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花の少ない早春を彩る魅惑の秋植え小球根10選 概要編

Pixeljoy/Shutterstock.com
秋は来春に向けて球根を植え付けるベストタイミングです。秋植え球根の中でも、花の少ない早春の頃、草丈20cm以下で開花する小球根は、春の気配をいち早く知らせてくれる可愛い使者。ここでは、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、秋植え小球根の適切な購入時期や楽しみ方、さらにはヘレボレスとの組み合わせなどについても解説します。
目次
花の少ない早春を彩る魅惑の秋植え小球根植物
宿根草や落葉樹がいっせいに芽吹く春本番に先がけて、花が少ない晩冬~早春に、ひと足早く春の気配を届けてくれる、草丈が20cmくらいまでの小型秋植え球根類をご紹介します。

本州でいうと2〜3月の庭は、まだ冬枯れの様相が強く、ヘレボルス(クリスマスローズ)や、冬から引き続き咲いているビオラくらいしか開花している植物がないので、植栽に彩りを加えるのが難しい時期といえるでしょう。
ビオラやストックなど、冬を通して咲いてくれるカラフルな花もの素材は、彩りとしては重宝しますが、前年の晩秋からずっと咲いている分、「早春の季節感」という新鮮さは感じられませんよね。

そこで、冬枯れの大地からけなげに芽吹き、小さい姿ながらも生命の息吹きを感じさせてくれる、早春咲きの球根を提案します(※)。植えっぱなしで毎年咲き、いち早く春の訪れを知らせてくれる、早春の季語のような役割を担ってくれる一群です。
※本記事でご紹介するアラム・イタリクム‘マーモレイタム’ のみ早春の美しい葉を観賞します。アラム・イタリクムは春に花が咲きます。

種類によって花容も開花期も少しずつ異なるので、数種類を植えておくと、多様性のあるナチュラルな雰囲気が演出できます。また、開花期の移り変わりによって、さまざまな花の組み合わせ・変遷を長く楽しむことができます。

宿根草や落葉樹のナチュラル植栽にも雰囲気よく似合い、春本番に向けて、より大型の秋植え球根植物の開花にもうまくバトンタッチしていけますよ。
春本番に咲く秋植え球根植物については下記関連記事も併せてお読みください。

・春咲き宿根草と相性抜群の秋植え球根 アリウム10選【乙庭Styleの植物3】
・宿根草植栽に織り交ぜて楽しみたい秋植え球根 6選【乙庭Styleの植物4】
買い逃さないよう、夏の間に予約購入するのが賢い選択
さて、これらの球根の植え時は秋なのですが、絶好の買い時は秋ではないので注意が必要です。

いざ植え時の10月になってから秋植え球根を買おうとすると、人気品種や生産量の少ないマイナー品種などは売り切れていて意外と手に入りにくいのです。秋の一時期にしか流通しない季節アイテムなので、買い逃して1年間おあずけとなってしまう事態は回避したいところですね。

上写真の青紫色の原種系美麗種、チューリップ・フミリス ‘アルボカエルレア’ なども、生産量が少なく、植え時の秋にはすでに完売していて手に入りにくいものの一つです。
ほぼ通年手に入る宿根草の苗とは違い、休眠している球根の状態で販売されるため、秋の短い期間しか園芸店の店頭に並びません。珍しい品種は流通量も多くないので、売り切れてしまっては後の祭り。ちょっとした争奪戦になります。

ここは先手必勝! 確実に手に入れたい場合は、夏から受付開始するオンラインショップの早期予約などを活用して、早め早めに準備をしていくとよいでしょう。
7、8月から予約販売を開始するネットショップの早期予約を利用すると確実です。真夏の時期に秋植え球根の早期予約セールを行っているショップもあるので、賢く利用したいですね。

また、秋植え球根に分類される植物の中でも、上写真のコリダリス・ソリダやガランサスの仲間など、長期間の掘り上げ貯蔵に不向きなものは、掘り上げた球根の姿ではなく、冬~早春に芽出し苗で販売されることが多いです。流通時期の違いに注意しましょう。
早春庭の差別化に役立つ秋植え小球根。ヘレボルスとも相性抜群!

今回ご紹介する秋植え球根は、上写真のように形状も大きさもさまざまです。次回記事にて各種解説しますが、原産地で見てみると地中海沿岸地域~西アジアにかけての、比較的降水量が少なく砂礫まじりのような土壌の地域原産のものが多いです。冬~早春の庭の花形役者でもあるヘレボルス(クリスマスローズ)とも近い生息環境由来なので、植栽的にも違和感なく似合い、管理も一元化しやすいです。この点に着目してみると、庭での植栽組み合わせのヒントになります。
これらの小球根類は、ヘレボルスの花茎が伸びて開花が進むのと同じ頃、2月下旬~3月にかけて生育し開花していきます。

上写真のヘレボルスとガランサス (=スノードロップ)のカップリングは、開花期も揃い、ガーデニングの本場イギリスでも、園芸通がよく使う定番の組み合わせですよね。

また、ガランサスと開花期が合うエランティス・シリシカ(上写真)、その後を引き継いで開花が始まるコリダリスやシラー(下写真)といった具合に、萼片が長く残り比較的観賞期間の長いヘレボルスを軸に、さまざまなスプリング・エフェメラル(春の妖精)の開花スケジュールを組んでいくと、思慮深さと移ろいのある植栽シーンをつくっていくことができます。

