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「ローザンベリー多和田」の開園物語と庭づくり 〜お客さまが憧れる庭をかたちに
専業主婦が8年かけて採石場跡を開発 JR琵琶湖線「米原駅」から琵琶湖の北側に広がるのどかな田園風景の中、車で15分。四方を山々に囲まれたイングリッシュガーデン「ローザンベリー多和田」があります。 園内は、バラと宿根草の庭や英国建築の建物、羊の牧場、レストラン、バーベキュー場などがあり、四季を楽しみながら1日中過ごせます。開園から10周年を迎えた現在、メディアでも多く取り上げられる人気のガーデンに成長しました。 しかし、ここまで至るには何度も自然の脅威にさらされ、その都度庭づくりを見直し、風土にあった植栽にし直したり、来園者が楽しめる仕掛けを行ったりと、努力を積み重ねてきました。 「ここは元採石場で、見渡す限り雑草に覆われた場所でした。硬い岩盤だったので、ブルドーザーを使ったり、大型重機で土木工事をしたり、庭づくりというより“開拓”からのスタートだったんです」と、オーナーの大澤惠理子さんは当時を振り返ります。 「昔から子育てが一段落したら何かしたいと考えていました。家族に相談したら『今まで家のことをしてきてくれたから、これからは好きなことをしたらいいよ』と言ってくれました。何をしようと考えたときに、子どものころから父親の庭を手伝い、自然に囲まれた環境にいたので、土や花と触れ合いたいと思ったんです」 そして、専業主婦だった大澤さんが挑んだのは、東京ドーム2.5個分の荒れ果てた採石場跡を開発し、観光庭園を建設するという、もはや「子育て後の余暇」をはるかに超えた大プロジェクトでした。この大事業を成し遂げるまでに、どれほど起伏にみちたストーリーが展開されたかは想像に難くありませんが、「取材でよく苦労話を聞かせてくださいと言われますが、大変なことはたくさんあっても、苦労と思ったことはないです。花と土が相手じゃないですか。だから最高に幸せでしたね」と大澤さんは穏やかに微笑みます。 自分好みの庭から、徐々に憧れの庭へ 周りを囲む山々や広大な調整池、昔からある立派なヒマラヤスギやサクラ。庭づくりの見直しは何度も行ってきましたが、その土地の景色に調和した庭をつくりたいという思いは開発当初から変わっていません。 「日本の田舎にどんなに美しいイングリッシュガーデンをつくっても、城やイギリスの建築物があってのイングリッシュガーデンですから、本場には勝てません。イギリスと同じ庭をつくるのではなく、この土地に昔からあるヒマラヤスギやサクラ、雑木を生かして、日本の田舎の風景に合う山野草や宿根草を入れたガーデンをつくろうと思いました」 開園当時は、子ども会や地域の団体が参加できるような体験型観光農園からスタート。 「私はタンポポやホトケノザ、スミレなど、世間でいう雑草が好きで、オープン1年目はそれにプラスして山野草や宿根草を植えていました。シャクヤクも山シャクヤクのみで、とにかく地味な庭でした」 オープンは9月。山野草や宿根草ではほとんど花が咲いておらず、来園者から「お金を払って来ているのに、花がないとはどういうことなの」という声を受けました。「実からタネまで花の一生を見ることができる庭にしたかったけれど、当時は誰にも受け入れてもらえませんでしたね」と大澤さんは振り返ります。 2年目からは来園者の好みを反映し、とにかく華やかな雰囲気の園芸品種を植えて花を増やします。3年目はバラやクレマチス、西洋オダマキ、アナベルなど華やかな雰囲気の花に加え、素朴でかわいらしい小花が咲く山野草も植栽しました。 バラが好きな来園者も、山野草の庭を見て「こういうお花も素敵ね」と新鮮味を感じているようです。こうしてそれぞれの花の魅力が際立つ庭になり、その後も試行錯誤を重ね、コニファーガーデンやキッチンガーデン、果樹園、山野草と宿根草の庭、シャガの庭など徐々にガーデンの特徴が明確になり、それぞれにファンができる庭に発展しました。 台風による倒木が植栽を変えるきっかけに 庭の方向性も決まり、順調に思われた2018年秋。大型台風で、園内の13本の巨大なヒマラヤスギが根っこからごっそり倒れてしまいます。幸い建物の間に木が倒れて、建物やパーゴラ、ガゼボなどに被害は出ませんでした。 「古くからある大木のヒマラヤスギに魅せられてこの場所を決めたようなものなので、庭づくりの原点でもあった大木が倒れたことに衝撃はかなりありました」 ところが、これが転機となります。今までは大木で日陰だった場所に日が当たり、四季咲きのバラを植えられるようになったのです。イングリッシュガーデンに華やかさが加わり、バラの植栽が広がっていきました。 庭づくりの工夫を潜ませ、ヒントを見つけてもらう 現在ガーデンには、四季折々の花が植えられた、たくさんの巨大な鉢が置かれています。鉢の8割は英国製のウィッチフォードを使い、風景にはイギリス本場のロートアイアンのゲートと、アンティークレンガを使用。これら英国の資材は日本の植物にもよく似合い、しっとり落ち着いた雰囲気を演出してくれています。 「資材も植栽も妥協せずお客さまが憧れる庭をつくらないと、せっかくお金を払って見に来てくれているのですから」と大澤さん。 資材までこだわった庭ですが、実はあえて完璧にはつくっていません。例えばクレマチスを誘引する柵は庭木を剪定した時に出る枝を使うなど、一般家庭の庭にも取り入れやすいアイデアを各所に潜ませているのです。憧れをかき立てる演出の一方で、身近な物も使っているから、真似がしたくなる。それが、来園者が何度も訪れたくなる理由の一つになっています。 感性を磨く環境は、庭づくりに影響する 花はもちろん、おしゃれなベンチやオブジェ、「ひつじのショーン」に登場する牧場主の家を再現した『ひつじのショーンファームガーデン』などの数多くのフォトスポットが用意されていたり、意外な場所に寄せ植えが現れたりなど、広大なガーデンは歩くといくつもの発見があります。 「お客さまに感動し喜んでもらうには、庭のシーンづくりの工夫は必要だと思っています」と大澤さん。花を育てるための専門的な知識があるのと、そうした美しい風景づくりは別のスキル。そのため大澤さんは、美術館などを巡り、庭以外の美しいものや芸術に触れるようにしています。 「私が子どもの頃、半世紀以上前には、この辺りでバラを植える人はいませんでした。ところが、いわゆる『ハイカラ』であった父は、バラを植えたり、芝生の庭に出て家族でごはんを食べたり、抱えるほどの笹ユリを採ってきて玄関や書斎に生けて香りを楽しんだりしていたので、季節を身近に感じる暮らしが日常でした」 こうした古い物と新しい物をバランスよく取り入れる暮らしで感性が磨かれ、庭のデザインに生かされているようです。 スタッフ一丸で考える、ローザンベリーらしい植栽 ガーデン部門のスタッフは主に社員3人、パート10人の合計13人。バラの咲く時期は、ほぼ水やりと草取り、花がら摘みの繰り返しです。1年で一番忙しいのは実は冬で、パンジーやビオラの花がら詰みといった日常的なメンテナンスに加え、菜園や花壇の土壌改良、株分けや植え替え、バラは剪定や誘引、寒肥など12月~2月にかけて済ませなければいけない作業が満載です。 植栽計画やデザインは大澤さんが一人で決定しています。デザインを考えるときは、現場に立って風景や空気を感じながら、図面ではなくイラストを描きます。イラストで色などのイメージをスタッフに相談し、それに合う花苗をスタッフが探してきてくれます。 「庭のイメージは私が決めていますが、ありがたいことにスタッフの皆が『この花は社長喜んでくれるかな』『これは好きやろ』『これは嫌いやから仕入れたらあかん』と考えてくれるようになり、少しずつ私の個性が表れ、それが植栽イメージの基準となってきました」と大澤さん。 植物のセレクトは庭のイメージを大きく左右し、簡単にやり直しもできないため慎重になる場面ですが、スタッフとの信頼関係で、「ローザンベリー多和田」らしさが築き上げられています。「今後は、私がいつか引退したときのために、しっかりと引き継がないといけないと思います」と大澤さんは未来を見据えます。 植物の一生を風情として楽しむのが人気 10年前はガーデンに華やかさが求められていましたが、ここ5年ほどで来園者の興味が変化しているようです。タカサゴユリの咲いた後の花柄だけの姿や、花のない時期にバラの誘引を見に来る人や、ドライフラワーのように茶色くなるノリウツギやアナベルを見て「花が付いているのを最後まで見ることができて素敵」と感じる人など、花の移り変わりを楽しむ人が圧倒的に増えたといいます。 「園芸の雑誌などでは花が終わったら切るように説明していて、書いているとおりに育てると葉っぱだけが残り、タネを見る機会がありませんよね。だから、タネが翁の髭のようになるから『翁草』と呼ばれることや、サルスベリは冬になったら落葉してタネが弾けて、殻がついている姿がきれいだと説明すると喜ばれます」と大澤さんは嬉しそうに話します。 求められるシーンを想定する 2018年の年間来園者数は約8万人。2019年3月に『ひつじのショーン ファームガーデン』をオープンして、約24万人に急増しました 「どうしたらお客さまが喜んでくれるか考えるのは、観光庭園にとって不可欠です。庭が主役の観光庭園だからといって、植物やデザインにこだわるだけでは不十分です。『ひつじのショーン ファームガーデン』を始めたことで客層が広がり、子どもから家族連れ、カップル、若い女性グループなど今まで来なかった人たちが増えました。このエリアは庭や植物に興味がない方にも喜んでいただけるものをとつくった庭で、写真撮影したりベンチに座っておしゃべりをして楽しそうに過ごす様子を見ると本当に嬉しいですね」 さまざまな客層にフィットするよう庭のあり方や楽しみ方のバリエーションを柔軟に広げてきた成果が、来園者数に反映されています。 2020年はコロナ禍で4月~GWに閉園したにもかかわらず、来園者数が約20万人を超えました。「閉園中はパンジーやビオラが一番きれいな時期でした。再開した時にさびれた雰囲気にならないように、良い状態をキープしようとガーデンスタッフは全員出勤して、花がら摘みや植え替えなど、毎日花の世話をしていました」とコロナ禍を振り返ります。こうした人目に触れない地道な努力の積み重ねが、愛される所以ではないでしょうか。 お客さまが喜ぶ美しい庭を目指す ローザンベリー多和田といえば、シックな緑やグレーを基調にデザインされた大人の庭のイメージがあります。しかし10年目の今年は、イギリスのガーデンショーの雰囲気を意識してショッキングピンクの看板にしたり、水色のミニクーパーに花を植えたり、ポップな色使いで来園者を楽しませています。 「花を植えた場所だけではなく、丘に自生するヤマツバキも美しく姿が見えるように手入れします。自然に溶け込んで成長してくものを植えたいですね。段取り良くすみずみまで気配りできる施設にしたいです。お客さまに、『こんなところまで花が植えられている』という発見をして、喜んでもらえる美しい庭にするのが目標です」と力をこめる大澤さん。 風土に合わせ、上質なエンターテイメントにこだわりつくられたイングリッシュガーデン。来園者の憧れの庭がどう進化していくのか、今後の展開が楽しみです。 ●花の庭巡りならここ! 自然の恵みを五感で楽しめる、充実の観光ガーデン「English Garden ローザンベリー多和田」の記事もご覧ください。 協力 ローザンベリー多和田(オーナー 大澤惠理子さん) URL https://www.rb-tawada.com Credit 執筆/株式会社グリーン情報 「グリーン情報」は、花・緑・庭に関わるトレンドを取り入れた業界の最新情報をお届けする、業界唯一の専門雑誌です。 https://green-information.jp/products/list 季節の花や人気のグリーンはもちろん、植物と人、植物と社会の繋がりを深掘りした記事で、昭和55年創刊以来の長きにわたり、多くの方にご購読いただいています。最新のWEBサイトでは、無料会員登録により過去の記事を閲覧できたり、グリーンマップに登録することで情報発信の拠点を構築できたりと、IT時代における業界の情報プラットフォームとして、その役割を担っています。 https://green-information.jp
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神奈川県

素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪23 神奈川「サカタのタネ ガーデンセンター横浜」
