これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第24回は、北海道にある宿根草のナーセリー「大森ガーデン」。2019年秋に撮影された今井カメラマンによる写真とともに、大森夫妻の庭物語とガーデンデザインについて、大森敬子さんご本人に語っていただきます。

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厳しい気候にも負けない宿根草探しから始まった

北海道「大森ガーデン」
‘ラビアンローズ’という名の小さなエリアで、秋バラも終わり、アスターたちに主役を譲る季節。手前はアガスタチ‘ブルーフォーチュン’。通常のアガスタチの花より少し濃いめで花期が長く、アスターが咲く前はバラやコレオプシスなどの夏の草花との組み合わせに役立つ。

私は、夫の大森康雄と結婚後、初めてこの北海道十勝にやってきました。夫も私も東京育ち。夫はカナダでの留学生活で北海道よりも寒さの厳しいアルバータ州での経験がありましたが、私はどのくらい冬が厳しいかも知らずに「まあ何とかなるでしょう」くらいの気持ちでした。

農業者となって生活するうちに、厳しい状況の中で夫の実兄が東京と千葉でやっていたグラウンドカバー植物の栽培を1985年に始めたところ、北海道以外の地域からの注文がほとんどでしたが、よく売れました。

そのころの北海道は、植えられている植物といえば、個人のお庭も公共の場でも似通った一年草か数種類のグラウンドカバープランツで、それ以外の毎年咲く宿根草に至っては、おばあちゃんたちが昔から庭で育てている何種類かの草花くらいでした。

北海道「大森ガーデン」
手前から、こんもりとした葉のグラス、デシャンプシャ‘ピクシーファウンテン’。赤ワイン色の花は、アスター‘ロイヤルルビー’。茎が左右に倒れたり立ち上がったりしている緑の棒状のシードヘッドは、リアトリス ピクノスタキア。そして、後方で白い花穂の群生を見せるのは、カラマグロスティス ブラキトライカ。

せっかくつくったグラウンドカバープランツが北海道で使われないのは残念、との思いから、「北海道の気候でも毎年美しい花を咲かせ、葉を茂らせるものを根付かせたい」と思うようになりました。

幸いにも、夫が留学していたカナダのアルバータ州は、冬は氷点下40℃以下にもなる土地。その土地にも春から秋まで花咲く美しいガーデンがある。「北海道でもできないわけはないという確信」みたいなものがありました。そこで“この寒さ厳しい土地で魅力を発揮できる宿根草探し”が始まったわけです。

寒冷地向きの宿根草栽培の厳しい道のり

北海道「大森ガーデン」
ガゼボを中心に、季節によって変わる重なり合う色合いが秋色に。隣り合うエリアには、同じ品種、または似たような色合いの品種をリピートさせるように配置したことで、つながりのある景色に。

しかし、これが大変なことで、今から30年以上前はアドバイスをくれる人はなく、園芸店で売られているものは一年草か山野草、高山植物として売られているものがごくわずかで、どんな性質か尋ねても、北海道で、しかも戸外でどうなるかは、「よく分かりませんが、まず植えてみてください」と言われておしまい。本州から取り寄せて試験植栽しても、ほとんどが失敗、失敗、失敗の連続。当時は寒冷地向き宿根草についての日本語の資料はなく、海外の文献から情報を得て試験するしかありませんでした。

北海道「大森ガーデン」
中央のこんもりとした株はノコギリソウ(ヤロウ)の仲間、アキレア‘コロネーションゴールド’。ギザギザと粗いヒダのある葉はシルバーグレーグリーン。花後のカット後には、こんもりと茂ってカラーリーフの役目となる。そばに植えたルドベキア‘ゴールドスターム’がシードヘッドを持ち、美しい葉色のアキレア‘コロネーションゴールド’とのうまいコンビネーションとなって秋も美しさを保つ。

