神奈川の自宅で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さん。冬の庭では「野鳥観察」が楽しみという前田さんは、庭で親しむ野鳥の姿が描かれている小さな洋書『Birdsong』が宝物の一冊です。本を手に取った数年後、その作者であるイギリスの作家、Madeleine Floydさんの作品と偶然出合うことになったイギリスの旅のエピソードもご紹介します。
目次
冬の庭の楽しみ、野鳥観察
冬枯れの庭に、時折やってくる小さな野鳥たち。落葉樹の枝から枝へぴょんぴょん飛び移ったり、餌台のミカンやナッツを上手についばんだり…。そんな様子を部屋の中からこっそり覗くのが、この時季の楽しみの一つ。彼らの愛らしい仕草に癒されます。
数年前、そんな野鳥たちの姿が、繊細なペン遣いと柔らかな色彩で描かれた絵を、ガーデニング雑誌『BISES』で見つけました。作者はMadeleine Floydさん。イギリスで知名度の高い女性アーティストの一人です。彼女のどこかユーモアにあふれた野鳥たちの絵に、とても親しみを感じたのです。
洋書『Birdsong』との出合い
雑誌記事で知って以来、すっかりMadeleineさんのファンになった私は、インターネットで『Birdsong』という題名の洋書を取り寄せました。小ぶりのサイズ感と洗練されたブルーグレーのハードカバー、表紙のChaffinch(ズアオアトリ)の絵が何とも愛らしい一冊です。嬉しいことに、ナショナル・トラストのドングリのマークも記されていました。
本の中身は、「Garden&Parkland Birds」「Woodland Birds」「Farmland Birds」…と分類され、野鳥の絵と文が添えられていました。もちろんすべて英語ですが、比較的分かりやすい短文なので大人の絵本のよう。この本に登場する愛嬌のある野鳥たち、Madeleineさんのチャーミングな人柄がうかがえる手書きのアルファベットで記されたその鳴き声を声に出して読んでいると、童心に戻ったような気分になりました。
そして、ページをめくるうちに、「もしかしたらMadeleineさんは、庭仕事の合間に鳥の鳴き声をハミングしながら絵を描いているのかも」とか、「イギリスでどんな暮らしをしているのだろう」…と、彼女自身に親近感と憧れを抱くようになりました。
イギリスで偶然に出合ったMadeleine Floydさん作のリトグラフ
じつは2年前、友人と訪れたイギリスで、偶然Madeleine Floydさんのリトグラフに出合うことができました。場所は、コッツウォルズ地方のTetbury。チャールズ皇太子の別邸「The Royal Gardens at Highgrove」があることで有名な小さな村です。その「Highgrove」のショップを探して村の通りを歩いていた時、画廊のショーウィンドウにMadeleineさんの絵が飾られていたのです。
驚きと興奮のあまりしばらく動けずに眺めていると、初老の店主がこちらを見てにっこり。思わずその笑顔につられて中に入ると、見慣れた野鳥の絵の他に、初めて目にする蝶や草花の絵がいくつも飾られていました。何だか Madeleineさん本人が目の前にいるような嬉しさで、胸がいっぱいになりました。店主に「彼女の絵が大好きです! とても嬉しくて興奮しています」と、片言の英語で伝えると、「それは素晴らしい! 私も好きだよ。彼女は、イギリスでとても愛されている有名なアーティストだから」と答えてくれました。
まさか、旅先でこんな出合いがあるなんて。そう思うと、どうしてもMadeleineさんのリトグラフが欲しくなりました。そして、散々迷って購入したのが4羽の野鳥たちが並んだリトグラフ。もちろん、直筆のエディションナンバーとサイン入りです。
帰り際、店主は「これもどうぞ」と、草花と蝶の絵が載っているパンフレットもくれました。パンフレットとはいえ、上質の紙を使っているせいか色合いも本物そっくり。額に飾って楽しめそうな素敵なものでした。こんな親切な店主さんのおかげで、Madeleineさんの絵に出合えた喜びと感動が何倍にもなりました。
「Highgrove」で見つけたMadeleine Floydさんの作品
お目当てのチャールズ皇太子のショップ「Highgrove」にも、Madeleine Floydさんの絵があしらわれた陶器やステーショナリーなどがたくさん並んでいました。そう、彼女は、「Highgrove」の商品デザインも担当しているのです。ということは、イギリス王室に認められているアーティスト。彼女の作品は、ガーデニングをこよなく愛するイギリス王室や国民から本当に愛されているのですね。
ここでも、数あるMadeleineさんのグッズの中からお土産にメッセージカードと封筒のセットを購入しました。
今、こうして思い出してみても、Tetburyでの出来事は本当に夢のよう。でも、もしかしたら、初めてMadeleine Floydさんの絵を目にした時からこの出合いは運命だったのかな…。ちょっとそんな気もしています。
彼女のリトグラフは、わたしにとって忘れられない旅の思い出であり宝物。帰国後、きれいに額装してずっと飾っています。そして、洋書『Birdsong』は小さなイーゼルに、フクロウのメッセージカードも額に入れて楽しんでいます。
そのおかげで、寒い冬も部屋の中は愛らしい野鳥たちの鳴き声で賑やかです。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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