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東京都
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」1年の取り組み
毎日見学者が訪れる第2回コンテスト会場は「神代植物公園」正門手前プロムナード[無料区域] コンテスト会場となった神代植物公園の正門手前プロムナード[無料区域]の1年間の景色の移り変わり(右上/4月 左下/7月 右下/11月)。入口付近に設置されたガーデンの案内板(左上)が目印。 第1回の都立代々木公園での開催に続き、第2回の舞台は、武蔵野の面影が残る都立神代植物公園。広大な敷地を有する園内には、四季折々に咲き継ぐ10万本もの花木のコレクションに加え、ばら園や貴重な植物が育つ大温室などがあり、歴史ある植物公園として知られています。第2回のコンテスト会場は、公園の正門手前のプロムナード[無料区域]。書類審査を通過した5名の入賞者がそれぞれ約70㎡のスペースにガーデンを制作し、3回の審査を経て2024年11月にグランプリが決定しました。 第2回コンテストのテーマは「武蔵野の“くさはら”」 5人が作庭した花壇は、プロムナード(公道)を挟んで向かい合う日向と日陰の2つのエリアに設けられました。日陰の花壇(写真手前側)は、常緑高木のシラカシが日を遮ります。11月の様子。 今回のコンテストのテーマは「武蔵野の“くさはら”」です。 かつて、ここ調布市を含む武蔵野エリアは見渡す限りの原野でした。ススキやハギなどが背を超えるまでに茂り、視界を遮る 山や木もなく、野から出た月が野に沈む、月見の名所としても知られていました。そんな背景に現代的な解釈を加えることで、挑戦者であるガーデナーたちは、豊かな色彩も取り入れながら新しい風景=ガーデンを制作しました。 コンテストガーデンが作られている敷地の平面図。A〜Eの各面積は約70㎡ 。どのエリアでガーデンを制作するかは、2023年11月に抽選により決定しました。 第1回に引き続き、“持続可能なロングライフ・ローメンテナンス”であることが「東京パークガーデンアワード」の外せないルールです。丈夫で長生きする宿根草を中心に選び、季節ごとの植え替えをせず、四季ごとに花の彩りがあることが求められています。今回の植栽は、1名ごとに北側(日向)と南側(日陰)の異なる環境に花壇を制作されたのも特徴でした。 2023年12月に行われた5つのガーデン制作に関わった皆さん。 【第2回 東京パークガーデンアワード in 神代植物園 最終審査までのスケジュール】 「東京パークガーデンアワード」は、5名の参加者決定から最終審査の結果発表まで1年かけて行われる、新しい試みのコンテストです。2023年12月上旬にはそれぞれの区画で1回目の作庭が完了。2024年2月下旬には、2回目の作庭日が設けられ、切り戻しなどのメンテナンスや追加の植栽など、花壇のブラッシュアップ作業が行われました。5つのエリアがそれぞれ日増しに彩りがあふれる4月は『ショーアップ審査』、梅雨空の7月中旬には『サステナブル審査』、11月上旬に秋の見ごろの鑑賞性と年間の管理状況を審査する『ファイナル審査』が行われました。酷暑を乗り越え、晩秋のガーデン風景へと移り変わったコンテスト会場をぜひご覧ください。 「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」すべての審査が終了しました! 審査員は以下の6名。福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授)、正木覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師)、吉谷桂子(ガーデンデザイナー)、佐々木珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事)、松井映樹(神代植物公園園長) 4月、7月、11月の3回の審査では、6名の審査委員による採点と協議により行われました。審査基準は、以下の項目です。【審査基準】公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」授賞式 2023年12月のガーデンの施工から約1年が経過し、3回目の審査となる『ファイナル審査』が2024年11月7日に行われ、入賞5作品の中より「グランプリ」、「準グランプリ」、「審査員特別賞」が決定。晴天の2024年11月24日、東京都江東区にある清澄庭園内の大正記念館にて授賞式が行われました。式典では、賞状とクリスタルメダルの贈呈、6名の審査員による講評、授賞者5名による喜びのコメントが発表され、参列者より大きな拍手が贈られました。 「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の受賞者と審査員。 審査委員長の講評 審査委員長 福岡孝則さん(東京農業大学地域環境科学部 教授) パークガーデンというのはパブリックな場であり、私的な庭とは異なります。誰でも来ること、使うことができ、色々な方に体験していただけるのが最大の特徴かと思います。今年の「東京パークガーデンアワード」を通して感じたことをお伝えします。 東京パークガーデンアワードでは、植物の持っている美しさを単体の植物として見るだけではなく、植物全体で作る雰囲気やそのフィールドの色、テクスチャーや形などが見せる魅力を大いに感じることができました。成長前の春先などは、植物の下に設けられた小さな地形のアンジュレーションのつくる変化や水の動き、植物と地形でつくる全体のボリュームなどの細かい配慮からも作者の目的や意図を感じながら、審査しています。 私の専門はランドスケープアーキテクトなので、都市緑地などの屋外空間を計画設計するのが仕事で、植栽も含めた空間の全体像に重点をおいて考える傾向にありました。しかし今回改めて感じたことは、成長する過程のその瞬間瞬間にその植物を中心とした世界が輝いている瞬間があり、そこに感動があるということ。そして、ガーデンを訪れる人たちの実に多様で自由な感じ方、捉え方があることも強く感じました。パブリックガーデンは植物好きな人だけではなくて、多くの人に訴求していく必要があります。このような中で、出展者のみなさんが植物の形やテクスチャーで創意工夫を凝らし、繊細なものや明るいもの、そして渋いものなど、個性あふれるガーデンを創り出し、多くの人を惹きつけていました。私も含めて、改めて植物やガーデンの偉大さを考えさせられ、多くを学んだ審査となりました。 今年の夏は非常に暑かったですね。庭をつくる上で、サステナブルであることはとても大切なことです。一方で、「自然の下では、私たちで全てコントロールできず、思い通りにならないこともある」ということも学び、知る必要があります。日々、植物の状態を見たり、土の状態を学んだりして、その変化の中で自分たちが少しずつその土地に手を入れる感覚が大切だと考えます。今年は私の大学でも、研究室で設計に関わってきた食の庭プロジェクトで、土づくりからキャンパス内の庭や緑地のメンテナンスをするところまで取り組んでみました。ここでも意外な発見がありました。あれこれ試行錯誤しているうちに、いつもより学生同士のコミュニケーションが生まれていること。ガーデンづくりはサステナビリティを学ぶ実験場にもなると同時に、コミュニケーションが生まれるきっかけの場になるのです。夏の暑い日も、秋の心地よい日も、屋外で自然と向き合う時間をもつことで、新しい関係が生まれます。そう思うと、この東京パークガーデンアワードというのは、素晴らしい取り組みであり、まだ大きな可能性が隠されているといえるでしょう。 有名なガーデナーもランドスケープアーキテクトも、1人でできることは限られていると思います。ですから、皆さんがご自身が生活されている地域で、そしてチームでプラットフォームをつくっていただき、今回の東京パークガーデンアワードを基に日本中にパークガーデンが広がっていくような礎となって頂きたいと思います。また、ガーデンの技術とか、高い知識を持った公園管理者や造園技術者同志で切磋琢磨することも大事ですが、同時に、植物の育て方をまだ知らない人たちも含めて、いろんな人たちと関わりながら、このパークガーデンを広げていくということが大切だと感じております。 5名の授賞ガーデンと審査員講評 グランプリ コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 ⚫︎コンテストガーデンAの月々の変化は、こちらからご覧いただけます。 審査員講評 公園のエントランスにふさわしく、華やかさのある“のはら”でした。グラスや葉のテクスチャーの流れの中で、花が踊っているようにも感じられました。特に日陰の庭は植物の選定がしっかりしていて、多様な植物が秋まで乱れず、花後の姿も美しく見せていました。日向の庭は、混みあって見える時季もありましたが、流れを持たせたデザインコンセプトが秋にはしっかり生きてきました。シードヘッドもきれいに残り、キラキラしたグラスも印象的でした。全体に葉や花の色彩の対比が美しく計算されていて、光と風を感じさせてくれるステキな庭でした。 古橋 麻美さん コンテストを終えた受賞者のコメント 自身の今までの経験をうまく生かせたと思っています。当初、皆さんのプランを見たときにその素晴らしさに怖気づいたのですが、自身が長年メンテナンスをしている強みを生かし、きれいな庭に仕上げることができました。多くの人々に見て頂けるガーデンをつくりたいと長年思っていたので、1年間とても有意義な時間でした。 準グランプリ コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 ⚫︎コンテストガーデンCの月々の変化は、こちらからご覧いただけます。 審査員講評 「武蔵野の“くさはら”」というテーマに向き合う真摯な姿勢が伝わってきました。低木を植え、背景となるカシの木も利用し、限られた敷地で自然の景色をうまく表現していました。地形に起伏をもたせ、風の通り道も作り、「奥に何かあるのではないか」と草を分け入っていきたくなるような雰囲気を感じました。赤い実・ワイルドオーツ・ミズヒキなどとの出会いが楽しい一方、花壇手前に小花を枝垂れさせるなど、遠景も含めてバランスがよく、立体的で透明感のある景観になっていました。夏から秋にかけてやや繁りすぎ、地形のアンジュレーションなど細かな部分に目が届きにくくなる面もありましたが、「草原は、やがて森へ還る。」というタイトルに向き合った結果とも感じます。 吉野 ひろきさん コンテストを終えた受賞者のコメント 普段は個人邸をメインに、木を植えて森のような庭をつくっていますが、今回は宿根草メインということで当初はアウェー感があり、私自身にとって大きなチャレンジでした。思った通りには行かず失敗もありましたが、普段やっていることを表現できました。途中、審査員の厳しい言葉に一喜一憂しましたが、それをアドバイスとして捉えて、その後に生かすことができました。 審査員特別賞 コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 ⚫︎コンテストガーデンEの月々の変化は、こちらからご覧いただけます。 審査員講評 日本の在来種を大胆に使って風通しよく配置していました。多様な葉の形やテクスチャーの違いが面白く、じっくり見ていたくなりました。草(くさ)感が強いので、花壇とは思われないかも…と心配してしまうくらいでしたが、緑から青色まで一年を通じて植物の葉の表情の変化が美しかったです。その辺の草っぱらだって、見ようによっては美しい! ということを気付かせてくれたともいえます。メンテナンスの回数を少なくする努力も見られ、日本における宿根草ガーデンの一つのスタイルとして、可能性を感じる庭でした。 清水 一史さん コンテストを終えた受賞者のコメント 都内の緑地をする仕事では、いつも『人々の背景になりそこに生き物がいること』を想像して計画していますが、よく言われるのが『在来種は地味』。今回、そんな在来種の魅力に焦点を当てた庭づくりは意義のある試みでした。ただコンセプトに寄りすぎたことで難しい点もありましたが、見に来てくれた人たちとの交流を通して、多くの学びを得ることができました。 入賞 コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら ⚫︎コンテストガーデンBの月々の変化は、こちらからご覧いただけます。 審査員講評 日向の庭は、草原の広々とした感じが伝わってきました。高さの違う植物を連ね、黄色の色あいにも強弱があって、見て楽しい華やかな庭になっていました。日陰の庭は近くで見ると、流れのような小道の周りに色々な花が咲いています。春から初夏にかけての優しい白、黄色系の花と多様な表情をもつグラスが作り出す世界は圧巻でした。グラウンドカバーにしている葉の微細なテクスチャーやグラデーションも美しかったです。ウィットに富んだ作り手のオリジナリティーを感じる庭でした。 メイガーデンズ 柵山 直之さん コンテストを終えた受賞者のコメント 今回『命巡る草はら』というコンセプトでしたが、一番の成果としては、1年で命の巡りが見られたということです。ツマグロヒョウモンの幼虫がたくさんついていて、数カ月後にはたくさんの成虫が飛び交う光景が見られました。人々の心を潤わせる街なかの楽園・パークガーデン。街の中にたくさんあったら、世の中が変わるのではと思います。 入賞 コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ ⚫︎コンテストガーデンDの月々の変化は、こちらからご覧いただけます。 審査員講評 季節の花がいつも咲いていて、多くの来園者を喜ばせてくれるすてきなガーデンでした。くさはらにポップなテイストを入れるというアイデアも秀逸で、日向の庭はゴージャスな植物のかたまりが連なり、春のチューリップなどが来園者をワクワクさせました。秋には多様なグラスの穂も美しく、ススキとアスター‛ジンダイ’の取り合わせがステキでした。日陰の庭は、グラウンドカバーも含めさまざまな色合いが混じりあい、光の明暗などデザインの狙いがよく伝わってきました。1年を通じてボリューミーでエネルギッシュ、色鮮やかな表情が印象的なガーデンでした。 藤井 宏海さん コンテストを終えた受賞者のコメント 私は中学3年生の時からこの仕事をしたいと思っており、いつも『笑顔になるような風景を作りたい』と考えてきました。今回はそれと併せて、小さい時に遊んだ草原などを基にデザインしました。庭を一から作って管理してみて、植物の成長の旺盛さに驚かされましたし、メンテナンスの大切さも改めて実感し、あらゆる視点で発見がありました。 Pick up 月々の植物の様子 11月の植物の様子 左から/サルビア‘ファイヤーセンセーション’(A日向エリア)、清澄白山菊(A日向エリア)、コレオプシス‘レッドシフト’(B日向エリア)、ミューレンベルギア・カピラリス(B日向エリア) 左から/ノコンギク‘夕映え’(C日向エリア)、バーベナ・オフィシナリス‘ハンプトン’(C日陰エリア)、シュウメイギク‘クイーンシャーロット’(D日陰エリア)、カライトソウ(E日向エリア) 10月の植物の様子 左から/ヒガンバナ(A日向エリア)、コルチカム(A日陰エリア)、ヘリアンサス‘レモンクイーン’(B日向エリア)、ホトトギス(B日陰エリア) 左から/アスター'アポロ'(C日向エリア)、アスター‘ジンダイ’(D日向エリア)、ヤマハギ(E日向エリア)、ノダケ(E日向エリア) 9月の植物の様子 ルドベキア‘タカオ’(Aエリア日向)、ペニセタム‘ルーメンゴールド’(Aエリア日向)、モミジアオイ(Bエリア日向)、アスター‘トワイライト’(Cエリア日陰) ムラサキシキブ(Cエリア日陰)、ユーパトリウム‘グリーンフェザー’(Dエリア日陰)、シュウメイギク(Eエリア日陰)、ツリガネニンジン(Eエリア日陰) 8月の植物の様子 左から/リグラリア‘ミッドナイトレディ’(Aエリア日陰)、ルエリア‘パープルシャワー’(Bエリア日向)、オミナエシ(Bエリア日向)、バーノニア'クリニタ'(Cエリア日向) 左から/カノコユリ(Cエリア日向)、オトコエシ(Dエリア日向)、ユーパトリウム‘ベイビージョー’(Dエリア日向)、トウテイラン(Eエリア日陰) 7月の植物の様子 左から/ミソハギ(Aエリア日向)、ヤマユリ‘オーラタムゴールドバンド’(Aエリア日陰)、ツルバギア(Bエリア日陰)、エキノプス‘プラチナムブルー’(Cエリア日陰) 左から/アンジェリカ‘エボニー’(Cエリア日陰)、ヘリオプシス‘ブリーディングハーツ’(Dエリア日向)、シキンカラマツ(Eエリア日向・日陰)、シラヤマギク(Eエリア日向) 6月の植物の様子 左から/カンパニュラ・ラプンクロイデス(Aエリア日陰)、トリテレイア‘ルディ’ と ‘クイーンファビオラ’ (Bエリア日向)、ヤマアジサイ‘藍姫’(Bエリア日陰)、エキナセア‘プレーリーブレイズグリーン’(Cエリア日向) 左から/シャスタデージー(Cエリア日陰)、アリウム‘レッドモヒカン’(Dエリア日向)、アガスターシェ‘ビーリシャスピンク(Dエリア日向)、コオニユリ(Eエリア日向) 5月の植物の様子 左から/ツツジ ホンコンエンシス(Aエリア日陰)/ダッチアイリス(Bエリア日向)/バイカウツギ(Cエリア日向)/ゲラニウム‘ジョンソンズブルー’(Cエリア日陰) 左から/オーニソガラム・アラビカム(Dエリア日向)/アリウム‘パープルセンセーション’(Dエリア日陰)/ミツバシモツケ(Eエリア日向)/チョウジソウ(Eエリア日陰) 4月の植物の様子 左から/カマッシア・ライヒトリニー(Aエリア日向)/スイセン‘タリア’(Aエリア日向)/ヒマラヤユキノシタ(Bエリア日向)/チュューリップ‘クルシアナシンシア’(Bエリア日向) 左から/ゲラニウム'チュベロサム'(Cエリア日陰)/リクニス‘フロスククリ’(Cエリア日向・日陰)/ラナンキュラス ラックスシリーズ(Dエリア日向・日陰)/シラー・シビリカ(Eエリア日陰) 3月の植物の様子 左から/バイモユリ(Aエリア日陰)/クロッカス‘ホワイトウェルパープル’(A・Cエリア日向)/スイセン‘イエローセイルボート’(Bエリア日向)/チューリップ‘アルバコエルレアオクラータ’(Cエリア日向) 左から/クリスマスローズ(Cエリア日陰)/ベロニカ‘オックスフォードブルー’(Dエリア日向)/原種チューリップ・トルケスタニカ(Eエリア日向)/フクジュソウ(Eエリア日陰) 2月の植物の様子 左から/リナリア・プルプレア(Aエリア日向)/ヤブラン’シルバードラゴン’(Aエリア日陰)/スイセン‘ペーパーホワイト’(Bエリア日向) /メリアンサス・マヨール(Bエリア日陰) 左から/カレックス・ペンデュラ(Cエリア日陰) /ツワブキ(Dエリア日陰) /ディアネラ・ブルーストリーム(Eエリア日陰) /タマシダ(Eエリア日陰) 1月の植物の様子 左から/カラスバセンリョウ(Aエリア日陰)/黒葉スミレ(Bエリア日陰)/ホトトギス(Bエリア日陰) /アシズリノジギク(Cエリア日陰) 左から/シュウメイギク(アネモネ‘ホノリージョバート’)(Cエリア日向) /リョウメンシダ(Dエリア日陰) /タイニーパンパ( Dエリア日向) /カタクリ(Eエリア日向) 全国から選ばれた5人のガーデンコンセプト 「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」をテーマに、各ガーデナーが提案するガーデンコンセプトは、5人5様。それぞれが目指す庭のコンセプトや図面、植物リストの一部をご紹介します。 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【作品のテーマ・制作意図】武蔵野のくさはらを表現するにあたり、オーナメンタルグラスとカラーリーフ、特徴的な葉を持つ植物をメインにしたガーデンをつくってみたいと思いました。「グラスガーデン」は馴染みが薄かったり、地味にとらえられたりすることもあるかと思いますが、宿根草に加え、球根植物も多用し華やかさをプラスすることで、多くの方に楽しんでいただけるガーデンを目指しています。 【主な植物リスト】〇北側(日向)グラス類…イトススキ/カラマグロスティス/ペニセタム/パニカム/モリニア など季節の花…アガスターシェ/フロックス/ルドベキア/アガパンサス など和の花…キキョウ/オミナエシ/フジバカマ類/ヤブカンゾウ/ヒオウギ など球根…ユリ類/スイセン/カマッシア/ダッチアイリス/アリウム など〇南側(日陰)グラス・葉物類…フウチソウ/ベニチガヤ/ギボウシ類/クジャクシダ/クサソテツ など季節の花…アスチルベ/プルモナリア/ティアレラ/ムラサキツユクサ など和の花…イカリソウ/ヤマブキショウマ/シュウメイギク/チョウジソウ/ミヤコワスレ など球根…ユリ類/スイセン/コルチカム など コンテストガーデンA 月々の変化 11月の様子 【11月の日向エリア】 見応えたっぷりの、スパイク状に穂を伸ばすカラマグロスティス ‘カールフォースター’や空間を埋めるミスカンサス‘モーニングライト’、そして無数の花をつける清澄白山菊が晩秋の庭の見どころ。そのほか、暗赤色に色づくミソハギやペンステモン‘ダークタワーズ’のシックな葉色が風景に深みを添え、初夏から咲き続けているフロックス‘ブルーパラダイス’が華やかさを加えています。 【11月の日陰エリア】 カラーリーフとオーナメンタルなフォルムの植物が最後まで崩れることなく、季節の花とともに整然とした美しさをキープ。赤や茶色に染まる風景の中で、初夏から咲いているカンパニュラ・ラプンクロイデスやムラサキツユクサ‘スイートケイト’がちらほら名残の花をつけ、ヤマラッキョウの小さな花とともに、秋のひなびた風情を強めています。 10月の様子 【10月の日向エリア】 秋の陽に輝くたくさんのグラス類の中で、夏の名残りのルドベキアやフジバカマなどの花が美しく映えています。派手な印象を与えがちな黄×ピンクの組み合わせも、グラス類の絶妙な配分によって、落ち着きのあるナチュラル感を漂わせています。植栽の手前一角では、白いタマスダレとヒガンバナが瑞々しいアクセントを効かせています。 【10月の日陰エリア】 10月に入り花壇の手前側で人目を引いているのは、コルチカム(イヌサフラン)。透明感のあるピンクの花が、トーンの低い色彩の中で効果的なコントラストを生み出しています。暗くなりがちな後方では、オトコエシの白花やホスタの白斑が明るい印象を与えていることで奥行き感が高まり、花壇の見応えが増しています。 9月の様子 【9月の日向エリア】 9月に入ると黄×ピンクの花々とグラスのボリュームが半々となりました。ルドベキア‘タカオ’やミソハギの鮮やかな花が、落ち着いたトーンの中で輝くように咲いて見えます。数本枯れ始めた株もありますが、さまざまな形のグラスの穂によく馴染み、情趣あふれる風景が生まれています。 【9月の日陰エリア】 真夏のダメージがなく、気持ちよい眺めが楽しめるリーフガーデン。整然と立ち並ぶアスチルベの穂はややかたい印象ですが、風をはらんだベニチガヤやフウチソウが点在していることで硬軟のバランスをキープ。オトコエシと共にガーデンが軽やかに見えます。 8月の様子 【8月の日向エリア】 先月に続き旺盛に花々が群れ咲き、草丈のあるグラス類が加わってきたことで、ぐっと野趣に富んできました。グラス類の中でも特に、エラグロスティス・スペクタビリスのエアリーな穂が株と株の間を埋め、カラマグロスティス ‘カールフォースター’が背後を目隠しし、花々の引き立て役として効果を発揮しています。 【8月の日陰エリア】 瑞々しかった春~夏の花々は終わりを迎え、ひと足早く秋を感じる風景となりました。この時期は、オレンジがかった黄花のリグラリア‘ミッドナイトレディ’や深紅のペルシカリア ‘ブラックフィールド’の濃厚な花色が、植栽に深みを与えています。 7月の様子 【7月の日向エリア】 野趣あふれたガーデンは、花真っ盛り。バーベナ・ボナリエンシスやミソハギなどの花が奔放に広がり、隣り合う植物がうまく交わりながら、それぞれの美しさを発揮しています。一角では、ピンク×黄の色彩の中に、カノコユリ‘ブラックビューティー’の濃ワイン色がスパイスを効かせて、花壇の存在感をより一層高めています。 【7月の日陰エリア】 清楚さと華やかさをもたらしていたヤマユリが上旬で咲き終わり、下旬からはリーフで魅せる時期となりました。フウチソウなどのグラスが細いラインを、リグラリアやホスタの葉が広い面を描き、色や形が異なるリーフ類の対比の妙が楽しめます。株張りが大きく旺盛に伸びる日向の花壇とは対照的に、日陰の花壇は、花色は控えめながら、全体的にまとまりを感じさせます。 6月の様子 【6月の日向エリア】 6月の庭で最も目を引くのは右前面のコーナーで盛りを迎えるフロックス‘ブルーパラダイス’。植わるのは1カ所のみですが、同じ花色のバーベナ・ボナリエンシスで背景を埋めることで、まとまりと見応えが生まれています。後半になるとアリウム‘丹頂’とヒオウギが開花。濃いワインレッドと反対色となる黄花が、ガーデン全体のピリリとしたスパイス的存在となっています。 【6月の日陰エリア】 ピンクのアスチルベ‘タケッティスペルバ’や‘ビジョンズインピンク’、そしてカンパニュラ・ラプンクロイデスの花穂があちこちで上がり、縦のラインを強調したデザインが楽しめます。後方ではホスタやリグラリアなどのカラーリーフが明るさや陰影を生み出し、植栽の表情に深みを与えています。 