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ドイツ
中欧5カ国を旅して出合った植物のある風景 前編
2019年、中欧5カ国を巡る旅 2019年5月に中欧5カ国の旅に出た。5カ国とはスロバキア、チェコ、ハンガリー、ドイツ、オーストリアである。2018年に旅したイギリス・コッツウォルズのガーデン巡りとは異なり、世界遺産を見て回るのが目的で、特にガーデニングとは関係のない旅であった。とはいえ、どうしても気になるのは、街角や世界遺産の宮殿で見かける庭や植物である。きっと職業病のようなものだろう。じつは、旅に出る前に5年間ウィーンに駐在経験のある知人から、「あの辺のガーデニングは期待できないよ!」と言われていた。はて、結果は如何に? あまり話題にされることのない、中欧の植物&ガーデンを綴ってみたいと思う。 ヨーロッパで出合ったサンザシ まず、最初の訪問地はブラチスラバ。余り聴きなれない地名だが、れっきとしたスロバキアの首都である。5月とはいえ、寒波で最高気温が7~8℃という、真冬のような気候だった。 バスを降りてまず目についたのが、このサンザシ(山査子)である。街路樹なのだ。 僕の中でサンザシといえば、盆栽のイメージしかなかったのだが、まさかスロバキアの街路樹で遭遇するとは、驚きだった。 ところが、このサンザシには、その後の訪問地の数カ所で遭遇し、今回の旅で一番印象に残った植物となった。下はドレスデンで出合った満開のサンザシ。 そして、かのウィーンのシェーンブルン宮殿にもたくさんのサンザシが! 今までにも海外旅行で、日本の紅葉やヤツデ、アオキなどを見かけ、ちょっと嬉しい思いをしたことはあったが、盆栽のイメージしかなかったサンザシが、ヨーロッパの彼方此方に街路樹として登場したのは意外だった。なお、帰国後に調べてみると、西洋サンザシはメイフラワーと呼ばれ、ヨーロッパでは街路樹などによく使用されているとのこと。日本でもサンザシを街路樹に植えると素敵ではないだろうか。 さて、ブラチスラバは中世の街を思わせる美しく芸術的な街で、彼方此方に彫刻があった。 そして、そんな彫刻とともに街を彩るのが寄せ植えなどの花々。 レストランの前にはこんなポットが。植えられている花は平凡なペチュニアだが、スロバキアの言葉が書かれた樽の上に置く演出がユニークで面白い。 ブダペストの街を散策 2つ目に訪れた国はハンガリーのブダペストである。ドナウ川をはさみ、西岸のブダと東岸のベストが合併した街なのだそうだ。 ドナウ川ナイトクルーズは寒かったが、美しくライトアップされた街並みが素敵だった。もっとも、僕らが乗った2週間後に、このクルーズで事故があった。思い起こせば、救命具とか避難の説明はなかったような…。思い出すと恐ろしい。やはり海外旅行はリスクが伴う。 団体旅行で行くと、必ず「あら、あの花はなにかしら?」と誰からともなく、独り言のような声が必ず聞こえる。別段僕の身分は明かしていないのだが、つい、「ニセアカシアですね」とか、「マロニエじゃないですか?」などと得意げに答えてしまう。 そうです。ブタペストにはニセアカシアとマロニエがたくさん咲いていたのです。 ブダペストの街中で、らせん状に仕立てられたちょっと素敵なトピアリーに出合った。ヒノキ系だろう。ちょっと真似したい気持ちになる。 バルコニーのフレームを赤い花で飾るのはゼラニウム。ゼラニウムもヨーロッパの鉢植えでは定番の花ですね。 素朴な家々や草花が愛らしい ハンガリーのホロック村 3日目はブタペストから、約100km離れた、世界遺産のホロック村へ。人口がわずか340人の、ハンガリーで一番美しい村だそうだ。まだ、あまり日本の観光客が訪れない場所らしい。閑静で小雨も降り、しっとりとした落ち着いた街だ。 家々の壁面も素敵だ。思わずカメラを向けてしまった。 草花も素朴な佇まい。 枯れ木や標識などに、瓶やポットを飾るのがホロック風? 多肉の飾り方がユニーク。並べられているのは、サルの腰掛けだろうか? ホロック村はとても可愛らしい村だった。ただ、一日かけるのならブタペストに留まり、もう少し深く観光してもよかったかもしれない。海外旅行の日程を決めるのは、楽しいながら難しいものだ。 レドニツェ城の広大な庭園 4日目はブタペストを離れ、途中、レドニツェ城で庭園散策。 レドニツェ城と、ヴァルチツェ城で283㎢という広大な面積だそうで、東京23区の中でも大きい世田谷区が58㎢ほどだから、その5倍近くだ。如何に広大なのかが分かる。 このレドニツェ宮殿はリヒテンシュタイン家の夏の別荘として使われていたという。なんともスケールの大きな話だ。何しろ庭が広く、どこまでが全敷地なのだか分からない。 庭園は主にフランス式だ。季節的に花は少なかったが、きっと1カ月後に訪れたら素敵な花壇を見ることができると思う。 そして庭園の片隅には温室も! まさか、中欧の旅で温室に巡り合えるとは思わなかった。 真冬並の寒さの中で、熱帯の花メディニラ・マグニフィカがとても美しく感じられた。 温室の中では、可愛いミッキーマウスツリーとも出合うことができ、ちょっとホッとしたひと時であった。 意外なものと出合うと、やはり印象に残る。桐ダンスに使うキリの木が、こんな所に! 遠い異国で思いがけない植物との再会があるのも、旅の楽しみの一つだ。 あっという間に、前半の4日間が過ぎた。 次回は続きの旅で出合った植物のある風景を紹介しようと思う。お楽しみに! ⚫︎中欧5カ国を旅して出合った植物のある風景 後編
