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北海道

北海道ガーデン街道を訪ねて<2023夏>十勝&富良野編
花も団子も楽しむ、初夏の北海道ガーデン街道 みなさま、ごきげんよう!どちらかといえば、花も団子も楽しみたいタイプの私です。いつもはレシピをお届けしていますが、今回は番外編で「北海道ガーデン紀行」をお届けします。というのも、少し早めの夏休み気分で、7月初旬に北海道に行ってきたから。目指すは「北海道ガーデン街道」です! 北海道ガーデン街道とは、人気ガーデンがある地域を結んだ観光ルート。上川町 〜 旭川市 〜 美瑛町 〜 富良野市 〜 十勝地方を結ぶ、約250kmの街道として2009年に命名された「北海道ガーデン街道」は、街道沿いに8つのガーデンがあり、さまざまな観光地をスムーズに巡ることができます。 食いしん坊な私。北海道名物スープカレーやザンギを楽しみながら、ガーデン巡りをしました。 ガーデンでは豊かな自然に咲く野の花々を満喫し、ドライブの車中からはダイナミックな小麦畑やジャガイモ畑などの丘陵風景を楽しみ、休憩がてら美味しいものを食べる。そんな最高の時間を楽しめるのが「北海道ガーデン街道」を巡る旅です。 今回の目的地は十勝エリアにある5つのガーデン。そのなかでも個人的にイチオシな3つのガーデンをご紹介します。夏の避暑旅行にもおすすめ。それでは出発進行〜! 穏やかな空気を纏う「六花の森」 はい! あっという間に北海道に到着です。まず1日目は帯広空港から車で15分ほどの、「六花の森」へ。受付で十勝エリアの5つのガーデンがお得に巡れる「とかち花めぐり共通券」を購入して、いざ出庭! 「六花の森」はマルセイバターサンドで有名な「六花亭」によるガーデンで、「六花亭と言えば」の包装紙に描かれた北海道の山野草を見ることができます。敷地内には美術館、ミュージアムショップ&レストラン、工場が併設されています。 六花亭の包装紙でひときわ目を引く赤い花。それがこのハマナス。 私が訪れた7月初旬は、ハマナスが満開。あたりに立ちこめる、フルーティーで艶っぽく甘〜い香りで夢見心地に。力強い北海道の大地を踏みしめる私の足、呼吸のリズムで身体に入るハマナスの香り、全てが一体となり「もしかして、アタシ! ハマナスになっちゃったのかも」という不思議な感覚を味わいました。 私の住む神奈川県では見かけない植物たちにご挨拶。自然豊かな北海道の大地で育つ植物は、とってもパワフル! 広い園内には7つのギャラリーが点在し、山小屋のような素敵な建物の中で、六花亭の花の包装紙を手掛けた坂本直行氏の作品などを見ることができます。 左はアイスサンド、右が出来たてホヤホヤのバターサンド。 さてさて、散策後は併設された素敵なカフェでひとやすみ♡ こちらは敷地内に工場があるので、なんと出来たてのマルセイバターサンドが頂けちゃう。いつものしっとりとしたクッキーに、ラムレーズンクリームの「一体感」があるバターサンドも大好きですが、ここで食べる出来たてバターサンドは全くの別物! クッキーがサクッとしていて、柔らかいクリームを包み込む感じは新食感! こちらでしか頂くことができないので、ぜひガーデン散策後のお楽しみに。アイスサンドも絶品でした。 「道の駅 なかさつない」にて。大きいマリーゴールド「アフリカンマリーゴールド」ですが、ついついアメリカンと書いてしまったのかしら。おおらかな訂正がいい感じ。 帯広空港に到着して、その足でこちらに伺いましたが、大正解! 早起きして忙しなく、バタバタと飛行機でやってきた北海道。「六花の森」は、そんな心拍数高めの状態から、リラクシングモードへと気持ちを切り替えるのにピッタリな場所でした。木陰も多く、小川の流れの音も心地よい、穏やかな空気を纏ったガーデンです。 ちなみに、「六花の森」からすぐの「道の駅 なかさつない」もおすすめ。美味しそうな採れたて野菜や卵、苗などが売っていました。旅のお供に道の駅、どこへ行くにも私のお決まりコースです。 家族みんなで楽しめる「十勝ヒルズ」 六花の森を後にした私は、そこから車で15分ほどのところにあるお花好きのおばあちゃんがつくった「紫竹ガーデン」に立ち寄ってから、一路「十勝ヒルズ」へ。「花と食と農」をテーマにしたガーデンとのことで、期待が高まります。ダンサブルでイケイケなミュージックがお出迎えしてくれる入り口にはショップ&カフェもあり、賑やか! 小躍りしたくなるような楽しい雰囲気。 こちらはその名のとおり、丘にあるガーデン。抜け感のある景色が爽快! 高低差を生かしたリズミカルな造りで、園内のさまざまな場所にイスやベンチが置かれていました。おかげさまで、何度も休憩しながら眺めを楽しみました。芝生にゴローンも最高です。 こちらのガーデンで特に印象的だったのが、ガーデナーの方が、ニコニコと楽しそうにお仕事をされていたこと。当たり前なことかもしれませんが、働く側が楽しんでいる職場っていいですよね。植物たちもとても綺麗にお手入れされて、イキイキと嬉しそうでした。 後から調べてみたら、十勝ヒルズのガーデナーの方々が発信しているインスタグラムがありました。毎日ガーデンや植物の様子をアップされていて、とても楽しい! 勝手にご紹介しちゃいます。 tokachihillsgardeners ガーデン入り口に併設されたカフェ。 園内には、入り口のカフェとは別にガーデンレストランもありました。私はあいにくお腹いっぱいだったので利用はしませんでしたが、ハンガリー人シェフが腕を振るう、十勝食材とハンガリー料理のマッチングが楽しめるそう。次回は堪能してみたい! Processed with VSCO with f2 preset 結局、散策後は小腹が空いてしまい、入り口のカフェで一休み。フルーティーなアイスティーとおにぎりを。他にも美味しそうなメニューがありましたが、おにぎりを売っているってのがいいですねえ。好感度高め。 こちらの「十勝ヒルズ」、独断と偏見の私視点で総合的にパーフェクト! 家族全員が楽しめる巨大な公園みたい。庭園やガーデンというと少し大人向けで、子どもやヤングは退屈してしまうこともありますが、こちらでは心配ご無用! ぜひ親子3世代で訪れてほしいガーデンです。 油絵のような木々が見られる「真鍋庭園」 2日目は「真鍋庭園」へ。なんとこちら、1966年から一般開放しているのだとか。しかも樹木の「輸入・生産・販売」会社が運営しており、60年以上かけて世界中から収集し続けている数千品種の植物コレクションが、どのように育つのかを確認できるショールームのような植物園とのこと。花のガーデンとは、また違った迫力です。 入り口ではケン君がお出迎え。隣には同じく木彫りのトミー君もいました。 この「真鍋庭園」は25,000坪の敷地内に、なんと「日本庭園」「西洋風庭園」「風景式庭園」の3つがつくられており、まるで異なる国を旅するように風景が変わっていきます。いろいろ楽しめて、欲張りな私にぴったり。 突如現れる日本庭園。奥に見えるのは、明治44年に当時の皇太子による北海道行啓のため帯広市中心部に建築された御在所。その後こちらに移築し、昭和43年に完成。 日本庭園のすぐ横には、赤い屋根がチャーミングな可愛い建物。オーストリアのチロルハウスをモチーフにしたもので、「真鍋庭園」の4代目オーナーが昭和52年に自身の住居として建てたそうです。一見チグハグな日本庭園と西洋風建築、全てが溶け込み和洋折衷。違和感はありません。 内部は非公開だそうですが、とにかくかわいい! こんなお家に住みたい。 日本初のコニファーガーデンとしても知られている「真鍋庭園」。コニファーとは針葉樹の総称で、マツ科・スギ科・ヒノキ科など、いくつもの科をまたいだ常緑性の針葉樹の総称です。日本でコニファーというと、オーソドックスな生け垣がポピュラー。最近では、ブルーアイスなどのコニファーを植えているお宅も多く見かけます。やはりコニファーは葉の色が美しい! 針葉樹のいい香りが漂い、自然と呼吸が深くなるのを感じます。ふと、木陰から視線を感じると思ったら、エゾリスが私を見つめていました。 同じグリーンでも、トーンがさまざま。まるで油絵のよう。もぅ、とにかくすごい!「わーっ!」とか「すごい!」とか、子どものような感想しか出てこない、なんて乏しい私の語彙力よ。とほほ。でもこれこそ、純粋無垢で素直な感動なのかもしれません。 私のお気に入りは、西洋ヤナギの木。すんごい大きいのよ。大きい私と比べても、この大きさ。これだけ大きい柳の下では「うらめしや〜」と幽霊が出ても目立たなそう。 散策のあとは併設されているカフェへ。イギリスのガーデンも大体カフェとショップが併設されていますが、こちらの「真鍋庭園」にも気持ちのよいカフェがありました。 ガーデンショップではさまざまな種類の苗が売っていて魅力的! ゆっくり散策しながら50分ほどのお散歩コースでした。しみじみと、あぁ本当に楽しかった。花よりも木がメインですが、とにかくスケールが別次元。 この後は、「真鍋庭園」の近所にあるスープカレー屋さんで舌鼓を打ち、「十勝千年の森」を満喫して2日目は終了。これで十勝エリアにある5つのガーデンをコンプリート。さて、残りあと1日です。やっぱりラベンダーが見たいなぁ。 少し足を伸ばして、ラベンダー香る富良野へ ファーム富田のラベンダー畑。 ってなわけで、3日目は少し足を伸ばして富良野へ。初夏の北海道といえば、ラベンダー。十勝エリアから富良野までは車で2時間ほど。日帰りでも十分に楽しめるドライブコースです。ラベンダーといえば「富田ファーム」。昨年は8月上旬に訪れ、満開の「ラバンジン」を楽しみました。今回は昨年よりも少し早い7月初旬、昨年は見頃が終わり刈り取り&蒸留されていたイングリッシュラベンダーが、今年は満開! 7月初旬。イングリッシュラベンダーよりも開花が少し遅いラバンジンは五分咲き。 お花も好きですが、特にハーブが大好きな私。一面のラベンダー畑を目の前に、テンションあげあげの心臓ドキドキ。動悸がするほどのラベンダーの香りに包まれて、ラベンダーハイ! あぁ幸せ。本来ラベンダーには「鎮静作用」があるのですが、このときばかりは「高揚作用」です。 フレッシュなラベンダーの束がこの時期だけ販売されています。 こちらでも、「ぎゃー、いい香り!」とか「すごいムラサキ!!」とか、口から出てくるのは 子どものような感想でした。だって、本当にいい香りで、一面ムラサキなんだもん。 大きな釜でラベンダーを蒸留する様子も見ることができます。 ラベンダーの蒸留の様子は、昨年こちらを訪れた際に書いた『ラベンダー香るハーブレモネード』の記事に詳しくレポートしていますので、こちらもぜひ。 締めは、ラベンダーを見ながらラベンダーティーを飲んで、ひと休み。 以上で私のサマーバケーション2023「北海道ガーデン巡りの旅」は無事におしまい、おしまい。北海道の恵みを盛大に楽しみ、大満足です。 英語の諺には、こんな一節があります。「Stop and smell the roses」直訳すると、「立ち止まってバラの匂いをかぐ」ですが、 私の意訳は「この世は急ぐ旅でもあるめぇし。たまには立ち止まり、花の香りで一服。リラックスすれば、今までとは違う景色が見えるはず♡ 」。みなさま、素敵な夏を過ごしてね! イベント情報 8月30日から東京「日本橋三越本店」にて「英国展」が開催されます。会場では、以前ガーデンストーリー記事でもご紹介した「ローズボウル式のアレンジメント」を実演します。ぜひお越し下さい! 「ティーカップを使ったローズボウル式アレンジメント デモンストレーション」 日時:9月8日 (金) 午後2時〜2時30分 場所:日本橋三越本館7階催事場 ※予約不要 気軽に季節を楽しむことができるローズボウル式アレンジメントで、お庭の草花を可愛く飾るとっておきのアイデアをご紹介します。
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高知県

高知県立牧野植物園は見どころ満載! 牧野富太郎の想いが詰まった園内おすすめスポットを一挙ご紹介!