5月の様子 【5月の日向エリア】 すらりと伸びて高くなった草丈が、初夏の風に揺られながらワイルドなうねりを見せています。中旬になるとリナリア・プルプレアやバーベナ・ボナリエンシス、フロックス‘ブルーパラダイス’、ペンステモン‘ダークタワーズ’ の花が一斉に開花。後方ではカラマグロスティス‘カールフォスター’がブルーグリーンの花穂を上げ、ガーデンは青みを帯びたピンクに色づきました。 【5月の日陰エリア】 ティアレアやムラサキツユクサ‘スイートケイト’、アスチルベなどの、明るくやわらかい葉色が美しいガーデンを構成。上旬はピンクの花を咲かせるツツジ ホンコンエンシスがアクセントになり、下旬になるとリーガルリリーの大輪花が開花して、初夏到来のインパクトを高めています。ホスタやリグラリアなどの葉物がガーデンに落ち着いた印象を与えるなか、手前ではルズラ・ニベアが幻想的な風景を描いています。 4月の様子 【4月の日向エリア】 4月前半に咲いていた白や黄色のスイセンが中旬には終わり、後方のブルーのカマッシア‘ライヒトリニー’にバトンタッチ。スラリと伸びる花穂が乱立するように広がり、この時季らしい勢いを見せています。まだ花をつけていないその他の宿根草も、形の異なるリーフをこんもりと茂らせ、共演する様子も見どころです。 【4月の日陰エリア】 4月上旬はコンパクトなスイセン‘ベビームーン’が主役で、緑が少なく素朴な風景でしたが、中旬には白いスイセン‘タリア’とプルモナリア‘トレビファウンテン’が咲き始め、ぐっと華やさが増してきました。また、手前ではイカリソウやティアレラの小さい花が咲き、デザイナーがイメージする‘春の森の景色’が表現されています。 3月の様子 【3月の日向エリア】 日向のエリアでは、上旬はクロッカス‘ホワイトウェルパープル’が彩りを添えるものの、表土がまだ寂しい印象でしたが、後半になると随所に散らしたスイセン‘ベビームーン’の明るい黄花が咲いて、春らしさがぐんとアップ。一方、数か所に植わる銅葉のペンステモン‘ダークワーズ’のダークカラーが引き締め役となり、アイリス類の細い葉が青々と伸び始め、空間を埋めています。 【3月の日陰エリア】 日陰のエリアでは、上旬はカレックスや銅葉のティアレラ‘ピンクスカイロケット’の葉の間から球根の芽色が確認できる程度でしたが、下旬になると日なたと同じスイセン‘ベビームーン’が開花をスタート。まとめて数か所に植えられた小さなシラー・ミスクトスケンコアナも満開を迎え、原生地の林床のような風景を描いています。奥の方ではユリがニョキリと芽を上げ始め、穏やかながらも秘めたパワーを感じさせています。 2月の様子 【2月上旬】 日向のエリアでは、リナリア・プルプレアの銀葉やペンステモン‘ダークワーズ’の紫の葉がアクセントになって、パニカムやペニセタムの枯れ色の葉が風に揺れています。地際をよく見ると小さな芽が伸び始めています。日陰のエリアでは、イカリソウやティアレラの赤紫の葉が寒さに耐え、花壇の奥では、ヤブラン’シルバードラゴン’が細葉を伸ばして明るい彩りになっています。日向・日陰とも後方に剪定枝で形作ったバイオネストが備えられ、メンテナンス時に出た枯葉などが入れられています。 1月の様子 「Grasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜」作庭後、1月の様子。 コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら 【作品のテーマ・制作意図】ガーデンの美しさは緑量や花の色目や形状だけで測れるものでなく、空や光や風や生きもの全ての関わり合い、生命の尊さを感じることでガーデンがより輝いて見えます。ガーデンに長く根付いて、地域に馴染む風景、生態系の一部になることを想定し、植えっ放しに耐えられる丈夫な品種を中心に、蜜源植物や、風や光の動きを反映しやすい植物を多く取り入れ、地味な在来種でも組合せや配置で奥行ある豊かな草はらの表現を目指します。 【主な植物リスト】〇北側(日向)フジバカマ/パニカム‘ブルージャイアント’/ノリウツギ‘ライムライト’/ヘリアンサス‘レモンクイーン’/パブティシア/キキョウ/アヤメ/バーベナ・ボナリエンシス/ダイアンサス・カルスシアノラム/ペニセタム・マクロウルム/ジャーマンアイリス/ルドベキア‘ゴールドスターム’/ヒオウギ(オレンジ花・キバナmix)/ペンステモン‘ハスカーレッド’/スティパ、カッコウセンノウ/ミニスイセン・ティタティタ(球根)/オミナエシ/ダッチアイリス(球根)/アリウム‘丹頂’(球根)/ミューレンベルギア・カピラリス/カマッシア(球根)/イトススキ/ロシアンセージ〇南側(日陰)ラナンキュラス‘ゴールドカップ’/カレックス・オメンシス・エバリロ/アジュガ/ベニシダ/フウロソウ/ツワブキ/ユキノシタ/ジャノヒゲ/ヤブラン/ハナニラ(球根)/スイセン各種(球根)/フリチラリア(球根)/ペンステモン/ホタルブクロ/ヒヨドリバナ/アスチルベ/カレックス/アガパンサス(青花・白花mix)/クサソテツ/ヤツデ/スミレ/セキショウ コンテストガーデンB 月々の変化 11月の様子 【11月の日向エリア】 黄×パープルの植栽が、秋からぐんぐんと美しい色彩を放ち始めました。下旬になるとシードヘッドが増え、ぐっと大人っぽい印象へと移り変わり、その朽ちた立ち姿は絵になる風景となっています。後方では、アスター‘ジンダイ’が見ごろを迎え、ミューレンベルギア・カピラリスやパニカム‘ブルージャイアント’のなかで、幻想的な景色を作っています。 【11月の日陰エリア】 日向と同様、秋にクライマックスを迎えたナチュラルガーデン。2種のホトトギスと清澄白山菊のピンクの落ち着いた彩りが、青々としたグラウンドカバーとのコントラストで、ひときわガーデンを引き立てます。今月目を引いているのが、明るさをもたらしているツワブキの黄色い花。ノリウツギの枯れた花穂との対比も見どころです。秋の小道を歩いているような雰囲気のある、愛らしい風景が広がっています。 10月の様子 【10月の日向エリア】 勢いよく成長する草丈のある植物が、秋空に向かって伸びるさまが爽やかで印象的です。ユニークな穂を揺らすペニセタム・ピロサム‘ギンギツネ’などのグラス類が、この時期ならではの黄×紫の艶やかな色彩を一層引き立てています。手前ではクリーム色のヒガンバナが開花しました。 【10月の日陰エリア】 先月のツルバキアからバトンを受け、今月はホトトギスが咲き始めました。右側端では、ディスカンプシア‘ゴールドタウ’の乾いた穂がふわふわと風に揺れています。野原のような風景に、可憐な彩りとオーナメンタルな植物がほんの少し加わっていることで、このガーデンの大きな魅力となっています。 9月の様子 【9月の日向エリア】 上旬までは8月に続いて明るい黄色が目をひく風景でしたが、下旬になると深みのある色味に変化し始めました。青花のルエリア‘パープルシャワー’が鮮やかに開花を進め、後方では、パニカム‘ブルージャイアント’やバーベナ・ボナリエンシスが爽やかに空間を埋め、ライムグリーンのノリウツギの花穂がオーナメンタルな存在感を発揮しています。 【9月の日陰エリア】 瑞々しかった風景も下旬になると、少し色みに深みが増し始めました。通路沿いの右角ではグラス類のディスカンプシア‘ゴールドタウ’とカレックス・フラジェリフェア‘キウイ’が、メリアンサス・マヨールと共にワイルドに葉や穂を展開。それとは対照的に花壇の左右手前ではピンクのツルバギアの花が愛らしい彩りをプラス。コントラストの妙が楽しめます。 8月の様子 【8月の日向エリア】 オミナエシやヒオウギ、ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’、ヘリアンサス‘レモンクイーン’の黄花がメインの季節を迎えています。ルドベキアの黒い花心が、ペンステモン‘ハスカーレッド’の茶褐色の枯れ穂に呼応。紫花のルエリア‘パープルシャワー’が、きりりとした大人っぽいアクセントとなり、対比的な美しい配色が絵画的な印象を与えています。 【8月の日陰エリア】 ジャノヒゲやヤブランなどのグラウンドカバーが地面をみっちりと覆い、猛暑期間であっても、以前からの瑞々しさを維持しています。ディスカンプシア‘ゴールドタウ’やカレックスなどのグラス類が涼しげな動きをもたらし、静と動のコントラストを強調。のどかな風景が広がっています。 7月の様子 【7月の日向エリア】 ルドベキア‘ゴールドスターム’やヒオウギ、オミナエシ、コレオプシス‘レッドシフト’などたくさんの黄色い花があちらこちらで開花し、パワーあふれる夏の植栽を演出。やわらかい穂のペニセタム・ビロサムやペニセタム・マクロウルムがふわりとした動きをもたらして、花壇全体に強弱をつけています。 【7月の日陰エリア】 アジサイ‘アナベル’が明るさを、ツルバギアが愛らしさをプラスしています。下旬になるとアジサイに代わって、メリアンサス・マヨールが数々の葉を広げ、彫刻的な造形で特異な雰囲気を醸し出します。ともすると唐突感が出てしまいそうですが、その手前でさらさらとした穂を上げるディスカンプシア‘ゴールドタウ’が配されていることで、ナチュラルなガーデンにまとまりを持たせています。 6月の様子 【6月の日向エリア】 春の見せ場だったアイリスに代わり、涼しげなブルーの花を咲かせるトリテレイア‘クイーンファビオラ’が咲き始めました。後半になるとルドベキア‘ゴールドスターム’の黄色い花が鮮やかさをプラス。青×黄にアリウム‘丹頂’やダイアンサス・カルスシアノラムの濃いピンクが寄り添い、色彩豊かな風景となりました。 【6月の日陰エリア】 青々としたヤブラン、ジャノヒゲが広がる野原のような植栽に、2種のアジサイが開花し、立体感をもたらしています。手前に咲くヤマアジサイ‘藍姫’の青花と後方で咲くアジサイ‘アナベル’の白花が、涼やかな彩りをプラス。中央を横断する溝は、小道のような雰囲気を維持しています。 5月の様子 【5月の日向エリア】 春のガーデンは数種のアイリスが主役で、上旬はアヤメや各色(青・黄・白)のダッチアイリス、ジャーマンアイリスが随所で咲き乱れていました。主役と混ざり咲いていたダイアンサス・カルスシアノラムは、中旬になるとペンステモン‘ハスカーレッド’とともに、主役級の存在感を発揮。背後ではパブディシア トワイライトが開花し、シモツケのライム葉と共にガーデンに奥行きを感じさせています。 【5月の日陰エリア】 一面に咲いていた黒葉スミレが終わり、ヤブランやジャノヒゲが広がる草原のような風景に。そこに清らかな華を添え続けているのは、白いレースのような花を咲かせるオルラヤ。絶妙な透け感とふわふわとした草姿が、風の動きをもたらし、素朴な野草の雰囲気があります。中旬には、ガーデン中央に植わるヤマアジサイ 藍姫が咲き始め、オモトやツワブキとともに、どことなく和の雰囲気を漂わせています。 4月の様子 【4月の日向エリア】 線状の葉を持つアイリスなどが溝に沿って多数立ち上がり、緑と花のコントラストによって花壇のデザインが際立ってきました。上旬に咲いていたスイセンは咲き終わり、中旬にはカッコンセンノウやシラー・ペルビアナのブルーがアクセントに。アイリスのつぼみもぐんぐんと膨らんできているので、一斉に咲く5月は風景が一変すると予感させます。 【4月の日陰エリア】 上旬はリュウノヒゲと黒葉スミレが春の庭の骨格となって、スイセン・テタテートがアクセントとして効果的に見えていましたが、中旬になると前方で淡い黄色のミニチューリップが開花。差し色としての役割も担いながら、黒葉スミレの紫との反対色で彩りにコントラストをつけます。また、ペンステモンやオルラヤが大きくなりはじめ、立体感が出てきました。 3月の様子 【3月の日向エリア】 日向のエリアでは、上旬はカットバックしたグラスのドーム型のフォルムが目立っていましたが、下旬になるとアイリスの細い葉やペニセタム・マクロウルムの緑が瑞々しく展開。黄色いスイセン‘イエローセイルボート’やチューリップ‘シルベストリス’が、あちこちでにぎやかさを放っています。また、中央を渡る溝に沿って植物が並ぶ規則性が、気持ちの良さを感じさせます。 【3月の日陰エリア】 日陰のエリアは、上旬はノシランやリュウノヒゲ、ツワブキなど常緑のリーフ類+スミレの小花で覆われるのみでしたが、下旬になると黄花のスイセン‘ティタティタ’や、大輪のスイセン‘ラスベガス’、そのまわりには青花のムスカリが開花をスタート。やわらかい花色が加わることで、春の訪れが少しずつ感じられるようになりました。 2月の様子 【2月上旬】 日向のエリアでは、イトススキやミューレンベルギア・カピラリスのダイナミックな枯れ姿がアクセントになりながら、等間隔に植る常緑アヤメやダッチアイリスの芽吹きが緑のアクセントになっています。奥では早くもスイセン‘ペーパーホワイト’が咲き始めました。日陰のエリアでは、ツワブキや黒葉スミレ、ヤブラン、メリアンサス・マヨール、ヤツデなど、さまざまな常緑の葉が花壇に彩りを添えています。 1月の様子 「花鳥風月 命巡る草はら」作庭後、1月の様子。 コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 【作品のテーマ・制作意図】森では、様々な木々が壮絶な生存競争を繰り広げています。しかしそれは草原もまた同じ。草原は生命力に溢れる草花たちの戦いの場です。そしてやがて、草原の中から樹木が芽生え、最終的には森へと遷移していきます。私は、草原から森へと還るこのはじまりの瞬間を、美しくもドラマティックに演出したいと思いました。ここは、森が好きなガーデンデザイナーが解釈し表現したペレニアルガーデンです。 【主な植物リスト】〇北側(日向)グラス類:アオチカラシバ/エラグロスティス‘スペクタビリス’/カレックス‘フェニックスグリーン’/スティパ‘テヌイッシマ’/ディスカンプシア‘ゴールドタウ’ など球根類:コオニユリ/カノコユリ/スノーフレーク/ハナニラ(イフェイオン)‘ジェシー’/原種系チューリップ ‘アルバコエルレアオクラータ’/クロッカス‘ホワイトウェルパープル’/アリウム‘カメレオン’/アリウム‘グレースフルビューティー’ など宿根草:ノカンゾウ/アヤメ/ミソハギ/ウツボグサ/シュウメイギク/チョウジソウ/ワレモコウ/フジバカマ/ハゴロモフジバカマ/オミナエシ/ノコンギク‘夕映え’/アスター‘アポロ’/シオン‘ジンダイ’/エキナセア‘パープレア’/エキナセア‘ロッキートップ’/ルドベキア‘ヘンリーアイラーズ’/セントーレア‘ニグラ’/オルレア(一年草)/ガウラ‘クールブリーズ’/ペルシカリア‘ブラックフィールド’/フロックス‘フジヤマ’ など低木類:ガマズミ/バイカウツギ/コバノズイナ/テマリシモツケ など 〇南側(日陰)グラス類:カレックス‘ペンデュラ’/カレックス‘テスタセア’/シマカンスゲ/ワイルドオーツ/フウチソウ など球根類:ヒアシンソイデス‘ヒスパニカエクセルシオール’/シラー・シベリカ‘アルバ’/フリチラリア‘バイモユリ’/フリチラリア‘エルウィシー’/カマシア‘クシキー’/ゲラニウム‘チュベロサム’/コリダリス・ソリダ‘ベスエヴァンス’ など宿根草:キチジョウソウ/ヤブラン/ギボウシ/オカトラノオ/ホタルブクロ/イカリソウ/ミツバシモツケ/クリスマスローズ/シュウメイギク/チョウジソウ/ハゴロモフジバカマ/ベニシダ/ニシキシダ/クサソテツ/アスター‘トワイライト’/アスター‘リトルカーロウ’/ワイルドチャービル/サラシナショウマ(シミシフーガ)‘ブルネット’/カラマツソウ(タリクトラム)‘ヒューイットダブル’/モウズイカ(バーバスカム)‘ビオレッタ’/ペンステモン‘ミスティカ’ など低木類:ナツハゼ/ノリウツギ/ムラサキシキブ/ヤツデ‘スパイダーウェブ’/コバノズイナ など コンテストガーデンC 月々の変化 11月の様子 【11月の日向エリア】 秋の代表格であるキク科のアスター‘夕映え’や、初夏から咲き続けるガイラルディア、ふわりと咲く花々が多様なグラスと渾然一体となり、晩秋の情緒たっぷりの風景となっています。先月に引き続き、ブラシのような穂を上げるアオチカラシバが、ランドマークのような存在感を発揮。反対側に植わるクランベ・マリティマとともに、オーナメンタルで面白味のあるアクセントとなって、見応えある景観をつくり出しています。 【11月の日陰エリア】 爽やかなピンクやブルーの小花が咲く植栽のなかで、赤く色づくナツハゼの紅葉が温かみを与えています。その傍らで秋風になびくワイルドオーツの乾ききった穂や、後方に植わるノリウツギの枯れた花穂が、自然の秋の美しさを引き立て、山の谷筋の風景を切り取ったような風情が楽しめます。 10月の様子 【10月の日向エリア】 今月に入り、ペニセタム(アオチカラシバ)のボリュームのある穂が勢いよく上がり、見事な存在感を放ち始めました。全体的に夏から咲き続けている花がより一層花数を増やし、たくさんの蝶が飛来しています。なかでも長期に渡りピンクの花をつけているガイラルディア‘グレープセンセーション’が道行く人の目を引いています。 【10月の日陰エリア】 手前のナツハゼが植わるゾーンとその向かいのノリウツギの植わるゾーンが、谷合に見立てた溝を挟んで見事に調和。アガスターシェ‘ブラックアダー’やアスター‘トワイライト’、ムラサキシキブの実などのブルートーンの彩りが、爽やかな秋の空気に美しく映えています。 9月の様子 【9月の日向エリア】 どっしりとした株のフロックス‘フジヤマ’(オイランソウ)やルドベキア‘ブラックジャックゴールド’、アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’が、左右・中央の3カ所で開花。そのまわりの空間をガウラやバーベナ・オフィシナリス‘バンプトン’などのふわりと広がる草花が美しく咲き乱れています。後方では、ガマズミの赤く色づいた実が静かに秋らしさをアピール。 【9月の日陰エリア】 ナツハゼやノリウツギなどの低木のまわりでフウチソウやワイルドオーツが流れるように葉や穂を揺らすさまは、いつまでも暑さが残る9月の風景に清涼感をプラス。後方ではノリウツギの枯れた花穂と共にムラサキシキブやアスター‘トワイライト’が繊細な初秋の風景を描いています。 8月の様子 【8月の日向エリア】 押し寄せる大波のごとく茂っていた上旬。成長しすぎた植物がざっくりと刈り込まれた下旬は、それまでとはひと味異なる風景が楽しめるようになりました。この時期は、鮮やかな花色のバーノニア'クリニタ'やフロックス‘フジヤマ’(オイランソウ)、ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’が、まわりを牽引するように華やかに咲き誇っています。 【8月の日陰エリア】 日向エリアと同様に、下旬までに大胆な剪定が行われ、前側と後側の区分けがはっきり見えるようになりました。その効果で、ノリウツギの花房がアクセントとなり、中央でアガスターシェ'ブラックアダー'がどっしりとした安定感を強調。眺めていて心地よい風景が生み出されています。 7月の様子 【7月の日向エリア】 7月に入ると花数は減ったものの、全体のボリュームはさらにアップ。宿根草に加えて数本の低木が植えられているガーデンは、ゆうに人の背丈を越し、迫りくるような迫力を感じさせます。それはまるで植物と虫の聖域。その旺盛に茂る植物を目の前にすれば、思わず奥へとかき分けて入って行きたくなる衝動に駆り立てられます。コオニユリに代わりカンゾウのオレンジ色がアクセントとなっています。 【7月の日陰エリア】 フウチソウやワイルドオーツなど、さらさらとした穂が風に揺れるさまが涼を感じさせます。下旬になると、ガーデン中央部にアンジェリカ‘エボニー’のシックな花穂が上がり、植栽に大人っぽい表情が見られるように。そのほか、白や淡いブルーなど楚々とした花が随所に咲きはじめ、小さな変化を見つける楽しさもあります。 6月の様子 【6月の日向エリア】 前半は淡いトーンで優しい印象でしたが、中旬になると全体的に深みのあるトーンに変化。ガイラルディア‘グレープセンセーション’やエキナセアなどのキク科の花が、素朴ながらも賑やかさをプラスしています。また、オレンジ色のコオニユリがアクセントとなり、品の良さを保ちつつワイルドな風景となっています。 【6月の日陰エリア】 6月の主役はシャスタデージーとリクニス・コロナリアの白花。バリエーション豊富なリーフ類が旺盛に茂り、大きなうねりを見せていますが、中央に横断させた深めの溝がデザインを切り替え、ボリュームのある植栽をすっきりと見せています。 5月の様子 【5月の日向エリア】 コバノズイナやバイカウツギ、アメリカテマリシモツケ‘サマーワイン’などの低木が開花の時期を迎えました。中旬になると草花は人の背丈を超えはじめ、溝の部分がけもの道のような雰囲気を醸しています。印象深いのは、ガーデン右側半分にたくさん植わるスティパ・テヌイッシマ(エンジェルヘアー)。風に吹かれて波のような動きを作り、どこかファンタスティックなシーンとなっています。 【5月の日陰エリア】 こんもりと茂る植栽の中で、随所で多種多様な姿の花が咲いているのが印象的です。手前ではゲラニウム‘ブームショコラッタ’やサルビア・ネモローサ‘スノーヒル’、ヒメケマンソウ、中央ではシャスターデージー‘スノードリフト’、脇・後方ではペンステモン・ミスティカ、シシリンシウム・ストリアタム、カマッシア・ライヒトリニー‘セミプレナ’などが開花し、見る人を飽きさせない初夏の植栽プランが楽しめます。 4月の様子 【4月の日向エリア】 低木のガマズミが柔らかな葉を展開し始め、より立体的な風景に変化しています。中央の谷溝にはブルーの小花のベロニカ‘ウォーターペリーブルー’が咲き広がり、投げ込まれた木片と相まって野趣たっぷりに。後方ではフェスツカやフェンネルなどの茂みの中からアリウム・リグラムがつぼみを上げ、手前ではピンクのシャボンソウやシレネなどの花が下垂、幻想的な風景を描いています。 【4月の日陰エリア】 上旬はクロッカス‘ホワイトウェルパープル’とクリスマスローズのピンク色が主役となり、愛らしさを感じる風景でしたが、中旬になると全体的にボリュームが出て、ワイルドさを感じさせる風景に。リクニス'フロスククリ'やゲラニウム'チュベロサム'などの繊細な小花が存在しながら、季節が進むとヒメケマンソウやシラーカンパニュラータ、ワイルドチャービルが存在感を放ちはじめ、主役が次々と移り変わっています。 3月の様子 【3月の日向エリア】 日向のエリアは、上旬はクロッカス‘ホワイトウェルパープル’が一番乗りで開花を謳歌していましたが、下旬ともなると原種のチューリップ‘アルバコエルレアオクラータ’やスノーフレークが群生するように開花。株姿をコンパクトに、かつ白花で統一することで、野趣あふれる早春の風景が実現しています。 【3月の日陰エリア】 日陰のエリアは、上旬の開花は数株あるクリスマスローズのみでしたが、下旬になると、クロッカス‘ホワイトウェルパープル’が加わり、楚々としながらも華やかさのある風景が見られるようになりました。クリスマスローズは花色や咲き方にバリエーションがあるので、うつむいて咲く花を一輪一輪見比べるのも一興です。 2月の様子 【2月上旬】 日向のエリアでは、敷き詰められた落ち葉や杉皮樹皮バークの間からシレネやガウラ、オルレア、サルビアなどが少しずつ緑を増やし、つんつんと球根の芽吹きも出始めています。日陰のエリアでは、細葉を放射状に伸ばすキチジョウソウが緑のラインを作り、小高い場所ではクリスマスローズが生き生きと茂っています。ひと際明るいライムグリーンの葉を茂らせているのは、ワイルドチャービル(ヤマニンジン)。 1月の様子 「草原は、やがて森へ還る。」作庭後、1月の様子。 コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【作品のテーマ・制作意図】人々の心に残る武蔵野の情景を骨格に、新たな要素を組み足して、これからの愛される武蔵野の風景を植物の魅力や武蔵野の風景を「伝え」「感じる」ことを軸に提案しました。武蔵野の草原を連想させるグラスをベースに、季節の流れの中で、さまざまな色や形の草花がガーデンを彩っていくような配置を心がけました。自然との距離が遠くなった現代で、このガーデンが少しでも自然と人とが寄り添うきっかけになればと思っています。 【主な植物リスト】〇北側(日向)イトススキ/カラマグロスティス/カレックス/ユーパトリウム ‘ベイビージョー’/ムギ/ソバ/ダンギク/ベルガモット/オミナエシ/ワレモコウ/ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’/エキナセア/バーベナ・ボナリエンシス/アリウム/チューリップ 〇南側(日陰)カレックス/ギボウシ/ツワブキ/クサソテツ/アカンサス・モリス/バプティシア/ユーパトリウム’チョコレート’/ペルシカリア‘ファイヤーテール’/アジサイ‘アナベル’/オトコエシ/オミナエシ/カクトラノオ/ペンステモン/アリウム/チューリップ コンテストガーデンD 月々の変化 11月の様子 【11月の日向エリア】 ホットな雰囲気があったヘレオプシス‘ブリーディングハーツ’の花や銅葉の色に、ぐっと深みが増し始めました。ソバの花やイトススキ‘パープルフォール’、アスター‘ジンダイ’と相まって、若々しさやひなびた印象を併せ持つ、重層的な風景が広がっています。 【11月の日陰エリア】 アネモネ‘クイーンシャーロット’(シュウメイギク)の花が盛りを迎えた晩秋のガーデン。