私たちは海外のガーデンショーに赴いてたくさんの植物を見るだけではなく、夫の康雄は、すでに有名だったエイドリアン・ブルーム氏(ブルームス・オブ・ブレッシガムナーセリー)をはじめ、アラン・アーミテージ氏(アメリカジョージア大学園芸教授)、故ブルース・マクドナルド氏(当時カナダ、ブリティッシュコロンビア大学植物園園長)、故ジェームス・C・ラウルストン氏(当時アメリカ、ノースカロライナ大学植物園園長)など、世界的にも優れたナーセリーマン、プランツマンやデザイナーたちの講義を受けて実践につなげていきました。

海外からの苗の輸入もよくしたけれど、苦労して手配しても検疫でことごとくはねられて、植物は燻蒸にかけられてダメになったり、廃棄処分にされて手に入れることができなくなったこともしばしば。悔しい思いは数知れず経験しました。これらの困難を経て、ようやく本格的に宿根草の生産に入ることができたのです。あの頃はどんなに失敗しても“宿根草を根付かせたい”という思いは募るばかりで、前へ前への日々でした。

念願の直営店をオープン

北海道「大森ガーデン」
中央、濃い青紫の花はアスター‘パープルドーム’。そばで溢れるように咲き誇る水色の花は、アスター’リトルカーロウ’。ブルーの重なり合いとセダム‘ネオン’のチャーミングなピンクの花と黄緑の葉色が明るいアクセントになり、遠くに見えるグラスやアスターとの色の組み合わせにも配慮。

1997年には、ナーセリー内に小さな直営店をオープンしました。北海道内の各地から車で何時間もかけて、また大型バスでツアーを企画して来てくださる方々もいらっしゃいました。しかし、宿根草の魅力を伝えるには、このテストガーデンを見ていただくだけでは難しい。宿根草の本来の姿だけではなく、植物同士の組み合わせを見せることによって、さらにその魅力を伝えていきたい。そうだ! やはり本格的なガーデンをつくらなくては! という思いに至ったのです。

いよいよ本格的なガーデンづくりへ

北海道「大森ガーデン」

現在の大森ガーデンがある十勝・日高山脈のふもとに土地を求め、2006年秋からガーデン予定地のクリーニングに入りました。まず表土を何年もはがされ続けたこの土地を土壌改良することから。堆肥投入、耕して雑草を除去。このクリーニング期間が約2年弱。そののち芝生の種子を播きました。種子の鎮圧も終わってホッとしたところに想定外の大雨。なんと、ほとんどの芝生の種子が流されてしまったのです。もう一度播種、一からやり直しでした。

そしてでき上がった広い広い約2ヘクタールの芝生。

ガーデン施設・ガーデンショップの建設と同時進行で土を運び入れたり、芝生を切り取ったりして、テーマを決めながら植栽エリアを広げ、ガーデンが広がっていきました。そうして2008年、現在地に、ガーデンに併設された新しいガーデンショップがオープン。2019年で11年目を迎えたところです。

「大森ガーデン」が心がけるガーデンデザイン

北海道「大森ガーデン」
ルドベキア‘ゴールドスターム’の黒い球状のシードヘッドが宙に浮いて見えるのが可愛い。その時期に咲く他の宿根草やグラスなどの花や葉とのコンビネーションも秋の楽しみの一つ。

私がデザインするにあたって心がけていることは、その場所の気候や自然条件に合った植物を使うこと。その植物の魅力を最大限に発揮させること。脇役にしかならない植物と思っていても、組み合わせによっては双方が輝くことだってあります。

苗の姿だけでその後の魅力を判断してほしくない。そのためには、植物をちゃんと評価してもらえるようなデザインが必要です。デザインは、まず植物を知ることが大切です。それができれば、あとは想像力全開で、頭の中でシミュレーションが始まり、季節の移り変わりによって変化する組み合わせもシミュレーションする。そして、図面に落とす。

デザインが閃かないときは苦しいものです。でも想像した通りに魅力を発揮してくれて、図面上のデザインが間違いなかったと思えた時の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。この喜び・満足感があるからこそ、続けていけるのでしょうね。

大森夫妻が考えるガーデンとは?