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オーストリア
オーストリア「シェーンブルン宮殿」【世界のガーデンを探る旅9】
ここまでは、フランス王室のシンボルであったベルサイユ宮殿のお話をしてきましたが、今回は、中世ヨーロッパのもう一つの富と文化の中心で、ウィーンのハプスブルク家の住まいであった「シェーンブルン宮殿」の庭を見ていきましょう。 東ヨーロッパの富と文化の中心地 中世のヨーロッパは、西半分はパリのブルボン王朝が、東半分はウィーンのハプスブルク家が富と文化の中心として君臨していました。ブルボン王朝はフランス革命により終わりを告げましたが、ウィーンのハプスブルク家は第一次世界大戦まで東ヨーロッパの富と文化の中心として、また音楽の都の頂として長く繁栄していました。当時、フランスの貴族文化の象徴であるヴェルサイユ宮殿(17世紀〜)はヨーロッパ中の憧れの的。その頃、ヨーロッパの東半分の富をある意味独占していたハプスブルク家も例外ではありませんでした。広大なフランス式庭園を持つ憧れのヴェルサイユ宮殿を手本に、このシェーンブルン宮殿がつくられたのです。 ハプスブルク家の夏の離宮としてウィーンの郊外につくられたこの宮殿には、1,441室もの部屋があり、さらには、ベルサイユ宮殿に勝るとも劣らない素敵なフランス式庭園がつくられて、それらは現在まで残っています。この宮殿は、女帝マリア・テレジアの居城として、そしてその娘マリー・アントワネットの数奇な運命とともに現在まで語り継がれています。 現在、この宮殿一帯に、年間670万もの人々が訪れる、ウィーンでもっともポピュラーな観光地になっています。 宮殿から広がるシンメトリックなフランス式庭園は、はるか遠くの小高い丘のグロリエッテまで続きます。 グロリエッテの手前には大きな噴水があり、宮殿と噴水の間には広大な毛氈花壇がシンメトリックに広がります。 原色の植物が緑に浮かび上がる平面的な花壇 ウィーンはパリに比べるとかなり寒い場所なので、この庭を楽しむには、やはり夏から秋が一番でしょう。僕が訪れたのも初夏でしたが、何も遮るものがないこの庭園を、グロリエッテまで歩いた時、陽射しが強烈だったことを鮮明に覚えています。 この花壇は芝生の緑をベースに原色系の植物を、おもに線状に並べて模様を描くことによって、はるか遠くに見えるグロリエッテまでの距離感をより強調しています。鮮やかな色と人工的な幾何学模様を際立たせるために、平面的な花壇の横には、小高く刈り込まれた濃い緑の生け垣が巡らされ、大理石の真っ白な彫刻が気持ちを和らげてくれます。 宮殿から数百メートルも離れた噴水の周りには、夏の花のベゴニアで赤と白のはっきりとした曲線が描かれ、背の高い黄色いカンナが立体感を出しています。ここでは前回解説したようなフランス式の花の混植は見られません。 ウィーンのもう一つの有名な宮殿である「ベルヴェデーレ宮殿」の早春の花壇は、春の空気までも表しているかのような優しいカラーリングです。宮殿の壁や屋根の色と調和する、白と黄色のチューリップの混植に、ガーデナーの優れたセンスが溢れています。 世界で2番目に古い温室「パルメンハウス」 有名なパルメンハウスとその前の線描花壇。パルメンハウスは1882年に建てられた世界で2番目に古い温室です。世界最古の温室は、これより4年前に建てられたイギリスのキューガーデンのパームハウスです。さて、パルメンとはドイツ語で手のひらを意味し、ヤシの木を指します。このような大規模な温室ができたことにより、世界中の植物がプラントハンターによって集められ、寒いウィーンでもさまざまな植物が栽培されるようになりました。これは、産業革命と技術革新により曲面ガラスの製造が可能になったことも大きく影響しています。 それにしても、なんと重厚で美しい姿なのでしょうか! 園路両脇のイチイのトピアリーもこの温室をひときわ優美に引き立てています。 巨大な生け垣と彫刻を配置する効果 視線を遮る西洋シデ(Carpinus beturus)の刈り込みが高く幾重にもつながり、正面はるか彼方にある大理石の彫刻に視線を集めています。 訪れた人に、この庭の奥行きと重厚感を伝えるデザインです。この手法は、後のイングリッシュガーデンにも多く取り入れられています。 こちらは緑の芝生に立ち並ぶ直線的なトピアリーと、生け垣に埋め込まれた大理石の彫刻。これもベルサイユ宮殿の影響なのでしょうか? 補色関係にある赤い屋根と深い緑が白い彫刻をアクセントとして上手にまとまった空間をつくりだしています。 最後に紹介するのは、あまりにも有名なモーツァルトの大理石の像と、その前にあるト音記号のマークの花壇です。ハプスブルク家歴代の皇帝の居城にして音楽の都、ウィーンの中心にあるホーフブルク庭園が、やはりウィーンの庭巡りの始まりでしょう。