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北海道ガーデン街道を訪ねて<2023夏>十勝&富良野編
花も団子も楽しむ、初夏の北海道ガーデン街道 みなさま、ごきげんよう!どちらかといえば、花も団子も楽しみたいタイプの私です。いつもはレシピをお届けしていますが、今回は番外編で「北海道ガーデン紀行」をお届けします。というのも、少し早めの夏休み気分で、7月初旬に北海道に行ってきたから。目指すは「北海道ガーデン街道」です! 北海道ガーデン街道とは、人気ガーデンがある地域を結んだ観光ルート。上川町 〜 旭川市 〜 美瑛町 〜 富良野市 〜 十勝地方を結ぶ、約250kmの街道として2009年に命名された「北海道ガーデン街道」は、街道沿いに8つのガーデンがあり、さまざまな観光地をスムーズに巡ることができます。 食いしん坊な私。北海道名物スープカレーやザンギを楽しみながら、ガーデン巡りをしました。 ガーデンでは豊かな自然に咲く野の花々を満喫し、ドライブの車中からはダイナミックな小麦畑やジャガイモ畑などの丘陵風景を楽しみ、休憩がてら美味しいものを食べる。そんな最高の時間を楽しめるのが「北海道ガーデン街道」を巡る旅です。 今回の目的地は十勝エリアにある5つのガーデン。そのなかでも個人的にイチオシな3つのガーデンをご紹介します。夏の避暑旅行にもおすすめ。それでは出発進行〜! 穏やかな空気を纏う「六花の森」 はい! あっという間に北海道に到着です。まず1日目は帯広空港から車で15分ほどの、「六花の森」へ。受付で十勝エリアの5つのガーデンがお得に巡れる「とかち花めぐり共通券」を購入して、いざ出庭! 「六花の森」はマルセイバターサンドで有名な「六花亭」によるガーデンで、「六花亭と言えば」の包装紙に描かれた北海道の山野草を見ることができます。敷地内には美術館、ミュージアムショップ&レストラン、工場が併設されています。 六花亭の包装紙でひときわ目を引く赤い花。それがこのハマナス。 私が訪れた7月初旬は、ハマナスが満開。あたりに立ちこめる、フルーティーで艶っぽく甘〜い香りで夢見心地に。力強い北海道の大地を踏みしめる私の足、呼吸のリズムで身体に入るハマナスの香り、全てが一体となり「もしかして、アタシ! ハマナスになっちゃったのかも」という不思議な感覚を味わいました。 私の住む神奈川県では見かけない植物たちにご挨拶。自然豊かな北海道の大地で育つ植物は、とってもパワフル! 広い園内には7つのギャラリーが点在し、山小屋のような素敵な建物の中で、六花亭の花の包装紙を手掛けた坂本直行氏の作品などを見ることができます。 左はアイスサンド、右が出来たてホヤホヤのバターサンド。 さてさて、散策後は併設された素敵なカフェでひとやすみ♡ こちらは敷地内に工場があるので、なんと出来たてのマルセイバターサンドが頂けちゃう。いつものしっとりとしたクッキーに、ラムレーズンクリームの「一体感」があるバターサンドも大好きですが、ここで食べる出来たてバターサンドは全くの別物! クッキーがサクッとしていて、柔らかいクリームを包み込む感じは新食感! こちらでしか頂くことができないので、ぜひガーデン散策後のお楽しみに。アイスサンドも絶品でした。 「道の駅 なかさつない」にて。大きいマリーゴールド「アフリカンマリーゴールド」ですが、ついついアメリカンと書いてしまったのかしら。おおらかな訂正がいい感じ。 帯広空港に到着して、その足でこちらに伺いましたが、大正解! 早起きして忙しなく、バタバタと飛行機でやってきた北海道。「六花の森」は、そんな心拍数高めの状態から、リラクシングモードへと気持ちを切り替えるのにピッタリな場所でした。木陰も多く、小川の流れの音も心地よい、穏やかな空気を纏ったガーデンです。 ちなみに、「六花の森」からすぐの「道の駅 なかさつない」もおすすめ。美味しそうな採れたて野菜や卵、苗などが売っていました。旅のお供に道の駅、どこへ行くにも私のお決まりコースです。 家族みんなで楽しめる「十勝ヒルズ」 六花の森を後にした私は、そこから車で15分ほどのところにあるお花好きのおばあちゃんがつくった「紫竹ガーデン」に立ち寄ってから、一路「十勝ヒルズ」へ。「花と食と農」をテーマにしたガーデンとのことで、期待が高まります。ダンサブルでイケイケなミュージックがお出迎えしてくれる入り口にはショップ&カフェもあり、賑やか! 小躍りしたくなるような楽しい雰囲気。 こちらはその名のとおり、丘にあるガーデン。抜け感のある景色が爽快! 高低差を生かしたリズミカルな造りで、園内のさまざまな場所にイスやベンチが置かれていました。おかげさまで、何度も休憩しながら眺めを楽しみました。芝生にゴローンも最高です。 こちらのガーデンで特に印象的だったのが、ガーデナーの方が、ニコニコと楽しそうにお仕事をされていたこと。当たり前なことかもしれませんが、働く側が楽しんでいる職場っていいですよね。植物たちもとても綺麗にお手入れされて、イキイキと嬉しそうでした。 後から調べてみたら、十勝ヒルズのガーデナーの方々が発信しているインスタグラムがありました。毎日ガーデンや植物の様子をアップされていて、とても楽しい! 勝手にご紹介しちゃいます。 tokachihillsgardeners ガーデン入り口に併設されたカフェ。 園内には、入り口のカフェとは別にガーデンレストランもありました。私はあいにくお腹いっぱいだったので利用はしませんでしたが、ハンガリー人シェフが腕を振るう、十勝食材とハンガリー料理のマッチングが楽しめるそう。次回は堪能してみたい! Processed with VSCO with f2 preset 結局、散策後は小腹が空いてしまい、入り口のカフェで一休み。フルーティーなアイスティーとおにぎりを。他にも美味しそうなメニューがありましたが、おにぎりを売っているってのがいいですねえ。好感度高め。 こちらの「十勝ヒルズ」、独断と偏見の私視点で総合的にパーフェクト! 家族全員が楽しめる巨大な公園みたい。庭園やガーデンというと少し大人向けで、子どもやヤングは退屈してしまうこともありますが、こちらでは心配ご無用! ぜひ親子3世代で訪れてほしいガーデンです。 油絵のような木々が見られる「真鍋庭園」 2日目は「真鍋庭園」へ。なんとこちら、1966年から一般開放しているのだとか。しかも樹木の「輸入・生産・販売」会社が運営しており、60年以上かけて世界中から収集し続けている数千品種の植物コレクションが、どのように育つのかを確認できるショールームのような植物園とのこと。花のガーデンとは、また違った迫力です。 入り口ではケン君がお出迎え。隣には同じく木彫りのトミー君もいました。 この「真鍋庭園」は25,000坪の敷地内に、なんと「日本庭園」「西洋風庭園」「風景式庭園」の3つがつくられており、まるで異なる国を旅するように風景が変わっていきます。いろいろ楽しめて、欲張りな私にぴったり。 突如現れる日本庭園。奥に見えるのは、明治44年に当時の皇太子による北海道行啓のため帯広市中心部に建築された御在所。その後こちらに移築し、昭和43年に完成。 日本庭園のすぐ横には、赤い屋根がチャーミングな可愛い建物。オーストリアのチロルハウスをモチーフにしたもので、「真鍋庭園」の4代目オーナーが昭和52年に自身の住居として建てたそうです。一見チグハグな日本庭園と西洋風建築、全てが溶け込み和洋折衷。違和感はありません。 内部は非公開だそうですが、とにかくかわいい! こんなお家に住みたい。 日本初のコニファーガーデンとしても知られている「真鍋庭園」。コニファーとは針葉樹の総称で、マツ科・スギ科・ヒノキ科など、いくつもの科をまたいだ常緑性の針葉樹の総称です。日本でコニファーというと、オーソドックスな生け垣がポピュラー。最近では、ブルーアイスなどのコニファーを植えているお宅も多く見かけます。やはりコニファーは葉の色が美しい! 針葉樹のいい香りが漂い、自然と呼吸が深くなるのを感じます。ふと、木陰から視線を感じると思ったら、エゾリスが私を見つめていました。 同じグリーンでも、トーンがさまざま。まるで油絵のよう。もぅ、とにかくすごい!「わーっ!」とか「すごい!」とか、子どものような感想しか出てこない、なんて乏しい私の語彙力よ。とほほ。でもこれこそ、純粋無垢で素直な感動なのかもしれません。 私のお気に入りは、西洋ヤナギの木。すんごい大きいのよ。大きい私と比べても、この大きさ。これだけ大きい柳の下では「うらめしや〜」と幽霊が出ても目立たなそう。 散策のあとは併設されているカフェへ。イギリスのガーデンも大体カフェとショップが併設されていますが、こちらの「真鍋庭園」にも気持ちのよいカフェがありました。 ガーデンショップではさまざまな種類の苗が売っていて魅力的! ゆっくり散策しながら50分ほどのお散歩コースでした。しみじみと、あぁ本当に楽しかった。花よりも木がメインですが、とにかくスケールが別次元。 この後は、「真鍋庭園」の近所にあるスープカレー屋さんで舌鼓を打ち、「十勝千年の森」を満喫して2日目は終了。これで十勝エリアにある5つのガーデンをコンプリート。さて、残りあと1日です。やっぱりラベンダーが見たいなぁ。 少し足を伸ばして、ラベンダー香る富良野へ ファーム富田のラベンダー畑。 ってなわけで、3日目は少し足を伸ばして富良野へ。初夏の北海道といえば、ラベンダー。十勝エリアから富良野までは車で2時間ほど。日帰りでも十分に楽しめるドライブコースです。ラベンダーといえば「富田ファーム」。昨年は8月上旬に訪れ、満開の「ラバンジン」を楽しみました。今回は昨年よりも少し早い7月初旬、昨年は見頃が終わり刈り取り&蒸留されていたイングリッシュラベンダーが、今年は満開! 7月初旬。イングリッシュラベンダーよりも開花が少し遅いラバンジンは五分咲き。 お花も好きですが、特にハーブが大好きな私。一面のラベンダー畑を目の前に、テンションあげあげの心臓ドキドキ。動悸がするほどのラベンダーの香りに包まれて、ラベンダーハイ! あぁ幸せ。本来ラベンダーには「鎮静作用」があるのですが、このときばかりは「高揚作用」です。 フレッシュなラベンダーの束がこの時期だけ販売されています。 こちらでも、「ぎゃー、いい香り!」とか「すごいムラサキ!!」とか、口から出てくるのは 子どものような感想でした。だって、本当にいい香りで、一面ムラサキなんだもん。 大きな釜でラベンダーを蒸留する様子も見ることができます。 ラベンダーの蒸留の様子は、昨年こちらを訪れた際に書いた『ラベンダー香るハーブレモネード』の記事に詳しくレポートしていますので、こちらもぜひ。 締めは、ラベンダーを見ながらラベンダーティーを飲んで、ひと休み。 以上で私のサマーバケーション2023「北海道ガーデン巡りの旅」は無事におしまい、おしまい。北海道の恵みを盛大に楽しみ、大満足です。 英語の諺には、こんな一節があります。「Stop and smell the roses」直訳すると、「立ち止まってバラの匂いをかぐ」ですが、 私の意訳は「この世は急ぐ旅でもあるめぇし。たまには立ち止まり、花の香りで一服。リラックスすれば、今までとは違う景色が見えるはず♡ 」。みなさま、素敵な夏を過ごしてね! イベント情報 8月30日から東京「日本橋三越本店」にて「英国展」が開催されます。会場では、以前ガーデンストーリー記事でもご紹介した「ローズボウル式のアレンジメント」を実演します。ぜひお越し下さい! 「ティーカップを使ったローズボウル式アレンジメント デモンストレーション」 日時:9月8日 (金) 午後2時〜2時30分 場所:日本橋三越本館7階催事場 ※予約不要 気軽に季節を楽しむことができるローズボウル式アレンジメントで、お庭の草花を可愛く飾るとっておきのアイデアをご紹介します。
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北の大地・北海道の桜【松本路子の桜旅便り】
