- TOP
- ガーデン&ショップ
-
フランス

フランスも庭シーズン! ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル〜後編〜【フランス庭便…
歴史と現代アートが出会うロワールの古城 ショーモン城の城館の歴史は15世紀の城砦に遡り、16世紀のフランス・ルネサンス期はカトリーヌ・ド・メディシス、ついでディアーヌ・ド・ポワティエが城主になるなどフランス王室との縁が深く、預言者ノストラダムスが滞在した部屋なども見学できます。 その一方で、現在では現代アートセンターができて、アーティストインレジデンスなどを行っており、歴史的な見学コースと並行して、世界的な巨匠・若手作家を合わせたアート作品の展示が多数あります。 レジデンスに選ばれた作家が、城内の特定の場所を選んで構想・制作する作品は、一定期間の企画展示の時もあれば、恒久的な常設展示になることもあり、さまざまです。また、城に付随する 建物、例えばパトリック・ブランの壁面緑化の立体作品などがある旧厩舎も同様に、アート展示の場として活用されています。 ナチュラル&アーティーなイギリス風景式庭園 ところで、ショーモン城に庭園がつくられたのは、じつは19世紀も後半になってからでした。当時の城主はそれまで城の周りにあった村落をすべて、教会や墓地も含めてロワール河沿いに移します。著名造園家アンリ・デュシェンヌが、緩やかな芝生の丘陵に大樹が点在する、現在に続く広大なイギリス風景式庭園を設計しました。ロワール河を見晴らす庭園の城館近くに植えられた古いレバノン杉は、建物の石材の白色をより引き立てて見事な景観を作っています。 そして、この歴史的庭園は、歳月を経た大樹の数々だけでなく、現代アートのインスタレーションが散策路に点在するアート・ガーデンになっています。世界的に活躍する作家たちがこの庭園のために制作した作品は、散策がより印象深いものになるような、どれも場のエスプリに繋がった、人と庭、自然や時間との関わりに想いを誘うものが多いように思います。 各作品を訪ねつつ、森林浴もできてしまう気持ちのよいこの空間。かつては芝生がしっかり刈り込まれたクラシックな緑の風景でしたが、サスティナブルなメンテナンスが主流となってきた最近では、一部をワイルドフラワーの草原として残したりと、さらにナチュラル感が溢れる雰囲気に変化してきているのも興味深いところです。 フランスの城に欠かせないポタジェ(菜園)も素敵 さて、フランスの城に欠かせない庭といえば、果樹や野菜にハーブ、花々と盛りだくさんのポタジェ(フランス風の菜園)です。ショーモンシュルロワール城にも、もちろんポタジェが! こちらは歴史的というよりは、自由な遊び心が感じられる場所。 お洒落さは欠かせない、といった感じの造形的なパーゴラなどに、実用的な温室が入り混じるざっくり感もポタジェらしくていい感じです。春先から盛夏にかけてどんどん表情が変わっていくのも面白いものです。 新しい庭園パーク、グアルプ草原 そして、数年前から新たに加わった10ヘクタールほどのグアルプ草原(Prés du Goualoup)も見逃せません。パリ、チュイルリー庭園のリノベーションなどでも知られる造園家ルイ・ベネシュが設計したこの広大な公園スペースには、やはり現代アートのインスタレーション作品に加え、オールド・ローズやクレマチス、ピオニー(シャクヤク)、ダリア、アスターなどのプランツ・コレクションの植栽がなされています。 また世界の庭園文化からインスパイアされた、さまざまなスタイルの小さな庭があるのも魅力です。例えばイギリス、アフリカ、中国、韓国、日本などスタイルの異なる、いずれもコンテンポラリーなデザインのスモール・ガーデンが設えられていて、一歩進む度に驚きがあるような散策路が用意されています。 今年はさらに、南仏コート・ダジュールのガーデンデザインの大御所、ジャン・ムスがデザインした地中海風のスモールガーデンが増えていました。オリーブやサイプレスと白砂利のコントラストがあると、一気に地中海っぽい雰囲気が作れるなあ、など、庭の雰囲気作りのアイデアの参考になるTipsもたくさん見つけることができるでしょう。 多彩なカフェやレストランも魅力的 さて、一日中庭や城を見て回っていたら、さすがにお腹も空いてきます。当然、敷地内にはいくつかカフェ・レストランがありますので、ご安心を。アートやガーデンに関する本を閲覧しながら休憩できる小さなライブラリー付きのカフェや、オープンエアでオーガニックのローカルフードを提供するレストランの傍らにある、ガストロノミー・レストランでは、毎回のガーデンフェスティバルのテーマからインスパイアされるメニューを提案(こちらもアーティスティックなプレゼンテーションかつ美味しくておすすめです。ハイシーズンは要予約)。 来訪者が気分に合わせて使い分けができるような、気の利いたこだわりのあるセクションで、どれをとっても心地のよい時間が過ごせます。 進化し続けるガーデン&アートの聖地 季節によって庭園の表情は大きく変わりますが、ショーモンシュルロワールではアート&ガーデンフェスティバルの毎年異なるテーマからの新たな創造に触れることができるのが魅力です。 また常設の展示や庭園の中にも常に変化があって、訪れる度に必ず新たな発見があるのがすごいところ。今年はさらに、敷地内に新たなホテルレストランが加わるということで、年々充実していくショーモンシュルロワール、何度でも訪れたくなる充実のシャトー&ガーデンです。 ●『ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル~前編~』も併せてお読みください。
-
フランス

フランスも庭シーズン! ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル〜前編〜【フランス庭便…
アートと自然が出合うロワールの古城、ショーモンシュルロワール城 15世紀以来の歴史をもつフランス王家に縁の深いショーモンシュルロワール城に、現在に続く英国風の庭園が作られたのは19世紀になってから。この城の面白いところは、歴史的であるばかりでなく、現代においてもどんどん進化している点です。 城館は現代アートセンターとなって、若手や国際的な巨匠の作品制作や展示の場になり、庭園にも数多くの一流の現代アートのインスタレーション作品が設置されます。 また、毎年春から秋にかけての約7カ月にわたり、フランス最大規模のガーデンフェスティバルが開催されるなど、アートと自然を結ぶクリエイティブな活動が常に注目される、非常に魅力的な場所なのです。 30周年を迎えた老舗国際ガーデンフェスティバル 今年で30周年を迎える、ショーモンシュルロワール城の国際ガーデンフェスティバルは、多い年には約53万人もの入場者を集める人気のガーデンショーです。毎年異なるテーマに沿って公募された、300件を超える応募作品の中から選ばれた二十数個の庭デザインが、それぞれ約200㎡強の区画のショーガーデンとして作庭・展示されます。 城の庭園の一角に位置するショー会場は、敷地の庭園や森林とシームレスにつながっており、自然な雰囲気の中でのどかな散策を楽しみつつ、ショーガーデンの見学ができるのも大きな魅力です。 若手庭園デザイナーの登竜門 応募書類は匿名で審査されます。フランスでは若手の庭園デザイナーの登竜門として定評あるガーデンショーで、また庭園デザイナーや造園家ばかりでなく、アーティストや建築家など他分野のクリエーターたちとの混合チームでの作品なども多く見られるなど、開かれた雰囲気のショーでもあります。 今年の出展者の顔ぶれは、フランス、イギリス、ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリア、チェコ、スロバキアのほか米国からも。コロナ禍以前には毎年、日本や中国、韓国などアジアからの出展もありました。ヨーロッパ地域が多いながらも国際色豊かです。 出来上がったガーデンデザインには、さらなる審査があり、全体的なクリエイションのクオリティ、アイデアの斬新さ、植栽のハーモニーなど、さまざまな基準で選ばれるいくつかの賞が用意されており、授賞式は6月に行われます。 国際的な著名造園家の招聘 また、30周年という節目の年ゆえ、ショーガーデンにカルト・ヴェールと名付けられた自由裁量の招聘枠が加えられ、キャスリーン・グスタフソンやジャクリーヌ・オスティといった、国際的な大御所ランドスケープ・アーキテクトがデザインした小さな庭が見られるのも、今年の面白いところです。 今年のテーマは「理想の庭」 さて、毎年異なるフェスティバルのテーマは、時代のトレンドを反映したものが多いように思われます。30周年を迎える今年のテーマは、ズバリ「理想の庭」。 都市化がこれ以上ないほど進み、地球温暖化が目前の問題となっている現在、人と自然の関係性から見た「理想の庭」とはどんなものなのか? 癒やしの空間、または安心安全な野菜や果物を育てるポタジェ、あるいはアートと同じような価値を持つ空間かもしれない? 「理想の庭」からインスパイアされる、新たな演出方法や素材や技術を用いて表現する庭とはどんなものだろうか? みなさんなら、どんな庭を想像しますか? 季節を追って変化する植栽デザイン さて、このガーデンショーの大きな特徴は、長期にわたる開催であること。春から晩秋にかけて約7カ月にわたって開催されるため、ロンドンのチェルシーガーデンショーなど、数日間の開催期間中に最高に完成された姿のガーデンを演出するガーデンショーとは異なり、季節の変化に合わせて、成長し変化する植栽を工夫しなければなりません。 春先と盛夏、または晩秋では、同じショーガーデンでも植栽次第でその表情が大きく変わっていくのも面白いところです。訪れる園芸愛好家にとっては、変化していく植物の姿をそのまま見られるので、自宅の庭づくりの参考にしやすいという利点もありそうです。ちなみに園内のガーデニング関連のショップでは、植物の種子や苗を購入することもできます。 見学を充実させる豊かなアメニティ このように、ガーデンショーの展示をゆっくり眺めるだけでも軽く半日は楽しめますが、隣接するイギリス式庭園や、城や旧厩舎の展示、ポタジェ、クレマチスなどのプランツコレクション、さらには隣接するグアルプ公園の異文化からインスパイアされたさまざまなガーデン……などなど、全部を見て回ろうとしたら、一日では足りないほど。幸い素敵なレストランやカフェも充実しており、丸一日、大満足で過ごすことができます。 敷地内のほかのガーデンについても、また次の機会にご紹介できたらと思います。 ●ショーモンシュルロワール城・国際ガーデンフェスティバル(後編)は近日公開!
