カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道「大森ガーデン」の植栽術
これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第25回は、前回に続き北海道にある宿根草のナーセリー「大森ガーデン」。2019年秋に撮影された今井カメラマンによる写真とともに、秋の庭の植栽ポイントと植物について、大森敬子さんご本人に語っていただきます。
グラスが存在感を発揮するシーズン
前回は、「大森ガーデン」の庭づくり物語をご紹介しましたが、ここからは、2019年10月に今井カメラマンが撮影した写真に写る、各コーナーを詳しくご紹介します。ガーデンづくりにお役に立てればと思います。
まず、ご紹介するのは逆光に浮かび上がるグラスが美しいコーナーです。直立型のグラス類、パニカム‘ノースウィンドウ’は、台風でも倒れない性質をうまく利用して、スクリーンの役目を果たすように植栽しました。このスクリーンとしての植栽は、こちらからは向こう側が見えないのと同様、向こうからもこちら側が見えないというように、植物の造形をうまく使って、構造物に頼らずにガーデンの見え方を変える方法として有効です。すらりと立ち上がるパニカム‘ノースウィンドウ’の株元が寂しくならないように、白からピンク、そして秋には赤へと色変わりするつぼみを持つセダム‘オータムジョイ’を植栽。‘ノースウィンドウ’は、その草姿の美しさとともに、ブルーグレーグリーンから次第にゴールドに近くなっていく葉色の変化も楽しむことができます。
芝生の小道を挟み、右側は、数品種のグラス類と宿根草をモザイク状に植栽したエリアです。この時期最高のパフォーマンスとなるのが、カラマグロスティス ブラキトライカ。株元で濃い赤ワインがかったローズ色の花、アスター‘ロイヤルルビー’が白い穂と美しく共鳴します。その傍で長い茎をくねくねとさせているのは、リアトリス ピクノスタキア。花後も造形的なその草姿は、ガーデンパフォーマンスに優れているので、冬までカットせずに楽しみます。左手前はバプティシア オストラリス‘アルバ’(センダイハギの白花種)。ブルーグレーがかった葉とまっすぐに立ち上がった草姿で、秋の倒れこむような姿になっても魅力は損なわれません。左手の遠くに見える白く細い花は、ペッシカリア アンプレクシコウリス‘アルバ’。
画面左手一番奥のグラスは、ミスカンサス‘ゼブリナス’。約150〜200cmと丈高く生い茂るので、広い景観の中でその存在感をアピールできます。その手前は、グラス類のカラマグロスティス ブラキトライカ。花穂は9月後半からどんどん太く密になり、最終的には写真のように白っぽくなって、一際その美しさを放ちます。その手前はグラス、デシャンプシャ セスピトーサ‘ノーザンライツ’で、寒い時期になると、緑とクリームの斑入りの葉がローズ色を帯びて美しい品種です。このデシャンプシャ セスピトーサの特徴は、葉はあまり立ち上がらず地面近くで茂って、茎だけが伸びて花穂をつけるところ。グラス同士の組み合わせも、グラスと宿根草、または宿根草同士の組み合わせと同じく、草姿、花穂の形や垂れ具合、そしてその散らばり方、色など、さまざまな特徴が季節を追って変化するという造形の全貌を頭に入れて行っています。
見事に直立しているグレーグリーンの葉は、グラス、パニカム‘ノースウィンドウ’です。過去の歴代台風の雨風にも耐えて倒れません。穂は、パニカムの特徴であるビーズのような小さな粒々の集まりですが、他のパニカムほどは広がりません。その背景に見えるのは、グラス、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’の花穂です。パニカム‘ノースウィンドウ’の背景として、霧のようにフワ~ッと広がり、その隙間を埋めるように直立する‘ノースウィンドウ’の草姿を和らげる役割を果たしています。これらのグラスの手前には、高性種のセダム‘フロスティーモーン’、セダム‘オータムジョイ’をメインに、季節ごとに変わる景色を楽しめるようにと開花時期が異なる宿根草を数品種植えています。この時期は、ちょうどアスター‘リトルカーロウ’のブルー系の鮮やかな花色が、落ち着いた中にも華やかさを添えてくれています。
明るい葉色のグラス、ミスカンサス‘コスモポリタン’(ススキの仲間)は、人の背丈ほどの高さになります。広がりは100㎝ほど。葉は白と緑の縦縞ですが、斑入り葉が主張することはなく、全体的に白っぽく見えるため、周囲が明るくなります。また、穂が大きく広がったり倒れこむこともないので、大型ではありますが、ある程度の庭の広さがあればおすすめのグラスです。この一株でも十分フォーカルポイントとして成り立ちます。