花色のピンクが一般的な品種よりもやや濃い花色のため、つややかなグリーンの植栽にあたたかい印象を与えています。また、こんもりとした葉群れにダークな色合いのペンステモン等のシードヘッドが混在し、変化を与えながら落ち着いた印象をもたらしています。 10月の様子 【10月の日向エリア】 夏から旺盛に咲いていたヘリオプシス‘ブリーディングハーツ’やルドベキア‘ブラックジャックゴールド’の花の勢いが衰えていく一方で、後方のアスター‘ジンダイ’の花がピークを迎えました。イトススキの華奢な穂と相まって、やさしい雰囲気を紡いでいます。 【10月の日陰エリア】 先月から存在感を見せ始めたユーパトリウム‘グリーンフェザー’の丈がさらに高くなり、リーフで作る植栽の見応えを高めながら、背後を隠す独特な世界観を確立。線の細い葉が秋の陽光に透けて、きらめいています。また、ペンステモン‘ダコタバーガンディ’やアスチルベ‘ダークサイドオブザムーン’、アジュガなど銅葉のリーフ類が、植栽に深みを与えています。 9月の様子 【9月の日向エリア】 無数の花を咲かせて元気いっぱいに存在感を発揮していたルドベキア‘ブラックジャックゴールド’の開花も落ち着きを見せてきました。花数が減った分、カレックス・テヌイクルミスのオレンジ味のあるブラウンが際立つようになり、イトススキの穂も上がり始めました。暑さが残るものの、一気に季節が進んでいます。 【9月の日陰エリア】 9月も引き続き瑞々しい風景を維持しつつ、全体的に深みのあるトーンに変化し始めました。依然ノリウツギとアジサイアナベルのライムグリーンの花穂がシーンに明るさをもたらし、そこにダークな枯れ穂をつけるペンステモン‘ダコタバーガンディ’がピリリとスパイスを効かせています。 8月の様子 【8月の日向エリア】 メインカラーとなる赤×黄の中で、バーベナ・ボナリエンシスの紫ピンクやオトコエシなどの白花が加わって、植栽の表情がより変化に富んでいます。ススキ‘パープルフォール’やカラマグロスティス‘カールフォースター’など、随所で穂を伸ばす多様なグラス類が存在感を出し始めました。 【8月の日陰エリア】 ノリウツギとアジサイ‘アナベル’×リーフ類で織り成す夏の植栽は、ずっと瑞々しいシーンを提供。その中で、白花のオトコエシと赤花のペルシカリア‘ファイヤーテール’が、さりげないアクセントになっています。この時期は、花壇の後方でぐんぐん伸びているユーパトリウム‘グリーンフェザー’も見どころ。 7月の様子 【7月の日向エリア】 色彩豊かな時期が過ぎ、トーンに落ち着きを見せる7月のガーデン。先月に引き続き、ヘリオプシス‘ブリーディングハーツ’やルドベキア‘ブラックジャックゴールド’の鮮やかな花色が目を引いています。奥と両脇の草丈が高くなるように設計された花壇は、波のうねりのようなダイナミックな高低差を感じさせ、迫力と同時にリズム感も生み出しています。 【7月の日陰エリア】 瑞々しかったアジサイ‘アナベル’が下旬になるとくすみはじめ、グリーンのグラデーション×ダークカラーのシックな組み合わせが際立つようになりました。まるで大波が押し寄せてくるかのようなボリューム感で見る人を圧倒する植物群。手前に広がるシダ類は明るさと動きをもたらしながら、ワイルドさもプラス。艶やかな葉や雫をつける葉が輝き、雨も似合うガーデンです。 6月の様子 【6月の日向エリア】 アキレア‘パイナップルマンゴー’やモナルダ(赤)、ヘレオプシス‘ブリーディングハーツ’など、ホットな彩りでまとめられた初夏の植栽。その中で、アガスターシェ‘クレイジーフォーチューン’やベロニカ・ロンギフォリアのブルーが爽やかなアクセントとなっています。ボルドー色のアリウム‘レッドモヒカン’の球体の花が、あちこちで浮遊するように顔を出しているのもユニーク。 【6月の日陰エリア】 盛りを迎えたアジサイ‘アナベル’。大きな白い花が植栽の背景となり、さまざまな色形のカラーリーフが各々の魅力を発揮しています。ツワブキやペンステモン‘ダコタバーガンディ’、アジュガなど、緑×ダークトーンを基調としたリーフ合わせの中に、リョウメンシダなどの明るいグリーンを入れ込むことで、コントラストを効かせています。また、白い小花を咲かせるニホンムラサキが株間を埋めているのも見どころ。 5月の様子 【5月の日向エリア】 春の庭を牽引していたチューリップから、アリウム類にバトンタッチ。上旬は‘パープルセンセーション’、中旬は‘クリストフィー’ が主となり、それを支える花もラナンキュラス ラックスからアキレア‘パイナップルマンゴー’に移り変わりました。ポイントで植えたスティパ・テヌイッシマ(エンジェルヘアー)の輝きが、初夏の植栽をふんわりと支えています。 【5月の日陰エリア】 日向のガーデンと同様、チューリップが終わり、愛らしかった植栽はぐっと大人っぽい表情を見せ始めました。上旬は左側がラナンキュラス ラックスシリーズが間を埋めていましたが、中旬になると花が終わり、アリウム‘パープルセンセーション’や‘フォーロック’の開花がスタート。銅葉のアスチルベ‘ダークサイドオブザムーン’やペンステモン‘ダコタバーガンディ’が瑞々しい植栽を引き締めています。 4月の様子 【4月の日向エリア】 上旬は、赤・白・オレンジのチューリップ×ラナンキュラス ラックスシリーズの愛らしいカラーリングから、赤とブラックに花色が移り変わり、きりりとした表情が加わりました。また、それらを引き立てるように淡い花色のアネモネの株がボリュームアップ。スラリと縦に伸びるムギが瑞々しいアクセントになって、春を謳歌する花々の競演が楽しめます。 【4月の日陰エリア】 上旬にはほとんど咲いていなかったチューリップが中旬には一斉に開花し、日向に少し遅れて春爛漫の風景に変化しました。低い場所ではアジュガが小さなブルーのつぼみを無数につけ、後方ではノリウツギ類が柔らかい葉を少しずつ展開。春の見せ場から次の見せ場へと移りゆく季節の流れが、そよ風にのってふんわりと感じられます。 3月の様子 【3月の日向エリア】 日向のエリアは、上旬は最前列や溝の縁に咲くベロニカ‘オックスフォードブルー’の青い小花がナチュラルな彩りを添えていました。下旬になると、コンパクトなチューリップ‘スワラ’(赤)、‘ショーグン’(オレンジ)、‘ホワイトバレー’(白)がラナンキュラス‘ラックス’とともに咲き始め、一気に春本番のにぎやかさを演出。ムギやスティパ・テヌイッシマのやわらかい葉が、花の可憐さを一層引き立てています。 【3月の日陰エリア】 日陰のエリアは、上旬は冬から常緑性の濃い緑葉のリーフ類が青々と茂っているので、既に瑞々しい風景です。数センチほど芽が出始めていたチューリップの葉が、下旬になると20cmを超えるまでに成長。全体的にリーフの色にバリエーションが生まれ、変化のある表情になってきました。ポツンぽつんと植えられたラナンキュラス ラックスの赤や白い花が、アクセントになっています。 2月の様子 【2月上旬】 日向のエリアでは、スティパやカレックス、タイニーパンパ、セスレリアなどさまざまな細葉が風に揺れるなか、地際ではベロニカの銅葉やルドベキアなどが少しずつ葉を増やし、多数の球根類の芽も出始めています。日陰のエリアでは、アナベルの株元にアカンサスの鮮やかな葉が茂り、ツワブキやリョウメンシダなどの常緑の葉がリズミカルな彩りになっています。立ち上がる細葉や地面を這うように広がる丸葉など、フォルムの違いが楽しめます。 1月の様子 「feeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~」作庭後、1月の様子。 コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 【作品のテーマ・制作意図】世界的に"Climate Change(気候変動)"が叫ばれ、日本でも夏の猛暑、雨不足による水ストレスが植物を苦しめました。農業技術である完熟した堆肥をはじめ有機資材を使い、微生物に富み団粒構造を持つ土壌を作ることからはじめ、これまで武蔵野の草原風景を担ってきた在来植物を中心にガーデンを構成します。都市の暮らしの中でこぼれ落ちてきた技術、植物でこれからの武蔵野の風景を模索していきます。 【主な植物リスト】〇北側(日向)ヤマハギ/ミソハギ/オミナエシ/ノガリヤス/チカラシバ/フジバカマ/オトコエシ/コマツナギ/ワレモコウ/シラヤマギク/カワミドリ/フジアザミ/ノダケ/ヒヨドリバナ/キセワタ/マツムシソウ/クララ/オカトラノオ/ヤマホタルブクロ/ツルボ/キキョウ/アサマフウロ/タカノハススキ/ミスカンサス‘モーニングライト’/ミツバシモツケ/カタクリ/ムラサキ/カライトソウ/タムラソウなど 〇南側(日陰)フクジュソウ/ヒトリシズカ/フタリシズカ/ツリガネニンジン/キバナノアキギリ/チダケサシ/シュウメイギク/クジャクシダ/ナチシダ/クサソテツ/ヒトツバ/ナキリスゲ/ゲンノショウコ/ナガボノシロワレモコウ/ヤグルマソウ/キョウガノコ/チョウジソウ/アキカラマツ/フシグロセンノウ/キリンソウ/エゴポディウム・バリエガータ/ツワブキ・アージェテリウム‘浮雲錦’など コンテストガーデンE 月々の変化 11月の様子 【11月の日向エリア】 チカラシバの穂がさらに開き、赤みを帯びたイトススキとともに、秋風を強く感じさせるようになりました。ガーデンの隅ではこんもりと茂るヤマハギが、11月下旬もたくさんのピンクの花をつけています。植栽の奥をのぞき込むと、小さな小菊やコマツナギが最後の花を咲かせており、まさに晩秋の草むらといった味わいです。タムラソウのシードヘッドもユニーク。 【11月の日陰エリア】 ナチシダやイトシマススキが晩秋まで勢いよく茂り、どこか原始的な雰囲気を漂わせています。中央ではシキンカラマツやシラヤマギクの枯れ姿が荒涼とした風情を、それとは反対に奥ではエゴボディウム‘バリエガータ’やツワブキ・アージェテリウム‘浮雲錦’の一塊が、明緑色のホスタとともに明るいアクセントをつくり、デザイン性を感じさせます。 10月の様子 【10月の日向エリア】 ボリュームのある穂を上げるチカラシバが案内板の傍らでこんもりと広がり、訪れる人を出迎えているよう。初夏から咲いているキキョウやカライトソウ、秋の花のオトコエシやヤマハギが素朴な彩りを添え、この時期ならではの和の風情がたっぷり楽しめます。 【10月の日陰エリア】 奔放に広がるナチシダやヒヨドリバナなどのワイルドな趣と、シキンカラマツなど地上部が枯れ始めた植物のひなびた趣とが見事に調和し、深みのある表情を見せています。日向のエリアと同様に、チカラシバの赤みを帯びた穂がメリハリを生み、効果的なアクセントとなっています。 9月の様子 【9月の日向エリア】 成長期を終えてすっかり丈が高くなった植物によって、背景が見えなくなりました。9月の開花は小さなピンクの花をつけるコマツナギと白い小花をつけるキセワタ。花は少ないですが、初秋の風にそよぐ景色には、どこか郷愁を感じます。 【9月の日陰エリア】 日向の植栽とは異なる趣で、ダイナミックに株を広げる山野草。上旬にはシラヤマギクやトウテイラン、シュウメイギクが見頃を迎えました。下旬になると、ラインを描くイトススキやギザギザの葉を展開するナチシダなどが見せる“組み合わせの妙”がより分かりやすく楽しめます。 8月の様子 【8月の日向エリア】 8月に入ると全体的に丈が高くなり、迫力のあるシーンが楽しめるようになりました。下旬になると花数は少し減りましたが、人の背丈ほどあるノダケやキセワタがつぼみや花をつけ始め、山野草をセレクトしているからこそのユニークな花が観賞できます。 【8月の日陰エリア】 シラヤマギクの白花が満開となり、つぼみをつけたヒヨドリバナやナチシダなどが量感たっぷりに枝葉を伸ばしています。一方、手前ではクールなトウテイランのシルバーリーフと青花が引き締め役となり、ひねりを効かせたデザイン性が植栽の表情を深めています。 7月の様子 【7月の日向エリア】 ますます草丈が高くなり、見応えが出てきました。紫の穂をたくさん上げるカワミドリや、繊細な白花を咲かせるシラヤマギクによって爽やかな風景が楽しめる中、キキョウやタムラソウが可憐な彩りを加えています。先月に引き続きフジアザミが個性的な姿を見せ、道行く人の足を止めています。 【7月の日陰エリア】 上旬は、丈のあるシキンカラマツが控えめながらも目を引いていましたが、下旬になるとフシグロセンノウとオオバギボウシの花にバトンタッチ。鮮やかなオレンジ花が加わって、よりにぎやかになりました。中央から四方に向けて、リーフの緑のグラデーションが伸びやかに広がり、見る人に心地よさを与えています。 6月の様子 【6月の日向エリア】 上旬は前面のホタルブクロや寺岡アザミがメインでしたが、中旬になるとシキンカラマツ、コマツナギ、シラヤマギクなどが開花。オレンジ色のコオニユリの花がポツンポツンと点在する様は野趣にあふれ、自然な風景を思わせています。右手前コーナーでは、彫刻的な形の花を咲かせているフジアザミが道行く人の目を引き、山野草ガーデンの奥深い世界へといざなっているようです。 【6月の日陰エリア】 つややかな緑のグラデーションの中央でピンクの花をつけるシキンカラマツが、楚々としながらもシンボリックな存在感を放っています。まわりにはシマイトススキやホスタなどが瑞々しく成長。スカビオサ‘ムーンダンス’の薄クリーム色の花を無数に上げる様子は、幻想的な雰囲気たっぷりです。 5月の様子 【5月の日向エリア】 山野草たちの開花がスタートしました。前面ではほかの宿根草に先立ち、ヤマホタルブクロ‘アケボノ’や寺岡アザミ、ミツバシモツケが開花のピークを迎えています。中でも目を引くのが黄色い花をつける多肉質のキリンソウ。フジアザミの尖った葉とともに、ユニークな雰囲気を醸しています。植栽奥では、赤花のアストランティア‘ベニス’が彩りをプラス。 【5月の日陰エリア】 木漏れ日の下でやわらかな山野草が広げる姿は、林床を思わせます。上旬はチョウジソウが可憐な花を咲かせていましたが、中旬になるとミツバシモツケやタマガワホトトギスが開花。後方では、繊細な切れ込みが入るナチシダが瑞々しい野性味を放っています。 4月の様子 【4月の日向エリア】 他よりも少し遅れて芽吹きはじめた山野草も、春の日差しに誘われて成長を進め、中旬になると繊細な葉をあちこちで展開させているのがわかります。花壇の前方で一番早く成長し、存在感を出していた寺岡アザミ。そこに追いつく勢いで、シキンカラマツやフジバカマが柔らかい葉を旺盛に茂らせます。武蔵野の野原を感じさせる瑞々しい風景が見られるようになりました。 【4月の日陰エリア】 日向のエリアと同じく、あちこちで芽吹きが進み、さまざまな葉が展開し始めています。白い華やかなスイセンと野趣のある小さな花を下げるスノーフレークが清楚な彩りをプラス。こちらでもシキンカラマツが茂り、日向との共演が予想できます。山野草の芽吹きの楚々としたたたずまい、繊細な葉の違いなどをじっくり眺められるのは、この季節ならではの楽しみ。 3月の様子 【3月の日向エリア】 日向のエリアは、上旬はまだまだ表土が見える場所が多いですが、最前列に原種チューリップ・トルケスタニカが咲き始め、道行く人を楽しませています。下旬になると奥の方でシキンカラマツなどの葉が展開をスタート。ガーデンの前方コーナーでピンクのカタクリが愛らしい花の楚々とした姿が楽しめるようになりました。 【3月の日陰エリア】 日陰のエリアは、ガーデンの中央高台に植わる常緑のディアネラ‘ブルーストリーム’が中心となり、この時期のアクセントになっています。上旬にはまだ地上部に出てくる野草の数は少なかったのですが、下旬になるとガーデンのあちこちで各種の植物が成長を開始。野草は成長が遅いだけに、やっと顔をのぞかせる姿が見る人の心を和ませているよう。上旬に咲いていたフクジュソウは花後、繊細な葉を茂らせています。 2月の様子 【2月上旬】 日向のエリアでは、地上部が残されていたフジバカマなどの株元をよく見ると、新芽が吹き始めています。また、ところどころで原種チューリップの芽も確認できます。1月は小さかったノアザミ(寺岡アザミ)が地面を這うように葉を広げています。日陰のエリアでは、小高い場所でディアネラ・ブルーストリームが力強く葉を茂らせ、その背景にはタマシダやナキリスゲ、ヒトツバなどが緑の彩りとなっています。 1月の様子 「武蔵野の“これから”の原風景」作庭後、1月の様子。 第2回 東京パークガーデンアワードの入賞者によるオンライン座談会イベント開催 2024年8月6日(火)15:30〜オンラインで開催された「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の入賞者5名による座談会では、自身の応募書類の紹介、植物の調達から造園、メンテナンス、コンテストに参加して得たことなどがたっぷり語られました。アーカイブ動画はYouTubeにて公開中。以下バナーよりご覧いただけます。 5つの花壇のコンセプトや作庭の詳しいレポートはこちらをチェック! コンテストガーデンを見に行こう! Information 神代植物公園での東京パークガーデンアワード開催に伴い、園内の宿根草園のリニューアル、人にも環境にも優しいガーデン「JINDAIペレニアルガーデンプロジェクト」を市民のみなさんと進すすめていま す。3分の1がリニューアルを終え、こちらでもガーデンをお楽しみいただけます。プロジェクトの詳しい内容は こちらから! https://note.com/jindai_perennial 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30〜17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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グランプリ決定!「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の『ファイナル審査』を迎えた11月…
年3回審査を行うガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」 5人のガーデナーが手掛ける日向と日陰の2つのガーデン。最終的な結果が決まるまでに4・7・11月の3回に渡り審査が行われますが、ガーデンの施工から約1年が経過した今回は、最終回となる『ファイナル審査』です。審査日:2024年11月7日。 審査員は以下の6名。福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授)、正木覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師)、吉谷桂子(ガーデンデザイナー)、佐々木珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事)、松井映樹(神代植物公園園長) 事前に公表されているコンテスト審査基準 公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 「ファイナル審査」は、秋の見ごろの観賞性と年間の管理状況を見る審査。これまで行われた審査は、春の見ごろの観賞性を見る4月の「ショーアップ審査」と、梅雨を経て猛暑に向けて植栽と耐久性を見る7月の「サステナブル審査」の2回です。 今回は「ファイナル審査」を含めた全3回の結果を踏まえ、「植物個々の特性・魅力がしっかり見せられていたか」、「葉や花の組み合わせがデザイン的に美しいか」、そして「今回のテーマ=武蔵野の“くさはら”、が表現されているか」などが総合的に審査され、最終的な評価として、グランプリ・準グランプリ・特別審査委員賞も決定しました。※年によって気象条件が変わるため、開花の時期がずれていても評価に影響しません。 11月の審査時期を迎えた5名の授賞ガーデンと一年の振り返りコメントをご紹介 コンテストガーデンA 【グランプリ】Grasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ルドベキア ‘タカオ’、フロックス‘ブルーパラダイス’、清澄白山菊、サルビア‘ファイヤーセンセーション’ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 シュウメイギク 【今回の庭づくりを振り返って】 日向・日陰どちらの庭も、イメージ図に近い形で育ってくれたので、思い描いていたものから大幅に離れることなく庭づくりができたと思います。日向はグラス類が多めの植栽で、私なりに「華やかさのあるくさはら」をつくりました。切り戻しで花数や株の大きさを調整することで、開花リレーをほぼ途切れることなく続かせることができました。日陰の庭に関しては、アスチルベのシードヘッドがきれいに残ってくれたため、花がない時期でも見どころを提供でき、1年を通して比較的ローメンテナンスですみました。 リーフやグラスで魅せるガーデンに見応えを出してくれたのは、季節感を演出してくれた球根植物。春先のクロッカス、スイセンとバイモ、秋のタマスダレやコルチカムは花が少ない時期に彩りを与え、初夏のアイリス、夏のユリが華やぎを添えてくれました。 病気や読みの甘さから一部枯れ込んだ部分もありましたが、日向と日陰それぞれの環境を活かした美しい庭を提案できました。 コンテストガーデンB 【入賞】花鳥風月 命巡る草はら 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 コレオプシス‘レッドシフト’、オミナエシ、アスター‘ジンダイ’、ルドベキア‘ゴールドスターム’、ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’、ルレリア‘パープルシャワー’、ノコンギク‘夕映え’、ミューレンベルギア・カピラリス 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 ホトトギス‘江戸の花’、ホトトギス‘松風’、清澄白山菊、青花フジバカマ、ノコンギク‘夕映え’、ツワブキ、ヒヨドリバナ 【今回の庭づくりを振り返って】 宿根草と球根による「イエロー&ブルー」のカラーコンビネーションを様々なパターンで年間通して計画通り表現することができました。開花が少ない時期はあったものの、途切れることなく何かしらの開花が見られました。また、蜜源や食草を意図的に取り入れたので、スミレに産卵するツマグロヒョウモンの幼虫が日陰の庭の黒葉スミレに何匹もおり、秋には成虫が飛んでいたので、タイトル通り命を巡らせることができました。 想像以上に生育旺盛で、イメージと異なる姿になったりしましたが、切り戻しや間引きなどメンテナンスで何とかカバー。品種ごとに、切り戻しをタイミングよく行うことで倒伏させず、開花を保ちながら株姿をコントロールできました。ほとんどの植物が、株が消えずに残っています。酷暑の夏でしたが、何年も先まで植えっぱなしでこのまま継続維持でき、生きものの住処にもなる、ロングライフ・ローメンテな庭を提示できたと思います。 コンテストガーデンC 【準グランプリ】草原は、やがて森へ還る。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 アスター‘アポロ’、ガウラ‘クールブリーズ’、ガイラルディア‘グレープセンセーション’、ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’、エキナセア‘ファタルアトラクション’、ノコンギク‘夕映え’、ハゴロモフジバカマ、白花フジバカマ、アオチカラシバ、メリニス‘サバンナ’ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アガスターシェ‘ブラックアダー’、アスター‘アイデアル’、アスター‘リトルカーロウ’、ヒメケマンソウ、バーベナ‘・オフィシナリス‘ハンプトン’、ミズヒキ 【今回の庭づくりを振り返って】 土中での空気や水の流れ、微生物や菌類の活性化を考え、環境づくりに力を入れたので、想定外のこともありましたが、乾燥や高温等による枯損等もなく初期段階から順調に育ちました。 共通テーマ“武蔵野のくさはら”の私の解釈は、平地ではなく山を背景に広がりさまざまな草花が風に揺れる草原でしたが、今回、自分のタイトルからも関連づけて“武蔵野の森”とも解釈。優しくてノスタルジックで、ジブリ的な世界観をどこかに感じる景色をイメージしました。大小の起伏をつけることで奥行と立体感を出し、その環境に応じた適地適草(木)の配植をしたため、作為的に造られた感が少ない、連続性のあるナチュラルな風景を演出できました。日本在来種を要所に入れつつ多種多様なプランツを組み合わせ、植物たちのドラマティックな「競争」と「協奏」を表現しました。色彩や形重視のデザインプランティングというより、物語を感じる風景ガーデンとして見てほしいと思います。 コンテストガーデンD 【入賞】feeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ヘリオプシス‘ブリーディングハーツ’、アスター‘ジンダイ’、ダンギク、ソバ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 シュウメイギク‘クイーンシャルロット’、ホスタ、ユーパトリウム‘チョコレート’ 【今回の庭づくりを振り返って】 温暖化する都市環境に耐えられる在来種と、日本の草原・里山の雰囲気をもったポップな印象を与える植物を組み合わせました。春~初夏にかけてかわいらしかったガーデンが、夏~秋にかけてだんだん落ち着き侘びていくよう、四季を通して移ろうように計画しています。アスター‘ジンダイ’や麦・蕎麦などで地域らしさを出して、植物に興味のない方や子供たちにも興味を持って見てもらえました。 虫や蝶などの生き物を呼ぶことができ、ガーデン内に生態系が生まれました。その反面、食害にあった植物がありましたが、真夏前に花をつけている株を含め切り戻したことで、株が大きなダメージを受けず秋まで宿根草の見栄えを保つことができ、三番花まで咲く種類もありました。とくに日陰側では、低木を骨格にしてツワブキやシダなどのオーナメンタルな宿根草を用いたことで、葉の形や色の重なりを表現できた上に、ローメンテナンスな管理ですみました。 コンテストガーデンE 【審査員特別賞】武蔵野の“これから”の原風景 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ハギ、カライトソウ、タムラソウ、シラヤマギク、ヒヨドリバナ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 キバナノアキギリ、ヒヨドリバナ 【今回の庭づくりを振り返って】 武蔵野の“くさはら”の昔の風景を取り入れ、そこに思いを馳せることで、過去と未来をつなぐ新たな視点を提案しました。都市緑化では生物多様性を意識し、都の「在来種選定ガイドライン」に基づいた植栽が数多く計画されていますが、草原のような景観はあまり重視されていないのが現状です。私の理想は、風景の中で目立つ存在ではなく、背景として人々や生き物が共存できる空間を作ることと、それらに愛着を持ちともに語らう人々が増えること。今回、日本の野草の魅力を語る場を設けられたことは、ひとつの成果だと捉えています。 コンセプトを重視して初めて育てる植物を多数導入したため、配置や密度の調整が難しく、イメージ通りの景観を作ることができなかった場所も多くありましたが、メンテナンスは月1回と、計画通りにローメンテナンスで管理できました。これからも東京の風景を模索し続けたいです。
