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奈良県

奈良・吉野山の桜【松本路子の桜旅便り】
祈りの桜 数年前、桜の季節に吉野山へ出かけた。山陵一面に咲く花の映像に惹かれ、ぜひ訪ねてみたいと思ったのだ。吉野山は奈良県の中央部に位置し、‘ヤマザクラ’を中心に、約3万本の桜がその尾根や谷を埋め尽くす。山岳仏教と結びついた信仰の場として知られ、「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録されている。 吉野山の桜の由来は、今から約1,300年前に遡る。飛鳥時代に活躍した修験道の開祖である役小角(えんのおづの)が、吉野山に金峯山寺(きんぷせんじ)を開き、本堂に桜の木を彫った蔵王権現を祀った。以来、桜が御神木とされ、信者たちが祈願の折に苗木を寄進するようになった。平安時代以降、献木する人も増え、約8kmの山稜が桜で覆われるようになった。吉野の桜は、人々の祈りの象徴ともいえる。 一目千本 吉野山の桜は、標高の低い場所から高いところへと、順に開花するので、約1カ月間にわたり花見の季節が続く。尾根は下千本、中千本、上千本、奥千本と名づけられ、4月初旬から、桜の開花が駆け上っていく。 花見に格好の場所はいくつかあるが、中でも中千本近くの吉水神社の境内からの展望は見事で、古来より「一目千本(ひとめせんぼん)」と称せられてきた。 吉水神社を訪ねた日はあいにくの小雨模様だったが、山脈に霧がかかり、それはまた幻想的で悪くない情景だった。 上千本の花矢倉の展望台からは、金峯山寺を望むことができる。吉野の町や桜の尾根が見渡せ、吉野山に来たことが実感できる場所だ。義経の忠臣が追っ手に矢を放ったことから、この名前で呼ばれるようになった。 義経千本桜 吉野山は祈りの場所であると同時に、数々の歴史の舞台となり、物語をのちの世に伝えている。文治元年(1185年)平家討伐の後、兄である源頼朝に追われた源義経一行が奥州へ逃れる途中に立ち寄り、身を潜めたのが吉野山の吉水院(現吉水神社)だった。 神社の書院には「義経潜居の間」「弁慶思案の間」など、義経伝説にちなんだ部屋が残されている。追手が迫り、吉水院からさらに奥の大峰山に向かった義経だが、大峰山は女人禁制のため、同行していた愛妾の白拍子・静御前は吉野に残らざるを得なかった。それが二人の今生の別れとなった。 静御前は捕らえられ、鎌倉に送られたが、頼朝の前で「吉野山 峰の白雪ふみわけて 入りにし人の跡ぞ恋しき」と義経を慕う今様を唄い、舞ったという。義経と吉野の物語は人形浄瑠璃や歌舞伎の演目『義経千本桜』で知られ、今に語り継がれている。吉野山の奥には義経が潜んでいたといわれる「義経隠れ塔」が残されている。 後醍醐天皇の南朝 延元元年(1336年)、時の権力者・足利尊氏に追われた後醍醐天皇は、吉野山に朝廷を開いた。京都では尊氏が光明天皇を擁立していたので、2カ所に朝廷が存在することとなった。京都を北朝、吉野を南朝とする、南北朝時代の始まりである。 後醍醐天皇は吉水院に滞在した後、金峯山寺蔵王堂の西にあった実城寺を御所とし、寺号を金輪王寺と改めた。3年後に後醍醐天皇はこの地で生涯を終えたが、吉野山の南朝は4代、56年にわたり続いた。 豊臣秀吉の花見 太閤秀吉は、文禄3年(1594年)に総勢5,000人を引き連れて、吉野で花見の宴を開いている。徳川家康、前田利家、伊達政宗などの武将をはじめとして、文人、茶人を伴っての花見は、吉野の桜を一躍有名にする出来事だった。5日にわたり「歌会」「能会」「茶会」「仮装行列」が繰り広げられ、その様子は「豊公吉野花見図屏風」(細野美術館蔵)と題した屏風絵に描かれている。 西行庵 「なんとなく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山」 (『山家集』) 『新古今和歌集』の代表的詠み人のひとりで、『山家集』など多くの歌集を残した平安時代の歌人・西行は、吉野を愛し、たびたび訪れている。さらに奥千本の山あいに庵を結び、3年ほど暮らしていた。 武士であった西行は23歳で出家し、諸国を行脚、73歳でこの世を去るまで2,000首を超える歌を残した。花を詠んだ歌はおよそ230首で、吉野の桜も数多い。 奥千本からさらに奥地へ、険しい道を下って、たどり着いた場所には、これが住まいかと驚くほど小さな庵・西行庵が建っていた。奥千本の桜の時期には早すぎたので、訪れる人も少ない寂しい場所の、霧に浮かぶ庵は別世界のように思えた。西行と桜については、改めて綴ってみたい。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 吉野山観光協会 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2430 電話:0746-34-1007 HP:http://www.yoshinoyama-sakura.jp 吉水神社 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山579 電話:0746-32-3024 HP:http://www.yoshimizu-shrine.com Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
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フランス

早春の「ポタジェ・デュ・ロワ(王の菜園)」を訪ねて【フランス庭便り】
ヴェルサイユの隠れた憩いの場 ルイ14世は美食家であり、野菜や果樹の栽培への関心も高かったことから、王自らが宮殿から馬に乗ってポタジェまで散策に出ていたのだそうで、「王の門」と呼ばれる立派な鋳造の門が現在も残っています。王にとって、公の場である宮廷を離れてほっと一息つく、憩いの場であったのかもしれません。古の「ポタジェ・デュ・ロワ」は王家の食卓に上がる多種多様な野菜や果実が栽培されていましたが、もちろん単なる菜園・果樹園ではありません。王の散策の場にもふさわしい美観を備えつつ、王家の食卓ならではの贅沢を満足させるスペシャルな菜園だったのです。 フレンチ・フォーマルなスタイル ポタジェを訪れてまず驚くのが、徹底的なフォーマル・ガーデン・スタイルの構成です。9ヘクタールの敷地全体が壁で囲われた沈床型のウォールド・ガーデンになっています。グラン・カレと呼ばれる正方形の中央区画には、円形の噴水を中心に、エスパリエ仕立てのリンゴや洋ナシなどの果樹で仕切られた、野菜栽培のスペースが整然と並びます。その周りには、伝統品種や新品種などバラエティに富んだ果樹が、さまざまなエスパリエ仕立ての独特な樹形で栽培されています。 エスパリエ仕立てとは、フランスの果樹栽培のための伝統的な剪定方法。現在でもリンゴや洋ナシを中心に4,000本ほどを栽培するポタジェ・デュ・ロワは、これだけの規模でその様子が見られる、世界でも唯一の貴重な場所です。 ウォールド・ガーデンとエスパリエ仕立ての効用 ところで、沈床型のウォールド・ガーデンをぐるりと囲む厚い土壁にも、壁に沿わせるエスパリエ仕立ての剪定にも、じつはスペシャルな果樹栽培のための理由がありました。土壁は果樹が外部からの冷風に直接晒されるのを防ぐとともに、日中の太陽の熱を蓄え、夜間の急激な温度の降下を抑えて、果樹栽培に好都合の微気候を作り出します。また、平面的なエスパリエ仕立てには、果実に満遍なく日光が当たるように、また収穫がしやすいようにという配慮から生まれたものです。 17世紀にも野菜の促成栽培 贅を尽くした王宮の食卓には、例えば3月にイチゴ、6月にイチジク、12~1月にアスパラガスが並んだといいます(ちなみにイチゴもイチジクもルイ14世の大好物だったそうです)。現代であれば何ら驚きもないのですが、ハウス栽培などなかった時代です。通常の露地栽培の収穫期に大幅に先駆けて現れるこれらの野菜や果実は、まさにミラクル。宮廷人たちにとっても大変な贅沢でした。 では、どうやって実現したのか? ルイ14世の命を受け、ポタジェの造園と管理を行ったのは、庭師で果樹栽培の専門家として名高かったラ・カンティニ。彼は当時最新の栽培技術の開発に余念がなく、宮殿の厩舎から出る馬糞を用いた堆肥の発熱を利用した促成栽培術で宮廷を驚かせ、称賛を集めたのでした。 伝統そして革新 創始者ラ・カンティニのイノベーション精神は後世に受け継がれ、フランス革命などさまざまな時代の変遷を経て現在に至ります。「ポタジェ・デュ・ロワ」のモットーは、歴史の伝承とともに常に革新的であること。世界的にも希少な17世紀のフレンチ・フォーマル・ガーデンの姿を留めたポタジェでは、フランスの昔ながらの固有種を多く栽培し、また伝統的な園芸技術であるエスパリエ仕立ての剪定など、技術の伝承が行われています。そうした伝統の継承を自らの使命として大切にする一方で、今の時代に対応する新たな試みが次々と行われているのも、このポタジェの大切な側面です。 アグロエコロジーへ フランスでは、オーガニックの食材が一般化しているだけでなく、2016年から公共の緑地での薬剤散布が法律で禁止されるなど、人の健康や環境保護が社会的に重大なテーマになっています。先駆精神に富んだこのポタジェでは、2000年代には無農薬の自然農法への切り替えが始まり、パーマカルチャーの手法を取り入れるなどして、できる限り無農薬、栽培品種によっては完全無農薬栽培へと移行してきました。 特に土壌や生態系といった自然環境を保護しつつ、サステナブルな方法で人間と自然の共存を目指す未来の農業、アグロエコロジーへの取り組みが積極的に進められています。また、一般の来場者の見学に門戸を開き、園芸講座や各種イベントが行われ、歴史的庭園の姿やサステナブルな都市農業のあり方を人々に伝える教育普及も現在のポタジェの大事な役割です。 春を待つポタジェの魅力 庭園を訪れる際には、どの季節が見頃なのか、という問いが常にありますが、「ポタジェ・デュ・ロワ」は年間通じて見学が可能です。春にはモモやリンゴの花が咲き、夏は緑が溢れ、秋には黄葉とともに、カボチャ類など秋の収穫物がコロコロと畑を彩る…と季節による変化を追うのも、興味深く楽しいものです。 冬の間は果樹類の葉っぱも落ちて、若干寂しいのではと思われがちですが、じつは自慢のエスパリエ仕立ての木々のグラフィックな魅力を十二分に堪能できる、特別な時期でもあります。この機会に、変化に富んだポタジェの四季の表情を皆様に楽しんでいただけたら嬉しいです。 遠藤浩子さんが案内する「ポタジェ・デュ・ロワ」オンラインサロン開催※終了しました 記事でご紹介したフランスの「ポタジェ・デュ・ロワ」と中継をつなぎ、この時期しか見られない春のポタジェの様子を、庭園文化研究家、遠藤浩子さんがご案内するサロン。開催は、2022年4月14日(木)18:30スタート(フランス時間11:30)。 サロンへのご参加には、ガーデンストーリークラブへのご入会が必要です。
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京都府

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪35 京都「京都・洛西 まつおえんげい」
