- TOP
- ガーデン&ショップ
-
宮崎県

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。冬枯れに美を見る宮崎県「綾ナチュラルガーデン錦原」
ピート・アウドルフ氏に影響を受けて 今月ご紹介するのは、宮崎県綾町にある「綾ナチュラルガーデン錦原」、冬枯れの庭です。3年前の春に、長野県須坂市の園芸店「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の田口勇さんからピート・アウドルフさんの写真集を見せてもらい、その時、枯れた庭の美しさに目覚めて撮影を始めました。その後、ピート・アウドルフさんの映画『Five Seasons ガーデン・オブ・ピート・アウドルフ』を鑑賞したこともあり、近年、僕の一番興味のあるテーマが「冬枯れの庭」になったのです。 2017年11月、紅葉の「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の撮影を皮切りに、北海道の「大森ガーデン」、神奈川県愛甲市の「服部牧場」、群馬県太田市の「アンディ&ウイリアムスボタニックガーデン」、横浜の新港中央広場に清里の萌木の村……、と機会があるごとに撮影を続けてきました。そして12月、僕の冬の撮影のもう一つのテーマ「宮崎育種ビオラ」の撮影も兼ねて訪れた宮崎滞在の2日目の朝、日の出とともに撮影したのが、今回ご紹介する「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真です。 朝日が昇る前にガーデンに到着 当日は日の出が7時だったため、宮崎市内のホテルを6時過ぎに出発。まだ薄暗い道を車で走りつつ景色を眺めながら、7時少し前に馬事公苑の交差点に到着しました。ガーデナーの平工詠子さんのSNSの投稿で、あまり広くはない道沿いのガーデンだということは分かっていたし、薄暗い光の中でも黄色いマムや赤いコリウスがはっきり見えたので、ここで間違いないと確信し、邪魔にならない場所へ車を止めて庭に入っていきました。 ちょうど正面の空が明るくなってきました。その方角が東で逆光、右手が南側で庭の奥は田園風景。そのさらに奥には山並みが見え、左手が北側で馬事公苑があり、共にサイドからの光になります。僕は常々、ガーデンの撮影の時の基本のライティングは、サイドからの光にしています。この庭の場合は、馬事公苑側に立って南の方向にレンズを向けるか、南の山に背を向けて馬事公苑の方向にレンズを向けて撮るのがサイド光になります。また、時々はレンズを東に向けて、逆光でドラマチックな撮影をすることもあります。 光の確認の後は、庭の真ん中に立ち、ぐるっと見回してよいアングルを探します。幸い撮影の邪魔になる電信柱や畑の網などの気になるものは何もなく、どの方向を向いてもとても綺麗でした。そうこうしているうちに、そろそろ日の出の時間が迫ってきたので、急いで車に戻り、カメラをセットしていると、東の空から一筋の光が差し込んできて、庭が一気に輝き出しました。 ちょっと肌寒い、静かな日の出の瞬間。神々しいとさえいえる光に包まれた「綾ナチュラルガーデン錦原」の撮影開始です。レンズを南や北に向けてサイドの光で庭の全体を撮ったり、太陽が低い位置まで上がってきたところでレンズを東に向けて、ちょっとドラマチックな逆光の撮影をしたり。庭の中を走り回って、時計が8時を回る頃に撮影は終了しました。 美しい冬枯れの庭の撮影を終えて 12月12日の夜。自宅のある千葉に帰って、すぐに写真をPCに取り込んで写真チェックをしてみると、狙い通りの美しい冬枯れの庭が写っていました。が、撮影は終始僕一人でしたし、終わった後はすぐに宮崎市に戻ってビオラの撮影だったため、「綾ナチュラルガーデン錦原」の関係者の方とはお会いしていませんでした。 よい撮影ができたので『Garden Story』に掲載したいと思っていましたが、あいにく連絡先も分からず、宮崎の「こどものくに」のガーデナー、源香さんに聞いてみようと思っていたら、偶然にも僕のSNSに「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真がアップされていました。すぐにそこから「みんなでつくる綾町花壇プロジェクト」にメール送信。自己紹介とGarden Story掲載の許可をお願いすると、ものの10分もしないうちにガーデナーの谷口みゆきさんから返信が。そのすぐ後、役場の田牧さんからも連絡をいただきました。返信を待っている間に僕のSNSにアップしていた写真を見て、お二人ともとても喜んでくださったようで、掲載の許可もいただきました。 綾町に根付いている花を育てる習慣 この原稿を書くにあたって、谷口さんと田牧さんのお二人から町の話を伺ったのですが、綾町は50年ほど前から「花いっぱい運動」を展開し、町のあちこちに花壇があったそうです。じつは、どうして宮崎の綾町にこんなに今風なコンセプトのガーデンがあるのだろうと不思議に思っていたのですが、綾町には「花を育てる、庭を楽しむ」という習慣が昔からあったのですね。 町と住民のボランティアさんが一緒になって庭をつくり、花を楽しむ。そのために平工詠子さんのような専門家を招いて勉強もする・・・美しい自然の中で、こういった環境がしっかりできあがっている綾町。宮崎県に、また一つ好きな場所ができてしまいました。次回は、庭の周囲にある桜が咲く頃に撮影に伺いたいと思います。
-
北海道

秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 後編
雨にけむる丘の上の朝 美瑛の丘の真ん中にあるB&B「スプウン谷のザワザワ村」のコテージで迎えた朝。やはりお天気は私たちに味方してくれなかったようです。 それでも雨にけむる美瑛の丘は、美しく優しい姿を見せてくれました。 恥ずかしがり屋の流星くんに「また来るね〜〜」と挨拶。赤いドアと焦がしバター色の壁面に、真っ白なシュウメイギクが映えるレセプション棟でチェックアウトを済ませ、次の目的地に向かいます。 とはいえ、この雨では美瑛の丘をゆっくり散策するということもできないので、ブログを通じて昔から知り合いのドッグカフェであり、ドライフラワーのお店でもある「花七曜」さんを訪ねました。 雨の効果もあってか、しっとりと鮮やかな紅葉が深い秋の景色を作っています。 アーチの上のセンニンソウやピンクのノリウツギなど、秋のガーデンの主役はバラでないことは確かです。 お店では、雑貨やドライフラワーをたくさん買い込み、発送してもらいました。 旅先でのお買い物は、なんて楽しいのでしょうか(笑)。 ランチの時間に間に合うように、旭川市内へと急ぎます。ところが、お目当ての回転寿司屋さんはメンテナンス日でお休み。ならばと、人気のガーデンショップ「RYOKKEN」さんへ。 お店やガーデン、庭をキーワードにその先へ 駐車場にこっそりと顔を出していた、薄いピンクのシュウメイギクと葉っぱの鮮やかな緑。アンティークのアイアンフェンスの黒と針葉樹の深い緑、ちらりと背景に見える紅葉のバランスが美しくて、一人夢中でシャッターを切っていました。 北海道のガーデナーさんにとっては、この時期はシーズン終盤で、冬支度を始める頃でもあり、植物の苗もお安くなっています。なんといっても本格的な雑貨の品揃えも素晴らしくて、「こんなお店が近くにあればねぇ」とつい呟いてしまいます。 ランチが終わったら、次の目的地はお友達のガーデンです。ここも秋のオープンガーデンはしていませんが、特別に見せていただきました。 秋雨に色を深めるガーデンもいいものです レンガのアプローチや秋色に染まった植物に降る秋雨は、ガーデンの色をいっそう濃く、魅力的に見せてくれる気がします。 「雨のおかげで美しい秋の庭が見られてよかった」と、負け惜しみではなく本心から思いました。 旅の最終日。ホテルの部屋から旭川市内が一望できました。なんとか晴れそうな天気予報です。 旭川での定宿は、駅前のイオンモールの中にある「JRイン旭川」。 若い頃はみんなでワイワイも楽しかったのですが、歳をとるとなかなか疲れが取れないので、最近はシングルのお部屋でゆっくり休むことが多いです。 このホテルは駅に近くて、とっても便利。清潔な客室は居心地がよく、無料のドリンクサービスのラウンジや書籍のコーナーもあります。 最終日、最初の訪問先はダリア咲く銀河庭園へ 最初に向かったのは、恵庭市にある「銀河庭園」。 10ヘクタールという広大な敷地に、イギリスのガーデンデザイナー、バニー・ギネスさんがデザインした多種のテーマがあるガーデンとエリアで構成され、2006年にオープンしました。ここも通い始めて10年。いつ行っても感動を覚える、飽きないガーデンです。 『銀河ウエルカムガーデン』。 入場してすぐに記念撮影できるように、ベンチの周りをダリアが彩っていました。 ダリアは、私の庭の日陰の多い環境だとなかなかうまく育たないので、これまであまり興味がなかったのですが、この時の銀河庭園でのダリアとの出合いが、私にとってその魅力を再発見するきっかけになりました。初夏から咲き始め、真夏は少しお休みして、また秋から咲きますが、カラーバリエーションや咲き方が豊富で、ガーデンに彩りを添えるのはもちろん、抜群の存在感を誇る植物といえるでしょう。 白と黄色と紫の銀河ボーダー。前年からスーパーバイザーとして就任された吉谷桂子さんによるデザインです。 これも素敵、あらこれも可愛い……。どこを見ても、あちこちで咲いているダリアが気になって、なかなか前に進めません(笑)。 秋の植物たちの見所をご案内しましょう ロズビィのバラのコーナーを歩いていて、男前の道具をびっしりと並べたシェッドを見つけました。すっきりと格好よくて憧れます。 枯れたシダがなんともいえない雰囲気を醸し出すガーデン。色づいたノリウツギのピンク色も心なしか濃いような気がします。 ドラゴンガーデンでは白いパンパスグラスに、明るい色のダリアを組み合わせていましたが、それはとにかく鮮やかで美しい! 園内で見かけるガーデナーさんたちは、春の球根の植え込み中で大忙しのようでした。 尋ねてみると「水仙をたくさん植え込んでいます」とのこと。早春の「銀河庭園」もきっと素敵でしょうね。 サルベージガーデンでは、錆びたアイアンのアーチが秋の景色と一体化しています。マルメロの木の下にはピンクのシュウメイギクが咲き乱れて素敵でした。 斑入り葉をバックに、ハッとするような花色と銅葉の見事なコンビネーション。 ボートレースガーデンには枯れたギボウシと青空がよく似合います。晴れてよかったねとお友達もニッコリでした。 ブラック&ホワイトガーデンは、白と赤のダリアで大人なガーデン。借景の素晴らしさも味方につけています。ここにずっと居たくなるのですが、ランチをして移動しましょう。 最終目的地は「イコロの森」 次の目的地には美しい紅葉のトンネルをドライブして向かいます。 「イコロの森」が今回の旅の最終目的地でした。 「イコロの森」は新千歳空港に近く、数日間のガーデンツアーの興奮を沈めて現実に戻るリハビリの場所としてもピッタリです。 秋のバラも少し咲いていました。 枯れた植物やシードヘッドが好きな私には、もはや天国のようにしか思えない景色。 寒い地域だからこそ、こんなに美しく色鮮やかに枯れていく姿が見られるのですね。 芝生の上に、土の上に、模様のように落ちている紅葉を踏みながらの散策は、秋だけのお楽しみです。 傾いた秋の太陽は、思わぬ美しい光をプレゼントしてくれて、この美しさを絵にしたいと何枚も撮ってしまうのです。 閉園時間まで「イコロの森」の秋を堪能して、新千歳空港で美味しい回転寿司で夕ご飯を食べて、この旅はおしまい。 秋の北海道ガーデンを巡る時は 北海道の多くの公共のガーデンは、10月中旬からクローズして冬支度に入ります。 そのため、秋の北海道のガーデンツアーは事前にガーデンの営業日を確認してから出かけるのをおすすめします。また、日没時間も早まりますので、営業時間も短くなります。 早い地域では初雪も観測され、雨も降りやすくなるために雨具は必須です。昼間は暖かい日があっても、夜間など思わぬ寒さに出合うこともありますので、重ね着できる服装がベスト。寒がりの方は手袋を忘れずに。ストールや帽子があれば寒さに対応できるでしょう。 北海道ならではの美しい紅葉と秋のグルメなガーデンツアーにぜひおでかけください。 ●旅の前編はこちらから。 『秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 前編』 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.1万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
-
北海道

秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 前編
