ハーブの香りのよさは誰もが知っていますが、なかでも濃厚な風味の違いから料理のプロであるシェフたちが厚い信頼を寄せているハーブ農場があります。それが約150種のハーブを年間を通じて生産している「ポタジェガーデン」。独自の栽培方法で味と香りを追求し、新たな人気品種も次々に生み出している、埼玉県久喜市の圃場を訪れました。
目次
ハーブのプロのシェフたちが使う濃厚ハーブ
料理や暮らしの中で、ハーブを使う人が増えてきています。バジルやローズマリー、ミント、オレガノ、タイムなどのキッチンハーブは、スーパーの野菜売り場でも目にするようになり、使ったことがある人も多いのではないでしょうか。ヨーロッパではハーブは料理に欠かせない素材の一つで、特にフランスでは「ブーケガルニ」「フィーヌ・ゼルブ」「エルブ・ド・プロヴァンス」といった複数のハーブを組み合わせた伝統的なブレンドがあり、ハーブの繊細な味や香りが重視されます。
そんなハーブに強いこだわりを持つシェフたちがこぞって魅了されるハーブ専門の農場が、埼玉県久喜市菖蒲町にあります。「ポタジェガーデン」は、創業33年のハーブ専門農場です。年間を通して約150種類のハーブを栽培しており、苗部門と、収穫したハーブを販売するフレッシュ部門があります。この豊富な品種数と強い風味が、「ポタジェガーデン」のハーブの魅力。ミシュランの星を有する超有名シェフなど、ハーブを頻繁に使うプロの料理人たちが「ポタジェガーデン」のハーブを自身のレストランで使っています。
「以前、フランスから来日したシェフが晩餐会に使う料理の一品に、どうしてもソレルが必要ということで、ポタジェガーデンに連絡が入ったことがありました。みんなで慌ててソレルの葉を収穫してお届けしたのですが、うちに聞けば大丈夫という信頼をプロから得られているのは、嬉しいですね」と話すのは、社長で農場長の平田智康さん。ハーブ特有の風味を最大限に優先し、土耕栽培にこだわってきました。
土耕栽培のきめ細かな管理で生まれる風味豊かなハーブ
ハーブには水耕栽培という選択肢もあり、棚状に栽培できる水耕栽培では省スペースで高収穫が望めます。しかし「ポタジェガーデン」では、ハーブ本来の風味を出すために土耕栽培にこだわり、長野や千葉へと圃場を広げ、さらに沖縄から青森まで広く生産を農家に委託。温暖地から寒冷地まで気候の異なる栽培地を持つことで、年間を通してあらゆるハーブを安定的に供給しています。ハーブ苗用の土はオリジナルのブレンドを2種類作り、生育過程によって変えたり、ハウスの湿度や水やりなども品種ごとに調整するなど、きめ細かな栽培管理を行っています。
長年のブリーダーとしての目が生きる親株選定
しかし、シェフ絶賛の風味の秘密はこれだけではありません。じつは、平田さんは「ポタジェガーデン」に勤める以前、種苗会社で育種に携わっており、長年のブリーダーとしての経験を生かして親株の選定を行っています。
「ハーブは種を播く方法と挿し木で増やす方法がありますが、親株にどれを選ぶかというところが重要です。植物は生き物ですから、同じ品種でも香り、味、丈夫さなどは一見、同じようで、すべて微妙に異なります。その微妙な個体差を見抜き、優秀な株を選抜して親株に選ぶことは、最初のスタート地点での大事な品質選定なんです」
親株の選定には、長年の経験に加え、味や香りに対する感性が不可欠ですが、平田さんに限らず「ポタジェガーデン」のスタッフは、自らハーブを暮らしの中で楽しみ、味や香りを熟知しているといいます。そして時には、スタッフから「こんなハーブが欲しい!」と新しい栽培品目の提案があることも。
「近年のヒットは、スタッフから提案があったイエルバブエナ・ミント。カクテルのモヒートに入れるミントです。ミントはスペアミントやペパーミントが有名ですが、モヒートの本場キューバでは、ミントといえばイエルバブエナ。ということで栽培したところ、大人気になりました。作家のヘミングウェイがモヒートを好んだことから、ラベルは『老人と海』をイメージした絵にしました」。
ハーブを愛して使い楽しむスタッフたちによる手作りタグ
じつは、「ポタジェガーデン」のハーブ苗に挿し込まれているプランツラベルは、すべてスタッフたちの手描き。それぞれに、おすすめの食べ方や使い方、またイエルバブエナのようにそのハーブの背景にあるストーリーなどを色鉛筆で描き、ハーブの持つ豊かな魅力を伝えています。
「みんなそれぞれに好みも違うし、使い方もいろいろだし、背景に文学や伝説などさまざまなものがあるから話が尽きないんですよ。ちなみに、僕はルッコラが大好き。サラダにして食べるんですが、ゴマみたいな味わいがあって、これだけで美味しい。あと、安いイワシを買ってきて、腹の中にタイムを挟んで塩をして焼くだけで絶品! ハーブって使い方が難しいと思われることもあるんですが、逆ですよ。誰でも簡単に料理上手になれるのが魅力。料理が得意じゃないっていう人にこそ使ってみてほしいです」。
ポタジェガーデン人気のハーブ5選!
実際、「ポタジェガーデン」で人気のハーブも料理で頻繁に使うものばかりです。
「ポタジェガーデン」で今、最も人気があるハーブを紹介していただきました。
- セルバチコ/ルッコラの原種といわれるハーブでルッコラより味が濃い。
- ディル/魚のハーブと呼ばれるくらい魚と好相性。カルパッチョが最高。
- パクチー/東南アジアやメキシコ料理によく使われる。独特の風味は好みが分かれる。
- バジル/ハーブの王様。よく使われるスイート・バジルのほか多くの品種がある。
- スペアミント/メントール成分が少なく風味が柔らか。
ハーブでより豊かな文化を作るのが目標
「ハーブはたくさんの種類があるうえに、ブレンドすると相乗効果で香りのハーモニーみたいなものが生まれるところも魅力。ちょうど香水の調香のように、ブレンド次第で香りが長もちしたり、旨みがグッと引き立ったり。美味しいものが好きだから料理の話ばかりになってしまいましたが、香りでリラックスできたり、リフレッシュできたり、ハーブの世界はとても奥深いんです。それに私たちも新しい品種に出合うことがまだまだあり、皆さんの暮らしに新鮮な空気を送れるユニークなハーブを追求し、新しいより豊かな文化を作っていくのが私たちの目標です」と平田さん。
ハーブと美味しいものへの探究心で、暮らしに新しい扉を開いてくれそうです。
Information
取材協力/ポタジェガーデン
会社HP https://www.potagegarden.co.jp/
通販サイト https://www.rakuten.ne.jp/gold/potager/
Credit
写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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