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あなたの多肉植物みせてください! 激レア塊根専門店主がおすすめの逸品4選を拝見
あなたの多肉植物みせてください! とは 「あなたの多肉植物見せてください!」は、街で噂の多肉植物や、ご自慢の多肉植物について、編集部員Kが直接見に行ってお話を伺うという、連載「多肉植物狂い」のスペシャル企画です。読者から寄せられた情報だけでなく、編集部員Kが自らの足と嗅覚を使って探し当てたお宝多肉植物も紹介しちゃいます! 今回紹介するのは新規オープンしたばかりの激レア多肉植物専門店! 今回ご紹介するのは今年の9月14日に開店したばかりの園芸店gadintzki plants(ガディンツキープランツ)。店内は多肉植物以外のプランツも充実しているのですが、店主が多肉植物に造詣が超深く、マニア垂涎モノの激レアコーデックスが目白押しのため、ご紹介させていただきます。 その店主の正体は・・・ じつはその店主、ガーデンストーリーで人気の連載「街の園芸店がお悩みを解決!」でお馴染みの、関ヨシカズ氏なのです! 件の連載では顔出しNGでしたが、今回晴れて皆さまにお目にかかります。 その連載でもお世話になった目黒区祐天寺のフラワーガーデン・セキは、今年3月に30年の歴史を閉じ、装い新たに同区の自由が丘(最寄駅は東急大井町線九品仏駅)の地にて、gadintzki plants(ガディンツキープランツ)として生まれ変わりました。 「gadintzki plants」(ガディンツキープランツ)とは gadintzki plantsは2024年9月14日開業。祐天寺でフラワーガーデン・セキを営んでいた関ヨシカズ氏(以下関さん)が、その豊富な園芸知識と経験を活かすべく新たな業態としてスタートさせた園芸店。旧店では生花が中心でしたが、gadintzki plantsが主に扱うのは観葉植物と珍奇植物(ビザールプランツ)。じつは、旧店舗でもひっそりと塊根植物やサボテンのレア品種などを販売しており、特に型のよいグラキリスの輸入株や、関さん自らが親株から採種して手がけた実生株(みしょうかぶ=国内で種から育った株)のウィンゾリーなどが破格の値段で販売されていたため、常連プランツマニアの誰もがこの店の存在を知られたくなかったという・・・。 実際に旧店で販売していたパキポディウム・バロニー(実生)。目利きの良さが感じられる逸品であった。 もちろん闇市のようにやっていたわけでないのですが(笑)、旧店のフラワーガーデン・セキは、なにぶん店の見た目も街のお花屋さん感が強かったため、まさか奥様方がガーデニングの花を選んでいる傍で、数千〜数万円のビザールプランツ(珍奇植物)が売られていたとは、ちょっと驚きですよね! かくいう私も、関さんにより塊根植物に開眼し、初めてパキポディウム“サンデルシー”を購入したのも旧店でした。そんな多くのファンを持つ関さんが新たに始めた新店舗、期待せずにはいられません。 店名の由来 gadintzki plantsのgadintzki(ガディンツキー)は関さん考案の造語。関さんが友人のオーストラリア人に、旧店名の“フラワーガーデンセキ”を英語で発音でしたら、その友人にはそれが“ガディンツキー”と聞こえたそうで、自分の拙い英語の発音が通じなかったのは残念ながらも、“ガディンツキー”にはドイツ語っぽいニュアンスがあってcoolだな、と感じたため、そのまま新店名に採用したという。なんとも関さんらしいユニークなエピソードですね。 店内紹介 店の奥では近隣の古着屋さんのポップアップストアなども不定期でおこなわれています。 関さんおすすめ多肉植物の逸品4選 関さんに取材時(2024年10月上旬)の在庫の中から、おすすめの4商品を選んで、解説してもらいました。掲載の商品は全て1点ものなので、ご購入希望の場合は事前に店に問い合わせてください。 ①パキポディウム・グラキリス(輸入株) 価格:49,500円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)25cm 幹幅12cm 特徴 根や幹、茎に水分を蓄え、肥大化したフォルムが特徴的な塊根植物(コーデックス)の中でも人気のパキポディウム属。その人気を牽引してきた最大の功労者こそ「グラキリス」です。主な原産地はマダガスカルを中心に、南アフリカ、ナミビア、アンゴラといった、アフリカ大陸南部で、その多くが岩場やインゼルバーグと呼ばれる広大な平原に孤立した丘陵地帯など、通常の植物であれば生育できない過酷な環境で自生しています。近年は観賞用植物としての乱獲が相次ぎ、国際間取引にはワシントン条約による厳しい規制がかけられているため入手も難しくなってきましたが、gadintzki plantsでは原産地政府が公認している正式なルートからの株しか仕入れていないため、安心して大自然が生んだ奇跡の造形美をお楽しみいただけます。 関さん推しの理由 人気のグラキリスも"輸入株(現地球)"なんて肩書きが付くと上級者向きでは? と難しく考えている方も多いのですが、意外にもグラキリスの現地球は塊根植物初心者にもおすすめなんです。自生地の様子をそのまま楽しめる輸入塊根植物の醍醐味を存分に味わえるのがこのグラキリス。サボテンなんかよりも全然ラクに育てられるんですよ! 大きさ、価格、共に幅広く取り揃えています。 グラキリスは低重心で扁平な球状が整っていれば整っているほど高値が付くのですが、僕がまん丸よりはちょっと変わった形のほうが好きなので、それを選んで仕入れているため価格が抑えられつつ、僕の好みが反映されているのが当店のグラキリスの特徴ですかね。 ②パキポディウム・ウィンゾリー(実生) 価格:3,000〜6,000円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)5〜7cm 幅全て約2cm 特徴 パキポディウム・バロニーの変種として原種のバロニーよりも人気を誇るパキポディウム・ウィンゾリー。パキポディウム属の中で唯一赤い花を咲かせるバロニーの変種のため、ウィンゾリーも同様に美しい赤花を咲かせます。原種のバロニーは幹高30cm以上まで成長しないと開花株にはなりませんが、ウィンゾリーは比較的小さい12cmくらいの幹高でも開花するため、花を早く見たい人にはウィンゾリーがおすすめです。 筆者所有株の開花の瞬間。もちろん、関さんの旧店から迎え入れたものだ。 Photo by JOHN CHEESEBURGER FOTOG. 徳利のような愛嬌のある形も人気で、真っ直ぐ上に成長するバロニーに対し、ウィンゾリーは分枝も多く、横方向にも旺盛に成長していくため、低重心で盆栽的な味のある株に出会うことができたらラッキーでしょう。ただ、徳利型が綺麗でバランスよく分枝した株となると価格も急上昇し10万円など悠に超えてしまうため、ウィンゾリーは現在でも高級レアプランツの地位を不動のものとしています。 関さん推しの理由 おすすめの理由は、なんといっても僕が手塩にかけて育て上げた親株(写真下)で自家採種したタネからの実生株なので、将来的に親株のような良株に育ってくれるであろうというロマンが詰まっているからです。 一時期に比べるとレア感も減少した感のあるウィンゾリーですが、それはあくまで愛好家目線でのことであって、やはり一般的なお花屋さんではまず出会うこともない植物なので、ぜひこの機会に育ててみていただきたいなと思います。 ちなみにここでご紹介している稚苗は現在の大きさからだと開花するまでに6年以上を要しますが、年を重ねるごとに目に見えて肥え太っていくので、形ができ上がってしまっている中型以上の株とは異なり、稚苗は成長が見える楽しさ、育てる楽しさを存分に味わえるのが魅力です。ともに時を過ごした株に赤く可愛らしい花が咲いた瞬間は、万感の思いがこみあげてきますよ。 ③コミフォラ・ピュアカタフ(輸入株) 価格:55,000円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)40cm 幹幅6cm 特徴 コミフォラ・ピュアカタフは、カンラン科に属する植物で、アフリカ北東部および東部の熱帯地域、そしてアラビア半島南西部に自生しています。多肉のようで多肉でない、塊根のようで塊根でない、いわゆる「灌木系(かんぼくけい)」というジャンルで括られます。神々しい独特な雰囲気、視線を釘付けにする観賞価値、所有感をくすぐる希少性と三拍子が揃った、とても魅力的な植物です。 白い表皮は成長とともに、まるで材木をカンナで削ったようにめくれていくので、それがまた味わい深さを増しています。予測できない方向に伸びていく黒い枝も面白いです。これは時間の経過により黒くなるわけではなく、幹から出た瞬間にもう黒いので、この色彩の妙は自生地アフリカらしい野生味を感じさせますね。香木としても利用されており、その歴史は数千年前にまで遡るといわれています。もちろん、これも枝を切ると甘く上品な香りがします。分泌される樹脂はその高貴な香りとともに鎮静鎮痛の薬効も持つため、古代エジプト文明や西洋宗教では没薬(お清めの薬)として珍重されてきました。 関さん推しの理由 コミフォラの謎めいた姿に取り憑かれて沼落ちしてしまったマニアも決して少なくはありません。マニアはこの盆栽チックな形が異形であればあるほど10万、20万と高値を付けるのですが、僕は暴れた感じの樹形よりも、コミフォラ独特の表情がありつつ、穏やかな表情も見せる株が好きなので、値段のほうも同品種としては抑えられていると思います。そもそも、数年前までまったく流通していなかったので、その頃はピュアカタフが出るとネット界隈がざわつくほど幻の植物だったんです。もしその時代にこの株が出ていたら、おそらく20万円は下らなかったはずです。現在はある程度流通が確立されたとはいえ、グラキリスやウィンゾリーほど安定しているものではないので、今当店にあるこの株は、希少性、樹形の美しさ、価格の3点から考えてもかなりおすすめです。 ④オトンナ・カカリオイデス(実生) 価格:4,400円(税込) 大きさ:高さ(鉢含まず)3cm 幹幅4.5cm 特徴 オトンナ・カカリオイデスは南アフリカの山岳地帯が原産のキク科の植物。糸のように細い花軸の先にキク科らしい黄色く可愛らしい花を咲かせます。塊根から不規則に出てくる薄緑色の小さな葉の可愛らしさは、店頭で実物を見ると悶絶級です。この葉、よ〜く目を凝らして見ると、何気に多肉らしく肉厚であることが分かります。(写真下) この株は実生株ですが、元来が極小型の塊根植物なので、現地で自生しているものでも塊根幅10〜12cmくらいまでしか大きくはなりません。しかも岩ばかりのかなり荒い土壌のわずかな砂溜まりで塊根部が全部埋まった形で自生しているんです。6〜8月が休眠期となり、葉を全て落としたこの時期の姿はまるで生姜のよう。秋口から目覚めて、翌年の5月くらいまで塊根が隠れるほど葉が生い茂ります。決して多くは出回らない、かなりのレアプランツです。 関さん推しの理由 冬型の塊根植物なので、これからの季節に葉を出し、成長していく姿を楽しめます。うちでは割とよく販売しているのですが、大きめの専門店でもあまり置いていないかなりレアな植物です。オトンナ属もさまざまな種類があり、僕もけっこういろいろ扱ってきたのですが、旧店新店ともにこのカカリオイデスがとても人気なんですよ。見た目が可愛らしいからでしょうか、新店オープンしてからもう5つが売れ、5つとも女性のお客様にご購入いただきました。しかも5人ともまったくの塊根植物未経験者で、「かわい〜」の一言でお買い上げという(笑)。動機なんてそれでいいんですよ。 “生姜のような塊根”の形も様々なものを取り揃えているので、ぜひ見に来てください! おすすめ商品の育て方 ここで紹介した関さんおすすめの4つのプランツは、全て乾燥地帯で自生している植物なので、用土は乾燥気味に保つという部分は共通しています。そして塊根系を育てるうえでの基本3原則、①太陽ガッツリ ②空気循環 ③水やり控えめ、は必須条件です。 オトンナ・カカリオイデス以外の3商品、グラキリス、ウィンゾリー、ピュアカタフは成長期が春〜秋の夏成長型植物。このため、昨今の亜熱帯化した日本の気候を考えると、3月末〜10月中旬くらいまでは屋外でたっぷりと太陽光(直射日光OK)を浴びせながら管理し、3〜4日おきに鉢底から溢れ出るくらいたっぷりの水を与えます。ただし梅雨時は屋内管理に切り替え、水やりも週1回程度に留めておきます。オトンナ・カカリオイデスは成長期が日本の冬にあたる冬成長型の塊根植物のため、秋から春にかけての成長期は屋外でたっぷりと陽射しをあてて育てます。真冬も氷点下にさえならなければ屋外でOK。ただし風の強い日は落葉を防ぐために屋内に取り込んでください。また、オトンナ・カカリオイデスは蒸れを極度に嫌うため、成長期といえど土が完全に乾燥するまでは水を与えないでください。完全に乾燥したら、他の3商品同様にたっぷりと水を与えます。土の乾燥具合は慣れれば感覚で分かるのですが、初心者の方は竹串を用いると便利ですよ。 鉢の縁に挿し、引き抜いた串が汚れていれば、まだ水のあげ時ではないことがわかる。 4商品とも、肥料は成長期に月に1回、規定量より薄めにした液肥を水やりの際にあげてください。液体肥料『ハイポネックス』原液の場合、目安としては2Lのペットボトル満水に対し市販飲料のペットボトルキャップ内側の枠すり切り(=1cc)での希釈がベスト。 休眠期の管理 4商品とも、休眠期は室内で管理します(グラキリス、ウィンゾリー、コミフォラは冬季に14℃以下にならないよう注意)。休眠中とはいえ、屋外と同様の環境づくりをしてあげることは植物栽培にとって重要なこと。室内で管理すると自ずと日照と風が不足がちになるため、これを補うために植物育成LEDライトとサーキュレーターの使用をおすすめします。 【それぞれの使用方法はこちらの記事にて】植物育成LEDライトサーキュレーター植物育成LEDライトを導入しない場合は、陽の当たる場所で管理してください。ただし、オトンナ・カカリオイデスは休眠中に夏の直射日光を浴びるとストレスになるため、レースのカーテン越しなどの遮光した環境下で管理します。また、陽当たりが悪い、あるいは屋外管理が難しい場合は、植物育成LEDライトとサーキュレーターを用いることにより、4商品とも1年を通じて室内栽培することは可能です。 休眠期の水やり 4商品とも休眠期は水やりを基本的には休止しますが、細根を生かして休眠明けの立ち上がりを良くするために、週一回程度、土表面が湿るくらいの水はあげてください。この時、グラキリス、ウィンゾリー、ピュアカタフは昼に、オトンナ・カカリオイデスは夜に、いずれもボディーに極力水がかからないように注意しながら与えます。また、成長期と休眠期の間は、急激に水やりを再開したり、やめたりするのではなく、間隔、水量ともに徐々に増減を行うようにしてください。 関さんおすすめのグッズ gadintzki plantsは園芸関係のグッズも取り揃えています。今後も、グローブ、スコップ、ジョウロなどを増やしていく予定なので、商品の在庫状況は店にお問い合わせください。 鉢 左奥:磁器製(黒)受皿付き3号鉢 2,310円(税込) 右手前:陶器製(濃藍)受皿付き3.5号鉢 3,300円(税込) 鉢もメーカー量産鉢から数量限定の作家鉢まで、多数取り揃えています。写真の鉢は、ミニマルな感じの色彩とフォルムが植物を絶妙に引き立てるのでおすすめです。ウィンゾリーの稚苗を合わせてみましたが、オトンナ・カカリオイデスにも似合うと思います。 オリジナル多肉植物用土 容量:2L 価格:715円(税込) 赤玉土と鹿沼土をベースにした完全に関さんオリジナルブレンドの多肉専用土。関さん配合の用土は筆者も旧店時代から愛用しており、筆者宅の全ての多肉植物の成長に欠かせない最高品質の用土。用土をふるいにかけて、細粒や粉末化した土を除去する“ミジン抜き”をしていないので、通気性速乾性を確保しながらも、細根が細かい土をしっかりと捕まえて栄養を吸収できるため、活着も早く塊根の幹も肥大化が促進されます。まさにここでしか購入できないプロの知識と経験が詰まった土です。 関さんの土を使ったグラキリス。細根が細粒を捕まえてギッシリと生えている様子が分かる。 関さんに聞きました gadintzki plantsオープンに至る経緯 以前から観葉植物と塊根植物を主体としたお店をやりたいと考えていた関さん。そんな折、先代のお父様が引退し、また店も老朽化が著しかったため、これを契機にと心機一転の独立。夢を実現すべく、この自由が丘エリアは九品仏の地を選び、新たな店の準備が始動したのは昨年2023年の夏。 九品仏は日頃、自由が丘でお酒を飲んでいる関さんにとっては庭みたいなもので、なおかつ、周辺地域には切花を扱う園芸店は数店舗あるものの、観葉植物や塊根植物などの専門的な植物を扱う店がないことも、この地を選んだ理由です。こうして入念なリサーチをした結果、2024年に入り現物件に出会ったわけですが、物件の状態は居住仕様だったため、店舗仕様へと自身で大幅なリノベーションを敢行することになるのです。 この状態から自身の手で全てを築くことを決意。真の男は夢の実現のためには自ら泥に塗れることをいとわない。 写真提供:gadintzki plants 本人曰く「必要最小限の金で最良のものを作りたかった。」とのことですが、その行動力と実現力の源は、自分が選んだ最高の植物を地域の皆様へという情熱が彼を突き動かすのだと思います。 gadintzki plantsがオープンするまでのエピソード 作業を進めるうえで、どうしてもその道のプロの知識と経験がなければ先に進めない部分も出てきます。スタイロ(断熱材)剥がしがまさにそれでしたが、専門業者に任せきりにせず、関さん自ら率先して作業に参加しました。 スタイロ剥がしは関さん自身もかなり汗をかいた難作業だった。 写真提供:gadintzki plants フロア中心を飾る自作のモルタル台は自慢の逸品。 写真提供:gadintzki plants 入店してまず目線が向かうここに店の看板商品となるものを配置するわけですが、考えが柔軟な関さんは、この台を植物だけに限らず、自分がよいと思ったアイテムや、要望があれば、ポップアップストアの展示台としても活用していく予定です。 関さんの目指すもの 「gadintzki plantsで販売している観葉植物や多肉植物の多くは、庭のガーデニングに用いる植物というよりは、どちらかといえば室内でインテリアグリーンの一つとして楽しむもの。まずは地域の方々に、型どおりのインテリアグリーンだけではなく、ちょっとほかでは見られない塊根植物などのビザールプランツ(珍奇植物)を用いた、インドアグリーンの新たな楽しみ方を提案し、この地域にプランツマニア(植物好き)をどんどん増殖させ、店が皆の情報発信地になれば嬉しいですね。その結果として店を拡大できればいうことないですね。」と関さんは語ります。でも、人との繋がりを大切にしたい関さん的には、買う買わない関係なく、単に店を休憩所と思って気軽に遊びに来てほしい、のだそう。そんな思いが自然に人を引き寄せるのか、取材中も近所の奥様が「これ植え替えして!」とフランクにお願いしにきたり、店の奥でポップアップストアを展開する古着屋さんの友達が集ったりと、この地で育む人間関係を次の未来に生かしたいという、関さんの新たな世界地図が広がっています。 関ヨシカズという人の人柄、園芸への愛と見識をもってすれば、gadintzki plantsの未来、すなわち関さんが目標として掲げている店舗の拡大は遠からず実現するものと確信しています。そんな愛と夢がつまった珠玉の植物たちを、ぜひ散歩ついでに見にきませんか? gadintzki plantsへのアクセス 東京都世田谷区奥沢7丁目18-1ハドル自由が丘101東急大井町線九品仏駅から徒歩1分 東急東横線/大井町線自由が丘駅から徒歩8分OPEN 11時〜19時(場合によっては20時) お店周辺のおすすめスポット gadintzki plantsの周辺には、関さんお気に入りのお店やパワースポットなど、つい寄り道してみたくなっちゃう場所が盛りだくさん! その中から関さん特にお気に入りのスポットを紹介します。 Comme’N TOKYO(コム・ン トウキョウ) gadintzki plantsから徒歩30秒もかからないご近所のパン屋さんComme’N TOKYOは関さんのお気に入り。 美味いですからぜひ、とすすめられていざ行ってみたら、なんとお店のオーナーシェフ大澤秀一氏はパンの世界大会で日本人初の総合優勝に輝いた“世界一”のパン職人だというではありませんか! 関さん曰く普段は結構並ぶのだそうですが、この日は奇跡的にすぐに入店できたので、早速お店一番人気という「生ハムとカマンベール」(写真下)を購入してみました。 かぶりついた瞬間にバゲットの香ばしさと、もっちりとした食感が心地よく、直後に具材の塩味と旨味が絶妙な調和を楽しませてくれるという、一見スタンダードな組み合わせでここまで感動するパンを作るとは、驚きです。出た答えはこれ一つです。「並んででも食べるべき。」 お店の場所 東京都世田谷区奥沢7-18-5 1F自由が丘駅徒歩10分 九品仏駅徒歩1分年中無休7:00〜18:00URL : https://commen.jp 九品仏浄真寺 Comme’N TOKYOの前の交差点を渡ったらすぐに参道の入り口がある九品仏浄真寺(くほんぶつじょうしんじ)は浄土宗の寺で、開山は今から346年前というから驚きです。本堂まで大人の足で6分かかる参道は、絶好のお散歩コースです。参道を抜け緑豊かな境内に入ると、東京都が天然記念物に指定している巨大なイチョウをはじめとした緑の競演に、都心の住宅街にこんな場所が!? と驚かせてくれます。その奥にある3つのお堂には、それぞれ都が有形文化財に指定している阿弥陀如来像が3体ずつ安置されていて、合計9体の像が"九品往生"という人の品性を顕していることから、この地が「九品仏」という地名になったといわれています。地元のみならず全国から参拝者が来る名刹、関さんのところでお買い物がてら、ぜひ立ち寄ってみては? お寺の場所 東京都世田谷区奥沢7丁目41-3Tel:03-3701-2029 (9:00~16:00)開門時間 6:00~16:30URL:https://kuhombutsu.jp 編集後記 初めて店(旧店)で買い物した2017年から数えれば知己を得て7年になりますが、その間私の園芸知識(特に多肉植物)の向上には関さんの存在は欠かせないものでした。もちろんこれからも。彼の話す情報やアドバイスは、一般的な園芸店や専門家から聞くそれとは異なり、いささか型破りなところがあり、そして常に直球。彼の園芸トークの中には方便がなく、本質を見据えた辛辣な言葉が時折ギターソロのように放り込まれ、そこにシンパシーを感じた私は、縁あってこのガーデンストーリーで関さんをフューチャーした連載記事「街の園芸店がお悩み相談」を書かせていただくことになりました。そして回を重ねるごとに本編でも記述したように、もっと彼の見識が活きる場があるのではないか、という思いが強くなって行ったのです。そこで今回の船出を聞き、正直嬉しかったですね。新たな大海で、まさに水を得た魚のように激しく泳ぎ回ることでしょう。そんな彼の活躍を、今後もガーデンストーリーは追っていきたいと思います。関さん、Godspeed!