牧野植物園の見所をもっと知る! 日本の植物分類学に偉大な足跡を残した牧野富太郎。その生涯をモチーフに描かれたNHKの連続テレビ小説「らんまん」が絶賛放映中です。 ガーデンストーリー編集部では放映に先立ち、2022年初冬、牧野富太郎の業績を顕彰してつくられた、高知県立牧野植物園を訪れ、一足先にその足跡をたどってきました。そして牧野博士と牧野植物園の関係を解説した第1回目に引き続き、今回は、その広さゆえに一度ではお伝えしきれなかった牧野植物園をクローズアップし、見どころやおすすめスポットを映像と共にご紹介したいと思います。 おすすめスポット① エントランスまでの道のり 日本最後の清流とも称される美しい四万十川をはじめ、日本一の消費量を誇る鰹料理など、見どころ食いどころ満載の観光王国高知県。さらに、牧野富太郎博士がクローズアップされたことにより、植物王国としての顔に注目が集まっています。 日本で確認されている植物のうち約40%が生育しているといわれる高知県の自然を体感できるのが、牧野植物園正面玄関からエントランスまでの約100mのアプローチ「土佐の植物生態園」。このエリアでは、高知県の豊かな植物生態を、山→川→海辺と、段階的に体感することができます。 山野草が好きな方の中には、この場所で半日過ごす方もいるのだとか。まだエントランス前ですよ! こんなところにも、牧野植物園の「自然のままの植物の生態を知ってほしい」という本気度が伝わってきます。 おすすめスポット② エントランスと本館建屋 エントランスを抜けるとすぐ、右側にボタニカルショップ nonoca(野の花)と、レストラン「アルブル」(現在は新店舗C.L.GARDENとして南園に移転し、ここではカフェ・アルブルとして営業中)があります。 ボタニカルショップ nonocaでは、季節の花の鉢植えや、牧野博士の植物図をあしらった牧野植物園オリジナルグッズ、高知産の土産物などを購入することができます。 私のイチ推しは、スコットランド沖合のアイラ島に自生する22種の希少な野生のボタニカルを手摘みで採取してつくられた蒸留酒(ジン)「THE BOTANIST」。 一般的なジンの持つハーブ感というよりは、いくつもの花の香りが複雑に交わるような、フローラルアロマが特徴。お酒の強い方は、ロックで心地よいアロマをダイレクトに味わってほしいですが、弱い方はトニックウォーターで割ってジントニックにして楽しんでください。 ちなみに、商品名のBOTANISTとは植物学者のこと。牧野博士を顕彰した牧野植物園のお土産としてはもってこいですね。 BOTANISTをはじめアルコール等の飲料類は、取材時の nonocaから植物研究交流センター 3Fの牧野ミュージアムショップ「サクラ」に販売場所が移っているためご注意ください。 おみやげ類は売り切れるものもあるため、先に購入して散策中は園内のコインロッカーに入れておくのがおすすめです。コインロッカーは本館nonoca、植物研究交流センター 3Fサクラ、共に入り口付近に設置されています。 さて、本館建屋を中央に進むと、空に向かって存在感を示しているのはタイワンマダケ。 ある意味、エントランスを抜けてきたお客様を最初にお出迎えするのがタイワンマダケだ。 タイワンマダケは1896年に牧野博士が東京帝国大学(現在の東京大学)の依頼で台湾を調査した際に発見した台湾固有種で、1916年に「台湾植物図譜」の著者、早田文蔵博士が発見者の牧野博士にちなんで、学名の種小名をmakinoiとして発表しました。原産地の台湾では工芸品の材料としても使用されています。 建築家内藤廣の意匠が反映された独特の傾斜の屋根、タイワンマダケ、土佐の空、この3つが揃うとじつに美しい。 おすすめスポット③ 植物研究交流センター3Fレストラン「C.L.GARDEN」 C.L.GARDENは「子どもの頃に憧れた木の上の小屋のようなレストラン」をコンセプトに、ココット(鋳物ホーロー鍋)のハンバーグランチや、ふもとの市場で仕入れたお魚ランチなど、旬の野菜をふんだんに使ったシェフ自慢の地産地消の洋食メニューが魅力。そんなC.L.GARDENから、夏限定のメニューの情報が届きましたのでご紹介します。 窓の向こうのガラス張りの建物は温室棟。 夏季限定ドリンク ベリースカッシュ ブルーベリーやストロベリーなど数種類のベリーが味わえるスカッシュ(炭酸ジュース)です。 管理栄養士曰く、ベリーに多く含まれるポリフェノールには、暑さによる疲労の回復効果がある「抗酸化作用」、血管を拡張し熱中症の症状を改善する「血流改善作用」、熱中症に起因する炎症の予防と罹患後の緩和に効果のある「炎症抑制作用」という3つの効能があり、熱中症への対策として有効であるとされています。 夏の園内は無理して歩くと大変なことになるので、こまめな休憩を心がけ、美味しく体にもよいベリースカッシュを熱中症対策にお役立てください。 ブルーレモネードスカッシュ 定番のレモネードスカッシュにブルーシロップが加わり、見た目にも涼しげな夏らしいドリンクです。土佐の空に溶け込む南国のような色彩は、映えること間違いなしです! ティーソーダ アイスティーシロップを炭酸で割ったドリンク。レモンを添えた、さわやかな味わいが暑い日にぴったりです。 余談ですが、牧野博士が育った佐川町は日本産の紅茶「土佐和紅茶」の産地でもあるんです。残念ながらこちらのティーシロップには使用されていませんが、渋みが少なくマイルドな味わいの土佐和紅茶、お土産にいかがですか? 夏季限定フードメニュー シェフ特製ハンバーグのココットランチ 玉ねぎの旨みたっぷりの自家製ハンバーグメニューは幅広いお客様に愛されているメニューです。メイン(スープ・サラダ・ハンバーグ)にライスが付きます。 鶏ひき肉と野菜のカレー 人気のカレーは、これ目当てに五台山を登ってくるお客さまもいるほどファンが多い逸品です。 キッズプレート 小学生までのお子様が注文できるお子様ランチ。思わず大人も頼みたくなる、美味しいがつまったプレートです(ふりかけごはん・ミニスープ・フライドポテト・鶏のから揚げ・ミニハンバーグ・フルーツ)。 <レストラン内外観写真提供:高知県立牧野植物園 メニュー写真提供:C.L.GARDEN> 「C.L.GARDEN」【場所】植物研究交流センター 3F【営業時間】9:00~17:00モーニング 9:00~11:00(オーダーストップ 10:30)ランチ 11:00~15:00 (オーダーストップ 15:00)カフェタイム 15:00~17:00(オーダーストップ 16:30)【座席数】約60席【TEL】088-802-6951メニュー詳細はこちらから おすすめスポット④ 回廊 本館と展示館を結ぶ170mの回廊は、周辺を四季折々の草花が彩り、遠くに高知市街が望めるため、映え必至のフォトスポットとしても大人気です。 冬季の回廊は晴れた午前中に歩くと、乾いた空気が景色をより一層美しく魅せる。 初夏の回廊は生命力溢れる緑に満ちている。 <写真提供:高知県立牧野植物園> 取材時(12月)は園を彩る花が少ないながらも、ツワブキの黄色い花が回廊に彩りを添えていました。冬季にしか出会えない花の中で、最も見たかったもののひとつがバイカオウレン。牧野博士ゆかりの花で、その葉が牧野植物園のシンボルにもなっています。 バイカオウレンを見たい方は、ぜひ冬の牧野植物園を訪れてみてください。この回廊の途中、展示館への曲がり角の直前右側の石垣の上に目をやると、可愛らしいバイカオウレンがあなたを待っています。 <写真提供:高知県立牧野植物園> 「まきのQRガイド」を使おう! 園内の植物の多くは、解説が記載されたプレートが立っているため、その植物の情報を知ることができます。特に牧野博士にゆかりの深い植物には、プレートによる説明プラス、お手持ちのスマホでプレートに表示されているQRコードを読み込むことで「まきのQRガイド」につながり、より詳しい情報を得ることができます。積極的に使えば「まきの通」になれるかも。 おすすめスポット⑤ ふむふむ広場 ふむふむ広場は植物を五感で感じるエリア。今回は、展示館近くにあるハーブ園エリアを散策しましたが、ちょうどお手入れをしていた園の管理スタッフ渡辺さんに出会い、ここでの楽しみ方を伝授していただきました。 その極意はなんと、ここに植えられているハーブは、遠慮せずに葉をちぎったり花を摘んだりしてください! とのこと。園内の植物の葉や花をむしり取るなんて、ちょっと気が引けますが、実際に植物に触れ、香りや手触りを楽しみながら植物と触れ合うことができます。特にお子さんの情操教育に役立ててほしいと、高知の植物をこよなく愛する渡辺さんは語っていました。 ただし、この楽しみ方はハーブ園に限ってのこと。他のエリアで植物の葉をちぎることは、固く禁じられています。 こんなにも綺麗な花を咲かせていると、葉をむしるのも少々気が引けるが・・・。 おすすめスポット⑥ 展示館とスエコザサ 回廊の終点、展示館では、さまざまな企画展が催されています。取材時は、牧野博士の生誕160年の特別企画展「牧野博士と図鑑展」という、博士の研究の歩みを紹介するブースが設けられており、そこには博士直筆の植物図などが展示されていました。中でも感銘を受けたのは、博士直筆の「植物随記」。いわゆるメモ書きと察しますが、160年以上前に植物のことをこんなにも克明に記した博士直筆のノートを間近に見ることができたのは大変貴重な体験でした。 ちなみに、展示館では現在、写真家菅原一剛「MAKINO 植物の肖像」展が行われています(2023年10月1日まで)。牧野博士の標本となった植物一点一点の、写真家菅原一剛氏による「肖像写真(ポートレイト)」が展示されているので、また違った視点から牧野博士の偉業を堪能することができると思います。これから牧野植物園に行かれる方は、ぜひ展示館に足を運んでみてはいかがでしょうか。【詳細はこちらから】展示館では期間限定の催しが行われているため、事前にスケジュールをチェックして行かれることをおすすめします。【イベントカレンダーはこちらから】※「企画展」の部分が展示館の催事情報です。展示館中庭には水盤が設置されていて、夏場は水面を吹き抜ける風が冷気をもたらしてくれます。 自宅にお庭がある(もしくはこれから作る)方はデザインの参考にもなるのでは。 一歩下がって眺めると、鏡のような水面に映る木々や空が、周囲の景色と相まって、まるで絵画を眺めているような気分にさせてくれます。フォトスポットとしてもおすすめです。この水盤の水は雨水を循環させたもので、昨今、資源循環型社会が声高に唱えられていますが、20年以上も前に環境保全とデザイン性を融合させた建物を設計した建築家内藤廣氏の先見性には感嘆を禁じ得ません。展示館手前の回廊脇には、牧野博士が、前年他界した妻の名にちなんで命名したスエコザサを見ることができます。 スエコザサは昭和2年(1927年)に牧野博士が仙台市内で発見しました。博士が名付けた数ある植物のうち、愛妻の名を付けたのがなぜこのササだったのかは諸説ありますが、仙台市野草園の元園長でスエコザサ研究の第一人者でもある上野雄規氏によると、実は牧野博士はササの研究にもかなり注力しており、ササの葉のしなやかでありながらも凛とした力強い姿(実際ササは冬にマイナス10〜マイナス20℃になっても芽を残して生き残る)に、妻壽衛さんの姿を重ね合わせたことが大きな理由ではないかとされています。そして、研究に理解を示し、身を挺してサポートしてくれた妻の分まで、今後より一層研究に力を注ぐという強い意志を、妻の名を命名することで自他に示したかったのではないか、と語っています。まぁ、実際のところは、博士のみぞ知る…ですが。 いずれにせよ、愛妻を失ったときの博士の喪失感は、察するに余りあります。風にそよぐスエコザサの乾いたざわめきは、まるで博士の悲しみが音になったようでした。このような背景を持つこのスエコザサ、来園されたらぜひご覧になってください。そして在りし日の牧野夫妻の姿に想いを馳せてみてください。といっても、NHKの連続テレビ小説を視聴されている方は、あの二人の姿で想像してしまうでしょうね(笑)。ドラマではそのあたりがどう描かれるのかも楽しみですね。 おすすめスポット⑦ 板根 板根(ばんこん)という根をご存じですか? 板根とは、巨木の横走する根の背面全体が肥大化して、まるで屏風のようになる現象を指します。熱帯多雨林※でよく見られ、表土が浅く、土中の酸素や栄養が乏しい環境で、呼吸や栄養吸収を補い、また自らを支えるためにこのように根を発達させると考えられています。ここ牧野植物園でも、北園と南園をつなぐ通路を横切る「お遍路道(四国霊場を巡るための道)」を下ると、ツブラジイという四国や九州で見られるブナ科の樹木の板根を見ることができます。上り下りそれぞれ1分ほどの所要時間ですが、映像でも分かるように、ここを歩くのは正直運動靴でないとキツいですね。園内を散策していても大きな看板があるわけではないので、意外と見逃されがちなこの板根。こんな奇怪な根っこ、多分見たことないと思うので一見の価値アリです! 【POINT】 ※熱帯多雨林とは、年間の平均気温が25℃以上で年間降水量が2,000mmを超える多雨な森林を指します。高知県は日本でも有数の多雨地帯で、年間の降水量が山間部だと3,000mmを超え、東部では4,000mmを超える場所もあります。 おすすめスポット⑧ 温室 温室の中はまさに南国! 異国情緒漂う棟内は、人気の観葉植物のほか、サボテン、蒐集家が多いことでも話題の塊根植物、童話に出てきそうな水生植物などなど、非日常を感じさせてくれる植物たちがひしめき合う空間。ちょっとしたジャングル探訪気分にさせてくれます。 特におすすめなのは、温室に入ってすぐのドームと高い壁の間を抜けていく通路。映像の中でも触れていますが、宮崎駿氏のアニメ作品『天空の城ラピュタ』をご存じの方は、まるでラピュタの城内に入り込んだかのような錯覚を覚えます。もちろんスタジオジブリと温室は関係ありませんが、劇中で重要な役どころを担う「ロボット兵」がどこかから現れそうな鬱蒼とした雰囲気は、同作品が好きな方なら思わずニヤリとしてしまうのではないでしょうか。 取材後記 私の今回の牧野植物園初来園は、取材(仕事)ということもあり、牧野博士のゆかりに絡めて物を見がちでしたが、牧野博士に対する予備知識ゼロで来園しても、見る人が決して飽きないルート設定がなされています。植物が、自然が好き、という動機だけでも十分に広大な植物園を楽しむことができると思いました。でも結局はね、歩き回っていると牧野富太郎のことをもっと知りたくなるのですよ。 私の場合は広報課の担当者が付きっきりで案内してくださったため、そういう胸中に至りましたが、植物と牧野博士の学び、というところでは単独で回るのには限界があると思うので、そう頻繁に行けない方は、同行ガイドが園内を案内してくれる有料の「園内ガイド」を申し込むことをおすすめします。 【園内ガイドの詳細はこちらから】 ただ、ガイドのアテンドは10名以上からとなっているので、お友達を集めて行くのが一番ですが、SNSで当日の同行者を募るのもアリかもですね。 高知県立牧野植物園、私が近くに住んでいたら、おそらく毎週末通うことでしょう。植物の知識も増え、とにかく起伏の多い園内を歩くことでよいダイエットにもなるという、一石二鳥ですからね。またぜひ訪れたい、そしてこんな植物園が地元にある近隣住民が羨ましい、そんな取材でした。
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ドイツ・マンハイムで開催中! ドイツ最大のガーデンショーをレポート! 1