“わかりやすく”に徹し ガーデニングライフを応援 京都の西部・洛西ニュータウンの山側にある「まつおえんげい」。明治時代から続く老舗の園芸店で、シーズンにはたくさんのバラや草花が来訪者を出迎えます。 このショップは、バラのエキスパートの一人として知られる松尾正晃さんが営むバラとクレマチス+園芸用品全般を扱う総合園芸店。マネージャーである息子の祐樹さんとともに、販売をしながら全国の花のイベントに積極的に参加し、主にバラの魅力を発信しています。 店内はバラとクレマチスの苗でいっぱい。ピーク時には、バラは400~500品種7,000~8,000株、クレマチスは150品種1,500~2,000株の苗が並んでいます。 バラはイギリスやフランス、日本、オランダ、ドイツ、イタリアなど各国のメーカーのものを網羅。自社ブランド品種や古い品種も揃っています。バラは特にお国柄のような特色が表情に出るので、それを見比べながらショッピングするのも楽しい時間です。 品種が多く、育てるのも難しいと思われがちなバラ。そういった不安を払拭すべく、「まつおえんげい」ではコミュニケーションを大事にしています。「皆さん恵まれた環境で育てていらっしゃるとは限らないので、まず環境をお聞きして、対話しながら問題や疑問を一緒に解決していきます。それぞれに合った育て方をご提案できるように心がけています」と祐樹さん。 看板やポップは、「とにかく分かりやすく、より有益な情報や知識を提供」することに力を注ぐ「まつおえんげい」。「どんな些細なことでも困ったことがあれば気軽に相談してください。皆さまのお手元に植物を届けることだけが園芸店の仕事ではないんです。その後もしっかりと育ってくれるようにサポートすることが、なにより大切だと考えております」と祐樹さん。 ロマンチックな庭づくりに欠かせないつるバラ。店内にはつるを伸ばすシュラブやクライミングのバラが100株以上あり、スタッフ皆で剪定・誘引などの管理をしています。ショップの突き当たりの花壇では、つるバラとカラーリーフとの美しい競演が見られるので、ぜひチェックを。 ショップを彩る つるを伸ばすバラたち フェンスやオベリスクに誘引された、丈夫で育てやすいバラをご紹介します。取材時の秋バラは、特に深みのある魅力的な花色でした。秋は春より苗の販売数はだいぶ少ないものの、実際に咲いている花を見て、返り咲き性が強く丈夫な品種を確認できます。 左/‘ダフネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.5×W1.2m、花径6~7cm、中香 右/‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’:四季咲き、シュラブ半横張H1.3×W1.5m、花径8~10cm、強香 左/‘パットオースチン’:返り咲き、シュラブ横張H1.2×W1.0m、花径10~12cm、強香 右/‘エドゥアール・マネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.8×W1.2m、花径8~12cm、強香 左/ルイーズ・オジェ:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8cm、強香 中/‘マルク・アントン・シャンポルティエ’:四季咲き、シュラブ横張H1.5×W1.2m、花径6~8cm、中香 右/‘ポール・ボギューズ’:返り咲き、シュラブ横張H1.5×W1.0m、花径8~10cm、強香 左/‘ナエマ’:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8~10cm、強香 中/‘エリアーヌ・ジレ’:四季咲き、シュラブ横張H1.0×W0.8m、花径8cm、微香 右/‘パレード’:返り咲き、つる横張H2.5m~、花径10cm、中香 コンパクトなクレマチスは 奥の専用ハウスで販売 バラと併せて育てたい植物ナンバーワンのクレマチス。互いの花の少ない時期を補い合うように咲く、バラとベストコンビの植物で、広い敷地の奥にある専用ハウスにずらりと並んでいます。国内のさまざまな生産者から仕入れているので、品種は多種多様。たくさんありすぎて分からないときは、ぜひスタッフに声をかけてみて。 バラと一緒にクレマチスもサンプルで植わっています。さすが専門店、仕立ての美しさは見事です。 先代からの精神を受け継ぎ 上質な植物を販売 ショップがオープンしたのは今から約40年前ですが、店の前身として、戦後に先代の祖父がキクやシクラメン、クレマチスの原種を焼き物の鉢に植え、魚屋からもらった木のトロ箱に入れてリヤカーに載せて街に売りに行っていたそう。そんな時代を経て、息子の正晃さんは園芸店をスタート。その後、バラの魅力にいち早く気づいて、約20年前に、バラとクレマチスに力を入れたショップへと進化させました。 広い店舗ではバラやクレマチスのほか草花の品種にもこだわり、徹底した管理の下で販売。お店でピークを迎えるのではなく、お客様の手元に届いてからピークを迎えるように苗を扱っています。「仕入れ先の農家さんの思いのバトンをきちんと渡したいですね」と祐樹さん。 また、思い切ったサービスとして、苗に1カ月枯れ保障をつけているということにも驚き。「私には園芸は向いていない…で終わるのではなく、チャレンジして育てることの楽しさを感じていただきたいんです」。とことんお客様に寄り添う、真摯な姿勢がうかがえます。 ハウス内の資材売り場にも こだわりが凝縮 ハウス内は、寒さに弱い植物や資材売り場。バラやクレマチス栽培におすすめのアイアンフェンスやコンテナも多数揃っています。 松尾祐樹さんのイチオシ 「まつおえんげい」オリジナル培養土&肥料「プロスタイルシリーズ」+α プロスタイルシリーズは、「まつおえんげい」が長年の生産経験から自信を持っておすすめするガーデニンググッズや用土。とくに培養土は、こだわりがぎっしり詰まった最高品質です。 ◆「プロスタイルシリーズ バラの専用培養土」:排水性・保水性・通気性・保肥性・pHなど、すべてにおいてバラ栽培に最適な配合になっている。過剰になった肥料分を吸収する働きを持つゼオライトも配合され、根の傷みを防いでくれる。 材料にこだわった、「まつおえんげい」の肥料。販売されている苗や地植えしている植物にもふんだんに使われています。 ◆「プロスタイルシリーズ 花の元肥」:花だけでなく野菜や観葉植物にも使える元肥。植物のスムーズな成長を促す高品質の肥料で、効果は120日。 ◆「ALA配合肥料」:根張りをよくする特殊なアミノ酸配合の肥料。株が弱ったときや根が弱りやすい夏などにおすすめ。 ◆「プロスタイルシリーズ バラ専用肥料」:一年を通して使える追肥。1回の使用で30~40日持続する。バラをはじめ、クレマチスや樹木にも使用できる。 地元に愛される店を目指して設けられた 手づくりの喫茶店 「まつおえんげい」では喫茶‘ログハウス’も併設。「奥さんだけがお花を楽しむような場所ではなく,ご主人も一緒に来てゆっくり過ごしてもらえる、地域に愛されるお店にしたい」という思いで、今から36年前に正晃さんの奥様が始めました。ぬくもりを感じる建物は、北山杉の間伐材を使用。椅子やオブジェは倒木が用いられ、一刀彫で造られています。 松尾祐樹さんのイチオシ 丈夫で育てやすいバラ 【四季咲き・木立ち性】 ‘夜来香’ パープル系の中でも育てやすく頼もしい強健種。ブルーローズ独特の爽やかな香りも楽しめる。※1 ‘縁(ゆかり)’ 中輪多花性で、春以外のシーズンにもよく咲く良花。枝は太くなりすぎず、比較的コンパクトに維持しやすい。※2 ‘ピンク・アバンダンス’ 「アバンダンス(=たくさんの)」という名の通り、見応えのある中~大輪花をたくさん咲かせる。大まかな剪定でも花つきがよいので、剪定が苦手な方にもおすすめ。※2 【返り咲き・つる性】 ‘アミ・ロマンティカ’ 花弁のグラデーションが美しい半つる性品種で、秋によく咲く。花弁がしっかりとしているので雨でも傷みにくく、長く美しい状態を楽しめる。※3 ‘ベル・ロマンティカ’ 爽やかなクリアイエローと明るいグリーンの葉色のコントラストが美しい。直立気味のスリムな姿に育ってくれるので、スペースを取りすぎず、行儀よく楽しみやすい。※3 ‘マリー・ヘンリエッテ’ これぞバラといった豪華な大輪花で、香り・花もちともに優秀。病気にも強く、強健で見ごたえのある姿に育ってくれる。※3 ‘パブロワ’ 新品種で、バラの中でも意外と少ない白花大輪のつる性品種。耐病性に優れた育てやすい性質と、グレイッシュな落ち着きのあるホワイトの花が大変魅力的。※4 ‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’ 赤バラの中でも特筆すべき育てやすさを持つ、半つる品種。年に3~4回繰り返しよく咲き、深紅の美しい花を何度も楽しませてくれる。※5 明治から続く園芸店の老舗「まつおえんげい」。優雅なバラとクレマチスに加えて、四季折々の草花が豊富に並びます。また、知識豊富んsスタッフが丁寧にガーデニングライフを支えてくれます。ぜひ訪れてください。アクセスは、京都縦貫自動車道「大原野IC」「沓掛IC」より車で約5分。JR桂川駅・阪急洛西口駅よりバスで約20分「新林センター前」下車から徒歩約5分。 【GARDEN DATA】 京都・洛西まつおえんげい 京都府京都市西京区大枝西長町3-70 TEL :075-331-0358 営業時間:平日10:00~17:00/9:00~17:00(土日祝) 定休日:木曜日(祝日は営業)/正月・盆休み(※詳細はブログ等で掲載) https://matsuoengei.co.jp/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。 【写真協力】 ※1:河本バラ園、※2:タキイ種苗株式会社、※3京成バラ園芸株式会社、※4:株式会社花ごころ、※5:まつおえんげい
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京都府

京都・平安京の桜 その③【松本路子の桜旅便り】
古都の桜を訪ねる旅 早咲きの桜便りが届き始めると、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 京都に原木のある桜や、ゆかりの桜を訪ねる旅の第3弾。古の都の佇まいと桜はよく似合う。今回は仁和寺と、桜守で知られる佐野藤右衛門さんの桜園を訪ねた旅の記憶を綴ってみたい。 仁和寺(にんなじ) 遅咲きの桜‘御室有明’(おむろありあけ、通称‘御室桜’) に会いたくて、桜の季節に仁和寺を訪ねた。仁和寺は仁和2年(886年)、平安時代創建という歴史ある寺院。宇多天皇が譲位後に出家して移り住んだことから、別名「御室御所」と称されるようになった。 仁王門をくぐり、直進した先に国宝の金堂が建っている。中間地点に中門が位置し、その北西に広がるのが‘御室桜’だけを集めた桜苑だ。桜木の数は200本といわれ、花の最盛期には白い雲が一面に舞うような光景が出現する。 ‘御室有明’(通称‘御室桜’) ‘御室桜’は江戸時代から庶民の桜として親しまれ、数多くの和歌に詠まれている。また儒学者・貝原益軒の『京城勝覧』では、吉野の桜に比べても劣らないとし、「花見る人多くして、日々群衆せり」と、その賑わいを伝えている。 ‘御室桜’の特徴としては、見頃が4月中旬の遅咲きであるとともに、樹高が2~3mで、枝が横張り性であることが際立っている。それゆえ、ちょうど人の目線の位置に満開の花が広がって見える。背丈が伸びないのは、この土地の土質から根が張れないのが要因とされるが、詳しいことはいまだ調査中だという。花(鼻)の位置が低いことから、親しみを込めて「お多福桜」とも呼ばれる。 仁和寺には‘御室桜’以外の桜も多く、中でも‘胡蝶’は、古くから寺にあったとされる桜だ。満開時には蝶が舞うような趣があり、この名前がつけられた。開花は‘御室桜’とほぼ同時期なので、併せて晩春の京都を彩る花を楽しむことができる。 桜守・佐野藤右衛門 京都の桜旅で、忘れられない場所がある。それは佐野藤右衛門の私邸にある桜園だ。代々その名前を受け継ぎ、現在16代目の佐野藤右衛門は、祖父である14代、父の15代と、3代にわたる「桜守」として知られる。家業の造園業の傍ら、全国の桜の調査、苗木の保存・増殖に努めてきたことから、敬愛の念を込めて「桜守」と呼ばれるようになった。 『東京 桜100花』という本を私が出版した時、125種類の桜について調べたが、その中の多くが、佐野藤右衛門が発見、もしくは増殖した、とされていた。絶滅寸前の木の後継木として、佐野が育てた苗木が提供された例は数知れない。‘染井吉野’が全国の桜の8割を占めるといわれる今日にあって、これほど多彩な桜に出会うことができるのは、ひとえに「桜守」たちの尽力に他ならない。 佐野家は天保3年(1832年)創業、代々植木職人として御室御所(仁和寺)に仕えてきた。明治期より造園業を営んでおり、桂離宮や修学院離宮などの庭の整備にたずさわっている。16代佐野藤右衛門は、京都迎賓館やイサム・ノグチが設計したパリのユネスコ本部にある日本庭園の作庭などで知られる。2021年には、93歳にして‘オオシマザクラ’の大木の移植作業の陣頭指揮を現場で執り行うなど、いまだ現役だ。2022年4月には94歳になるという。 ‘佐野桜’ 私が佐野藤右衛門の桜園を訪ねたいと思ったきっかけは、桜守の名前を冠した桜があると知ったから。その‘佐野桜’をぜひ、桜守の庭で見たいと思った。‘佐野桜’は京都市右京区の広沢池畔にあった‘ヤマザクラ’の種子を1万個播いた中から選抜して育成された、という。自然交配の結果生まれた新しい種類の桜で、1930年に植物学者の牧野富太郎によって命名された。 半八重の花は、‘ヤマザクラ’より薄い紅色がかかり、ふっくらとしたつぼみや花弁が、優しげな風情を見せる。