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イギリス

イギリス流の見せ方いろいろ! みんな大好き、チューリップで春を楽しもう
120年前のこと、英国の慈善団体ナショナル・トラストは、開発で失われていく自然や、歴史ある建物や庭といった文化的遺産を守り、後世に残そうと、活動を始めました。多くのボランティアの力によって守り継がれる、その素晴らしい庭の数々で見つけたチューリップの開花シーンをご紹介します。 存在感ある鉢植えで魅せる まずは、世界中のガーデナーが憧れるシシングハースト・カースル・ガーデンの、鉢植えアレンジ術を覗いてみましょう。 春のコテージガーデンにドーンと置かれているのは、明るいオレンジ色のチューリップが溢れんばかりに咲く銅製の大鉢。存在感たっぷりで、見る者の視線を集めます。このガーデンの春の植栽は、黄色とオレンジがテーマカラー。鮮やかなオレンジ色の花が、トピアリーの緑や鉢の緑青によく映えて、快活な春の景色をつくっています。 こちらは一転して、ニュアンスカラーの、優しいトーンの花景色です。鉢にしているのは、かつて家畜用に使われていた、古い石の餌入れ。イギリスの田舎ならではの発想ですね。温かみのあるレンガ造りの家壁にしっくり合う石鉢と、それにマッチする花色のチューリップをうまく選んでいます。 花壇に置かれたこちらの鉢植えは、素焼きの大鉢を使い、赤や紫の同系色の花色でまとめたもの。色とりどりの春の花が咲いて、野原のような、のどかで可愛らしい印象の花壇に大鉢を置くことで、面白味のある変化を生み出しています。 フォーマルガーデンの彩りに イギリスの屋敷でよく見られる整形式庭園は、きれいに刈り込んだトピアリーや生け垣などで幾何学的な模様を描いた庭。その花壇は季節の花で彩られますが、花色が豊富なチューリップは、春の整形式庭園を彩るのにもぴったりです。 こちらは、ウェールズにあるエルディグのヴィクトリア朝様式の庭園。緑の球状のトピアリーと、赤い玉が浮かぶように連続するチューリップの花が、リズム感のある楽しげな景色をつくり出しています。 チェシャー州、ライム・パークのダッチガーデンでは、幾何学模様を塗りつぶすように、明るい花色のチューリップが咲き誇ります。 デザインの幅を広げる2色づかい 花壇に咲かせる場合、異なる2色のチューリップを組み合わせると、植栽のデザイン性がぐっと高まります。こちらは、コッツウォルズの名園、ヒドコートの花壇。先が尖り、反りかえった花弁を持つ、ユリ咲きの白と黄のチューリップが、きらめく星のように花壇を明るく彩ります。 次は、ウェールズ、ダフリン・ガーデンの、ビビッドなマゼンタ色とオレンジ色の組み合わせ。ライトグレーの抑えた色調で統一された敷石や植木鉢が、鮮やかな花色を引き立てる、現代的な印象のテラスガーデンです。カラフルな宝石のような色合わせには、子どもも思わずかくれんぼしたくなる楽しさがありますね。 一方、こちらはウェールズ、トレデガー・ハウスの整形式庭園。きっちりと刈り込まれたツゲの生け垣に囲まれて咲くのは、白と黒のチューリップ。可愛らしいというチューリップの一般的なイメージを覆す、モダンでシックな雰囲気の組み合わせです。 草原や森にナチュラルに咲き広がる チューリップは、広い面積に咲き広がる様も素敵です。こちらは、ウェスト・サセックス州、スタンデンの庭。クロッケー用の芝生の脇にある土手に、芝草に交じってさまざまな色柄のチューリップが咲き広がります。キャンディが散りばめられたような、にぎやかな花景色は、花色や花姿が豊富なチューリップならではでしょう。 最後は、ケンブリッジにあるアングレジー・アビーのウィンターガーデンです。ヨーロッパシラカンバの林でピンクのチューリップが一面に咲き広がる様は壮観。色の少ない時期を明るくしようと、ガーデンデザイナーが計画した見事な花景色です。白く輝く樹皮とピンクの花色の組み合わせが、おとぎ話の世界のようにロマンチックですね。 さて、いろいろな見せ方のあるチューリップ、いかがでしたか。ぜひ、庭づくりのヒントにしてみてくださいね。 取材協力 英国ナショナル・トラスト(英語) https://www.nationaltrust.org.uk/
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岩手県

花の庭巡りならここ! 美しいランドスケープデザイン「フラワー&ガーデン森の風」
2014年にオープンした「フラワー&ガーデン森の風」。2万3,191㎡という広大な敷地は、メインガーデン「森の渓谷」とコミュニティーガーデン「森の丘」の2つのエリアに分けられ、それぞれにテーマを持たせたランドスケープデザインが広がります。庭の監修は、イギリスのチェルシーフラワーショーで数々の受賞歴を持つ石原和幸さんが担当。約200種類10万株の植物が息づくガーデンでは、雪割草から始まり、季節の一年草・宿根草や、ツツジ、ドウダンツツジ、アジサイなどの低木類が次々と咲き継いで、四季を通して彩り豊かな景色が広がります。 高齢者や障がいを持つ方も安心して利用できるように、施設内は十分なサポート体制がとられているのも特徴です。散策コースは、傾斜地も広くてゆるやかなスロープで結ばれ、歩きやすく設計されています。 水辺の景色が癒しを誘う、メインガーデン「森の渓谷」 メインガーデン「森の渓谷」では、「エントランスガーデン」「メインガーデン」「チェルシーガーデン」などのテーマをもたせた、ランドスケープデザインが広がります。水のせせらぎや表情豊かなグリーンの濃淡が織りなす、里山のような癒しのガーデンが歩みを誘います。 写真は7月頃の「チェルシーガーデン」のエリアで、石原和幸さんが過去にチェルシーフラワーショーにて受賞された数々の作品が展示されています。 上写真はメインガーデン「森の渓谷」の「メインガーデン」のエリア。ゆるやかに流れる滝と池が2カ所にあり、水辺の景色が印象的ですが、これらには井戸水を利用したタイマー付き循環システムが採用されています。そんなことは微塵も感じさせない里山の景色が、ミニマムな空間の中で表現されている様子は必見です。水のせせらぎとともに聞こえてくる野鳥のさえずり、サラサラとした葉擦れの音、しっとりした緑陰……ここでは優しい時間が流れていきます。 四季を通して花々が咲き誇るコミュニティーガーデン「森の丘」 「フラワー&ガーデン森の庭」は傾斜地を利用した庭園で、上層にはコミュニティーガーデン「森の丘」のエリアが広がります。空がぽっかりと開けて、とても開放的な空間です。主にコニファーと一年草を中心に、旬の草花で鮮やかに彩られた景色から、活力をもらえそうです。 足元は歩きやすいアスファルト塗装で、車椅子や杖での来場者も安心して散策できます。また奥にはエレベーターがあり、下層のメインガーデン「森の渓谷」にも楽に移動できます。 写真は、6月下旬頃のコミュニティーガーデン「森の丘」の一角です。凹凸がある敷地のくぼみを利用して、一面に白いベゴニアを植栽。中央には、赤いベゴニアのドレスを着た女性の像が立っています。 このエリアは、ネモフィラ、シバザクラからベゴニアへと開花リレーをし、一年を通して景色が変わっていきます。 左の写真は、多年草・宿根草を中心に植栽した花壇。開花期を揃え、草丈や花色を考慮してコーディネートしたナチュラルガーデン。 右の写真は、ビオラやヘリクリサム・パルドサムなど春咲きの一年草と、ウッド素材を組み合わせ、自然との調和を意識したエリアです。 イルミネーションが光り輝くナイトガーデンも大人気! 「フラワー&ガーデン森の庭」では、ナイトガーデンのイルミネーションも行っています。左の写真が夏の闇夜を明るく彩る光の芸術、右が冬の雪化粧とともに広がる幻想的なライトアップの様子です。2018年4月21日〜11月5日の期間は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の世界をテーマにした、34万球のライトを使ったイルミネーションが灯されます。 ほかにも、年間を通してさまざまなイベントを催しています。スタッフが案内するガーデンツアーやガーデニング講習会のほか、花の写真展、洋ラン展示、動物とのふれあいコーナー、昆虫フェスタなど、ファミリー揃って楽しめるイベントが盛りだくさんです。 コミュニティーガーデン「森の丘」には展望台があります。カップル向けに、鐘をついたり愛の鍵をつけたりといったスペースを設けており、プロポーズやウェディング写真の前撮りなどに利用されています。最近ではコスプレ撮影会にも利用される、人気のフォトスポットです。 土産物店も充実しており、オリジナルのお菓子をはじめ、岩手のお菓子(価格帯600〜1,000円)、ガーデン写真集1,000円、絵葉書300円、女性用小物(価格帯1,000〜2,000円)、オリジナル蜂蜜ソフトクリーム350円、ソフトドリングなどが販売されています。 Information フラワー&ガーデン森の風 所在地:岩手県岩手郡雫石町10-64-1 TEL:019-695-8787 http://fg-morinokaze.jp/ アクセス:東北新幹線盛岡駅から無料シャトルバス約45分 JR雫石駅よりタクシー約15分 東北自動車道 盛岡ICより約20分 オープン期間:シーズン営業4月21日〜11月4日(2018年)、イルミネーション営業11月5日(2018年)〜1月6日(2019年) 営業時間:シーズン営業10:00~20:00(最終入場19:00)、イルミネーション営業16:00〜20:00(最終入場19:00) 入園料:シーズン営業 大人600円・小学生300円・シルバー(60歳以上)500円・未就学児無料・障がい者 大人300円・小学生150円 イルミネーション営業 大人400円・小学生200円・シルバー&未就学児無料 Credit 取材&文/長田節子 ガーデニング、インテリア、ハウジングを中心に、ライフスタイル分野を得意とするライター、エディター。1994年より約10年の編集プロダクション勤務を経て、独立しフリーランスで活動。特にガーデニング分野が好きで、自身でも小さなベランダでバラ6姉妹と季節の草花を育てています。草花や木の名前を覚えると、道端で咲いている姿を見て、お友達にばったり会って親しく挨拶するような気分になれるのが醍醐味ですね。 https://twitter.com/passion_oranges/
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フランス