ドイツ最大のガーデンショー BUNDESGARTENSCHAU(BUGA) Daniela Baumann/Shutterstock.com 現在、私はヨーロッパのガーデンを巡るツアーを一人開催中です。厳しい暑さが続く夏の間、ガーデニングでは乗り越えるべき困難がいろいろ発生しますが、実際にガーデンを訪れてみると、この気候変動に対応するためのさまざまなアイデアやシチュエーションがたくさん見つかります。 さて、ドイツではただいま、国内で最も大きなガーデンイベント、BUNDESGARTENSCHAU(BUGA)が開催中です。BUGAは、2年に1度、6カ月にわたり、ドイツのどこかの町で開催されるガーデンショー。オランダで10年に1度開催されるフロリアードにこそ及びませんが、こちらもかなり盛大なイベントです。2023年は4/14〜10/8の日程で、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州のマンハイムで開催されていて、これまでに81万人以上が来場しました。 今回は、このガーデンショーをレポートしたいと思います。 BUGAを目指してマンハイムへ マンハイムの街。Antonina Polushkina/Shutterstock.com 私の生家はミュンヘン近郊のバイエルンにあり、今回の目的地であるマンハイムまではなかなかの距離があります。特に、鉄道を使えばなおさらです。ドイツの鉄道会社は日本ほど予定通りに運行しないこともあり、より大変ですが、それもまた旅の醍醐味ですよね。というわけで鉄道での行程を選び、ローカル線を乗り継いで到着した、人生で初めてのマンハイム。BUGAがなければ、生涯訪れることはなかったかもしれません。 天気にも恵まれた青い空が広がる日、26℃という過ごしやすい気候のもと、開場から30分ほど経った午前9時半ぐらいにエントランスに到着しました。ちょうど学校が数週間の夏季休暇に入る直前の時期だったため、集まっていた学生や幼稚園児のグループの数に圧倒されてしまいました。ちなみにBUGAは14歳以下の入場料は無料。若い世代に来てもらうためには、とてもいいアイデアです。 3歳から18歳ぐらいまでの子どもたちが数百人、教師やサポーターと共にBUGAにやってきていました。学期末の体験先としてBUGAを訪れ、熱心に生き生きとした体験をしているのは素晴らしいことですね。もっとも、遠足なので、どうしても行かなくてはならないのかもしれませんが。みんな飲み物やお菓子をいっぱいに詰めたバックパックを背負っていました。まだメインゲートに入る前から、小学4年生ぐらいの子どもたち30人ほどのグループが「Essen Essen Essen…」、つまり「食べたい!」と叫んでいるのを聞きました。日本では、これほど強く自分の要求を表明する姿は想像しづらいかもしれませんね。 入り口を入ってすぐに、芝生に広がる大きな木陰に幼稚園児たちが座り、朝食を楽しんでいる様子が見えました。ちょうどいいタイミングでBUGAを訪れたからこそ見ることができた、のどかなワンシーンです。私は子どもが大好き。ガーデナーとしても一人の母親としても、子どもたちを自然や緑と結びつけるのは、私のライフワークです。エントランスエリアにはたくさんの花壇があり、色とりどり、高さや葉の形もさまざまな宿根草が溢れんばかりに植えてあります。古い大きな木や広々とした緑の芝生が広がる背景と相まって、息を呑むほど美しい光景でした。 BUGAの2つのエリア ルイーゼンパークとスピネッリパーク BUGA 2023の花々やガーデンのディスプレイは、大きく2つのエリア、ルイーゼンパーク(LUISEN PARK)とスピネッリパーク(SPINELLI PARK)に分かれ、さらにエリアごとにテーマが設定されています。広大な面積のこのガーデンショーでは、2つのエリアはおよそ2kmも離れているので、どちらから見るかで印象が変わってくるかもしれません。今回、私はルイーゼンパークのほうから会場に入りましたので、ここからはルイーゼンパークの様子をレポートします。 さまざまなエリアのあるルイーゼンパーク 私にとって、ルイーゼンパークからの入場は大正解でした。豊かな緑に、よく馴染んだ構造物や花々は、穏やかな気持ちにさせてくれます。このルイーゼンパークは、1975年にもBUGAの会場となった場所。BUGA 2023にあたり、中央エリアの一部を改修して、リニューアルして利用されています。 さまざまな宿根草が育つ花の玄関ホール グラス類やサルビアなどが育つ宿根草ボーダー。 丈夫でナチュラルな雰囲気、昆虫にも人気の三尺バーベナは、夏のガーデンに欠かせない宿根草の一つ。Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Mann, Dirk 約1,400㎡の「花の玄関ホール」には、130種以上の宿根草とさまざまなグラス類が植えられています。宿根草ボーダーの植物の多くは、昆虫が好むもの。昆虫にとって優しく、限られた資源を保全することが意識された植栽になっています。 昆虫に優しい花々を集めたガーデンの一例。最近のドイツでは、こうした昆虫に配慮したガーデンが増えています。Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Jutta Schneider/Michael Will Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Goldbach, Karin この美しいボーダーガーデンを通り過ぎると、続いて地中海ガーデンが現れます。 バカンス気分を味わえる地中海ガーデン 地中海ガーデンには、イタリアやスペインの雰囲気を強く感じさせる背の高いイトスギが。レンガの壁と温室の前に植えられた、この印象的な2〜3mほどの木により、ガーデンに構造的な美しさが加わります。 地中海ガーデンにぴったりのイトスギ。剪定次第でトピアリーに仕立てることもできます。Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Strauss, Friedrich イトスギの間には、少しコンパクトな1~1.4mほどのキョウチクトウが、白やソフトピンク、赤の花を咲かせています。ガーデンのあちらこちらに植えられたシュロの木が広げる大きな葉が優しいアクセントに。木々の合間をつなぐ草花も、ラベンダーなど昆虫が好む花々が選ばれ、豊かに育ちます。 エキゾチックな雰囲気満点のシュロの木。Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Strauss, Friedrich そして、ここで見逃せないのが暑さ対策。土壌からの過度な水分蒸発を防ぐマルチング材として、赤や茶色系統の砂利が利用されていました。グラベルガーデンは、夏にふさわしいガーデンスタイルの代表ですね。 地中海ガーデンに欠かせないラベンダーは、グラベルガーデンとも相性抜群。Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Lauermann, Andreas 地域の特色が見られる温室 地中海ガーデンに隣接する温室は、いくつかの気候ゾーンに分かれていて、それぞれ特色のある展示がされています。例えばその一つ、 “南アメリカ・ハウス”では、南アメリカ原産の植物たちが育つハウス内に熱帯のチョウが飛び交い、さらにマーモセットや爬虫類、カメなど、地域の小動物が数種飼育されています。ハウスの中では、植物はもちろん、こうした動物たちも間近で観察することができるのです。 温室の隣にはレストランがあり、白、黄、ピンク、赤など、色とりどりのが咲き誇る池に沿った公園の風景を眺めることができます。高さ217mのテレビタワーを見ながら、ゆったりとしたランチやディナーを楽しむのにもぴったりの場所です。今回訪れた7月は、ちょうどスイレンが満開を迎えていました。 ちなみに、ルイーゼンパークの中には何年も前に建てられた素敵な茶館があり、鯉が泳ぐ大きな池や美しいカメリアガーデンを眺めるオリエンタルで落ち着いた雰囲気の中で、ゆっくりとお茶をいただくこともできますよ。 植物以外にも見どころがたくさん 水族館や動物園の人気者、フンボルトペンギン。Eric Gevaert/Shutterstock.com 温室を出てさらに進むと、ガラスに囲まれたプールエリアがあります。ここはなんと、屋外でフンボルトペンギンを見ることができるスペース! 水に飛び込む瞬間や泳ぎ回っている可愛い姿が見られます。隣の湖に浮かぶ「ゴンドレッタ」と呼ばれる黄色いシェードがついたボートも、ペンギンのビュースポット。公園の小さな湖を周回する約1.8kmのコースを、およそ50分かけて航行します。パドルもないこの小さなかわいいボートは水中ロープでつながれていて、誰も何もしなくても魔法のように動き出すのです! 今回は時間の関係で乗船できませんでしたが、ボートに乗る子どもたちや大人たちは、見るからにリラックスして幸せそうで、とてもうらやましかったです。 ほかにもたくさんの鳥がいる広々としたエリアもあり、高さ16mまで飛ぶコウノトリをはじめ、数羽の鳥を見かけました。ファームエリアでは、ニワトリや羊、ポニーなどがいて、よく手入れされた屋外や屋内のスペースで触れ合うことができます。子ども連れの家族に人気のスポットで、長時間過ごす人もたくさん。美しい自然に囲まれ、動物たちとこれほど近くで触れ合えることはとても楽しく、興味深い体験になるはずです。 コウノトリ。Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Fotohof Blomster 移動可能なレイズドベッドは人気アイテム BUGAの会場内を結ぶゴンドラ。Ingrid Balabanova/Shutterstock.com 会場内を結ぶゴンドラ乗り場のすぐ近くには、背の高い木々や低木の間に「パークファーム」がありました。ここで目を引いたのは、移動可能なカラフルなレイズドベッド。コンパクトなパレットサイズで、上部に木製のケースが付いており、フォークリフトや専用のリフターで簡単に移動できます。こうしたレイズドベッドなら、どこにでも必要な場所に簡単に設置できますね。このアイテムは最近ドイツで人気があるようで、ホテルから公園までの道のりでも、道路脇や他の公園などにこうした植栽をたくさん見かけました。 友好都市との絆の証も ルイーゼンパークの中には、マンハイムの友好都市の記念庭園もあり、およそ800㎡のエリアに個性豊かな12のガーデンが集まっています。こうした庭園は、友好都市との絆の証になりますね。 友好都市の庭では、それぞれの地域における典型的なライフスタイルを表した庭づくりを見ることができます。このエリアが完成したのは、2022年夏。マンハイムと姉妹都市の若い庭師、学生、見習いガーデナーが参加した国際サマーキャンプ中に行われました。このサマーキャンプの参加者が、たったひと夏の間にこれほどのガーデンを作り上げたのは驚くべきことです。植物がルイーゼンパークに馴染むまでに与えられた時間は、基本的にこの夏の間だけですが、ガーデンにはベンチや椅子など、座れる場所も用意され、公園全体には、くつろいだり、休憩したり、リラックスするための場所がたくさんある、素敵な空間が出来上がりました。きっとこの庭は今回のBUGAだけでなく、長い将来にわたって保存され、親密な絆の象徴となることでしょう。 Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Strauss, Friedrich このように、植物やガーデンは、ユニークかつ素晴らしい友好の証になります。自宅の庭で育つ植物を友人にプレゼントすれば、月日とともに成長する思い出になりますし、ガーデニングのアイデアや経験をシェアするのも素敵なコミュニケーションになりますね。 ルイーゼンパークではこのように、ガーデンに関するさまざまなアイデアや組み合わせの実践例を見ることができます。7月、8月と、ヨーロッパで夏のピークを迎えるこの時期は、ガーデンを訪れるのにぴったりの季節です。 BUGAのエリアは非常に広大なので、今回はご案内するのはここまで。もう一つのスピネッリパークは、ルイーゼンパークから7分ほどゴンドラに乗った場所にある、約60ヘクタールの庭園です。次回はこちらのガーデンをご紹介しましょう。
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オシャレに飾る!! 多肉やサボテン、観葉植物、エアープランツなどインテリアプランツが豊富な園芸店「プロ…
東京都内最大級のガーデン専門店を訪問! いろいろな植物が満載!! 東京都世田谷区にある都内最大級の園芸店「プロトリーフ」。東急田園都市線二子玉川駅で下車し、沿線の坂道を10分ほど歩いた右手にガーデンアイランドがありました。 プロトリーフは、それぞれの階ごとにテーマ別で植物を置いています。( )内がテーマです。 ⚫︎2階(育てる):花苗、観葉植物、樹木、プロトリーフ製品の土、鉢、雑貨⚫︎1階(飾る):小さめの観葉植物、鉢、吊り鉢、ファニチャー、樹木⚫︎B2階(集める):PROTOLEAF SELECTIONS 特殊樹形の観葉、大型樹木、サボテン、多肉、エアープランツ、作家鉢 今回はB2階を取材しました。 緑で覆われたビビッドなグリーンの入り口から店内に入り、そこを抜けると、通路左手にさまざまなカラーの植栽を見渡すことができます。 階段を下りた先の店内には、観葉植物や色とりどりの多肉が並んでいました。このフロアの担当は主任の菊地翼さんです。植物について説明していただきました。 斑入り葉や変わった模様の観葉植物が勢ぞろい まずは観葉植物のコーナー。可愛らしい斑入りのパキラや葉脈が白っぽいアンスリウム、一風変わった模様のモンステラが印象的です。多肉植物のコーナーも赤、黄、黄緑とさまざまな色合いのものが並び、にぎわいがあります。 多彩なカラーを楽しめる多肉植物。 可愛い斑入りのパキラ。 葉脈が白っぽいアンスリウム。 斑の入り方がおしゃれなモンステラ。 幹なのか根っこなのか、不思議な形の塊根植物? サボテン類もたくさんあり目を楽しませてくれましたが、中でも目を引いたのは見るも不思議な形をした塊根植物。塊根植物(コーデックス)とは、茎や根が肥大化して塊状となった植物で、ユニークなフォルムがインテリアプランツとして人気です。 幹がずんぐりしている塊根植物のひとつにパキポディウムがあります。 幹がずんぐりしているパキポディウム(最上段右端を除く)。 一風変わった形のユーフォルビアやネーミングが面白いアガベも 見慣れない細長い形をしたユーフォルビアも独特の魅力を放っていました。ユーフォルビアには低木状のものやタコのような姿をしたものなど、さまざまなタイプがありますが、柱形や球形など、塊根状のものは見応えがあります。 最上段の右から3つがユーフォルビア。 今話題の葉がポタッとして幅広く、トゲトゲがある「アガベ」にも興味をそそられました。「姫厳龍(ひめげんりゅう)」や「地獄猫(じごくねこ)」といったインパクト強めなネーミングも気になります。寿命は10年ほどで、暑さや寒さに強く、初心者でも育てやすいことからアガベファンが急増中。長い付き合いができるので、まるでペットみたいに可愛がっている人も少なくないとか。 鉢植えのアガベ。 アガベ(姫厳龍:ひめげんりゅう)。 アガベ(地獄猫:じごくねこ)。 土がなくても育つ植物! エアプランツにビカクシダ さまざまなエアプランツの品種がたくさん並びます。 エアプランツのコーナーにもたくさんの品種が並びます。エアプランツとは、主にティランジア(ハナアナナス属)という植物の種類を総称した呼称で、葉の表面から水分を吸収し、樹木や岩などに着生して成長する植物。土がなくても空気中の水分で育つことから、この名前で呼ばれています。スカポーサやジュンセアなどの種類があり、ロゼッタ状に伸びる品種が多い一方、一方向に伸びていく種類もあります。原産地はアメリカ南東部から南米あたりです。 イオナンタは水牛の頭骨と並んでディスプレイしてありましたが、お互いにフィットしていて独特の世界観が作り上げられそうです。 水牛の頭骨とイオナンタ。 近年大人気のビカクシダは、鹿の角のような葉のフォルムが存在感のある観葉植物です。インドネシア、太平洋諸島、オーストラリアなど南国が原産なので、屋外では春夏秋は日陰に、冬は室内の明るく暖かいところに飾るとよいでしょう。 根に水苔を巻いたビカクシダ。 鹿の角のようなビカクシダ。 株元に張り付くように出た「貯水葉」と、鹿の角のような形の「胞子葉」で構成されており、水苔で包み込んだ根っこをワイヤーなどで板に固定し、壁掛けにして楽しむスタイルが流行中。胞子葉は成長と共に形状が変わってくるので、生きた絵画のように飾って楽しめます。成長期の春〜秋は水苔の表面が乾いていたら水をやり、冬は表面が乾いてから2〜3日経過してから、水を入れたバケツに漬けるか、シャワーでしっかり湿らせましょう。 南アフリカやマダガスカル産で、実生株(国内で種から育てられたもの)の多くはトゲがたくさんありますが、原産地からの輸入株の多くはトゲが少なく、子どものお腹のようにぽっちゃりした容姿が可愛らしいですね。このように、幹が独特の形をしているのが特徴で、室内空間でも楽しめますが、屋外で育てたほうがいい形に成長します。春から秋に成長し、秋になって葉が落ちてきたら水やりを控え、真冬は断水して冬眠するという植物で、動物のモグラみたいで面白いですね。 個性的な作家鉢や3Dプリンターで作った鉢もある? 規則正しい突起物がある作家鉢。 東南アジアにありそうな芸術的な作家鉢。 鉢も植物に負けないほど種類がたくさん。リブがついたようなもの、突起物が規則正しく並んだものなど芸術的な鉢もたくさんありました。 3Dプリンターで作られた鉢もあり、現代らしさを感じました。幾何学的でシンプルなデザインは、ミニマルなインテリアやシンプルモダンなアウトドアリビングに似合いそうです。 3Dプリンターで制作された鉢。 リビングの前の屋外に多肉植物や観葉植物を飾るスペースを作ってみよう! それでは、リビングと繋がるデッキなどの屋外スペースに、アウトドアリビングを作り、多肉や観葉植物を飾る提案をしましょう。 リビングと繋がるデッキなどの屋外スペース。 4本の支柱を立て、四方に梁を回して四角いアウトドアリビングを作ります。イラストのように、屋根にはシェードを掛け、壁は可動できるルーバー付きにして、採光を取りやすくしたり、風通しをよくして多肉植物や観葉植物の居心地のよいスペースにします。ルーバーの代わりに安価な簾(すだれ)を使ってもナチュラルでステキですね。 壁際にはいろいろな多肉植物を飾る棚を作ります。棚の下部は鉢や小物などのガーデングッズを収納するスペースにして機能的に。ガーデンファニチャーなどを置けば、居心地のよいアウトドアリビングとしても活躍するスペースになることでしょう。 このセカンドリビングをDIYで作るのは難易度が高いので、エクステリアメーカーの商材を使い、工事はエクステリアの設計施工店に依頼するか、ホームセンターのエクステリア担当の方に相談してもよいでしょう。 ここで植物が心地よく過ごすための注意点をあげておきます。 多肉植物や観葉植物は日当たりがよいところを好みますが、品種によっては直射日光により葉焼けを起こし、それが原因で枯れてしまう場合があるため、夏にかけて天気のよい日にはシェードの開け閉めで、光の調整をするよう心がけましょう。 風通しが悪いと湿気が多くなり、湿気を嫌う多肉植物にとっては根腐れを起こす原因にもなるため、壁面は可動できるルーバーにして風通しをよくします。リビングにも風を通せるので、室内の植物も大喜びです! ルーバーはクリアでなく半透明なものにすると直射日光を弱めることができます。 冬場の寒さに耐えられない植物もあります。多肉植物はおおむね11月下旬から(気温が10℃以下になってきたら)室内に移動しましょう。鉢が重い観葉植物は、移動が楽な「植木鉢台キャスター」を利用するとよいでしょう。通販やガーデンセンターなどで購入できます。屋外のセカンドリビングと室内のリビングは床レベルを同じにすると、鉢物の移動がしやすくなります。車いすなどの移動にも便利です。 ぜひ、皆さんも「ガーデンアイランド」で面白い植物を見つけて、室内や屋外にステキ空間を創造してはいかがでしょうか?