花径は3~4cmで、成長すると樹高は10mを超える。 桜守の桜園 佐野家の私邸のある敷地内に広がる桜園には、200の栽培品種約500本の桜が植えられている。入り口付近の京都円山公園にある「祇園の枝垂桜」の兄弟木をはじめとして、園内の散策路には、それぞれの桜の名前が分かるように、木の名札が立てられてあり、珍しい種類の桜に出会うことができる。 佐野藤右衛門によって保護、増殖された桜には、‘御室有明’、‘胡蝶’、‘祇王寺祇女桜’、‘大沢桜’、‘平野妹背’など、京都ゆかりの種類のほか、石川県金沢市の兼六園に原木があった‘兼六園菊桜’、宮城県で発見された‘簪桜(かんざしざくら)’などがある。 また、国内では途絶えていた‘太白’は、イギリスの園芸家の庭園で栽培されているのが分かり、接ぎ木用の枝を輸送して、1932年に里帰りさせた。当時の長い船旅から、枝は何度か枯れたが、最終的にジャガイモに枝を挿して輸送に成功したという。その話を聞いて庭の‘太白’の花を見上げると、感慨もひとしおだ。 『桜のいのち 庭のこころ』『桜守の話』など、16代佐野藤右衛門の著書を読むと、彼の桜や自然との付き合い方を知ることができる。同時に、そこには人が生きていくうえでの、たくさんの指針が籠められている。‘佐野桜’が咲く季節に桜園を訪れ、佐野氏の桜に寄せる思いの一端に触れることができたのは、何よりも得難い体験だった。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 仁和寺 住所:京都市右京区御室大内33 電話:075-461-1155 HP:https://ninnaji.jp 植藤造園 (佐野藤右衛門の桜園) 住所:京都市右京区山越中町13番地 電話:075-871-4202 FAX:075-861-7280 HP:www.uetoh.co.jp *桜の季節のみ桜園を一般公開。私邸内の庭ですので、見学のマナーには十分ご留意ください。 *2022年は、コロナ禍のため桜園の公開は中止となっております。 Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
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京都府

京都・平安京の桜 その②【松本路子の桜旅便り】
桜の名前にゆかりの地を訪ねる 早咲きの桜便りが届くと、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 今回は、京都に原木のある桜や、ゆかりの桜を訪ねる旅の第2弾。古の都の風情と桜はよく似合う。 ●第1弾はこちら。 京都御所 平安京遷都から明治維新まで、天皇の住まいであった京都御所。その一部は一般公開されている。御所の正殿である紫宸殿(ししんでん)は、即位礼などの儀式を執り行う格式ある場所だが、前面に広がる白砂の庭越しに「左近の桜」と「右近の橘」が植えられているのを望むことができる。 「左近の桜」は、かつて桜ではなく梅だった。中国文化の影響で、それまで花といえば梅だったのが、平安時代になってから、日本各地で見られる桜に代わった。わが国独自の文化が成熟しつつあった時代の証が、紫宸殿の植樹にも表れているのは興味深い。「左近の桜」は、古くから日本に分布する野生の桜‘ヤマザクラ’で、平安時代から今日に至るまで、代々植え継がれている。 御所ゆかりの桜は‘御所御車返(ごしょみくるまがえし)’。慶長16年(1611年)に即位した第108代後水尾天皇(ごみずのおてんのう)が、桜を見かけその美しさに御車を引き返させたところから、名前が授けられたと伝わる。原木は宜秋門前で見ることができる。 昭和初期に御所にあった原木から増殖されたといわれるのが、‘八重左近桜’。‘ヤマザクラ’の花に似るが、白色の花弁に紅色の筋が入る、気品のある花だ。 京都御苑 江戸時代には、御所を囲むように200もの宮家や公家の邸宅が建ち並んでいた。明治維新を迎え、都が東京に移ると、公家たちは天皇とともに京都の地を離れた。その後、屋敷跡地は公園として整備され、敷地は御所を含み約100万㎡に及ぶ。 苑内には約1,000本の桜があり、中でも摂政や関白を多く輩出した五摂家のひとつ近衛家の邸宅跡の約60本の‘枝垂桜’‘八重紅枝垂’は、見事な景観を作り出している。そのほか‘ヤマザクラ’、御所の南にある‘奈良の八重桜’、出水の小川付近の‘御衣黄(ぎょいこう)’ ‘市原虎の尾’ ‘平野妹背’など、京都ゆかりの桜が並ぶ。御苑の門は24時間開放されているので、早朝の花見も可能だ。 平安神宮 平安神宮は平安遷都1,100年を記念して1895年に創建された神社で、神苑は明治の造園家7代目小川治兵衛らの手により造園された。総面積約3万3,000㎡で、平安京千年の技法を結集した日本庭園とされる。池泉回遊式庭園の池を囲むそこかしこに植えられた‘枝垂桜’は、野生の‘エドヒガン’が突然変異して生まれたもので、花色が紅色のものを‘紅枝垂’、その八重の種類を‘八重紅枝垂’と呼ぶ。 平安神宮の‘八重紅枝垂’は、明治時代に仙台市長が苗木を献上したもので、市長の名前から「遠藤桜」という別名がある。もともとは京都御苑にあった苗木を増殖したものなので、「里帰り桜」とも呼ばれている。 小説家の谷崎潤一郎は、その著書『細雪』の中で、平安神宮の桜の情景を「夕空にひろがっている紅の雲」と描写している。まさに満開の桜が空一面に広がる様が、目に浮かぶようだ。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 京都御所 京都府京都市上京区京都御苑 https://sankan.kunaicho.go.jp/multilingual/kyoto/index.html 京都御苑 京都府京都市上京区京都御苑3 https://www.fng.or.jp/kyoto/ 平安神宮 京都府京都市左京区岡崎西天王町97 http://www.heianjingu.or.jp/shrine/heianjingu.html 桜の開花情報 日本気象協会:https://tenki.jp ウェザーニュース:https://weathernews.jp Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
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岩手県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪34 岩手「iisago nursery & garden(イーサゴ ナーセリー…
ナーセリーが営むクレマチス専門店「iisago(イーサゴ)」 「iisago(イーサゴ)」は、岩手県花巻市東和町のクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」が営むクレマチスの専門店。新しいオリジナル品種からスタンダードな品種まで、ナーセリーがおすすめするクレマチスを中心に、クレマチスと相性のよい宿根草や低木類、ガーデンツールなどを販売しています。 店名「iisago(イーサゴ)」とは、地元の作家・宮沢賢治が小説の中で、盛岡のことを「モーリオ」と呼んでいることにならい、ここ砂子(いさご)集落の名を変化させてつけたもの。地元愛にあふれたユニークな名前です。 約200種類ものクレマチスの苗がずらりと並ぶショップは、かつて生産用だった温室を活用して約6年前にオープンしました。大小さまざまな苗は用途や生育タイプなどでグループ分けされており、陳列商品の上から下げられた看板に分かりやすく表記されています。「たくさんある中から選ぶことは難しいと思いますので、分からないときや迷ったときは、気軽に近くのスタッフに声をかけてくださいね」と、オーナーで育種家の及川洋磨さん。 新しいオリジナル品種を生み出すには、ものすごい手間と年月を費やすというクレマチスの育種。及川さんは「無理なくきちんと育つ苗を作りたい」という思いで育種に励み、毎年3品種を目標に作出しています。 シーズンには株いっぱいに花をつけているので、圧巻の風景が広がります。奔放に伸びる細いつるが隣同士で絡んでしまわないように、ひと株ひと株ていねいに誘引されている様子には驚きです。 ショップ内には構造物に多様なクレマチスを誘引した植栽サンプルがたくさん。2~3種類組み合わせたプロの技も見られ、成長のタイプや雰囲気が確認できます。 難しいと思われがちなクレマチス。「iisago(イーサゴ)」では、初心者の気持ちになって相手のレベルに合わせ、専門用語を使わずにシンプルに伝えることを心がけています。「よく書籍などのクレマチスの紹介で見られる、系統や剪定タイプなどの複雑さに尻込みしてしまう人が多いみたいですね。でもそんなに難しく考える必要はないんです。最も難しいと思われている冬の剪定なんかも、じつは簡単。元気な芽があるところの上でカットすればいいんです。本当は思っている以上に簡単に楽しめる植物なんですよ」と及川さん。 園路脇で最も目を引くのが、この楽しいディスプレイ。今咲いている花を一輪ずつ挿した小瓶に名札が添えられています。「いい花なのに売り場では気づかずスルーされることが多いんですが、一輪ずつ飾ると劇的に皆さんの見方が変わるんですよ。多くの人が楽しそうに眺めていくんです。すべての花の魅力を、その都度伝えたいですね」。 大学で学んだ造園知識を生かしたサンプルガーデン 1970年代に父の及川辰幸さんが植木生産を始め、その過程でクレマチスの品種を集めていた「及川フラグリーン」。幼いころから植物を身近で眺めていた及川さんは、生産よりも庭づくりのほうに興味があり、東京農大・大学院の造園学科に進学しました。 6年かけて国内外さまざまなスタイルの庭やランドスケープを学んだというだけあって、商品苗を並べるだけでなく、クレマチスを庭でどう生かすかを小さな植栽で素敵に提案。併せてクレマチスの庭におすすめの植物の苗を多数揃えています。 ハウス奥には、木々に囲まれたレクチャースペースが設けられています。ここではクレマチスの育て方などの講座や、さまざまなワークショップが行われています。 及川さんおすすめの培養土や肥料、フェンスなどの資材類も充実。男性や若者など、多くの人に楽しんでもらえるようにと、おしゃれなアイテムも揃えています。併設された傍らのコーヒースタンドから、深い香りが漂っています。 五感が喜び、クレマチスの育ち方が分かる サンプルガーデン ハウスを抜けると、ショップのサンプルガーデンが設けられています。ガーデンは3つのエリアで構成されていますが、もともとは及川さんの実験場を兼ねたプライベートガーデン。6年前に「庭でもクレマチスの楽しさを見てもらいたい」という思いで、一般公開に踏み切りました。 周囲に広がる田んぼを借景にした起伏に富むガーデンは、かつては赤松が混在する林。‘いぐね’と呼ばれる防風林でした。マツクイ虫などで赤松が枯れ始めたことをきっかけに雑木林に切り替えたのち、脇にある田んぼだった場所に盛り土をして造られました。 最初に広がるのは、オベリスクに絡むたくさんのクレマチスと宿根草が調和するメインガーデン。未発表のオリジナル品種とイチオシのクレマチス、ガーデンプランツが植わっています。ここでは明確な園路は作っていないので、足を踏み込める場所なら自由に歩くことができます。また、池にはメダカやドジョウ、ヤゴなどが棲みついているので、子どもたちも楽しめる空間となっています。 ガーデンにも、クレマチス同士や草花との合わせ方のヒントがたくさん。鳥のさえずりや花の香りなど自然を感じながら、美しいクレマチスが楽しめます。 メインガーデンの奥は、防風林いぐねと雑木林の混在したエリア。木漏れ日がきらめく風景は、まるでイギリスのウッドランドガーデンのよう。ここにもたくさんのクレマチスが植わりつつ、ユニークな仕掛けがあちこちに盛り込まれています。 林の中にもクレマチスを導入。自然の風景になじみやすいよう、悪目立ちしない繊細なオベリスクが用いられ、‘エトワール・バイオレット’など野趣感のある品種が植えられています。 倒木などをクレマチスを生かす素材として使ってしまうのも、自然が多いこの地で育ち庭づくりを学んだ及川さんだからこそ。思いもよらぬ驚きの仕立て方です。 曲がりくねる林の中の園路にはバークチップが敷かれており、やさしい歩き心地。雨の日でもぬかるむことがないのもポイントです。