新千歳空港から車で出発 今年は新型コロナウイルス流行の影響で、これまで10年間、毎年恒例になっていた夏の北海道への旅も自粛しました。それは、とても残念でした。もし、この先に世の中が落ち着くようなら、秋の北海道への旅を企画してみたいなと考えていたら、3年前に旅した秋の記憶がよみがえりました。夏の北海道もいいですが、秋も格別ですよね。3年前の秋に旅した北海道のガーデン巡りを、2回に分けてご紹介したいと思います。今回は前編です。 10月10日、新千歳空港に降り立ち、レンタカーを借りました。この時は、まず帯広方面に車を走らせたのですが、このルートを選んだら、必ず立ち寄るのが「道東自動車道」の「占冠パーキングエリア」。新千歳空港からは1時間程度の距離です。そこには、「紫竹ガーデン」が監修しているミニガーデンがあって、毎年の楽しみとなっています。 私は車で旅することが多いのですが、各地のサービスエリアやパーキングエリアで、時々ハイウェイガーデンを見つけては立ち寄ることにしています。 NEXCO東日本では、「花と緑のやすらぎ ハイウェイガーデン® プロジェクト」の運営を行っているそうです。それは、"休憩施設園地等を利用しやすく心地よい空間へ転換を図るとともに、地域らしさの創出と地域との連携を目指した「ハイウェイガーデン®」を整備し、お客さまにやすらぎと癒しの空間を提供するために推進しているプロジェクト"。 参照サイト:北海道ハイウェイガーデンオープン 占冠パーキングエリアに併設されたこのガーデンは、それほど広くはありませんが、紅葉した山を借景に、秋らしい落ち着いた色彩の趣のある写真を撮ることができました。 ハイウェイガーデンから「十勝千年の森」へ さて、そこから帯広方面へ。 また1時間程度走り、この日の一番の目的である「十勝千年の森」に到着しました。 十勝千年の森の中でも私が一番好きなメドウでは、宿根草が枯れ姿を見せ始めていました。そう、これは私が見たかった、枯れた植物たち。 夏には遠慮がちであまり主張していなかったポタジェも、秋色の背景の中で大株に育ち、鮮やかに引き立っていました。 そして別の場所では、真っ赤なダリアを贅沢に使ったアレンジやパンプキンが。農家の一角を思わせる、秋らしい素朴なディスプレイ。 アスターはたくさんの種類があるので、名前を特定できませんが、上写真右は、アスター‘レディ・イン・ブラック’でしょうか? この季節のガーデンには、とても効果的な植物ですね。 人気も少ないガーデンで、エゾシマリスにも遭遇して撮影ができました。 この日の宿は、ここ数年必ず宿泊する帯広の「森のスパリゾート北海道ホテル」。 帯広駅からは少し外れますが、市街地とは思えないほどの豊かな緑に囲まれた静かなホテルで、芝生が美しい中庭を見ながらの朝食が楽しみの一つです。 「上野ファーム」を目指して旭川方面へ 10月11日、この日は一路旭川へ。 帯広から旭川は所要時間3時間ほどで、夏季は途中で富良野の「風のガーデン」を経由したりするのですが、秋は日没が夏より2時間ほど早いので、先を急ぎます。 ちなみに、夏の日の出は4時前なので、早起きが得意な方にとっては活動時間がとても長くて、一日を有効に利用できます。 道中に見つけたカフェ。屋根の色と紅葉が美しくて、パチリ。車窓からの風景も存分に楽しみましょう。 「上野ファーム」に到着したのは午後でした。 夏の喧騒はここにはもう無く、カラフルだけど、しっとりとした秋色の植物が迎えてくれました。 ミラーガーデンのボーダー(写真左)は、紅葉した白樺を背景に、アスターなどが彩りに。また、パープルウォーク(写真右)では、三尺バーベナの花がのびのびと風に揺れていました。 ノームの庭の秋は、黄金色! フウチソウの底力を見せつけられた気がします。 枯れ色の中に白いシュウメイギクのボリュームがダイナミックで素晴らしい。 ダイブしたくなるくらい可愛いアスターの一群。 フウチソウとルドベキア‘ヘンリーアイラーズ’の黄花のコンビネーションもよく似合っていますね。 そして、ここにもアスターの大株が! これだけのボリュームで咲いているものは、日本では多分北海道でないと見られないのではないでしょうか? こうして見ると花の数は少ないですが、私は花がたくさん咲き誇っている景色よりも、この時期の紅葉した葉や枯れゆく草姿のほうがむしろ美しいと思うのです。 個人庭を見学後、B&Bへ 「上野ファーム」を後にして、「秋に行きます」とお願いしてあった個人邸へ向かいました。本当は夏しか公開していないのですが、そこは長年通い続けたお庭なので、無理を聞いていただいて。 でも庭にいる時間よりも、お部屋の中でおしゃべりしていた時間のほうがずっと長かった気がします。 夏の庭とはまた違う美しさ。秋の庭ならではの魅力がいっぱいでした。 そして、この日のお宿に向かいます。 いわゆるBed and Breakfastですが、美瑛の丘の真ん中に、でも通りからは全く見えない、宿泊者しか入れないロケーションにある人気の蜂蜜色のコテージです。 一日に5組しか宿泊できないので、予約は常にいっぱい! 前年の夏になんとか予約が取れて宿泊したものの、あいにくお天気に恵まれず、夜空が見られなかったのです。またリベンジしようと思い、HPで知らされるキャンセルをチェック。今回はうまくそのキャンセルに滑り込めたので、ここに泊まる日程を基準にして決めた旅でした。 今回宿泊したコテージの外観。しかし、またお天気があやしくて、星空は見られそうにありません。あー、残念。 ディナーは別料金ですが、「古きよき北国の食卓」がテーマのお食事は、ここの農場で取れた北の大地の食材をふんだんに使った、心がこもったお料理です。 できたてをお部屋に運んでいただいて、まるでコテージで暮らしているようにリラックスした空間での楽しい時間を過ごせました。 朝ごはんも、じつはとっても楽しみなメニューで、バスケットに入って届くサラダや温かいスープ、パンを、自分で入れたコーヒーと一緒にいただきます。 北海道に来ると、ついついスケジュールを詰めこんで走り回ってしまいがちですが、このコテージに宿泊する際には、コテージライフを楽しめる、もっとゆったりとした計画でないともったいない気がします。 秋の北海道ガーデン巡り、後半へつづく……。 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.1万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
-
イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】注目のガーデナーが生み出す21世紀のイングリッシュガーデン「マル…
オープンガーデンで大人気 今回訪れているのは、クラシカルなガーデンデザインと表情豊かな植栽で人々を魅了する、マルバリーズ・ガーデンズ。ここは個人邸の庭ですが、英国の慈善団体、ナショナル・ガーデン・スキーム(NGS)のオープンガーデンに参加していて、年に数回、一般公開が行われます。また、庭園独自の一般公開日も設けられていますが、その人気は高く、どちらの日程も発表されるなり、あっという間に予約が埋まってしまうそう。 この大人気の庭園を作り上げたのは、2010年からヘッドガーデナーを務めるマット・リースさんです。彼は、英国王立植物園キューガーデンと、英国王立園芸協会のウィズリーガーデンという、世界最高峰の2つの庭園で経験を積んだ後に、20世紀を代表する名ガーデナー、故クリストファー・ロイドの自邸、グレート・ディクスターで7年間修業したガーデナー。生前のロイドから直に庭づくりを学んだという、貴重な経験を持つ人物です。 「マルバリーズ・ガーデンズ」前編では、マットさんが一から作り上げた、セイヨウイチイの生け垣に囲まれた美しいガーデンルームの数々をご紹介していますので、ぜひご覧ください。 では、庭巡りを続けましょう。 屋敷を彩るテラスボーダー 小さなウッドランドガーデンの木々の間を抜けていくと、アーチの先は明るく開けていました。左奥に屋敷が見え、その脇に、植栽豊かなボーダーが広がっています。 「ここは、先日発売されたガーデン誌〈The English Garden(2019年7月号)〉の表紙になったんですよ。写真は早朝ですね。4月には、別のガーデン誌〈Gardens Illustrated〉でも紹介されました」 屋敷に沿って、敷石の小道と花壇が長く伸びています。石と石の隙間にも緑がのぞいて、ナチュラルな雰囲気。黄色の穂を立ち上げるエルサレムセージ(フロミス・フルティコサ)や、オレンジの花穂のエレムルス、フランネルソウ、ゲラニウム、ユーフォルビアなどが混ざり咲いて、花々の競演は、遠く、奥まで続いています。 イタリア風のレンガ造りの屋敷は、ヴィクトリア朝時代の1870年に建てられたもの。テラスガーデンの植栽が、この屋敷をより美しく見せています。屋敷を背に立つと、花壇の先に芝生があって、その向こうには、パークランド(草原)が遠くまで広がっています。 このテラスボーダーは、マットさんにとって「実験」を行う場。植物の性質を確かめたり、植物同士の組み合わせを試したり、新しいものに挑戦する場所です。たくさんの草花が混じり合う植栽を魅力的に保つためには、頻繁に植え替えを行うなど、こまめなメンテナンスが欠かせませんが、マットさんは労力を惜しみません。さすが、「世界一、忙しい庭」と呼ばれるグレート・ディクスターで修業したガーデナーさんです。 ゲラニウムにジギタリス、バーバスカム、セリンセ、オリエンタルポピー、エリンジウムなど、たくさんの植物が混じり咲くボーダー。それぞれが自由に茂り、ラフな雰囲気が心地よい楽しい一角。左側には、パーゴラがあります。 花壇の中で、オレンジがかった明るい色を添えていたのは、一重のハイブリッドティー、‘ミセス・オークリー・フィッシャー(Mrs. Oakley Fisher)’。これは、マットさんにとって大切なバラなのだそう。なぜなら、名園シシングハースト・カースル・ガーデンを作り上げた、ヴィタ・サックヴィル=ウェストから、マットさんの師匠であるクリストファー・ロイドに贈られ、その後、ロイドからマットさんに贈られたものだから。20世紀を代表する2人の偉大なガーデナーから、新時代を牽引するガーデナーの一人であるマットさんへと託されたバラは、イギリスの庭園史の流れを象徴しているかのように思えます。 マットさんは、師匠ロイドの著書だけでなく、イングリッシュガーデンの基礎を作り上げたウィリアム・ロビンソンや、ロマンチックな植栽を得意としたヴィタ・サックヴィル=ウェストが書き残した本からも、多くを学んできたそうです。 無数の植物がコレクションされたガーデンに圧倒されてしまいますが、まだ他にもガーデンがあるとのことで、次のエリアに向かいます。 対比を楽しむトピアリーメドウ 最初、車で入ってきた時に目にしたトピアリーメドウにやってきました。真っ赤なポピーの咲くメドウに、エレガントなスタイルに刈り込まれたトピアリーがいくつも立っています。赤と緑の色彩が鮮やか! メドウにはワイルドフラワーが咲きますが、時期によっては真っ白な花が咲き広がるなど、色彩が変化するようです。 「ポピーなどが咲く自然なメドウを、人工的なトピアリーと並べることで、対比の面白さを見せているガーデンです。トピアリーの形は、鳥のようにしたいと思っています」 刈り込まれたトピアリーの頂上付近をよく見ると、まだ整形されていないよう。この部分を伸ばして、鳥を形作るのでしょうか。 グレート・ディクスターにも似たスタイルのメドウガーデンがありますが、この庭は師匠のロイドに捧げるオマージュかもしれませんね。 トピアリーメドウの奥には、柵に囲われたニワトリ用のスペースがあって、キュートな小屋が建っています。じつは、これらのニワトリもガーデナーさんたちがお世話しているとのこと。この他に、ヒツジやウシも飼われています。 クラシカルな美しさ ホワイトガーデン どんどん進んでいくと、レンガ塀でぐるりと囲われた、大きなウォールドガーデンにやってきました。扉の向こうに、ホワイトガーデンが見えます。 このウォールドガーデンの中には、英国の有名なランドスケープデザイナー、トム・スチュワート=スミスが、前オーナーのために作った庭がありました。多年草を取り入れた、モダンな要素のある、個性的なデザインの庭だったそうです。 「しかし、私たちはこの場所を、例えば、ウィリアム・ロビンソンが作ったような、ナチュラルな、イングリッシュガーデンの伝統を感じるものにしたかったので、すべて作り直しました」 ウィリアム・ロビンソンは、19世紀後半に活躍した造園家。整形式庭園全盛期の、人工的な庭園が人気を博していた時代に、植物の自然な姿を生かした庭づくりを提唱し、現代に続くイングリッシュガーデンの基礎を築きました。ミックスボーダーやメドウガーデンなど、植物が思い思いに咲き乱れる、イングリッシュガーデンのナチュラルなイメージは、ロビンソンの時代に生まれたものです。 ホワイトガーデンは作り直してから6~7年経ちますが、3年程前に生け垣を足して、エリアを拡大したそうです。人の背丈以上に伸びた白花のバラや宿根草などが、奥に建つガラス温室を覆い隠すように茂っています。 ガーデンの途中に、再び水音の演出を発見。四角く組まれた石の中心から隙間へと流れ落ちる水が底で反響して、涼しげな音が周囲に響いています。 小さな噴水は、全部で4つ。景色に静かな変化を与えています。 エレガントな雰囲気のキッチンガーデン ホワイトガーデンの隣には、野菜や果物、切り花を育てるキッチンガーデンがありました。ツゲの低い生け垣に囲まれて、季節の野菜が整然と育っています。2つの白い構造物は、果樹を育てるための大きなフルーツケージ。他の庭園にあるものを参考に、マットさん自身がデザインしたものだそう。装飾性の高い白いケージときれいに刈り込まれた生け垣が、このキッチンガーデンに優美な雰囲気を与えています。 2棟のフルーツケージの中にあるのは、サクランボの木。収穫が2度できるように、早く実る木と、遅く実る木が、それぞれ1本ずつ植えられています。果実が鳥に食べられないように、ケージはぐるりとネットで囲まれています。 訪ねた時は、ちょうど、サクランボが実っていて、足元には、イチゴが広がっていました。