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フランス

パリのサステナブル・ガーデンショー「ジャルダン・ジャルダン2023」
パリのガーデニングの最新情報を知るイベント 日本と同様、6月はバラ、シャクヤク、アジサイと、次々に花が咲きあふれる季節。フランスでもガーデンイベントが集中する時期です。 2023年はコロナ明け2年ぶり開催だったパリのアーバン・ガーデンショー、ジャルダン・ジャルダン。18回目を迎える今年は例年のリズムを取り戻し、6月最初の週末(2023年6月1~4日)にチュイルリー公園の一角で開催されました。 テーマは「豊穣でレスポンシブルなリソース・ガーデン」 今年のテーマは「環境に負荷をかけない」「人にも他の生き物にも寛容な、資源としての庭」また、「人が原点回帰して元気を取り戻せるような庭」といったイメージで、エコロジーやサステナビリティを強く意識したガーデニングという今日的なメッセージがダイレクトに伝わってくるものでした。 庭のオーナメンタルなアクセントにもなる個性的なデザインのトレリス。 これまでも、都市緑化・アーバンガーデニングに的を絞った構成が、小規模なガーデニングショーならではのピリリと気の利いた存在感を放ってきましたが、今年はさらに自然環境・生物多様性保護に貢献する、現在と未来へ向けてのアーバン・ガーデンのあり方を模索する示唆に富んだ内容になってきました。 フレンチ・ガーデンの伝統を表現する幾何学的なトピアリーをアクセントにした端正な庭も健在。 大(50~200㎡)小(15㎡)合わせて三十数個のショーガーデンと、80ほどのガーデニング関連の出展者たちのプレゼンテーションに共通している、サステナビリティやエコロジーへの配慮は、もはやパリのアーバン・ガーデニングのマストになったといえるでしょう。 人と自然に優しいガーデンのかたち 「責任感があり、自然にも人にも優しい豊穣な庭」というキーワードをもとに展開された庭は、都市のヒートアイランド現象の蓄熱を抑える緑の働きや、土壌の大切さ、水の大切さを振り返るようなコンセプトのものが多く、積極的にリサイクルやリユースを利用したデザインや、温暖化に対応した水を大量に必要としない丈夫な植物にスポットを当てたドライガーデンなどが見られました。また、ワイルドフラワーと、オーナメンタルかつ食用にもなるハーブなどのエディブルな要素を分け隔てなくランダムに植栽に取り入れつつ、懐かしい田舎の庭を思わせるようなガーデンなど、全体的にはナチュラルな雰囲気ながら、さまざまなスタイルの庭が提案されています。 フェ・ドモワゼル(ドモワゼルの妖精)の庭(Demoiselle VRANKENがスポンサー)。 そのなかで、メインガーデンのデザイン大賞に輝いたのは、庭づくりの匠、フランク・セラによる作品でした。フランスの田舎の祖父母の家の庭をイメージした、レトロで新しいナチュラル・ガーデンです。エディブルな植物とワイルドフラワーが交じりあって彩る、丸太で構成された小道を通って庭に入り、中央の池の上を渡っていくと、涼しい日陰の小さな小屋や、ひっそりメディテーションしたくなるようなシーティングスペースが待っています。 ナチュラルな田舎の風景を思わせる、ワイルドフラワーが彩る丸太の小道を通って、池を渡り、小さな小屋へ。 ポタジェの野菜やハーブを収穫して皆で賑やかに食事したり、植物に囲まれてゆったりとくつろいで英気を養う…人の暮らしと自然が温かに共存するこの庭で、池の水は生命の象徴として取り入れられていました。 スモール・アーバンガーデン大賞が新設 涼やかなシェードの下に、食事が楽しめるテーブルコーナー、ゆったりくつろぐためのコクーンのようなシーティングと、アイデアが盛りだくさんの小さなガーデン。 また、新たに創設されて注目を集めたのが「スモール・アーバンガーデン大賞」です。15㎡という狭小な敷地は、一般的なパリのバルコニーやテラスなどにもすぐ応用できるリアリティのある面積。「小さな空間に大いなるアイデア」という選考基準をもとに、書類審査された9つのガーデンが、実際に会場に設置されました。木材などの自然素材、リサイクルやリユースの素材を上手に使って、狭い中にもそれぞれの個性が生きる素敵なスモール・ガーデンが並びます。 「スモール・アーバンガーデン大賞」に選ばれた「出現 Apparaître」。 大賞に選ばれたのは「出現 Apparaître」というタイトルがついたガーデン。リサイクルのガラス素材などがうまく組み合わされて、透明感と反射の加減で空間を広く軽やかに見せる工夫がなされています。 「スモール・アーバンガーデン大賞」に選ばれた「出現 Apparaître」。木材とガラス材を多用した空間の構成が面白い作品。植栽はシンプルに、ワイルドなグリーンで。 今年のシャネルはオレンジ・ガーデン さて、見逃してはならないのが、毎年楽しみにされているシャネルのガーデンです。ハイブランドの世界観を表現するガーデンは、いつも上品かつスタイリッシュ。今年はシャネルのパルファンの5つの基本の香りの中から、ビターオレンジ(橙、Citrus aurantium)をメイン・テーマにしたガーデンです。 ビターオレンジの若苗が、南仏のオレンジ畑の風景を彷彿とさせます。 イル=ド=フランスをはじめ、フランスのほとんどの地方では露地栽培が不可能なオレンジの木ですが、シャネルのパルファンのために、温暖な南仏の契約農家で、環境に配慮した無農薬栽培で大切に育てられた花が採取されているそうです。 ブース内ではビターオレンジから作られる香料ネロリとプチグランを嗅ぎ比べたり、香料や香水の製造過程について学べます。 かつては盛大だった南仏のビターオレンジの栽培も、化学的な香料の発展で現在は大幅に減少してしまっています。シャネルでは契約農家とともに、700本のビターオレンジを新たに植樹して無農薬栽培のオレンジ畑をつくっています。畑の造成は、南仏で昔から使われている石壁制作の技術を専門学校の生徒たちに伝授する機会にするなど、伝統技術の継承の場にもなっています。 子どもたちのためのワークショップの特設スペースもとってもおしゃれで、参加できる子どもが羨ましい。 ガーデニンググッズもカッコよくサステナブルに 大手ガーデンセンターによるガーデニング超初心者さん向け定植体験ブース。バジルやラベンダーなど、たくさんの植物の中から好きな苗を選んで植木鉢に定植。家に持ち帰れます。 ガーデニンググッズにも、やはりリサイクル、リユースといったサステナビリティを大切にしたデザインが見られ、会場のさまざまな製品のプロトタイプのトレンドになっていました。最新のリサイクル技術などを取り入れ、かつ自然な素材や伝統的な技術にも目を配った、エコロジカル・ガーデニングに欠かせないお洒落なプロダクトを発見するのも、会場での楽しみの一つ。 こちらは軽さがポイントのテキスタイル製のアウトドア用コンテナーシリーズのプロトタイプ。10年以上の耐久性があり、かつ何度かのリサイクルが可能な素材が使われています。 最近はすっかり一般化してきた素焼きのオヤ(Ollya)。水やり回数を抑えることができる優れもの。 パリのハチミツ業者のブース。時期により蜜源は変わるが、写真は世界的なハチミツコンクールで入賞したものだそうで、さすがに一際味が濃くて美味しい。 また、庭といえば、養蜂を趣味にする人も多いフランス。パリのハチミツ業者も出店。農薬などの使用がほとんどないパリのほうが、農業地帯よりもよいハチミツが採れる、のだそうです。時期によって蜜源が異なるので、味も軽いものから複雑で深いものまであり、中には世界ランキングでも評価の高い美味なパリ産ハチミツも。 憧れのクラシカルな温室 そして、ヨーロッパらしさが溢れているのが、おしゃれな温室です。大小さまざまなサイズ展開で、展示されている色に限らず、カスタムメイドもできます。庭に温室があれば、寒さに弱い植物の冬囲いや播種にも便利ですし、または、お茶を飲むスペースなど、部屋が一つ増えたようにも使えます。お値段は張りますが、いつかは欲しい、憧れの温室です。 無農薬有機栽培の野菜・ハーブ苗 無農薬栽培で育てられた伝統野菜や希少品種の野菜苗たち。 さて、サステナビリティへのこだわりは、苗販売にも行き届いていて、無農薬・有機栽培で育てられたじつに多彩な野菜の種子と、この季節すぐ植えられる苗も揃っています。話を聞くと特に伝統野菜に力を入れているそうで、例えば、フランスの家庭のポタジェ(菜園)で栽培するのに一番人気のトマトなどは、それだけでも何十種類もあります。 自家栽培の固有種、伝統種の野菜や花の種がよりどりみどり。 食文化が豊かなフランスでは、野菜や果物の品種にもこだわって栽培する人が多い様子。私も一般的なガーデンセンターではほぼ見つからないカクテル・キュウリの苗を発見、お買い上げできて大満足でした(翌日さっそくポタジェに定植、収穫できる夏になるのが楽しみです!)。 すべてはご紹介できなかったのですが、会場では、こだわりのガーデナーもガーデニング初心者も、誰もが満足できる展示・物販がどこかに用意されています。しかもフランスの6月は、野外にいるだけで気持ちのよい季節でもあり、大変満足度の高いイベントになっています。 セイヨウボダイジュの並木はカフェサロンに早変わりして、くつろぐ来訪者たち。 さらに、会場のチュイルリー公園は、花が咲き始めたセイヨウボダイジュの並木道が美しい、彫刻作品なども充実した有数の歴史的庭園。ちょうどバラの季節でもあり、会場を出てからも、美しい庭の世界の延長をうっとり楽しむことができるのも、いいところ。今後も注目していきたいイベントです。 チュイルリー公園、花が咲き始めたセイヨウボダイジュの並木や、バラが植栽されたクラシカルな美しい庭園空間が広がります。
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神奈川県

【話題のスポット】森の中の北欧が香るヒーリングガーデン 『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』
フラワーアーティスト ニコライ・バーグマンが考える誰もが心癒やされるガーデン デンマーク出身のフラワーアーティスト ニコライ・バーグマンさん。ボックスに花を敷き詰めた‘フラワーボックス’を生み出し、国内外に多数のフラワーブティックを展開する、今をときめくフラワーアーティストです。 20年以上日本に暮らし、切り花の世界で培った感覚を“ガーデン”という形を用いて新たに表現。アーティストとしての次なるステージを、ここ箱根でスタートさせました。 エントランスから見上げた風景。きらきらとこぼれる木洩れ日に心躍る。* 9,000坪もある手つかずの森を極力そのまま生かし、自ら仲間と開墾してつくった『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』。9年の月日を費やし、一昨年2022年4月にオープンしました。緩やかな傾斜が続く敷地内では、散策路に自生する植物に触れ、鳥のさえずりを聴き、新鮮な空気が味わえます。自然を求め、多くの人々が、訪れています。 箱根はアジサイの名所ですが、園内の約2,000株ものアジサイは、バーグマンさんが植えたもの。7月中旬が見頃。 バーグマンさんは、かねてより「日々得られるインスピレーションを形にして永続的に残したい」という思いを抱きながら、それにふさわしい場所を探していました。そんなとき、箱根の土地を大切に扱ってくれる人を長年探していた地主さんに出会ったことで、庭づくりの計画が進展。そして、9年の歳月を費やして完成したのが、『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』。「身近な自然を新たな視点で味わってもらいながら、僕の大好きな箱根ももっと知ってもらいたいんです」とバーグマンさん。 デンマークの国土は平らで、最高地点でも海抜わずか173mほどしかないため、日本の連なる山々は新鮮で、海抜600mの箱根もとても魅力的でした。この起伏に富んだ地に、デンマークの豊かな自然や慣れ親しんだ近所の農園、家族の庭など、心の原風景を映し出し、日本とデンマークの自然を融合させています。 敷地中に生い茂る約2mもあるクマザサを刈って設けた平らな広場。デンマークのアウトドア家具ブランド『SKAGERAK(スカゲラック)』のファニチャーを点在させているので、ここでランチを食べたりお茶を飲んだりしても。* 風景をデザインするだけでなく、サステナブルであることも大切にしています。例えば、伐採したクマザサは短くカットして、園路をマルチングするチップとして活用。雨後に水がはけやすいほか、ふかふかとして歩きやすいなど利点がいっぱいです。 倒木の幹は花台に、枝葉はガーデン内のオブジェの材料として活用しています。バーグマンさんの豊かな発想は、生命の循環を意識することからも生まれています。 切り株や古い木の根元に生えるキノコたち。自然な森の姿に出会える。 「ここには、箱根特有の色や香りがあり、独自の自然が息づいているんです。ユニークな生態系の保全を第一に、自然と融合できる機会を提供しつつ、癒やしと新しい発見、インスピレーションを得られるような場所を目指しています」。 枯れ枝をスクエアにまとめたものと、ツゲのトピアリーをリズミカルにレイアウト。見せ場となっている造形的なシーン。 左/木のツルを繭のような形に編んで吊したオーナメント。不思議な雰囲気を醸している。中/折れた木の枝を束ねて作ったオブジェ。右/伐根したクマザサの根をボール状にまとめたオブジェ。 左/梅の剪定枝を園路脇の柵に活用。ところどころに芽吹いた葉が見られる。中/枯れ枝や剪定枝を鉢植えのマルチに活用。サークルを描いて施すところが、やはりデザイナーならではの小技。 右/流れるように並べられた本小松石。アーティストらしい小技があちこちで見られる。 パビリオンが感じさせるフラワーアーティストが紡ぐ洗練 自然に親しみながら木漏れ日の輝く園路をたどると、都会的な雰囲気を放つパビリオン(グラスハウス)が出現します。黒いフレームが北欧の雰囲気を漂わせるガラスの温室。バーグマンさんが気に入っているデンマークのメーカー『JULIANA社』のものです。ブラックは森の中で悪目立ちしない色。 最初に出会うショップパビリオンでは、バーグマンさんがセレクトした草花を販売しています。初夏は大好きなアジサイをメインに、白・ブルー・紫・ピンクの花が、『SKAGERAK』のファニチャーとともにディスプレイされていました。 マメツゲのトピアリーが、都会的なデザイン性を加えている。 パビリオン内には、見頃を迎えたあでやかな鉢植えが、効果的に配置されています。これらは盛りを過ぎても切り花のように捨てられることはなく、ほかの場所で養生し、また見頃になったらディスプレイに出されます。このスタイルをバーグマンさんは「モバイルガーデン」と称し、飾るだけでなく、植物の健やかな栽培・生育にも意識を向けています。 一番高い場所にある見晴らしのよいバレービューパビリオン。ウッドデッキも斜面側に設置されています。 イベント時などは、バーグマンさんの豪華なアレンジが見られることも。 北欧の洗練が香る心にくい演出をチェック! パビリオンだけでなく、園内あちこちに散りばめられたデンマークらしいデザインも見逃せません。最も効果的なのが、フォーマルな印象が強いツゲやコニファーのトピアリー。一般的には野趣に富んだ空間ではほとんど用いられませんが、あえて異なるスタイルのものを導入することで、自然な風景を洗練されたシーンに昇華させることができるのです。これをさりげなくやってのけるのは、バーグマンさんだからこそ。クマザサが茂る原生林に見事に溶け込ませています。 傾斜の急な場所に設けた蛇行する階段は、グラスハウスに合わせてブラックにペイント。北欧らしいしつらい。 園路の分岐点にもゲッケイジュのトピアリーやツゲのコンテナが。箱根の自然に不思議とマッチしている。 大きなコンテナがシンメトリーに置かれた、新たな空間への入り口。自然と相反するスタイルも、コンテナの色形・質感をうまく選べば、こんなにも素敵によくなじむ。 園内には、『SKAGERAK』などのファニチャーが各ポイントに設置されています。手触りのよいチェアでくつろぎながら、自然の息づかいを感じてみましょう。 北欧風インテリアのカフェで、こだわりのメニューを味わって 散策のあとは、エントランス奥にある『ノム ハコネ(NOMU hakone)』で、オーガニックコーヒーとこだわりのスイーツを。心地よい陽光が差し込む空間には、デンマークの老舗家具ブランド『フリッツ・ハンセン(FRITZ HANSEN)』や、照明ブランド『ルイス・ポールセン(LOUIS POULSEN)』など、スカンジナヴィアスタイルを取り入れ、北欧の雰囲気の中でくつろぎの時間を楽しむことができます。 北欧風のブラックの建物の中は、あたたかみにあふれる素敵なしつらいが。 カフェでは、ガーデン内の倒木を切り出してバーグマンさん自らデザインした、無垢のテーブルを使っています。すべての人や物に感謝するバーグマンさんの精神が、あちこちで見られます。 「箱根の素材をふんだんに使用したデンマークらしい料理」をテーマに、箱根周辺で育った野菜や果物を取り入れたサラダやスイーツを提供。国産小麦にこだわったパンは自家製酵母で発酵させて、毎日キッチンで焼き上げています。ここだけの季節のメニューを、ぜひ味わってみて。 またすべてのメニューが、ガーデン内のベンチや広々としたカフェパビリオンでいただけます。バスケットに入れてもらえるので、森の中でピクニック気分を楽しんでも。 カフェ内には、『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』でしか購入できないさまざまなオリジナルグッズが揃う。また、プリザーブドフラワーのボックスも販売。 カフェ横にも、たくさんのツゲのトピアリーが。きれいに並べすぎないところがポイントで、濃紺の背景に美しく映える。 アジサイが咲き誇る入り口からの坂道。アジサイは、南青山にあるニコライ・バーグマンさんのフラワースクールで花材として使った株を植えたもの。無駄をせず、循環させることを徹底している。* フラワーアーティスト ニコライ・バーグマンの感性と箱根の自然が共鳴した『ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ』。ここにつながるすべてのものを大切にする思いと、自然を守ることを核とした姿勢で育まれています。雨の日も楽しめるガーデン。ぜひ、四季折々に彩られる美しい風景を見に訪れてみてください。 ニコライ・バーグマン(Nicolai Bergmann)デンマーク出身のフラワーアーティスト。20年以上日本を拠点として活躍し、現在、国内外に多数のフラワーブティックを展開している。日本の伝統、文化、風土から得られる和のインスピレーションとデンマーク(洋)スタイルとを融合させたデザインに定評がある。 【Garden Data】 ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ神奈川県 足柄下郡 箱根町 強羅 1323-119TEL: 0460-83-9087https://hakonegardens.jp/開園時間:10:00~17:00休園日:水曜日 (水曜日が祝日の場合は開園し翌木曜日を休園)アクセス:箱根登山電車・「強羅駅」下車→箱根登山バス・観光施設めぐりバス「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」バス停下車すぐ。「強羅駅」からタクシーの場合約5分。車の場合は、御殿場ICから国道138号→国道733号経由(22km)で約40分。箱根湯本から国道1号→強羅駅→国道733号経由(10km)で約25分