フランス「リュクサンブール宮殿」の花壇【世界のガーデンを探る旅8】
『フランス「ヴェルサイユ宮殿」の花壇編【世界のガーデンを探る旅7】』で、フランスにつくられる花壇における色彩感覚について解説しましたが、場所をパリ市内のリュクサンブール宮殿に変えて引き続きフランス独特の植栽について話をしたいと思います。 「リュクサンブール宮殿」は、パリの中心部にあり、元老院の議事堂として使用されていた宮殿で、現在は公園として一般に公開されています。毎日パリ市民が三々五々集まってきて、気ままに花を眺めながらそれぞれの時間を楽しんでいます。特に春に植えた花壇の花々がちょうど見頃になる初夏には、毎日晴天が続くうえ夜は22時頃まで明るいことも手伝って、パリ市民には人気スポットになっています。 フランス式の混植花壇はここにも 「リュクサンブール宮殿」も、やはり混植の花壇です。まずご紹介するのは、宮殿の前庭です。オレンジ色のダリアにピンクのペチュニア、それぞれの個性的な色合いを和らげているその他の花は、ブルーのサルビアやフレンチマリーゴールド、濃い紫のペチュニア、ブルーサルビアなど。それぞれが混ざり合って、緑の芝生に映えてきれいです。 角度を変えて、花壇に近づいてみましょう。左の背の高いえび茶色の植物は銅葉ヒマ(別名トウゴマ、‘ニュージーランド・パープル’)です。渋い色合いといい、ボリュームといい存在感のある植物で、夏花壇のフォーカルポイントとしてぜひ使いたい植物です。 植栽リスト Case1 【赤~オレンジ色系】銅葉ヒマ、ダリア、ペチュニア 【黄色系】フレンチマリーゴールド、カルセオラリア、ルドベキア 【青~紫系】ペチュニア、サンジャクバーベナ、サルビア(メドーセージ) 【葉物】スイスチャード、タイム 園内には、あちこちに椅子がいくつも置いてあります。色も渋いモスグリーンで、人どめの柵も低くて花壇の観賞の邪魔にならず、足掛けとしてもちょうどよい高さ。こんなところにもフランスのセンスを感じます。全体が、それぞれ心憎いまでに、色彩のハーモニーをつくりだしています。 宮殿のサイドにある花壇は、螺旋状に花が植えられています。結構自己主張が強いピンクのペチュニアを赤や黄色のコリウス、オレンジのマリーゴールドなどが独特の調和を見せています。ベージュ色の園路の砂利までもが、うまく引き立て役にまわっています。 植栽リスト Case2 【赤~オレンジ色系】銅葉ヒマ、ダリア、ペチュニア、ジニア 【黄色系】フレンチマリーゴールド、カルセオラリア、ルドベキア 【青~紫色系】ペチュニア、サンジャクバーベナ、サルビア、ヘリオトロープ 【葉物】スイスチャード、コリウス 宮殿に近い花壇です。ここの特徴は、高さを低く抑えて絨毯のような彩りで、明るく宮殿の荘厳さを引き立てている点です。手前と奥の花壇でマリーゴールドの色を微妙に変えることで、単調な配色にならないように奥行きを出す工夫があります。左奥に見えるヤシの木は、冬にはオランジェリー(温室)に運び込まれて、翌年の出番まで静かに春を待ちます。 植栽リスト Case3 建物側 【黄色系】マリーゴールド 【紫色系】ペチュニア、サルビア、ヘリオトロープ 【白色系】ジニア 手前の花壇 【オレンジ色系】マリーゴールド 【紫色系】ペチュニア、サルビア 【白色系】ジニア 違う年の春の花壇です。丈の低い紫のチューリップと、花茎が長く背の高い紫とピンクの斑が入ったチューリップの2種の、シンプルな組み合わせ。3種のチューリップだけで、立体感のある色彩の帯ができています。低いツゲの黄緑色の縁取りがくっきり現れて、花壇をより引き立てています。 参考までにイギリスのハンプトンコートの花壇と比べてみてください。フランスとは明らかに違った感覚の植栽です。皆さんはどちらが好みでしょうか? イギリスの花壇に使われている植物は、外側からロベリア、マリーゴールド(白)、マーガレットコスモス(黄色)、斑入りのカンナ。 再び「リュクサンブール宮殿」に戻り、他の花壇の彩りをご紹介しましょう。 公園の森のあちこちに銅像などのモニュメントがあり、その足元は花壇に囲まれています。ゆるく盛り上がったここの花壇も、混植されていますが2〜3種類程度の限られた数の植物を使いながらも、はっきりとした色合いで演出されています。驚くことに、公園内のあちこちに点在するモニュメントのすべての場所で、花の組み合わせは異なっていました。 ここまでご紹介した花壇に植えられているほとんどの植物は、日本でも栽培されています。夏にはほとんど雨の降らないフランスとは違い、ダリアや球根ベゴニア、ゼラニウムなどは、雨が多く蒸し暑い日本では夏花壇での使用は真似ができませんが、花の色使いや組み合わせは、とても参考になります。 フランスの花壇、いかがでしたか? 『フランス「ヴェルサイユ宮殿」の花壇編【世界のガーデンを探る旅7】』でも解説したように、フランスにはいまだに印象派の色合いが受け継がれているように思いましたが、もしやその色彩感覚は、フランス人が生まれつき持っているセンスなのかもしれません。ちょうど日本人が墨色の濃淡で風景や感情を感じられることと同じかもしれませんね。
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北海道

上野ファームの庭便り「ポップカラーを楽しむ春の庭」
庭の主役は元気をくれる“ポップカラー” 静かな新緑につつまれた早春の庭が、一気に明るくにぎやかに変わる瞬間は、チューリップなどの球根植物が咲き始める時です。次々と開花を始める明るい色のスイセンやチューリップを見ていると、気分も明るくなります。球根シーズンはビビッドな色彩で、はずむようなポップカラーが主役です。以前はガーデン内にスイセンやチューリップをあまり植えていなかったのですが、ここ数年スイセンやチューリップの種類を積極的に増やして春のガーデンを楽しんでいます。球根の魅力を知れば知るほど、使い方によって表現も大きく広がる球根植物の力に気づかされます。 バリエーションが多い球根花たち スイセンやチューリップは、カタログを見ているだけでも驚くほどの種類と花色があります。あまりにも素敵なものばかりなので、選びきれずいつも悩まされます。スイセンは、昔のイメージだとラッパズイセンのような花形を想像しますが、今はスイセンとは思えない華やかな八重咲きや、フリルがかる花びらまであり、形もさまざまです。 チューリップはさらに種類が豊富で、白や紫、黄色、赤、ピンク、オレンジなど、一つの植物でここまで多彩な色を選べる植物というのはなかなかないように思います。さらにフリンジ咲きやユリ咲き、八重咲きなど、咲き方の個性も魅力的です。 彩り豊かな春を楽しもう! 球根のよいところは、庭づくりや寄せ植えの初心者さんでも、秋にしっかりとした球根を植えるだけで翌年必ずきれいな花が見られるということです。球根を植え替えて、毎年違ったカラーテーマや組み合わせを楽しむのも面白いですよ。色の組み合わせ方次第で、春の庭の印象は大きく変わります。部屋の模様替えをするように、気軽にいろいろな球根を庭に取り入れて、彩り豊かな春を楽しんでください。 植え方や色使いで多彩に広がる球根の世界 芝生にスイセンと原種系チューリップを植えれば、ナチュラルな雰囲気に。派手な色合いのチューリップでも、緑の中にランダムに配置すると自然な雰囲気がつくれます。 上野ファームの球根の植え方 1カ所にまとめて植えるのではなく、宿根草の株と株の間に1球から5球ほどの球根をランダムに配置していきます。 宿根草の間から、チューリップが湧き出るように開花します。黒と紫と白で落ち着いたトーンの組み合わせに。チューリップの花が終わる頃には、ちょうど宿根草が伸び始めて開花後のチューリップは見えなくなります。 新刊『上野ファームに学ぶアイデアBook』発売中 2016年に敷地内にグランドオープンした新エリア「ノームの庭」の紹介をはじめ、北国ならではの植栽と上野ファームの美しい写真を多数収録した新刊『上野ファームに学ぶアイデアBook』が2018年3月に発売されました。庭のデザインから施工・メンテまで関わってきた富良野の「風のガーデン」は、進化を続けながら2018年で10周年。これまでの庭づくりへの思いなどをつづった書下ろしコラムや、「上野ファーム」で咲く230品種の草花図鑑など、「上野ファーム」の最新情報がいっぱい詰まった一冊です。
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イギリス

