短い秋を最大限に楽しむ! ドイツ出身ガーデナーが選ぶ「日本の気候に合うグラス&宿根草」厳選ガイド
											Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Strauss, Friedrich
涼しい風が心地よい秋。庭に季節感を演出するなら、ススキやアスター、ソリダゴなどのグラスや秋に花咲くダイナミックな姿の宿根草がおすすめです。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんが、日本の気候に合って育てやすい、秋を感じさせる植物を厳選してご紹介。暮らしの中で見つけたその魅力とエピソードとともにご案内します。
目次
短い秋の到来

いつまで続くかと思われた夏の暑さや湿気が落ち着いて、ひんやりとした夜風が気持ちよい秋になりました。涼しく心地よい空気や、いろいろな形の雲が浮かぶ秋空など、眺めているだけでも楽しいですね。風がある日は、青空に伸びる鱗雲や気温の急激な変化からも実感することができます。
こうなってくると、早く暖かくならないかなという思いが湧き上がります。厳しい夏から厳しい冬へという間にあるはずの、穏やかでゆっくりとした移ろいが、はっきりとは感じられなかったからです。楽しい秋の時間がなく、真夏のピークから寒さと強風が厳しい冬へと、あっという間に過ぎていくように感じられます。
植物から感じる気候の変化

植物の中には、より低い気温を待ち焦がれ、秋や冬にこそ、その美しさや香りを存分に発揮するものもいます。
それを実感したのは、今年、自宅のある関東地域、湘南海岸近くから、義母のいる九州の長崎県九十九島近くまで旅したとき。家を出たときはキンモクセイが咲き始めた頃で、辺りには心地よい香りが漂っていました。ところが長崎に到着し、義母の庭の前に立つと、キンモクセイには花が1つも咲いておらず、つぼみさえありません。そのときは昨年の剪定時期が悪かったせいだと思い、気に留めませんでした。
ところがカキの木も同様、実がたった1つしか付いておらず、ほかに実っていた形跡もありません。ご近所の方に話を聞いてみたところ、今年は彼の庭でもほとんどカキは実っていないのだとか。ひょっとすると、今年の酷暑と乾燥のせいかもしれません。昨年も柿のなる光景を見ることができず、今回の旅行では義母と会うことと並んで大きな楽しみにしていたことの1つだったので、とても残念です。

この出来事は、これまで10年や20年、あるいはそれ以上のあいだ上手くいっていたやり方では、植物が開花したり結実して熟したりしなくなるかもしれないという危機感を、改めて思い知らせるものでした。気候変動は私たちの目の前に迫っており、どうにかして対処していかなければなりません。それぞれの庭によって適した解決策は異なり、常に観察して調整を続けていかなくてはならないため、終わりのないやりがいのある挑戦です。
さて、キンモクセイについては、義母の家に到着してから約1週間が経った現在、毎日何百もの花が咲いてかぐわしい香りを放っています。時にはただもっと辛抱強く待つ必要があるのかもしれませんね!
日本の秋を彩るグラス類のススキ

今月は、ススキの群落で有名な箱根の仙石原を訪れる機会にも恵まれました。ススキの穂がまだ少しずつ姿を見せ始めている頃で、残念ながら見頃にはまだ早すぎたため、ほとんど観光客もいませんでした。
こうした行楽地ではなくても、九州でも至る所にススキが伸び、空き地や手入れの行き届いていない場所、庭、そして道路と歩道の間のわずかな隙間まで、さまざまな場所で生い茂っています。日本では大都市から小さな村まで、道端のツツジの生け垣の隙間からススキが顔をのぞかせている光景を見ることができるのも面白いものです。
ススキは東アジアの広い地域に自生し、長い歴史と共に人々に深く親しまれてきた植物です。ドイツやヨーロッパでは、個人の庭や公共の公園でよく植えられるだけでなく、今では農作物としても利用されています。
ドイツにある実家からは、南東に約500メートル離れた小さな丘が見えるのですが、この丘には一面にススキが生い茂っています。丘の背後にある松林と、柔らかくなびく背の高いススキとが完璧なコントラストをなして、とても美しい景色になります。
このススキは農業用に植栽されたもの。以前この丘はトウモロコシ畑で覆われ、それより前はただの草が生い茂る広大な牧草地でした。半世紀ちょっと昔には、きっと丘の周りで牛たちがのんびりと草を食んでいたことでしょう。
農作物やガーデンプランツとして有用

農作物としてのススキは、春に収穫されます。大型のチョッパーで刈り取りが進むと、数日のうちに美しい景色はすっかり禿げ上がって空っぽに。風になびく葉や、長く伸びたススキの中でシカやウサギが隠れられるスペースもなくなり、すべてが地上約10cmの高さで刈り取られます。劇的に変わった景色の中で、背後の森が存在感を増し、高く大きく見えます。
こうして刈り取られたススキは、一例として圧縮してペレットなどに加工され、収穫物を乾燥させるペレットストーブの燃料として利用されています。ドイツでは、このようにバイオマス燃料としての利用が農家の間で進んでいますが、大型の暖房施設の燃料用に石油を購入する必要がなくなるため、大きな節約になります。
春から夏にかけてススキはもう一度伸びて、また翌年には収穫ができます。エネルギー消費やコストを抑えるサステナブルな方法ですね。