-
大阪府

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪36 大阪「L’lsle-sur-la-Ring(リルシュルラリング)」
異空間にワープできる シャビ―で愛らしい空間 湾岸に通じる幹線道路(府道40号)に面した、緑に覆われるフェンス…その中に小さなショップ「リルシュルラリング」があります。店に一歩足を踏み入れると一気に独特な世界観に引き込まれ、外の喧噪を忘れてしまいます。 ショップは、フランス・プロヴァンス地方にある『L'lsle-sur-la-Sorgue(リルシュルラソルグ)』という骨董市で有名な街をイメージしてつくられました。「骨董市では、アンティークから日用品まで、さまざまなものを扱う店が並びます。骨董市に来た時のようなワクワクを感じていただきたいですね」とオーナーの伊丹雅典さん。 2004年にオープンし、18年目を迎える「リルシュルラリング」。ショップは伊丹さんがフランスのことをよく調べた上で自らデザインを起こし、工務店の力を借りながらつくり上げたもの。本格的な資材を使用し 、控えめなカラーで雰囲気を高めながら植物をうまくレイアウトしています。店のこの雰囲気を我が家で再現してほしい! と、庭づくりも依頼されることが多く、火・木曜日は、伊丹さんの庭づくり(デザイン・施工)の日となっています。 建物からせり出す軒下の構造物は、ヨーロッパ風の構造物や庭を手掛けるユメミファクトリー(京都府・亀岡市)と一緒にしつらえたもの。甘さを抑えつつ、どこかメルヘンな感じもある独特な空間です。吊り下げたアイアンのライトが、ほんのりうす暗い空間の雰囲気をぐっと高めています。 ていねいにしつらえられた コーディネートも見応え抜群 花苗売り場はアンティークレンガを多用したナチュラルな雰囲気の空間です。高さに変化をつけたり、視線をあちこちに振るような仕掛けを盛り込んだりして、小さな空間ながらも見せ場がたくさん。 伊丹さん以外、スタッフ5名は全員女性で、コーディネートは繊細でエレガント。買い物カゴは店の雰囲気と調和するバスケットを使用するなど、細やかな配慮が感じられます。 空間に変化を生むため細長いテーブルをあえて斜めに置き、立体的にコーディネート、パーティーを思わせるにぎやかなシーンに。「こまめにマイナーチェンジを重ねていますが、飽きがこないように年2回ほど大きくレイアウトを変えています」。 「L'lsle-sur-la-Ring(リルシュルラリング)」が提案する 寄せ植えアイデア集 店内のあちらこちらで見られる、小花が愛らしい寄せ植えをご紹介します。いずれも軽やかで透明感にあふれる花合わせが魅力的。 【バスケットに】 【ラウンドの鉢に】 【オーバル・長方形など幅広のコンテナに】 【ハンギングタイプ】 温かみあふれる屋内売り場 ぬくもりあふれる建物内は、コンテナや雑貨売り場。「おうちっぽく落ち着いた雰囲気にしています」と伊丹さん。 小さなコンテナや観葉植物、多肉植物、オーナメント、香りのアイテムなど多様な品々が、物語を紡ぐようなディスプレイで提案されています。 木製の階段を上がった2階は大鉢の観葉植物が並び、インテリア的要素の強い空間。さほど広くはありませんが、3つのシーンで構成されています。 グレイッシュに塗られた8畳ほどの小部屋では、シャビーシックなアイテムを集めた新たな異空間を展開。マントルピースやアンティークベンチを使い、フランスの本に出てくるようなシーンをつくっています。 シックなコーナーの反対側はがらりと趣が変わり、白いノーブルなシーンが広がります。ここにはレース小物やカーテンが多数並び、ソフトな雰囲気が漂います。 異なる趣のシーンを狭い空間の中に展開していくコーディネート術はさすが。ここでは、アンティークの階段の手すりを使って、シーンを切り替えています。 伊丹さんのイチオシ ショップオリジナル鉢 ショップでペイントしている素焼き鉢は、どんな植物にもしっくり合うおすすめのアイテムです。カラーやロゴは季節によって変わります。色や文字などは、要望に応じてフレキシブルに対応してくれるそう。 フランスの片田舎を訪れたような趣と愛らしさをぎゅっと詰め込んだショップ「リルシュルラリング」。小旅行をしているような非日常的な時間を楽しませてくれます。ぜひ訪れてみてください。「アクセスは、阪神高速4号湾岸線岸和田北ICより車で約10分。JR阪和線久米田駅より徒歩約15分。 【GARDEN DATA】 L'lsle-sur-la-Ring(リルシュルラリング) 大阪府岸和田市箕土路町2-256-1 TEL: 072-440-2887 営業時間10:00~17:00 定休日:毎週火曜(祝日の場合は営業) https://www.llsle-sur-la-ring.com/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
-
北海道

北の大地・北海道の桜【松本路子の桜旅便り】
北の桜、‘オオヤマザクラ’ 遠くに霞む山脈に向かい、まっすぐに伸びる道。その両端の桜並木の見事なこと。北の大地、北海道ならではの雄大な景観だ。この桜に出会いたいと、数年前、北海道日高郡新ひだか町の静内二十間道路(しずないにじゅっけんどうろ)を訪れた。 静内二十間道路の桜並木は、主に‘オオヤマザクラ’で成り立っている。5月初旬に咲く‘オオヤマザクラ’が終わるころ、一週間ほど遅れて‘カスミザクラ’ ‘ミヤマザクラ’が開花する。いずれも日本に分布する野生の桜10種に含まれ、主に寒冷地や山岳部に生育する種類だ。街路樹など、低地で見られるのは北海道ならではで、まさに北の桜といえる。 ‘オオヤマザクラ’は‘ヤマザクラ’より花弁が大きく、花径が3~4cmあるので、この名前がつけられた。雪や寒さに強いので、‘染井吉野’が育ちにくい北の地域では、桜といえば‘オオヤマザクラ’を意味する。北海道に多く見られることから、「蝦夷桜(えぞざくら)」とも呼ばれる。まれに白色の花が見られるが、ほとんどが紅色なので、「紅山桜(べにやまざくら)」とも称され、満開の季節には山が薄紅色に染まるという。 樹高は20~25mほどで、花の終わり頃に紅褐色の葉が伸び始める。幹や枝の樹皮は紫褐色で光沢があることから、東北地方では昔から樺細工として、工芸品に用いられてきた。 静内二十間道路の桜並木 7kmにわたる直線道路の両側には、約2,200本の桜が連なっている。道路はかつてあった宮内省所管の新冠御料牧場を視察する皇族のために、明治36年(1903年)につくられた。当初は中央道路と称されたが、幅が二十間 (約36m)あることから、いつしか二十間道路と呼ばれるようになった。 桜が植栽されたのは大正5年(1916年)で、当時の御料牧場の職員が近隣の山々から木を移植し、3年の歳月をかけて完成させた。現在ほとんどが樹齢50年から100年の古木で、威風堂々とした姿を見せている。 明治初期、日高地方では野生馬が群れをなしていた。そうした野生馬を集めて放牧したのが産馬改良のための牧場の始まりで、町内には現在も牧場が点在し、優駿・競走馬を多く輩出している。桜並木を馬に乗った人が通り過ぎるのも、この地方ならではの光景だ。 花のトンネル 二十間道路のほぼ中間地点に、牧場に続く脇道がある。そこでは‘オオヤマザクラ’の大木が枝を伸ばし、花の回廊を形作っている。私が訪れたのは、花の盛りをやや過ぎた頃だったが、薄紅色の花と若葉の紅褐色が重なり、夕日に照らされた様子は、何とも言えず幻想的だった。 北海道の桜 ‘カスミザクラ’は、本州、四国、九州の低山地に広く分布する野生の桜だが、北海道では公園や街路に植栽されている。2~3cmのやや小さめの花を枝一面に咲かせ、遠目には霞がかかったように見えるので、この名前がつけられた。葉や花柄にうぶ毛が見られるので、「毛山桜」とも呼ばれる。 ‘ミヤマザクラ’は、おもに山岳地帯の高所に分布する野生の桜だが、北海道では5月から6月にかけて低地でも開花する。2cmほどの小さな花が房状に見られ、葉が完全に開き切ってから花がつく特異性がある。 ‘タカネザクラ’は、標高1,500~2,800mの高山に分布し、「峰桜」の別名がある。2~3mの低木で、枝が地表近くを水平に伸びることもある。標高の高いところでは夏に開花し、登山者は季節外れの花見を楽しむことができる。私にとっては出会うことができない、まさに「高嶺の花」だったが、静内の桜舞馬公園で開花している姿に、奇跡的に遭遇することができた。 ‘千島桜’は、根室市が開花予想の標本木に採用している桜で、‘タカネザクラ’の変種とされる。明治時代に国後島から苗が運ばれ、当初は「国後桜」と呼ばれていたが、根室市の清隆寺に移植されたことをきっかけに‘千島桜’と名前が変えられた。今では広く植栽されるようになり、5月下旬に開花することから、日本で最も遅く低地で見られる桜とされている。 札幌で出会った桜 静内を訪れた帰路、札幌に立ち寄った。市の中心部に位置する大通公園に‘カスミザクラ’と‘ミヤマザクラ’が開花していると聞きつけたからだ。‘ミヤマザクラ’はまだつぼみだったが、満開の‘カスミザクラ’に出会うことができた。 大通公園から徒歩で、北海道大学植物園に向かった。ここは明治10年(1877年)に、当時札幌農学校の教頭だったウィリアム・クラーク博士の進言でつくられた農園を前身とする歴史ある植物園。13.3ヘクタールの園内には、北海道の自生植物を中心に、約4,000種類の植物が育成されている。ビルが立ち並ぶ都市の中にあって、巨木や札幌の原始の姿に出会える貴重な場所だ。また、北方民族が育てる植物を、その文化とともに紹介するユニークな試みも行っている。 サクラ林では‘オオヤマザクラ’の古木が開花し、‘タカネザクラ’が高山での姿に近く、地表を這った姿で咲いている様を見ることができた。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 二十間道路桜並木(新ひだか町HP) 住所:北海道日高郡新ひだか町静内本町5-1-21 電話:0146-43-1000 HP: https://www.shinhidaka-hokkaido.jp/ 北海道大学植物園 住所:北海道札幌市中央区北3条西8丁目 電話:011-221-0066 HP: https://www.hokudai.ac.jp/fsc/bd
-
フランス

フランスの城で春のガーデニングフェア開催! ポタジェにも注目の「サン=ジャン=ド=ボールギャール城」【…