英国の名園巡り 侯爵夫人の人生の喜びが散りばめられた「マウント・スチュワート」
120年前のこと、英国の慈善団体ナショナル・トラストは、開発で失われていく自然や、歴史ある建物や庭といった文化的遺産を守り、後世に残そうと、活動を始めました。多くのボランティアの力によって守り継がれる、その素晴らしい庭の数々を訪ねます。 マルチな才能を持った侯爵夫人 イーディス イーディスは父親譲りのポジティブな性質で、乗馬やヨットの旅を楽しむ、行動力のある女性でした。夫の第7代ロンドンデリー侯爵チャールズが政界に入ってからは、支援のために社交界で動き、また、第1次世界大戦時には、女性による後方支援部隊の統率役も担って、上流社会で影響力を持つようになります。一方で彼女は、庭づくりに加え、伝記や子ども向けの物語を執筆するなど、芸術性や文才にも秀でていました。5人の母でもあり、じつにエネルギッシュで、多面的な才能にあふれた人物でした。 朝日と夕日の庭 イタリアン・ガーデン イーディスは結婚当初、ヨットでスペインやイタリアへ旅し、また、持病の療養のため、夫と共にインドに長期滞在したこともありました。そうした旅先で目にした歴史的な庭園の数々が、彼女の植物や庭づくりへの興味を育てたといいます。 第1次世界大戦後の1920年、41歳の時に、イーディスは末娘となるマイリを期せずして身ごもり、その妊娠中に庭園の設計を始めます。それから始まる庭づくりの日々は、彼女にとってこの上なく幸せで、創造的な時間でした。 イーディスが最初に取り組んだのは、屋敷の南側、入り江を見下ろす斜面に広がるイタリアン・ガーデンです。子ども時代を過ごした思い出の場所、スコットランド、ダンロビン城の庭園に似せた整形式庭園(パーテア)が東西に2つ並ぶ構図に、彼女はイタリアで目にしたボボリ庭園のようなルネッサンス期の名園のエッセンスを加えました。 1921年、イタリアン・ガーデンは、熟練庭師と復員してきた21人の男性の力を借りて形づくられました。この庭はもともとローズガーデンとして計画されましたが、海沿いの土地にバラの生育条件が合わず、数年後にまた新しいカラースキームを考えることになりました。 イーディスは2つのパーテアのうち東側(写真左)を、中心から、鮮やかな赤、オレンジ、ブルー、シルバーと同心円状に変化する朝日のイメージで、また、西側は、深紅、薄ピンク、藤色、黄色、濃い赤紫色と変化する夕日のイメージでデザインしました。そして、英国に導入されたばかりの珍しく美しい異国の植物と、主流の宿根草や球根を合わせるという独自のスタイルで、植栽を構成しました。また、異国の花木をスタンダード仕立てにして、そこに新しいつる性植物を這わせるなど、見せ方も工夫しました。 イタリアン・ガーデンの東側には、動物などのセメント製のユーモラスな彫像が並ぶドードー・テラスと開廊(ロッジア)があります。絶滅した大型の鳥ドードーの像は、イーディスの父、チャップリン子爵を表現したもの。というのは、政治家だった子爵は、かつて風刺画でドードー(まぬけ)と揶揄されたことがあったのです。それを笑いに変えてしまう、イーディスのユーモアセンスが感じられます。また、ノアの方舟(アーク)は、アーク・クラブという、侯爵夫妻が主催した上流階級の私的な集まりを記念して置かれました。 イトスギの壁が印象的なスパニッシュ・ガーデン イタリアン・ガーデンの先に続くスパニッシュ・ガーデンは、スペインへの旅の記憶が詰まっています。インスピレーションの源となったのは、王族に案内されて訪ねたアルハンブラ宮殿やヘネラリフェのペルシャ式庭園です。両側に立つ印象的なイトスギの壁は、16世紀のベネチア人の旅人がヘネラリフェの庭へと続くアーケードを描写した記述をもとに、デザインされました。イーディスの構想通りに生け垣を仕立てられる、庭師の腕にも驚きます。 大好きな花が植わるサンクン・ガーデン 屋敷の西側にあるサンクン・ガーデン(沈床式庭園)と、その先につながるシャムロック・ガーデンは、屋敷の1階から見ることのできる唯一の庭です。サンクン・ガーデンの三方はパーゴラで囲まれていますが、イーディスは、そこに珍しい異国のつる性植物を絡めました。その内側に植わるのは、彼女が愛してやまなかったロドデンドロンとユリ。イーディスは香りのよい花が大好きでした。 イーディスにとって庭づくりは、知的活動と身体を動かすことの、両面の楽しみがありました。植物を育てること、そして、その場所にぴったりの植物の組み合わせを見つけることに、夢中になったのです。 イーディスは博識な知人に学んで、植物の知識を深めていきました。庭園のあるアーズ半島は、暖流のおかげで暖かい、地中海性気候の土地。イーディスはプラントハンターを支援して、似たような気候を持つ世界各地からたくさんの新しい植物を集め、この庭で実験的に育てました。 アイルランド神話の世界 シャムロック・ガーデン イーディスを魅了するものの一つに、アイルランド神話がありました。この庭では、アイリッシュハープをはじめ、アイルランドや神話にまつわるモチーフの、たくさんの小さなトピアリーが楽しめます。手前の、手の形をした花壇は、〈アルスターの赤い手〉という神話がモチーフ。セイヨウイチイの生け垣に囲まれた庭園自体も、上から見るとアイルランドの国花である三つ葉(シャムロック)の形を表しています。 他にも、イーディスが末娘のためにつくったマイリ・ガーデンや、大好きなユリを育てたリリー・ウッド、湖畔の墓地、それから、美術品がたくさん飾られた新古典主義建築の屋敷と、見どころがたくさんあります。北アイルランドの至宝を、ぜひ訪ねてみてください。 取材協力 英国ナショナル・トラスト(英語) https://www.nationaltrust.org.uk/ ナショナル・トラスト(日本語)http://www.ntejc.jp/
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山形県

花の庭巡りならここ!「かおり風景100選」に認定された「山形県村山市 東沢バラ公園」
昭和31年に設立された、歴史ある「山形県村山市 東沢バラ公園」は、地元の方々にも長く親しまれています。設計を手掛けたのは、日本のバラ界の父、故・鈴木省三さん。およそ7万㎡にも及ぶ敷地には、約750品種2万株のバラが植栽されています。見頃は6月上旬〜7月上旬、9月中旬〜下旬。この期間は「バラまつり」が行われて多くの人で賑わい、さまざまなイベントも開催されます。「いつ訪れても花や葉の状態が美しく、行き届いた管理が素晴らしい」とリピーターが多く、年間5万人の来場者があります。 バラの香りが風にのってエントランスに集まる植栽に 「山形県村山市 東沢バラ公園」は、山と湖に囲まれた借景の美しい自然豊かな公園です。バラ園は、設立当初から親しまれている「クラシックガーデン」、オールドローズを集めて植栽された「オールドローズ園」、日本の皇室をはじめ世界の王室の方々の名前が冠されたバラが集められた「皇室のバラ」など、さまざまにテーマを設けたエリアによって構成。平成11年に誕生したオリジナルのバラ‘むらやま’をはじめ、‘グリーンローズ’や‘黒真珠’など珍しい品種のバラも見られます。 写真の高さ約3.5m、約3m四方のローズドームには、つるバラを這わせてフォーカルポイントにしています。さらに奥の大きなシンボルツリーのケヤキは、絶好の休憩スポット。緑陰のもとでお弁当を広げてピクニックを楽しむ人や、のんびり読書をしている人の姿が見られます。 「山形県村山市 東沢バラ公園」は、平成13年に全国のバラ園で唯一、環境省の「かおり風景100選」に選ばれました。山の形に沿って傾斜がつけられた公園は、山からエントランスに向かって風が通るように設計され、バラの香りが風にのって集まる工夫がなされているのです。馥郁としたバラの香りを十分に堪能するには、午前中の早い時間に訪れるのがオススメです。 「山形県村山市 東沢バラ公園」には、市制施行50周年を記念してモニュメント「幸せのローズベル」が寄贈されました。「恋人の聖地」とプレートされた、ロマンティックな雰囲気が魅力で、カップルで訪れて一緒にベルを鳴らす姿も多く見られます。このエリアではラベンダーピンクの大輪花、‘ショウゴ・エレガン’が毎年たくさんの花を咲かせ、インスタ映えのするフォトスポットとして人気です。 目に鮮やかなグリーンの芝生で整えられた、小高い丘の上につくられた休憩場のガゼボは、公園内を上から見渡せるビュースポット。園内への飲食の持ち込みは自由ですが、喫煙は不可(園外に喫煙所あり)。ペットの同伴はOKです。リードをつけて、糞は持ち帰るなどのマナーは守りましょう。 手前のバラはアメリカで生まれた‘リオ・サンバ’で、黄色で咲き始めた後、オレンジ、朱色へと変化していく姿を楽しめます。 喫茶スペースや体験教室、ギャラリーが充実する「バラ交流館」 園内には「バラ交流館」があり、軽食コーナーや土産物販売店のある棟、体験教室が開催される棟、押し花や陶器といったクラフト作品を展示するギャラリー棟の3棟が並んでいます。バラまつりの期間中には、押し花教室を開催しており、1作品につき約30分で体験できます。参加料は500円〜です。 バラ交流館内の飲食スペースは20席ほど。メニューは、バラソフトクリーム300円、バラアイスカップ320円、バラコーヒー300円、ローズティー、ローズヒップティー各250円など。食事メニューは山形牛重1,500円などのほか、お好み焼きやフランクフルトもあり、天気のよい日はテイクアウトして、青空の下でいただくのもオススメです。 土産物売り場では、バラキャンデー240円、バラサイダー270円、バラ紅茶(ティーバッグ)270円が人気商品となっています。 左の写真のインスタ映えするバラサンデーは400円。右の写真は、左がローズヨーグルトムース350円、右がローズシュガー入り飲むヨーグルト350円。いずれもバラの香りがふんわりと漂う、人気メニューです。 バラまつり期間は、毎年趣向を凝らした多彩なイベントを開催 バラまつり期間には、毎年さまざまなイベントが開催されています。写真は、市民サークルのフラダンスの発表会と、バラの愛好家必見のバラの育て方教室、バラの相談所などのイベントの様子です。 ほかにもバラのアレンジメントやレカンフラワー、ハーバリウム、七宝焼き体験教室、ジャズバンドなどの演奏会が行われます。また2018年のメインイベントに村山市出身の「薔薇から生まれた薔薇王子」のコンサート、夜まで楽しめる「夜のバラまつり」など、多彩なイベントが開催されます。バラまつり期間中のイベント情報は、ホームページで要チェックです!
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京都府

