えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。
遠藤浩子 -フランス在住/庭園文化研究家-

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。
遠藤浩子 -フランス在住/庭園文化研究家-の記事
-
ガーデン
【一度は行きたい】花好きも魅了するフランス「シュノンソー城」王妃たちの庭園を巡る旅
フランス王妃たちの庭園、花々溢れるシュノンソー城 フランスの中央部を流れるロワールの支流、シェール川のほとりに位置するルネサンス様式の優美な古城シュノンソー。古くは王室の居城であり、歴代女城主によって守られてきたことから貴婦人たちの城とも呼ばれてきました。 この城をめぐってのフランス国王アンリ2世の王妃カトリーヌ・ド・メディシスと美貌で知られた寵妃ディアーヌ・ド・ポワティエの確執は有名です。そして現在のシュノンソー城では、歴史的な面影に新たな見どころが加わり、さらに魅力的になった庭園が見逃せません。 シェール川の水景を生かしたディアーヌの庭 ディアーヌの庭全景。 16世紀中葉、アンリ2世は最愛の寵妃ディアーヌ・ド・ポワティエに、王室所有であったシュノンソー城を与えます。ディアーヌはルネサンス様式の城をさらに整備し、美しい庭園をつくらせました。洪水対策として川面よりも高い位置につくられ、石壁で囲まれた構造を当時のままに残す12,000㎡ほどの「ディアーヌの庭」には、穏やかなシェール川の水景を生かした景観設計がなされています。外の景観を取り入れ、建物と調和したエレガントな庭園です。 ディアーヌの庭のポイントにはスタンダード仕立てにしたムクゲなども使われている。中央は芝生とミネラル素材で形づくられたアラベスク模様。 城から庭を見下ろした時に最もよく映える、芝生の上に描かれた端正な幾何学模様は19世紀の著名造園家アシール・デュシェンヌ(1866-1947)によるものです。 カトリーヌの庭 カトリーヌの庭。バラやラベンダーが使われた、クラシカルで優雅なフォーマル・ガーデン。 城の建物を挟んで反対側には、アンリ2世が逝去するとすぐ、ディアーヌからシュノンソー城を奪回した王妃カトリーヌ・ド・メディシスがつくらせた「カトリーヌの庭」があります。かつては川向こうまで広がっていた庭園ですが、現在残る部分は約5,500㎡と、こぢんまりとした親密な雰囲気のあるルネサンスの整形式庭園です。 カトリーヌの庭正面のシェール川の向こう側にも森が広がる。 イタリアの庭園芸術の流れを汲んで、城の建築と一体化したシンメトリーな整形式のデザインは、城の景観を見事に引き立てています。庭園に動きを与える中央の噴水を囲み、リズムよく配置された壺などの彫刻を用いた装飾も、やはりイタリアの影響を受けたもの。 カトリーヌの庭から見たシュノンソー城。ロワールの古城のなかでもひときわ優雅。 こうした整形式庭園の構成要素は、17世紀フランス絶対王政の時代に、ル・ノートルによって完成されるフランス整形式庭園に引き継がれていきます。 スタンダード仕立てのバラや、ラベンダーなどが多用された植栽には、シュノンソー城らしい女性的なロマンチックな雰囲気が醸し出されているように感じます。 城内の窓から見た、穏やかに流れるシェール川と、川に面したカトリーヌの庭。城の周りは御伽話の世界にトリップしそうな、こんもりとした森に囲まれています。 ラッセル・ページの庭 ラッセル・ページ記念庭園。シンプルな洗練された緑の空間に、ラランヌの羊の彫刻が点在してユーモラス。 カトリーヌの庭から少し離れると、かつてカトリーヌが動物小屋や鳥小屋を作らせていた、現在はさまざまな木々が主体となった「緑の庭」があります。その先には、20世紀を代表するイギリスの造園家ラッセル・ページ(1906–1985)へのオマージュの庭があります。 全体にシンプルなシンメトリー構成のラッセル・ペイジの庭。庭を囲む壁に沿って、イギリス風のボーダー植栽。 現代の造園家によって十数年前につくられたもので、城の建築に隣接した歴史的庭園空間とは異なる、モダンな美意識が感じられるグッとシンプルに洗練された庭です。ページのモットーであった「自然と建築の調和」に則りつつ、シンプルな緑を生かした構成に、フランスの彫刻家フランソワ=グザビエ・ラランヌによるアート作品が彩りを加え、現代アートと庭園の融合を楽しめる空間でもあります。 フローリストの庭 フローリストの庭。 さらに現在のシュノンソーの城と庭園の新たな魅力になっているのが「フローリストの庭」です。かつてルネサンス期の城の庭園には、実用のためのハーブ園やポタジェ(菜園)はあったにしても、 花々はあくまでも庭園の装飾要素、またはポタジェの一部であったに過ぎなかったようです。 訪れた9月はダリアが盛り。城内のアレンジメントの花々が花畑でも見られるので、散策するのもとても楽しい。 現在のシュノンソー城のポタジェはまさに「花のポタジェ」で、敷地内のレストランでも利用されるさまざまな栽培野菜とともに、リンゴの木やバラで仕切られた12区画の植栽エリアは、城内のフラワーアレンジメントに切り花として使うための季節の花々が栽培される花畑になっています。ここでは敷地内のレストランのシェフが料理に食用花を利用することもあれば、フローリストたちが野菜をアレンジに使うこともあり、さらなるクリエイティビティの可能性に貢献する庭にもなっているといいます。 庭の中には19世紀の農家を使ったフローリストのアトリエがあります。ここではワークショップなども行われるとのこと。 訪れた時には盛りは過ぎていてあまり目立っていませんでしたが、フランスのポタジェの野菜の定番であるアーティチョークは、じつはカトリーヌがフランスにもたらしたものの一つだそうで、そうした歴史的背景も考慮した城内のフラワーアレンジメントによく登場するのだとか。 フラワーガーデンと城内を飾るアレンジメント 城内のフラワーアレンジメントはどれも素敵で、この部屋ではランとケイトウ、ヨウシュヤマゴボウ、枝垂れるアマランサスなど花器からこぼれるようなアレンジが。ヒストリカルな室内の雰囲気のさらに盛り上げている。 「フローリストの庭」が作られたのは2015年頃からと近年のことで、シュノンソー城は、ロワールの古城のなかでは唯一、自前のフローリストチームを抱える城でもあります。ヨーロッパ・ジュニア・チャンピオンで国家優秀職人賞を受賞した経歴をもつフローリスト、ジャン=フランソワ・ブーシェ氏率いる3名のフローリストチームが、城内19の各部屋を飾るフラワーアレンジメントを毎週作り変えています。 この時期、フローリストの庭で煙のように穂をつけていたグラス類の隣には、赤や黄色のケイトウやカンナも開花。 フローリストの庭では、毎年6万本以上の切り花用の植物が栽培されていますが、材料としてはそれだけではとても足りないそうで、毎朝アレンジメントの状態をチェックして、花材の発注をしたり、市場が休みの月曜の朝は、自然の中にグラス類などの花材を探しに出るのだとか。ブーシェ氏によれば、野生の素材はアレンジに命を与える点が素晴らしいのだということですが、これも自然に囲まれた城という環境ならではの贅沢でしょうか。 城内のアレンジメントは、シンメトリーを基本とした優雅でゴージャス、非常にオーナメンタルで、家具類やタペストリー、美術品のコレクションが飾られたルネサンスの城の各部屋に華を添え、次はどんなデコレーションに出会えるかと、歩を進めるのが楽しくなってくるほど。 また、非常に華やかなアレンジの中にも、シャンペトルな自然の雰囲気、季節感が強く感じられるのは、フローリストたちの美意識に加えて、庭や近隣の自然に結びついた素材の力も大きいのかもしれません。 大輪のダリアにヨウシュヤマゴボウが動きを添えるアレンジメント。 城の中も外も見どころが尽きないシュノンソー城。オランジュリーはレストランとサロン・ド・テになっており、食事もゆっくりできます。花々に囲まれ、昔日の貴婦人になった気分で一日ゆったりと過ごしてみたい場所です。 庭園内のかつてのオランジュリーはレストランとサロン・ド・テになっています。優雅な気分で食事やお茶を楽しめます。
-
ガーデン&ショップ
【フランスのバラの楽園へ】アンドレ・エヴが遺した「香りのナチュラルガーデン」を訪ねて
