大掃除の仕上げは「煙」で。ドイツ流「お香」で家と心を清めるリセット術
Gartenbildagentur Friedrich Strauss / Strauss, Friedrich
12月は、ただでさえ慌ただしい月。大掃除、仕事納め、年末年始の準備――リラックスする時間もなかなか取れず、気づけば心も体も余裕を失いがちです。そんな季節にこそ、ドイツでは伝統的に「香り」を楽しむ習慣があります。乳香や没薬、ヨモギ、針葉樹の樹脂……クリスマスから新年にかけての特別な12日間「ラウナハテ(Rauhnächte)」の期間、ドイツでは植物の香りを焚いて、家を清め、過ぎ去った一年を手放し、新しい年を迎える準備をしてきました。この記事では、ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんが、ドイツの年末年始に根づくお香文化と、お香に使われる10種の植物、現代の暮らしに取り入れるヒントをご紹介します。
目次
何かと忙しく休む間がない年末

一年の最後の月、12月には、年末に向けて済ませなければならないさまざまな特別なことが目白押し。これだけのタスクをこなさなくてはならないのだから、この月はもっと日数があってもよいのでは……と毎年考えてしまいます。そんな忙しい年末は、一定のストレスがかかることは確実。いろいろな仕事を年内に終わらせるラストチャンスということもあって、リラックスタイムもなかなかゆっくり取ることができません。
大掃除ですべての部屋をすっきりさせ、クリスマスや年末の特別な食事を用意し、そして庭も整理しなくてはなりません。寒冷地や標高の高い場所では、庭の掃除は9月か遅くとも10月までに済ませる必要がありますが、私の暮らす地域は、太平洋沿岸の日当たりがよく温暖な地域なので、年末でも庭掃除ができます。

使わなくなった古い鉢を処分したり、使っていないコンテナを掃除したり、低木や庭木を剪定したり。必要のない水やり道具やホースは片づけ、残念ながら枯れてしまった植物はコンポスト材料にしましょう。トレリスや支柱はきれいに掃除し、すっきりと乾いたガーデンシェッドに保管します。このガーデンシェッドがまた、なかなか悩ましい場所。暑い夏の間はほったらかしにされがちなのですが、年末は、すでに長々と続く「大掃除リスト」に付け加えるべき絶好のタイミングです。10月や11月の暖かな日に済ませておけば、もっとラクになるのですが、我が家では、今年も年末の掃除リストに加わることになりました。毎年恒例のイベントです。
植物を燃やすという行為

数年前までは、焚火をする場所や、畑で不要な雑草などを燃やしている農家の方をよく見かけました。しかし、今ではこうした光景を見ることはめったにありません。条例で禁止されているところも多く、乾燥した気候の中では危険すぎるのかもしれませんが、私にとっては日本で初めて目にした思い出深い光景です。ドイツでは畑で何かを燃やすことは一般的ではなく、多くの場合、農家は収穫後の残りは土に戻します。冬の間凍ったそれらは翌春堆肥になり、新しい苗の肥料となります。

畑での焚火が見られなくなった現在でも、火が途絶えないのは寺社仏閣ですね。寺院の前にある大きな炉には線香が供えられ、煙がたなびいています。こうした煙には空気を浄化し、祈りを運び、瞑想を助ける力があると考えられています。これは仏教に根ざした儀式であり、同時に洗練された香道でもあるのでしょう。
古くから愛されてきた日本や世界のお香

先日、とある小さな町で行われた日本の香道に関するミニワークショップに参加する機会があり、奈良の有名なお寺の住職さんから、お香について興味深い話を聞くことができました。ワークショップでは、実際に数種類のお香の香りを体験し、また何世紀も昔の時代における香道の使われ方を解説していただきました。住職さんによれば、香原料には主にインドネシア産の木から採取される樹脂が多く、これらは非常に貴重で高価なもので、ときに金よりも価値があったのだとか。
世界の国々において、宗教儀式や、日常生活でのリラクゼーションや健康のために、お香など植物由来の煙や香りが利用されている例は、数え切れないほどあります。私の故郷であるドイツでも、お香を焚くという伝統は深く根付いており、近年は再び人気が高まっています。特に、ハーブや植物、そして自然に詳しい人々が、昔ながらの「お香を焚く」習慣に回帰しているケースが多く見られます。
季節の節目の行事にも欠かせないドイツの「お香」

西洋には「Wheel of the Year」と呼ばれる、キリスト教以前に由来する古代ヨーロッパの慣習も含めて、自然のサイクルを祝うお祭りの年次カレンダーのようなものがあります。地球と太陽の位置から決定される季節の節目となる行事のうち、もっともよく知られているのは、春分と秋分、そして夏至と冬至でしょうか。
ほかに、季節の行事には次のようなものがあります。
- クリスマスの40日後(2月2日)は聖燭祭
- 4月30日から5月1日にかけての夜はワルプルギスの夜
- 8月1日は収穫祭(ラマス、ルーナサ)
- 11月1日は万聖節(諸聖人の日)

そして、ドイツでは「ラウナハテ(Rauhnächte)」と呼ばれる「クリスマスの12日(Twelve Days of Christmas)」には、お香にまつわる習慣もあります。
「ラウナハテ」は、クリスマス(12月25日)から公現祭(1月6日)までの12日間のことで、この期間はドイツの人々にとって常に神聖な期間でした。人々はできる限り仕事をせず、祝い、過ぎ去った一年を振り返り、共に神託を尋ね、たくさんのおとぎ話を語り、そしてお香を焚いて過ごしました。それは一年間の重荷から解き放たれ、来る新しい未来を見据える時間だったのでしょう。
多くの変化と革新に満ちた、慌ただしい現代にこそ、私たちはこうした「特別な時間」についての先祖伝来の知識を活用すべきかもしれません。

