ひと口に園芸店といっても、今やさまざまなスタイルのショップがあります。それぞれの個性が色濃く反映されたこだわりの空間は、ガーデニングのセンスを磨ける最高の場所。今回は、期間限定でオープンするクレマチスの専門店、「iisago Nursery & Garden(イーサゴ ナーセリー&ガーデン)」*以下「iisago(イーサゴ)」を訪ねました。

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ナーセリーが営むクレマチス専門店「iisago(イーサゴ)」

iisago Nursery & Garden

「iisago(イーサゴ)」は、岩手県花巻市東和町のクレマチスのナーセリー「及川フラグリーン」が営むクレマチスの専門店。新しいオリジナル品種からスタンダードな品種まで、ナーセリーがおすすめするクレマチスを中心に、クレマチスと相性のよい宿根草や低木類、ガーデンツールなどを販売しています。

岩手県
ナーセリーのまわりには、緑の稲田が一面に広がる。

店名「iisago(イーサゴ)」とは、地元の作家・宮沢賢治が小説の中で、盛岡のことを「モーリオ」と呼んでいることにならい、ここ砂子(いさご)集落の名を変化させてつけたもの。地元愛にあふれたユニークな名前です。

クレマチス
入り口脇の倉庫の壁をつややかに彩るクレマチス‘ブルー・レイン’や‘ハルディン(フルディーン)’など。ブルー×白で爽やかにまとめている。

約200種類ものクレマチスの苗がずらりと並ぶショップは、かつて生産用だった温室を活用して約6年前にオープンしました。大小さまざまな苗は用途や生育タイプなどでグループ分けされており、陳列商品の上から下げられた看板に分かりやすく表記されています。「たくさんある中から選ぶことは難しいと思いますので、分からないときや迷ったときは、気軽に近くのスタッフに声をかけてくださいね」と、オーナーで育種家の及川洋磨さん。

iisago Nursery & Garden
広くて明るさと開放感でいっぱいの売り場。ここに並ぶ品種は「オールジャンルをチョイスするのではなく、このイーサゴテイストの品種を並べています」と及川さん。

新しいオリジナル品種を生み出すには、ものすごい手間と年月を費やすというクレマチスの育種。及川さんは「無理なくきちんと育つ苗を作りたい」という思いで、積極的に自身の品種を出せるように励み、毎年3品種を目標に生み出しています。

クレマチス

シーズンには株いっぱいに花をつけているので圧巻の風景が広がります。奔放に伸びる細いつるが隣同士で絡んでしまわないように、ひと株ひと株ていねいに誘引されている様子には驚きです。

クレマチス
左/シェッドにクレマチスを誘引し、手前の通路にはホスタやイワナンテンでボリュームを出した、鉢植えのディスプレイ。
右/どこか和の雰囲気も感じさせる‘サニー・サイド’בカシス’בハンナ’の組み合わせ。

ショップ内の構造物には、多様なクレマチスを覆わせた植栽サンプルがたくさん。2~3種類組み合わせられたプロの技が見られ、成長のタイプや雰囲気が確認できます。

クレマチス‘マリア・コルネリア’בオベレク’בチャッツワース’
クレマチス‘マリア・コルネリア’בオベレク’בチャッツワース’のやさしい雰囲気の組み合わせ。

難しいと思われがちなクレマチス。「iisago(イーサゴ)」では、初心者の気持ちになって相手のレベルに合わせ、専門用語を使わずにシンプルに伝えることを心がけています。「よく書籍などのクレマチスの紹介で見られる、系統や剪定タイプなどの複雑さに尻込みしてしまう人が多いみたいですね。でもそんなに難しく考える必要はないんです。最も難しいと思われている冬の剪定なんかもじつは簡単。元気な芽があるところの上でカットすればいいんです。本当は思っている以上に簡単に楽しめる植物なんですよ」と及川さん。

iisago Nursery & Garden
初心者のためのフォローがあちこちに見られる。
クレマチス

園路脇で最も目を引くのがこの楽しいディスプレイ。今咲いている花を一輪ずつ挿した小瓶に名札が添えられています。「いい花なのに売り場では気づかずスルーしてしまうことが多いんですが、一輪ずつ飾ると劇的に皆さんの見え方が変わるんですよ。多くの人が楽しそうに眺めていくんです。すべての花の魅力をその都度伝えたいですね」。

大学で学んだ造園知識を生かしたサンプルガーデン

1970年代にお父様の及川辰幸さんが植木生産を始め、その過程でクレマチスの品種を集めていた「及川フラグリーン」。幼いころから植物を身近で眺めていた及川さんは、生産よりも庭づくりのほうに興味があり、東京農大・大学院の造園学科に進学しました。