アンドレ・エヴのバラの庭へ アンドレ・エヴ(André Eve 1931-2015年)はフランスの著名なバラの育種家です。数々の名花を作出し、またモダンローズの全盛だった1980年代から、現在に続くオールドローズの人気復興に貢献した人物としても知られます。彼が作り育てたプライベートなバラの庭、また現在も後継者たちが見事な育種を行うバラのナーセリー、アンドレ・エヴ社の育種場兼展示ローズガーデンなどの素晴らしいバラの庭は、フランスのロワレ地方にあります。 ロワレのバラ街道。loskutnikov/Shutterstock.com この地域は、バラの生産が盛んであると同時に、見所の多い植物園や庭園を抱える土地であることを生かし、近年には「ロワレのバラ街道」なる、フランスのバラと庭園を訪ねる観光ルートが立ち上げられているほどです。 バラの最盛期である6月初めに、このバラの庭を訪れる幸運に恵まれました。 1969年発表の’シルヴィ・ヴァンタン’。Alexandre Prevot/Shutterstock.com アンドレ・エヴは、ベルサイユ園芸学校で造園を学んだのち、造園家として活躍するうちにバラ園芸に魅せられて育種家となります。彼が作出した最初のバラは1969年発表の’シルヴィ・ヴァンタン’でした。70年代から80年代には、どちらかというと派手めなモダンローズが流行の傾向にありましたが、そうした中でオールドローズの魅力をいち早く再発見したのも彼でした。 バラと宿根草のナチュラル・ローズガーデン アンドレ・エヴのナーセリーは、育種家ジェローム・ラトゥーらに引き継がれ、現在もフランスきってのバラのナーセリーであり、メゾン・ディオールのためのバラ’ジャルダン・ド・グランヴィル’などの名作を次々に作出し続けています。 2016年に社屋を移転したシリュール=オ=ボワの地では、創設者のエスプリを大切に作庭された「アンドレ・エヴの庭(Le jardin André Eve ® )」で、100近いオリジナルの品種のバラとともに、オールドローズをはじめとするバラのコレクションが、宿根草や灌木類、小型の果樹などのバラの「コンパニオン」と呼ばれる草花とともに植え込まれ、洗練されたナチュラル感が溢れるバラの風景を作り出しています。 バラを活かす庭デザインの秘訣 白樺などナチュラル素材を仕切りに用いて自然な雰囲気を心がけたボーダー植栽。 さまざまな姿形で咲き誇るバラたちが賑やかに飾られた庭に入って気がつくのは、まずその香りです。バラの季節の雨上がりの庭、一歩庭に足を踏み入れた途端に、繊細なバラの香りに包まれ、さらに園路を散策しながら一つひとつのバラの香りを呼吸すれば、もうそれは至福の心持ちに。ようやく我に帰って、バラ栽培に重要な日当たりを確保するため、敢えて大木は避けた空間がのびのびと広がっているのを気持ちよく眺めます。 バラと宿根草、灌木類がミックスされた植栽がポイント。 美しいばかりでなく、無農薬の自然な栽培に向く耐病性・耐久性の高いバラを目指したアンドレ・エヴのバラの庭は、デザインにも洗練された素朴さ、ナチュラル志向が表れています。構成はフォーマルな左右対称ではない自然風。よくイギリス風のコテージガーデンに見られるような、きれいに刈り込まれた芝生のライン、または白樺などの木材で区切られたバラと宿根草の植栽の間には、緑地になった曲線の園路が設けられ、ゆったりと散策しながら間近で植栽された植物を観察できます。 パーゴラも丸太を利用し、全体のトーンをナチュラルに統一。 また、丸太のパーゴラやアーチ、壁面に盛大に這い上るつるバラの姿がそれは見事です。 それぞれのバラの個性を魅せつつ、ヒューケラやホスタ、デルフィニウムやシャクヤクなどのバラと共存しやすいコンパニオン・プランツを組み合わせて、全体として自然な庭の風景が創り出されているのが大きな魅力の一つ。庭づくりの参考になる見所が随所にありました。 庭を案内してくださったアンドレ・エヴ社のドニーズ・フランソワさんによると、バラを庭に植え風景を創るときのポイントの一つは、3本以上同じ品種をまとめて植えること。ボリュームを出すことによって、そのバラの存在感が遺憾なく発揮される、その目安が3本以上なのだそう。 芝地に緩やかな曲線をベースに配置された植栽グループ。 1本ずつぽつんぽつんと植えるのでは、この存在感が出にくいのです。また、多少空間がありすぎるように見えても、成長は早いので、それぞれに必要な間隔はあらかじめ空けておくこと、アーチなどに這わせる際の注意点など、具体的にバラを庭に取り込むために役立つアドバイスが満載です。 「結婚の部屋」バラ育種の現場 「結婚の部屋」ビニールハウスで、案内してくださったフランソワさん。 さらに興味深かったのが、実際に新品種開発のための交配をっている場所の見学です。そこは、将来の新品種の父と母となるべく選出されたバラのポットが並ぶ、フランス語で「結婚の部屋」と呼ばれるビニールハウスです。 不純物が混じらないように予め父となるバラの開花前に雄しべを取っておき、母となるバラの雌しべの開花の準備ができたところで人工交配が行われます。秋まで待って、成熟した実から種子を採取し、12月まで冷蔵ののち播種して隣の「育児所」ビニールハウスで栽培していくという、とてもベーシックな方法で育種が行われています。 「育児所」となるビニールハウスの中。札に示されている左右の写真を両親として生まれた新種のバラたちの開花する花を見比べると、色も形も性質もさまざまあって興味深い。 面白いのはその子どもたち。ひとつとして同じ姿形がないような、じつに変化に富んだバラが生まれるのです。育種家は、それぞれのバラの姿形や香り、花数や返り咲き性の高さなどを日々つぶさに観察し、新品種候補のバラが選ばれます。 同じ両親を持つバラの子どもたち。見た目からそれぞれに全く違うのが面白い 。 現代の新品種作出時の最重要項目としては、姿形や香り、返り咲き性もさることながら、強い耐病性や乾燥への耐性などが欠かせません。農薬などを使わない自然栽培に向き、天候不順にも適応できる耐久性を併せ持ったバラが求められるのは、現在の庭園の在り方の流れを反映しているといえるでしょう。 庭に隣接した野外の販売コーナー。 3万粒ほどの種子を播き、9年ほどをかけた栽培ののちに実際に新品種としてデビューするのは、年間に3~5点とごく僅か。自然の驚異と育種家のバラへの情熱と深い造詣に裏打ちされた日々の努力と生み出す新品種のバラそれぞれの姿が、ますます魅力的に見えてきます。 ガーデニングをしていても、バラは敷居が高い、難しいと感じている方は結構いらっしゃるのではないかと思います。じつは私もその一人なのですが、やっぱり挑戦してみたいと思わせられて、カタログを眺めてはあれこれ想像の翼を広げる日々です。
-
ガーデン&ショップ
年間75万人が訪問するフランス「モネの庭」 なぜ人々は心奪われる? 復元された魔法の庭
ジヴェルニー「モネの庭」の魅力を深掘り 5月になるとバラの香りに包まれるモネの家。 睡蓮の連作などで知られる印象派の画家クロード・モネ(1840-1926年)の庭は、フランス、ノルマンディー地方の入り口、人口500人ほどの小さな村ジヴェルニーにあります。ひっそりとした佇まいを想像したくなりますが、じつは年間75万人もの人々が訪れる、モン・サン=ミシェルに次ぐ、ノルマンディー地方第2の大人気観光スポットです。 家の前には赤とピンクのペラルゴニウムが、かつてのモネの庭と同じように群れ咲いています。 さらには日本にも「モネの庭」が再現されているほどで、庭好きさんはもとより、多くの人々を魅了するこの魅力とは、どんなものなのでしょうか。モネの庭の2025年の様子をお伝えします。 画家の夢の庭 「水の庭」の太鼓橋。4~5月には紫と白のフジの花が咲き継ぐ見どころです。 画家モネが、家族とともにジヴェルニーの家に移り住んだのは1883年、彼が43歳の頃。戸外の自然の風景を描き続けてきたモネにとって、川の流れや林、牧草地に囲まれたこの地の自然は格好の画題となります。そして新たな情熱となったのが、庭づくりでした。方々に写生旅行は続けながらも、園芸雑誌を熟読し、園芸仲間と情報や種苗を交換し合って没頭した庭づくりは、50歳になる頃にはさらに大々的に進められます。 食堂はクロームイエロー、台所はブルーと白など、大胆な色づかいの内装もモネ自身が考えたものだそうで、とても可愛らしい空間になっています。壁を飾る浮世絵を見ると、モネのコレクションの様子が分かります。 ようやく画家として認められて財を成し、借家だった家と土地を買い取れるまでになったのです。庭師を何人も雇い、珍しい種苗を取り寄せて、理想の庭をつくり上げます。かつて農家だった建物とその敷地は、鮮やかな色彩が溢れる夢のような庭となり、亡くなるまでの43年間をここで過ごした画家の終の住処となったのです。 「花の庭」と「水の庭」 「花の庭」5月の中央園路の様子。アーチにはつるバラが咲き、その足元にはアリウムをはじめパープル系の花々が。 モネの庭は、大きく雰囲気の異なる2つの庭で構成されています。まず家の裏に広がるのは「クロ・ノルマン」(クロは囲まれた土地の意味)と呼ばれた「花の庭」。家屋の中央から庭の正面を貫く幅広い中央園路が印象的です。かつては並木道だったそうですが、モネは家の近くにある一対のイチイの大木を残して、すべて取り去ってしまい、モネの庭のシンボル的な存在でもある、バラが絡むアーチが続く明るいトンネルを作りました。 同じ中央園路の4月の様子。まだ閑散とした早春の庭では、チューリップをはじめとする春先の球根花たちが大活躍。 幾何学形の花壇がリズムよく並ぶ全体の構成はポタジェ(菜園)のようですが、これでもか、というほどにぎっしりと、さまざまな草花が植栽された花の園です。 「水の庭」の5月、白花のフジが咲き残る緑色の太鼓橋の上は、いつも人がいっぱいです。 そして道路を挟んだ向こう側のエリアは、後になって土地を買い足し、近くを流れるエプト川支流の流れを変えて、睡蓮の池とフジに縁取られた緑の太鼓橋をポイントにした、日本風の「水の庭」をつくりました。 