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【フランスの庭】ル・ヴァストリヴァル、プリンセスの庭
プリンセスの庭の始まり 庭づくりの始点となった、コテージガーデンの雰囲気がある建物周辺と、針葉樹にクレマチスが這うフォレスト・ガーデンへの入り口(写真右)。 前回ご紹介したヴァロンジュヴィル=シュル=メールの近隣に位置するこの庭は、第2次世界大戦後の1950年代に家族と共にフランスに移り住んだモルダヴィア(現モルドバ民主共和国)のプリンセス、グレタ・ストュルザ(Greta Sturdza 1915-2009)によってつくられました。かつて作曲家のアルベール・ラッセルの住居だったという、荒れ放題になっていた小さな家と12ヘクタールの土地を気に入って購入した彼女は、ここを「四季を通じていつでも美しい庭にする」と決意します。 ガーデニング成功のカギ フォレストガーデンは、さまざまな樹木や草花の協奏曲のよう。よく見ると、植栽の足元はみな枯れ葉でマルチングされています。 家の周辺からマツやカシなどが生える林の方に向かって、ぼうぼうの草地を整備するために、プリンセス自ら生い茂ったシダを抜きとるところから始まった庭づくり。まったくの独学ながら、それまでに住んだモルダヴィアとノルウェーでの経験から体得していたことが、彼女の庭づくりの大きな指針となりました。それは、若木の定植を丁寧に行うことと、マルチングを欠かさないこと、この2つです。枯れ葉やコンポストなど、現場にある自然の材料で行うマルチングは、土壌を保護しながら豊かにし、乾燥を抑え、冬には防寒にもなる優れものです。 さりげなく庭の片隅に積み上げた枯れ葉などは、そのままコンポストになる。 美しき調和、庭風景の秘密 高木からグラウンドカバーまで、それぞれの層がしっかり確保され、重なるように景観が作られている。 そして、絵画のような圧倒的な美空間を構成する秘密は、プリンセス・ストュルザが自ら開発したという、高木からグラウンドカバーまでの植物層を明確に分けつつ重ねる構成と、透かし型の剪定です。 雨が多く湿度が比較的高い、また海沿いの強風が吹き付ける土地柄から、庭園での倒木の危険を避け、樹冠に風と光を通すための樹木の剪定は必要不可欠でした。 剪定で形作られたシャクナゲの大木の幹は、独特な美しい造形を見せている。 樹冠部分を十分に透かし、枝の重なりを段々状に整えるような剪定によって樹形が作られます。そのことで、庭の構成に美的なタッチが加わり、さらに生まれるグラウンドカバーから灌木類、中木、高木へときれいな層の重なりのグラデーションが、この庭ならでは。どこから見ても美しい光景を描き出しています。また、しっかり剪定された樹木がある層の下に密に植栽されたグラウンドカバーの植物は、マルチングと併せて、雑草の繁殖を防ぐという意味からも有用です。 和庭園で行われている透かし剪定ともまた違った、オリジナルな剪定により形作られた樹木が庭のデザインのポイントになっている。 四季の美をつかさどる植栽コレクション 森に自生する丈夫な花、ドロニクを群生させた一角は、春らしいナチュラルな華やかさ。 植栽の選定もこの庭らしい魅力が現れているポイントです。プリンセス・ストュルザの植物選びは、徹底した自らの審美眼と、自然に寄り添うものでした。庭好きの例に漏れず、彼女の植物へ向けられた情熱には並々ならぬものがありました。シャクナゲ、ツツジ、ビバーナム、アセビ、ミズキ、ウツギ、アジサイ、マグノリアなどは土地柄によく合い、彼女の美意識にもかなって、それぞれたくさんの品種が植えられ、庭園に彩りを加えています。 さまざまな針葉樹も庭のデザインポイントに。 例えば園内に700本以上が植えられている、大型のものでは10m以上にもなるシャクナゲは、開花時期の異なるさまざまな品種を選ぶことで、12月(Christmas cheer)から翌年9月(Polar Bear)まで次々に咲き継ぎます。花や葉の造形的な美しさとともに芳香も放ち、庭の四季を彩ります。 オレンジベースのツツジと銅葉のヤグルマソウ。 プリンセス・ストュルザは、気に入った品種はどんどん取り入れ、何年かかけて観察し、必要があれば場所を変え、結果、自分の望む庭のイメージに合わないものは容赦なく撤去するというスタイル(他の庭園愛好家に分けるなどして)で、庭の植物を選定していきました。この地の自然の気候の中でよい状態で生き残る丈夫さを必須条件とし、温室などの設置はしていません。 フォレストガーデンを抜けて、開かれた傾斜地へ続くエリア。さまざまな雰囲気の植栽の島々が芝地に連なっている。このエリアでは維持管理だけでなく、現在もプリンセスが育成した庭師たちにより新しい作庭が続けられている。 特定の植物を多品種網羅するという植物学的な意味でのコレクションではなく、野生種も希少な栽培種も含め、あくまで彼女の審美眼に沿って長年選ばれてきたことで、庭のための魅惑的な植物が膨大にコレクションされました。 こちらも、フォレストガーデンを抜けて、開かれた傾斜地へ続くエリア。 コレクションには希少な植物が多数含まれていますが、希少性よりも大切なのは、自らの庭のイメージと全体の調和です。オークやシラカバ、ヒイラギなどの自生の樹木は積極的に生かしながら、エキゾチックすぎる竹類やユーカリや木生シダなどは、ノルマンディーらしい風景にならないとして取り入れていません。逆に、冬の庭の見所となる針葉樹類の珍しい品種などは積極的に取り込んでいます。 オーナメンタルな樹木を積極的に利用。 また、「四季を通じて美しい庭」というコンセプトにとって“冬にも美しい庭”を実現することが特に重要な部分です。落葉樹の葉がすべて落ちた冬季に、開けた空間で何を見どころとするか。それは、常緑樹の姿や装飾的な風合いを持つ樹木の幹の色や形、質感などで、それらが冬の庭を魅力的にするということをフランスでいち早く広めたのも、プリンセス・ストュルザの功績の一つといえるでしょう。 プリンセスの贈り物 ノルマンディーの地での庭づくりに当たっては、95歳で亡くなる2009年まで、庭のコンセプト作り、植栽のプランニングばかりでなく、芝刈りや雑草取り、花がら摘み、樹木の剪定に至るまで、ガーデニング全般をプリンセス自らが率先して行っていました。 こちらはハンカチの木やシラカバがアクセントに使われ、グリーン〜ホワイトのグラデーションが爽やか。 また、庭園を公開し始めてからは、見学者の案内も自らが中心となって行ったプリンセス・ス トュルザ。彼女はお気に入りの植物について熱意を込めて見学者に語り、惜しみなく知識をシェアし、フランスの園芸愛好家たちや造園・園芸界に多大な影響を残すことになります。雇った庭師の数はそう多くなかったといいますが、そこは庭主自らが実際の庭仕事を知るガーデナーだったからこそ。実用的でローコスト・ローメンテナンスのナチュラル・ガーデニングを実現させるための知恵が、そこかしこに組み込まれている庭にもなったのです。 現在は遺族が所有する12ヘクタールのこの庭園は、プリンセス自らが庭仕事をレクチャーした4人の庭師たちによって維持管理が続けられています。ノルマンディーの地にやってきた北方のプリンセスの審美眼と植物への情熱、弛まぬ努力が生んだ、四季を通して美しい珠玉の庭園。機会があれば季節を変えて、何度でも訪れてみたいものです。 春先は美しい新緑に魅了されるこのエリア、秋には日本とはまた違った紅葉の風景が見られるはず。
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【フランスの庭】ノルマンディー珠玉の庭園「モルヴィルの庭」を訪ねて
ノルマンディー地方の名園「モルヴィルの庭」 クリビエ邸の近くに位置する「オレンジの庭」コーナーは、イエロー〜オレンジ色の植栽に美しく彩られたアンチームな空間。 ノルマンディー地方、英仏海峡を望む断崖絶壁のあるヴァロンジュヴィル=シュル=メールの村は、冬も比較的に温暖かつ降雨量が多いという庭づくりに恵まれた環境ゆえか、フランスでも選りすぐりの名園が集まる場所として知られています。 その中でも、いつか訪れてみたいと思い続けていた庭が、フランス造園界の貴公子と呼ばれたパスカル・クリビエ (Pascal Cribier)が40年以上をかけてつくり続けた自邸モルヴィルの森の庭です。 フランス造園界の貴公子パスカル・クリビエ アメリカ原産の球根花カマッシアは、この地にもよく合い、手がかからずに美しく、クリビエもお気に入りだったとか。背景には満開のビバーナム。 パスカル・クリビエ(1953- 2015)は、モデル、仏ナショナル・チームに所属するカートのレーサーなど、造園家としては異色の経歴の持ち主。アートと建築を学んだのち、パートナーのエリック・ショケが1972年にモルヴィルの森の土地を購入したことがきっかけで、独学で庭づくりを始めます。富裕層が主な顧客であったことから造園界の貴公子と評され、また、施主との意見が合わないとさっさとプロジェクトから手を引くこともあったため、自由分子と呼ばれることも。 庭づくりにあたっては、自然に対峙しその意を汲みつつ、細部にわたって自身の美意識を貫きました。ルイ・ベネシュとともに手がけたチュイルリー公園の大規模改修プロジェクトなど、数多くの優れた庭園デザインが国内外に残っています。 モルヴィルの森の庭 かつては放牧地と森だった、急傾斜で断崖絶壁の海へと下っていく10ヘクタールの土地は、クリビエにとって実験の庭となります。急斜面ゆえに、トラクターなどを乗り入れることができず、庭づくりはクリビエとショケ、そして2人を支えた地元出身の庭師ロベール・モレルの3人によって、すべて手作業で行われました。3人亡き後の現在は、クリビエの弟ドニ・クリビエが庭園を継承し管理に当たっています。 下枝は残しつつ大胆に透かし剪定された独特のフォルムの松。 海への眺め、空への眺め 下枝は残しつつ大胆に透かし剪定された独特のフォルムの松。 樹齢40年以上の見事な姿で来訪者を魅了するクリビエらが植えた松の木々は、日本庭園とはまた違った形で厳しく剪定された、独特のフォルムが印象的。剪定は真向かいの海からの強風による倒木を避けるために必須であったとともに、独自のフォルムを形作る手段ともなりました。また空への眺めを確保し、光を通すために積極的に木々の枝を透かす剪定手法が、独自の美的な景観を作り出しています。 クリビエ邸の居間の窓からの海に向かう見事な眺望も、もともとあったものではなく、彼らが切り開いて作り出した景観。一刻一刻変わる海と空の光の表情は、一日見続けても飽きません。 自宅窓から海へ向かう眺めは、天候によって、また時間によって、さまざまに表情を変える。 悪条件もチャームポイントに すり鉢状の渓谷に続く芝地。しっかり形作られたオークの木がアクセントになっている。 丸みをつけつつ刻まれた溝は、手作業で作られた排水のための手段だが、見た目も美しく面白い効果を出している。 夏には野の花が溢れる草原を越えると、オークの大樹がある、すり鉢状に傾斜した芝地に至ります。粘土質の土壌ゆえに水はけが非常に悪いという条件を改善するために、手作業で刻まれた溝が、そのままデザインのアクセントとなっているのも見事なセンスで感動します。 植物へのこだわりから生まれるデザイン モルヴィルの庭では、在来の植物も栽培種の植物も、それぞれの特性に合う場所を選んで共存しています。植物の特性と土地の条件を見極めて適材適所に配置することは、その植物がしっかり育つためにも、その後のローメンテナンスのためにも必須。実地で庭づくりを学んだクリビエの植物への造詣は深く、「庭づくりをより完璧なものにするために」と協力を依頼された植物学者も驚くほどだったといいます。植物をよく知ることが、庭のデザインにとっても非常に重要だということを体得していたのでしょう。 海に向かって芝地を下る途中にあるカツラの木。枯れ葉の香りからカラメルの木とも呼ばれるが、フランスでは珍しい。 例えば、日本では方々に自生するシャクナゲやツツジ、カメリアなどは、フランスでは希少で栽培の難度が高い花木です。しかし、多雨に加えて酸性が強い土壌を利用して積極的に庭に取り入れた結果、いまでは見事に育った姿が見所の一つになっています。 日本には自生するお馴染みのカメリア。フランスでは難度の高い希少な花木として大人気。 カメリアやツツジがラビリンスのような一角を作っていたり、また、森の中にポツポツと植えられたカメリアが既存の森の植物たちと自然に調和した風景も魅力的。一見、自然のままに残したように見える森エリアの散策路には、自らのお気に入りのグラス類をさりげなく補植してボリュームを調整するなど、細かに手が入っています。 シラカバの枝葉を透かして柔らかい光が降り注ぐヒイラギのラビリンスは、オリジナルかつポエティック。 また、ヒイラギの生け垣とシラカバの木々を合わせたラビリンスは、シンプルな組み合わせながら詩的で素敵な空間に。合わせて植栽されたマンサクが咲く早春の情景をイメージして作られた場所だそうで、その頃にはさらに素晴らしい景観が見られるのだろうと想像します。 シャクナゲやカメリアなど、日本でも馴染み深い花木たちが、ノルマンディーの地でも愛されている。 庭の管理をラクにおしゃれにするデザイン 庭の至る所で出合うスカート型剪定の生け垣。 また、敷地のスペースや、車も通る道路の区切りに使われている生け垣の裾広がりの形にも注目です。スカート型剪定と呼ばれる、クリビエが好んで生け垣に使った形ですが、優雅な雰囲気を醸しつつ、じつはこれで下方の枝にも光が当たりやすくなり、また生け垣の下に生える雑草抜きをしなくて済むという、優れモノなのだそう。用の美の精神が至る所に行き渡ったクリビエのデザインの一例です。 庭園入り口近くのコーナー。デザイン性に富んだ果樹と灌木・多年草を合わせた植栽。 それぞれの植物への深い理解と愛情をもって、地の利も不利も生かしきって、自然と人為が美しく協調したクリビエの現代の庭。変奏曲を奏でるように美しくさまざまな表情を見せるそのデザインの根底には、自然と対峙し、完璧な美の世界を完成するために、どこまでも自らの意志を貫き、コントロールしようとする、フランスのフォーマル・ガーデンの伝統が滔々と流れているように感じられたのが印象的です。
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色彩美を表現する印象派庭園を一度は見ておきたい「浜名湖ガーデンパーク」