日本庭園巡りの旅へ 京都・東山「永観堂禅林寺」
東山の古刹 永観堂禅林寺 永観堂禅林寺は、東山のふもとに建つ歴史ある古刹。古今和歌集に「もみぢの永観堂」と詠まれる京都屈指の紅葉の名所で、境内には、約3,000本ものイロハモミジやヤマモミジが植えられています。 植栽と一体となった長い回廊 このお寺には、御影堂や釈迦堂、阿弥陀堂といった諸堂が点在しており、それらすべてが、経年変化の檜の滑らかな木肌と、滴るような青モミジに囲まれた長い回廊で結ばれていました。 また、所々に設えられた縦格子の建具の端正な佇まいは、翠緑を切り取る額縁のよう。 内外を曖昧に仕切る和の建具の美しい意匠が、味わい深い風情を醸し出していました。雨風をしのぎ、強い陽射しを遮るだけでなく、四季折々の自然の景色を屋内からも愛でることができる和の建具は、自然への敬愛と日本人ならではの繊細な感性が生み出した伝統建築。わが家にも取り入れたくなりました。 圧巻の臥龍廊 数ある回廊の中でも圧巻だったのが、山の斜面に建てられた開山堂へ続く臥龍廊です。その廊下は、急斜面の地形に合わせて曲線を描く特殊なつくりとなっていて、その名の通り、あたかも龍が臥せているような形状でした。一瞬、足がすくむほどの迫力に圧倒されながら上っていくと、畳4帖ほどの小ぢんまりした開山堂がありました。 このお堂には、永観堂の開山の像が祀られていました。そういえば、古来より龍は神様の化身、もしくは使者といわれています。この臥龍廊は、開山の像(神)を拝むなら、ここを通って心身を清めよという意味合いがあるのかもしれません。また、お堂の窓から、荘厳な屋根瓦に映えるモミジと、遠くに京都の山並みが垣間見え、初夏の爽やかな風に擦れるモミジの葉音や、時折聞こえる野鳥の声が、なんとも心安らぐ空間でした。 自然の景色を凝縮した庭園 諸堂の中心にある御影堂には、深い軒下の縁側に腰掛けると、庭全体が見渡せる程よい広さの日本庭園があります。目を惹くのは、いぶし銀の瓦を施した壁面に、清然と植えられたモミジの高木と赤松。いかにも日本庭園らしい組み合わせですが、不思議と堅苦しさを感じないのは、山の中に自生しているような樹形と、型にとらわれない剪定にあるような気がしました。また、その足元には、自然石を配した池と白い玉石を敷いた枯山水を彷彿とさせる景色が。 白い玉石は、山間から緩やかに流れる湧き水のように木漏れ日に輝き、池には白いスイレンが、水辺にはハナショウブとカキツバタが季節の彩りを添えていました。 そんな、自然の景色が凝縮したような庭を眺めていると、ふと、「無作為の作為」という言葉が脳裏に浮かびました。「無作為の作為」とは、自然な雰囲気を生かして、かけたのが分からないような手間をかけること。ある京都の老舗造園屋さんがおっしゃっていた言葉です。そして、「われわれのモットーは、庭ではなく景色を売ること。そのために、無作為の作為を行う」と。 人知れず手間をかけ真心を込める庭仕事。だからこそ、こんなにも心が和むのですね。 日本庭園の奥深さを、またひとつ目の当たりにしたような気がしました。 3,000本もの青モミジが紅葉する秋。どんなにか素晴らしいことでしょう。いつか、赤く染まるモミジの永観堂も訪れてみたいものです。 併せて「イングリッシュガーデンを巡る旅」のシリーズや、『イングリッシュガーデン旅行を終えて〜日本庭園への想い〜』もご覧ください。 Credit 写真&文/前田満見 高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。 Instagram cocoroba-garden
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新潟県

花の庭巡りならここ! ロザリアンの聖地「国営越後丘陵公園 香りのばら園」
芳しいバラの香りを堪能できる「国営越後丘陵公園 香りのばら園」 「国営越後丘陵公園 香りのばら園」は、1万6,000㎡の敷地に800種、約2,400株のバラが植栽されたバラ園。その名の通り、芳しいバラの「香り」をテーマにした植栽が特徴です。バラの香りは、主に「ダマスク・モダン」「ダマスク・クラシック」「ティー」「フルーティー」「スパイシー」「ブルー」「ミルラ」に分類されています。それらに当てはまる香りを持つバラの品種を、7つのエリアに区分して植栽。人の顔ほどの高さで咲くように仕立てられたバラの「香り比べ」を自由に楽しんで、好きな香りの品種を見つけましょう! バラの見頃は5月末〜6月中旬、10月です。 ほかに白、ピンク、朱色、赤、黄色など、バラの色彩別に植栽したカラフルなエリアや、原種のバラやオールドローズをコレクションしたエリア、オオタカネバラやヤマイバラ、アズマイバラ、テリハノイバラなど日本の野生種を集めたエリア、世界約40カ国の「ばら会」が加盟する「世界ばら会連合」(World Rose Convention)にて殿堂入りしたバラの名花を集めたエリア、コンクールで受賞歴のあるバラ、宿根草とバラを組み合わせたナチュラルガーデンのエリアなど、多様な見どころを設けています。 バラの品種の特性を生かした適材適所の植栽術が見事! 5種類のピンクのバラ‘ザ・ガーランド’、‘フランシス・E・レスター’、‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’、‘ロサ・ヘレナエ’、‘ロサ・フィリペス’を植栽し、ガーランド(花綱)に仕立てた、ダイナミックにバラが咲き誇るコーナー。開花期に見応えがあるのはもちろんですが、これらは一季咲きで、それぞれに大小の赤い実をつけるので、晩秋にはアクセサリーをまとったようなローズヒップの景色を楽しめます。手前のピンクのバラは、オールドローズの‘ベル・イシス’。 背景のポプラの木は、「国営越後丘陵公園 香りのばら園」の象徴的な存在。ポプラの木を中心に竹を組み、ランブラー系のつるバラをオベリスク仕立てにしたユニークな姿は、遠くから見ると大きなトピアリーのようです。 手前の広場には休憩スペースがあり、テーブル&チェアが20セット(季節などにより増減)あります。飲食の持ち込みは自由で、バラの景色を楽しみながら、お弁当を広げる人の姿もよく見られます。喫煙は不可(喫煙所あり)、ペットの同伴はOKです。 高さ・幅3mのアーチを連ね、縦の空間を優雅にバラで彩ったエリア。‘セプタード・アイル’、‘コンスタンス・スプライ’、‘エヴリン’、‘フォールスタッフ’などのつるバラを仕立てたアーチのトンネルを自由に散策して、香りのシャワーを浴びることができます。バラだけでなく、ベロニカやセイヨウオダマキ、アジュガなどの宿根草をともに植栽したナチュラルガーデンなので、バラと草花のコーディネート術はガーデンの参考になります。 香りのよいバラを集めたエリアは、香りを確かめやすいように、樹高を抑えて仕立てられています。写真は「ダマスク・モダン」「ダマスク・クラシック」の香りを持つバラが植栽された一角。バラの香りは、朝方つぼみを開く頃に強く感じられるので、香り比べを楽しみたいなら、午前中の早い時間帯を狙うのがオススメです。手前の真っ赤なバラは‘パパ・メイアン’。 高さ1.5mほどのオベリスクを扇状に設け、面で見せる仕立て方は、「国営越後丘陵公園 香りのばら園」ならでは。人気の高い品種‘ピエール・ドゥ・ロンサール’を下から這うように上らせ、たわわに咲かせた姿は見応えがあります。 バラ園以外にも「国営越後丘陵公園」内には、四季を通して花が楽しめるよう植栽されており、見どころ満載です。3月末〜4月はクリスマスローズや雪割草、カタクリ、4月下旬〜5月上旬はチューリップ、6月後半〜7月はアジサイやラベンダー、9〜10月はコスモスと、季節の開花リレーが楽しめます。 2018年は、「国営越後丘陵公園 香りのばら園」が開園して15年目にあたります。毎年バラの季節には、育種家やガーデナーなど、専門家を招いて庭園内のガイドツアーや育て方の講習会などが開催されていますが、節目となる2018年はさらにさまざまなイベントの開催が予定されています。ぜひ公式ホームページをこまめにチェックしましょう! また、「国営越後丘陵公園 香りのばら園」では、日本海側の気候ならではの仕立て方や剪定法などが垣間見られるのもポイントです。書店に並ぶ園芸書は、太平洋側の気候を基本にまとめられていることが多く、日本海側の気候に合った管理法の情報が不足しがちなもの。雪の多い日本海側にお住まいの方は、ツアーガイドや講習会に参加して、健やかにバラを育てるコツを学ぶのも一案です。 コンクールに出品された圃場の見学もOK! 「国営越後丘陵公園 香りのばら園」では、2005年より毎年「国際香りのばら新品種コンクール」を開催しており、日本のバラ三大コンクールの一つとなっています。世界中から届いたバラの苗を、同じ条件下の圃場で2年間かけて栽培し、香りのよさや花の美しさ、耐病性などを総合的に審査。 2年目の春と秋に審査し、金賞、銀賞、銅賞が発表され、金賞のうち最高得点を得た品種に「国土交通大臣賞」が、香りの部門で最高得点を得た品種に「新潟県知事賞」が、一般来場者による人気投票で1位になった品種に「長岡市長賞」が授与されます。 第1回は育種家の寺西菊雄さんが作出した、写真のバラが「国土交通大臣賞」を受賞。受賞を記念し、旧名の‘ティニー・グレイス’から‘フレグラント・ヒル’(香りの丘) と「国営越後丘陵公園 香りのばら園」にちなんだ名前が新たにつけられました。今やこの公園のシンボリックな存在となっています。 園内にある、コンクール用の圃場も見学できるので、まだ世に出回っていないバラを見ることができ、最新のトレンドがうかがえるのも魅力の一つです。 バラソフトクリームとオリジナル香水が大人気 園内のカジュアルな休憩スポット「ローズカフェ」でティータイムを楽しむのもオススメ。営業時間は9時30分から閉園まで(季節により異なる)で、ラストオーダーは閉園の30分前までです。季節によってメニューが替わり、パンケーキやホットドッグなどがあります。人気メニューは雪室(ゆきむろ)コーヒー450円(税込)、つぶつぶ苺のベジタブルスムージー600円(税込)、バラの甘い香りが口に広がる赤バラソフトクリーム500円(税込、ばら祭り期間中のみ)など。 「国営越後丘陵公園 香りのばら園」では、シンボル的なバラ‘フレグラント・ヒル’の香りを再現した香水と練り香水を販売しており、お土産に大人気です。フルーティーな甘さにさわやかなグリーンノートが乗る、上品な香りと評されています。価格は香水(50㎖)が3,600円(税込)、練り香水(8g)が1,340円(税込)。
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北海道