「花の庭」の5月、枝垂れるスタンダード仕立てのバラと、足元のアイリスなどが満開に。 モネ没後、最後の直系の遺族だった息子の死に際して、残されていた作品や家と庭はフランス芸術アカデミーに遺贈されます。その頃の庭はすでに、手入れもされず元の形は失われかけていたのですが、1970年代から1980年代にかけて最初の復元プロジェクトが始まります。そして、庭を描いた作品や写真、モネの手紙や種苗の注文書などの資料をもとにした復元作業によって、輝くような本来の姿を取り戻しました。元どおりというばかりでなく、世界中から訪れる観光客に配慮して、一年中見どころがあるようにと、復元を超えて季節をくまなくカバーするような植栽計画がなされています。 「花の庭」花々が咲き継ぐ春から秋へ 4月の「花の庭」の様子。注意深く見ると、しっかりと区画分けされた花壇のそれぞれがテーマカラーを持っています。 現在のモネの庭の開園は、毎年4月初めから10月末まで。季節の花々が主役の庭ゆえに、冬季は閉園になります。4月といえばフランスではまだ早春ですが、庭を訪れてみると、スイセンやフリチラリア、色とりどりのチューリップをはじめとする、華やかなスプリングエフェメラルたちの饗宴に、思わず目を奪われます。この時期はまだ花壇の構造もはっきりと見えているので、それぞれの花壇ごとに色調がまとめられているのがよく分かるのですが、全体を眺めようとすると、それはまるでパレットに並べた絵の具の色彩が一度に目の中に飛び込んでくるようで、圧倒されます。 リンゴや洋ナシなどの果樹の花々は、この時期ならではのフランスの田舎らしい早春の風景。 そして5月、ひと月経つか経たないかの間に、すっかり様変わりした庭の、満開に近づくバラの下にアイリスやシャクヤクが咲く花風景は、まさにゴージャス。自然な風景を好んだモネのバラの好みは、白やピンク系のオールドローズ、白モッコウバラや野バラなど。当時から栽培されている品種だけでなく、例えば当時は存在しなかったイングリッシュローズ、デヴィッド・オースティンの‘コンスタンス・スプライ’など雰囲気の合う現代のバラも植栽に加えられています。 バラが咲き出す5月の風景。たった1カ月の違いで、緑も花もどんどん育ってまったく違う様相に。 そして夏から秋にかけては、ダイナミックにダリアやヒマワリが咲き、オレンジのナスタチウムが中央の園路を覆うというように、また違った花風景が展開します。いつの季節も豊かに咲き乱れる花々に囲まれて、うっとりと幸せな気持ちになってしまう、魔法がかかっているかのようです。 庭のそこかしこから、思いがけない花風景が広がって、息をつく暇もないほど。でも気持ちはウキウキ、そしてゆったりと庭を散策。 日本を意識してつくられた「水の庭」 「水の庭」4月の様子。睡蓮は夏になってからが出番なので、まだ姿は見えないけれど、池の周りにも変化に富んだ色彩の華やかな植栽が施されています。 幾何学構成の花壇の花々があふれ、その色彩に埋もれてしまいそうな「花の庭」に比べると、「水の庭」は、常に微妙な変化を見せる水面と空と植物とが織りなす、ぐっと落ち着いた空間です。 モネは浮世絵のコレクターで、家のなかには収集した浮世絵がたくさん飾られていたそうですが、池の外周を囲う竹林や、緑にペイントされた太鼓橋にフジの花や睡蓮の花という、和を感じる植物のチョイスには、当時流行したジャポニスムの影響が見られます。 「水の庭」の4月は、ヤエザクラや早咲きの紫のフジなどの花木が春らしい彩りを添える。 自然風景のなかにある、特に光や色彩、天候や時刻による変化を捉えようとしたモネにとって、睡蓮池の水景は刻々と表情を変える光、水、空気までもを捉えるための、描き飽きることのないモチーフとなりました。晩年には白内障を患い、視力を失いつつあるなかで描き続けた睡蓮の連作は、抽象絵画の先駆けとして現代美術への扉を開くことになります。 5月の池の周りでは、ボルドー色の紅葉の隣に紅のツツジが華やかに咲き、少し進むと白花と紫の爽やかな組み合わせが。 モネの息子から遺贈された作品はマルモッタン美術館に所蔵され、この庭とアトリエで制作された最後の大作はフランス政府に寄贈されて、現在パリのオランジュリー美術館に特別に誂えられた展示室で観ることができます。 池の外周を囲む竹林で一気に雰囲気が変わります。近年ではフランスの庭でも竹を使うところは多いですが、当時はまだ珍しかったそう。また、垣根にも竹垣を用いるなど、和風へのこだわりが感じられます。 画家の庭の魅力 芸術家の庭は、造園家が設計するのとはまた違った自由な着想が魅力であることが多いのですが、モネの庭もその1つ。シンプルな構成のうえに、画家としての色彩感覚と、たっぷりの植物愛をこめて配置された過剰なまでの花々。庭師たちの手間暇惜しまない維持管理が、モネの庭を特別なものにしているのでしょう。また、モネの愛したノルマンディーの絶え間なく変化する空と光と空気感も、この空間を輝かせている重要な要素なのだと思います。 ジヴェルニーの村を散策するのもおすすめ ジヴェルニー印象派美術館のカラフルな庭園。Alex_Mastro/Shutterstock.com 小さな村のなかには、土産物を売る店やら、かつて芸術家たちが集ったレストランなどが幾つかあるほか、モネの家と庭からほど近くには、庭付きのジヴェルニー印象派美術館があります。印象派の歴史やその後の展開を紹介する美術館ですが、地元の星付きシェフがプロデュースする付属のレストランには庭に面したテラス席もあり、人混みを離れて緑のなかで昼食を楽しむにもおすすめです。繁忙期には予約したほうがよいでしょう。また、食事のあとに村を散策する時間があれば、教会やモネのお墓を訪れることもできます。 モネの庭から徒歩15分程度の場所にある、ロマネスク様式のサント=ラデゴンデ教会。モネの墓もここにある。Alex_Mastro/Shutterstock.com ジヴェルニー印象派美術館(英語) https://www.mdig.fr/en/レストラン・オスカーOscar(英語) https://www.mdig.fr/en/plan-your-visit/restaurant/ ジヴェルニーへの行き方 ・公共交通機関利用の場合は、パリのサン=ラザール駅より電車で50分ほど、最寄りのヴェルノン=ジヴェルニー駅下車、のちバス(所要30分ほど)かプチ・トランかタクシーでジヴェルニーの村へ移動。繁忙期には混み合ってすぐにバスに乗れないこともあるので、時間には余裕を持って移動するのがよさそう。 ・車の場合はパリから1時間強。駐車場は村のなかのモネの家と庭の向かい側の他にも、外側に大駐車場があります。 ・入場券は現地でも購入できますが、入口には常に長蛇の列ができているので、個人で見学に行く場合は事前にオンライン予約購入が無難です。オンライン購入済みの場合の入口は団体入口になりますので要注意です。 ・パリからの日帰り観光バスツアーも多く出ているので、そちらを利用することもできます。
-
ガーデン&ショップ
フランスの園芸愛好家たちに愛されるガーデニングフェア「サン=ジャン=ド=ボールギャール城」をレポート
愛され続ける老舗ガーデニングフェア 白いテントやパラソルの内外に植物苗がわんさかと並べられています。 パリから南西に30kmほどの田園地帯に位置する17世紀の城館サン=ジャン=ド=ボールギャールのガーデニングフェアは、2024年の春に創立40周年という節目の年を迎えました。歴史的ポタジェで知られる個人所有のお城の庭園内で行われるという場所の魅力に加え、毎回フランス内外から200以上の種苗業者やガーデニング関連出展者が一堂に集まる場となっており、各地の生産者と交流しながら新種や希少種を発見したり、幅広い品揃えを実際に自分の目で確かめて、質のよいこだわりの植物苗を購入できるなど、魅力がぎゅっと詰まっています。 細やかな植物の性質などを記した手書きのプレートがついていたり、植物選びを助ける配慮がいろいろあるのが嬉しい。 今回のフェアの注目テーマにも謳われていたのがグラウンドカバー植物ですが、日陰の庭の強い味方のシダ類はいつも人気。 ベルギーから来ているダリアなどの春植え球根も毎年人気のスタンドです。 私自身毎年このフェアに行くのを楽しみにしているのですが、周りのガーデニング愛好家の方々も同様の様子で、約束せずとも現地で何人も友人知人に出会ってしまうのも面白いところです。この日たまたま出会った友人夫婦は、冬の間ダメになってしまったテラスの植栽の植え替えのために、シュウメイギクやエリゲロンなどの花苗を買い込んでいて、帰ったらすぐ植え替えると言っていました。ちなみに、選ぶのは奥様で、植え替え作業は旦那様担当だそうで、なんとなくフランスっぽい役割分担です。 買った苗は、会場内ではカートで運んだり、持参のエコバックで持ち運ぶ姿が多く見られます。 樹木などは、スタンドから駐車場まで専用車で直接配送もありと、苗木類を購入持ち帰りするためのサービスも至れり尽せり。 ガーデニングのトレンドをキャッチ 毎年必ず見かける定番の樹木や多年草の他に、目新しい植物に出会えるのがガーデニングフェアの大きな魅力。