専門ナーサリーが一堂に集まる貴重な機会 年2回、春夏の週末に城の庭園内で開催されるこのガーデニングフェアには、フランス内外の各種ナーサリーや園芸ツールなどを扱う200を超える専門店が出展します。タイミングによって花の咲く様子が見られる草花もあれば、そうでないものもありますが、出展ナーサリーの扱う植物は安定的に質が高く、信頼して買い物ができると園芸愛好家の人々に好評。 特に、各地に散らばっているナーサリーをそれぞれ訪ねるのは園芸ファンといえどもなかなか大変。また、バラに限らず、シャクヤクやアジサイ、アイリス、アリウム、ダリアあるいはハーブ類、果樹類や紅葉する樹木類など、さまざまな異なる得意分野を持った地方の専門ナーサリーが一堂に集まるガーデニングフェアは、その場での買い物はもちろん、気になった植物やナーサリーをメモして後日の注文にも生かせる、貴重な機会となっています。 リラックスした心地よい雰囲気が魅力 また、このガーデニングフェアの魅力は、なんといっても会場が城の庭園の中であること。ゆったりとした木々や草地といった緑に囲まれた中でのガーデニングフェアは、そぞろ歩きをしているだけでもエネルギーチャージができる場所。自分の庭の一角に置いた時の雰囲気を容易に想像できるガーデンツールの展示など、見ているだけでも楽しいものです。 春のガーデニングショーの注目株は? 今の時期、バラやシャクヤクは、展示用に早く咲くようにハウスで栽培されたもの以外は、基本的にはようやく葉っぱが出始めているところ。でも春からのガーデニングの仕事始めに、早速定植することができるので、苗木選びもリアリティがあって楽しいものです。ハーブ類の栽培もこれからがベストタイミングですし、ダリアの球根なども、夏に向かってこれからが植えどきです。逆に秋のフェアでは春球根が主になるなど、季節によって品揃えは変わりますが、それは季節感の味わいでもあります。 ちょっと休憩、ランチどころは? ガーデニングフェアといえば、フード・トラックやレストランも欠かせません。いつもは青空レストランが城の敷地の裏側に設置されるのですが、今年は悪天候の日もあったため、レストランスペースはテントの中に。しかし、通常もっともよく見られるのが、サンドイッチなどをフードトラックで購入し、あるいは自宅からランチを持参して、城館の正面の絶景を眺めながら食べたり、ポタジェ(菜園)でピクニックをする人々の姿です。この、人気のピクニック・スペースにもなっているポタジェのほうも覗いてみましょう。 17世紀のデザインを伝える、花咲く歴史的ポタジェ ガーデニングフェアの絶好のランチスペースにもなっているポタジェ。じつは17世紀のフォーマルガーデンスタイルの姿を今日に伝える、貴重な歴史的庭園でもあります。 かつては城内に暮らす数十名の人々の自給自足のための野菜・果物、そして花々を栽培する場であったこのポタジェ、現在は、昔野菜などの一般的には栽培されなくなった希少種を中心とした野菜や、季節を通じて次々と入れ替わり咲き乱れる花々が栽培され、「花咲くポタジェ」として愛され続けています。 こうした、実用(野菜果樹栽培)とオーナメンタル(花々)がバランスよく組み合わされた姿は、まさにフランスのポタジェガーデンの魅力といっていいでしょう。 クレマチスやバラが這う石壁に囲われた約2ヘクタールほどの面積の中央部分が、フランスの昔ながらの野菜など、希少種を栽培する野菜畑。真ん中の丸い池の水は、ポタジェの散水にも利用されます。 中央の野菜畑は、リンゴや洋ナシといったエスパリエ仕立ての果樹で区切られ、また春先のチューリップやスイセンに始まり、アリウムやシャクヤクやバラ、アイリス、と季節を追って次々と入れ替わり、3月から11月までさまざまな花が咲き乱れるボーダーに囲まれています。庭園内とポタジェを合わせて、全体で10万球もの球根が植えられているのだそう。 緑が瑞々しい果樹園コーナーと珍しいブドウの温室 ポタジェの一画を占めるデザインも素敵な温室は、ブドウ栽培用の珍しいもの。その奥にはリンゴなどの果樹が植えられた草地が広がります。ガーデニングフェアが開催されている昼どきには、果樹園の草地や、南向きの日差しが暖かい温室近くに、ピクニックする人々がどんどん集まってくるのが微笑ましい。 私もピクニックしたい気持ちはやまやまながら、諸事情によりこの日は叶わず。絶景ポイントで風に吹かれながら、ノルマンディー風タルトとカフェをいただいたのみ(しかも写真は撮り忘れ)でした。それでも十分ほくほく満足してしまうガーデニングフェアです。 どの季節にもそれぞれの良さがいっぱいの歴史的ポタジェの散策が楽しめて、かつ、フランスの日常生活の中に根付くガーデニング周りの様子がダイレクトにうかがえるのが、このフェアの一番楽しいところです。
-
神奈川県

古都・鎌倉ゆかりの桜【松本路子の桜旅便り】
‘静桜’に会いたくて鎌倉へ 奈良の吉野山で源義経と別れた白拍子・静御前は、源頼朝の追っ手に捕らえられて鎌倉に送られた。吉野山で2人が数日間隠れ住んだ吉水院(現吉水神社)の書院について綴っていて、鎌倉に‘静桜’という名前の桜が植えられたという話を思い出した。鶴岡八幡宮の一角に咲くという‘静桜’を目指し、今年(2022年)4月、鎌倉を訪れた。 鶴岡八幡宮の流鏑馬(やぶさめ)馬場、東の鳥居近くにある‘静桜’は、満開を迎え、やや花の盛りを過ぎていたが、楚々とした花姿で迎えてくれた。静御前は鶴岡八幡宮で、源頼朝や北条政子を前にして、義経への想いを今様で詠い、舞ったことで知られる。 「よしの山 峰の白雪ふみ分けて いりにし人の あとぞこいしき 」 「しづやしづ しづのをだまきくりかえし 昔を今に なすよしもがな」 義経が吉野山の奥の女人禁制の山に落ち延び、別れざるを得なかった心境と、繰り返し自分の名前を呼んだ愛しい人と過ごした時に戻りたい、との切々たる思いが溢れた歌だ。 頼朝はこの歌に激怒したが、政子がとりなしたという話が『吾妻鏡』に残されている。『吾妻鏡』は北条氏側の記録書なので、史実は定かではないが、静御前の命が絶たれなかったのは事実のようだ。彼女のその後には諸説あり、そのひとつが奥州に向かった義経の後を追ったが、義経が討たれたことを知り、旅の途中で池に身を投げたとするものだ。 福島県郡山市には静御前を祀る「静御前堂」がある。亡くなった静御前を憐れんだ里人が塚を設け、江戸時代に、その場所にお堂が建てられたのだという。堂内には静御前の木像が安置され、近くには同伴した乳母や従者の碑が建っている。堂の傍らには、‘静桜’、‘義経桜’と名づけられた桜が植えられ、毎年3月に「静御前堂例大祭」が執り行われる。鎌倉の‘静桜’は、2005年にここから移植されたものだ。静御前の儚い生涯と悲恋の物語は、桜とともに今に語り継がれている。 ‘実朝桜’と歌碑 ‘静桜’の隣には‘実朝桜’が 植えられている。源実朝は頼朝の二男で、鎌倉幕府三代将軍。武家同士の権力争いの中、鎌倉八幡宮の境内で若くして暗殺された人物だ。歌人としても知られ、百人一首では「鎌倉右大臣」と称され、自作集に『金槐和歌集』がある。桜を詠んだ歌も多く、‘実朝桜’の傍らには、歌碑が建っている。 ‘実朝桜’は2011年に神奈川県秦野市から移植された八重桜。神奈川県秦野市には実朝の首が葬られた御首塚(みしるしづか)があり、毎年11月に「実朝まつり」が開かれている。 鶴岡八幡宮の桜 ‘静桜’と‘実朝桜’が植樹された鶴岡八幡宮は、源頼朝が開いた鎌倉幕府とともに始まった。頼朝の祖先が由比ヶ浜に祀った氏神を現在の地に移したのが、治承4年(1180年)。以来、鎌倉の守り神、武士の守り神として崇められてきた。 境内には静御前が舞ったとされる若宮回廊跡に舞殿(まいどの)が建てられ、毎年4月に開催される「鎌倉まつり」では、雅楽とともに「静の舞」が奉納される。 鶴岡八幡宮の参道、若宮大路の段葛(だんかずら。一段高く築かれた歩道)には、‘染井吉野’の並木が続く。境内の桜も数多く、なかでも‘オオシマザクラ’の古木が目につく。‘オオシマザクラ’は、伊豆大島を中心とした伊豆諸島に分布する野生の桜だが、伊豆半島や三浦半島の海岸線にも自生している。室町時代に関東武士によって京都に運ばれた‘オオシマザクラ’が、数多くの桜の栽培品種を生み出すもととなった。鎌倉由来の桜‘桐ヶ谷(きりがや)’‘普賢象(ふげんぞう)’は、‘オオシマザクラ’が突然変異して生まれた桜で、こちらも古くから知られている。 ‘桐ヶ谷’という名前の桜 ‘桐ヶ谷’と名づけられた桜には、‘御車返(みくるまがえし)’ ‘八重一重’という別の呼び名がある。‘桐ヶ谷’は鎌倉・材木座にあった地名から、‘御車返’は車上の2人が、花が八重か一重か言い争って車を引き返したという故事から、‘八重一重’は一本の木に八重と一重の花が同時に咲くことから、とされる。 ‘御車返’は、京都に原木のある‘御所御車返’としばし混同されて語られるが、こちらは後水尾天皇が花の見事さから車を引き戻したとされるもので、別の栽培品種である。 極楽寺の桜 極楽寺に‘桐ヶ谷’の古木が1本あると知り、訪ねた。寺の山門から本堂に向かって‘染井吉野’の並木路が続く。本堂の手前では‘桐ヶ谷’が大きく枝を広げていた。ここでは‘八重一重咲き分け桜’との案内板が掲げられており、その名の通り、同じ木に一重と八重の花が咲いていた。北条時宗が手植えした桜の株から発生した木だとの説明があり、それによると‘桐ヶ谷’は鎌倉時代中期から存在していることになる。花は数輪だけだったが、数日後に再び訪れ、一面に開花した桜を見ることができた。 ‘普賢象’という名前の桜 日本最古の八重桜である‘普賢象’。白色の花弁の中央から太い雌しべが2本突き出ているさまを、普賢菩薩が乗る白象に見立ててこの名前がつけられた。原木は鎌倉の普賢堂にあったとされ、別名‘普賢堂’。室町時代には京都に伝わっていて、室町幕府三代将軍、足利吉満がこの桜を愛でたという記録が残されている。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 鶴岡八幡宮 住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-31 電話:0467-22-0315 HP:https://www.hachimangu.or.jp 極楽寺 住所:神奈川県鎌倉市極楽寺3-6-7 電話:0467-22-3402 HP:http://www.trip-kamakura.com/place/135.html(鎌倉観光公式ガイドHP)
-
東京都

東京・伊豆大島の桜【松本路子の桜旅便り】