2段ベッドのような、効率的な空間の使い方ですね。 「2010年にここをオーナーが買い、その2~3カ月後に私は雇われ、それ以来、すべての植栽やデザインを行ってきました。これまでいろいろ手を加えてきましたが、これからももっと変えていきます。プロジェクトがたくさん待っていますが、まだまだ新しい植栽法にチャレンジして、植え込みも毎年変化させていく予定です。日本は幾度か行きましたが、北海道の庭はまだ見たことがありません。クマに遭遇しないように気をつけながら、いつか行ってみたいと思っています」 マットさんは最後に、未来の庭への思いをそう話してくれました。 ホワイトガーデンとキッチンガーデンが接する地点には、向こうまでずっと続く、緑のトンネルがありました。花は終わっていましたが、キングサリのトンネルのようです。長さを尋ねてみると「80mかな」と、あまり気にしていない様子。黄金色の花が満開の頃、ここにはどんなゴージャスな景色が現れるのでしょう。 マルバリーズ・ガーデンズの庭巡りを終えて、同行した北海道上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、このように話していました。 「マルバリーズはインスタグラムで見つけたガーデンで、書籍などでも情報を得ていましたが、これが初訪問となりました。インスタでは分からなかったことも見ることができて、非常に勉強になりました。 日本では、一年草は植え替えることが定着していますが、宿根草については、一度植えたら抜いたり移動したりしてはいけない、という意識が強いですよね。(でも、ここでは宿根草も植え替えていて)イギリスに来る度、マットさんのような、果敢にチャレンジするガーデナーたちの姿を目にして、私も多くの刺激を受けます」 「帰国したらすぐに植え替えたいもののイメージも、もう頭の中にあります。よく、宿根草は植え替えちゃいけないんですか? と訊かれますが、色合わせに失敗したなとか、もう少し色を足したいな、と思う場合は、一年草でも宿根草であっても、根がダメージを受けやすいものを除いて、春や秋のタイミングで植え替えていくのは、庭にとって非常に大切なことです。マットさんも、庭の成長とともに植栽を変えていくことが、いちばん面白いことだと話していました。ガーデン雑誌でもまだ十分に紹介されていない最新のガーデン、見せていただけてよかったです」 イギリスの庭巡り、残念ながら2020年は中止となりましたが、またいつか訪れて、ガーデナーさんたちの交流によって庭が進化していく様子を、ガーデンストーリーでお伝えすることができたらと、強く願っています。
-
イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】注目のガーデナーが生み出す21世紀のイングリッシュガーデン「マル…
緑の壁に囲まれた美しいガーデンルームの数々 ロンドンから車で西に向かい、1時間半ほど。庭園はハンプシャー州、ニューベリーの町の近くにあって、近隣には、人気のテレビドラマ『ダウントン・アビー』の撮影が行われた、ハイクレア・カースルがあります。 車が敷地内へと進み、まず目に入ってきたのは、真っ赤なポピーがトピアリーの間を埋め尽くす、鮮やかな景色! 目が釘付けになって、庭への期待がぐんと高まります。 車を降りると、ヘッドガーデナーのマット・リースさんが出迎えてくれました。マットさんは、英国王立植物園キューガーデンと、英国王立園芸協会のウィズリーガーデンという、世界最高峰の2つの庭園で経験を積み、その後、20世紀を代表する名ガーデナー、故クリストファー・ロイドの自邸、グレート・ディクスターで7年間修業し、腕を磨きました。生前のロイドから直に庭づくりを学んだという、貴重な経験を持つガーデナーです。 マルバリーズのオーナーがこの地所を購入したのは、2010年のこと。マットさんは、それからまもなくしてヘッドガーデナーを任されました。 「私がここに来た時、敷地の西の端には、以前からのウォールドキッチンガーデンがありましたが、それ以外は、サッカーグラウンドがあるだけでした。そこから、すべてのガーデンを新しくつくったのです。1年目は何もせず(といっても、観察したり、計画したりはしていたのでしょうが)、2年目以降は、そのウォールドキッチンガーデンと、少し離れたところに建つ屋敷を繋げるために、どんな庭をつくるかという課題に取り組みました」 マットさんは、オーナーとともに数々の名園を見て回り、どんな庭をつくるべきか検討を重ねました。さまざまな庭を見るうちに、目指すべき方向性が定まります。それは、「きちんと整った構造物の中で花々が豊かに咲く、イングリッシュフラワーガーデン」でした。マットさんは、オーナーの意向に沿いながら、自ら庭をデザインし、そして、セイヨウイチイの高い生け垣という「整った構造物」で囲われ、それぞれに異なるテーマを持った、魅力溢れるガーデンルームをいくつもつくり上げてきました。その「部屋」に入るたびに、玉手箱を開けるような楽しさがあります。 現在、マルバリーズの庭は、マットさんに加えて、4人の専任ガーデナーと学生さんによって維持されています。敷地の総面積は10エーカーですが、その多くは森や草原(パークランド)で占められています。マットさんが、庭園の各エリアを一緒に巡りながら、丁寧に案内してくれました。 ネプチューンに守られる水の庭 まず最初に入ったのは、コッツウォルドストーンを使った、優美なデザインの石塀に囲まれたエリアです。緑の芝生が広がり、その中央に、細長い池のような窪みが見えます。近づくと、チョロチョロと水の音が聞こえてきます。 窪みの中は細長い水路になっていました。左右から細く噴き出す水が、カーブを描きながらその中に注がれ、静かな水音が、窪みの空間に反響して聞こえてきます。 「この庭は6年前に、何もないところからつくられました。他のガーデンとは異なるスタイルで、植物の数を抑えて、構造物を生かしたウォーターガーデンとなっています。中央の長方形のスペースの下には水が流れていて、この水位を調整すると、反響する音が変わるようになっています」 「海洋の神ネプチューンの彫像と、グロット(少し窪んだ石組みの壁部分)のデザインは、2年前に追加しました。彫像は現代のもので、友人の彫刻家スティーブン・ペティファーが手掛けました」 芝生や木の葉の緑が主体の庭ですが、グロットの壁面や石塀には、‘メグ’や‘ニュー・ドーン’といったバラによって、ささやかな色が添えられています。 「庭のデザインに水を用いるアイデアは、京都に4週間滞在した時に出合った、小さな滝といった、水の音の演出から得ました。静かな空間にさらさらと水が流れる、そのサウンドに惹かれたのです」 マットさんは知日家で、京都をはじめ、日本各地を何度も訪れているそうです。 一方、細長い水路のデザインは、スペインのアルハンブラ宮殿の庭にインスピレーションを得たものだそう。 「いずれ、水辺の両側に植えた樹木は、丈高く、空を隠すくらいまで伸びて、枝葉のトンネルの中に水が流れているような景色になる予定です。これらの樹木は‘白普賢(シロフゲン)’という、日本の八重桜。アーネスト・ウィルソンが1910年に日本から輸入した桜です」 グロットの周辺には多少の色があるものの、緑を基本に構成されたシンプルな庭です。低く仕立てられた木々の下で、繊細に弧を描く水のラインが、緑に引き立ちます。それは、初めて目にする景色でした。サクラが満開の頃や、花散る頃の景色も、きっと幻想的で、美しいのだろうなと、想像が膨らみます。 いつまでも水の音に耳を傾けていたいところですが、次のエリアに進みましょう。 炎の色彩 ホットガーデン 先ほどとはテイストが変わって、こちらは植栽豊かなエリア。長方形の庭の2つの長い辺に沿って、奥行きのある花壇が伸びています。この花壇は、盛夏に向けて、トリトマ、ルピナス、ヘレニウムなど、赤やオレンジの鮮やかな色の花がどんどん咲いていくので、「炎の花壇(フレイム・ボーダー)」と呼ばれているそう。訪れたのは6月で、まだ少しおとなしい色彩でした。夏真っ盛りの様子も見てみたいものですね。 「ここは完全なミックスボーダー(混植花壇)で、樹木もあれば、灌木や宿根草、一年草もあります。そして、このポピーのように、勝手にこぼれ種で生えてくるものもあって、それらも生かしています。花壇を目にした時に面白いと思ってもらえるように、隣り合う植物が対照的な姿になるように計算して。例えば、尖った葉の横には丸い葉を、というように。形も色も対比させて、楽しめるようにしています」 「花壇の植物はどんどん育っていきますから、全体的なバランスが悪くならないように刈り込んでいます。また、花が咲き終わったら、スポットごとに次のシーズンの花へと変えていきます。例えば、ここには4月はチューリップが植わっていましたが、6月の今はルピナスがあって、次はダリアとなります。植え替えをする時は、宿根草でも多年草でも、完全に抜いてしまいます。抜いたものは、株分けすることもあれば、捨ててしまうこともあります」 銅や紫、ライムグリーン、赤……。色や形のさまざまな植物が隣り合って、生き生きと茂っています。 さて、先を見ると、小道が別の庭へと続いていて、奥のほうに置かれた彫像が見えます。 振り返ると、先ほどのウォーターガーデンから通ってきた小径があって、奥にネプチューン像が見えます。 左を見ると、遠くに可愛らしいニワトリ小屋が。 そして、右を見ると、これから向かう、池のある庭があります。 このホットガーデンは、いわば、十字の交差点の上に置かれている庭。四方向に小道が伸びて、それぞれ別の庭へと繋がっています。背の高い生け垣で囲われている庭ですが、四方向にある開口部は遠くまで視線が抜けて、メリハリのあるデザインとなっています。 水面を楽しむポンドガーデン さて、ホットガーデンから次の庭へ進むと、静かな水面が広がっていました。大きな長方形の池のある、ポンドガーデンです。 「ここも、大きなカシノキ以外は何もない、まっさらな場所でした。この庭の見どころは、池の水に映る影。水面に映り込む、周囲の植物の姿を楽しむ庭です」 池は四方を豊かな植栽で囲まれていて、その変化に富む植栽が水面に映ります。風がなく、艶やかな水面に映る草木のシルエット。ガーデンには静けさが漂います。 池の畔では、水の妖精、ニンフが水面を見つめていました。 さて、ぐるりと池を一周したら、隣のエリアへ向かいましょう。 オーナー夫人好みのクールガーデン 「ここは、清涼感のある寒色でまとめた、クールカラーガーデンです。オーナーは暖色(ホットカラー)が好きで、夫人は寒色(クールカラー)が好き。そういうわけで、先ほど見ていただいたホットガーデンと、このクールガーデンがつくられました」 「ここの花壇も、先ほどと同じように、樹木、灌木、宿根草などが混じり合った、ミックスボーダーです。また、ここでも、このルピナスが終わったら、次はサルビアという風に、植物を植え替えています」。 マットさんは、植え替えの労力を惜しまず、ベストの状態の美しい花壇を保とうとします。その姿勢は、おそらくグレート・ディスクター仕込みでしょう。師匠のクリストファー・ロイドも、美しい植栽を求めて頻繁に植え替え、「実験」を繰り返した人物でした。 株全体が青く染まるエリンジウムやサルビア、ゲラニウム、アリウムなどが青紫の色を添え、優しいトーンでまとまっていました。その他に、この庭では、アイリスやカンパニュラ、デルフィニウム、フロックス、アザミ、ワレモコウの仲間、カラマツソウの仲間などが使われています。 「花壇には、日本のカエデ ‘獅子頭(シシガシラ)’も植わっています。秋になるときれいに色づきますよ」。 心穏やかに、一つ一つの植物をじっくり眺めていたいエリアです。 太古の森のようなスタンプリー 砂利道をしばらく行くと、巨木が葉を伸ばし、濃い影を落としています。小さなウッドランドガーデンへと入っていきます。 進んでいくと、木の切り株がワイルドな雰囲気を醸し出す、スタンプリーがありました。スタンプリーとは、19世紀のヴィクトリア朝時代に生まれた庭園スタイル。切り株(スタンプ)を置いた、いわば「切り株園」で、プラントハンターによって英国に持ち込まれた、シダ類を栽培するのに適していました。 「この切り株には苔が生えていますが、これは屋久島のイメージです」 屋久島まで足を伸ばしたことがあるという、マットさん。ここは、イギリスにいながら、遠い日本での旅の記憶が蘇える場所なのかもしれませんね。このスタンプリーがつくられ始めたのは2015年ですが、もう苔が広がって、太古の森のような、長い時間が経過した雰囲気があります。苔がきれいに生えているのは、ミストシャワーが設置されていて、湿度が適度に保たれているからなのでしょう。 幹や根が折れていたり、曲がっていたり。そのワイルドなフォルムに、クサソテツやシダなどの緑が着生して、エキゾチックなイメージです。シダの中には、マットさん自身がヒマラヤで採取した、貴重なものもあるそうです。 さらに進むと、なんと大きな白い花でしょう。おばけモクレン? 「葉っぱの裏がビロードみたいに美しいね。ホオノキの仲間だよ、ほら見てごらんよ」と、マットさんが木を引き寄せたら、花茎が折れてしまいました。 同行していた、北海道・上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんのお顔より大きな花! 「すごいおっきいね!」日本にはない植物に、庭散策は盛り上がりました。 *『マルバリーズ・ガーデンズ』後編に続きます。
-
群馬県

「中之条ガーデンズ」の魅力、苦労話、メンテまでバラの専門家・河合伸志さんにインタビュー!