さまざまな視点から選出される受賞植物のセレクションにも注目です。 今年の受賞プランツの一部。アガベは大きすぎてプレゼンテーション台に乗らなかったようで、パレットの上に乗ったまま。逆に存在感が出ています。 ヤナギのトピアリーに注目 フランスのポタジェ(菜園)ではレイズドベッドの仕切りなどに、ヤナギの枝を編んだものが使われているのをよく見かけます。昔ながらの手法で、ナチュラルでリュステックな雰囲気が素敵ですが、作り込むのはなかなか大変そう。アール・ド・ヴィーヴル(生活芸術)賞に選出され、フェアで注目を集めていたのが、“ヤナギのトピアリー”と呼んだらよさそうな仕立てもの。 発根能力が高く、しなやかな枝をもつヤナギの性質を生かした鉢植えで、このまま一つ、または幾つかをテラスにアクセントとして飾る、あるいは並べて仕切りするなど、色々活用できそう。実際にこの鉢を抱えて帰路に着いている人も沢山見かけました。どんな風に使うのかしら。 充実のガーデニングツール スティール製の大きなガゼボ。下には同素材のコンテナーが付属しており、庭にもテラスにも同じように設置できるようになっています。 フェアの楽しみとしては、植物苗ばかりでなく、庭仕事を支えるガーデニングツールや、庭デザインのポイントにもなるアウトドアファニチャーにも注目したいところ。ファニチャーに関しては、木材などの自然素材を生かしたナチュラル感の高いものと、スチール素材のエレガント系が主流です。 木製の柵やバードハウス各種。ガーデンチェアはスタンダードな形をポップな色合いにしてみたり、遊び心を感じる製品もたくさん。 こちらはスチール板の動物たち。シンプルながら愛嬌を感じる、庭に置いたら楽しそう。 実用的な支柱なども、シンプルかつエレガントに使える素材と形が揃っています。 そして、今回特に気になったのが、オーストリアの企業が作っている銅やブロンズ(銅合金)製のガーデニングツールです。 ブロンズの輝きが美しいスコップなどのガーデンツール。土壌と植物を守るなどの効果もあり、環境保護の面からも理想的な伝統の道具でもあります。 昔ながらの風合いの金属色が美しいばかりでなく、じつは鉄と異なり、酸化して錆びることがないので、土に鉄サビを残さず土壌のバランスを崩さないうえ、静電気をほどんど帯びないのでシャベルからの土離れがよく、根の周りを丁寧に扱うのにもよい。また微量ながら銅には天然の抗菌作用があり、病原菌やカビの繁殖を抑えるなどのいくつもの利点があるそうです。さらには、叩き直して修復することもできるので一生ものになる、世代を超えて使い続けられるといえば、かなりお高くはあるのですが、お値段以上に値打ちのある投資になるかもしれない、永遠の定番です。 HAWSのジョウロなども定番人気の商品です。写真の中には皆さまにも見覚えのあるものが見つかるのでは。 さて、ブロンズの手作り伝統ガーデンツールはオーストリア製ですが、ガーデニング用品のスタンドを覗いてみると、イギリス製のガーデングッズも安定的な人気の様子。日本の皆さんがご存知のグッズも写真の中に見えているのではないでしょうか。 気になるランチタイムは 左端でちょっとボケて写っているのが手に持ったマカロン。昔風のアーモンド・マカロンです。しっかり甘いけれど美味しかった! ところで、ガーデニングショーでもフード事情は気になりますよね。広い敷地を歩き続ければお腹も空いてきます。ということで、すでに朝のおやつタイムに、こちらのフードスタンド名物の昔風のマカロンをいただいてみました。 通常のマカロンの2倍くらいはありそうなサイズ。アーモンド感がたっぷりでかなり甘くて、昔風といえば納得の、素朴に美味しいマカロン。毎年これを必ず買って帰るというファンもいるそうです。ほかにもヌガー、カヌレやパン・デピスと呼ばれるハチミツ風味のお菓子など、どちらかといえば伝統的なお菓子が揃っています。 左/丸焼き豚プレートは、丸型の木のランチボックスにて提供されます。明るい光も何よりのご馳走。右/ちなみにランチをいただく場所から見えるお城のメインの館には、現在も城主のご家族がお住まいなのだそう。 肝心のランチは、サンドイッチなどの軽食を売るフードトラックで調達して、ポタジェの草地やベンチでいただくか、あるいは、大テントとテラス席を備えた期間限定レストランでいただくか。いずれにしてもカジュアルな二択となるのですが、天気さえよければどちらも気持ちがよくておすすめです。今回は早めに着いたので、無事レストランのテラス席をゲットして、比較的優雅な外ランチを楽しむことができました。私が選んだのは、丸焼き豚ローストにポテトの付け合わせ、グリーンサラダとシードル、ついでにエクレアも。どれもシンプルに美味しくてお腹いっぱい、大満足です。 リンゴの花咲く早春のポタジェへ 17世紀からの歴史的庭園でもある整形式のポタジェ(菜園)はリンゴや洋ナシが花ざかりの早春の風景。 ランチの後はゆるりとお城のポタジェを散策し、名残惜しいスタンドをもう一度確認し、まだスイセンの群生が美しい草地を通って、帰路へ。パリからは車で1時間弱の距離ながら、林に囲まれたお城の敷地に入れば、御伽話の世界に迷いこんだ感じすらしてきます。フランスではお城の敷地を利用してガーデニングショーが行われることが多いですが、それぞれフランスらしさに溢れる自然と歴史文化がミックスされた環境の使い方がじつに上手だなあと、いつも感心しています。 スイセンがそこかしこで咲き続け、シャクヤクはまだ葉っぱが出てきたばかりといった感じ。 定番の植物たちや出展者のブースには安心感がありながら、新たな出会いもあり、毎年期待を裏切りません。今回は、早春の爽やかな花風景も一緒にお伝えしながらのフランスからのガーデニングフェア報告でした! 皆さんも春からのガーデニングをご一緒に楽しみましょう。 お城の敷地に入るとこんな様子でナチュラル感いっぱいの花と緑の風景が広がります。
-
ガーデン&ショップ
パリのアーバン・ガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン2024」
知られざる歴史遺産、ヴィラ・ウィンザー 19世紀に建築されたヴィラ・ウィンザーは、第二次大戦後、ド・ゴールが大統領になる前に住んでいた邸宅で、その後はウィンザー公爵夫妻が暮らしたことでも有名です。海外人気ドラマシリーズ「ザ・クラウン」で見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。邸宅と庭園ともにこれまで一度も一般公開されてこなかった場所ですが、来年からの一般公開に向けて、現在修復整備が進められています。 それに先駆けてのガーデンショー・イベントというのも興味深いところでしたが、最終日にようやく多少の晴れ間があったものの、設営期間から連日雨が続き、傘をさしつつガーデンショーエリアを見て歩くのがやっとという異例の事態でした。改めて青空の下で庭園と邸宅を散策できる日を楽しみに取っておくことにしています。 変わらぬテーマはアーバン・ガーデン 大都市パリという立地と特徴を生かした変わらぬテーマは、日々の暮らしを豊かに、街の緑化に貢献するサスティナブルでスタイリッシュなアーバン・ガーデンです。大手造園会社や著名庭園デザイナーの見応えたっぷりの緑の空間とともに、グランプリの審査対象となるショーガーデンのカテゴリーは3つ。小さな12㎡のミニ・アーバンガーデン、さらに小さい6㎡のアーバン・ポタジェ(菜園)、4㎡のアーバン・バルコニーがあり、決して広くはないことが多いパリのアパルトマンのバルコニーやテラス、中庭のガーデニングのアイデア探しにも楽しいショーです。 小さなポタジェと花咲くアーバン・バルコニー賞を受賞「カレモン」 「カレモン」のタイトルは、フランス語で正方形を表す「カレ」から。キューブ形の木製コンテナーをさまざまに組み合わせたポタジェのデザイン。カテゴリー別の受賞ガーデンには、トロフィーの代わりに、おしゃれなステンレス鋼のシャベルが贈られます。 景観デザイン・グランプリ受賞「感覚の庭・癒やしの庭」 設計:マティルド・ティルマン 「庭と健康」協会が出展したセラピー・ガーデン「感覚の庭・癒やしの庭」。木材などの自然素材を用いたナチュラルテイストの構造物と、感覚を呼び起こすような色彩や香りをもつ植物が、さまざまに異なる雰囲気のコーナーを作る豊かな植栽が魅力。ガーデンの設置工事は設計者とともに協会会員のボランティアが行ったのだそうで、ほのぼのとした雰囲気も魅力。 「読書のための庭、植物の図書館」 設計:ガリー設計事務所 カルチャーという言葉が栽培と文化の2つの意味を含むように、植物を栽培するガーデニングと、同様に精神を耕す読書のための、人に知恵を与え心を解放する小さな緑の空間がコンセプト。ロックな雰囲気が楽しい。 人気のシャネル・ガーデン、今年はアイリスの庭 ショーガーデンの中でも定番で人気を集めているのが、シャネルによる花の庭。メゾンのパルファンの原料となっている植物の1つにフォーカスしてデザインされます。その洗練されたスタイリッシュな佇まいの空間は、いつも注目の的。 