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【一度は行きたい】花好きも魅了するフランス「シュノンソー城」王妃たちの庭園を巡る旅

【一度は行きたい】花好きも魅了するフランス「シュノンソー城」王妃たちの庭園を巡る旅

フランス、ロワール地方に佇む優美な「シュノンソー城」。ここはかつて、王妃カトリーヌ・ド・メディシスと寵妃ディアーヌ・ド・ポワティエという2人の女性の歴史が刻まれた場所です。彼女たちの名を冠した美しい庭園を巡り、専属フローリストが手掛ける豪華なフラワーアレンジメントを堪能する特別な旅へ、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんがご案内します。

フランス王妃たちの庭園、花々溢れるシュノンソー城

フランス「シュノンソー城」

フランスの中央部を流れるロワールの支流、シェール川のほとりに位置するルネサンス様式の優美な古城シュノンソー。古くは王室の居城であり、歴代女城主によって守られてきたことから貴婦人たちの城とも呼ばれてきました。

フランス「シュノンソー城」

この城をめぐってのフランス国王アンリ2世の王妃カトリーヌ・ド・メディシスと美貌で知られた寵妃ディアーヌ・ド・ポワティエの確執は有名です。そして現在のシュノンソー城では、歴史的な面影に新たな見どころが加わり、さらに魅力的になった庭園が見逃せません。

シェール川の水景を生かしたディアーヌの庭

 ディアーヌの庭
ディアーヌの庭全景。

16世紀中葉、アンリ2世は最愛の寵妃ディアーヌ・ド・ポワティエに、王室所有であったシュノンソー城を与えます。ディアーヌはルネサンス様式の城をさらに整備し、美しい庭園をつくらせました。洪水対策として川面よりも高い位置につくられ、石壁で囲まれた構造を当時のままに残す12,000㎡ほどの「ディアーヌの庭」には、穏やかなシェール川の水景を生かした景観設計がなされています。外の景観を取り入れ、建物と調和したエレガントな庭園です。

ディアーヌの庭
ディアーヌの庭のポイントにはスタンダード仕立てにしたムクゲなども使われている。中央は芝生とミネラル素材で形づくられたアラベスク模様。

城から庭を見下ろした時に最もよく映える、芝生の上に描かれた端正な幾何学模様は19世紀の著名造園家アシール・デュシェンヌ(1866-1947)によるものです。

カトリーヌの庭

カトリーヌの庭
カトリーヌの庭。バラやラベンダーが使われた、クラシカルで優雅なフォーマル・ガーデン。

城の建物を挟んで反対側には、アンリ2世が逝去するとすぐ、ディアーヌからシュノンソー城を奪回した王妃カトリーヌ・ド・メディシスがつくらせた「カトリーヌの庭」があります。かつては川向こうまで広がっていた庭園ですが、現在残る部分は約5,500㎡と、こぢんまりとした親密な雰囲気のあるルネサンスの整形式庭園です。

カトリーヌの庭
カトリーヌの庭正面のシェール川の向こう側にも森が広がる。

イタリアの庭園芸術の流れを汲んで、城の建築と一体化したシンメトリーな整形式のデザインは、城の景観を見事に引き立てています。庭園に動きを与える中央の噴水を囲み、リズムよく配置された壺などの彫刻を用いた装飾も、やはりイタリアの影響を受けたもの。

 カトリーヌの庭から見たシュノンソー城
カトリーヌの庭から見たシュノンソー城。ロワールの古城のなかでもひときわ優雅。

こうした整形式庭園の構成要素は、17世紀フランス絶対王政の時代に、ル・ノートルによって完成されるフランス整形式庭園に引き継がれていきます。

スタンダード仕立てのバラや、ラベンダーなどが多用された植栽には、シュノンソー城らしい女性的なロマンチックな雰囲気が醸し出されているように感じます。

カトリーヌの庭
城内の窓から見た、穏やかに流れるシェール川と、川に面したカトリーヌの庭。城の周りは御伽話の世界にトリップしそうな、こんもりとした森に囲まれています。

ラッセル・ページの庭

ラッセル・ページ記念庭園
ラッセル・ページ記念庭園。シンプルな洗練された緑の空間に、ラランヌの羊の彫刻が点在してユーモラス。

カトリーヌの庭から少し離れると、かつてカトリーヌが動物小屋や鳥小屋を作らせていた、現在はさまざまな木々が主体となった「緑の庭」があります。その先には、20世紀を代表するイギリスの造園家ラッセル・ページ(1906–1985)へのオマージュの庭があります。

