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東京都

日常が豊かになる、飾る花、育てる花。『西荻百貨店』東京・西荻窪 今日はてくてく、「花屋さん日和」Vol…
入っているお店は4つ。花屋さんと、カフェ、山野草のお店。そして地下では内装と家具のショップが開店準備中です。オープンしたのは5年前の2013年。『草と花 一草(isso)』の砂森聡さんが、発起人となって生まれた場所です。 ペパーミントグリーンのドアを開けて、最初にあるのは、そう、前回ご紹介した花屋さん『イッカ』。季節の草花をメインに少量多品種で揃えています。 オーナーの西野純子さんの花選びの基準は、ニュアンスのある色合いで、きれいなラインをもつ花。たとえば、取材時に店内にあった、この写真の花、エンシクリアがそう。カラフェやコップにさりげなくいけても、様になりますよね。日常の花でも、ちょっとだけおしゃれに決まります。 壁沿いに並んだ花器や多肉植物に似合う鉢を見ながら奥へと進むと、右手に、大小のテーブル席が4つ並ぶ部屋が現れます。ここがカフェの『くろもじ珈琲』。 引き戸の向こうのテラスは『草と花 一草(isso)』のスペースです。山野草のなかでも、楚々として、身近なものを選んで、ここに迎えているそう。 取材時に見つけた、この白い花は台湾梅花カラマツ。細いワイヤーのような茎咲きに可憐な花を次々と咲かせます。ほかに、テラスにあるのは落葉樹と実がなる木。色づき、実が膨らむたびに、季節の移ろいを知らせてくれる植物たちです。 カフェの『くろもじ珈琲』に戻って、ちょっと座ってみましょう。取材のときには、窓の向こうにはハンカチの木の青葉が広がっていました。窓辺や棚で、いつも山野草をいけている一輪挿しは、砂森さんと以前、ともに働いていた『カタチ製作所』の器です。 ほら、見ていて、ゆったりとした気持ちになってきませんか? 外の景色を眺めて過ごす時間が好きで、ひとりで訪れる人も多いよう。これから訪れる雨の季節にも、潤う花と緑で楽しませてくれる西荻窪の小さな隠れ家です。いける花と育てる花。ふたつの楽しみを探しにお出かけしてみませんか? 最後に、カフェメニューも少しだけ紹介しておきますね。サイフォンで煎れるコーヒーは、埼玉のコーヒー専門店で特別にブレンドしてもらった豆を使用。 最近、始めたカヌレはひとつ250円。 そして、これが、訪ねる日の朝からわくわくしてしまうキーマカレーです。スパイスのバランスがよく、トマトの酸味もさりげなく効いています。ポーチドエッグを割って、召し上がれ。サラダつきで870円。 おなかをすかしてお訪ねを! Shop Data:西荻百貨店 ホームページ/http://isso-1999.com、http://icca-flower.com 住所/東京都杉並区西荻北4-35-10 西荻百貨店内 電話/03・3395・3122(西荻百貨店代表) 営業時間/11~18時 定休日/木・日曜(臨時休業、夏季休業あり) アクセス/JR中央線・総武線 西荻窪駅北口より徒歩10分 Credit 記事協力 構成と撮影と文・鈴木清子
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大阪府

花の庭巡りならここ! 体験型イベントが盛りだくさんの温室植物園「咲くやこの花館」
地球上のさまざまな気候帯に根づく多様な植物をコレクション 1990年にオープンした「咲くやこの花館」は、建築面積約4,750㎡、延床面積約6,890㎡で、じっくり展示を眺めて歩くと1時間以上かかる広さ。大阪市で開催された「国際花と緑の博覧会」のメインパビリオンとして建設された植物園です。園内には、5,500種、1万5,000株がコレクションされ、そのうち常に300〜400種が開花するように栽培されています。 館内は「熱帯雨林植物室」「熱帯花木室」「乾燥地植物室」「高山植物室」にゾーニングされ、地球上のさまざまな気候帯に生息する植物を見学することができます。ヒマラヤの青いケシ(メコノプシス)、フニーバオバブなど、数々の珍しい植物が揃う点も見どころです。バックヤードで温度調整、開花調整を行って、一年を通じてさまざまな花が見られる工夫がなされ、なんと夜に咲く月下美人を日中に開花させる技術も披露しています。 また、屋外に外部庭園も整備されているので、こちらにも足を運んでみたいもの。熱帯の水辺を模したロータスガーデン、熱帯植物の中でも耐寒性のあるものを集めたトロピカルガーデン、ジャカランダがシンボルツリーのブロッサムガーデン、地中海式気候で息づく植物を集めたメディタレニアンガーデン、英国様式の見本庭園プチイングリッシュガーデン、乾燥地気候に根差す植物を集めたデザートガーデン、山野草の栽培に好適な、岩を組み合わせて作ったロックガーデンなど、多様な庭園スタイルを見学できます。 「咲くやこの花館」では、一年を通してさまざまな企画展やイベントを行っているのも魅力の一つです。「咲くや塾」と題し、植物など生物に関する大切な話や、企画展のテーマに合わせた話をしたり、他にも寄せ植えやドライフラワー、プリザーブドフラワー制作の講習会、収穫体験会、クラフト体験会など幅広く展開しています。 館内にはレストランがあるので、ランチを楽しむのもいいですね。営業時間は11:00〜15:30(ラストオーダー15:00)、定休日は月曜です。メニューはお弁当、カレー、麺類など軽食がメイン。また、吹き抜けのフラワーホールではカフェ(不定期)もオープンしています。館内への飲食物の持ち込みも可能で、限られたエリア内で飲食できます。 また、ミュージアムショップも大人気。植物に関する雑貨や「咲くやこの花館」ならではのオリジナルグッズ、書籍、食品、植物、花苗などが多様に揃い、お土産や記念品などのショッピングも満喫できます。年間約23万人が訪れるという「咲くやこの花館」は、一度は観ておきたい、充実の植物園です。 ガラス張りを通して燦々と光が差す温室では自生地で見るような自然な姿に植栽 「熱帯花木室」では、熱帯の果樹類やヤシ類、美しい花の咲く熱帯性の花木などをメインに植栽しています。トロピカルフルーツは、スターフルーツ、バナナ、マンゴー、パパイヤ、ライチ、レンブ、ジャボチカバ、ドラゴンフルーツ、アセロラ、パイナップルなど多彩。日本では自生するのが難しいものばかりなので、どんな樹姿で、どのように実をつけるかを子どもと一緒に観察すると、食育の場にもなりそうです。 「熱帯雨林植物室」では、熱帯雨林のジャングルをイメージして植栽されています。ジャングルに自生する植物に着生して育つ多種多様なラン類も自然に近い姿で再現。また、沖縄や東南アジアに自生する植物として有名なサガリバナや、世界一横に大きな葉で有名なオオオニバス、色とりどりの熱帯スイレンなども見られます。基本的に、同じ仲間の植物を近い場所に配置しており、同属内での形や色の変化などを視覚的に分かりやすくした展示も特徴的です。 「咲くやこの花館」では、毎日フラワーツアーを開催しています。個人での参加の場合は当日受け付けOK(団体の場合は要予約)。参加費は無料で、約30分かけて館内の植物の見どころやイベントの紹介などのガイドを受けられます。館内案内所で申し込みができます。詳しくはお問い合わせください。 季節を通してさまざまな企画展を開催体験型のワークショップにもぜひ参加を 「咲くやこの花館」では、季節に合わせてさまざまな企画展を行っており、これがリピーターが多い理由の一つです。毎年3月頃に開催されるのは、約200品種が展示される春の洋蘭展。1階フラワーホール中央のステージを中心に、「大阪愛蘭会」の会員のみなさんが手塩にかけて育てた、数々の洋蘭が見られます。この企画に合わせ、育て方の講習会や展示解説が行われるほか、約2,000株の洋蘭が販売されます。 ゴールデンウィークに合わせて開催されるのは「熱帯フルーツ展」です。約20種の熱帯フルーツや、実際に木になっている様子を展示。写真のように色とりどりのタイの傘を吊してステージショーを開催するなど、会場全体が熱帯地域の雰囲気で包まれます。 7〜9月頃に開催されるのは、食虫植物を約50品種集めて展示する「虫を食べる植物展」。特に子どもに人気の高い企画展で、毎年テーマが変わります。食虫植物が虫を食べる様子を、実演を交えつつ行うライブ解説や、食虫植物の育て方講習会、食虫植物グッズを作るワークショップなど、多彩なイベントを実施しています。 クリスマスを盛り上げる飾り付けが素敵!毎年開催する音楽コンサートも大人気 クリスマスのシーズンには、毎年テーマを変えた飾り付けが行われます。世界各地のツリーの展示のほか、色とりどりのポインセチアやクリスマスツリー、リース、イルミネーションなど、華やかなディスプレイが見どころ。フォトスポットも登場するので、訪れた記念に、ぜひSNS映えする写真を撮りましょう! 大温室では地元の中・高校吹奏楽部によるクリスマスコンサートも開催、定番のクリスマスソングや世代を超えて楽しめる音楽が披露されます。2019年のスケジュールは以下の通りです。 日程と出演:12月15日(日)大阪信愛学院中・高等学校12月21日(土)大阪国際滝井高等学校12月22日(日)大阪府立四條畷高等学校 演奏時間:15:00〜16:15 会場:1Fフラワーホール 参加費:無料(別途入館料) ※イベント内容・展示は変更となる場合があります。 年明けからもイベント目白押し冬の「咲くやこの花館」を満喫しよう! 1月5日(日)~26(日)は、「POPなきのこ展」を開催。前回の初開催では、14日間で1万3,000人を超える来場者があり、大反響でした。きのこの標本に、虫から出てくるきのこ「冬虫夏草」標本。そして、きのことコケの融合「きのこリウム」の展示は、おそらく日本初⁉︎ SNSで話題になった、きのこリウムの世界に入ったようなフォトスポットも再び登場します。きのこにまつわるさまざまなワークショップが行われ、ここでしか手に入らないきのこグッズも販売。ポルチーニアイスの試食も予定(土・日曜・祝祭日限定)。1月25日(土)には、きのこ博士の講座に、さまざまなきのこ分野で活躍する方々のトークショーを開催。最終日に予定されている、きのこお洒落が集うきのこのファッションショー「きのこコレクション2020」も大注目です。 2月1日(土)~3月1日(日)は、若い世代に大人気の「カカオとコーヒー展」を開催。実際に実がついているカカオやコーヒーノキを目の前で観察できます。 そして、「カカオとコーヒーのなるほど!ライブ解説」(1日3回無料)では、人とカカオやコーヒーの歴史、関わりを紹介。チョコレートの原料となるカカオニブスの試食も体験できます。 行列ができる人気ロースターやバリスタチャンピオンによるセミナー、グルメに関するワークショップが実施されるほか、3月1日にはミニ・ライブも開催。ワールドトラベルカフェ(期間中毎日開店)では、世界13カ国のアレンジコーヒーやカカオティーを楽しめます。 冬の「咲くやこの花館」は、「おいしい、あったか、いい香り」。 植物が生い茂る温室で、ほっこりしませんか? ※イベント内容・展示は変更となる場合があります。 Information 咲くやこの花館 所在地:大阪府大阪市鶴見区緑地公園2-163TEL:06-6912-0055 大阪の植物園-咲くやこの花館 アクセス:Osaka Metro長堀鶴見緑地線「鶴見緑地」駅より徒歩約10分 オープン期間:1月5日~12月27日 休園日:月曜(祝祭日の場合は翌平日) 営業時間:10:00~17:00(入館は16:30まで) 料金:大人500円※中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名を含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料【要証明(生徒手帳、健康手帳、敬老優待乗車証等の原本)】※団体割引あり 駐車場:有(中央第2駐車場 大型車8台 普通車200台)
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北海道

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」の植栽術
グラスが存在感を発揮するシーズン 前回は、「大森ガーデン」の庭づくり物語をご紹介しましたが、ここからは、2019年10月に今井カメラマンが撮影した写真に写る、各コーナーを詳しくご紹介します。ガーデンづくりにお役に立てればと思います。 まず、ご紹介するのは逆光に浮かび上がるグラスが美しいコーナーです。直立型のグラス類、パニカム‘ノースウィンドウ’は、台風でも倒れない性質をうまく利用して、スクリーンの役目を果たすように植栽しました。このスクリーンとしての植栽は、こちらからは向こう側が見えないのと同様、向こうからもこちら側が見えないというように、植物の造形をうまく使って、構造物に頼らずにガーデンの見え方を変える方法として有効です。すらりと立ち上がるパニカム‘ノースウィンドウ’の株元が寂しくならないように、白からピンク、そして秋には赤へと色変わりするつぼみを持つセダム‘オータムジョイ’を植栽。‘ノースウィンドウ’は、その草姿の美しさとともに、ブルーグレーグリーンから次第にゴールドに近くなっていく葉色の変化も楽しむことができます。 芝生の小道を挟み、右側は、数品種のグラス類と宿根草をモザイク状に植栽したエリアです。この時期最高のパフォーマンスとなるのが、カラマグロスティス ブラキトライカ。株元で濃い赤ワインがかったローズ色の花、アスター‘ロイヤルルビー’が白い穂と美しく共鳴します。その傍で長い茎をくねくねとさせているのは、リアトリス ピクノスタキア。花後も造形的なその草姿は、ガーデンパフォーマンスに優れているので、冬までカットせずに楽しみます。左手前はバプティシア オストラリス‘アルバ’(センダイハギの白花種)。ブルーグレーがかった葉とまっすぐに立ち上がった草姿で、秋の倒れこむような姿になっても魅力は損なわれません。左手の遠くに見える白く細い花は、ペッシカリア アンプレクシコウリス‘アルバ’。 画面左手一番奥のグラスは、ミスカンサス‘ゼブリナス’。約150〜200cmと丈高く生い茂るので、広い景観の中でその存在感をアピールできます。その手前は、グラス類のカラマグロスティス ブラキトライカ。花穂は9月後半からどんどん太く密になり、最終的には写真のように白っぽくなって、一際その美しさを放ちます。その手前はグラス、デシャンプシャ セスピトーサ‘ノーザンライツ’で、寒い時期になると、緑とクリームの斑入りの葉がローズ色を帯びて美しい品種です。