さて、お香にまつわるこうした風習は、お香が持つとされる浄化作用にもつながります。私たちはフランキンセンス(乳香)やミルラ(没薬)、マツやサンダルウッド(白檀)の香りを、祝祭的な幸福感と結びつけて考えがち。そのため、まるでお香の香りそのものが、気分を高め、心身の重荷を浄化する力を持っているかのように感じられます。
もともと植物や樹脂、木片を燃やすという行為は、人類最古の儀式の一つであり、宗教行事だけでなく医療目的にも用いられてきました。今日でも多くの人々が、お香が心身にもたらす癒やしの効果に恩恵を受けています。
もしかしたら、これは古代のアロマセラピーの一種だったのかもしれません。
お香としてよく使われる植物10種とその効能

お香のもたらす効果を得るためには、品質とともに種類選びも重要です。ここでは、お香としてよく利用される10種の植物と、その香りがもたらすとされる効能や信じられている効果について、簡単にご紹介します。
ホワイトセージ(サルビア・アピアナ)

北米でお香として最も一般的な植物の1つが、ホワイトセージです。ホワイトセージのお香は強い「浄化・清め」の力を持つと考えられています。ホワイトセージに火をつけると、樹脂のような甘い香りを伴う、とてもフレッシュで芳香な香りが立ち上ります。北米の先住民は、ホワイトセージを純粋なポジティブエネルギーを持つ数少ない植物と考え、現在も活用しています。
フランキンセンス

フランキンセンスはカンラン科の植物(ボスウェリア・セラータなど)の樹脂を乾燥させたもの。ウッディで奥深い香りが特徴です。乳香という別名でも知られ、イエス・キリスト誕生の際の、東方の三博士の贈り物の1つとして有名です。
アンジェリカ

アンジェリカルート(アンジェリカの根)は、明るくアーシーで、アニスのような香り。心身の健康を促進するとされています。
スペインカンゾウ

リコリスルート(スペインカンゾウの根)は、その甘くアーシーな香りが高く評価されています。
セイヨウカノコソウ(バレリアン)

バレリアンルートは、根深い緊張を和らげ、バランスを整えるとされています。
セントジョーンズワート(セイヨウオトギリ)

セントジョーンズワート(セイヨウオトギリ)は、喜びをもたらすような、明るく元気づける香りで知られています。単体、またはほかのハーブと合わせて、空間の浄化やさまざまな儀式、勇気の鼓舞などの目的で利用されています。太陽のエネルギーと守護をもたらし、自分のコアを強化するといわれます。
ヨモギ

ヨモギはドイツの「ラウナハテ」には欠かせない植物。強力な浄化作用があるとされ、ヨモギの煙は重たいエネルギーを解放し、オーラを浄化して、より軽やかで自由な気分にさせてくれると考えられています。
ヒソップ

ヒソップは古い思考や感情のパターンを解放し、精神的な明晰さをもたらします。
トウヒ

スプルースレジン(トウヒの樹脂)は、心を浄化し、落ち着かせ、自然との繋がりをもたらします。
ノコギリソウ

ノコギリソウは微妙なエネルギーのバランスを取り、場を守護するとされます。
コリアンダー、ミルラ(没薬)、サンダルウッド(白檀)なども、お香に使われる非常に人気の高い植物です。
お香のブレンド例&実践ガイド
「ラウナハテ」のブレンド例
- エレキャンペーンルート(オオグルマの根)
- ヨモギ
- スプルースレジン
- エルダーフラワー
- ジュニパーベリー
- ベルモット
- 松の削りくず/木片
家の浄化の準備

お香を使った浄化・燻蒸は、人類最古の儀式の一つです。家の燻蒸は、生活空間から古いエネルギーや凝り固まった緊張、滞留を解放するために行われます。それはまるで、家、そして自分自身のために、深呼吸をするようなものです。
お香を焚き始める前に、部屋を片付け、窓を少し開けて、残っている滞留した空気を排出しましょう。
お香の焚き方

お香は古くは暖炉で燃やしたり、金網を張ったストーブの上で焚いていましたが、ちょっと大変なので、現代ではスティックやコーン(ピラミッド)などの形になっているお香を使うのがおすすめ。ドイツではバンドル状に束ねたものが使われることもあります。

暮らしの中のお香

お香ショップの中には、こうした季節の行事に合わせて使えるようブレンドされたお香を、一年間のセットとして販売しているところもあります。
また、クリスマスに人気のアドベントカレンダーについても、お香のものも販売されています。アドベントカレンダーは、待ち遠しい12月24日までの時間を少しでも楽しむため、12月1日から24日まで毎日、小さな「扉」を開けると素敵なサプライズやお菓子がもらえるようになったカレンダー。当初は絵柄だけのものでしたが、後に絵にプラスしてチョコレートが入ったものが登場しました。現在ではティーバッグ、ビール、種子など、思いつく限りのあらゆるものについてアドベントカレンダーを見つけることができます。ドイツでは子供だけでなく大人向けのものも数多くあり、大きな市場となっています。
12月は香りの月

冬、特に12月は、私にとって香りの月です。
シナモンやクッキーの香りが辺りに漂い、寒い時期に欠かせないザワークラウトに入ったローレルの葉、ブナで燻製したハム……舌と心、そして鼻を刺激するごちそうです。そして、マツやトウヒなどのクリスマスツリーが放つ自然の香りが、クリスマスシーズンをいっそう特別なものにしてくれます。
五感をもっと使って、空気中に漂う冬の季節の宝物を楽しみましょう。
Credit
話 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -

エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。2026壁掛けカレンダー『ガーデンストーリー』 植物と暮らす12カ月の楽しみ 2026 Calendar (発行/KADOKAWA)好評発売中!
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