浜名湖ガーデンパークとは 「浜名湖花博2024」開催中の2024年5月中旬の様子。photo/3and garden 2004年に開催された浜名湖花博の会場跡地を再整備し、2005年にオープンした「浜名湖ガーデンパーク」。20周年を記念し、2024年4月6日から6月2日の期間、「浜名湖花博2024」が開催されました。イベント期間中は、浜名湖ガーデンパークの水辺の景観を充実させるため、「心安らぐ水辺の風景」をテーマに、フラワーガーデンコンテストが開催されたほか、西側エリアにある「ユニバーサルガーデン」は「かたくり工房」によりリデザイン&施工されるなど、花と緑を楽しむ都市公園として進化しています。 リニューアルした「ユニバーサルガーデン」2024年5月中旬の様子。 photo/3and garden 浜名湖の景観を生かし、楽しいレクリエーションの場として古今東西の庭文化を表現することがこの公園のコンセプトで、入場無料なのも嬉しいところです。56万㎡にも及ぶ敷地は、「西側エリア」、「街のエリア」、「里のエリア」に区分され、特に花壇や美しい庭園を持つのが「里のエリア」内の「花の美術館」、「百華園」、「国際庭園」、「花木園」です。早春から冬まで四季を通してうまく草花や花木による開花リレーをつないでいるため、いつでも見ごたえがあり、年間130万人が訪れる人気のフラワースポットです。訪れた方々からは「素敵な花をたくさん見ることができて心が癒やされました」「散歩がとてもしやすかった、芝生がきれい」などの感想が寄せられています。園内は2時間くらいで周遊でき、お弁当や飲み物の持ち込み可。ペットの同伴もOKです。 一番の見せ場は「印象派庭園 花美の庭」光り輝くような色彩美に優れた庭園 浜名湖花博でつくられた「花の美術館 モネの庭」を再整備し、2005年に披露されたのが「印象派庭園 花美の庭」。印象派の画家、モネが愛したフランス、ジベルニーの自邸の庭を模してつくられた庭を、15年かけて進化させた芸術的な庭園です。広い園内は、整形式フランス庭園の「花の庭」と回遊式日本庭園の「水の庭」で構成。写真はバラのアーチを連ねたシーンで、色彩豊かに空間を彩っています。「花の庭」では、約300品種、500株のバラが見られます。 「花の庭」の各花壇エリアでは、モネの時代に表現できなかった多彩な色彩の花々、優美なフォルムを持つ植物を用いて、現代的な印象派の庭園をつくりだしています。朝の透明感ある爽やかな光を表現する「朝陽の花壇」、太陽が沈んで茜色へと移りゆく色彩を表現した「夕陽の花壇」、すべての色が溶け合いグレーに変わってゆく「薄暮の花壇」など、「光」をテーマにした情感あふれる植栽が見どころです。 春はネモフィラ、夏はヒマワリ、秋はコスモス 群稙で魅せるフラワーカーペット 「浜名湖ガーデンパーク」内の「花ひろば」では、メインの花壇として季節によって草花を入れ替えて群植し、ダイナミックな景色をつくっています。春に彩るのはネモフィラで、4月頃が見頃。3,000㎡に約30万本が植栽され、青いカーペットのように一面を埋め尽くします。 「花ひろば」の夏を盛り上げるのは、なんといってもヒマワリ。‘サンマリノ’一品種のみが約4万本植栽されています。‘サンマリノ’は草丈160〜170㎝、ちょうど人の背丈くらいで咲く、写真映えのする品種です。大輪で華やかな表情のヒマワリを背景に、ぜひ記念写真を撮りましょう。 秋に「花ひろば」で華やぐのは、コスモス。品種は‘ドワーフセンセーション’で、濃いピンク〜淡いピンク、白の花色をミックスして、約40万本も群植しています。見頃は10月で、レジャーにぴったりの清々しい季節ですから、ぜひ足を運んでください。 12月中旬〜2月は、「里のエリア」にある百華園のシクラメンが見頃に。写真は「青いシクラメンの小径」で、青みが強い紫色のシックな品種‘アロマブルー’と‘ライラックフリル’を約1,000株植栽しています。花が少なくなる真冬に、これほどの花でいっぱいの景色が見られるのは嬉しいですね。 遊覧船クルーズ&展望塔も利用してみよう 「浜名湖ガーデンパーク」では、遊覧船クルーズが15〜20分間隔で運航しています。見頃の花や庭園のガイドがあり、10分かけて水路を進みます。料金は大人が片道600円(往復1,000円)、子ども(3歳〜小学生)が300円(往復500円)。公園中央を東西に水路をクルーズするため、園内からは見られない景色や花を楽しむことができます。車椅子やベビーカーの使用可、ペット同伴の乗船もOKです。 「浜名湖ガーデンパーク」のほぼ中央に、ガーデンパーク全景を一望できる高さ50mの展望塔があります。料金は1人1回のみで一般・高校生300円、小・中学生100円、高齢者(70歳以上)・障がい者200円。利用時間は9:00〜16:30(9〜5月)、9:00〜17:00(6〜9月)。 展望室の壁面はガラス張りになっており、公園内はもとより、美しい浜名湖まで見渡せます。展望台の一部には屋根のない場所があり、屋外の風を感じることもできます。東西南北、四方を一望できる見晴らしのよい景色を楽しみましょう。 2018年7月に、新しく食事処「のたね」がオープンしました。営業時間は10:00〜16:00、客席数は36席あります。オススメメニューは、通年食べられるうなぎ丼(1,600円)、春〜夏期間限定の鱧かば丼(1,200円)・釜揚げシラス丼800円、秋〜冬期間限定の牡蠣かば丼(1,200円)。ほかにコーヒー、生姜湯、梅ジュース(各200円)、生姜湯200円などのソフトドリンク、ソフトアイスクリーム350円、ジャム氷300円などもあります。 写真はうなぎ丼ミニ(1,000円)。地元の名物を良心的な値段で食べられます。 鱧かば丼ミニ(800円)。春から夏の旬の味を楽しめます。
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栃木県

美しすぎる!バラと草花が織りなす美しい初夏のあしかがフラワーパーク
バラと草花が共演するあしかがフラワーパークのローズガーデン あしかがフラワーパークといえば、米国CNNで「世界の夢の旅行先10箇所」に選ばれた藤の名所として有名。長い花房を連ねた大藤の幻想的な風景は圧巻ですが、じつは藤の花後も素晴らしい風景が展開しているのです。その一つが、バラ。500種2,500株のバラが咲き誇りますが、特筆すべきはその数ではなく、草花と織りなす花景色。美しく咲き誇るバラを背景に、さまざまな草花がバラに合わせてコーディネートされています。 例えば、ピンク&赤系でまとめたこのコーナー。鮮やかなつるバラ‘アップルシード’を背景に、同系色のジギタリスが長い花穂を連ね、ブロンズカラーの葉のペンステモンがシックな雰囲気をプラスしています。その株元でワインレッドの丸い花をふわふわと咲かせているのはスカビオサ。銀色にフワッと輝くように咲くのはボリジです。花色だけでなく、草丈や草姿の個性を生かした植栽が随所で見どころを作っています。 このエリアでは、つるバラと草花の豊富な組み合わせがいくつも展開しており、その巧みな配色は庭を作る人の参考にもなります。左は赤紫色で半八重咲きの‘ナイト・オウル’と、白いクレマチス‘フルディーン’のドラマチックな組み合わせ。右はピンクのコロンとした花がかわいい‘ジャスミーナ’とペンステモン、ホルデューム・ジュバタムの組み合わせ。もう少し季節が進むと、細長い茎に丸いつぼみをつけているアリウムが咲き出し景色が変化します。 日の光に穂を輝かせるホルデューム・ジュバタムが幻想的な風景を展開する、ローズガーデンのロングボーダー。ホルデューム・ジュバタムのようなグラスは脇役として活躍することの多い素材ですが、日が傾き始めるこの時間は圧倒的な美しさで主役に躍り出ます。濃いピンク色の小花が群れ咲くシレネ‘ファイアーフライ’と組み合わせることで明暗のコントラストが強調され、より美しさが極まります。グラスは光を受けることでその美しさを最も発揮する素材。ここではそのホルデューム・ジュバタムが最も美しく見える午後の光に合わせて花が選ばれているのか、アプリコットカラーのジギタリスやバラが多く植栽され、日が傾き始めた途端、庭は魔法がかけられたような美しさを放ちます。 白いオルレア・ホワイトレースを背景に、アプリコットカラーのジギタリスが咲くやさしいワンシーン。 歩むごとにバラと草花の色が美しく展開するロングボーダー。サルビア・ネモローサ‘カラドンナ’の紫色は差し色効果抜群。 フォトスポットとして人気のローズトンネル。トンネルの向こうも、つるバラが彩る高いフェンスが背景となり、自撮りおすすめの映えスポットです。ところどころに置かれたベンチのそばには、こんもり仕立てられた鉢植えのクレマチスも彩りを添えます。 花色を堪能する「四季彩のステージ」 大きな木々に囲まれ、木漏れ日の下で花々が咲く「四季彩のステージ」。白・青・黄色・ピンクと花色でエリアが分けられ、カーブする小道と連なり植栽帯が設けられています。色を揃える一方で、景色が単調にならないように花形や草姿の異なる草花が選ばれており、立体的な花壇は遠くから眺めても、小道を歩いてみても楽しいエリア。木々の緑をキャンバスに、花色がよく映えます。 小型のデルフィニウムの群生。 洗練されたロマンチックな組み合わせのピンク花のエリア。 水辺のバラが美しい「バラの咲く島」 春は美しい藤で彩られた「うす紅橋」を渡ると、水に囲まれて浮かぶ「バラの咲く島」へ辿りつきます。水辺に赤いバラがせり出すように植えられ、水面に映る花景色も綺麗。水鳥の姿も見られ、優雅な非日常空間を体験できます。 水路の上を鮮やかに彩るローズトンネル。水音も心地よいリラックスエリア。 バラの見頃はまだまだ続き、次第にハナショウブやアジサイも加わり始めます。季節ごとに移り変わる圧巻の花景色を堪能しに、あしかがフラワーパークへお出かけしてみませんか。
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東京都

東京・根津美術館で「燕子花図屏風」を見て、庭園のカキツバタと出合う
カキツバタの記憶 根津美術館の庭園内、茶室・弘仁亭近くの池に咲くカキツバタ。一度咲いた茎から次のつぼみが花開き、二度咲きとなる。 10年近く前に、友人に誘われて東京・青山にある根津美術館に、尾形光琳筆の「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」を観に出かけたことがある。その折の屏風の佇まいもさることながら、庭園に咲くカキツバタが見事だったことが記憶に残っていた。 庭園内の石橋の上から見たカキツバタの群生。水面に映る姿が優美だ。 屏風は毎年、カキツバタが咲く4月から5月にかけての約1カ月間公開される。今年(2023年)はいつになく開花が早いという花便りが届き、改めて国宝・「燕子花図屏風」と庭園のカキツバタを見てみたいと、根津美術館を訪ねた。 展示室にて 特別展会場に展示された、尾形光琳筆「燕子花図屏風」(特別に許可を得て会場撮影をしています)。 美術館の1階の広い空間の中央に置かれた「燕子花図屏風」はひときわ輝いて見えた。屏風の公開に当たっては、毎年テーマが決められ、今年は「光琳の生きた時代1658-1716」という切り口で構成されている。宮廷や幕府主導の文化の時代から、町人が担い手となって花開いた元禄文化の時代へと、尾形光琳が生きた約60年間の江戸の美術史を切り取る試みだ。 光を放つ、燕子花図屏風 「燕子花図屏風」。6曲1双の屏風は、見る角度によって、躍動する様子が違って感じられる。 総金地に描かれた群青色の花と緑青色の葉。リズミカルで大胆な構図は、現代に生きる私たちにとってもモダンで斬新に感じられる。屏風を数える単位は隻(せき)で、1隻の中に縦長の画面を6枚つなぎ合わせたものが6曲屏風。6曲屏風が2隻で1組みになっているこの屏風は6曲1双とされる。 国宝・「燕子花図屏風」 尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵(上/右隻 下/左隻) 写真提供:根津美術館 右隻には根元からすっくと立つ花の群生が描かれ、左隻では根元をほとんど見せていない。写真家の眼からは、右隻は広角レンズでやや下から仰ぎ見た図、左隻は望遠レンズでやや上から見た図、とも思える。この対照的な構図によって、燕子花は躍動し、空間は無限に広がっている。 総金地に群青と緑青の2色の岩絵具をふんだんに使い、色彩の濃淡によって幽玄の世界を現出させている(右隻の部分)。 金箔の部分は光を反射し、見る角度によって艶めかしくも、冷淡にも見える。2色の岩絵具の濃淡だけで燕子花の生気を描き出すという色彩感覚もまた驚異的だ。 尾形光琳の生涯 茶室・弘仁亭側から見たカキツバタの群生。 江戸時代を代表する絵師のひとり、尾形光琳(1658-1716)は、伝統的な大和絵に斬新な構図を取り入れ、のちに琳派と呼ばれる画派を確立した人物として知られる。 1658年に京都でも有数の呉服商の家に生まれ、幼い頃からさまざまな絵画や工芸に触れて育った。30代前半から絵師の道を志し、本格的に活動を始めたのは40代になってから。「燕子花図屏風」は40代半ばの代表作とされる。その後、「紅白梅図屏風」(国宝)、「風神雷神図屏風」(重要文化財)などを制作。1716年に没するまで、わずか十数年の制作期間であった。 尾形光琳晩年の筆「夏草図屏風」。ここにも燕子花が描かれている。日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵 写真提供:根津美術館 燕子花図屏風に描かれた花の群生は、一部に染め物で使う型紙の技法が使われ、同じ形が反復されている。これは子どもの頃から着物の意匠に接してきた光琳ならではの発案だろう。燕子花図は、平安時代前期に書かれた『伊勢物語』第九段「八橋」に想を得ているという。光琳が好んで描いた花の背景には、彼が思いを馳せた和歌や物語があることを知ると、鑑賞の趣もまた変わってくる。 根津美術館の庭園 左/池の縁に沿って配されたカキツバタは、群生とは違った雰囲気を醸し出す。右/庭園南西の、ほたらか山と名づけられた石仏や石塔を集めた丘。 根津美術館を訪ねる楽しみの一つが、庭園散歩。広さ2万㎡の起伏に富んだ庭園をめぐると、都会にいることを忘れるほど、深山幽谷の気配を感じることができる。美術館は実業家初代根津嘉一郎氏の古美術コレクションを保存し、展示するために作られたが、庭園もまた彼の意向に添ったもので、いわば自然が生み出す芸術といえるものだ。その最たるものが、水辺のカキツバタの群生だ。庭内には灯籠や仏像などの石造物が100体ほど配され、薬師堂の竹林、初夏に色づく紅葉など、印象的な景観が展開する。 庭園散歩の途中立ち寄った、茶室・披錦斎(ひきんさい)のお抹茶。 庭内には4つの茶室があり、その1室で抹茶を味わった。カキツバタをかたどった練り菓子が供され、眼も舌も愉しんだひととき(今回展期間中のみ)。 左/孟宗竹の林を背景とした薬師堂。右/茶室・斑鳩庵へと続く小道。 庭内を悠然と散歩するサギ。毎年どこからか飛翔してくるという。 カキツバタの群生 池の周囲を360度巡ると、カキツバタの群生のさまざまな表情がうかがえる。 カキツバタは、庭園の中央部に位置する池の一角に群生している。開花の最盛期に訪れることができたのは幸運だった。池をぐるりと巡り、違った角度から見ると、花の趣もまた変わってくる。私が訪ねた日にはサギが園内を悠然と散歩し、池には水鳥が遊んでいた。どこからか飛来してくるのだという。 初夏の日差しを受け、凛として華やかなカキツバタの姿は印象的だ。 カキツバタはアヤメ科アヤメ属の植物で、乾燥した場所を好むアヤメに対して、カキツバタは湿地を好む。カキツバタのほうが葉幅が広く、また花弁の付け根に網目模様があるのがアヤメで、カキツバタには1本の白い筋が見られる。 今も水が湧き出ている「吹上の井筒」のある池と、カキツバタ。 庭園のカキツバタが池の水に映る様は、たとえようもなく優美。さらに尾形光琳の屏風絵を見たあとの散策には格別なものがある。この時期ならではの贅沢な時間を味わうことができるのだ。 Information (左上から時計回りに)美術館外観、エントランスへの道、NEZUCAFE、美術館ホール。 根津美術館 特別展「国宝・燕子花図屏風 光琳の生きた時代1658-1716」2023年4月15日(土)~ 5月14日(日) 住所:107-0062 東京都港区南青山6-5-1電話:03-3400-2536開館:10:00~17:00(入館は16:30まで)、 5月9日~5月14日は19:00まで開館(入館は18:30まで)休館:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休)、展示替期間、年末年始入館料:[特別展] 一般1,500円、学生1,200円(オンライン日時指定予約) 当日券 一般1,600円、学生1,300、小・中学生以下は無料 (*混雑状況によっては当日券を販売しない場合もあります)アクセス:地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線、表参道下車、徒歩約10分HP:https://www.nezu-muse.or.jp
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都市公園に全国初の「ガーデンセラピー」を体感できるユニバーサルガーデン