カラーリーフ
自然なシーンづくりにピッタリの宿根草や低木のカラーリーフが並ぶ。

6年間かけて国内外さまざまなスタイルの庭やランドスケープを学んだというだけあって、商品苗を並べるだけでなくクレマチスを庭でどう生かすかを小さな植栽で素敵に提案。併せてクレマチスの庭におすすめの植物の苗を多数揃えています。

iisago Nursery & Garden
広いハウス内はクレマチスが覆うフェンスで区切られ、さまざまなシーンが次々に展開。飽きのこない遊び心のあるディスプレイも見もの。
iisago Nursery & Garden

ハウス奥には、木々に囲まれたレクチャースペースが設けられています。ここではクレマチスの育て方など講座やさまざまなワークショップが行われています。

iisago Nursery & Garden

及川さんがおすすめの培養土や肥料、フェンスなどの資材類も充実。男性や若い人など、多くの人に楽しんでもらえるようにとおしゃれなアイテムも揃えています。併設された傍らのコーヒースタンドから、深い香りが漂っています。

五感が喜び、クレマチスの育ち方が分かる
サンプルガーデン

ハウスを抜けると、ショップのサンプルガーデンが設けられています。ガーデンは3つのエリアで構成されていますが、もともとは及川さんの実験場を兼ねたプライベートガーデン。6年前に「庭でもクレマチスの楽しさを見てもらいたい」という思いで、一般公開に踏み切りました。

iisago Nursery & Garden
リーフ類が美しいガーデンの入り口。ガーデン入園料は550円(ハウス内は無料)でシーズン中は何度でも入園可能。植物苗が3%オフで購入できる。

周囲に広がる田んぼを借景にした起伏に富んだガーデンは、かつて赤松が混在する林で、‘いぐね’と呼ばれる防風林でした。マツクイ虫などで赤松が枯れ始めたことをきっかけに雑木林に切り替えたのち、脇にある田んぼだった場所に盛り土をして造られました。

iisago Nursery & Gardenのガーデン

最初に広がるのは、オベリスクに絡むたくさんのクレマチスと宿根草が調和するメインガーデン。未発表のオリジナル品種とイチオシのクレマチス、ガーデンプランツが植わっています。ここでは明確な園路は作っていないので、足を踏み込める場所なら自由に歩くことができます。また、池にはメダカやドジョウ、ヤゴなどが棲みついているので、子どもたちも楽しめる空間となっています。

iisago Nursery & Gardenのガーデン
つるを伸ばすクレマチスを誘引するオベリスクやオブジェがあちこちに点在。冬は雪の中では独特な存在感を放つそう。

ガーデンでもクレマチス同士や草花の合わせるヒントがたくさん。鳥のさえずりや花の香りなど自然を感じながら、美しいクレマチスが楽しめます。

iisago Nursery & Gardenのクレマチス
左/‘夜明け前’בマリア・コルネリア’
右/‘ビエネッタ’בピンク・アイス’と、バーベナ‘メテオールシャワー’
iisago Nursery & Gardenのガーデン

メインガーデンの奥は、防風林いぐねと雑木林の混在したエリア。木漏れ日がきらめく風景は、まるでイギリスのウッドランドガーデンのよう。ここにもたくさんのクレマチスが植わりつつ、ユニークな仕掛けがあちこちに盛り込まれています。

iisago Nursery & Gardenのクレマチス

林の中にもクレマチスを導入。自然の風景になじみやすいよう、悪目立ちしない繊細なオベリスクが用いられ、‘エトワール・バイオレット’などの野趣のある品種が植えられています。

iisago Nursery & Gardenのガーデン

倒木などもクレマチスを生かす素材として使ってしまうのも、自然が多いこの地で育ち庭づくりを学んだ及川さんだからなせる業。思いもよらぬ驚きの仕立て方です。

iisago Nursery & Gardenのガーデン

曲がりくねる林の中の園路にはバークチップが敷かれており、やさしい歩き心地。雨の日でもぬかるむことがないのもポイントです。園路がカーブするところには大型のホスタが植えられて、印象的な風景になっています。

林の中で見かけた魅力的なコーナー1
遊び心満載の演出

ショップ近辺の農家の納屋には、壊れた古道具がたくさん転がっているそうですが、及川さんはそれを譲り受け、庭で廃材と合わせながらユニークなオブジェとして活用しています。

iisago Nursery & Gardenのガーデン
左/鉄筋を円錐状に束ね、トップには古い素焼き鉢をひっかけてオベリスクに。クレマチスは、気品がありながら素朴な花形の‘ミケリテ’を絡ませて。
中・下/外国の民芸品の鈴や農具の先端部分を枝に下げて、空間にアクセントをプラス。
iisago Nursery & Gardenのガーデン
左/朽ちつつある切り株にフォークの先や素焼き鉢をあしらい、どこか人気(ひとけ)を感じさせて。
中/クレマチスが絡むオベリスクの奥の木の根元に、フォーマルな雰囲気の素焼きのオーナメントを。風景とのギャップがおもしろみを生んでいる。
下/排気管のジョイント部分をオベリスクのトップに。