野生の桜‘オオシマザクラ’ 日本国内には10種類の野生の桜が分布している。そのうちの一つが‘オオシマザクラ’だ。伊豆大島を中心とした伊豆諸島が主な自生地で、伊豆半島、房総半島、三浦半島など、海岸沿いの暖かい地方にも生育している。 ‘オオシマザクラ’の開花は4月上旬で、3~5cmの白色の花をつけ、桜には珍しくかすかな芳香がある。開花と同時に緑色の若葉をつけ、赤みがかった若葉の‘ヤマザクラ’や、花だけが先に出る‘染井吉野’との違いがある。 伊豆半島の南端で育った私にとって、‘オオシマザクラ’は‘ヤマザクラ’と同様に、なじみのある桜だ。自宅のあった熱帯植物園の裏山で木に登り、口いっぱいに桜の実をほおばった。黒く熟した実は甘酸っぱく、その味の記憶が今も残っている。 伊豆大島への旅 ‘オオシマザクラ’をその故郷である伊豆大島で見たいと、桜の季節に旅立った。東京・竹芝桟橋から高速ジェットで約1時間45分。島に近づくと、白い霞のような木々が見えてきた。船から見ると、桜が海岸線に沿って分布しているのがよく分かる。 伊豆大島は伊豆諸島最大の島で、都心から約120kmの洋上に位置し、行政区域は東京都大島町だ。下船して海岸線の桜を見ながら向かったのは、都立大島公園内の植物園。ここは椿園で知られるが、‘オオシマザクラ’の植栽も豊かで、寒咲き、八重、旗弁を持つ旗桜など、珍しい種類が揃っている。 樹齢800年の‘オオシマザクラ’ 大島を訪ねたらぜひ行きたい場所があった。樹齢800年といわれる桜の古木のあるところだ。島の北東部泉津地区の山中のその木は、幹の周囲6mの大木だが、主幹は倒れ、龍が地面にのたうっているような姿をしている。倒れてはいるが、太い幹から伸びた3本の若い幹に花をつけていた。ほとんど朽ちているように見えるが、根は地中に伸び、新たな息吹を生み出しているのだ。実際に古木に向かい合うと、その生命力に圧倒された。 かつては島に向かう船がこの桜を目印に航海をしたというから、かなりの高木だったのだろう。島の人々は親しみを込めて、この桜を「サクラッ株」と呼んでいる。 「里桜」の親として 野生の桜に対して栽培の桜を「里桜」と呼ぶことがある。植物学上では‘オオシマザクラ’由来の園芸品種を総称して「里桜」としている。園芸品種の中で‘オオシマザクラ’を片親に持つ桜は数多い。 ‘オオシマザクラ’が変異した桜に、鎌倉で発見された‘御車返し(桐ケ谷)’ ‘普賢象’などがある。‘オオシマザクラ’は鎌倉時代に関東の武士によって京都に運ばれた。京都では平安時代より桜の交配技術が進んでおり、この桜を片親としていくつかの新種が生みだされた。江戸時代になるとさらに交配技術が進み、‘関山’ ‘一葉’ ‘白雪’など、現在見ることができる八重桜のほとんどが誕生している。 江戸の末期に生まれた‘染井吉野’も、‘オオシマザクラ’と‘エドヒガン’の種間雑種と考えられている。こちらは江戸の染井村から「吉野桜」として売り出され、明治期に全国的に広まると‘染井吉野’と名づけられた。 桜餅の葉 ‘オオシマザクラ’の花にはほのかな香りがあり、葉を塩漬けにすると香りが際立つ。葉は大きく、産毛が少ないので口当たりもよいことから、塩漬けの後、桜餅に用いられるようになった。「餅桜」の別名で呼ばれるほどで、桜餅のほんのりとした香りは‘オオシマザクラ’のものだ。 現在、桜葉の塩漬けの約7割は、伊豆の西海岸の町で生産されている。葉の収穫時期は5~8月で、樽に塩漬けしてほぼ半年寝かせると、芳香成分のクマリンが発散されるのだという。 木の成育が早く再生力が強いことから、木炭燃料として雑木林に植えられてきて、「薪桜」とも呼ばれる。また浮世絵の版木や建材にも用いられた。そうした実用性に加え、純白に近い、凛とした花姿に惹かれて、この桜を愛でる人も多い。 *植物学の慣例に従い、野生の桜の名前をカタカナで、栽培品種を漢字で表記しています。 Information 都立大島公園 住所:東京都大島町泉津福重2 電話:04992-2-9111 HP: https://www.town.oshima.tokyo.jp/(大島町公式サイト) 伊豆大島観光協会 住所:東京都大島町元町1-3-3 電話:04992-2-2177 HP: www.izu-oshima.or.jp
-
東京都

ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて 1
世界を席巻する 自然と調和するデザインとは ピィト・アゥドルフ氏は、それぞれの風土に根ざす植物や宿根草を使った自然主義の植栽手法で知られる、世界的に著名なガーデンデザイナー。オランダ国内でさまざまなプロジェクトを手掛け、ニューヨークの高架廃線跡を再開発した空中庭園「ハイライン」、18世紀の農場をアート施設として改装した英国の「ハウザー&ワース・サマセット」などが有名です。自然環境への関心の高まりとともに注目を浴びています。 一般的なガーデンには観賞のピーク時があるのに対し、アゥドルフ氏のガーデンは一年を通して楽しむことができます。それは単に花の美しさの組み合わせで魅せるものではなく、葉色や種をつけた穂の形、質感など、総合的な視点から組み合わされているから。 「最盛期を過ぎて、枯れていく姿までも美しい」としみじみ感じられるシーンで構成されている風景は、見る人の「魂」を強く揺さぶります。朽ちる姿に美を見いだす視点は、日本人の侘び・寂を愛でる精神にも通じています。そんなアゥドルフ氏のガーデンデザインスタイルは、園芸家や造園家の今までの庭に対する認識に大きな変革をもたらしました。またそのような風景づくりは「ダッチウェーブムーブメント」と呼ばれ、オランダの一つのスタイルを確立しました。 自然から得られる感情の再創造により風景を生み出しているアゥドルフ氏。成長する多年草のみならず、蝶や鳥、訪れた子どもまでもがガーデンを構成する要素となるよう、ていねいに風景を紡いでいます。 3年目を迎えた「HANA・BIYORI」が 提案する自然と平和の大切さ 華やかな花々の潤いで、訪れた人々に癒やしと驚きを与えたい…そういう思いで、2020年3月にオープンした「HANA・BIYORI」。ここは緑豊かな多摩丘陵の東端にある遊園地「よみうりランド」に隣接しています。HANA・BIYORIオープン前は聖地公園として、この自然をうまく生かしつつ、歴史的・文化的な建造物も大切に残し、地元の人々に愛されていました。この「自然との共生」を大切にした理念は、まさにアゥドルフ氏の考え方と重なります。 「もう少しHANA・BIYORIらしさを追求したい」と模索していた2年目、ランドスケープデザイナーの永村裕子さんに相談したところ、「もっと自然と共生する植栽を」という方向性に決定。彼女が提案したのは、アゥドルフ氏の庭をここにつくること。彼のデザインはサステナブルで、まさに今の時代SDGsにフィットするとして、「HANA・BIYORI」の新しい指針となりました。 植栽は永村さんの声かけにより、日本各地のガーデナーたちが集結しました。人気ガーデナーの上野砂由紀さんや天野麻里絵さんも参加。コロナ禍でアゥドルフ氏の来日は叶いませんでしたが、綿密なやり取りを重ね、2021年12月に本格的な植え込みがスタート。この春、見事にそのガーデンが完成しました。 「アゥドルフ氏の庭づくりのような、ピークまで複数年、庭を育てながら愛でるといった考えは、まだ日本では一般的ではありません。ここがきっかけで、時間をかけて変化していく庭の楽しみ方への認知が高まればいいですね」と、今回プロジェクトヘッドガーデナーとなった永村裕子さん。「アジア初なので、夏の過酷な暑さに耐えられないものが出てくるかもしれません。でもすぐに植え替えはせず、1年はそのままで、自然に任せて様子を見ることになっています。今植わっているものは、人間でいうと、まだ幼い子ども。2年目は高校生ぐらい、3年目でようやく成人を迎えます。成長過程で見える風景も違いますし、年々見応えが増してくるので、こまめに見ていただけると嬉しいですね」 今のこのような時世もあって、「花で平和を発信できれば」とよみうりランドの溝口烈社長。 ペーター・ファン・デル・フリート駐日オランダ王国大使は「花を通じて文化の違いを埋め、人をつなぐものであってほしい」と自然との共存の大切さに加え、花によって築かれる人の絆の力についても話されました。 「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」 以外の場所にも見どころがたくさん! 園路脇の花壇は、旬の花々が彩りを添えています。ぜひ、花合わせの参考にしてください。 こちらはHANA・BIYORIスタッフによる植栽です。 日本の園芸に携わるガーデナーたちの情熱で生み出されたピィト・アゥドルフ氏のガーデン。アゥドルフ氏によって再構築された自然が織り成す芸術性あふれる風景を、ぜひ堪能してください。 【ガーデンデザイナー】 ピィト・アゥドルフ (Piet Oudolf) 1944年オランダ・ハーレム生まれ。1982年、オランダ東部の小さな村フメロに移り、多年草ナーセリー(植物栽培園)を始める。彼の育てた植物でデザインする、時間とともに美しさを増すガーデンは、多くの人の感情やインスピレーションを揺さぶり、園芸・造園界に大きなムーブメントを起こす。オランダ国内のみならず、ヨーロッパ、アメリカでさまざまなプロジェクトを手掛ける。植物やガーデンデザイン、ランドスケープに関する著書も多数。2017年にはドキュメンタリー映画「FIVE SEASONS」が制作・公開された。 Information 新感覚フラワーパーク HANA・BIYORI 東京都稲城市矢野口4015-1 TEL:044-966-8717 https://www.yomiuriland.com/hanabiyori/ 営業時間:10:00~17:00 ※公式サイト要確認 定休日:不定休(HPをご確認下さい) アクセス:京王「京王よみうりランド駅」より徒歩10分(無料シャトルバスあり)、小田急線「読売ランド駅」よりバスで約10分「よみうりランド」下車徒歩約8分 Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
-
京都府

京都・奈良 西行ゆかりの桜【松本路子の桜旅便り】
桜を愛した歌人・西行 奈良・吉野山の桜を訪ねてから、桜を多く詠んだ平安末期の歌人・西行のことが気になっていた。 「吉野山 こずゑの花を 見し日より 心は身にも 添はずなりにき」 桜の花が咲き始めると、心が浮き立ち、花とともに宙に舞う、そんな心情だろうか。 またよく知られた歌に、次のようなものがある。 「ねがはくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」 その歌の通りに、満開の桜の下で往生を遂げている。狂おしいほどの桜への想いを、三十一文字に託した西行の生涯。その一端に触れたくて、足跡をたどる旅に出た。 武士から漂泊の歌人に 西行の出家前の名前は佐藤義清(さとうのりきよ 1118-1190年)。鳥羽上皇の御所の北面を詰所として警護に当たる北面武士だった。23歳の若さで出家したが、その動機には諸説ある。「保元の乱などの政治の混乱に嫌気がさした」「高貴な女性に憧れ、失恋した」「親友の死に世の無常を悟った」などだ。 女性への恋慕の情が溢れる歌を読むと、失恋説をとりたい気持ちにもなるが、若くして妻子を捨て仏門に入るのには、これらの出来事が重なったからではないだろうか。また、歌の道に生涯をかけるという覚悟があったのかも知れない。 勝持寺の‘西行桜’ 京都の西南郊外、大原野に西行が出家した天台宗の寺・勝持寺がある。西行が植えた桜が残っていると知り、ぜひ花を見たいと訪ねた。境内の鐘楼堂脇の枝垂れ桜が満開の枝を広げている。桜は西行が手植えの木から3代目にあたり、代々‘西行桜’として親しまれてきた。西行はこの桜の近くに庵を結んでいたという。 ‘西行桜’のほかに境内には約100本の桜が植えられ、「花の寺」と称される。勝持寺は、京の西山連峰のひとつ小汐山(小塩山)の山麓に位置しているので、‘小汐山’と名づけられた桜も、西行ゆかりの桜といえるかもしれない、 勝持寺の庭には西行が剃髪した際に、鏡代わりに使った鏡石が残され、姿を映したとされる瀬和井の泉がある。宝物館の瑠璃光殿には、室町時代に作られた、寄木造りで朱塗りの西行法師像が納められている。 西行がこの地で詠んだ歌から、世阿弥の作とされる能の演目「西行桜」が生まれた。 