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イギリス
英国の名園巡り、オールドローズの聖地「モティスフォント」
日本で愛される桜のように、古くから英国の人々に愛されているバラ。英国にはバラの名園がたくさんありますが、愛好家たちが初夏にこぞって訪れるのが、モティスフォントのウォールド・ローズガーデンです。 ロンドンの南西、ハンプシャー州にあるモティスフォントは、13世紀に修道院として始まり、18世紀には大邸宅が建てられて、芸術家の集う場として賑わいました。広大な敷地の中には緑の森や牧草地が広がり、小川も流れます。その美しい田園風景の中に、この魅惑のバラ園はあります。 6月の花の盛り、四方をレンガ塀に囲まれたローズガーデンの門をくぐると、そこには500種を超えるバラが咲き揃う、夢の世界が待っています。5枚の花びらをひらひらさせる可憐な一重のバラに、幾重もの花弁を持つ優美なロゼット咲きのバラ、それから、小ぶりな花でアーチを覆い尽くすつるバラ。園内にはさまざまな色と形のバラが、歌うように咲き、甘く香ります。 バラ好きにとってこの庭が特別なのは、一般にオールドローズと呼ばれる、古い品種のバラの一大コレクションがあるからです。いまやナショナル・コレクションにも認定されるそれらのバラを集めたのは、高名な園芸家でバラ栽培家のグラハム・トーマス(1909-2003)。彼は、モダンローズの人気の陰で消えようとしていた古風なバラたちに魅せられ、同好の士を訪ねて精力的に苗を集めていましたが、1970年代にナショナル・トラストのガーデン・アドバイザーを務めたことから、それらの安住の地となるこの庭をつくる機会に恵まれました。救われたバラの中には、絶滅の危機に瀕しているものもあります。オールドローズの多くは1年に1度しか咲きませんが、トーマスが愛したその優雅な花姿は、今も人々を魅了し続けています。 トーマスは庭を設計する際、バラはバラだけでなく、宿根草と合わせることで、美しさがより引き立つと考えました。まず背景となるのは、常緑の生け垣やトピアリー、そして、芝生がつくる端正な緑。そこに、バラの花色に合わせて、青や紫、ピンク、白の花を咲かせる宿根草が寄り添います。カンパニュラ、ゲラニウム、フロックス、ピオニー、ナデシコ、ネペタ、ジギタリス、クレマチス、アガパンサス。これらの宿根草は、バラのない時期にも庭を美しく保ってくれます。 園内には、現代の偉大なバラ育種家、デビッド・オースチンによって作出された、豊かな色合いの黄色いイングリッシュローズ‘グラハム・トーマス’も咲いています。トーマスは生前、オースチンと親交があり、彼のナーセリーをよく訪れてバラ談義を交わしました。このバラは、トーマス自身が気に入って名付けたといわれます。 モティスフォントへはロンドンから車で2時間ほど。庭園の開園時間は10~17時ですが、バラの見頃となる6月第2~4週の木~土は20時まで開園。バラの放つ甘い香りに満ちた、夕暮れのバラ園を体験することができます。 モティスフォントは一年を通して楽しめる場所で、ウィンターガーデンは、スノードロップ、クリスマスローズやシクラメン、ラッパズイセンなど、早春から花が溢れています。また、英国でも珍しいプラタナスやマロニエの巨木が、秋にはダイナミックな紅葉を見せます。広い芝生でピクニックをしたり、小川沿いを散歩したりという、田園ならではの楽しみ方も。無料のガイドウォークも充実しているので、本場英国のウォーキングにチャレンジするのもよいでしょう。 Text by Masami Hagio Information 〈The National Trust〉Mottisfont モティスフォント 住所:Mottisfont Lane, Mottisfont, Nr Romsey, Hampshire SO51 0LP 電話:+44 (0)1794 340757 https://www.nationaltrust.org.uk/mottisfont
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北海道
上野ファームの四季【花巡り・ガーデン案内 〜北海道〜】
ダイナミック! 北海道ガーデン 北海道・旭川にある上野ファームは、約3,000坪の敷地に10のエリアが広がる開放感に満ちたガーデン。上野悦子さん、砂由紀さんの母娘で18年つくり続けてきた伸びやかなガーデンは、冷涼な北海道の気候が育む花々の冴えた色彩も魅力で、全国から多くの人が訪れます。2016年には、とんがり屋根がトレードマークのナチュラルガーデン「ノームの庭」がオープンしました。そんな上野ファームの美しい一年の庭ストーリーをご案内します。 雪解けは4月 長く厳しい北海道の冬。凍り付くような寒さが緩み、すべてを覆っていた白い雪から茶色の地面がのぞくようになる雪解けは、長く待ち望んでいた春の先触れです。植物たちは雪の下でじっと寒さに耐えながら、次の冬までの短い間、存分に美しく花開くためのエネルギーを蓄えてきました。さあ、上野ファームの一年の始まりです。 4月下旬に幕が上がる球根花の競演 北海道にようやく訪れた本格的な春。その短い季節を謳歌するかのごとく、凝縮されたエネルギーに満ちた景色がガーデンのそこかしこで繰り広げられます。春のガーデンをいち早く彩る球根花は、スイセンやヒヤシンス、チューリップなど。花壇はいつの間にか、早春の光を浴びて宝石のように輝く愛らしい花々に埋め尽くされていました。 6月からは主役のバラが登場 春と夏がほとんど同時に訪れる北海道。春と初夏の花々が一堂に会してつくり上げるのは、北海道ガーデン限定の光景です。数ある花の中でもひときわ艶やかで、ガーデンの印象をガラリと変える季節の主役花が、バラ。イギリスとほぼ同緯度で、冷涼な気候の北海道はバラがひときわ美しく育つ地。濃く澄んだ花色と豊かな香りを持つバラたちが、これから7月まで上野ファームを彩ります。 次に夏から冬までをご紹介します。 ぐんぐん伸びる6月の草花 一年の中でも最も植物が成長する時期になりました。バーバスカムやリグラリア、エゾクガイソウ、ホリホックなど、空に向かってまっすぐ伸びる花々がガーデンに縦のリズムをつくります。この季節になると、同じ場所でも、芽吹きの季節とは全く違った景色が見られるように。大きく葉を茂らせたホスタなどの植物が地を覆い、緑豊かな爽やかな景色が見られます。 7月 花盛りのガーデン 7月上旬頃には、数えきれないほどの花々が、広いガーデンのあちらこちらで伸びやかに花開きます。低く咲くものから、背丈を越すほどのボリュームある宿根草の数々に圧倒されてしまいます。とんがり屋根が目印の「ノームの庭」は、2016年にグランドオープンしたばかり。毎年進化を続けるガーデンを楽しみに、多くの人々が上野ファームを訪れて花々の美しさを堪能しています。 深みを増す秋色のガーデン にぎやかだった北海道の短い夏が終わり、日増しに空気が冷たさを増す秋。夏の花に変わり、落ち着いた風情の秋の花々が咲き始める中、植物は静かに次の世代に命をつなぐ準備にかかります。ぷっくりと膨らみ、色づき始める草木の実は、花数が少なくなる秋の庭でひときわ愛らしい輝きを放ちます。 冬の上野ファーム 季節は巡り、開園期間を終えた上野ファームでは、宿根草の刈り込みや落ち葉の掃除、翌年のための新しい植え込み、そしてバラや草木の冬越しの準備に、上野さん母娘とスタッフ総出で急ピッチの作業が進みます。やがて空から雪が舞いはじめ、あれほどカラフルな花々で満たされていたガーデンは、一面白銀の世界に閉ざされました。時に2mを超す厚い積雪の下に隠された土の中では、植物たちが翌年の芽吹きの時を静かに待っています。 Information 上野ファーム 住所 北海道旭川市永山町16丁目186 Tel 0166-47-8741 URL http://www.uenofarm.net ガーデン開園期間 4月中旬~10月中旬まで(2017年は4/22~10/15) 10:00~17:00 入場料 大人800円 小学生以下は無料 団体割引 15名以上での来園で、大人一人700円 併せて読みたい 上野ファームの庭便り「バラも宿根草も! 思いっきり楽しむ夏の庭」 連休の花庭お出かけ情報! 日本全国、花の旅にオススメの観光ガーデン保存版【北海道・東北・関東】 カメラマンが訪ねた感動の花の庭。北海道 上野ファーム
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群馬県
花旅案内・ブルーベリー摘みができる果樹園の中の可愛いカフェ