園路がカーブするところには大型のホスタが植えられて、印象的な風景になっています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー1 遊び心満載の演出 ショップ近辺の農家の納屋には、壊れた古道具がたくさん転がっているそうですが、及川さんはそれを譲り受け、庭で廃材と合わせながらユニークなオブジェとして活用しています。 林の中で見かけた魅力的なコーナー2 クレマチス以外の植物たち 赤松やアカシデ、コナラなどが植わる林の中で、静かな存在感を放っている植物をご紹介します。樹木や宿根草は和・洋のスタイルにこだわらず、及川さんが植えたもの。 ボリュームたっぷりの ロックガーデン サンプルガーデンの最も奥のエリアにあるのは、10年前に奥様の真由美さんと古い庭をリニューアルさせたロックガーデン。こちらはナチュラルなメインガーデンよりもダイナミックで、大人っぽい雰囲気です。 メインガーデンではクレマチスの育ち方を知ることができますが、こちらでは庭への取り込み方が分かります。真由美さんは、自然な空間づくりを得意とする造園設計会社で設計を担当していたこともある、この道の専門家。庭づくり&造園に精通する2人がつくっただけに、見応え抜群です。 こちらではオベリスクだけでなくトレリスなどを用いて、クレマチスの多様な表情を紹介しています。 及川さんおすすめの オリジナルクレマチス3種 及川さんが手がけた品種は今までに30種ありますが、なかでも特におすすめの3種をあげていただきました。 ‘流星’ インテグリフォリア系/開花期:5~10月/花径:8~11cm/草丈:1.5~2.5m 誘引しやすい半つる性。オベリスクやフェンスとの相性がよい。銀色にも見える花は、紫色の絵の具を吹きつけたような色合いで爽やか。 ‘タイニー・ポップ’ テキセンシス系/開花期:5~10月/花径:3~4cm/草丈:1~1.5m ポップで可愛いピンク色のベル形の花を、次々に咲かせながら成長する。枝の伸びはほどほどで、絡まりも弱いので扱いやすい。 ‘ルノカ’ ビチセラ系/開花期:5~10月/花径:6~9cm/草丈:2~3m 縁の爽やかな青紫色と、中心部の緑がかる白色とのコントラストが素晴らしい。ほどよい大きさの花をふわふわ舞うように咲かせ、軽やかな姿を見せる。初夏によく似合う。 ひたむきに美しい花を追求し、たくさんの人々に花の魅力を伝えることに心血を注ぐ及川さん。岩手の人々が敬愛する宮沢賢治の「農民芸術=労働すべてが芸術的行為である」の思想をそのまま体現しているようです。そんな及川さんが営む、自然なガーデンも楽しめるショップ「iisago(イーサゴ)」、ぜひ訪れてください。アクセスは、東北新幹線「新花巻駅」より車で約20分、JR釜石線「土沢駅」より車で約10分、釜石自動車道「東和IC」より車で約10分。
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京都府

京都・平安京の桜 その① 【松本路子の花旅便り】
桜の名前にゆかりの地を訪ねる 早咲きの桜便りが届くと、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 ‘染井吉野’は全国の桜の約8割を占める。だがこの桜が登場したのは江戸末期で、全国的に広まったのは明治になってからだ。古来日本には‘ヤマザクラ’をはじめとする野生の桜が、人々の暮らしとともにあった、その数は10種といわれている。人々は野山に出かけ満開の花の下で、妖気に酔い、散る風情に世の無常を儚む。そうした桜をめぐる豊かな文化が息づいていた。 平安時代になると、公家の手によって宮中や寺社に桜が移植され、栽培・観賞の習慣が生まれた。やがて自然界での変異や異種間での交雑、さらに人工交配によって、さまざまな栽培品種が誕生するようになった。‘奈良の八重桜’や‘枝垂桜’は、平安時代の早い時期に宮中や公家の邸宅に植えられていた。 百人一首で知られる「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな」は、平安中期に女性歌人伊勢大輔(いせのたいふ)によって詠まれた歌で、奈良時代からこの花があったことを教えてくれる。 桜の栽培品種は生まれた地、花色、花の形などから名前が付けられ、今やその数は300とも400ともいわれている。 特に京都に原木のある桜は、名前も雅で、ルーツをたどるだけでも楽しい。京都に花の名所は数々あるが、そうした名前にゆかりの地を訪ねてみた。 平野神社 平野神社は794年、平安遷都と同時に奈良から遷座された歴史ある神社。現在、60種類400本の桜が見られる。平安時代に花山天皇が桜を手植えしたことをきっかけに、氏子の公家たちが珍しい品種の桜を競って神社に奉納するようになった。桜は「生命力を高める象徴」とみなされ、家の繁栄を願ってのことだ。江戸時代になると、庶民にも夜桜が解放され「平野の夜桜」として広く知られるようになった。 平野神社に原木があり、またゆかりのある桜は‘魁(さきがけ)’、‘平野寝覚(ひらのねざめ)’‘平野妹背(ひらのいもせ)’‘手弱女(たおやめ)’など。また‘楊貴妃(ようきひ)’という名の艶やかな桜花も見ごたえがある。種類によって開花時期が異なるので、3月から4月にかけて約1カ月半にわたり花を愛でることができる。 祇王寺 ‘祇王寺祇女桜(ぎおうじぎじょざくら)’という桜と出会い、その名前の由来が『平家物語』にあると知って興味を覚えた。平清盛の寵愛を受けた白拍子(歌や舞を披露する格式高い遊女)の祇王が、清盛の心変わりによって都を追われ、母と妹の祇女とともに出家をするという、悲恋の物語だ。出家後に住まいとした奥嵯峨の尼寺が、今に残る祇王寺だという。桜は19歳の若さで出家した妹の白拍子、祇女に捧げられたものだ。 嵯峨野は都の西方の郊外にあることから、別名西郊と呼ばれ、平安時代から公家や文人に愛され、離宮や山荘が建てられた。嵐山から足をのばした「竹林の小径」がよく知られている。奥嵯峨はさらに北へ行ったあたりで、『平家物語』の時代には草深い里であったのではと思われる。祇王、祇女の姉妹とその母はこの地で生涯を終え、寺の敷地内にその墓が残されている。 私が祇王寺を訪ねた数年前には‘祇王寺祇女桜’の木は見当たらず、樹齢150年を経た切り株のみだった。近年、新しく植樹されたというので、桜の季節に再訪してみたい。一時期廃寺となり、今ある草庵も明治時代に他から移築されたものだが、そのひなびた様子がゆかしい。さらに苔むした庭が静寂の中に凛とした佇まいを見せ、そこに身を置けただけでも、訪れた甲斐があったと思えた。 京都府立植物園 京都市街北部にある植物園は1924年開園の京都市民憩いの場所で、170種500本の桜が植えられている。園内では桜林の‘紅枝垂’ほか、北山門近くの桜品種見本園で、京都に原木のある桜の品種を数多く見ることができる。‘駒繋(こまつなぎ)’ ‘朱雀(すざく)’など京都らしい名前に加え、‘鬱金(うこん)’ ‘御衣黄(ぎょいこう)’など、黄緑色の花弁の桜も京都にゆかりがあるとされる。 半木の道 植物園の西側には大きな河が流れている。鴨川の上流となる賀茂川だ。川沿いをさらに上流に向かう散策路は、‘八重紅枝垂’のトンネルが幾重にも連なる「半木(なからぎ)の道」。京都の桜守、16代佐野藤右衛門により増殖された桜が約800mにわたり続いている。花のスクリーン越しに、夕刻の水面のきらめきを眺め、その日の桜めぐりを終えた。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 平野神社 住所:京都市北区平野宮本町1 電話:075-461-4450 Mail :info@hiranojinja.com HP:www.hiranojinja.com 祇王寺 京都市右京区嵯峨鳥居本小坂町32 電話:075-861-3574(9:00~16:30) Mail:giou@giouji.or.jp HP:www.giouji.or.jp 京都府立植物園 京都市左京区下鴨半木町 電話:075-701-0141 HP:www.pref.kyoto.jp 桜の開花情報 日本気象協会: https://tenki.jp ウェザーニュース:https://weathernews.jp
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東京都

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪33 東京「Garden Shop T- Garden(ガーデンショップ ティーガー…
生産者と自身の思いを届ける 誠実さがあふれるショップ シルバーや銅葉など、美しいカラーリーフの樹木が店頭を飾る「Garden Shop T- Garden(ガーデンショップ ティーガーデン)」のエントランス。造園業を営む「立川造園」の窓口でもある園芸店というだけあって、珍しい大鉢の樹木類がたくさん並んでいます。 ここは立川造園の園芸店舗をリニューアルし2016年にスタートしたショップで、スタッフ8名はみな女性。「造園部は男性ばかりですが、店舗では女性ならではの感性を生かして、笑顔と会話を絶やさず、お客様が心地よくショッピングができるようなおもてなしを心がけています」と店長の村形りかさん。 白いタープが心地よい空間には、ナチュラルな印象の苗がずらり。美しい状態で苗を提供するために、徹底した手入れ・管理がなされています。「よい状態を維持することは、生産者の思い、ストーリーをきちんとお客様に届けること。ポップも分かりやすく書いています」と村形さん。 季節の草花は、花壇でも寄せ植えでも、ほかの花と組み合わせがしやすい品種を陳列。たくさんの植物があるにもかかわらず、店内は落ち着いた雰囲気です。それは「園芸好きなお客様が大人の自由時間を過ごせる場に」という思いで、店づくりがなされているから。スタッフは花をこよなく愛する人ばかりで、ショップ中からそれが伝わってきます。 お客様にさりげなく声掛けすることも心がけている村形さん。「お客様との間に壁を作らず、情報交換できる場所」となるよう常に意識しています。場所がら通りすがりのお客様はほとんどいないので、リピートしてもらえるように努力を重ねています。 繊細な草花と雑貨を合わせたディスプレイも必見。「ディスプレイは、隣り合うものは何か? をよく吟味し、相乗効果を狙ったレイアウトを心がけています。雑貨は植物の邪魔をしないことや、お客様が選びやすいことなどを意識しています」と村形さん。 季節感も大切にしているポイント。先まわりしすぎずに、旬をしっかりと感じられるようなディスプレイを心がけています。 2つの出会いが教えてくれた ガーデニングの楽しさと大切さ 細やかな気配りで接客にあたる村形さん。20代の頃の関心ごとは植物ではなく、料理をさらに美しく見せるテーブルコーディネート (la décoration de table)やフランス語を学ぶことだったそう。日仏文化協会が主催する、フランス文化体験プログラムに参加し、コルドンブルーやエコール ルノートルで料理を学んだことも。街の花のある美しい風景や光景も「きれいだな」と思う程度でした。 村形さんが花にのめり込んだのは、2つのこと(出会い)がきっかけでした。一つめは、テーブルコーディネートで花に関心を持ち始めた頃にイギリスで始まった歴史ある装飾園芸の技法を知り、2000年にハンギングバスケットマスターの資格を取得したこと。夢中で向き合ううちに腕を上げ、数年後には園芸雑誌やガーデニングショーで受賞しました。凝り性で、これだと一つ決めると突き進む性格が、今の村形さんを作っています。 きっかけのもう一つは、バラをこよなく愛する地釜政弘さんとの出会い。地釜さんは、東村山の自宅でたくさんの野ばらやイングリッシュローズなどを育てていた方で、地元の小学校にもバラ園をつくり、ミニコンサートを開催するなど地域に大きく貢献していました。村形さんは、その活動やバラを愛する姿に感銘を受け、花が持つ力を知ったのです。 その後はハンギングバスケットの資格を生かしながら、あちこちで活動。地釜さんに背中を押されたこともあり、東村山に拠点を置き、ショップをリニューアルオープンさせるに至りました。 ハウス内も見どころが満載! ワークショップも開催される ハウス内には、観葉植物やギフト用のランのほか、雑貨や季節の球根などが並んでいます。ここのディスプレイもナチュラルシックな雰囲気で、飾り方の参考になります。球根と合わせるコンテナ類は、アンティークタッチのコンパクトなものがほとんど。小球根を植えるのにおすすめ。 スタッフはそれぞれに長けていることが異なる多彩な陣容。村形さんは、そんな仲間をリスペクトしていると言います。切り花店出身者の技能を生かし、フレッシュリースなども販売。 ハウス内では、さまざまなイベントやワークショップも開催。定番の寄せ植えをはじめ、フラワーアレンジやリース作りなど、生活に楽しく取り込めるような講座が催されています。 村形さんのイチオシはコレ! 松村ナーセリーのクリスマスローズ 同じ地域で活躍する松村みよ子さんのリーフが美しいクリスマスローズ。真冬に輝くウィンタープランツとして欠かせません。たくさんの草花と合わせた華やかな寄せ植えなど、今までになかったようなアレンジができます。色・形、斑の入り方も多様で花も楽しめる、といった優れもの。地植えにしてもいいですね。 バラを栽培するガーデナーである恩人の「花で社会貢献する姿勢」に影響を受け、園芸店として地域への大きな貢献を目指す「Garden Shop T- Garden」。女性目線で細やかな気配りと品揃え、ディスプレイが心地よいショップです。2022年3月に店舗はカフェを併設して再リニューアルオープンする予定(詳細はHPをチェック)。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、西武新宿線「東村山駅」より徒歩17分。 【GARDEN DATA】 Garden Shop T- Garden(ガーデンショップ ティーガーデン) 東京都東村山市久米川町2-1-2 TEL :042-395-1956 営業時間:9:30~17:00 定休日:水曜日/8月は長期休暇あり https://www.t-garden-hana.com/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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静岡県

