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庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。使い勝手のよいサイズ展開とガーデンに馴染むデザインで、日本でも人気が高い植木鉢メーカー「ウィッチフォード・ポタリー(Whichford Pottery)」。そのすべての鉢が手作りされている工房を訪ねようと、のどかな景色の広がるイギリス、コッツウォルズ地方のウィッチフォード村に向かいました。

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美しい景色の中にある工房

ウィッチフォード・ポタリー

ロンドンから北西へ車で約2時間、コッツウォルズ地方北部のウィッチフォード村に、工房はあります。周りには牛が草を食む草原が広がって、のんびりした雰囲気。赤茶色の鉢がすべて手作りされているというこの場所で、どんな出会いがあるのかワクワクしながら、敷地の中へと入ります。ここには、工房の他に、コートヤード・ガーデンとショップ、そして、近年新設されたカフェが併設されています。

ウィッチフォード・ポタリー

きれいに刈り込まれた芝生の間の小道を行くと、早速、ウィッチフォード・ポタリーの鉢に植えられた、一対のトピアリーが出迎えてくれます。

工房は、1976年、創設者のジム・キーリングさんと妻のドミニクさんによって、オックスフォード州のミドルバートンという場所で開かれました。その後、1982年にこの場所に移されました。最初はキーリング夫妻と見習い2人だけだったそうですが、現在は、熟練した陶工をはじめとする、35名ほどのスタッフが働いています。いまやジムさんの子どもたちも加わって、家族で営んでいるアットホームな工房です。

ウィッチフォード・ポタリーのコンテナガーデン

小道を先に進むと、サークル状のエリアに、大小の鉢が積み重なった、オブジェのようなコンテナガーデンが出現しました。ツゲやゼラニウムが緑を添える、ウィッチフォードの鉢づくしの贅沢な演出に、思わず見惚れます。

ウィッチフォード・ポタリー

鉢づくしのオブジェをぐるりと一周眺めてから、緑の茂みにぽっかり空いた空洞を抜けて、奥へと進みます。背が高い人なら、ちょっとかがまないと通れないくらい、緑の生い茂ったアーチ。この様子から、ウィッチフォード・ポタリーが40年近くの長い年月、この地に変わらずあり続けていることが伝わってきます。

ウィッチフォード・ポタリーのコートヤード・ガーデン

緑のアーチを抜けると、小道が四方八方につながる場所に出ました。庭の中に迷い込んでしまった気分。鉢だけがずらりと並ぶ、ガーデンセンターの一角のような場所かと思ったら、コンテナガーデンのお手本になるコーナーがいくつも設けられています。ここがコートヤード・ガーデンのようです。

ウィッチフォード・ポタリー

奥に見える三角屋根の建物がショップのようですが、まずは植栽と鉢がつくる、コンテナガーデンのコーナーをチェックすることに。地面には、形が大小さまざまな敷石とレンガのペイビングが施され、ランダムな模様が浮かんでいます。

面白さ再発見のコンテナガーデン

ウィッチフォード・ポタリーのコンテナガーデン

大きな鉢の上に大きな鉢皿を載せて、砂利を敷き詰めた中に小さな鉢を並べて、さらにまた上へ鉢を載せて……。まるでウエディングケーキのようなディスプレイのアイデアに、ナルホド! と感心。

このコートヤード・ガーデンを管理しているのは、ヘッドガーデナーのポール・ウィリアムズさん。運よくポールさんに会えれば、植栽について話を聞くこともできるそう。

ウィッチフォード・ポタリー

写真の左と右は、三角の屋根がついたアーチ状の構造物の表と裏に当たりますが、それぞれの演出の違いにびっくり! 写真右は、アリウムの鉢植え、ギボウシの鉢植え、スイートピーの鉢植えと、鉢植えばかりを集めたエリアなのに、とても瑞々しくて季節感たっぷり。コンテナガーデンでも、そんな庭づくりが可能だということを知りました。

ウィッチフォード・ポタリー

象の背中からシダがダイナミックに伸び出ていたり、地面に低く咲くイメージのあるゲラニウムが高く茂っていたり。鉢植えならではの面白さがあります。レンガの目地から自然に生えてきたようなアルケミラモリスも、ナチュラルな雰囲気を生み出しています。

ウィッチフォード・ポタリーのコンテナガーデン

鉢に植えられている植物の種類はさまざまで、個々それぞれに特徴があります。でも、鉢植えという共通点が統一感を生んでいて、コンテナガーデンも面白いものだなぁと再認識しました。