2021年、開店70年を迎える 老舗の園芸店 日本を代表する種苗メーカー「サカタのタネ」のアンテナショップとして、1951年にこの地にオープンした「サカタのタネ ガーデンセンター横浜」。今年開店70年を迎えますが、その時々の園芸スタイルに合わせて、改修・リニューアルを重ね、多様化する人々の暮らしに寄り添いながら、多くのガーデナーに支持されるショップに成長し、現在に至ります。 「サカタのタネ」は1913年の創業以来、多岐にわたる種子の研究・開発に取り組んできました。また園芸店の先駆けとして、美しい花とおいしい野菜でうるおいのある暮らしを届け、実りある世界づくりに貢献することを第一に考えています。その理念を一般の園芸を楽しむ人々にダイレクトに伝える役割を担っているのが、「サカタのタネ ガーデンセンター横浜」。本格的なガーデニングブームに対応するためにも、園芸教室や催し物を開催し(新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当面の間休止しています。再開は店頭・ホームページをご確認ください)、夢のある店づくりを目指しています。 広い敷地に並ぶ無数の植物に テンションアップ! ターミナル駅・横浜の隣駅から徒歩圏に位置し、幹線道路に面しているので利便性は抜群。120台駐車できるパーキングを完備し、郊外にあるような広々とした解放感が魅力です。 2,000㎡近くもある店舗には、花や野菜、ハーブ、花木、果樹、バラ、盆栽、資材のコーナーが設けられ、植物の数は年間約1,200種類にものぼります。外の売り場にも屋根があるので、雨の日でも安心。陽気のよい時季は爽やかな風が吹き抜け、とても心地よい空間となっています。 時期により見本鉢が飾ってあるので、花色や植える鉢のサイズを確認できます。大きく育った実物を見ることで、栽培条件に合っているかを事前に確認できるだけでなく、理想的な目標として育てることができます。売り場にはベテランの園芸アドバイザー(主にサカタのタネOB)が常駐しているので、栽培方法など分からないことは気軽に尋ねてみるといいでしょう。 山野草コーナーも充実。洋から和まで、あらゆるスタイルの庭づくりに対応しています。 カラーリーフやオージープランツなど、季節に応じてさまざまな花木や樹木が並ぶ樹木売り場。定番の樹木と併せて販売しています。 最近は、ハーブやブルーベリーをはじめとする果樹など、食べられるものが大人気。ナチュラルライフにおすすめの種類・品種が多数並んでいます。 緑が瑞々しい盆栽コーナーの小鉢に入ったコンパクトなカエデ(右)や、白い小花をつけた白紫壇(左)。ほとんどがビギナーさんでも気軽に始められるお手頃価格。なかには、マニアもうなるような、風格のある糸魚川真柏などの本格的な盆栽も。春・初夏・秋には盆栽フェアを開催。育て方などを盆栽栽培専門家に相談できます。フェア開催予定等はHPをチェックして。 育てやすくおいしいと評判の 「サカタのタネ」自慢の野菜 色・形がよく、さらには病気に強く、高い生産性を併せ持つオリジナル品種を次々に生み出している「サカタのタネ」。種苗会社だけに、野菜コーナーも充実しています。自社開発品種の多くは、指定生産者が育てているので品質は抜群。 苗のラベルはもちろん、丁寧に説明が書かれたポップ類は、品種選びの際にとても便利。野菜栽培はビギナーさんには難しいと思われがちですが、育てやすく改良されているので、ぜひトライを。園芸アドバイザーは野菜にも詳しいので、ぜひ話を聞きながら、おすすめ品種を教えてもらいましょう。 おすすめの野菜の見本鉢の展示は、成長後をイメージしやすく、眺めているだけで楽しい。このときは、丈夫でおいしい長卵形のミニトマト‘アイコ’(左)と、トウモロコシの中でも強風にも倒れにくく、暑さに強くて育てやすい品種 ‘ゴールドラッシュ’(右)、ナス、インゲンなどが展示。自宅でこんなに実ったら嬉しいですね。 ミニトマト‘アイコ’(左)に続き、姉妹品種がたくさん登場しています。オレンジ色の実をつける‘オレンジアイコ’(中)、愛らしいえくぼができる‘プリンセスアイコ’(右)、そのほか、甘みが強くフルーツ感覚で食べられるチョコレート色の‘チョコアイコ’など、他店では入手しにくい品種がたくさん。 葉野菜のミニチンゲンサイ‘シャオパオ’も、展示用レイズドベッドで栽培。ふっくらした株が規則正しく並んでいる様子に、気持ちがなごみます。 気候に左右されず、いつも快適 ゆったりとした屋内売り場 明るい光が差し込む建物内は、ギフトなどの花鉢や園芸資材の売り場。ゆったりと什器が配置されているので、長時間買い物をしていても疲れません。ここに並ぶ植物も、外の売り場同様、信用のおける生産者から仕入れた、確かな品質のものばかり。 母の日が近い時期に訪れたため、近年おしゃれな品種が増え続けている人気のアジサイがずらりと陳列されていました。「母の日の直前は、もっとたくさんのアジサイが並びます。どれも素敵なので、選ぶのに困ってしまいますよ」と、スタッフの小林秀美さん。 在宅時間が多くなり、需要がどんどん伸びている観葉植物。コンパクトな卓上タイプだけでなく、丈のある大きな尺鉢なども並んでいます。 種苗会社ならでは!圧巻の 種子&播種グッズコーナー 色とりどりの種子袋が壮観なコーナー。主に、自社開発の種子が並んでいます。その数は一番取り扱いの多い時期で、花・野菜を合わせてなんと約500種類! まるで図書館の一角のような光景です。春まきは1月頃、秋まきは7月頃が一番多いそう。 播種アイテムも充実。特にビギナーにおすすめなのが、そのまま植えられる土ポット ‘ジフィー’(左上、左下)と、種子とプランター、培養土が一緒になったセット(右下)。そのほか、さまざまなアイテムが揃っています。 豊富な品揃えのガーデンツール類。ハサミだけでもたくさんの種類があるので、迷ったらアドバイザーに相談を。そのほかガーデニング用エプロンやグローブなど、ガーデニングに必須の実用的なものがすべて揃います。 大人気。食卓に彩りを添える 野菜やスイーツ販売もときどき開催! 地元産新鮮野菜やスイーツ販売などのイベントも、不定期で催されます。詳しくはHPのチェックを!この日は「春日井 よし乃」の旬の和菓子が並んでいました。 おすすめの「サカタのタネ」オリジナル品種 春~秋まで楽しめる「サカタのタネ」オリジナルの品種をご紹介します。どれも育てやすいものばかりです。この夏、ぜひ庭に取り入れてみましょう。 「サカタのタネ ガーデンセンター横浜」スタッフ小林さんのイチオシはコレ! 一株でこんもり育つ‘サンパチェンス’ 真夏の強い日差しに耐え、春から秋までと長期にわたりトロピカルな美しい花を咲かせる‘サンパチェンス’。大きな株に育つのが最大の魅力です。草丈は、鉢植えの場合約60cm、地植え(花壇植え)では約1m近くの大株になることも。生育速度も従来のインパチェンスより格段に早く、栽培は簡単です。 ホームセンターとは大きく異なり、園芸をするにあたり、あらゆるものが揃う本格派のガーデニングショップ「サカタのタネ ガーデンセンター横浜」。ワークショップや専門的な講習会などが定期的に開催されるなど(コロナ禍中は休み)、ガーデニングについて学べる格好の場です。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、京浜急行・神奈川駅より徒歩約5分、東急東横線・反町駅より徒歩約7分、JR・東神奈川駅より徒歩約10分。 【GARDEN DATA】 サカタのタネ ガーデンセンター横浜 神奈川県横浜市神奈川区桐畑2 TEL:045-321-3744 営業時間:10:00~18:00 定休日:3~5月はなし。6~2月は水曜日。 https://www.sakataseed.co.jp/gardencenter/index.html Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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千葉県

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。「京成バラ園」の早春花見散策
冬から春に撮影モードも切り替えの時 今年は例年より少し早い3月中旬、各地でサクラの開花の声が聞こえ出しました。この知らせが届くと、僕の仕事もようやく冬モードから春モードに切り替わります。冬の間は生産者さんを訪ねて、ハウスの中でビオラやクリスマスローズの花の写真を撮らせてもらうことが多いのですが、当然ハウスという限られたスペースで、さまざまな制約もある中での撮影になります。それはそれで嫌いではないのですが、季節が変わって早春の庭に出て屋外の撮影になると、新緑の優しい緑に包まれた庭にいるだけで気持ちがいいものです。 撮影を始めると、足元には草花や小球根が咲いていたり、上を見上げれば花木が無数の花を咲かせていたりします。それらの花たちを自由に自分のスタイルで撮影ができるこの季節が来ると、毎日のように翌日の天気予報を確認し、どこに行って何を撮るか、予定を立てるのですが、想像するだけで嬉しくてワクワクしながら過ごしています。 通い慣れたバラ園の早春の風景とは 例年、春の庭の撮影は、まず2月後半、群馬県太田市の「アンディ&ウィリアムスボタニックガーデン」のスノードロップから始めていました。しかし、皆さんもご存じのように、残念ながらガーデンは昨年11月に閉園してしまいました。そのため、今年の撮影は叶わなかったのですが、Facebookを見ていると友人が投稿していた春の草花や花木が綺麗に咲いている京成バラ園の写真に目がとまりました。このバラ園は、5月のバラの時期は毎週のように通っていることもあり、奥にある池のエリアにいろいろな花木があるのも知っていたし、それらの木々が花をつけている景色も想像できたので、今年は早春の京成バラ園をカメラに収めてみることにしました 記憶を辿って早春の花たちに会いに行く 3月19日午後2時。その日は快晴でとても暖かく、園内には数人のお客さんもいて、芝生のエリアでは子ども連れの家族が遊んだりしていました。そんなのどかな雰囲気の中、カメラを担いでバラ園の入り口から向かって右奥にある‘フランソワ・ジュランビル’の大きなアーチをくぐり、池のほうに歩いていくと、右手に満開のヒュウガミズキ、後ろにはマンサクも咲いています。さらに園路を進むと、右側の原種のバラのエリアでは、バラの周りにクリスマスローズが植栽されていたり、左側のアジサイのエリアには、小球根やさまざまな草花がプラスされたりしていました。 狙い以上のシチュエーションをカメラに収める その日は黄花のスイセンがちょうど見頃を迎えていて、池の周りのサクラもいい咲き具合。どちらを向いても早春の草花がとても綺麗でした。そのまま歩を進めた先にある斜面のさらに奥が、今日のお目当てだったクリスマスローズの群落のエリアです。もう随分前に植えられた株なので、どれも皆、大株に育っていて、なかなかの迫力です。背景には濃いピンクのモクレンも満開。その足元には黄色いスイセンまで咲いて、まさに狙い以上のシチュエーションでした。 撮影に適した光になるまで花風景を探す 到着した時間はまだ少し日射しが強かったので、別カットが撮れそうな場所を探しながら、もう少し池の周りを歩くことにしました。クリスマスローズの群落+モクレンの撮影は、光が柔らかくなるまで待つことにして、ひとまず坂を下りました。バラ園のほうに戻ってみると、そこではユキヤナギの大株が花を無数に咲かせ、後ろには柳の新緑、さらにその奥にはサクラが咲いていて、これも100点満点のカットが撮れそうで大満足。 光が柔らかくなるまで、まだ時間がありそうなので、オールドローズのエリアで新芽をチェックしたり、京成バラ園のヘッドガーデナーである村上敏さんが作っている花壇に行ったりしながら、午後3時半頃からクリスマスローズの撮影を開始しました。最高に綺麗な太陽の光の中でカメラを構え、白い花をセンターにして後ろのピンクのモクレンの入れ方を考えながら何枚かシャッターを切ったら、急いでユキヤナギの場所へ。 ここも柔らかい逆光になっていて、ユキヤナギの白×柳の明るい新緑×桜のピンクのコンビネーションがため息が出るほど綺麗でした。ゆっくりファインダーの中でアングルを確認してシャッターを切った後、他の場所の桜や早春の花木の撮影をして5時少し前に撮影を終了。心ゆくまで納得の撮影ができた、幸せな一日でした。
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埼玉県

シェフ信頼の濃厚風味ハーブを生産する「ポタジェガーデン」
ハーブのプロのシェフたちが使う濃厚ハーブ 料理や暮らしの中で、ハーブを使う人が増えてきています。バジルやローズマリー、ミント、オレガノ、タイムなどのキッチンハーブは、スーパーの野菜売り場でも目にするようになり、使ったことがある人も多いのではないでしょうか。ヨーロッパではハーブは料理に欠かせない素材の一つで、特にフランスでは「ブーケガルニ」「フィーヌ・ゼルブ」「エルブ・ド・プロヴァンス」といった複数のハーブを組み合わせた伝統的なブレンドがあり、ハーブの繊細な味や香りが重視されます。 そんなハーブに強いこだわりを持つシェフたちがこぞって魅了されるハーブ専門の農場が、埼玉県久喜市菖蒲町にあります。「ポタジェガーデン」は、創業33年のハーブ専門農場です。年間を通して約150種類のハーブを栽培しており、苗部門と、収穫したハーブを販売するフレッシュ部門があります。この豊富な品種数と強い風味が、「ポタジェガーデン」のハーブの魅力。ミシュランの星を有する超有名シェフなど、ハーブを頻繁に使うプロの料理人たちが「ポタジェガーデン」のハーブを自身のレストランで使っています。 「以前、フランスから来日したシェフが晩餐会に使う料理の一品に、どうしてもソレルが必要ということで、ポタジェガーデンに連絡が入ったことがありました。みんなで慌ててソレルの葉を収穫してお届けしたのですが、うちに聞けば大丈夫という信頼をプロから得られているのは、嬉しいですね」と話すのは、社長で農場長の平田智康さん。ハーブ特有の風味を最大限に優先し、土耕栽培にこだわってきました。 土耕栽培のきめ細かな管理で生まれる風味豊かなハーブ ハーブには水耕栽培という選択肢もあり、棚状に栽培できる水耕栽培では省スペースで高収穫が望めます。しかし「ポタジェガーデン」では、ハーブ本来の風味を出すために土耕栽培にこだわり、長野や千葉へと圃場を広げ、さらに沖縄から青森まで広く生産を農家に委託。温暖地から寒冷地まで気候の異なる栽培地を持つことで、年間を通してあらゆるハーブを安定的に供給しています。ハーブ苗用の土はオリジナルのブレンドを2種類作り、生育過程によって変えたり、ハウスの湿度や水やりなども品種ごとに調整するなど、きめ細かな栽培管理を行っています。 長年のブリーダーとしての目が生きる親株選定 しかし、シェフ絶賛の風味の秘密はこれだけではありません。じつは、平田さんは「ポタジェガーデン」に勤める以前、種苗会社で育種に携わっており、長年のブリーダーとしての経験を生かして親株の選定を行っています。 「ハーブは種を播く方法と挿し木で増やす方法がありますが、親株にどれを選ぶかというところが重要です。植物は生き物ですから、同じ品種でも香り、味、丈夫さなどは一見、同じようで、すべて微妙に異なります。その微妙な個体差を見抜き、優秀な株を選抜して親株に選ぶことは、最初のスタート地点での大事な品質選定なんです」 親株の選定には、長年の経験に加え、味や香りに対する感性が不可欠ですが、平田さんに限らず「ポタジェガーデン」のスタッフは、自らハーブを暮らしの中で楽しみ、味や香りを熟知しているといいます。そして時には、スタッフから「こんなハーブが欲しい!」と新しい栽培品目の提案があることも。 「近年のヒットは、スタッフから提案があったイエルバブエナ・ミント。