今年のテーマのアイリスは、スミレを思わせるような、またそれだけではない重層的な香りが特徴で、シャネル5番や19番といった伝説的なパルファンや、近年大ヒットしているコメットなど多くのシャネルのパルファンに使われています。香り成分が含まれるのは花でも葉でもなく、地中の根茎部分。その栽培の歴史は古代エジプトに遡りますが、フランスでは18世紀にイタリア、トスカーナ地方から伝わったアイリス(IRIS PALLIDA)が、香水を構成する香料の中でも最も貴重なものの1つとなりました。 香料成分を得るためには、栽培に3年、香料抽出作業前の乾燥に3年の合わせて6年という長い年月がかかり、また3kgの香料を得るために1トンの乾燥させ粉状にした根茎が必要だといいます。非常に多くの時間と人手がかかるため、フランスでは1970年代には栽培農家が消滅し、イタリアでも2000年代には同様の状況になってしまいました。モロッコやトルコなどでは別の品種のアイリスの栽培と香料製造が続いていますが、シャネルでは、かつての香料のクオリティを担保するために、南仏の香水の街グラース近くの専属契約農家で自家栽培を行うようになったのだそうです。 シャネルの庭は、ガイドスタッフとともにグループで見学します。スタッフの女性たちの長靴姿も、シックかつ可愛い。 アウトドア・プロダクトの新アイデアも 会場ではガーデンまわりのアウトドア・ファニチャーを見たり、ガーデニング・グッズやウェア、樹木や草花、ハーブなどの苗のスタンドを見て回るのも楽しみの1つ。買い物だけでなく、特にアウトドア・ファニチャー類は、これから製品化されるプロトタイプの展示も多く、新たなアイデアに触れることができるのもショーのよいところです。 上写真は、カラーステンレス製のオブジェ。何かと思えば、なんと新しいお墓のモデルとのこと。箱形のオブジェの中の空間に小枝や木の葉を重ねれば、コンポストボックスも兼ねるのだとか。動植物の形などカットワークになった部分は、故人の想い出になるよう自宅に飾ることもできるのだそうです。 移動が楽な車輪付きのベンチなどもおしゃれなカタチ。 永遠の憧れ、バスケットのピクニック・セットのブース。 パリ近郊でオーガニック栽培されている旬の花、シャクヤクの販売ブース。長蛇の列ができていました。 初夏のガーデンショーでは、芳しい香りのなか、満開のバラの花々を直接見て選べるのも嬉しい。 全体を見回すと、環境への配慮を前提にした都会の小さな庭やテラスをスタイリッシュに楽しむためのアイデアやグッズが、さらにフォーカスされてきた様子のガーデンショー、ジャルダン・ジャルダン2024。個性的なショーガーデンを囲むガーデン業界の専門家たちの集いの場であるのと同時に、さまざまなセミナーやワークショップも開催されました。 自然な様相の池を中心にブランコなどを設えたワイルド感のあるデザインも人気でした。 パリの人々にとっても、バルコニーで育てるハーブ苗や新鮮な切り花を買うことができる、グリーンな週末のアミューズメントの場。蜜源植物を植えるとか、少ない水やりの工夫など、都会のグリーンで自然のためにできることを知り、ガーデニングへの関心を高める機会にもなっていました。 ホワイトとグリーンを基調に、アーチを使って立体感を出した緑の空間は、流行を超えた上品さが魅力。 過去のJARDINS JARDINの記事もチェック!
-
ガーデン&ショップ
【パリ近郊の庭を訪ねて】ナチュラルに楽しむ小さな花束の庭
森の佇まいと選りすぐりの花々 お宅のリビング側から庭を見下ろす。春の球根花からダリアへと季節ごとに植え替える植栽のエリア。 フジの花が満開で、スイセンやチューリップの盛りが過ぎた晩春の週末。パリ近郊で素敵な庭づくりをしている英理子さんのお宅にお邪魔しました。 折り紙&ペーパーフラワー作家としても活躍する英理子さんが、フランス人のご主人と2人のお子さんと暮らす家は、パリから電車で30分ほどの長閑(のどか)な住宅地にあります。これまでも、季節を変えて何度も伺っている大好きな庭です。 ヘビイチゴやステラリア・パルストリスが混じるグラウンドカバーは、野原そのままのナチュラルな雰囲気を庭に運びます。 この地に引っ越してきて、自分で庭づくりを始めてから15年ほどが経つという英理子さん。この庭は、森の一角を思わせるナチュラルな佇まいのを背景に、季節ごとに彩りを変える彼女のこだわりの花々が、絶妙なハーモニーを織りなしているのが魅力です。 今回訪れた際にも、ちょうどイングリッシュ・ローズの名花‘ガードルード・ジーキル’の初花が咲いていました! 初めて伺ったのは、ちょうどバラの季節。フランスの個人庭には珍しく、イングリッシュ・ローズの数々が見事に咲いているのが印象的でした。 ジャルダン・ブクティエ(花束の庭) 春の花の植栽、選び抜かれたチューリップはそれぞれがビジュー(宝石)のよう。 さて今回は、曇りからにわか雨を経て時々晴れ、気温はひと桁台という花冷えの4月下旬の日曜日。球根花は終わりかけで、バラの盛りは3週間後くらいか、でもスズランはもう花盛りですよ、というタイミングでしたが、たくさん植え込まれたさまざまな種類のスイセンやチューリップは、好き好きに開き切った、その姿にも味わいを感じます。 スズランの群生の前に佇む後ろ姿は庭ネコのたまちゃん。 「そう、庭で見る分にはまだいいのだけれども、ブーケにするには咲き始めがいいの」と言う英理子さん。大好きだというスイセンは、いろいろな園芸種を毎年400球ほどは植え込むそうです。今年は雨が多かったせいか、庭づくりを続けてきて初めてというほどの激しいナメクジ被害があったそうで、花の部分をつぼみのうちに食べられたスイセンが多数出てしまったと、残念そうでした。ちなみにナメクジは捕獲処分。薬剤などは使わないナチュラルガーデニングが基本です。 チューリップは、庭の風景を保ちつつ、少々切り花にしてブーケにも使えるように、同じ種類を20、30球と植え込んでおくとのこと。そう、この庭の植物選びの原則の1つに、切り花として使える花々というのがあり、実際、いつも季節の花でささっと素敵なブーケを作ってくださるのです。庭の自然をそのまま運ぶようなブーケは、もちろんパリの友人の間でも評判です。 晴れ間の出てきた庭で恵理子さんにお茶をご馳走になりながらお話を伺いました。気持ちのよいひととき。 庭の奥でちょうど花盛りだったビバーナムは、やはり15年ほど経つ大株だそうですが、これもブーケにも使おうと思ってチョイスしたとのこと。切り花のための庭をカッティング・フラワー・ガーデンと呼んだりしますが、フランス語ではジャルダン・ブクティエ(花束の庭)やジャルダン・フローリスト(フローリストの庭)といいます。 森の佇まいを運ぶ野の花々 木々の足元を彩る黄色のドロニクムも森からやってきたワイルドフラワーです。 選りすぐりの栽培種のチューリップやスイセンが植え込まれたエリアは、カラフルな宝石箱のよう。それを引き立てるのが、フワフワとそこかしこに生えているヒナギクだったり、儚げなワスレナグサの群生。森の一角にいるように、よく林縁に生えている黄色のドロニクムも木陰に揺れています。野の花と園芸種の共演は、まさに庭空間ならではの技ではないでしょうか。 この時期、スズランも庭のあちこちで満開になってきていて、摘むのが追いつかないほどだとか。スズランは、もともと群生していた場所もあれば、義理のお母様からいただいたひと鉢が一面に広がった斜面もあり、いずれにしてもこの土地に合うようです。フランスでは5月1日にスズランを贈る習慣がありますが、ここでは毎年少し早く最盛期を迎えます。 スズランの群生に混じって、可愛らしい八重のオダマキがつぼみをつけていたり、庭の中には、ほっこりする風景がたくさんあって飽きません。種まきで増やしたもの、あるいは種が飛んで自然に増えたものなど、それぞれの様子をよく観察しつつ、そのままそっとしておいたり、場所を移動させたりと、丁寧にお手入れされているのがよく分かります。 小さな庭のいいところ 毎年春には数々のスイセンとチューリップが彩るエリアは、季節が終わるとダリアに植え替え、夏から秋にかけては、選りすぐりのダリアが花盛りになります。ダリアの球根は季節が終わると掘り上げられて、また春の準備に。季節に沿って花が溢れる小さな庭は、じつは大変な手間に支えられています。 スペースが限られているので好きな植物がすべて植えられるわけではない、慎重に取捨選択しなければならないのだけれども、逆に自分にとってはそれがよいのだと思う、と言う英理子さん。植栽の選定は自分の「好き」が基準ではあるけれども、土地に合うのか、気候に合うのかということも大事です。特に、ここではまだ急激な変化は起きていないけれども、夏の暑さや水不足などの気候変動に対応するには、環境に適応できるということがより大事になりそう、と庭友さんたちの間でも話題になっているとか。 庭のスズランを摘んでブーケに。素晴らしくいい香りです。 それぞれの植物の気に入った場所を見極めて定植したり、移動したりと、植物それぞれとの対話の中で作られてきた庭空間では、草花が皆ハッピーなのか、居るだけで気持ちが和んできて、いつまでも佇んでいたくなります。抜け感のあるお洒落はパリジェンヌが得意とするところですが、この庭の、リラックスする柔らかなワイルド感は、それに通じるところがあるような気がします。 庭の中心のガーデンテーブル。お茶の時間には自然と家族が集まって過ごす和やかな場所に。 森を思わせる野の花々と、こだわりの園芸植物たちが、恵理子さんの振るタクトを見ながらそれぞれに歌い、そのリズムが柔らかなイル=ド=フランスの光と空気に溶け込んでいくような素敵なナチュラル・ガーデンです。