北の桜、‘オオヤマザクラ’ 遠くに霞む山脈に向かい、まっすぐに伸びる道。その両端の桜並木の見事なこと。北の大地、北海道ならではの雄大な景観だ。この桜に出会いたいと、数年前、北海道日高郡新ひだか町の静内二十間道路(しずないにじゅっけんどうろ)を訪れた。 静内二十間道路の桜並木は、主に‘オオヤマザクラ’で成り立っている。5月初旬に咲く‘オオヤマザクラ’が終わるころ、一週間ほど遅れて‘カスミザクラ’ ‘ミヤマザクラ’が開花する。いずれも日本に分布する野生の桜10種に含まれ、主に寒冷地や山岳部に生育する種類だ。街路樹など、低地で見られるのは北海道ならではで、まさに北の桜といえる。 ‘オオヤマザクラ’は‘ヤマザクラ’より花弁が大きく、花径が3~4cmあるので、この名前がつけられた。雪や寒さに強いので、‘染井吉野’が育ちにくい北の地域では、桜といえば‘オオヤマザクラ’を意味する。北海道に多く見られることから、「蝦夷桜(えぞざくら)」とも呼ばれる。まれに白色の花が見られるが、ほとんどが紅色なので、「紅山桜(べにやまざくら)」とも称され、満開の季節には山が薄紅色に染まるという。 樹高は20~25mほどで、花の終わり頃に紅褐色の葉が伸び始める。幹や枝の樹皮は紫褐色で光沢があることから、東北地方では昔から樺細工として、工芸品に用いられてきた。 静内二十間道路の桜並木 7kmにわたる直線道路の両側には、約2,200本の桜が連なっている。道路はかつてあった宮内省所管の新冠御料牧場を視察する皇族のために、明治36年(1903年)につくられた。当初は中央道路と称されたが、幅が二十間 (約36m)あることから、いつしか二十間道路と呼ばれるようになった。 桜が植栽されたのは大正5年(1916年)で、当時の御料牧場の職員が近隣の山々から木を移植し、3年の歳月をかけて完成させた。現在ほとんどが樹齢50年から100年の古木で、威風堂々とした姿を見せている。 明治初期、日高地方では野生馬が群れをなしていた。そうした野生馬を集めて放牧したのが産馬改良のための牧場の始まりで、町内には現在も牧場が点在し、優駿・競走馬を多く輩出している。桜並木を馬に乗った人が通り過ぎるのも、この地方ならではの光景だ。 花のトンネル 二十間道路のほぼ中間地点に、牧場に続く脇道がある。そこでは‘オオヤマザクラ’の大木が枝を伸ばし、花の回廊を形作っている。私が訪れたのは、花の盛りをやや過ぎた頃だったが、薄紅色の花と若葉の紅褐色が重なり、夕日に照らされた様子は、何とも言えず幻想的だった。 北海道の桜 ‘カスミザクラ’は、本州、四国、九州の低山地に広く分布する野生の桜だが、北海道では公園や街路に植栽されている。2~3cmのやや小さめの花を枝一面に咲かせ、遠目には霞がかかったように見えるので、この名前がつけられた。葉や花柄にうぶ毛が見られるので、「毛山桜」とも呼ばれる。 ‘ミヤマザクラ’は、おもに山岳地帯の高所に分布する野生の桜だが、北海道では5月から6月にかけて低地でも開花する。2cmほどの小さな花が房状に見られ、葉が完全に開き切ってから花がつく特異性がある。 ‘タカネザクラ’は、標高1,500~2,800mの高山に分布し、「峰桜」の別名がある。2~3mの低木で、枝が地表近くを水平に伸びることもある。標高の高いところでは夏に開花し、登山者は季節外れの花見を楽しむことができる。私にとっては出会うことができない、まさに「高嶺の花」だったが、静内の桜舞馬公園で開花している姿に、奇跡的に遭遇することができた。 ‘千島桜’は、根室市が開花予想の標本木に採用している桜で、‘タカネザクラ’の変種とされる。明治時代に国後島から苗が運ばれ、当初は「国後桜」と呼ばれていたが、根室市の清隆寺に移植されたことをきっかけに‘千島桜’と名前が変えられた。今では広く植栽されるようになり、5月下旬に開花することから、日本で最も遅く低地で見られる桜とされている。 札幌で出会った桜 静内を訪れた帰路、札幌に立ち寄った。市の中心部に位置する大通公園に‘カスミザクラ’と‘ミヤマザクラ’が開花していると聞きつけたからだ。‘ミヤマザクラ’はまだつぼみだったが、満開の‘カスミザクラ’に出会うことができた。 大通公園から徒歩で、北海道大学植物園に向かった。ここは明治10年(1877年)に、当時札幌農学校の教頭だったウィリアム・クラーク博士の進言でつくられた農園を前身とする歴史ある植物園。13.3ヘクタールの園内には、北海道の自生植物を中心に、約4,000種類の植物が育成されている。ビルが立ち並ぶ都市の中にあって、巨木や札幌の原始の姿に出会える貴重な場所だ。また、北方民族が育てる植物を、その文化とともに紹介するユニークな試みも行っている。 サクラ林では‘オオヤマザクラ’の古木が開花し、‘タカネザクラ’が高山での姿に近く、地表を這った姿で咲いている様を見ることができた。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 二十間道路桜並木(新ひだか町HP) 住所:北海道日高郡新ひだか町静内本町5-1-21 電話:0146-43-1000 HP: https://www.shinhidaka-hokkaido.jp/ 北海道大学植物園 住所:北海道札幌市中央区北3条西8丁目 電話:011-221-0066 HP: https://www.hokudai.ac.jp/fsc/bd
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北海道
北海道のガーデンを堪能する「秋のダリア旅」後編
私の北海道の旅のベースともいえる旭川 この年の一人旅では、駅ビルの中にあるお気に入りのホテル「JRイン旭川」に連泊して、そこを拠点に、あちこちのガーデンに足を運びました。 早朝、ホテルを出て駅のコンコースを南口に抜けると、もうそこは、「北彩都ガーデン」。 ボーダー花壇やテラスが広がっているのですが、私はそこから足を伸ばしてさらに東に向かい、鏡池プロムナードを散歩。「神人の森」と呼ばれるボーダーガーデンやメドウガーデン、ハーブガーデンなどが広がる場所へと移動しました。 上写真の、一番奥に見える白い建物が旭川駅です。「神人の森」にダイナミックに群植された宿根草の美しさが際立っています。 10月上旬の旭川の気温は1桁になることもあり、朝の透き通った空気が、さらに花の色に透明感をプラスしているような気がします。 駅から直結のこのガーデンには締め切られたゲートも無いので、早朝からの見学には最適。私のように一日に何カ所ものガーデンを見たいと思う時間節約派には、とてもありがたいガーデンです。 夏のガーデンツアーでも、早朝にこのガーデンを散歩して、帰り道にあるスタバで朝ごはんをしましたが、このルートは定番になりつつあります。 旭川市内から車で1時間ほどの「大雪 森のガーデン」へ 次に大雪山系でもっとも美しいといわれる大雪高原旭ヶ丘にあり、旭川市内から車で1時間ほどの「大雪 森のガーデン」へと向かいます。 「大雪森のガーデン」は、約900種類の色とりどりの草花が楽しめる「森の花園」、起伏のある空間に従来からこの地に生き続ける樹木や山野草が植えられた「森の迎賓館」、深い森の中に広がる空間に自然をひとり占めできるアトラクションを配した「遊びの森」の3つのゾーンで構成されています。大雪は旭川市内より遅く春が訪れて秋も早いので、雪が降りまた眠りにつくまでの短い数カ月間に命を謳歌する植物のパワーが爆発するようで、美しいガーデンだと私には思えます。 夏にはカンパニュラが、こうして置かれていたので、友人へのお土産にしました。 旭川3つめの訪問先は「上野ファーム」 「大雪 森のガーデン」からは40分ほどで着くので、私はこのルートを使うことが多いのですが、もし帯広方面から旭川に移動する場合は、「大雪 森のガーデン」までは美しい白樺並木が続く上士幌や糠平湖を経由するR273を通るのがおすすめです。 秋は9月末頃だと三国峠の大樹海の美しい景色や層雲峡の紅葉も楽しみです。 「上野ファーム」は大人気のガーデンなので、春から夏に行かれる方は多いと思いますが、秋のガーデンはグラスやシードヘッドが好きな方におすすめです。 秋に咲く花の色は、鮮やかで華やか。紅葉とシードヘッドの中に際立つ秋色の花からは、春にも負けないほどのエネルギーを感じることができると思います。 翌日は旭川を離れて江別へ移動 友人のガーデンをゆっくり見せてもらい、久しぶりにゆっくりとランチを共にしました。 以前は、カフェを併設した雑貨屋さんでしたが、現在はカフェは閉めて、雑貨だけ扱っています。 さらに足を伸ばして小樽から「銀河庭園」へ この頃、緊急事態宣言がちょうど解除され、Go Toキャンペーンが実施されていた時期でした。札幌は人出が多いと思い、あえて観光客が少なそうな小樽を宿泊地に選びました。 宿泊先に選んだのは、アールデコの建築美が残る、ちょっと雰囲気のあるホテル。北海道初の外国人専用ホテルとして昭和6年に建築された小樽市指定歴史的建造物がリノベーションされています。 翌日もお天気に恵まれて、まずは「銀河庭園」へ。 この旅のテーマは「北海道のダリアを見に行く」だったことを急に思い出したかのように、銀河庭園は「ダリア ダリア ダリア」の世界でした。 ある時、紫竹ガーデンで、おばあちゃんに「ダリアはもちろん掘り上げるんですよね?」と聞いたら、「もちろんよ! じゃないと凍っちゃう」とおっしゃっていましたが、これだけの数のダリアを毎年植えては、また掘り上げてという作業量を考えると、すごいなぁという感想しか出てきません。 でも、そんなにしてまで植えたいと思うほど、秋のダリアの存在感は素晴らしいものでした。 千歳川の上流にある「MEON農苑」へ 春の芽吹きから冬の枯れ姿まで、野の草花が主役だというこのガーデン。市松模様に配された石板の間の植栽はシンプル。華やかではないけれど、カフェでお茶をしながら旅を振り返るのにぴったりで、とても好きな場所です。 旅を締めくくるのは「イコロの森」 そして、やはり旅の一番最後には、一人でゆっくり過ごしたい。「MEON農苑」から30分ほどの場所にあるガーデン「イコロの森」に向かいます。 ここでは、ガーデナーさんたちに会って世間話をするのも楽しみですし、フライトの時間までゆっくりガーデンを歩き、ときどきベンチに座ったり、美味しいコーヒーをいただいたりしながら静かに旅を振り返ります。 この年は6日間を過ごした秋の北海道でした。 友人と旅する夏の北海道も楽しいのですが、飛行機とホテルだけ予約しての行き当たりばったりの一人旅はさらに楽しいもの。 夏場はガーデン巡りの時間に追われてゆっくり話せない友人のガーデンで、静かな庭を見ながら何時間も話し込むことができるのも、秋の旅だからですね。 今年はスケジュールが取れなくて行けなかった秋の北海道ですが、来年は必ず行こうと思っています。 ●北海道のガーデンを堪能する「秋のダリア旅」前編はこちら Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.6万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 YouTube 「Kay garden」 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
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北海道
北海道のガーデンを堪能する「秋のダリア旅」前編
秋ならではの美しい風景に会いに行く 毎年恒例の北海道へのガーデンツアーは、例年ならば7月初旬、バラの開花時期に合わせて友人たちと一緒に行くことが多かったのですが、ここ数年、春の華やかさとはまた違った美しさがあると知ってからは、秋のガーデンを訪ねるのも楽しみになっています。 昨年2020年10月初旬は、ちょうど緊急事態宣言が解除された合間でしたが、コロナ禍でもあったので、行き先もスケジュールも行き当たりばったり。気の向くままの自由な一人旅にしました。でも、一つだけ決めていた目標は「ダリアの美しさを満喫する旅」でした。 新千歳から2時間ほど。まっすぐ帯広に向かい、春に行けなかったガーデンを巡ります。 まずは中川郡幕別町にある「十勝ヒルズ」へ。 花と食と農がコンセプトの、丘の上の広大な「十勝ヒルズ」。ここには、リンゴやベリー、はちみつやバニラなどの美味しい香りがするバラ35品種800株が植わるバラ園と、果樹やハーブなどの食べられる植物を育てるポタジェ、そしてピクニックを楽しみながら宿根草を愛でるエリア、ガーデンの妖精アニーカが住むといわれるピンクのガーデン、さらには、睡蓮が咲きトンボが飛び交うトンボ池などユニークなテーマの9つのエリアがあり、心身共にリラックスして、ゆったりと過ごすことができます。 花期が長い青花、サルビア‘ミスティック・スパイヤーズブルー’を列植して十勝の青い空を表現した「スカイミラー」。遠くに十勝の街を望む、カラフルな『映えスポット』です。 広い芝生を海原に見立てて、プカプカと浮かぶ小島をイメージしたという「フラワーアイランズ」。アイランド型に作られた植え込みエリアの中は、一年草や宿根草で彩られています。 「十勝ヒルズ」を後にし、次の目的地に向かう途中に、突然現れた案内板。 一人旅の気楽なところは「あ、じゃ立ち寄ってみよう」と瞬間的に決められることですね。 懐かしい名前の駅が、すぐそこにありました。 知った名を発見して、ちょっと寄り道 旧国鉄時代に「愛の国から幸福へ」のキャッチフレーズで大人気になり、今ではもう廃線となっている広尾線の駅です。この切符が大流行したのは、もうはるか昔のことですが……。 鉄道オタクの夫のためにお土産写真を撮って、次のガーデンに向かいます。 旅に欠かせない場所「十勝千年の森」でメドウを見る 1,000年という単位で時間が流れる森の視点から物事をとらえ、本質にきちんと向き合いながら、自然と人が真に共生していくための一歩を踏み出したいという思いから名付けられたという「十勝千年の森」。北国の庭園文化の創造を目指して展開する4つの「北海道ガーデン」と「HGSデザイナーズガーデン」、国内外の気鋭の作家による8つの現代アート作品が森に点在する「ARTLINE」によって、魅力的な屋外空間が構成されています。 中でも、ガーデンデザイナー、ダン・ピアソンが、十勝の大自然からインスピレーションを受けてデザインした「メドウガーデン」は、ナチュラリスティック スタイル(自然主義の庭)としては日本で初の試み。土地の自生種とその系統を汲む園芸種や、十勝と似た気候の北米の植物が使われていて、一つの植生から次の植生へと連なり合って咲いていくナチュラルな風景に出会えます。この景色を初めて見たときに、日本人が憧れていたバラを中心としたイングリッシュガーデンとは全く違う印象にびっくりし感激したものでした。 それ以来、「十勝千年の森」にあるメドウの風景は、私の北海道ガーデンツアーには欠かせないものとなりました。 ガーデンカフェにアレンジされていた、たくさんのダリアを独り占めして、ゆっくりと写真を撮らせていただきました。なんと贅沢な時間だったことでしょう。 紫竹ガーデンの景色を独り占め 秋の日は切ないほどに短く、帯広のホテルに着く前に、時間があればもう1カ所と思い、「紫竹ガーデン」に滑り込みました。 遠く日高山脈の峰々を望み、十勝平野の田園地帯に広がる15,000坪という広大なガーデンは、6時の閉園までには少し時間がありましたが、ここもまたお客様の姿がほとんどなく、独り占めの贅沢を味わいました。 寒冷地でダリアを咲かせるためには、たいへんな労力が必要。これだけの数となると、気が遠くなりそうです。 お怪我で入院と伺っていた昭葉おばあちゃんがいらして、入院中にアマビエをたくさん描いて皆さんにお配りしたという話や植物のことなど、2人で小一時間ほどおしゃべりをして、楽しい時間を過ごしました。 2021年春に突然亡くなられたと知り、あの日にゆっくりお話しできたことがまるで奇跡のように思えて、今でも素敵な思い出として心に残っています。 ●北海道のガーデンを堪能する「秋のダリア旅」後編はこちら Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.6万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 YouTube 「Kay garden」 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