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里帰りした宿根草「アスター‘ジンダイ’」が初めての開花! 東京パークガーデンアワード@神代植物公園で観…
日本から海外に渡り、再び日本に戻り愛される植物たち 都立神代植物公園(調布市深大寺)を舞台に一般公開されている「第2回 東京パークガーデンアワード」のコンテストガーデンで10月上旬、グラスの穂と共演するアスター‘ジンダイ’。撮影/松井映樹 今、私たちが季節の移り変わりを感じたり、眺めて癒やされたりする花や植物のなかには、日本から海外に渡って、新たな価値を見出されて世界各地で育てられているものが多く存在します。その代表的な植物には、アジサイやギボウシ、ツバキなどが挙げられますが、今年東京・神代で開花したアスター‘ジンダイ’(Aster tataricus ‘Jindai’)もその一つです。 海外で撮影されたアスター‘ジンダイ’。yakonstant/shutterstock.com アスター‘ジンダイ’はニューヨークのハイラインや、イギリスのハウザー&ワース・サマセットなど、昨今注目される「ナチュラリスティック」デザインのガーデンで広く栽培され、欧米では定番品種の美しいアスターとして愛されています。 「第2回 東京パークガーデンアワード」のコンテストガーデンで多数のつぼみをつけるアスター‘ジンダイ’。 宮城県で「はるはなファーム」というナーセリーを営み、ガーデナーでもある鈴木学さんも、「ナチュラリスティック」で活躍する植物に魅了され、苗を集めてきました。そのなかで、どうしても入手ができなかった品種がアスター‘ジンダイ’でした。 「あきらかに日本のものと分かる名前でしたから、かつて日本から海外へと紹介された植物の一種だと思い、同業者や山野草関係の知人に聞いていったのですが、まったくといっていいほど手がかりがありませんでした」。 イギリスの新刊書籍で見つけたアスター‘ジンダイ’の由来 『Planting the Oudolf Gardens at Hauser & Wirth Somerset』by Rory Dusoir, Foreword by Piet Oudolf, Photographs by Jason Ingram 出版/Filbert Press その謎のアスター‘ジンダイ’の由来を解き明かす糸口を鈴木さんが見つけたのは、2020年に出版されたイギリスのガーデン「ハウザー&ワース・サマセット」の解説書『Planting the Oudolf Gardens at Hauser & Wirth Somerset』でした。 世界的に活躍するガーデン・デザイナー、ピート・アウドルフ氏が手がけた庭の新刊出版を心待ちにしていた鈴木さんは、胸を躍らせページをめくっていると、アスター‘ジンダイ’の解説に目がとまりました。そこにはなんと「アメリカのプランツマン、リック・ダーク(Rick Darke)氏が神代植物公園で見つけた」と記されていたのです。 アスター‘ジンダイ’は神代植物公園で栽培されていた株が親株 それから数年が経った2023年。「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」の入賞ガーデナーの一人として鈴木さんが座談会に登壇した際、神代植物公園の松井映樹園長と面識ができたことがきっかけで、アスター‘ジンダイ’の謎解きが再び始まりました。 松井園長が、開園当時から現在までの目録をあたってくださり、アスター‘ジンダイ’の由来と考えられる植物を発見。ただし、いつ、どのような経緯でリック・ダーク氏がそれを入手したかは分からない、というところまで辿り着いたのです。 2023年に東京・代々木公園内で開催された「第1回 東京パークガーデンアワード」で準グランプリを受賞した鈴木学さんによるコンテストガーデン「Layered Beauty レイヤード・ビューティ」の6月。 それから少し後、鈴木さんが代々木公園でコンテストガーデンのメンテナンスをしているとき、北海道「十勝千年の森」のヘッドガーデナー新谷みどりさんと会う機会がありました。実は新谷さんはナチュラリスティックガーデンの考えを日本に広めた第一人者でもあり、鈴木さんにアスター‘ジンダイ’を探してほしいと頼んでいたのです。そこで、これまでの調査の経緯を話したところ、なんと、新谷さんは書籍に記載されていたアメリカのプランツマン、リック・ダーク氏と知り合いであることが判明。リック氏本人にアスター‘ジンダイ’について聞けることになったのです。 ‘ジンダイ’の名付け親リック・ダーク氏は1985年に神代植物公園を訪問 当時、神代植物公園内でアスター‘ジンダイ’の親株が育っていたのではと想定されているのは「宿根草園」と呼ばれている場所で、2023年にリニューアルされた。写真は2024年7月の様子。 2023年暮れ、リック氏にアスター‘ジンダイ’のことを問い合わせていた新谷さんにメールの返信がきました。そこにはこう書かれていました。 「1985年、ペンシルヴァニア州のロングウッドガーデン(Longwood Gardens)に勤務していた当時、同園と米国国立樹木園(U.S. National Arboretum)の共同調査のため、樹木園のチーフ、シルベスター・マーチ(Sylvester March)氏と一緒に来日しました。その目的は、日本の植物苗の生産者や植物園、在来植物の自然植生地を訪れて、北米を中心とした園芸業界に役立つ日本の植物を見出すことにありました。 アスター‘ジンダイ’の親株と思われる株は、宿根草園にあったものをリニューアル時に掘り上げて鉢植えで栽培。今年は10月上旬に咲き始めました。撮影/松井映樹 その際に神代植物公園を訪れ、当時の園長に園内を案内していただいた時、展示植栽地でひときわ草丈の低いシオン(Aster tataricus)系の植物が目に留まりました。それが特別な品種(交配種)なのかを聞いたところ、「いいえ、純粋に種から育てているものです」との答えが返ってきました。 神代植物公園で2024年10月上旬に開花したアスター‘ジンダイ’の親株。ヤマトシジミアやイチモンジセセリ、ツマグロヒョウモンが蜜を求めてやってきた。撮影/松井映樹 草丈が低く、コンパクトでありながら真っ直ぐに成長する姿を見て、アメリカでは草丈が高く育ちすぎて倒伏しやすい従来のシオンよりも、庭でずっと育てやすいと確信しました。神代植物公園の当時の園長はとても協力的で、寛大にその植物を分けてくださいました。 無事にアメリカに親株を連れて帰り、その後、神代植物公園に敬意を表して、‘Jindai’の名前を付けて世の中に紹介しました。今や生産栽培分野においても、この種の持つ草丈の低さは安定しており、北米の環境に見事に適応して、非常に優秀で美しいアスターとしてたくさんの方々に愛されています」 現在開花中のアスター‘ジンダイ’の親株は、神代植物公園内の植物会館前で10月20日まで秋の七草とともに展示中。アスター‘ジンダイ’は花が咲いている期間同場所でその様子をご覧いただけます。撮影/松井映樹 その後、アスター‘ジンダイ’の親株を渡した当時の園長が柴沼弘さんであったことが分かりました。1961年の開園当初の神代植物公園の植物目録には「しおん(だるま)」の記載があります。1991年の植物目録では「シオン Aster tataricus」と記載されており、現在も、「シオン Aster tataricus」のラベルの付いた矮性のシオンが神代植物公園で栽培されています。つまり、アスター‘ジンダイ’は、日本では「ダルマシオン」の名で長年親しまれていた草丈の低いシオンの一種と考えられ、アメリカのプランツマンによってその価値を高く評価され、固有品種名‘ジンダイ’の名を冠して世界中に広がったのです。 38年ぶりに里帰りしたアスター‘ジンダイ’ はるはなファームで植え付けを待つアスター‘ジンダイ’の苗。2月。写真/鈴木学 この由来の解明と並行して鈴木さんが営む、はるはなファームでは、2023年の9月にオランダからアスター‘ジンダイ’のプラグ苗を輸入し、育てた苗が12月に「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」のコンテストガーデンに植えられることになりました。1985年にリック・ダーク氏が‘ジンダイ’をアメリカに持ち帰ってから、38年ぶりに里帰りしたことになります。 2023年12月に植え付けたアスター‘ジンダイ’の場所を示すプレートが設置されたコンテストガーデンA 「Grasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜」。 そしていよいよ迎えた10月上旬。コンテストガーデンで開花したアスター‘ジンダイ’は、草丈130〜160cmと従来のシオンと比べてコンパクトながら、分枝した先にたくさんの淡紫色の小花を次々と咲かせています。 里帰りして初めて開花したアスター‘ジンダイ’を見て、鈴木さんは「もう一つ興味深いのは花色が濃い点」だと言います。「一般的なシオンは、もう少し花色が薄くて、写真を撮る際の条件によっては白に近く見えることもありますが、これはしっかり色を感じますね。海外で栽培されている‘ジンダイ’は、花色が濃いと聞いていたので、期待通りでした」。 ガーデンプランツとして期待されるアスター‘ジンダイ’の可能性 コンテストガーデンで10月上旬に開花したアスター‘ジンダイ’。 鈴木さんか今年秋、日本の気候で約1年育てて開花したアスター‘ジンダイ’を確認して、これからのガーデンで活躍する植物であることを確信したと言います。 「まず一番の魅力は、日本の気候にあった宿根草だということです。特に秋、宿根草ガーデンの最後のシーズンを飾る宿根草として加えられることはよいと思います。 シンフィオトリクム Alex Manders/shutterstock.com 西洋のアスター(シンフィオトリクムとかユーリビアなど)は、基本的に日本の気候に合うものが多いものの、グンバイムシなどの害虫に弱かったり、酸性度の高い土壌では育ちにくい場合があります。例えば、ノコンギクやシオンなどの日本に自生していたアスターは、気候に合うのはもちろん、病害虫にも耐性があり長い期間、持続可能で魅力的な植栽を計画するうえでは欠かせないと思います。 ノコンギク 一方、ノコンギクやその他のアスターの多くは、植栽の中で構造的に使えるか(長い期間、形としての植栽を維持できるかどうか)という点で劣るものも多く、その点からもシオンは、構造的な宿根草として使えるというメリットがあります。 コンテストガーデンで10月上旬に開花したアスター‘ジンダイ’。支柱をせずに自立しているのも特徴。 しかし、従来のシオンは2m前後と草丈が高すぎるので、必ずしもすべての現場で重宝するというわけではありません。ですので、アスター‘ジンダイ’のような130〜160cmにとどまる草丈は、“ちょうどいい”と思います」。 鈴木さんが、今ナチュラリスティックな植栽に関わるなかで、昨今よく外来種と在来種が話題になり、慎重に扱うべきテーマだとしたうえで、 「このアスター‘ジンダイ’のように、人と人とのつながりがきっかけで、植物が海を渡り、世界中でガーデンプランツとして使われ、そして40年近く経て故郷に帰ってきました。今回、その環をつなぐ一助となれたことは、忘れがたい経験になりました」と語ります。 アメリカ合衆国イリノイ州にある「シカゴ・ボタニック・ガーデン(Chicago Botanic Garden)」で開花するアスター‘ジンダイ’。2019年10月25日撮影。撮影/新谷みどり また、海外で育つアスター‘ジンダイ’を実際に何度も見た経験があり、長年由来とその性質に関心を寄せてきた新谷さんは「Rickの言う通り、シオンAster tataricusより倒れにくく育てやすいうえ、野の趣がいいなと感じた」と、その魅力を語ります。 「私が実際に見たシカゴ・ボタニック・ガーデンのアスター’ジンダイ’(上写真)は、背景にあるカラマグロスティス’カール・フォースター’より低い(130〜140cm)草丈であると分かります。草丈や花色は、気候の違いによっても差が出ますが、シカゴ・ボタニック・ガーデンで見た時は、寒暖差のある秋で、湿度が高くない状態で、北海道の秋とも少し似ているとも言える気候でした。 シカゴ・ボタニック・ガーデン内の「GARDENS OF THE GREAT BASIN」と呼ぶ6つの庭で構成された一大エリアに開花するAster tataricus ‘Jindai’。 2019年10月25日撮影。撮影/新谷みどり 昼夜の寒暖差が大きくなり、それまでの季節より花色が濃くなっていくことは植物では珍しいことではないため、アスター’ジンダイ’の本当の性質は、本州の高温多湿な温暖地と北海道の寒冷地の両方でテスト栽培をしてみなければ判断できないと考えています。 そして、Aster ‘Jindai’の物語が判明した今、何よりも私が一番育てたいのは、日本のダルマシオンに他なりません。アメリカのプランツマンを魅了した日本の植物が絶えることのないよう、植物への思いに満ちた園芸愛好家ならば誰も手に入れることのできるようになることを願っています。それこそがアスター‘ジンダイ’に注目した当時のRickの使命であり、Aster tataricus ‘Jindai’の故郷である日本として見習うべきことだと思います」。 海外で撮影された、霜をまとうアスター‘ジンダイ’。Wiert nieuman/shutterstock.com 今、里帰りして初めて開花したアスター‘ジンダイ’が、第2回 東京パークガーデンアワードのコンテスト会場である神代植物公園、正門手前のプロムナードで秋のガーデンに彩りを添えています。さらに咲き進み、冬が近づくと綿毛をまとったタネの姿もオーナメンタルに活躍するのではと期待されています。ぜひ、ガーデナーが注目する宿根草、アスター‘ジンダイ’の様子をご覧に、お出かけください。 アスター‘ジンダイ’が育つコンテストガーデンを見に行こう! Information 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30〜17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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【秋の庭づくり】ハンギングバスケットで端境期の庭も華やかに演出
庭のフォーカルポイントに効果的なハンギングバスケット 夏から秋への端境期には、庭の彩りがやや寂しくなる時期があります。酷暑で植物のいくつかは夏バテ気味になるうえに、ヨトウムシなどガの幼虫が多く発生し、花や葉がボロボロになることも。そんな端境期にも、庭に見所を作る方法がハンギングバスケットです。 ハンギングバスケットとは ハンギングバスケットとは、植物を空中に吊るして楽しむガーデニング手法の一つ。球体や半円状の容器に植物を植え込み、チェーンやフックで壁や天井、または庭の構造物などに吊るして飾ります。ハンギングバスケットは地面を使わずに空中を華やかに彩ることができるので、玄関先やベランダなどで楽しめるのが魅力です。 立体演出に効果的なハンギングバスケット アーチに飾ったケイトウのハンギングバスケット。 また、高い位置に飾ることができ、視覚的なインパクトを効果的に与えることができるため、庭の中のフォーカルポイントとしても活躍してくれます。庭に立体的な彩りを演出できるつるバラやクレマチスなどのつる性植物は、開花期が春に限られる場合が多いので、ハンギングバスケットは寂しくなりがちな端境期に重宝します。 バラの花がない時期も色鮮やかなケイトウがアーチを華やかに彩る。 この庭は春の一季咲きのつるバラが中心で、春はバラの連続アーチが華やかに彩ってくれますが、秋にはバラが咲きません。でも、ハンギングバスケットを庭に飾ると、バラがない時期も華やかさが演出できます。 下草とコーディネートした単植のハンギングバスケット アーチの下のアルテルナンテラやペンタスの花色とハンギングをコーディネート。 ハンギングバスケットを庭で上手に生かすポイントは、飾る場所の周囲の状況に合わせて花を選ぶこと。例えば、庭の中央にある連続アーチに飾るハンギングバスケットには、緑の中でパッと目立ち、下草の花色ともコーディネートした赤系のケイトウを選びました。 シンプルな背景に映える寄せ植えのハンギングバスケット 扉の両サイドに対にして飾ることで、玄関にフォーマルな雰囲気を演出できる。下に置いたボックス型の鉢とともにパープルの寄せ植えでコーディネート。 一方、玄関扉のサイドには数種類の淡いパープルの花を組み合わせた繊細なハンギングバスケットを飾りました。壁や扉などのシンプルな構造物が背景の場合には、淡い色合いや複数を組み合わせた複雑な表情もよく映えます。 セイヨウニンジンボク‘パープレア’やカリブラコア、ペンタス ブルー、トウガラシ‘パープルフラッシュ’などを組み合わせたハンギング。 私は本来こういうやさしい色合いの花が好みなのですが、この淡いハンギングを庭の中のアーチに飾っても存在感が出ません。アーチの場合は遠景でもパッと目につく必要があるので、ケイトウ1種に絞った単植のハンギングのほうが効果的。このように、どこからどう見えるかを意識して、適材適所の花を選ぶのがポイントです。 3カ月は保つ花材を使うのがハンギングバスケットのコツ イエロー系でまとめたハンギングとパープル系のコンテナとのコーディネートがフォーカルポイントに。 ハンギングバスケットにはさまざまな容器がありますが、壁掛けでよく使われるのがスリット式バスケットです。上の写真では幅約30cmのスリット式バスケットを使っています。側面にもスリット状の植え穴があり、計18株植えられているので、同じサイズの植木鉢と比べるととても華やかになります。 使った植物はジニア‘プロフュージョン アプリコット’、セイヨウイワナンテン‘レインボー’、トウガラシ‘パープルファントム’、ジュズサンゴ‘カスリ’の4種類。 ハンギングバスケットの植え方 このサイズのスリット式バスケットの場合、スリット部分に上から下へ差し込むように苗を植えていき、3段まで(3段部分は手前と奥)植えることができます。一度植えると基本的に抜き取って入れ替えることができないので、途中で枯れてしまうものがないように見頃が揃うものを選びます。また、たくさんの苗を使うのですから、できる限り長く楽しみたいもの。私は最低3カ月は楽しめることをルールに花を選んでいます。見頃を長くするには、水もちのよい土を選び、ゆっくり長く効くタイプの緩効性肥料や害虫忌避剤もあらかじめ土に混ぜ込んでおくのもコツです。 掛ける場所のない場所で活躍するハンギンググッズ ハンギングバスケットを飾る際に、バスケットを引っ掛ける場所の強度はとても重要です。前述したように壁掛けタイプの鉢では1鉢に20株ほどの植物と用土が入り、さらに水やりをするとかなり重くなります。ハンギングバスケットを飾るにはしっかりした構造物が必要ですが、住宅の壁に無闇に穴を開けると水漏れなど深刻な被害をもたらす可能性があります。引っ掛ける場所がないけれど、ハンギングを飾りたいというときに便利なのがハンギングスタンドです。上の写真は公道に面した花壇で、1本足のハンギングスタンドを差し込んでバスケットを飾っています。 ジニア‘プロフュージョン’のカラーミックス。花壇にさまざまな花が咲くのでハンギングバスケットは単植で印象的に。 これはハンギングスティック(取り扱い/ベルツモアジャパン)という地面にさすだけで飾ることのできるハンギングスタンドで、シンプルなデザインなのでハンギングの花がよく映えます。深さがあればコンテナに差し込んで使うこともでき、地植えができない場所でも活躍します。このようにバスケットはもちろん、ハンギング専用のさまざまな資材があるので、それらを上手に用いると飾れる場所の幅が広がります。 ハンギングバスケットとコンテナのコーディネート ハンギングバスケットの大きな魅力は、地植えで花を育てられないバルコニーやベランダなどでも花が育てられることです。コンテナを組み合わせると、空間を立体的に生かすことができ、小さな空間でも華やかな庭をつくることができます。秋は庭にもハロウィンの演出を凝らして季節を楽しみます。壁にはカボチャカラーのマムと本物のカボチャを組み合わせたハンギングを、コンテナは紫色のアスターが主役の寄せ植えにし、補色でコーディネートしました。 秋の陽に映えるオレンジの斑入りのニューサイランやケイトウ、観賞用のトウガラシの寄せ植え。 コンテナには草丈の高い植物も使えるので、ハンギングバスケットとはまた違った素材での寄せ植えが楽しめます。それぞれに特徴があるので、コンテナとハンギングバスケットを組み合わせることで、限られたスペースでも多様な植物が育てられ、ガーデンデザインの幅が広がります。小さな庭でも広い庭の中でも、ハンギングバスケットやコンテナを取り入れることで、いつでも美しい庭演出が叶います。特に端境期の庭ではこれらが大活躍してくれますよ。
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静岡県
豪雨対策から冷却効果まで!ローメンテナンスな庭で暮らしが変わる5つの方法
激烈化する気候、都市部の住宅地にも迫る危険 2024年7月から9月初頭までの間に発令された「記録的短時間大雨情報」は計47回。そのうち43回が1時間に100mmを超す豪雨でした。1時間に100mmの雨とは、ほとんどの排水システムでは処理できない量の水が発生し、大規模な冠水が発生する雨量です。実際、この夏には台風でないにもかかわらず、豪雨により東京都内のあちこちで道路が冠水し、車が水没する事態が起きました。都市部の排水システムは通常、1時間あたり数十ミリの降雨量を想定して設計されているため、下水管がすぐさま満杯になり、マンホールから水が噴き出したり、トイレや台所の排水溝から水が逆流するなどの被害も発生。こうした都市型洪水は排水システムの限界のほかに、都市の地面のほとんどが透水性の低いアスファルトやコンクリートで覆われていることも原因の一つです。そのため、地中への水の浸透が間に合わず、短時間で大量の雨水が地表に流れ、冠水や洪水の原因となっています。 グリーンインフラとして世界に増える街中の庭 高架の廃線跡地を約2.3kmの公園にしたニューヨークのハイライン。Pit Stock/Shutterstock.com こうした気候変動がもたらす課題への解決策として、「グリーンインフラ」の整備が進んでいます。「グリーンインフラ」とは、自然のプロセスを利用して雨水管理や都市の温暖化対策などを行う仕組みのことで、世界ではグリーンインフラとして街中や住宅地に庭を増やす取り組みが始まっています。 雨水吸収&水質ろ過装置として機能するレイン・ガーデン 例えば、ニューヨークの観光名所にもなっている全長2.3kmに渡る廃線跡を公園にした「ハイライン」では、土の層、下層土、排水マットを組み込んだ高度な排水システムが採用されており、最大80%の雨水流出を削減し、都市型洪水を防止する役目を果たしています。植物にすぐに吸収されなかった水は排水マットに蓄えられ、乾燥時に利用できるようになっており、補助的な灌漑の必要性を減らし、ハイラインをより持続可能なものにしています。 かつて治安悪化の要因となっていた廃線跡地は「ハイライン」として生まれ変わり、周辺の不動産投資も活性化した。MisterStock/Shutterstock.com また、同市ではハリケーンによる都市型洪水の対策として、街中に1万箇所以上のレイン・ガーデンをつくる「ミリオンダラー・レイン・ガーデン・プロジェクト」が進行中です。レイン・ガーデンとは、雨水を吸収させることを目的につくられた庭で、地中に張り巡らされた植物の根が雨水の通り道となり、地下へ水を誘導したり、植物が水を吸い上げることを利用したものです。ニューヨークでは庭1箇所あたり1万3千ℓ以上の雨水を吸収し、下水システムに流れこむ雨量の削減に成功しています。レイン・ガーデンを通した雨水は土に浸透する過程でろ過され、河川の水質の改善にもつながるため、日本でも善福寺川の水質向上を目的として、杉並区でレイン・ガーデンの取り組みが行われています。 庭によるヒートアイランド現象の緩和効果 緑によるヒートアイランド対策を観光にもつなげているシンガポールの繁華街。Sergey Peterman/Shutterstock.com 庭は雨水を吸収するだけでなく、都市部の熱帯化を緩和するクーリング装置としても着目されています。コンクリートで覆われた地面は、真夏の日射で表面温度が60℃近くまで上がることも珍しくありません。さらに熱せられた地面は赤外放射という熱を発し、頭上からの日射にこの赤外放射が加わると、外気温が30℃の場合、体感温度は40℃にも上がってしまいます。こうした都市部特有の熱帯化をヒートアイランド現象と呼び、熱中症対策として近年、街中にミストを設置しているところがありますが、まさにガーデンはそのミスト装置と同様の働きをします。植物は根から水分を吸い上げ、余分な水分を葉の裏から水蒸気として放出する「蒸散」を行っており、ガーデンは水道代や電気代のかからない天然のミスト装置ともいえるのです。 「ホテル・イン・ア・ガーデン」をコンセプトにしたラグジュアリーホテル「パークロイヤルオンピッカリング」。