-
ガーデン
【パリの庭】パリ市の四大植物園「パルク・フローラル」に咲くダリア
パリ市の植物園「パルク・フローラル」 ご紹介する「パルク・フローラル(花公園)」は、パリ市の四大植物園(*)の一つで、文字どおりにさまざまな植物コレクションを保有しています。1969年に同地で行われた国際園芸博覧会を契機につくられたもので、広さは30ヘクタールほど。全体的には、森林公園のような松やオークの林を抜ける散歩道の所々に、ダリア園や芍薬園などがあり、華やかな花のコレクションを見ることができます。アイリスやシダ、アスチルべなどのオーナメンタルな植物に加え、パリ盆地の自生植物や薬用植物などのコーナー、錦鯉が泳ぐ広い園池など、変化に富んだ見所もあり、どの季節も、大人も子どもも楽しめるような工夫がされています。 *四大植物園=パリ市の植物園としては、ほかに同じヴァンセンヌの森にあるエコール・デュ・ブルイユの樹木園、バラ園で有名なバガテル公園、セール・ドートゥイユがあります。 秋の森に群生するシクラメン。 色彩溢れる華やかなダリアにうっとり ダリア園の入り口、緑の中のはっとする華やかさ。 さて、今日のお目当ては、なんといってもダリア園。ダリアは7、8月から10月下旬の初霜の降りる頃までと花期が長く、少し寂しくなってくる秋の庭に華やかな色彩を添えてくれる人気者です。近年は花屋さんでも、オシャレな色合い、花姿の異なるさまざまなダリアを見かけるなぁと思っていましたが、最盛期のダリア園は、入り口に立っただけで、その華やかさに圧倒されます。 カラフルな色合いに加え、草丈は20cmほどの矮小種から2mを超すものまで。また小さな花や大きな花、一重や八重咲き、ポンポン咲き、カクタス咲き……などなど。あらゆる種類のダリアが咲き乱れる様子は、これぞ眼福です。 国際ダリア・コンクール パリのパルク・フローラルでは、野生種・園芸種を合わせて400種を超えるダリアを栽培しており、毎年8月末〜9月初めには、国際ダリア・コンクールが行われています。これには、フランス国内から60ほどの生産家がエントリー、ドイツやオランダ、リトアニア、日本など外国の生産家も参加し、一般投票と専門家の審査を経て、新栽培種の受賞品種が選ばれます。 左/Dahlia 'Hellios' (写真内手前)右/Dahlia Gryson's Yellow Spider 一般審査の参加者は、3つの好きなダリアに投票することができます。専門家の審査では、花ばかりでなく茎や葉も合わせた全体の花姿や色彩、さらに耐病性などのテクニカルな部分も対象になります。大賞、ジャーナリスト特別賞、一般審査賞、子ども審査員賞などに選ばれたダリアの一部をご紹介すると、ニュアンスカラーのバラ色のDahlia 'Dutch Delight'、黄色〜オレンジからカフェオレ色に変化するDahlia 'Hellios'、菊のような繊細なカクタス咲きで爽やかなイエローのDahlia Gryson's Yellow Spiderなど。 左/Dahlia Comet 右/Dahlia Staburadze またDahlia Cometはパステルトーンのオレンジのポンポン咲き。より柔らかでエレガントなDahlia Staburadze、シックな深いレッドのDahlia 'King Arthur'など、受賞作品は、色も形もじつにさまざま。この多様性こそがダリアの尽きない魅力と、改めて実感します。 ダリアの魅力〜多様性 もともとはメキシコやコロンビアの暖かい高地に自生するダリアは、18世紀にヨーロッパに持ち込まれ、フランスに導入されたのはフランス革命が勃発した1789年。当初は根を食用にする野菜として扱われたものの、あまり美味しくはなかったようで、ジャガイモを超える人気の食用植物にはなりませんでした。しかし、花の華やかさや、初霜まで続く花期の長さが重宝されて、庭のオーナメンタルな植物として人気となりました。植物愛好家であったナポレオン皇妃ジョゼフィーヌもマルメゾンの庭園にダリアを取り入れ、ダリアは19世紀のフランスで人気を博しました。 再び人気上昇中のダリア かつては希少な品種が高額取り引きされるなど、歴史的にも花形だったダリアですが、一時期のフランスでは、田舎の祖父母のポタジェの花のような、ちょっと時代遅れのイメージになっていました。しかし近年は現代の感性に応える色や形のバリエーションに加え、茎の強度が増し、庭での植え込みやブーケの素材として使いやすく進化してきました。また、花がら摘みが不要なように、花後には再びつぼみのような姿になるローメンテナンスなダリアも現れるなど、生産家による品種改良の努力が続けられてきた結果もあってか、ここ数年来ダリアの人気は再び上昇しています。 野生種のコーナーの一角、ポンポン咲きのダリア。 パルク・フローラルのダリア・コレクションでは、年々増える多彩な園芸品種のダリアのかたわらに、全部で40種類前後存在する野生品種のダリアの1/3ほどが栽培されています。すでに草丈は低いものから人の背丈くらいのものまで、花形も一重も八重も多種の形態がありますが、比較的クラシックなそれらのダリアに比べて、栽培種ではさらに、複雑なカラーコンビネーションで、銅葉やダークな色合いの茎までコーディネートされて、まるでオートクチュールのデザインのような完成度の高さ。 ミルキーなオレンジやカフェ・オレ・カラー、シックなレッドなど、オシャレなカラーリングにも目移りが止まりません。ダリア園を一巡りしてみると、帰りにはすっかりダリアマニアになってしまいそうです。 庭デザインにもアレンジにも大活躍 花の姿だけでなく、葉や茎も含め、さらに群生した際の姿のよさ、管理のしやすさなど、改良を重ねた園芸種のダリアの多様性は、華のある風景づくりの強い味方です。家に飾るブーケにもできる、双方向に活躍するダリアは、自宅の庭の花としても魅力的。ちなみに、ダリアの切り花は長時間の輸送には向いていないのですが、逆に地消地産といったローカルな花のサーキュラーエコノミーにうってつけであることは、サステナブル志向になってきた花屋でダリア人気が再燃している理由の一つでもあります。 さて、パルク・フローラルのダリアは、季節が終わると掘り上げられて、来春の植え付けまで大切に保管されます。また来年にはどんな新しいダリアに出会えるのか、今から楽しみになっています。
-
ガーデン&ショップ
【フランスの庭】ル・プリウレ・ドルサン修道院の庭〜魅惑のモナステリー・ガーデン〜
中世の修道院の庭 ヨーロッパで景観への見晴らしがよい開かれた大規模な整形式庭園が発達するのは、ルネサンス期以降。中世の修道院に設けられた庭には、閉じられた空間の中に、修道士たちが自らを養う野菜や果樹のポタジェ(菜園)やベルジェ(果樹園)、また病人を癒やすためのハーブガーデン(薬草園)などがつくられていました。祈りとともに、自らの手を使って働くことは大切な修行の一環であり、庭仕事は修道士の日常の仕事の一部。自給自足という機能面と、修道院という場に相応しい、静けさと調和に満ちた美しく整った空間が、中世の修道院の庭だったといいます。 現代の感性で再現されたモナステリー・ガーデン 庭に続く、修道院の建物のエントランスのしつらいも、ウェルカム感いっぱいで期待が膨らみます。 残念ながら、現代までそのまま残る中世の修道院の庭はありません。今から30年ほど前の作庭にあたっては、装飾写本などに描かれた当時の庭の様子や文献調査から、かつての修道院の庭で行われていたように、植栽には伝統的な有用植物や象徴的な植物を選び、整形式のプランでポタジェ(菜園)、ベルジェ(果樹園)、クロワートル(回廊)がつくられ、現代のモナステリー・ガーデンが誕生しました。 ポタジェ(菜園)とサンプル(薬草園) 見学コースの始まりは、建物に一番近いポタジェから。正方形の木枠で縁取られたポタジェでは、昔からの伝統野菜が花々とともに植栽され、元気に育っています。きっちり端正に整備された構造物とのコントラストで、生き生きと茂る植物のオーガニックな動きの勢いがますます感じられます。また「プレシ Plessis」と呼ばれる小枝などを組んで作られた柵やトレリスが素敵な、魅惑のポタジェ風景が広がります。 こんなに可愛いポタジェには、なかなかお目にかかれません。ポタジェの奥は「サンプル」と呼ばれる薬用ハーブの植栽コーナーです。病人を癒やすのは中世の修道院の重要な責務であり、このハーブガーデンには、かつて王令で薬草として栽培を推奨されたハーブの数々、カモミールやメリッサ、セージ、ミント、イチョウヨモギ、アンジェリカやバーベナなども植栽されています。 プロムナード(散歩道)からベルジェ(果樹園)へ リンゴや洋ナシが規則正しく植えられたベルジェの様子。 