このデシャンプシャ セスピトーサの特徴は、葉はあまり立ち上がらず地面近くで茂って、茎だけが伸びて花穂をつけるところ。グラス同士の組み合わせも、グラスと宿根草、または宿根草同士の組み合わせと同じく、草姿、花穂の形や垂れ具合、そしてその散らばり方、色など、さまざまな特徴が季節を追って変化するという造形の全貌を頭に入れて行っています。 見事に直立しているグレーグリーンの葉は、グラス、パニカム‘ノースウィンドウ’です。過去の歴代台風の雨風にも耐えて倒れません。穂は、パニカムの特徴であるビーズのような小さな粒々の集まりですが、他のパニカムほどは広がりません。その背景に見えるのは、グラス、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’の花穂です。パニカム‘ノースウィンドウ’の背景として、霧のようにフワ~ッと広がり、その隙間を埋めるように直立する‘ノースウィンドウ’の草姿を和らげる役割を果たしています。これらのグラスの手前には、高性種のセダム‘フロスティーモーン’、セダム‘オータムジョイ’をメインに、季節ごとに変わる景色を楽しめるようにと開花時期が異なる宿根草を数品種植えています。この時期は、ちょうどアスター‘リトルカーロウ’のブルー系の鮮やかな花色が、落ち着いた中にも華やかさを添えてくれています。 明るい葉色のグラス、ミスカンサス‘コスモポリタン’(ススキの仲間)は、人の背丈ほどの高さになります。広がりは100㎝ほど。葉は白と緑の縦縞ですが、斑入り葉が主張することはなく、全体的に白っぽく見えるため、周囲が明るくなります。また、穂が大きく広がったり倒れこむこともないので、大型ではありますが、ある程度の庭の広さがあればおすすめのグラスです。この一株でも十分フォーカルポイントとして成り立ちます。 直立型のグラス、カラマグロスティス‘オーバーダム’。夏は緑に細い白の縦縞が入る葉ですが、斑入りであることにはあまり気付かず、むしろそのために緑葉のカラマグロスティス‘カールフォースター’よりも白っぽく見えて優しい印象です。その草姿の特徴から、私はスクリーン仕立てに植栽することが多いです。カラマグロスティス‘オーバーダム’の花穂がつくり出す「透かし効果」によって、その向こう側に植えられているものが、より柔らかい印象になるのです。夏の紫がかった花穂は成長するにしたがって色がどんどん変わり、秋は白っぽいベージュに。風に揺れるその様に癒されます。 こちらは、グラスをスクリーン仕立てにした植栽例です。ここでは、カラマグロスティス‘オーバーダム’を使いました。白っぽいベージュの花穂が横一列に並んでいるのがそれです。左にちらりと高い位置に見えるルビー色の花はアスター‘セプテンバールビー’。カラマグロスティス‘オーバーダム’の花穂が、ルビー色の花を優しく包むような「透かし効果」を発揮しています。手前のアスチルベは、あえて花後の穂を切らずに造形として残しています。茶色になってもそれを一つの色として、また造形の一つとして役割を十分果たしてくれるので、花後のカットはしません。もちろん、こぼれ種で増えて困ることのない品種ですから。 細い白っぽい葉のグラスは、アンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’です。シルバーグレーグリーンの葉は、寒い時期には赤ワイン色を帯びます。手前のエキナセアのシードヘッドが、白く輝くアンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’の葉色をバックに浮き上がって見えますが、日中または夕方の光を浴びて‘プレーリーブルーズ’が赤ワインがかった色合いに見えるときも、その互いの美しさは変わりません。長い茎がくねくねとしているのはリアトリス ピクノスタキア。手前の赤ワイン色がかった濃いローズの花はアスター‘ロイヤルルビー’。アンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’の葉が赤ワインがかる頃に、同じように赤ワイン色がかった花を咲かせるので、その色の繋がりを意識して植栽しています。このように、それぞれの品種が季節によって変化していく過程においても、できる限り双方の色や形の組み合わせが魅力的に見えるようにデザインしています。 右手前から、アスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’は、明るい水色に近いブルーの花を咲かせて、低くマット状になっています。ルドベキア‘ゴールドスターム’は黒い球状のシードヘッドをつけ、赤ワインのようなローズ色の花をアスター‘ロイヤルルビー’が咲かせ、背が高いグラス類のミスカンサス‘ゼブリナス’が茂みとなっています。 左手前からは、茶色の立ち上がるシードヘッドをつけたアスチルベ‘ビジョンズインレッド’、シルバーグリーンのこんもりとした株は、アキレア‘コロネーションゴールド’、その後ろはフロックス パニキュラータ(緑の草丈ある塊)。そして細い直立するベージュの花穂、カラマグロスティス‘オーバーダム’。さらには、ブルーのアスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’、その後ろには、ホスタ。 高さのあるグラスを左右前後に植栽し、その間を抜けて奥は何があるのかと好奇心を抱かせる小道にしています。アーチなどの構造物を設けないで、植物の造形だけで奥行きを感じさせたり、人の興味を引き期待感を高める植栽法です。 手前には、グラス、デシャンプシャ‘ノースウィンドウ’(白っぽい花穂を立ち上げている)、その左手のグラスは、パニカム‘ヘビーメタル’(ビーズ状の粒々が散るような花穂がとても美しい)。フロックス パニキュラータ‘デービットラベンダー’(うすピンクの花)が、手前に植えた「エアリー感」のあるグラスの花穂によって、その向こうで軽やかに跳んでいるように見えます。 ラウンドするように群植したグラス、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’のゴールドの花穂が霧のようになって、圧倒的な効果を発揮してくれることを期待してデザインしたエリアです。まさに、十分に応えてくれて、秋が進むとよりいっそうゴールドの海となりました。所々に直立するグラス、パニカム‘ノースウィンドウ’を植えて変化をつけ、その向こう側や手前株元には、差し色として季節を追ってリレーして咲くように宿根草を品種を変えて所々に植栽しています。今、手前の株元に咲いているのは、濃い赤ワインがかったローズ色の花、アスター‘ロイヤルルビー’。向こう側に咲いているのは、アスター‘リトルカーロウ’やフロックス パニキュラータ‘デービットラベンダー’、そして‘ブルーパラダイス’。透かし効果で、グラスの花穂の向こう側に草花がちらちらと見える様子が心地よさを感じさせてくれます。 秋は青〜紫〜ルビー色のアスターが彩りに グラス類のカラマグロスティス ブラキトライカのダイナミックな秋の花穂とアスター‘リトルカーロウ’の明るい紫の花が優雅に咲き誇る秋。 カラマグロスティス ブラキトライカの花穂が垂れ下がるまで、その株元が寂しくならないように、ペッシカリア アンプレクシコウリス‘ブラックフィールド’を植えています。ペッシカリア‘ブラックフィールド’は、ペッシカリア アンプレクシコウリスの中でも草丈が低く、このような場所でちょうどよいバランスが保てます。アスター‘リトルカーロウ’の花々が開花する前には、その株元に植えたルビー色の花が咲くアスター‘ハーブストグラスフォンブレッサーホフ’(草丈約40cm)が色を補ってくれます。‘リトルカーロウ’の花後には、濃い青紫の花が咲き、草丈が低いアスター‘パープルドーム’が鮮やかなポイントカラーの役目を果たします。 写真内、左手に見える空に向かって高く花穂が揺れているのは、グラス、モリニア‘トランスペアレント’。中央の白く狐のしっぽのように見える花穂はグラス、カラマグロスティス ブラキトライカ。手前で溢れるように咲いている水色に近い青紫の花は、アスター‘リトルカーロウ’。その株元に咲く、低く直立している濃いめの青紫の花はアスター‘パープルドーム’。細く赤いキャンドルのような花を咲かせているのはペッシカリア‘JSカリエント’です。 名脇役が勢揃いする晩秋の宿根草 派手な花が咲く時期ではないけれど、それぞれの持つ造形を生かした植栽です。高性種のセダム‘フロスティーモーン’とセダム‘オータムジョイ’のカリフラワーのような花がつくり出す景色は、全体としては平面的な植栽ですが、そこにルドベキア‘ゴールドスターム’によるひとつまみのショッキングカラーが差し入れられています。同系色を集めたグラデーションが美しい庭も素敵ですが、差し色になる黄色、赤、などを上手に使うのもおすすめです。 ここから眺める景色は、奥へと広がるいくつかのエリアが見渡せる場所。まるで宿根草の海のようなイメージです。各エリアの重なり合う色合いと造形が、宿根草の主役と脇役の交代とともに季節によって変わっていきます。 季節によってその品種の観賞部位が変わったり、主役から脇役になったりすることをふまえて、重なり合う色合いがいつでも美しく見えるようにと品種を選んで植栽しています。画面手前から順に、花後のネペタ‘シックスヒルズジャイアント’(シルバーグレーグリーン)、アスター‘パープルドーム’(濃い紫)、花後のリアトリス スピカータ(中央、焦げ茶の長いブラシ状のシードヘッド)。さらに、その奥には、アスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’(水色っぽい青紫)、ペッシカリア‘オレンジフィールド’(細いキャンドルのように見える赤花)、アスター‘ロイヤルルビー’(ワイン色がかった濃いローズ)、花後のリアトリス ピクノスタキア(右手少し後方、薄緑の立ち上がった棒状のシードヘッド)。カラマグロスティス ブラキトライカ(左手、グラス。白っぽい狐のしっぽのような花穂が群生している)。ミスカンサス‘ゼブリナス’(右手後方、緑の背が高いグラス)。 観光ガーデンを持ちながら、1,200~1,300もの品種の宿根草を生産し取り扱っているナーセリーの「大森ガーデン」。2020年はガーデンをつくり始めて12年を迎え、これまでも挑戦してきた “持続可能なガーデン(サステイナブルなガーデン)づくり”と“ローメンテナンスなガーデン作業の確立”を実現する場所へと、成長中です。 Credit 文/大森ガーデン 大森敬子 http://omorigarden.com 写真/今井秀治 バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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新潟県

「私の庭・私の暮らし」 佐潟の自然の中でハーブの魅力を伝える 新潟〈ハーブランドシーズン〉
水辺を見下ろす素晴らしいロケーション ハーブランドシーズンの建物は、佐潟(さかた)の水辺を見下ろす傾斜地に建っています。高低差があるおかげで、テラスからの見晴らしは最高。電線などの一切ない、開放感あふれる景色を一望することができます。 佐潟は国内最大の砂丘湖。砂丘と砂丘に挟まれたくぼ地に湧き水が溜まってできたという、国内でも珍しい成り立ちの淡水湖です。佐潟は昔から、人々の生活と共にある水辺として活用されてきました。今では希少な植物も残るこの一帯を守るため、地域の人々は環境保全に努めています。この湿地は、水鳥の生息地を守る「ラムサール条約」に登録され、野鳥の宝庫として知られます。200種を超える野鳥を観察することができ、コハクチョウやマガモといった、渡り鳥の越冬地としても有名です。 ハーブランドシーズンは、その佐潟を一周する遊歩道に面した、ナチュラルな雰囲気のハーブ園で、2002年にオープンしました。広々とした敷地には、ハーブ、草花、野菜、果樹、樹木など、100種を超えるさまざまな植物が健やかに茂り、鳥のさえずりが絶えません。 5月末のカモミール、7月のラベンダー、盛夏のハス、晩夏のレモングラスと、園内の景色は変わり続け、季節ごとの楽しみをもたらします。 無農薬ハーブを使った充実の講座 佐潟の近くで育った永嶋さんは、結婚を機に農業に携わり、その後、ハーブの道に進むようになりました。園内を足取り軽く歩き回って、「この植物はね、こうなのよ」と次々に教えてくれる様は、まるでハーブを知り尽くしたチャーミングな魔法使いのよう。採れたてのハーブをたっぷり使った体験講座で、ハーブのあれこれをとことん学ばせてくれます。 園内のハーブや植物は、すべて無農薬で栽培するというのが、永嶋さんのポリシー。その安心なハーブを使って、ハーブティー体験や花摘み、ハーブのコスメ作りといった体験講座を提供しています。また、ハーブを使った料理や薬膳、つるカゴなどのクラフト制作、植物を使った染め物など、いろいろな角度から植物について深く学ぶ講座も、多々行っています。 さまざまな植物がおおらかに育つ園内 建物の前に広がる斜面は、色とりどりの草花が植わり、お花畑のような雰囲気です。訪れた6月上旬は、カモミールの刈り取りがほぼ終わったところで、赤いポピーの野原となっていました。この後、夏に向けてセンニチコウが生えてきます。カモミールは、こぼれ種でまた来年生えるそう。 佐潟のほとりはスイカの産地として知られる砂丘で、園内はどこもさらさらとした砂地です。佐潟から吹く風が通り抜ける、日当たりのよい乾燥した砂地の斜面に、ハーブを中心としたたくさんの草花が元気に育ちます。 草花は時に、意図していない場所にこぼれ種で生えてくることがあります。土地が広いこともありますが、永嶋さんはそんな時でもあまり気にしません。植物に「君がここにいる意味があるかな?」と問いかけ、どうしても違うと感じた時は、移動してもらいます。 クワ(マルベリー)やジューンベリーなどの果樹も、ところどころに植えられています。クワの中でも、昔からある、葉を蚕に与える品種は小粒の実をつけますが、最近の人気は大粒の実をつける品種です。クワの実はケーキに添えるなどして使いますが、収穫が追い付かず落下することもしばしば。地面に落ちた実は染め物に使っています。 昔からのクワ(右)は葉が大きく、実は小粒。近年流行のマルベリー(左)は、葉は小さいけれど実が大粒です。園内にはアンズなどの果樹もありますが、鳥が食べるのが先か、人が食べるのが先かという競争になるそう。野鳥の宝庫ならではの悩みです。 敷地を縁取る木々 佐潟に面する側にはいろいろな樹木が茂っています。これは大きなクルミの木。実と葉、枝を染め物に使います。 