大好きな母に、どうしても庭をプレゼントしたかったので、仕事を始めて余裕ができるようになった頃に、ガーデニングができるこの場所を手に入れました。庭を持つというのは、大事な家族がもう一人増えたという感覚です。今までも私と母の絆は強かったけれど、庭で植物を共に育てることで、喜びや感動を共有し、弱ったり枯れたりすれば共に心配し、以前にも増して私たち親子の会話は弾んでいます。 私は母のためにと思った庭ですが、母は私のためにこの庭を残したいと言っています。「私はいつかあなたより先にこの世を旅立ってしまうけれど、この庭に来れば私がいると思って。私の可愛い娘が寂しくならないように、そういう場所を残してあげたいの」と。 きっとみなさんの庭にも、いろいろな思いが詰まっていると思います。私にとって、庭は、母の愛が込められた、とっても特別な大事な場所です。 中学時代につくったオリジナル部活「赤土部」 その庭でガーデニングを楽しんでいる私ですが、実は花や緑よりも前に、「土」が大好き! 中学の頃には、「赤土部」という部活で活動していたほどです。きっとみなさん、赤土部ってなに? と思われるでしょう。それもそうですね。だって私がつくった部活ですから。中学に入るとみんな部活に入りますよね。私も最初は運動部へ入る予定だったのですが、当時の中学校では先輩と後輩の厳しい上下関係があり、私はそれがとても苦手でした。行きたくないなぁと思ったのですが、何かの部活に入らなくちゃいけないというのが中学校のルールだったので、「赤土部」という部活を自分でつくることにしました。 土って美味しいんです どんな活動をするのかというと、ひたすら土をふるいにかけて、また大地に戻すというのが活動内容です。さらに「???」ですよね。なぜそんなことをしていたのかというと、土が大好きだったから。私は小さい頃、お腹が空くと土を食べていたのです。そう言うと驚く人が少なくないのですが、私は本当に、土の風味が大好きなんです。土は触れるとぬくぬくしていて、息をしている。特に山あいの土はいい土で、触ると本当に「ふぅっ、ふぅっ」と息をしているように感じられます。その息遣いや少し湿った温もりが、小さい頃から大好きでした。私の通った中学校は丘の上にあって、周りが雑木林でした。それで毎週金曜の活動日になると、林の土をふるいにかけて、また林に戻す、ということをひたすら3年間。部員は誰も入ってきませんでしたね(笑)。2年生のときも、3年生のときも、後輩がくるかなぁ、と密かに楽しみに思っていましたが、結局ずっと一人で活動し、私が卒業すると「赤土部」はなくなってしまいました。 イジメから救ってくれた雑木林の土の温もり でも私、この部活が本当に好きでした。学校生活のなかで一番ホッとする時間だったのです。当時、私の出身である中東に関して、日本の報道は悪いイメージの情報に偏っていたため、学校の中では生徒にも教師にも偏見があり、私は中学校でイジメにあっていました。だから、私はとにかく一人になりたかったのです。顧問もいない、仲間もいない赤土部で、一人土に触れていると、ホッとしました。いつか私もこの土に還っていくんだなと思うと、とても安らかな気持ちになりました。ヒドイことを言われたりされたりして、先生も誰一人助けてくれない学校生活のなかで、唯一私を受け入れてくれるように感じたのが、雑木林の土だったのだと思います。 園芸高校でのたくさんの学び そして中学を卒業すると、園芸高校へ進みました。土にずっと触れていられるし、課題でつくった新鮮な野菜を持って帰れることも魅力でした。当時、我が家はとても困窮していて、二日間の食事に缶詰一つを母と分け合うというような生活をしていたので、食べ物を母に届けられることがとっても嬉しかった。最初は必死で自分のゴハンをつくるという感覚で、タネを播いていましたね(笑)。でも、自分でつくってみると、育っていく過程のワクワク感とか、実りの感動、味わった時の美味しさへの驚きとか、いろいろなことを体験しました。 もちろん、すべてがうまくいくわけではなくて、例えばナスとジャガイモって、一緒に育てると害虫被害が酷いんです。一度失敗してみて、そうか、離して植えないといけないんだ、とか、このハーブを植えることで虫除けできるんだ、とか、失敗しながら別の方法を見つけてもう一度やり直してみるということも、大事な学びでした。世の中には「失敗=悪」みたいな考えがありますが、園芸高校ではむしろその逆でした。