伊豆・河津桜物語【松本路子の花旅便り】
早春の桜便り 毎年2月になると、静岡県東部にある伊豆から桜が咲き始めたという便りが届く。4月に開花する染井吉野ではなく、早咲きの河津桜だ。今では伊豆だけでなく、全国で植栽され、早春の桜として知られるようになった河津桜。その誕生物語は、奇跡とも思えるものだ。 わが家のバルコニーにも2本の木が育っていて、鉢植えながらけなげに花を咲かせる。まだ寒い季節に、これから訪れる春を予感させ、気持ちをほっこりと温めてくれる貴重な存在だ。 河津桜、そのルーツ 河津桜は静岡県の河津町で、1955年頃に川沿いの雑草の中で苗木が発見され、発見者の故・飯田勝美さんの家の庭先に移植された。10年目に開花し、大木となったその原木は、今も同地で花を付ける。 2月上旬から、淡い紅色の花が1カ月近く咲き続けることから注目を集め、60年代から有志の手によって増殖されるようになった。その後、調査で新種の桜であることが判明し、発見された地にちなんで、1974年に河津桜(かわづざくら)と命名された。 河津桜は伊豆半島に自生する野生の桜オオシマザクラと、他種の桜との自然交配の結果生まれたもので、一方の親はカンヒザクラと推測されている。オオシマザクラは伊豆大島に多く分布し、その名が付けられた。開花期は3月下旬頃だが、1月下旬に咲く「寒咲大島」もある。 一方のカンヒザクラも野生の桜で、主に沖縄に分布するが、江戸時代後期には関東地方でも栽培されていた。沖縄では1月下旬頃から開花する。オオシマザクラは白色で、カンヒザクラは緋色の花を付けるので、河津桜はその中間の花色といえるのかもしれない。いずれにしても2種類の桜がどのように出会って、交配に至ったか、自然界の不思議を感じさせる出来事だ。 河津川沿いの桜並木 1本の原木から増殖された苗木が、今や現地では8,000本を数えるほど植栽されている。中でも河津川両岸の桜並木は4kmにわたる見事なもので、河津駅近くの河口から上流に向かい約850本の桜が続き、花のトンネルを散策できる。 染井吉野の花が10日ほどで散るのにくらべて、河津桜はたくさんのつぼみが徐々に花開き、花もちもよいので、1カ月ほど花の見頃が続く。例年花の季節に「河津桜まつり」が開催され、2021年は中止となったが、2022年は一部のイベントを除いて開かれる。 わが家の河津桜 河津桜が初めてわが家のバルコニーにやってきたのは、20年ほど前のこと。伊豆から到来した苗木だったが、数年後に、成長しすぎて友人の広い庭に地植えしてもらった。当時は鉢植えの木の扱い方がよく分かっていなかったのだ。 十数年前に河津町の生花店で苗木を求め、再び栽培にチャレンジ。バラと同じように冬の休眠期に鉢の土替えをすると、2mの高さで安定して育つようになった。考えてみれば、桜もまたバラ科の植物なのだ。4階の東側のバルコニーは日当たりがよいので、年によっては1月下旬から開花する。 鉢植えの桜 鉢植えのよいところは、動かせること。普段はバルコニーの隅に置いてある鉢を、つぼみがほころび始めたところで、中央のテーブル近くに移動させる。暖かい日には桜花の下でティータイム、そしてリビングルームから花見ができる。夜はライトアップして、ささやかな夜桜見物も。 桜が咲くと、頻繁に訪れてくるのがメジロ。花の蜜が大好物のこの鳥が、窓辺の木の枝に止まり、夢中で蜜を吸う姿が見られる。食用には適さないが、サクランボも実り、小さな果実は見ているだけで楽しい。青い実が熟し、赤くなると、小鳥たちがやってきてそれをついばんでいる。 Information 第32回「河津桜まつり」 会期:2022年2月1日~28日 アクセス: 車 東名沼津ICから河津町まで、約1時間20分。東名厚木ICから河津町まで、約2時間30分 電車 JR東京駅から特急踊り子号で、伊豆急河津駅まで約2時間40分。新幹線熱海駅から伊豆急行で、伊豆急河津駅まで約1時間30分 開花情報:電話 0558-34-1560 事務局:河津町観光協会 www.kawazu-onsen.com info@kawazu-onsen.com
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新潟県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪32 新潟「グリーンランド エデン」
園芸の裾野を広げるべく 安心して育てられる苗を販売 エクステリアや庭づくりの設計・施工を請ける「グリーンランド エデン」。大きな看板はないものの、瑞々しい植物が囲むモダンな事務所兼ショップが目印です。 「グリーンランド エデン」は、約8年前にこの地にオープンした総合園芸ショップです。以前は、北陸自動車道新潟亀田ICのすぐ横に35年間店を構えていましたが、付近の整備に伴い3kmほど南に移転しました。 店名は創始者で前社長の大橋保男さんの「皆が楽しく暮らせる理想郷・ユートピア・エデンの園をつくろう」という思いからつけられました。1968年当時、世界で一番の国・アメリカ合衆国を見たいという思いでカリフォルニア州に渡り、農業研修生として学んだことを注ぎ込みました。その名の通り、花いっぱいのおだやかな空間が広がっています。 広い敷地の一番奥に設けられたハウスは、色とりどりの花苗や鉢が並ぶ売り場。中央に設えた大きなトンネル状のアーチが空間に立体感とメリハリをもたらしています。ここにはロベリアやフクシア、シダなど枝垂れるタイプの植物が吊され、彩り豊かなアイストップとなっています。 花苗の新鮮さはもちろんですが、どれもしっかりとした株に育っていることも、このショップの大きなこだわり。「よいものを安く提供する」ためのひと手間を惜しまず、メーカーから仕入れた苗を、30年来提携している農家さんに大きく育ててもらってから、売り場に出しているのです。これならビギナーでも育てやすく、見栄えも抜群です。 ショップにはハンギングバスケットマスターなどが在籍、常に花に携わる仲間たちと園芸の裾野を広げることを強く意識し、イベントやワークショップなどの活動に積極的に参加しています。モダンな建物の中では、寄せ植えをはじめとした講座を月2回(1、2月は除く)開催、冷暖房完備の中で快適に学ぶことができます。寄せ植え講座は、材料を店側が用意するだけでなく、自身で選ぶことも可能。参加者のレベルに合わせて受講することができるので安心です。 ナチュラルな雰囲気の寄せ植えも多数並んでいます。売り場の奥には、近隣の企業やショップから依頼された寄せ植えがたくさん。もちろん、要望を伝えれば予算に合わせて作ってくれます。 庭づくりの専門家がおすすめの リーフや実が楽しめる樹木がたくさん 庭の工事を請けているショップだけに、草花だけでなく樹木の品揃えが非常に豊富。大きく育つ黄金ニセアカシア‘フリーシア’を中心に、おしゃれで人気の樹種がずらりと並んでいます。樹木のプロも3人在籍しているので、大きさや育ち方、庭への取り入れ方など、分からない時はぜひ相談してみて。 ショップで今人気なのは、鉢で気軽に楽しめるオリーブやブルーベリー。そのほか、銅葉や斑入り葉、オーレア葉などの人気品種や、手に入りにくい希少種も揃えています。それぞれに大きな名札がついているので選びやすく、眺めているだけで勉強になります。 小さな農場のような売り場で見つけた 素敵な樹木をご紹介! 左/斑入りコナラ:ブナ科・落葉高木。人気が高い秋にドングリをつける雑木の斑入り種。 中/斑入りリョウブ:リョウブ科・落葉中高木。夏に細長い花穂に白花をたくさん咲かせ、秋に小さな実をつける。 右/ヤマボウシ‘ウルフアイ’:ミズキ科・落葉高木。葉焼けしにくい斑入り種で、比較的コンパクトな樹形におさまる。 左/クロハトベラ:トベラ科・常緑低木。さわやかな斑入り葉と黒い茎の対比が美しいピットスポルマム。 中/シマグミ:グミ科・常緑低木。銀色がかった葉が魅力の、まだ流通が少ないグミ。初夏に白花を咲かせる。 右/コプロスマ‘サンスプラッシュ’:アカネ科・常緑低木。繊細な枝ぶりで、黄覆輪の小さい葉が密集する。 アメリカハナズオウ:マメ科・落葉中木。春に開花する。写真の品種は下記の通り。 左/‘メルロー’:厚みと光沢のある紫色の葉と、赤紫色の花が美しい品種。‘フォレストパンシー’よりまとまりよく成長する。 中/‘ハートオブゴールド’:出葉時のライムグリーンの明るく美しい葉は、強光下でも葉焼けしにくい。花はピンク色。 右/‘シルバークラウド’ :淡ピンクから白い斑入りに移ろう美しい葉は、強光で葉焼けしやすい。花は淡ピンク色。 ヨーロッパナラ:ブナ科・落葉高木。カシワのような形の葉をつけ、秋にドングリがなる。写真の品種は下記の通り。 左/ ‘コンコルディア’: 春の鮮やかな黄色はじつに見事。黄色い葉は盛夏を過ぎる頃になると緑色に変わって、再び秋に黄葉する。 中/クリスタータ:品種名は丸まって展開する葉が「鶏のとさか」に似ていることから名付けられた。大きなドングリも魅力的。 右/‘アルゲンティオ マルギナータ’:やや青みがかる葉に白い斑が入る。ドングリにも斑が入り、緑と白のきれいな縦縞模様になる。 左/アロニア:バラ科・落葉低木。チョコレートベリーとも呼ばれ、春に薄紅色の小花を房状に咲かせ、秋には赤や黒の果実をつける。 中/ブルーベリー‘チャンドラー’:ツツジ科・落葉低木。ブルーベリーの中では最大サイズを誇り、成熟期初期は500円玉ほどの大きさの実をつける。 右/西洋ニンジンボク:シソ科・落葉低木。初夏に薄紫または白色の芳香のある花を咲かせる。葉は5~9枚の掌状になり、香りがある。 左/ヨーロッパブナ‘パープルファウンテン’: 枝垂れるブナで紫葉の人気品種。新葉は紫赤色で、夏にはやや緑がかり、秋は茶色になる。 中/レイランディ‘ネイラーズブルー’:ヒノキ科・常緑高木。広円錐形から円柱形に成長するコニファー。萌芽力が強いのでトピアリーにも。 右/アカシア‘ブルーブッシュ’ :マメ科・常緑中木。青灰色の葉と黄色い花が魅力のアカシア。生育が早く、樹形はブッシュ状になる。 お手頃なサイズと値段の インテリア関連も充実 建物内はインドアグリーンと雑貨売り場。天井が高い店内には、大小さまざまな種類のグリーンがおしゃれな雑貨とひしめき合うほどに並べられており、選ぶ楽しさ満載です。お手入れにおすすめのガーデンツールも多様に揃っています。 コンテナや雑貨類と合わせたおしゃれなディスプレイも必見。棚やスタンドを巧みに使い、それほど大きくないグリーンも、空間につややかな潤いを与えています。 インテリアで存在感を発揮する、大型の雑貨類もたくさん。鏡を用いることで部屋を広く見せつつ、大きめのガラスの花瓶とともに透明感のある輝きをもたらしています。 品質本位にこだわり、地域に根差すことを大切にしている園芸店「グリーンランド エデン」。たくさんの生産者がいる新潟・園芸産地としてガーデニングの活性化に力を注ぎ、園芸に携わる人の雇用アップにつなげる努力を続けています。また庭づくりのプロが「どこからどのように始めればいいの?」といった初心者さんの疑問にも丁寧に答えてくれます。ぜひ訪れてみてください。アクセスはJR信越本線亀田駅より徒歩約30分、北陸自動車道新潟亀田ICより車で約10分。 【GARDEN DATA】 グリーンランド エデン 新潟県新潟市江南区泉町5丁目1番3号 TEL 0120-1187-92 営業時間:9時30分~18時30分(1・2月は冬季営業10~18時) 定休日:正月三日間、1・2月のみ毎週水曜日 https://g-eden.co.jp/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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宮崎県