私の目には、ススキはまだガーデンプランツとして過小評価されているように映ります。葉をたっぷりと茂らせた大株のススキが、春先には丁寧に剪定されている光景を見ることもありますが、刈り取られた葉が大抵ビニール袋に詰められて可燃ゴミにされているのが少し残念です。
先日、小さなカッターで果樹の下に茂る30cmほどのススキを刈り込んでいる人を見かけました。毎日一部だけを刈り込んでいくので、なぜ一度に刈ってしまわないのか疑問に思いましたが、よく考えれば、あれはゴミ捨て場に捨てられるゴミ袋の量を計算していたのかもしれません。後日、ススキの美しい葉が詰まったゴミ袋がたくさん捨てられていました。
個人的な意見では、堆肥やマルチング材にもできるのに、捨てるなんてもったいない! オーストリアでは、マルチング材としてススキの葉を販売している専門の会社まであります。
秋に黄色い花を咲かせるソリダゴ

ススキと並んでもう1つ、さまざまな土壌条件や、グラス類のように生育旺盛なものの隣でも負けないほど丈夫な秋の植物があります。至る所で目に飛び込んでくる鮮やかな黄色のソリダゴです。
ドイツでは、ソリダゴはガーデンセンターやナーセリーなどで販売される人気の宿根草です。花屋でも切り花として人気で、秋のフラワーアレンジメントには欠かせない存在。しかしながら、ソリダゴの仲間であるセイタカアワダチソウ(ソリダゴ・カナデンシス)とオオアワダチソウ(ソリダゴ・ギガンテア)は、19世紀にヨーロッパに持ち込まれた侵略的外来種です。1950年代から中央ヨーロッパに広がり、ほぼあらゆる土壌や場所に適応して生育します。広大な地域を覆う繁殖力の強さから、ドイツを含む多くの国で忌避され、侵略的外来種に指定されています。もっとも、ほかの植物の開花が少ない時期に咲くソリダゴは、多くの昆虫やミツバチの食糧となるため、その存在を歓迎する人もいます。それに鮮やかな黄色の花は緑や茶色を主体とする秋の景色によくなじみ、明るい印象をもたらしてくれます。
ガーデニングで人気のソリダゴの種類

セイタカアワダチソウとオオアワダチソウという2種類のソリダゴは、ソリダゴ全体のイメージダウンに大いに貢献してしまいましたが、ソリダゴには侵略的ではなく、ガーデンでのよきパートナーとなれる品種もあります。ソリダゴ・ビルガウレアは、ドイツで環境に影響がないと評価されている種類の1つ。日本ではその中でも、アキノキリンソウがガーデンプランツとして人気です。

ドイツの有名な試験園では、‘ゴールデンシャワー’、‘クロス・オブ・ゴールド’、 ‘ゴールデンゲート’、‘イエローストーン’などといった素敵な名前の品種がいくつか試験されています。いずれも80~90cmと草丈が低く、ススキなどと合わせて鉢や庭に植えてもよく似合います。

面白い花として、「ソリダスター(x SOLIDASTER)」と呼ばれるソリダゴ(Solidago)×アスター(Aster)の交配種があります。SOLIDAGO x luteus ’Lemore‘(x Solidaster ‘Lemore‘)は、高さ60cmほどに収まるコンパクトな宿根草で、緑色の細葉に直径1cmほどのデイジーに似た花が集まる円錐花序をつけます。
アスターやシュウメイギクも秋の庭におすすめ

アスターも、ススキと合わせればケアが簡単で素晴らしい組み合わせになります。アスターは多くの異なる種からなる大きなグループで、高さや色、デザインの可能性において多様な魅力があります。花色は白、ピンク、紫、青、赤などさまざまで、草丈は20~200cm。一年草もありますが、ほとんどが多年草タイプです。アスター・トンゴレンシスやアスター・フリカルティーなどがあります。


シュウメイギクも育てやすいおすすめの植物。高さ1~1.5mに達する宿根草で、群れ咲くように成長します。細いながらもしっかりとした茎が葉の上に伸び、白またはピンクの花を咲かせます。冬に残るシードヘッドも素敵。白花品種の‘オノリーヌ・ジョベール’は、夏から秋にかけて咲く半八重咲きの純白の花が、植栽に美しく優雅な雰囲気を添えてくれます。

さまざまな気候の地域を旅するなかで、多くの種類の植物やその習性、さまざまな生育環境を体験したことで、お手本となる自然の美しさに、ますます魅せられるようになりました。今回スポットライトを当てたススキは、どこにでも見られる存在ですが、日常生活や歴史の中にあってススキを愛でる心は、日本では特に豊かで深いと感じます。
Credit
話 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -

エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。2026壁掛けカレンダー『ガーデンストーリー』 植物と暮らす12カ月の楽しみ 2026 Calendar (発行/KADOKAWA)好評発売中!
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