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天然のパラソルを作ろう! 木陰も実りも楽しめる果樹のパラソルツリー
管理がラクな果樹のパラソル仕立て 我が家には、木陰が心地よい小さな果樹が数本育っています。高さと幅はおよそ180cm。花や実を楽しむのはもちろん、枝葉を伸ばす木がまるでパラソルのように直射を遮りつつ、木漏れ日まで楽しめる。そう、名付けて「パラソルツリー」。住宅地でも育てられる存在感十分の生きたパラソルを育ててみませんか? この仕立てにすることで、枝葉に日光がまんべんなく当たり、株が元気に育ちます。そして、樹高180cm程度に低く抑えているので梯子いらず。隅々まで手が届きます。慣れると管理が楽ちんですよ。大きく育った今ある庭木でも、夏剪定の方法次第で木陰を楽しむパラソルに仕立て直せます。ぜひトライしてみてください。 パラソル仕立てに向く木の種類 大きく育ち剪定を必要とするバラ科の果樹であればパラソル仕立てが可能です。我が家では、スモモとミニリンゴの「アルプス乙女」をパラソル仕立てにしています。 ハナカイドウやウメもパラソルに仕立てることが可能な花木です。近年は品種改良も進んだことで、我が家のような寒冷地でも、暖地でも育つ樹種がいろいろ選べるようになっていますよ。ぜひ、調べてみてください。 パラソル仕立ての樹木の植え付けの時期と準備 土作りが、その後の成長を左右します。まずは、直径50cmほどのできるだけ深い穴を掘って、掘り上げた土に完熟堆肥をタップリ混ぜておきましょう。土がフカフカになり根がよく張って、すくすく育ちます。 一般的な植え付け適期は、通信販売で多くの苗が購入できる秋から3月頃。ですが、私の暮らす北海道夕張郡は凍結のため5月が適期です。こうしてみると、日本の気候は多様ですね。 地元のホームセンターに苗が並び始める時期が、お住まいの地域の植え付け適期である場合が多いようです。参考にするといいですよ。 パラソル仕立ての方法 【手順1】 植え付けた翌年の早春に、枝を1本残して切ります。残した枝をパラソルにしたい高さに切ります(長尺苗の場合、この段階は飛ばします)。 【手順2】7月初めに伸びた枝を3本残して切ります。その後さらに伸びてくる脇芽は見つけ次第手で折るか、翌年早春に剪定します。 【手順3】 残した枝に重りを吊り下げることで、枝先を下げます。初夏に内側に伸びた枝や多すぎる枝を切り、長すぎる枝先を切り詰めます。 パラソル仕立ての3~4年目以降の育て方 待ちに待ったパラソル状に仕立てることができたら、枝数や花や実が年々増えていきます。4~5年目には木陰の下でくつろげるようになりますよ。 剪定は「要らない枝を初夏に切る」「伸ばしたい枝に重りを下げる」を繰り返します。太くなった枝を切る場合、まだ寒い早春(冬)に行いましょう。 枝を下げるための重り選びの楽しみ 私は100円ショップの持ち手つきの小さな瓶を重りとして愛用中です。中にビー玉などを入れると重くなって、太く育った枝もたわめることができて実用的。 瓶の重りの使い方は、持ち手に紐を結び木に引っかけるだけ。とっても簡単です。瓶のほか、地面に置いたレンガに紐をかけて枝を下ろす方法もあります。人間が引っ掛からないよう、目印としてフラッグなどのアクセサリーを付けると可愛いですよ。 重りを吊す楽しみ方は、きっと無限大です。 剪定で今ある樹木を小さなパラソルに 今庭に育っている大きくなった庭木も、切り戻すことでパラソルにできます。 その手順は、初夏にほどよい位置で伸びてきた新枝に瓶などの重りを付けて枝先を下げておき、早春(寒冷地)もしくは冬(暖地)に、その新枝の上の部分を切り落とします。切り戻すと枝がたくさん出てくるので、すぐにこんもり茂ってきますよ。 年数が経った大木の場合、大胆に切り戻すとダメージが大きいので、何段階かに分け、数年かけて切り戻すと安心です。 パラソルツリーの根元に花壇を作る 苗木がパラソル状になるのは早くて3年目以降と気の長い話ですが、木の下を花壇として楽しめば、すぐ素敵な空間になりますし、花にあげる水や肥料が木にも届いてよく育ちます。 上は、我が家の木の下を参考に描いた図面です。 南側にお月様の形の花壇を、北側に椅子のコーナーを配しました。木の根元には根を傷めないよう、植えっぱなしにできるハーブを植えています(実際にもう15年、共存中です)。根元から離れた場所に宿根草や一年草を植えて楽しんでみるのはどうでしょうか? パラソルツリーで果樹をいっぱい収穫! 充実した実を安定して収穫するためには、品種ごとにさらなるコツが必要ですが、成功すれば達成感はひとしお。ぜひチャレンジしてみてくださいね。
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北海道
北海道の自然を楽しむ車イスのガーデンライフ
森や野原を育てる庭づくり 私の家は、北海道の小さな集落のはずれにポツンと建っています。森にぐるっと囲まれて、葉が落ちた冬にならなければ道路から見つけることはできません。地域で暮らす人々と、ごく親しい人だけが知る静かで小さな森の家です。 自然の中で子育てをしたいと家を建て始めた時、ここは山の一角を石まじりの硬い赤土で雛壇状に整形した広大な伐採跡地でした。 家とその周囲を「小さな里山」に見立て、雑木林の育成と自然と共生する生活空間をつくることを目標にスコップを握ったのが、ガーデニングのきっかけです。 敷地周りの雛壇は自然に見える角度に盛り直しつつ、庭を“戸外の部屋”としてレイアウトしていきました。敷地の最も高い箇所は三角屋根の手作りの小屋(我が家では「ムーミンハウス」と呼んでいます)が建つ遊び空間、裏が畑、そして下の段は平らな面を広く残した広場。各コーナーは、ゆるやかに蛇行した道でつないでいます。 土手や敷地の境は、北海道に自生する野草を中心に植え込み、大切に増やしました。 一番大事にしてきたのは、庭の中とその周辺の森づくりです。 伐採跡地を自生種の雑木林にするために目をつけたのが、種をいっぱい含んだ森の土。 まだ幼かった子どもが、敷地の隣を流れる沢で遊ぶのを見守った帰り、子ども用のバケツに土を入れては土手にまき、芽吹いた苗木を間引きながら大事に育てて15年。今では若い森に育ち、小動物がご近所さんとして庭で暮らしています。 下の写真はエゾリス。長い冬毛が残る耳がウサギみたいで可愛いでしょ? 姿を見るたび、人間は大喜びです。 私はガーデニングは生きたアートだと思っています。基盤は命です。北海道という島が豊かだから、命も繋がります。 森をつくるのは大事(おおごと)です。最初は、素人が一人でできるものではないと思っていました。 けれども赤土の露出した山肌を前に何もせずにはいられず、行動に移すうちに、いつしか現実が夢に追い付き、日常となっている現在です。 どうか北海道の大地が、豊かな姿で未来に残りますように。 野原に加わったバラ栽培 野原をつくる一方で、少しずつバラも増えていきました。当初、私にとってバラはファンタジー。「花はどれも花でしょ」と無関心な夫を前に、数千円もするバラが欲しいなんて言いにくかったのに、ある日雑誌を手にした夫が「こんな風にバラが咲き乱れる庭が見たい」と言い出し、「えっ? 本気?」とポカン。 …でもね、見たい気持ちなら誰にも負けないよ(笑)。 野原にバラを植えてみたら、意外にもよく似合い、それからバラに夢中になりました。いいえ、夢中というより病みつきでしょうか。この‘ストロベリー・ヒル’も、その頃からの住人です。 草花に興味のなかった夫が、バラが咲くと喜んでくれるようになって、バラのおかげで庭の楽しみを共有できるようになりました。最初は、よく草刈りと一緒に花を刈られて、ムムッとなったっけ。 私の抱える病気のこと 写真からうすうすお気づきかも? と思いますが、今の私は、神経に影響が出る難病で身体が不自由です。 思えば、物心ついたときから歩き方も個性的で運動音痴だったのですが、そういう個性だと思っていました。まさか将来こんなことになるなんて。 今の私は、いったん力を入れると抜くのが難しい症状が強いため、歩くことはできるものの一歩進むごとに強ばってゆき、数十メートルほどで前に一歩も進めなくなります。 足だけでなく、腕や体幹にも似た症状があります。身体を曲げ続けられないので、イスで休むことすら苦痛です。排尿も難しく、常時カテーテルを留置。発音もぎこちなく、慢性呼吸不全にもなり始めています。 ほぼベッドで過ごす日々を変えてくれたのが、変化する体調に合わせてイスの角度も変えられる電動車イスでした。 ベッドを起こして横になるような角度を取れるので、庭で休むことも可能です。車イスが苦手とする砂利道などもグイグイ走るパワーがあり、タイヤが真下に付いているので、内輪差なく回れます。庭の小道をクルクル回れる、お気に入りの愛車です。 選び抜いた車イスのおかげで、私はベッドから脱出し、再び広大な土地を縦横無尽に駆け回るガーデナーに戻ることができました。 庭には人を前向きにさせる力がある よく聞かれます…「なぜ、こんな状態で、そうまでして庭に出るの?」 私には素になる場所が必要だから、と答えます。 私の病は、いくつもの症状が複雑に絡み合い、未だ明確な診断には至っていません。 頼りの病院からもかつては冷たくあしらわれ、医療の証明がなくては福祉も受けられず、身内の理解も得られず、孤独のなかで苦しみました。終いには自分自身でも自分を疑う苦しい日々…。 庭は、そんな私に安らぎと希望を与えてくれる場所でした。 無心になって大地に向かうとき、他人の評価は意味を失い、私は何者でもなくなっていきます。気がつくと抜いた雑草の量に驚いたり、強風の後に森から芝にばらまかれた枝を拾う…といった、何ら評価もされぬことに「やったぞーっ!」と達成感を味わうのですから不思議です。 庭には人を不安や悲しみから解放し、前向きにさせる力があると思います。日光を浴びたり、反復運動をしたり…科学的にもストレスに強くなると証明されていることがいっぱい含まれているガーデニング。庭が私にとってより不可欠な場所になったのは、むしろ身体が不自由になった後だったように思います。 私の難解な症状に戸惑っていた身内も、医療や福祉も、次第に一緒に考え支えてくれるようになり、かつての辛い時間は日の光と風の向こうへ流れて消えていきました。 我が家のユニバーサルデザイン …とはいえど、治療法はいまだ見つからず、車イスが不可欠であることに変わりありません。庭も車イスで走れる庭でなければ何も始まらないのですが、庭づくり当初の事情が功を奏し、我が家の庭は、結果的にユニバーサルデザインになっています。 というのは、土地と建物だけで資金を使いきってしまったため、庭づくりの手段は人力あるのみでした。当時元気だった私は、スコップで土を掘っては盛り上げるという土木作業に勤しむ日々。そんな私を見て、まだ小さかった息子とその友だちは盛大な泥んこ遊びと思って大喜び! 彼らとワイワイ一緒に遊びながら庭づくりをした結果、庭の間の小道は、おのずと子どもたちが一輪車を押して行き来できるだけの広さと斜度になりました。 その小道は、結果として杖歩行で足を引きずっていても、電動車イスで走っていても、不自由なく行き来できるようになっています。 「ユニバーサルデザイン」とは難しいものでも特別なものでもなく、世代や身体状況を超えて楽しむためのものだと実感中です。 庭の見回り、庭仕事は無意識なリハビリ 庭にいる私は、いつも自由です。 歩き方は「はさみ足」という麻痺特有の歩行にそっくりだそうです。速度ものんびり、のんびり。 けれども、庭には立ち止まって見たいものがたくさんあります。花が開いた…こっちにもツボミがある…あ、チョウチョが…。私のゆっくり歩くテンポが「ちょうどよい」に変わる瞬間です。 ですが、いくら車イスがあっても、家で横になっている時間のほうが長くなります。少しでも花に親しんでいたくて、大事にドライにしたり、インテリアに取り入れることもしばしばです。 上は、庭の花で作ったハーバリウム。アルケミラ・モリス、カンパニュラ、シロウツボグサ、バラ‘ルイーズ・オディエ’。わが庭の初夏の瓶詰めです。 毎日、こうして庭で過ごすことがリハビリとなっているように思います。動くと筋緊張が増して辛くなるとはいえ、動かなければ筋力はどんどん落ちてしまいます。 庭にいるときの私は、やりたいことがいっぱいあって、思わず知らずに動いてしまいます。もしかすると、それが一番よいのかもしれません。 家族と過ごす時間 「今年は花畑をいっぱいつくるぞ」 折しも夫が、となりで宣言しています。 「なんの花?」と聞く息子に「分かんないけど、ブワッと咲く綺麗な花」と夫。バラを植えようと言ったのも夫だったし、華やかなものが好きなのかも。 …ねえねえ、ダリアなんてどうかなぁ? 「毎年、あれやりたい、これやりたい…って言いながら、ほとんどやらずに終わるんだよね」。そう笑う息子は、アウトドア調理に夢中です。欲しい道具もあるみたい。 ガーデンライフが今年もまた始まりそうです。