緑の森と青空を背景に建つ、煙突屋根の可愛らしい一軒家カフェ「ティア・ツリー オーチャード&カフェ」。周囲をリンゴやブルーベリーの果樹園に囲まれて、なんだか赤毛のアンの世界に入り込んだよう。建物の前には丹精されたフラワーガーデンが広がり、花を眺めながら店内へ。7月からは周囲に広がるブルーベリー畑で摘み取り体験ができるので、腰を落ち着ける前に、まずは摘み取り専用ボックスを購入して、畑へGO! 熟したブルーベリーを探して、木から木へ。紫色が濃くて、白っぽい粉をまとった粒を選びます。この白い粉は‘ブルーム’といい、果実の水分が蒸発するのを防ぐために自然に分泌されているものです。熟した新鮮な果実の目安になるので、よく観察しながら摘みます。ブルーベリーはお日様をたっぷり浴びて育つため、畑には陽を遮るものがないので帽子は必携ですね。 「1粒ずつじゃなく、10粒くらい一緒に食べてみてください」と言うのは、オーナーで料理を担当している星野綾さん。言われた通りにしてみると、濃厚な甘みとともに野趣溢れる香りが口いっぱいに広がり、「ブルーベリーってこんなに美味しかったっけ?」という新鮮&感動体験。ティア・ツリーの大粒で甘いフレッシュ・ブルーベリーは贈答用としても人気です。500g×2/3,000円、500g×4/5,000円(送料込み)。受け付けは8月いっぱいまで。旬の期間の短いブルーベリーは冷凍が可能で、むしろ冷凍して料理に使ったほうが、果肉がしっかり残って美味しいのだそうです。 カフェは果樹園の高台にあり、どの席からも村の美しい田園風景が眺められます。ブルーベリー畑の向こうにはリンゴ畑、その向こうには田んぼが広がっており、オーナーの星野さん一家は、これらの田畑を作る農家でもあります。ご主人の孝之さんを中心に、それぞれのご両親とともに農業を営みつつ、2008年にカフェをオープン。料理やジャムの製造は綾さんが担当し、定期的なイベントも企画しています。入り口の素敵な庭と、テーブルに飾られた可愛らしい花のアレンジは、ガーデニングが好きな綾さんのお母さまの手によるものです。 秋のカフェからの眺めは、黄金色の田んぼとリンゴ畑に変わります。川場村は83%が山林で占められており、日本百名山の一つ、武尊山からの雪解け水と朝夕の寒暖の差が村のあらゆる作物の味を特別なものにしています。川場村のお米は、あまり一般に流通しない幻のお米として知る人ぞ知る逸品です。炊きたてはもちろん、冷めても美味しいのが特徴で、お米の食味を鑑定する国際コンクールで8年も続けて最高賞を取り続け、ミシュランガイドで3つ星を獲得したニューヨークの名店も川場村のお米を使っています。カフェでも星野さんたちが丹精込めて作った川場産コシヒカリのお米のランチメニューがいただけるほか、通販で購入することもできます。 店内の席は少しずつ雰囲気が異なり、インテリアを眺めるのも楽しい空間です。ペット連れの方は外のテラス席も利用できます。カフェを利用する際には、事前に予約をした方がスムーズに入れます。ジャムやフルーツジュースなどの他に雑貨や食器なども販売されており、可愛いお土産が見つかりますよ。 お土産のブルーベリーでマフィンを作ってみましょう。友達に送ったブルーベリーにも、レシピを添えて。 材料/ホットケーキミックス150g、卵1個、牛乳100㏄、砂糖40〜50g、バター50g、ブルーベリー適量 バターを室温に戻しておくとともに、オーブンを180度に予熱しておきます。 ボールに材料を全部入れてさっくり混ぜ、マフィン型の半分くらいまで生地を入れます。型をトントンと軽く落として空気を抜き、オーブンで20〜25分。竹串などで刺して生地が付かなければ焼き上がりです。 Information ティア・ツリー オーチャード&カフェ 〒378-0102 群馬県利根郡川場村川場湯原 2453-3 営業時間:open 金・土・日・祝のみ 営業(冬期休業あり) 11~17時(ランチは11〜14時)※フードラストオーダー16時 TEL. 0278-52-3556 FAX. 0278-25-3553 http://tiatree.com ※ホームページのカレンダーで営業日をご確認のうえ、カフェを利用される際は席の予約をオススメします。 併せて読みたい ・知っておきたいブルーベリーの肥料の施し方と注意点 ・花の庭巡りならここ! フルーツの魅力を発信する「東谷山フルーツパーク」 ・ガーデニングとは? 楽しく成功させるためのアイデアと基本情報をご紹介 Credit 写真&文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。 Photo/top)Chamille White/8)Vladyslav Yankovsky/Shutterstock.com
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イギリス
イギリス 湖水地方 初夏のイングリッシュガーデンを巡る旅
湖水地方 〜B&BとHolehird Gardens〜 まず初めに、私たちが訪れたのは、イギリス北西部の湖水地方。かの有名なピーターラビットのお話が生まれた場所です。宿泊先は、ウィンダミア湖畔の街ボウネスのB&B。ここで私たちを迎えてくれたのが、満開の藤でした。まさにウェルカムサプライズ!建物の壁面に誘引された藤の美しさに、長旅の疲れも一瞬で吹き飛んでしまいました。 翌日は、のんびりとボウネスの街を散策し、ウィンダミア湖のクルーズに参加しました。湖面に吹くひんやりとした風、澄んだ空気が心地よく、対岸のみずみずしい緑の中に点々と見える石造りの建物は、どこを切り取っても絵になる景色でした。 次の日は、いよいよチャーターしておいたタクシーでガーデン巡り。幸運にも、タクシーの運転手さんが日本好きな方で、片言の日本語を交えながらとても親切に接してくれました。初めに向かった先は、Holehird Gardens。庭好きの私たちのためにわざわざ立ち寄ってくれたガーデンです。何と、そこで生まれて初めて青いケシの花を見ることができたのです。手漉き和紙のような青い花びらに朝日が透ける様はとても神秘的で、暫く見とれました。 小さいながらもお手入れの行き届いた庭は、ボーダーガーデンやロックガーデン、ウォーターガーデンもあり見応え十分。ナチュラルな植栽も親しみやすく、特に、斑入りの葉が美しい黄色のカキツバタや、赤いクリンソウが鮮やかな水辺の植栽に目を奪われました。 湖水地方〜Rydal Mount garden〜 次に向かった先は、詩人ウィリアム・ワーズワースの邸宅Rydal Mount。1万8,000㎡(約5,500坪)にも及ぶ広大な庭園は、ガーデニング好きだったワーズワース自身によって造園されたことで有名です。山の中腹につくられた庭は、周りの自然と溶け込みダイナミック。山の中を散策しているような気分でした。 また、ワーズワース一家が暮らしていた当時の様子が再現された家の中も見学できるので、その暮らしぶりを垣間見ることができました。中でも、つる植物が無造作に絡まる窓辺は、まるで絵画のよう。どの窓からも庭の豊かな緑が見えました。この場所で、湖水地方の美しい景色をモチーフに数々のロマンチックな詩を残したことが頷ける、叙情的な眺めでした。 湖水地方〜ピーターラビットのお話が生まれたHill Top~ Rydal Mountを後に、次に向かったのが、かの有名なピーターラビットのお話が生まれたHill Top。その道中で、ウィンダミア湖を見下ろす丘の上で、素晴らしい景色を見ることができました。 実はこの場所も、タクシーの運転手さんが立ち寄ってくれたお勧めのビューポイント。これぞ湖水地方!というイメージにぴったりの絶景でした。「もし天国があるとしたら、きっとこんな所かもしれない」、そう思いました。 そこから車で約15分。Hill Topのあるニアソーリー村に到着した途端、お天気が一変、急に雨が降り出しました。とはいえ、ずっと憧れていたHill Top のなだらかな坂道のボーダーガーデンやピーターの菜園が目の前に広がっているのです。 迷うことなく雨に濡れながら興奮気味に写真を撮っていると、すれ違う人たちから、「Hello!」「Enjoy!」と声をかけてもらったり、笑顔で手を振ってもらったり…。こんな温かなコミュニケーションが生まれるのも、ビアトリクス・ポターさんとピーターラビットたちの魔法のおかげ。Hill Topは、世界中の人を笑顔にさせてくれる場所でした。 湖水地方〜Holker Hall Garden〜 そして、この日最後に訪れたのがHolker Hall Garden。ここは、昔、貴族の地主が建てた邸宅の庭で、現在でもキャヴェンディッシュ卿が住んでいるのだとか。その邸宅の一部を見学できるようになっていて、豪華でエレガントな室内を堪能することができました。 1991年に英国園芸界の最高峰「Garden of the Year」を受賞したという庭園は、何と約3万坪(99,000㎡)。装飾の美しい門扉の先や、柵の向こうに羊が放牧されていて、どこまでが庭園なのかわからないほどでした。そんな広い庭園で、ひと際目を奪われたのが、重厚な屋敷の屋根付近まで壁面にびっしりと誘引された白藤。垂れた白い花穂の優美さは圧巻でした。他にも鉢植え仕立ての藤があちらこちらに置かれていました。「いったい、あの高さまでどうやって誘引しているの?」「鉢植えの藤のつるは、どう処理しているの?」と、興味津々でした。 藤やバラが咲くメインガーデンの先には、森の中の散歩道のようなウッドランドガーデンが。日向は、アヤメやチドリソウのような紫と白で統一された涼やかな花々、日陰にはシダやギボウシ、鮮やかなクリンソウがバランス良く植えられていました。更に奥へ進むと、樹木に囲まれた薄暗い場所に噴水がありました。木漏れ日にキラキラと輝く水しぶきが美しくて、水音を聞きながら暫く眺めていました。 こうして、丸一日かけて巡った湖水地方のイングリッシュガーデン。豊かな自然の景色を取り入れた広大な庭園は、ゆったりとした時間が流れ、ナチュラルな草花の植栽が印象的でした。そして、何と言っても心が震えた満開の藤の美しさ。万葉の時代から愛されてきた日本原産の藤「wisteria」が、イギリスの人々にこんなにもが愛されているということに驚きと感動を覚えました。イングリッシュガーデンが、改めて藤の魅力を教えてくれたような気がします。 Credit 写真&文/前田満見 高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。 Instagram cocoroba-garden
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シンガポール