鳥がクルミの実を運んで、思わぬところに芽を出してしまうこともあります。クルミは強い樹木で、そうなると困ったことになるので、気を付けています。 これは杜仲(とちゅう)の木。20年前に植えたのですが、ご本人は近年まですっかり忘れてしまっていて、知人によって発見されたのだとか。杜仲の葉は、割くと粘り気のある糸を引きます。煎って、杜仲茶にしていただきます。 ここに並ぶのはヤマザクラ。4月の終わりの花盛りには、ここで一服。素晴らしい時間を楽しめます。 健やかに茂る和洋のハーブ 日陰の一角には、ミョウガと、鳥が実を運んできたというサンショウの木があります。 これはハマボウフウ(浜防風)という珍しいもので、海岸の砂地に生えるセリ科の植物です。新芽をおひたしにして食べますが、香りはセリとイタリアンパセリをミックスしたよう。ハマボウフウの根は漢方薬としても使われています。 ハウスの中には、挿し木したラベンダーや、種まきしたバジルなど、おなじみのハーブがありました。ボランティアの方々に手伝ってもらって挿し木したラベンダーの数は、なんと2,000本。それらは病院など、必要とされる場所に、無償で提供しているそうです。 「私の次の夢は蒸留小屋を建てること」と言う永嶋さん。そのためにも、もっとラベンダーの苗を増やして準備していきたいと考えています。 永嶋さんは、カモミール、ローズ、ラベンダーなどを蒸留して作ったハーブウォーターを、化粧水として使っています。季節ごとに変わるフレッシュな化粧水を使うのは、本当の贅沢といえるでしょう。 バジル畑には、よく見ると日除けがしてあります。バジルは太陽を浴びると、酵素の働きで苦味が強くなってしまいます。バジルペースト用に育てるには、間隔を詰めて植え、遮光します。すると、葉が柔らかくなって美味しくなるそう。 これはルバーブのタネ。植物はできるだけ、自家採種して育てるようにしています。生徒さんにも、花の後、タネになるまでを学んでもらいます。「タネにエネルギーを感じる」と、永嶋さん。いろいろなタネだけを合わせた、タネのブーケを作るのも好きです。 ハウスの中にはレモンの木もあって、300個ほどの実が付きます。新潟産レモンをつくるのも、永嶋さんの夢の一つ。ここにはライムとベルガモットの木もありますが、それらの花(ネロリ)の蒸留にも挑戦したいと思っています。 建物の裏手には、立派なローズマリーの畑があります。永嶋さんはいつも、大きな枝を5本ほど、車のダッシュボードの上に置いています。効果抜群の、天然の消臭剤です。車の中に入れておくと、夏場はあっという間に乾燥してドライハーブになるそうで、一石二鳥です。 四角い枠の小さな畑は、年間の講座を受講する生徒さんに一枠ずつ貸し出しているものです。バジル、エキナセア、レモングラス、ローズゼラニウム、ラベンダー、スイスチャード、コモンマロウ、コモンセージといったハーブ類から、好きな植物を選んで、育ててもらいます。 ヒラタケ菌で土の改良 ハーブ園の一角には、ヒラタケを栽培する農家さんから譲ってもらった、使用後のヒラタケの菌床が積まれています。農学博士にお墨付きをもらったよい菌ということで、もみ殻と合わせてから、堆肥に混ぜて使っています。英国のガーデニングでいうところの、マッシュルーム・コンポスト(マッシュルームの菌床)と似た仕組みの土壌改良です。園内はどこも砂地で、チッソ系の栄養素をどれだけ入れてもすぐに流れてしまうので、堆肥を入れすぎるという心配はないそうです。 冬になると、この山には自然とヒラタケが生えてきます。すると、生徒さんたちは「本物の『きのこの山』だ!」と喜び、きのこ狩りに勤しみます。ちなみにヒラタケは、バジルペーストと和えると美味しいそう。 お話を伺いながらハーブ園をぐるりと一周。色とりどりの収穫です。 人生を変えたハーブとの出合い 永嶋さんがハーブに興味を持ったきっかけは、80年代にハーブを広めた園芸家、広田靚子(ひろたせいこ)さんのラジオ番組でした。広田さんの、日曜日の朝は庭の野菜やハーブを摘んで、たくさんのカモミールを入れたお風呂にゆっくり浸かります…という言葉に、永嶋さんは、まあ、なんて素敵な生活なのだろう、と驚きます。当時、農業に就いて、息つく暇もないほどの忙しい日々を送っていた永嶋さんにとって、それは夢のような生活に思えました。が、広田さんの優しい語り口に背中を押され、自分もやってみようと思い立ったのです。 『赤毛のアン』や『大草原の小さな家』などが好きだった永嶋さんは、お話に出てくる、カモミールやローズマリーといったハーブの存在に惹かれていました。しかし、当時はまだまだ珍しく、わざわざ探しに行って手に入れたローズマリーを料理に使っても、さじ加減が分からなくて、家族に不評を買うこともありました。まったく手探りのスタートでした。 そんな折、義理のお母様が体調を崩され、永嶋さんは少しでも助けになればと、ラベンダーを育て始めます。また、持病を持つお祖母様に、育てたカモミールを入れたお風呂をすすめ、「このお花のお風呂に入るとよく眠れる」と、受け入れられたことも励みになりました。そうやって少しずつ、心身の不調を和らげるハーブの力を感じるようになっていきました。 永嶋さん自身、忙しい一日の終わりに小さなハーブ畑に寄ると、疲れた気分がリセットされて笑顔が戻り、癒やされることに気がつきました。「香りってすごいな」と、人を元気にするハーブの力を実感したのです。そして、NPO法人ジャパンハーブソサエティ―(JHS)認定上級インストラクターの資格取得を機に、ハーブの道に本格的に進むことを決めたのでした。カモミールの「逆境のエネルギー」という花言葉が好きだという永嶋さん。人生に力を与えてくれるハーブの魅力をさらに広めようと、次の夢に向かっています。 Information ハーブランドシーズン 〒950-2261 新潟県新潟市西区赤塚5073番地 TEL/FAX: 025-239-3288 開園時間: 9:00~18:00 (冬期は17:00) 定休日:毎週水曜日 Credit 取材&文/ 萩尾昌美 (Masami Hagio) 早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。神奈川生まれ、2児の母。 写真/3and garden
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千葉県

花の庭巡りならここ! 歩むほどに癒やしを誘う花の名所「清水公園 花ファンタジア」
「清水公園」の一角に設けられた 花の名所「花ファンタジア」 「清水公園」は明治27年に開園した、歴史の古い公園です。全体の広さは約28万㎡で、フィールドアスレチックやキャンプ・バーベキュー場、ポニー牧場などもありますが、ここではその一角にある「花ファンタジア」エリアについてご紹介します。 「花ファンタジア」は平成14(2002)年にオープンした花の名所で、市民の憩いの場として整備されました。敷地面積は約6万㎡で、ゆっくり観賞しながら歩いて、大人の足で平均1時間弱くらいで周遊できる広さです。 「花ファンタジア」内は、年3回模様替えされる「四季の花壇」、「ローズガーデン」、「イングリッシュガーデン」、「水生植物エリア」、「亜熱帯(温室)エリア」などにエリア分けされ、変化に富んだ景観を楽しめます。 園内には約700種の植物を植栽。春の部はウメ、モモ、ミモザ、サクラ、ボタン、フジ、バラ、スイレンが。秋の部は、秋バラ、オミナエシ、フジバカマ、ススキ、モミジが見どころに。季節を感じることのできる植栽となっています(春と秋の2季営業)。 「癒やしを感じられるよう、空間演出にも配慮しました。空間と樹木との間合い、草花との高低差や遠近感に工夫し、借景を取り入れたみずみずしい空間にしています」とは、管理スタッフの言葉。そのかいもあってか「広々として気持ちがいい」「手入れが行き届いている」という来場者の声が寄せられ、年間約4万人が憩いに訪れています。 群植花壇にフジ棚、ローズガーデン…… 開花リレーを楽しみに何度でも通いたい! 4月中旬〜下旬には、約5,400ポットが植栽される、ネモフィラの群植が見頃になります。「瑠璃唐草(るりからくさ)」の別名を持つ通り、冴えたブルーの花色が魅力です。這うように茎葉を広げて密に花をつけるので、ブルーのカーペットが広がるような景色を楽しめます。 ネモフィラが咲くのとほぼ同じ時期の4月下旬〜5月上旬には、ボタンが見頃になっているので、こちらにも足を運びましょう。「花ファンタジア」の一角にあるボタン園には、約80品種、約1,000株を植栽。花弁を多数重ねる花姿はゴージャスで、赤やピンク、白などの花色が楽しめます。 5月上旬には、フジが見頃になります。樹齢10〜20年のノダフジが約30本植栽されており、つるの長さは4〜6mにも及びます。藤棚に仕立てられ、滝のように豪華に咲く姿は、見る人に感動を与えること間違いなし。池の近くに植えられているため、紫色の花が水面に映り込んで、いっそう華やかに見えます。 5月中旬〜6月中旬はバラの季節。「ローズガーデン」では約200種、1,300株のバラが爛漫と咲き誇ります。幅3m、高さ2.6mのアーチをつないで10mほど続くバラのトンネルは見どころ。花色に濃淡をつけた素晴らしいグラデーションが楽しめます。芳香を強く放つ品種を集めたエリアや、「ベルサイユのバラ」シリーズの品種を集めたエリアなど、変化に富んだ植栽にも注目を。バラの季節には音楽やダンスのショーなども楽しめる「ローズフェスタ」が開催されます。 初夏の一年草花壇やスイレンを見に行こう! 秋以降はコキアの紅葉やセージ類に注目を 5月上旬〜8月下旬には、スイレンが見頃に(7〜8月は休園)。約3,000㎡の池に3品種のスイレンが花を咲かせます。年々自然に株数や開花数が増えて、見応えのある景色をつくるようになりました。夕方になると花を閉じる性質があるので、スイレンを目当てに出かけるなら午前中がおすすめです。 ネモフィラに埋め尽くされていた花壇は模様替えされ、5月頃に夏の花々で彩られて再登場します。5品種、約4,600株の一年草をボーダー状に植栽。花色にグラデーションをつけるなどして奥行き感を強調し、広く見えるように工夫しています。 「花ファンタジア」内には、温室もありますよ! 面積は約150㎡で、多様なトロピカルプランツが植栽され、ボダイジュ、サラソウジュ、ムコウジュという仏教三大聖樹も見られます。写真は花穂を30〜60㎝下垂させて、鮮やかなエメラルドグリーンの花を咲かせるヒスイカズラ。熱帯雨林に自生し、日本の気候では屋外で育てることができず、温室でしか見られない人気の植物です。 夏に開花する一年草が植えられていたボーダー状の花壇は、再び模様替えをして秋に向けてコキアが群植されます。10月中旬〜下旬には、グリーンのモコモコ姿から紅葉して輝くような赤色へと変化。晴れた日の青空とのコントラストも美しいものです。同じ頃にはバラ園の秋バラも楽しめますよ! 10月中旬〜11月中旬には、メキシカンブッシュセージが見頃になります。約100㎡に約300株が植栽されており、紫色の花穂をいくつもスラリと伸ばして咲く姿がダイナミック。メキシカンブッシュセージを背景に、訪れた記念の写真撮影をしましょう! ガーデン雑貨や地元名産品のショッピングを楽しもう カジュアルなレストランも人気のスポット 園内には土産物売り場もあるので、ぜひ立ち寄りを。地元名産品やローズグッズ、鉢花、園芸グッズなどが揃います。人気アイテムは、おせんべい324円〜、ローズ柄のクリアファイル275円〜など。 温室の2階にはレストランがあるので、ランチや休憩にどうぞ。営業時間は11:00〜16:00(ラストオーダー15:30、11月〜2月11日は30分閉店時間繰り上げ)、ランチタイムは11:00〜14:00。人気メニューはオムライス880円、季節のカレー880円、海老フライ1050円。ドリンクはハーブティー400円、ドリンクバー350円です。
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北海道

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」庭づくり物語
厳しい気候にも負けない宿根草探しから始まった 私は、夫の大森康雄と結婚後、初めてこの北海道十勝にやってきました。夫も私も東京育ち。夫はカナダでの留学生活で北海道よりも寒さの厳しいアルバータ州での経験がありましたが、私はどのくらい冬が厳しいかも知らずに「まあ何とかなるでしょう」くらいの気持ちでした。 農業者となって生活するうちに、厳しい状況の中で夫の実兄が東京と千葉でやっていたグラウンドカバー植物の栽培を1985年に始めたところ、北海道以外の地域からの注文がほとんどでしたが、よく売れました。 そのころの北海道は、植えられている植物といえば、個人のお庭も公共の場でも似通った一年草か数種類のグラウンドカバープランツで、それ以外の毎年咲く宿根草に至っては、おばあちゃんたちが昔から庭で育てている何種類かの草花くらいでした。 せっかくつくったグラウンドカバープランツが北海道で使われないのは残念、との思いから、「北海道の気候でも毎年美しい花を咲かせ、葉を茂らせるものを根付かせたい」と思うようになりました。 幸いにも、夫が留学していたカナダのアルバータ州は、冬は氷点下40℃以下にもなる土地。その土地にも春から秋まで花咲く美しいガーデンがある。「北海道でもできないわけはないという確信」みたいなものがありました。そこで“この寒さ厳しい土地で魅力を発揮できる宿根草探し”が始まったわけです。 寒冷地向きの宿根草栽培の厳しい道のり しかし、これが大変なことで、今から30年以上前はアドバイスをくれる人はなく、園芸店で売られているものは一年草か山野草、高山植物として売られているものがごくわずかで、どんな性質か尋ねても、北海道で、しかも戸外でどうなるかは、「よく分かりませんが、まず植えてみてください」と言われておしまい。本州から取り寄せて試験植栽しても、ほとんどが失敗、失敗、失敗の連続。当時は寒冷地向き宿根草についての日本語の資料はなく、海外の文献から情報を得て試験するしかありませんでした。 私たちは海外のガーデンショーに赴いてたくさんの植物を見るだけではなく、夫の康雄は、すでに有名だったエイドリアン・ブルーム氏(ブルームス・オブ・ブレッシガムナーセリー)をはじめ、アラン・アーミテージ氏(アメリカジョージア大学園芸教授)、故ブルース・マクドナルド氏(当時カナダ、ブリティッシュコロンビア大学植物園園長)、故ジェームス・C・ラウルストン氏(当時アメリカ、ノースカロライナ大学植物園園長)など、世界的にも優れたナーセリーマン、プランツマンやデザイナーたちの講義を受けて実践につなげていきました。 