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花の少ない早春を彩る魅惑の秋植え小球根10選 品種編
秋は来春に向けて球根を植え付けるベストタイミングです。秋植え球根の中でも、花の少ない早春の頃、草丈20cm以下で開花する小球根は春の気配をいち早く知らせてくれる可愛い使者。ここでは、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、秋植え小球根10種とバリエーション、そしてそれぞれの特徴と魅力を解説します。
目次
花の少ない早春を彩る魅惑の秋植え小球根植物 10選
前回から2回シリーズで、花の少ない晩冬~早春にかけて、一足早く春の気配を届けてくれる、草丈が20cmくらいまでの小型秋植え球根類をご紹介しています。前編の概要編に続き、今回は具体的な品種紹介編です。
ヘレボルス(クリスマスローズ)やビオラ、ストックなど“ド定番”な花に頼りっきりだと、「華やかだけれど似たり寄ったりで誰の植栽?」な庭になりがち。冬~早春の庭に、ふっと妖精のように現れ、近づきつつある春の足音を感じさせてくれる一群が、ご紹介する小球根です。
植えっぱなしで宿根草のように管理でき、組み合わせ次第で、こだわりや独創的なデザイン演出もでき、差別化にも役立ちますよ。
宿根草や落葉樹などのナチュラルな植栽にも雰囲気よく似合います。これらの早春咲き球根を上手に取り入れて、前奏曲のように春庭の幕を開けてみてはいかがでしょうか。
早春咲きの小球根類の概要については前回記事『花の少ない早春を彩る魅惑の秋植え小球根10選 概要編【乙庭Styleの植物22】』も併せてお読みください。
また、さらに小球根からバトンタッチして春本番に咲く秋植え球根植物については下記関連記事も併せてお読みください。
・春咲き宿根草と相性抜群の秋植え球根 アリウム10選【乙庭Styleの植物3】
・宿根草植栽に織り交ぜて楽しみたい秋植え球根 6選【乙庭Styleの植物4】
では、以下からは、育てやすくて植栽効果の高い秋植え小球根類をご紹介します。
セレクト1
シラー・シベリカ
ヒヤシンスの花をまばらに、小さく華奢にしたような雰囲気の、深い濃青色の花が美しい小型種。ロシア中部~中央アジア原産で、寒さにも強く育てやすいです。プシュキニアやエランティスなど、他の小球根植物ともよく似合います。
ヒヤシンスの球根を小さくしたような、紫色の外皮に覆われた球根です。
【DATA】
■ キジカクシ科
■ 学 名:Scilla siberica
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10~15cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト2
プシュキニア・スキロイデス・リバノティカ
コーカサスやレバノン、トルコなど西アジア~中東地域の高地原産種です。前出のシラー・シベリカにも似た草姿で、白地の花弁中央にスッと淡い藍紫色の筋が入る花は、清楚でおしゃれな雰囲気。シラー・シベリカ同様、植えっぱなしでも定着し育てやすいです。
シラー・シベリカよりも一回り小さく、アイボリー色の球根。
【DATA】
■ キジカクシ科
■ 学 名:Puschkinia scilloides var. libanotica
■ 主な花期:早春(関東平野部では2~3月頃)
■ 草 丈:10~15cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト3
エランティス・シリシカ
前出のプシュキニア・スキロイデスとも自生地が重なる、ギリシャ~シリア辺りの地中海沿岸地域の高地原産種。キバナセツブンソウという和名でも知られています。真冬から生育し始め、短期間で開花、春には地上部が枯れて休眠に入る、いわゆる「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」の一種です。海外の有名庭園でも、落葉樹のウッドランドで、ヘレボルスと本種、スノードロップなどを誇らしく混植している例がよく見られます。
エランティス ・シリシカの球根は、上写真のように黒っぽく凸凹の多い扁平な小球です。中央に突起状の芽が付いている面が上になりますが、不定形で個体によっては上下が分かりにくいものも多いです。
球根の上下が判定できない場合は、薄い側を上にして(球根を立てて)植えると、逆さま植えのリスクを回避できて安全です。また、本種は、乾燥した球根を植え込んですぐに水やりして湿った状態になると、そのまま腐ってしまうことがあります。植え付け時には水やりせず、1週間程度は土からの水分で徐々に湿気になじませてから水やりを開始すると安全です。初年度の生育に成功すれば、その後は自生的に定着しやすいです。
【DATA】
■ キンポウゲ科
■ 学 名:Eranthis cilicica
■ 主な花期:早春(関東平野部では2月頃)
■ 草 丈:10cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:半日陰
セレクト4
クロッカス
日本の園芸業界でも比較的古くから導入され、秋植え球根の中でもメジャーな存在であるクロッカスも、ギリシャ~トルコなどの地中海沿岸地域から西アジアに分布する種です。