上野ファームの庭便り「大地が歌う 早春の庭」
北国の雪解けと春の日差し 北国の長い冬が終わりを告げてようやく雪がとけると、雪の下で眠っていた植物たちが待っていました! といわんばかりに一斉に芽吹き始めます。私が植物たちの偉大なるエネルギーを一番感じるのは春です。特に早春の花たちは、最も力強く柔らかい春の日差しを浴びて、数日間でアッという間に伸びてきます。 北国は常緑の植物が少ないため、雪解け直後の庭には緑はほとんどなく寂しげに見えますが、たった数週間で緑に覆われます。これほどの芽吹きの変化を目の前で感じられるのは、雪国のガーデナーだけではないでしょうか。 春一番に咲くのは、スノードロップ 上野ファームで一番初めに咲き出すのがスノードロップやセツブンソウ、特にスノードロップは雪の中からつぼみをもって咲いています。開花時期に雪が降ることもあるのですが、そんなことはまったく気にせず、純白の花を庭で光らせています。 雪解け直後の庭は、さまざまな植物の芽が出てくるので、それを一つひとつ確認していきます。芽が出た瞬間に、これは何か分かるようになれば、ベテランガーデナーの証。イントロクイズのように、植物の名前を頭に思い浮かべながら、各々の今年の健康状態をガーデナーはチェックしていくのです。 花の季節をイメージして庭をパトロール いつも出ている場所に植物の姿が見えないときは、根腐れや寒さなどでダメになったことも考えられるので、その後の植え替え計画を、この時期ある程度考えておきます。また、ひと冬越えることで株が増える植物もあるので、芽の数を見て増え具合も瞬時にチェックします。 増えすぎているものは、花芽が動く前に株分けを行うこともあります。この時期はいろんな意味で、庭の状態を把握しやすいとても大切な時期なので、ガーデン全体の様子をくまなく見て歩きます。そうすることで、今年一年のガーデンのイメージが、花の季節がくる前に頭の中で広がっていくのです。 小球根の開花は春の歌のよう 新緑がガーデン全体に広がり始めると、足元で咲く愛らしい小球根たちの開花が始まり、色がなかった大地が春を喜び、まるで歌うように色づき始めます。ここ数年かけて早春の花たちを意識して増やしていることもあり、春の魅力的な植物は探せば探すほどたくさんあることに気づかされます。 ガーデンで咲く花がまだ少ないからこそ、とても色が新鮮で美しく見えるのも春の花の特徴です。目が覚めるような鮮やかさを持つ雪割草や、まるでコートを羽織るような面白い咲き方をする純白のカナダケシも最近仲間入りしたお気に入りの植物です。 小球根が輝き咲く「宝石の小道」 セツブンソウが終わるころから、さらに美しくなるのが、春の庭の主役ともいえる華やかなクリスマスローズや北海道ならではの野草たちです。さらにここ数年、ガーデンで人気の花が、スイセンやチューリップよりも一足早く咲く小球根。チオノドクサ、プスキニア、シラー、原種系チューリップなど、足元で咲く小さな宝石のような植物たちをガーデン全体にちりばめて、可愛らしい春を感じられるように魅力的な春植栽も研究中です。 まだまだ寒さが残る北海道の春。雪が降っても美しい花を保つエネルギーのあるカタクリやエゾエンゴサクは、北海道の春を象徴する野草です。 春になると、いたるところで柔らかい黄緑の葉を広げるフキノトウ。北海道のものは特に大きいと本州の人からよく驚かれます。 華やかなドレスのようなクリスマスローズは、早春の花たちと合わせると、さらに豪華な雰囲気を漂わせます。 春を待っているのは植物だけではありません。「上野ファーム」の動物たちにとっても虫が動き出してうれしい季節です。 庭のあちこちで、植物たちのエネルギーを感じることができる春。早春ならではの植物を庭植えや鉢植えでいち早く咲かせ、ガーデンシーズンの幕開けを楽しみませんか。
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フランス

