年間75万人が訪問するフランス「モネの庭」 なぜ人々は心奪われる? 復元された魔法の庭

画家クロード・モネがフランス、ジヴェルニーにつくり上げた「モネの庭」。睡蓮の連作などで世界的に知られるこの庭は、年間75万人もの人々が訪れる特別な場所です。フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんが2025年に現地を訪れて改めて感じたのは「なぜこれほどまでに多くの人が心奪われるか?」。 復元された庭には魔法のような魅力に溢れていました。「花の庭」と「水の庭」が織りなす画家モネならではの色彩と植物愛に満ちた世界をご案内します。
目次
ジヴェルニー「モネの庭」の魅力を深掘り

睡蓮の連作などで知られる印象派の画家クロード・モネ(1840-1926年)の庭は、フランス、ノルマンディー地方の入口の、人口500人ほどの小さな村ジヴェルニーにあります。ひっそりとした佇まいを想像したくなりますが、実は年間75万人もの人々が訪れる、モン・サン=ミシェルに次ぐノルマンディー地方第2の大人気観光スポットです。

さらには日本にも「モネの庭」が再現されているほどで、庭好きさんはもとより、多くの人々を魅了するモネの庭の魅力とは、どんなものなのでしょうか。モネの庭の2025年の最新の様子をお伝えします。
画家の夢の庭

画家モネが、家族とともにジヴェルニーの家に移り住んだのは1883年、彼が43歳の頃。戸外の自然の風景を描き続けてきたモネにとって、川の流れや林、牧草地に囲まれたこの地の自然は格好の画題となります。そして新たな情熱となったのが、庭づくりでした。方々に写生旅行は続けながらも、園芸雑誌を熟読し、園芸仲間と情報と苗や種を交換しあって没頭した庭づくりは、50歳になる頃にはさらに大々的に進められます。

ようやく画家として認められて財を成し、借家だった家と土地を買い取れるまでになったのです。庭師を何人も雇い、珍しい種苗を取り寄せて、理想の庭をつくり上げます。かつて農家だった建物とその敷地は、鮮やかな色彩が溢れる夢のような庭となり、亡くなるまでの43年間をここで過ごした画家の終の住処となったのです。
「花の庭」と「水の庭」

モネの庭は、大きく雰囲気の異なる2つの庭で構成されています。まず家の裏に広がるのは「クロ・ノルマン」(クロは囲まれた土地の意味)と呼ばれた「花の庭」。家屋の中央から庭の正面を貫く幅広い中央通路が印象的です。かつては並木道だったそうですが、モネは家近くの一対のイチイの大木を残して、すべて取り去ってしまい、モネの庭のシンボル的な存在でもある、バラが絡むアーチが続く明るいトンネルを作りました。

幾何学形の花壇がリズムよく並ぶ全体の構成はポタジェ(菜園)のようですが、これでもか、というほどにぎっしりとさまざまな草花が植栽された花の園です。

そして道路を挟んだ向こう側のエリアは、後になって土地を買い足し、近くを流れるエプト川支流の流れを変えて、睡蓮の池とフジに縁取られた緑の太鼓橋をポイントにした、日本風の「水の庭」をつくりました。

モネ没後、最後の直系の遺族だった息子の死に際して、残されていた作品や家と庭はフランス芸術アカデミーに遺贈されます。その頃の庭はすでに、手入れもなく失われかけていたのですが、1970年代から1980年にかけて最初の復元プロジェクトが始まり、庭を描いた作品や写真、モネの手紙や種苗の注文書などの資料をもとにした復元作業によって、輝くような本来の姿を取り戻しました。元通りというばかりでなく、世界中から訪れる観光客を配慮して、いつの季節でも見どころがあるようにと、復元を超えて季節をくまなくカバーするような植栽計画がなされています。
「花の庭」花々が咲き継ぐ春から秋へ

現在のモネの庭の開園は、毎年4月初めから10月末まで。季節の花々が主役の庭ゆえに、冬季は閉園になります。4月といえばフランスではまだ早春ですが、庭を訪れてみると、スイセンやフリチラリア、色とりどりのチューリップをはじめとする、華やかなスプリングエフェメラルたちの饗宴に、思わず目を奪われます。この時期はまだ花壇の構造もはっきりと見えているので、それぞれの花壇毎に色調がまとめられているのがよく分かるのですが、全体を眺めようとすると、それはまるでパレットに並べた絵具の色彩が一度に目の中に飛び込んでくるようで、圧倒されます。