冬枯れの庭にぴょこんと芽吹く松葉状の濃緑葉も春の息吹を感じさせてくれます。
クロッカスは品種改良も進んでいて、素敵な花色の品種がたくさん発表されています。乙庭でもお気に入りの品種をいくつかご紹介します。
クロッカス・シーベリィ ‘トリカラー’ Crocus sieberi ‘Tricolor’
クロッカス・クリサンスス ‘プリンス・クラウス’ Crocus chrysanthus ‘Prince Claus’
クロッカス・ヴェルヌス ‘ピックウィック’ Crocus vernus ‘Pickwick’
クロッカスは、品種により球根の大きさに違いがありますが、上写真のように網目状のベージュ色の皮に包まれた球根です。2~3年植えっぱなしで育てられます。数年に1度掘り上げて分球し、植え直すとよいでしょう。休眠期、特に梅雨の時期に多湿が続くと病気が出やすいです。水はけがよく、地温が上がりすぎない半日陰に植えるとより安全です。
【DATA】
■ アヤメ科
■ 学 名:Crocus(品種名は各写真の文中を参照)
■ 主な花期:早春~春(関東平野部では2~4月)
■ 草 丈:10cm
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向
セレクト5
イリス(アイリス)・レティキュラータ
コーカサス~トルコ・イラン辺りを原産とする球根性の小型アヤメです。
草丈が低いながらも、アヤメらしい容姿の花を咲かせるので、可愛いだけではない、園芸通っぽく、シックな雰囲気を植栽に添加してくれます。前出のクロッカス同様、梅雨時期に多湿が続かないように水はけのよい場所に植えることで、数年間植えっぱなしで育てることができます。乙庭好みの品種をいくつかご紹介します。
イリス・レティキュラータ ‘キャサリンホジキン’ Iris reticulata ‘Katharine Hodgkin’
イリス・レティキュラータ ‘アイキャッチャー’ Iris reticulata ‘Eye Catcher’
イリス・レティキュラータ ‘ポーリン’ Iris reticulata ‘Pauline’
上写真のように網目状の外皮に包まれた先が尖った形の球根です。
【DATA】
■ アヤメ科
■ 学 名:Iris reticulata(品種名は各写真の文中を参照)
■ 主な花期:早春(関東平野部では2~3月頃)
■ 草 丈:10〜20cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト6
早咲きの原種チューリップ
本記事の趣旨に合わせ、春本番に咲く大輪品種ではなく、早咲き性の小型原種から、植えっぱなしでも育てやすく、植栽効果の高いものをご紹介します。
コーカサス~イラン原産のフミリスとポリクロマ。どちらも日本の気候環境でも植えっぱなしで定着してくれる丈夫な種です。
上写真のチューリップ・フミリス ‘アルボカエルレア オキュラータ’ (Tulipa humilis var. pulchella ‘Albocaerulea Oculata’) は、原種チューリップの中でもとても珍しい、花底部が青紫色みを呈する品種です。とても園芸通好みの、シックで美しい原種系チューリップです。
上写真のチューリップ・フミリス ‘リリパット’ (Tulipa humilis ‘Lilliput’)は、鮮やかな赤花がハッと目を引きます。
ごく淡く緑色みがかった白花と花底の黄色とのカラーリングが清楚で美しいチューリップ・ポリクロマ(Tulipa polychroma) も、原種らしい楚々とした雰囲気の中にデザイン性を感じさせます。
本項の原種チューリップは、通常の大輪系チューリップとは異なり、上写真のような小さい球根です。
【DATA】
■ ユリ科
■ 学 名:Tulipa(品種名は各写真の文中を参照)
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10~20cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向
セレクト7
小型の原種ナルキッスス(=スイセン)
秋植え球根の中でも日本人に特に馴染み深いものの一つ、スイセンの仲間。その中でも、早春咲きで繊細可憐な美しさが特徴的な小型種、ブルボコディウムとカンタブリクスをご紹介します。
これらの2種はスペイン~ポルトガル、そしてモロッコやアルジェリア辺り、つまり南欧~北アフリカにかけての地中海沿岸地域を原産とする種です。どちらも糸葉ともいえる針状の細葉も美しく、草丈10~20cmの小さい草姿、早春というよりも真冬に近い時期から細く繊細な花茎を伸ばし、スイセンらしいラッパ状の副花冠が目立つ花容の可憐な花を咲かせます。
ナルキッスス・ブルボコディウム ‘ゴールデンベルズ’ (Narcissus bulbocodium ‘Golden Bells’)
ナルキッスス・カンタブリクス・モノフィルス (Narcissus cantabricus subsp. monophyllus)
日本でも広く一般的に植えっぱなし植栽されているより大型のスイセンは、観賞価値の低い平葉が開花後にベロベロと茂り、倒れたりしてあまり見映えがよくないのが難点なのですが、上記2種は、非常に線の細い葉が特徴的で、むしろ葉の個性も観賞できます。