海外からの苗の輸入もよくしたけれど、苦労して手配しても検疫でことごとくはねられて、植物は燻蒸にかけられてダメになったり、廃棄処分にされて手に入れることができなくなったこともしばしば。悔しい思いは数知れず経験しました。これらの困難を経て、ようやく本格的に宿根草の生産に入ることができたのです。あの頃はどんなに失敗しても“宿根草を根付かせたい”という思いは募るばかりで、前へ前への日々でした。 念願の直営店をオープン 1997年には、ナーセリー内に小さな直営店をオープンしました。北海道内の各地から車で何時間もかけて、また大型バスでツアーを企画して来てくださる方々もいらっしゃいました。しかし、宿根草の魅力を伝えるには、このテストガーデンを見ていただくだけでは難しい。宿根草の本来の姿だけではなく、植物同士の組み合わせを見せることによって、さらにその魅力を伝えていきたい。そうだ! やはり本格的なガーデンをつくらなくては! という思いに至ったのです。 いよいよ本格的なガーデンづくりへ 現在の大森ガーデンがある十勝・日高山脈のふもとに土地を求め、2006年秋からガーデン予定地のクリーニングに入りました。まず表土を何年もはがされ続けたこの土地を土壌改良することから。堆肥投入、耕して雑草を除去。このクリーニング期間が約2年弱。そののち芝生の種子を播きました。種子の鎮圧も終わってホッとしたところに想定外の大雨。なんと、ほとんどの芝生の種子が流されてしまったのです。もう一度播種、一からやり直しでした。 そしてでき上がった広い広い約2ヘクタールの芝生。 ガーデン施設・ガーデンショップの建設と同時進行で土を運び入れたり、芝生を切り取ったりして、テーマを決めながら植栽エリアを広げ、ガーデンが広がっていきました。そうして2008年、現在地に、ガーデンに併設された新しいガーデンショップがオープン。2019年で11年目を迎えたところです。 「大森ガーデン」が心がけるガーデンデザイン 私がデザインするにあたって心がけていることは、その場所の気候や自然条件に合った植物を使うこと。その植物の魅力を最大限に発揮させること。脇役にしかならない植物と思っていても、組み合わせによっては双方が輝くことだってあります。 苗の姿だけでその後の魅力を判断してほしくない。そのためには、植物をちゃんと評価してもらえるようなデザインが必要です。デザインは、まず植物を知ることが大切です。それができれば、あとは想像力全開で、頭の中でシミュレーションが始まり、季節の移り変わりによって変化する組み合わせもシミュレーションする。そして、図面に落とす。 デザインが閃かないときは苦しいものです。でも想像した通りに魅力を発揮してくれて、図面上のデザインが間違いなかったと思えた時の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。この喜び・満足感があるからこそ、続けていけるのでしょうね。 大森夫妻が考えるガーデンとは? ガーデンとは、体験するもの。ぜひ外から、それも一方向からのみ見るのではなく、どうぞその中に身を置いてみてください。移り行く色合いや植物が醸し出す造形の重なりの変化や、そよ風、香り、草花や穂のゆらぎ、朝夕の光、小鳥の声、ミツバチや蝶が飛び交う姿……自分もそんな自然の一部になったような一体感を味わっていただきたい、そして時にはエネルギーを、癒しを、幸せ感を、持って帰っていただきたいと日々思いながらガーデンをデザインし、育てています。 世界的なプランツマン、デザイナーとの仕事 大森ガーデンは「観光ガーデン」を持ちながら、現在1,200~1,300もの品種の宿根草を生産し取り扱っているナーセリーでもあります。 北海道十勝にある「十勝千年の森」のオーナメンタルガーデンは、100%大森ガーデンの宿根草植栽から始まりました。ここは、2012年にプロのガーデンデザイナーらが加入する国際的な団体SGD(ガーデンデザイナーズ協会)の選考で優れた庭園として、大賞を受賞したガーデンですが、その造成前から、ガーデン植栽設計者であるイギリスのダン・ピアソン氏からのさまざまな要求に応え、宿根草のほとんどを揃えて提供したのが大森康雄でした。 また、庭の世界大会である「ガーデニングワールドカップ2016年(ガーデニングワールドカップ協議会主催、会場:ハウステンボス)」においては、アジア初のピ-ト・ウードルフ氏植栽設計の庭園をつくるため、100%大森ガーデンの宿根草を提供することになりました。この際には、オランダのピートさんとインターネット電話のSkypeで苗の生育状況を確認しながらの仕事でした。 ダン・ピアソン氏もピート・ウードルフ氏も素晴らしいプランツマン(植物をよく知る栽培家、植物の専門家)でもあり、植栽デザイナー。このような方々との仕事を通して、私たちは、さらにプランツマンとして、デザイナーとして研鑽を積んできました。 未来の大森ガーデン 来年は12年目を迎えるこの大森ガーデン。今年から少しずつリニューアルをし始めています。ナーセリーとして発表し続けている新しい植物を植栽に使ったり、組み合わせを変えたり、さらに楽しんでいただける見せ場をつくる……。 また、今後も“持続可能なガーデン(サステイナブルなガーデン)づくり”と“ローメンテナンスなガーデン作業の確立”を進めていきます。 プランツマン(植物をよく知る植物の専門家)の大森康雄と植栽デザイナー(植物を知ってデザインする人)の大森敬子のコンビですが、これからもガーデンの充実を心がけて、さらに多くの方に訪れていただきたい。 ガーデンを訪れた方が幸せでした! と伝えてくださったとき、スタッフとガーデンでのこの幸せ感を共有するとき、それが私たちが何よりも幸せを感じる瞬間です。ガーデンの中でたくさんの人に囲まれて日々幸せな時を過ごしたい。どうぞ、ガーデンで私たちを見かけたときには、お声をかけてください。喜んでいただけるのが何よりの楽しみです。 次回は、今井カメラマンが撮影した写真とともに、大森敬子さんによる各コーナーの植栽デザインについて、解説していただきます。 植栽術の記事『カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」の植栽術』はこちら。 Credit 本文/大森ガーデン 大森敬子 植物解説/大森ガーデン 大森康雄 大森敬子 http://omorigarden.com 写真/今井秀治 バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】鉢づくりの老舗「ウィッチフォード・ポタリー」
美しい景色の中にある工房 ロンドンから北西へ車で約2時間、コッツウォルズ地方北部のウィッチフォード村に、工房はあります。周りには牛が草を食む草原が広がって、のんびりした雰囲気。赤茶色の鉢がすべて手作りされているというこの場所で、どんな出会いがあるのかワクワクしながら、敷地の中へと入ります。ここには、工房の他に、コートヤード・ガーデンとショップ、そして、近年新設されたカフェが併設されています。 きれいに刈り込まれた芝生の間の小道を行くと、早速、ウィッチフォード・ポタリーの鉢に植えられた、一対のトピアリーが出迎えてくれます。 工房は、1976年、創設者のジム・キーリングさんと妻のドミニクさんによって、オックスフォード州のミドルバートンという場所で開かれました。その後、1982年にこの場所に移されました。最初はキーリング夫妻と見習い2人だけだったそうですが、現在は、熟練した陶工をはじめとする、35名ほどのスタッフが働いています。いまやジムさんの子どもたちも加わって、家族で営んでいるアットホームな工房です。 小道を先に進むと、サークル状のエリアに、大小の鉢が積み重なった、オブジェのようなコンテナガーデンが出現しました。ツゲやゼラニウムが緑を添える、ウィッチフォードの鉢づくしの贅沢な演出に、思わず見惚れます。 鉢づくしのオブジェをぐるりと一周眺めてから、緑の茂みにぽっかり空いた空洞を抜けて、奥へと進みます。背が高い人なら、ちょっとかがまないと通れないくらい、緑の生い茂ったアーチ。この様子から、ウィッチフォード・ポタリーが40年近くの長い年月、この地に変わらずあり続けていることが伝わってきます。 緑のアーチを抜けると、小道が四方八方につながる場所に出ました。庭の中に迷い込んでしまった気分。鉢だけがずらりと並ぶ、ガーデンセンターの一角のような場所かと思ったら、コンテナガーデンのお手本になるコーナーがいくつも設けられています。ここがコートヤード・ガーデンのようです。 奥に見える三角屋根の建物がショップのようですが、まずは植栽と鉢がつくる、コンテナガーデンのコーナーをチェックすることに。地面には、形が大小さまざまな敷石とレンガのペイビングが施され、ランダムな模様が浮かんでいます。 面白さ再発見のコンテナガーデン 大きな鉢の上に大きな鉢皿を載せて、砂利を敷き詰めた中に小さな鉢を並べて、さらにまた上へ鉢を載せて……。まるでウエディングケーキのようなディスプレイのアイデアに、ナルホド! と感心。 このコートヤード・ガーデンを管理しているのは、ヘッドガーデナーのポール・ウィリアムズさん。運よくポールさんに会えれば、植栽について話を聞くこともできるそう。 写真の左と右は、三角の屋根がついたアーチ状の構造物の表と裏に当たりますが、それぞれの演出の違いにびっくり! 写真右は、アリウムの鉢植え、ギボウシの鉢植え、スイートピーの鉢植えと、鉢植えばかりを集めたエリアなのに、とても瑞々しくて季節感たっぷり。コンテナガーデンでも、そんな庭づくりが可能だということを知りました。 象の背中からシダがダイナミックに伸び出ていたり、地面に低く咲くイメージのあるゲラニウムが高く茂っていたり。鉢植えならではの面白さがあります。レンガの目地から自然に生えてきたようなアルケミラモリスも、ナチュラルな雰囲気を生み出しています。 鉢に植えられている植物の種類はさまざまで、個々それぞれに特徴があります。でも、鉢植えという共通点が統一感を生んでいて、コンテナガーデンも面白いものだなぁと再認識しました。 多種多様な鉢が並ぶストックヤード コートヤード・ガーデンから奥へ向かうと、つるバラに彩られた建物の前に、新品の鉢がずらりと並んでいました。鉢を展示販売しているストックヤードです。こんなにたくさんのバリエーションを見る機会はこれまでなかったので、思わずテンションが上がります。 大きさや形がさまざまな鉢が並びます。鉢のデザインは500種もあるとか! 手前の緑が茂っている鉢は、イチゴ栽培用のストロベリーポット。イチゴの苗が植えられるよう、鉢の側面に穴があります。その左手にあるフタの付いた壺は、日本ではあまり馴染みがないですが、ルバーブ栽培用のテラコッタ。イングリッシュガーデンでは時々目にします。 ウィッチフォードの鉢は、バラやプリムラ、デルフィニウムなど、ガーデンの花々をモチーフにしたレリーフ模様も特徴的です。これはあの花ね! と眺めるだけで楽しい時間。テラコッタ製のニワトリやフクロウなどの置物も、庭に馴染みやすそうです。 釉薬がかかったオシャレカラーの鉢もずらり。素焼きの鉢とはまた違った魅力があります。 8角形の屋根を持つ建物、オクタゴン・ギャラリーの中では、ウィッチフォード・ポタリー製以外の、英国製の陶器が販売されています。釉薬で彩られたマグカップや大皿などの食器類、または作家ものなど、いろいろなタイプの陶器が並び、さらには、剪定ばさみや誘引紐といったガーデングッズや、ポストカードなどもありました。大きな割れ物はお土産にはハードルが高いので、目に焼きつけるだけで我慢。 工房見学のミニツアー ウィッチフォードの鉢作りの過程をたどるミニツアーに参加して、工房を見学することもできました。ここで30年以上働いているというバーバラさんが案内してくださいました。 工房を開いたオーナーのジムさんは、育った家の近くに粘土層があったことから幼い頃より粘土で遊び、また、ガーデナーの母の影響で、草花にも親しんだそうです。ケンブリッジ大学で考古学を学んでいた際に、発掘作業で破片を見つけたことから陶芸に興味を持ち、考古学よりも夜間の陶芸講座に夢中になって、陶芸家を志すことにしたのだそうです。そして、花鉢を専門に作っていたレクレッシャム・ポタリ―に弟子入りします。ジムさんがそこで学んだ英国伝統の技法が、ウィッチフォード・ポタリーの鉢づくりの基礎となっています。 鉢は、90%以上がロクロで作られ、その他は、型などから作られています。鉢づくりは、まず、粘土の用意から始まります。近隣から採取され、車で運び込まれた3種類の土がブレンドされています。 採掘された土はまず、建物内の特殊な機械があるエリアに運び込まれます。土は水と混ぜられ、石などの不要なものが取り除かれて、なめらかな粘土へと加工されます。液状の粘土がパイプを通って、何層ものフィルターを通す過程を経て、なめらかになります。 練られた粘土はつややかです。覆いをかけて乾燥を防ぎながら4カ月間寝かせます。この段階になるまでがとても大事な作業で、時間もとてもかかるそうです。 鉢本体のための粘土と、装飾部分の粘土は、ブレンドの比率などの仕様が異なるそうです。ウィッチフォードの粘土は、成形に理想的な弾力性があり、焼き上がると、味わいあるテラコッタ色になります。 粘土の加工場の隣は、窯のエリアでした。ガスと電気、薪で焼くこともできるいくつかの窯があり、最高温度は1,040℃。36時間かけて焼くそうです。 2階に上がると、鉢をそれぞれのデザインに仕上げるいくつものアトリエがありました。 鉢づくりは、ロクロで成形する係と、装飾を手掛ける係に分かれています。現在、リーダーとして工房のスタッフを率いるのは、ジムさんの息子のアダムさんです。アダムさんは幼い頃から陶芸の手ほどきを受けた陶工であり、数年前から経営陣に加わっています。ここには、数十年間働いているベテランの陶工もいれば、働きだして数年の見習いもいます。ロクロできちんと鉢を成形できるようになるには、15年かかるそうです。 工房では、1週間で6tの粘土を600個強の鉢に加工するそうで、想像以上の量に驚いてしまいます。鉢づくりに並んで、日本とアメリカからのたくさんの注文に対する、日々の発送作業も大変なものです。 ウィッチフォードの鉢は多孔性に優れていて、植物の成長を促します。また、霜害を防ぐとして、イギリス国内ですべての鉢に10年間の保証が付いています。 ウィッチフォード・ポタリーでは特別に大きな鉢を焼くこともあります。大きな鉢の場合は、一度に成形するのが難しいので、いくつかのパーツに分けて成形し、組み合わせます。アダムさんが作った過去最大の鉢は、焼く前の高さが2mあったそうです。 