河合伸志さんにズバリ質問! 感動分岐点を超える「中之条ガーデンズ」の魅力 群馬県中之条町にある「中之条ガーデンズ」には、冷涼な気候を生かした、バラや植物の生き生きとした色彩に目を奪われる美しいバラ園があります。このバラ園の植栽デザイン・管理指導は、「横浜イングリッシュガーデン」のスーパーバイザーも務めるバラの専門家、河合伸志さん。そんな河合さんに、バラ好きさんなら一度は訪れたい、「中之条ガーデンズ」の魅力を伺います。 Q. 全国の美しいガーデンの中でも、「中之条ガーデンズ」ならではの魅力は? 「中之条ガーデンズ」の魅力は、なんといっても一つのバラ園の中で、違った景色を散策しながらいくつも楽しめることですね。各地にあるバラ園の多くは、入り口で全体を見通せることがしばしばです。これはこれでスケールを体感できてよいのですが、全てが一度に見えてしまうため、奥まで行く楽しみが半減します。ですが、この「中之条ガーデンズ」は、あえて小さな庭に分け、入り口からは全てが見渡せないようにしたことで、園路を進む楽しみがあります。これは中之条ガーデンズ全体のランドスケープを担当した吉谷博光さんと私の考えによるものです。 また、バラと合わせるアーチなどの構造物は、すべて吉谷博光さんデザインのオリジナルで準備しました。「美味しい料理は美しい器に美しく盛り付ける」というのが私の考えですが、「中之条ガーデンズ」では、最高の器を準備できたと思っています。ぜひ、バラと構造物とのハーモニーも楽しんでいただきたいです。 Q.「中之条ガーデンズ」のコンセプトを教えてください! じつは、このガーデンには明確なコンセプトがありません。「中之条ガーデンズ」の「ガーデンズ」とは、いくつかの庭が集まっているという意味合いで、ガーデンズ全体のプロデュースは、「あしかがフラワーパーク」の大藤の移植でも知られる樹木医の塚本こなみさんが行っています。私がどのようなコンセプトでバラ園をつくればよいかと塚本さんに尋ねたところ、「感動分岐点を超えるものにしてください」と言われました。ですので、強いて答えるならば、「感動分岐点を超えるバラ園」でしょうか。 Q.「中之条ガーデンズ」で見逃さないでほしい見どころスポット&個人的なお気に入りスポットはどこでしょうか? 「中之条ガーデンズ」の一番の見どころは、やはり満開に咲くバラのガーランドでしょう。開花のピークは、一年にほんの数日間ですが、この最高に美しい瞬間を見ていただきたいです。特に奥の八角形のガーランドのエリアは、サークル・ベンチに座ると、まさに四方をバラに囲まれ、より芳しいバラの香りが漂います。「中之条ガーデンズ」を訪れたら、ぜひこのベンチに腰掛けて、瞼を閉じて思いっきり香りを吸い込んでみてください。至福のひとときが味わえることと思います。 ガーランドのあるエリアでは、ガーランドの柱の縦ラインを生かすため、あえて樹木はファスティギアータ(箒性)のものを選んでいます。バラの美しさはもちろんですが、背景の樹木にも目を向けていただけると、よりこのガーデンを楽しめますよ。 河合伸志さんが語る 「中之条ガーデンズ」の制作&管理秘話 「中之条ガーデンズ」に、河合さんが主なバラや樹木などを植え付けたのは、2018年7月のこと。それから、2020年6月現在の美しい姿になるまで、約2年弱。この間、ガーデンをより美しく管理・維持するために、ガーデナーや町の職員さんたちは日夜さまざまな作業を続けてきました。また、「中之条ガーデンズ」のある群馬県中之条町は標高が高く、冷涼な気候が特徴で、平地のガーデンとは異なる品種選びや管理が必要です。そんなガーデン制作や管理の裏側のエピソードを、少しだけご紹介します。 Q. 河合さんがスーパーバイザーを務める「横浜イングリッシュガーデン」と比べて、異なる点はありますか? 大きく異なるのは、バラの品種選びの基準です。「中之条ガーデンズ」ではバラの品種を決めるに当たり、それぞれのエリアの景観イメージにマッチすることを第一に優先して選びました。次に基本的に四季咲き性の品種で、しかも可能な限り秋の開花数が多いことを考慮しました。従ってオールド・ローズは一部を除き植栽していません。一方の「横浜イングリッシュガーデン」では、バラはコレクションの意味合いも持たせているため、性質が弱いものや、秋には咲かない品種、花数が多くない種類なども含み、歴史上意味のある品種や、コレクションとして価値があるものであれば植栽しています。それぞれのガーデンのコンセプトに合わせたバラを楽しんでいただきたいと思います。 また、当たり前ですが気候の差を考慮し、寒さに弱い植物は中之条では使用していません。逆に多少耐暑性に欠けているものでも、このガーデンでは見ることができます。 Q. 美しい景観を守るための、病害虫対策はどのようにしていますか? この景観を薬剤散布なしでつくり出すことは難しいため、多いシーズンでは1週間に1回のペースで薬剤を散布しています。地域的に、春と秋はベト病の問題がありますし、バラは景観のイメージに合うことを重視して選んでいますので、黒星病やうどんこ病に弱い品種も植栽されています。この春もベト病が発生してしまい、一時的に危機的な状況に陥りました。幸い、病葉の摘み取りと薬剤散布によって、かろうじて首の皮一枚で何とか持ち直しましたが…。 Q. ガーデンの制作・管理にあたって、想定外だったことや困ったことはありましたか? 標高の高い山間部にある「中之条ガーデンズ」は、そもそも平地よりも生育期間が短く、さらには冬の寒さが厳しいため、バラは品種によってはおおむね8月までに生育した枝しか越冬できないことが分かってきました。9月以降の枝は未熟(十分に光合成できていない)なうちに冬を迎えるので、厳しい寒さに耐えられないのです。そのため、平地ではつるバラとして扱える品種でも木立ち性として扱えることもある反面、つるバラとしては伸長力不足の場合もあります。また、山沿いの地域のため夜露が発生しやすく、平地ではめったに発生しないベト病に悩まされています。 また、寒さが厳しいため、常緑広葉樹は種類を選ばないと越冬できないようです。トキワマンサクやセイヨウヒイラギ‘サニー・フォスター’はギリギリ越冬できていますが、ヒメユズリハは寒さで枯死してしまいました。ツバキやヒラドツツジなども、防寒をしても多少の傷みが発生します。今後周囲の樹木がもう少し大きく生育し、完全に樹下に入ればそこまで傷まないのかもしれませんが…。一方、ヤマボウシ‘ヴィーナス’などは、平地では見ることができない本来の特性が存分に発揮され、人目を惹き付ける巨大な花を咲かせています。これは「中之条ガーデンズ」の気候ならではですね。横浜での姿しか見ていなかった「横浜イングリッシュガーデン」のガーデナーなどは、その姿を見て平地での限界を嘆いていました。 下草類では、ヘデラは場所と品種を選ばないと越冬できません。また耐寒性がある宿根草でも、秋植えでは枯死してしまうことがあり、品種によっては早春植えにする必要があります。半面、夏がやや涼しく短いため、平地では夏越しできない植物も生き残っているようです。中にはリグラリアや黒葉のクローバーのように平地で管理するよりも大きく育ちすぎ、株数を減らさなくてはならないほど旺盛に生育するものもあります。 河合伸志さんからアドバイス! 自宅のガーデニングに生かせるアイデア&テクニック集 美しいガーデンを堪能したら、自宅の庭にも生かせるガーデンづくりのコツを知りたくなるのがガーデナーの性。「中之条ガーデンズ」をお手本に、美しいガーデンをつくるためのポイントやテクニック、おすすめの植物の組み合わせについて、河合さんにアドバイスをいただきました。さっそくチェックして、自宅のガーデンで実践してみましょう! Q.「中之条ガーデンズ」に使われているテクニックの中で、個人の庭で実践できることを教えてください! 「中之条ガーデンズ」では、バラの組み合わせで、枝変わりの品種を上手に用いているシーンがあります。枝変わりの品種のうち、色違いのパターンは、花色以外の特性が同じなので、株姿や咲く時期などがピタッと揃い、理想的な景色になります。異品種でこの演出をしようとすると、なかなか相性のよい品種を見付けることが難しいのです。例えば自分の庭でアーチにバラを植える場合、同様に枝変わりの品種を合わせるテクニックを用いると、開花や咲き姿が揃った見事なアーチを作ることができます。 色違いの花が咲く枝変わりの品種の具体例には、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘ル・ポール・ロマンティーク’、‘サマー・スノー’と‘春霞’、‘珠玉’と‘玉鬘’、‘レオナルド・ダ・ヴィンチ’と‘アントニオ・ガウディ’などがあります。ぜひ参考にしてみてください。 Q. ガーデニングを始める人へ「イメージ通りの庭をつくるための、はじめの準備」のアドバイスは? 最初に、庭のイメージに合う植物がどのような性質(開花期や生育の早さ、好む環境など)のもので、どのように姿を変化させながら生育していくかを、ある程度知っておくことが重要です。簡単なようにも思えますが、決してそうではなく、地域によって大きく変わりますし、たとえ同じ庭の中であっても、微細な差で育つ場所もあれば、そうでない場合もあります。ネットや書籍、地域のガーデンの見学などをしながら調べましょう。もっとも、こうして厳選した植物で計画を立てても、それだけでパーフェクトなものはできません。後は状況に応じて手直しをして、よりイメージに近づけていきます。 近年のガーデニングでは即興の寄せ植えやハンギングなどが人気です。これらはイメージに合った植物をその場で選び、すぐに完成しますが、庭はそんなに短期間でできるものではなく、少なくとも1年以上かけてつくり上げていくものです。単純に見た目で選び、枯れたらまた植え替えればよいという発想からまず脱却することが、イメージした庭をつくるための近道かもしれません。 Q. 魅せるガーデンづくりで押さえるべきポイントは? ガーデンの設計図は、通常上からの方向で作成されていますが、実際の庭での人の視線は横向き。そこで、まずは現場をしっかりと自分の目で把握し、空間全体を摑むことが大切です。どこにポイントとなるものを置くべきか、そのポイントはどの程度の大きさのものがよいか、どこに園路を設けるべきかなどを考えていきます。ポイントを樹木など植物とした場合、成長に伴って変わっていくその将来像を見据える必要もあります。このようにして、ガーデンデザインの骨格を最初に決めます。 次に、具体的な植物を配置する際には、色彩計画をしっかり立てておくことがポイントです。特にバラのように派手な花は、あれこれ色を混ぜると目がチカチカするような印象になり、今一つまとまりがなくなります。一番簡単なのは、同系色でまとめる方法。慣れてくれば反対色を上手に使用したり、トリカラーなどの組み合わせにチャレンジするのも一案です。また、色と同時にポイントとなってくるのが形状です。隣同士に同じ形状のものがひたすら並ぶと、凹凸のない公園のサツキの植え込みのようになってしまいます。なるべく異なる形のものをバランスよく並べて、変化のある景観を目指しましょう。なお、植物の配置の際は、図面では気付きにくい植栽地の背景や、樹陰の裸地など、見落としがないかの確認もしましょう。 Q. バラと合わせるおすすめの組み合わせを教えてください。 ガーデニング初心者向けのおすすめは、定番ですが、オルラヤやシノグロッサム、ネペタ(キャット・ミント)‘シックス・ヒル・ジャイアント’、サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’、ヤグルマギク、ジギタリス・プルプレアなど。このうちシノグロッサムは平地では秋植えするのが理想的ですが、中之条など寒冷地では早春植えにしたほうが無難なようです。 Q. 植物を元気に生育させる秘訣はありますか? 植物の健全な生育の秘訣は、常に植物と向き合うこと。そして向き合いながら、植物に今どのような作業が必要かを感じ、適宜実施していくことです。そして、このことこそが庭づくりの醍醐味だと思います。手入れによって、誰よりもいち早く季節の到来に気付いたり、自分の行った作業でみるみるよくなっていったり。ガーデン作業はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、植物が見せてくれる変化は、管理者に大きな喜びを与えてくれます。庭は設計・施工も大切だと思いますが、もしかしたらそれ以上に管理が重要かもしれないと、私は考えています。 「中之条ガーデンズ」に行ってみよう! 平地での開花が終わってから咲き始める中之条のバラは、涼しい気候のもとで咲くため、平地よりもずっと色鮮やか。中には同じ品種とは思えないほどの変化を見せるものもあります。また開花の早晩の差が平地よりも少なく、一気に花を咲かせるため、ピークがやや短い反面、満開時はとても華やかです。 バラの開花時の「中之条ガーデンズ」は、バラ園はもちろんのこと、スパイラル・ガーデンやパレット・ガーデンも楽しめますので、訪れた際にはぜひ、ゆっくりと時間を取って園内を散策してみてください。 また、中之条町には泉質が高く名湯とされる四万温泉や沢渡温泉などの観光スポットもあります。時間に余裕のある方は、1泊してたっぷりと楽しむのもおすすめです。同じ群馬県内の草津や伊香保の他、長野県側の軽井沢や上田方面にも抜けられますので、週末の小旅行に訪れてみてはいかがでしょうか? ●7つの景色が楽しめる新ローズガーデン誕生!「中之条ガーデンズ」に行ってみよう!
-
佐賀県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪22 佐賀「グミノキ」