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北海道
上野ファームの庭便り「新しいシーズンに向けて振り返る2020年人気のシーン」
北海道の大地に咲く草花の美 上野ファームでは、毎年いろいろな植栽デザインや新しい植物に挑戦しています。 コロナ禍で、ガーデンを見ていただくことがとても難しかった2020年でしたが、ガーデンの花たちは、変わらずに成長を続け、いつも以上の美しさと感動を与えてくれました。ガーデンで人気のあったシーンやSNSなどで支持の多かった美しい瞬間を、注目植物とともにご紹介します。 <春> カナダケシ、球根花 まだ新緑も広がらない早春の季節から咲き始める純白の八重咲きカナダケシ(サンギナリア)は、年々花数が増えて、早春の庭では特に目立つ存在になってきました。 まるでコートにくるまっているかのような咲き始めの姿も、お客様から大人気でした。 白樺の林の中で咲くチューリップも色数を増やして、2020年の春はとてもポップな場所となりました。残念ながらコロナ禍での休業要請の時期と重なり、見てくださる方はほとんどいませんでしたが、この風景のおかげで、私自身の気持ちはとても明るくなりました。 2021年は昨年とは少し色の比率を変え、新しい品種も秋にたくさん植えたので、春が待ち遠しいです。 チューリップが終わると寂しくなるミラーボーダーに、遅咲きのチューリップと同じころに咲き出すアリウム‘パープルセンセーション’を入れると、とてもいい雰囲気になりました。SNSでも大人気のシーンです。 開花期を細かく分析して重ねていく手法を取るデザインは、植物の成長と季節を待たなくてはならず、すぐには結果が出ないのですが、その分、素敵な風景が出現した時の嬉しさは格別です。アリウム‘パープルセンセーション’は、発色がよくて早咲きなので、インパクトのある風景を作れます。 2020年6月上旬の景色です。毎年、ノームの庭に少しずつ増やしていたアリウムですが、この年ようやく思い通りのボリュームを出すことに成功! 手前の黄金葉の植物は、西洋ニワトコ。 <初夏> エレムルス、シレネ、西洋オダマキ アリウムの開花が終わると、迫力をだすのが、エレムルス、特にこの白(品種不明)は、この場所がとても気に入っているようで、他のエレムルスよりも生育がよく、大迫力。植えてから3年が経ち、年々穂数が増えて、庭でも主役級となり、ちょっと自慢です。 エレムルスの白は、他の色よりも根塊が大きく、草丈も上野ファームでは150cmを超えるほどになります。 さまざまな植物と混ざり合うような植栽も、2020年はたくさん増やしました。黄金葉に鮮やかなピンクの花が、庭でとても目立っていたシレネは、紫花のサルビアとの相性も素晴らしく、これからもいろんな場所で使ってみたいと思っています。 ちょっとパンチが欲しいときや変化が欲しいときに、シレネを一株入れると面白くなります。 ここ数年、いろいろと集めているのが、西洋オダマキ(アキレギア)です。昔からある植物ですが、改めて咲かせてみると、じつはファンが多いことが分かりました。 シンプルな品種でも、まとめて咲かせたり、または混植させることで、今までのイメージとは違う雰囲気を出すことができます。 咲くと必ず何の花? と聞かれるのは、アキレギアの「ウィンキーシリーズ」‘ダブルブルーホワイト’。よく見ると芸術的な花びらですね。 開花期が長くてシンプルな美しさがあるアキレギア‘クリスタル’も、お気に入りの品種です。 植栽の中に、ちらりと西洋オダマキを入れることで、初夏の庭がより一層華やかになるので、ピンポイントでよく使います。旭川では6月上旬に咲く宿根草はまだ少ないので、ジギタリスなどと合わせて、西洋オダマキはこの時期、とても重宝します。 一年草のミックスフラワーにも挑戦 2020年は、畑の一角にラインを描くように一年草のばら播きにも挑戦しました。宿根草が多い上野ファームですが、一年草の風景も新鮮でした。 カルフォルニアポピー、コーンフラワー、ムシトリナデシコなどなど、定番の一年草ですが、ミックスフラワーの魅力は種子のブレンドによって変化が出せること。ただいま研究中です。 <盛夏> アリウム、ホリホック、タリクトラム 最近話題の真夏に咲くアリウムも数年前から挑戦していますが、猛暑が厳しかった2020年も元気に咲いていました。3年目の株は驚くほど増えて、耐寒性と耐暑性を併せ持つ優秀な夏植物ということを実感。球根というよりも、大きめの花が咲くチャイブのような感じで、根でよく増えます。 上写真左は、アリウム‘サマービューティー’。真夏でも表情は涼し気です。 右は、アリウム‘ミレニアム’。同じく乾燥が好きなセダムとも合わせやすく、草丈30~40cmなので、ガーデンでも扱いやすい花です。 3m近くまで大きく育ったホリホックは、まるで森のように天高く伸びて、上野ファームの夏の風物詩にもなっています。交配してこぼれダネで増えたものも多く、雨風で傷む不安はあるものの、どうしても夏には咲かせたい植物の一つです。 華やかな八重咲き品種もよくありますが、上野ファームでは、毎年シンプルな一重のものが欲しい! という要望が続出です。懐かしい気持ちと、夏らしさを感じる花は、昔からある品種であっても、決して古臭くはなく、大切にデザインに入れていきたいと思っています。 咲き出した日から、毎日のように名前を聞かれたのが、タリクトラム‘スプレンダイド・ホワイト’です。愛らしい粒状の白い花は、決して派手ではありませんが、ガーデンのあちこちで開花して人気でした。タリクトラムの中でも、この品種は花数が抜群に多く、早めに切り戻すことで二番花も楽しめます。茎が弱いので、枝などで添木をするとよいでしょう。 同種で薄紫のタリクトラム‘スプレンダイド’もあります。 <秋> オーナメンタルグラス 秋になると花数は減ってきますが、近年日本でも注目されているナチュラリスティックプランティングのブームもあってか、オーナメンタルグラスの美しさや魅力を理解してくれる方が年々増えてきたように感じます。決して目立つ存在ではないのですが、他の植物を引き立て、秋にさらに美しさを増します。 葉先がボルドーカラーに染まるパニカム‘シェナンドア’は魅力的なオーナメンタルグラスで、素敵なシーンをガーデンで増産中です! 上野ファームでは夏の終わり頃から咲くサマーヒヤシンス(ガルトニア)は、本来は春に植える球根植物です。数年試してみて、旭川でも越冬することも分かり、これから使い道が増えそうな新しい仲間です。 純白の釣り鐘状の花が、ダークリーフのアスターを背景にとても目立っていました。まだまだ、いろいろな組み合わせが楽しめそうなので、増やしていく予定です。 ●『上野ファームの庭便り「秋こそ美しい! 表現広がるオーナメンタルグラス」』 上野ファーム2021インフォメーション こうして2020年を終え、今ガーデンは例年通り銀世界ですが、また再び花咲く季節に向けて準備中です。 2021年は、カフェがリニューアルして、すべての食べ物がテイクアウト可能になり、ガーデンでもピクニックのように飲食が楽しめるようになりました。ガーデンの植物から元気をチャージして、心地よい庭時間を楽しんでください。 【2023年ガーデン公開期間】 4月21日~10月15日予定(期間中無休) 開園時間/10:00~17:00 入園料/大人1,000円 中学生500円 小学生以下無料 年間パスポート1,200円 ※感染拡大防止のため予告なく営業内容が変更になる場合があります、あらかじめご了承ください。
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北海道
秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 後編
雨にけむる丘の上の朝 美瑛の丘の真ん中にあるB&B「スプウン谷のザワザワ村」のコテージで迎えた朝。やはりお天気は私たちに味方してくれなかったようです。 それでも雨にけむる美瑛の丘は、美しく優しい姿を見せてくれました。 恥ずかしがり屋の流星くんに「また来るね〜〜」と挨拶。赤いドアと焦がしバター色の壁面に、真っ白なシュウメイギクが映えるレセプション棟でチェックアウトを済ませ、次の目的地に向かいます。 とはいえ、この雨では美瑛の丘をゆっくり散策するということもできないので、ブログを通じて昔から知り合いのドッグカフェであり、ドライフラワーのお店でもある「花七曜」さんを訪ねました。 雨の効果もあってか、しっとりと鮮やかな紅葉が深い秋の景色を作っています。 アーチの上のセンニンソウやピンクのノリウツギなど、秋のガーデンの主役はバラでないことは確かです。 お店では、雑貨やドライフラワーをたくさん買い込み、発送してもらいました。 旅先でのお買い物は、なんて楽しいのでしょうか(笑)。 ランチの時間に間に合うように、旭川市内へと急ぎます。ところが、お目当ての回転寿司屋さんはメンテナンス日でお休み。ならばと、人気のガーデンショップ「RYOKKEN」さんへ。 お店やガーデン、庭をキーワードにその先へ 駐車場にこっそりと顔を出していた、薄いピンクのシュウメイギクと葉っぱの鮮やかな緑。アンティークのアイアンフェンスの黒と針葉樹の深い緑、ちらりと背景に見える紅葉のバランスが美しくて、一人夢中でシャッターを切っていました。 北海道のガーデナーさんにとっては、この時期はシーズン終盤で、冬支度を始める頃でもあり、植物の苗もお安くなっています。なんといっても本格的な雑貨の品揃えも素晴らしくて、「こんなお店が近くにあればねぇ」とつい呟いてしまいます。 ランチが終わったら、次の目的地はお友達のガーデンです。ここも秋のオープンガーデンはしていませんが、特別に見せていただきました。 秋雨に色を深めるガーデンもいいものです レンガのアプローチや秋色に染まった植物に降る秋雨は、ガーデンの色をいっそう濃く、魅力的に見せてくれる気がします。 「雨のおかげで美しい秋の庭が見られてよかった」と、負け惜しみではなく本心から思いました。 旅の最終日。ホテルの部屋から旭川市内が一望できました。なんとか晴れそうな天気予報です。 旭川での定宿は、駅前のイオンモールの中にある「JRイン旭川」。 若い頃はみんなでワイワイも楽しかったのですが、歳をとるとなかなか疲れが取れないので、最近はシングルのお部屋でゆっくり休むことが多いです。 このホテルは駅に近くて、とっても便利。清潔な客室は居心地がよく、無料のドリンクサービスのラウンジや書籍のコーナーもあります。 最終日、最初の訪問先はダリア咲く銀河庭園へ 最初に向かったのは、恵庭市にある「銀河庭園」。 10ヘクタールという広大な敷地に、イギリスのガーデンデザイナー、バニー・ギネスさんがデザインした多種のテーマがあるガーデンとエリアで構成され、2006年にオープンしました。ここも通い始めて10年。いつ行っても感動を覚える、飽きないガーデンです。 『銀河ウエルカムガーデン』。 入場してすぐに記念撮影できるように、ベンチの周りをダリアが彩っていました。 ダリアは、私の庭の日陰の多い環境だとなかなかうまく育たないので、これまであまり興味がなかったのですが、この時の銀河庭園でのダリアとの出合いが、私にとってその魅力を再発見するきっかけになりました。初夏から咲き始め、真夏は少しお休みして、また秋から咲きますが、カラーバリエーションや咲き方が豊富で、ガーデンに彩りを添えるのはもちろん、抜群の存在感を誇る植物といえるでしょう。 白と黄色と紫の銀河ボーダー。前年からスーパーバイザーとして就任された吉谷桂子さんによるデザインです。 これも素敵、あらこれも可愛い……。どこを見ても、あちこちで咲いているダリアが気になって、なかなか前に進めません(笑)。 秋の植物たちの見所をご案内しましょう ロズビィのバラのコーナーを歩いていて、男前の道具をびっしりと並べたシェッドを見つけました。すっきりと格好よくて憧れます。 枯れたシダがなんともいえない雰囲気を醸し出すガーデン。色づいたノリウツギのピンク色も心なしか濃いような気がします。 ドラゴンガーデンでは白いパンパスグラスに、明るい色のダリアを組み合わせていましたが、それはとにかく鮮やかで美しい! 園内で見かけるガーデナーさんたちは、春の球根の植え込み中で大忙しのようでした。 尋ねてみると「水仙をたくさん植え込んでいます」とのこと。早春の「銀河庭園」もきっと素敵でしょうね。 サルベージガーデンでは、錆びたアイアンのアーチが秋の景色と一体化しています。マルメロの木の下にはピンクのシュウメイギクが咲き乱れて素敵でした。 斑入り葉をバックに、ハッとするような花色と銅葉の見事なコンビネーション。 ボートレースガーデンには枯れたギボウシと青空がよく似合います。晴れてよかったねとお友達もニッコリでした。 ブラック&ホワイトガーデンは、白と赤のダリアで大人なガーデン。借景の素晴らしさも味方につけています。ここにずっと居たくなるのですが、ランチをして移動しましょう。 最終目的地は「イコロの森」 次の目的地には美しい紅葉のトンネルをドライブして向かいます。 「イコロの森」が今回の旅の最終目的地でした。 「イコロの森」は新千歳空港に近く、数日間のガーデンツアーの興奮を沈めて現実に戻るリハビリの場所としてもピッタリです。 秋のバラも少し咲いていました。 枯れた植物やシードヘッドが好きな私には、もはや天国のようにしか思えない景色。 寒い地域だからこそ、こんなに美しく色鮮やかに枯れていく姿が見られるのですね。 芝生の上に、土の上に、模様のように落ちている紅葉を踏みながらの散策は、秋だけのお楽しみです。 傾いた秋の太陽は、思わぬ美しい光をプレゼントしてくれて、この美しさを絵にしたいと何枚も撮ってしまうのです。 閉園時間まで「イコロの森」の秋を堪能して、新千歳空港で美味しい回転寿司で夕ご飯を食べて、この旅はおしまい。 秋の北海道ガーデンを巡る時は 北海道の多くの公共のガーデンは、10月中旬からクローズして冬支度に入ります。 そのため、秋の北海道のガーデンツアーは事前にガーデンの営業日を確認してから出かけるのをおすすめします。また、日没時間も早まりますので、営業時間も短くなります。 早い地域では初雪も観測され、雨も降りやすくなるために雨具は必須です。昼間は暖かい日があっても、夜間など思わぬ寒さに出合うこともありますので、重ね着できる服装がベスト。寒がりの方は手袋を忘れずに。ストールや帽子があれば寒さに対応できるでしょう。 北海道ならではの美しい紅葉と秋のグルメなガーデンツアーにぜひおでかけください。 ●旅の前編はこちらから。 『秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 前編』 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.1万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