シンガポール「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」【花好きさんの旅案内】
ここは、シンガポール政府が2005年にコンペを呼びかけてプロジェクトがスタートした、植物と近未来の建造物を融合したアミューズメントパークです。70もの応募の中から英国のランドスケープデザイナー、アンドリュー・グラント氏の案が採用されて実現しました。敷地面積100万㎡、屋外に1,500種30万株の植物、温室には1,000種10万株という規模。こんなに広く充実した施設ですが、特別な場所以外は基本的に無料ということにも驚きます。写真は、世界各国の植物が展示されているガラスのドーム「フラワードーム」(有料施設)です。 ここでまず圧倒されるのは、高さ25〜50mもある巨大な人工木「スーパーツリー」。園内には18本のツリーが立っていて、その表面には生きたつる植物やシダ類など200種の植物が茂り、SF映画の森に迷い込んだような不思議な驚きがあります。ツリーはそれぞれソーラーパネルを備えていたり、レストランが入っていたり。夜は赤、青、緑と何色もの光でツリーが闇に浮かび上がり、一日中楽しめます。 有料ゾーンの巨大なガラスドーム「クラウドフォレスト」は、天井高が最高で54mという中に、高さ35mの人工の山が丸ごと入っています。何本もの滝が流れる山の斜面には標高1,000〜2,000mの植生が再現され、低地の植物まで一度に観賞できるというもの。「ロストワールド」と名付けられた頂上付近では、高山の珍しいランやシダが見られ、雲を思わせる霧を漂わせる演出まで。あたりは涼しくて温室にいることを忘れてしまいます。 クラウドフォレストには、山をぐるりと見学できる空中散策路があり、高い所はまるで渓谷の吊り橋のよう。ちょっと足がすくみます。滝壺の裏から水流を見上げることができたり、大興奮の演出があちこちにあります。 世界中の植物を集めて‘永遠の春’を表現している「フラワードーム」では、日本でも人気のビカクシダの巨大な株や、ここまで伸びるのか! と驚かせてくれる多肉植物の一群、バオバブやオリーブなどが。次々と現れる植物のバリエーションに、飽きずに散策ができます。外に比べて涼しく、温室内でも過ごしやすいのもよいところ。 形がユニークな食虫植物のコーナーでは、本物の植物に混じって鮮やかなオブジェが。よーく見ると、レゴブロックで作られていました。子どもも興味を持つようなユーモアのある展示法に、思わずパチリ。 家族連れなら、ぜひ行って欲しいのが「ベイ・サウス」。ゲートを入って、まっすぐ行くと「チルドレンズガーデン」に。ジャングルみたいに緑もたくさん茂った場所で、子どもたちがつい駆け出したくなるエリアです。 子ども心をくすぐる遊具が次々と現れる「アドベンチャー・トレイル」や、アスレチックのようなツリーハウスの「ザ・ツリーハウス」コーナー、噴水やシャワーで水しぶきが気持ちよいウォーターパークなど。地元の子どもたちはもちろん、観光客のキッズも一緒に思い思いに遊べる無料エリアです。 シンガポールは国土が東京23区ほどで、移動時間があまりかからない小さな都市。子どもたちと楽しめるスポットもあり、子連れ旅にオススメです。ちょっと足を伸ばせば「シンガポール動物園」や世界遺産の「ロイヤルボタニックガーデン」などがあり、花緑に触れながら休暇をゆったり過ごせます。初の子連れ海外旅に、ここを選ぶ人が増えているというのもうなずけます。 併せて読みたい 花の庭巡りならここ! エキゾチックな植物の宝庫「夢の島熱帯植物館」 オージーガーデニングのすすめ「オーストラリアの木生羊歯」 花好きさんの旅案内、シンガポール「ナショナル・オーキッド・ガーデン」
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イギリス
花好きさんの旅案内【英国】ロイヤル・ボタニック・ガーデンズ・キュー
ロンドン郊外にあるキュー・ガーデンは、1759年にオーガスタ皇太子妃によって創設された、英国の王立植物園。植物コレクションの多様性においては世界一と言われ、また、植物と菌類に関する最高峰の学術機関として、世界をリードしています。2003年には、ユネスコの世界文化遺産の指定を受けました。 さて、広さ120万㎡、見どころは100を超えるという、広大な園内。一日ですべてを見て回るのは至難の業ですが、とにかく、歩き始めましょう。 地下鉄キュー・ガーデンズ駅からアクセスのよい、ヴィクトリア・ゲートから入場して、まずは、キュー・ガーデンを象徴するガラス温室、〈パーム・ハウス(Palm House)〉へ向かいます。温室前の芝生の広場には、無数のアリウムが列植された季節の花壇が。この花と温室のコンビネーションは、思わずカメラを向けてしまう、絵になる風景でした。 パーム・ハウスは、ヴィクトリア朝時代のプラントハンターが熱帯雨林から持ち帰った植物を育てる場として、1844年に建てられました。建造には当時の造船技術が応用されましたが、鉄製のフレームとガラスによって、こんなにも美しい曲線を描けることに感心します。屋外も汗ばむ初夏の陽気でしたが、温室内は熱帯雨林と同じ環境。入った瞬間から、むわっとした暖かい空気と、360度の熱帯の緑に囲まれました。 パーム・ハウスを出ると、南西側に、ブッシュローズとシュラブローズによるローズガーデンがあります。植物園らしく、それぞれのバラに品種名が書かれたプレートが添えられているので、好みのバラを探すのにもよい庭です。日本でオールドローズがブームになった頃によく耳にした、少し懐かしいオーソドックスな品種にも多々出合えました。 バラは、低く咲くものから、背丈以上に枝を伸ばして、重そうに花首を垂らして咲くものまで、品種ごとの樹形を生かしたナチュラルな仕立てになっていました。バラの茂みとパーム・ハウスの風景も、やっぱり絵になります。 この温室は、ヴィクトリア朝の園芸家を魅了した、アマゾン原産のオオオニバスを育てる目的で、1852年に建てられたというもの。珍しい植物を世界中から集めて栽培しようとする英国人の情熱には、本当に驚いてしまいます。 建物の中は、直径約10mの丸池でほとんど占められていて、池の周りをぐるりと一周しながら、水面に浮かぶスイレンの類や、ふわふわしたパピルス、吊るされたヒョウタンの類といった、熱帯植物を見ることができます。 池では今もオオオニバスが栽培されていますが、葉が大きすぎるため、現在は、それより小ぶりなサンタクルス・ウォーターリリーを多く育てているのだそうです。 道の両側に、ずっと先まで続いていく、ゆったりと幅の広い花壇です。全長320m、3万株の宿根草が植わる花壇は、英国最長のダブル・ハベーシャス・ボーダー(小径を挟んで対になってつくられる宿根草花壇のこと)。この道は元々、パーム・ハウスに至る散歩道でしたが、2016年の春に、現在のような形になりました。 リーガルリリーが今にも咲きそうにつぼみを膨らましていたかと思えば、アルケミラモリスが、まるで絨毯のように広がっています。そして、トリトマやバーバスカム、イヌラ・マグニフィカといった、オレンジや黄色の元気な色の花が、鮮やかに園路を彩ります。花壇に見とれて歩くうちに、あっという間に長い距離を進んでいました。 カモミールなど34種の植物からなるメドウに囲まれて建つのは、17万個のアルミ製パーツと1,000個のLED電球からなる「巣」を、ハチになった気分で体感するという、高さ17mのインスタレーション・アート。2015年ミラノ万博の英国館展示品として、アーティストのウォルフガング・バットレスによって作成されたものが、移築されました。 ハチの研究にインスピレーションを受けてデザインされたというこのアート作品は、人間が食べる食物の受粉を担っているハチの重要性を訴えかけるものです。キュー・ガーデンでは、ハチの食糧となるさまざまな植物を確保するなど、近年危惧されるハチの減少を食い止めようと、対策を試みています。 ロックガーデンは、1882年に、3,000株の高山植物の寄付を受けたことをきっかけにつくられました。ピレネー山脈の生息環境を模して、階段状に砂岩を組んだ花壇の中に、草丈30㎝もないような、小さな高山植物が植えられています。普段なら見落としてしまいそうな、小さな花の繊細な咲き姿が、ここではよく観察できます。綿のような花や針のような花など、これまで見たことのない植物にもたくさん出合えるコーナーです。 ロックガーデンを眺めながら歩くと、いつのまにか、鮮やかなバラに彩られた、ローズパーゴラの入り口に到着していました。長いパーゴラには、数多の花を咲かせるつるバラが何種類も絡んでいて、豪華な回廊を形作っています。 ここは、〈プラント・ファミリー・ベッド(Plant Family Beds)〉と呼ばれる一画。102に区分けされた花壇には、シソ科やナデシコ科というように、さまざまな植物が93の科に仲間分けされ、紹介されています。学術的な花壇ですが、ガーデンとしての見応えも十分の美しい場所です。 その昔、ここはキュー・パレスに住まうジョージ3世のために食物を育てた畑でしたが、現在は、BBCのテレビ番組のためにつくられた、新しいキッチンガーデンがあります。有名フレンチシェフのレイモンド・ブランが案内役となって、250種の野菜や果物を一年を通じて収穫しながら、料理や食の歴史を紹介する番組で、このキッチンガーデンはテレビを通じてとても人気があるのだとか。 小さな実をつけた、エスパリエ仕立てのリンゴやナシの仲間、これから支柱に絡まるであろう、まだ小さな苗のインゲン類、それから、花茎を立ち上げ始めたラベンダー。ハーブも野菜も、花も実も、一緒に楽しめるガーデンになっています。 