林の中で見かけた魅力的なコーナー2
クレマチス以外の植物たち

赤松やアカシデ、コナラなどが植わる林の中で、静かな存在感を放っている植物を紹介します。樹木や宿根草は和・洋のスタイルにこだわらず、及川さんが植えたもの。

iisago Nursery & Gardenのガーデン
左/大きめの松カサをつけたドイツトウヒ。ヨーロッパの雰囲気を感じさせて。
中/ユスラウメの赤い実が、つややかな彩りをプラス。
右/さまざまなキノコがあちこちで姿を見せている。
iisago Nursery & Gardenのガーデン
左/素朴で愛らしい小花をつけるとげなしのつるバラには、華奢なオベリスクを合わせて。
中/ひらひらと清楚な花をつける一重のバラ‘ジャイアント・ファンタジー’。
右/ノリウツギが木々の間で、ひっそりと輝きを放っている。
iisago Nursery & Gardenのガーデン
林の終点にある小さな橋の向こうは、明るいエリアのロックガーデン。

ボリュームたっぷりの
ロックガーデン

サンプルガーデンの最も奥のエリアにあるのは、10年前に奥様の真由美さんと古い庭をリニューアルさせたロックガーデン。こちらはナチュラルなメインガーデンよりもダイナミックで、大人っぽい雰囲気です。

iisago Nursery & Gardenのガーデン

メインガーデンではクレマチスの育ち方を知ることができますが、こちらでは庭への取り込み方が分かります。真由美さんは、自然な空間づくりを得意とする造園設計会社で設計を担当していたこともある、この道の専門家。庭づくり&造園に精通する2人がつくっただけに、見応え抜群です。

iisago Nursery & Gardenのガーデン
クレマチスがない場所では、ホスタやシモツケで見応えアップ。

こちらではオベリスクだけでなくトレリスなどを用いて、クレマチスの多様な表情を紹介しています。

iisago Nursery & Gardenのガーデン
左/‘ミクラ’בブルー・レイン’ 中/‘チャッツワース’×バラ‘ジャスミーナ’
右/‘マダム・ジュリア・コレボン’בハーグレイ・ハイブリッド’
iisago Nursery & Gardenのガーデン
左/‘アオテアロア’×バラ‘ザ・ピルグリム’ 
右/‘雪小町’×バラ‘つるアイスバーグ’
iisago Nursery & Gardenのバラとクレマチス
バラ‘つるアイスバーグ’とクレマチス‘ミセス・T・ルンデル’が、見事な競演を見せている。

及川さんおすすめの
オリジナルクレマチス3種

及川さんが手がけた品種は今までに30種類ありますが、なかでも特におすすめの3種類をあげてもらいました。

‘流星’

クレマチス‘流星’

インテグリフォリア系/開花期:5~10月/花径:8~11cm/草丈:1.5~2.5m

誘引しやすい半つる性。オベリスクやフェンスとの相性がよい。銀色にも見える花は、紫色の絵の具を吹きつけたような色合いで爽やか。

‘タイニー・ポップ’

クレマチス‘タイニー・ポップ’

テキセンシス系/開花期:5~10月/花径:3~4cm/草丈:1~1.5m

ポップで可愛いピンク色のベル形の花を、次々に咲かせながら生長する。枝の伸びはほどほどで、からまりも弱いので扱いやすい。

‘ルノカ’

クレマチス‘ルノカ’

ビチセラ系/開花期:5~10月/花径:6~9cm/草丈:2~3m

縁のさわやかな青紫色と、中心部の緑がかる白色とのコントラストがすばらしい。ほどよい大きさの花をふわふわ舞うように咲かせ、軽やかな姿を見せる。初夏によく似合う。

 

ひたむきに美しい花を追及し、たくさんの人々に花の魅力を伝えることに心を注ぐ及川さん。岩手の人々が敬愛する宮沢賢治の「農民芸術=労働すべてが芸術的行為である」の思想をそのまま体現しているようです。そんな及川さんが営む、自然なガーデンも楽しめるショップ「iisago(イーサゴ)」、ぜひ訪れてください。アクセスは、東北新幹線「新花巻駅」より車で約20分、JR釜石線「土沢駅」より車で約10分、釜石自動車道「東和IC」より車で約10分。

【GARDEN DATA】

「iisago Nursery & Garden(イーサゴ ナーセリー&ガーデン)」

岩手県花巻市東和町砂子1-403(及川フラグリーン内)
TEL :0198-44-3024

営業時間:10:00~16:00

営業日:毎年営業期間が異なりますが、2022年の営業スタートは5月6日(金)です。祝祭日や開花状況によって営業日が増えたり、雨天、荒天などで休園したりします。営業情報はHPをご覧ください。

https://www.iisago.com/

Credit

写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。

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