のどかなエリアにある 地域密着型の癒やしのショップ 佐賀県の西部に位置する武雄市。ここは、1,300年以上の古い歴史をもつ武雄温泉で有名です。「グミノキ」は、そんな温泉の風情漂うエリアの駅からすぐのところに店舗を構えています。 街道に面した開放感あふれる「グミノキ」は、店舗前に並ぶ色とりどりの草花が目印。植物に興味がない人も、ちょっとのぞきたくような華やかな彩りは、地域の癒やしの空間となっています。 季節の草花に加え、近年注目されているオージープランツやカラーリーフ、果樹など、どれもが庭を表情豊かに演出してくれるようなアイテムばかり。店頭にないものは取り寄せてくれます。 軒下、右手のゾーンは、ワイルドな趣のグリーン売り場。緑のグラデーションが作る潤いに満ちた空間は、植物園にでも来たような楽しい雰囲気です。一方、左手に広がるゾーンは、ドライプランツ類の売り場。こちらも個性あふれるサボテンや多肉植物などがずらり。乾湿、自生地の気候が異なる植物を混在させないメリハリを利かせた展開に、さらに奥の売り場への期待感がぐっと高まります。 庭を飾るアイテム類は、たくさんのグリーンの合間に点在。思いがけないものに出合うような楽しみがあります。これは、ディスプレイコーナーのアクセントや、鉢のポットフットとして活躍するミニレンガ。右側のスマイルレンガは、グリーンの脇に置くだけで愛らしいと人気のアイテムです。 ショップの‘得意’が詰まった 屋内のインドアグリーン売り場 屋外の売り場とは打って変わって、たくさんの観葉植物と旬の鉢花が並ぶ建物内は、四方から光が差し込むカフェのような空間。充満する植物のエネルギーが、訪れた人を元気にしてくれるよう。 この売り場では‘ギフト’に特に力を入れています。グミノキのスローガンは『日本のおもいやりを増やす』こと。「贈られた人が喜ぶことで、贈った人も嬉しくなるでしょ。だから、もらって嬉しいものを軸に店舗展開しています」と、オーナーの田中治さん。加えて、企業・病院・美容室などに飾ってある植物のメンテナンスにも力を入れており、「生き生きとした植物のエネルギーを、そこで働く人や訪れた人に提供したい」と考えています。 この店は、田中さんが何か地域で役立つビジネスをしたいと思いオープンしました。その当時、このあたりでは植物を販売する店がなく、「武雄の人々の生活に潤いを」という思いで園芸店を選びました。それまで勤めていた園芸店で得た知識と、テーマパークで学んだ‘人を楽しませるためのノウハウ’を生かしながら、店づくりをしています。 インテリア好きな人、贈り物を求めて訪れる人が多いグミノキ。そんなお客様の期待に応えるため、ショップ内には、「上質なビタースイート系植物で、おしゃれで、心地よい時間を演出するもの」という基準で選ばれた植物や雑貨が集められています。 インドアグリーン売り場には、植物に合わせたい、グミノキおすすめの雑貨類がたくさん。シャビーシックやビターなテイストのアイテムが、植物とともに雰囲気たっぷりにディスプレイされています。雑貨を使った植物ディスプレイの依頼も受注しており、いろいろなスタイルに応えられることが評判を呼んでいます。 田中さんのおすすめ。 鉢植えの土をカバーするアイテム 観葉植物を飾る際に、気になるのが土。大きな鉢ほど土の存在が目立ってしまいがちで、場合によっては不潔感や無粋な印象を与えてしまうことも。そんな土をカバーするのにおすすめなのが、「バーク」や「クルミの殻」、「ヤシの実のチップ」などのナチュラルな化粧材。自然素材なのでインテリアともなじみやすく、悪目立ちしません。カップ1杯・少量から販売しています。「どれを選ぶかは好みですが、植物とのベストマッチを狙うなら、ぜひご相談くださいね」。 のどかなエリアに彩りを添える地域密着型の園芸店・グミノキ。「町の癒しと笑顔づくりの場に」という田中さんの強い思いが込められたショップです。最近は、田中さんが気に入ったアート(絵画)をインドアグリーンと一緒に展示して、サブスクリプション(一定期間、定額で利用できる)スタイルを導入。気軽にアートに触れながら植物を楽しんでもらうための、新たな取り組みです。たくさんの提案が詰まった「グミノキ」。武雄温泉と併せて是非訪れてみてください。アクセスは、JR長崎本線佐世保線・武雄温泉駅から徒歩で約3分。 【GARDEN DATA】 グミノキ 佐賀県武雄市武雄町昭和40-2 TEL:0954-28-9144 10:00~18:00 祝日:火~金曜日 http://www.guminoki.net/shop.php Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
-
イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】「グレイブタイ・マナー」〈後編〉イングリッシュガーデンの源流を…
緑の丘に広がるワイルドガーデン ロンドンから南へ50km。ウェスト・サセックス州の美しい田園風景に囲まれたグレイブタイ・マナーは、現在は高級カントリーサイドホテル、そして、ミシュランガイドの一つ星を獲得したレストランとして知られています。屋敷の周りに広がる35エーカー(約14万㎡)のガーデンは、宿泊かレストランのゲストのみ見学ができます。 ウィリアム・ロビンソンについては、『グレイブタイ・マナー』前編にて詳しくお話しているので、ぜひご覧ください。この後編では、屋敷の周りに広がるガーデンを散策していきます。歴史的なキッチンガーデンで採れる食材を使った、美しいお料理もご紹介しますよ。 それでは、ガーデンツアーを始めましょう。16世紀の屋敷は南を向いた丘の斜面にあって、屋敷前には、芝生と花壇からなるフラワーガーデンがあります。その外周には、屋敷を囲むようにメドウと果樹園が広がっていて、そして、丘のてっぺんに、大きなキッチンガーデンが待っています。 グレイブタイのヘッドガーデナーを務めるのは、名園グレート・ディクスターで腕を磨いた、トム・カワードです。彼は、園芸史に名を残す文化遺産、グレイブタイの管理者として、「ロビンソンにも満足してもらえるような」進歩的な庭づくりを行っています。 屋敷を囲む塀の外側には、赤いポピーやヤグルマギク、フランネルソウ、バーバスカムなどが植わっています。後ろのほうには、丈高いアーティチョークや黄花のディルなどがあって、ダイナミックな、動きのある植栽です。このような、宿根草や灌木などいろいろな種類の植物が混在するミックスボーダーのスタイルを生み出し、一般に広めたのも、ロビンソンです。 ここがメドウガーデンの始まり 塀を背に南側を向くと、眼下にメドウが広がり、その先には湖と森が見えます。100年以上前のこと、ロビンソンは周辺の森や牧草地、1,000エーカー(約4㎢)を所有していました。現在、その土地は慈善団体によって管理されていますが、おそらく、ここに見える草原や森までも彼のものだったのでしょう。 ロビンソンは、森のはずれや森の中の空き地、牧草地や湖の周りに、耐寒性のある外来種の球根花や植物を植え、それらを帰化(野生化)させて、イギリスの在来種と一緒に、自然で美しい景色を作ることを試みました。彼が「ワイルドガーデン」と名付けた庭づくりで、それは当時の園芸に対立する、全く新しい概念のガーデニング法でした。ロビンソンは、この湖の周りにも、イベリア半島原産の小さなスイセンを10万球植えたと伝えられますが、春になると、それらは今も咲くのでしょうか。 こちらは、もう少し丘を上った、果樹園の区画に広がるメドウです。これらのメドウは、グレイブタイのワイルドガーデンを形作る、最も大切な要素です。ロビンソンの著書を参考に植栽が考えられ、2月のスノードロップとクロッカスから始まり、3月は黄色いラッパズイセンと青いシラー、4月は野生種のチューリップや北米原産のカマシア、その他の球根花が花開いて、5月になると、イギリスの野生の花々が夏の終わりまで咲き続けます。私たちが訪れた2019年6月は、ワイルドフラワーが咲く景色でしたが、春の球根花の群生も見てみたいものですね。 フラワーガーデンの西の端にある小道から、遠くに屋敷と芝生が見えました。 上ってきた道を振り返ると、左手に、先ほど立っていた、パーゴラの連なる小道が見えます。ロビンソンはその昔、パーゴラに日本原産のフジや、クレマチスを絡めていました。それに倣って、現在、このパーゴラにもフジを這わせています。春になると、頭上から白い花房が垂れ下がり、両脇にブルーのアイリスと紫のアリウムが咲くという、夢のように美しい取り合わせが見られるそうです。 こちらは果樹園のメドウ。広さ2エーカー(約8,000㎡)の区画には、リンゴを中心とする果樹が点在しています。100年以上前にロビンソンが植えた第1世代の木々は、1987年の大嵐でほぼ倒されてしまい、今ある果樹は、1980年代に植えられた第2世代と、現在のオーナーによって2011年に植えられた第3世代の50本だそう。歴史を感じますね。果実はレストランの料理に使われるほか、ジュースにして保存され、ホテルの朝食で提供されます。 丘の中腹に、バラの絡まる、石塀で囲われたベンチがありました。ひと休みできるこのスポットは、そのうちバラで覆われるのでしょう。もう少し丘を上ると、ガラスの温室がいくつか見えてきました。 背の低い温室はコールドフレーム(冷床)と呼ばれる、苗を寒さから守るものです。苗を保管するバックヤードもおしゃれな雰囲気。 中で育てているのはハーブでしょうか。ガラス屋根をずらして通気できるようになっています。 背の高いほうの温室は、ちょっとレトロな雰囲気です。出番を待つ苗が並んでいます。 その先にあるのは、ピーチハウス。桃専用の温室のようで、実がなっているのが見えます。桃を露地で育てるにはきっと涼しすぎるのですね。 広い敷地の中を、パブリック・フットパスが通っていました。パブリック・フットパスとは、イギリスの丘や川辺、牧場などを抜ける公共の遊歩道のことで、このように私有地を通っている場合もあります。私有地は勝手に入ることができませんが、遊歩道上なら歩いてもよいことになっています。こんな美しい緑の中で、ゆっくりウォーキングを楽しんでみたいですね。 丘の上のキッチンガーデン さて、さらに上へ登ると、石塀に囲まれたキッチンガーデンのゲートが見えてきました。ウィリアム・ロビンソンが1898年に建設を始めたというキッチンガーデンです。 これまで英国の庭をいくつか見てきましたが、その中でも最大級のキッチンガーデン! 広さは堂々の1エーカー半(約6,000㎡)。丘のてっぺんの、南向き斜面につくられています。 地面に立っているとよくわかりませんが、上空から撮った写真を見ると、このキッチンガーデンは木の葉のような楕円形という、とても珍しい形をしています。通路は、中央を貫く通路が一本と、そこから左右に枝分かれして、ぐるりと一周できる大きな楕円の通路があって、それらの通路と、野菜の植わる畝の線が、まるで葉脈のように見えます。ロビンソンが木の葉をイメージしたかどうかはわかりませんが、緑の丘に抱かれるようにつくられた菜園に、四角が似合わないと思ったことは確かでしょう。 石塀には、地元サセックス州で切り出された砂岩が使われていますが、当時、この石塀を建ててガーデンを完成させるのに、3年を要したそうです。斜面に建てられているので、階段状の塀になっています。 イギリスの大きなお屋敷では、かつてこのようなキッチンガーデンが必ずあって、屋敷で消費される食料をまかなっていました。しかし、当時の菜園で、今も実際に使われているものはあまりありません。100年前と同じように、同じ手法を用いて作物を収穫できているのは特別なことだと、ヘッドガーデナーのトムは言います。昔ながらの方法でこのキッチンガーデンを使い続けることも、保全活動の大切な一部です。 2012年に、キッチンガーデンの大規模な修復作業が行われて、通路などがきれいに手入れされました。 エスパリエ仕立ての果樹と、菜園には、ハーブや切り花用の花も植わっています。 石塀に誘引されているのはレッドカラントでしょうか。ここでは四季を通じて収穫があり、それらはすべて、レストランの料理に使われます。まさに採れたての鮮度と、風味豊かな食材の魅力を存分に生かすべく、料理は考えられています。野菜などの栽培計画は、レストランのシェフとヘッドガーデナーが話し合って決めていて、シェフも毎日ここに足を運ぶそうです。 この壺のようなものは、ルバーブの遮光栽培をするための、ルバーブ・フォーサーでしょう。使いこまれているので、古いものかもしれませんね。果樹は鳥よけのケージの中に植えられています。 果樹のエスパリエ仕立てには、省スペースや日光を効率よく浴びるといった実用的な側面もありますが、古い石塀を背に枝を広げる姿はただ美しいものですね。さて、キッチンガーデン散策はこれで終わりです。 ゲートを出て、鬱蒼とした木々の間の小道を進むと… 一転して、開けた場所に出ました。丁寧に芝刈りが行われている、クロッケー用の芝生です。ここでは、バドミントンやショートテニスを楽しむほか、読書をしてゆっくり過ごしてもよいとのこと。静けさの漂うクリーンな空間は、ワイルドガーデンとコントラストをなす、ガーデンデザインの上でも大切な要素です。 屋敷周りのフラワーガーデン そのまま進むと、屋敷を見下ろす場所に出ました。見晴らしがよく、遠くまで見渡せます。 屋敷に続く石段を下りていきます。階段脇にもいろんな草花が植わっていて、楽しい! 階段を降りると、突然、古い建物に挟まれる形で、現代的なガラス張りの増築部分が出現しました。レストランに使われている新しい区画で、とってもおしゃれ。 この増築部分を設計した建築家は、30年にわたってレストランの常連客だったそう。だからこそ、素敵な庭のことがよくわかっていて、庭を存分に味わえるように考えたのでしょう。 レストラン脇の斜面は、グラス類やルピナスを使った、他の区画よりモダンで軽やかな印象の植栽。レストランのガラスや新しい白い敷石のテラスによくマッチしています。 レストランのテラスからは、昔からの敷石の小道が続いていて、途中にパラソルのあるテーブル席が用意されています。 庭で草花に囲まれながら、お茶や飲み物を楽しむこともできます。とても贅沢な時間の過ごし方ですね。 ウィリアム・ロビンソンが暮らしていた当時、芝生の生えている4つの区画は、低い生け垣に囲われた大きな花壇になっていて、いろいろな植物が植えられていました。海外からやってきた新しい植物がイギリスのどんな環境に合うのか。どんな植物同士を合わせると美しいのか。ロビンソンはそんなガーデニングの実験を繰り返し、花壇は日々、変化していたそうです。 芝生の中央には、ロビンソンの頃からのものでしょうか、古い石造りの日時計が、素朴なエリゲロンに彩られています。 フラワーガーデンの芝生は、見晴らしがよく、開放感のある空間です。カントリーサイドホテルの醍醐味ですね。 軽やかな明るい花色の中で、渋めの赤が効いた、とても美しい植栽です。春の植栽は、オレンジや赤のチューリップが主役だそう。 これぞ21世紀のコテージガーデン・スタイル。植物が自然に生い茂るような、ナチュラルな植栽ですが、花色に立ち姿、開花期間など、きっと計算されつくしているに違いありません。 ミシュラン一つ星の優雅なランチ 庭めぐりを終えて、いよいよランチの時間です。漆喰の天井飾りが美しい、二階の一室に通されると、イギリスの貴族ドラマに出てくるような長テーブルが私たちを待っていました。お庭からちらりと見えた、一階のガラス張りのお部屋にいた皆さんは、とても優雅な雰囲気で楽しんでらっしゃいました。誕生日や結婚記念日など、特別の機会に訪れるお客様も多いそうです。 窓から庭の緑が見えます。さて、キッチンガーデンで採れる野菜はどんなお味でしょう。料理が楽しみです。 こちらは、特製スモークサーモンに、サワークリームのようなクレム・フレーシュをミルフィーユ状に挟んだもの。上品な甘さのビートと、爽やかな苦味のクレソンが添えられています。 メインディッシュは、マッシュポテトとスプリンググリーンの上に載った子牛のステーキ。肉や魚は地産の最高級のものが使われていて、しっかりとした味わいです。マッシュポテトはぽってりとして、少し苦味のあるスプリンググリーンがアクセントに。デザートのカラメルホワイトチョコレートムースのカカオニブ添えは、地産のハチミツの繊細な甘みが美味しく感じられました。 美しいガーデンと、ミシュラン一つ星のおもてなしに、心もお腹も満たされた、とても幸せな時間でした。
-
千葉県

バラ園は甦る「佐倉草ぶえの丘バラ園」14年目の春の輝き
