まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
前田満見の記事
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家庭菜園
夏庭の恵みと手仕事【バジル&ブラックベリー】
爽やかな香り立つバジルソース 梅雨明けと同時に夏の陽射しが照りつける7月下旬。 毎年、5月のゴールデンウィークに鉢植えしているバジルとミニトマトが収穫を迎えます。 以前は、他にもゴーヤやキュウリ、パプリカなどの夏野菜も鉢植えしていましたが、4年前にやめてしまいました。というのも、年齢に伴うライフスタイルの変化と年々厳しくなる猛暑に体力の衰えを感じたから。できるだけ無理なく夏のガーデニングを楽しみたいから、こんな引き算も大事かなと思いました。ちょっと物足りなさも感じますが、猛暑での手間暇が減ったぶん心身にも余裕が生まれ、より収穫の有り難さや喜びを感じるようになりました。 ビタミンカラーの弾けるようなミニトマトと青々としたバジルはコンパニオンプランツ。水遣りさえ気にかけていれば互いにすくすくと育ち、夏庭と日々の暮らしに活力と豊かさを与えてくれます。 特に、生育旺盛で放任で育つバジルは、夏の食卓に欠かせないハーブ。爽やかな香りとフレッシュグリーンの鮮やかな色が、サラダや肉魚料理の付け合わせに重宝します。また、ひと手間かけて作る自家製バジルソースも家族皆の大好物。バジル、ニンニクとクルミ、オリーブオイルと塩をフードプロセッサーに入れて一気に攪拌します。 材料も作り方も至ってシンプルですが、摘みたての爽やかなバジルと刺激的なニンニクの香りが食欲をそそるバジルソースは、市販のものとは風味が断然違います。野菜や肉魚のソテー、ラタトゥユなど、夏料理の万能調味料として大活躍ですが、一番人気は、何と言ってもジェノベーゼパスタ! 庭のミニトマトとフレッシュバジル、パルメザンチーズをたっぷり添えた自家製ジェノベーゼパスタは、ささやかな夏のご馳走です。 バジルソースは、作りたてをいただくのが一番ですが、残った分は煮沸消毒した小瓶に分けて冷凍庫に。材料にチーズを入れていないので新鮮な風味を損なうことなく2〜3カ月保存可能です。また嬉しいことに、離れて暮らす子供たちや友人へのちょっとした手土産にも大好評。なので、収穫できる秋口までせっせとバジルソースを作り、ストックしています。 夏庭の宝石ブラックベリー 4年ほど前に、友人から挿し木を分けてもらったブラックベリー。つる性なので誘引できる木製フェンスの下に地植えしています。ここは、庭で一番日当たりのよい場所。他にもつるバラとクレマチスを植えているのでちょっと窮屈かもしれません。それでも、生育旺盛なブラックベリーは、1年目から両手に収穫できるほど成長し、3年目には驚くほどつるが伸びて数倍の収穫に。どうやら本来のポテンシャルを発揮してきたようです。 今春は、伸び過ぎたつるを何本か強剪定したのであまり期待していませんでしたが、思いのほか実が成り嬉しい限り。それにしても、無肥料無消毒、しかもほぼ手間いらずで収穫できるブラックベリーは、真夏のガーデニングに有り難い植物です。 待ちに待った収穫時期は約2〜3週間。毎日庭に出て熟した実をひと粒ずつ手で収穫します。その豊潤な漆黒の実は、まるで黒真珠。神秘的な輝きに目を奪われます。鈴なりになった様があまりに美しいので、時に房ごとカットして室内に飾ることも。花はなくても清らかな白い器に挿すだけで季節感溢れる花あしらいになります。さらに、緑〜赤茶〜黒へと実が熟していく過程を室内で観察しながら収穫できるのも嬉しいところ。何だかちょっと得した気分になります。 夏バテ予防のブラックベリーシロップ 完熟したブラックベリーは、もちろんそのまま食べても甘酸っぱくて美味しいのですが、一度には食べきれないので、収穫したらその都度冷凍し、500〜600gの量になったら鍋に入れてシロップを作ります。作り方は、凍ったブラックベリーにひたひたの水と甜菜糖、レモン汁を加え10分ほどコトコト煮詰めます。粗熱が取れたら濾し器に通して種を取ります。このひと手間で滑らかで口当たりのよいシロップに。思い立った時に常備している材料で手短に作れるブラックベリーのシロップは、暑さで億劫になりがちな夏の手仕事に最適です。 濃厚な赤紫色のシロップは、ヨーグルトに添えたり、冷えた炭酸水で割ってジュースに。甘さ控えめでシュワッと喉越しのよいジュースは、何杯でも飲めて熱中症対策にもバッチリです。また、シロップを直に凍らせた甘酸っぱいシャーベットも美味。目にも華やかなベリー色のシャーベットをコンポートに入れて、凍った実と庭のミントをあしらうだけで洒落た夏のスイーツになります。 そのうえ、ブラックベリーに含まれる赤紫色のアントシアニンは、強力な抗酸化作用のあるポリフェノール。ビタミンCやカリウムなど大人女子に嬉しい栄養素もたっぷりです。 年々、過酷になる夏のガーデニングですが、夏ならではの庭の恵みは、こんなふうに日々の暮らしに他では味わえない豊かさを与えてくれます。 さあ、これからが夏本番。今年も青々と茂ったバジルとたわわに実ったブラックベリーで、夏の暮らしを楽しみましょう。