支柱の先端には、作業中にかがんでも怪我をしないようにと、小さな植木鉢がかぶせてあります。そんなところからも、「本当に庭づくりを長年続けた国の植物園だなぁ」と、実感させられます。 〈プラント・ファミリー・ベッド〉の一角には、デザインの異なるハチの巣箱が3タイプ並んでいました。これは、マルハナバチやミツバチの巣箱。メドウに囲まれていて、近くに寄ることはできません。キュー・ガーデンでは、近年危惧されている、受粉を担うハチの減少を食い止めようと、ハチの好む植物を植えるなど、生育環境を整えています。ここで待っていれば、ころんとした可愛らしいマルハナバチを観察できるそうですよ。 あ、あの花、私が好きな花だ! あ、あんなところにバラが咲いている! なんて言いながら、次から次へと歩くうちに、広い広いガーデンの北の端近くまで来ていました。ヴィクトリア・ゲートを入ってから、あっという間に2時間。今回巡ったのは、植物園の北の方面ですが、まだ敷地の8分の1も見ていないかもしれません。 ゲートまで戻っていくと、パーム・ハウスの南側で、高さ3mほどの大木に絡まった、一重のつるバラが満開となって、驚きの花景色を見せていました。名札には「‘HIMALAYAN MUSK ROSE’ Rosa brunonii」とありました。 さて、これで庭巡りもおしまいです。 またの機会に恵まれたなら、庭の南側にある〈テンペレート・ハウス(Temperate House)〉にもぜひ訪れてみたいもの。パーム・ハウスの2倍の広さを持つ、ヴィクトリア朝に建てられた中で世界最大の温室です。温帯気候の植物が集められていて、その中には、希少種や絶滅危惧種もあるのだとか。現在修復中ですが、2018年に再びオープンの予定です。 もし、春の桜の頃に訪れる機会を得たら、テンペレート・ハウス近くのチェリー・ウォークを歩くのもオススメです。英国に暮らす日本人が故郷を思い出すという、サクラの素晴らしい景色が待っています。 〈ロイヤル・ボタニック・ガーデンズ・キュー〉 庭園情報 ロンドンの中心地から、公共交通機関を使って30分ほどという、旅行者には嬉しい立地にあります。最寄り駅、地下鉄ディストリクト・ラインのキュー・ガーデンズ駅(Kew Gardens)から植物園のヴィクトリア・ゲートまでは徒歩約6分。 12月24日、25日を除いて、毎日10:00に開園。 閉園時間は8月までは、月~木が18:30(最終入場18:00)、金~日、祝日は20:30(最終入場20:00)。9月は、月~木が18:30(最終入場18:00)、金~日、祝日は19:00(最終入場18:30)。 10月以降は、季節によって閉園時間が変わります。冬場はかなり早く閉園するので、詳しくはHPで要確認。入園料は£15.50(寄付込み)。*2017年現在の情報です。
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北海道
庭巡りならここへ! 北海道「ガーデン街道」の名園紹介 前編
冷涼な気候で広大な大地が広がる北海道には、本州とは異なる庭文化があります。個性あふれる名園8つを結んだ、大雪から富良野、十勝を結ぶ全長250kmは、「北海道ガーデン街道」として近年、国内外から人気を集めるルート。道央から南下し、北海道ガーデン街道の8つの庭の内、前編では4つの庭をご紹介します。 「大雪 森のガーデン」 最初にご紹介するのは、大雪山を望む高原の庭「大雪 森のガーデン」。シラカバ林に囲まれた森の花園は、緩やかな斜面に約700種の植物が植栽されており、歩みを進めるごとに見える花の色が次々に変わっていきます。歩いてきた道を振り返ると、今見てきたのとは全く違う表情の花景色が現れ、遠景の美しさが北海道らしいダイナミズムを感じさせます。北海道出身の三國清三シェフがプロデュースするレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」が併設されており、レストランからも雄大な高原の景色が望めます。 ・北部にしかない珍しい植物に会える 北海道「大雪 森のガーデン」 Information 「大雪 森のガーデン」 上川郡上川町菊水841番地8 TEL 01658-2-4655 http://www.daisetsu-asahigaoka.jp/ Open 5月中旬~10月中旬 9:00~18:00(最終入園17:00)※季節により営業時間が異なります。 入場料 大人800円/中学生以下無料 「上野ファーム」 ガーデナーの上野砂由紀さんが家族とともにつくり上げる「上野ファーム」。同じ植物でも、北海道で生育する植物は本州に比べて草丈や花色、開花期が異なることを最大限に生かし、気候風土を反映した個性豊かな「北海道ガーデン」を展開しています。左右対称に色彩計画されたミラーボーダーは、エゾクガイソウやオニシモツケなど北海道特有の宿根草が見上げるような高さで咲き競い、圧巻の花景色。ガーデン内に新たに生まれた「ノームの庭」は、華やかな園芸種と野草やグラス類が美しい景色を織りなします。 Information 「上野ファーム」 旭川市永山町16丁目186番地 0166-47-8741 ※団体は要予約 http://www.uenofarm.net/ Open 4月下旬~10月中旬(カフェは通年営業) 10:00~17:00 入場料 大人800円/小学生以下無料 「風のガーデン」 脚本家、倉本聰氏のTVドラマ『風のガーデン』の舞台としてつくられたドラマと同名の庭「風のガーデン」。倉本氏から依頼を受け、「上野ファーム」の上野砂由紀さんが制作しました。ドラマにゆかりの深いカンパニュラや登場人物の名前を冠したバラなどが色鮮やかに咲きます。ドラマを見ていなくても十分楽しめる庭ですが、ストーリーを知っていると個々の植物への親愛度が増し、より深く庭が楽しめるでしょう。新設された「野の花の散歩道」には、小道の両側に北海道の野草が広がり、野原を歩く懐かしい感覚が味わえます。 Information 「風のガーデン」 富良野市中御料 TEL 0167-22-1111(新富良野プリンスホテル) http://www.princehotels.co.jp/furano-area/summer/garden/ Open 4月末~10月中旬 8:00~18:00(6月中旬~8月下旬は6:30~開園予定、10月は16:00まで) (最終受付閉園30分前) 入場料 大人800円/小学生500円/幼児無料 「十勝千年の森」 十勝平野と日高山脈を結ぶ地点に、400ヘクタールの広大な森とガーデンが広がる「十勝千年の森」。ここは十勝毎日新聞社が所有する土地で、紙を大量に消費する新聞社の宿命に対し、次世代へ豊かな環境を残すという使命から生まれました。英国の造園家ダン・ピアソン氏が設計した「メドウ・ガーデン」と「アース・ガーデン」は、自然植生を生かして雄大な自然と一体になった庭風景を展開。英国の権威あるガーデン選考会で「21世紀のガーデンデザインの最良の例」と絶賛されました。他にも北国で育つバラを集めたローズガーデンや美しいキッチンガーデン、ゴートファームなど、楽しみの尽きないガーデンです。 Information 「十勝千年の森」 清水町羽帯南10線 TEL 0156-63-3000 http://www.tmf.jp/ Open 4月末~10月中旬 9:30〜17:00(7/1〜8/31は9:00から、9月以降は16:00まで) 入場料 大人1,000円/小・中学生500円/幼児無料 後編はこちらへどうぞ。 併せて読みたい ・北部にしかない珍しい植物に会える 北海道「大雪 森のガーデン」 ・上野ファームの庭便り「バラも宿根草も! 思いっきり楽しむ夏の庭」 ・カメラマンが訪ねた感動の花の庭。長年通ったアンディ&ウイリアムス ボタニックガーデン Credit 文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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イギリス
英国の名園巡り、プランツマンの情熱が生んだ名園「ヒドコート」
昔ながらの村々が点在する美しい田園として知られる、グロスターシャー州のコッツウォルズ地方。その北部に、世界中から年間17万人もが訪れる名園、ヒドコートはあります。 この庭園の最大の魅力は、園内を巡っていると、個性的な小さな庭が次から次へと現れることでしょう。ヒドコートの庭は、高い生け垣や塀によって20余りの「部屋」に仕切られていますが、どれもが印象的。見る者は足を踏み入れるなり、それぞれの異なる美しさに惹きつけられます。 小鳥のトピアリーが白い花々と戯れる〈ホワイト・ガーデン〉、生け垣に囲まれた丸池が静かに水を湛える〈ベイジング・プール・ガーデン〉、そして、直線的な芝生の道が遠くまで続く〈ロング・ウォーク〉。角を一つ曲がる度に、新たな驚きが待っています。 この素晴らしい庭をつくったのは、園芸家のローレンス・ジョンストン(1871-1958)です。彼はアメリカの裕福な家に生まれ、フランスや英ケンブリッジ大学で教育を受けました。 1907年、ジョンストンは母が買い取ったヒドコート・マナーに暮らし始めます。その時、屋敷周辺に庭らしきものはなく、彼は独学で庭をつくり始めました。ジョンストンは、幾何学模様や噴水といった、伝統的なイタリア式庭園の要素を取り入れる一方で、当時流行していたアーツ・アンド・クラフツ・スタイルの庭づくりにも目を向けて、独自の世界をつくり出しました。何人ものガーデナーを雇い、40年に渡って、精力的に庭をつくり、守り続けたのです。 