生き物が育つ過程はいつだって正解は一つじゃなくて、いろんなやり方があっていいということ。ルートはいろいろあって自分で選ぶことができるし、たとえ失敗して回り道したとしても、大丈夫なんだという学びは、その後の私の人間形成に大きく影響していると思います。 そうやっていろいろなことを学んだなかで、私が最も心に残っているのは、花づくりも野菜づくりも、まず一番大事なのは土だと教わったことです。土さえ大事にして、ちゃんと愛情を持って植物や生き物に接していたら、必ず応えてくれると教わって、私の大好きだった土はやっぱりすごいんだ! と思って、本当に嬉しかったのです。 誰も恨むことなく、陽だまりのほうへ 土はあらゆる生き物の生と死のサイクルによって生まれ、それが積み重なって大地となっているということ。片手ですくったほんの少しの土の中にも、何億という微生物たちが棲んで、命を育んでいるということ。死んだものも新しい命の糧となり、何一つ無駄なものはなく、私もまたその一部なのだということ。そういうことを高校で学んでいくなかで、私が土に触って安心した理由にも気づきました。そして、土が大好きだった自分も誇りに思えて、やっと自分を好きになることができました。イジメにあい失われていた自尊心を、高校で園芸を学ぶことによって回復することができたのです。ですから土は、私を癒し、誇りを持たせてくれた、まさしく母なる大地です。イジメは悲しい経験ではあったけれど、誰かを恨むことなく、憎むことなく、明るいほうへ、陽だまりのほうへ向かって進むことができたのは、私の母の存在はもちろん、土の温もりのおかげだったと思っています。 イランの土と日本の土の違い ところで私の故郷のイランの土は、サラサラとして乾いた赤土です。気候が乾燥していることもあって、黒くてフワフワして少し湿り気のある日本の土と比べると、厳しくたくましい感じがします。だから建物の材料としてはとても優秀で、イランでは水と藁を土に混ぜた日干しレンガの家がとても多いのです。そういう土で育っている植物も、とても丈夫。過酷な状況で育ってきているので、イランの花屋さんに出ているバラは、ものすごく保ちがいいですね。私の名前のサヘル・ローズも、イランのそうした風土を反映しています。サヘルというのは砂漠とか砂浜という意味で、バラが咲かないであろう厳しい環境であっても、一輪の美しい花を咲かせられる強い人になってほしいという母の思いが込められています。私はイランの土も日本の土も、どちらの土も好きですけれど、触ってホッとするという感覚があるのは、フワッとした日本の土のほうかもしれません。 植物とのコミュニケーションから学ぶこと ガーデニングには、植物をキレイに上手に育てるということの前に、土に触れること自体に大きな価値があるのではないかと思っています。私は土に触って「汚れちゃった」という感覚が分からないんです。私にとって土は、温かくて優しく、尊いものだから。今でも疲れたときには土のなかに手を入れて、しばらくじっとしています。そうすると、土の感触にすごくホッとします。いろいろなセラピーの方法がありますが、私はこれが一番癒されるんです。だからガーデニングしているときも、基本的に手袋をはめません。女優という仕事をしているのだから、本当は手袋をしていたほうがいいのでしょうけれど(笑)、私は直に土に触れたいので。それでそのままバラの手入れもしてしまうので、トゲが刺さることもしょっちゅう。もちろん、痛いですよ。でも、トゲが刺さったときも「ちょっと! 痛いじゃない」なんてバラに文句を言ったりしながらガーデニングしています(笑)。 そうやって植物といろいろおしゃべりするのも楽しいんです。植物が病気になって具合が悪くなってしまったときは、涙が出ます。夏にしばらく仕事でバラの手入れができなくて、虫と病気が蔓延してしまったことがあって、「こんなになるまで気がつかなくて、本当にごめんね」って謝りながら手入れしました。でもそうやって手入れをしたら、みるみるうちに息を吹き返して、夏の終わりにキレイな花をポツポツ咲かせてくれたんです。庭のあの子たちは、私にそういう方法で話しかけてくれるんですね。コミュニケーションって、言葉だけじゃないなって思います。言葉は便利だけれど、一言で誰かを簡単に傷つけることもできる。ガーデニングをしていると、本当に気持ちを伝えるには、口から出る言葉よりもプロセスが大事なんだって、植物が教えてくれます。 