日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。歴史からガーデンの発祥を探る旅。第9回は、オーストリア・ウィーンにある「シェーンブルン宮殿」の庭について解説します。

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ここまでは、フランス王室のシンボルであったベルサイユ宮殿のお話をしてきましたが、今回は、中世ヨーロッパのもう一つの富と文化の中心で、ウィーンのハプスブルク家の住まいであった「シェーンブルン宮殿」の庭を見ていきましょう。

東ヨーロッパの富と文化の中心地

中世のヨーロッパは、西半分はパリのブルボン王朝が、東半分はウィーンのハプスブルク家が富と文化の中心として君臨していました。ブルボン王朝はフランス革命により終わりを告げましたが、ウィーンのハプスブルク家は第一次世界大戦まで東ヨーロッパの富と文化の中心として、また音楽の都の頂として長く繁栄していました。当時、フランスの貴族文化の象徴であるヴェルサイユ宮殿(17世紀〜)はヨーロッパ中の憧れの的。その頃、ヨーロッパの東半分の富をある意味独占していたハプスブルク家も例外ではありませんでした。広大なフランス式庭園を持つ憧れのヴェルサイユ宮殿を手本に、このシェーンブルン宮殿がつくられたのです。

建物の外壁は、黄金を思わせる黄色で、当時、マリア・テレジアが財政の状況を考慮してこの色に。

ハプスブルク家の夏の離宮としてウィーンの郊外につくられたこの宮殿には、1,441室もの部屋があり、さらには、ベルサイユ宮殿に勝るとも劣らない素敵なフランス式庭園がつくられて、それらは現在まで残っています。この宮殿は、女帝マリア・テレジアの居城として、そしてその娘マリー・アントワネットの数奇な運命とともに現在まで語り継がれています。

現在、この宮殿一帯に、年間670万もの人々が訪れる、ウィーンでもっともポピュラーな観光地になっています。

宮殿から広がるシンメトリックなフランス式庭園は、はるか遠くの小高い丘のグロリエッテまで続きます。

グロリエッテの手前には大きな噴水があり、宮殿と噴水の間には広大な毛氈花壇がシンメトリックに広がります。

原色の植物が緑に浮かび上がる平面的な花壇

ウィーンはパリに比べるとかなり寒い場所なので、この庭を楽しむには、やはり夏から秋が一番でしょう。僕が訪れたのも初夏でしたが、何も遮るものがないこの庭園を、グロリエッテまで歩いた時、陽射しが強烈だったことを鮮明に覚えています。

この花壇は芝生の緑をベースに原色系の植物を、おもに線状に並べて模様を描くことによって、はるか遠くに見えるグロリエッテまでの距離感をより強調しています。鮮やかな色と人工的な幾何学模様を際立たせるために、平面的な花壇の横には、小高く刈り込まれた濃い緑の生け垣が巡らされ、大理石の真っ白な彫刻が気持ちを和らげてくれます。

宮殿から数百メートルも離れた噴水の周りには、夏の花のベゴニアで赤と白のはっきりとした曲線が描かれ、背の高い黄色いカンナが立体感を出しています。ここでは前回解説したようなフランス式の花の混植は見られません。

ウィーンのもう一つの有名な宮殿である「ベルヴェデーレ宮殿」の早春の花壇は、春の空気までも表しているかのような優しいカラーリングです。宮殿の壁や屋根の色と調和する、白と黄色のチューリップの混植に、ガーデナーの優れたセンスが溢れています。

世界で2番目に古い温室「パルメンハウス」

有名なパルメンハウスとその前の線描花壇。パルメンハウスは1882年に建てられた世界で2番目に古い温室です。世界最古の温室は、これより4年前に建てられたイギリスのキューガーデンのパームハウスです。さて、パルメンとはドイツ語で手のひらを意味し、ヤシの木を指します。このような大規模な温室ができたことにより、世界中の植物がプラントハンターによって集められ、寒いウィーンでもさまざまな植物が栽培されるようになりました。これは、産業革命と技術革新により曲面ガラスの製造が可能になったことも大きく影響しています。

それにしても、なんと重厚で美しい姿なのでしょうか! 園路両脇のイチイのトピアリーもこの温室をひときわ優美に引き立てています。

巨大な生け垣と彫刻を配置する効果

視線を遮る西洋シデ(Carpinus beturus)の刈り込みが高く幾重にもつながり、正面はるか彼方にある大理石の彫刻に視線を集めています。

訪れた人に、この庭の奥行きと重厚感を伝えるデザインです。この手法は、後のイングリッシュガーデンにも多く取り入れられています。

こちらは緑の芝生に立ち並ぶ直線的なトピアリーと、生け垣に埋め込まれた大理石の彫刻。これもベルサイユ宮殿の影響なのでしょうか? 補色関係にある赤い屋根と深い緑が白い彫刻をアクセントとして上手にまとまった空間をつくりだしています。

最後に紹介するのは、あまりにも有名なモーツァルトの大理石の像と、その前にあるト音記号のマークの花壇です。ハプスブルク家歴代の皇帝の居城にして音楽の都、ウィーンの中心にあるホーフブルク庭園が、やはりウィーンの庭巡りの始まりでしょう。

Credit

文/二宮孝嗣
長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表で造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。

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