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秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 前編
新千歳空港から車で出発 今年は新型コロナウイルス流行の影響で、これまで10年間、毎年恒例になっていた夏の北海道への旅も自粛しました。それは、とても残念でした。もし、この先に世の中が落ち着くようなら、秋の北海道への旅を企画してみたいなと考えていたら、3年前に旅した秋の記憶がよみがえりました。夏の北海道もいいですが、秋も格別ですよね。3年前の秋に旅した北海道のガーデン巡りを、2回に分けてご紹介したいと思います。今回は前編です。 10月10日、新千歳空港に降り立ち、レンタカーを借りました。この時は、まず帯広方面に車を走らせたのですが、このルートを選んだら、必ず立ち寄るのが「道東自動車道」の「占冠パーキングエリア」。新千歳空港からは1時間程度の距離です。そこには、「紫竹ガーデン」が監修しているミニガーデンがあって、毎年の楽しみとなっています。 私は車で旅することが多いのですが、各地のサービスエリアやパーキングエリアで、時々ハイウェイガーデンを見つけては立ち寄ることにしています。 NEXCO東日本では、「花と緑のやすらぎ ハイウェイガーデン® プロジェクト」の運営を行っているそうです。それは、"休憩施設園地等を利用しやすく心地よい空間へ転換を図るとともに、地域らしさの創出と地域との連携を目指した「ハイウェイガーデン®」を整備し、お客さまにやすらぎと癒しの空間を提供するために推進しているプロジェクト"。 参照サイト:北海道ハイウェイガーデンオープン 占冠パーキングエリアに併設されたこのガーデンは、それほど広くはありませんが、紅葉した山を借景に、秋らしい落ち着いた色彩の趣のある写真を撮ることができました。 ハイウェイガーデンから「十勝千年の森」へ さて、そこから帯広方面へ。 また1時間程度走り、この日の一番の目的である「十勝千年の森」に到着しました。 十勝千年の森の中でも私が一番好きなメドウでは、宿根草が枯れ姿を見せ始めていました。そう、これは私が見たかった、枯れた植物たち。 夏には遠慮がちであまり主張していなかったポタジェも、秋色の背景の中で大株に育ち、鮮やかに引き立っていました。 そして別の場所では、真っ赤なダリアを贅沢に使ったアレンジやパンプキンが。農家の一角を思わせる、秋らしい素朴なディスプレイ。 アスターはたくさんの種類があるので、名前を特定できませんが、上写真右は、アスター‘レディ・イン・ブラック’でしょうか? この季節のガーデンには、とても効果的な植物ですね。 人気も少ないガーデンで、エゾシマリスにも遭遇して撮影ができました。 この日の宿は、ここ数年必ず宿泊する帯広の「森のスパリゾート北海道ホテル」。 帯広駅からは少し外れますが、市街地とは思えないほどの豊かな緑に囲まれた静かなホテルで、芝生が美しい中庭を見ながらの朝食が楽しみの一つです。 「上野ファーム」を目指して旭川方面へ 10月11日、この日は一路旭川へ。 帯広から旭川は所要時間3時間ほどで、夏季は途中で富良野の「風のガーデン」を経由したりするのですが、秋は日没が夏より2時間ほど早いので、先を急ぎます。 ちなみに、夏の日の出は4時前なので、早起きが得意な方にとっては活動時間がとても長くて、一日を有効に利用できます。 道中に見つけたカフェ。屋根の色と紅葉が美しくて、パチリ。車窓からの風景も存分に楽しみましょう。 「上野ファーム」に到着したのは午後でした。 夏の喧騒はここにはもう無く、カラフルだけど、しっとりとした秋色の植物が迎えてくれました。 ミラーガーデンのボーダー(写真左)は、紅葉した白樺を背景に、アスターなどが彩りに。また、パープルウォーク(写真右)では、三尺バーベナの花がのびのびと風に揺れていました。 ノームの庭の秋は、黄金色! フウチソウの底力を見せつけられた気がします。 枯れ色の中に白いシュウメイギクのボリュームがダイナミックで素晴らしい。 ダイブしたくなるくらい可愛いアスターの一群。 フウチソウとルドベキア‘ヘンリーアイラーズ’の黄花のコンビネーションもよく似合っていますね。 そして、ここにもアスターの大株が! これだけのボリュームで咲いているものは、日本では多分北海道でないと見られないのではないでしょうか? こうして見ると花の数は少ないですが、私は花がたくさん咲き誇っている景色よりも、この時期の紅葉した葉や枯れゆく草姿のほうがむしろ美しいと思うのです。 個人庭を見学後、B&Bへ 「上野ファーム」を後にして、「秋に行きます」とお願いしてあった個人邸へ向かいました。本当は夏しか公開していないのですが、そこは長年通い続けたお庭なので、無理を聞いていただいて。 でも庭にいる時間よりも、お部屋の中でおしゃべりしていた時間のほうがずっと長かった気がします。 夏の庭とはまた違う美しさ。秋の庭ならではの魅力がいっぱいでした。 そして、この日のお宿に向かいます。 いわゆるBed and Breakfastですが、美瑛の丘の真ん中に、でも通りからは全く見えない、宿泊者しか入れないロケーションにある人気の蜂蜜色のコテージです。 一日に5組しか宿泊できないので、予約は常にいっぱい! 前年の夏になんとか予約が取れて宿泊したものの、あいにくお天気に恵まれず、夜空が見られなかったのです。またリベンジしようと思い、HPで知らされるキャンセルをチェック。今回はうまくそのキャンセルに滑り込めたので、ここに泊まる日程を基準にして決めた旅でした。 今回宿泊したコテージの外観。しかし、またお天気があやしくて、星空は見られそうにありません。あー、残念。 ディナーは別料金ですが、「古きよき北国の食卓」がテーマのお食事は、ここの農場で取れた北の大地の食材をふんだんに使った、心がこもったお料理です。 できたてをお部屋に運んでいただいて、まるでコテージで暮らしているようにリラックスした空間での楽しい時間を過ごせました。 朝ごはんも、じつはとっても楽しみなメニューで、バスケットに入って届くサラダや温かいスープ、パンを、自分で入れたコーヒーと一緒にいただきます。 北海道に来ると、ついついスケジュールを詰めこんで走り回ってしまいがちですが、このコテージに宿泊する際には、コテージライフを楽しめる、もっとゆったりとした計画でないともったいない気がします。 秋の北海道ガーデン巡り、後半へつづく……。 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.1万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
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球根花が群れ咲く春の北海道ガーデン 〜大雪森のガーデン〜
丘陵に広がる森の庭を訪ねる 大雪山を望む旭ヶ丘高原にある大雪森のガーデンは、色彩豊かな「森の花園」、樹木や山野草に癒される「森の迎賓館」、緑あふれる「遊びの森」の3つのエリアで構成された庭園です。 訪れた2019年の5月上旬は、「森の花園」エリアのみ無料公開されていました。 大雪山系を望む雄大なロケーション 旭川から大雪森のガーデンまでは、車で約1時間。広大な大地の遥か先まで真っ直ぐ伸びる道や、自然の芽吹きが織りなす美しい景色を眺めながらのドライブは、とても快適でした。 到着するや否や、まず心を奪われたのが、残雪を湛えた堂々たる大雪山連峰の雄大なロケーション。北海道ガーデンのスケールの大きさに改めて圧倒されました。そして、庭園を訪れたはずなのに、大自然に迷い込んだような不思議な気分に。「一体、この先はどんな景色が広がっているのだろう」と、胸が高鳴りました。 「森の花園」は妖精たちの楽園 エントランスを抜けると、目の前に広がっていたのは、空に向かって悠々と枝を広げた芽吹き前の白樺と落葉樹の大木。その株元で、小球根の花々が春の訪れを告げていました。どうやら、「森の花園」は冬の眠りから覚めたばかり。声を出すのも躊躇するほど、しんと静まり返っていました。 緩やかな斜面を縫うような小径に足を踏み入れると、インクブルーが鮮やかなシラー・シビリカ、水色の花弁にブルーのラインが美しいプシュキニア、星形のチオノドクサ、そして、色とりどりのクロッカスやフクジュソウが群れ咲いていました。極寒の冬を乗り越えた小球根の花々の、何とたくましく愛おしいこと。 目が合う度に、甘い蜜に吸い寄せられる昆虫のように、何度も地面に顔を近づけました。見れば見るほど、柔らかな光と戯れる可憐な姿は、「春の妖精」そのもの。早春の「森の花園」は、まさに妖精たちの楽園でした。 じつは、小径の縁を彩る小球根の花があまりに愛らしかったので、去年の秋、プシュキニアとミニアイリスの球根をわが家の庭に植えました。嬉しいことに、この春、小さな庭に春一番を告げてくれたのは、この妖精たち。また一つ、春を待つ楽しみが増えました。 今年、わが家の庭で春を告げた小球根。左がプシュキニア、右はミニアイリス。 想像力を掻き立てられる鉄のアーチ 「森の花園」で、ひと際目を引いたのが、「花の泉」エリアに設置されていた鉄製のアーチ。エッジの効いた屈強なアーチが連なる様が、大雪山連峰の景色と重なりました。そして、アーチの下には早咲きのスイセン‘ティタ・ティタ’が色鮮やかに連なっています。その光景は、まるで大雪山の雪を溶かす春の光のよう。グラウンドカバープランツを利用して地面から泉が湧き上がる様子を表現している「花の泉」。アーチの下で草花が咲き揃う季節は、どんなにか素晴らしいことでしょう。 癒やしのガーデンベンチ 「森の花園」の緩やかな斜面には、いくつかガーデンベンチが設置されています。ガーデンベンチは、寛ぎの場所であると同時に、植栽のアクセントにもなる重要なアイテム。ベンチのデザインや色、置かれている場所でガーデンの印象も随分変わります。そういえば、上野ファームの射的山の頂上にあるカラフルな虹色のベンチや、ミラーボーダーのエレガントなブルーのベンチは、どれもが植栽や周りの景色とぴったり。ベンチのある風景が、上野ファームのフォーカルポイントになっていますね。 「森の花園」のガーデンベンチは、深緑色のシンプルなデザイン。白樺の自然林や植栽に溶け込んでいました。さらに、斜面の高台に置かれているベンチに座ると、「森の花園」が一望でき、何と心地よいことでしょう。まるで、景色を独り占めしているような気分でした。間違いなく「森の花園」の特等席です。 また、その他のレストラン&カフェの建物も、木材を生かしたシンプル&ナチュラルな外観で、アーチやガーデンベンチと同じく、周りの景色にしっくり馴染んでいました。「森の花園」で感じた心地よさや癒やしは、自然の景色と調和した植栽デザインと構造物にあるような気がします。 大雪山系の自然と庭園が調和した、癒やしの「大雪森のガーデン」。 早春にしか見られない「春の妖精」たちに会いに、いつか皆さんも訪れてみませんか。
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北海道
球根花が群れ咲く春の北海道ガーデン 〜上野ファーム〜