フランス「ヴェルサイユ宮殿」の花壇編【世界のガーデンを探る旅7】
フランス式庭園を彩る花々から色彩感覚を探る 『「フランス「ヴェルサイユ宮殿」デザイン編【世界のガーデンを探る旅6】』では、ヴェルサイユ宮殿とフランス式庭園の誕生、そして庭全体のデザインについてご紹介しましたが、今回はフランス独特の植栽について、花壇を例に解説します。 ベルサイユ宮殿の春の花壇です。黄色系のスイセン(3種類)に赤系のチューリップ(4〜5種類)が混植されています。ポイントは濃紫の八重のチューリップでしょう。黄色や赤だけではぼやけた印象になるので、濃い紫を差し色にして、花壇の色彩を引き締めています。また白いスイセンを入れることにより、全体の色合いが単調に混ざるのを防ぐと同時に優しさをプラスしています。 低い草ツゲに揃えて、草丈の低い球根類に限定し、黄緑の草ツゲと深緑のイチイの刈り込みが花壇の色彩を引き立てています。特にイチイの深緑を点在させることで、広大な敷地に立体感と奥行きを生み、遥か向こうにあるアイボリーホワイトの宮殿までの距離感と重厚さを効果的に演出しています。 ヴェルサイユ宮殿の花壇づくりのテクニックを探る 植栽リスト Case1 【宿根草】ガウラ、マーガレット、ルドベキア、デルフィニウム、ダリア 【一・二年草】ニコチアナ、三尺バーベナ、クレオメ、サルビア、デージー他 こちらは、ヴェルサイユ宮殿の北側の花壇です。少し高めのツゲの刈り込みの中に、いろいろな花が植栽されています。一見無秩序に咲き乱れているかのようですが、それぞれ一塊のブロックになっています。写真の時期は初夏ですが、宿根草と一年草が入り乱れる植栽は、英国庭園に見られるナチュラルな植栽とは違い、モダンな印象を受けます。 植栽リスト Case2 【白色系】ニコチアナ、ストック、ペチュニア 【桃色系】ダイアンサス(セキチク系)2種類、ストック 【黄色系】コレオプシス 南側の花壇は、低い草ツゲのエッジが整ったカーペット花壇です。幾何学的な模様の中に背の低い花々が植え込まれています。一年草と二年草の組み合わせで1ブロック2mほどを1パターンとして、黄色、ピンク、白と繰り返して花色がつながり、まるで絵画の印象派を思わせる淡い彩りがガーデンに浮かび上がっています。 このように花色を混ぜ合わせる手法は、やりすぎると色が濁ってしまうのでセンスを要します。 黄花のコレオプシスに濃い桃色のダイアンサス…およそ調和し難いこの2色をニコチアナ、ペチュニア、ストックの白花がうまくつないでいます。このように10種類近くの草花を組み合わせながらも、色の混乱を避けることは、植物知識と色彩感覚、美的センスなど、さまざまな能力が必要です。しかも、この広大な敷地にタイミングよく植え込むのです。苗の確保と植え込み作業、その後のメンテナンスまでトータルに考え実行する…ガーデナーとは、なんとクリエイティブな仕事なのでしょう。 植栽リスト Case3 【赤〜桃色系】ゼラニウム、ベゴニア、セキチク 【青〜紫色系】バーベナ、ヒエンソウ 【黄色系】不明 【白色系】ペチュニア、ニコチアナ 初夏の植え込み直後と思われる花壇です。20〜25㎝間隔で苗が植え込まれています。これが1カ月も経てば、隙間なくお互いにくっつき合うように育ってくれるとはうらやましい限りです。日本は梅雨や夏の高温多湿により、病気や蒸れで草花へのダメージが大きいのですが、フランスでは高緯度による優しい日の光がぐるっと根元まで届くことや、涼しい夏のおかげで、ある程度の密植は問題がないようです。もちろん、有機物がいっぱい入った土づくりにも力を入れていることでしょう。 現代の花壇にも表現されている印象派‘モネ’の色 初夏の中央花壇です。なんて素晴らしい混植花壇なのでしょう。フランスの人たちの美意識の高さがうかがえる、とても魅力的な植物の組み合わせです。 植栽リスト Case4 【赤色系】ゼラニウム 【桃色系】ダリア(2種類)、ストック(八重)、バーベナ 【青〜紫色系】デルフィニウム 【白色系】デルフィニウム、ニコチアナ、シロタエギク 淡い桃色のダリアを中心に、ゼラニウムの独特な緋色がアクセントになっています。こんもり盛り上がったフラワーベッドには、垂直に立ち上がる縦のラインと、低く広がる淡い色。この色合いは、もしやあの絵画で見た色構成ではないでしょうか? オランジュリー美術館で展示されている、有名なクロード・モネの描いた‘睡蓮’です。ヴェルサイユ宮殿の花壇の色合いは、まさにこの絵そのものではないかと私は思うのです。晩年のモネは、目が徐々に不自由になり、ものの形がはっきり識別できなくなっていたそうですが、その中で描かれたこれら一連の作品‘睡蓮’は、色彩の魔術師と称され、今もなお多大な影響力を持つモネの集大成といわれています。この‘睡蓮’の色使いと、ベルサイユ宮殿の花壇の色づかいには多くの共通点があるように思います。フランスには、今もモネの色彩感覚が脈々と息づいていると感じるのです。 植栽リスト Case5 【赤色系】ゼラニウム、ダリア(2種類) 【白色系】クレオメ、コレオプシスデージー 【シルバーリーフ】不明 晩夏の中央花壇です。緋色のゼラニウム、桃色のダリア、そこに白花のコレオプシスデージーが独特の葉色とともに混植されています。初夏のデルフィニウムに変わって、白のクレオメがふわりと立ち上がり、咲き誇っています。桃色のダリアも草丈を伸ばし、初夏とは違ったボリューム感を見せています。 ヴェルサイユ宮殿のカーペットベディング ヴェルサイユ宮殿のずっと西の端、あまり人が訪れないエリアにまでカーペットベディング(毛氈花壇)がありました。白いエケベリアをうまく使って、赤いベゴニア・センパフローレンスやハゲイトウ、アルテルナンテラなどが使われています。日本では考えられない組み合わせですが、是非チャレンジしたいものです。ベッドを円錐状に盛り上げたり、斜面を生かした花の見せ方には感心します。 植栽リスト Case6 【赤色系】ベゴニア・センパフローレンス、アルテルナンテラ 【葉物】エケベリア、アスパラガス、シロタエギク フランスには、いまだに印象派、特にモネの色合いが色濃く残っているような気がしますが、いかがでしょうか? イギリスをはじめ、他の国ではこのような混植は見たことがありません。ぜひ皆さんも、フランスへ旅する機会があったらフランス式花壇をじっくり観察してください。フランスの草花が特に美しい季節は8〜9月です。
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静岡県

花の庭巡りならここ! 18世紀のフランス庭園を再現「河津バガテル公園」
まるで海外にいるかのようなフランススタイルのガーデン 2001年にオープンした「河津バガテル公園」には、3万㎡という広大な敷地に1,100品種6,000株のバラが植栽されたバラ園があります。周囲には人家や建物がなく、森林に囲まれているため野鳥のさえずる声が近く、まるで異国を訪れたような気分に。なぜならこの庭園は、フランスのパリ市にある「パリ・バガテル公園」の姉妹園で、フランススタイルの庭園を再現しているからです。 18世紀に貴族のためにつくられた庭園スタイルをそのまま継承し、トピアリーとバラを組み合わせて幾何学模様を取り入れたガーデン風景が広がります。フランスと日本では気候が異なりますが、四季や気温に恵まれた日本では本場フランスよりも華やかに花々が咲き競うと、現地からの評価も高いとか。日本にいながらにしてフランスの庭を満喫できると、年間2〜3万人が訪れ、リピーターが多いというのもうなずけます。観光ガーデンとして、カフェや土産物店も充実しているので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。 貴族が愛したフランスの庭を、日本で愛でる贅沢なひととき 「河津バガテル公園」のバラの見頃は、5月中旬〜6月末と10〜11月。春バラのフェスタ期間中は、5月12日からの土・日曜に専門スタッフによるガイドツアーを行っています。開園前の6:30〜7:00の早朝ツアーを開催し、咲き始めの濃い香りを楽しむイベントも開催されているので、ぜひご参加を! 写真は芝庭にぽっかり浮かぶような球体に刈り込んだトピアリーを中心に据え、その周囲に約1.2mの高さでロープを張り、低めにつるバラを仕立てたエリア。奥に見えるつるバラを絡ませたオベリスクは、園内に36基設けられ、高低の変化に富んだ景色をつくり出しています。 ツゲを低く刈り込んで小道を縁取り、スタンダード仕立てにしたバラや、つるバラを絡ませたオベリスクを配したコーナー。稜線の美しい山並みの借景と調和するように、高低差のバランスを計算したメリハリのある演出をしています。赤、ピンク、白に花色を絞った優美なカラーコーディネートで、あふれんばかりに咲く素晴らしい景観は、専門スタッフの高い技術があってこそ。大人の足で30分ほどで見回れる広さですが、ほとんどの来場者は時間をかけてじっくりとバラを愛で、眼福のひとときを過ごしています。 つるバラを仕立てたパーゴラの全長は、なんと約80m。花つきのよい品種を組み合わせ、白からピンク、赤、アプリコット色など、ダイナミックな色彩リレーを楽しめます。晴れた日は抜けるような青空とのコントラストも楽しめるので、ぜひ思い出に残るフォトジェニックなシーンを撮影しましょう! 奥に見えるモニュメントは、パリ・バガテル公園にある「皇居のキオスク」を忠実に再現した建物で、「河津バガテル公園」のシンボリックな存在。小高い場所にあるので、シンメトリーにデザインされたバラ園を一望できるビュースポットとして人気です。キオスクの中にはベンチがあるので、休憩がてらしばらく座って眺めを楽しむのがオススメ。ただし、持ち込みできるのはペットボトルなどの飲料品のみです。ペット同伴はOKですが、リードをつけたり、糞の後始末をきちんとしたりといったマナーは守りましょう。 バラテイストのジュースやソフトクリームが人気のカフェでひと休みを 園内にはカフェが2店舗あります。写真は「河津バガテル公園」直営のカフェで、開園と同時にオープン、ラストオーダーは16時。客席は室内とテラスとで合計54席、テラス席はペット同伴OKです。軽食はバガテルカツサンド500円、エビピラフ、カレーピラフ各700円など、ドリンクはコーヒー、紅茶、アップルティー各400円、グラスワイン600円、ビール700円などがあります。 特に人気の高いメニューは、バラの香りが楽しめるバラソフトクリーム380円(左写真)とバラジュース500円、スパークリングローズ500円(右写真)です。 調香体験コーナーやバラ講習会も開催! 土産物店も充実の品揃え 「河津バガテル公園」では、調香体験コーナーも設けています。バラの香りに含まれる7種の香料を混ぜ合わせて、オリジナルフレグランスをつくります。体験時間は1回約30分で、10㎖で1,000円、20㎖で1,600円。通年行っており、予約なしで参加できます。 また、シュートの管理や病害虫対策、冬の剪定法など、バラの管理に関する講習会を、毎週土・日曜の11時から開催しています。1回完結スタイルの内容で約30分、無料なので、ぜひご参加ください。 園内にある土産物店の品揃えは、充実したラインナップ。バラジャムやローズヒップティー、バラ石鹸、バラをモチーフにしたハンカチなど200〜400種の雑貨類が揃い、お買い物を楽しめます。右の写真は、バラの香りが楽しめるオリジナルのバスパウダー200円。バラ苗も100品種以上を揃えており、価格帯は新苗が1,000円〜、大苗が2,800円〜です。
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岡山県