このアトリエでは、スペシャルオーダーの鉢を作成中。スペシャルオーダーでは、結婚や退職のお祝いに、特別の装飾や文字を入れてもらうことができます。また、英国の庭園のベンチで見られるプレートのように、庭を愛した故人を偲ぶ文言を刻んだ鉢を作ってもらうこともできるそうです。 奥の棚には、800種の装飾モチーフの型が並びます。この中に、外の鉢で見たバラやプリムラがあるのですね。モチーフの型は、すべてジムさんがデザインし、手彫りしたものが原型となっています。ロクロで成形して1日乾燥させた鉢に、型に入れた装飾用の粘土を押しつけて、接着させます。 たくさんのモチーフでデコレーションされた鉢もありました。成形、装飾の作業が終わった鉢は、十分な乾燥がされたのちに窯で1回焼かれて、完成します。 2018年からは、日本の六古窯の一つである備前焼の産地、岡山県備前市で備前焼と花・庭・自然が融合する新しい試みが数々行われています。「ウィッチフォード・ポタリー」代表、ジム・キーリングさんが秋に来日し、直接レクチャーを受けられるワークショップも開催されています。 ●備前焼の魅力を伝える新プロジェクト「Bizen×Whichford」コラボイベント報告 地元でも愛される新エリアのカフェ 工房やガーデン、ショップから徒歩1分のところには、2014年にオープンしたカフェ「ストロー・キッチン」があります。 カフェの前には、ゴッホの描いた『糸杉のある麦畑』をモチーフにした、黄金のモニュメント「ゴールデン・サイプレス(金のイトスギ)」がありました。周りに咲くポピーが可愛らしい雰囲気。このモニュメントは、数年前に日本で行われたガーデンショー展示のために作られた作品の一つで、陶製のモニュメントには23.5金の金箔が施されています。ジムさんはこのように、粘土で複雑な形のものを作ることに果敢に挑戦しています。 テラス席もあって、リラックスできる雰囲気です。ちょうどランチタイムだったので、多くの地元の方で賑わっていました。 店内のデザインはカジュアル。店のおすすめメニューは、地元農場のベーコンとカフェの手作りパンを使った、ベーコン・サルニ(サンドイッチ)。その他、手作りパンのトーストに卵料理を合わせた一品や、トーストにチョリソーとフェタチーズを合わせた一品など、シンプルだけれど、美味しそうなメニューが並びます。 ランチにいただいたのは、ミントとタラゴンの入ったオムレツやアスパラガスを包んだ生春巻き。多国籍でモダンな一品です。ビオラの花飾りに嬉しくなります。 美しい景色の中で、ウィッチフォードの鉢は一つひとつ、手間ひまかけて、大切に手作りされていました。だからこそ、大量生産品にはない存在感を持つのだなと納得。長く大事に使っていきたい鉢と、魅力を再発見しました。
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東京都

ほっこりしたい日はこちらへ。『イッカ(icca)』 東京・西荻窪 今日はてくてく「花屋さん日和」Vol.3
ふつう、花屋さんって通りに面した1階にありますよね? そう思って行ったら、迷子になります。女子大通りに出て、この看板を見つけたら、奥の建物の階段をあがってください。 階段をあがると、ペパーミントグリーンのドアが見えます。左のドアを開けて、さあ、中へ! 「こんにちは~」。そう声を掛けると、この日も、オーナーの西野純子さんが笑顔で迎えてくれました。 訪ねたとき、西野さんは、オーダーを受けたプロポーズの花をアレンジしていたところ。店内は天井から、やさしく降り注ぐランプの光が気持ちをなごませてくれます。カフェと、身近な山野草を扱うお店、大工さんとのシェアショップとして、『西荻百貨店』内にオープンしたのは2013年4月。ちょうど丸5年になります。 18歳のときに、花屋さんでアルバイトを始め、ブライダル専門のフローリストとして、長く働いていた西野さん。5年前、シェアショップへの誘いを受けるまで、自分の店をもつことなど、まったく考えたことがなかったそうです。1年、また1年と経つうちに、我が家のように訪れるお馴染みさんが増え、まっ白な空間にも好きなモノたちが加わっていきました。「最初の頃は、ほとんど花しかなかったのがウソのようですよね」。それは、高崎の手作りシスターズが作るアクセサリーだったり、天井から吊るしているステンドグラスのランプだったり。人との縁を物語る品々。ちなみに、ランプは1万2000円~。買えるんです! 『イッカ』では、いつも25~30種ほどの切り花と枝ものを並べています。まだ、夜が明けないうちに、世田谷市場へ出かけて仕入れる花は、季節の草花が中心。「繊細な草花が好きすぎて、お店に帰ってきて、あれっ、メインになる花がなかった…なんてこともありますが(笑)。茎のラインがきれいで、いけても、あたかも自然に咲いているように思える花が好きです」。そんな花々を称して、日常に寄り添う花、と西野さんは言います。華美ではなく、いつもの場所に飾っては、またこの季節がやってきたね、としみじみ思える花。 アレンジするときも、風と遊ぶような、ふわっとした部分を設けるのが西野さんのスタイルです。何種類も入れるグリーンだけでも、なだらかなグラデーションを描きます。なんだかやさしい気持ちになれるアレンジですね! ちなみに、店名は、1本でも絵になる花を揃えたいという思いから、「一花」転じて『icca』。 お店では、毎月、「花あそび」という、小さなレッスンもしています。気持ちが温かくなるこの場所へ、お散歩がてら訪ねてみませんか? Shop Data:イッカ(icca) ホームページ/http://icca-flower.com 住所/東京都杉並区西荻北4-35-10 西荻百貨店内 電話/03・3395・3122(西荻百貨店代表) 営業時間/11~18時 定休日/木・日曜(臨時休業、夏季休業あり) アクセス/JR中央線・総武線西荻窪駅北口より徒歩10分 Credit 記事協力 構成と撮影と文・鈴木清子
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長野県

花の庭巡りならここ! 花苗ショップの品揃えにときめく「フローラルガーデン おぶせ」
早春から冬まで開花リレーされる花の名所フラワーショップは充実の品揃え! 1992年にオープンした「フローラルガーデン おぶせ」は5,700㎡の敷地を持ち、年間80種以上、約8,000株の一年草の開花を見ることができます。花卉・花苗生産の盛んな土地柄、市民の花愛好家も多く、花情報の発信地として整備された花の名所です。 園内の庭のデザインや植栽を手がけたのは「日本花の会」の鷲尾金弥さんほか。一年草の模様花壇、芝生広場、和風の宿根草・花木のエリアに分けられ、雁田山を借景に彩り豊かな花々を観賞できます。 春はクリスマスローズ、サクラ、クリサンセマム、アリッサムなどが開花。晩春から初夏にかけてはバラ、フジ、ナデシコ、キンギョソウ、スモークツリー、アジサイなどが。夏から秋にかけてはサルスベリ、ジニア、サルビア、センニチコウなど。冬はビオラ、パンジー、ハボタンなどと、季節の移ろいによって花の見どころも変化していきます。 フラワーショップも充実しており、季節の鉢花、洋ランなどを販売。特に春と秋は、町内産の新鮮な草花が所狭しと並んでいるので、ショッピングの楽しみもありますよ! また、初心者向けのワークショップとして、「寄せ植え教室」「ハンギングバスケット教室」「苔玉教室」なども定期的に開催しているので、興味のある方は、ぜひご参加を(制作内容によって参加費用は変わります)。 春はパンジーやビオラが咲き誇り花壇は花のタペストリーのよう 写真は5月下旬のメインガーデンの様子で、大きく分け5つの花壇が設けられています。パンジーやビオラなどこんもりと茂る一年草を使って、覆い尽くすように植栽。同系色でまとめたり、反対色を組み合わせてコントラストをつけたりと、カラフルな配色デザインを楽しめます。 園の入り口にあるテラスには、コンテナガーデンを展開。写真は5月頃で、ガザニアやビオラ、ゼラニウムなどが元気いっぱいに咲いています。主に開花の長い草花をセレクトし、大型のコンテナやハンギングバスケットにこんもりと茂らせて展示。園内で販売している花苗がどのようなボリュームで咲くのかを一目瞭然にする、花見本としての役割も持っています。 夏〜秋花壇はビビッドカラーの花が主役差し色を挟んだ配色の妙も楽しんで 写真は6月下旬〜7月上旬のメインガーデンの様子。ジニア、コリウス、メランポジウム、センニチコウなど、夏らしいビビッドカラーの花色が揃っています。そこへ花穂を縦に伸ばすブルーサルビアの紫を多めに配色して、コントラストをつけているのがポイントです。8月からはグラス類の中でも特に人気の高い、メリニス‘サバンナ’が存在感を増し始め、いち早く秋の足音を感じさせてくれます。 レストラン「OBUSE 花屋」はオシャレスポット1日20食限定のランチを食べに行こう! 園内にあるレストラン「OBUSE 花屋」は人気のスポット。ランチ11:00〜14:00、木曜定休。席数は30席あります。お箸で食べられる洋食がメニューに並び、地元産の野菜や果物を使った旬の味わいは女性に大人気。おすすめは1日限定20食の「花屋ランチ」1,200円です。 写真はレストラン「OBUSE 花屋」に隣接した飲食テラススペースで、飲食物の持ち込みOK。ペット同伴でレストランを利用したい場合は、このテラス席に通されます。園内の「農産物直売所ろくさん」併設の「ろくさんジェラート」で、地元産のミルクや果物を使った名物のジェラートをテイクアウトし、ここで景色を楽しみながら味わうのもいいですね。 Information フローラルガーデンおぶせ 所在地:長野県上高井郡小布施町中松506-1TEL:026-247-5487 http://www.floral.obuse.or.jp アクセス:公共交通機関/JR長野駅から長野電鉄線乗り換え、「小布施」駅下車、周遊シャトルバス15分、またはタクシー5分車/小布施スマートインターより10分 オープン期間:通年 休園日:年末年始、1〜3月の第3木曜 営業時間:9:00~17:00(冬季9:30〜16:30) 料金:大人200円、高校生100円、小・中学生無料(保護者同伴に限る)※20名以上の団体は1割引き、身体障がい者手帳の所持者とその介護者1名は半額 駐車場:普通車100台、大型バス3台(無料)
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宮城県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪14 宮城「ガーデンガーデン」
緑に囲まれた環境で リフレッシュしながらショッピング 仙台の中心部から山形に向かう在来線で揺られること30分。秋保温泉や作並温泉、ちょっと先に行けば山寺「立石寺」といった名湯・名所があるのどかなエリアに位置する「ガーデンガーデン」。山並みを背に広がる観光スポットのような、広々としたショップです。 広い敷地に膨大なアイテムが並ぶ 見応えのある売り場 造園業を手掛ける「ガーデン二賀地」は開業約50年。その園芸部門としてショップをオープンした「ガーデンガーデン」は、この地に根付いて約20年。花に関心の高い方々へ向けた地域密着型の園芸店から始まり、今では東北6県を中心に、遠路はるばるガーデナーが訪れる店となりました。 5,000㎡もある広い売り場は、このショップの大きな強み。植物やグッズなど、アイテムごとにエリアに分けられ、種類豊富なたくさんの商品が、ゆったりとしたレイアウトで展示されています。 【花苗コーナー】 全国各地から新しい品種を積極的に仕入れ、ビギナーからベテランガーデナーまで満足のいく品揃え。苗売り場には屋根がついているので、雨の日でも安心してショッピングが楽しめます。 カラーリーフ類も豊富に扱っているので、どんなスタイルの花壇・寄せ植えづくりにも、大いに助かります。 花売り場の一角を華やかに彩る寄せ植え。可憐な花を使ったナチュラルなアレンジが得意。寄せ植え講習会も定期的に開催しています。 【バラコーナー】 年末から春にかけて、バラの大苗が出回る時期や開花苗の並ぶ時期は、各ブランドのトレンドのバラが約5千鉢、店頭に並びます。また、バラに造詣が深いスタッフがいることも大きな魅力。店長の丹野陽介さんは、入社時から20年間ずっとバラ担当を務めてきただけあって、近年の流行やトレンド、品種の育てやすさなどをすべて把握しています。また、バラの専門家を招いたイベントも年2回開催。 【樹木コーナー】 造園部門の脇にある樹木売り場には、大きなポットに植えられた多彩な中高木が森を形づくるように並べられています。 家庭果樹も充実しており、すぐに楽しめる実つきの株も多く並んでいます。この店イチオシなのは、ブルーベリー。「たくさん実っているから食べて味を確認してもいいですよ」と大らかな丹野店長。 他品種との交配で実がつきやすくなるブルーベリーは、多くの品種を揃えています。ハイブッシュ系、ラビットアイ系、どちらも豊富に揃っています。 左/行灯仕立てにした大鉢のブラックベリー。誘引を外してフェンスに絡ませれば、すぐに見応えのあるシーンが楽しめます。右/黄色い実が庭に異国情緒を添えるレモン。一株あるだけで、庭の雰囲気が高まります。 澄んだ空気を味わいながら 散策できるサンプルガーデン 樹木売り場の奥には、青々とした山を背景に広がる、2つのサンプルガーデンがあります。手前側には宿根草を中心とした彩り豊かな花壇が、階段を上った奥には樹木とリーフ類をメインに使ったエクステリアガーデンが広がっています。 【宿根草ガーデン】 斜面を数段に分け、自然石を積んで土留めをした花壇は、季節の宿根草を植栽した野趣に富むナチュラルガーデン。宿根草の本来の魅力・育ち方が分かります。 コニファーや低木類を背景に、色を添えている宿根草。グリーン×パープルの大人っぽい色彩が、見る人を飽きさせません。 【初夏に見頃の宿根草(6月下旬)】 左/繊細な草姿、ナチュラル感たっぷりの花が魅力のタリクトラム。右/黄色いユニークな花がアクセントになっている、華奢なトリトマ。デルフィニウムの花色とのコントラストが好相性。背後の白い葉は、アメリカハナズオウ‘フローティングクラウド’。 左/黄葉と青花のコントラストが印象的な、トラディスカンティア‘スイートケイト’。右/涼しげな雰囲気を醸しているアストランティア・マヨール。 左/春から株を覆うように次々に花を咲かせるゲラニウム‘ボックストンブルー’。花壇の最前列におすすめ。右/大人気のアジサイ‘アナベル’のピンク種。花が華奢なので、草花と馴染みやすい。 