ラッセル・ペイジの庭
全体にシンプルなシンメトリー構成のラッセル・ペイジの庭。庭を囲む壁に沿って、イギリス風のボーダー植栽。

現代の造園家によって十数年前につくられたもので、城の建築に隣接した歴史的庭園空間とは異なる、モダンな美意識が感じられるグッとシンプルに洗練された庭です。ページのモットーであった「自然と建築の調和」に則りつつ、シンプルな緑を生かした構成に、フランスの彫刻家フランソワ=グザビエ・ラランヌによるアート作品が彩りを加え、現代アートと庭園の融合を楽しめる空間でもあります。

フローリストの庭

フローリストの庭
フローリストの庭。

さらに現在のシュノンソーの城と庭園の新たな魅力になっているのが「フローリストの庭」です。かつてルネサンス期の城の庭園には、実用のためのハーブ園やポタジェ(菜園)はあったにしても、 花々はあくまでも庭園の装飾要素、またはポタジェの一部であったに過ぎなかったようです。

フローリストの庭
訪れた9月はダリアが盛り。城内のアレンジメントの花々が花畑でも見られるので、散策するのもとても楽しい。

現在のシュノンソー城のポタジェはまさに「花のポタジェ」で、敷地内のレストランでも利用されるさまざまな栽培野菜とともに、リンゴの木やバラで仕切られた12区画の植栽エリアは、城内のフラワーアレンジメントに切り花として使うための季節の花々が栽培される花畑になっています。ここでは敷地内のレストランのシェフが料理に食用花を利用することもあれば、フローリストたちが野菜をアレンジに使うこともあり、さらなるクリエイティビティの可能性に貢献する庭にもなっているといいます。

フローリストのアトリエ
庭の中には19世紀の農家を使ったフローリストのアトリエがあります。ここではワークショップなども行われるとのこと。

訪れた時には盛りは過ぎていてあまり目立っていませんでしたが、フランスのポタジェの野菜の定番であるアーティチョークは、じつはカトリーヌがフランスにもたらしたものの一つだそうで、そうした歴史的背景も考慮した城内のフラワーアレンジメントによく登場するのだとか。

フラワーガーデンと城内を飾るアレンジメント

城内のフラワーアレンジメント
城内のフラワーアレンジメントはどれも素敵で、この部屋ではランとケイトウ、ヨウシュヤマゴボウ、枝垂れるアマランサスなど花器からこぼれるようなアレンジが。ヒストリカルな室内の雰囲気のさらに盛り上げている。

「フローリストの庭」が作られたのは2015年頃からと近年のことで、シュノンソー城は、ロワールの古城のなかでは唯一、自前のフローリストチームを抱える城でもあります。ヨーロッパ・ジュニア・チャンピオンで国家優秀職人賞を受賞した経歴をもつフローリスト、ジャン=フランソワ・ブーシェ氏率いる3名のフローリストチームが、城内19の各部屋を飾るフラワーアレンジメントを毎週作り変えています。

フローリストの庭
この時期、フローリストの庭で煙のように穂をつけていたグラス類の隣には、赤や黄色のケイトウやカンナも開花。

フローリストの庭では、毎年6万本以上の切り花用の植物が栽培されていますが、材料としてはそれだけではとても足りないそうで、毎朝アレンジメントの状態をチェックして、花材の発注をしたり、市場が休みの月曜の朝は、自然の中にグラス類などの花材を探しに出るのだとか。ブーシェ氏によれば、野生の素材はアレンジに命を与える点が素晴らしいのだということですが、これも自然に囲まれた城という環境ならではの贅沢でしょうか。

城内のフラワーアレンジメント

城内のアレンジメントは、シンメトリーを基本とした優雅でゴージャス、非常にオーナメンタルで、家具類やタペストリー、美術品のコレクションが飾られたルネサンスの城の各部屋に華を添え、次はどんなデコレーションに出会えるかと、歩を進めるのが楽しくなってくるほど。

また、非常に華やかなアレンジの中にも、シャンペトルな自然の雰囲気、季節感が強く感じられるのは、フローリストたちの美意識に加えて、庭や近隣の自然に結びついた素材の力も大きいのかもしれません。

ダリアとヨウシュヤマゴボウのアレンジ
大輪のダリアにヨウシュヤマゴボウが動きを添えるアレンジメント。

城の中も外も見どころが尽きないシュノンソー城。オランジュリーはレストランとサロン・ド・テになっており、食事もゆっくりできます。花々に囲まれ、昔日の貴婦人になった気分で一日ゆったりと過ごしてみたい場所です。

シュノンソー城
庭園内のかつてのオランジュリーはレストランとサロン・ド・テになっています。優雅な気分で食事やお茶を楽しめます。
シュノンソー城

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