カクテルのモヒートに入れるミントです。ミントはスペアミントやペパーミントが有名ですが、モヒートの本場キューバでは、ミントといえばイエルバブエナ。ということで栽培したところ、大人気になりました。作家のヘミングウェイがモヒートを好んだことから、ラベルは『老人と海』をイメージした絵にしました」。 ハーブを愛して使い楽しむスタッフたちによる手作りタグ じつは、「ポタジェガーデン」のハーブ苗に挿し込まれているプランツラベルは、すべてスタッフたちの手描き。それぞれに、おすすめの食べ方や使い方、またイエルバブエナのようにそのハーブの背景にあるストーリーなどを色鉛筆で描き、ハーブの持つ豊かな魅力を伝えています。 「みんなそれぞれに好みも違うし、使い方もいろいろだし、背景に文学や伝説などさまざまなものがあるから話が尽きないんですよ。ちなみに、僕はルッコラが大好き。サラダにして食べるんですが、ゴマみたいな味わいがあって、これだけで美味しい。あと、安いイワシを買ってきて、腹の中にタイムを挟んで塩をして焼くだけで絶品! ハーブって使い方が難しいと思われることもあるんですが、逆ですよ。誰でも簡単に料理上手になれるのが魅力。料理が得意じゃないっていう人にこそ使ってみてほしいです」。 ポタジェガーデン人気のハーブ5選! 実際、「ポタジェガーデン」で人気のハーブも料理で頻繁に使うものばかりです。 「ポタジェガーデン」で今、最も人気があるハーブを紹介していただきました。 セルバチコ/ルッコラの原種といわれるハーブでルッコラより味が濃い。 ディル/魚のハーブと呼ばれるくらい魚と好相性。カルパッチョが最高。 パクチー/東南アジアやメキシコ料理によく使われる。独特の風味は好みが分かれる。 バジル/ハーブの王様。よく使われるスイート・バジルのほか多くの品種がある。 スペアミント/メントール成分が少なく風味が柔らか。 ハーブでより豊かな文化を作るのが目標 「ハーブはたくさんの種類があるうえに、ブレンドすると相乗効果で香りのハーモニーみたいなものが生まれるところも魅力。ちょうど香水の調香のように、ブレンド次第で香りが長もちしたり、旨みがグッと引き立ったり。美味しいものが好きだから料理の話ばかりになってしまいましたが、香りでリラックスできたり、リフレッシュできたり、ハーブの世界はとても奥深いんです。それに私たちも新しい品種に出合うことがまだまだあり、皆さんの暮らしに新鮮な空気を送れるユニークなハーブを追求し、新しいより豊かな文化を作っていくのが私たちの目標です」と平田さん。 ハーブと美味しいものへの探究心で、暮らしに新しい扉を開いてくれそうです。 Information 取材協力/ポタジェガーデン 会社HP https://www.potagegarden.co.jp/ 通販サイト https://www.rakuten.ne.jp/gold/potager/ Credit 写真&文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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北海道

北海道の自然を楽しむ車イスのガーデンライフ
森や野原を育てる庭づくり 私の家は、北海道の小さな集落のはずれにポツンと建っています。森にぐるっと囲まれて、葉が落ちた冬にならなければ道路から見つけることはできません。地域で暮らす人々と、ごく親しい人だけが知る静かで小さな森の家です。 自然の中で子育てをしたいと家を建て始めた時、ここは山の一角を石まじりの硬い赤土で雛壇状に整形した広大な伐採跡地でした。 家とその周囲を「小さな里山」に見立て、雑木林の育成と自然と共生する生活空間をつくることを目標にスコップを握ったのが、ガーデニングのきっかけです。 敷地周りの雛壇は自然に見える角度に盛り直しつつ、庭を“戸外の部屋”としてレイアウトしていきました。敷地の最も高い箇所は三角屋根の手作りの小屋(我が家では「ムーミンハウス」と呼んでいます)が建つ遊び空間、裏が畑、そして下の段は平らな面を広く残した広場。各コーナーは、ゆるやかに蛇行した道でつないでいます。 土手や敷地の境は、北海道に自生する野草を中心に植え込み、大切に増やしました。 一番大事にしてきたのは、庭の中とその周辺の森づくりです。 伐採跡地を自生種の雑木林にするために目をつけたのが、種をいっぱい含んだ森の土。 まだ幼かった子どもが、敷地の隣を流れる沢で遊ぶのを見守った帰り、子ども用のバケツに土を入れては土手にまき、芽吹いた苗木を間引きながら大事に育てて15年。今では若い森に育ち、小動物がご近所さんとして庭で暮らしています。 下の写真はエゾリス。長い冬毛が残る耳がウサギみたいで可愛いでしょ? 姿を見るたび、人間は大喜びです。 私はガーデニングは生きたアートだと思っています。基盤は命です。北海道という島が豊かだから、命も繋がります。 森をつくるのは大事(おおごと)です。最初は、素人が一人でできるものではないと思っていました。 けれども赤土の露出した山肌を前に何もせずにはいられず、行動に移すうちに、いつしか現実が夢に追い付き、日常となっている現在です。 どうか北海道の大地が、豊かな姿で未来に残りますように。 野原に加わったバラ栽培 野原をつくる一方で、少しずつバラも増えていきました。当初、私にとってバラはファンタジー。「花はどれも花でしょ」と無関心な夫を前に、数千円もするバラが欲しいなんて言いにくかったのに、ある日雑誌を手にした夫が「こんな風にバラが咲き乱れる庭が見たい」と言い出し、「えっ? 本気?」とポカン。 …でもね、見たい気持ちなら誰にも負けないよ(笑)。 野原にバラを植えてみたら、意外にもよく似合い、それからバラに夢中になりました。いいえ、夢中というより病みつきでしょうか。この‘ストロベリー・ヒル’も、その頃からの住人です。 草花に興味のなかった夫が、バラが咲くと喜んでくれるようになって、バラのおかげで庭の楽しみを共有できるようになりました。最初は、よく草刈りと一緒に花を刈られて、ムムッとなったっけ。 私の抱える病気のこと 写真からうすうすお気づきかも? と思いますが、今の私は、神経に影響が出る難病で身体が不自由です。 思えば、物心ついたときから歩き方も個性的で運動音痴だったのですが、そういう個性だと思っていました。まさか将来こんなことになるなんて。 今の私は、いったん力を入れると抜くのが難しい症状が強いため、歩くことはできるものの一歩進むごとに強ばってゆき、数十メートルほどで前に一歩も進めなくなります。 足だけでなく、腕や体幹にも似た症状があります。身体を曲げ続けられないので、イスで休むことすら苦痛です。排尿も難しく、常時カテーテルを留置。発音もぎこちなく、慢性呼吸不全にもなり始めています。 ほぼベッドで過ごす日々を変えてくれたのが、変化する体調に合わせてイスの角度も変えられる電動車イスでした。 ベッドを起こして横になるような角度を取れるので、庭で休むことも可能です。車イスが苦手とする砂利道などもグイグイ走るパワーがあり、タイヤが真下に付いているので、内輪差なく回れます。庭の小道をクルクル回れる、お気に入りの愛車です。 選び抜いた車イスのおかげで、私はベッドから脱出し、再び広大な土地を縦横無尽に駆け回るガーデナーに戻ることができました。 庭には人を前向きにさせる力がある よく聞かれます…「なぜ、こんな状態で、そうまでして庭に出るの?」 私には素になる場所が必要だから、と答えます。 私の病は、いくつもの症状が複雑に絡み合い、未だ明確な診断には至っていません。 頼りの病院からもかつては冷たくあしらわれ、医療の証明がなくては福祉も受けられず、身内の理解も得られず、孤独のなかで苦しみました。終いには自分自身でも自分を疑う苦しい日々…。 庭は、そんな私に安らぎと希望を与えてくれる場所でした。 無心になって大地に向かうとき、他人の評価は意味を失い、私は何者でもなくなっていきます。気がつくと抜いた雑草の量に驚いたり、強風の後に森から芝にばらまかれた枝を拾う…といった、何ら評価もされぬことに「やったぞーっ!」と達成感を味わうのですから不思議です。 庭には人を不安や悲しみから解放し、前向きにさせる力があると思います。日光を浴びたり、反復運動をしたり…科学的にもストレスに強くなると証明されていることがいっぱい含まれているガーデニング。庭が私にとってより不可欠な場所になったのは、むしろ身体が不自由になった後だったように思います。 私の難解な症状に戸惑っていた身内も、医療や福祉も、次第に一緒に考え支えてくれるようになり、かつての辛い時間は日の光と風の向こうへ流れて消えていきました。 我が家のユニバーサルデザイン …とはいえど、治療法はいまだ見つからず、車イスが不可欠であることに変わりありません。庭も車イスで走れる庭でなければ何も始まらないのですが、庭づくり当初の事情が功を奏し、我が家の庭は、結果的にユニバーサルデザインになっています。 というのは、土地と建物だけで資金を使いきってしまったため、庭づくりの手段は人力あるのみでした。当時元気だった私は、スコップで土を掘っては盛り上げるという土木作業に勤しむ日々。そんな私を見て、まだ小さかった息子とその友だちは盛大な泥んこ遊びと思って大喜び! 彼らとワイワイ一緒に遊びながら庭づくりをした結果、庭の間の小道は、おのずと子どもたちが一輪車を押して行き来できるだけの広さと斜度になりました。 その小道は、結果として杖歩行で足を引きずっていても、電動車イスで走っていても、不自由なく行き来できるようになっています。 「ユニバーサルデザイン」とは難しいものでも特別なものでもなく、世代や身体状況を超えて楽しむためのものだと実感中です。 庭の見回り、庭仕事は無意識なリハビリ 庭にいる私は、いつも自由です。 歩き方は「はさみ足」という麻痺特有の歩行にそっくりだそうです。速度ものんびり、のんびり。 けれども、庭には立ち止まって見たいものがたくさんあります。花が開いた…こっちにもツボミがある…あ、チョウチョが…。私のゆっくり歩くテンポが「ちょうどよい」に変わる瞬間です。 ですが、いくら車イスがあっても、家で横になっている時間のほうが長くなります。少しでも花に親しんでいたくて、大事にドライにしたり、インテリアに取り入れることもしばしばです。 上は、庭の花で作ったハーバリウム。アルケミラ・モリス、カンパニュラ、シロウツボグサ、バラ‘ルイーズ・オディエ’。わが庭の初夏の瓶詰めです。 毎日、こうして庭で過ごすことがリハビリとなっているように思います。動くと筋緊張が増して辛くなるとはいえ、動かなければ筋力はどんどん落ちてしまいます。 庭にいるときの私は、やりたいことがいっぱいあって、思わず知らずに動いてしまいます。もしかすると、それが一番よいのかもしれません。 家族と過ごす時間 「今年は花畑をいっぱいつくるぞ」 折しも夫が、となりで宣言しています。 「なんの花?」と聞く息子に「分かんないけど、ブワッと咲く綺麗な花」と夫。バラを植えようと言ったのも夫だったし、華やかなものが好きなのかも。 …ねえねえ、ダリアなんてどうかなぁ? 「毎年、あれやりたい、これやりたい…って言いながら、ほとんどやらずに終わるんだよね」。そう笑う息子は、アウトドア調理に夢中です。欲しい道具もあるみたい。 ガーデンライフが今年もまた始まりそうです。
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イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】石塀に映えるロマンチックな花景色「ブロートン・カースル」後編
西向きのバトルメントボーダー 前編では、石塀に囲まれたウォールドガーデン、「貴婦人の庭(レイディーズガーデン)」を巡りましたが、後編では石塀の外側にのびる花壇(ボーダー)を見ていきましょう。 こちらは、入り口の守衛所(ゲートハウス)脇にある、銃眼付きの胸壁(バトルメント)に沿ってつくられた花壇、バトルメントボーダーです。 ブルー、シルバー、黄色の植物を使ったシックな植栽。案内をしてくれたガーデナーのクリス・ホプキンスさんによると、オーナーである第21代セイ・アンド・セール男爵は、このような落ち着いた色調の植栽を好まれるそうです。 石塀に沿って南に進んでいくと、赤や赤紫など、深い色を使った植栽に変化します。こちらは男爵夫人好みの植栽。女性らしさが感じられます。 ワインレッドのバラとジギタリスがコラボし、間にはゲラニウムやポピーの葉が茂っています。 こちらがガーデナーのクリスさん。27年間、ほぼ一人でこの庭の管理をしてきたという方です。後ろ姿は北海道、上野ファームのガーデナー上野砂由紀さん。 雨上がりの庭に、花々の香りにつられてお腹を空かせたハチがやってきます。 ガーデナーのクリスさんは、植物や色彩の好みが異なる男爵と夫人のどちらにも満足してもらえるよう、植栽のバランスに配慮していると言います。 西側の石塀に小さな窓があります。その周囲に適度なバランスでクレマチスやつるバラが色を添えて、ナチュラルな雰囲気ですね。 つるバラの伝う小窓から、石塀の中に広がる庭が見えます。 大きなバラの茂みのそばには、銅葉のヒューケラやシックなアメリカテマリシモツケ、シルバーグリーンのリクニスなどが組み合わされて、葉色の変化を見せています。いつまでも眺めていたい美しい景色です。 花壇の反対側にある生け垣の端は、ピンクのバラで彩られています。その向こうに、広大なブロートン・パークの草地が続きます。 ウォールドガーデンの南西の角に立つと、建物と左右の庭が一望できます。ここでは、銅葉のセイヨウニワトコ ‘ブラックレース’がいいアクセントになり、手前にはデルフィニウムが大株に茂っています。 角を回って、南向きの花壇までやってきました。 振り返ると、濠の水面の先に緑の景色が広がって…。 南向きのサウスボーダー 南側の石塀にも貴婦人の庭(レイディーズガーデン)への入り口がありました。 バラに彩られる南側のアーチから、貴婦人の庭の中心にあるハニーサックルや生け垣が覗いています。 サウスボーダーのこの青花はゲラニウム・ヒマラエンセ‘グレイブタイ’。石塀を伝うつるバラは‘ゴールドフィンチ’。ブルーと淡い黄色が爽やかな一角。 