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。宮崎「こどものくに」バラ園
育種家ビオラの聖地、宮崎へ初訪問 僕が初めて宮崎を訪れたのは2019年2月のこと。ずっと行きたいと願っていた、宮崎育種家ビオラの聖地「アナーセン」で行われる「パンジー&ビオラ展」を取材するためでした。案内を買って出てくれた橋本景子さんは別便で一足先に宮崎入りし、待ち合わせに指定された場所が「こどものくに」のバラ園でした。橋本さんはバラ園で冬の手入れ作業中でしたので、しばらく青島神社辺りを観光してみることに。もともと神社仏閣には特に興味もなく、観光名所とは縁のない僕でしたが、このちょっとエキゾチックな青島神社に思いがけず魅了されてしまい、時間を忘れて撮影に没頭。「こどものくに」の駐車場に着いたのは、もう夕方近くになっていました。 駐車場から電話をすると、橋本さんは手が離せないとのことで、迎えに来てくれたのは、ガーデナーの源香さんでした。丁寧な挨拶から始まり、バラ園まで案内してくださる道すがら、ずっと1939 年に開園した「こどものくに」の歴史や、創始者の岩切章太郎さんの話を聞かせてくれました。 源さんの説明を聞きながら、バショウなどが育つ熱帯を思わせる林を抜けると、バラ園に到着。バラ園は僕が想像していたよりも小さく、何本かの園路で仕切られたスペースに木立ち性のバラが並ぶオーソドックスなスタイルで、植えられている品種は、少し古いタイプのハイブリッドティー(HT)が多い印象。この段階では、2年後に本気で撮影に伺うことになるとは想像もしていませんでした。 ただ、僕がいろいろなバラ園に行っている経験があるからか、熱心に質問してくれる源さんとバラ談議をしながら園内を歩いているうちに、「ここを宮崎の皆さんに喜んでもらえるバラ園にしてみせる」という源さんの熱い想いが伝わってきました。帰る頃にはすっかり打ち解けて「僕の好きなチャイナローズなら宮崎の気候にも合うと思うので、苗を送りますよ」なんて約束までしていました。 ラナンキュラス・ラックスが作る美しい風景との出合い 2度目に「こどものくに」を訪れたのは、翌々月の4月。2月にパンジー&ビオラ展に伺った際、「アナーセン」の川口のりこさんが写真教室を企画してくれて、二十数名の生徒さんと宮崎のいろいろなガーデンをバスで巡った時になります。ガーデン巡りの最後の目的地が「こどものくに」で、着いたのはもう午後5時を過ぎていました。この時期、バラ園はまだ花は咲いていないのですが、橋を渡った隣の海側エリアではラナンキュラス ・ラックスの花壇が見頃に。ちょうど沈みかける夕陽をバックに、逆光の中でラックスが美しく輝いているではないですか。ラックスは、花弁に光沢のある宿根草ということを知ってはいましたが、これほど見事な光景を見るのは初めてで、興奮してシャッターを切ったことを覚えています。 この見事なラックスは、作り手である隣町の綾町にある綾園芸の草野さんが2014年に100株寄贈したものだそうで、その後、源さんが大切に育て、守ってきた宝物の一つです。このエリアは、春はラナンキュラス・ラックス、秋はミューレンベルギアが美しいグラスガーデンの2交代制になっていて、このミューレンベルギアが、源さんのもう一つの宝物になります。 3度目の宮崎で庭撮影のタイミングを逃す その年の11月には、最新のパンジー&ビオラの買い付けに全国からやってきた花屋さんたちに混ぜていただいて、3度目の宮崎入りをしました。今回は皆さんと同様に、僕もパンジー&ビオラの新花が目的でしたが、バラ園には帰りの飛行場に向かう途中にちょっとだけ立ち寄ることができました。滞在最終日のわずかな時間しかない中、訪れたバラ園は、ちょうど満開の秋バラとたくさんの宿根草が混ざり合い、美しい風景を作っていましたし、橋の向こうのエリアでもミューレンベルギアがじつに見事。しかし、残念ながらフライトの時間が迫っていたため、撮影は翌年にと心に誓って、後ろ髪を引かれながら、急いで飛行場に向かいました。 翌2020年も11月にパンジー&ビオラの新花の撮影を計画していたのですが、この年は天候不順でパンジー&ビオラの開花が遅れていると連絡が入り、他の仕事との兼ね合いもあって、宮崎行きは12月に入ってからになりました。12月10日に宮崎入りしてすぐ「こどものくに」に向かったのですが、11月の末、来場者の方々にバラを切って持って帰ってもらうという「チョキチョキカッティング」というイベントがあったため、バラ園では宿根草だけが美しく風に揺れていました。 11月の最終週までに来ていれば、この宿根草の間に満開のバラが咲いていたのかと想像すると、がっかり。座り込んでしまいたいほど悲しい気分に。来年こそは、源さんのフェイスブックもチェックしながら、バラ園の撮影を最優先でスケジュールを立てなければ! と心に決めたのでした。 2021年は撮影の万全なタイミングを図る 2021年も11月に入り、源さんのフェイスブックを見ていると、10日過ぎから南国特有の夕方の赤っぽい光に浮かび上がる満開のバラ園や、逆光に輝くミューレンベルギ アなどワクワクする写真が、次から次へとアップされ出しました。ちょうどパンジー&ビオラもどんどん咲き出しているようだし、これはいよいよ宮崎行きのベストタイミングが近づいてきたと確信。10日間の宮崎の天気予報をチェックして、晴天が続く13〜15日の3日間の予定で宮崎に出発しました。 13日午後3時半にバラ園に到着。満開のバラと、そのバラを覆い隠すほど大きく育った宿根草に出迎えられて、満足しながらカメラをセット。太陽の位置を確認しながらファインダーを覗いてみると、赤やオレンジのバラの周りに、紫の千日紅や赤いケイトウが咲き誇り、その後ろには大きなグラスが風に揺れています。これは、まさに源ワールド! 深呼吸をして数枚のシャッターを切り、右を見ると大きなカンナが伸びやかに育っています。左にレンズを向ければ、そこも全然違う風景が広がっていて……。そのまま撮影をスタートしました。 バラと宿根草の美しいコンビネーションを撮ったり、ちょっと懐かしい昔のハイブリッドティーの名花を撮ったり、忙しく撮影をしているうちに時間があっという間に過ぎていて、気がつけば、西の山の向こうに陽が沈んでしまいました。橋の向こうのミューゲンベルギアをまだ撮っていないことに気づいて、三脚をかついで走り、グラスガーデンに行ってみると、ダイナミックなグラスの中に赤いカンナが混ざり育っていて、ここもバラ園とは違う、もう一つの源ワールドに。 残念ながら陽は既に沈んでいて、グラス類を撮る時に絶対に必要な逆光ではありませんでした。宮崎滞在はあと2日。このグラスガーデンにはもう一度来ることにして、ガーデン全体の写真を撮るアングルを探してみると、西側にカメラを構えてレンズを東に向けるのがよさそう……。ということは、撮影は朝の光で、東の海から昇ってきた逆光の太陽の光で撮るのがベストと分かりました。 14日早朝は別のガーデンに行く予定にしていたので、このグラスガーデンは15日早朝にと決めて、初日の撮影は終了しました。 早朝から約2時間が撮影の勝負 15日午前6時45分。日の出前の時間はさすがに宮崎でも寒く、三脚にカメラをセットして、陽が昇るのを足踏みしながら待っていると、ガーデンの後方にある木々の下方がだんだんオレンジに染まり始めました。いよいよ撮影開始です。少しずつ露出を変えながら数枚のシャッターを切ったら、また足踏みをしながら5分待ってシャッターを切り、また5分待ってシャッターを…と、7時過ぎまでシャッターを切って、太陽が木々の上にまで昇り、光が強くなったタイミングで場所を移動。逆光に白く輝くグラスの穂を撮ったり、光に透けるカンナの葉を撮ったりしてグラスガーデンの撮影は終了です。 急いでバラ園に移動して、朝の光で見るバラ園は、一昨日の夕方とは全然違う表情を見せています。ここでも昇る太陽と競争しながら、8時過ぎまで撮影し、こうして何年越しかの「こどものくに」の撮影を終了しました。 この年の滞在中は、源さんも忙しくてすれ違いばかり。ゆっくり話を聞くことができなかったのですが、この原稿を書くにあたり、メール取材の中で、こんなに宿根草がバラ園にある理由を尋ねてみました。 2017年までバラ園を担当していた方が高齢となり、退職後を引き継ぐ人がいなかったことから、まだ当時はバラにはそれほど興味のなかった源さんが引き継ぐことになったそうです。「『こどものくに』が好きな人と花好きの人が集まれば、何とかなる」という思いで「ときどき花くらぶ」というグループを作り、仲間たちとバラ園の管理を始めました。初めの頃は草取りばかりで大変だったので、作業が少しでも楽しくなるようにと、好きな草花を持ち寄って植えているうちに今の姿になったとのこと。今後は、バラが好きな人は「バラ組」、椿が好きな人は「椿組」、グラスの好きな人は「グラス組」というように、いくつかのグループを作って、学校のクラブ活動のように楽しく学べる場所にしていきたい、と源さん。 バラ園の宿根草も、グラスガーデンのミューレンベルギアも、ダイナミックに景色を作る源さん。人生の目標もダイナミックで素敵な源香さんが、今後どんなガーデンをつくってくれるのか、今から楽しみです。
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フランス

珠玉のプロヴァンススタイル・ガーデン「ラ・ルーヴ庭園」
プロヴァンス・スタイルの「ラ・ルーヴ庭園」 太陽がいっぱいの南仏プロヴァンスのガリーグと呼ばれる灌木林には、自生のタイムやローズマリーの群生が広がり、西洋ウバメガシやカシの木、ツゲなどの自生樹種が山野を彩ります。リュベロンの小さな村ボニューにある「ラ・ルーヴ庭園」は、そうしたローカルな自然を取り込んだ、元祖コンテンポラリーなプロヴァンス・スタイルのガーデンです。 フレンチ・シックなガーデンデザイン リュベロンの山を望み、岩壁を這うようにつくられた庭園のテラスに入ると、さまざまな常緑灌木が球形または大刈り込みのように繋がり、立体的な緑の絨毯が広がるような姿に驚かされます。フレンチ・フォーマル・ガーデンというとシンメントリーで幾何学的な、整ったイメージですが、それとも違うのだけれども、大変シックに美的に整っており、同時に庭の生きた魅力に満ちているのを感じます。歩を進める度に微妙に庭の眺めが変わり、細長い庭園の園路を進んでいくと、ラベンダー畑やブドウ畑からインスパイアされたのであろうプロヴァンス風景のコーナーがあったりと、決して広くはない庭園なのに、変化に富んだ散策が楽しめます。 土地の自然を取り込む自生樹種をチョイス トレードマークともいえるツゲやローズマリーなどをはじめとするすべての刈り込みの灌木類は、庭を遠巻きに囲む山々にある自生樹種が選ばれています。土地の風土に適した、手入れがなくとも育つ丈夫な木々が庭に取り込まれ、それぞれの緑のトーンやテクスチャーの違いが豊かな表情を見せます。それはまた、プロヴァンスの明るい透明な光の具合によって、さらに輝きを増すのです。刈り込みの常緑樹木には変化が少ないように思われるかもしれませんが、季節によって、また朝昼晩の光の違いによって、生き生きと変化する絶妙な庭の風景を作り出しています。プロヴァンス独特の自然の産物である樹木の緑や太陽の光が最大限に生かされ、独自のスタイルとなっているのが、このガーデンの特筆すべきところです。 ラ・ルーヴとの運命の出会い この庭をつくったのは、元エルメスのデザイナーでもあった女性、ニコル・ド・ヴェジアン(Nicole de Vésian/1919~1999)。南仏プロヴァンスの土地の魅力に魅せられ、ラ・ルーヴ(仏語で狼のこと)と名付けられた村外れの邸宅と土地を購入したのは1989年、70歳の時でした。