射的山の斜面を彩る可憐な花々 上野ファームのエントランスでは、シンボルマークが刻印された石板がお客様をお出迎え。 じつは、上野ファームを訪れたのは、今回が2度目です。初めて訪れたのが6年前。バラやクレマチス、多年草が色鮮やかな7月半ばでした。その雄大なスケールと、咲き急ぐかのように溢れる花々に、言葉では言い尽くせないほど感動し、「いつか、また違う季節に訪れよう」と心に決めていました。 逸る気持ちを抑えながら、最初に向かったのが小高い射的山。山の麓に足を踏み入れると、芽吹いたばかりの落葉樹の足元で、クリスマスローズ、シラネアオイ、スイセン、ムスカリ、ニリンソウ、そして、滅多にお目にかかれない憧れのフリチラリアが群生していました。それぞれの花は、好きな居場所を得て、待ちわびた春を喜んでいるよう。何だか、秘密の野原に迷い込んだような気分でした。 射的山の山頂。 可憐な花々に誘われるように、緩やかな山道を登ると、虹色の椅子が並ぶ山頂です。そこで目に飛び込んできたのは、360度見渡せる上川盆地の山々と、のどかな田園風景。鼻の奥をツンと刺激する冷気の清々しさに、思わず深呼吸をしたくなりました。あいにくの曇り空でしたが、一面に広がる田植え前の水を張った田んぼが水鏡のようにキラキラと輝き、とてもきれいでした。こんな景色が見られるのも、春だからこそですね。 射的山の頂上からの眺め。 スイセンが輝くノームの散歩道 射的山の山頂から来た道の反対側に山道を下ると、見えてくるノームの散歩道。前回訪れた時は造園中だったので、楽しみにしていました。 そこは、落葉樹の淡い黄緑色の若葉の木立に、緩やかに曲がりくねった一本の道が続いていました。道の両脇には、足元を照らすかのようにスイセンが群れ咲き、奥へと誘います。 時折射し込む柔らかな木漏れ日と、踏みしめる度に伝わる落ち葉のふんわりとした感触の何と心地よいこと。そのうえ、所々に愛嬌たっぷりのノーム(オーナメント)の姿も。そんな微笑ましい世界観に、夢を見ているようでした。こんな散歩道だったらどこまでも歩いて行けそうです。 絵本の世界が広がるノームの庭 ノームの散歩道を抜けると視界が開け、その先にひと際大きな西洋シロヤナギと、とんがり屋根の可愛らしい小屋が見えてきます。ここが、大人気のノームの庭です。 西洋シロヤナギは、別名黄金枝垂れヤナギともいわれ、かの有名なモネの「睡蓮」に描かれたヤナギだとか。上野ファームのホームページやインスタグラムで見る度に、いつか本物を見てみたいと思っていました。 西洋シロヤナギは、運よく芽吹きを迎えていて、長くしなやかな枝に小さな黄金色の若葉を纏い、輝いていました。その堂々たる佇まいは、まるでノームの庭の守り神のよう。ユッサユッサと春風にたゆたう様は、何とも優雅で神々しいほどでした。 そして、ガーデンを彩るチューリップやスイセンなどの可憐な球根花と、とんがり屋根のノーム小屋は、どこを切り取っても絵本の世界さながら。さらに、小屋を囲む池の水面に映った美しい光景は、一幅の絵画のようでした。 特に印象的だったのが、水面に映るスイセンの花。その姿は、まさに、スイセンの学名「Narcissus(ナルシサス)」の由来となったギリシャ神話に登場する美少年のナルシサス。初めて目にするスイセンの神秘的な姿に、暫し見惚れてしまいました。 清々しい色彩のミラーボーダー 真っ直ぐ伸びたレンガの道とブルーのガーデンチェアーが印象的なミラーボーダーは、前回訪れた7月の色鮮やかな景色が嘘のような静寂に包まれていました。 目に映る色彩は、ふかふかの絨毯のような土の色と白いチューリップ。そして、微かに見える白樺の若葉の黄緑だけ。たった2カ月でこんなに景色が違うとは…。短い花の季節に咲き急ぐ、北海道の草花の逞しさを目の当たりにしたような気がしました。 それにしても、広大なミラーボーダーに漂うひんやりした浅い春の空気と、清々しい色彩が調和し、何と心地よいのでしょう。きっと、これから次々と遅咲きのチューリップが咲き、芽吹き始めていた多年草の花が咲き始める頃は、また違った景色になっていることでしょう。何だか、想像するだけでワクワクします。 色とりどりの球根花が咲く白樺の小径 ミラーボーダーの奥にある白樺の小径では、色とりどりのチューリップやスイセン、ムスカリが競い合うように咲いていました。前回目にした景色は、白樺の新緑と下草の緑が爽やかな印象だったので、ちょっと驚きでした。聞けば、白樺の小径がこんなにも彩り豊かな表情を見せるのは、この時季だけだとか。 そう、春しか見られない特別な景色なのです。 白樺の黄緑色の若葉と白い幹に、色とりどりの球根花が映えて、何と美しいのでしょう。そのうえ、やさしい花の香りに包まれて夢のよう。「もし天国があるのなら、こんな場所がいいな」、そんなことを思いながら小径を歩きました。 春の球根花が一斉に咲き誇る上野ファームは、目に映る全てが、まるで夢の世界。またいつか、春にしか出合えない景色と感動を味わいに訪れたいと思います。
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北海道
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」の植栽術
グラスが存在感を発揮するシーズン 前回は、「大森ガーデン」の庭づくり物語をご紹介しましたが、ここからは、2019年10月に今井カメラマンが撮影した写真に写る、各コーナーを詳しくご紹介します。ガーデンづくりにお役に立てればと思います。 まず、ご紹介するのは逆光に浮かび上がるグラスが美しいコーナーです。直立型のグラス類、パニカム‘ノースウィンドウ’は、台風でも倒れない性質をうまく利用して、スクリーンの役目を果たすように植栽しました。このスクリーンとしての植栽は、こちらからは向こう側が見えないのと同様、向こうからもこちら側が見えないというように、植物の造形をうまく使って、構造物に頼らずにガーデンの見え方を変える方法として有効です。すらりと立ち上がるパニカム‘ノースウィンドウ’の株元が寂しくならないように、白からピンク、そして秋には赤へと色変わりするつぼみを持つセダム‘オータムジョイ’を植栽。‘ノースウィンドウ’は、その草姿の美しさとともに、ブルーグレーグリーンから次第にゴールドに近くなっていく葉色の変化も楽しむことができます。 芝生の小道を挟み、右側は、数品種のグラス類と宿根草をモザイク状に植栽したエリアです。この時期最高のパフォーマンスとなるのが、カラマグロスティス ブラキトライカ。株元で濃い赤ワインがかったローズ色の花、アスター‘ロイヤルルビー’が白い穂と美しく共鳴します。その傍で長い茎をくねくねとさせているのは、リアトリス ピクノスタキア。花後も造形的なその草姿は、ガーデンパフォーマンスに優れているので、冬までカットせずに楽しみます。左手前はバプティシア オストラリス‘アルバ’(センダイハギの白花種)。ブルーグレーがかった葉とまっすぐに立ち上がった草姿で、秋の倒れこむような姿になっても魅力は損なわれません。左手の遠くに見える白く細い花は、ペッシカリア アンプレクシコウリス‘アルバ’。 画面左手一番奥のグラスは、ミスカンサス‘ゼブリナス’。約150〜200cmと丈高く生い茂るので、広い景観の中でその存在感をアピールできます。その手前は、グラス類のカラマグロスティス ブラキトライカ。花穂は9月後半からどんどん太く密になり、最終的には写真のように白っぽくなって、一際その美しさを放ちます。その手前はグラス、デシャンプシャ セスピトーサ‘ノーザンライツ’で、寒い時期になると、緑とクリームの斑入りの葉がローズ色を帯びて美しい品種です。このデシャンプシャ セスピトーサの特徴は、葉はあまり立ち上がらず地面近くで茂って、茎だけが伸びて花穂をつけるところ。グラス同士の組み合わせも、グラスと宿根草、または宿根草同士の組み合わせと同じく、草姿、花穂の形や垂れ具合、そしてその散らばり方、色など、さまざまな特徴が季節を追って変化するという造形の全貌を頭に入れて行っています。 見事に直立しているグレーグリーンの葉は、グラス、パニカム‘ノースウィンドウ’です。過去の歴代台風の雨風にも耐えて倒れません。穂は、パニカムの特徴であるビーズのような小さな粒々の集まりですが、他のパニカムほどは広がりません。その背景に見えるのは、グラス、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’の花穂です。パニカム‘ノースウィンドウ’の背景として、霧のようにフワ~ッと広がり、その隙間を埋めるように直立する‘ノースウィンドウ’の草姿を和らげる役割を果たしています。これらのグラスの手前には、高性種のセダム‘フロスティーモーン’、セダム‘オータムジョイ’をメインに、季節ごとに変わる景色を楽しめるようにと開花時期が異なる宿根草を数品種植えています。この時期は、ちょうどアスター‘リトルカーロウ’のブルー系の鮮やかな花色が、落ち着いた中にも華やかさを添えてくれています。 明るい葉色のグラス、ミスカンサス‘コスモポリタン’(ススキの仲間)は、人の背丈ほどの高さになります。広がりは100㎝ほど。葉は白と緑の縦縞ですが、斑入り葉が主張することはなく、全体的に白っぽく見えるため、周囲が明るくなります。また、穂が大きく広がったり倒れこむこともないので、大型ではありますが、ある程度の庭の広さがあればおすすめのグラスです。この一株でも十分フォーカルポイントとして成り立ちます。 直立型のグラス、カラマグロスティス‘オーバーダム’。夏は緑に細い白の縦縞が入る葉ですが、斑入りであることにはあまり気付かず、むしろそのために緑葉のカラマグロスティス‘カールフォースター’よりも白っぽく見えて優しい印象です。その草姿の特徴から、私はスクリーン仕立てに植栽することが多いです。カラマグロスティス‘オーバーダム’の花穂がつくり出す「透かし効果」によって、その向こう側に植えられているものが、より柔らかい印象になるのです。夏の紫がかった花穂は成長するにしたがって色がどんどん変わり、秋は白っぽいベージュに。風に揺れるその様に癒されます。 こちらは、グラスをスクリーン仕立てにした植栽例です。ここでは、カラマグロスティス‘オーバーダム’を使いました。白っぽいベージュの花穂が横一列に並んでいるのがそれです。左にちらりと高い位置に見えるルビー色の花はアスター‘セプテンバールビー’。カラマグロスティス‘オーバーダム’の花穂が、ルビー色の花を優しく包むような「透かし効果」を発揮しています。手前のアスチルベは、あえて花後の穂を切らずに造形として残しています。茶色になってもそれを一つの色として、また造形の一つとして役割を十分果たしてくれるので、花後のカットはしません。もちろん、こぼれ種で増えて困ることのない品種ですから。 細い白っぽい葉のグラスは、アンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’です。シルバーグレーグリーンの葉は、寒い時期には赤ワイン色を帯びます。手前のエキナセアのシードヘッドが、白く輝くアンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’の葉色をバックに浮き上がって見えますが、日中または夕方の光を浴びて‘プレーリーブルーズ’が赤ワインがかった色合いに見えるときも、その互いの美しさは変わりません。長い茎がくねくねとしているのはリアトリス ピクノスタキア。手前の赤ワイン色がかった濃いローズの花はアスター‘ロイヤルルビー’。アンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’の葉が赤ワインがかる頃に、同じように赤ワイン色がかった花を咲かせるので、その色の繋がりを意識して植栽しています。このように、それぞれの品種が季節によって変化していく過程においても、できる限り双方の色や形の組み合わせが魅力的に見えるようにデザインしています。 右手前から、アスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’は、明るい水色に近いブルーの花を咲かせて、低くマット状になっています。ルドベキア‘ゴールドスターム’は黒い球状のシードヘッドをつけ、赤ワインのようなローズ色の花をアスター‘ロイヤルルビー’が咲かせ、背が高いグラス類のミスカンサス‘ゼブリナス’が茂みとなっています。 左手前からは、茶色の立ち上がるシードヘッドをつけたアスチルベ‘ビジョンズインレッド’、シルバーグリーンのこんもりとした株は、アキレア‘コロネーションゴールド’、その後ろはフロックス パニキュラータ(緑の草丈ある塊)。そして細い直立するベージュの花穂、カラマグロスティス‘オーバーダム’。さらには、ブルーのアスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’、その後ろには、ホスタ。 高さのあるグラスを左右前後に植栽し、その間を抜けて奥は何があるのかと好奇心を抱かせる小道にしています。アーチなどの構造物を設けないで、植物の造形だけで奥行きを感じさせたり、人の興味を引き期待感を高める植栽法です。 手前には、グラス、デシャンプシャ‘ノースウィンドウ’(白っぽい花穂を立ち上げている)、その左手のグラスは、パニカム‘ヘビーメタル’(ビーズ状の粒々が散るような花穂がとても美しい)。フロックス パニキュラータ‘デービットラベンダー’(うすピンクの花)が、手前に植えた「エアリー感」のあるグラスの花穂によって、その向こうで軽やかに跳んでいるように見えます。 ラウンドするように群植したグラス、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’のゴールドの花穂が霧のようになって、圧倒的な効果を発揮してくれることを期待してデザインしたエリアです。まさに、十分に応えてくれて、秋が進むとよりいっそうゴールドの海となりました。所々に直立するグラス、パニカム‘ノースウィンドウ’を植えて変化をつけ、その向こう側や手前株元には、差し色として季節を追ってリレーして咲くように宿根草を品種を変えて所々に植栽しています。今、手前の株元に咲いているのは、濃い赤ワインがかったローズ色の花、アスター‘ロイヤルルビー’。向こう側に咲いているのは、アスター‘リトルカーロウ’やフロックス パニキュラータ‘デービットラベンダー’、そして‘ブルーパラダイス’。透かし効果で、グラスの花穂の向こう側に草花がちらちらと見える様子が心地よさを感じさせてくれます。 秋は青〜紫〜ルビー色のアスターが彩りに グラス類のカラマグロスティス ブラキトライカのダイナミックな秋の花穂とアスター‘リトルカーロウ’の明るい紫の花が優雅に咲き誇る秋。 カラマグロスティス ブラキトライカの花穂が垂れ下がるまで、その株元が寂しくならないように、ペッシカリア アンプレクシコウリス‘ブラックフィールド’を植えています。