北海道「大森ガーデン」
泉が湧き出るような葉の流れ(ファウンテン形)のカラマグロスティス ブラキトライカは、花穂までの高さは150cmほどで、9月に入ると徐々に狐のしっぽのような形になってゆく。9月後半の魅力は最高潮に達して、見事な存在感! 大好きなグラスの一つ。

ガーデンとは、体験するもの。ぜひ外から、それも一方向からのみ見るのではなく、どうぞその中に身を置いてみてください。移り行く色合いや植物が醸し出す造形の重なりの変化や、そよ風、香り、草花や穂のゆらぎ、朝夕の光、小鳥の声、ミツバチや蝶が飛び交う姿……自分もそんな自然の一部になったような一体感を味わっていただきたい、そして時にはエネルギーを、癒しを、幸せ感を、持って帰っていただきたいと日々思いながらガーデンをデザインし、育てています。

世界的なプランツマン、デザイナーとの仕事

北海道「大森ガーデン」
左手の細い白っぽい葉のグラスはアンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’。シルバーグレーグリーンの葉は、寒い時期には赤ワイン色を帯びるのが魅力。早朝は太陽の光の加減によって白く輝き、息をのむほど美しい。手前の黒い球はエキナセアのシードヘッド。

大森ガーデンは「観光ガーデン」を持ちながら、現在1,200~1,300もの品種の宿根草を生産し取り扱っているナーセリーでもあります。

北海道十勝にある「十勝千年の森」のオーナメンタルガーデンは、100%大森ガーデンの宿根草植栽から始まりました。ここは、2012年にプロのガーデンデザイナーらが加入する国際的な団体SGD(ガーデンデザイナーズ協会)の選考で優れた庭園として、大賞を受賞したガーデンですが、その造成前から、ガーデン植栽設計者であるイギリスのダン・ピアソン氏からのさまざまな要求に応え、宿根草のほとんどを揃えて提供したのが大森康雄でした。

また、庭の世界大会である「ガーデニングワールドカップ2016年(ガーデニングワールドカップ協議会主催、会場:ハウステンボス)」においては、アジア初のピ-ト・ウードルフ氏植栽設計の庭園をつくるため、100%大森ガーデンの宿根草を提供することになりました。この際には、オランダのピートさんとインターネット電話のSkypeで苗の生育状況を確認しながらの仕事でした。

ダン・ピアソン氏もピート・ウードルフ氏も素晴らしいプランツマン(植物をよく知る栽培家、植物の専門家)でもあり、植栽デザイナー。このような方々との仕事を通して、私たちは、さらにプランツマンとして、デザイナーとして研鑽を積んできました。

未来の大森ガーデン

北海道「大森ガーデン」
デシャンプシャ‘ゴールドタウ’を群植し、ゴールドのグラスの穂が霧のようになって圧倒的パフォーマンスを見せてくれることを期待してデザインしたエリア。

来年は12年目を迎えるこの大森ガーデン。今年から少しずつリニューアルをし始めています。ナーセリーとして発表し続けている新しい植物を植栽に使ったり、組み合わせを変えたり、さらに楽しんでいただける見せ場をつくる……。

また、今後も“持続可能なガーデン(サステイナブルなガーデン)づくり”と“ローメンテナンスなガーデン作業の確立”を進めていきます。

北海道「大森ガーデン」

プランツマン(植物をよく知る植物の専門家)の大森康雄と植栽デザイナー(植物を知ってデザインする人)の大森敬子のコンビですが、これからもガーデンの充実を心がけて、さらに多くの方に訪れていただきたい。

ガーデンを訪れた方が幸せでした! と伝えてくださったとき、スタッフとガーデンでのこの幸せ感を共有するとき、それが私たちが何よりも幸せを感じる瞬間です。ガーデンの中でたくさんの人に囲まれて日々幸せな時を過ごしたい。どうぞ、ガーデンで私たちを見かけたときには、お声をかけてください。喜んでいただけるのが何よりの楽しみです。

次回は、今井カメラマンが撮影した写真とともに、大森敬子さんによる各コーナーの植栽デザインについて、解説していただきます。
植栽術の記事『カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」の植栽術』はこちら

Credit

北海道「大森ガーデン」大森敬子 北海道「大森ガーデン」大森康雄

本文/大森ガーデン 大森敬子
植物解説/大森ガーデン 大森康雄 大森敬子

http://omorigarden.com

写真/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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