開園から14年「佐倉草ぶえの丘バラ園」の大事な役割 佐倉草ぶえの丘バラ園は14年前の春、2006年4月29日に開園しました。子どもも大人も楽しめる憩いの空間として、また、散策しながらバラの歴史や文化を学ぶことができる場所としてつくられました。そしてもう一つ、ほかとは違う草ぶえの丘バラ園独自の大切な目的が「品種の保存」です。 貴重な遺伝資源としてのバラを後世に伝える バラの歴史上、重要な役割を果たした原種やオールドローズ、育種にまだ用いられたことはないけれど無限の可能性を秘めている野生種のバラ、日本人の育種家が作り出したバラなど、誰かが守らなければ後世に伝わらなくなってしまう貴重なバラが、ここには数多く植栽されています。遺伝資源としての植物を保存するこのような取り組みは、海外では「リビング・コレクション」と呼ばれます。日々の繊細な管理と個々のバラについての深い知識を必要とするため、維持し続けるのはたいへんな事業ですが、開園以来14年、さまざまな苦労を重ねて、ようやく、草ぶえの丘バラ園には確かな基礎が築かれたところです。現在、佐倉市民の森に囲まれた13,000㎡の敷地に、1,250種類、2,500株のバラを栽培・保存しています。 日本のバラ文化を世界に伝える 草ぶえの丘バラ園は、2008年に世界バラ会連合に準会員として加盟し、2012年に国際へリテージローズ会議をアジアの加盟諸国の中で初めて開催しました。2014年にはアメリカのThe Great Rosarians of the World Programから殿堂入りバラ園として表彰を受け、2015年には世界バラ会連合の優秀庭園賞を受賞しました。バラ園を管理するNPOバラ文化研究所の理事長、前原克彦さんが世界各国のバラのエキスパートと細やかな交流を続けていることに加え、成田空港に近いという地の利もあります。落ち着いた風情を持つ独創的なデザインのバラ園として、ほかにはない珍しいバラが見られる保存園として、また日本のバラ事情の発信の拠点として、海外のバラ関係者にはよく知られた存在となっています。 地域に根付いたバラ園 草ぶえの丘バラ園は、NPOバラ文化研究所に所属する地元のボランティアにより運営されています。50名ほどの登録ボランティアが週1回、それぞれ曜日を決めて園内の作業にあたります。さまざまな構築物、アーチ、スクリーン、パーゴラ、ゲートや園路まで、すべてがボランティアの手作りです。暑い夏も寒い冬も、草取り、花がら摘み、剪定、誘引、施肥など、季節によってはかなり辛い重労働もありますが、楽しみ、学びながらバラ園を支えています。春の花のシーズンには毎年、「佐倉フラワーフェスタ」の一環として「ローズフェスティバル」を開催し、来園者の皆様にガーデンコンサートなども楽しんでいただいてきました。 台風による壊滅的な被害 その草ぶえの丘バラ園が、昨年(2019年)9月9日の台風15号で、壊滅的な被害を受けました。バタバタと倒れたスクリーンやパーゴラ、それらの構造物に引っ張られて根が地上にむき出しになってしまったつるばらや、倒れた木材で押しつぶされたたくさんのバラを見たときには、さすがにこれは立ち直れないかもしれないと、その場に立ち尽くしてしまいました。被害の詳細は、当サイトに2019年9月19日に公開された『千葉県佐倉市「佐倉草ぶえの丘バラ園」復興を願って緊急レポート』で、今井秀治さんが伝えてくださった通りです。 クラウドファンディングによる募金活動 私自身はそう頻繁にバラ園に通うことはできないので、何かできることはないかと思い悩んでいたところに、カリフォルニアのバラ園のグレッグ・ラウアリーさんから、クラウドファンディングを勧められました。「Yuki, I know the world community of rose lovers will step up to donate to a fund to repair the damage. Sakura belongs to all of us who know it and want to visit it.」訳しにくいのですが「ユキ、バラへの愛で結ばれた世界中の人々は、バラ園復旧のために喜んで寄付すると思うよ。佐倉草ぶえの丘バラ園は、それを知る人と、いつか訪れたいと思っている人すべてのものなんだから」。 クラウドファンディングの経験はなかったので、いろいろ調べることになりましたが、よいサイトが見つかり、募金活動<佐倉草ぶえの丘バラ園を台風15号の被害から立ち直らせよう!>を、10月4日に立ち上げることができました。 台風ふたたび 募金期間が始まってすぐの10月12日、台風19号が再びバラ園を襲いました。15号より軽傷でしたが、せっかく修理した巨大なウィーピング仕立てのロサ・バンクシアエ・ノルマーリスの支柱や、前回は無事だった佐倉堀田邸ミステリーローズのフェンスが倒れました。直すならもっと頑丈な作りにしなさい、と言われたような感じでしたが、さすがにがっくりです。 もう台風は来ないで、と思っていたところにさらに10月25日、台風くずれの暴風雨が吹き荒れました。このときは構造物に被害はありませんでしたが、サンタ・マリアの谷は大きく土がえぐられました。 何度もくじけそうになる災害の連続でしたが、その頃すでにたくさんの皆様からご寄付が寄せられていて、本当に心強く励みになりました。 国内外の皆様からの支援 2019年10月4日から11月24日までの募金期間に、131名の方々が1,286,500円ものご寄付をくださいました。国内だけでなく、アメリカ、オーストラリア、インドなど海外の方からも温かいメッセージとともにご寄付をいただきました。クラウドファンディング以外に直接寄付をお届けくださった方もあり、台風被害の復旧に十分な資金が集まりました。 考えた結果、必要な資材や工具を買って、さらに専門的な技術を持つ3人の方を雇い、倒れたスクリーンやゲートを再建していただくことができました。ボランティアの方々には、傷めつけられたバラを助けるために、いつも以上に気を配って冬のバラ園の作業を進めていただき、貴重なコレクションが守られました。 バラ園復旧!…しかし 台風直後から片付けや一部の構築物の復旧を始め、資金を得て本格的な復旧作業にとりかかったのが12月。それから3月まで、合わせて半年以上の月日をかけて、ようやくバラ園はもとの姿を取り戻しました。大きなつるバラのいくつかは枝が折れ、短くまとめられて残念な姿になりましたが、木立ち性のバラはたっぷりと肥料をもらい、草取りもばっちり。すべての棚が倒れてつぶされたシェードコーナーのバラも、何事もなかったかのように春を待っていました。 しかし残念なことに、新型コロナウイルスという予期せぬ敵が現れて、感染拡大防止のため、2020年4月7日からの休園が決まりました。5月の連休明けには再開できるかと淡い期待を抱きながら、草ぶえの丘バラ園は春を迎えました。 さらに事件が そこへまた大事件。4月14日、バラ園にいつもとは逆の、北からの強風が吹きました。今までなんともなかったモッコウバラの東屋で、その半分を覆っていた巨大なキモッコウが丸ごと滑り落ちました。あまりの大きさに人力ではどうにもならず重機で引き上げましたが、絡まった枝をかなり切ることになり、咲き始めたキモッコウが哀れな姿に…。ホワイト&ピンクコーナーの‘フォーチュニアーナ’のアーチなど、小型のアーチやポールもいくつか倒れ、ボランティア総出での復旧作業となりました。 そして5月 今年の草ぶえの丘バラ園の花は見事でした。台風で折れた桜の木を切ったおかげで、鈴木省三コーナーの日当たりがよくなり、花付きも花の大きさも見違えるようになりました。比較的被害が少なかった歴史コーナーは、ランブラーの誘引がうまくいって葉がよく茂り、全体を覆うように花が咲きました。ジギタリス、デルフィニウム、オルレア、カモミール、ガウラ、クラウンベッチなどのコンパニオンプランツも元気いっぱい。サンタ・マリアの谷は、株がどれも大きくなって、まるで花の絨毯のようでした。オールドローズガーデンはバラもよく咲きましたが、芝生が美しく、夕暮れ時にはバラの葉がきらめき、緑の芝生に長い影が伸び、甘い香りに包まれて、うっとりと夢見るような別世界でした。 それなのに開園できないまま、5月が過ぎていきました。皆様のお力添えで復旧できたバラ園の姿をぜひともご覧いただきたかったのですが、まさかこのようなことになるとは…。 やっと開園 緊急事態宣言が解除され、6月1日にバラ園がやっと再開されました。4月の咲き始めが早かった割には、まだまだきれいなバラ園を皆様に見ていただくことができて、ほっとしました。遅咲きのランブラーはよく咲いていましたし、カカヤンバラやロサ・クリノフィラなど南方系の野生種は、ちょうど花盛り。お客様を迎えるバラ園のスタッフやボランティアの皆さんも嬉しそうでした。 このまま新型コロナウイルスが落ち着いて、平和な日常が続いてくれれば、秋にはまたローズヒップと秋咲きのバラの競演が見られます。もうすっかり頑丈なバラ園になったので、今年は少しくらい大きな台風が来ても大丈夫でしょう。そして来年の春には、今度こそ完全復活した佐倉草ぶえの丘バラ園を、たっぷりご覧いただきたいと思います。 今回の被災で、たくさんの方々がいつも遠くからバラ園を見守っていてくださるのだと気づきました。そして皆様の温かいご支援で、バラ園は救われました。甚大な被害を受けてもバラ園は、愛情と努力と体力で甦ることができると知りました。心からの感謝と共に、皆様のご来園をお待ちしております。
-
イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】「グレイブタイ・マナー」〈前編〉イギリスのガーデニングを変えた…
歴史的価値を持つガーデン 16世紀後半のエリザベス朝時代に建てられたグレイブタイ・マナーは、ロンドンから南に50kmほど、ウェストサセックス州イースト・グリンステッドの近くにあります。19世紀、ヴィクトリア朝時代のガーデナーで園芸著述家のウィリアム・ロビンソン(William Robinson 1838–1935)が所有し、暮らしたことで、イギリス園芸史に残る文化遺産となりました。 現在、グレイブタイ・マナーは、美しい庭と田園風景の中でくつろぐことのできる、高級カントリーサイドホテル、そして、ミシュランガイドの一つ星を獲得したレストランとして知られています。屋敷の周りに広がる35エーカー(約14万㎡)のガーデンは、宿泊かレストランのゲストのみ見学ができます。現在見られる庭は近年の修復作業によって生まれたものですが、そこにはロビンソンの精神が息づいています。 「ワイルドガーデナー」ウィリアム・ロビンソン ウィリアム・ロビンソンは1838年、ジャガイモ飢饉の貧しさにあえぐアイルランドに生まれました。幼い頃から庭師見習いとして働き、23歳でロンドンに移ると、リージェンツ・パークの植物園で経験を積みます。 彼がロンドンで働き始めた19世紀中頃、ヴィクトリア朝中期のイギリスは、産業革命による豊かさの絶頂にありました。当時の園芸は、最新技術で建てられたガラスの温室で、プラントハンターが集めてきた熱帯の植物を育てたり、外来種の一年草を使って整形式花壇を作ったりするのが主流でした。非常にお金のかかった、贅沢な園芸が人気だったのです。 ロビンソンは次第に、そのような人為的で、自然を支配するような栽培や植栽の在り方に疑問を持ち、森や草原などの自然の美を生かした庭づくりを考えるようになります。 1866年、彼は29歳で有名なリンネ協会の特別会員に選ばれ、その後、雑誌や新聞に園芸記事を寄稿する著述家として仕事を始め、独立します。そして、1870年、代表作となる “The Wild Garden” を発表し、イギリスの森の外れや草原に、寒さに耐えられる野生種の外来種を植えて帰化させ、外来種と在来種を合わせた「自然で」手のかからない景色をつくることを提言しました。花々で幾何学模様を描く整形式庭園がもてはやされていた当時、その流れに真っ向から対抗する新しい庭づくりを示したのです。ロビンソンはその後も植物の最新情報を書き加え、改訂を繰り返しました。大反響を呼んだこの本は、今も読み継がれる、園芸本のベストセラーとなっています。 同時代を生きた友 ガートルード・ジーキル ロビンソンは翌年から、園芸週刊誌 “The Garden” を編集者として立ち上げ、ワイルドガーデンの考え方を一層広めていきます。週刊誌の寄稿者には、友人の女性ガーデンデザイナー、ガートルード・ジーキル(Gertrude Jekyll 1843-1932)もいました。 ジーキルは、昔ながらのコテージガーデンのスタイルを、鮮やかな色彩の植栽に発展させて、富裕層のガーデンシーンに大きな変化をもたらした人物です。2人はコテージガーデン風の自然な植栽というデザインの信条を分かち合い、長年にわたって友人関係を続けました。1883年にロビンソンが発表した著書 “The English Flower Garden” には、ジーキルによる寄稿記事が含まれていますし、また、このグレイブタイ・マナーの庭づくりにもジーキルが協力したといわれます。 早春の森のスノードロップに始まり、公園や草原に咲き広がるクロッカスやラッパズイセン、木立の中のブルーベル、そして、メドウの花々。イギリス各地で季節の移ろいを告げる、英国人にお馴染みの「自然な」花景色は、ロビンソンのワイルドガーデンの考え方から生まれたものといえます。ロビンソンは、宿根草を使った植栽スタイルやミックスボーダー(混植花壇)を広め、高山植物を使ったロックガーデンも提案しています。一方のジーキルは、さまざまな花が色彩豊かに咲く、ナチュラルな植栽スタイルを生み出しました。現在あるイングリッシュガーデンの姿は、ロビンソンとジーキルの2人によって、大きく形作られたと考えられています。 ガートルード・ジーキルについてはこちらの記事もご覧ください。 ●ジーキル女史のデザインがよみがえった「マナーハウス、アプトン・グレイ村」 ●現在のイングリッシュガーデンのイメージを作った庭「ヘスタークーム」【世界のガーデンを探る19】 理想の景色を求めた実験の日々 文筆業の成功で財を成したロビンソンは、1884年にグレイブタイ・マナーの屋敷と庭園、そして、周辺の土地を購入し、翌年から庭をつくり始めます。そして、亡くなるまでの約50年間をここで暮らし、自らの考えを実践する場として、理想とする景色を求めてガーデニングの実験を続けました。新しい外来植物がイギリスのどんな環境に合うのか、どんな植物同士を合わせるとよいのか、彼は実験の結果を著書や園芸誌で伝え続けました。 ロビンソンは周辺の牧草地や雑木林を徐々に買い増し、最終的には1,000エーカー(約4㎢)の土地を所有しました。森を守ることは人間にとって大切なことと考え、北米やインド、中国を原産とする、さまざまな広葉樹や針葉樹を植えて、新たに森をつくっています。そして、その森のはずれや、森の中の空き地、メドウ(牧草地)や湖の周りには、自らの考え通りに、耐寒性のある外来種の球根花や植物を植えて帰化させ、在来種とともに、自然で美しい景色をつくることを試みました。 ハシバミやクリの雑木林では、日本の白いシュウメイギクをはじめ、ユリ、ハアザミ、パンパスグラスを大きな茂みに育て、その下に、ブルーベルやシクラメンのカーペットをつくりました。屋敷近くの湖の周りに、イベリア半島原産の小型のスイセンを10万球も植えたり、北米原産のシロバナマンサクや、ナツツバキ、ヌマミズキなど、姿の美しい樹木や灌木を森に加えたりもしました。 ロビンソンは、剪定ばさみやホースといった新しい園芸用品も一般に広めました。70歳の頃、彼は怪我で背中を傷め車いすの生活になりますが、車いすを押してもらいながら庭を見て回ったといいます。現代のガーデニングに多大な影響を与えたロビンソンは、1935年に96歳でその生涯を閉じました。 美しさを取り戻した現在の庭 ロビンソンには後継者がいなかったため、全ての財産は営林に役立ててほしいと、国の林業委員会(フォレストリー・コミッション)に遺贈されました。屋敷や土地の管理のために慈善団体が設立されますが、しかし、その後まもなくして第二次世界大戦が始まり、屋敷はカナダ軍の駐留のため接収されます。この時、兵士が花壇を野菜作りのために掘り起こしてしまったので、ロビンソンの残したものは残念ながら、すべて失われてしまいました。 現在、ロビンソンの残した広大な森や牧草地は、ウィリアム・ロビンソン・グレイブタイ・チャリティという慈善団体によって管理されています。敷地の中心にある屋敷と屋敷周りの35エーカーのガーデンは、1958年にピーター・ハーバートに貸し出されて、ホテルとレストランの経営が始められました。ハーバートは2004年に引退するまでの約50年間で、グレイブタイ・マナーを、美しい田舎で最高級のサービスを受けられるカントリーサイドホテルの先駆けとして成功させましたが、彼の引退によってグレイブタイは衰退してしまいます。 しかし、2010年、現オーナーのホスキング夫妻に経営が移ったことで、大規模な改修も行われて、この場所はかつての輝きを取り戻しました。現在のヘッドガーデナー、トム・カワードは、名園グレート・ディクスターで腕を磨いた人物。「ロビンソンにも満足してもらえるような」ダイナミックで実験的なガーデニングを行い、庭をますます美しい姿に変えています。 *『グレイブタイ・マナー』後編で、ガーデン散策の様子をお伝えします。