RuslanKphoto/Shutterstock.com 緑による先進的な取り組みが進むシンガポールのホテル「パークロイヤルオンピッカリング」では、植物の蒸散作用を利用したエネルギー削減に成功しています。このホテルでは敷地面積のほぼ2倍にあたる15,000平方メートルを超える緑を有し、建物表面に受ける熱を遮断するとともに、植物の蒸散作用によって建物外壁の全体的な温度を下げ、エアコンのようなエネルギーを大量に消費する冷却方法の必要性を減らしています。同ホテルの環境に配慮した設計は数々の賞を受賞しており、サステナブル建築が都市の居住空間を向上させながら、ヒートアイランドの影響をいかに軽減できるかを示す好例となっています。 ガーデンプランツの炭素固定能力にも集まる注目 根が深く炭素固定に効果的で、バイオエネルギーとしての利用研究も進むパニカム・ウィルガツム。Molly Shannon/Shutterstock.com 植物は光合成を通じて大気中のCO2を取り込み、炭素を有機物として蓄積します。特に成長が早く盛んに光合成を行い、なおかつ根が深く長寿命の植物は、多くの炭素を土壌深くに固定し、長期的に安定した炭素ストックを形成するため、気候変動の緩和に重要な役割を果たすとして注目されています。樹木で構成された森林は重要なCO2吸収源とされていますが、環境省の発表によると2020年の日本の森林等によるCO2の吸収量は4,450万トン、それに対し排出量は11億5千万トン。今ある森林の吸収量では到底追いつかないため、CO2の削減とともに吸収源を増やす対策の一つとしてグリーンインフラが急がれているのです。ガーデンを彩る草花のなかにも炭素固定能力に優れたものはいくつもピックアップすることができ、特に長寿命の宿根草類や低木類は有力候補となります。 都市公園は緑の機能性を市民に共有する知的共有スペース 浜名湖ガーデンパークのユニバーサルガーデン。 このようにガーデンは気候変動の影響を緩和し、持続可能な社会を構築するためのインフラとして重要な役割を果たすことが期待されています。 「都市公園はこうしたインフラ機能を街に提供する役割があり、さらにガーデンの有用な機能を市民に知識として共有する役目も担っています」と話すのは造園家の阿部容子さん。ガーデンの持つさまざまな機能を分かりやすくデザインした浜名湖ガーデンパークの「ユニバーサルガーデン」の設計者です。阿部さんはガーデンのインフラ機能として、人々の心身の健康を向上させる面にも注目し、五感に積極的に働きかけるようユニバーサルガーデンを設計しました。 五感に合わせてエリア分けされており、小道状のガーデンを通り抜けると心身が健やかになることをコンセプトとしている。 「ガーデンがインフラとして浸透するには、ガーデン自体の持続可能性がポイントです。植物はメンテナンスをしなければ、その機能を十分果たさないばかりか、倒木や予期せぬ繁茂などのリスクを招く場合もあります。また、メンテナンスに労力がかかり過ぎても維持が難しくなります。ですから、メンテナンスは必要ですが、ローメンテナンスな庭であることが重要なのです」。 阿部さんは庭のメンテナンスの中でも最も労力が高い雑草管理を大幅に削減する工法を用い、さらにローメンテナンスな植物を200種以上組み合わせてユニバーサルガーデンを設計施工。持続可能でグリーンインフラとしても有効なガーデン設計について解説してもらいました。 雑草管理を大幅に減らす「ノンストレスガーデン工法」 ユニバーサルガーデンの施工中。植え穴には専用のリングをはめて、防草シートをしっかり土に留めつける。 「ユニバーサルガーデン」は基本的に雑草管理の必要がないように、ノンストレスガーデン工法で施工しています。ノンストレスガーデン工法とは、簡単にいうと植栽帯全面に防草シートを敷き、植栽計画に沿って適切な植え穴を開けて植栽することで、ガーデン全体に雑草を生えさせない工法です。植栽後、防草シートの上にはバークチップや土壌資材のバイオマイスターを施すので、施工直後から防草シートは見えずに自然な雰囲気です。 マルチングに使用しているバイオマイスター。 バイオマイスターは根を生育させるための肥料成分や土壌中の有害な菌の発生を抑え、植物の生育を助ける善玉菌を多く含んだ土壌資材です。防草シートの上からもそれらの有効成分を土壌に浸透させることができるので、仕上げのマルチング材に使用すると、より効率的に植物を育てることができます。マルチングは自然に減っていくので、上から追加してまき直すことで植物の健全な生育が維持できます。地表は防草シートとマルチング材で覆われており、乾きにくいので基本的に植え付け初年度以外は自然の降雨に任せ、水やりの手間も必要ありません。 ノンストレスガーデン工法のポイントは、排水を整えた土壌整備と防草シートの敷き方・留め方、植物ごとの適切なサイズの植え穴です。ノンストレスガーデン工法の詳細はこちらで解説しています。 グリーンインフラプランツとして有効な植物 マット状に広がるクラピアは地熱を抑える役目を果たす。 ガーデンを持続可能なものとするか否かは、植物選びも重要なポイントです。環境にあった植物を選ぶことでメンテナンスの労力は大幅に減らすことができます。特に近年は、夏の暑さや豪雨に耐えられるものであることが大事な条件になってきています。ローメンテナンスの観点から見れば「丈夫で長寿命」な低木や宿根草が挙げられますし、暑さに耐えられるものは根が深く張るもの。つまりこれらの条件が揃う植物は、グリーンインフラに最適な「グリーンインフラプランツ」といえます。 クラピアの白い小花にはミツバチが集まり、生物多様性にも寄与する。 例えば、ユニバーサルガーデンでグラウンドカバーとして使っている宿根草のクラピアは、地上部の草丈は最大20cm程度ですが、地中の根はなんと150cmまで深く伸びます。一般的に深さ1m以上になると炭素固定に有効とされており、クラピアは雨水の貯水や炭素固定能力に効果的であると考えられます。また、クラピアは生育が早く地表近くにも細根が密集し、植栽後2カ月で1株が約0.25㎡を覆い、地温を下げるのにも有効なので、優秀な「グリーンインフラプランツ」といえます。 探そう!グリーンインフラガーデンプランツ こんもり茂った日本の自生種アシズリノジギク。 クラピアの原種は海岸沿いで生育する在来種イワダレソウです。こうした海浜植物は砂地に生育するため、深く広く根を張る性質があり、クラピアの他にもユニバーサルガーデンに取り入れているアシズリノジギクも同様の能力が期待できます。他にもイトススキやフウチソウなどのイネ科のグラス類は、根が深く炭素固定能力が高い植物として注目されており、イネ科が多い日本の在来種には有効なものがまだまだあると私は考えています。光合成を盛んにするという観点からは葉が大きいギボウシや常緑のノシランなども候補になるでしょう。このようにグリーンインフラという観点で植物を見直すと、目に見える美しさに加え、植物のすごい能力に改めて気付き、魅力を再発見することができます。公園の植物やご自身の庭にも、地球温暖化の危機的状況を救う「グリーンインフラプランツ」がたくさん見つけられるかもしれません。 病害虫対策を大幅削減する生物多様性ガーデン ユニバーサルガーデンは200種以上の植物が入っており、基本的に防除や予防の散布といったメンテナンスはしていません。多品種を入れることで益虫と害虫のバランスが自然に保たれ、予防や防除の労力を大幅にカットできます。また、病害虫がよく発生するのは風通しの悪い場所なので、植物が混み入らないよう注意します。植栽計画を立てる際、植える植物の最終的な株サイズを把握し、隣り合う植物の葉が触れ合う程度の間隔を保って植栽位置を決めると、風が通り抜け病害虫が発生しにくくなります。 また、五感に働きかけることをテーマにしたユニバーサルガーデンの「音のエリア」には、鳥を呼ぶエゴノキやジューンベリーなどの樹木があります。実際、木にかけた巣箱では春に子育てをする姿が見られたので、小鳥たちも害虫防除に大いに活躍してくれていることと思います。病害虫対策の観点からだけでなく、たくさんの生き物がいるガーデンは、人にとっても心地よいものです。気候変動の緩和だけでなく、人の心身の健康を向上するという観点からもガーデンは重要なインフラ機能として評価されています。 未来を変える庭の力 このようにガーデンはさまざまな問題を解決する力があり、環境面や経済面、健康福祉の観点からも多大な価値を持つグリーンインフラとして社会に広がり始めています。もしあなたが庭を持っているなら、もちろんその庭は重要なグリーンインフラの一つです。庭は私たちが楽しみながら日常生活に取り入れられる持続可能な解決策であり、地球規模での環境保護に寄与する重要な一歩となるのです。
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群馬県
花の庭巡りならここ! 数多のばらコレクション数を誇る「敷島公園門倉テクノばら園」
懐かしくもあり、目新しくもある華やかな昭和レトロのばら園 利根川と広瀬川に挟まれたエリアにつくられた、群馬県のシンボリックな存在の「敷島公園」。その一角に、「敷島公園門倉テクノばら園」があります。1971年に開園した歴史あるばら園で、2008年春に開催された「第25回全国都市緑化ぐんまフェア」の主会場の一つとして、全面的に再整備されてリニューアルオープンしました。その広さは約4.5ヘクタールで、大人がゆっくり歩いて1時間ほどかかる規模です。 このばら園のコンセプトは、「昭和レトロのばら園」。周囲より低く掘り下げて造成されたサンクンガーデンスタイル(沈床式庭園)で、周囲から見下ろしたり、中から見上げたりでき、高低差を利用したダイナミックな景観を楽しめます。また、植栽は左右対称の整形式花壇を採用しており、こちらも昭和に流行したスタイルで、懐かしさを感じる方もいれば、目新しく感じる方もいるようです。 「敷島公園門倉テクノばら園」では、約600種、約7,000株のばらが植栽されています。それぞれにテーマを設けた植栽コーナーがあり、「オールドローズ」「フランス・その他欧米のばら」「日本・ドイツのばら」「イギリス・ニュージーランドのばら」「アメリカのばら」「モダンローズ」「イングリッシュローズ」「香りのガーデン」のエリアに分けられています。また、世界バラ会議で選出された「殿堂入りのバラ」の全種(モダンローズ18種、オールドローズ13種)を植栽しているのも見どころ。これまで3〜10万以上もの品種が作出されているというばらの中から、ハイエンドに輝いたばらの美しさを堪能しましょう。 「敷島公園門倉テクノばら園」のばらの見頃は、春が5月中旬〜6月上旬、秋が10月中旬〜11月上旬です。それぞれ「春のばら園まつり」、「秋のバラフェスタ」が開催され、ばら苗やグッズの販売、園内のガイドツアー、夜のライトアップほか、さまざまなイベントが催され、楽しく賑わいます。ぜひ足を運んではいかがでしょうか。 全方位から見て美しいシーンの連続約600本のスタンダード仕立ては圧巻 モダンローズコーナーで咲く深紅のばらは、フランス生まれの‘ラ・マルセイエーズ’。半剣弁高芯の端正な佇まいが目を引きます。奥に見えるガゼボは休憩スポットで、園内に3カ所設置されています。外観デザインが美しく、背景に入れると素敵な写真が撮れそうです。 園内には、スタンダード仕立てのばらが約600本列植され、立体感のある演出が楽しめます。要所ごとに、ばらのトンネルやアーチ、ポール仕立て、フェンス仕立てがしつらえてあり、メリハリの効いた景観を楽しめます。手前で咲いている白いばらは、第6回の世界バラ会議で殿堂入りした‘アイスバーグ’です。 ぜひ立ち寄って記念撮影を!写真映えするスポットが盛りだくさん 正面広場の芝生前に設置している、ハート型のオブジェには、ピンクのつるばら‘マダム・ピエール・オジェ’を仕立てています。ベビーピンクでコロンとした丸みのある咲き姿が愛らしいばらで、芳醇な香りも魅力です。SNS映えするスポットとして、来園者の多くが記念撮影を楽しみます。 モダンローズコーナーの一角に置かれている彫像は、分部順治氏制作の「ばらの精」。周囲には、アメリカで作出された品種が多数植栽されており、カラフルな色彩のばらが見られます。 前橋市のオリジナルローズに注目!春と秋のイベント期間はライトアップも 「敷島公園門倉テクノばら園」では、前橋市のオリジナル品種のばら‘あかぎの輝き’を見ることができます。平成20年開催の「全国都市緑化ぐんまフェア」を記念して作出され、名称公募により名づけられました。開花が進むにつれて、黄色→オレンジ→赤へと花色が移ろうのが特徴です。 例年、「春のばら園まつり」と「秋のバラフェスタ」のイベント期間には、日没から20:30までライトアップをしています。黄昏時から夕闇に包まれるまで、刻々と光が変化していくなかでのばらの表情も、また美しいもの。ライトアップ時の散策も、感動のひとときとなることでしょう。
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東京都
【参加者募集中!】都立公園を花で彩るコンテスト「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」応募方法
開催3回目のコンテストの舞台は都立砧公園 上写真は、「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」のコンテストが開催される以前の様子。オリーブなど既存の樹木はそのままに、芝地が整地されてコンテストの花壇エリア(下写真)が作られました。コンテスト期間中、東京の最新ガーデンが見られるスポットとして多くの人々が訪れました。 2022年にスタートした「東京パークガーデンアワード」は、東京都にある公園の一角を花と緑の彩りがある新しい風景へと変えるガーデンコンテストで、2022年には代々木公園、2023年は神代植物公園を舞台に開催されています。東京都公園協会が主催し、12月の作庭から翌年11月のファイナル審査まで約1年かけて行われているプロジェクトです。 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」で開花した多数の宿根草。ロングライフ・ローメンテナンスをテーマに選ばれた植物は、3月から11月の間、バトンタッチをするように花壇を彩りました。なかには3〜4カ月もの期間咲き続けた種類も。 このコンテストの最大の特徴は、宿根草を活用した「持続可能なガーデン」をテーマにしていること。デザインに加え、植物や土壌に関する確かな知識やノウハウが求められる、今までのものとは一線を画すガーデンコンテストとして注目されています。 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」でグランプリを受賞した「Garden Sensuousガーデン・センシュアス」季節の変化。 審査は9月中旬の書類審査から始まり、審査を通過した5名の入賞者には、それぞれ約40m²のスペースにガーデンを制作していただきます。そして、植物が成長をスタートした4月中旬に「ショーアップ審査(春の見ごろを迎えた鑑賞性を審査)」を、7月中旬には「サステナブル審査(梅雨を経て猛暑に向けた植栽と持久性を審査)」を、11月上旬には「ファイナル審査(秋の見ごろの鑑賞性と年間の管理状況を審査)」という、3回の審査を経てグランプリが決定します。 ガーデン製作費として最大300万円支給 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」2022年12月作庭時の様子。 書類審査を通過した5名の入賞者には、植物代などガーデン制作にかかった材料費として最大300万円が支給されるので、多数の植物を使ったガーデン作成にチャレンジできるのも魅力の一つです。 第3回のコンテストのテーマは「みんなのガーデン」 コンテストの舞台となる東京都世田谷区にある都立砧公園は、昭和32年に開園し、東京23区にある公園の中でも、芝生の広がりが際立っているのが特徴で、もとは都営のゴルフ場として使われていました。現在はその自然の地形を活かし、芝生の広場と樹林で構成されたファミリーパークのほか、運動施設や遊具等が設置された広場が整備され、家族ぐるみで楽しめる公園です。 年間200万人以上が利用する都民の憩いの場に新たに作っていただくガーデンのテーマは「みんなのガーデン」。宿根草をメインとして活用し、五感を刺激して、見ていて楽しいと感じる要素を取り入れたロングライフ・ローメンテナンスなガーデンの制作が求められます。 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」審査の様子。審査委員/福岡孝則さん(東京農業大学地域環境科学部教授)、正木覚さん(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座講師)、吉谷桂子さん(ガーデンデザイナー)、佐々木珠さん(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子さん(公益財団法人東京都公園協会常務理事) 【審査基準】公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」応募方法 【申込者について】 ・一般市民、企業・団体、学生などを含め、プロ・アマ、国籍を問わず応募できます。・グループでの応募の場合は、必ず代表デザイナー1名を決めてください。・応募は1名(1団体につき)1件までとします。・定められた期間にガーデン制作やメンテナンスを行なっていただきます。 【ガーデン制作について】 ・ガーデン制作エリアは、「みんなのひろば」に隣接した区画です。・エリア内には、ケヤキがあります。・重機の使用はできません。・植物代などガーデン制作にかかった材料費について300万円(税込)を上限に支給されます。・ガーデンの制作は2回。2024年12月中旬と2025年2月下旬です。 【応募に必要な書類】 ・申込書・平面設計図(スケール1/50・A3)・デザイン画(イメージスケッチ/色や形など庭のイメージが分かるもの。写真添付も可) 第2回入賞者による経験談も参考に!【オンライン座談会】 2024年8月6日(火)15:30〜オンラインで開催された「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の入賞者5名による座談会では、自身の応募書類の紹介、植物の調達から造園、メンテナンス、コンテストに参加して得たことなどがたっぷり語られました。アーカイブ動画はYouTubeにて公開中。以下バナーよりご覧いただけます。 第1回&第2回のコンテストガーデンをチェック!
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フランス
パリのアーバン・ガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン2024」
知られざる歴史遺産邸宅、ヴィラ・ウィンザー 19世紀に建築されたヴィラ・ウィンザーは、第二次対戦後にド・ゴール大統領の拠点となった後に、ウィンザー侯爵夫妻が暮らした英国王室の邸宅として有名です。海外人気ドラマシリーズ「ザ・クラウン」で見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。邸宅と庭園ともにこれまで一度も一般公開されてこなかった場所ですが、来年からの一般公開に向けて、現在、修復整備が進められているところ。 それに先駆けてのガーデンショー・イベントというのも興味深いところ。ですが、最終日にようやく多少の晴れ間があったものの、設営期間から連日雨が続き、傘をさしつつガーデンショーエリアを見て歩くのがやっとという異例の事態でした。改めて青空の下で庭園と邸宅を散策できる日を楽しみに取っておくことにしています。 変わらぬテーマはアーバン・ガーデン 大都市パリという立地と特徴を生かした変わらぬテーマは、日々の暮らしを豊かに、街の緑化に貢献するサスティナブルでスタイリッシュなアーバン・ガーデンです。大手造園会社や著名庭園デザイナーの見応えたっぷりの緑の空間とともに、グランプリの審査対象となるショーガーデンのカテゴリーは3つ。小さな12㎡のミニ・アーバンガーデン、さらに小さい6㎡のアーバン・ポタジェ(菜園)、4㎡のアーバン・バルコニーがあり、決して広くはないことが多いパリのアパルトマンのバルコニーやテラス、中庭のガーデニングのアイデア探しにも楽しいショーです。 小さなポタジェと花咲くアーバン・バルコニー賞を受賞「カレモン」 「カレモン」のタイトルは、フランス語で正方形を表す「カレ」から。キューブ型の木製コンテナーをさまざまに組み合わせたポタジェのデザイン。カテゴリー別の受賞ガーデンには、トロフィー代わりのおしゃれなステンレス鋼のシャベルが贈られます。 景観デザイン・グランプリ受賞「感覚の庭・癒やしの庭」 設計:マティルド・ティルマン 「庭と健康」協会が出展したセラピー・ガーデン「感覚の庭・癒やしの庭」。木材などの自然素材を用いたナチュラルテイストの構造物と、感覚を呼び起こすような色彩や香りをもつ植物が、さまざまに異なる雰囲気のコーナーを作る豊かな植栽が魅力。ガーデンの設置工事は設計者とともに協会会員のボランティアが行ったのだそうで、ほのぼのとした雰囲気も魅力。 「読書のための庭、植物の図書館」 設計:ガリー設計事務所 カルチャーという言葉が栽培と文化の2つを表すように、植物を栽培するガーデニングと、同様に精神を耕す読書のための、人に知恵を与え心を解放する小さな緑の空間がコンセプト。ロックな雰囲気が楽しい。 人気のシャネル・ガーデン、今年はアイリスの庭 ショーガーデンの中でも定番で人気を集めているのがシャネルによる花の庭。メゾンのパルファンの原料となっている植物の一つにフォーカスしてデザインされます。その洗練されたスタイリッシュな佇まいの空間はいつも注目の的。 今年のテーマのアイリスは、スミレを思わせるような、またそれだけではない重層的な香りが特徴で、シャネル5番や19番といった伝説的なパルファンや、近年大ヒットしているコメットなど多くのシャネルのパルファンに使われています。香り成分が含まれるのは花でも葉でもなく、地中の根茎部分。その栽培の歴史は古代エジプトに遡りますが、フランスでは18世紀にイタリア、トスカーナ地方から伝わったアイリス(IRIS PALLIDA)が、香水を構成する香料の中でも最も貴重なものの一つとなりました。 香料成分を得るためには、栽培に3年、香料抽出作業前の乾燥に3年の合わせて6年という長い年月がかかり、また3kgの香料を得るために1トンの乾燥させ粉状にした根茎が必要だといいます。非常に多くの時間と人手がかかるため、フランスでは1970年代には栽培農家が消滅し、イタリアでも2000年代には同様の状況になってしまいました。モロッコやトルコなどでは別の品種のアイリスの栽培と香料製造が続いていますが、シャネルでは、かつての香料のクオリティを担保するために、南仏の香水の街グラース近くの専属契約農家で自家栽培を行うようになったのだそうです。 シャネルの庭はガイドスタッフとともにグループで見学します。スタッフの女子たちの長靴姿もシックかつ可愛い。 アウトドア・プロダクトの新アイデアも 会場ではガーデン周りのアウトドア・ファニチャーやガーデニング・グッズやウェア、樹木や草花ハーブ苗などの出展者たちのスタンドを見て回るのも楽しみの一つ。お買い物にも楽しいし、特にアウトドア・ファニチャー類は、これから製品化されるプロトタイプの展示も多く、新たなアイデアに触れられるのもショーのよいところです。 上写真は、カラーステンレス製のオブジェ。何かと思えば、なんと新しいお墓のモデルとのこと。箱型のオブジェの中の空間に小枝や木の葉を重ねれば、コンポストボックスも兼ねるという。動植物の形でカットワークになった部分を、故人の想い出になるよう自宅に飾ることもできるのだそうです。 移動が楽な車輪付きのベンチなどもおしゃれなカタチ。 永遠の憧れのバスケットのピクニック・セットのブース。 パリ近郊でオーガニック栽培されている旬の花、シャクヤクの販売ブース。長蛇の列ができていました。 初夏のガーデンショーでは、芳しい香りのなか、満開のバラの花々を直接見て選べるのも嬉しい。 全体を見回すと、環境への配慮を前提にした都会の小さな庭やテラスをスタイリッシュに楽しむためのアイデアやグッズがさらにフォーカスされてきた様子のガーデンショー、ジャルダン・ジャルダン2024。個性的なショーガーデンを囲むガーデン業界の専門家たちの集いの場であるのと同時に、さまざまなセミナーやワークショップも開催されました。 自然な様相の池を中心にブランコなどが設られたワイルド感のあるデザインも人気でした。 パリの人々にとっても、バルコニーで育てるハーブ苗や新鮮な切り花を買うことができる、グリーンな週末のアミューズメントの場。蜜源植物を植えるとか、少ない水やりの工夫など、都会のグリーンで自然のためにできることを知り、ガーデニングへの関心を高める機会にもなっていました。 ホワイトとグリーンを基調に、アーチを使って立体感を出した緑の空間は、流行を超えた上品さが魅力。 過去のJARDINS JARDINの記事もチェック!