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宿根草・多年草
心華やぐつるバラとクレマチスの共演
オールドローズと万重咲きのクレマチス クレマチスは、数ある系統によって性質や花の形に相違があり、つるバラと同じくらい多品種です。中でも、フロリダ系のクレマチスは、つるバラと開花時期がぴったり。共に中輪花なのでバランスも良く、花後に半分ほど切り戻すと2番花が楽しめるのも嬉しいところです。 お隣との境に設置している縦格子には、オールドローズ‘カーディナル・ドゥ・リシュリュー’にクレマチス‘獅子丸’を合わせました。 ‘リシュリュー’は、赤紫から灰色を帯びた青紫に移ろうシックな色合い。重厚な花弁が重なるカップ咲きの容姿と相まって、どこか和の雰囲気が漂います。赤紫の万重咲きの‘獅子丸’も、そんな‘リシュリュー’と良く似ています。 敢えて同色を選んだのは、こげ茶色の縦格子と赤紫の色合いに艶やかな和の風情を感じたからです。縦格子も、日本古来より受け継がれてきた伝統ある建具。‘リシュリュー’と‘獅子丸’が醸し出す佇まいに良く馴染みます。 また嬉しいことに、‘リシュリュ−’は、トゲが無く枝もしなやか。誘引しやすくあまり伸長しないので手入れが楽です。‘獅子丸’は、何と言っても花付きと花持ちが良く、咲き始めから終わりまで様々な表情を見せてくれます。特に、外弁が散って花芯だけになったポンポン咲きの菊の花のような姿が大好きです。 さらに、花後に切り戻すと2番花〜3番花も楽しめます。花の大きさはひと回り小さくなりますが、それもまた良し。とにかく驚くほど伸長して晩秋まで咲き続けます。 初夏の訪れと共に真っ先に咲き始める‘リシュリュー’と‘獅子丸’。何処から見てもパッと目を引く優美な色合いが、新緑の庭に程よい格調を与えてくれます。 エレガントなつるバラとバイカラーのクレマチス 藤色のロゼット咲きの中輪花が房咲きに咲き誇るエレガントなつるバラ‘レイニーブルー’。4年前、このバラに出会った瞬間ひと目惚れしました。その時は、植える場所も決めていませんでしたが、「庭に迎えたい!」という欲求を我慢するこができませんでした。 1年目は鉢植えで管理し、2年目に何とか地植えに。地植えにしたことですくすくと成長してくれると思いきや、病害虫に苛まれつるの伸長もいまひとつ。花もわずかしか咲きませんでした。後に調べてみると、この‘レイニーブルー’は、どうやら少し気難しい美人さんだったようで…。 それでも、何とかご機嫌を伺いながら手入れして3年目。ようやく株一杯の花を見ることができました。その嬉しさといったら! きっと、こんな経験をしたガーデナーの方がたくさんいるのではないでしょうか。「手間暇のかかる子ほど愛おしい」とは、まさにこの事。満開の姿は、その何倍もの感動と喜びを与えてくれます。 クレマチスだけの時期も素敵ですが、‘レイニブルー’が咲き始めるとさらに華やかさが増します。 そんな‘レイニーブルー’に合わせているのが、クレマチス‘ビエネッタ’。白い外弁と赤紫の大きな花芯の対比が美しい万重咲きのクレマチスです。‘レイニーブルー’の淡い藤色は、どんな色でも調和するのであれもこれもと迷いましたが、個性的なバイカラーを選びました。お洒落な‘ビエネッタ’と エレガントな‘レイニーブルー’は、何処となく洗練された女性のイメージ。目にする度にうっとり見惚れてしまいます。 また、‘レイニーブルー’と ‘ビエネッタ’も、切り戻すと2番花も楽しめます。花は小ぶりながら共に初秋らしい濃い目の色合いに。初夏とはひと味違う楚々とした風情も素敵です。 さて、今年の‘レイニーブルー’のご機嫌はいかがでしょうか。去年は、帰省中にバラゾウムシの被害に遭い、悲しいかな初夏のつぼみは、ほぼ全滅……。今年こそはと並並ならぬ手入れとパトロールを強化して開花を待ち望んでいます。 絵になる景色を描くつるバラと2種のクレマチス ガーデンシェッドの小窓に誘引しているつるバラ‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’は、房咲きの中輪花。アプリコットからオフホワイトに変化する暖か味のある優しい色合いが魅力です。朝は、鮮やかなアプリコット。午後にはオフホワイトにみるみる変化して、そのグラデーションの美しさに目を奪われます。残念ながら一季咲きなので、その姿を堪能できるのは年に一度だけ。それでも、十分過ぎるほどのときめきを与えてくれます。 そんな‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’には、ディープパープルのクレマチス‘ビクター・ヒューゴ’とソフトパープルの‘流星’を合わせました。