ラムズイヤーのシルバーリーフに黄花のエルサレム・セージが引き立ちます。 カスミソウのような花が無数に咲いていて、「なんだかカスミソウのお化けみたい!」と同行者が楽しげに眺めていました。「これは、クランベ・コーディフォリアですよね。立派な株ですねー」と上野さん。 白花のクランベ・コーディフォリア越しに、石壁のアーチの方角を見ると、つるバラと調和して白花が引き立っています。 東向きのボーダー 白いつるバラが絡むアーチの反対側からの景色。このアーチは14世紀の建設当初にはエントランス部分だったと考えられています。 アーチの角を回って、東向きのボーダーに来ました。 ウォールドガーデンの内側と外側、一歩進むごとに新しい景色に変わり、いつまでも巡っていたいブロートン・カースルの庭。上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、庭巡りのあと、こう話していました。 「よく手入れされて、ゲラニウムやバラもとてもよい状態で咲き始めていました。(私の庭のある)北海道では育てられないのですが、植えてみたいなと思う、おばけカスミソウみたいな、クランベ・コーディフォリアもありましたね。 ガーデナーが、オーナーと奥様の意思を反映しながら、庭づくりに試行錯誤していました。上野ファームも、私がデザインしている所と、母がすべて植栽のデザインをする所を、きっちり分けています。好みも、好きな花も違うので、担当を分けて、それぞれのよさを出すようにしています」 「ブロートンの庭のように、ガーデンにはオーナーがいて、ヘッドガーデナーがいますが、オーナーの意向をどう反映するかが、ヘッドガーデナーの腕の見せ所ですよね。ガーデナーのクリスさんは、数年前まではご自分で芝刈りもして、ほぼ一人で27年間働いてきたとか。相当な仕事量をこなしてきたのだろうなと、同じガーデナーとして仕事の裏側も気になりました。6月は、ご覧のように爽やかで華やかな庭でしたが、春もチューリップを植えて華やかにしているそうですよ」 イギリスの歴史を感じる屋敷 さて、次は屋敷の中を巡っていきましょう。 まずは、1300年頃に建てられた屋敷の最も古い部分が残っているというグレートホール。イギリスのお城など、古い建物は薄暗いことが多いのですが、このグレートホールは16世紀半ばの改修で組み込まれた、チューダー様式の大きな窓から光が入り、明るさがあります。 天井には垂れ飾りが。1760年代に改修された時のもの。 暖炉の脇には、革製の消火バケツと剣が並びます。これらの不揃いの古いレンガは建設当時のものでしょうか。 絵になる窓辺のコーナー。 アン王妃の部屋、ギャラリー 次は、アン王妃の部屋(クイーン・アンズ・ルーム)です。イングランド王、ジェームズ1世の王妃、アン・オブ・デンマークが、1604年と1608年に、この部屋に滞在したといわれています。暖炉の上に飾られた肖像画がアン王妃。石造りの暖炉は16世紀半ばに設けられたものです。 暖炉には、石工によって彫られた精巧な飾りがあります。天蓋付きのベッドは18世紀後半のもの。 2階の廊下にあたるギャラリー。1760年代にゴシック様式に改修された際、内装も新たに施されました。ここには16世紀からの一族の肖像画が集められています。 窓から外の緑が見えます。 美しい壁紙が特徴的なベリー・ロッジ・ルーム。壁紙はフランス、アルザス地方にあるズベール社の1840年頃のものです。家具の多くは、男爵の祖父母の屋敷、ベリー・ロッジから運ばれたものだそう。 王の部屋、そして屋上へ 次は、1604年にジェームズ1世が宿泊したという、王の部屋(キングス・チェンバー)です。印象的なグリーンの中国風の壁紙は手描きだとか。ベッドは現代の家具作家、ロビン・ファーロングの手による特注品。現代的な要素がアンティークとうまくミックスされています。 暖炉の上には、フランス製の漆喰仕上げの装飾が施されています。ギリシャ神話のモチーフです。 ギャラリーの反対側にも、対になる長椅子が置かれたコーナーがありました。 ドアノブの飾りが素敵です。 屋敷の西側、屋上に出てみると、貴婦人の庭(レイディーズガーデン)が眼下に! アヤメの花を様式化した、よく紋章に用いられる「フルール・ド・リス」という意匠と、円を組み合わせたデザインです。生け垣で模様を描く、パーテアという庭園様式は、高い場所から眺めて楽しむものなのだなと、実感します。 ●貴婦人の庭の植栽については「ブロートン・カースル」前編をご覧ください。 西側壁面に沿って花壇がのび、濠の向こうには、730万㎡という耕作地や牧草地が続きます。 こちらは、守衛所(ゲートハウス)に近いほうの花壇、バトルメントボーダー。 さて、次は西の端にある大広間、グレートパーラー。漆喰仕上げの天井が見事です。 天井は古いものですが、壁紙や扉、羽目板などは19世紀半ばのもの。何度も改修を繰り返して、城の長い歴史が続いていくのですね。 椅子の布地に合わせたピンクの生花が素敵です。きっと男爵夫人が活けられたものですね。 東を向いた窓からは、芝生の上にリズミカルに並ぶ立方体のトピアリーが見えます。 南向きの窓からは、貴婦人の庭が見えます。 1階に降りて、再び貴婦人の庭へと出てみましょう。 さて、お庭をもう一周してきましょうか。 帰り際、前庭の端には、古い厩を改修したティールームとショップがありました。 長い歴史を経て、今も暮らす人に愛され、大切に維持されているブロートン・カースル。部屋の窓や屋上からの眺めも素晴らしく、庭では、私たちも育てている同じ種類の草花にも多数出合うこともでき、親しみを感じました。また、「ガーデン」とは、次の世代、また次の世代へと、いつまでも受け継いでいけるものなのだと教えてくれる場所でした。
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梅も桜も庭の花も一緒に見たい! 橋本景子さんの花旅案内
弥生の花見 冬と春のちょうど境目となる3月「弥生」ですが、弥生の「弥」は「いよいよ」とか「ますます」とかの意味を、「生」は「草木が芽吹く」という意味を持つそうです。春を迎えて草木がどんどん成長し、「いやが上にも生い茂る」が「いやおい」に変化し、さらに「弥生」といわれるようになったのだとか。 この季節は日照時間も長くなり、ついふらふらとどこかにお出かけしたくなるのですが、まだまだコロナ禍の影響もあります。特に首都圏に住む私たちにとっては、自由に動ける気分ではないのが正直なところ。 というわけで、今月は過去の写真を交え、早春の関西の花旅を振り返りたいと思います。 美しい日本の絶景を見に……鈴鹿の森庭園の「しだれ梅まつり」 名古屋駅で車をレンタルして、東名阪自動車道で1時間足らずのアクセス。京都駅からも1時間少々、関西国際空港からは2時間程度という手頃な場所に位置する三重県、鈴鹿の森庭園の「しだれ梅まつり」をご案内します。 2014年にグランドオープンした鈴鹿の森庭園は、日本の伝統園芸文化の一つである、しだれ梅の「仕立て技術」を未来へ継承する目的でつくられた研究栽培農園です。三重県津市にある赤塚植物園が地元の園芸会社と協力して運営しています。 広さ約2万㎡の園内には、桃色の代表的な八重咲き品種である、呉服枝垂(くれはしだれ)の古木、日本最古と思われる推定樹齢100年以上の「天の龍」や「地の龍」をはじめ、八重寒梅、藤牡丹枝垂、鹿児島紅、白滝枝垂、白加賀など、日本中から集められた200本もの名木が鈴鹿山脈を借景として咲き誇り、春の訪れを告げています。 この地方独特のしめ縄を巻かれた梅。樹齢100年を超える「呉服枝垂(くれはしだれ)」である目印なのだとか。 園内には展望台もあり、運がよければ鈴鹿山脈の雪を背景にした梅林を一望できます。また、おすすめなのは開花期間中の「ライトアップ」。 昼間とはまるで違う、妖艶で幻想的な眺め。一度は見ておきたい絶景です。 しだれ梅祭りは例年2月20日から開催されていますが、開花状況に応じて日程は変更される可能性があるため、確認が必要です。 私が行った2018年は3月20日過ぎでしたが、ピンクの花びらの絨毯が一面に敷き詰められていて、それもまた感動の景色でした。 ここでご紹介した写真は、今年2月23日、友人が撮影してくれたものです。 ●開花状況等はWebページにて https://www.akatsuka.gr.jp/group/suzuka/ さらに、それから1週間後。 梅が散り始め、花びらがピンクの川になって流れる様子を、また撮影してくれました。 小さな春を見つけに……ローザンベリー多和田 鈴鹿から車で1時間半ほど行くと、ローザンベリー多和田があります。 名古屋駅からは1時間、新幹線なら米原駅から15分ほどです。 昨年オープンした、イギリスのマナーハウスを模したイベントホール。内装は、ウェッジウッドブルーで、英国風のインテリアが素晴らしい。 ローザンベリー多和田の13,000㎡のガーデンには、バラやクレマチス、宿根草などが植えられていますが、バラたちは、この時期やっと冬眠から目覚め、芽吹き始めたばかりです。秋からずっと咲き続けているパンジーやビオラに春の小球根などが加わり、少しずつ彩りが豊かになってきました。 羊との触れ合い広場や、ひつじのショーンファームガーデン、妖精と暮らすフェアリーガーデン、金・土・日・祝日の夜間のイルミネーションなど、この時期も見所はたっぷり。 ガーデンショップやオリジナル商品のショップ、レストランやカフェなどもあり、楽しいイベントも次々と企画されています。 ●ローザンベリー多和田 https://www.rb-tawada.com 早咲きの桜を愛でに……京都御所 さて、次は京都に足を延ばしましょう。 2018年、鈴鹿の森のしだれ梅を見た翌々日、京都御所に向かいました。 目的は、早咲きで有名な糸桜です。 この旅で「梅と桜を両方見たい!」という友人のわがままなリクエストを叶えようと検索していたら見つけたのが、京都御苑の北西側に位置する旧近衛邸の跡地に植えられた30株の枝垂れ桜。御苑の中でも一番最初に咲き始める桜で、ソメイヨシノよりも開花が早く、毎年3月中旬から1カ月ほどの長期間、糸桜以外にも、さまざまな桜を楽しめるようです。 桜を見た後は、京都御所に。 即位式などの重要な行事が執り行われてきた、格式高い、左右対称の美しい紫宸殿と、敷き詰められた白砂も壮観です。ここでは、天皇から見て左近の桜、右近の橘が植えられています。 かつては、参観には事前に申し込みが必要で、春と秋の一般公開日には観光客が殺到していた京都御所ですが、2016年からは事前の申し込み不要の通年無料公開となり、気軽に見学ができます。 じつは学生時代には、御所のすぐ近くの大学に通い、御苑を自分の庭のように過ごしていた私にとっては懐かしい場所でもあります。 しかし、当時の私は植物には全く興味がなく、鳩を追いかけて遊んでいただけでした。今、もしその頃の自分に会えたら、「御所の四季をもっと楽しんでおきなさいよ!」と忠告してやりたい気分です(笑) 同じ関西圏でも、地域によって天候にも差があり、さまざまな花を追いかけて旅することは楽しみですが、年によって、開花の最盛期は変わりますので、事前にしっかりと下調べしてからの花旅をおすすめします。 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.4万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto 写真(*)/髙橋広明 @hiroaki3660
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イギリス

イングリッシュガーデン旅案内【英国】中世から建つ美しき古城「ブロートン・カースル」前編
長い歴史を持つブロートン城 ブロートン・カースルは、コッツウォルズ特別自然美観地域の北東側に位置しています。濠に囲まれた美しい石造りの屋敷と、その南側に作られた「貴婦人の庭(レイディーズガーデン)」で有名な、人気の高い観光スポットです。 ブロートン・カースルは、1300年頃、イングランド王のエドワード1世に仕えたジョン・ドゥ・ブロートン卿が石造りのマナーハウス(領主の館)を建てたことに始まります。屋敷は1377年に、ウィンチェスター主教のウィリアム・オブ・ウィッカムによって買い取られ、以来、その子孫となるファインズ家に受け継がれてきました。日本でいえば、鎌倉時代の終わりから室町時代の話です。 ウィリアム・オブ・ウィッカムは国政で重要な位置を占めた人物で、オックスフォード大学のニュー・カレッジや、英国最古の男子寄宿学校であるウィンチェスター・カレッジの設立、ウィンザー城の建設にも携わりました。ブロートン・カースルには、17世紀にイングランド王が宿泊したという歴史もあります。 現在も続くファインズ家には、探検家や作家、画家など、才能のある人物が多く、映画『ハリー・ポッター』シリーズでヴォルデモートを演じた俳優のレイフ・ファインズと、その弟のジョセフ・ファインズも親族だそう。 庭好きにとっては、屋敷の南側にある貴婦人の庭(レイディーズガーデン)は必見。一方を屋敷に、三方を石塀で囲まれたウォールドガーデンでは、石造りの古い建物を背景にどんな花景色が広がるのか、楽しみです。 それでは、庭巡りを始めましょう。 濠に囲まれた屋敷 まずは濠にかかる石橋を渡って、かつての守衛所(ゲートハウス)を抜けていきます。1406年、このゲートハウスに銃眼付きの胸壁が設けられたことで、マナーハウスは「カースル(城)」と呼ばれるようになりました。 屋敷は3つの小川が交わる地点に建てられ、それから、屋敷を囲む大きな濠がつくられました。濠と屋敷の大部分は、当時と変わらない姿を保っているそうです。 銃眼のあるゲートハウス。ブロートンの建物や塀には、コッツウォルドストーンと呼ばれる石灰岩が使われています。ブロートン・カースルのあるコッツウォルズの東側は、鉄分を多く含んだ赤茶色の石が採れるそう。大きさが不揃いな石に古さを感じますね。 前庭の端に、ひっそりとバラが咲いています。 600年近く経っていると思われる石塀に、優しいピンクのバラがよく合います。ここでしか出会えない趣のあるガーデンシーンに感動。 マナーハウスが見えてきました。1階右端が1300年頃に建てられた最も古い部分で、1554年に3階建てへと改築されました。