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東京都
早くも猛暑に突入!「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の『サステナブル審査』を迎えた5…
年3回審査を行うガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」 5人のガーデナーが手掛ける日向と日陰の2つのガーデン。最終的な結果が決まるまでに4・7・11月の3回に渡り審査が行われますが、ガーデンの施工から8カ月ほどが経過した今回、第2回目となる『サステナブル審査』が行われました(梅雨を経て猛暑に向けた植栽と耐久性を審査します)。審査期間:2024年7月11日~17日。 審査員は以下の6名。福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授)、正木覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師)、吉谷桂子(ガーデンデザイナー)、佐々木珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事)、松井映樹(神代植物公園園長) 事前に公表されているコンテスト審査基準 公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 今回の評価のポイントは主にガーデンの持久性で、「梅雨を経て、猛暑に向けた植栽がなされ、秋まで庭が維持されるような持久性が考えられているか」。しかし、単に猛暑に耐える庭であることだけが重要ではなく、「植物個々の特性・魅力がしっかり見せられているか」、「葉や花の組み合わせがデザイン的に美しいか」、そして「今回のテーマ=武蔵野の“くさはら”、が表現されているか」などの項目も含めて評価されています。※年によって気象条件が変わるため、開花の時期がずれていても評価に影響しません。※今回行われた審査結果の公表はありません。 7月の審査時期を迎えた5名のガーデンをご紹介 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【作品のテーマ・制作意図】 武蔵野のくさはらを表現するにあたり、オーナメンタルグラスとカラーリーフ、特徴的な葉を持つ植物をメインにしたガーデンをつくってみたいと思いました。「グラスガーデン」は馴染みが薄かったり、地味にとらえられたりすることもあるかと思いますが、宿根草に加え、球根植物も多用し華やかさをプラスすることで、多くの方に楽しんでいただけるガーデンを目指しています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 バーベナ・ボナリエンシス、ミソハギ、ルドベキア‘タカオ’、ヒオウギ'ゴーンウィズザウインド'、ユーパトリウム‘ベイビージョー’、カノコユリ‘ブラックビューティー’ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アジサイ‘アナベル’、ノリウツギ'シルバーダラー'、ノリウツギ'バニラストロベリー'、カンパニュラ・ラプンクロイデス、ホスタ‘ハルシオン’、シュウメイギク‘桃一重’ コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら 【作品のテーマ・制作意図】 ガーデンの美しさは緑量や花の色目や形状だけで測れるものでなく、空や光や風や生きもの全ての関わり合い、生命の尊さを感じることでガーデンがより輝いて見えます。ガーデンに長く根付いて、地域に馴染む風景、生態系の一部になることを想定し、植えっ放しに耐えられる丈夫な品種を中心に、蜜源植物や、風や光の動きを反映しやすい植物を多く取り入れ、地味な在来種でも組合せや配置で奥行ある豊かな草はらの表現を目指します。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ルドベキア‘ゴールドスターム’、ヒオウギ‘ゴーンウィズザウィンド’、オミナエシ、ルドベキア‘ブラックジャック・ゴールド’、コレオプシス‘レッドシフト’、バーベナ・ボナリエンシス、キキョウ、オトコエシ、ガウラ、ノリウツギ、ペニセタム・ビロサム‘ギンギツネ’、ペニセタム・マクロウルム、エラグロスティス・スペクタビリス 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アジサイ‘アナベル’、ツルバキア、アガパンサス‘トルネード’、アガパンサス‘カーボネラ’、ヒヨドリバナ、ディスカンプシア‘ゴールドタウ’ コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 【作品のテーマ・制作意図】 森では、様々な木々が壮絶な生存競争を繰り広げています。しかしそれは草原もまた同じ。草原は生命力に溢れる草花たちの戦いの場です。そしてやがて、草原の中から樹木が芽生え、最終的には森へと遷移していきます。私は、草原から森へと還るこのはじまりの瞬間を、美しくもドラマティックに演出したいと思いました。ここは、森が好きなガーデンデザイナーが解釈し表現したペレニアルガーデンです。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 バーベナ・ボナリエンシス、ノコンギク‘夕映え’、フロックス(オイランソウ)‘フジヤマ’、フロックス‘ブルーパラダイス’、ガイラルディア‘グレープセンセーション’、アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’、ペルシカリア・ブラックフィールド、エキナセア・パープレア、エキナセア‘プレーリーブレイズグリーン’、オミナエシ、バーベナ‘バンプトン’、ゲラニウム‘タイニーモンスター’、アリウム‘ミレニアム’ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 ノリウツギ、アンジェリカ‘エボニー’、アガスターシェ‘ブラックアダー’、エキノプス(ルリタマアザミ)、バーベナ‘バンプトン’、ホスタ、シャスタデージー コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【作品のテーマ・制作意図】 人々の心に残る武蔵野の情景を骨格に、新たな要素を組み足して、これからの愛される武蔵野の風景を植物の魅力や武蔵野の風景を「伝え」「感じる」ことを軸に提案しました。武蔵野の草原を連想させるグラスをベースに、季節の流れの中で、さまざまな色や形の草花がガーデンを彩っていくような配置を心がけました。自然との距離が遠くなった現代で、このガーデンが少しでも自然と人とが寄り添うきっかけになればと思っています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 バーベナ・ボナリエンシス、ヘレニウム‘サヒンズ・アーリー・フラワラー’、ヘリオプシス'ブリーディング・ハーツ’、アガスターシェ‘クレイジーフォーチュン’、アガスターシェ‘ビーリシャスピンク’、オミナエシ、モナルダ、ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’、オトコエシ、リアトリス 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アジサイ‘アナベル’、ペルシカリア‘ファイヤーテール’、オトコエシ、オミナエシ コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 【作品のテーマ・制作意図】 世界的に”Climate Change(気候変動)”が叫ばれ、日本でも夏の猛暑、雨不足による水ストレスが植物を苦しめました。農業技術である完熟した堆肥をはじめ有機資材を使い、微生物に富み団粒構造を持つ土壌を作ることからはじめ、これまで武蔵野の草原風景を担ってきた在来植物を中心にガーデンを構成します。都市の暮らしの中でこぼれ落ちてきた技術、植物でこれからの武蔵野の風景を模索していきます。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 シラヤマギク、フジアザミ、カワミドリ、キキョウ、タムラソウ、シキンカラマツ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 オオバギボウシ、フシグロセンノウ、シキンカラマツ、スカビオサ‘ムーンダンス’ 今回の「サステナブル審査」では審査員の評価が同じ傾向にあった前回の「ショーアップ審査」とは異なり、評価が分かれる結果となりました。これから迎える盛夏を乗り越え、3回目の「最終審査」まであと4カ月。プロたちの技術力と植物の生命力に目が離せません。庭作りスタートから月々見頃の植物と5名のガーデンを紹介する記事もご覧ください。 園内に新たにお目見えした「JINDAIペレニアルガーデン」 『東京パークガーデンアワード』開催の関連事業として、神代植物公園の園内にある「宿根草園」のリニューアルを市民協働で進める計画、「JINDAIペレニアルガーデンプロジェクト」がスタートしています。 新しい宿根草園の基本計画をつくられたのはガーデンデザイナーで「第2回 東京パークガーデンアワード」の審査員も務める吉谷桂子さん。 その計画をベースに市民が話し合い、実際に植栽をするワークショップが2023年9月から6回にわたって、行われました。「人にも環境にも優しいガーデン」というテーマのもと、ワークショップに参加した市民たちが、「どんな人がどんな時間を過ごせたらいいのか」宿根草園のイメージを膨らませるとともに、植物の配置についても検討をしました。 サクラやアジサイの群生と、芝生のエリアに囲まれた「宿根草園」。瑞々しい緑に宿根草の彩りがつややかに映える7月。 グランドデザインは吉谷さんが手がけた都立代々木公園の「the cloud」と同様、メンテナンスがしやすく景観になじみやすいクラウド(雲)型。ここは花壇を設ける面積が代々木公園よりもずっと広いので、一つひとつのエリアもぐっと広くなっています。 花壇が緑で覆われ、花も咲き始めた6月。 植栽は2023年秋と2024年春の2回。秋は、ワークショップの参加者35人が植物の選定、宿根草や球根類を植え付けました。春は、ワークショップの参加者がホスト役となって、一般参加者を迎え入れ、総勢130人で植栽しました。市民協働によるガーデンづくりには、園内に新しいモデルガーデンを作るだけでなく、「宿根草による環境にも人にも優しいガーデニングの普及啓発」や「市民交流の場づくり」に繋げていくという目的もあります。生きもの観察をしたり、宿根草園をバッグにイベントを行ったり、宿根草園に市民が関わることで、多様な魅力が生まれてくることを期待しています。 春の植え付け当日。総勢130人の大所帯にもかかわらず、素晴らしいチームワークで、スムーズに作業が進んだ。 「神代植物公園は花好きの方が多く来るイメージですが、幅広いさまざまな市民の方々が関わる機会があることで、もっと園を身近な存在に感じてもらえるようになればと考えています。市民といかに連携し、市民がいかに活躍していただけるか。その結果、多様な魅力を作り出し、利用者の増加につながればいいなと思います。公園を使い切る感じですね」と、東京都公園協会 公園事業部 公益推進課の服部睦子さん。2024年は宿根草のガーデンのお手入れとその背景を学ぶ講座が開講中で、受講生が環境に配慮したお手入れを実践しています。 実際に見ていこう「人にも環境にも優しいサステナブルなペレニアルガーデン」 ローメンテナンスでありながら、自然な風景が心地よい宿根草ガーデン。たくさんの生き物の棲み処となっているため農薬などを使わずに、多様性を大切にしながらガーデンを管理しています。「この土地にあった植物を選んで植えています。四季の移ろいを通じて植物が持つ美しさを感じていただきたい」と、神代植物公園 管理係長の斎藤亜理沙さん。 ここからは、植え付け後、開花の最盛期を迎えた7月のガーデンのガーデンを紹介します。 幾重にも植物が重なり、美しい風景を描いているガーデン。この時期はブルーがかったピンクの花が多く、やさしい色彩でまとめられています。 7月に見られる植物は、バーベナ・ボナリエンシスやフロックス、エキナセアなど。紫やピンク、黄色の花々が生き生きと咲き誇っています。 季節感あふれるやさしい表情で訪れる人を迎えてくれる「JINDAIペレニアルガーデン」。現在まだ植栽されていないエリアも残っており、今までとは異なる方向性で植栽する予定です。どんどん表情に深みを増していく宿根草園。ぜひ、コンテストガーデンと併せて訪れてみてください。 コンテストガーデン&宿根草園を見に行こう! Information 都立神代植物公園所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30〜17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)入園料:一般=500円、65歳以上=250円、中学生=200円(都内在住・在学の場合は無料)、小学生以下無料アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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フランス
【パリ近郊の庭を訪ねて】ナチュラルに楽しむ小さな花束の庭
森の佇まいと選りすぐりの花々 お宅のリビング側から庭を見下ろす。春の球根花からダリアへと季節ごとに植え替える植栽のエリア。 フジの花が満開で、スイセンやチューリップの盛りが過ぎた晩春の週末。パリ近郊で素敵な庭づくりをしている英理子さんのお宅にお邪魔しました。 折り紙&ペーパーフラワー作家としても活躍する英理子さんが、フランス人のご主人と2人のお子さんと暮らす家は、パリから電車で30分ほどの長閑(のどか)な住宅地にあります。これまでも、季節を変えて何度も伺っている大好きな庭です。 ヘビイチゴやステラリア・パルストリスが混じるグラウンドカバーは、野原そのままのナチュラルな雰囲気を庭に運びます。 この地に引っ越してきて、自分で庭づくりを始めてから15年ほどが経つという英理子さん。この庭は、森の一角を思わせるナチュラルな佇まいのを背景に、季節ごとに彩りを変える彼女のこだわりの花々が、絶妙なハーモニーを織りなしているのが魅力です。 今回訪れた際にも、ちょうどイングリッシュ・ローズの名花‘ガードルード・ジーキル’の初花が咲いていました! 初めて伺ったのは、ちょうどバラの季節。フランスの個人庭には珍しく、イングリッシュ・ローズの数々が見事に咲いているのが印象的でした。 ジャルダン・ブクティエ(花束の庭) 春の花の植栽、選び抜かれたチューリップはそれぞれがビジュー(宝石)のよう。 さて今回は、曇りからにわか雨を経て時々晴れ、気温はひと桁台という花冷えの4月下旬の日曜日。球根花は終わりかけで、バラの盛りは3週間後くらいか、でもスズランはもう花盛りですよ、というタイミングでしたが、たくさん植え込まれたさまざまな種類のスイセンやチューリップは、好き好きに開き切った、その姿にも味わいを感じます。 スズランの群生の前に佇む後ろ姿は庭ネコのたまちゃん。 「そう、庭で見る分にはまだいいのだけれども、ブーケにするには咲き始めがいいの」と言う英理子さん。大好きだというスイセンは、いろいろな園芸種を毎年400球ほどは植え込むそうです。今年は雨が多かったせいか、庭づくりを続けてきて初めてというほどの激しいナメクジ被害があったそうで、花の部分をつぼみのうちに食べられたスイセンが多数出てしまったと、残念そうでした。ちなみにナメクジは捕獲処分。薬剤などは使わないナチュラルガーデニングが基本です。 チューリップは、庭の風景を保ちつつ、少々切り花にしてブーケにも使えるように、同じ種類を20、30球と植え込んでおくとのこと。そう、この庭の植物選びの原則の1つに、切り花として使える花々というのがあり、実際、いつも季節の花でささっと素敵なブーケを作ってくださるのです。庭の自然をそのまま運ぶようなブーケは、もちろんパリの友人の間でも評判です。 晴れ間の出てきた庭で恵理子さんにお茶をご馳走になりながらお話を伺いました。気持ちのよいひととき。 庭の奥でちょうど花盛りだったビバーナムは、やはり15年ほど経つ大株だそうですが、これもブーケにも使おうと思ってチョイスしたとのこと。切り花のための庭をカッティング・フラワー・ガーデンと呼んだりしますが、フランス語ではジャルダン・ブクティエ(花束の庭)やジャルダン・フローリスト(フローリストの庭)といいます。 森の佇まいを運ぶ野の花々 木々の足元を彩る黄色のドロニクムも森からやってきたワイルドフラワーです。 選りすぐりの栽培種のチューリップやスイセンが植え込まれたエリアは、カラフルな宝石箱のよう。それを引き立てるのが、フワフワとそこかしこに生えているヒナギクだったり、儚げなワスレナグサの群生。森の一角にいるように、よく林縁に生えている黄色のドロニクムも木陰に揺れています。野の花と園芸種の共演は、まさに庭空間ならではの技ではないでしょうか。 この時期、スズランも庭のあちこちで満開になってきていて、摘むのが追いつかないほどだとか。スズランは、もともと群生していた場所もあれば、義理のお母様からいただいたひと鉢が一面に広がった斜面もあり、いずれにしてもこの土地に合うようです。フランスでは5月1日にスズランを贈る習慣がありますが、ここでは毎年少し早く最盛期を迎えます。 スズランの群生に混じって、可愛らしい八重のオダマキがつぼみをつけていたり、庭の中には、ほっこりする風景がたくさんあって飽きません。種まきで増やしたもの、あるいは種が飛んで自然に増えたものなど、それぞれの様子をよく観察しつつ、そのままそっとしておいたり、場所を移動させたりと、丁寧にお手入れされているのがよく分かります。 小さな庭のいいところ 毎年春には数々のスイセンとチューリップが彩るエリアは、季節が終わるとダリアに植え替え、夏から秋にかけては、選りすぐりのダリアが花盛りになります。ダリアの球根は季節が終わると掘り上げられて、また春の準備に。季節に沿って花が溢れる小さな庭は、じつは大変な手間に支えられています。 スペースが限られているので好きな植物がすべて植えられるわけではない、慎重に取捨選択しなければならないのだけれども、逆に自分にとってはそれがよいのだと思う、と言う英理子さん。植栽の選定は自分の「好き」が基準ではあるけれども、土地に合うのか、気候に合うのかということも大事です。特に、ここではまだ急激な変化は起きていないけれども、夏の暑さや水不足などの気候変動に対応するには、環境に適応できるということがより大事になりそう、と庭友さんたちの間でも話題になっているとか。 庭のスズランを摘んでブーケに。素晴らしくいい香りです。 それぞれの植物の気に入った場所を見極めて定植したり、移動したりと、植物それぞれとの対話の中で作られてきた庭空間では、草花が皆ハッピーなのか、居るだけで気持ちが和んできて、いつまでも佇んでいたくなります。抜け感のあるお洒落はパリジェンヌが得意とするところですが、この庭の、リラックスする柔らかなワイルド感は、それに通じるところがあるような気がします。 庭の中心のガーデンテーブル。お茶の時間には自然と家族が集まって過ごす和やかな場所に。 森を思わせる野の花々と、こだわりの園芸植物たちが、恵理子さんの振るタクトを見ながらそれぞれに歌い、そのリズムが柔らかなイル=ド=フランスの光と空気に溶け込んでいくような素敵なナチュラル・ガーデンです。
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関東
【小さな庭実例】庭を輝かせるテクニック満載! バラに包まれる根本邸
コツコツと手づくりしながらつるバラの魅力を引き出した庭 東側の家の側面を活用しながら、南側の駐車スペースを含めた50㎡ほどの場所につくられた根本さんの庭。日陰になる部分以外はすべて白やピンクの淡い色のつるバラが覆い、芳しい香りが辺りを包んでいます。 南側の駐車スペース。ベンチがアイストップになっている。 もっとも目を引くのが、道路側の幅70cmほどの小さなスペースに咲く、ロサ・ムリガニー。庭を本格的につくり始めた9年ほど前に長尺仕立ての苗を植えたもので、今では見事な株に成長し、この庭のシンボル的な存在となっています。以前実店舗があったバラのお店「オークンバケット」の店先を彩っていた風景に憧れて、このバラを選んだそう。 大きなトゲをつけた太いつるは、建物の外壁に取り付けたワイヤーにしっかり結わえながら誘引。理想的なシーンをつくるために、毎年冬にすべてを取り外して誘引し直しています。「作業は脚立を少しずつずらしながら、3~4日かけて行います。昨年は窓の下にも誘引しましたが、今年はピンクのバラ‘ケルナーフローラ’をもっと大きく育てるために、窓の上にだけ誘引しました」と根本さん。ここの見栄えも考えて、今年は網戸も取り外しました。 腰高の花壇には木製フェンスを取り付けて、季節の草花を植えている。キャットミントは猫が好んで株の上に座ってしまうので、トゲトゲしたプラスチック製の猫よけを忍ばせている。 庭スペースは駐車スペースより60~70cmほど地面の高さが上がっており、シーンの切り替えには最適な構造です。駐車スペースの正面突き当たりには手作りのベンチを置き、背面のフェンスにはバラ‘レイニーブルー’をレイアウト。さらに庭への通路には小さな階段+アーチを設けてバラ‘ジャスミーナ’を誘引し、ロマンチックな空間を生み出しています。 バラの見頃は、早咲きと遅咲きの2部構成。前半の5月上旬は早咲きの‘レイニーブルー’の青みがかったピンクの花が群れ咲き、後半には‘ジャスミーナ’とロサ・ムリガニーにバトンタッチします。 ご主人と作ったベンチやフェンスと床面。 庭の骨格をなすバラの誘引や構造物はめぐみさんがデザインし、それをご主人の力を借りて形にしています。「じつは、主人は当初、あまり乗り気ではありませんでした。でも、近所の人に‘棟梁!’なんて言われたりして、徐々に楽しくやってくれるようになりました。DIYとは無縁だったのに、なぜかうまくまとめてくれるんですよ」と笑います。 バラのアーチの奥に隠れた中庭もご紹介!コーナー別にご紹介します 9年前に正社員だったのをパートに切り替え、時間にゆとりができた根本さん。以前は草花だけだった庭にバラを取り入れたことで、庭づくりを本格的に始動させました。 マイナーチェンジを繰り返し、ここまで魅力的に仕上がった根本さんのスモールガーデン。 外からは窺えない中庭エリアも併せ、素敵な場所をクローズアップしてご紹介します。 【アーチ】 見せ場の1つである‘ジャスミーナ’が覆うアーチ。ランプやお手製のステンドグラスのオーナメントを下げて、愛らしさをプラス。駐車スペースから奥へと視線を誘います。 左/ステンドグラスのオーナメントは陽の光を浴びるとキラキラと反射し、バラの魅力をさらに引き立てる。右/ヨークシャーテリアの愛犬カイくんも、豊かな花の香りが楽しめる庭が大好き。庭とともに育ってきた。 【アーチ奥の植栽コーナー】 アーチをくぐると、ナチュラルで繊細な草花が出迎えます。こぼれ種で増えたオルラヤと宿根したジギタリス、根本さんが種まきから育苗したオンファロデスやニゲラが咲き群れ、夢のような風景が広がります。 庭から駐車スペース方向の景色。ロサ・ムリガニーの白花と相まって、ノーブルな雰囲気に。 【勝手口まわり】 アーチをくぐって右手の勝手口まわりをDIYでカバーして、生活感を払拭。段差をなくすためにステップを作り、鉢物をレイアウトしました。さらにフェイクの窓や飾り棚を取り付け、早咲きのバラ‘ボニー’を誘引。淡いピンクやペパーミントグリーンにペイントし、どこか素朴でカントリーな雰囲気を醸し出しています。 扉の右側に設けた道具入れ。お手製のステンドグラスのパネルを取り付け、ハゴロモジャスミンを絡ませて雰囲気をアップ。手前に咲くバラは、コロコロとしたアンティークタッチの‘パシュミナ’。 【庭の板塀】 奥の白い板塀にはクレマチス‘グレイブタイ・ビューティー’や雑貨類をディスプレイして、見応えたっぷりに。手前にはバードバス+バラ‘グリーンアイス’の鉢を配して、立体感と奥行き感を出しています。 処分した衣装ダンスの扉内側についていた鏡を再利用、アンティーク加工を施し板塀に取り付けて。手前の草花が映り込み、奥行き感と透明感をプラスしている。 【ガーデンシェッド】 日当たりの悪い庭の隅は、2人で作った白いシェッドを設置。中庭のフォーカルポイントになっています。バラ‘サマースノー’が屋根部分を程よいボリュームでカバー。 左/‘サマースノー’がまだシェッドの側面までしか伸びていない、一昨年の様子。中/雑貨やドライフラワーが飾られた内部。肥料や薬剤もここに収納している。右/根本さんが作ったステンドグラスのパネルをはめ込んだ窓がアクセントに。 【日陰のエリアのパーゴラ】 南側の隣家との境目は、最も日が当たらない場所。ここにはガゼボ風パーゴラをつくって設置し、隣家を目隠ししています。パーゴラにもステンドグラスや棚を取り付け、雰囲気を高めました。旺盛に上部を覆うのは、秋に咲くクレマチスのセンニンソウ。「小鳥が多いので、毎年ピーナッツのリースを下げています。いつも全部食べてくれるんですよ」と根本さん。 2年前まではモッコウバラを絡ませていた場所。レンガを使った腰高のウォールと窓風ステンドグラスパネルが、光を採り入れつつ程よい目隠しに。 【テーブルまわり】 来客があったときは、中庭で花を眺めながらおもてなしをしています。通りからの視線をつるバラが遮ってくれるので、心おきなくでくつろぐことができ、会話も弾むそう。 脇の花が倒れてこないように、白いフェンスで囲んだり、細い棒で支柱を立てたり。 センスが光る手づくり&小物あしらいにもクローズアップ! ここでは、随所に見られる小技をご紹介。見逃せないシーンがたくさん。 ■ストーンワーク 敷く・並べる スモールガーデンでも、多様な石づかいで、飽きのこない風景を作ることができます。 シェッドの前は細長い石を並べ(左)、塀の前の細い園路にはピンコロ風の石を採用(右)。 以前敷いていた固まる砂を剥がしたときに残った塊がコッツウォルズストーンのような形をしていたので、それを並べて再利用。草花の軽やかさを維持しながらナチュラルな雰囲気に。 ■ディスプレイ あちこちのシーンにアクセントを作り、見応えを出しています。スモールガーデンに合わせて手作りしたアイテムがいっぱい。 左・中/スペースにピッタリのベンチはご主人と一緒に作ったもの。傍らにガーゴイルを配し、さながらイギリスの庭園のワンシーンのよう。 右/スタイロフォームを組み、ダークグレーにペイントして作った、石柱のような花台。 左/レンガをざっくりと積んで、上にコーンのオーナメントを。時間の経過を感じてもらえるように苔をのせています。 中/小さなバードバスで、水のきらめきをプラス。花がたくさんある時期は、摘んで浮かべて楽しみます。 右/ハート形のワイヤーにアイビーを誘引。「丈夫なので数年放ったらかしです」と根本さん。 ■フェンスで仕切る 小さな空間でもシーンの切り替えは必要。立体感を出すのにも有効です。 バラ‘レイニーブルー’が絡むフェンスの隣にアイアンフェンスを設置。透け感を維持するためには、程よく華奢なものが◎。 フェンスは飾ったり、植物を絡ませたりして、表情豊かに。 ■ペンキでエイジング加工 ガーデンの雰囲気に合わないものは「グレーに塗ってダークな色でほんのり汚れをつける」加工を自ら施し、空間に統一感を出しています。 アーチの下のフェンスにもエイジング加工を。根本さんが作ったステンシルのプレートがアクセントに。 板塀のニッチに飾ったキューピッドにもペイント。 左/にぎやかな色のガーデンピックの棒を取り外し、トップの小さな動物にペイントしたオーナメント。 右/セアノサスを植えるコンテナは大きいので、テラコッタなどでは重くなりますが、軽いプラスチック製のものを用いてペイントすることで、問題をクリア。 スモールガーデンを彩るバラ&クレマチス 根本さんの普段のお世話は、冬に寒肥で牛ふんや油粕、カリ有機肥料を施すのみで、お礼肥は様子を見て。消毒は2~3週間に1度行っています。庭を彩る美しいバラとクレマチスを一部ご紹介します。 まずはバラから。 左上から時計回りに、‘レイニーブルー’、‘ジャスミーナ’、 ‘アイスバーグ’、ロサ・ムリガニー。 左上から時計回りに、‘パシュミナ’、‘フランボワーズ・バニーユ’、‘ロマンティック・レース’、‘ブラン・ピエール・ドゥ・ロンサール’。 続いてクレマチスもご紹介。 左上から時計回りに、‘マリア・コーネリア’ 、‘マーガレット・ハント’、‘白万重’、‘ワーレンバーグ’。 左上から時計回りに、‘ロマンティカ’、‘シーボルディー’、 ‘カイウ’、‘篭口’。 種まきで増やした草花 変わった品種やお気に入りの植物は花後に種子を採り、播種してベランダで育苗。これなら絶やすことなく、デザインどおりの場所に咲かせることができます。 左上から時計回りに、ニゲラ‘アフリカンブライド’、ジギタリス・トロヤナ、ゲラニウム‘ビオコボ’、スカビオサ・オクロレウカ。 左上から時計回りに、ギリア・レプタンサ、ゲラニウム‘クラリッジドリュース’、シノグロッサム、シレネ‘ホワイトパンサー’。 とびきりのセンスとアイデアで、小さな空間をロマンチックなローズガーデンに仕上げている根本さん。何より手間を惜しまず丁寧に向き合う姿が、多くの人が憧れる魅力的な空間を生み出しているようです。二人三脚の庭は、これからも思い出を紡ぎながら進化を続けていきます。 2021年フォトコンテストで編集長賞を受賞 この投稿をInstagramで見る meme(@memeblossom)がシェアした投稿 受賞時にガーデンストーリーサイトでもご紹介した受賞写真は、‘ジャスミーナが咲くアーチ’でした。 うつむき加減に咲くつるバラの‘ジャスミーナ’は、少し遅咲きで、ほのかに香る品種のようですね。純白の‘アイスバーグ’や足元の小花たちによるロマンチックな色合いのコラボレーション。画面いっぱいの花々の風景に、吸い込まれるように見入ってしまう写真です。中央の木製ランタンと、その奥にちらりと向こうの風景が覗くことで奥行きが感じられて、他のエリアも拝見してみたいと思いました。副賞として来年春、編集部による取材をお約束させていただきました。ご主人と2人で庭づくりをされているそうです。「何度もくぐり抜けた」という花咲くアーチをくぐる日が楽しみです。 編集部コメントより ガーデンストーリーでは、今年も、フォトコンテストを開催中です。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