親密な雰囲気に満たされた、特徴ある小さな庭が連続する彼のスタイルは、後に続いたシシングハースト・カースルの庭だけでなく、現代における庭づくりにも大きな影響を与えています。 ジョンストンは植物の蒐集に熱心なプランツマンで、国内のみならず、オーストラリアや日本などの遠い国々のガーデナーとも種の交換を行っていました。そして、「どんな植物でも最良の姿のものだけを植える」という信条を持って、庭に植えるべき植物を吟味しました。 1920年代に入ると、ヒドコートの庭はほぼ完成を迎え、ジョンストンの関心は次第に、南仏のマントンに設けた〈セール・ドゥ・ラ・マドン〉というもう一つの庭をつくることに移っていきます。また、植物の蒐集にますます情熱を傾け、プラントハンティングの旅に資金提供をするだけでなく、自ら、アルプスの山々や南アフリカ共和国、中国などに出かけていきました。 こうして自らの手で集めた珍しい植物の数々は、ヒドコートと南仏の2つの庭に植えられ、また、英国内の植物園にも寄付されました。ヒドコート・ラベンダーやヒペリカム・ヒドコートのように、ジョンストンが持ち帰り、彼自身やヒドコートの名を冠した植物は、今も多く残されています。 ヒドコートの庭が最も美しかったのは、1920年代から1930年代にかけてと言われています。その頃、庭はジョンストンと園芸界の友人たちだけが知る、ごく私的な空間でした。年に数回、チャリティーで公開されることはありましたが、その素晴らしさを耳にしても、実際に目にした者は少ないという、伝説のような庭だったのです。 1948年、70代となったジョンストンは、ヒドコートをナショナル・トラストの手に委ね、自身は南仏の庭へと移ります。庭園はその後、変化が加えられましたが、近年また、ジョンストンが丹精していた頃の庭園を再現しようとする取り組みが行われています。ナショナル・トラストの手によって守られたヒドコートは、100年前の美しさを今も私たちに伝えています。 ヒドコートは2月から12月まで開園していますが、毎日開園するのは気候のよい3月から10月にかけて。季節によって開園日時が変わるので、詳しくはHPでご確認ください。 ロンドンからは車で2時間半、電車の場合は、ロンドン・パディントン駅から最寄り駅のハニーボーン(Honeybourne)まで2時間ほど。駅からはタクシーで約15分。 近くの村、チッピング・カムデンはコッツウォルズの名所なので、合わせて観光するのもオススメです。ヒドコートでは、手入れの行き届いた芝生の上で、『不思議の国のアリス』にも出てくる英国伝統の遊び、クロッケーに挑戦することもできます。また、駐車場から、遊歩道パブリック・フット・パスが伸びているので、イヴシャムの谷やコッツウォルズの景色を見渡しながら少し歩いてみるのも楽しいでしょう。 Text by Masami Hagio Information 〈The National Trust〉Hidcote ヒドコート 住所Hidcote Bartrim, near Chipping Campden, Gloucestershire, GL55 6LR 電話+44 (0)1386-438333 https://www.nationaltrust.org.uk/hidcote
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長野県
体と心を休める避暑地の庭園 長野「軽井沢レイクガーデン」
軽井沢のメインストリートから少し離れた別荘地の中にある「軽井沢レイクガーデン」。敷地面積1万坪(33,000㎡)には、イングリッシュローズとフレンチローズを中心に約400種のバラと約300種の宿根草が四季折々に美しい景色をつくります。遠くに緑の濃淡が美しい高木と山々が背景となって、「イングリッシュローズガーデン」や「フレンチローズガーデン」、湖の中心に浮かぶ「ウッドランド」、「フレグランスローズパス」、「ラビリンスローズガーデン」など、さまざまなガーデンシーンを散策しながら楽しめます。 2017年はオープンから10年の記念の年を迎え、木々も夏に涼しい木陰をつくるまでに成長しました。湖の中央に小島を造成中の頃からガーデンづくりに関わってきたのが、Rose Stylist(ローズスタイリスト)の大野耕生さん。 毎年新しいバラが発表されると、この庭に植え、成長具合を見て毎年、適所に移動するなどの調整を重ね続けています。 もともとは宿根草のガーデンで、その後オールドローズなどが植わるガーデンを経て、近年注目されているフレンチローズを集めたコーナーにリニューアルした「フレンチローズガーデン」。フレンチローズとは、フランス生まれのバラのグループで、なかでもデルバール、ギヨー、ドリュー、オラールの4社のバラが中心に植えられています。「ナチュラルなガーデンではなかなか取り入れられていない個性的な絞り咲きのバラが、どんな株に育ち花開くか。ツゲに囲まれた花壇の中でアクセントになったバラを実際に見て、魅力を感じて欲しい」と大野さんはいいます。写真右下は、控えめな絞りでナチュラルガーデンにも調和する‘クロード・モネ’。 標高950mほどの場所にある「軽井沢レイクガーデン」は、霧の発生することも多く、幻想的な景色も楽しめるのが魅力。まさに避暑地として、体と心を休めるために訪れたいガーデンです。ちょうどお盆の頃、二番花が咲き始めて、庭は再び賑わいを見せます。 冬は雪が降り積もることからも年内は11月初旬でクローズし、バラの株は雪の布団をかぶった状態で休眠します。特別に雪囲いで覆わずに冬越しをしていますが、冷涼な土地でも丈夫に育ち、よく花を咲かせる品種はどんなものがあるかを訪れる人に知ってもらえるようにと、過度な手入れは行っていないそう。 バラが咲くガーデンを抜け、桟橋を渡ると景色が一変。木漏れ日の中を歩くごとに景色がどんどん変わっていきます。水辺の光に浮かび上がるギボウシやヒューケラ、アスチルベ、アリウム、ユリ、ルドベキア。季節ごとに花々の旬がバトンタッチしていく宿根草と木々が育つウッドランドガーデンです。 次はどんな花に出合えるのだろう。丘を上がっていくと、開けた場所に到着。シックなダークリーフや個性的な樹形のコニファーなど、珍しい植物がコレクションされた「グラベルガーデン」です。ヘッドガーデナーの村山弥乃里さんがセレクトするこだわりの植物は、年々増加中。 バラが見頃を迎える時期は、平野部よりやや遅い6月末から7月にかけて。ほかの花巡りの旅の後、次の訪問先にできることからも人気が高まっています。また、夏休みの家族旅行のタイミングで二番花のバラに加え、ウッドランドの森林浴や水辺の景色まで同時に楽しめるのは、このガーデンだからこそ。 ガーデン内には、フレンチレストランやガーデンカフェ、バラや草花の苗が並ぶガーデンショップなども併設されています。また、全室スイート5部屋のホテル「ルゼ・ヴィラ」(1泊17,000〜)もガーデンに併設していて、早朝には宿泊者だけが庭散策を楽しめるという贅沢な時間も味わえます。 このガーデンを維持し育てているヘッドガーデナーの村山弥乃里さんと大野耕生さん。ローズシーズンやサマーローズシーズンには、園内でハープなどの生演奏や大野さんのガーデンレッスンなど催されています。大野さんに直接お話を聞けるチャンスもあるので、ぜひお出かけください。 Information 「軽井沢レイクガーデン」 所在地:長野県北佐久郡軽井沢町レイクニュータウン ☎0267-48-1608 http://www.karuizawa-lakegarden.jp アクセス:上信越自動車道「碓氷軽井沢IC」より約15分。 Open:4月21日〜11月5日(2017年)通常9:00〜17:00 トップローズシーズン6月17日〜7月2日8:00〜18:00 入園料:通常(4/21〜6/9・7/18〜10/13) 大人1,000円/小・中学生500円 ローズシーズン(6/10〜16・7/3〜17) 大人1,200円/小・中学生500円 トップローズシーズン(6/17〜7/2) 大人1,500円/小・中学生500円 オータムシーズン(10/14〜11/5) 大人800円/小・中学生300円 Credit 写真&文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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イギリス
花好きさんの旅案内【英国】チェニーズ・マナー・ハウス・アンド・ガーデンズ