17世紀にはすっかり荒れてしまったこともあったそうですが、長い年月の間に改修を繰り返しながら、維持されてきました。 左側に銃眼付きの胸壁が見えますが、城というよりマナーハウスの印象が強い屋敷ですね。内部はのちほど見学することにして、まずは右手から庭のほうに回ります。 屋敷の西側、濠の外には、ブロートン・パークの草地が広がっています。 低い石塀に伝うバラ。風化した石とバラが作り出す、野趣のある景色です。 屋敷脇の植え込みは、銅葉の茂みがアクセントになっています。 赤紫のバラと銅葉の美しい組み合わせ。 石塀に囲まれたウォールドガーデン、頭上にクレマチスが絡んだ貴婦人の庭への入り口が見えました。 貴婦人の庭(レイディーズガーデン) 屋敷の南側にある貴婦人の庭に入りました。先ほどのアーチから入って、振り返ったところ。砂利敷きの小道には落ち葉一つなく、銀葉のグラウンドカバー、銅葉の茂み、壁面を覆う緑と、このエリアだけでも数多くの植物が景色を作っています。 紫のアリウムと黄色いシシリンチウム・ストリアツム。優しい色合いの花々が出迎えてくれます。 西側の石塀には小窓があって、紫のフジが伝います。訪れたのは7月上旬。バラがちょうど満開で、緑もみずみずしくて、花と緑の香り漂う中で何度も深呼吸。 この庭は、1890年代に屋敷に暮らしていたゴードン=レノックス公爵夫人によってつくられました。この方は、当時一番のおしゃれさんとして、社交界で有名だったとか。きっと庭づくりのセンスもあったのですね。 現在の植栽は、オーナーである第21代セイ・アンド・セール男爵と男爵夫人によって考えられたもの。 コッツウォルドストーンで組まれた石塀や屋敷の壁に合うように、柔らかな色調の花が選ばれていますが、これは、1970年に、有名なガーデンデザイナーのランニング・ローパーから受けた助言に基づいているそうです。 フルール・ド・リスを描いたパーテア この庭は、低い生け垣で模様を描く「パーテア」と呼ばれるスタイルの、整形式庭園です。屋敷の屋上からは、アヤメの花を様式化した意匠(フルール・ド・リス)と円が組み合わさった、デザインの全体が見られるとのこと。楽しみです。 庭がつくられた当時の写真資料を見ると、生け垣の高さは足元程度で厚みもなく、素っ気ないくらいシンプルな景色が写っていました。しかし、長い年月の中で、生け垣は腰高にしっかりと育ち、花壇の茂みも大きな、緑豊かな庭となっています。 庭を囲む石塀と生け垣、つまり、庭の骨格は、130年の間変わっていないです。イングリッシュガーデンの歴史が感じられますね。 庭がつくられた当初、中心には日時計のような、シンプルな石造りのオブジェが置かれていましたが、現在はハニーサックルがこんもり茂っています。円形に区切られた地際では、パッチワークのように配植されたタイムが花を咲かせていました。 時の流れが生み出す、格別の雰囲気を醸す石塀です。よく見ると、石材の色や仕上げに違いがあります。修復された形跡でしょうか。 その古びた石塀を背に、バラやジギタリス、ゲラニウムといった草花が茂ります。ロマンチックな、これぞイングリッシュガーデンという花景色。 庭に植えられているバラは約60種とのこと。草花とナチュラルに調和し合っていました。 家壁の窪みの奥に、木製ベンチが置かれているスペースを見つけました。 いろいろな種類の花に囲まれたベンチです。小花がふわふわと咲いて、素朴ながら心落ち着く景色。 屋敷に沿って進むと、貴婦人の庭の外に出るアーチがありました。 石塀の外には芝生が アーチを抜けると、木の扉の上に白いつるバラが伝い広がっています。 貴婦人の庭の外側、石塀に沿ってつくられた東向きのボーダーです。 貴婦人の庭からアーチを抜けると石段があって、小さなテラスへと繋がっています。 テラスの先は屋敷の壁に沿って、植え込みが続きます。 大木のセアノサスがブルーの茂みを作り、傍にはテーブルとイスのセットが。遠くの景色を眺める憩いの場所です。 貴婦人の庭は、屋敷南側の、西側半分に位置しているのですが、東側には緑の芝生が広がっていて、大きな立方体のようなトピアリーが6つ点在しています。 さて、石塀の中の庭に戻ってみると……、あそこでゲストと話している方は、オーナーの男爵夫人! 庭に出て手入れ中だった男爵夫人とお話しすることができました。いつもご自身で花を摘んで、部屋に活けるそうです。 後編では、ウォールドガーデン外側の美しい花壇や、屋敷の素晴らしい内装、貴婦人の庭の全体像をご紹介します。
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イギリス

英国キューガーデンの多肉植物&サボテン・コレクションを訪ねて〈後編〉
世界のさまざまな気候を再現する温室 前編でもご紹介したプリンセス・オブ・ウェールズ・コンサバトリーは、近代的な設備を誇る、広さ4,500㎡の温室です。温室内は冷涼な乾燥地帯から熱帯雨林まで、異なる10の気候がコンピュータ制御によって再現されています。ゾーンによって気温や湿度が変わるので、植物を世話するガーデナーたちは、出入りするたびに上着を着たり脱いだり、体温調節が大変なのだとか。 この温室の基礎部分には、動物学者で植物学者のデビッド・アッテンボロー卿によって、1985年にタイムカプセルが置かれました。中に入っているのは、絶滅の危機にある穀物類のタネ。カプセルは、100年後の2085年に開けられる予定ですが、その頃の世界はどうなっているでしょうか。 それでは、前編に続いて、乾燥熱帯や砂漠気候ゾーンのサボテンや多肉植物を見ていきましょう。 メキシコや南米のサボテン その2 ミルチロカクツス・ゲオメトリザンス (Myrtillocactus geometrizans) メキシコ原産の、4~5mに育つ低木状のサボテン。まさに、メキシコと聞いて思い浮かべるサボテンの形をしていますね。日本では「リュウジンボク(竜神木)」の名で流通しています。 左:オプンチア・クイテンシス (Opuntia quitensis) ペルー、エクアドル原産のウチワサボテンの一種。可愛らしい、明るいオレンジの花の後にできる果実は食べられるそうですが、どんな味なのでしょう。 右:フェロカクツス・シュワルツィー (Ferocactus schwarzii) メキシコ原産の樽形に育つサボテン。まるで折り紙で作ったようなきれいな形です。鮮やかな黄色の花が咲き、日本では「オウサイギョク(黄彩玉)」の名で流通しています。 オプンチア・フィカス=インディカ (Opuntia ficus-indica) メキシコ原産で、オプンチア属の中では最もポピュラーなウチワサボテンの一種。英名は、棘だらけのナシ(プリックリー・ペア)といい、果実は食用に売られています。南米ではウチワ形の茎も食べられているそう。エキスが化粧品に使われるなど、商用として重要な役割を果たすサボテンです。 左:ペレスキア・グランディフォリア(Pereskia grandifolia) ブラジル原産。5mほどまで伸びて、樹木のような姿をしたサボテンですが、幹のように見える茶色の部分には棘が生えています。半八重のバラのような花が咲くことからローズカクタスとも呼ばれます。日本では「オオバキリン」の名で流通。 右:オプンチア・ファルカータ (Opuntia falcata) こちらも樹木のような、変わり種のサボテン。 ミルチロカクツス・コカル(Myrtillocactus cochal) 英名で、燭台サボテン(キャンデラブラ・カクタス)というように、燭台を思わせる形をしています。メキシコ原産。 サボテンの根元にはエケベリア(Echeveria)が。 左:セダム ‘ブリート’ (Sedum ‘Brrito’) 長く垂れる茎に丸みを帯びた葉が連なるセダム。日本では、「玉つづり」か「新玉つづり」の名で流通しています。 右:セダム・パキフィルム (Sedum pachyphyllum) メキシコ原産ベンケイソウ科の多肉植物。欧米ではジェリービーンズの名で呼ばれますが、日本では「乙女心」の名で流通しています。 左:フェロカクツス・ピロスス (Ferocactus pilosus) 赤い棘が目を引く、メキシコ原産のサボテン。円柱状で、3m近くまで育ちます。鮮やかな濃いオレンジの花が咲きます。 右:プヤ・フェルギネア(Puya ferruginea) ボリビアやエクアドルを原産地とするパイナップル科の植物。 ダイナミックな魅力のアガベ 温室内には、存在感たっぷりのアガベもたくさん植わっています。 アガベ・アテヌアタ (Agave attenuata) (流通名はアガベ・アテナータとも) 高さ1~1.5mほどに育った立派なアガベ。メキシコ原産の常緑のアガベで、葉には棘がありません。英名で、キツネの尻尾のアガベ(フォックステイル・アガベ)といわれるように、1.5~3mほどの長くて太い花穂が中心から伸びて、くるりと垂れます。 左:アガベ・テクイラナ (Agave Tequilana) メキシコの高地、ハリスコ州原産の、テキーラの原料となるアガベ。ブルーアガベ、テキーラアガベとも呼ばれます。テキーラ作りには、葉の根元にある大きく育った球茎が使われます。 中:アガベ・フィリフェラ (Agave filifera) メキシコ原産、葉の端から白い糸状の繊維が生えているのが特徴。高さ60cmほどの小ぶりなアガベ。 左:アガベ・ミシオヌム (Agave missionum) 立ち姿が美しいアガベ。葉の周りに細かい棘があります。 右:アガベ・チタノタ (Agave titanota) 葉の周りに大きな棘があって、どう猛な印象のアガベ。一回結実性で、花が咲くと枯れてしまいます。 左:ボーカルネア・ストリクタ (Beaucarnea stricta) 細い葉を放射状に広げるボーカルネア。6~10mに育ちます。 右は植物名が分かりませんでしたが、ボーカルネアの仲間でしょうか。放射状に見事に広がる細葉が印象的です。 ジャングル感満載 湿潤熱帯ゾーン 乾燥地帯のゾーンを抜けると、今度は湿度が高くムンムンする熱帯ゾーンに来ました。植生がガラリと変わってジャングルのよう。面白い体験です。 中央の塊は、チランジア・ストリクタ(Tillandsia stricta)。 南米原産のパイナップル科の植物で、チランジアの仲間はエアプランツと呼ばれます。カーテンのように掛かっているのも、同じチランジア属の仲間、チランジア・ウスネオイデス。 エアプランツの美しい競演。 温室内は加湿されています。 左:エクメア・ブラクテアタ (Aechmea bracteate) パイナップル科の植物で、原産地はメキシコから中南米にかけて。 右:クリプタンツス・アカウリス (Cryptanthus acaulis var. ruber) ブラジル原産。葉の色が渋いですね。 躍動感のある、パイナップル科の植物の競演。 温室のエリアごとに、湿度の高さや室温の微妙な変化があり、植物のグループが変わる様子を見ながら、まるで旅をしているような気分になれた温室散策。貴重な植物を保存維持することは、繊細な作業の連続なのだろうなと感じました。また、あのサボテンや多肉たちが成長した姿を見に行ける日を楽しみにしています。 温室の外には大きなアガベが育っていました。
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北海道

上野ファームの庭便り「新しいシーズンに向けて振り返る2020年人気のシーン」
北海道の大地に咲く草花の美 上野ファームでは、毎年いろいろな植栽デザインや新しい植物に挑戦しています。 コロナ禍で、ガーデンを見ていただくことがとても難しかった2020年でしたが、ガーデンの花たちは、変わらずに成長を続け、いつも以上の美しさと感動を与えてくれました。ガーデンで人気のあったシーンやSNSなどで支持の多かった美しい瞬間を、注目植物とともにご紹介します。 <春> カナダケシ、球根花 まだ新緑も広がらない早春の季節から咲き始める純白の八重咲きカナダケシ(サンギナリア)は、年々花数が増えて、早春の庭では特に目立つ存在になってきました。 まるでコートにくるまっているかのような咲き始めの姿も、お客様から大人気でした。 白樺の林の中で咲くチューリップも色数を増やして、2020年の春はとてもポップな場所となりました。残念ながらコロナ禍での休業要請の時期と重なり、見てくださる方はほとんどいませんでしたが、この風景のおかげで、私自身の気持ちはとても明るくなりました。 2021年は昨年とは少し色の比率を変え、新しい品種も秋にたくさん植えたので、春が待ち遠しいです。 チューリップが終わると寂しくなるミラーボーダーに、遅咲きのチューリップと同じころに咲き出すアリウム‘パープルセンセーション’を入れると、とてもいい雰囲気になりました。SNSでも大人気のシーンです。 開花期を細かく分析して重ねていく手法を取るデザインは、植物の成長と季節を待たなくてはならず、すぐには結果が出ないのですが、その分、素敵な風景が出現した時の嬉しさは格別です。アリウム‘パープルセンセーション’は、発色がよくて早咲きなので、インパクトのある風景を作れます。 2020年6月上旬の景色です。毎年、ノームの庭に少しずつ増やしていたアリウムですが、この年ようやく思い通りのボリュームを出すことに成功! 手前の黄金葉の植物は、西洋ニワトコ。 <初夏> エレムルス、シレネ、西洋オダマキ アリウムの開花が終わると、迫力をだすのが、エレムルス、特にこの白(品種不明)は、この場所がとても気に入っているようで、他のエレムルスよりも生育がよく、大迫力。植えてから3年が経ち、年々穂数が増えて、庭でも主役級となり、ちょっと自慢です。 エレムルスの白は、他の色よりも根塊が大きく、草丈も上野ファームでは150cmを超えるほどになります。 さまざまな植物と混ざり合うような植栽も、2020年はたくさん増やしました。黄金葉に鮮やかなピンクの花が、庭でとても目立っていたシレネは、紫花のサルビアとの相性も素晴らしく、これからもいろんな場所で使ってみたいと思っています。 ちょっとパンチが欲しいときや変化が欲しいときに、シレネを一株入れると面白くなります。 ここ数年、いろいろと集めているのが、西洋オダマキ(アキレギア)です。昔からある植物ですが、改めて咲かせてみると、じつはファンが多いことが分かりました。 