多種多様な鉢が並ぶストックヤード

ウィッチフォード・ポタリーのストックヤード

コートヤード・ガーデンから奥へ向かうと、つるバラに彩られた建物の前に、新品の鉢がずらりと並んでいました。鉢を展示販売しているストックヤードです。こんなにたくさんのバリエーションを見る機会はこれまでなかったので、思わずテンションが上がります。

ウィッチフォード・ポタリーの鉢
ストックヤードに並ぶ鉢の数々。奥はオクタゴン・ギャラリー。

大きさや形がさまざまな鉢が並びます。鉢のデザインは500種もあるとか! 手前の緑が茂っている鉢は、イチゴ栽培用のストロベリーポット。イチゴの苗が植えられるよう、鉢の側面に穴があります。その左手にあるフタの付いた壺は、日本ではあまり馴染みがないですが、ルバーブ栽培用のテラコッタ。イングリッシュガーデンでは時々目にします。

ウィッチフォードの植木鉢

ウィッチフォードの鉢は、バラやプリムラ、デルフィニウムなど、ガーデンの花々をモチーフにしたレリーフ模様も特徴的です。これはあの花ね! と眺めるだけで楽しい時間。テラコッタ製のニワトリやフクロウなどの置物も、庭に馴染みやすそうです。

ウィッチフォードの植木鉢

釉薬がかかったオシャレカラーの鉢もずらり。素焼きの鉢とはまた違った魅力があります。

ウィッチフォード・ポタリー

8角形の屋根を持つ建物、オクタゴン・ギャラリーの中では、ウィッチフォード・ポタリー製以外の、英国製の陶器が販売されています。釉薬で彩られたマグカップや大皿などの食器類、または作家ものなど、いろいろなタイプの陶器が並び、さらには、剪定ばさみや誘引紐といったガーデングッズや、ポストカードなどもありました。大きな割れ物はお土産にはハードルが高いので、目に焼きつけるだけで我慢。

工房見学のミニツアー

ウィッチフォードの鉢作りの過程をたどるミニツアーに参加して、工房を見学することもできました。ここで30年以上働いているというバーバラさんが案内してくださいました。

ウィッチフォード・ポタリー
積み上がった粘土用の土。

工房を開いたオーナーのジムさんは、育った家の近くに粘土層があったことから幼い頃より粘土で遊び、また、ガーデナーの母の影響で、草花にも親しんだそうです。ケンブリッジ大学で考古学を学んでいた際に、発掘作業で破片を見つけたことから陶芸に興味を持ち、考古学よりも夜間の陶芸講座に夢中になって、陶芸家を志すことにしたのだそうです。そして、花鉢を専門に作っていたレクレッシャム・ポタリ―に弟子入りします。ジムさんがそこで学んだ英国伝統の技法が、ウィッチフォード・ポタリーの鉢づくりの基礎となっています。

ウィッチフォード・ポタリーのフィルタープレス機
フィルタープレス機。布の間に粘土が挟まって、プレスされています。

鉢は、90%以上がロクロで作られ、その他は、型などから作られています。鉢づくりは、まず、粘土の用意から始まります。近隣から採取され、車で運び込まれた3種類の土がブレンドされています。

採掘された土はまず、建物内の特殊な機械があるエリアに運び込まれます。土は水と混ぜられ、石などの不要なものが取り除かれて、なめらかな粘土へと加工されます。液状の粘土がパイプを通って、何層ものフィルターを通す過程を経て、なめらかになります。

ウィッチフォード・ポタリーの粘土

練られた粘土はつややかです。覆いをかけて乾燥を防ぎながら4カ月間寝かせます。この段階になるまでがとても大事な作業で、時間もとてもかかるそうです。

鉢本体のための粘土と、装飾部分の粘土は、ブレンドの比率などの仕様が異なるそうです。ウィッチフォードの粘土は、成形に理想的な弾力性があり、焼き上がると、味わいあるテラコッタ色になります。

ウィッチフォード・ポタリーの窯

粘土の加工場の隣は、窯のエリアでした。ガスと電気、薪で焼くこともできるいくつかの窯があり、最高温度は1,040℃。36時間かけて焼くそうです。

ウィッチフォード・ポタリーのアトリエ

2階に上がると、鉢をそれぞれのデザインに仕上げるいくつものアトリエがありました。

鉢づくりは、ロクロで成形する係と、装飾を手掛ける係に分かれています。現在、リーダーとして工房のスタッフを率いるのは、ジムさんの息子のアダムさんです。アダムさんは幼い頃から陶芸の手ほどきを受けた陶工であり、数年前から経営陣に加わっています。ここには、数十年間働いているベテランの陶工もいれば、働きだして数年の見習いもいます。ロクロできちんと鉢を成形できるようになるには、15年かかるそうです。