「花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の 科(とが)には有りける」 隠遁生活を送るつもりの寺に花見客が押し寄せ、それを桜のせいだと嘆いている。能では西行の夢の中に老木の桜の精が現れ、「それは桜の罪ではない」と告げる。やがて西行と桜の精の魂は同化し、花の精は洛中の桜の名所を謡いながら、行く春を惜しみ舞う、という優美な物語だ。 庵を結んだ二尊院(にそんいん) 出家後しばらくして、西行は京都・嵯峨にある二尊院に庵を結んだ。二尊院は和歌の歌枕として知られる小倉山の麓に位置する。紅葉の名所でもあり、参道にはもみじと桜が交互に植えられ、四季それぞれ趣のある情景が広がる。 「牡鹿鳴く 小倉の山の すそ近み ただひとりすむ 我心かな」 境内には西行庵跡を示す石碑が立ち、寺の近くにある西行井戸の傍らには、この歌の石碑がある。出家後に、孤高の歌人として生きる覚悟のようなものが感じられる歌だ。 吉野山の桜に焦がれて 京都周辺の山寺に住んだ後、西行は高野山に庵を構え、およそ30年にわたりそこを拠点として、諸国行脚の旅に出た。高野山は吉野山に近く、たびたび吉野を訪れ多くの歌を残している。 「なんとなく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山」 「吉野山 こぞの枝折(しをり)の 道かへて まだ見ぬかたの 花を尋ねん」 桜の季節が近づくと心は吉野山に飛び、年ごとに訪れては、まだ見ぬ桜を求めて山の奥に足を踏み入れる。桜への想いが溢れる歌だ。 「あくがるる 心はさても 山桜 散りなんのちや 身に帰るべき」 吉野の桜を見ているうちに心が身体から抜け出し桜のもとにある。花が散ってから心は身体に戻ってくるだろうかと、詠う。こうした歌は、単に花を愛でているだけでなく、桜が象徴する何か、また何者かへの哀惜の念が籠められているのではないだろうか。それが読む人の心にさまざまに響き、西行の桜は後の世まで語り継がれている。 奥千本の庵 花の季節に訪れるだけでなく、西行は吉野山の奥深い地に庵を結び、3年ほど暮らしている。 「花を見し 昔の心 あらためて 吉野の里に 住まんとぞ思ふ」 「吉野山 桜が枝に 雪ちりて 花おそげなる 年にも有るかな」 私が訪れた時も、山の麓では桜が咲いていたが、庵に向かう山道には冷気が漂っていた。3畳ほどの広さの庵の、訪れる人もない暮らしの中で春を待つ気分はいかばかりか、と思う。 「とふ人も 思ひ絶えたる 山里の さびしさなくば すみ憂からまし」 寂しさが山里でひとり住む身の慰めである、という境地は驚きだ。その寂寥感と無常観が、奥千本の庵の前に立つとより迫ってくる。 庵の近くには、西行が水を汲んだといわれる苔清水が今も湧き出ている。傍らには江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉がここで詠んだ「春雨の こしたにつたふ 清水哉」の句碑があった。芭蕉は西行に憧れて、奥州や諸国を旅し、『奥の細道』などの紀行作品を生み出した。吉野にも2度ほど訪れた記録が残っている。 終焉の地、弘川寺(ひろかわでら) 西行は奥州、四国、伊勢などの地を経て、文治5年(1189年)に、河内国(現大阪府河内郡)の弘川寺に居を構えた。その翌年、病のため73年の生涯を終えている。 「ねがはくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」 彼がかつて詠んだ歌の通り、亡くなったのは、旧暦2月16日(西暦3月23日)の桜の季節、満月の頃だった。 西行没後550年を経て、江戸時代の歌僧・似雲(じうん)が西行墳を発見。似雲は境内に西行堂を建立し、西行座像を祀った。さらに西行墳の傍らに「花の庵」を建て、生涯そこで暮らしたという。 私が訪ねた日、西行墳にはなぜか一輪の赤いバラが手向けられていた。墓近くには、「ねがはくは…」の歌碑が立つ。頭上の大木の‘ヤマザクラ’が、あたり一面に花びらを散らしていた。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 勝持寺 住所:京都市西京区大原野南春日町1223-1 電話:075-331-0601 HP:http://www.shoujiji.jp 二尊院 住所:京都市右京区嵯峨二尊院門前長神町27 電話:075-861-0687 HP:http://nisonin.jp 吉野山観光協会 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2430 電話:0746-32-1007 HP:http://www.yoshinoyama-sakura.jp 弘川寺 住所:大阪府南河内郡河南町弘川43 電話:0721-93-2814 HP:http://www.town.kanan.osaka.jp(河南町HP)
-
奈良県

奈良・吉野山の桜【松本路子の桜旅便り】
祈りの桜 数年前、桜の季節に吉野山へ出かけた。山陵一面に咲く花の映像に惹かれ、ぜひ訪ねてみたいと思ったのだ。吉野山は奈良県の中央部に位置し、‘ヤマザクラ’を中心に、約3万本の桜がその尾根や谷を埋め尽くす。山岳仏教と結びついた信仰の場として知られ、「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録されている。 吉野山の桜の由来は、今から約1,300年前に遡る。飛鳥時代に活躍した修験道の開祖である役小角(えんのおづの)が、吉野山に金峯山寺(きんぷせんじ)を開き、本堂に桜の木を彫った蔵王権現を祀った。以来、桜が御神木とされ、信者たちが祈願の折に苗木を寄進するようになった。平安時代以降、献木する人も増え、約8kmの山稜が桜で覆われるようになった。吉野の桜は、人々の祈りの象徴ともいえる。 一目千本 吉野山の桜は、標高の低い場所から高いところへと、順に開花するので、約1カ月間にわたり花見の季節が続く。尾根は下千本、中千本、上千本、奥千本と名づけられ、4月初旬から、桜の開花が駆け上っていく。 花見に格好の場所はいくつかあるが、中でも中千本近くの吉水神社の境内からの展望は見事で、古来より「一目千本(ひとめせんぼん)」と称せられてきた。 吉水神社を訪ねた日はあいにくの小雨模様だったが、山脈に霧がかかり、それはまた幻想的で悪くない情景だった。 上千本の花矢倉の展望台からは、金峯山寺を望むことができる。吉野の町や桜の尾根が見渡せ、吉野山に来たことが実感できる場所だ。義経の忠臣が追っ手に矢を放ったことから、この名前で呼ばれるようになった。 義経千本桜 吉野山は祈りの場所であると同時に、数々の歴史の舞台となり、物語をのちの世に伝えている。文治元年(1185年)平家討伐の後、兄である源頼朝に追われた源義経一行が奥州へ逃れる途中に立ち寄り、身を潜めたのが吉野山の吉水院(現吉水神社)だった。 神社の書院には「義経潜居の間」「弁慶思案の間」など、義経伝説にちなんだ部屋が残されている。追手が迫り、吉水院からさらに奥の大峰山に向かった義経だが、大峰山は女人禁制のため、同行していた愛妾の白拍子・静御前は吉野に残らざるを得なかった。それが二人の今生の別れとなった。 静御前は捕らえられ、鎌倉に送られたが、頼朝の前で「吉野山 峰の白雪ふみわけて 入りにし人の跡ぞ恋しき」と義経を慕う今様を唄い、舞ったという。義経と吉野の物語は人形浄瑠璃や歌舞伎の演目『義経千本桜』で知られ、今に語り継がれている。吉野山の奥には義経が潜んでいたといわれる「義経隠れ塔」が残されている。 後醍醐天皇の南朝 延元元年(1336年)、時の権力者・足利尊氏に追われた後醍醐天皇は、吉野山に朝廷を開いた。京都では尊氏が光明天皇を擁立していたので、2カ所に朝廷が存在することとなった。京都を北朝、吉野を南朝とする、南北朝時代の始まりである。 後醍醐天皇は吉水院に滞在した後、金峯山寺蔵王堂の西にあった実城寺を御所とし、寺号を金輪王寺と改めた。3年後に後醍醐天皇はこの地で生涯を終えたが、吉野山の南朝は4代、56年にわたり続いた。 豊臣秀吉の花見 太閤秀吉は、文禄3年(1594年)に総勢5,000人を引き連れて、吉野で花見の宴を開いている。徳川家康、前田利家、伊達政宗などの武将をはじめとして、文人、茶人を伴っての花見は、吉野の桜を一躍有名にする出来事だった。5日にわたり「歌会」「能会」「茶会」「仮装行列」が繰り広げられ、その様子は「豊公吉野花見図屏風」(細野美術館蔵)と題した屏風絵に描かれている。 西行庵 「なんとなく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山」 (『山家集』) 『新古今和歌集』の代表的詠み人のひとりで、『山家集』など多くの歌集を残した平安時代の歌人・西行は、吉野を愛し、たびたび訪れている。さらに奥千本の山あいに庵を結び、3年ほど暮らしていた。 武士であった西行は23歳で出家し、諸国を行脚、73歳でこの世を去るまで2,000首を超える歌を残した。花を詠んだ歌はおよそ230首で、吉野の桜も数多い。 奥千本からさらに奥地へ、険しい道を下って、たどり着いた場所には、これが住まいかと驚くほど小さな庵・西行庵が建っていた。奥千本の桜の時期には早すぎたので、訪れる人も少ない寂しい場所の、霧に浮かぶ庵は別世界のように思えた。西行と桜については、改めて綴ってみたい。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 吉野山観光協会 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2430 電話:0746-34-1007 HP:http://www.yoshinoyama-sakura.jp 吉水神社 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山579 電話:0746-32-3024 HP:http://www.yoshimizu-shrine.com Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
-
フランス

早春の「ポタジェ・デュ・ロワ(王の菜園)」を訪ねて【フランス庭便り】