シンプルな品種でも、まとめて咲かせたり、または混植させることで、今までのイメージとは違う雰囲気を出すことができます。 咲くと必ず何の花? と聞かれるのは、アキレギアの「ウィンキーシリーズ」‘ダブルブルーホワイト’。よく見ると芸術的な花びらですね。 開花期が長くてシンプルな美しさがあるアキレギア‘クリスタル’も、お気に入りの品種です。 植栽の中に、ちらりと西洋オダマキを入れることで、初夏の庭がより一層華やかになるので、ピンポイントでよく使います。旭川では6月上旬に咲く宿根草はまだ少ないので、ジギタリスなどと合わせて、西洋オダマキはこの時期、とても重宝します。 一年草のミックスフラワーにも挑戦 2020年は、畑の一角にラインを描くように一年草のばら播きにも挑戦しました。宿根草が多い上野ファームですが、一年草の風景も新鮮でした。 カルフォルニアポピー、コーンフラワー、ムシトリナデシコなどなど、定番の一年草ですが、ミックスフラワーの魅力は種子のブレンドによって変化が出せること。ただいま研究中です。 <盛夏> アリウム、ホリホック、タリクトラム 最近話題の真夏に咲くアリウムも数年前から挑戦していますが、猛暑が厳しかった2020年も元気に咲いていました。3年目の株は驚くほど増えて、耐寒性と耐暑性を併せ持つ優秀な夏植物ということを実感。球根というよりも、大きめの花が咲くチャイブのような感じで、根でよく増えます。 上写真左は、アリウム‘サマービューティー’。真夏でも表情は涼し気です。 右は、アリウム‘ミレニアム’。同じく乾燥が好きなセダムとも合わせやすく、草丈30~40cmなので、ガーデンでも扱いやすい花です。 3m近くまで大きく育ったホリホックは、まるで森のように天高く伸びて、上野ファームの夏の風物詩にもなっています。交配してこぼれダネで増えたものも多く、雨風で傷む不安はあるものの、どうしても夏には咲かせたい植物の一つです。 華やかな八重咲き品種もよくありますが、上野ファームでは、毎年シンプルな一重のものが欲しい! という要望が続出です。懐かしい気持ちと、夏らしさを感じる花は、昔からある品種であっても、決して古臭くはなく、大切にデザインに入れていきたいと思っています。 咲き出した日から、毎日のように名前を聞かれたのが、タリクトラム‘スプレンダイド・ホワイト’です。愛らしい粒状の白い花は、決して派手ではありませんが、ガーデンのあちこちで開花して人気でした。タリクトラムの中でも、この品種は花数が抜群に多く、早めに切り戻すことで二番花も楽しめます。茎が弱いので、枝などで添木をするとよいでしょう。 同種で薄紫のタリクトラム‘スプレンダイド’もあります。 <秋> オーナメンタルグラス 秋になると花数は減ってきますが、近年日本でも注目されているナチュラリスティックプランティングのブームもあってか、オーナメンタルグラスの美しさや魅力を理解してくれる方が年々増えてきたように感じます。決して目立つ存在ではないのですが、他の植物を引き立て、秋にさらに美しさを増します。 葉先がボルドーカラーに染まるパニカム‘シェナンドア’は魅力的なオーナメンタルグラスで、素敵なシーンをガーデンで増産中です! 上野ファームでは夏の終わり頃から咲くサマーヒヤシンス(ガルトニア)は、本来は春に植える球根植物です。数年試してみて、旭川でも越冬することも分かり、これから使い道が増えそうな新しい仲間です。 純白の釣り鐘状の花が、ダークリーフのアスターを背景にとても目立っていました。まだまだ、いろいろな組み合わせが楽しめそうなので、増やしていく予定です。 ●『上野ファームの庭便り「秋こそ美しい! 表現広がるオーナメンタルグラス」』 上野ファーム2021インフォメーション こうして2020年を終え、今ガーデンは例年通り銀世界ですが、また再び花咲く季節に向けて準備中です。 2021年は、カフェがリニューアルして、すべての食べ物がテイクアウト可能になり、ガーデンでもピクニックのように飲食が楽しめるようになりました。ガーデンの植物から元気をチャージして、心地よい庭時間を楽しんでください。 【2023年ガーデン公開期間】 4月21日~10月15日予定(期間中無休) 開園時間/10:00~17:00 入園料/大人1,000円 中学生500円 小学生以下無料 年間パスポート1,200円 ※感染拡大防止のため予告なく営業内容が変更になる場合があります、あらかじめご了承ください。
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イギリス

英国キューガーデンの多肉植物&サボテン・コレクションを訪ねて〈前編〉
世界の10の気候を再現する温室 英国キュー王立植物園、通称キューガーデンで有名な温室といえば、ヴィクトリア朝に建てられた、テンパレートハウスとパームハウスという2つの優美な大温室。時代の栄華を今に伝える、キューガーデンのアイコンです。一方、1987年に開館した、広さ4,500㎡のプリンセス・オブ・ウェールズ・コンサバトリーは、近代的な設備を誇ります。 温度や湿度、養分、光のレベルといった、植物に必要な生育条件は、植物の種類によって異なりますが、この温室の中では、冷涼な乾燥地帯から熱帯雨林まで、異なる10の気候がコンピュータ制御によって再現されています。 例えば、湿潤熱帯ゾーンの池に浮かぶのは、アマゾン川原産のオオオニバス(ヴィクトリア・アマゾニカ)。湿度の高い、暖かな室内にはつる性の植物が伝って、ジャングルのような雰囲気です。このオオオニバスの種子がキューガーデンに初めてもたらされたのは19世紀半ばのことですが、それ以来、栽培が続けられているというのは、さすがですね。温室内の池にはナマズなどの魚が棲んでいて、また館内では5匹の大型トカゲ、インドシナウォータードラゴンが飼われています。トカゲはゴキブリなど虫の駆除に役立ってくれるそう。温室内で、小さな生態系が作られているのですね。 それでは、乾燥熱帯や砂漠気候のゾーンに生育する多肉植物やサボテンを見ていきましょう。 アフリカ東部~南部原産の多肉植物 樹木やヤシのように大きく育った多肉植物の数々。アロエがヤシの木のような姿になっています。ここまで大きな多肉植物を見るのは初めてで、驚かされます。 左:クラッスラ・ポルツラケア (Crassula portulacea) 原産地、南アフリカ・ケープ州の露地では3m以上になるといわれますが、この温室でも樹木のように大きく育っています。日本では、新芽に5円玉を通して育てた「金のなる木」として、有名です。 右:パキポディウム・ラメレイ (Pachypodium lamerei) マダカスカル島原産のキョウチクトウ科の多肉植物で、ヤシのような姿をしていることから、マダガスカル・パームとも呼ばれます。先端に咲く香りのよい白花は、確かにキョウチクトウに似た花姿。 ケイリドプシス属 (Cheiridopsis) こちらは南アフリカ原産の小型の多肉植物。「ケイリドプシス」の名は、袖という意味のギリシャ語に由来します。 同じくケイリドプシスの仲間。 ケイリドプシス属は100種ほどあって、日本でもさまざまなものが流通しています。 アロエ・ジュクンダ (Aloe jucunda) ソマリアを原産とする矮性の小さなアロエで、よく群生します。すっと伸びた花穂が素敵。 希少な多肉ユーフォルビア ユーフォルビア・グリセオラ (Euphorbia griseola subsp. griseola) 見事に育った、南アフリカ原産の多肉ユーフォルビア。トゲが多くて、一見するとサボテンのようです。多肉ユーフォルビアとサボテンは異なる植物ですが、どちらも乾燥した土地に適応しようと、それぞれ同じような進化を遂げたために、共通した特徴を持つといわれます。 ユーフォルビア(トウダイグサ)属は約2,000種が含まれる大きな属で、多肉ユーフォルビアは850種。そのうちの723種がアフリカやマダガスカル原産です。多肉ユーフォルビアのほとんどは絶滅が危惧されており、輸出が制限されています。 ユーフォルビア・ミリイ (Euphorbia milii var. milii) マダガスカル島原産の多肉ユーフォルビアで、日本では「ハナキリン」の名で流通しています。マダガスカル島原産の多肉ユーフォルビアの多くは、絶滅の危機にあるそうです。 窓際には、バラエティ豊かな多肉ユーフォルビアの鉢植えコレクションがありました。 左:ユーフォルビア・ステノクラーダ (Euphorbia stenoclada Baill) 木の枝のようなユニークな形。この姿からは想像がつきませんが、樹木のように大きく育つそうです。 右:ユーフォルビア・ハンディエンシス (Euphorbia handiensis) カナリア諸島原産。まるっきりサボテンみたいな姿ですね。 左:ユーフォルビア・ビグエリー (Euphorbia viguieri Denis) マダガスカル原産。日本では、「噴火竜」(ユーフォルビア・ビグエリー)の名で流通。 右:ユーフォルビア・デカリー (Euphorbia decaryi Guill) 同じくマダガスカル原産。日本では、「ちび花キリン」の名で流通。ハナキリンのように茎が立ち上がるようです。 ユーフォルビア・ビセレンベキー (Euphorbia bisellenbeckii) アフリカ東部原産。まるでむちむちとした手を四方に伸ばしているようです。多肉ユーフォルビアは、本当にさまざまな姿をしていますね。 メキシコや南米のサボテン その1 見事に育ったサボテンや多肉植物の数々。室温もほんのり暖かく、砂漠地帯にやってきたような気分になります。 エキノカクツス・グルソニー (Echinocactus grusonii) メキシコ北東部原産の直径1mほどになるという大きなサボテン。美しく立派に育っています。日本でも「キンシャチ」の名で流通していますが、原産地では絶滅寸前と危惧される種です。英名の一つに、姑のクッション(マザーインローズ・クッション)というユーモアたっぷりのものが。お尻がトゲだらけになっちゃいますね…。 大きく育ったウチワサボテンの仲間を背景に、柱状のサボテンは寝転んでいるかのような対照的な姿を見せています。 エキノプシス・テレゴナ (Echinopsis thelegona) 海の生き物を思わせるユニークなフォルムをした、南米アルゼンチン原産のサボテン。大きなつぼみがついていますが、夏の夜に漏斗形の白花が咲くそう。環境のストレスがないからか、成長途中の段差が一切なく、のびのびと育っているんだなぁと感心。 クレイストカクツス・ウィンテリ (Cleistocactus winteri) こちらもモニョモニョ動き出しそうな、南米ボリビア原産のサボテン。サーモンピンクの花が咲いています。 次は、小さなサイズのサボテンたち。 エキノプシス・フアスカ (Echinopsis huascha) アルゼンチン原産のサボテン。細かい棘がびっしり。虫が侵入する隙間もなさそう。 エキノケレウス・ストラミネウス (Echinocereus stramineus) アメリカ南部やメキシコの砂漠などに自生するサボテン。藁のような色をした棘に覆われています。「藁でできた」という意味を持つ学名ストラミネウスは、その姿に由来するとか。 左:マミラリア・ボカサナ (Mammillaria bocasana) メキシコ北東部原産。全体がモワモワとした産毛に覆われているように見えるところから、英名は化粧用パフサボテン(パウダーパフ・カクタス)。細かい棘が柔らかそうに見えます。 右:マミラリア・スピノシッシマ (Mammillaria spinosissima subsp. spinosissima) メキシコ原産。赤味を帯びた棘が可愛らしい。 左:マミロイディア・カンディダ (Mammilloydia candida) メキシコ原産。英名でスノーボール・カクタスといわれるように、初めは丸い雪玉のようですが、成長につれ柱状になり、30cmくらいまで伸びます。 右:エキノプシス・スピニフロラ (Echinopsis spiniflora) アルゼンチン北西部原産。つぼみがついていますが、目を引く大きな白花が咲きます。 テフロカクツス・フェベリ (Tephrocactus weberi) アルゼンチン北西部原産。これもニョロニョロ動き出しそうな姿です。 オプンチア・ミクロダシス (Opuntia microdasys ‘Albata’) 棘が綿毛のように見えることから、英名ではウサギの耳(バニー・イヤーズ)、または天使の羽(エンジェル・ウィングス)と呼ばれる、キュートな印象のサボテン。 多肉植物もサボテンも、じっくり観賞すると本当にさまざまな姿のものがありますね。 後編では、乾燥熱帯地域原産のサボテンや、湿潤熱帯ゾーンの植物をご案内します。
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宮崎県

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。冬枯れに美を見る宮崎県「綾ナチュラルガーデン錦原」
