パリのアーバン・ガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン2024」
毎年6月初旬の週末を含む5日間にわたって開催されるパリのアーバンガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン」。20周年を迎える今回は、恒例のチュイルリー庭園から場所を変え、パリの西側ブーローニュの森の中にある歴史的邸宅ヴィラ・ウィンザーの庭園にて開催されました。30のショーガーデンと約100件の出展者ながら、毎回2万人もの来場者を集める人気イベント。今年の見どころを、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんがレポートします。
目次
知られざる歴史遺産、ヴィラ・ウィンザー
19世紀に建築されたヴィラ・ウィンザーは、第二次大戦後、ド・ゴールが大統領になる前に住んでいた邸宅で、その後はウィンザー公爵夫妻が暮らしたことでも有名です。海外人気ドラマシリーズ「ザ・クラウン」で見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。邸宅と庭園ともにこれまで一度も一般公開されてこなかった場所ですが、来年からの一般公開に向けて、現在修復整備が進められています。
それに先駆けてのガーデンショー・イベントというのも興味深いところでしたが、最終日にようやく多少の晴れ間があったものの、設営期間から連日雨が続き、傘をさしつつガーデンショーエリアを見て歩くのがやっとという異例の事態でした。改めて青空の下で庭園と邸宅を散策できる日を楽しみに取っておくことにしています。
変わらぬテーマはアーバン・ガーデン
大都市パリという立地と特徴を生かした変わらぬテーマは、日々の暮らしを豊かに、街の緑化に貢献するサスティナブルでスタイリッシュなアーバン・ガーデンです。大手造園会社や著名庭園デザイナーの見応えたっぷりの緑の空間とともに、グランプリの審査対象となるショーガーデンのカテゴリーは3つ。小さな12㎡のミニ・アーバンガーデン、さらに小さい6㎡のアーバン・ポタジェ(菜園)、4㎡のアーバン・バルコニーがあり、決して広くはないことが多いパリのアパルトマンのバルコニーやテラス、中庭のガーデニングのアイデア探しにも楽しいショーです。
小さなポタジェと花咲くアーバン・バルコニー賞を受賞「カレモン」
「カレモン」のタイトルは、フランス語で正方形を表す「カレ」から。キューブ形の木製コンテナーをさまざまに組み合わせたポタジェのデザイン。カテゴリー別の受賞ガーデンには、トロフィーの代わりに、おしゃれなステンレス鋼のシャベルが贈られます。
景観デザイン・グランプリ受賞「感覚の庭・癒やしの庭」
「庭と健康」協会が出展したセラピー・ガーデン「感覚の庭・癒やしの庭」。木材などの自然素材を用いたナチュラルテイストの構造物と、感覚を呼び起こすような色彩や香りをもつ植物が、さまざまに異なる雰囲気のコーナーを作る豊かな植栽が魅力。ガーデンの設置工事は設計者とともに協会会員のボランティアが行ったのだそうで、ほのぼのとした雰囲気も魅力。
「読書のための庭、植物の図書館」
カルチャーという言葉が栽培と文化の2つの意味を含むように、植物を栽培するガーデニングと、同様に精神を耕す読書のための、人に知恵を与え心を解放する小さな緑の空間がコンセプト。ロックな雰囲気が楽しい。
人気のシャネル・ガーデン、今年はアイリスの庭
ショーガーデンの中でも定番で人気を集めているのが、シャネルによる花の庭。メゾンのパルファンの原料となっている植物の1つにフォーカスしてデザインされます。その洗練されたスタイリッシュな佇まいの空間は、いつも注目の的。
今年のテーマのアイリスは、スミレを思わせるような、またそれだけではない重層的な香りが特徴で、シャネル5番や19番といった伝説的なパルファンや、近年大ヒットしているコメットなど多くのシャネルのパルファンに使われています。香り成分が含まれるのは花でも葉でもなく、地中の根茎部分。その栽培の歴史は古代エジプトに遡りますが、フランスでは18世紀にイタリア、トスカーナ地方から伝わったアイリス(IRIS PALLIDA)が、香水を構成する香料の中でも最も貴重なものの1つとなりました。
香料成分を得るためには、栽培に3年、香料抽出作業前の乾燥に3年の合わせて6年という長い年月がかかり、また3kgの香料を得るために1トンの乾燥させ粉状にした根茎が必要だといいます。非常に多くの時間と人手がかかるため、フランスでは1970年代には栽培農家が消滅し、イタリアでも2000年代には同様の状況になってしまいました。モロッコやトルコなどでは別の品種のアイリスの栽培と香料製造が続いていますが、シャネルでは、かつての香料のクオリティを担保するために、南仏の香水の街グラース近くの専属契約農家で自家栽培を行うようになったのだそうです。
アウトドア・プロダクトの新アイデアも
会場ではガーデンまわりのアウトドア・ファニチャーを見たり、ガーデニング・グッズやウェア、樹木や草花、ハーブなどの苗のスタンドを見て回るのも楽しみの1つ。買い物だけでなく、特にアウトドア・ファニチャー類は、これから製品化されるプロトタイプの展示も多く、新たなアイデアに触れることができるのもショーのよいところです。
上写真は、カラーステンレス製のオブジェ。何かと思えば、なんと新しいお墓のモデルとのこと。箱形のオブジェの中の空間に小枝や木の葉を重ねれば、コンポストボックスも兼ねるのだとか。動植物の形などカットワークになった部分は、故人の想い出になるよう自宅に飾ることもできるのだそうです。
全体を見回すと、環境への配慮を前提にした都会の小さな庭やテラスをスタイリッシュに楽しむためのアイデアやグッズが、さらにフォーカスされてきた様子のガーデンショー、ジャルダン・ジャルダン2024。個性的なショーガーデンを囲むガーデン業界の専門家たちの集いの場であるのと同時に、さまざまなセミナーやワークショップも開催されました。
パリの人々にとっても、バルコニーで育てるハーブ苗や新鮮な切り花を買うことができる、グリーンな週末のアミューズメントの場。蜜源植物を植えるとか、少ない水やりの工夫など、都会のグリーンで自然のためにできることを知り、ガーデニングへの関心を高める機会にもなっていました。
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Credit
写真&文 / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -
えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。
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