ヴェルサイユの隠れた憩いの場 ルイ14世は美食家であり、野菜や果樹の栽培への関心も高かったことから、王自らが宮殿から馬に乗ってポタジェまで散策に出ていたのだそうで、「王の門」と呼ばれる立派な鋳造の門が現在も残っています。王にとって、公の場である宮廷を離れてほっと一息つく、憩いの場であったのかもしれません。古の「ポタジェ・デュ・ロワ」は王家の食卓に上がる多種多様な野菜や果実が栽培されていましたが、もちろん単なる菜園・果樹園ではありません。王の散策の場にもふさわしい美観を備えつつ、王家の食卓ならではの贅沢を満足させるスペシャルな菜園だったのです。 フレンチ・フォーマルなスタイル ポタジェを訪れてまず驚くのが、徹底的なフォーマル・ガーデン・スタイルの構成です。9ヘクタールの敷地全体が壁で囲われた沈床型のウォールド・ガーデンになっています。グラン・カレと呼ばれる正方形の中央区画には、円形の噴水を中心に、エスパリエ仕立てのリンゴや洋ナシなどの果樹で仕切られた、野菜栽培のスペースが整然と並びます。その周りには、伝統品種や新品種などバラエティに富んだ果樹が、さまざまなエスパリエ仕立ての独特な樹形で栽培されています。 エスパリエ仕立てとは、フランスの果樹栽培のための伝統的な剪定方法。現在でもリンゴや洋ナシを中心に4,000本ほどを栽培するポタジェ・デュ・ロワは、これだけの規模でその様子が見られる、世界でも唯一の貴重な場所です。 ウォールド・ガーデンとエスパリエ仕立ての効用 ところで、沈床型のウォールド・ガーデンをぐるりと囲む厚い土壁にも、壁に沿わせるエスパリエ仕立ての剪定にも、じつはスペシャルな果樹栽培のための理由がありました。土壁は果樹が外部からの冷風に直接晒されるのを防ぐとともに、日中の太陽の熱を蓄え、夜間の急激な温度の降下を抑えて、果樹栽培に好都合の微気候を作り出します。また、平面的なエスパリエ仕立てには、果実に満遍なく日光が当たるように、また収穫がしやすいようにという配慮から生まれたものです。 17世紀にも野菜の促成栽培 贅を尽くした王宮の食卓には、例えば3月にイチゴ、6月にイチジク、12~1月にアスパラガスが並んだといいます(ちなみにイチゴもイチジクもルイ14世の大好物だったそうです)。現代であれば何ら驚きもないのですが、ハウス栽培などなかった時代です。通常の露地栽培の収穫期に大幅に先駆けて現れるこれらの野菜や果実は、まさにミラクル。宮廷人たちにとっても大変な贅沢でした。 では、どうやって実現したのか? ルイ14世の命を受け、ポタジェの造園と管理を行ったのは、庭師で果樹栽培の専門家として名高かったラ・カンティニ。彼は当時最新の栽培技術の開発に余念がなく、宮殿の厩舎から出る馬糞を用いた堆肥の発熱を利用した促成栽培術で宮廷を驚かせ、称賛を集めたのでした。 伝統そして革新 創始者ラ・カンティニのイノベーション精神は後世に受け継がれ、フランス革命などさまざまな時代の変遷を経て現在に至ります。「ポタジェ・デュ・ロワ」のモットーは、歴史の伝承とともに常に革新的であること。世界的にも希少な17世紀のフレンチ・フォーマル・ガーデンの姿を留めたポタジェでは、フランスの昔ながらの固有種を多く栽培し、また伝統的な園芸技術であるエスパリエ仕立ての剪定など、技術の伝承が行われています。そうした伝統の継承を自らの使命として大切にする一方で、今の時代に対応する新たな試みが次々と行われているのも、このポタジェの大切な側面です。 アグロエコロジーへ フランスでは、オーガニックの食材が一般化しているだけでなく、2016年から公共の緑地での薬剤散布が法律で禁止されるなど、人の健康や環境保護が社会的に重大なテーマになっています。先駆精神に富んだこのポタジェでは、2000年代には無農薬の自然農法への切り替えが始まり、パーマカルチャーの手法を取り入れるなどして、できる限り無農薬、栽培品種によっては完全無農薬栽培へと移行してきました。 特に土壌や生態系といった自然環境を保護しつつ、サステナブルな方法で人間と自然の共存を目指す未来の農業、アグロエコロジーへの取り組みが積極的に進められています。また、一般の来場者の見学に門戸を開き、園芸講座や各種イベントが行われ、歴史的庭園の姿やサステナブルな都市農業のあり方を人々に伝える教育普及も現在のポタジェの大事な役割です。 春を待つポタジェの魅力 庭園を訪れる際には、どの季節が見頃なのか、という問いが常にありますが、「ポタジェ・デュ・ロワ」は年間通じて見学が可能です。春にはモモやリンゴの花が咲き、夏は緑が溢れ、秋には黄葉とともに、カボチャ類など秋の収穫物がコロコロと畑を彩る…と季節による変化を追うのも、興味深く楽しいものです。 冬の間は果樹類の葉っぱも落ちて、若干寂しいのではと思われがちですが、じつは自慢のエスパリエ仕立ての木々のグラフィックな魅力を十二分に堪能できる、特別な時期でもあります。この機会に、変化に富んだポタジェの四季の表情を皆様に楽しんでいただけたら嬉しいです。 遠藤浩子さんが案内する「ポタジェ・デュ・ロワ」オンラインサロン開催※終了しました 記事でご紹介したフランスの「ポタジェ・デュ・ロワ」と中継をつなぎ、この時期しか見られない春のポタジェの様子を、庭園文化研究家、遠藤浩子さんがご案内するサロン。開催は、2022年4月14日(木)18:30スタート(フランス時間11:30)。 サロンへのご参加には、ガーデンストーリークラブへのご入会が必要です。
-
京都府

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪35 京都「京都・洛西 まつおえんげい」
“わかりやすく”に徹し ガーデニングライフを応援 京都の西部・洛西ニュータウンの山側にある「まつおえんげい」。明治時代から続く老舗の園芸店で、シーズンにはたくさんのバラや草花が来訪者を出迎えます。 このショップは、バラのエキスパートの一人として知られる松尾正晃さんが営むバラとクレマチス+園芸用品全般を扱う総合園芸店。マネージャーである息子の祐樹さんとともに、販売をしながら全国の花のイベントに積極的に参加し、主にバラの魅力を発信しています。 店内はバラとクレマチスの苗でいっぱい。ピーク時には、バラは400~500品種7,000~8,000株、クレマチスは150品種1,500~2,000株の苗が並んでいます。 バラはイギリスやフランス、日本、オランダ、ドイツ、イタリアなど各国のメーカーのものを網羅。自社ブランド品種や古い品種も揃っています。バラは特にお国柄のような特色が表情に出るので、それを見比べながらショッピングするのも楽しい時間です。 品種が多く、育てるのも難しいと思われがちなバラ。そういった不安を払拭すべく、「まつおえんげい」ではコミュニケーションを大事にしています。「皆さん恵まれた環境で育てていらっしゃるとは限らないので、まず環境をお聞きして、対話しながら問題や疑問を一緒に解決していきます。それぞれに合った育て方をご提案できるように心がけています」と祐樹さん。 看板やポップは、「とにかく分かりやすく、より有益な情報や知識を提供」することに力を注ぐ「まつおえんげい」。「どんな些細なことでも困ったことがあれば気軽に相談してください。皆さまのお手元に植物を届けることだけが園芸店の仕事ではないんです。その後もしっかりと育ってくれるようにサポートすることが、なにより大切だと考えております」と祐樹さん。 ロマンチックな庭づくりに欠かせないつるバラ。店内にはつるを伸ばすシュラブやクライミングのバラが100株以上あり、スタッフ皆で剪定・誘引などの管理をしています。ショップの突き当たりの花壇では、つるバラとカラーリーフとの美しい競演が見られるので、ぜひチェックを。 ショップを彩る つるを伸ばすバラたち フェンスやオベリスクに誘引された、丈夫で育てやすいバラをご紹介します。取材時の秋バラは、特に深みのある魅力的な花色でした。秋は春より苗の販売数はだいぶ少ないものの、実際に咲いている花を見て、返り咲き性が強く丈夫な品種を確認できます。 左/‘ダフネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.5×W1.2m、花径6~7cm、中香 右/‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’:四季咲き、シュラブ半横張H1.3×W1.5m、花径8~10cm、強香 左/‘パットオースチン’:返り咲き、シュラブ横張H1.2×W1.0m、花径10~12cm、強香 右/‘エドゥアール・マネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.8×W1.2m、花径8~12cm、強香 左/ルイーズ・オジェ:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8cm、強香 中/‘マルク・アントン・シャンポルティエ’:四季咲き、シュラブ横張H1.5×W1.2m、花径6~8cm、中香 右/‘ポール・ボギューズ’:返り咲き、シュラブ横張H1.5×W1.0m、花径8~10cm、強香 左/‘ナエマ’:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8~10cm、強香 中/‘エリアーヌ・ジレ’:四季咲き、シュラブ横張H1.0×W0.8m、花径8cm、微香 右/‘パレード’:返り咲き、つる横張H2.5m~、花径10cm、中香 コンパクトなクレマチスは 奥の専用ハウスで販売 バラと併せて育てたい植物ナンバーワンのクレマチス。互いの花の少ない時期を補い合うように咲く、バラとベストコンビの植物で、広い敷地の奥にある専用ハウスにずらりと並んでいます。国内のさまざまな生産者から仕入れているので、品種は多種多様。たくさんありすぎて分からないときは、ぜひスタッフに声をかけてみて。 バラと一緒にクレマチスもサンプルで植わっています。さすが専門店、仕立ての美しさは見事です。 先代からの精神を受け継ぎ 上質な植物を販売 ショップがオープンしたのは今から約40年前ですが、店の前身として、戦後に先代の祖父がキクやシクラメン、クレマチスの原種を焼き物の鉢に植え、魚屋からもらった木のトロ箱に入れてリヤカーに載せて街に売りに行っていたそう。そんな時代を経て、息子の正晃さんは園芸店をスタート。その後、バラの魅力にいち早く気づいて、約20年前に、バラとクレマチスに力を入れたショップへと進化させました。 広い店舗ではバラやクレマチスのほか草花の品種にもこだわり、徹底した管理の下で販売。お店でピークを迎えるのではなく、お客様の手元に届いてからピークを迎えるように苗を扱っています。「仕入れ先の農家さんの思いのバトンをきちんと渡したいですね」と祐樹さん。 また、思い切ったサービスとして、苗に1カ月枯れ保障をつけているということにも驚き。「私には園芸は向いていない…で終わるのではなく、チャレンジして育てることの楽しさを感じていただきたいんです」。とことんお客様に寄り添う、真摯な姿勢がうかがえます。 ハウス内の資材売り場にも こだわりが凝縮 ハウス内は、寒さに弱い植物や資材売り場。バラやクレマチス栽培におすすめのアイアンフェンスやコンテナも多数揃っています。 松尾祐樹さんのイチオシ 「まつおえんげい」オリジナル培養土&肥料「プロスタイルシリーズ」+α プロスタイルシリーズは、「まつおえんげい」が長年の生産経験から自信を持っておすすめするガーデニンググッズや用土。とくに培養土は、こだわりがぎっしり詰まった最高品質です。 ◆「プロスタイルシリーズ バラの専用培養土」:排水性・保水性・通気性・保肥性・pHなど、すべてにおいてバラ栽培に最適な配合になっている。過剰になった肥料分を吸収する働きを持つゼオライトも配合され、根の傷みを防いでくれる。 材料にこだわった、「まつおえんげい」の肥料。販売されている苗や地植えしている植物にもふんだんに使われています。 ◆「プロスタイルシリーズ 花の元肥」:花だけでなく野菜や観葉植物にも使える元肥。植物のスムーズな成長を促す高品質の肥料で、効果は120日。 ◆「ALA配合肥料」:根張りをよくする特殊なアミノ酸配合の肥料。株が弱ったときや根が弱りやすい夏などにおすすめ。 ◆「プロスタイルシリーズ バラ専用肥料」:一年を通して使える追肥。1回の使用で30~40日持続する。バラをはじめ、クレマチスや樹木にも使用できる。 地元に愛される店を目指して設けられた 手づくりの喫茶店 「まつおえんげい」では喫茶‘ログハウス’も併設。「奥さんだけがお花を楽しむような場所ではなく,ご主人も一緒に来てゆっくり過ごしてもらえる、地域に愛されるお店にしたい」という思いで、今から36年前に正晃さんの奥様が始めました。ぬくもりを感じる建物は、北山杉の間伐材を使用。椅子やオブジェは倒木が用いられ、一刀彫で造られています。 松尾祐樹さんのイチオシ 丈夫で育てやすいバラ 【四季咲き・木立ち性】 ‘夜来香’ パープル系の中でも育てやすく頼もしい強健種。ブルーローズ独特の爽やかな香りも楽しめる。※1 ‘縁(ゆかり)’ 中輪多花性で、春以外のシーズンにもよく咲く良花。枝は太くなりすぎず、比較的コンパクトに維持しやすい。※2 ‘ピンク・アバンダンス’ 「アバンダンス(=たくさんの)」という名の通り、見応えのある中~大輪花をたくさん咲かせる。大まかな剪定でも花つきがよいので、剪定が苦手な方にもおすすめ。※2 【返り咲き・つる性】 ‘アミ・ロマンティカ’ 花弁のグラデーションが美しい半つる性品種で、秋によく咲く。花弁がしっかりとしているので雨でも傷みにくく、長く美しい状態を楽しめる。※3 ‘ベル・ロマンティカ’ 爽やかなクリアイエローと明るいグリーンの葉色のコントラストが美しい。直立気味のスリムな姿に育ってくれるので、スペースを取りすぎず、行儀よく楽しみやすい。※3 ‘マリー・ヘンリエッテ’ これぞバラといった豪華な大輪花で、香り・花もちともに優秀。病気にも強く、強健で見ごたえのある姿に育ってくれる。※3 ‘パブロワ’ 新品種で、バラの中でも意外と少ない白花大輪のつる性品種。耐病性に優れた育てやすい性質と、グレイッシュな落ち着きのあるホワイトの花が大変魅力的。※4 ‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’ 赤バラの中でも特筆すべき育てやすさを持つ、半つる品種。年に3~4回繰り返しよく咲き、深紅の美しい花を何度も楽しませてくれる。※5 明治から続く園芸店の老舗「まつおえんげい」。優雅なバラとクレマチスに加えて、四季折々の草花が豊富に並びます。また、知識豊富んsスタッフが丁寧にガーデニングライフを支えてくれます。ぜひ訪れてください。アクセスは、京都縦貫自動車道「大原野IC」「沓掛IC」より車で約5分。JR桂川駅・阪急洛西口駅よりバスで約20分「新林センター前」下車から徒歩約5分。 【GARDEN DATA】 京都・洛西まつおえんげい 京都府京都市西京区大枝西長町3-70 TEL :075-331-0358 営業時間:平日10:00~17:00/9:00~17:00(土日祝) 定休日:木曜日(祝日は営業)/正月・盆休み(※詳細はブログ等で掲載) https://matsuoengei.co.jp/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。 【写真協力】 ※1:河本バラ園、※2:タキイ種苗株式会社、※3京成バラ園芸株式会社、※4:株式会社花ごころ、※5:まつおえんげい
-
京都府

京都・平安京の桜 その③【松本路子の桜旅便り】
古都の桜を訪ねる旅 早咲きの桜便りが届き始めると、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 京都に原木のある桜や、ゆかりの桜を訪ねる旅の第3弾。古の都の佇まいと桜はよく似合う。今回は仁和寺と、桜守で知られる佐野藤右衛門さんの桜園を訪ねた旅の記憶を綴ってみたい。 仁和寺(にんなじ) 遅咲きの桜‘御室有明’(おむろありあけ、通称‘御室桜’) に会いたくて、桜の季節に仁和寺を訪ねた。仁和寺は仁和2年(886年)、平安時代創建という歴史ある寺院。宇多天皇が譲位後に出家して移り住んだことから、別名「御室御所」と称されるようになった。 仁王門をくぐり、直進した先に国宝の金堂が建っている。中間地点に中門が位置し、その北西に広がるのが‘御室桜’だけを集めた桜苑だ。桜木の数は200本といわれ、花の最盛期には白い雲が一面に舞うような光景が出現する。 ‘御室有明’(通称‘御室桜’) ‘御室桜’は江戸時代から庶民の桜として親しまれ、数多くの和歌に詠まれている。また儒学者・貝原益軒の『京城勝覧』では、吉野の桜に比べても劣らないとし、「花見る人多くして、日々群衆せり」と、その賑わいを伝えている。 ‘御室桜’の特徴としては、見頃が4月中旬の遅咲きであるとともに、樹高が2~3mで、枝が横張り性であることが際立っている。それゆえ、ちょうど人の目線の位置に満開の花が広がって見える。背丈が伸びないのは、この土地の土質から根が張れないのが要因とされるが、詳しいことはいまだ調査中だという。花(鼻)の位置が低いことから、親しみを込めて「お多福桜」とも呼ばれる。 仁和寺には‘御室桜’以外の桜も多く、中でも‘胡蝶’は、古くから寺にあったとされる桜だ。満開時には蝶が舞うような趣があり、この名前がつけられた。開花は‘御室桜’とほぼ同時期なので、併せて晩春の京都を彩る花を楽しむことができる。 桜守・佐野藤右衛門 京都の桜旅で、忘れられない場所がある。それは佐野藤右衛門の私邸にある桜園だ。代々その名前を受け継ぎ、現在16代目の佐野藤右衛門は、祖父である14代、父の15代と、3代にわたる「桜守」として知られる。家業の造園業の傍ら、全国の桜の調査、苗木の保存・増殖に努めてきたことから、敬愛の念を込めて「桜守」と呼ばれるようになった。 『東京 桜100花』という本を私が出版した時、125種類の桜について調べたが、その中の多くが、佐野藤右衛門が発見、もしくは増殖した、とされていた。絶滅寸前の木の後継木として、佐野が育てた苗木が提供された例は数知れない。‘染井吉野’が全国の桜の8割を占めるといわれる今日にあって、これほど多彩な桜に出会うことができるのは、ひとえに「桜守」たちの尽力に他ならない。 佐野家は天保3年(1832年)創業、代々植木職人として御室御所(仁和寺)に仕えてきた。明治期より造園業を営んでおり、桂離宮や修学院離宮などの庭の整備にたずさわっている。16代佐野藤右衛門は、京都迎賓館やイサム・ノグチが設計したパリのユネスコ本部にある日本庭園の作庭などで知られる。2021年には、93歳にして‘オオシマザクラ’の大木の移植作業の陣頭指揮を現場で執り行うなど、いまだ現役だ。2022年4月には94歳になるという。 ‘佐野桜’ 私が佐野藤右衛門の桜園を訪ねたいと思ったきっかけは、桜守の名前を冠した桜があると知ったから。その‘佐野桜’をぜひ、桜守の庭で見たいと思った。‘佐野桜’は京都市右京区の広沢池畔にあった‘ヤマザクラ’の種子を1万個播いた中から選抜して育成された、という。自然交配の結果生まれた新しい種類の桜で、1930年に植物学者の牧野富太郎によって命名された。 半八重の花は、‘ヤマザクラ’より薄い紅色がかかり、ふっくらとしたつぼみや花弁が、優しげな風情を見せる。花径は3~4cmで、成長すると樹高は10mを超える。 桜守の桜園 佐野家の私邸のある敷地内に広がる桜園には、200の栽培品種約500本の桜が植えられている。入り口付近の京都円山公園にある「祇園の枝垂桜」の兄弟木をはじめとして、園内の散策路には、それぞれの桜の名前が分かるように、木の名札が立てられてあり、珍しい種類の桜に出会うことができる。 佐野藤右衛門によって保護、増殖された桜には、‘御室有明’、‘胡蝶’、‘祇王寺祇女桜’、‘大沢桜’、‘平野妹背’など、京都ゆかりの種類のほか、石川県金沢市の兼六園に原木があった‘兼六園菊桜’、宮城県で発見された‘簪桜(かんざしざくら)’などがある。 また、国内では途絶えていた‘太白’は、イギリスの園芸家の庭園で栽培されているのが分かり、接ぎ木用の枝を輸送して、1932年に里帰りさせた。当時の長い船旅から、枝は何度か枯れたが、最終的にジャガイモに枝を挿して輸送に成功したという。その話を聞いて庭の‘太白’の花を見上げると、感慨もひとしおだ。 『桜のいのち 庭のこころ』『桜守の話』など、16代佐野藤右衛門の著書を読むと、彼の桜や自然との付き合い方を知ることができる。同時に、そこには人が生きていくうえでの、たくさんの指針が籠められている。‘佐野桜’が咲く季節に桜園を訪れ、佐野氏の桜に寄せる思いの一端に触れることができたのは、何よりも得難い体験だった。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 仁和寺 住所:京都市右京区御室大内33 電話:075-461-1155 HP:https://ninnaji.jp 植藤造園 (佐野藤右衛門の桜園) 住所:京都市右京区山越中町13番地 電話:075-871-4202 FAX:075-861-7280 HP:www.uetoh.co.jp *桜の季節のみ桜園を一般公開。私邸内の庭ですので、見学のマナーには十分ご留意ください。 *2022年は、コロナ禍のため桜園の公開は中止となっております。 Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
-
京都府

京都・平安京の桜 その②【松本路子の桜旅便り】