チェニーズ・マナーは隣接するチェニー村とともに、中世から存在するとても古い場所です。マナーは12世紀から350年の間、村の名の由来となっているチェイン家の所有であり、16世紀に入ると、ヘンリー8世の廷臣、ジョン・ラッセルの手に渡って、その後400年ほど、ラッセルの子孫となるベッドフォード伯爵(のちに侯爵)家の屋敷として使われました。 さて、まずは15世紀から16世紀にかけて建てられたという、歴史あるレンガ造りのお屋敷の中を、現オーナーのマシューズ夫妻に案内していただきました。 屋敷にヘンリー8世やエリザベス1世が訪れたという話を聞きながら、大小の部屋を20分ほどかけて巡ります。はるか昔の王様や女王様が登場する話は、想像を超える歴史物語ですが、当時の建物が今もそのまま残され、また、数々の逸話が語り継がれていることに、驚かされました。 屋敷では、時に階段を降りる不気味な足音が聞こえるという幽霊話もあって、それは、足の悪いヘンリー8世が、妻キャサリン・ハワードの不貞を探る足音なのだとか……。英国人は本当に幽霊話が好きです。 さて、庭巡りに移りましょう。 チューダー朝の頃から屋敷の周りには庭があって、16世紀末に暮らした第3代ベッドフォード伯爵夫人のルーシーは園芸が得意だったといわれています。 しかし、長い歴史の中で庭は変わり続け、半世紀ほど前には修復が必要な状態になっていました。 現在の庭は、1950年代後半から現オーナーの母であったエリザベス・マックレオド・マシューズ夫人が手をかけて整えたものです。夫人はチューダー朝のレイアウトを基に庭を修復し、また、新しい庭を創作しました。 屋敷の外壁にはつるアジサイが隙間なく伝い、柔らかい印象です。訪れた7月中旬は、どの庭でもつるアジサイが花盛りでした。 屋敷に面したローズ・ローン(Rose Lawn)。美しい芝生の緑を囲むように、ユーモラスな形に刈り込まれたツゲのトピアリーがポイントとなって植わり、その間をスタンダード仕立てのバラが彩ります。株元には、ふわふわと軽やかな小花が咲いていました。 その昔はチェニーズ・パレスと呼ばれ、歴史の舞台ともなった2階建ての屋敷。立派な胸壁や塔、煙突があります。 装飾性の高い煙突は、ヘンリー8世の城、ハンプトン・コート・パレスにあるのと同様のもの。16世紀、ヘンリー8世の廷臣であったジョン・ラッセルは、城の豪華な煙突とまったく同じように、おそらくは同じ職人を使って、これらの煙突をつくらせたといわれています。 屋敷に沿った細長い芝生の庭は、一見平らな大地に見えていましたが、奥まで行くと、実は少し傾斜地だったと判明。傾斜の途中には、まるでだまし絵のように3段の階段があります。苔むした石造りの階段にアルケミラモリスが茂って、さりげなく可愛いコーナーになっていました。 屋敷の周りの庭をぐるりと眺め、生け垣や柵に仕切られた区画をいくつか通ると、開けた区画にたどり着きました。ここは敷地の中心付近に位置するサンクンガーデン(Sunken Garden / 沈床庭園)です。中世の頃に流行りはじめたデザインスタイルだとか。春はチューリップがカラフルに咲いていましたが、訪れた頃はアルケミラモリスやギボウシが生き生きと茂り、ゲラニウムの花は終わりかけていました。ちょうど端境期で、庭のあちこちで何人ものガーデナーが植え替え作業をする様子を見ることができました。 ティールームの前には芝生の広場があって、庭を堪能しながらお茶や軽食が楽しめるよう用意されています。なんとも贅沢なティータイムです。 ティールームに面したボーダー花壇には、赤系や青系に色分けされた宿根草が混ざり咲いていました。ちょうど大輪の八重咲きピオニー(シャクヤク)が花盛り。花火のように放射状に花が咲くアリウム・シューベルティと美しい競演を見せています。 ナーセリーやショップを見るのも庭巡りの楽しみの一つです。庭ごとにオススメの植物やディスプレイの方法が違って、それを見比べるのも新鮮です。日本でもお馴染みの植物を見つけると、英国でも親しまれているのね、と嬉しくなります。 チェニーズ・マナーのショップには、ハサミや靴の泥落とし、オーナメントなどのガーデングッズのほか、小鳥や草花が描かれたマグカップなどのオリジナル製品や、庭で採取された手作り感のある種子袋なども並んでいました。 キッチンガーデンの手前で、芝生の中に道が浮かび上がる、ラビリンス(迷宮)が見えてきました。かつてこの庭にあったと思われるものを再現したラビリンスで、道に沿って中心に向かって歩いていると、いつのまにか円の外側へ向かい、通り抜けてしまいます。中世では祈りや懺悔の場として使われていました。 この庭にはほかに、高さ2mのイチイの生け垣が幾何学模様に刈り込まれた、立派なメイズ(迷路)もあります。20年ほど前、ハンプトン・コート・パレスの有名なメイズの100周年を祝ってデザインコンペが行われ、それを基につくられたものです。17世紀に編み出された数学の定理にのっとってデザインされたという幾何学模様は、とても複雑。入ってみたいけれど迷ってしまいそうで、忙しい庭巡りの旅の途中ではチャレンジし難い迷路でした。 ダイナミックに絡むライムグリーンのつる植物がアーチを彩るキッチンガーデンの入り口。キャットミントの紫花に縁取られた小道を進みます。 スグリやリンゴ、洋ナシの木がぐるりと囲むキッチンガーデンの中には、これからぐんぐん大きくなりそうなナスタチウムやレタス、スイートコーンの若い芽がびっしりと育っていました。 ここで全てのコーナーをお見せできないのは残念ですが、植物名と効用がひとつずつ表示されているフィジック・ガーデン(薬草園)や、女王が木陰で休んだ際に宝石を無くしたという逸話から〈エリザベス1世のオーク〉と呼ばれる、樹齢千年を超えるオークの巨木など、チェニーズ・マナーの見どころはたくさんあります。きれいに形づくられたたくさんのトピアリーなども大変よく手入れされていて、庭での散策はとても気持ちがよいものでした。 チェニーズ・マナーでは、室内から外の緑や花の風景を見て楽しむことができるように、母屋の近くには美しいガーデンが広がっています。一方、敷地の奥では、キッチンガーデンや薬草園で、食べたり利用したりする植物をたくさん育てていて、広大な敷地を活用していることが分かりました。 チューダー朝の暮らしが感じられる、歴史あるチェニーズ・マナーをぜひ楽しんでください。 〈チェニーズ・マナー・ハウス・アンド・ガーデンズ〉 庭園情報 ロンドンから車でも電車でも1時間ほど。電車の場合、ロンドン・メリルボン駅からチャルフォント&ラティマー(chalfont & Latimer)駅に向かい、駅からはミニキャブで15分ほどです。 開園は、4月から10月の水、木、祝日、14:00~17:00。 4月末から5月初めにかけて、数千球のチューリップが一斉に咲くチューリップ祭が、また、8月の終わりにはダリア祭が行われます。 入場料(屋敷と庭)は£8。*2017年現在の情報です。
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長野県
花の庭巡り 長野「白馬コルチナ・イングリッシュガーデン」
冬は国内屈指の天然100%のパウダースノーで知られる長野県の北部に位置する白馬。恵まれた自然環境に惹かれて近年、海外からの移住者も多いこの地域に、2013年に本格的なイングリッシュガーデンがオープンしました。起伏のある約6,000㎡の敷地には約900種、18,000株もの植物が育つ「白馬コルチナ・イングリッシュガーデン」。北アルプスの麓にあり、雪深い厳しい冬を越え、鮮やかな花々に彩られる美しいシーズンは7月に最盛期を迎えます。 真っ赤な屋根が目印の「ホテルグリーンプラザ白馬」の目前に生まれたガーデンは、15のコーナーで訪れる人を魅了します。自然林を背景に100種、500株のバラをはじめ、次々とバトンタッチして開花する数々の宿根草と自生する植物が美しい調和を見せます。 「コニファーガーデン&ロックガーデン」 冷涼な場所だからこそ本来の色彩で葉を広げるシルバーグリーンや、這って広がる種類や、こんもり形よく茂る種類など、バラエティー豊かなコニファーが集められたコーナー。ブルーのガゼボには、殿堂入りした人気のバラ‘ピエール・ドゥ・ロンサール’が絡み、7月中旬には満開を迎えて、ロマンチックな風景をつくります。 このガーデンを手がけているのは、マーク・チャップマンさん。イギリス東部のリンカンシャーに生まれ、英国内の4つのカレッジでデザインと園芸を学んでイングリッシュガーデンに精通した、ガーデンデザイナーかつガーデナーです。オープンの2年前から、この庭へ東京から何度も通い、庭をつくり続けています。このガーデンのすべてに自ら手を入れ、工夫を重ねています。 デザイナーのマーク・チャップマンさんは、山の地形を生かして可能な限り多くの既存の樹木を残しながら、トラディショナルなイングリッシュガーデンを融合した庭づくりを目指しました。多くのイングリッシュガーデンに見られる広々とした芝生のエリアや宿根草が咲き継ぐボーダー、壁で囲まれたウォールドガーデンなどを各エリアに設けながら、この土地だからこそ生まれる風景づくりを追求し続けています。 鮮やかな彩りのある「ローズガーデン」や「サマーメドウガーデン」を抜け、2つに分かれた道を右へ進むと、カーブの奥にどんな景色が待っているか散策が楽しい「ウッドランドウォーク」のエリアへ。自然の小川の流れを生かしているのも、このガーデンの魅力です。石橋を渡ったり、横を歩いたりしていると、水を受けて生き生きと輝く数々のギボウシやハクロニシキ、ツワブキや水辺の植物に癒されます。 ガーデンのあちこちで出合う石のオーナメントも大事なアクセントです。ウォールドガーデンの中で、その場所を守るように立つ騎士や、まるで草むらに姿をひそめているようなシカの姿に心がほぐれます。オープン時は真新しかった石のオーナメントも、雨風にあたり少し味が出てきました。これから先も、毎年植物は成長し、よりよく変化していく庭を見守っていくことでしょう。 ガーデンの中には、眺めのいい場所にいくつもベンチが置かれています。散策をしながら、時には腰をおろして庭を眺めると、デザイナーがなぜその場所にベンチを置いたのか、意図が伝わってきます。ガーデン散策では、足元の繊細な花も見逃したくないですが、少し視線を上げて風にそよぐ緑と空を仰ぐのも忘れないでください。黄金葉や枝垂れる葉など、普段街中では見かけない美しい樹木が育っていることに気がつくでしょう。 英国では、蜂蜜色のコッツウォルズストーンが石垣などに用いられていますが、ここでは厳しい寒さによって石が割れてしまうことから、地元産の石が使われました。イギリスでは見られない、この土地に自生する植物とイングリッシュガーデンの要素の融合がある「白馬コルチナ・イングリッシュガーデン」。時には花がらを摘まずに残し、実を結ぶのを待つこともあるそうです。こぼれ落ちたタネが雪の下で越冬して春に芽吹く。自然に任せた管理も取り入れながら年々、成長を続けている庭です。 Information 「白馬コルチナ・イングリッシュガーデン」 所在地:長野県北安曇郡小谷村千国乙12860-1 ☎0570-097-489 http://hakubacortina.jp/englishgarden/ アクセス:上信越自動車道「長野I.C.」よりR19、長野白馬有料道路、R148経由で約90分。 Open:8:00〜17:00(5月20日〜10月31日) 入園料:大人 300〜800円/小学生 100〜300円 季節により変動あり 併せて読みたい 『花好きさんの旅案内 【国内】長野・白馬のオススメガーデン3選』 『カメラマンが訪ねた感動の花の庭。フォトジェニックな庭 長野・熊井邸』 『体と心を休める避暑地の庭園 長野「軽井沢レイクガーデン」』 Credit 写真&文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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イギリス