ピート・アウドルフ氏に影響を受けて 今月ご紹介するのは、宮崎県綾町にある「綾ナチュラルガーデン錦原」、冬枯れの庭です。3年前の春に、長野県須坂市の園芸店「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の田口勇さんからピート・アウドルフさんの写真集を見せてもらい、その時、枯れた庭の美しさに目覚めて撮影を始めました。その後、ピート・アウドルフさんの映画『Five Seasons ガーデン・オブ・ピート・アウドルフ』を鑑賞したこともあり、近年、僕の一番興味のあるテーマが「冬枯れの庭」になったのです。 2017年11月、紅葉の「GARDEN SOIL(ガーデンソイル)」の撮影を皮切りに、北海道の「大森ガーデン」、神奈川県愛甲市の「服部牧場」、群馬県太田市の「アンディ&ウイリアムスボタニックガーデン」、横浜の新港中央広場に清里の萌木の村……、と機会があるごとに撮影を続けてきました。そして12月、僕の冬の撮影のもう一つのテーマ「宮崎育種ビオラ」の撮影も兼ねて訪れた宮崎滞在の2日目の朝、日の出とともに撮影したのが、今回ご紹介する「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真です。 朝日が昇る前にガーデンに到着 当日は日の出が7時だったため、宮崎市内のホテルを6時過ぎに出発。まだ薄暗い道を車で走りつつ景色を眺めながら、7時少し前に馬事公苑の交差点に到着しました。ガーデナーの平工詠子さんのSNSの投稿で、あまり広くはない道沿いのガーデンだということは分かっていたし、薄暗い光の中でも黄色いマムや赤いコリウスがはっきり見えたので、ここで間違いないと確信し、邪魔にならない場所へ車を止めて庭に入っていきました。 ちょうど正面の空が明るくなってきました。その方角が東で逆光、右手が南側で庭の奥は田園風景。そのさらに奥には山並みが見え、左手が北側で馬事公苑があり、共にサイドからの光になります。僕は常々、ガーデンの撮影の時の基本のライティングは、サイドからの光にしています。この庭の場合は、馬事公苑側に立って南の方向にレンズを向けるか、南の山に背を向けて馬事公苑の方向にレンズを向けて撮るのがサイド光になります。また、時々はレンズを東に向けて、逆光でドラマチックな撮影をすることもあります。 光の確認の後は、庭の真ん中に立ち、ぐるっと見回してよいアングルを探します。幸い撮影の邪魔になる電信柱や畑の網などの気になるものは何もなく、どの方向を向いてもとても綺麗でした。そうこうしているうちに、そろそろ日の出の時間が迫ってきたので、急いで車に戻り、カメラをセットしていると、東の空から一筋の光が差し込んできて、庭が一気に輝き出しました。 ちょっと肌寒い、静かな日の出の瞬間。神々しいとさえいえる光に包まれた「綾ナチュラルガーデン錦原」の撮影開始です。レンズを南や北に向けてサイドの光で庭の全体を撮ったり、太陽が低い位置まで上がってきたところでレンズを東に向けて、ちょっとドラマチックな逆光の撮影をしたり。庭の中を走り回って、時計が8時を回る頃に撮影は終了しました。 美しい冬枯れの庭の撮影を終えて 12月12日の夜。自宅のある千葉に帰って、すぐに写真をPCに取り込んで写真チェックをしてみると、狙い通りの美しい冬枯れの庭が写っていました。が、撮影は終始僕一人でしたし、終わった後はすぐに宮崎市に戻ってビオラの撮影だったため、「綾ナチュラルガーデン錦原」の関係者の方とはお会いしていませんでした。 よい撮影ができたので『Garden Story』に掲載したいと思っていましたが、あいにく連絡先も分からず、宮崎の「こどものくに」のガーデナー、源香さんに聞いてみようと思っていたら、偶然にも僕のSNSに「綾ナチュラルガーデン錦原」の写真がアップされていました。すぐにそこから「みんなでつくる綾町花壇プロジェクト」にメール送信。自己紹介とGarden Story掲載の許可をお願いすると、ものの10分もしないうちにガーデナーの谷口みゆきさんから返信が。そのすぐ後、役場の田牧さんからも連絡をいただきました。返信を待っている間に僕のSNSにアップしていた写真を見て、お二人ともとても喜んでくださったようで、掲載の許可もいただきました。 綾町に根付いている花を育てる習慣 この原稿を書くにあたって、谷口さんと田牧さんのお二人から町の話を伺ったのですが、綾町は50年ほど前から「花いっぱい運動」を展開し、町のあちこちに花壇があったそうです。じつは、どうして宮崎の綾町にこんなに今風なコンセプトのガーデンがあるのだろうと不思議に思っていたのですが、綾町には「花を育てる、庭を楽しむ」という習慣が昔からあったのですね。 町と住民のボランティアさんが一緒になって庭をつくり、花を楽しむ。そのために平工詠子さんのような専門家を招いて勉強もする・・・美しい自然の中で、こういった環境がしっかりできあがっている綾町。宮崎県に、また一つ好きな場所ができてしまいました。次回は、庭の周囲にある桜が咲く頃に撮影に伺いたいと思います。
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北海道

秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 後編
雨にけむる丘の上の朝 美瑛の丘の真ん中にあるB&B「スプウン谷のザワザワ村」のコテージで迎えた朝。やはりお天気は私たちに味方してくれなかったようです。 それでも雨にけむる美瑛の丘は、美しく優しい姿を見せてくれました。 恥ずかしがり屋の流星くんに「また来るね〜〜」と挨拶。赤いドアと焦がしバター色の壁面に、真っ白なシュウメイギクが映えるレセプション棟でチェックアウトを済ませ、次の目的地に向かいます。 とはいえ、この雨では美瑛の丘をゆっくり散策するということもできないので、ブログを通じて昔から知り合いのドッグカフェであり、ドライフラワーのお店でもある「花七曜」さんを訪ねました。 雨の効果もあってか、しっとりと鮮やかな紅葉が深い秋の景色を作っています。 アーチの上のセンニンソウやピンクのノリウツギなど、秋のガーデンの主役はバラでないことは確かです。 お店では、雑貨やドライフラワーをたくさん買い込み、発送してもらいました。 旅先でのお買い物は、なんて楽しいのでしょうか(笑)。 ランチの時間に間に合うように、旭川市内へと急ぎます。ところが、お目当ての回転寿司屋さんはメンテナンス日でお休み。ならばと、人気のガーデンショップ「RYOKKEN」さんへ。 お店やガーデン、庭をキーワードにその先へ 駐車場にこっそりと顔を出していた、薄いピンクのシュウメイギクと葉っぱの鮮やかな緑。アンティークのアイアンフェンスの黒と針葉樹の深い緑、ちらりと背景に見える紅葉のバランスが美しくて、一人夢中でシャッターを切っていました。 北海道のガーデナーさんにとっては、この時期はシーズン終盤で、冬支度を始める頃でもあり、植物の苗もお安くなっています。なんといっても本格的な雑貨の品揃えも素晴らしくて、「こんなお店が近くにあればねぇ」とつい呟いてしまいます。 ランチが終わったら、次の目的地はお友達のガーデンです。ここも秋のオープンガーデンはしていませんが、特別に見せていただきました。 秋雨に色を深めるガーデンもいいものです レンガのアプローチや秋色に染まった植物に降る秋雨は、ガーデンの色をいっそう濃く、魅力的に見せてくれる気がします。 「雨のおかげで美しい秋の庭が見られてよかった」と、負け惜しみではなく本心から思いました。 旅の最終日。ホテルの部屋から旭川市内が一望できました。なんとか晴れそうな天気予報です。 旭川での定宿は、駅前のイオンモールの中にある「JRイン旭川」。 若い頃はみんなでワイワイも楽しかったのですが、歳をとるとなかなか疲れが取れないので、最近はシングルのお部屋でゆっくり休むことが多いです。 このホテルは駅に近くて、とっても便利。清潔な客室は居心地がよく、無料のドリンクサービスのラウンジや書籍のコーナーもあります。 最終日、最初の訪問先はダリア咲く銀河庭園へ 最初に向かったのは、恵庭市にある「銀河庭園」。 10ヘクタールという広大な敷地に、イギリスのガーデンデザイナー、バニー・ギネスさんがデザインした多種のテーマがあるガーデンとエリアで構成され、2006年にオープンしました。ここも通い始めて10年。いつ行っても感動を覚える、飽きないガーデンです。 『銀河ウエルカムガーデン』。 入場してすぐに記念撮影できるように、ベンチの周りをダリアが彩っていました。 ダリアは、私の庭の日陰の多い環境だとなかなかうまく育たないので、これまであまり興味がなかったのですが、この時の銀河庭園でのダリアとの出合いが、私にとってその魅力を再発見するきっかけになりました。初夏から咲き始め、真夏は少しお休みして、また秋から咲きますが、カラーバリエーションや咲き方が豊富で、ガーデンに彩りを添えるのはもちろん、抜群の存在感を誇る植物といえるでしょう。 白と黄色と紫の銀河ボーダー。前年からスーパーバイザーとして就任された吉谷桂子さんによるデザインです。 これも素敵、あらこれも可愛い……。どこを見ても、あちこちで咲いているダリアが気になって、なかなか前に進めません(笑)。 秋の植物たちの見所をご案内しましょう ロズビィのバラのコーナーを歩いていて、男前の道具をびっしりと並べたシェッドを見つけました。すっきりと格好よくて憧れます。 枯れたシダがなんともいえない雰囲気を醸し出すガーデン。色づいたノリウツギのピンク色も心なしか濃いような気がします。 ドラゴンガーデンでは白いパンパスグラスに、明るい色のダリアを組み合わせていましたが、それはとにかく鮮やかで美しい! 園内で見かけるガーデナーさんたちは、春の球根の植え込み中で大忙しのようでした。 尋ねてみると「水仙をたくさん植え込んでいます」とのこと。早春の「銀河庭園」もきっと素敵でしょうね。 サルベージガーデンでは、錆びたアイアンのアーチが秋の景色と一体化しています。マルメロの木の下にはピンクのシュウメイギクが咲き乱れて素敵でした。 斑入り葉をバックに、ハッとするような花色と銅葉の見事なコンビネーション。 ボートレースガーデンには枯れたギボウシと青空がよく似合います。晴れてよかったねとお友達もニッコリでした。 ブラック&ホワイトガーデンは、白と赤のダリアで大人なガーデン。借景の素晴らしさも味方につけています。ここにずっと居たくなるのですが、ランチをして移動しましょう。 最終目的地は「イコロの森」 次の目的地には美しい紅葉のトンネルをドライブして向かいます。 「イコロの森」が今回の旅の最終目的地でした。 「イコロの森」は新千歳空港に近く、数日間のガーデンツアーの興奮を沈めて現実に戻るリハビリの場所としてもピッタリです。 秋のバラも少し咲いていました。 枯れた植物やシードヘッドが好きな私には、もはや天国のようにしか思えない景色。 寒い地域だからこそ、こんなに美しく色鮮やかに枯れていく姿が見られるのですね。 芝生の上に、土の上に、模様のように落ちている紅葉を踏みながらの散策は、秋だけのお楽しみです。 傾いた秋の太陽は、思わぬ美しい光をプレゼントしてくれて、この美しさを絵にしたいと何枚も撮ってしまうのです。 閉園時間まで「イコロの森」の秋を堪能して、新千歳空港で美味しい回転寿司で夕ご飯を食べて、この旅はおしまい。 秋の北海道ガーデンを巡る時は 北海道の多くの公共のガーデンは、10月中旬からクローズして冬支度に入ります。 そのため、秋の北海道のガーデンツアーは事前にガーデンの営業日を確認してから出かけるのをおすすめします。また、日没時間も早まりますので、営業時間も短くなります。 早い地域では初雪も観測され、雨も降りやすくなるために雨具は必須です。昼間は暖かい日があっても、夜間など思わぬ寒さに出合うこともありますので、重ね着できる服装がベスト。寒がりの方は手袋を忘れずに。ストールや帽子があれば寒さに対応できるでしょう。 北海道ならではの美しい紅葉と秋のグルメなガーデンツアーにぜひおでかけください。 ●旅の前編はこちらから。 『秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 前編』 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.1万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
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秋の北海道ガーデンに想いを馳せて 前編
新千歳空港から車で出発 今年は新型コロナウイルス流行の影響で、これまで10年間、毎年恒例になっていた夏の北海道への旅も自粛しました。それは、とても残念でした。もし、この先に世の中が落ち着くようなら、秋の北海道への旅を企画してみたいなと考えていたら、3年前に旅した秋の記憶がよみがえりました。夏の北海道もいいですが、秋も格別ですよね。3年前の秋に旅した北海道のガーデン巡りを、2回に分けてご紹介したいと思います。今回は前編です。 10月10日、新千歳空港に降り立ち、レンタカーを借りました。この時は、まず帯広方面に車を走らせたのですが、このルートを選んだら、必ず立ち寄るのが「道東自動車道」の「占冠パーキングエリア」。新千歳空港からは1時間程度の距離です。そこには、「紫竹ガーデン」が監修しているミニガーデンがあって、毎年の楽しみとなっています。 私は車で旅することが多いのですが、各地のサービスエリアやパーキングエリアで、時々ハイウェイガーデンを見つけては立ち寄ることにしています。 NEXCO東日本では、「花と緑のやすらぎ ハイウェイガーデン® プロジェクト」の運営を行っているそうです。それは、"休憩施設園地等を利用しやすく心地よい空間へ転換を図るとともに、地域らしさの創出と地域との連携を目指した「ハイウェイガーデン®」を整備し、お客さまにやすらぎと癒しの空間を提供するために推進しているプロジェクト"。 参照サイト:北海道ハイウェイガーデンオープン 占冠パーキングエリアに併設されたこのガーデンは、それほど広くはありませんが、紅葉した山を借景に、秋らしい落ち着いた色彩の趣のある写真を撮ることができました。 ハイウェイガーデンから「十勝千年の森」へ さて、そこから帯広方面へ。 また1時間程度走り、この日の一番の目的である「十勝千年の森」に到着しました。 十勝千年の森の中でも私が一番好きなメドウでは、宿根草が枯れ姿を見せ始めていました。そう、これは私が見たかった、枯れた植物たち。 夏には遠慮がちであまり主張していなかったポタジェも、秋色の背景の中で大株に育ち、鮮やかに引き立っていました。 そして別の場所では、真っ赤なダリアを贅沢に使ったアレンジやパンプキンが。農家の一角を思わせる、秋らしい素朴なディスプレイ。 アスターはたくさんの種類があるので、名前を特定できませんが、上写真右は、アスター‘レディ・イン・ブラック’でしょうか? この季節のガーデンには、とても効果的な植物ですね。 人気も少ないガーデンで、エゾシマリスにも遭遇して撮影ができました。 この日の宿は、ここ数年必ず宿泊する帯広の「森のスパリゾート北海道ホテル」。 帯広駅からは少し外れますが、市街地とは思えないほどの豊かな緑に囲まれた静かなホテルで、芝生が美しい中庭を見ながらの朝食が楽しみの一つです。 