庭から広がる地域のコミュニケーション 花は何も喋らないけれど、人が自分にどう接しているのか、分かっているように感じます。面白いのが、育ち方を見ていると私の愛情はちょうどよさそうなのだけれど、母の場合は、お世話をしすぎて弱くなっちゃうんですよね(笑)。水をやりすぎたり、過保護に育てすぎちゃうみたいで。だから、これまでちょっとした天候不順で、すぐに弱ってしまうこともありました。本当にその植物が生きていくことを考えたら、ちょっとスパルタくらいなのが一番いいんだと思います。最近は母も、植物本来の力を信じながらお世話をしています。 そうやって母と私とでバラの庭づくりをしているうちに、だんだんと私たちの庭のことが地域の人に知れ渡ってきて、「バラって育てるの難しくない?」と声をかけられるようになりました。私たちの庭づくりを見て、やりたくなったという人が増えたり、近所の保育園児たちがきて「花がとってもキレイ」って感想を言ってくれたりするんです。小さい子にも、最初からそういう感性がちゃんと備わってるんだなって思って、すごく嬉しかったです。そういうふうに人に喜びや感動を与えたり、何かを感じるきっかけをつくれたりするのは、女優という仕事とも共通点があると思います。 さて、次回はイランの家庭の庭で育つ植物と、東京の私の庭で育つ植物についてお話ししようと思います。どうぞお楽しみに。 取材・まとめ・写真(記事中明記以外)/3and garden
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ストーリー
サヘル・ローズさんが語る青い花と、バラの香りに溢れるイラン
私の大好きな名の知れぬ青い花 私が小さいときから好きだった花は、春に咲く小さな青い花です。イランにいたときも、日本に来てからもよく見かけるその花は、残念なことにずっと名前が分からないままです。ワスレナグサでもなく、キュウリグサでもなく、ムスカリでもなく…。その小さな青い花は、たぶん「雑草」といわれている花なのだと思います。私は「雑草」という呼び方があまり好きではないのですが、その小さな青い花を見つけるたびに嬉しくなって、学校からの帰り道にも、その花が咲いている場所へよく寄り道をしました。もし、どなたか思い当たる方がいらしたら、ぜひ、教えていただきたいと思いますが、わたしがどうしてこの青い花に魅かれるのか、どこかで懐かしさ感じるのが『青』という色。少しだけ私の生い立ちをお話しさせてくださいね。 私が生まれた時代、イランは戦争中で、私は4歳の頃に孤児院に入りました。そこで7歳まで生活をするなかで、孤児院の中庭の芝生に寝転がるのが幼い私の息抜きで、大地の香りをかぐと安堵したものです。孤児院で生活をしていたのが『青組』という部屋。すべて、真っ青の部屋。花の絵が描かれている壁。青い小さなこの花を見るたびに反応してしまうのは、きっと幼いころの記憶。というわけで、この青い花は、私の一部で、私の記憶の中に焼きついている大事な記憶の花なんです。7歳のとき、さまざまな奇跡が重なり、私を引き取り、実の子どものように育ててくれているのがフローラ・ジャスミン。私の母は、その名の通り、花が大好きな人なんです。 イランはバラの香水の産地 母が大好きな花が、バラ。もちろん、ローズという名を授けてもらった私にとっても、大切な花です。みなさんはイランがバラの香水の産地だということを、ご存じですか? カーシャーンは「バラの都」と呼ばれ、5月の花の頃には世界中からバラの香りを求めて、観光客のほか、香水のバイヤーたちも集まります。この香りのバラは、イランではゴレモハンマディと呼ばれるダマスクローズです。5月上旬から6月中旬、夜明けから朝にかけて、最も芳香成分を含んだ状態でバラが摘み取られ、ローズオイルとローズウォーターを抽出するために、すぐに蒸留にかけられます。この季節、町はバラの香りに包まれます。 お菓子に紅茶に、ローズウォーター イランでは、このローズウォーターを宗教的な儀式や暮らしのなかで、日常的に用いる習慣があります。例えば、食卓には常にローズウォーターが置いてあり、食事のときやデザートをいただくとき、また紅茶を飲むときなどにもローズウォーターを入れます。イランの伝統的なお菓子に「ギャズ」というピスタチオを使ったお菓子がありますが、これはローズウォーターを入れて作りますし、ライスプディングの「ショレザルド」をいただくときにもローズウォーターは欠かせません。