英国の名園巡り、ビアトリクス・ポターの愛した暮らし「ヒル・トップ」
緑豊かな山々と、静かに水をたたえる湖。丘の斜面に広がる牧草地と、その脇に伸びる、風情のある石垣。そんな昔ながらの、美しくのどかな風景が残されている湖水地方は、英国人が最も愛する田舎の一つ。人々はくつろぎと、ウォーキングなどの野外の楽しみを求めて、この地にやってきます。 さて、17世紀に建てられた石造りの田舎家、ヒル・トップは、この湖水地方のニア・ソーリー村にあります。小さいけれど、この家はとても有名で、年間10万人もの観光客が訪れます。というのも、ここは、世界中の子どもたちに読み継がれる絵本『ピーターラビットのおはなし』の著者、ビアトリクス・ポター(1866-1943)が暮らした家なのです。 ポターは今から150年ほど前、ロンドンの裕福な中産階級の家に生まれました。幼い頃から聡明で画才があり、小動物や草花を、じっくり観察して描くのが好きだったといいます。一家は夏になるとロンドンを離れ、緑豊かな北部の田舎で長い休暇を過ごしました。ポターは16歳の時、初めて湖水地方に滞在し、以来、この地の自然に魅せられていきます。 1905年、39歳の時に、ポターは『ピーターラビットのおはなし』の成功から資金を得て、ヒル・トップ農場を買い取ります。じつはその時、愛する婚約者を病気で亡くしたばかりでした。失意の底にあったポターにとって、湖水地方の自然と自分だけの場所は、大きな慰めとなるものでした。彼女は未婚女性として両親とロンドンに暮らしつつも、ヒル・トップに足しげく通って、大切な自分の城をつくっていったのでした。 ヒル・トップはポターにとって、自分のお気に入りだけを集めた、愛すべき空間でした。ガーデニングにも精を出して、家に続く小径沿いに伸びる花壇や、石塀に囲まれた菜園、果樹園をつくります。そして、絵を描くように、宿根草や球根花、ハーブや野菜、花や実のなる灌木を配して、実用的で美しい、見事なコテージガーデンをつくり上げました。 ここはまた、彼女のアトリエであり、創作のインスピレーションを得る場でもありました。ポターにはきっと、「おはなし」に登場する動物たちの遊ぶ姿が見えていたのでしょう。ヒル・トップの庭景色は、ピーターラビットシリーズの『こねこのトムのおはなし』などに描かれています。 ポターはその後結婚して、新しい住まいを持ちますが、ヒル・トップを生涯大切にしました。 晩年は、この地特有の希少種の羊を守り育てることと、湖水地方の美しい景観を開発から守ることに力を注ぎます。彼女は絵本の売り上げで土地を買い足し、亡くなる際に、4,000エーカー(約1,600万㎡)の土地と、ヒル・トップを含む15の農場をナショナル・トラストに遺しました。 ヒル・トップの家と庭は、ポターの願った通りに、彼女の生きていた頃のままに再現され、公開されています。また、15の農場は今も昔のままに営まれ、周辺の牧草地も守られています。その眺めは、今となってはとても貴重なもの。ポターは自らが愛した湖水地方の景色を、後世の私たちにそのまま遺してくれたのです。 ロンドンから湖水地方までは、車で5時間ほど。電車の場合は、ロンドンのユーストン駅から湖水地方の入り口となるウィンダミア駅に向かい、そこから路線バスやフェリーなどの公共交通機関を使って、主な観光スポットを回ることができます。 ヒル・トップの開館は2月中旬から10月末まで。近くの村、ホークスヘッド(Hawkshead)には、ビアトリクス・ポター・ギャラリー(Beatrix Potter Gallery)があって、ポターの遺した絵画やイラストを見ることができます。また、近隣のパブやホテルでは、美味しい食事やアフタヌーンティーが待っています。 詳細情報 店舗・施設名 The National Trust - Hill Top(ヒル・トップ) 住所 Near Sawrey, Hawkshead, Ambleside, Cumbria, LA22 0LF 電話番号 +44 (0)1539-436269 ホームページ https://www.nationaltrust.org.uk/hill-top
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北海道
庭巡りならここへ! 北海道「ガーデン街道」の名園紹介 後編
冷涼な気候で広大な大地が広がる北海道には、本州とは異なる庭文化があります。個性溢れる名園8つを結んだ、大雪から富良野、十勝を結ぶ全長250kmは、「北海道ガーデン街道」として近年、国内外から人気を集めるルート。道央から南下し、北海道ガーデン街道の8つの庭の内、後編では4つの庭をご紹介します。 「真鍋庭園」 60年以上かけて世界中から収集した樹木が育つ樹木の見本園。2万5,000坪の敷地にはコニファーを中心に数千種類の植物が育ち、それらが日本庭園・西洋風庭園・風景式庭園として構成されています。それぞれのテイストでの樹木の使いこなしが豊富に提案されており、個人の庭づくりはもちろん、公園やテーマパークの造園の際の参考として視察が絶えない貴重なガーデン。空を仰ぐように見上げる高さの木や枝垂れた枝ぶりがモンスターのように奇妙なもの、豊かな葉色のバリエーションなど、コニファーの多彩な魅力が発見できます。 ・庭巡りにオススメ!珍しい植物に出合える北海道「真鍋庭園」 Information 「真鍋庭園」 帯広市稲田町東2線6番地 TEL 0155-48-2120 http://www.manabegarden.jp/ Open 4月中旬~12月初め 8:00〜日暮れ(夏期最終入場18:00)※時間変更の場合あり 入場料 大人(高校生以上)800円/小・中学生200円/幼児無料 「十勝ヒルズ」 十勝平野を見下ろす眺めのよい丘の上にあるガーデン。食と農をコンセプトに、「ヴィーズ・ポタジェ」と名付けられた可愛らしいキッチンガーデンやファームなどがあります。花好きにオススメなのはイングリッシュローズを揃えたローズガーデン。北海道でも特に冷涼な気候のため、冴え渡る花色の鮮やかさはここならでは。とりわけ夕刻の斜陽で眺めるバラと宿根草の色彩のハーモニーは圧倒的。光を受けて輝くような幻想的な花風景は、目と心に焼きつく美しさです。 ・花の庭巡りならここ!花と色と農のテーマパーク北海道「十勝ヒルズ」 Information 「十勝ヒルズ」 幕別町字日新13番地5 TEL 0155-56-1111 http://www.tokachi-hills.jp/ Open 4月下旬~10月末 9:00~18:00 入場料 大人800円/中学生400円/小学生以下無料 「紫竹ガーデン」 「紫竹おばあちゃん」として親しまれる紫竹昭葉さんが、62歳の時からつくり始めた花いっぱいの庭。見渡す限りの麦畑やジャガイモ畑に囲まれて、2,500種の花々が色とりどりに咲き継ぐ庭には、90歳を超えた今も現役で庭仕事に立つパワフルな紫竹さんの姿があります。朝8時30分〜10時までは北海道・十勝ならではの新鮮な食材を使ったビュッフェ形式の朝食サービス(1,620円・要予約)があり、庭を眺めながら食事ができます。ワイルドフラワーガーデンに咲く花のタネを集めたオリジナルミックスシードもお土産に人気。 ・野の花のようにのびやかに育つ花々と色彩の庭「紫竹ガーデン」 Information 「紫竹ガーデン」 帯広市美栄町西4線107番地 TEL 0155-60-2377 http://shichikugarden.com/ Open 4月中旬~11月初め 8:00〜18:00 入場料 大人800円/小・中学生200円 「六花の森」 北海道を代表するお菓子メーカー「六花亭」のガーデン。画家、坂本直行氏が包装紙に描いた「十勝六花(エゾリンドウ、ハマナシ、オオバナノエンレイソウ、カタクリ、エゾリュウキンカ、シラネアオイ)」の山野草が季節ごとに咲く自然豊かな森です。庭園内には坂本直行をはじめ、十勝にゆかりの深い画家や写真家の作品を集めた美術館が点在し、自然の中でアートが楽しめます。十勝の子どもたちが書いた詩を50年以上収録し続けている児童詩誌『サイロ』の記念館では、この雄大な自然に育まれた瑞々しい子どもたちの感性に触れることができます。 Information 「六花の森」 中札内村常盤西3線249-6 TEL 0155-63-1000 http://www.rokkatei.co.jp/facilities/index2.html Open 4月末~10月中旬 10:00〜17:00(6/1〜8/31は9:00〜、9/25〜は16:00まで) 入場料 大人800円/小・中学生500円 前編はこちらへどうぞ。 併せて読みたい ・庭巡りにオススメ!珍しい植物に出合える北海道「真鍋庭園」 ・花の庭巡りならここ!花と色と農のテーマパーク北海道「十勝ヒルズ」 ・野の花のようにのびやかに育つ花々と色彩の庭「紫竹ガーデン」 Credit 文/3and garden ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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イギリス