上写真のような球根です。大型のスイセンよりは分球しにくく、数が増えにくい傾向があります。最初から植栽効果に見合った球数で植えるか、毎年少しずつ買い足して増やしていってもよいでしょう。
【DATA】
■ ヒガンバナ科
■ 学 名:Narcissus(品種名は各写真の文中を参照)
■ 主な花期:早春(関東平野部では1〜2月頃)
■ 草 丈 :10~20cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト8
アラム・イタリクム ‘マーモレイタム’
地中海沿岸部~カナリア諸島辺りを原産とするサトイモ科の植物。本記事の中で唯一、花ではなく「冬~早春の美しい葉」を観賞する異色の球根植物です。
照りのある矢尻形の緑葉にクリーム色の葉脈が大理石模様のように入り、冬の庭に熱帯観葉植物のような異彩を加えてくれます。
かのベス・チャトーガーデンなど、海外の有名庭園では、ヘレボルスと本種のマーブル模様葉、そしてエランティス やガランサス(=スノードロップ)などの極早咲きの球根を組み合わせてウィンターガーデンの見どころとしている例が数多く見られます。
開花期は春で、上写真のようにミズバショウに似た形状の、透明感のある淡白緑色の仏炎苞に包まれた肉穂花序を咲かせます。
うまく受粉すると、秋には鮮やかな橙~朱赤色の実もなり、通好みな観賞どころが多く面白いです。
上写真のように細長い不定形の球根で、一般的にはどちらかの先端に翌春に向けた芽が形成されています。球根を横に寝かせたような状態で植え付けます。
【DATA】
■ アヤメ科
■ 学 名:Arum italicum ssp. italicum ‘Marmoratum’
■ 主な花期:春(関東平野部では4〜5月頃) ※冬の美しい葉を観賞する
■ 草 丈:30cm(開花時)
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト9
コリダリス・ソリダ
前項までのセレクト1~8の植物は秋に球根が流通する種です。セレクト9~10のコリダリスとガランサスは、園芸的には秋植え球根に分類されますが、掘り上げての長期貯蔵に弱く、秋に球根で流通することは少ないです。球根の姿ではなく、真冬~早春の時期に芽出し苗で流通することが多いので、入手時期の違いを意識しておくとよいでしょう。
コリダリスの仲間は、ヨーロッパの園芸通の間でも人気の高い魅惑のアルパインプランツの一つです。高温多湿となる日本の気候では栽培が難しいものが多いのですが、ヨーロッパ中部原産のソリダ種は日本の気候でも比較的育てやすいです。
美しい品種も発表されていて、コリダリス特有のちょっと珍しい花容とも相俟って、小さいながらもとても目を引く逸品といえますね。
早春に咲き、春の間には地上部がなくなって休眠に入ります。高温多湿を好みませんので、地温の安定している半日陰に植えるとよいでしょう。
コリダリス・ソリダ ‘ジョージベイカー’ Corydalis solida ‘George Baker’
コリダリス・ソリダ ‘ベスエヴァンス’ Corydalis solida ‘Beth Evans’
掘り上げてみると、上写真のような塊根性の草姿です。
【DATA】
■ ケシ科ケマンソウ亜科
■ 学 名:Corydalis solida (品種名は各写真の文中を参照)
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10〜15cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:半日陰
セレクト10
ガランサス(=スノードロップ)
「スノードロップ」「待雪草」などの呼び名でも馴染み深い、うつむいて咲く清楚で美しい白花がとても魅力的な小型球根植物です。
トルコやギリシャ、フランス~コーカサスにかけての山野に分布し、15〜20種程度が知られています。日本で主に流通しているのはエルウィシィ(Galanthus elwesii)とニヴァリス(Galanthus nivalis)の2種です。両者の地上部の様子は似ていますが、エルウィシィのほうが球根が大きく、葉幅が1cm以上と広いのが特徴です。
球根が大きいエルウィシィは、掘り上げ貯蔵に耐えることから球根の姿で秋にも流通します。そういった背景から、日本ではエルウィシィのほうが多く栽培されています。
一方、園芸の本場、英国で一般的にスノードロップといえばニヴァリスのを指し、八重咲きなど魅力的な品種が園芸通の間でも珍重されています。
ニヴァリスの球根は掘り上げ貯蔵で傷みやすく、球根の姿ではほとんど流通しません。主に冬~早春の短い期間に芽出し苗の姿で流通します。
【DATA】
■ アヤメ科
■ 学 名:Galanthus (品種名は各写真のキャプションや文中を参照)
■ 主な花期:早春(明るい昼間のみ開花)
■ 草 丈:10〜15cm
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:半日陰
「過酷な冬の後に訪れるからこそ、春の足音はかくも愛おしく、
そして命の意味を教えてくれる。」
(太田敦雄 園芸家 1970 –)
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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