【エクステリアガーデン】 造園部門が手がける、エクステリアと植物の組み合わせを提案したガーデンです。美しい樹木使いが目を引きます。 ① 白いシェッドがあるエリア 宿根草花壇の階段を上がると、青々としたリーフの奥に愛らしい小屋が出現。ストーリーを感じさせる演出。 ② 都会的なくつろぎのエリア 都会的なエクステリアと、それらを引き立てる自然な植栽。構造物のハードな印象を、モミジなどの軽やかな葉で、ふんわりと和らげています。 ③ サンプルガーデンの中央エリア カラーリーフをふんだんに使い、グリーンを主体とした葉色のグラデーションが織りなす風景は、造園部の実力の見せ場。 ④ 木柵で囲まれたナチュラルなエリア いくつかの小さな空間を連ねて構成したサンプルガーデン。木の柵なども取り入れた、素朴で愛らしいコーナー。 このコーナーには房咲きの赤いバラ‘岳の夢’で、アクセントを添えています。 左/中~大株のホスタの葉は、さりげないアクセントを生み出すのに効果的。右/アメリカハナズオウ‘フローティングクラウド’の株元には、アジサイ‘アナベル’が。グリーンがかった白い葉と花の爽やかな競演。 木のフェンスをよりおしゃれに見せていたのは、銅葉のアルストロメリア‘インディアンサマー’ (左)と、繊細な白斑が入る五色ノブドウの葉(右)。 白いウォールまわりは、メギやアベリアとディアボロやマホニア・コンフューサなどのリーフで印象を強めて(左)。クリーム色のアルストロメリアで、優しい上品さをプラス(右)。 悪天候でも快適! ガラス温室の中でショッピング 観葉植物や多肉植物、サボテンなどのインドアグリーンと雑貨類が並ぶガラス温室は、全天候に対応できる快適な空間です。温室内は、インテリアを意識したディスプレイで、インドアグリーンを楽しむ提案が随所に盛り込まれています。 【観葉植物・サボテンコーナー】 【雑貨・ツールコーナー】 インドアグリーンと馴染みのよい雑貨類は品数も豊富。ベランダガーデンなど庭のコーナーづくりにも役立ちそうなものがずらり。 【インテリアコーナー】 温室の一部に設けられた2階は、緑が育つ部屋づくりの参考になる、グリーン×インテリアコーナー。 グリーンと並ぶアイテムは、さりげなくおしゃれで、しかも植物の瑞々しさを引き立ててくれるものに特化。 【切り花コーナー】 愛らしいミニバラや、華やかなトルコギキョウ、そして存在感満点のバンクシア——。レジ前のエリアでひと際目を引く切り花コーナーには、根付きの植物にはないあでやかさがたっぷり。眺めているだけで、ぐっと気持ちが華やぎます。 ガーデンガーデンのイチオシはコレ! 敷地内でいただける身体に優しいランチ 広い売り場でお買い物をされたお客様にほっと一息ついていただくために、ガーデンガーデンでは敷地の一角にカフェ「Café Saji」を併設。野菜たっぷり30品目以上の素材を使った週替わりランチが大人気です(12月中旬~翌年3月中旬は休業)。 カフェの横にあるアイススタンド「あいすの家」のアイスクリームも大人気。北海道夕張にある本店「あいすの家」のアイスクリームのおいしさと素材の素晴らしさに魅せられた社長の田中さんが現地まで幾度も足を運んで頼み、販売されるようになりました。夕張以外で味わえるのはここだけ。ぜひご賞味を。 広々とした空間で、ゆったりとショッピングできる園芸店「ガーデンガーデン」。「見て・買って・学んで・味わって」とガーデナーの感性をフルに満たしてくれる、アミューズメントスポットのようなショップです。ぜひ訪れてみて。アクセスはJR仙山線愛子駅から徒歩で約20分。 【GARDEN DATA】 宮城県仙台市青葉区上愛子蛇台原62-5 TEL:022-391-8718 https://www.nigachi.co.jp 営業時間:9:30〜18:00(夏季)/10:00-17:00(冬季) 休日:なし Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。 写真協力/ガーデンガーデン
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神奈川県

花の庭巡りならここ! 圧巻の花畑を見に行こう「くりはま花の国」
豊かな自然に恵まれた里山を借景に壮大に広がる花畑は必見! もともと1984年に横須賀市が「くりはま緑地」として整備・開園し、1997年に「くりはま花の国」と改名。長らく市民の憩いの場として愛されてきました。敷地は約58万3000㎡にも及び、くまなく歩くとすれば、約2時間ほどかかる規模です。 里山に囲まれた借景を持ち、傾斜地、広い園内という条件を生かし、自然の中に広大な花畑をつくって面で魅せる植栽にしています。春は菜の花、ネモフィラ、ポピー、アグロステンマなどで圧巻の花畑を演出。夏はヒマワリ、秋はコスモスと、四季を通して花のカーペットを楽しめます。 また、50坪以上の温室もあり、カエンカズラ、ゴクラクチョウカ、プルメリア、コエビソウ、ベンジャミンなど、トロピカルプランツの数々が見られます。約80種、7,500株が植栽されているハーブ園、200品種のコレクションを持つ椿園もあり、季節の花畑以外にも見どころ満載です。 ほかに、月に1回のペースで「ハーブ教室」も開催。ハーブの特性や暮らしに上手に取り入れる方法などを学べます。半年の開講で、受講料は9,000円。第1火曜日の10:00〜12:00か13:30〜15:30から選べます。 園内の売店「コスモス館」は、営業時間10:00〜16:00、無休(年末年始を除く)。地元特産のお菓子、雑貨、ソフトクリームやビールの販売があります。中でもおすすめは、「くりはま花の国」で採れたハチミツです。オリジナル商品で、35g/540円、50g/700円、170g/1,680円の3種類が揃います。 年間約50万人の来場者があり、リピーターが多いのが特徴の「くりはま花の国」。入場料が無料なのも嬉しいところです。レストランや遊具施設など、さまざまな施設が充実しているので、一日かけて楽しむレジャースポットとして足を運んではいかがでしょうか。 早春から晩春まで季節の花畑が登場!一年を通して何度も訪れたくなる花の名所 菜の花の見頃は4〜5月頃。4つの品種を組み合わせて11月頃から咲かせていますが、最盛期はやはり早春。春の訪れを知らせる「黄色い花」の代表的な存在として、菜の花を選んだのだそう。道沿いにたっぷり咲かせて、フラワーロードをつくっています。 菜の花のエリアの隣に広がるのは、ネモフィラ畑。3万株以上が植栽され、青い空と大地を覆うように開花するネモフィラのブルーが美しく、フォトジェニックなシーンを撮影できます。ネモフィラは手をかけてタネから育てているため、環境に馴染んで旺盛に茂るので、大変見応えがあります。 「くりはま花の国」では、100万本以上のポピー畑が登場します。まず4月からは一足早く、黄色、オレンジなどのアイスランドポピーが満開に。続いて赤、ピンク、白などのシャーレーポピーが咲き競います。毎年10月最終週の土日の2日間、無料の摘み取りイベントも行われていますよ(天候状況により、枯れた場合は中止)! 6月上旬〜7月半ばの初夏には、アジサイ‘エンドレスサマー’、アガパンサスなど、涼しげなブルーの花が満開になる「青い花まつり」が開催されます。季節が進んで梅雨が明けると、写真のようにハーブ園入り口に6万本以上のヒマワリが開花。多花性の品種‘大雪山’などが咲き誇り、同じ方向に向かって一斉に花を咲かせる様子に心を打たれます。 秋には100万本のコスモスが見頃に。まずは夏の終わり、9月上旬くらいからキバナコスモスの‘レモンブライト’が開花し始めます。まだ光が強いこの時期は、茎葉のグリーンも明るく、黄色の花とのコントラストが美しいですね。 10月にはピンク、白、ワインレッドの花色をミックスさせた、コスモス‘センセーション’が見頃に。咲き始めは白で、咲き進むと黄色く変化していく‘イエローキャンパス’の姿も見られます。毎年10月最終週の土日の2日間、無料の摘み取りイベントも行われていますよ(天候状況により、枯れた場合は中止)! 広い園内ではフラワートレインが活躍!ハーブの香る足湯でリラックスタイムを 広い園内では、蒸気機関車型のバス「フラワートレイン」での移動がおすすめです。第1駐車場と第2駐車場の間、約2kmを、ゆっくりと約30分かけて走行。花畑を見渡せる道も通り、停留所は数カ所にあります。営業時間は10:00〜16:00、月曜運休(祭日の場合は翌日。運行ダイヤは季節によって異なります)。料金は中学生〜大人300円、3歳〜小学生100円(いずれも片道)です。 約80種、約7,500株が植栽されているハーブ園内には、無料の足湯「湯足里(ゆったり)」があります。足湯には園内で収穫されたハーブが入っており、癒やしの香りも楽しめます。レモングラス、ローズマリー、ラベンダー、タイム、ローリエ、マツなどの中から単体で使われ、2週間に1度ハーブの種類が変わります。歩き疲れたら、足湯に浸かってゆっくり過ごすのもいいですね。 ランチメニュー充実のレストランで一休み東京湾を一望できるテラス席は大人気! 写真はガーデンレストラン「ロスマリネス」の外観。営業時間は3〜10月が11:00〜16:30(ラストオーダーは食事15:30、飲み物16:00)、11〜2月が11:00〜15:30(ラストオーダーは食事14:30、飲み物15:00)、休業日は月曜(祝日の場合は翌日。但しポピーまつり、コスモスまつり期間中は無休)です。 ガーデンレストラン「ロスマリネス」には東京湾を一望できるテラス席もあります。メニューはハーブチキンプレート、和風ハンバーグプレート、オムライスプレート各1,000円、YOKOSUKAゴジラカレー900円など。デザートは日替わりのケーキ、ジェラート、パンケーキなどさまざま揃い、北欧紅茶とスイーツセットは1,000円です。予約すればバーベキューも楽しめますよ! セット食材も、海鮮セットや湘南豚セットなど、多様に揃います(食材の持ち込みは禁止)。 Information くりはま花の国 所在地:神奈川県横須賀市神明町1番地TEL:046-833-8282 http://www.kanagawaparks.com/kurihama-perry/kurihama/ アクセス:公共交通機関 電車/京急久里浜またはJR久里浜駅より徒歩約15分船/東京湾フェリー久里浜港より徒歩 約10分(第2駐車場まで)車/横浜横須賀道路佐原I.Cから約4km オープン期間 通年 休園日:なし(園内施設は営業時間・休業日あり) 営業時間:24時間 料金:無料(一部有料施設あり) 駐車場:427台(普通車1回620円、大型バス2,060円)
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鹿児島県

花の庭巡りならここ! 最先端のオシャレ観光農園が登場「農園ガーデン空」
木々が美しいナチュラルガーデンに癒されフルーツの収穫体験に心躍る 「農園ガーデン空」は、2018年7月25日にフルオープンした観光農園。「地元の鹿児島県阿久根市に、地元の方々はもちろん遠方からも人が集う場所をつくりたいと思い、都会の喧騒から離れた『ヒーリングガーデン』をコンセプトに、新しいレジャースポットを誕生させました」と、代表の野村雄介さん。 園内は、大別すると①植物の四季の変化を楽しむゾーン、②食用の植物を見て楽しむポタジェガーデン、③旬の花を楽しむゾーン、④緑に囲まれて休憩するゾーンに分けられています。「収穫して楽しみ、食べて楽しみ、美しい花や木を見て楽しめるガーデン」をテーマに、ガーデンの見学やフルーツの収穫体験ができるほか、洗練されたカフェやマルシェも充実しています。 ①植物の四季の変化を楽しむゾーンの「ひみつの花園」エリア内には、ランドスケープアーティストの石原和幸さんが手がけた「石原ガーデン」もあるので注目を。雑木や宿根草をメインに植栽し、滝や池などからのせせらぎが癒やしを誘うナチュラルガーデン。ベンチに腰掛けると、木々の葉擦れの音が心地よく、時間を忘れて眺め入ってしまいそうです。 一方、「テラスカフェ 空」の周りにある「空の庭」や「青の庭」は鹿児島の「en mo yukari」さんの手によるもの。その他のゾーンはスタッフが植栽を進め、園内には樹木約100種、草花は通年150種以上、約5,000株が見られます(2019年現在)。春はチューリップ、シバザクラ、イペー、初夏はアジサイ‘アナベル’、カラー、夏はヒマワリ、スイカ、カボチャ、インパチェンス、秋はコスモスと、四季を通して旬の花が咲き誇ります。 また、ブドウやパッションフルーツ、スイカ、カボチャ、ヤマイモなど果物や野菜をあしらったパーゴラや、琉球石を縁取りに使った花壇、オーダーメイドのコンテナのアイキャッチなど、自庭のヒントになりそうな工夫も満載。 農園の敷地は約50,000㎡、公開されている部分は約30,000㎡で、すべて見て回ると1時間前後かかります。今後も拡張する予定で、年々の進化も楽しみの一つです。 見学して楽しいナチュラルガーデン&収穫体験にエキサイトする農園エリア 園内の「日本庭園」は、花を見せるというよりは、木々の様子から季節の移り変わりを感じられるように植栽されたエリア。池にはカエル、トンボ、アメンボが棲みつき、鯉やメダカを放流すると自然に生態系ができ上がりました。奥に見える東屋からの眺めは格別です。 イギリスの「チェルシーフラワーショー」で数々の受賞歴を持つ、石原和幸さん監修の「石原ガーデン」です。写真は5月末〜6月頃の景色。落葉樹と、斑入り葉やブロンズ葉などのカラーリーフプランツが織りなす、グリーンのグラデーションが目に優しいナチュラルガーデンです。 傾斜地にあるため、ゆるやかなスロープを整備して、奥のカフェ入り口につなげています。カフェ入り口にはカラフルな草花を配して、お客さまにウェルカムのサインを。花壇内のアイキャッチになっている壺は、オブジェとして見せたり、生花を活けこんだりと、シーズンによって雰囲気を変えるアイテムです。 農耕民族の血が騒ぐ!?たわわに実った果実に大興奮! 「コモレビ農園」エリアでは、「お店で売られているフルーツや野菜がどのような姿で育っているのか知ってもらいたい」という思いから、植栽展示のほか、収穫体験の受け入れをしています。子ども向けの食育にぴったりですね。行っている収穫体験は、イチゴ、レモン、イチジクなど。電話かホームページでの事前予約がおすすめです(当日受付もあります)。 イチゴ狩りは12月下旬〜5月10日頃まで。大きな実がたくさん色づいていますよ! イチゴ狩りのマナーとして、次のことを守ってくださいね。ヘタの近くまで赤くなった実を採ること、次のイチゴを育てるためにも花を摘まないこと、ハチがいても受粉のために働いているので、そっとしておくこと、食べ放題の場合は、残さずにヘタ近くまできれいに食べること。