花の庭巡りならここ! 自然美にため息がこぼれる「深山イギリス庭園」
岡山県玉野市の市政60周年を記念して、2000年にオープンした英国式庭園「深山イギリス庭園」。ガーデンデザインはイギリスの著名な庭園技師、ピーター・サーマンさんが手がけました。彼は「深山イギリス庭園」の設計にあたって深山に3カ月滞在し、当地の気候を肌で感じたうえで、自然・環境との調和を目指した「20世紀の伝統的なイギリス庭園」をコンセプトに構想をまとめ上げました。7,500㎡の敷地は、大人がゆっくり歩いて1時間程度で観覧できる広さ。約200種8,000株の植物たちが四季折々に織りなす、豊かな景色をお楽しみください。 「深山イギリス庭園」は、カマクラヒバの生け垣で6つに区画され、6つのスタイルのガーデンがつくられています。ガーデンは、①「深山イギリス庭園」のシンボルのトリプルドルフィンの噴水を中央に配したウォーターガーデン(水の庭)、②イングリッシュローズを中心に集めたローズガーデン(バラの庭)、③夏花を集めたサマーフラワーガーデン(夏花の庭)、④明るい花色で演出したホットカラーガーデン(暖色の庭)、⑤白やシルバーの花や葉を集めたホワイトガーデン、⑥大きめの花弁をもつ太白桜が咲くグレイトホワイトチェリーガーデン(太白桜の庭)の6種です。 写真はウォーターガーデンのエリアにある休憩スペース。ガーデンテーブル&パラソルが4セット、ベンチが6つあり、飲み物のみ持ち込みOKです。 一番の見頃は5〜6月のローズガーデンが満開になる季節! 「深山イギリス庭園」のローズガーデンの見頃は5〜6月頃です。四季咲きのイングリッシュローズ、つるバラ16種類、約100株は、白、ピンク、黄色系の花色を中心に選び、宿根草と組み合わせてナチュラルに植栽されています。イングリッシュガーデンらしい華やかさと共に、空間に無限の広がりを感じさせるような、バラを仕立てたアーチのレイアウト術も見どころ。また、フォーカルポイントとしてつくられた噴水は、その賑やかな音で花が咲き誇る様子を表現。隣のウォーターガーデンが「静」なら、こちらは「動」で対比させています。発色のよい手前の赤バラは、‘L.D.ブレスウェイト’。 写真は、ローズガーデンを別角度から見た構図。奥に見える建物はイギリスの田舎屋風に建てられたパビリオンで、庭園のインフォメーションとして利用されるほか、アーチストの作品展示コーナー、絵葉書やハンカチ、ボトルフラワー、押し花、パンフラワー、書籍など、植物にまつわる雑貨ショップも併設されています。 旬を迎える花が、主役として輝くステージを随所にしつらえて 幅4m、奥行き12mのフジ棚には、紫のフジ、シロフジ、ベニフジ、ヤエフジ、ノダナガフジの5種類15株が植栽されています。開花時期に多少のずれはありますが、ほぼ咲き揃う5月上旬になると甘い香りが漂い、レースのカーテンのように花がさらさらとなびいて、それは見事なものです。フジの花言葉は「決して離れない」。カップルのフォトスポットにぴったりではないでしょうか? 左の写真はホワイトガーデンのエリア。高さ2.5mのアーチに、樹齢約20年のシロフジを沿わせ、ダイナミックに縦の空間を彩っています。奥に見えるシンボルツリーはオオデマリで、同時期に白い花をたわわに咲かせます。右の写真もホワイトガーデンの一角。オオデマリ、イングリッシュデージー、シロタエギク‘シルバーダスト’など、白花やシルバーリーフでまとめています。 モニュメントとエバーグリーンが織りなす、英国の伝統的な庭 写真のエリアは「彫刻の回廊」。ヨーロッパ独特の石灰岩ライムストーンを原材料に、動物の神や聖女をモチーフにした12体のモニュメントが整然と配置されています。英国の伝統的なガーデンに見られる、彫刻や鉢をシンメトリーにレイアウトする手法が見どころ。フォーカルポイントとなる槍状のオベリスクを奥に据えて奥行き感を強調し、中央にヤシモドキを植栽したゴシック調の飾り鉢を4つシンメトリーに配すことで、単に彫像を並べただけではない、景色の変化をもたらしています。見る方向や角度によっても印象が変わる、フォーマルな庭です。 四季を通して花々で彩られる「深山イギリス庭園」では、写真展やガーデニング教室、アフタヌーンティー、バグパイプ演奏が楽しめるイギリスフェアなど、さまざまなイベントも開催されています。あらかじめホームページでイベント内容をチェックして出かけるのもオススメです! Information 深山イギリス庭園 所在地:岡山県玉野市田井2丁目4490 TEL:0863-21-2860 http://www.tamano.or.jp/usr/miyama/ アクセス:JR岡山駅/30号経由宇野駅、渋川行バス40分/深山公園入口下車 瀬戸中央自動車道水島IC/車30分 オープン期間:通年 定休日:水曜(祝日の場合は翌日)、年末年始 営業時間:9:00~16:30(3月~11月)、9:00~15:30(12月~2月) 入園料:小学生100円、中学生以上 200円、65歳以上100円 Credit 取材&文/長田節子 ガーデニング、インテリア、ハウジングを中心に、ライフスタイル分野を得意とするライター、エディター。1994年より約10年の編集プロダクション勤務を経て、独立しフリーランスで活動。特にガーデニング分野が好きで、自身でも小さなベランダでバラ6姉妹と季節の草花を育てています。草花や木の名前を覚えると、道端で咲いている姿を見て、お友達にばったり会って親しく挨拶するような気分になれるのが、醍醐味ですね。 https://twitter.com/passion_oranges/
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群馬県

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。長年通ったアンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン【閉園】
「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」は、今から16年前の2002年4月に日本初の本格的イングリッシュガーデンとして群馬県太田市にオープンしました。 僕の家からは車で約3時間、決して近いという距離ではないのですが,この18年間で一番多く撮影に訪れたガーデンは、間違いなくこの「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」だと思います。 アンディ・マクルーラとウィリアム・ウルフの2人のイギリス人によってデザインされたこの庭は、イギリスのガーデンのエッセンスが随所にちりばめられていて、春、夏、秋、冬、どの季節も期待を裏切らない、僕にとってかけがえのないガーデンです。そして、多くのことを勉強させていただきました。 初めてこのガーデンを訪れたのは、おそらく2002年の5月だったと記憶しています。大型ホームセンターの「ジョイフル本田」新田店に付随した施設として、なんと群馬県にイングリッシュガーデンがオープンしたという噂を聞きつけました。当時イギリスのガーデニング関連の本を2冊手がけたカメラマンとしては、どんなガーデンなのか、この目で見ない訳にはいかないぞ! と、さっそく車を走らせたのを思い出します。 東北自動車道の館林I.Cを下りてから約1時間。とにかく遠い、というのが第一印象でした。しかし、いざ着いてみると、そこはまさにイギリスのガーデンにしか見えないではないですか。アンティーク調のレンガとアイアンの大きなゲート、その奥にはきれいに刈り込まれたツゲのヘッジと噴水……。長い時間をかけて駆けつけた甲斐がありました。 三脚をかついで小走りにガーデンに入り、夢中で撮影を始めました。ガーデン内は、白を基調にしたホワイトガーデンやサンクンガーデンにデザイナーのお子さんの名がついた2本の小径など、20のテーマに沿って一つずつ部屋のようにデザインされています。一つのガーデンを撮っては次へ、また次へと撮影はとてもシンプルに進みました。それはなぜなら、正しい立ち位置を理解して、まっすぐに立てば、自然と美しいガーデンフォトになってしまうという、カメラマンにとって夢のようなガーデンだったからです。 当時はイングリッシュガーデンが流行りだして、宿根草のボーダー花壇をキーワードにした特集が園芸関連誌をにぎわせていました。しかし日本では、イギリスの雑誌のような美しいガーデンにある宿根草の写真がなかなか撮れないことが悩みで、常にいい撮影ができる庭を探していたのです。 そんな僕にとって、「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」は最高の庭で、今まで憧れていたボーダー花壇の中には、美しく咲く宿根草が撮り放題! それどころか、撮影した花の品種名が分からなければ、イギリス仕込みのガーデナーさんが丁寧に教えてくれるし、さらに分からない時は調べてから連絡までしてくれるという、まさに天国のようなガーデンでした。 翌年からは毎年必ず足を運び、宿根草に限らず、バラやクレマチスなど、いろいろなガーデンシーンを撮影させていただきました。今の基本的な撮影スタイルは、このガーデンから学んだような気がします。 その後、2代目ヘッドガーデナーの福森さん、3代目ヘッドガーデナーの太田さんには、さらにお世話になりました。早春には、スノードロップやクロッカスなどの小球根の可愛らしさを見せてもらったり、冬にはイギリスの雑誌でよく登場していた凍った庭の撮影をするために、寒い真冬の早朝、裏のゲートを開けてもらったりもしました。春の花木の美しさや、秋の紅葉したガーデンの美しさまで、日本にいながらイギリスの庭を撮影しているかのような、さまざまな経験を重ね、学ばせてもらいました。 Information アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン 2002年4月に開園して以来多くの来園者があった「アンディ&ウィリアムスボタニックガーデン」(群馬県太田市、ジョイフル本田新田店に併設)は、2020年12月20日(日)に閉園いたしました。 掲載の記事は、2018年2月5日公開のものです。
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岐阜県