ヘレボルスは人気の高い花で、量産品から育種家が手塩にかけてつくった高級なオリジナル品種、一点モノまで、いろいろなものが流通していますよね。

ヘレボルスは、熱狂的な収集家やファンも多く、確かにとても魅力的な植物なのですが、少し引いた目で見ると、いくら花色や咲き方にバリエーションがあったとしても、誰もがこぞって植える単一の植物なんですね。ニュアンスの違いはあっても、そればかりだと植栽として意味が狭いといえるでしょう。

せっかく、とびきりの一点モノ美人株に時間とお金と労力を費やしたとしても、ヘレボルスばかりの一角では、多様性もボキャブラリーも乏しい植栽風景になってしまいます。

本連載でもたびたび言及してきましたが、人気のある分野ほど競争相手が多く、抜きん出ることが難しい「レッドオーシャン」になりやすいんですね。日本でのヘレボルスを取り巻く環境もこれに通じるものがあります。また、似たような植物がたくさんあることで、個々のイメージがぼんやりしてしまい、庭の景色として引き立たないばかりか、他の庭との差別化を図ることも難しいのです。もっと卑近な言葉でいうなら、ヘレボルスばかりにお金をかけるのは「コスパが悪い」ともいえるでしょう。
でも、ヘレボルスに、数種類の早春咲き球根植物を組み合わせると、花のバリエーションも豊富になりますし、庭主のセレクトセンスが加わることで、組み合わせによるオリジナリティが必ず生まれます。

上写真は、八重黒花のヘレボルスに鮮烈なコーラルレッド花のコリダリス・ソリダ ‘ジョージベイカー’ を組み合わせた乙庭での植栽例。八重黒花のヘレボルス単体がもつ美しさは「お金を出せば手に入る」ものですが、この組み合わせの光景は、庭主の審美眼からしか生み出せない独創性の領域です。
単体で「何があるか」も大事ですが、同時に植物の組み合わせとして「何とあるか」に常に気を配ることで、他にはない自分だけの植栽風景をつくれます。この考え方は、上述のヘレボルスに限ったことではなく、植栽全般に応用できるので、ぜひ意識してみてください。

上写真は、砂利の庭で小型の原種系チューリップ フミリス‘リリパット’(Tulipa humilis ‘Lilliput’と幾何学的な葉脈模様が特徴的なアザミの仲間、シルシウム・ディアカンスム(Cirsium diacanthum)などを点在させた植栽例です。原種チューリップ単体の可憐さとはひと味違う、キリキリした緊張感が生まれていませんか。
植えっぱなしで育てるための品種選びや植え方のポイント
秋植え球根全般にいえることですが、やはり休眠期の掘り上げの手間を軽減したいですよね。
本記事の後編(次回)でご紹介する早春咲きの球根は、日本の気候でも育てやすく、植えっぱなしで定着し、毎年少しずつ増えてコロニーを形成していくような品種を中心にセレクトしています。

まずは栽培以前に、日本の夏冬の環境を屋外で問題なく越せる植物を選ぶことが、植えっぱなしで育てるための最大のコツといえるでしょう。

また、まだ暖かさが残っている時期に植え付けると、種類によっては球根が早い段階で腐ってしまうことがあります。十分涼しくなった秋の後半(関東平野部では10月下旬~11月中旬頃)に植え付けるとよいでしょう。

性質が丈夫で比較的手間いらずの品種をセレクトしましたが、それでも、数年経過すると球根が過密になって開花が少なくなってくるので、数年に一度、休眠に入る頃合いで掘り上げ、間隔を広げて植え直してあげるとよいでしょう。
冬の間、土中が完全に乾燥してしまうと生育に大きな障害が出るので、適湿を心がけること。原産地の気候を考えるならば、水分が残留しやすく、梅雨時に高温多湿になってしまう有機質たっぷりのフカフカ土よりは、軽石・鹿沼土などの礫分も含み、水はけ・水持ちのよい土壌のほうが、休眠時の球根腐敗を防ぐ面で有効です。

全般的に生育期の冬~春にかけて日当たりがよく、休眠期の夏~秋にかけて日陰になる場所を好みます。落葉樹の下のような半日陰の場所が、生育と日照のタイミングやバランスが合い最適です。まさにヘレボルスと植え場所や管理・開花期が合い、組み合わせる素材として相性バッチリですね。

これらの小球根は、全般的に球根の上に3~5cm程度土がかかる深さに植えます。 植えっぱなしにすることを考えると、掘り返すことの少ない場所に、冬期落葉種の半日陰向け宿根草と合わせて植えると管理しやすいです。

これらの小球根類は、存在感の強いチューリップなどと異なり、1球だと楚々としてとても小さいので、ぜひ群像美で魅せたい植物です。5球程度を1株見立てで小群で植えたり、複数種をミックスして無造作にたくさんの球数植えることで植栽効果が倍増します。
では、次回、これら早春咲きの球根植物のおすすめ品種をセレクトしてご紹介いたしますね。

「未来を予言する最善の方法は、未来を作り出すことである」
(ピーター・ドラッカー 社会生態学者、経営学者 1909 – 2005)
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -

おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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