個人のお庭が見られるオープンガーデン・イギリスの賢い仕組み
英国ナショナル・ガーデン・スキームの物語 The Story of the National Garden Scheme 英国でオープンガーデンを始め、広めたのは、ナショナル・ガーデン・スキームという慈善団体です。 ことの始まりは1926年。当時、まだ今ほど一般的ではなかった、看護師という職業を支援する団体が、その育成と、引退した看護師の生活支援を目的に、特別な基金を立ち上げようとしました。資金を集めるにはどうしたらいいだろう? 委員会のメンバーが考えを巡らせていると、参加していた1人の女性に名案が浮かびました。 「あなたの素晴らしい庭をみんなに見せてください。そして、ささやかな入園料を集めて、どうぞ私たちに寄付してください」。それは、ガーデニング好きな英国人にぴったりの、じつにユニークな方法でした。こうして、全国の美しい庭を持つオーナーたちに向けて、オープンガーデンの呼びかけが始まったのです。 1927年、オープンガーデンを実行するために、慈善団体ナショナル・ガーデン・スキーム(以下、NGS)が設立され、初めての試みが行われました。呼びかけに応じ、イングランドとウェールズで公開された庭の数は609。〈1人当たり1シリング(英国の旧貨幣)〉の入園料から、総額8,000ポンドもの寄付金を集めることに成功しました。4年後にはスコットランドでも、姉妹団体スコットランズ・ガーデンズ(Scotland’s Gardens)による同様の活動が始まり、オープンガーデンは徐々に広まっていきました。 それから90年後の2017年、イングランドとウェールズで公開される庭の数は3,700に増え、また、2016年度の寄付金総額は、300万ポンド(約4億3200万円)という驚くべき額となりました。現在、それらの寄付金は、看護師の支援団体だけでなく、がん患者や在宅医療への支援を行う、いくつもの医療系慈善団体に贈られ、その活動を支える大きな力となっています。 NGSのオープンガーデンには、じつにさまざまな庭が参加しています。古城やマナーハウスなどの観光庭園もありますが、その多くは、オープンガーデンでなければ決して見ることのない、個人の庭。よそ様の素敵なお庭を覗ける、めったにない機会だからこそ、公開日には多くの人が集まります。ガーデンオーナーの多くは年に1度か2度の公開日を設けますが、1日で400人もの来訪者を迎えることもあるのだそうです。 NGSガーデンには、田舎にある広々とした変化に富む庭もあれば、ロンドンの町中にあるコンパクトな庭もあります。参加の審査基準に、庭の大きさは関係ありません。NGSは、「自分の庭を、質が高く、個性があって、興味深いと思うなら、ぜひ人々と庭を分かち合って、私たちの活動を手伝って」と、呼びかけています。大事なのは、見ごたえのある庭かどうか、なのです。 毎年3月になると、NGSからその年に公開される庭の情報を載せたハンドブックが発行されます。団体のイメージカラーである黄色の装丁から‘イエローブック’の愛称で親しまれているハンドブック。それを片手に、今年はどこに出かけようか、と思いを巡らせるのが、英国の庭好きたちの春の楽しみです。 NGSのオープンガーデンに参加する、つまり、イエローブックに載るには、地域を管轄するスタッフによる、なかなかに厳しい審査に通らなくてはなりません。英国のアマチュア・ガーデナーにとって、自分の庭がそこに掲載されるということは、大変な名誉なのです。 2017年は、NGSにとって90周年を迎えるメモリアル・イヤー。5月末にはイングランドとウェールズにある370の庭が一斉に公開される「アニバーサリー・ウィークエンド」のイベントが行われ、お祝いムードが盛り上がりました。驚くことに、その中には、写真のハイ・グラノー・マナーのように、1927年の第1回オープンガーデンを経験している庭が12もありました。脈々と続く、英国の庭の歴史が感じられます。 オープンガーデンで見知らぬ人々を庭に招き入れるのは、かなり勇気のいることですが、参加したオーナーの多くは、来訪者から感謝や励ましの言葉をもらって、大変だけれど素晴らしい経験をしたと、充実感を得ています。来訪者は庭を楽しみ、オーナーはやりがいを感じながら、寄付によって人々を助け、喜ばせる。庭が生み出すこの好循環は、まさに園芸大国イギリスならではの奇跡といえるでしょう。
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スペイン
スペイン「アルハンブラ宮殿」【世界のガーデンを探る旅1】
ヨーロッパの庭の歴史をひもとくと、紀元前600年頃、チグリス・ユーフラテス文明のバビロンの空中庭園から始まります。当時の世界の七不思議の一つにも数えられていて、宮殿のテラスや屋上につくられた緑の庭園だったようです。乾いた灼熱砂漠を旅してくると遥か陽炎の彼方に緑の庭園が、あたかも蜃気楼のように浮かび上がって見えたということから、空中庭園と呼ばれるようになりました。 その後、庭の文化は、一方は地中海の北側沿いにギリシャからローマ、もう一方はイスラム教とともに北アフリカからモロッコ、さらにジブラルタル海峡を渡ってスペインのグラナダへと流れていきます。その到達地である小高い丘に建てられた「アルハンブラ宮殿」は、ヨーロッパに現存するガーデンとして最古のものと考えられています。いにしえの人々が過ごしていたであろう当時のガーデン風景を見ることができる貴重な場所で、今も世界中から観光客が訪れています。 まずは、アルハンブラ宮殿の起源を探ってみましょう。この地に最初にやってきたのは、7世紀にジブラルタル海峡を渡ってきた北アフリカのムーア人(ベルベル人)たちで、コルドバの平野に突き出た小高い丘に城塞都市として、アルハンブラ宮殿の原形を築きました。その後、イベリア半島の大半を支配するまでになりましたが、当時の首都はイベリア半島をもう少し中に入ったコルドバであり、ここアルハンブラは単なる一城塞都市でした。 8世紀にはイスラム教徒が、その後もいろいろな人々によって増改築が行われました。15世紀にキリスト教のレコンキスタ(国土回復運動)が始まり、ピレネー山脈を越えてイベリア半島を徐々に南下してきましたが、イスラム王国は最後までグラナダを手放しませんでした。しかし15世紀の終わりになると、ついにキリスト教徒の手によって陥落し、ヨーロッパからイスラム王国はなくなりました。 では、アルハンブラ宮殿の中を見ていきましょう。このライオンの中庭は、宮殿のほぼ中央に位置し、メソポタミア時代のアラブ人が、チグリス川のほとりで世界のというものを考えた時、きっとこのようになっているのであろうと想像した世界観がもとになっているといわれています。世界の中心(バビロン)は平らで、きれいな水があふれており、そこから四方に流れ出て大地(世界)を潤す。 その世界は12頭のライオンによって下から支えられているのでは! と考えられていました。旧約聖書の中でも<花が咲き乱れるエデンの園(パラダイス)から4本の河が流れ出し、世界を潤す>と書かれています。この四分割庭園(四分庭園)がもとになり、のちにフォーマルな形としてイタリア、フランス、イギリスへと受け継がれていきます。 皮肉にもレコンキスタで北から徐々にグラナダにキリスト教徒が迫ってきた頃、アルハンブラのスルタン(王様)によって多くの手が加わり、現存する建物や庭がつくられました。ライオンの中庭を取り巻く回廊状の建物の部屋にはイスラム文化を象徴するドーム天井(モカベラ)がつくられ、幾何学模様(アラベスク)によって隙間なく埋め尽くされています。 アラベスク模様の意図するものは、イスラム教では自然の中にある秩序であり、神との統一性を表すものです。この部屋の中に入ると、誰もが何とも不思議な感覚に襲われます。 アルハンブラ宮殿より少し北へ歩いていくと、「ヘネラリフェ」という美しい庭園があります。ここは、14世紀に王の別荘として建てられた所で、城塞を兼ねたアルハンブラ宮殿より少しくつろいだ雰囲気があります。 中央に噴水をあしらった水路があり、その周りには色とりどりの植物が植えられています。命の象徴であるきれいな水をふんだんに使って季節の花が咲き乱れるさまは、あたかもパラダイスのようです。同じ頃イタリアでは、噴水を使ったイタリア式庭園(ルネッサンス時代)が多くつくられていましたので、その影響があったのかもしれません。 アルハンブラ宮殿は、長い歴史の中で何度も増改築が行われました。また、城塞から居住地となり、別荘、避暑地としても使われましたので、いろいろな庭のタイプを見ることができる、世界でも類を見ない特別な場所です。 特にイスラムからキリスト教へと文化的背景が大変貌をとげても、大きく破壊されることなく今に引き継がれているのは驚きです。デザイン的にはシンメトリックを基調にしていますが、さまざまなタイプの庭を見ることができるアルハンブラ宮殿は、今もなお現代の庭に大きな影響とインスピレーションを与え続けています。