それから、農園内を走ったり、イチゴを取り合ったりしないで、みんなで楽しく参加しましょう! オシャレなカフェメニューが嬉しい!見晴らしのいいテラス席がおすすめ 園内には、展望テラスのある「テラスカフェ 空」があります。開店時間は11:00〜16:00(ラストオーダーは季節によって異なる)、火曜定休です。ランチメニューのおすすめは、手づくり野菜ハンバーグセット1,380円、阿久根産アジフライのライ麦パンサンドセット1,380円、レモンプレートセット1,380円。ドリンクは、コーヒー350円、アイスカフェラテ380円、レモンスカッシュ280円、ホットいちごミルク400円。 カフェでは、イチゴのシーズン限定メニューも登場します。「コモレビ農園いちごのパフェ」1,850円。インスタ映えするビッグサイズで、基本的には3〜4人でシェアすることが多いのですが、中には一人でたいらげる方も! 鹿児島の特産品や雑貨を集めたセンスのいいマルシェでショッピングを 園内にはショッピングが楽しめる「ここマルシェ」があるので、お土産や旅の記念に立ち寄りを。開店時間は10:00〜16:00、火曜定休です。園内で採れたフルーツや、鹿児島県産の加工食品、雑貨、花苗など幅広い品揃えで、お気に入りの一品に出会える喜びがあります。特におすすめは、自家製の薩摩揚げセットです! マルシェでは、園内で採れた旬のフルーツを使った、手づくりのジェラートが販売されているので、ぜひお味見を! レギュラーメニューは、イチゴ、レモン、ミルク、チョコレート、チョコチップ。期間限定メニューが、ブドウ、スイカ、イチジク、カボチャで、いずれも400円です。 ※価格は2019年9月取材当時のものです。 Information 農園ガーデン空 所在地:鹿児島県阿久根市多田454-2TEL:0996-73-3685 【公式】農園ガーデン空 アクセス:肥薩おれんじ鉄道「阿久根駅」より車で約8分 オープン期間 通年 休園日:火曜 営業時間:10:00~17:00 料金:大人・中高生300〜1,000円※季節によって変動あり、小学生以下無料 駐車場:70台(無料)
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イギリス

【英国の庭】ハウザー&ワース・サマセット ピート・アウドルフ作のナチュラリスティックガーデンを訪ねる
時代の先端を行くアートセンター ハウザー&ワースは、本店となるチューリッヒをはじめ、香港、ロンドン、ニューヨークなど、世界の9カ所に拠点を持つ、現代アートのギャラリーです。このハウザー&ワース・サマセットは、2014年に、サマセット州ブルートンの町外れにあるダースレイド農場の中に開設されました。エッジの利いた現代アートの展示が行われる一方で、環境保護やサステナビリティ、教育などのテーマに着目した、多目的のアートセンターとしても機能し、さまざまなセミナーやワークショップが行われています。 ここでのお目当ては、ギャラリーの後ろに広がるメドウ「アウドルフ・フィールド」です。デザインは、オランダ出身の世界的ランドスケープ・デザイナー、ピート・アウドルフ。彼は敷地全体の景観スキームも手掛けています。近年、彼を追った記録映画『FIVE SEASONS ガーデン・オブ・ピート・アウドルフ』が公開され、日本でも話題となっていますが、映画にはこのメドウの設計シーンも登場します。早速、行ってみましょう。 広い駐車場からエントランスに向かうと、まず、鉛の塊のような巨大な像が現れました。「アップル・ツリー・ボーイ・アップル・ツリー・ガール」という、アルミニウム製の彫像作品。子どもみたいな像は、ユーモラスなような、ちょっと怖いような印象です。園内には、こんな屋外展示がいくつかあります。 ギャラリーの入り口は、写真右手の建物にあります。これらの古い石造りの建物は、何十年も打ち捨てられてボロボロになっていた農場の建物でしたが、パリの建築事務所によって修復や改修が行われ、回廊式のモダンなギャラリーやレストラン、宿泊用の貸し別荘に変身しました。これらの建物は、2015年のRIBAサウス・ウェスト・アワードをはじめ、建築界のいくつかの賞を受賞しています。 小雨の中、水やりをする人の姿が。 エントランスからギャラリーのショップを抜けて、建物の奥に向かうと、庭に通じるガラス戸がありました。外に出てみましょう。 宿根草のメドウ「アウドルフ・フィールド」。 1.5エーカーの広さを持つ、宿根草を使ったメドウガーデン「アウドルフ・フィールド」が目の前に広がります。幅広い散策路が斜面を上り、ずっと向こうの白い建物まで続いているようです。あいにくの雨ですが、傘をさしつつ観賞スタート。緩やかにカーブする道を上っていきます。 少し行くと池があって、その水面に雨粒の波紋が広がっていました。睡蓮の浮かぶ池は、周辺の木々の緑を映しています。 アウドルフの代表作の一つに、ニューヨーク・マンハッタンの、廃線となった高架鉄道跡を空中庭園に変えた「ハイライン」のプロジェクトがあります。ハウザー&ワースのニューヨークのギャラリーはちょうどハイラインの通っている場所にあって、ハウザー&ワースの経営者であるイワン・ワースは、アウドルフのつくったこの公園が大好きだったそう。その後、縁あって知り合ったのだとか。 振り返ってみると、池越しにギャラリーのモダンな柱廊が見えます。 先ほどの角度から見た池は、池の縁と小道との境目がくっきりと見えましたが、こちら側は、池と地面との境目があいまいになっています。なだらかな斜面の低い所にできた、大きな水溜まりのように見えます。 さらに斜面を上っていくと、今度は道幅がぐっと広がりました。緑の小島のような、芝の小さな丘が飛び石のように配置されていて、道だけれども広場のようでもあり、面白い景色です。緑の小島の間を縫って、先に進みます。 中央の道は砂利敷きですが、左右に枝分かれする小道には芝生が生えています。この芝生の緑が背景幕となり、植栽エリアの花々は浮き上がっているように見えます。 まゆ玉のような「ラディック・パビリオン」 両側に広がる植栽を眺めながら歩を進めていくと、敷地の一番奥、斜面の上に建つ、まゆ玉のような建物に到着しました。チリ人の建築家、スミルハン・ラディックによってデザインされたラディック・パビリオンです。マーブル模様の、台座のような大きな石の上に載った、丸みのある白い物体。中に入れるのでしょうか? 奥へ回り込むと、中に通じる階段がありました。 建物に入ってみると、宙に浮いたような、ドーナツ状の空間になっています。ところどころに大きく開いた窓があって、外の景色が切り取られて見えます。 この建物は、2014年に、ロンドンのケンジントン・ガーデンズ公園内にあるサーペンタイン・ギャラリーの、夏季限定パビリオンとして建てられたもので、その翌年にここに移設されました。サーペンタイン・ギャラリーでは、毎夏、建築家を選出して実験的な建築物を作り、それを仮設の休憩所として一般に開放します。そういう経緯のある建物だからか、とても個性的。これ自体がアート作品のようです。 まゆ玉のような建物を印象づけている黒い突起のような部分から外を覗いてみると、アウドルフの庭越しに、羊が草を食む草原が見えました。 グラスファイバーで作られた建物は宇宙船のよう。宙に浮いているような感覚で、一周、ぐるりと歩くことができます。ところどころに椅子が置いてあって、瞑想もできそうですね。 さて、パビリオンを出て、再び庭に戻りましょう。遠くに目をやると、日本とは違って電線や電柱のない、のんびりとした景色が広がっています。丘の上(写真右上)には、ブルートンの町のアイコンでもある、古い石造りの鳩小屋が見えます。 ガーデンの縁に当たる部分は、写真手前のように、モリニアやシモツケソウ、サラシナショウマといった、背の高い植物を使った、より強健な植栽がされています。メドウの全体は、この時期は少し色が少ないものの、アウドルフの意図した通り、大きなパレットのように見えます。 卓越した植物選び さて、今度はどんな植物が植わっているのか、丹念に観察していきましょう。軽やかなグラス類の中に、ゲラニウムやサルビアなどの宿根草がグルーピングされているメドウです。隣り合う植物同士に、くっきりとした色や形、質感の対比があるので、手前にある植物が引き立って見えます。 緑の草葉の中で隠れんぼうしているみたいに、半ば埋もれるように銅葉のアクセントが覗いていたり、カンパニュラがめいっぱい花を咲かせていたり。あそこにいるあの子は、果たして顔なじみか、それとも初顔合わせのお相手か、目を凝らしてしまいます。また、この植物の隣にどうしてこの植物を合わせているのだろうかと、植栽の意図を探るため、頭を働かせました。 全体の植栽は、紫、ピンク、さび色、金色が、流れるような色彩となるよう計画されているそうですが、訪れたこの時期は、若く明るい緑と紫の花穂のカラーリングが、特に印象に残りました。 また、改めて、きれいだなぁと目にとまったのは、グラス類です。霧雨を受けてわずかに枝垂れ、雨粒がキラリと光るグラスの穂と、アリウムやエキナセア、エリンジウムなどのコラボレーションがおしゃれ。この一角だけならば、ベランダでも再現できるかしら? と刺激を受けました。 アウドルフは、美しいシードヘッド(頭状花)を持つ植物を効果的に使うことで定評があります。「植物の枯れた姿も好き」と言う彼は、立ち枯れた姿が素敵な植物をいくつも配して、四季を通じて興味深い庭をつくり上げました。 この庭を訪れたのは2019年の6月中旬でしたが、その時期には、ロンドン市内にあるキュー・ボタニックガーデンではアリウム・ギガンチウムが咲き終わっていました。しかし、ここの植物は、これからもっと成長していくようです。それぞれの株のボリュームが出て、花もどんどん咲く季節に向かっていました。 アウドルフはデザインする際、最初から頭の中に完成形の絵を浮かべていると言います。そして、それから、どの植物がそのヴィジョンを満たすものなのかを検討し、レイヤーごとにスケッチに起こしていくのだそうです。園芸家、そして、ナーセリーのオーナーとして長い間過ごしてきたアウドルフは、植物やその習性について深い知識を持っています。横に広がりすぎたり、こぼれ種で増えすぎたりして、全体図の均衡を壊しかねない植物は使わないように注意しているそう。選ぶのは、直立して大きくなりすぎない品種です。アウドルフが類まれなアーティストであると同時に、卓越した職人でもあることの分かるエピソードですね。 ガーデナー上野砂由紀さんが解説 同行した北海道のガーデナー、上野砂由紀さんが、この庭を解説してくれました。 「夏にもちろん素敵なこの庭は、秋になると、さらに美しさを増すよう緻密に計算された植栽だということが、実際の庭を見ると分かります。例えば、秋になるとグラスの穂が霞のように広がり、その間にエキナセアなどの、あえて残されたシードヘッドがポツポツと浮いて、点描画のように美しく見えます」 「敷地の両サイドには、迫力ある大型のフィリペンデュラやベロニカストラムが多く植えられていました。さらに秋に盛りとなるようにタリクトラムやユーパトリウム、キミキフガ、アスター類が植栽されていて、秋の特別な美しさが想像できました。それから、秋に大きくなりすぎて倒れてしまわないように、草丈を3分の1くらいに刈り込む作業もされていました。また、彼は自立しない植物はセレクトしないという考え方も、ガーデンから見て取れました。乾燥に強い植物もうまく使われていたと思います。一見シンプルな庭ですが、そこには彼の深い考えに裏打ちされたデザインがあると感じました。秋は、きっと全く違う世界になることでしょう」 モダンな柱廊と中庭 CLOISTERと書かれたガラス戸の向こうに広がる回廊。 ギャラリーの建物は、洋書や雑貨が並ぶショップや、現代アートが展示されている小部屋がいくつもつながって、回廊のようになっています。 その回廊に囲まれた中庭も素敵な植栽で、くつろげる場所でした。鮮やかな緑のオータムン・ムア・グラスなど、グラス類を多用しています。ところどころに暗い葉色や花色の多年草があって、アクセントに。古い家屋を使ったレストランの屋根の色ともマッチしています。 中庭は、空間を共有する彫像の価値を損ねないように、植物の草丈を低くして、植栽をシンプルにまとめているとのこと。空間全体を考えて設計されていることが分かります。 キッチンガーデンにも注目 併設するレストラン「ロス・バー&グリル」では、ダースレイド農場の食材をはじめ、地元の新鮮な食材を使った料理が楽しめます。サラダやスープのワンプレートランチや、ハンバーガーのセットなどがあって、ランチにおすすめ。 レストランの建物沿いには、おしゃれなキッチンガーデンがあって、レストランやバーで使う野菜やハーブ、エディブルフラワーが育てられています。キッチンガーデンは、レストランやギャラリーの建物とこの土地を繋ぎ、馴染ませる役割も果たしています。腰高のレイズドベッドになっている植栽升の中には、カモミール、コーンフラワー、ボリジ、エキナセアといった花々が咲き、キャベツやスイートピーなども育っています。 この区画はNo-dig gardening(ノー・ディグ・ガーデニング)の手法で栽培されています。ノー・ディグとは、つまり、耕さないということ。有機栽培の流れを受けて、近年英国で注目されつつある栽培方法です。この植栽升では、土の上に、よく腐熟した肥やしとマッシュルーム・コンポストがそれぞれ厚い層となって重ねられています。人が耕すことはしませんが、虫や微生物の力のおかげで、自然が自ら土を耕す力を得るようになり、空気の通り道ができます。その結果、作物の収穫量がぐんと増えるのだそうです。ここに育つ野菜や花の健やかな姿を目にすると、ノー・ディグ栽培法に興味が湧いてきますね。 時代の先端を行く現代アートと、自然回帰のようなガーデニング法。一見、相反しているようですが、このガーデニング法やアウドルフのメドウデザインには、環境保護やサステナビリティという、最先端のテーマへの取り組みが含まれています。ハウザー&ワース・サマセットは、今後の発展が楽しみなコンテンポラリー・ガーデンでした。
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岡山県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪13 岡山「むらかみ農園」