「上野ファーム」を目指して旭川方面へ 10月11日、この日は一路旭川へ。 帯広から旭川は所要時間3時間ほどで、夏季は途中で富良野の「風のガーデン」を経由したりするのですが、秋は日没が夏より2時間ほど早いので、先を急ぎます。 ちなみに、夏の日の出は4時前なので、早起きが得意な方にとっては活動時間がとても長くて、一日を有効に利用できます。 道中に見つけたカフェ。屋根の色と紅葉が美しくて、パチリ。車窓からの風景も存分に楽しみましょう。 「上野ファーム」に到着したのは午後でした。 夏の喧騒はここにはもう無く、カラフルだけど、しっとりとした秋色の植物が迎えてくれました。 ミラーガーデンのボーダー(写真左)は、紅葉した白樺を背景に、アスターなどが彩りに。また、パープルウォーク(写真右)では、三尺バーベナの花がのびのびと風に揺れていました。 ノームの庭の秋は、黄金色! フウチソウの底力を見せつけられた気がします。 枯れ色の中に白いシュウメイギクのボリュームがダイナミックで素晴らしい。 ダイブしたくなるくらい可愛いアスターの一群。 フウチソウとルドベキア‘ヘンリーアイラーズ’の黄花のコンビネーションもよく似合っていますね。 そして、ここにもアスターの大株が! これだけのボリュームで咲いているものは、日本では多分北海道でないと見られないのではないでしょうか? こうして見ると花の数は少ないですが、私は花がたくさん咲き誇っている景色よりも、この時期の紅葉した葉や枯れゆく草姿のほうがむしろ美しいと思うのです。 個人庭を見学後、B&Bへ 「上野ファーム」を後にして、「秋に行きます」とお願いしてあった個人邸へ向かいました。本当は夏しか公開していないのですが、そこは長年通い続けたお庭なので、無理を聞いていただいて。 でも庭にいる時間よりも、お部屋の中でおしゃべりしていた時間のほうがずっと長かった気がします。 夏の庭とはまた違う美しさ。秋の庭ならではの魅力がいっぱいでした。 そして、この日のお宿に向かいます。 いわゆるBed and Breakfastですが、美瑛の丘の真ん中に、でも通りからは全く見えない、宿泊者しか入れないロケーションにある人気の蜂蜜色のコテージです。 一日に5組しか宿泊できないので、予約は常にいっぱい! 前年の夏になんとか予約が取れて宿泊したものの、あいにくお天気に恵まれず、夜空が見られなかったのです。またリベンジしようと思い、HPで知らされるキャンセルをチェック。今回はうまくそのキャンセルに滑り込めたので、ここに泊まる日程を基準にして決めた旅でした。 今回宿泊したコテージの外観。しかし、またお天気があやしくて、星空は見られそうにありません。あー、残念。 ディナーは別料金ですが、「古きよき北国の食卓」がテーマのお食事は、ここの農場で取れた北の大地の食材をふんだんに使った、心がこもったお料理です。 できたてをお部屋に運んでいただいて、まるでコテージで暮らしているようにリラックスした空間での楽しい時間を過ごせました。 朝ごはんも、じつはとっても楽しみなメニューで、バスケットに入って届くサラダや温かいスープ、パンを、自分で入れたコーヒーと一緒にいただきます。 北海道に来ると、ついついスケジュールを詰めこんで走り回ってしまいがちですが、このコテージに宿泊する際には、コテージライフを楽しめる、もっとゆったりとした計画でないともったいない気がします。 秋の北海道ガーデン巡り、後半へつづく……。 Credit 写真・文/橋本景子 千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.1万人に。大好きなDIYで狭い敷地を生かした庭をどうつくろうかと日々奮闘中。花より枯れたリーフの美しさに萌える。 Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/ インスタグラム kay_hashimoto
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イングリッシュガーデン旅案内【英国】注目のガーデナーが生み出す21世紀のイングリッシュガーデン「マル…
オープンガーデンで大人気 今回訪れているのは、クラシカルなガーデンデザインと表情豊かな植栽で人々を魅了する、マルバリーズ・ガーデンズ。ここは個人邸の庭ですが、英国の慈善団体、ナショナル・ガーデン・スキーム(NGS)のオープンガーデンに参加していて、年に数回、一般公開が行われます。また、庭園独自の一般公開日も設けられていますが、その人気は高く、どちらの日程も発表されるなり、あっという間に予約が埋まってしまうそう。 この大人気の庭園を作り上げたのは、2010年からヘッドガーデナーを務めるマット・リースさんです。彼は、英国王立植物園キューガーデンと、英国王立園芸協会のウィズリーガーデンという、世界最高峰の2つの庭園で経験を積んだ後に、20世紀を代表する名ガーデナー、故クリストファー・ロイドの自邸、グレート・ディクスターで7年間修業したガーデナー。生前のロイドから直に庭づくりを学んだという、貴重な経験を持つ人物です。 「マルバリーズ・ガーデンズ」前編では、マットさんが一から作り上げた、セイヨウイチイの生け垣に囲まれた美しいガーデンルームの数々をご紹介していますので、ぜひご覧ください。 では、庭巡りを続けましょう。 屋敷を彩るテラスボーダー 小さなウッドランドガーデンの木々の間を抜けていくと、アーチの先は明るく開けていました。左奥に屋敷が見え、その脇に、植栽豊かなボーダーが広がっています。 「ここは、先日発売されたガーデン誌〈The English Garden(2019年7月号)〉の表紙になったんですよ。写真は早朝ですね。4月には、別のガーデン誌〈Gardens Illustrated〉でも紹介されました」 屋敷に沿って、敷石の小道と花壇が長く伸びています。石と石の隙間にも緑がのぞいて、ナチュラルな雰囲気。黄色の穂を立ち上げるエルサレムセージ(フロミス・フルティコサ)や、オレンジの花穂のエレムルス、フランネルソウ、ゲラニウム、ユーフォルビアなどが混ざり咲いて、花々の競演は、遠く、奥まで続いています。 イタリア風のレンガ造りの屋敷は、ヴィクトリア朝時代の1870年に建てられたもの。テラスガーデンの植栽が、この屋敷をより美しく見せています。屋敷を背に立つと、花壇の先に芝生があって、その向こうには、パークランド(草原)が遠くまで広がっています。 このテラスボーダーは、マットさんにとって「実験」を行う場。植物の性質を確かめたり、植物同士の組み合わせを試したり、新しいものに挑戦する場所です。たくさんの草花が混じり合う植栽を魅力的に保つためには、頻繁に植え替えを行うなど、こまめなメンテナンスが欠かせませんが、マットさんは労力を惜しみません。さすが、「世界一、忙しい庭」と呼ばれるグレート・ディクスターで修業したガーデナーさんです。 ゲラニウムにジギタリス、バーバスカム、セリンセ、オリエンタルポピー、エリンジウムなど、たくさんの植物が混じり咲くボーダー。それぞれが自由に茂り、ラフな雰囲気が心地よい楽しい一角。左側には、パーゴラがあります。 花壇の中で、オレンジがかった明るい色を添えていたのは、一重のハイブリッドティー、‘ミセス・オークリー・フィッシャー(Mrs. Oakley Fisher)’。これは、マットさんにとって大切なバラなのだそう。なぜなら、名園シシングハースト・カースル・ガーデンを作り上げた、ヴィタ・サックヴィル=ウェストから、マットさんの師匠であるクリストファー・ロイドに贈られ、その後、ロイドからマットさんに贈られたものだから。20世紀を代表する2人の偉大なガーデナーから、新時代を牽引するガーデナーの一人であるマットさんへと託されたバラは、イギリスの庭園史の流れを象徴しているかのように思えます。 マットさんは、師匠ロイドの著書だけでなく、イングリッシュガーデンの基礎を作り上げたウィリアム・ロビンソンや、ロマンチックな植栽を得意としたヴィタ・サックヴィル=ウェストが書き残した本からも、多くを学んできたそうです。 無数の植物がコレクションされたガーデンに圧倒されてしまいますが、まだ他にもガーデンがあるとのことで、次のエリアに向かいます。 対比を楽しむトピアリーメドウ 最初、車で入ってきた時に目にしたトピアリーメドウにやってきました。真っ赤なポピーの咲くメドウに、エレガントなスタイルに刈り込まれたトピアリーがいくつも立っています。赤と緑の色彩が鮮やか! メドウにはワイルドフラワーが咲きますが、時期によっては真っ白な花が咲き広がるなど、色彩が変化するようです。 「ポピーなどが咲く自然なメドウを、人工的なトピアリーと並べることで、対比の面白さを見せているガーデンです。トピアリーの形は、鳥のようにしたいと思っています」 刈り込まれたトピアリーの頂上付近をよく見ると、まだ整形されていないよう。この部分を伸ばして、鳥を形作るのでしょうか。 グレート・ディクスターにも似たスタイルのメドウガーデンがありますが、この庭は師匠のロイドに捧げるオマージュかもしれませんね。 トピアリーメドウの奥には、柵に囲われたニワトリ用のスペースがあって、キュートな小屋が建っています。じつは、これらのニワトリもガーデナーさんたちがお世話しているとのこと。この他に、ヒツジやウシも飼われています。 クラシカルな美しさ ホワイトガーデン どんどん進んでいくと、レンガ塀でぐるりと囲われた、大きなウォールドガーデンにやってきました。扉の向こうに、ホワイトガーデンが見えます。 このウォールドガーデンの中には、英国の有名なランドスケープデザイナー、トム・スチュワート=スミスが、前オーナーのために作った庭がありました。多年草を取り入れた、モダンな要素のある、個性的なデザインの庭だったそうです。 「しかし、私たちはこの場所を、例えば、ウィリアム・ロビンソンが作ったような、ナチュラルな、イングリッシュガーデンの伝統を感じるものにしたかったので、すべて作り直しました」 ウィリアム・ロビンソンは、19世紀後半に活躍した造園家。整形式庭園全盛期の、人工的な庭園が人気を博していた時代に、植物の自然な姿を生かした庭づくりを提唱し、現代に続くイングリッシュガーデンの基礎を築きました。ミックスボーダーやメドウガーデンなど、植物が思い思いに咲き乱れる、イングリッシュガーデンのナチュラルなイメージは、ロビンソンの時代に生まれたものです。 ホワイトガーデンは作り直してから6~7年経ちますが、3年程前に生け垣を足して、エリアを拡大したそうです。人の背丈以上に伸びた白花のバラや宿根草などが、奥に建つガラス温室を覆い隠すように茂っています。 ガーデンの途中に、再び水音の演出を発見。四角く組まれた石の中心から隙間へと流れ落ちる水が底で反響して、涼しげな音が周囲に響いています。 小さな噴水は、全部で4つ。景色に静かな変化を与えています。 エレガントな雰囲気のキッチンガーデン ホワイトガーデンの隣には、野菜や果物、切り花を育てるキッチンガーデンがありました。ツゲの低い生け垣に囲まれて、季節の野菜が整然と育っています。2つの白い構造物は、果樹を育てるための大きなフルーツケージ。他の庭園にあるものを参考に、マットさん自身がデザインしたものだそう。装飾性の高い白いケージときれいに刈り込まれた生け垣が、このキッチンガーデンに優美な雰囲気を与えています。 2棟のフルーツケージの中にあるのは、サクランボの木。収穫が2度できるように、早く実る木と、遅く実る木が、それぞれ1本ずつ植えられています。果実が鳥に食べられないように、ケージはぐるりとネットで囲まれています。 訪ねた時は、ちょうど、サクランボが実っていて、足元には、イチゴが広がっていました。2段ベッドのような、効率的な空間の使い方ですね。 「2010年にここをオーナーが買い、その2~3カ月後に私は雇われ、それ以来、すべての植栽やデザインを行ってきました。これまでいろいろ手を加えてきましたが、これからももっと変えていきます。プロジェクトがたくさん待っていますが、まだまだ新しい植栽法にチャレンジして、植え込みも毎年変化させていく予定です。日本は幾度か行きましたが、北海道の庭はまだ見たことがありません。クマに遭遇しないように気をつけながら、いつか行ってみたいと思っています」 マットさんは最後に、未来の庭への思いをそう話してくれました。 ホワイトガーデンとキッチンガーデンが接する地点には、向こうまでずっと続く、緑のトンネルがありました。花は終わっていましたが、キングサリのトンネルのようです。長さを尋ねてみると「80mかな」と、あまり気にしていない様子。黄金色の花が満開の頃、ここにはどんなゴージャスな景色が現れるのでしょう。 マルバリーズ・ガーデンズの庭巡りを終えて、同行した北海道上野ファームのガーデナー、上野砂由紀さんは、このように話していました。 「マルバリーズはインスタグラムで見つけたガーデンで、書籍などでも情報を得ていましたが、これが初訪問となりました。インスタでは分からなかったことも見ることができて、非常に勉強になりました。 日本では、一年草は植え替えることが定着していますが、宿根草については、一度植えたら抜いたり移動したりしてはいけない、という意識が強いですよね。(でも、ここでは宿根草も植え替えていて)イギリスに来る度、マットさんのような、果敢にチャレンジするガーデナーたちの姿を目にして、私も多くの刺激を受けます」 「帰国したらすぐに植え替えたいもののイメージも、もう頭の中にあります。よく、宿根草は植え替えちゃいけないんですか? と訊かれますが、色合わせに失敗したなとか、もう少し色を足したいな、と思う場合は、一年草でも宿根草であっても、根がダメージを受けやすいものを除いて、春や秋のタイミングで植え替えていくのは、庭にとって非常に大切なことです。マットさんも、庭の成長とともに植栽を変えていくことが、いちばん面白いことだと話していました。ガーデン雑誌でもまだ十分に紹介されていない最新のガーデン、見せていただけてよかったです」 イギリスの庭巡り、残念ながら2020年は中止となりましたが、またいつか訪れて、ガーデナーさんたちの交流によって庭が進化していく様子を、ガーデンストーリーでお伝えすることができたらと、強く願っています。



