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愛知県
【秘密の花園】森を背に彩られるバラと宿根草とアジサイの庭
奥行き30cmにも満たないつるバラと草花の花壇 愛知県日進市の住宅街、遠くから見てもすぐにその家だということが分かるほど、通りに面して花々が美しく競演する武島邸。奥行き30cmもない石積みの花壇に、 ‘レイニー・ブルー’や‘コンテスト・ドゥ・セギュール’、‘たまかずら’など数種類のつるバラが植栽され、そのやさしい色合いのバラの間に、窓辺のアジサイが心地よいリズムで鮮やかな彩りを添えます。 (左)房咲きの花をたわわにつけるつるバラ‘たまかずら’や‘コンテスト・ドゥ・セギュール’。(右)ブルーのロベリア‘カリブウォーター’や優しいイエローのペチュニア‘ステファニー’、ガザニア‘ビーストシルバーフォックス’が筒バラの花色を引き立てつつ株元をふんわり覆う。 バラの株元と花壇の手前に置かれたコンテナには、ブルーとイエローの小花がふんわりと咲いています。花々があふれんばかりの華やかさながら、色を絞った色彩計画のもとにデザインされた壁際の花壇は、一幅の絵画を見るような美しさです。しかし、この表の庭は武島さんの庭のほんの一部に過ぎません。 淡い紫色のつるバラ‘レイニー・ブルー’にブルーとイエローの小花がよく似合う。 森を背に華やかに彩られるメルヘンチックなバラと宿根草の庭 知る人ぞ知る秘密の花園は、玄関脇の小道を進んだその奥、森の緑を背にして広がっています。広さ約200㎡の庭は、森に向かって少し高くなるように傾斜がつけられており、緩やかにカーブするレンガの小道は、その先の景色を見え隠れさせながら歩みを誘います。頭上から甘い香りが降り注ぐバラのアーチ、背丈を超えて林立する何百本ものジギタリスとデルフィニウム、白花がレースのように咲き集うホワイトガーデン。小道の先に開ける景色には常に新鮮な驚きがあり、ひと巡りする頃には感嘆のため息を使い果たしてしまいそうです。 竹の抜根から始まった苦労の庭づくり バラとジギタリスの群落が競演。 「ここは、もともと竹林だったんですよ」と話すのは、庭主の武島由美子さん。ガーデン設計施工の「アンズガーデン」のデザイナーとして活躍しながら、ハンギングバスケット協会の理事も務め、講師として全国を飛び回るかたわら庭の手入れをしています。 花々の優雅な競演を前に、にわかに想像し難い竹林の風景ですが、実際に今でも花の間から竹がひょっこり生えてくると言います。 「竹って地下茎でつながっていて、地中に縦横無尽に根が張り巡らされているんですよ。それを取り除かないと花が植えられないので、最初は竹との格闘の日々。それはもう庭づくりっていうか、『開拓』でしたね(笑)」 庭主で「アンズガーデン」の代表を務める武島由美子さん。ハンギングバスケット協会の講師として九州から北海道まで全国を回る忙しい日々を送りながら、庭の手入れを行っている。 草花の素朴なガーデンに新たに加わった初夏の女王、バラ そんな苦労をしてでも武島さんを庭づくりへと駆り立てたものは、花が好きというシンプルな思いです。文字どおり竹林を拓いて得た土地を耕し、道をつくってガーデンの骨格を整え、花を植え、庭づくりを続けてきました。 「最初の頃は、素朴な宿根草とか一年草だけの庭だったんですが、いつからかそういう素朴な草花にも似合うオールドローズとかイングリッシュローズが登場して一気に魅了され、バラも育て始めたんです」。しかし、なかなか上手に咲かすことができずに、往復500kmの距離もいとわずコマツガーデンの講座に通い、バラ栽培を勉強したといいます。 (左)茎が細く華奢な雰囲気で咲く‘フランソワ・ジュランヴィル’。ガーデンには草花との相性がよい小輪〜中輪のバラが選ばれている。(右)宿根リナリアやジギタリスと咲く淡いピンクのバラ。 「バラと宿根草では土壌づくりが違うんですよね。土壌を豊かにしようと思って堆肥を庭にまいたら、バラの枝がグングン伸びて葉っぱばかり茂ってしまったことがあって。堆肥はチッ素分が多いことが原因なんですが、バラにはバラに適した肥料があるということを学びました」 ガーデンシェッドやベンチなど、ガーデンファニチャーと植物がコーディネートされたフォトジェニックなコーナーが庭のそこここに。雑草対策として、見えないように草花の間には段ボールが敷かれている。 そうした失敗も経験しながら、草花中心だった庭にはだんだんバラが増え、手入れの仕方もバラ中心に変わっていきました。年が明けると、1月末までにバラの剪定と誘引を1週間かけて行い、バラの芽出しの頃とその2週間後には病害虫予防として2回ほど薬を散布。5月になると400本以上のバラが次々に咲き出し、開花を待って2週間に渡り開催されるオープンガーデンには、全国からたくさんのファンが来訪します。それが終わるとバラにお礼肥えをたっぷりやり、宿根草は切り戻してさっぱりさせます。 「この庭は草花が多いので、バラの株元がすっかり覆われてしまわないように、雑草の除去はもちろん、宿根草も結構短く切り戻しておきます。そうでないと、カミキリムシの被害サインのオガクズに気づきにくくなってしまいますからね」 バラと交代でシェードガーデンを彩るアジサイたち (左)日陰になりやすい部分には、ライムイエローのヒューケラやタイツリソウ‘ゴールドハート’などのカラーリーフを下草にして、空間を明るく演出。(右)ピンクの絞り咲きアジサイ‘衣純千織(イズミチオリ)’をヒューケラやペチュニアと寄せ植えにして花台へ。 バラと交代に庭を彩るのは、アジサイ。森に隣接したシェードエリアには、アジサイやギボウシ、ヒューケラ、アスチルベなど半日陰を好む植物がふんだんに植栽され、暗くなりがちなエリアが華やさを増してきます。ハンギングバスケット協会の理事も務める武島さんの庭では、地植えだけでなく鉢植えやハンギングバスケットでもアジサイが活躍。鬱々とした梅雨の時期に、鮮やかな花色で庭を彩ります。 (左)斑入りのギボウシやツワブキとともに日陰を彩るアジサイ‘ラグランジア’。(右)鉢植えにした銅葉のアジサイ‘ブラックダイヤモンド’がシェードエリアのフォーカルポイントに。 アジサイのハンギングをガーデンチェアの背に飾ったコーナー。 「7、8年ほど前からアジサイのハンギングを作っていますが、当初は植生の違いから、アジサイのハンギングは認められませんでしたが今ではコンテストにも並んでいます。アジサイはよく目立ちますし、ハンギングは目線より上に花を持ってくることができるので、庭づくりでも重宝しますよ」 秋の庭の楽しみと、もう1つの楽しみ 庭のバラは四季咲きが多く、秋にもまた見頃を迎えます。 「秋はバラの花数は少なくなりますが、フジバカマなどの宿根草がたくさん咲いて、春とはまた違った雰囲気になります。いつからかフジバカマに、渡りをする蝶として知られるアサギマダラが毎年くるようになって、その美しい蝶と再会するのも庭の楽しみの1つなんです」 そしてもう1つ、最近になってうれしい出来事があったと武島さん。 「昔、私が庭に置いた植木鉢が原因で、主人が大怪我をしてしまったことがあって、以来、花なんか見たくないというくらい花嫌いになっちゃったんです。だから、これまで庭に見向きもしなかったのに、ある日『うちのバラはきれいだなぁ』ってポツリと。それを聞いて本当にびっくり! 私的にはまだ会心の出来でバラを咲かせられたことはないのだけど、その一言に心の中でガッツポーズ(笑)」 今ではご主人のサポートもあり、庭にはご主人お気に入りのシーンもたくさんあります。それをiPad(アイパッド)で撮るのが会社へ行く前の日課になっているとか。そのiPadの中に、庭のアルバムのページが増えていくのが、武島さんの庭づくりの大きな楽しみに加わりました。
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東京都
バラ咲く旧小笠原邸の建物と庭を訪ねて
スパニッシュ様式の瀟洒な洋館 スパニッシュ建築の先駆けとして1927年に竣工された建物と、正面口のクスノキ。 都心とは思えないほど静けさに満ちた建物と庭。東京、新宿区河田町にある旧小笠原邸は現在「スペインレストラン小笠原伯爵邸」として、ゲストを招き入れている。 かつて伯爵家の客人を迎え入れた、趣あるエントランス。 邸の正面玄関に立つと、2羽の小鳥のトピアリーが迎えてくれる。エントランスでは、ブドウ棚の模様が描かれたキャノピー(外ひさし)が、光を浴びて、大きく翼を広げる。建物の外観や玄関のたたずまいからも、旧小笠原邸を訪れる期待に胸が高鳴る。 ブドウの蔦や葉、実がデザインされたキャノピー。 エントランスの重厚な扉と照明。 扉の上部、籠の鳥を配した明り取り。邸内の至る所に小鳥の意匠が見られ、別名「小鳥の館」という愛らしい名前で、呼ばれる所以となっている。 エントランス扉の上部、ブドウと小鳥をモチーフにした鉄製の明り取りが美しい。 館の数奇な歴史 レストランのガーデン席付近から見た庭の風景。オリーブの木とガーデンテントがよく似合う。 建物は、旧小倉藩藩主であった小笠原家の30代当主小笠原長幹伯爵の邸宅として、1927年に建てられた。敷地は江戸時代の小倉藩の下屋敷跡で、竣工当時は2万坪の広さを誇っていたという。今なお千坪の敷地を保ち、建物の周囲には、樹齢500年を超えるオリーブの木や、バラが咲く庭が広がっている。 エントランスからロビーを経て至る回廊。右手がパティオで、左手にはグランドサロン、ラウンジ、シガールームなどの部屋が並ぶ。 伯爵家の館として約20年間にわたり家族が暮らしていたが、第2次世界大戦後の1948年に米軍に接収され、GHQの管理下に置かれた。その後1952年に東京都に返還され、都福祉局の児童相談所として使用されていたが、1975年以降は老朽化のため放置され、取り壊しも検討されていたという。 庭から見たシガールームの外壁の装飾。太陽と、草花と、鳥の構図は「生命の賛歌」がモチーフとなっている。 2000年に東京都から民間貸し出しの方針が示され、1年半にわたる全面的な修繕工事の後、レストランとして甦った。外壁のレリーフなどの修復作業は、竣工当時の資料を基に忠実に実施され、内装、家具、照明機器はヨーロッパから取り寄せて、当時の雰囲気そのままを再現している。 邸内をめぐる 現在、レストランのメインダイニングとして使用されているのは、伯爵の書斎や寝室だったところ。かつてのベランダが庭に面したテラス席となっている。 (左)唐草模様の鉄細工が施された、ロビーから回廊へと続く欄間。(右)ヨーロッパから取り寄せた家具や照明器具で、当時の客室が再現されたラウンジ。 メインダイニングに至る回廊わきに並ぶ3つの部屋は、伯爵家の食堂、客室、シガールーム(喫煙室)で、現在、客室はレストラン客のラウンジとして使用されている。 伯爵家のメインダイニングだった部屋。大テーブルのメロンレッグと呼ばれる脚部には、細かな装飾が見られる。 かつて食堂だったグランドサロンにある大テーブルは、イギリス、エリザベス様式のアンティークで、伯爵家で実際に使用されていた唯一の家具。伯爵夫妻と5男6女の家族が晩餐のテーブルを囲んでいた情景が目に浮かぶようだ。 半透明の色ガラスを使った、アメリカンスタイルの当時のステンドグラス。 客室だった部屋の窓には、日本最初期のステンドグラス作家小川三知氏による、小さな花がデザインされたオリジナルのステンドグラスが残されている。 イスラム風のシガールーム。大理石の柱や床はオリジナルのものを磨いて使用し、天井は竣工時の資料をもとに、現代画家によって彩色された。 ヨーロッパのタバコや葉巻がトルコやエジプトから入ったことから、当時の洋館の喫煙室はイスラム風の内装で作られることが多かった。ブルーの天井、漆喰彫刻に彩色を施した壁面、大理石の柱と床が、荘厳な雰囲気を醸し出している。単なる喫煙所ではなく、男性の社交場といった場所だったのだろう。庭に面した半円形の美しい部屋だ。 シガールーム入り口。花籠のレリーフが美しい。(右)イギリスのビクトリア朝で好まれた、イスラム模様の内壁。 パティオのモッコウバラ パティオに咲く黄モッコウバラと白モッコウバラ。別名スダレバラの通り、見事に壁一面を覆っている(2024年4月16日撮影)。 スペイン建築の特徴のひとつが、パティオ。建物の中心部に位置し、光がさし込む空間だ。パティオでは植栽されて20年が経つモッコウバラが、雄大な姿を見せている。テーブル席が設けられていて、邸内のカフェを訪れた客は、ここでお茶の時間を過ごすことができる。毎年4月のモッコウバラの開花時期には、それを目当てに訪れる人もいるほどで、見事な景色が出現する。 (左)パティオの一角にあるオレンジの木と、バラに囲まれた噴水。噴水の彫刻は館の当主だった小笠原長幹氏作といわれている。(右)カフェの窓。 2階屋上のパーゴラ モッコウバラのほか、鉢植えのバラが配された屋上庭園。 パティオから大理石の階段を上ると、そこは2階の屋上庭園。当時の設計図と写真を基に復元されたパーゴラにも、黄色と白色のモッコウバラが咲き誇る。 庭から見たシガールームの外壁 当時の色タイルの発色を確認しながら、新たに焼き上げ、修復されたシガールームの外壁レリーフ。 庭に回り建物を眺めると、ひときわ目につくのが円筒状のシガールームの外壁。古陶器の色使いにおいては日本の第一人者といわれる小森忍氏の作品で装飾されたものだ。「生命の讃歌」がモチーフで、太陽、花、鳥の意匠が日差しを浴びて輝いている。1600個のパーツで構成されており、ほとんどが剥がれ落ちていたが、陶芸家夫妻の手によって約3年の歳月をかけて修復された。 庭をめぐる 白色の花で統一された庭の一角。専任のガーデナーが季節折々の花を演出している。 庭では春を告げるアーモンド、姫リンゴの花、5月には白バラ‘スワニー’が開花し、季節の花々を楽しむことができる。バラは前庭や屋上庭園にも植えられ、17種類を数える。 (左)オリーブの木が銀色の葉を風に揺らす庭では、都会にいることを忘れるほど、ゆったりとした時が流れる。(右)すっくと立つ糸杉の木。 中央に植えられたシンボルツリーは、推定樹齢500年のオリーブの木。スペインとの交流400年を記念して、2013年にアンダルシアからやってきた。夏から秋にかけて実を付け、大きな籠いっぱいの収穫があるという。 鳥の巣箱のオブジェ。 ガーデンでの催し 小鳥たちが遊ぶ庭の噴水。 レストランのガーデン席での食事(4月から)、全館を利用したウェディング・パーティー、初夏に催されるスペインナイトなど、いずれも庭を楽しむことができる催しだ。 (左)庭の小道を散策すると、さまざまな草花に出合うことができる。(右)「小鳥の館」にちなんで、邸の修復中に作られた焼き窯。地下にあったボイラーの鉄蓋や、外壁のタイル片が使われた。今は現役引退で、庭のオブジェとなっている。 5月のバラ 庭の中央付近に咲く、1978年メイアン作出の小輪白バラ‘スワニー’。 5月のバラの季節に小笠原邸を再訪した。庭の中央ではバラ‘スワニー’が満開で白い清楚な姿を見せている。壁沿いには‘フロレンティーナ’という赤いつるバラが。 壁沿いに仕立てられた‘フロレンティーナ’というつるバラ。 屋上に上がると、ピンクと白のバラ‘安曇野’が光を浴びて輝くように咲き誇っている。カフェでくつろいだ後に、バラの庭を散策できるのは嬉しい限りだ(2024年5月21日撮影)。 屋上で満開の一重バラ‘安曇野’。 (左)屋上にはクレマチスの彩りも。(右)シックな色合いのゼラニウムのハンギング飾りが、クラシックな照明とよく似合う。 エントランス付近では‘紅玉’という名前のバラがゲストを出迎える5月。 かつて貴族たちが集った小笠原邸の室内、パティオや庭で過ごす。それは極上のひとときに違いない。 Information スペインレストラン小笠原伯爵邸 住所:162-0054 東京都新宿区河田町10-10電話:03-3359-5830 ランチ 11:30~15:00 ディナー 18:00~22:00 予約制OGA BAR &Café 12:00~20:00 予約不要アクセス:都営大江戸線 若松河田町駅下車、河田口より徒歩1分https://www.ogasawaratei.com *館内、庭園の見学はレストラン、カフェ利用者のみ可能。カフェ利用者の見学時間は15:30~17:00(レストランの貸し切りなどで見学できない日もありますので、事前にお問い合わせください)。
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茨城県
【庭のある暮らし】ハーブを育てて使い、心と身体を整え健やかに暮らす
脳神経を活性化させるローズマリー ローズマリーは常緑の低木で、一年中緑の葉を提供してくれます。木立ち性や、這うように育つほふく性、半ほふく性のものがあり、この庭では木立ち性のものをフェンスに沿わせて育てています。非常に丈夫で乾燥や真夏の日差しにも強く、これといった病害虫もないので、育てている人もたくさんいるのではないかと思います。 ローズマリーやセージなど、庭から摘んだハーブを束ねたハーブスワッグ。 よく皆さんに聞かれるのが、モサモサとよく生い茂るローズマリーの使い道です。生育旺盛なローズマリーは収穫を兼ねてこまめに剪定し、利用するのが株姿をきれいに保つ一番の方法です。切らずにいると2mくらいの高さになり、内側が蒸れて枯れてきたりするので切って使うのがおすすめです。さて、その使い方ですが、一番簡単なのは枝を束ねて室内に飾っておく方法です。 ローズマリーは葉に触れると、力強く爽快感のある香りがあり、元気がないときでも気持ちをリフレッシュさせてくれます。これは単なる私の気の持ちようではなく、近年の研究でローズマリーの香りには脳を活性化させ、気持ちを前向きにしたり集中力を高めたり、記憶力を高める効果に優れることが分かっています。ですから、例えば勉強部屋や仕事部屋に、ローズマリーの剪定した枝葉をぶら下げておくと、よくはかどるかもしれません。キッチンに吊るしておけば、そのままドライになっても料理に使えます。 ローズマリーと相性のいいポテトフライ。Kolpakova Svetlana/Shutterstock.com 我が家では、よく子どもたちや大人のビールのおつまみに、友人から教えてもらった「トスカーナフライドポテト」を作ります。ローズマリーなどのハーブとニンニクで香り付けしたフライドポテトで、とても簡単に作れてとってもおいしいので、ぜひお試しください。 ローズマリー香るトスカーナフライドポテトの作り方 【材料】 ローズマリー 15cmほどを2枝タイム 2〜3枝セージの葉 5〜6枚(ハーブ類は全部揃わなくてもあるものでOK)ニンニク 1〜2片ジャガイモ 4〜5個ベーコンお好みの量小麦粉少々塩胡椒適量揚げ油適量 【作り方】 ① ジャガイモもニンニクも皮付きのままでOK。ジャガイモをくし切りにして小麦粉をまぶします。ニンニクは先端をカットしておきます。切らないと高温の油の中でニンニクが弾けて危険なので、忘れないように! ② 油にハーブとニンニクを入れてから火をつけ、油が170℃に温まったらジャガイモを入れて、こんがりキツネ色になるまで5〜6分揚げます。このときハーブが黒くなっても大丈夫です。 ③ ベーコンを適当な大きさに切って、別のフライパンで炒めます。ジャガイモが揚がったら、ベーコンと絡めて塩・胡椒をふり、完成。 女性ホルモンを整え幸福感をもたらすバラ バラは香水の香料に使われる代表的な植物ですが、花屋さんがブーケに使うバラは、じつは香りのあるものが少ないのです。そのわけは、香りの成分は精油に含まれており、精油分の豊富なバラの花びらは、傷みやすく流通に向かないためです。ですから、逆にいえば精油成分をたっぷり含んだ香り高いバラは、庭で育てている人だけの特権です。 さまざまなメゾンの香水に使われるバラの精油。Anuta23/Shutterstock.com バラの精油はアロマテラピーでも使われます。バラの香りには女性ホルモンの乱れを整えたり、ストレスを緩和し幸福感を得られる作用があるとされ、医療の現場で用いられることもあります。ところで、バラの精油がいくらするかご存じですか? 1mlで1万円以上。小さじ1杯が5mlですから、ほんの数滴にとても価値があるのです。 庭で摘んだバラやハーブを水に浮かべて。 庭でバラを育てていれば、その高貴な香りに包まれて暮らすことができます。朝、つぼみが開き始める頃のバラの香りは格別です。花に顔を近づけ息を深く吸い込むと、思わずうっとりため息がこぼれます。 古くから薬用に用いられるロサ・ガリカ・オフィキナリス。 この庭ではいくつかのバラを育てていますが、その一つがロサ・ガリカ・オフィキナリス。オフィキナリスという学名は「薬用の」という意味で、古くから薬として用いられてきたバラです。オフィキナリスは春の一季咲きなので、春は存分に香りを堪能した後、花弁を摘んでドライにし、花の季節が過ぎた後もお茶などにして一年中楽しめるように保存しています。 バラの花びらで作るローズペタルティー ローズペタルとはバラの花びらのことです。バラの花びらを煮出してお茶にしますが、飲用する場合には無農薬で育てていることが条件です。香りが揮発しない朝のうちに花を摘み、ガクを外して花びらだけにします。ザルで洗ってから鍋に入れ、沸騰させたら火を止め、色が出てきたら完成です。 ドライのものはティーカップ1杯(約180ml)に対し、ティースプーン1〜1.5杯のローズペタルを用います。フレッシュの場合はその2〜3倍の量を。レモン汁やはちみつを加えるのもおすすめです。 使い道豊富な日本在来の実力派和ハーブ、ドクダミ 日陰で湿り気の多い場所に群生し、独特の臭気がすることで知られるドクダミ。生育旺盛で庭中にはびこってしまい、除草しようとすると臭いがするので嫌われ者になりがちですが、非常に薬効が多く、強い抗菌作用のある和のハーブです。古くから薬として用いられ、開花期に採取したものを乾燥させて煎じて服用したり、生葉を揉んで汗疹や水虫などの湿布治療に用いることができます。 虫刺されなどに重宝するドクダミチンキ 私はこの季節、5月下旬〜7月頃の開花期に、庭に生えているドクダミを収穫し、チンキを作ります。ドクダミの花や葉っぱで作るドクダミチンキは、虫刺されや汗疹、かぶれなどに重宝します。収穫した花と葉を一度水洗いして乾かした後、広口瓶の1/3ほどドクダミを入れ、ホワイトリカーや焼酎などのアルコールを瓶いっぱいに注いで3週間放置します。その後、フキンなどを使ってこし、スプレー容器に移し替えればドクダミチンキとして利用できます。 500種以上のハーブや草花が育つ鈴木ハーブ研究所の庭 ご紹介したハーブに加え、鈴木ハーブ研究所の庭では樹木や草花類を含め500種類以上のハーブを育てています。小さい頃から畑仕事をする祖母と一緒に暮らしてきたので、植物を育てて、収穫して、食べたり飲んだり、お風呂に入れたり、飾ったり、香りを利用したり、小さい頃から暮らしのなかにはいつも植物があり、その移り変わりがカレンダーのように身に染み込んでいました。そのカレンダーの中に、大人になってからハーブが加わり、さらに私の植物の世界は広がりました。 ハーブは植物の中でも丈夫で育てやすい種類が多いので、庭や鉢で育てておけばいつでもすぐ手にとることができます。そういう身近なもので自分で自分をケアする術(すべ)を知っていれば、むやみに不安になったり、不安から体調を崩すのは防ぐことができます。予想外の事態というのは、どんな時代にも誰の人生にも起きると思いますが、そういうときに動揺するだけでなく、じゃあどうしたらいいのか、と次の一歩を考えるヒントを母親として娘たちにきちんと残しておきたいなと思ったことをきっかけに、私のハーブのある暮らしを4冊のミニブックにまとめました。 よく使うハーブの育て方、使い方をまとめた「私のハーバル手帳」 例えば、本の中で紹介したカモミールは、娘たちが小さい頃から眠る前にミルクティーにして飲んでいます。カモミールの安眠作用はよく知られていますが、それだけではなく、喉がちょっと痛いなという、いわゆる風邪の初期症状のときにも有効です。その段階でカモミールティーを飲んでおくと、たいがい本格的な風邪に発展せずに済んでいます。こういうふうに、はっきりと「病気」とまではいかないけれど、ちょっとあれ? っていう違和感を覚えることって、日常的にありますよね。身体の不調もそうですし、なんとなく不安感が強くなったり、眠れなくなったりすることは、誰にでもあるものです。そういうときに、身近な庭や鉢植えの植物を使って対処できる知恵を持っているのは、心強いですよね。 ちょっと話はそれますが、私の地元でもあり、今も暮らす茨城県は水戸黄門が有名ですが、黄門様の命によって水戸藩医がまとめた『救民妙薬集』という書物があります。これは医者に診てもらうことができない貧しい民のために、身近な植物を用いて病を癒やせるようにと書かれたものです。お腹の痛いときはこの草を使ってこうするよ、とか、ケガして出血したときはこうだよ、というように、自分自身で不調に対処する術が書かれているんです。私はこれを読んで、この知識がどんなに人々を救ったことだろうし、心強かっただろうなと思って感動しました。私は西洋からもたらされたハーブを庭で育てて、暮らしに役立ててきましたが、私自身も何度もハーブに救われてきました。自社のスキンケア商品にもそういう経験が生かされています。そして、もっと多くの人に自分がこれまで培ってきたハーブの知識を伝えたい、と思い「本」という形を選択しました。そのヒントを与えてくれたのが、『救民妙薬集』です。 「私のハーバル手帳」も、現代を忙しく生きる人々に、健やかで幸せな暮らしをおくるために役立ててもらえたらという気持ちで作りました。育てやすく使いやすいハーブや、道端に生えているような身近な草花をピックアップしました。ハンドバッグにいれて移動中などに眺めてもらえるように、A5版であえて薄い作りにしました。忙しい日常の合間で、ふと本を開いたときに癒やされ、いつも健やかでいられるためのお守りになれたらうれしいです。 【私のハーバル手帳】 Vol1. カモミール、ミント、ラベンダー、セージ Vol2. ローズマリー、タイム、オレガノ、バジル Vol3. バラ、バタフライピー、ラバンジン、オータムベリーズ、コキア、クロモジ Vol4. フキ、ヨモギ、スギナ、カラスノエンドウ、セイヨウタンポポ、ドクダミ、サンショウ、シソ、クスノキ、ビワ 【Information】 鈴木ハーブ研究所 オープンガーデン開催中5月24日(金)〜26日(日)10時〜16時(最終日15時まで)入園無料 ■場所鈴木ハーブ研究所/〒319-1112茨城県那珂郡東海村村松2461 ■内容500種以上を育てるガーデンの無料開放/ワークショップ/出店販売他 https://feelherb.s-herb.com