朝夕の心地よい風が、夏の疲れを癒やしてくれる10月。神奈川県横浜市にある前田満見さんの小さな庭では、酷暑に耐えた秋の草花たちが咲き始めています。中でも、真っ先に庭のあちこちに顔を覗かせるのがユリ科のホトトギス。花径3cmほどの小花が、秋の訪れを賑やかに告げています。今回は、ホトトギスの由来や、育てて美しい品種について教えていただきます。
目次
ホトトギスの由来と品種
花弁に見られる赤紫色の斑点が、野鳥のホトトギス(不如帰)の胸の模様と似ていることから、この名が付けられたホトトギス(杜鵑草)は、秋の野辺を彩る山野草。古くから茶花としても日本人に好まれてきた花です。
その品種は意外と多く、日本に自生しているものが13種。その内の10種が日本固有種だそうです。さらに、台湾ホトトギスとの交配種や園芸品種もあり、「江戸の華」「藤娘」「桃源」「青竜」など、何とも雅な名前が付けられています。
凛とした立ち姿が美しい
台湾ホトトギスの交配種
耐暑性、耐寒性ともに強く、山野草の中でも育てやすいホトトギスですが、夏場は半日陰〜日陰の場所を好むので、落葉樹の足元や、午後から日陰になる場所に植えています。
庭に初めて植えたホトトギスは、台湾ホトトギスの交配種。庭づくりを始めて間も無い頃なので、かれこれ17年以上になります(残念ながら名前が定かではありません)。特有の斑点模様が少なく、直立した花茎の頭頂部で四方に分岐してたくさん花を咲かせます。植えた当初は2株ほどでしたが、いつの間にか地下茎やこぼれ種で増えて、今では飛び石の小径にこんもりと群生するほどに。一輪一輪は小さく、どちらかといえば地味な印象ですが、凛とした立ち姿が美しく、秋風に揺れる無数の小花を眺めていると、夏の疲れも癒やされます。
そして、同じ場所に混植している清澄シラヤマギクやアワコガネギクが咲き始める10月半ばには、次第に緑色の種子の姿に。晩秋へと季節のバトンを繋ぐ野菊との野趣溢れる共演は、私の大好きな光景です。
和の風情が魅力の日本自生種のホトトギス
小豆色の斑点が鮮やかなホトトギスと、やや大きめの黄花が目を引くキバナホトトギスは、日本の自生種。
小豆色の斑点のホトトギスは、葉っぱの元から分岐した花芽が、お行儀よく交互に立ち上がるので、一輪一輪花の表情がよく見えます。直近で見れば見るほどユニークなシベの形状と、花弁の斑点模様の調和が美しく、ホトトギスって、こんなに個性的で繊細な花なのだと、改めて気付かされます。
また、品のよさと粋な風情を感じるのも、日本の自生種ならでは。草陰から長い花茎をしならせて足元に寄り添う様は、艶やかで目を奪われます。
そして、もう一つのキバナホトトギスは、草丈は短いものの、パッと目を引くやや大きめの黄花が魅力です。一昨年、園芸店で一目惚れしました。
秋の木漏れ日の下、この花が咲き始めると、夏の強い陽射しや虫食いで傷んだ草木の緑も徐々に生気を取り戻し、庭も心なしか明るくなります。そういえば、黄色はビタミンカラー。小さな花でもその効果は抜群のようです。
また、このキバナホトトギスは、九州の宮崎県の固有種で、何と絶滅危惧種II類に登録されているのだとか。そんな希少種が庭にあるのは責任重大です。何としても絶やさず育てなくてはいけませんね。
清楚な白花が美しい園芸種のホトトギス
直立した長い花茎の節々に純白の花が咲くホトトギスは、‘白楽天’という園芸品種です。
庭のホトトギスの中でもこぼれ種でよく増え、毎年、思いがけない場所でひょっこり顔を覗かせています。その姿の何と清楚で愛らしいこと。目が合うと、思わず笑みが溢れます。
また、黄緑色の明るい葉もとても綺麗なので、カラーリーフとして十分楽しめるのも嬉しいところ。ギボウシやツワブキなどのカラーリーフと共に、花の少ない時季の庭の景観にも役立っています。
園芸品種のホトトギスは、この‘白楽天’の他にも斑入り葉や黄金葉など、華やかで美しい種類が幾つもあり、和洋問わずどんな庭にも馴染みそうです。じつは、わたしも今秋こそ、斑入り葉のホトトギスを新たに迎えたいと思っているところです。
そして、園芸品種に限らずどの品種のホトトギスも、花期が長く水揚げも良好なので、切り花にして室内でも楽しみます。
斑入りの細葉が美しいイネ科の十和田アシに純白のホトトギス‘白楽天’をあしらうと、どこからともなく心地よい秋風が….。そういえば、秋の異称は「白秋」。清らかでやさしいその響きによく似合います。
また、小豆色の斑点模様のホトトギスには、色づき始めた西洋カマツカの赤い実を。温もりのある陶器のピッチャーにあしらって、秋の深まりをしつらえます。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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