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【都会の秘境】目黒天空庭園へ! 高速道路の上に広がる驚きの空中庭園

【都会の秘境】目黒天空庭園へ! 高速道路の上に広がる驚きの空中庭園

都会の真ん中、高速道路の真上にある「目黒天空庭園」は、地上11mから35mに位置する、約7,000㎡の緑豊かな都市型オアシスともいえる場所。「近くを通るたびにずっと気になっていた」という、写真家でエッセイストの松本路子さんが今年春に訪れてみると、そこには想像以上の木々や花々が植栽されたまさに天空の庭園でした。日々の喧騒を忘れさせる、秘密の楽園へご案内します。

首都高速道路の真上の庭園

大橋ジャンクション
黒川の氷川橋付近から見た大橋ジャンクション外観。屋上が天空庭園となっていて、階段を上ると庭園に至るエレベーターがある。右手のクロスエアタワーの9階からもアクセスが可能だ。picture cells/Shutterstock.com

東急田園都市線で、渋谷の次の駅、池尻大橋駅近くにある要塞のような外観の建物は、地上から35mの高さにある首都高3号渋谷線と地下約35mの中央環状線を結ぶ大橋ジャンクション。空中庭園はこのジャンクションの屋上に2013年につくられた、約7,000平方メートルの都市緑地だ。ジャンクションがループ状なので、庭園も外寸175m×130mのドーナツ型の楕円形となっている。植栽は高木、中木、低木を合わせて約4,000本、地被類は73種、約30,000株を数えるという。

目黒天空庭園
庭園の案内図、現在地が分かるように何カ所かに設えられている。Henry Saint John/Shutterstock.com

庭園内での高低差が約24m、幅16mから24mで、1周は400m。10のゾーンに分かれ、少しずつ趣が違っている。バリアフリーで1周もでき、また、四阿(あずまや)やパーゴラのほか、至る所にベンチが設置されているので、散策に疲れたら座って木々や草花を眺めることもできる。昼食時には、そこかしこでお弁当を広げる人の姿が見られた。

目黒天空庭園
左/空から見た目黒天空庭園の全景。右/ゾーン別に色分けされた見取り図。(写真提供/目黒区)

ブドウ棚での収穫祭

目黒天空庭園「西口広場」
管理棟側から見た「西口広場」。

庭園には、4カ所の出入り口が設けられている。池尻大橋駅に近いアクセスを行くと、竹林の見えるアプローチから管理棟のある「西口広場」に至る。ここは低木植栽と花壇が主体の場で、信楽焼のブルーの縁石が印象的だ。

目黒天空庭園「コミュニティスペース」
3つのブドウ棚が並ぶ「コミュニティスペース」。

「西口広場」の隣の「コミュニティスペース」ではブドウ棚に葉が茂り始めていた。栽培されているブドウは、赤ワインに適した‘マスカット・ベーリーA’という品種で、9月に果実が収穫される。ここで収穫されたブドウに、山梨県のワイナリーで採れたブドウを加え、年間300 本のワインが醸造されるという。ブドウ棚は「目黒天空庭園栽培ガーデンクラブ」というボランティア団体のメンバーで管理され、収穫祭なども実施されている。

「コミュニティスペース」の野菜畑

目黒天空庭園の野菜畑
収穫時には子供たちの歓声が響く、野菜畑。

「コミュニティスペース」にはブドウ棚のほか、暮らしの中で親しまれている花木、そして野菜畑がある。畑には季節ごとにネギや、エンドウマメ、ジャガイモなどが植えられ、こちらも先述のボランティア団体の管理区域で、有機栽培を学ぶ場、子どもたちが収穫に訪れる食育の場となっている。

モッコウバラの咲くパーゴラ「くつろぎの広場」

目黒天空庭園
モッコウバラ、スイカズラ、ツキヌキニンドウなどのつる性植物が生い茂るパーゴラ。

散策路を行くと、つる植物に覆われた巨大なパーゴラが目に入る。4月末から5月初旬には、白色モッコウバラのほか、ツキヌキニンドウという名前の赤とオレンジ色の鮮やかな花を見ることができる。すっぽりと緑に覆われているので、陽射しの強い日でも快適にくつろぐことができ、テーブルでお弁当を広げる家族の姿が見られた。

モッコウバラとツキヌキニンドウ
左/パーゴラに咲いていた白色モッコウバラ。中・右/ツキヌキニンドウ。

「くつろぎの広場」の四阿と「あそびの広場」

目黒天空庭園
左/散策路の途中にある四阿。右/紫蘭の咲く道の先に続く「あそびの広場」。

高低差のある庭園だが、木々に囲まれているので、400mを1周するのがそれほど苦にはならない。疲れたらゆっくり休めるのが屋根のある四阿。その手前ではハナカイドウが開花していた。