山の眺めに向かって大きく開かれた3,000㎡ほどの土地がたちまち彼女を魅了し、建物の中も見ずに購入を即決したのだとか。そして、70歳にして彼女の最初の庭づくりが始まったのです。 70歳にして初めての作庭 当初は庭づくりの知識などなかったので、何人かの庭師を雇って作庭を始めました。植物の知識はなくとも、このような庭にしたい、という絶対的なイメージがあって、そのクリエーションを庭師たちの職人技が支えていく、そんな感じだったのでしょう。その作庭の方法はデザイナーとしては独特で、「図面も描かないし、長さも測らない」。すべて現場で、植栽前に植物の配置を何度も並べ替えて、徹底的に目視で確認して決定するというやり方です。庭師たちにとってはたまったものではなかったことでしょう。しかし、一緒に仕事をしていくうちに、あうんの呼吸が生まれ、後に、彼女の庭を訪れたセレブたちから次々と庭園デザインの仕事が舞い込むようになった時には、必ずお気に入りの庭師たちとのチームで仕事を受け、海外からの依頼を受けた際にも自分の庭師たちを連れていったのだそうです。 フランスのみならず、特に英米からの来訪者が多かったそうですが、ある美術評論家は彼女の庭を美術作品のごとき「傑作」だ、とたたえ、ニコルには音楽での絶対音感のような、絶対的な空間造形の感覚があるのだろうと評しています。 ローカルな素材への愛着 見事な刈り込みの緑の造形の他にも、庭の主たる構成に見えるのは、ローカルな石への愛着。ルネサンス庭園にあるような非常にシンプルな球形の石造彫刻や、地元の廃墟となった庭園や建物からリサイクルした石がふんだんに使われています。 日本庭園への憧憬 ところで、石と刈り込みの緑といえば、日本庭園にも共通するアイテム。プロヴァンスの自然と彼女の感性から生まれたであろうデザインでありながらも、日本人から見たら、どこか日本庭園に通じる雰囲気も感じられるのも、この庭の不思議な魅力です。その背景にある哲学や美学は異なるものであろうとも、アシンメトリーな構成や、シンプリシティや自然へのリスペクトを追求する庭づくりには、伝統的な日本庭園を彷彿とさせる完成された美観と静けさが満ちています。ニコルはデザイナーの仕事で何度も日本を訪れており、日本庭園も見ていたはず。何らかの形でインスパイアされた部分があるのかもしれません。 80歳の時、ニコルは次の庭をつくるべく別の土地を購入し、そのためラ・ルーヴ庭園を売却しています。残念ながら新たな庭を完成する前に世を去ってしまうのですが、その次作には、なんと日本風の庭園を作る構想を立ていたのだそう。つくられなかった庭がどんなものになったのか、興味深いところです。 生き続けるラ・ルーヴ庭園 その後のラ・ルーヴ庭園の所有者は何代か変わり、現在は、やはりこの庭園に魅了された元ギャラリストの夫妻が所有者となっています。庭は生き物なので、継続的な手入れが欠かせません。長い年月の間には、庭の木が成長しすぎてバランスが崩れたり、あるいは枯死したりといった事態も起こります。また、作庭当時に比べて夏の暑さが一層厳しくなるなどの気候の変動に対応し、一部植物のチョイスを変えるなど、常に調整が必要です。所有者はニコルがつくり上げた庭園のエスプリを尊重しつつ、今も大切に庭を育て続けており、見学も可能です。 何歳からでも庭づくりを 70歳からの作庭で、いくつもの名園をつくり上げたニコル・ド・ヴェジアン。デザイナーとしての素養と慧眼のうえに、晩年の彼女に目覚めた自然への愛、庭づくりへの情熱が生んだ、彼女独自のプロヴァンス・スタイル・ガーデン。そうして生まれたガーデンは、彼女が亡くなってからも、多くの人々を魅了し、世界中に影響を与え続けています。
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福井県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪31 福井「開花園」
お客さまを裏切らないための努力が 随所から伝わるショップ 福井市中心部から車を10分ほど走らせた、広々とした区画エリアに位置する「開花園」。道路に面した間口の広いショップは、車中からでも色とりどりの風景が楽しめます。 開花園は、「特別な記念日やプレゼントだけでなく、日々の暮らしに気軽に花を取り入れてもらいたい」という思いからオープンしたショップ。それから40年ほど経ちますが、いまだオーナーの三国哲弘さんの当初からの思いを強く感じることができます。 奥行きのある花苗売り場には、花壇・寄せ植えにおすすめのたくさんのポット苗がずらり。「お客さまの信頼に応えるため、『品質・鮮度・産地』にこだわっています。植物にも人間同様、一つひとつ個性があるので、国内外問わず生産者のもとを訪れ、育てている環境や想いを聞き、学ぶようにしています」と三国さん。 都会のショーウィンドウのような 飽きのこないコーディネートも魅力 ショップの雰囲気作りも、随所にこだわりがたくさん。建物や什器は、三国さん自身がデザインしています。かつて石川県のフラワーデザイン・冠婚葬祭の装飾に携わっていただけに、ディスプレイはお手のもの。現在の場所に開店して約17年経ちますが、大掛かりなリニューアルを9回も重ねており、日々磨いている感性や知識をその都度反映させています。 細長い敷地の奥には多肉植物や低木などの売り場があります。タープを広げた頭上にもたくさんのグリーンが下がり、囲まれ感がたっぷり。心地よい気分でショッピングが楽しめます。 建物内はインドアグリーンや雑貨、切り花の売り場。「開花園」ではインドアグリーンの普及に取り組んでおり、品数だけでなく珍しい植物も揃っています。 「日本やヨーロッパでは鬱になる人が多いですが、途上国などは鬱になる人は少ないんですよ。その理由は、途上国は自然が多いことと、過ごす空間が広いことから。冬も長くて空間が狭いイギリスでは、環境によるストレスを改善するために、国を挙げてガーデニングに力を入れたんですよ」と三国さん。 日照時間が少なく、降水量は全国でもトップ3に入る福井県。「だから観葉植物を部屋に置いて、心に潤いを与えることがとても大切」と三国さんは考えています。 開花園では、日々の生活に緑を取り入れることと、五感を刺激することを積極的に提案しています。店内では水槽に注ぐ水が澄んだ音色を響かせています。 もう一つのモットーが、ワクワク感のある店づくり。ディズニーランドのような高揚感を演出したい! と、細長い店舗内を上手に区切って雰囲気を変え、次々に新鮮な空間を展開しています。 開花園の前身は、父が始めたショッピングモール内の切り花店。実家を継いだ三国さんは、数年で売り上げを大きく伸ばしました。大きな理由は、積極的に声掛けをすることと、分かりやすいポップをつけること。ときどき都会に刺激をもらいに出かける三国さんは、都内・デパ地下での威勢のよい声掛けを目の当たりにしたり、八百屋のポップの数字の見やすさに感心したりすることが多く、それが自身の店の改善につながりました。日々、あらゆることにアンテナを張りながら過ごす向上心が、数字として表れたのです。 店のディスプレイもこまめにチェンジ。1カ月後に訪れると、また違う風景が楽しめるそう。「店の中がいつも同じじゃつまらないよね。表参道なんかのハイブランドなんて、数週間単位でウィンドウのディスプレイが変わるもん。いつ歩いても楽しいよね、表参道って」。 常にお客様目線でていねいに。 立ち寄りやすいショップを目指して ショップ前のウォールもいつも花できれいに彩られています。用がなくても、また年配の方も入りやすいように、「身近感」を大切にしています。 ショッピングモールから今の場所へ移転し、ゼロからスタートした「開花園」。時代に合わせて日々変化し、求められているものをいつでも提供できるよう店舗を拡張。あらゆる面でパワーアップを図っています。 開花園・三国哲弘さんイチオシはコレ! 開花園YouTubeチャンネル おすすめの季節の植物とその簡単なポイントは、店内の掲示板でお知らせしています(左)が、もっと具体的なことは、インスタグラムやフェイスブック、YouTubeでご紹介しています。特におすすめなのは「開花園」のYouTubeチャンネル。三国さんが植物の育て方や魅力をていねいに紹介しています。旬を迎えた人気花のQRコードは、掲示板に紹介されています(右)。来店の際にぜひご活用ください。 「お客様の反応や頂いた評価は店の現状。いつもお客様目線で、‘豊富な品揃え、きれい、ていねいな接客’を心がけています」と三国さん。地域の人々に癒やしの場を提供するべく、品揃えだけでなく五感で楽しめる空間づくりに力を入れています。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、北陸自動車道・福井北ICから車で約5分。 【GARDEN DATA】 開花園 福井県福井市高柳町1-808 TEL :0776-53-8739 営業時間:10:00~18:00 定休日:火曜日 https://kaikaen.com/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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兵庫県

花の庭巡りならここ! 世界水準の熱帯植物コレクションを誇る「兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリー…
日本最大級の温室植物園へ出かけて 世界のユニークな植物たちと出会おう! 「兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリーン館」は、2000年に世界的建築家・安藤忠雄氏の設計によって造られた温室植物園です。元は関西空港などの建設のために大規模な土砂採掘が行われた跡地でしたが、「人と自然が共生する場」を目指し、緑豊かな植物公園に整備。温室植物園は、長らく憩いの場として人々に愛されてきました。 それから20年が経過したのを機に館内をリニューアルし、2021年9月に再オープンしました。新たにプロデュース・リーダーとして迎えられたのは、現館長の稲田純一氏。世界文化遺産の「シンガポール植物園」を手がけたことでも知られています。新たなシンボルとして設けた、ダイナミックなガーデンキャッスルなど、世界水準の展示を見ることができますよ! 施設内は、展示室を一つずつ楽しみながら散策できる回遊式の造りで、「みどりのちょうこく」「しきさいのにわ」「くらしのみどり」「しんかのにわ」「にぎわいのにわ」の5つのシーンに分けられ、それぞれのテーマに沿った植栽展示が展開されます。 ほかにも「ひかげのにわ」「アトリウム」「特別展示室」もあり、施設内は多様な植物で彩られています。館内を見学するのに、大人の足でゆっくり歩いて40分くらいの規模です。また、これまでになかった「ベビールーム」や、子どもが遊べるプレイエリアの「キッズスペース」も新たに設置、子どもと一緒に楽しめるのもいいですね。 夏休み、ハロウィン、クリスマスなどのイベント期間に合わせ、ディスプレイも変化していきます。また、お正月飾りの苔玉づくりや多肉植物の寄せ植え、アロマセラピー、プリザーブドフラワーアレンジなどの教室も開催。今後は、館内のガイドツアーも定期的に行う予定です。 施設内には「温室カフェ」があるので、「少し歩き疲れたな」と思ったら休憩もできますよ! またオリジナルグッズを販売するショップで、お買い物を楽しむのもいいですね。人気商品は、オリジナルキャラクターがプリントされたトートバッグ(1,000円)です。 ここまで、「兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリーン館」の概要についてご紹介してきました。次項からは、主な展示室や施設について、写真とともに詳しくガイドしていきます! 息を呑むようなフォルムの美しさ! 展示室1「みどりのちょうこく」 写真一番奥のアロエ・ディコトマは樹齢320年で、その圧倒的な生命力を目の前に感動を覚えることでしょう。そして左右に従えるのは、左が手前からフルクラエア・ギガンティア、ディオーン・スピヌロスム、アガベ・サルミアナ。右が手前からアロエ・ディコトマ、プヤ・チレンシス、エキノカクタス・ゲルソニイ。いずれも造形の美しい植物ばかりで、人の心を捉える強い引力を持っています。 展示室1「みどりのちょうこく」では、サボテンやユーフォルビアなどの多肉植物を152種類も植栽。