庭が人へもたらす生理学的作用 2004年の浜名湖花博でつくられた「花の美術館 モネの庭」を再整備した浜名湖ガーデンパーク内の「印象派庭園 花美の庭」。(*) 画家のクロード・モネは草花を絵の具代わりに、キャンバスの上に絵を描くように庭づくりに没頭し、「生きた美術館」と評される美しい庭を残しました。しかし今、庭は芸術的価値を持った観賞の対象としてだけでなく、私たちの暮らしや心身に好影響をもたらす空間として、新たな価値が見いだされつつあります。 緑の血圧正常化作用 緑を見てホッとしたり、美しい風景に癒やされるという感覚は、誰しも経験があるでしょう。これまで体験的なものとして知られてきたこうした感覚に、千葉大学大学院・園芸学研究科の岩崎寛准教授は、血圧の正常化など緑が心身にもたらす生理的作用を発見。緑を見ることで恒常性回路が崩れる要因であるストレス刺激が緩和され、自己治癒力を高める効能があることを解明しました。 緑のストレス減少作用 また、オランダのある市民農園では、読書とガーデニングを比較したストレス値の計測実験が実施され、ガーデニングのほうが読書よりもストレスホルモンを軽減するという結果が得られました。さらに、東京都市大学総合研究所・環境学部の飯島健太郎教授が行った実験では、ガーデニングをしなくても、単に緑との距離が近いほど、ストレスホルモンが減少することが分かっています。このように、これまで「癒やし」という言葉で表現されてきた庭の効果には、生理学的作用があることが科学的に裏付けされ始めています。 理学療法的効果をもたらすガーデンデザイン 一方、こうした生理学的な作用に対し、理学的な療法効果を得られる空間としてガーデン設計を行っているのが、造園家の阿部容子さんです。阿部さんはアメリカ園芸療法協会会員として、米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かした庭設計を行っています。 整形外科の屋上ガーデン。車椅子の人が移動しやすい、高さを上げた芝生の花壇。足裏刺激も得られる歩行訓練の場所として活用されている。 「理学的な療法効果とは、簡単にいえば、リハビリ効果がその一つです」と阿部さんは話します。例えば、過去に阿部さんが設計施工した整形外科の屋上ガーデンでは、加齢や事故、病気などさまざまな事情により身体機能が失われた方が、庭を歩くことでリハビリ効果が得られるよう道幅や距離、花壇の高さなどを専門医の意見を取り入れながら設計しました。そうした特別な事情がない場合でも、個人邸ではより使う人の心身の事情に寄り添って、背丈や腕幅、足の昇降高、視力など個人のフィジカルデータを反映した設計をすることで、その人がより快適に過ごせる庭づくりを行っています。 「もちろん、美しいというのは大前提。それに加えて、その人にフィットする機能を庭に落とし込むのが、私のガーデンデザインの信条です」(阿部容子さん) 浜名湖ガーデンパークに誕生する「ガーデンセラピー」を体感できるガーデン こうした庭の生理学的・理学的な療法効果を体感できるのが、浜名湖ガーデンパークに誕生するユニバーサルガーデンです。このプロジェクトは2024年春、浜名湖花博20周年を記念した「浜名湖花博20周年記念事業実行委員会(県部会)」の事業の一環で、阿部容子さんがデザインを担当。ガーデンセラピーを取り入れたデザインが予定されています。 浜名湖花博20周年記念事業は、内閣が提唱する国家戦略とも呼応する「デジタル田園都市(ガーデンシティ)」をテーマとしており、高齢化社会における健康寿命の延長や多様性を理解するための世代間交流など、浜名湖周辺の環境を活かした、自然の癒やしと現代の利便性を体感できるライフスタイルの提案の場として展開されます。 阿部さんがセミナー内でセラピーガーデンの実例として示した米国シカゴボタニックガーデンの「イネイブリングガーデン」。車椅子のガーデナーが設計した。Photo/Cicago botanic garden 2023年4月24日、ガーデンセラピーという新たな庭の価値観を取り入れたユニバーサルガーデンの設計を担当する阿部容子さんのセミナーが開催されました。セミナーには市内外の造園業者や学生など約35名が参加。ユニバーサルガーデン及びガーデンセラピーの考え方や認知機能に好影響を及ぼす特定の植物を取り入れたガーデン設計アイデア、療法的効果に積極的にアプローチする庭での五感刺激の方策などについて、阿部さんが解説し、参加者が熱心にメモを取る姿が見られました。 2023年4月24日に開催されたセミナーの様子。 市民の健康増進に寄与する新しい都市公園の提案 2024年春の浜名湖花博20周年記念事業へ向けて再整備されている浜名湖ガーデンパーク。(*) 浜名湖ガーデンパークという都市公園において、ガーデンセラピーを体感できるユニバーサルガーデンが展開される意義について、阿部さんに伺いました。 「庭は、これから向かう超高齢化社会において、さまざまな療法効果を得られる住宅の必須機能として位置付けられていくでしょう。しかし、まだその情報発信は十分ではありませんし、体感できる場所もありません。ですから、今回のユニバーサルガーデンでは、さまざまな庭の療法的効果を体感できる場所であると同時に、市民の皆さんがこのガーデンからさまざまなアイデアを持ち帰って、ご自宅の庭で実践できるセラピーガーデンのモデルガーデン的役割を担う必要があると思っています。訪れて楽しい場所であると同時に、市民生活の向上のための情報発信基地という役目も、浜名湖花博20周年記念事業が掲げる新しい都市公園のあり方として重要なポイントだと考えています」 造園家の阿部容子さん。 公園という不特定多数の人が利用する場所では、誰もが利用しやすいデザインとしてユニバーサルデザインを意識する必要がありますが、今回は「誰もが」という条件に応える一つのデザインに限定しない形を、阿部さんは考えています。 「例えば、回遊路を全部、車椅子で通れるスロープにしておけばユニバーサルなのかといったら、そう単純なものではありません。車椅子ユーザーにもさまざまな体格の人がいますし、介助の必要がある方もない方もおられ、お使いの車椅子の機能も異なります。場合によっては長いスロープより、車椅子で上がれる高さにした階段状の道のほうが安心な方もいらっしゃいます。また、足腰の弱った方には、高さや手すりのデザインに配慮した階段のほうが、スロープを歩き続けるより楽なことがありますし、健康な方にとってはスタスタ上がれる階段のほうが快適でしょう。 ですから、複数の選択肢を用意することによって、ガーデンを訪れた方がご自身のそのときの事情に合わせて園路を選んでこの庭を楽しみ、またいろいろな方法で楽しむ他の人の姿を目にすることで、他者への相互理解も進み、多様性を自然と受け入れる社会に繋がっていくとも思います。そして、ここを訪れた皆さんが、さまざまなことを体験し、自宅の庭にそのアイデアを持ち帰ってご自身の生活に生かしたいと思ったとき、今回セミナーに参加してくださったプロの造園業者の方々が、セラピーガーデンの設計知識を生かして活躍してくれたら理想的ですよね。そうなれば、県が掲げるデジタル田園都市構想が着実に実現化されていくのではないかと、私自身とても楽しみにしています」 コロナや社会情勢のめまぐるしい変化を受け、私たちの暮らし方や価値観も大きな変革期を迎えてさまざまな模索がされています。浜名湖花博20周年記念事業で推進されるプロジェクトは、新時代の暮らし方への一つの明確な回答として、2024年の春の開幕が大きな期待とともに待たれます。
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神奈川県

至高のバラ「ブルガリアン・ローズ」が横浜イングリッシュガーデンに登場
世界一のバラの香料を生産するブルガリア「バラの谷」 朝日を浴びて輝き出すバラの谷。nikolay100/Shutterstock.com ブルガリアの中部、バルカン山脈の南に位置し、スレドナ・ゴラ山脈との間に挟まれた東西約140kmの細長い渓谷、通称「バラの谷」。5月、吸う息や吐く息さえもバラ色に染まりそうなほど、谷はブルガリアン・ローズのピンク色で埋め尽くされます。ブルガリアン・ローズはロサ・ダマスケナ、カザンラクの名前でも知られるオールドローズの一つで、樹高は人の背丈程度。春にピンク色のクシュクシュとした愛らしい花を咲かせますが、何よりも人を引きつけるのは、その香りです。ブルガリアン・ローズの香りは「ダマスク香」というバラを代表する甘く芳しい香りで、さまざまな現代の園芸品種にも受け継がれています。 花は一つひとつ丁寧に手摘みされる。macondo/Shutterstock.com バラの谷では何世紀にもわたってバラの栽培が行われ、国家事業の一つとしてローズオイルが生産されてきました。北海道とほぼ緯度を同じくし、湿気が少なく冷涼なこの地で生産されるローズオイルは、その品質の高さから「黄金の液体」と称され、シャネルなど多くのメゾンが自社の香水にブルガリアン・ローズオイルを用いています。高い品質を維持するために、ブルガリアにはバラの花やローズオイルの栽培者・扱い業者の権利と義務を法制化したバラ製造に関する法律があり、世界に誇る品質が守られてきました。 摘み取られたブルガリアン・ローズは袋詰めされ、すぐに抽出所へ。RaDoll/Shutterstock.com ブルガリア国立バラ研究所は品質維持のための中枢機関で、ローズオイルやローズウォーターの分析・評価・認定を行うとともに、その効果効能についての化学的・薬理学的な研究が進められてきました。ダマスクローズは他国でも栽培されローズオイルの生産が行われていますが、生産地や抽出の技術などによってローズオイルに含まれる成分には大きな差が生まれます。 Anita Ben/Shutterstock.com バラの谷のローズオイルは275 種類以上ものマクロ、ミクロ成分を含有し、複合的かつ絶妙な構成配分であることが分かっています。ゆえに調香師の世界では、単にダマスクローズオイルではなく、「ブルガリアのダマスクローズオイル」を用いることが重要なポイントであることは常識です。「至高の香り」と呼ばれるバラの谷のローズオイルは香水として用いられるだけでなく、その多彩な微量要素の働きにより疾病治療や美容、女性特有の不調などに古くから利用されてきました。 ブルガリア国立バラ研究所からYEGに寄贈された特別な1株 そんなバラの国、ブルガリアから、神奈川県横浜市のローズガーデン「横浜イングリッシュガーデン」にブルガリアン・ローズがやってきました。バラの谷の東端に位置する街、カザンラクの名前でも呼ばれるこのバラは、日本でも苗が市販されていますが、今回やってきたのは、駐日ブルガリア共和国大使館マリエタ・アラバジエヴァ大使を通し、ブルガリア国立バラ研究所から寄贈された貴重な1株。2023年4月28日(金)に、マリエタ・アラバジエヴァ大使とテレビ神奈川熊谷典和社長による植樹式が執り行われ、ブルガリアン・ローズが横浜イングリッシュガーデンの芝地エリアに根をおろしました。 左から「横浜イングリッシュガーデン」スーパーバイザーの河合伸志さん、ブルガリア大使、テレビ神奈川熊谷典和社長。 ブルガリア大使のバラの楽しみ方 バラはブルガリアの国花で、女の子の名前にバラが使われていたり、ブルガリアでは人々の暮らしにとても身近な存在だといいます。大使ご自身もバラが大好きで、公邸にもカザンラクが植えられています。 「この季節は朝、カザンラクの香りをかぎに庭に出るのがとても楽しみなんです。バラは観賞するだけでなく、ブルガリアではバラジャムやバラの蜂蜜など、食卓にもしばしば登場します。これらは胃によいことでも知られ、私はパンケーキやヨーグルトに入れて食べるのが好きです。ローズオイル生産の副産物として抽出されるローズウォーターは最も身近な化粧水で、肌の水分を保持するのにとてもいいんですよ」(マリエタ・アラバジエヴァ大使) 植樹式当日は、駐日ブルガリア共和国一等書記官のペトラ・ニコラエフ氏によって、ブルガリアの観光と歴史を紹介する講演が開催。1kgのローズオイルを得るために3,000kgものバラの花びらが必要であることや、毎年開催されるバラ祭りについて、またバラと並んでブルガリアの特産品であるヨーグルトを使った夏のスープなどが紹介され、ブルガリアの奥深い魅力に触れる機会となりました。 この投稿をInstagramで見る 横浜イングリッシュガーデン-公式アカウント(@yokohama_eg_official)がシェアした投稿 また、園内の芝地エリアでは軽快な音楽とともにブルガリアの伝統舞踊が披露されました。その様子を上記の公式インスタグラムで紹介しています。 バラがより強く香る時間帯の「早朝プレミアム開園」実施中! 4/22(土)~5/21(日)の期間中には、毎年好評の「早朝プレミアム開園」も実施。期間中は通常より2時間早く、8時に開園。清々しい早朝の園内で、ブルガリアからきた貴重なブルガリアン・ローズの香りを堪能してみませんか。植樹した木は芝生エリアにあり、まだまだこれからつぼみが開きます。ただし春の一季咲きなので、この期間をお見逃しなく。売店にも特設コーナーを設置し、ブルガリアン・ローズの化粧水やジャム、蜂蜜を販売しています。 ブルガリア大使の食卓にも上るバラの蜂蜜は、売店で購入できます。 今年のバラの開花は、これまでの温暖な気候の影響で、例年になく全体的に早いペースとなりそうです。ブルガリアからやってきた貴重なブルガリアン・ローズとともに、横浜イングリッシュガーデンにはさまざまなバラが咲いています。バラの香りにどっぷり浸るひとときは、この季節だけの贅沢。芳純なバラの香りを堪能しに、ぜひ横浜イングリッシュガーデンへお出かけください。 ●『見渡す限りバラが咲く! 特別な時間を過ごせるバラ園「横浜イングリッシュガーデン」』では、「ローズ・フェスティバル2023」の見所をご紹介しています。
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神奈川県

春の新名所! 横浜「山下公園」の市民参加の球根ミックス花壇
見る人を一気に引き込む! 球根ミックス花壇づくりは今年で7年目 ピンクや白、オレンジ色のチューリップの間に、アネモネやヒヤシンス、スイセンが混ざり咲くこの花壇は、横浜市中区にある山下公園の北側(大さん橋側)の一角にあります。春風に揺られる花に、「わぁ、かわいいー!」と思わず駆け寄る人が続出しています。 2027年開催の国際園芸博覧会「GREEN × EXPO 2027」に向けて、花と緑の取り組みを積極的に進めている神奈川県横浜市。2023年3月25日からは、市内各所で花々の春の装いが楽しめる「ガーデンネックレス横浜2023」もスタートしました。その会場の一つが山下公園で、この花壇は横浜市民が参加してつくられています。 このエリアが毎年、多数のチューリップで彩られ、人々の目を楽しませるようになったのは2017年全国都市緑化フェアのメイン会場になって以来。チューリップやスイセン、ムスカリなど、開花時期の異なる春咲きの球根を数種交ぜてランダムに植え付けるこの手法は、オランダのガーデンデザイナー、ジャクリーン・ファン・デル・クルートさんのデザインや施工、手入れの考え方を山下公園らしくアレンジしたもので、当時、最新の花壇デザインとして話題になりました。 2017年に開催された全国都市緑化フェアの「球根ミックス花壇」。* 2017年の全国都市緑化フェアでは、ジャクリーンさんによるデザインの方法を学んだ横浜出身のガーデナー、平工詠子さんの指導のもと、市民連携花壇講座として公園愛護会の方々が花壇をつくりました。それ以降、平工さんに教わりながら、毎年色合いが異なる球根ミックス花壇がつくられ、2023年で7年目。この花壇づくりの手法は、市内のほかの公園でも実践されて、春の横浜は球根花で彩られます。 2023年2つのテーマの球根ミックス花壇見どころ ピンクが映える「春祭りおとめ」 4月5日の「春祭りおとめ」の様子。 山下公園の大さん橋側入り口から入ってすぐ目の前に広がる花壇のタイトルは「春祭りおとめ」。寒い冬から暖かな春への移り変わりを、青みがかったピンクから暖かなピンクへと変化していく花色で表現しています。 開花は2月下旬のミニアイリスと原種系のクロッカスから始まり、4月末ごろまで開花期が異なる品種がバトンタッチしながら、見頃が長く続きます。 「春祭りおとめ」花壇には、クロッカス4種、ミニアイリス1種、ヒヤシンス2種、スイセン1種、アネモネ1種、チューリップ9種の合計18種が植えられ、4月上旬には上写真のように10種以上の花が同時に楽しめます。 <春祭りおとめの主な品種の特徴> ① 爽やかなラベンダーブルーのヒヤシンス‘アクア’。② 八重と一重が咲き、鮮やかなピンクのアネモネ‘セントブリッジドピンク’は、花びらにシルクのような光沢があるのも魅力。アネモネは、チューリップよりも開花期間が長く安価で、コスパもよいのでおすすめ。花後の丸いタネも観賞価値があります。また、葉の形がよく、地面を隠すグラウンドカバーとしても役立ちます。「ヨコハマブルーガーデン」では、これの青花種を入れています。③ 八重の房咲きのスイセン‘チャフルネス’は、すっきりとした香りのよい品種。 ④ 受賞歴もある人気のチューリップ‘アプリコットビューティー’は、アプリコットからピンクに花色が変わる、やや早咲き種。 ⑤ 花が大きく、花びらの中央が濃いピンクで炎のような色合いが特徴のチューリップ‘アフケ’。⑥ 八重の紫花のチューリップ ‘ブルーダイヤモンド’。八重咲きを入れるとボリュームが出ます。⑦ とても鮮やかで目立つ一重の赤花は、遅咲きのチューリップ‘ヨセミテ’。⑧ 先端が尖った純白花のチューリップ‘ホワイトライアンファター’は、ミックス花壇でもよく使う品種。遅咲きの中でも特に遅く、背が高くて目立ちます。花壇の最後のシーズンを爽やかに飾り、とてもよい仕事をしてくれます。 海と夕日がテーマカラー「ヨコハマブルーガーデン」 4月5日の「ヨコハマブルーガーデン」の様子。 