食卓だけでなく、しょっちゅうこのローズウォーターを使うので、イランの家の室内はとてもよい香りです。 バラと詩の都、シーラーズ また、イランでは文様としてもバラがあちこちに描かれています。なかでもシーラーズというイランの古都は、やはりバラの都と呼ばれており(イランにはバラの都がとても多いのです!)、ナスィール・モル・モスクは色鮮やかなステンドグラスとともに、床のバラのタイルが壮麗さを極めます。シーラーズは詩人の町としても知られ、イラン最大の詩人と呼ばれる13世紀のサアディーは『薔薇園』という詩と散文でつづったイラン文学史上最も美しい古典を世に残しました。その金言の数々は、バラの香気を放つと称されます。バラは古くからイランの人々を魅了し、神聖な花でありながら、最も身近で親愛を寄せる特別な存在なのです。 私の母も、なにしろバラが大好き。部屋のなかはバラ柄にあふれていますし、もちろん、バラも育てています。最初は数株だったのが、今では100種以上! 毎年「国際バラとガーデニングショウ」にも欠かさず通っているほどです。 次回は、そんな母と私のガーデニングライフについてお話ししたいと思います。 ●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。 Photo/2) S.Amber、 Timchenko Natalia、piksel_foto/ 4) Max Bukovski/ 5) Fattan Dehghani/ 6) Emily Marie Wilson/ 7) Velveteye/ 8) MarlonBundo/ 9) Marcin Szymczak/ 10) Anna Fevraleva/ 11)Artography/ 12)Anna Fevraleva/Shutterstock.com 1&13) albert_sun3/ 3)3 and garden 取材・まとめ/3 and garden
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人物
女優サヘル・ローズさんが語る故郷・『花の都』イラン
「花に溢れた美しいイランをご紹介します」 みなさん、初めまして。私の名前はサヘル・ローズといいます。この名前は、私の生まれ故郷、イランの母国語のペルシャ語で、「砂浜に咲くバラ」という意味です。私は1985年、イラン・イラク戦争の真っただ中に生まれました。4歳で孤児院に入り、7歳で養母のフローラに引き取られ、8歳のときに日本にやってきて以来、日本で暮らし、今は女優として活動しています。私がイランで過ごした時間は決して平穏なものではありませんでしたが、それでも私は故郷を愛していますし、誇りに思っています。世界に発信されるイランは不穏で混乱した面ばかりですが、一方でイランには日本と同じように四季があり、人々は花を愛し、暮らしの中に美しい花文化が根付いている豊かな国です。 イランはたくさんの春の球根花の故郷 イランの春はたくさんの球根花で彩られるところから始まります。案外知られていませんが、イランはたくさんの球根花の故郷です。みなさんがガーデンに咲かせているクロッカスやムスカリ、ヒヤシンス、フリチラリア、ラナンキュラスなどが自然の中に自生し、なかでもチューリップは最も人々に親しまれている花です。イランの国旗の中央に描かれたシンボルは、剣のほかにチューリップだといわれていますし、織物やタイルなどの文様、文学、神話など、さまざまなシーンでチューリップが登場します。小さな球根の花々が足元で春を知らせると同時に、木々は柔らかな若緑色で覆われ、日本の桜に似たアーモンドの花が咲き出します。ピンクの花で染まったアーモンドの花の谷は、まさに桃源郷のような美しさです。その花が散ると、バラ、アジサイ、ユリというように次々に花があふれ、イランは彩りと香りを増して『花の都』の様相を呈します。 花を贈り合うイランの人々 町中にも花屋さんがとてもたくさんあります。日本に来て花屋が少ないなぁと驚いたほどイランには花屋が多く、人々の暮らしに花は欠かせません。というのも、どんな家でも季節の花を部屋に飾って欠かすことはありませんし、誕生日や記念日はもちろん、何か特別なことがなくても、花をしょっちゅう贈り合う習慣があるからです。