花の庭巡りならここ! 世界最大級のローズガーデンを堪能「ぎふワールド・ローズガーデン(旧 花フェスタ…
世界最大級のローズガーデン「ぎふワールド・ローズガーデン」 「ぎふワールド・ローズガーデン(旧 花フェスタ記念公園)」は、花の博覧会「花フェスタ’95ぎふ」の会場を岐阜県が再整備してオープンした、県営の都市公園です。岐阜県はバラの産地であることから、特にバラに特化した植栽が特徴。なんと原種からオールドローズ、最新品種まで、約7,000品種30,000株のバラが植えられた、世界最大級のバラ園を展開しています。ほかにバラの歴史にふれる「花のミュージアム」、季節ごとにガーデンショーを展開する大温室「花の地球館」、園内を一望できる高さ45mの「花のタワー」、屋外イベントホール「プリンセスホール雅」なども併設する、充実した「バラと花のテーマパーク」です。 バラの品種コレクションは日本一! バラの博物館へようこそ 「花フェスタ記念公園」は、ナゴヤドームおよそ17個分(80.7ヘクタール)にも及ぶ広大な敷地で、見どころは多岐にわたっているため、一日かけてじっくり見て回る心づもりで出かけたほうがよさそうです。 バラ園は、日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスと国ごとに作出された品種をカテゴライズして植栽した「世界のバラ園」のほか、17のテーマからなる「バラのテーマガーデン」の2カ所に設けられています。写真は「バラのテーマガーデン」内にある、イタリア風のテラスガーデン。傾斜を利用して、球体や方形に仕立てたトピアリーとバラの組み合わせで段々畑のように整備され、その中の通路を自由に散策できます。 バラのテーマガーデン内にある、「水のコリドール(回廊)」。中心に配された水路の両脇には、人の顔の高さくらいに樹高を抑えたスタンダード仕立ての‘アイスバーグ’が2列に植栽され、ピュアホワイトの花色で清楚に彩ります。 写真は「育種家のバラ園」。バラの品種を作出するナーセリーは、デルバール、ギヨー、メイアン、京成バラ園芸、タンタウなどが有名ですが、それらのブランドローズをナーセリーごとに分類したエリア。バラのアーチも通り抜けでき、その芳香を楽しめます。アーチに絡む淡いピンクのバラは‘ロココ’、オレンジのバラは‘バロック’。 「バラのテーマガーデン」の中でも一番面積の広い「フォーマルガーデン」。展望台から見ると、中央のスクエア状の水路を中心に、バラやトピアリーの植栽で幾何学模様が描かれているのが分かります。バラは1品種1株ずつ植えられており、多様なバラが見られるので、遠くからでも近くからでも楽しめる構成です。 白花一色でまとめられた「ホワイトローズガーデン」。幅372㎝、高さ248㎝のアイアン製の円柱アーチには‘テストラデスモンド’が仕立てられ、たわわに咲き誇ってダイナミックな景色をつくり出します。園内のシンボリックな存在で、フォトスポットとして大人気です。 「ニューローズガーデン」は、最新品種が見られるスポット。どこよりも早く一般披露されるので、株姿や花色、香りを実際に確認でき、バラのトレンドが見てとれます。特にバラ愛好家が、新しい品種をいち早く見ようと楽しみに訪れるガーデンだとか。赤いシュラブのバラは‘ペイズリーアビー’、その上の白いつるバラは‘スノーストーム’、ピンクのシュラブは‘デスデモーナ’、その隣の白のシュラブは‘ジ・エンシェント・マリナー’。 広すぎる園内に歩き疲れたら、「花ポッポ」に乗って楽に移動! 敷地が大変広いので、園内の移動手段として「花ポッポ」が運行しています(200円)。東ゲートと西ゲートを数箇所の停留所を経て結ぶ汽車姿のバスで、歩くくらいのスピードで走行するため、園内の景色を座って眺めるのにもオススメ。ハイシーズンでは30分に1本のペースで、2台のバスが運行しています。 インスタ映えするカフェや雑貨店、バラ専門店などにも足を運ぼう 園内には、バラ苗専門店や雑貨店などのショップが5店舗あります。なかでも「shop&café THE GARDEN」は2017年秋にオープンしたばかりで、インスタ映えするスイーツやおしゃれなガーデニング雑貨、バラ関連アイテムなどが充実しています。営業時間は9:00〜17:00で、ラストオーダーは、フードメニューが閉園の1時間前、カフェメニューが閉園の30分前です。 写真右は、バラのアイスクリームやハーブを使い、カップ咲きのピンクローズをイメージして盛りつけられた、フォトジェニックな「ラブローズパフェ」(900円・税別)。 フードメニューのオススメは、本格インドカレー タンドリーチキントッピング(1,231円・税別)。スパイシーな柔らかチキンが、どっかりと鎮座! バラや花にちなんだ雑貨コーナーの一角。上段はロージーリングスのアプリコットローズのディフューザー(10,000円・税別)、下段はふんわりと香りが広がるボタニカル ワックスサシェ(2個入り4,000円・税別)。いずれも程よい香りで、ギフトにもオススメ。 写真右は、口の中にほのかなバラの香りが漂うブルガリアン スパークロゼ(200ml)。ダマスクローズエキス(無農薬)+ヒアルロン酸美容サポート成分が配合されています (450円・税別)。
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イギリス

英国の名園巡り 大邸宅のスケールを楽しむ「ブリックリング・エステート」
120年前のこと、英国の慈善団体ナショナル・トラストは、開発で失われていく自然や、歴史ある建物や庭といった文化的遺産を守り、後世に残そうと、活動を始めました。多くのボランティアの力によって守り継がれる、その素晴らしい庭の数々を訪ねます。 英国史の舞台となった屋敷 ブリックリングの歴史は古く、11世紀には、ヘイスティングスの戦いでウィリアム1世に敗れた、イングランド王ハロルド2世の領主館がありました。16世紀には、ヘンリー8世の妻となったアン・ブーリンの父親が所有しており、アンはここで生まれたともいわれています。王室に近い貴族や主教など、ブリックリングは時の有力者の手に次々と渡ってきました。 現在見られるジャコビアン様式の赤レンガ造りの屋敷は、法律家で准男爵のヘンリー・ホバートによって、1619年から建てられたもので、ヘンリーの死後、地所はホバート家の親族によって受け継がれてきました。そして1940年、ブリックリングの最後の主であり、2つの世界大戦の間に政治家、外交官として活躍したフィリップ・カー、第11代ロージアン侯爵によって、ナショナル・トラストに遺贈されました。 ブリックリングの風景でまず目を引くのは、赤レンガの屋敷とシックなコントラストを見せる、堂々たるイチイの生け垣です。エントランスの生け垣は17世紀初めに屋敷が建てられて以来、400年にわたって引き継がれているもの。長い時の流れが感じられます。そして、庭園にチェスの駒のように点在するトピアリーも印象的です。遠目では可愛らしく見えますが、じつは大人が見上げるほどの大きさ。これほど立派なトピアリーには英国でもそうそうお目にかかれません。 ノラ・リンゼイが設計したパーテア 館の東側には、美しいパーテア(植物で幾何学模様を描く整形式庭園)が広がっています。19世紀後半には、大小80の花壇とトピアリーによって凝った模様が描かれていましたが、現在見られるデザインは、第11代ロージアン侯爵の依頼を受けて、1932年にガーデンデザイナーのノラ・リンゼイによって再設計されたものです。 ノラ・リンゼイは上流階級の出身で、独学で園芸知識を身に着けてデザインセンスを磨き、20世紀を代表するガーデンデザイナーとして活躍しました。彼女の友人には、名園ヒドコートをつくったローレンス・ジョンストンや、シシングハーストのヴィタ・サックヴィル=ウェストがいます。 ノラは、噴水を中心に、4つの大きな正方形の宿根草花壇を配置するという、ごくシンプルなデザインに変え、花壇をピンク、ブルー、藤色、白の花々で埋めました。時代の先端をだったその植栽デザインは、今でも古さを感じさせません。 咲き広がる春のスイセン ブリックリングの敷地には広い草地や農場があり、その総面積は2,000万㎡に及びます。屋敷から少し離れた野原のエリアは、春は黄色いスイセンで埋め尽くされ、人々が散策を楽しむ憩いの場となります。 小さな谷のエリアでは、冬はヘレボレス、初夏にはジギタリスが咲き広がって、人々を出迎えます。5月にブルーベルが咲く森もあって、一年を通じて、英国らしい季節の移ろいが楽しめます。 英国ナショナル・トラストでは、会員になって年間パスポートを手にすれば、何度でも庭園に入場することができます。こんなに美しい場所をいつでも楽しめるなんて、地域に暮らす人々が羨ましいですね。 取材協力 英国ナショナル・トラスト(英語) https://www.nationaltrust.org.uk/ ナショナル・トラスト(日本語) http://www.ntejc.jp/


