目黒天空庭園

四阿(あずまや)脇の紫蘭(シラン)の花の先に広がるのが「あそびの広場」。歩道の左右に5つの小さな盛り土があり、「五山の築山」という日本庭園の造園様式だという。撮影の日には松の木の剪定が行われていて、手入れがよく整った庭園であることが納得させられた。芝生を囲む西洋式庭園と、松やカエデの葉が茂る日本庭園が混在しているのもこの場所ならでは。

目黒天空庭園
庭園では植栽の手入れが丁寧になされている。見事な日本庭園の佇まいだ。
ハナカイドウ
染井吉野とほぼ同じころに開花するハナカイドウ。

富士見台から富士を望む

目黒天空庭園
屋上庭園とは思えないほどの、濃い緑の木々が茂る「四季の庭」。

「四季の庭」の木々をくぐると「東口広場」に至る。ここは庭園の中で最も高い位置にあり、タワーマンションと目黒区の施設を併せ持つ、クロスエアタワーの9階からアクセスが可能だ。

目黒天空庭園
「東口広場」の入り口付近。クロスエアタワーのエレベーターで9階をめざすと、屋上とは思えない景色に遭遇する。

エレベーターホールの正面付近に設えられた富士見台からは、晴れた日には富士山を望み、大橋から三軒茶屋方面が一望できる。9階には目黒区立大橋図書館があるので、散策と読書の両方を楽しむ人もあるという。

おおはし里の杜

ここから見える田んぼや池のある空間は、換気所の屋上に作られた「おおはし里の杜」。多様な生き物が生息する緑地で、かつての目黒川周辺の自然を復元したものだという。年に数回一般公開される。

桜の開花リレー

サクラの開花リレー
左から時計回りに、染井吉野、シズカ桜、スルガ桜、オムロ桜、御殿場桜。開花リレーはほぼ1カ月続く。

庭園では季節ごとに咲く花が移り変わる。中でも4月の桜の開花リレーは、見ごたえがあるものだ。染井吉野から始まり、シズカ桜、スルガ桜、オムロ桜、御殿場桜(表記は庭園の名札から)と、約1カ月にわたり楽しむことが出来る。遅咲きのオムロ桜の前で記念撮影するイタリアからの観光客は、桜の季節に間に合ったと、満面の笑みを浮かべていた。

遅咲きのオムロ桜
京都の仁和寺の桜として知られる、遅咲きのオムロ桜。半八重の花姿が華麗だ。

染井吉野が咲く頃は、すぐ隣の目黒川沿いの桜も満開なので、中目黒駅から川沿いに20分ほど歩いて、近所の店で買い入れたお花見弁当をここで広げるというのもおすすめのコース。氷川橋通路からのアクセスが便利だ。

四季を彩る花々

花木
左から時計回りに、信楽焼の大鉢に植えられたオオデマリ、アセビ、ハクサンボク、トサミズキ。

芝生が広がる散策路の両側には、さまざまな木々や花が植栽されていて、人々が木陰のベンチでくつろいでいる。

目黒天空庭園の花木
左/「あそびの広場」に咲く、ハナズオウとオムロ桜。右/「くつろぎの広場」に咲く、源平しだれという名前の2色のハナモモ。

ホームページや、天空庭園のパンフレットには季節の花カレンダーが掲載されている。

木々や花には名札が付いているので、散策しながら珍しい植物に出会うことができる。桜、ハナカイドウ、ハナウメなど、4月の開花は見ごたえのあるものだった。初夏の庭園のこれからの開花も楽しみだ。

目黒天空庭園の花カレンダー
目黒区のホームページや目黒天空庭園のパンフレットに掲載されている花カレンダー(写真提供/目黒区)

都市緑化の大きなプロジェクト

目黒天空庭園
国道246号線側出入り口からのアプローチ空間。

高速道路の真上に7,000㎡の緑地を作り出したプロジェクトは、高い評価を得ていて、技術、緑化、デザインの各分野のコンクールで入賞している。周辺地域の環境対策と同時に、誰もが憩える場が提供されたこと、まちづくりの一環として、地域住民の参加がなされていることなど、称賛に値する事業だろう。ビルの屋上での緑化が進んでほしいと願っている身にとって、「天空庭園」散歩は、貴重な体験だった。

目黒天空庭園
管理棟横の小部屋には、空中庭園の航空写真のほか、築庭の過程が分かるパネルが展示されている。

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