直立型のグラス、カラマグロスティス‘オーバーダム’。夏は緑に細い白の縦縞が入る葉ですが、斑入りであることにはあまり気付かず、むしろそのために緑葉のカラマグロスティス‘カールフォースター’よりも白っぽく見えて優しい印象です。その草姿の特徴から、私はスクリーン仕立てに植栽することが多いです。カラマグロスティス‘オーバーダム’の花穂がつくり出す「透かし効果」によって、その向こう側に植えられているものが、より柔らかい印象になるのです。夏の紫がかった花穂は成長するにしたがって色がどんどん変わり、秋は白っぽいベージュに。風に揺れるその様に癒されます。
こちらは、グラスをスクリーン仕立てにした植栽例です。ここでは、カラマグロスティス‘オーバーダム’を使いました。白っぽいベージュの花穂が横一列に並んでいるのがそれです。左にちらりと高い位置に見えるルビー色の花はアスター‘セプテンバールビー’。カラマグロスティス‘オーバーダム’の花穂が、ルビー色の花を優しく包むような「透かし効果」を発揮しています。手前のアスチルベは、あえて花後の穂を切らずに造形として残しています。茶色になってもそれを一つの色として、また造形の一つとして役割を十分果たしてくれるので、花後のカットはしません。もちろん、こぼれ種で増えて困ることのない品種ですから。
細い白っぽい葉のグラスは、アンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’です。シルバーグレーグリーンの葉は、寒い時期には赤ワイン色を帯びます。手前のエキナセアのシードヘッドが、白く輝くアンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’の葉色をバックに浮き上がって見えますが、日中または夕方の光を浴びて‘プレーリーブルーズ’が赤ワインがかった色合いに見えるときも、その互いの美しさは変わりません。長い茎がくねくねとしているのはリアトリス ピクノスタキア。手前の赤ワイン色がかった濃いローズの花はアスター‘ロイヤルルビー’。アンドロポゴン‘プレーリーブルーズ’の葉が赤ワインがかる頃に、同じように赤ワイン色がかった花を咲かせるので、その色の繋がりを意識して植栽しています。このように、それぞれの品種が季節によって変化していく過程においても、できる限り双方の色や形の組み合わせが魅力的に見えるようにデザインしています。
右手前から、アスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’は、明るい水色に近いブルーの花を咲かせて、低くマット状になっています。ルドベキア‘ゴールドスターム’は黒い球状のシードヘッドをつけ、赤ワインのようなローズ色の花をアスター‘ロイヤルルビー’が咲かせ、背が高いグラス類のミスカンサス‘ゼブリナス’が茂みとなっています。
左手前からは、茶色の立ち上がるシードヘッドをつけたアスチルベ‘ビジョンズインレッド’、シルバーグリーンのこんもりとした株は、アキレア‘コロネーションゴールド’、その後ろはフロックス パニキュラータ(緑の草丈ある塊)。そして細い直立するベージュの花穂、カラマグロスティス‘オーバーダム’。さらには、ブルーのアスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’、その後ろには、ホスタ。
高さのあるグラスを左右前後に植栽し、その間を抜けて奥は何があるのかと好奇心を抱かせる小道にしています。アーチなどの構造物を設けないで、植物の造形だけで奥行きを感じさせたり、人の興味を引き期待感を高める植栽法です。
手前には、グラス、デシャンプシャ‘ノースウィンドウ’(白っぽい花穂を立ち上げている)、その左手のグラスは、パニカム‘ヘビーメタル’(ビーズ状の粒々が散るような花穂がとても美しい)。フロックス パニキュラータ‘デービットラベンダー’(うすピンクの花)が、手前に植えた「エアリー感」のあるグラスの花穂によって、その向こうで軽やかに跳んでいるように見えます。