友だちや家族の家に遊びに行くとき、空港へ誰かを迎えに行くとき、「あっ、この花、なんだかあの人っぽいな」と何気なく思ったときにも、イランの人は花を贈ります。花のように明るく、花のように笑っていてほしいという願いを込めて、花を贈り合います。 また、イランには『先生の日』というのがあり、生徒一人ひとりが日頃の感謝を込めて先生のために花を贈ります。ですから、その日先生はお花を両手いっぱい抱えて帰ることになるのですが、その姿はとっても微笑ましいものです。そんなわけで、町では常日頃からブーケを持った人とすれ違うことがよくあるのですが、お花を持った人はみんな、どこか幸福そうな顔をしていて、そんな町の風景が私は大好きです。そうそう、そのブーケを作ってくれるお花屋さんは大抵、男性なのですが、一見するととてもイカツイおじさんが、ゴツゴツした手でそれはそれは可愛らしいブーケをサササッと作ってくれるんですよ(笑)。みんなとっても上手ですし、イランの花はとても保ちがいいのも自慢です。 褒め言葉もいろいろな花にたとえるイランの習慣 花を飾ったり、贈ったり、暮らしの中で目に見える形で花を取り入れるだけでなく、花はイランの風土や文化に深く浸透しています。その一つが私の名前、サヘル・ローズ。イランでは花の名が人名にしばしば用いられ、私の母の名前もフローラ・ジャスミンといいます。甘く優しく香り立ちそうな名前ですが、本当に母はそんな人なのです。いつか最愛の母のお話もみなさんにお伝えしたいと思いますが、とにかくイランでは花の名や自然の名称を人の名前につけることが多く、スズランやスイセン、チューリップ、スミレ、タンポポ、ノバラ、ユリ、ザクロ、イトスギ、若葉、つぼみ、春の花などがあります。それは花や植物の美しさ、可愛らしさ、たくましさに対する憧れや敬意の念の表れに他なりません。 名前もそうですし、誰かを褒めるときにも、花を用いた表現が多いのもイラン特有の文化かもしれません。日本にも女性の美しさをバラやシャクヤク、ユリなどにたとえる諺がありますが、イランでは女性に限らず誰かを褒める時にしばしば花が登場します。面白いのは、それが必ずしも絢爛豪華な花ばかりでなく、ビオラやアジサイといった花にもたとえられるところです。例えばアジサイは、小さな花が集まって可愛らしく咲く様子を人への褒め言葉として使います。ペルシャ語ではぴったりくる表現ができるのですが、日本語にするととても難しいものですね。でも、お花が好きな人ならなんとなく分かっていただけるのではないでしょうか。庭のなかですごく主張するわけではないけれど、そこはかとなく気品が漂っていたり、健気に咲く様子に心惹かれてしまう花ってありませんか。そういう花のいろいろな表情や魅力を誰もが知っているからこそ、この褒め言葉がイランでは成立するのです。なかでもバラは最上級の褒め言葉に用いられます。それはバラがイランの国花であり、バラにまつわるいろいろな文化があるからなのですが、それはまた別の機会にお話しすることにしましょう。 さて、私は今、日本で女優として活動しながら母と暮らしていますが、2人ともやっぱり花が大好き。家の中にはいつも花が飾ってあり、母の部屋は花模様にあふれ、母が私に買ってくる服もすべて花柄(笑)。もちろん、室内でも戸外でも花を育てており、仕事から帰ってきて、どんなに疲れていても、まずは植物の水やりをしなければソファに寝転ぶことができません。そんな私のガーデニングライフも、イランの花文化とともに、これからみなさんにお伝えしていきたいと思っています。サヘル・ローズのガーデンストーリー、ぜひ楽しく読んでいただけたら嬉しいです。 そして、遠いイランの地にも美しい花が咲き、その花を皆さんと同じように愛し、癒され、平和を望んでやまない普通の人たちがいることを感じていただけたら、嬉しく思います。 ●サヘル・ローズさんが語るガーデニングへの思いについてはこちらのシリーズもご覧ください。 Photo/ 2) Farid Sani/ 3) Artography/ 4) Andrei Zveaghintev/ 5) eFesenko/ 6) astudio/ 7) Tejinder7Singh, Lusine, Marina, diy13/Shutterstock.com 1)albert_sun3/8)3and garden/ 取材・まとめ/3 & garden