-
長野県

和の風情漂う草花と草もの盆栽。長野・松本『花屋 彦兵衛』 今日はてくてく、「花屋さん日和」Vol.9
トップ画面の写真を見て、気になった方が多そうですね。のれんをかけている花屋さんなんて、そうはないかもしれません。『花屋 彦兵衛』。時代小説にでも登場しそうなこのお店があるのは、城下町の名残と新しい文化が交差する長野・松本。江戸時代、米問屋が所有していた5つの蔵『和泉町伍蔵(いずみまちごくら)』の一角で、まさに“のれん”を掲げました。 オーナーは、東京・二子玉川で『メゾンフルーリ』を営む佐々木久満さんです。おしゃれな街、二子玉川で華やかな花々を扱う一方、和の花を扱う店をもちたいというのが長年の夢。そして、空間と、そこに置く花、コンセプトのすべてのピースが、「やっと、この松本の店でぴたっとはまった」と言います。 土間に並べた切り花のメインは、季節の草花。糸菊などの和の風情漂う花々のほか、葉や実の彩りに季節を映す枝もの。約30種そろえる花材には、シャクヤク、クレマチス、ダリア、リンドウなどの長野が誇る花々も、季節ごとに加わります。 ↓が糸菊。 ↓は上伊那の瀬戸さんが作るリンドウ。 そんな花を使ったアレンジにも特徴があり、オーダーすると「器」に挿して販売しています。花瓶か、民芸調のかごか好きなほうを選べるそう。考えてみると、花器を買う機会って、あまりありませんよね。ギフトにはもちろん、自宅用にもうれしい“器込みのアレンジ”です。 店先にはこんなふうに小さな寄せ植えが並んでいます。それらは、切り花と同じ比重で力を入れる「草もの盆栽」。日本の野山にありそうな草花を使った盆栽のことです。 ↓は、野紺菊の寄せ植え。細い葉は石菖(せきしょう)、赤い実は「酢実(ずみ)」。寄せ植えしてから4、5年は経ったものだそうです。 お店では、こうした月日の流れを愛でる経年もののほかに、身近な盆栽もオリジナルで作っています。染付の蕎麦猪口風の鉢に植えられているのは↓、シクラメンのコウムという品種。ハート形の葉がかわいらしく、花の季節には小指の先ほどのつぶらな花で楽しませてくれるそうです。素敵ですね! 訪ねると、気づくことがあるはず…。それは値札。木札風の値札に、旧字で表記! のれんといい、値札といい、粋な遊び心にグッときてしまいます。 ところで、店名がなぜ、『彦兵衛』なのでしょう? それは、明治のころ、東京・日本橋橘町に創業した呉服商「大黒屋彦兵衛」にあやかったもの。佐々木さんの母方のルーツをたどると登場する人で、友禅染めと日本刺しゅうを融合させ、新たに江戸友禅という技法を生み出した人といいます。「着物と花とではまったく異なりますが、この店を作った根底には、そこへ近づけたらという思いがあります」。信州松本の城下町で取り組むのは、“新しい和のスタイル”。フラワーアレンジメントのテクニックを使いながら、気軽に和の粋を楽しめる花を提案していくそうです。 松本へお出かけの折には、立ち寄ってみませんか? Shop Data:花屋 彦兵衛 フェイスブック/https://www.facebook.com/hanayahikobee/ 住所/長野県松本市旭1-1-20 和泉町伍蔵 電話/0263・31・6187 営業時間/12~18時 定休日/月・火曜 アクセス/松本駅より徒歩約25分、バスの場合は、松本駅より四賀線に乗車。和泉町バス停下車、徒歩約1分。車の場合は、松本ICより約25分。 Credit 記事協力 撮影・佐々木久満 構成と文・鈴木清子
-
イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】イギリスガーデン界の巨匠、故クリストファー・ロイドの自邸「グレ…
時代を先駆けたガーデナー クリストファー・ロイドは、1950年代から生家のグレート・ディクスターを実験場にして、新しいガーデニングに挑戦し続けた園芸家でした。そして、ミックスボーダー(混植花壇)やメドウガーデンなど、自らが体験から得た新しい考え方を、英米の有名ガーデン誌や新聞、著書で伝え、プロやアマチュアのガーデナーたちに刺激を与え続けました。 グレート・ディクスターはクリストファーにとって、ガーデナー仲間との意見交流の場でもありました。彼は、園芸家ベス・チャトーなどの友人を招いて、菜園で収穫した野菜を使った手料理をふるまいつつ、園芸談議を楽しみました。英国園芸界で活躍する人々が集まるこの庭は、ガーデニングの新しい潮流が生まれる場所だったのです。 2006年、クリストファーは84歳で惜しまれつつ他界しましたが、彼が愛し、精力を注いだ庭と屋敷は、現在グレート・ディクスター・チャリタブル・トラストという公益財団に引き継がれ、その遺志を受け継ぐガーデナーたちによって、管理、運営されています。詳しくは「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」前編でご紹介していますのでご覧ください。 さて、前編では、入り口から屋敷を中心に時計回りに庭を巡り、屋敷の南西側のメドウまでやってきました。庭巡りを続けましょう。 色彩豊かなロングボーダー メドウの縁には、屋敷へと延びる、幅広い敷石の小道と細長い花壇「ロングボーダー」があります。雑誌などでもよく紹介されている有名な花壇です。優しい色合いのメドウとは対照的に、このロングボーダーは彩り豊か。たくさんの種類の植物が小道にこぼれるように茂り、競い合って咲いています。 小道を進んでいくと、植物の種類が変わることで色彩も変化していきます。花壇の植栽は、6月中旬~8月中旬に花盛りとなるよう考えられているそう。また、クリストファーは、5月末からは土が見えないくらい植え込むべきと考え、この花壇を「綿密に織られたタペストリーのよう」にしたいと思っていました。 このロングボーダーはミックスボーダー(混植花壇)で、さまざまな植物が使われています。宿根草だけでなく、灌木や一年草、つる植物など、植物の種類にかかわらずなんでも使うのが、クリストファー流。ロングボーダーには斑入り葉の灌木や、真紅やピンクの花を咲かせたバラの茂みも所々にあって、ボリュームたっぷりです。訪れた6月中旬は、バラに加え、ポピーやルピナスの赤い花がアクセントとなって、強い印象の景色をつくっていました。 名建築家ラッチェンス設計の円形階段 ロングボーダーの端まで来て、視線の先を遮っていたマルベリーの大木の茂みを抜けると、左手に、円形のデザインが目を引く個性的な石階段がありました。その先にはメドウが広がっています。 この円形の石階段や、ロングボーダー前の敷石の小道は、20世紀の初めに活躍した名建築家、エドウィン・ラッチェンスによって設計されたものです。アールを描く石のステップの側面には、こぼれ種で広がったのか、ポツポツとエリゲロンの可愛い花が咲いていて、石階段の固い印象を和らげています。使われている石自体100年以上経っているので、趣があります。 メドウに立って、円形の石階段を正面から見てみると、上段に背景となる屋敷、中段にローダンセのピンクの花、下段に石階段と、高低差を生かした立体的なデザインであることが分かります。右側に茂るブラック・マルベリーの木は、もともとは対で両側に生えていたもので、ローダンセの花壇と同じく左右対称のデザインとなっていました。 ラッチェンスは、ガーデンデザイナーのガートルード・ジーキル女史とともにつくり上げたヘスタークーム・ガーデンズでも、似たような円形の石階段を設計しています。庭のアクセントとなる素敵なデザインですね。 花に飾られた石階段を、上ったり、降りたり。次のエリアに向かう過程も、とても楽しめました。 円形の石階段からメドウの中へと、放射状に3本の小道が伸びています。右手の小道を先に進むと、濃い緑の壁に囲まれたエリアがありました。中に入ってみると…… 異国情緒たっぷりのエキゾチックガーデン 他のエリアとはがらりと印象が変わって、緑一色の世界。背丈を超えるほど成長したバショウや木生シダなどが、自由に葉を広げて、面白いコントラストを見せています。ここはエキゾチックガーデンと呼ばれるエリア。もともとは整形式のローズガーデンとして設計された場所ですが、連作障害でバラが育たなくなったため、クリストファーが大改造を行いました。バラからの大胆な方向転換。きっと雰囲気が一新したことでしょうね。 小道の先を隠すように葉が垂れて、ジャングルのような雰囲気です。葉を楽しむための植物の多くは、イギリスの寒さに耐えられるものが選ばれています。6月の段階では緑一色の景色ですが、晩夏から秋にかけて、この庭にはダリアやカンナ、こぼれ種で増えるサンジャクバーベナの花が咲いて、とてもカラフルになるそう。その頃の景色も、ぜひ見てみたいものですね。 楽しみいっぱいのナーセリー さて、エキゾチックガーデンを出て敷地の奥へと進むと、花苗やテラコッタポットなどが並ぶナーセリー&ショップにたどり着きました。このナーセリーは1954年に、クリストファーが、自分が好きな植物を売るという形で始めたもの。特に、彼が大好きだったクレマチスは多くの品種が取り揃えられていて、今でもクレマチス専門店として知られています。 ナーセリー&ショップのエリアには建物が2つあって、小さいほうでは特製ブレンドの土の量り売りや、グレート・ディクスターのマークの付いたタネ袋などが売られていました。大きいほうでは、書籍やハサミ、オリジナルバッグや誘引紐など、心惹かれる商品がたくさん。店先には、アンティークのジョウロやダックスフントを模したジョウロなど、ユニークなグッズもありました(クリストファーはダックスフンドが大好きで、ずっと飼っていました。庭園では今もその子孫が飼われています)。 ガーデンの中で見かけた低い木柵も、山積みになって売られていました。これはガーデンハードルという、英国の庭で伝統的に柵やゲートとして使われているもの。グレート・ディクスターでは築500年の納屋を使って、伝統的な木工品づくりも行っています。古くからある近くの森からヨーロッパグリやクリ、オークなどの木材を切り出して、柵のほかにもスツールやベンチ、はしごなどを作成します。これは、森を守ると同時に、木工品づくりの伝統技術を伝えていくためでもあります。 ショップ付近では、草屋根のロッジア(イタリア式の、片側に壁のない屋根付き柱廊)が飲食スペースとして使われていて、用意されたテーブルや椅子で休憩する人の姿がありました。 苗コーナーも広く、たくさんの品種が並んでいます。奥に見える濃い緑の壁からバショウの葉が伸び出ているエリアが、先にご紹介したエキゾチックガーデンです。 トピアリーとメドウ ナーセリー&ショップのエリアを出ると、目の前に、再びメドウが広がっていました。草むらの中に、セイヨウイチイのトピアリーがリズミカルに配置され、広いスペースにアクセントをつけています。トピアリーは、アーツ&クラフツスタイルの庭で欠かせない要素ですが、日本庭園で見る松の刈り込みのようでもあって、親しみを持てました。クリストファーの父、ナサニエルはトピアリーが大好きで、昔は庭園内にもっとたくさんのトピアリーが立っていたそうです。クリストファーは「トピアリーは存在感があって、長い影をつくる時など、植わっているというより、住んでいるように見える」という言葉を残しています。確かに、ずんぐりむっくりの森の妖精のようにも見えますね。 一方、母のデイジーは、メドウが大好きでした。このトピアリー・ローンと呼ばれる庭は、クリストファーの両親が好きだったものがどちらもある場所です。 メドウとはもともと牧草地のことですが、イングリッシュガーデンでは、草原に小さな花々が咲く風景が、メドウ、もしくは、メドウガーデンとして、ガーデンデザインの中に取り入れられており、広い敷地を持つガーデンには、たいていメドウを思わせるエリアがあります。数あるメドウの中でも、ここグレート・ディクスターの庭は格別です。クリストファーの母は、この庭ができた1910年代からメドウをつくっていたので、彼は幼い頃からメドウに親しんできました。クリストファーは園芸家となってからも、美しいメドウガーデンづくりに試行錯誤し、精通していたので、メドウづくりの第一人者と目されていました。彼は2004年に刊行した著書“Meadows”で、その知識を伝えています。 グレート・ディクスターのメドウは多様性に富むもので、ヨーロッパの野生種のランも育っています。メドウはまた、チョウやガ、昆虫など野生生物の棲む場所としても重要なものになっています。 素朴な花が、まるで自然に咲き広がっているように見えますが、このような景色は、じつはとてもテクニックを必要とするもので、人の手が入ることによってはじめて実現するといわれます。植物同士がバランスよく一緒に成長するように、また、意図しない植物の侵入を避けたり、特定の植物が繁茂しすぎないようにしたり、種まきから成長過程を調整することも、メドウガーデンづくりのテクニックとか。 だからこそ、この景色は毎年必ずしも同じになるとは限りません。またいつか訪れるチャンスがあるかしらと心の片隅で思いながら、そよぐ風や野鳥の声に耳を澄ませて、そこにいる時間を楽しみました。 メドウに囲まれた小道を、建物のある方向へ進むと、屋根につるバラが絡むロッジアが見えてきました。その左横を進んで、次のブルーガーデンに入ります。 よく手入れされた芝生の中に、敷石の小道がまっすぐに通っています。建物に沿って、緑が生き生きと茂っていました。この小道や階段、レンガ造りのアーチも、ラッチェンスの設計です。 屋根に迫るほど大きな果樹のエスパリエがありました。リンゴの木でしょうか、石の壁にぴったり沿って、枝がきれいに誘引されています。こんなに大きなエスパリエを見たのは初めて! 次のエリアへ行く前に振り返ると、階段脇の一角に、いろんな種類のギボウシがバランスよく配置されていました。鉢植えのギボウシがたっぷり日差しを受けて、生き生きと葉を広げています。 次のエリアは、四方を壁にぐるりと囲まれたウォールガーデンです。 中は広い敷石のテラスになっていて、その周りを地植えの木々や鉢植えの植物が囲んでいます。中央付近は、小石を無数に敷き詰めたペイビングとなっていて、クリストファーの愛犬、2匹のダックスフンドがモチーフとなった模様が浮き上がっていました。テラスのペイビングの細かさから、相当のエネルギーが注がれた場所なんだなぁと実感します。 ウォールガーデンの一角は、カンパニュラやゲラニウム、フラックスなど、青系の花々の鉢植えが飾られて、爽やかな印象でした。 さて、庭巡りの最後を飾るのは、サンクン・ガーデンです。サンクン・ガーデン(もしくは、サンク・ガーデン)とは沈床式庭園のこと。イギリスのガーデンデザインでよく取り入れられる手法ですが、庭の中央の「床」が、周囲より一段、もしくは数段低く「沈んで」いて、そこに噴水が設けられたり、花壇が作られたりします。この庭の場合は、中央に八角形の池が作られていて、睡蓮が咲いていました。 もともとこの場所にはクロッケー用の芝生がありましたが、クリストファーの父ナサニエルが、1921年にこのように設計し直しました。ナサニエルは、建築や庭の設計にとても興味を持っていた人で、地域の古い建築に関した本を著してもいます。テラスの周りには芝生が広がっていますが、第一次世界大戦中はその芝生を掘り起こして、野菜を作っていたそうです。 池の水面に映る空の雲や植物のシルエットは、一幅の絵のよう。ベンチに座って、静かな時間を楽しみました。 グレート・ディクスターの広大な庭のメンテナンスには何人ものガーデナーが関わって、こぼれ種から発芽した芽の抜き取りや植え直しなど、とても繊細に行われています。一年で一番忙しい時期は、1月から2月にかけて。グレート・ディクスターは「英国で最も手のかかる庭」として知られますが、植えっぱなしでも育つ宿根草でさえ、よりよい状態を求めて、毎年植え替えるのだそうです。ここではガーデナー教育にも力が注がれていて、屋敷には研修生が住み込んで庭作業に励んでいます。ここを卒業したガーデナーは、他のガーデンで実力のある人材として活躍しているそうです。 かつて、庭づくりの巨匠として、イギリスのガーデニングに影響を与え続けたクリストファー・ロイド。新しいガーデニングに挑もうとするその精神は、ヘッド・ガーデナーのファーガス・ギャレットをはじめとするガーデナーたちに引き継がれています。クリストファーが愛し、築き上げたグレート・ディクスターは、今も新しい景色を生み出し、進化し続けるガーデンとして、多くの人々に驚きと感動を与えています。 *「グレート・ディクスター・ハウス&ガーデンズ」前編もどうぞご覧ください。