何度でも見て回りたくなるポタジェを抜けて、芝地に並木が植栽されたプロムナードへ。緑だけのスッキリと整ったシンプルに美しいこの空間に入ると、不思議とスッと心落ち着く感じがしました。 続いて、芝地にリンゴや洋ナシといった果樹が植えられたベルジェも、穏やかな空気が流れる場所。果樹の周りを囲むように設けられたプレシ(小枝の柵)のベンチや王様の椅子を思わせるシーティングが、シンプルな空間にアクセントを添えています。 通路には、異なる空間の重なりの奥に、常にフォーカルポイントが作られていて、深い奥行きを感じさせます。 それぞれの庭のコーナーは生け垣やプレシでしっかり囲まれつつも、他の空間への見通しのポイントがそこかしこに設けられていて、こちらへ、彼方へと誘われるように、歩を進めることになります。 ラビリンス(メイズ 迷宮) さまざまな植物に彩られたラビリンス。 さらに進んでいくと、さまざまなエスパリエ仕立ての果樹や小枝の柵で構成された、ラビリンスに入り込みます。カゴ形の構造物の中に植えられたルバーブや、白を基調にした花々が揺れる仕切りの奥に、ベンチで囲まれた大きな果樹が見えるのですが、目に映るままに進んでも、意外と行きつけない、まさに迷宮になっています。 幾何学的なボリュームで構成された空間ですが、よく見ると足元の素材は木材を利用。長もちはしないかもしれませんが、温かな雰囲気です。 この迷宮は、キリスト教での“行き着くことが難しい「救済」への道”を示すものでもあるのだとか。迷路を構成する生け垣の片隅には、日陰になった休息スペースもあって、花や果樹を愛でつつ、迷うことを楽しみながら、ゴールに向かう構成です。 さまざまな小さな庭 ラビリンスの中心には、円形の洋ナシのパーゴラを被った丸いベンチが。 ラビリンスの中心には、その形を反映するように円形に刈り込まれた洋ナシと、風に揺れる花々の植栽が。イチゴやフランボワーズ、スグリなどの赤い実の小道や、残念ながらバラの季節は過ぎてしまっていたのですが、バラ園であるマリアの庭など、さまざまな小さな庭の空間が続きます。 いずれもが共通して、整形式のプランと構造に木材や小枝などの自然の素材が使われており、それでいてテーマによってそれぞれ全く異なる雰囲気を持った空間となっています。エリアが変わるたびに、ハッとするような発見の感覚があって、楽しさが尽きません。 クロワートル(回廊) クロワートルの庭の中心には、生命の象徴である水が流れています。 さまざまな小さな庭の連続の中、大きな空間を占めるのがクロワートルと呼ばれる、全体のほぼ中心に当たる庭です。修道院建築の中に必ず含まれる中庭を囲むクロワートルは、祈りと瞑想の場であり、天国を予示する象徴的な場でもあったそうです。ここでは石造りの修道院の建築の代わりに、クマシデの生け垣がクロワートルを形づくっています。その中心には静かに水が流れる噴水があり、四方は小さな葡萄畑になっています。 じつは、現在修復されている修道院の建物も、最盛期の1/10ほどだそうで、かつては石造りの建物として存在したクロワートルが、静かな散策の緑のプロムナードとなって庭に再現されているのは、デザインとしても面白いところ。 緑の生け垣の壁にくりぬかれた円形窓からの風景。どのディテールも魅力的。 作庭から30年ほどが経つという、ル・プリウレ・ドルサンの庭。現在は4人のガーデナーが維持管理を担っている3haほどの庭園は、非常によく手入れされており、本当に気持ちよく寛いで散策できます。中世の修道院の庭のさまざまな特徴を、現代の美意識でデザインに生かしたこの庭には、人の手仕事と植物たちの美しい調和が溢れていて、まさに天国のような心休まる空気が流れていました。 庭園にはショップとカフェも。昼時にはテラスか室内で、ホームメイドの塩味系のキッシュやタルトとフレッシュな庭のレタスのサラダ、ドリンクとデザートの軽いランチセットがいただけます。
-
ガーデン&ショップ
【フランスの庭】ヴェルサイユ庭園の最新スポット「調香師の庭」
花の宮殿、グラントリアノン グラントリアノン。Andy Sutherland/Shutterstock.com ヴェルサイユ宮殿には、グラントリアノン、プチトリアノンの2つの離宮と庭園があります。ルイ14世は「ヴェルサイユ宮殿を宮廷のために、マルリー宮殿を友人たちのために、グラントリアノンを自分のために作った」といわれます。王は堅苦しい宮廷儀礼を離れたプライベートな時間を過ごすために、1668年、陶器のトリアノンと呼ばれた美しい宮殿を建てさせました。しかし、外壁を覆うデルフト陶器の脆弱さゆえに陶器のトリアノンは20年と持たず、早々に大理石のトリアノンと呼ばれる、現在まで残るイタリア風の建物に建て替えられることになります。 プチトリアノン。Ivan Soto Cobos/Shutterstock.com さて、王が親密な時間を過ごしたトリアノンの庭は、どんな様子だったのでしょうか。 当時、トリアノンの庭園の花の植栽は、その時々の王の希望に合わせて素早く変えられるよう、また、すべての花を最高の状態で見せられるよう、植木鉢に植えて花々を組み替える方法で行われていました。別名「花の宮殿」とも呼ばれたトリアノンの庭園には、香りのよい花々が大量に咲き乱れ、その強い芳香に気絶する招待客も出るほどだったとか。 ヴェルサイユと香水文化 盛夏の「調香師の庭」は、香りにまつわる植物たちが旺盛に育つ、ナチュラルかつのどかな雰囲気。 衛生面ではまだ発展途上であったともいえる17世紀、ルイ14世の時代の宮廷では、不都合なにおいを隠す目的もあって、ムスクなどの動物性の強い芳香が好んで使われていたそうです。庭園や宮殿を飾る花々も、ヒヤシンスや月下香など、芳香の強いものが好まれました。そうした背景から、17世紀から18世紀にかけて、イタリアから伝わった香水が大流行したフランスの宮廷は、数々の名調香師を生んだ、香水産業の揺り籠となったのでした。また、当時は香水を使うことができるのは王侯貴族などに限られていたゆえに、香水の香りは、豊かさと高貴さの象徴でもあったのです。 香りの花々が育つ「調香師の庭」 ダマスクローズ越しの「調香師の庭」の風景。 そうしたヴェルサイユの宮廷と宮殿、香水文化の歴史からインスパイアされて生まれたのが、新たにつくられた「調香師の庭」です。かつて「Sillage de Reine」でマリー・アントワネットの香水を復元するなどヴェルサイユと縁の深い香水のメゾン、フランシス・クルジャンがスポンサーとなってつくられた、香水の歴史に捧げられた庭園です。 シャトーヌフのオランジュリー。かつてルイ15世が、ここでコーヒーやパイナップルを栽培させたのだそう。 植物学に興味を寄せていたルイ15世がかつて造らせた、シャトーヌフのオランジュリー。「調香師の庭」は、その建物近くにある9,000㎡ほどの敷地につくられました。トリアノンの庭師たちと協力し300種以上の香水の素材となる精油に使われるさまざまな植物が集められた庭は、雰囲気の異なる3つのゾーンで構成されています。通常は非公開の場所ですが、ガイド付きであれば見学することができます。では、3つのゾーンをそれぞれ見ていきましょう。 <好奇心の庭> ルイ15世がパイナップルやコーヒーを栽培させたというシャトーヌフのオランジュリーにまっすぐ向かう通路を中心軸に、左右対称の整形式に整備されています。数百種の芳香に関連する植物が植栽された「調香師の庭」は、いわば香りのポタジェ。実際、少し前までこの敷地にはヴェルサイユの宮殿内にレストランを持つアラン・デュカスのポタジェがあったのだそう。 多数のバラの中で、わずかに咲き残りの花が見られたダマスクローズ。香水の原料の主となる香りのバラです。 この庭には、当時の植物系の香水の素材として花形的存在だったアイリスやバラ、昔から使われ続けているさまざまな香りのハーブ類、香水製造にまつわる文脈で「ミュエット(無言)」の花と呼ばれる月下香やスミレなどが植えられています。 チョコレートコスモスは、深いチョコレート色がおしゃれなばかりでなく、香りもチョコレート! また、花そのものが素晴らしい芳香を持つものだけでなく、直接的には香水の材料となる香りが抽出できず、人工的に再構成するしかない種類の花、チョコレートやパイナップルといった珍しい香りの草花など、幅広く香りに関する花々が集められています。 葉からパイナップルの香りがするハーブ、パイナップルセージ。 セージをはじめ、香りのハーブの植栽エリアも充実。 庭園全体は、17世紀のトリアノンの庭の香りのエスプリをイメージしながら、一年を通して何らかの花が咲くようにといった配慮がされています。また、ボルドーとチョコレート色、イエローからオレンジへのグラデーションというように、色彩をポイントに構成された植栽からは、オーナメンタルな庭としての心配りが大事にされているのが分かります。 晩夏もまだ花盛りのラベンダーは、青紫色の植栽コーナーの主役。 私が訪れた8月中旬は、庭の季節としては花から結実へと向かう、暑さで疲れも出ていそうな時期でした。