ウィッチフォード・ポタリー
バスケット模様の装飾が施された鉢。

工房では、1週間で6tの粘土を600個強の鉢に加工するそうで、想像以上の量に驚いてしまいます。鉢づくりに並んで、日本とアメリカからのたくさんの注文に対する、日々の発送作業も大変なものです。

ウィッチフォード・ポタリーの植木鉢

ウィッチフォードの鉢は多孔性に優れていて、植物の成長を促します。また、霜害を防ぐとして、イギリス国内ですべての鉢に10年間の保証が付いています。

ウィッチフォード・ポタリーでは特別に大きな鉢を焼くこともあります。大きな鉢の場合は、一度に成形するのが難しいので、いくつかのパーツに分けて成形し、組み合わせます。アダムさんが作った過去最大の鉢は、焼く前の高さが2mあったそうです。

ウィッチフォード・ポタリーの工房

このアトリエでは、スペシャルオーダーの鉢を作成中。スペシャルオーダーでは、結婚や退職のお祝いに、特別の装飾や文字を入れてもらうことができます。また、英国の庭園のベンチで見られるプレートのように、庭を愛した故人を偲ぶ文言を刻んだ鉢を作ってもらうこともできるそうです。

ウィッチフォード・ポタリーの工房

奥の棚には、800種の装飾モチーフの型が並びます。この中に、外の鉢で見たバラやプリムラがあるのですね。モチーフの型は、すべてジムさんがデザインし、手彫りしたものが原型となっています。ロクロで成形して1日乾燥させた鉢に、型に入れた装飾用の粘土を押しつけて、接着させます。

ウィッチフォード・ポタリーの工房

たくさんのモチーフでデコレーションされた鉢もありました。成形、装飾の作業が終わった鉢は、十分な乾燥がされたのちに窯で1回焼かれて、完成します。

2018年からは、日本の六古窯の一つである備前焼の産地、岡山県備前市で備前焼と花・庭・自然が融合する新しい試みが数々行われています。「ウィッチフォード・ポタリー」代表、ジム・キーリングさんが秋に来日し、直接レクチャーを受けられるワークショップも開催されています。

備前焼の魅力を伝える新プロジェクト「Bizen×Whichford」コラボイベント報告

地元でも愛される新エリアのカフェ

ウィッチフォード・ポタリーのカフェ

工房やガーデン、ショップから徒歩1分のところには、2014年にオープンしたカフェ「ストロー・キッチン」があります。

ウィッチフォード・ポタリーのカフェ

カフェの前には、ゴッホの描いた『糸杉のある麦畑』をモチーフにした、黄金のモニュメント「ゴールデン・サイプレス(金のイトスギ)」がありました。周りに咲くポピーが可愛らしい雰囲気。このモニュメントは、数年前に日本で行われたガーデンショー展示のために作られた作品の一つで、陶製のモニュメントには23.5金の金箔が施されています。ジムさんはこのように、粘土で複雑な形のものを作ることに果敢に挑戦しています。

ウィッチフォード・ポタリーのカフェ

テラス席もあって、リラックスできる雰囲気です。ちょうどランチタイムだったので、多くの地元の方で賑わっていました。

ウィッチフォード・ポタリーのカフェ

店内のデザインはカジュアル。店のおすすめメニューは、地元農場のベーコンとカフェの手作りパンを使った、ベーコン・サルニ(サンドイッチ)。その他、手作りパンのトーストに卵料理を合わせた一品や、トーストにチョリソーとフェタチーズを合わせた一品など、シンプルだけれど、美味しそうなメニューが並びます。

ウィッチフォード・ポタリーのカフェ

ランチにいただいたのは、ミントとタラゴンの入ったオムレツやアスパラガスを包んだ生春巻き。多国籍でモダンな一品です。ビオラの花飾りに嬉しくなります。

ウィッチフォード・ポタリー

美しい景色の中で、ウィッチフォードの鉢は一つひとつ、手間ひまかけて、大切に手作りされていました。だからこそ、大量生産品にはない存在感を持つのだなと納得。長く大事に使っていきたい鉢と、魅力を再発見しました。

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