ペッシカリア‘ブラックフィールド’は、ペッシカリア アンプレクシコウリスの中でも草丈が低く、このような場所でちょうどよいバランスが保てます。アスター‘リトルカーロウ’の花々が開花する前には、その株元に植えたルビー色の花が咲くアスター‘ハーブストグラスフォンブレッサーホフ’(草丈約40cm)が色を補ってくれます。‘リトルカーロウ’の花後には、濃い青紫の花が咲き、草丈が低いアスター‘パープルドーム’が鮮やかなポイントカラーの役目を果たします。 写真内、左手に見える空に向かって高く花穂が揺れているのは、グラス、モリニア‘トランスペアレント’。中央の白く狐のしっぽのように見える花穂はグラス、カラマグロスティス ブラキトライカ。手前で溢れるように咲いている水色に近い青紫の花は、アスター‘リトルカーロウ’。その株元に咲く、低く直立している濃いめの青紫の花はアスター‘パープルドーム’。細く赤いキャンドルのような花を咲かせているのはペッシカリア‘JSカリエント’です。 名脇役が勢揃いする晩秋の宿根草 派手な花が咲く時期ではないけれど、それぞれの持つ造形を生かした植栽です。高性種のセダム‘フロスティーモーン’とセダム‘オータムジョイ’のカリフラワーのような花がつくり出す景色は、全体としては平面的な植栽ですが、そこにルドベキア‘ゴールドスターム’によるひとつまみのショッキングカラーが差し入れられています。同系色を集めたグラデーションが美しい庭も素敵ですが、差し色になる黄色、赤、などを上手に使うのもおすすめです。 ここから眺める景色は、奥へと広がるいくつかのエリアが見渡せる場所。まるで宿根草の海のようなイメージです。各エリアの重なり合う色合いと造形が、宿根草の主役と脇役の交代とともに季節によって変わっていきます。 季節によってその品種の観賞部位が変わったり、主役から脇役になったりすることをふまえて、重なり合う色合いがいつでも美しく見えるようにと品種を選んで植栽しています。画面手前から順に、花後のネペタ‘シックスヒルズジャイアント’(シルバーグレーグリーン)、アスター‘パープルドーム’(濃い紫)、花後のリアトリス スピカータ(中央、焦げ茶の長いブラシ状のシードヘッド)。さらに、その奥には、アスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’(水色っぽい青紫)、ペッシカリア‘オレンジフィールド’(細いキャンドルのように見える赤花)、アスター‘ロイヤルルビー’(ワイン色がかった濃いローズ)、花後のリアトリス ピクノスタキア(右手少し後方、薄緑の立ち上がった棒状のシードヘッド)。カラマグロスティス ブラキトライカ(左手、グラス。白っぽい狐のしっぽのような花穂が群生している)。ミスカンサス‘ゼブリナス’(右手後方、緑の背が高いグラス)。 観光ガーデンを持ちながら、1,200~1,300もの品種の宿根草を生産し取り扱っているナーセリーの「大森ガーデン」。2020年はガーデンをつくり始めて12年を迎え、これまでも挑戦してきた “持続可能なガーデン(サステイナブルなガーデン)づくり”と“ローメンテナンスなガーデン作業の確立”を実現する場所へと、成長中です。 Credit 文/大森ガーデン 大森敬子 http://omorigarden.com 写真/今井秀治 バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」庭づくり物語
厳しい気候にも負けない宿根草探しから始まった 私は、夫の大森康雄と結婚後、初めてこの北海道十勝にやってきました。夫も私も東京育ち。夫はカナダでの留学生活で北海道よりも寒さの厳しいアルバータ州での経験がありましたが、私はどのくらい冬が厳しいかも知らずに「まあ何とかなるでしょう」くらいの気持ちでした。 農業者となって生活するうちに、厳しい状況の中で夫の実兄が東京と千葉でやっていたグラウンドカバー植物の栽培を1985年に始めたところ、北海道以外の地域からの注文がほとんどでしたが、よく売れました。 そのころの北海道は、植えられている植物といえば、個人のお庭も公共の場でも似通った一年草か数種類のグラウンドカバープランツで、それ以外の毎年咲く宿根草に至っては、おばあちゃんたちが昔から庭で育てている何種類かの草花くらいでした。 せっかくつくったグラウンドカバープランツが北海道で使われないのは残念、との思いから、「北海道の気候でも毎年美しい花を咲かせ、葉を茂らせるものを根付かせたい」と思うようになりました。 幸いにも、夫が留学していたカナダのアルバータ州は、冬は氷点下40℃以下にもなる土地。その土地にも春から秋まで花咲く美しいガーデンがある。「北海道でもできないわけはないという確信」みたいなものがありました。そこで“この寒さ厳しい土地で魅力を発揮できる宿根草探し”が始まったわけです。 寒冷地向きの宿根草栽培の厳しい道のり しかし、これが大変なことで、今から30年以上前はアドバイスをくれる人はなく、園芸店で売られているものは一年草か山野草、高山植物として売られているものがごくわずかで、どんな性質か尋ねても、北海道で、しかも戸外でどうなるかは、「よく分かりませんが、まず植えてみてください」と言われておしまい。本州から取り寄せて試験植栽しても、ほとんどが失敗、失敗、失敗の連続。当時は寒冷地向き宿根草についての日本語の資料はなく、海外の文献から情報を得て試験するしかありませんでした。 私たちは海外のガーデンショーに赴いてたくさんの植物を見るだけではなく、夫の康雄は、すでに有名だったエイドリアン・ブルーム氏(ブルームス・オブ・ブレッシガムナーセリー)をはじめ、アラン・アーミテージ氏(アメリカジョージア大学園芸教授)、故ブルース・マクドナルド氏(当時カナダ、ブリティッシュコロンビア大学植物園園長)、故ジェームス・C・ラウルストン氏(当時アメリカ、ノースカロライナ大学植物園園長)など、世界的にも優れたナーセリーマン、プランツマンやデザイナーたちの講義を受けて実践につなげていきました。 海外からの苗の輸入もよくしたけれど、苦労して手配しても検疫でことごとくはねられて、植物は燻蒸にかけられてダメになったり、廃棄処分にされて手に入れることができなくなったこともしばしば。悔しい思いは数知れず経験しました。これらの困難を経て、ようやく本格的に宿根草の生産に入ることができたのです。あの頃はどんなに失敗しても“宿根草を根付かせたい”という思いは募るばかりで、前へ前への日々でした。 念願の直営店をオープン 1997年には、ナーセリー内に小さな直営店をオープンしました。北海道内の各地から車で何時間もかけて、また大型バスでツアーを企画して来てくださる方々もいらっしゃいました。しかし、宿根草の魅力を伝えるには、このテストガーデンを見ていただくだけでは難しい。宿根草の本来の姿だけではなく、植物同士の組み合わせを見せることによって、さらにその魅力を伝えていきたい。そうだ! やはり本格的なガーデンをつくらなくては! という思いに至ったのです。 いよいよ本格的なガーデンづくりへ 現在の大森ガーデンがある十勝・日高山脈のふもとに土地を求め、2006年秋からガーデン予定地のクリーニングに入りました。まず表土を何年もはがされ続けたこの土地を土壌改良することから。堆肥投入、耕して雑草を除去。このクリーニング期間が約2年弱。そののち芝生の種子を播きました。種子の鎮圧も終わってホッとしたところに想定外の大雨。なんと、ほとんどの芝生の種子が流されてしまったのです。もう一度播種、一からやり直しでした。 そしてでき上がった広い広い約2ヘクタールの芝生。 ガーデン施設・ガーデンショップの建設と同時進行で土を運び入れたり、芝生を切り取ったりして、テーマを決めながら植栽エリアを広げ、ガーデンが広がっていきました。そうして2008年、現在地に、ガーデンに併設された新しいガーデンショップがオープン。2019年で11年目を迎えたところです。 「大森ガーデン」が心がけるガーデンデザイン 私がデザインするにあたって心がけていることは、その場所の気候や自然条件に合った植物を使うこと。その植物の魅力を最大限に発揮させること。脇役にしかならない植物と思っていても、組み合わせによっては双方が輝くことだってあります。 苗の姿だけでその後の魅力を判断してほしくない。そのためには、植物をちゃんと評価してもらえるようなデザインが必要です。デザインは、まず植物を知ることが大切です。それができれば、あとは想像力全開で、頭の中でシミュレーションが始まり、季節の移り変わりによって変化する組み合わせもシミュレーションする。そして、図面に落とす。 デザインが閃かないときは苦しいものです。でも想像した通りに魅力を発揮してくれて、図面上のデザインが間違いなかったと思えた時の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。この喜び・満足感があるからこそ、続けていけるのでしょうね。 大森夫妻が考えるガーデンとは? ガーデンとは、体験するもの。ぜひ外から、それも一方向からのみ見るのではなく、どうぞその中に身を置いてみてください。移り行く色合いや植物が醸し出す造形の重なりの変化や、そよ風、香り、草花や穂のゆらぎ、朝夕の光、小鳥の声、ミツバチや蝶が飛び交う姿……自分もそんな自然の一部になったような一体感を味わっていただきたい、そして時にはエネルギーを、癒しを、幸せ感を、持って帰っていただきたいと日々思いながらガーデンをデザインし、育てています。 世界的なプランツマン、デザイナーとの仕事 大森ガーデンは「観光ガーデン」を持ちながら、現在1,200~1,300もの品種の宿根草を生産し取り扱っているナーセリーでもあります。 北海道十勝にある「十勝千年の森」のオーナメンタルガーデンは、100%大森ガーデンの宿根草植栽から始まりました。ここは、2012年にプロのガーデンデザイナーらが加入する国際的な団体SGD(ガーデンデザイナーズ協会)の選考で優れた庭園として、大賞を受賞したガーデンですが、その造成前から、ガーデン植栽設計者であるイギリスのダン・ピアソン氏からのさまざまな要求に応え、宿根草のほとんどを揃えて提供したのが大森康雄でした。 また、庭の世界大会である「ガーデニングワールドカップ2016年(ガーデニングワールドカップ協議会主催、会場:ハウステンボス)」においては、アジア初のピ-ト・ウードルフ氏植栽設計の庭園をつくるため、100%大森ガーデンの宿根草を提供することになりました。この際には、オランダのピートさんとインターネット電話のSkypeで苗の生育状況を確認しながらの仕事でした。 ダン・ピアソン氏もピート・ウードルフ氏も素晴らしいプランツマン(植物をよく知る栽培家、植物の専門家)でもあり、植栽デザイナー。このような方々との仕事を通して、私たちは、さらにプランツマンとして、デザイナーとして研鑽を積んできました。 未来の大森ガーデン 来年は12年目を迎えるこの大森ガーデン。今年から少しずつリニューアルをし始めています。ナーセリーとして発表し続けている新しい植物を植栽に使ったり、組み合わせを変えたり、さらに楽しんでいただける見せ場をつくる……。 また、今後も“持続可能なガーデン(サステイナブルなガーデン)づくり”と“ローメンテナンスなガーデン作業の確立”を進めていきます。 プランツマン(植物をよく知る植物の専門家)の大森康雄と植栽デザイナー(植物を知ってデザインする人)の大森敬子のコンビですが、これからもガーデンの充実を心がけて、さらに多くの方に訪れていただきたい。 ガーデンを訪れた方が幸せでした! と伝えてくださったとき、スタッフとガーデンでのこの幸せ感を共有するとき、それが私たちが何よりも幸せを感じる瞬間です。ガーデンの中でたくさんの人に囲まれて日々幸せな時を過ごしたい。どうぞ、ガーデンで私たちを見かけたときには、お声をかけてください。喜んでいただけるのが何よりの楽しみです。 次回は、今井カメラマンが撮影した写真とともに、大森敬子さんによる各コーナーの植栽デザインについて、解説していただきます。 植栽術の記事『カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」の植栽術』はこちら。 Credit 本文/大森ガーデン 大森敬子 植物解説/大森ガーデン 大森康雄 大森敬子 http://omorigarden.com 写真/今井秀治 バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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北海道
花の庭巡りならここ! 北海道ならではのカントリーガーデン「国営滝野すずらん丘陵公園」