-
京都府

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪21 京都「cotoha」
京都の路地裏にある 隠れ家的存在の観葉植物専門店 専門コーヒーの香りと独特な雰囲気が漂う袋小路。インドアグリーンをメインに扱う植物の専門店「cotoha」はその一角、ツタに覆われた古びた建物の2階にあります。1階はカフェと雑貨店で、ゆっくり楽しめるショップが集まっています。 期待に胸を膨らませ急勾配の木の階段を上ると、まるで植物園の温室のような瑞々しい空間が。想像以上のグリーンの量に圧倒されます。 のびのびと枝葉を広げる観葉植物はみな、オーナーの谷奥俊男さんが自ら沖縄や鹿児島の生産農家に赴いて選んできたもの。現地で生産者に会い、育った環境、樹形の魅力などを一株ずつ自身の目で確かめながら仕入れています。珍しい品種はもちろん、曲がりくねった自然樹形のものも積極的に仕入れているので、空間をデザインするのにぴったりのグリーンが揃っています。 京都らしいこの古い建物は、もとは燃料倉庫で、その後は写真のスタジオとして使われていたもの。当時の高い天井と、大きく取られた半円形の窓をそのまま生かした店内には、どこかクラシックな趣が漂っています。それぞれの時代の名残が、空間に深みを与えて。 アンティークアイテムと合わせて 植物の生命力が感じられる空間を提案 オープンして約6年の「cotoha」。それまでは西陣の実家の生花店で切り花の販売をしていた谷奥さん。「生きている植物をもののように扱い、売れ残ったら廃棄という流れに疑問を持ちながらやっていたんだよね」。そんな思いを抱えながら販売していた観葉植物を自宅で育ててみると、次第に成長するその姿に繊細さやたくましさ、おもしろみを感じ、愛おしく思うようになりました。そして「育てる植物を販売しよう」と方向性が明確に定まり、実家の生花店から独立して観葉植物の専門店「cotoha」をオープンさせたのです。 店内では観葉植物と併せてアンティークの家具や雑貨も販売。什器や飾りにも巧みに使い、空間に雰囲気と立体感をもたらしています。どこを切り取っても絵になるそのあしらいは、おしゃれ感度の高い人たちの間でもインテリアのお手本として話題です。 あちこちのガーデニングショーやイベントで空間提案をすることも多い「cotoha」。最近は、東京ドームで開かれた世界らん展に、「ランとグリーンのある暮らし」をアンティークのアイテムと併せて展示提案し、好評を博しました。店舗でもワークショップやセミナーを開催し、「植物があることの重要性と楽しさ」を常に発信しています。 店名の「cotoha」は「古と葉」という意味。「古いものと植物で、暮らしに潤いを」という思いが込められています。 充実した植物ライフのために アフターフォローに注力 こんなにも多くの人に支持されている「cotoha」ですが、最初の年は失敗も多く、お客様に教えていただくことも多かったと谷奥さん。「実践することが何よりですね。自信を持って説明して販売できるよう、必死に研究しました」と振り返ります。その真摯な姿勢とインテリアセンスが評判を呼び、話題の人気店に成長しました。 お店が軌道に乗り3年ほど経った頃、新規の客数の伸びに対して、リピーターが減っていることに気づきました。その原因を探るべくいろいろリサーチしたところ、「購入後しばらくすると枯れてしまった。我が家には無理」という声が多く、さらにその枯れた原因を確認してみると「部屋は常に締めきっている」「部屋に日が入らず暗い」といったパターンでした。多くの人が本来あるべき状況からは大きくかけ離れた環境で植物を育てていることを知った谷奥さん。「これでは店も園芸業界も衰退してしまう」と危機感を募らせ、販売時の説明に加え、購入後のフォローにも力を注ぐようになりました。 観葉植物を育てながらベストな生育環境を分析して、きちんとデータ化している谷奥さん。お客様が育てようとしている環境を聞いて、どういった種類が合い、どういう管理が必要かということを分かりやすく、的確にカウンセリングしています。最近評判なのが、LINEを使っての個別アドバイス。植物は育てる環境が変わると葉を落としたり元気がなくなったりしますが、それが生理的なものなのか、不調なのか、初心者には見極めが難しいもの。お客様が写真をLINEでお店に送ることで、原因や今の状況を判断してもらえます。「初期に判断ができれば、枯らすことはありません」と谷奥さん。細やかなフォローで、お客様のストレスが軽減し、ショップのリピート率アップにつがっています 「今の園芸店は、店頭でもお客様が購入した後も、‘育てる’でなく‘延命している’感じがします。仕入れたときが最高にいい状態というのでは、お客様にストレスを与えますし、結果園芸から離れてしまいます。だから、僕は植物を仕入れる際に、生育環境を目で確認してます。そしてこの空間に徐々に慣らし、お客様にお届けた後もフォローすることを心掛けています。それは、この店の客数を増やすということだけでなく、園芸離れに歯止めをかけることにつながり、結果、園芸界に活気が戻ると思うからです」 最近では、ハウスメーカーやインテリアコーディネーターから講習会を頼まれることもしばしば。大学の教授と観葉植物がもたらす効果や最適な土などの研究を重ね、オリジナルの用土も開発・販売をしています。 谷奥さんのイチオシアイテム 「cotoha」のオリジナル用土・セラミックソイル 「cotoha」では、オリジナルの用土を開発・販売しています。室内で育てる観葉植物は、特に保水性、排水性が高く衛生的であることが重要。「cotoha」のオリジナル用土は、セラミックで作り、これらをクリアした安心の室内用用土です。最近は、個人や店舗のインテリア用としてだけでなく、病院での採用も増え、多方面からの信頼を得ているとか。 この用土は、一般的な鉢植えはもちろん、テラリウムなどにもおすすめです。乾燥してくると白く、湿っている状態だと茶色くなるので、水やりの目安が分かりやすいのもポイント。肥料は液肥を施してください。 落ち着いた路地裏で、京都を満喫しながら観葉植物を選べるショップ「cotoha」。植物の楽しみ方のみならず、ベストな栽培法や植物が人にもたらす効果、お客様へのサポートなど、とことん追求し、形にしている谷奥さんの熱意が満ちたショップです。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、JR二条駅より徒歩約5分、地下鉄東西線二条城前駅より徒歩約7分。 【GARDEN DATA】 cotoha 京都府京都市中京区西ノ京職司町67-38 TEL:075-802-9108 営業時間:11:00~18:00 定休日:水曜日 http://www.cotoha.me Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
-
東京都

華やかな店先の奥には、季節の掘り出し物も! 東京・二子玉川『メゾンフルーリ』 今日はてくてく、「花屋…
フランス語で“花の咲く家”と名づけた『メゾンフルーリ』は1974年に創業。雑誌『花時間』でも華やかに誌面を飾っていただいたフラワーアーティスト、野口美知子さんが東京・二子玉川にオープンしたお店です。そして、現在、二代目として看板をしょって立つのがご子息の佐々木久満さん。6年前、以前あった場所から、髙島屋本館裏手の二子玉川商店街へ引っ越しました。 和菓子屋さん、カフェと眺めて歩くと、通り沿いに溢れんばかりに花を並べたお店が『メゾンフルーリ』。花を贈る人、自分でいけて楽しみたい人のどちらにも親切な花屋さんなんです。店先でまず、目に飛び込むのは、↓の写真のギフトブーケ。急なプレゼントにも便利なのはもちろん、写真をよく見て! 花の組み合わせがひとつずつ違い、価格も3段階で設定。相手の好みや用途に合わせて、気軽に選べるのがポイントです。 同じ店先で見つけたのは、バラ10本でこのお値段のサービス花束。いきいきとしていて、長く咲きそうですね。近所にほしいくらいのお得な花屋さんでは? リーズナブルな価格を保っているのは、ギフト需要が多いからで、そのため、店内にはバラのほか、華やかさに欠かせないユリもいつもスタンバイしています。ユリは最近、いけていないかも? なんて思っていたら、ちょっと目からうろこですよ。佐々木さん曰く、ユリは、いけやすいよう、どんどん進化している花。取材時にあったユリを見せてもらい納得でした。↓のユリは「スマトラ」。茎が太く、真横に花が向いているイメージが強いユリですが、このユリに関しては、草花を思わせる華奢な茎をもち、楚々とうつむいています。ササユリなどの奥ゆかしい和のユリを連想しませんか? ↓のユリは花が上へ向く「バルベルデ」。バラなどの上向きの花とも合わせやすいのが特徴だそうです。 佐々木さんは、じつは『花時間』の知恵袋のひとり。各地の花の生産者と交流をもち、いつも季節の珍しい花に出会わせてくれます。訪ねたら、見つかるはずですよ! 取材のときにあったのは、↓の紫の花。長野の片桐さんが作っているラペイロージアという花で、山野草のような風情が素敵です。 そして、↓は福岡からやってきたというクサボタン。日本にいくつかあるクレマチスの原種のひとつなんだそう。花びらがカールして、ベル形のクレマチスによく似ていますね。 話を聞いているうちに、植物図鑑の中にさまよいこんだような気分に(笑)。そんな佐々木さんは、意外にもこんなにかわいらしい花も得意だったりします。 訪ねたら、目を皿のようにして花を選びたい『メゾンフルーリ』は、二子玉川駅から徒歩約5分。斜め向かいにできたカフェは、おすすめだそうです。 Shop Data:メゾンフルーリ(Maison Fleurie) インスタグラム/https://www.instagram.com/maison_fleurie_tamagawa 住所/東京都世田谷区玉川3丁目15-12 106 電話/03・3700・8790 営業時間/10:30〜20:00(日曜・祝日~18:00) 定休日/なし Credit 記事協力 構成と撮影と文・鈴木清子
-
北海道

球根花が群れ咲く春の北海道ガーデン 〜大雪森のガーデン〜
丘陵に広がる森の庭を訪ねる 大雪山を望む旭ヶ丘高原にある大雪森のガーデンは、色彩豊かな「森の花園」、樹木や山野草に癒される「森の迎賓館」、緑あふれる「遊びの森」の3つのエリアで構成された庭園です。 訪れた2019年の5月上旬は、「森の花園」エリアのみ無料公開されていました。 大雪山系を望む雄大なロケーション 旭川から大雪森のガーデンまでは、車で約1時間。広大な大地の遥か先まで真っ直ぐ伸びる道や、自然の芽吹きが織りなす美しい景色を眺めながらのドライブは、とても快適でした。 到着するや否や、まず心を奪われたのが、残雪を湛えた堂々たる大雪山連峰の雄大なロケーション。北海道ガーデンのスケールの大きさに改めて圧倒されました。そして、庭園を訪れたはずなのに、大自然に迷い込んだような不思議な気分に。「一体、この先はどんな景色が広がっているのだろう」と、胸が高鳴りました。 「森の花園」は妖精たちの楽園 エントランスを抜けると、目の前に広がっていたのは、空に向かって悠々と枝を広げた芽吹き前の白樺と落葉樹の大木。その株元で、小球根の花々が春の訪れを告げていました。どうやら、「森の花園」は冬の眠りから覚めたばかり。声を出すのも躊躇するほど、しんと静まり返っていました。 緩やかな斜面を縫うような小径に足を踏み入れると、インクブルーが鮮やかなシラー・シビリカ、水色の花弁にブルーのラインが美しいプシュキニア、星形のチオノドクサ、そして、色とりどりのクロッカスやフクジュソウが群れ咲いていました。極寒の冬を乗り越えた小球根の花々の、何とたくましく愛おしいこと。 目が合う度に、甘い蜜に吸い寄せられる昆虫のように、何度も地面に顔を近づけました。見れば見るほど、柔らかな光と戯れる可憐な姿は、「春の妖精」そのもの。早春の「森の花園」は、まさに妖精たちの楽園でした。 じつは、小径の縁を彩る小球根の花があまりに愛らしかったので、去年の秋、プシュキニアとミニアイリスの球根をわが家の庭に植えました。嬉しいことに、この春、小さな庭に春一番を告げてくれたのは、この妖精たち。また一つ、春を待つ楽しみが増えました。 今年、わが家の庭で春を告げた小球根。左がプシュキニア、右はミニアイリス。 想像力を掻き立てられる鉄のアーチ 「森の花園」で、ひと際目を引いたのが、「花の泉」エリアに設置されていた鉄製のアーチ。エッジの効いた屈強なアーチが連なる様が、大雪山連峰の景色と重なりました。そして、アーチの下には早咲きのスイセン‘ティタ・ティタ’が色鮮やかに連なっています。その光景は、まるで大雪山の雪を溶かす春の光のよう。グラウンドカバープランツを利用して地面から泉が湧き上がる様子を表現している「花の泉」。アーチの下で草花が咲き揃う季節は、どんなにか素晴らしいことでしょう。 癒やしのガーデンベンチ 「森の花園」の緩やかな斜面には、いくつかガーデンベンチが設置されています。ガーデンベンチは、寛ぎの場所であると同時に、植栽のアクセントにもなる重要なアイテム。ベンチのデザインや色、置かれている場所でガーデンの印象も随分変わります。そういえば、上野ファームの射的山の頂上にあるカラフルな虹色のベンチや、ミラーボーダーのエレガントなブルーのベンチは、どれもが植栽や周りの景色とぴったり。ベンチのある風景が、上野ファームのフォーカルポイントになっていますね。 「森の花園」のガーデンベンチは、深緑色のシンプルなデザイン。白樺の自然林や植栽に溶け込んでいました。さらに、斜面の高台に置かれているベンチに座ると、「森の花園」が一望でき、何と心地よいことでしょう。まるで、景色を独り占めしているような気分でした。間違いなく「森の花園」の特等席です。 また、その他のレストラン&カフェの建物も、木材を生かしたシンプル&ナチュラルな外観で、アーチやガーデンベンチと同じく、周りの景色にしっくり馴染んでいました。「森の花園」で感じた心地よさや癒やしは、自然の景色と調和した植栽デザインと構造物にあるような気がします。 大雪山系の自然と庭園が調和した、癒やしの「大雪森のガーデン」。 早春にしか見られない「春の妖精」たちに会いに、いつか皆さんも訪れてみませんか。






