「春祭りおとめ」花壇と隣り合い、港を背景に広がる花壇のタイトルは「ヨコハマブルーガーデン」。横浜のシンボリックカラーである爽やかなブルーと、美しい夕日のオレンジから連想したコンビネーションで、横浜の洗練されたクールな印象を表現しています。 この花壇も、開花は1月上旬のスイセンから始まり、4月末まで、開花期が異なる品種がバトンタッチしながら見頃が長く続きます。 このエリアには、クロッカス4種、ムスカリ1種、ヒヤシンス2種、スイセン2種、チューリップ10種の合計19種が植えられ、4月上旬には上写真のように12種以上の花が同時に楽しめます。 <ヨコハマブルーガーデンの主な品種の特徴> ① 低く咲くのはムスカリ‘バレリーフィニス’。ムスカリの中でも優しい雰囲気のブルー花で、アネモネのブルーよりも淡い色。同系色の濃淡の花を入れると、より繊細で複雑な色合いを花壇の中に表現できます。② きれいなブルー花が特徴のアネモネ‘セントブリッジドブルー’。横浜のシンボルカラーである爽やかなブルーを表現しています。③ 大きな花が咲くチューリップ‘サーモンファンアイク’は、メインカラーとして他のチューリップより多めに入れています。④緑の「がく」がある白花のチューリップ‘ホワイトバレー’ 。白花と緑の間をつなぐ役目に。 ⑤ 花壇の中でもひときわ目立つオレンジ花のチューリップ‘オレンジエンペラー’。花びらに緑のラインが入ります。⑥ 一重のチューリップ‘ネグリタ’は、深い紫色のシックな色合いで引き締め役として活躍します。⑦ 花弁の先端が尖っているピンクのチューリップ‘サンネ’は、フルーティーな香りがあります。花びらの中心が濃く、縁が薄い色合いで、咲き始めは桃色、咲き進むにつれて淡い色になっていきます。⑧夕日を思わせるオレンジ系の花色としてセレクトした八重咲きのチューリップ ‘チャーミングビューティー’。 2つの花壇には春咲きの球根のほか、今は低く目立ちませんが、宿根グラスのスティパや、サンジャクバーベナ、ツワブキ、リグラリア(写真右)、ペンステモン‘ダークタワーズ’ 、キャットミント(写真左)、チョウジソウなども間に植えられていて、球根の花が終わっても、ほかの開花がしばらく続くようになっています。 球根ミックス花壇をつくるのは市民が活動する団体「公園愛護会」 港南区「下永谷八木第二公園」の公園愛護会が植栽した2023年春の花壇。* 2027年開催の国際園芸博覧会の開催地として注目される横浜市内には、約2,700の公園があり、そのうち9割にあたる約2,450もの公園で「公園愛護会(こうえんあいごかい)」が活動しています。この会は、各地の公園を拠点に、地域の人たちが清掃活動や花壇づくりなどを行うボランティア団体で、花苗やタネ、清掃用具やゴミ袋など、作業に必須のものは横浜市から支援してもらい、草刈り機の貸し出しや技術講習、花壇づくりの講習なども受けることができます。 こうした活動は、1961年からスタートした横浜市の事業です。公園愛護会のサポートにより、地域市民が協力して公園の清掃を行い、花を植えるなどの活動をすることは安全な地域づくりにもつながり、SDGsの目標の一つ「住み続けられるまちづくり」にも貢献しています。 2022年10月の山下公園、植え付けの様子。大小さまざまな球根をばらまく作業のひとコマ。* 山下公園の花壇づくりは、毎年秋に公園愛護会に所属する方の中から参加希望者を募り、10月末の植え付け、12月と2月の草取り(有志のみ)、4月の開花の観察と手入れまでを行っています。山下公園での作業経験が、地域の公園の技術アップにもつながるという人気の企画です。 あなたの庭でも実践できる! 球根ミックス花壇の魅力 旭区「鶴ヶ峰公園」では、公園愛護会と近隣の保育園、土木事務所が一緒に花壇づくり。球根をばらまいてランダムに植える作業に、園児たちも楽しく参加。* 山下公園で実践されている球根ミックス花壇は、公園愛護会を通じて各地の公園でも行われ、さらには各家庭での花壇づくりの手法としても普及しています。その魅力は、・長く楽しめる・予想のつかない魅力的な景色が作れる(どんどん変わる) ・組み合わせが無限大また、ガーデニング初心者でもポイントを覚えれば毎年楽しめる花壇づくりです。 旭区「鶴ヶ峰公園」の公園愛護会が植栽した2023年春の花壇。* <球根ミックス花壇の作り方のポイント> 山下公園では例年10~11月に植え付けを行いますが、植え付け時期は、紅葉が始まった頃が目安。ここでご紹介した品種を参考に、この秋はオリジナルの花壇づくりに挑戦してみましょう! ポイント① 早咲き・中咲き・遅咲きの球根を1:1:1〜2:1:2程度の配合でブレンドして植え付けます。 ポイント② チューリップだけでなく、遅咲きのスイセン、クロッカス 、ムスカリなどを入れると花の時期が長くなったり、さまざまな組み合わせの変化を楽しめます。 ポイント③ 植物を何も植えていない場所では、チューリップの球根は平米あたり40〜50球を、宿根草などほかの植物が植わっている場所では、平米あたり5~15球を目安に植えますが、球根がない場所もあると自然な雰囲気になります。 カンタン!気軽にやってみよう! 春のお手入れのコツ 山下公園では、早咲きのチューリップが咲き進んだ4月上旬に、植え付けから参加してきた「公園愛護会」のメンバーが集合し、花壇の観賞会と手入れが行われました。可愛く咲く花々を愛でながら、手分けして短時間で作業は完了! 初心者からベテランまで一緒にできる手入れのポイントをご紹介します。 <球根ミックス花壇のお手入れのポイント> ●種類ごとのポイント チューリップ/終わった花も、終わりかけと思った花も花首の下をポキッと折り取る。光合成の役に立つように花茎を残す(少しでも来年開花しやすくなるように)。落ちた花びらは病気の原因につながることもあるので取りのぞきます。花弁が反って広がりっぱなしの花は、もう終わりのサイン。 アネモネ/花が終わり、自然に花弁が落ちている茎は、切り取らなくてもOK。このあと、花心が膨らみタネがつきますが、アネモネはタネをつけたままでも株が弱ることがありません。タネになる過程も観賞価値があります。種の後に出てくるわた毛がうっとうしいようなら切りましょう。 ヒヤシンス/花が傷んでいたら花茎の根元で切り取る。花が重く倒れていたら、二股や三股に分かれたきゃしゃな小枝を支柱にし、花を地面から起こして自然な角度で支えてあげましょう。自然の枝を使えば花壇に馴染み、目立ちにくくなります。 スイセン/頭の節を手でポキッと折り取る。 アネモネの葉と咲き終わったクロッカスの葉もグラウンドカバーになっています。* ●雑草は抜く?抜かない? 山下公園の球根ミックス花壇では、春の雑草は景色の邪魔になったり、球根の花や葉などの成長の妨げにならない限りは生かしています。その理由は、地表の土が隠れて、緑の草のカーペットの中からチューリップが咲いているような見た目の効果があること、また表土の水分の蒸発を抑えるため、水やりの頻度が減り、手入れの時間も短縮できるからです。早春に芽生えた小球根の葉が草に覆われないように、12月と2月に草取り作業を行っています。 公園愛護会をサポートする横浜市の職員が手入れの説明を行った後、用意された道具を使い、手分けして作業開始。20分もかからずに、ゴミ袋2つ分もの花がら摘みなどが完了。 公園愛護会により毎年、来園者を笑顔にするフォトジェニックな球根ミックス花壇。山下公園で始まった花壇づくりの方法が市民に引き継がれ、横浜市のあちこちの公園で球根花が春到来の喜びを伝えています。2027年開催の国際園芸博覧会「GREEN × EXPO 2027」に向けて、花と緑の取り組みが加速する神奈川県横浜市に、こうして年々花咲く風景が増えています。 2022年オランダで開催された国際園芸博覧会『フロリアード EXPO 2022』では、2027年の国際園芸博覧会のPRとして、山下公園で横浜らしく成長した球根ミックス花壇が『里帰り花壇』としてつくられ、多くの人々を魅了しました。 ●山下公園の花壇の開花状況や、各地の花壇、花壇づくりの動画などを横浜市のHPでご覧いただけます。●「公園愛護会」については、こちら
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牧野富太郎博士ゆかりの植物に出合える「練馬区立牧野記念庭園」
練馬区立牧野記念庭園を訪ねて 牧野富太郎博士が描いた植物画集とポストカード(高知県立牧野植物園刊)。特注の細筆で描写したという植物画の緻密さは驚嘆に値する。 子どもの頃、父の本棚にあった植物図鑑を飽かず眺めていた。その図鑑の著者が、日本の植物分類学の基礎を築いた牧野富太郎博士と知ったのは、ずっと後のことだ。植物との付き合いが今も続いているのは、図鑑の植物画が記憶のどこかに残っているからかも知れない。 ‘染井吉野’とほぼ同時期に開花する、庭園内の桜‘仙台屋’。牧野博士が名付けたとされる。 『東京 桜100花』(2015年、淡交社刊)という本を出版するにあたり、2年ほど桜三昧の日々を過ごしたことがある。桜に関するあらゆる書物を読み、都内の桜を撮影し、さらに原木のある北海道など各地にも足をのばした。その折に、牧野博士が名付けたとされる‘仙台屋’という桜があることを知ったが、開花のタイミングに合わず、撮影できなかったことが心残りだった。 左/‘仙台屋’と並んで咲く‘染井吉野’。右/‘仙台屋’から数日遅れて開花するヤマザクラ。いずれも大木だ。管理室・講習室棟の前では、等身大の博士のパネルが迎えてくれた。 今年も桜の季節が到来し、わが家のバルコニーでも‘河津桜’、‘陽光’に続き、‘染井吉野’が咲き始めた。仙台屋も染井吉野と同じ頃の開花のはずと、西武池袋線大泉学園駅に近い、練馬区立牧野記念庭園を訪ねた。そこには牧野富太郎博士が晩年の30年あまりを過ごした私邸跡地に設けられた庭園と記念館がある。折しも牧野博士が主人公のモデルとなる、NHKの朝ドラ「らんまん」が始まるというタイミングで、園内は思いのほか賑わいを見せていた。 武蔵野の面影を残す庭園 庭園内には、アカマツ、エゴノキなど武蔵野の雑木林に以前からあった大樹と、博士収集の植物が今も残されている。 牧野富太郎博士は、その生涯で1,500種類以上の植物を発見・命名している。出身地の高知県には雄大なスケールの県立牧野植物園があるが、練馬の庭園も博士が「我が植物園」と呼んでいたように、各地から集めた植物など、300種類以上の多彩な草木を見ることができる場所だ。 庭園入り口に咲く早咲きの桜、‘大寒桜’。薄紅色の花は終わりに近づくにつれ濃い紅色に変化していく。 今では周辺は住宅地だが、かつては武蔵野の雑木林だった地で、その面影を残す大木も見られ、草木も野にあるような自然な佇まいを見せている。博士は桜を好み、園内では仙台屋以外にもカンヒザクラ、ヤマザクラなどの野生の桜、さらに大寒桜、‘染井吉野’、‘福禄寿’などの栽培の桜が開花する。 桜‘仙台屋’の由来を辿る 咲き始めの可憐な花姿を見せる桜‘仙台屋’。 ‘仙台屋’は淡い紅紫色で、5弁の楚々とした花姿を見せていた。原木はかつて高知市の仙台屋という店の庭にあったもので、その屋号にちなみ牧野博士が名付けたとされている。桜の由来については、高知の園芸家、武井近三郎氏の著書『牧野富太郎博士からの手紙』(高知新聞社刊)に以下のような記述がある。「佐伯さんという人が仙台から移動してきて、中須賀で仙台屋という屋号で商売を始めたのですが、その屋敷の庭へ移植した桜です」。 満開時の‘仙台屋’と‘染井吉野’(左)。‘仙台屋’の横には地下根が伸びて育った若木が寄り添うように立っている。 桜の種類は、東北から北海道にかけて分布する野生種のオオヤマザクラ(ベニザクラ)の栽培品種ではないかとされているが、定かではない。牧野博士はこの桜を気に入り、武井氏に「高知の名物の桜にするべし」と書き送り、また苗木ができたら自分へも送ってほしいと再三手紙を出している。 庭園内の‘仙台屋’は博士自ら植栽した桜で、樹齢70年と推定される。 武井氏は博士の熱意に応え、桜の小枝1,000本を挿し木して苗木を育てた。その苗木が博士に送られたという高知新聞の記事が残っている。1953年12月4日の記事で、それによると庭園の‘仙台屋’は樹齢70年ということになる。 これは推測だが、仙台屋のあるじは望郷の念に駆られ、宮城から桜の苗木を移植したのではないだろうか。桜は高知に根付き、やがて博士が故郷を偲ぶ桜となった。そんな風に花に寄せる思いをたどることができるのも、桜ならではと思えるのだ。 牧野富太郎博士の生涯 記念館の常設展示室に飾られた牧野博士の肖像。笑顔が印象的だ。 牧野富太郎(1862-1957)は、1862年(文久2)に高知県高岡市佐川村(現佐川町)の酒造業を営む裕福な家に生まれた。子どもの頃から植物に興味を示し、小学校を中退、植物採集に励んだという。22歳で上京し、本格的に植物研究の道に進んだが、ほとんどが独学といえるものだった 記念館、常設展示室の展示資料。植物標本と博士愛用の採集道具が並ぶ。 1889年(明治22)、土佐で発見した新種「ヤマトグサ」に学名をつけ、友人と創刊した雑誌に発表するなど、創生期であった日本の植物学に大きな足跡を残している。それまで日本では、植物の学名を付けることを海外の学者に依頼していたのだ。1888年(明治21)に『日本植物志図篇』、1900年(明治33)に『大日本植物志』の刊行を始めた。さらに集大成となる『牧野日本植物図鑑』を1940年(昭和15)に刊行。この図鑑は植物研究のバイブルとして、今も多くの人々に愛用されている。 妻に捧げるスエコザサ 牧野博士胸像を囲むスエコザサ。妻への感謝と愛をこめて博士が名付けた笹だ。 博士は妻、寿衛との間に13人の子どもをもうけている。研究のために必要な経費と家族を養うために大変な苦労をしたことが、『牧野富太郎自叙伝』(日本図書センター刊)に残されている。研究に没頭する博士を支え続けた妻亡きあと、博士は仙台で見つけた笹を新種としてSasa suwekoanaと命名し、和名をスエコザサとした。スエコザサは庭園の博士の胸像を囲むように植えられている。 博士の植物画 記念館の常設展示室に置かれた、牧野博士のさまざまな著書。 牧野博士は植物画を自ら描いている。『牧野富太郎植物画集』(高知県立牧野植物園刊)によると、その数は約1,700 点という。特注の細筆や面相筆で描かれた絵は、草木の息吹まで伝わってくるような、細密で生気に満ちたものだ。『日本植物志図篇』を自費出版するにあたっては、石版印刷の技法を学び、自ら印刷を手掛けたという。日本各地で植物を採取し、描き、出版する、それは驚嘆に値する仕事量だ。 庭園の植物 300種類以上の植物が生育する庭園は、周囲を住宅に囲まれながら、そこだけは別天地の様相を見せている。 庭園では季節ごとにさまざまな植物が開花し、それを楽しみに通う人も多い。私が訪ねた3月下旬には、ヤブツバキ、ボケ、カタクリ、コブシ、ヒロハノアマナ、シュンラン、バイモなどの花を見ることができた。 左上から時計回りに/クサイチゴ、バイモ、ヤマブキソウ、カタクリ、ヒロハノアマナ、ボケ。 牧野博士が植栽した樹木には、樹名板に独特のマークが添えられている。そのマークは博士の印鑑と同じく、巻いた「の」(マキノを意味する)が描かれていて、博士のユーモアあふれる人柄が感じられる。 庭園内の施設 庭園内には、企画展示室と常設展示室のある記念館、書屋展示室、講習室などがある。常設展示室には博士の遺品や資料が展示され、その生涯と業績をたどることができる。博士愛用の植物採集道具を見ていると、野山を駆け巡っている姿が目に浮かぶようだ。 書物が積み上げられた書斎は、博士が執筆し、植物画を描いた当時を再現している。 木造の家の一部がそのまま建物に覆われた書屋展示室は、今年(2023年)4月3日にリニューアルオープンし、書斎と書庫内部が当時の様子に近い状態に再現されている。 植物に寄せる思い 採集道具の中でも印象的な牧野式胴乱。 牧野博士は学問の世界に留まらず、各地の植物採集会の講師を務め、全国に植物愛好家が増えるようにと願っていた。植物への愛は尽きることなく、著書で繰り返し語った。「私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。或いは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。ハハ、、」というユーモアたっぷりの一文も残されている。 著書の表紙写真。左/『牧野富太郎自叙伝』(1997年、日本図書センター刊)、右/『好きを生きる 天真らんまんに壁を乗り越えて』(2023年、興陽館刊) 初期の自叙伝の最後を締めくくる句は「草を褥に木の根を枕、花を恋して50年」。後に「今では私と花との恋は、50年以上になったが、それでもまだ醒めそうもない」と綴っている。 植物を愛し、愛された牧野富太郎の94年の生涯。そのゆかりの庭園を散策し、あらためて植物と在ることの幸せを感じた。 庭園内の顕彰碑。「花在れバこそ、吾れも在り」という博士の言葉が刻まれている。 Information 練馬区立牧野記念庭園面積:2,576.22㎡開園:1958年(昭和33)12月1日場所:東京都練馬区東大泉6-34-4電話:03-6904-6403開園時間:9時~17時 休園:毎週火曜日、年末年始入園料:無料アクセス:西武池袋線大泉学園駅(南口)歩5分HP: https://www.makinoteien.jp


