北海道らしい雄大な自然と 季節の花々を満喫できる国営公園 「国営滝野すずらん丘陵公園」は約400ヘクタールもの敷地を擁し、「こどもの谷」の大型遊具などさまざまなアクティビティーが楽しめる施設が充実しています。中でも、「中心ゾーン」にある「カントリーガーデン」は、花の名所として広く愛されるスポットとなっています。 71.4ヘクタールの「中心ゾーン」にある「カントリーガーデン」は、ゆっくり歩いて60分くらいで観賞できる規模。1983年に北海道初の国営公園としてオープン後、2010年に有料エリアを設置するにあたって、見どころとして整備されました。デザインは造園家で緑花計画代表の笠康三郎さんが手がけ、現在は植栽担当のスタッフやボランティアの皆さんがメンテナンスを行っています。 「カントリーガーデン」のテーマは「花と緑のある北の暮らし」。主に11のエリアで、それぞれにテーマを設けた花園やガーデンの景色が楽しめます。丘陵地帯の変化に富んだ地形を生かし、チューリップやコスモスを群生させた壮大なフラワーカーペットや、木陰の中の楚々とした北海道らしい田園風景など、多様な演出を楽しみましょう。シラネアオイやメコノプシスなど、北海道ならではの風景が見られます。 「国営滝野すずらん丘陵公園」では、クラフトや寄せ植えづくりなど、毎月多彩なイベントを開催しているので、公式ホームページをチェックして出かけるのもいいですね。園内のガイドツアーは予約なしでOK(先着順、定員20名)。毎日10:00と13:00にスタート、40〜60分かけて周遊します(4月28日〜10月14日まで)。 春は約20万本のチューリップを見に行こう! エリア別にテーマ性を持たせた花畑に注目 「花のまきば」のエリアでは、5月中旬〜下旬にチューリップが見頃になります。5,200㎡に185品種、24万株を植栽。傾斜地を生かし、グラデーションで魅せる「彩りの丘」と、虹をイメージして半円形にくっきりと色を分けて展開する「虹の丘」があります。上から見下ろしても、下から見上げても大迫力のシーンが広がりますよ! 写真は「花人の隠れ家」エリアの5月下旬の景色で、プリムラが楚々とした風情で咲いています。他のエリアの開放的な空間に比べ、自然林に囲まれた森の中にあり、静謐で落ち着いた雰囲気のガーデンです。ここでは珍しい植物も選ばれて、木漏れ日の中で多様な植物が自然に咲いている姿が、癒やしを誘います。 こちらは6月下旬の「キッチンガーデン」の様子。野菜やハーブなど、食卓に上がる植物と草花が織りなす景色を楽しみましょう。小枝で編んだ支柱と三角屋根の雨除けは、倒れやすく雨に当たると実割れするトマトのためのもの。オシャレな演出は、家庭菜園の参考になりそうです。奥に見えるテントは中に入ることができるので、ソファに座って写真を撮るのにもよいスポットです。 東口休憩所前の広場、通路、壁面などを彩るのは、ハンギングバスケットマスターが制作する寄せ植え作品の数々。毎年恒例で6〜7月にかけて、制作・披露されます。長く楽しめるように工夫して植え込まれているので、植物選びの参考になりそう。寄せ植えに相性のよい植物の組み合わせやトレンド品種などを見つけてみましょう。 写真は「カントリーハウス」の屋上空間にある、「くらしの花園」エリアで、7月下旬の様子です。車椅子でも見学できるように幅広のスロープを確保し、レイズドベッド形式で構成しています。ここでは、暮らしに密着するハーブを約100種類植栽。ハーブの使い方や効果の展示もあり、実際に触れて香りを楽しめます。 秋は約150品種のダリアが登場! 70万本が風に揺れるコスモス畑もおすすめ 「パレット花壇」では、8月上旬〜10月上旬にダリアが見頃になります。道内産ダリアの約150品種、約600株を植栽。育ててみたいダリアが見つかりそうですね。花色を対照的に選んでコントラストをつけたり、相性のよい花形でまとめたりと、組み合わせの植栽術にもぜひ注目してください。 「花のまきば」では、9月中旬〜下旬にコスモスが見頃に。約4,200㎡が70万本のコスモスで埋め尽くされます。ピンクの濃淡や白がミックスする壮大な花畑を背景に、ぜひ記念写真を撮りましょう。空は青く澄んで、山々に囲まれた借景も素晴らしく、小鳥のさえずりがすぐそばから聞こえてくる心地よさに、時間を忘れそうです。 毎月多彩なイベントを開催! ログハウスが目印のレストランも充実 写真はチューリップが見頃の時期に行われたイベント、フォトフレームづくりの様子。チューリップの花弁を使ってフレームを飾ります。「東口休憩所花の情報館」にて予約は不要、300円で作業時間は15分くらいです(イベント内容は年によって異なります)。 ログハウス風の外観が目印のレストラン、「カントリーガーデン」にもぜひ立ち寄りを。公園の営業時間と同じですが、ドリンクは9:00〜、食事は10:30〜で、ラストオーダーは閉園の60分前までとなっています。メニューはパスタやカレー、うどん、ラーメンなど多彩で、価格帯は700〜1,200円くらい。季節限定メニューも登場します。客席数は100席あり、カジュアルな雰囲気です。 写真は北海道当別町産のジューシーなベーコンをたっぷり使った「森のピザ」1,500円。シェアして召し上がれ! デザートにケーキが2つ付いてくるのも嬉しいですね。 カントリーハウス内、他各所には売店があり、オリジナル商品や土産物、お菓子などが並びます。おすすめはオリジナルクマベル(クマよけの鈴)550円、チューリップハブラシキャップ300円です。 Information 国営滝野すずらん丘陵公園 所在地:北海道 札幌市南区滝野247番地 TEL:011-592-3333 http://www.takinopark.com/ アクセス:地下鉄南北線真駒内駅よりバスで約30分 オープン期間:4月20日~11月10日、12月23日~3月31日(ただし4月19日、12月22日が日曜日の場合は開園) 休園日:開園期間中はなし 営業時間:9:00~17:00 (4〜5、9〜11月)、9:00~18:00(6〜8月)、9:00~16:00(12〜3月) 料金:15歳以上450円、65歳以上で年齢の確認ができるものをご持参いただけた場合210円、15歳未満無料 ※回数券、通し券、団体料金など割引制度あり) 駐車場:約2200台、普通車1日1台につき、410円 ※回数券、通し券、団体料金など割引制度あり Credit 取材&文/長田節子 ガーデニング、インテリア、ハウジングを中心に、ライフスタイル分野を得意とするライター、エディター。1994年より約10年の編集プロダクション勤務を経て、独立しフリーランスで活動。特にガーデニング分野が好きで、自身でも小さなベランダでバラ6姉妹と季節の草花を育てています。草花や木の名前を覚えると、道端で咲いている姿を見て、お友達にばったり会って親しく挨拶するような気分になれるのが醍醐味ですね。 https://twitter.com/passion_oranges/
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花の庭巡りならここ! ユリの聖地として名高いスポット「百合が原公園」
四季折々の花々で彩られる花公園7月の「ユリ月間」は、一度は見ておきたい 1983年に開園した札幌市北区の総合公園、「百合が原公園」。敷地面積は約25.4ヘクタールに及び、園内を見物するにはゆっくり歩いて約2時間かかります。開園時、庭のデザインや植栽を手がけたのは、北海道大学農学部の皆さん。花と緑を通した市民同士の交流の場としての役割も持つ、憩いの公園です。 緑豊かな園内には、約6,400種類の植物が息づいています。なかでも公園の名前にも冠されているユリは、原種が約60種、園芸品種が約60種、計約2万株を植栽。ユリの聖地として、知る人ぞ知る名園なのです。 園内には、ユリ園の「世界の百合広場」のほかに、「ロックガーデン」「世界の庭園」「ライラックコレクション」「ローズウォーク」「モニュメント広場」「百合が原緑のセンター温室」などがあり、エリアごとに見せ方を変えています。それぞれに四季折々の花々が咲き、いつ訪れても素晴らしい景観です。 植栽は、北国ならではの気候や環境に合う植物がセレクトされているので、寒地にお住まいの方には参考になりそう。藤棚やハニーサックルのアーチ、フクシアやマーマレードブッシュ、ビカクシダのハンギング、野菜で仕立てたアーチなど、自庭に取り入れられそうなアイデアも満載です。 園内には芝生広場や遊具広場などもあり、家族連れや学校遠足などにも広く利用される、カジュアルな公園です。飲食物の持ち込みも可能なので、北海道の澄んだ青空の下、芝生でお弁当を広げてくつろぐのもいいですね。レストランや売店もあるので、ここでしか味わえないメニューやお土産品も、ぜひチェックしてください! 北海道ならではの、豊かな自然美を満喫一年を通して冴え冴えとした色の花々にうっとり! 春(5月上旬〜中旬)の人気スポットは「ムスカリの道」です。全長80m、幅15m、総面積1,365㎡のエリアが。約10万本のムスカリと、約80種7,000球のチューリップで彩られます。青紫色のムスカリと色鮮やかなチューリップの競演は息を呑むほどの美しさです。同じ頃に梅、桜、ユキヤナギ、ツツジなどが咲き、いっぺんに春がやってくる、北海道ならではの花景色を楽しみましょう。 初夏(5月中旬〜下旬)は、フジやライラックが見頃になります。藤棚は園内3カ所に配され、紫や白の長い花穂が滝のようにダイナミックに連なる姿は壮観です。そよ風で花穂が揺れるたびに、やわらかな香りが広がります。 ライラックは園内の「ライラックコレクション」と「ライラック街道」合わせて約50品種、100本ほどを植栽。優しいピンクから濃いピンクまで色幅がある、豊かな表情のライラックを愛でましょう。芳香も素晴らしいです。 6月になると、「百合が原公園」では約170品種、約200株のバラが開花し始めます。針葉樹の林の中につくられた約100mの散歩道「ローズウォーク」では、オールドローズを中心に、北国向けの品種が主に植栽されています。針葉樹の防風林に守られているため、香りが周辺にとどまりやすいのも特徴です。 また、ヒースガーデンの隣には四季咲きのシュラブローズを、リリートレイン沿線では北海道各地で見られるハマナシなどを植栽。モニュメント広場にはフロリバンダローズの花壇を囲うようにラベンダーが植栽され、6月下旬頃からバラとラベンダーの見事なコントラストを楽しめます。 生命戦略の力強ささえ感じるユリの甘美な濃い香りも楽しんで 「世界の百合広場」の面積は、なんと約5ヘクタール。ユリの見頃は6月末から8月末です。原種ユリは約60種にも及び、ユリの聖地ともいえる規模。世界中に自生するユリを地域ごとに分けて植栽し、自然界の中で自生している雰囲気を大切に、人の手でつくり込んでいないように見せるメンテナンスを心がけています。 園芸品種はオリエンタル・ハイブリッドやアジアティック・ハイブリッドなど約60種類、約2万株を植栽。なかには北海道を中心に日本で作出された品種を集めたエリアもあり、高い日本の育種技術も垣間見ることができます。園芸品種の植栽は大規模花壇を中心に、密度を高めに群植して迫力ある風景に。特に花数が多い7月を「ユリ月間」とし、期間中に展示会、講習会、ガーデンツアー、オリエンテーリングなどのイベントを開催しているので、ぜひご参加ください。 7月下旬〜10月は約40種のムクゲが見頃になり、リリートレイン沿線を彩る「ムクゲコレクション」がオススメスポットになります。8月から10月頃までは、約430㎡に約150品種植栽しているダリアが見頃に。2019年はダリア園とリリートレイン沿線の2カ所に分けて植栽し、風通しをよくして個々の花々を見やすくする工夫が施されています。ダリアの咲く時期は、リリートレイン沿線のコスモスも見事ですよ! 園内を走行するリリートレインが大人気!レストランや売店のオリジナル品にも注目を 「百合が原公園」園内では、「リリートレイン」が運行されています。園内1.2㎞を約12分かけてゆっくりと巡っており、季節それぞれの美しい花園の景色を十分に楽しめます。連日、家族連れなど多くの世代に人気の乗り物です。小学生以上360円、65歳以上、障がいのある方は証明書の提示で無料。 「百合が原緑のセンター」では、年間を通して展示会や講習会が開催されています。展示会は、2019年度は22回の開催予定。屋外ではまだ花の少ない季節でも、野山の植物が見られる「春の花展」に始まり、「サボテン・多肉植物展」「ユリ展」「クリスマスディスプレイ展」など多彩です。 講習会は年20回以上開催。バラの系統や種類の解説、北国ならではの管理法など総合的に解説する「バラの基礎講座」「ダリアの分球・植え付け講習」「ライラックや多肉植物、ユリや洋ランの育て方の講習」のほか、冬は「キャンドル作り」などのクラフト講習も行っています。 「百合が原緑のセンター温室」の受付窓口には売店があり、絵葉書やクリアファイル、フェルトニードルで作られたキーホルダーなど、オリジナル商品が販売されています。訪れた記念やお土産に、ちょうどいいお買い物ができますよ! オススメのお土産は、ここでしか買えない「ゆり根ドラ焼き」1個200円(税込)。ユリ根をすりつぶして白餡に練り込んであり、生地もふわふわで柔らかくおいしい! お土産として人気で、近隣に住む方々も定期的に購入に訪れるほど、大評判のどら焼きです。 「リリートレイン」駅舎には、「レストラン百合が原」があるので、ここで休憩するのもいいですね。2019年は4月19日〜10月31日の期間、無休で開店しており、客席数は約60席、営業時間は11:00〜15:00(ラストオーダー14:30)、テイクアウトは10:00〜16:00。レストランでは「ユリ根カレー」700円がオススメ。テイクアウトではアイスクリームやフライドポテトのほか、春巻きやザンギなども販売しています。 Information 公益財団法人 札幌市公園緑化協会 百合が原公園 所在地:北海道札幌市北区百合が原公園210TEL:011-772-4722http://yuri-park.jp/ アクセス: JR学園都市線「百合が原」駅下車徒歩約7分 休園日:なし・公園/終日開放、無料・百合が原緑のセンター温室/開館時間8:45〜17:15、休館日 月曜(祝日の場合は翌平日)・12月29日〜1月3日、料金 高校生以上130円(65歳以上、障がいのある方は証明書の提示で無料)・世界の庭園 オープン期間 4月下旬〜10月下旬・期間中は無休、開園時間 8:45〜17:15(入園は16:45まで)、料金高校生以上130円(65歳以上、障がいのある方は証明書の提示で無料) 駐車場:276台(無料、20:00〜6:00は閉門)