桜の名前にゆかりの地を訪ねる 早咲きの桜便りが届くと、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 今回は、京都に原木のある桜や、ゆかりの桜を訪ねる旅の第2弾。古の都の風情と桜はよく似合う。 ●第1弾はこちら。 京都御所 平安京遷都から明治維新まで、天皇の住まいであった京都御所。その一部は一般公開されている。御所の正殿である紫宸殿(ししんでん)は、即位礼などの儀式を執り行う格式ある場所だが、前面に広がる白砂の庭越しに「左近の桜」と「右近の橘」が植えられているのを望むことができる。 「左近の桜」は、かつて桜ではなく梅だった。中国文化の影響で、それまで花といえば梅だったのが、平安時代になってから、日本各地で見られる桜に代わった。わが国独自の文化が成熟しつつあった時代の証が、紫宸殿の植樹にも表れているのは興味深い。「左近の桜」は、古くから日本に分布する野生の桜‘ヤマザクラ’で、平安時代から今日に至るまで、代々植え継がれている。 御所ゆかりの桜は‘御所御車返(ごしょみくるまがえし)’。慶長16年(1611年)に即位した第108代後水尾天皇(ごみずのおてんのう)が、桜を見かけその美しさに御車を引き返させたところから、名前が授けられたと伝わる。原木は宜秋門前で見ることができる。 昭和初期に御所にあった原木から増殖されたといわれるのが、‘八重左近桜’。‘ヤマザクラ’の花に似るが、白色の花弁に紅色の筋が入る、気品のある花だ。 京都御苑 江戸時代には、御所を囲むように200もの宮家や公家の邸宅が建ち並んでいた。明治維新を迎え、都が東京に移ると、公家たちは天皇とともに京都の地を離れた。その後、屋敷跡地は公園として整備され、敷地は御所を含み約100万㎡に及ぶ。 苑内には約1,000本の桜があり、中でも摂政や関白を多く輩出した五摂家のひとつ近衛家の邸宅跡の約60本の‘枝垂桜’‘八重紅枝垂’は、見事な景観を作り出している。そのほか‘ヤマザクラ’、御所の南にある‘奈良の八重桜’、出水の小川付近の‘御衣黄(ぎょいこう)’ ‘市原虎の尾’ ‘平野妹背’など、京都ゆかりの桜が並ぶ。御苑の門は24時間開放されているので、早朝の花見も可能だ。 平安神宮 平安神宮は平安遷都1,100年を記念して1895年に創建された神社で、神苑は明治の造園家7代目小川治兵衛らの手により造園された。総面積約3万3,000㎡で、平安京千年の技法を結集した日本庭園とされる。池泉回遊式庭園の池を囲むそこかしこに植えられた‘枝垂桜’は、野生の‘エドヒガン’が突然変異して生まれたもので、花色が紅色のものを‘紅枝垂’、その八重の種類を‘八重紅枝垂’と呼ぶ。 平安神宮の‘八重紅枝垂’は、明治時代に仙台市長が苗木を献上したもので、市長の名前から「遠藤桜」という別名がある。もともとは京都御苑にあった苗木を増殖したものなので、「里帰り桜」とも呼ばれている。 小説家の谷崎潤一郎は、その著書『細雪』の中で、平安神宮の桜の情景を「夕空にひろがっている紅の雲」と描写している。まさに満開の桜が空一面に広がる様が、目に浮かぶようだ。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 京都御所 京都府京都市上京区京都御苑 https://sankan.kunaicho.go.jp/multilingual/kyoto/index.html 京都御苑 京都府京都市上京区京都御苑3 https://www.fng.or.jp/kyoto/ 平安神宮 京都府京都市左京区岡崎西天王町97 http://www.heianjingu.or.jp/shrine/heianjingu.html 桜の開花情報 日本気象協会:https://tenki.jp ウェザーニュース:https://weathernews.jp
-
岩手県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪34 岩手「iisago nursery & garden(イーサゴ ナーセリー…
ナーセリーが営むクレマチス専門店「iisago(イーサゴ)」 「iisago(イーサゴ)」は、岩手県花巻市東和町のクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」が営むクレマチスの専門店。新しいオリジナル品種からスタンダードな品種まで、ナーセリーがおすすめするクレマチスを中心に、クレマチスと相性のよい宿根草や低木類、ガーデンツールなどを販売しています。 店名「iisago(イーサゴ)」とは、地元の作家・宮沢賢治が小説の中で、盛岡のことを「モーリオ」と呼んでいることにならい、ここ砂子(いさご)集落の名を変化させてつけたもの。地元愛にあふれたユニークな名前です。 約200種類ものクレマチスの苗がずらりと並ぶショップは、かつて生産用だった温室を活用して約6年前にオープンしました。大小さまざまな苗は用途や生育タイプなどでグループ分けされており、陳列商品の上から下げられた看板に分かりやすく表記されています。「たくさんある中から選ぶことは難しいと思いますので、分からないときや迷ったときは、気軽に近くのスタッフに声をかけてくださいね」と、オーナーで育種家の及川洋磨さん。 新しいオリジナル品種を生み出すには、ものすごい手間と年月を費やすというクレマチスの育種。及川さんは「無理なくきちんと育つ苗を作りたい」という思いで育種に励み、毎年3品種を目標に作出しています。 シーズンには株いっぱいに花をつけているので、圧巻の風景が広がります。奔放に伸びる細いつるが隣同士で絡んでしまわないように、ひと株ひと株ていねいに誘引されている様子には驚きです。 ショップ内には構造物に多様なクレマチスを誘引した植栽サンプルがたくさん。2~3種類組み合わせたプロの技も見られ、成長のタイプや雰囲気が確認できます。 難しいと思われがちなクレマチス。「iisago(イーサゴ)」では、初心者の気持ちになって相手のレベルに合わせ、専門用語を使わずにシンプルに伝えることを心がけています。「よく書籍などのクレマチスの紹介で見られる、系統や剪定タイプなどの複雑さに尻込みしてしまう人が多いみたいですね。でもそんなに難しく考える必要はないんです。最も難しいと思われている冬の剪定なんかも、じつは簡単。元気な芽があるところの上でカットすればいいんです。本当は思っている以上に簡単に楽しめる植物なんですよ」と及川さん。 園路脇で最も目を引くのが、この楽しいディスプレイ。今咲いている花を一輪ずつ挿した小瓶に名札が添えられています。「いい花なのに売り場では気づかずスルーされることが多いんですが、一輪ずつ飾ると劇的に皆さんの見方が変わるんですよ。多くの人が楽しそうに眺めていくんです。すべての花の魅力を、その都度伝えたいですね」。 大学で学んだ造園知識を生かしたサンプルガーデン 1970年代に父の及川辰幸さんが植木生産を始め、その過程でクレマチスの品種を集めていた「及川フラグリーン」。幼いころから植物を身近で眺めていた及川さんは、生産よりも庭づくりのほうに興味があり、東京農大・大学院の造園学科に進学しました。 6年かけて国内外さまざまなスタイルの庭やランドスケープを学んだというだけあって、商品苗を並べるだけでなく、クレマチスを庭でどう生かすかを小さな植栽で素敵に提案。併せてクレマチスの庭におすすめの植物の苗を多数揃えています。 ハウス奥には、木々に囲まれたレクチャースペースが設けられています。ここではクレマチスの育て方などの講座や、さまざまなワークショップが行われています。 及川さんおすすめの培養土や肥料、フェンスなどの資材類も充実。男性や若者など、多くの人に楽しんでもらえるようにと、おしゃれなアイテムも揃えています。併設された傍らのコーヒースタンドから、深い香りが漂っています。 五感が喜び、クレマチスの育ち方が分かる サンプルガーデン ハウスを抜けると、ショップのサンプルガーデンが設けられています。ガーデンは3つのエリアで構成されていますが、もともとは及川さんの実験場を兼ねたプライベートガーデン。6年前に「庭でもクレマチスの楽しさを見てもらいたい」という思いで、一般公開に踏み切りました。 周囲に広がる田んぼを借景にした起伏に富むガーデンは、かつては赤松が混在する林。‘いぐね’と呼ばれる防風林でした。マツクイ虫などで赤松が枯れ始めたことをきっかけに雑木林に切り替えたのち、脇にある田んぼだった場所に盛り土をして造られました。 最初に広がるのは、オベリスクに絡むたくさんのクレマチスと宿根草が調和するメインガーデン。未発表のオリジナル品種とイチオシのクレマチス、ガーデンプランツが植わっています。ここでは明確な園路は作っていないので、足を踏み込める場所なら自由に歩くことができます。また、池にはメダカやドジョウ、ヤゴなどが棲みついているので、子どもたちも楽しめる空間となっています。 ガーデンにも、クレマチス同士や草花との合わせ方のヒントがたくさん。鳥のさえずりや花の香りなど自然を感じながら、美しいクレマチスが楽しめます。 メインガーデンの奥は、防風林いぐねと雑木林の混在したエリア。木漏れ日がきらめく風景は、まるでイギリスのウッドランドガーデンのよう。ここにもたくさんのクレマチスが植わりつつ、ユニークな仕掛けがあちこちに盛り込まれています。 林の中にもクレマチスを導入。自然の風景になじみやすいよう、悪目立ちしない繊細なオベリスクが用いられ、‘エトワール・バイオレット’など野趣感のある品種が植えられています。 倒木などをクレマチスを生かす素材として使ってしまうのも、自然が多いこの地で育ち庭づくりを学んだ及川さんだからこそ。思いもよらぬ驚きの仕立て方です。 曲がりくねる林の中の園路にはバークチップが敷かれており、やさしい歩き心地。雨の日でもぬかるむことがないのもポイントです。園路がカーブするところには大型のホスタが植えられて、印象的な風景になっています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー1 遊び心満載の演出 ショップ近辺の農家の納屋には、壊れた古道具がたくさん転がっているそうですが、及川さんはそれを譲り受け、庭で廃材と合わせながらユニークなオブジェとして活用しています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー2 クレマチス以外の植物たち 赤松やアカシデ、コナラなどが植わる林の中で、静かな存在感を放っている植物をご紹介します。樹木や宿根草は和・洋のスタイルにこだわらず、及川さんが植えたもの。 ボリュームたっぷりの ロックガーデン サンプルガーデンの最も奥のエリアにあるのは、10年前に奥様の真由美さんと古い庭をリニューアルさせたロックガーデン。こちらはナチュラルなメインガーデンよりもダイナミックで、大人っぽい雰囲気です。 メインガーデンではクレマチスの育ち方を知ることができますが、こちらでは庭への取り込み方が分かります。真由美さんは、自然な空間づくりを得意とする造園設計会社で設計を担当していたこともある、この道の専門家。庭づくり&造園に精通する2人がつくっただけに、見応え抜群です。 こちらではオベリスクだけでなくトレリスなどを用いて、クレマチスの多様な表情を紹介しています。 及川さんおすすめの オリジナルクレマチス3種 及川さんが手がけた品種は今までに30種ありますが、なかでも特におすすめの3種をあげていただきました。 ‘流星’ インテグリフォリア系/開花期:5~10月/花径:8~11cm/草丈:1.5~2.5m 誘引しやすい半つる性。オベリスクやフェンスとの相性がよい。銀色にも見える花は、紫色の絵の具を吹きつけたような色合いで爽やか。 ‘タイニー・ポップ’ テキセンシス系/開花期:5~10月/花径:3~4cm/草丈:1~1.5m ポップで可愛いピンク色のベル形の花を、次々に咲かせながら成長する。枝の伸びはほどほどで、絡まりも弱いので扱いやすい。 ‘ルノカ’ ビチセラ系/開花期:5~10月/花径:6~9cm/草丈:2~3m 縁の爽やかな青紫色と、中心部の緑がかる白色とのコントラストが素晴らしい。ほどよい大きさの花をふわふわ舞うように咲かせ、軽やかな姿を見せる。初夏によく似合う。 ひたむきに美しい花を追求し、たくさんの人々に花の魅力を伝えることに心血を注ぐ及川さん。岩手の人々が敬愛する宮沢賢治の「農民芸術=労働すべてが芸術的行為である」の思想をそのまま体現しているようです。そんな及川さんが営む、自然なガーデンも楽しめるショップ「iisago(イーサゴ)」、ぜひ訪れてください。アクセスは、東北新幹線「新花巻駅」より車で約20分、JR釜石線「土沢駅」より車で約10分、釜石自動車道「東和IC」より車で約10分。




