本格派ガーデナーにはたまらない、 市場に出ない宿根草が揃う店 岡山駅より20分ほど車で南下して、田畑と住宅地が混在する静かなエリアに位置する「むらかみ農園」。数棟のビニールハウスと西洋ニンジンボクが茂るサンプルガーデンが目印です。ショップの主な販売用ハウスには、年間約1,000種にも及ぶ宿根草・一年草の苗が並んでいます。 「むらかみ農園」で扱う苗は、本格的な花壇づくりにおすすめの宿根草がメイン。一般的なものから市場では出回らない珍しい植物までが、ハウス中を埋め尽くしています。これらの苗は、オーナーである村上公一さんと奥様のちづ子さん、そして娘の由里子さんが手塩にかけて育てたもの。この地域に合ったオリジナル配合の土で丁寧に育てられています。 むらかみ農園はオープンして約25年。それまで母校である静岡大学で果樹栽培について教鞭をとっていた公一さんが、以前から趣味ではまっていた花栽培を突き詰めるために帰郷し、花卉農家とそれを販売する店舗をスタートさせたのです。 その当時は園芸ブームが起こる少し前で、まだ世の中に花の種類はそれほど多くなく、海外から取り寄せた種子を播いて苗づくりをスタート。果樹の中でも屈指の難度が高いメロン栽培の経験を生かしつつ、ガーデニングには向いていないこの周辺の土、真砂土を使った土づくりにも力を入れ、岡山の気候に合うかを1種類ずつ確認していきました。 オープンしてまもなく、園芸ブームが到来し、変わった種類・品種なら何でもよく売れました。その後園芸ブームが去り、猛暑が続くようになってから、見慣れない植物を警戒する傾向が強まり、花壇を彩る宿根草が市場に出回らなくなりました。しかしそんな中でも、村上さんは、この土地に合った種類を選抜しながら親株を更新し、宿根草を作り続けています。 栽培には土の力が重要 土壌改良にこだわる このあたりの土は、真砂土という花崗岩が風化してできたもので、粗いとゴツゴツ硬く石のよう、細かい場合はギュッとしまってカチカチに固まるといった特徴があります。静岡の関東ローム層の土とは全く違う、花卉栽培には不向きな故郷の土の硬さに、帰郷当時はびっくりしたといいます。 大きすぎず細かすぎない真砂土に堆肥などの有機質類を加え、用土をブレンド。試行錯誤を15年ほど重ねて研究し続けた結果、3年目ぐらいに行ったブレンドが一番よかったと村上さん。今では、そのブレンド用土を、店頭で販売しています。 大学時代に東京で建築デザインを学んだという娘の由里子さんは、3年前にUターン。今では父の後を継ぎ、主力となって動いています。デザインの世界で磨いたセンスのよさが買われて、現在、百貨店のイベントの展示なども手掛けています。自然な花合わせに定評があり、先日は百貨店の催事である『ベニシアさんの手づくり暮らし展』の展示のコーディネートを担当しました。 たくさんの苗が並ぶ中、大きなコンテナを使ったナチュラルな植栽ディスプレイも見応えがあります。 ハウスの前に広がる サンプルガーデンも見もの 白や紫、ピンクの小花をメインとしたナチュラルな植栽は、さりげないデザインが魅力。楚々とした草花が可憐に風に揺れているさまに、癒やされます。 サポナリアやオキシペタラムのやさしい色合いを銅葉のリシマキア‘ファイヤークラッカー’で引き締めた、甘さを抑えた植栽。 店頭に敷いた枕木の間には、薄いピンク花のイワダレソウと黄色い花のメカルドニアを混植。踏まれても元気に育つ、優秀グラウンドカバー。 アーチの傍らで素朴な彩りを添えているアピクラツム。寒さに強く丈夫で育てやすく、グラウンドカバーのように広がってくれます。 むらかみ農園に並ぶ ナチュラルな花たち 店頭に並んでいた、または庭に咲いていた愛らしい花々をご紹介します(6月中旬取材時)。 ◆草丈60cm以上の宿根草(花壇の中~後方におすすめ) 左から/レウカンセマム(草丈60~70cm 花期6~10月) オキシペタラム‘ホワイトスター’(草丈50~80cm 花期4~11月) ペンステモン‘ハスカーレッド’(草丈70~90cm 花期5~6月) 左から/スカビオサ・オクロレウカ(草丈0.6~1m 花期6~10月) セントーレア・ルセニカ(草丈1~1.2m 花期6~7月) コーカサスマツムシソウ‘ファーマ’(草丈50~80cm 花期5~8月) 左から/ディディスカス‘ブルーレースフラワー’(草丈60~70cm 花期4~11月) サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’(草丈50~80cm 花期5~7月) ボックセージ(草丈0.6~1m 花期5~11月) 左から/バーベナ・ハスタータ‘ブルースパイヤー’(草丈0.8~1m 花期6~10月) モナルダ・キトリオドラ(草丈60~80cm 花期6~9月) モナルダ・ディテマ(草丈0.6~1m 花期6~9月) 左から/ペンステモン‘ジングルベル’(草丈0.8~1.3m 花期5~7月) ジギタリス・ラエヴィガータ(草丈60~80cm 花期5~6月) スカビオサ‘ブラックナイト’(草丈40~80cm 花期4~11月) ◆草丈30~60cmの宿根草(花壇の中段でふんわり間をつなぐのにおすすめ) 左から/カンパニュラ‘ウェディングベル’(草丈40~50cm 花期5〜7月) ケントランサス・アルバ(草丈35~40cm 花期5~10月) ユウギリソウ(草丈50~60cm 花期5~8月) 左から/セラトセカ・トリロバ‘ホワイト’(草丈50~60cm 花期5~11月) 八重咲きサポナリア(草丈30~40cm 花期5~10月) マーシャリア/ヤグルマサワギク(草丈40~50cm 花期5~7月) 左から/アークトチス‘ブルーアイ アフリカンデージー’(草丈30~40cm 花期5~8月) アガパンサス‘ツイスター’(草丈50~60cm 花期6~8月) カラミンサ‘ブルークラウド’(草丈40~50cm 花期5~10月) 左から/サルビア‘ムーンライトオーバー’(草丈40~50cm 花期4~11月) ストケシア‘ブルースター’(草丈30~40cm 花期6~10月) イトシャジン/カンパニュラ・ロツンディフォリア(草丈30~40cm 花期4~6月・9~11月) 左から/ネペタ‘ブルードリーム’(草丈50~60cm 花期6~8月) 宿根リモニウム・アトランティス(草丈40~50cm 花期5~7月) スカビオサ‘ピンクレース’(草丈40~50cm 花期4~7月) 左から/ジギタリス・デュービア(草丈40~50cm 花期5~6月) ペンステモン‘サンバーストアメジスト’(草丈40~50cm 花期6~9月) カンパニュラ‘ピンクオクトパス’(草丈30~50cm 花期5~7月) 左から/クナウティア‘マース・ミジェット’(草丈30~40cm 花期6~10月) コレオプシス‘ローズビューティー’(草丈30~50cm 花期5~10月) アキレア・ミレフォリウム‘カシス’(草丈50~60cm 花期6~10月) 左から/ゲウム‘ブレイジング・サンセット’(草丈50~60cm 花期5~7月) ガイラルディア‘アリゾナ・アプリコット’(草丈30~40cm 花期5~10月) ガイラルディア‘アリゾナ・サン’(草丈30~40cm 花期5~10月) ◆草丈30cm以下の宿根草(花壇前方などにおすすめ) 左から/ヤシオネ‘ホワイトデライト’(草丈20~25cm 花期6~7月) ブラキカム‘ピンクデージー’(草丈20~30cm 花期6~7月) ダイアンサス‘白花さぎり’(草丈20~25cm 四季咲き) 左から/アンゲロニア‘セレニータシリーズ’(草丈20~30cm 花期5~10月) フロックス‘ムーディブルー’(草丈15~20cm 花期3~6月) ダイアンサス‘ピンキーキッズ’(草丈15~20cm 花期3~11月) 左から/カリホー・インボルクラータ‘ワインカップ’(草丈15~20cm 花期7~9月) ゲラニウム・サンギネウム‘マックスフライ’(草丈15~20cm 花期4~10月) ダイアンサス‘スポッティー’(草丈20~25cm 花期四季咲き) 左から/宿根リナリア‘ネオンライト スカーレット’(草丈20~25cm 花期3~11月) アピクラツム‘イエローボタン’(草丈15~25cm 花期3~11月) チョコレートデージー/ベルランディエラ(草丈20~30cm 花期5~7月) 〔カラーリーフ〕 左から/ロータス・クレティクス(草丈30~40cm 花期4~5月) ラムズイヤー‘オーレア’(草丈30~45cm 花期5~6月) ウエストリンギア・バリエガータ(草丈約30cm 花期4~5月) 左から/グリーンサントリナ(草丈約30cm 花期6~7月) フイリコルセウムアイビー/シンバラリア(草丈5~10cm 花期5~6月) ラミウム・マクラツム(草丈15~20cm 花期4~5月) 〔美しい花を咲かせるつる性宿根草〕 左から/アサリナ‘ミスティックローズ’(つる長2~3m 花期5~11月) クリトリア/チョウマメ(つる長1~2m 花期6~10月) ツンベルギア‘スージーミックス’(つる長2~3m 花期5~11月) 〔さまざまな表情の一年草〕 左から/八重キンギョソウ‘ツイニーシリーズ’(草丈40~50cm 花期2~11月) ブラックレースフラワー/ノラニンジン(草丈60~80cm 花期5~7月) ケイトウ‘キャンドル’(草丈40~80cm 花期6~8月) 「むらかみ農園」イチオシプランツをご紹介! オリジナル交配のパンジー・ビオラ むらかみ農園で花粉を交配させて作ったビオラやパンジーは、ふたつと同じものはありません。10~3月の間に販売しています。 「美しい網目を出すことが重要なメロンは、日にち刻みでの細かいコントロールを必要とする『苗づくり段階』が最も肝心──」。メロン栽培の難しい知識・経験を原点として生かし、花卉栽培の世界に転身した村上さん。かたや、建築デザインをガーデンデザインに生かし、コーディネーターとしても活躍の由里子さん。そんな親子のコラボレーションが見せるサンプルガーデンは現在も拡大中です。今ではなかなか手に入らないナチュラルな洋種の宿根草が並ぶ「むらかみ農園」。ぜひ、訪れてみてください。アクセス/岡山駅から車で約20分。 【GARDEN DATA】 〒702-8026 岡山県岡山市南区浦安本町107-2 TEL: 086-263-7733 http://murakamifarm.jp/ 営業時間:9:00〜日没 休日:木曜日(4~6月・10~12月無休) Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。 写真協力/むらかみ農園
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秋から初冬の庭を彩る野菊【小さな庭と花暮らし】
郷愁を誘うノコンギクの小径 黄金色に輝く田んぼの畦道や、野辺に群れ咲く野菊….。そんな故郷の秋の情景を身近に感じたくて庭に植えたノコンギク(野紺菊)。濃紫色の花びらと黄色の花心のコントラストが鮮やかな、花径2cmほどの小さな野菊です。 当初は、鉄平石の踏み石の両脇に所々植えていたのですが、あっという間に地下茎でふえて、思い描いていた「ノコンギクの小径」になりました。 その繁殖力は想像以上で、生育も旺盛。芽吹きからそのままにしておくと、草丈は80cmにもなります。残念ながら、小径の距離はたったの7、8歩。幅も狭く覆い被さってしまうので、梅雨時に一度切り戻ししています。そうすると、脇芽が出て膝下のちょうどよい草丈に。花数も増えて、満開時には数え切れないほどの濃紫色の花が鮮やかに小径を彩ります。 踏み石を歩くと、足元でこんもりと群れ咲く野紺菊。まん丸顔の可憐な花の何と愛らしいことでしょう。ほのかな野菊の香りに思わず立ち止まって顔を近づけては小径を行ったり来たり…。 故郷の懐かしい秋の情景と重なる「ノコンギクの小径」は、わたしの一番好きな景色です。 秋の木漏れ日に映える「清澄シラヤマギク」 サクランボのような実と葉が、ほんのり色付き始めた西洋カマツカ(別名:アロニア)。その木漏れ日を浴びて咲いているのが「清澄シラヤマギク」です。この花は、千葉県の清澄山周辺で発見されたノコンギクとシロ菊系の雑種だとか。 初めて園芸店で目にした時、一瞬で心を奪われました。その特徴は、スッと伸びた細い褐色の茎。こんな茎色の菊は見たことがありません。しかも、見た目よりずっとしっかりしていて、ほどよいしなやかさも。 品のよい藤色の花との調和も素晴らしく、凛とした風情が漂います。地植えでは草丈70〜80cmほどになりますが、自立してくれるので、あえて切り戻しはせず自然樹形で育てています。 秋風にたゆたうしなやかな茎、金平糖をちりばめたような小さな花が満開になる頃は、なんとなく甘い香りが漂ってきそうです。 季節の終わりを告げるアワコガネギク 清澄シラヤマギクが満開を迎える頃、ちらほら咲き始めるアワコガネギク。なんとも可愛らしいこの名前は、黄金色の小さな花が寄り集まって泡立つように咲くことから名付けられたとか。花径1cmほどの極小花は、野菊の種類では珍しく花心と花びらが同色です。 そのせいか、黄金色の発色がとても鮮やかで目を奪われます。陽光を追って曲がったり枝垂れたり。野趣溢れる楚々とした姿も大好きです。 そんなアワコガネギクが一番映えるのが秋晴れの日。チラチラと降り注ぐ木漏れ日を浴びて、泡玉のような花が黄金色に輝きます。ワクワクするほど美しい光景です。 秋のなごりを惜しむ野菊の花あしらい 花もちのよい野菊は、切り花にも最適です。 曲がった茎や虫食い葉など、庭咲きだからこそ味わえる表情豊かな野菊をいろいろな器に活けて楽しみます。 野生種の野菊に合わせる器は、花瓶に限らずコップやピッチャー、片口、カゴなど、身近にある日用品を用います。 例えば、飴色のピッチャーや陶器のリキュールグラスなど、特徴ある色や形の器に短く活けると、野菊の可憐さが際立ちます。こんなさり気ない花あしらいは、一日の大半を過ごすキッチンやダイニングに。また、お茶の時間に添えると季節感も味わえて、より豊かで和やかなひとときになります。 片口の銅製の燗鍋も気に入りの器。古物なのでちょっと歪んでいますが、その使い込まれた佇まいが庭咲きの野菊の風情によく似合います。口径がゆったりしているので、ふんわりナチュラルに活けられて、鍋の持ち手がいい塩梅に花の支えに。 燗鍋に清澄シラヤマギクを一種。そんなシンプルな花あしらいが一番好きです。持ち運びしやすいので、ガーデンテーブルに置いたり玄関に設えたり。その日の気分で場所を変えて楽しみます。 また、竹やアケビなど天然素材のカゴも、野菊の楚々とした美しさを引き立てます。キク科のガイラルディア‘グレープセンセーション’、赤く色付いた西洋カマツカの実。庭の秋花も添えると華やかです。 秋の彩りをカゴいっぱいに詰め込んだ野菊の花カゴは、庭からの今年最後の贈り物。愛おしい一輪一輪に「ありがとう」の気持ちが溢れます。



