原産地の気候によってこれほど姿形を変えるのかと驚かされる、生命保存の戦略も見どころの一つです。写真のエキノカクタスは、ボールのような姿が愛らしいですね! 熱帯から亜熱帯の植物が見られる展示室2「しきさいのにわ」 展示室2「しきさいのにわ」は、熱帯〜亜熱帯に自生している植物を集めています。天井に届くほどに枝葉を伸ばしているヒカゲヘゴは、シダ植物の一種。約1億年前から生息してきたとされ、恐竜たちが闊歩していた時代に思いを馳せることができます。 ここは「しきさいのにわ」と名付けられているように、熱帯〜亜熱帯原産の多彩な花を咲かせる植物をコレクションしています。主にラン科の植物が多く、写真の紫の花はバンダ。一年を通して開花するように室温が調整されており、いつ訪れてもトロピカルな美しい花々を愛でることができます。亜熱帯の植物らしく緑の濃い大きな葉を繰り広げる植物群と、カラフルな花々との色のコントラストも見どころです。 身近な植物で構成する、展示室3「くらしのみどり」 展示室3「くらしのみどり」は、日本の庭文化を表現するエリア。新緑・開花・結実・紅葉と四季によって表情を変えていく雑木や、その足元を彩る下草などを緑量たっぷりに植栽しています。江戸時代に花開いた園芸文化によって、日本では斑入りの植物への人気が高まり、多様な品種が生まれました。この展示の下草には古くから愛されてきたツワブキやハラン、ギボウシなど斑入りの植物が多数選ばれ、どこか懐かしい雰囲気が漂っています。写真のテラス席でくつろぐことも可能です。庭づくりのヒントが見つかりそうですね。 植物たちの進化の過程をたどる展示室4「しんかのにわ」 展示室4「しんかのにわ」では、名前の通り「生きた化石」といわれる植物たちを見ることができます。古生代後半、シルル紀に登場していた古生マツバラン(現生のマツバラン類と系統は異なるとみられる)、石炭紀には登場していたと推定されている植物・リュウビンタイやトクサ、三畳紀~ジュラ紀に現れたソテツなどを植栽。また、兵庫県・吉川で産出された珪化木(けいかぼく)も展示しています。生物の進化は恐竜や人類に目が向けられがちですが、植物も同様に長い年月をかけて進化してきたことが分かります。 ガーデンキャッスルやアーチに注目! 展示室5「にぎわいのにわ」 展示室5「にぎわいのにわ」のシンボルは、写真中央に見える高さ約8mのガーデンキャッスル。黄色い花のオンシジウムが満開となり、見応えのあるシーンをつくっています。ガーデンキャッスルの花は季節によって模様替えされるので、何度でも訪れたいですね。 ガーデンキャッスルの骨組みは淡路島産の真竹を使用。1本の竹に3本の柳を添えて作られており、柳の葉が茂るにつれて印象が変化します。竹の自然なしなやかさを利用した、キャッスルの美しいカーブにもぜひ注目してください。 「にぎわいのにわ」は4つの園路で構成されています。オンシジウムが仕立てられた6個のアーチが連なる約30mの小道をはじめ、ゴクラクチョウカ、プルメリア、アンスリウムと、歩みを進めるごとに異なる景色を楽しめます。 冬には、館内各展示室でライトアップが行われます(2021〜2022年は11/20~1/16)。開館と同時に点灯され、特に曇りや雨の日など、屋外が暗いときにはよく映えます。一番のおすすめは、日没のタイミング。少しずつ日が暮れるにつれ、ライトアップに展示物が浮かび上がっていく様子を楽しめます。2021年は、12月3~26日の金・土・日のみ、夜21時まで開館時間が延長されますよ!(最終入館は閉館の30分前) 休憩スペースやスタンドカフェがあるので、ひと休みもOK! 写真は中2階にある休憩スペース。奥の特等席からは晴天の日に大阪湾が望めますよ! 図書コーナーもあり、子ども向けの図鑑など植物に関する書籍が置かれています。大人向けには多肉植物のアレンジを提案した本やレイ作りの本、庭づくりのアイデア本、海外のガーデニング本なども。ちょっと歩き疲れたら、休憩をかねての読書もいいですね。 温室内にはカフェスタンドもありますよ! 営業時間は11~17時(ラストオーダー16時)。主な価格帯は250~450円くらい。メニューのラインナップはアイス/ホットコーヒー、紅茶、ハーブティー、オレンジジュースなど。 カフェスタンドで人気が高いのは、写真左の淡路島牛乳ソフトクリーム(350円)や、写真右の淡路島牛乳レモンラッシー(420円)、瀬戸内レモンスカッシュ(420円)など。防カビ剤不使用で、無農薬・ワックス不使用の平岡農園産レモンを使用しています。 Information 兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリーン館 所在地:〒656-2306 淡路市夢舞台4 電話番号:0799-74-1200 https://awaji-botanicalgarden.com アクセス: ・JR三ノ宮駅、JR神戸駅下車、東浦BT行き高速バス ⇒ 淡路夢舞台前(片道950円) ・JR舞子駅、山陽電鉄舞子公園駅下車、東浦BT行き高速バス ⇒ 淡路夢舞台前(片道520円) 営業時間:10:00~18:00(最終入館17:30) 入園料:大人750円、70歳以上370円(要証明)、高校生以下無料 ※特別展開催時は入館料が変更となります。 駐車場:グランドニッコー淡路地下駐車場1日/600円(1回) 【当館より来場のみなさんへ、新型コロナウイルス感染症対策のお願いごと】 ◆ ご来場の際には、マスクの着用をお願いします。着用されていないお客様は受付にて販売しております。(1枚50円) ◆ ご来場の際には、入口に設置しております、消毒液にて手指の消毒をお願いします。 咳エチケット、こまめな手洗いの徹底にご協力ください。 ◆ スペースのあるエリアで人との距離が十分に保てる場合は、マスクを外すなど熱中症等にお気を付けください。 ◆ 体調のすぐれない方は、ご来場をお控えいただいています。 ◆ できる限り少人数にわかれてご来場ください。 ◆ できる限り混雑する時間帯を避けてご来場ください。混雑時は入場制限を行う場合がございます。 ◆ 館内は定期的に換気を行っておりますが、他のお客様と密着しないよう、一定の距離を保つようにお願いします。 ◆ エスカレーターやエレベーターをご利用の際は、適切な距離を保ってくださいますようお願いします。 ◆ゴミなどについては、所定のゴミ箱をご利用ください。 ◆ご来館時、入口に掲示しております「兵庫県新型コロナ追跡システム」への登録及びQRコード読み込みにご協力お願いします。
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素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪30 東京「PROTOLEAF(プロトリーフ)玉川高島屋S・C ガーデンア…
環境も立地もバッチリ 訪れやすい園芸店 閑静な高級住宅街エリアにある「PROTOLEAF(プロトリーフ)玉川高島屋S・C ガーデンアイランド玉川店」。玉川髙島屋S・Cの別館で、アウトドアショップやペットショップなどが併設される「ガーデンアイランド」の2階にあります。 明るい自然光が降り注ぐ店内は温室のように植物が茂る、瑞々しい空間。総合ガーデンセンターというだけあって、広々としたフロアには、ガーデニングライフを楽しくしてくれるアイテムがずらりと並んでいます。 「PROTOLEAF(プロトリーフ)玉川高島屋S・C ガーデンアイランド玉川店」は培養土の製造・卸し会社、プロトリーフ社の直営店。「緑ある暮らしを、もっと素敵に」をコンセプトに掲げ、お客さま一人ひとりに喜ばれるサービスを提供しています。「ビギナーのお客様が多いのですが、高品質なことはもちろん、接客とフォローに力を入れ、常に‘もっと愛される園芸店’を目指しています」と店長の佐藤健太さん。 ここは住宅街も擁しながらも自然が美しく調和するエリアで、住環境に対する意識の高い人が多い街。それだけに、店頭に並ぶインテリアグリーンは丈夫で見栄えのよいものが揃っており、人気の観葉植物フィカスの大鉢は10種類近くもあります。 ここ数年人気なのは、ガラスのビンに苔などのグリーンを入れて楽しむ苔テラリウム。小さなガラス瓶の中に広がる苔の小宇宙は、眺めているだけで癒やされます。完成品だけでなく、苔や砂、ガラスの容器など、これから作るのに必要なものが揃っています。 自社の培養土だけでなく他社製品も含めて、たくさんの培養土・土壌改良剤が並ぶコーナー。最も使う頻度が高い「花や野菜用」「観葉植物用」の培養土は、大・中・小の袋が用意されています。さすが培養土会社、充実したコーナーです。 マンションなど集合住宅でベランダガーデンを楽しむお客様が多いため、さまざまなスタイルの大きな鉢も多く取り揃えています。 開放感たっぷりの 屋外の花苗売り場 緑豊かな住宅街に面した細長い花苗売り場には、季節の草花がずらりと並んでいます。段差をつけた什器は腰高で選びやすい設計。日当たりと風通しがよく、花苗は健やかな状態に管理されています。 異国情緒が漂う 充実の樹木コーナーも必見! インドアプランツや花苗同様、樹木類の品揃えも充実しています。特に力を入れているのがオージープランツと果樹。取材時は秋で、柑橘系が丸い実をたわわにつけていました。「集合住宅のお客様も多いので、落ち葉に配慮するとベランダでは常緑樹のほうがおすすめ。落葉樹は自然な趣が楽しめるモミジなどの雑木を揃えています」と佐藤さん。 樹木類は細長い通路の両脇に。大小さまざまな樹木たちがまるで花壇に植わっているように陳列され、美しい小道のような風景が楽しめます。 左/メラレウカなど、葉の細かい種類を集めたオージープランツコーナー。 中/オージープランツのセルリアの花やグレヴィレアの斑入り葉で、シーンを明るく。 右/アデナンサス×ヒューケラで、ユーカリのプラ鉢を美しくカバー。 左/希少なミモザアカシア(オールリーフワトル)。アカシアでは珍しい、四季咲きの細い枝葉品種。 中/やさしい色合いの花が魅力のグレヴィレア‘ピーチ&クリーム’。 右/庭に1本あると何かと便利なユズ。 庭の雰囲気を高めてくれるアイテム使いのアイデアも、あちこちに散りばめられています。リーフを上手に使った甘くなりすぎないコーディネートがプロトリーフ流。 リフレッシュ効果抜群! 植栽が美しいルーフガーデン 近所の人たちの散歩コースにもなっているプロトリーフのルーフガーデン。屋上だというのに大きな木がたくさん植わって、地上の公園さながらのボリューム感です。春の芽吹きや秋の紅葉など、季節の彩りが人々の心を和ませています。 ベンチがたくさんあるので、買い物の後のひと休みにうってつけ。野菜やハーブの苗はここに並んでいます。 大きな木の下には、のどかな雰囲気の小さなキッチンガーデンが。野菜を庭に取り込む楽しさを伝えつつ、その成長過程を見せてくれます。 ワンランク上の選りすぐりの 植物が並ぶ、新エリア登場 2021年3月、地下2階に新たにグランドオープンした「PROTOLEAF SELECTIONS(プロトリーフセレクションズ)」。ガラスの建物内には、近年人気のサボテンや多肉植物、ユニークな珍奇植物や大型の観葉植物が、外のエリアには、主におしゃれな庭づくりにおすすめの樹木が並んでいます。 ガラスの店内は無機質なしつらえで、メンズライクにコーディネート。どこかラボ的な雰囲気が漂います。 プロトリーフ「niwa-kura」では、庭のデザイン・施工からリフォーム、庭木やバラのメンテナンスまで相談を受けています。相談カウンターが設けられているので、気軽に利用してみて。 2021年でオープン13年目を迎える「PROTOLEAF(プロトリーフ)玉川高島屋S・C ガーデンアイランド玉川店」。定期的にフェアやワークショップを開催しているほか、WEBの「Youtubeプロトリーフチャンネル」でガーデニング講座を発信し、園芸の楽しさを伝えつつ徹底したフォローを心がけています。ビギナーからマニアまで楽しめるショップ、ぜひ訪れてみてください。アクセスは、東急田園都市線「二子玉川駅」から徒歩約4分。 【GARDEN DATA】 PROTOLEAF(プロトリーフ)玉川高島屋S・C ガーデンアイランド玉川店 東京都世田谷区瀬田2-32-14 玉川高島屋S・C ガーデンアイランド2F TEL :03-5716-8787 営業時間:10:00~20:00 定休日:1/1(元日)のみ休館 https://www.protoleaf.com/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。



















