「クサレダマ」——。まるで妖怪か、あるいは妖怪が振り回す武器のような名前だと思いませんか。そんな禍々しい名のものをぶん投げられたら、ひどいことになりそうな予感。でも、じつはクサレダマは「腐った玉」でも、「臭い玉」でもないのです。音の響きからは想像もできない優美で爽やかな姿の植物、それがクサレダマ。いったいなぜこんな名前がついたのか、クサレダマの正体に迫ってみましょう。
目次
クサレダマは水辺で活躍する美しい宿根草
初夏の湿った地面から、すっと立ち上がる茎。その先に咲くのは、明るく澄んだ星形の小さな黄色の花。どこにも「腐れ」と呼ばれるような要素は見当たりませんが…。

この花の正体は、草連玉(クサレダマ)。レダマという低木の花に似た宿根草であることから、草のレダマ「クサレダマ」と呼ばれるようになったというのが通説ですが、音の響きから「腐れ玉」と誤解を受けることが多々ある植物です。


学名はリシマキア・ブルガリス( Lysimachia vulgaris var. davurica)。サクラソウ科オカトラノオ属の宿根草で、白い花穂が美しいオカトラノオや、ガーデンのグラウンドカバーとしてよく用いられるリシマキア・ヌンムラリア‘オーレア’などの仲間です。リシマキア・ブルガリスはヨーロッパからアジアにかけて広く分布し、日本でも湿地や水辺、用水路沿いなどで見られます。その湿地を好む性質も、「腐れ玉」という誤解を後押ししてしまったのかもしれませんね。

そもそも、誰がつけたか草のレダマで「クサレダマ」というのもやや雑な名付けのようにも思われますが、昔の植物の呼び方は愛称でも、商品をアピールするものでもなく、その特徴を最短距離で伝えるための伝達情報でした。臭ければ臭い。厄介なら厄介。似ていれば、そのまま似ているものの名を借りる、といった具合。それは昔の人が植物をぞんざいに扱っていたわけではなく、ただ、植物があまりにも身の周りに当然にありすぎて、わざわざ美しい名前を付ける必要がなかったということかもしれません。
シェードガーデンにおすすめのクサレダマ

クサレダマは半日陰〜明るい日陰で育つ丈夫な宿根草で、一度根付けば放置気味でもよく増え、真夏の花の端境期の彩りとして活躍します。さらに、湿り気を嫌わないのも貴重な特徴。雨が集まる場所や湿った場所は「植えるものがない問題」に悩まされがちですが、クサレダマなら、レインガーデンの雨落ち部分でも平気です。
広がりすぎに注意
ただし、丈夫で生育旺盛がゆえに気をつける点も。クサレダマは地下茎で増えるので、勢いがよすぎると他の植物の生育に影響を与えることがあります。花壇の中では彩ってほしい範囲を決め、根のコントロールをするのが安心です。プラスチック製の根止めはホームセンターや園芸店などで身近に手に入るアイテムですし、トタン板を深さ20〜30cm土に差し込むことでも、根の広がる範囲を限定できます。
クサレダマに別名をつけるなら?

上手に使えば真夏に貴重な涼を得られるシェードガーデンやビオトープの「光の差し色」になり、空間が明るくなりますよ。もし現代の感覚で、この花の活躍ぶりを讃える素敵な別名を与えるとしたら、たとえば——「ミズベノヒカリ」、「ナツノコモレビ」、「サマーシェード・イエロー」などでしょうか?
名前はどうあれ、クサレダマは夏の日陰にそよぎ、私たちに安らぎを与えてくれる植物。今も昔も同じ場所に咲きながら、人の変化を静かに眺めているのかもしれません。
Credit
文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中!
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