そして5月、ひと月経つか経たないかの間に、すっかり様変わりした庭の、満開に近づくバラの下にアイリスやシャクヤクが咲く花風景はまさにゴージャス。自然な風景を好んだモネのバラの好みは、白やピンク系のオールドローズ、白モッコウバラや野バラなど。当時から栽培されている品種だけでなく、例えば当時は存在しなかったイングリッシュローズ、デヴィッド・オースティンの‘コンスタンス・スプライ’など雰囲気の合う現代のバラも植栽に加えられています。

そして夏から秋にかけては、ダイナミックにダリアやヒマワリが咲き、オレンジのナスタチュームが中央の園路を覆うというように、また違った花風景が展開します。いつの季節も豊かに咲き乱れる花々に囲まれて、うっとりと幸せな気持ちになってしまう、魔法がかかっているかのようです。

日本を意識してつくられた「水の庭」

幾何学構成の花壇の花々があふれ、その色彩に埋もれてしまいそうなほどの「花の庭」に比べると、「水の庭」は、常に微妙な変化を見せる水面と空と植物と織りなす、ぐっと落ち着いた空間です。
モネは浮世絵のコレクターで、家のなかには収集した浮世絵がたくさん飾られていたそうですが、池の外周を囲う竹林や、緑にペイントされた太鼓橋にフジの花やスイレンの花という、和を感じる植物のチョイスには当時流行したジャポニスムの影響がみられます。

自然風景のなかにある、特に光や色彩、天候や時刻による変化を捉えようとしたモネにとって、睡蓮池の水景は刻々と表情を変える光、水、空気までもを捉えるための、描き飽きることのないモチーフとなりました。晩年には白内障を患い、視力を失いつつあるなかで描き続けた睡蓮の連作は、抽象絵画の先駆けとして現代美術への扉を開くことになります。

遺族から遺贈された作品はマルモッタン美術館に所蔵され、この庭とアトリエで制作された最後の大作はフランス政府に寄贈されて、現在パリのオランジュリー美術館に特別に誂えられた展示室で観ることができます。

画家の庭の魅力

芸術家の庭は、造園家が設計するのとはまた違った自由な着想が魅力であることが多いのですが、モネの庭もその一つ。シンプルな構成のうえに、画家としての色彩感覚と、たっぷりの植物愛をこめて配置された過剰なまでの花々。庭師たちの手間暇惜しまない維持管理が、モネの庭を特別なものにしているのでしょう。また、モネの愛したノルマンディーの絶え間なく変化する空と光と空気感も、この空間を輝かせている重要な要素なのだと思います。
ジヴェルニーの村を散策するのもおすすめ

小さな村のなかには、お土産物やら、かつて芸術家たちが集ったレストランなどが幾つかあるほか、モネの家と庭からほど近くには、庭付きのジヴェルニー印象派美術館があります。印象派の歴史やその後の展開を紹介する美術館ですが、地元の星付きシェフがプロデュースする付属のレストランには庭に面したテラス席もあり、人混みを離れて緑のなかで昼食を楽しむにもおすすめです。繁忙期には予約したほうがよいでしょう。また、食事のあとに村を散策する時間があれば、教会やモネのお墓を訪れることもできます。

ジヴェルニー印象派美術館(英語)
https://www.mdig.fr/en/
レストラン・オスカーOscar(英語)
https://www.mdig.fr/en/plan-your-visit/restaurant/
ジヴェルニーへの行き方
・公共交通機関利用の場合は、パリのサン=ラザール駅より電車で50分ほど、最寄りのヴェルノン=ジヴェルニー駅下車、のちバス(所要30分ほど)かプチ・トランかタクシーでジヴェルニーの村へ移動。繁忙期には混み合ってすぐにバスに乗れないこともあるので、時間には余裕を持って移動するのがよさそう。
・車の場合はパリから1時間強。駐車場は村のなかのモネの家と庭の向かい側の他にも、外側に大駐車場があります。
・入場券は現地でも購入できますが、入口には常に長蛇の列ができているので、個人で見学に行く場合は事前にオンライン予約購入が無難です。オンライン購入済みの場合の入口は団体入口になりますので要注意です。
・パリからの日帰り観光バスツアーも多く出ているので、そちらを利用することもできます。
クロード・モネの家と庭
https://claudemonetgiverny.fr/en/
開園:2025年4月1日から11月1日まで
9:30-18:00 (最終入場5:30)
*繁忙期は大変混雑しています。個人で行かれる場合は、事前の入場券予約や、開館時間内のなるべく朝早くまたは夕方を狙うなど、工夫した計画をおすすめします。
Credit
写真&文 / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。
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