庭の花形であるバラは、さすがに少々の花が残る程度でしたが、そこかしこで勢いよく育った草花のダイナミックな姿がワイルドで、フランスの田舎の夏休みを思わせるような、ナチュラルで心休まる風景になっていました。 かなりワイルドな、でもなぜかほっとする風景。 オランジュリーの前と通路の両脇は、レモンやビターオレンジ(橙)などの柑橘類の植木鉢で飾られています。ビターオレンジも、実は精油のネロリやプチグランの原料となり、香水の材料として活躍する柑橘です。ちなみに、さまざまな動物系の強い芳香を嗅ぎすぎたためか、芳香アレルギーになってしまった晩年のルイ14世が、唯一受け付けることができたのは柑橘系の香りだったのだそうです。 オランジュリーからの中央通路に並ぶ柑橘類を中心にしたコンテナーと植木鉢の列。 <木々の下の庭> 緑がワサワサ茂るワイルドな果樹園。 <好奇心の庭>の隣の果樹園エリアとの間には細長い桜並木があり、春には庭園の一番の見どころになりますが、8月の果樹園で目を引くのは、モモやリンゴ、洋ナシがたわわに実る果樹のほうです。かなりワイルドな感じの果樹園を抜けると、奥にはさらに、壁に囲まれた小さな<秘密の庭>が待っています。 奥に進むと、さらに壁に囲まれた扉を発見。 小さな<秘密の庭> 敷石のステップが緩やかな曲線を描き、庭の奥へと気持ちを誘う<秘密の庭>。中に立ち入って植栽などを観察することはできなかったのですが、ひっそりと静かに瞑想するのによさそうな静かな空間は、現在のところ庭師の実験ガーデンとなっているのだそう。 <秘密の庭>を覗いたところ。 見学の最後には、ワークショップスペースでアイリスの根やバラの花、パチュリの葉や茎、バニラの実など、精油の抽出には植物のさまざまな部分が使われることを学び、香りを実際に体験することができます。精油となった芳香をそれぞれの言葉で表現し、また実際の植物の香りやイメージと、精油になった香りとのギャップを発見するのは、大人にとっても子どもにとっても面白い体験。視覚と嗅覚とイマジネーションをフル活用することで、庭と植物の楽しみ方がさらに広がります。 屋根付きのワークショップコーナーでは、ガラス瓶の蓋の裏に用意された調香の基本となる香りを体験。実際に香りを嗅いで言葉にする体験は、新鮮な発見になります。 ドライのバラの花やアイリスの根などに混じって、真ん中の瓶はドライになったパチュリの茎と葉っぱ。 香水の歴史を庭のインスピレーションとして新たな空間を作った「調香師の庭」は、ヴェルサイユ庭園ならではの興味深い試みです。
-
ガーデン
【北欧の美しい暮らし】カール&カーリン・ラーションの家と庭
スウェーデンを代表する芸術家が残した家と庭 19世紀から20世紀にかけて活躍した画家カール・ラーション(1853-1919)は、スウェーデンを代表する国民的な芸術家。そして、彼が妻カーリンと7人の子どもたちと暮らした家と庭、リラ・ヒュットネース(Lilla Hyttnäs、岬の小さな精錬小屋の意)は、現代に続く北欧スタイルのインテリアデザインにも大きな影響を与えた、理想の美しい暮らしの場として知られます。 このリラ・ヒュットネースがあるのは、湖と森の風光明媚な自然に恵まれたスウェーデン中部、ダーラナ地方の小さな村スンドボーン。現在はカール・ラーション記念館となって公開されています(家の中は予約制のガイドツアーのみで見学可能)。 芸術家カップルの理想の暮らしの場 カールの妻カーリンも、もともとは画家であり、2人はフランス留学中に出会って恋に落ち、結婚。スウェーデンに戻ったのち、1888年からは、7人の子どもたちとともにカーリンの父から譲られたこの家に住まうことになります。そして、1837年に建てられたスウェーデンの伝統的な木造家屋に、コツコツとリノベーションを重ねた彼らの創造性溢れる室内装飾は、現在に続く北欧スタイル・インテリアデザインの元祖となりました。 子育てのために絵筆を置いたカーリンでしたが、伝統的な手仕事に、アール・ヌーヴォーなどの当時最新のデザイン傾向を合わせて、家族との暮らしのための家具やテキスタイルのデザインに、その才能を開花させます。 室内は、当時さながらの可愛いカーリン・デザインのドレスの女の子が案内してくれるガイドツアーで見学できるものの、写真撮影は不可なのが残念。しかしじつは、カールが家族の暮らしの様子を描き、大人気となった画集『わたしの家』から、現在も残されている家の様子をそのまま知ることができます。 『わたしの家』 1895年制作, Our Home (メシュエン・チルドレンズ・ブックス, 1976年)より。※カール・ラーション『わたしの家』オリジナルの画集は1899年出版 美しく静謐な自然に囲まれた家は芸術家の制作活動にふさわしい場所で、多くの近隣の風景が次々とカールの作品の中に描かれました。しかし、長雨が続き戸外制作ができなかったある夏、家の中を描いたら? というカーリンの発案から生まれたのが、画集『わたしの家(Ett hem/ Our Home)』でした。 1895年制作 Our Home(メシュエン・チルドレンズ・ブックス, 1976年)より。 明るい色合いで繊細に描かれた暮らしの風景は、朗らかな歌声が聞こえてきそうなほどに、あたたかな彼らの暮らしの様子を生き生きと伝えます。インテリアや服装のディテールまでが仔細な描写で描かれ、今でも家のインテリアに取り込みたいような可愛いアイデアが詰まった本です。また、スウェーデンの家庭の季節行事などの様子もうかがえ、興味深々です。 「家」と「庭」がつくる家庭 カール・ラーション《大きな白樺の下での朝食》 1896年。 画集の中には、家族全員が庭のシラカバの木の下の大きなテーブルで朝食を摂っているシーンがあります。「家庭」という語が「家」と「庭」で構成されるのには、さまざまな意味で説得力を感じているのですが、特に夏は庭で過ごす時間も長かった彼らの暮らしにとって、庭は不可欠な、大切な存在でした。 画集に描かれたラーション家のガーデナーは、妻であり母であった芸術家カーリンです。 当時の最新流行だったイギリスのコテージガーデン風をよりシンプルにアレンジした庭は、湖と森に囲まれた周囲の風景と、ファールン・レッドが基調の木造家屋を程よくシームレスに繋ぎ、子どもたちが芝の上で遊び回ったり、家族で食事をしたりお茶を飲んだりするのに、とても居心地のよい、緑の暮らしの空間だったことでしょう。 現在は記念館を運営する財団のスタッフの方々が、当時の面影をなるべくとどめるような形で庭の管理をしているそうです。 湖畔の庭のチャームポイントは、眺めとガーデン・ファニチャー 庭の最大のチャームポイントは、なんといってもダイレクトに面した湖畔の眺め。白い桟橋から眺める対岸の風景と、キラキラ輝き変化する水面の様子は、穏やかな心休まる美しさ。 また、彼ららしさが表れるのは、庭のそこかしこでフォーカルポイントにもなっているオリジナルのガーデン・ファニチャー。水辺の大きな柳の木の側には、ファールンレッドの椅子とテーブル、湖を眺める半円形の白いベンチのコーナーなど、彼らがデザインした素朴なあたたかさと機能性を併せ持った木製のガーデン・ファニチャーは、タイムレスな北欧スタイルのお手本です。 湖畔を眺める半円形のベンチ。 北欧の春は遅く、訪問した5月中旬のタイミングでは、ボーダー植栽の植物たちは、やっと芽を出したばかりといったところ。花咲き乱れる姿を見ることはできませんでしたが、柳の木の爽やかな新緑が軽やかに揺れ、リンゴやリラなど果樹や花木の花が咲き、もう、それだけでとても魅力的でした。 ファールンレッドの犬小屋もかわいい。 庭の外柵の細い丸太を斜めに使った形は、ダーラナ地方の農場などでも多く使われる、この地方特有のスタイル。 地元食材レストランのランチタイム 庭は自由に散策でき、いつまでもいることができます。これでお茶でもできれば最高! なのですが、残念ながらカフェなどは併設されておらず……と思いきや、すぐ隣にテラスのある地元の食材を使った自然派レストランを発見。 ランチタイムには、食べ放題のビュッフェ形式で、野菜豊富なさまざまな郷土料理からデザートまでがサーヴされます。テラスでいただいたお料理は、ホッとする素朴な美味しさ。シナモンロールとコーヒーでフィーカ(おやつタイム)も楽しめます。 カーリンのデザイン作品の展示 スンドボーンの村を5分ほど歩くと、ギャラリーに到着。村の中も牧歌的。 また、スンドボーン村内のラーション家の近隣に増設されたギャラリーでは、カーリンのデザイン作品の展覧会が開催中で、さまざまなファニチャーやテキスタイルのリプロダクトが展示されており、彼らの美しい暮らしの世界観にたっぷり浸ることができました。 ギャラリー入り口。 展示風景の例。 絵画に描かれていた窓辺のシェルフも展示されていました。左/1912年制作、 スウェーデンの国民画家 カール・ラーション展 (読売新聞社/美術館連絡協議会, 1994年)より。 ミュージアムショップも充実。 自然の中の、北欧の美しい暮らしの世界 豊かな自然と庭に囲まれたラーション家の丁寧な美しい暮らしの様子は、隅々まで美意識を感じる、しかし気取らず素朴な、どこか懐かしく温かな記憶を呼び覚ますよう。今でも、1世紀以上を経たとは思えないような、タイムレスな魅力に満ちています。