ラウンドするように群植したグラス、デシャンプシャ‘ゴールドタウ’のゴールドの花穂が霧のようになって、圧倒的な効果を発揮してくれることを期待してデザインしたエリアです。まさに、十分に応えてくれて、秋が進むとよりいっそうゴールドの海となりました。所々に直立するグラス、パニカム‘ノースウィンドウ’を植えて変化をつけ、その向こう側や手前株元には、差し色として季節を追ってリレーして咲くように宿根草を品種を変えて所々に植栽しています。今、手前の株元に咲いているのは、濃い赤ワインがかったローズ色の花、アスター‘ロイヤルルビー’。向こう側に咲いているのは、アスター‘リトルカーロウ’やフロックス パニキュラータ‘デービットラベンダー’、そして‘ブルーパラダイス’。透かし効果で、グラスの花穂の向こう側に草花がちらちらと見える様子が心地よさを感じさせてくれます。
秋は青〜紫〜ルビー色のアスターが彩りに
グラス類のカラマグロスティス ブラキトライカのダイナミックな秋の花穂とアスター‘リトルカーロウ’の明るい紫の花が優雅に咲き誇る秋。
カラマグロスティス ブラキトライカの花穂が垂れ下がるまで、その株元が寂しくならないように、ペッシカリア アンプレクシコウリス‘ブラックフィールド’を植えています。ペッシカリア‘ブラックフィールド’は、ペッシカリア アンプレクシコウリスの中でも草丈が低く、このような場所でちょうどよいバランスが保てます。アスター‘リトルカーロウ’の花々が開花する前には、その株元に植えたルビー色の花が咲くアスター‘ハーブストグラスフォンブレッサーホフ’(草丈約40cm)が色を補ってくれます。‘リトルカーロウ’の花後には、濃い青紫の花が咲き、草丈が低いアスター‘パープルドーム’が鮮やかなポイントカラーの役目を果たします。
写真内、左手に見える空に向かって高く花穂が揺れているのは、グラス、モリニア‘トランスペアレント’。中央の白く狐のしっぽのように見える花穂はグラス、カラマグロスティス ブラキトライカ。手前で溢れるように咲いている水色に近い青紫の花は、アスター‘リトルカーロウ’。その株元に咲く、低く直立している濃いめの青紫の花はアスター‘パープルドーム’。細く赤いキャンドルのような花を咲かせているのはペッシカリア‘JSカリエント’です。
名脇役が勢揃いする晩秋の宿根草
派手な花が咲く時期ではないけれど、それぞれの持つ造形を生かした植栽です。高性種のセダム‘フロスティーモーン’とセダム‘オータムジョイ’のカリフラワーのような花がつくり出す景色は、全体としては平面的な植栽ですが、そこにルドベキア‘ゴールドスターム’によるひとつまみのショッキングカラーが差し入れられています。同系色を集めたグラデーションが美しい庭も素敵ですが、差し色になる黄色、赤、などを上手に使うのもおすすめです。
ここから眺める景色は、奥へと広がるいくつかのエリアが見渡せる場所。まるで宿根草の海のようなイメージです。各エリアの重なり合う色合いと造形が、宿根草の主役と脇役の交代とともに季節によって変わっていきます。
季節によってその品種の観賞部位が変わったり、主役から脇役になったりすることをふまえて、重なり合う色合いがいつでも美しく見えるようにと品種を選んで植栽しています。画面手前から順に、花後のネペタ‘シックスヒルズジャイアント’(シルバーグレーグリーン)、アスター‘パープルドーム’(濃い紫)、花後のリアトリス スピカータ(中央、焦げ茶の長いブラシ状のシードヘッド)。さらに、その奥には、アスター‘プロフェサーアントンキッペンバーグ’(水色っぽい青紫)、ペッシカリア‘オレンジフィールド’(細いキャンドルのように見える赤花)、アスター‘ロイヤルルビー’(ワイン色がかった濃いローズ)、花後のリアトリス ピクノスタキア(右手少し後方、薄緑の立ち上がった棒状のシードヘッド)。カラマグロスティス ブラキトライカ(左手、グラス。白っぽい狐のしっぽのような花穂が群生している)。ミスカンサス‘ゼブリナス’(右手後方、緑の背が高いグラス)。
観光ガーデンを持ちながら、1,200~1,300もの品種の宿根草を生産し取り扱っているナーセリーの「大森ガーデン」。2020年はガーデンをつくり始めて12年を迎え、これまでも挑戦してきた “持続可能なガーデン(サステイナブルなガーデン)づくり”と“ローメンテナンスなガーデン作業の確立”を実現する場所へと、成長中です。
Credit
文/大森ガーデン 大森敬子
http://omorigarden.com
写真/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ガーデンローズカレンダー』も好評。
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