この色の組み合わせは、緩やかな補色。互いを引き立て合うメリハリの効いた色合いです。 ご存知の通り、ここ数年大人気の‘流星’は、‘ビクター・ヒューゴ’の枝変わり。色は違いますが花姿が良く似ています。やや細弁の整った花弁に黒の花芯が何ともシック。特に‘流星’は、他にはない灰色帯びたソフトパープルに花芯が際立ち、その美しさといったら……。誰もが虜になるはずですね。 心ときめくつるバラと魅惑のクレマチスの共演は、わが家の庭で一番絵になる景色。小窓を彩る溢れんばかりの3種の花々が、日めくりでアートを楽しませてくれます。 庭へと誘う白いつるバラと万重咲きのクレマチス 北東の庭の入り口は、午前中しか陽が当たらない半日陰。陽当たりを好むつるバラとクレマチスにとって決して良い条件ではありません。それでも、つるバラ‘キフツゲート’とクレマチス‘白万重’は、毎年、健やかに花を咲かせてくれます。 ‘キフツゲート’は、一重咲きの白い小輪花。雄しべが黄色の可憐な花ですが、見た目とは裏腹に、とても強健で樹勢が強いので年に数回の剪定が欠かせません。どうやら半日陰でも何も問題なさそうです。 ‘白万重’は、やはり日照不足からか3年ほど花数も少なく、本来の姿を発揮できない様子でしたが、それ以降はこの場所に少しずつ適応してくれたようで、今では生育旺盛な‘キフツゲート’とコラボレーションできるほど逞しくなりました。そのうえ、万重咲き特有の花持ちの良さはもちろん、清楚な白い花が表情を変えながら移ろう姿の何と美しいこと。花弁が散って黄緑色の花芯が残った姿にさえ魅せられます。 そして、このホワイト&ホワイトの組み合わせは、わたしが一番好きな色合わせ。その美しさがより際立つのが半日陰のこの場所です。そう、庭の入り口は、さまざまなリーフや四季折々の白い花々が咲くホワイトガーデン。初夏には、‘キフツゲート’と‘白万重’、溢れんばかりの白い小花の‘スイートジャスミン’が咲き揃い、心が洗われるような清々しさに。辺りに漂う甘い香りに包まれて、数え切れないほどの白い花々が庭へと誘います 誘引次第で景色が一変するつるバラとクレマチスの圧巻のデザイン力。やっぱり、これほどに心華やぐ感動を与えてくれる優美な共演は他にはありませんね。
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寄せ植え・花壇
春の庭をモダンに演出するブラックチューリップ
ブラックチューリップの魅力 庭に植えているブラックチューリップの品種は、一重咲きの‘クイーン・オブ・ナイト’と ‘カフェ・ノアール’、そして八重咲きの‘ブラックヒーロー’。 黒に一番近い‘クイーン・オブ・ナイト’は、整った花形にベルベットのような華やかな艶感が目を引く、まさに女王の名に相応しい気品があります。‘カフェ・ノアール’は、やや赤紫色のふっくらとした花形で優しげな雰囲気。‘ブラックヒーロー’は、コロンとした愛らしいつぼみと八重咲きの華やかさがあります。これらの品種のどれかを、毎秋、球根から植えています。 芽出しは、冬の名残の2月中旬〜下旬。ちょうど早春の訪れを告げるスノードロップやバイカオウレンが満開の頃です。地面からツンと尖った新芽が一斉に顔を覗かせ、外の様子を窺っているよう。植え付けから約3カ月、この時をどれほど心待ちにしていたことでしょう。こんな微笑ましい姿を目にする度に、愛おしくてたまらなくなります。 そして、春分を迎える頃には、暖かな春の陽射しにゆったりと葉を広げ、中から小さなつぼみも。ここまでくるとひと安心です。 それから約2週間後、つぼみがあっという間に膨らんで、いよいよ待ちに待った開花を迎えます。す〜っと伸びた花茎の先にふんわりと重なる艶やかな黒い花弁、波打つ青灰色の葉の何と品のよいこと。「クールビューティー」、この言葉にピッタリの花姿です。しかも、この青灰色の葉は、ほかにはないブラックチューリップ特有の色。見れば見るほど、その美しさに魅了されます。 そう、ブラックチューリップの魅力は、花と葉の色彩のハーモニー。可愛らしさや華やかさだけではない、チューリップの秘めた一面が堪能できます。 群生美が冴える地植え 1輪だけだと何となく地味に見えてしまうブラックチューリップですが、地植えで群生させるとその魅力がさらに引き立ちます。 植栽スペースに余裕があれば30球以上球根を植えたいところですが、実際に庭に植えるのは20球ほど。それでも、20輪が一斉に咲き揃う様は、麗しく風格さえ感じます。そのうえ、春の陽光に花弁を閉じたり開いたり、まるでダンスをしているかのよう。メンデルスゾーンの「春の歌」が聞こえてきそうな優雅な群生美にうっとりします。 また、色違いのチューリップを混植すると、思いがけないカラーハーモニーを楽しめます。 例えば、渋い橙色の‘ブラウンシュガー’や赤紫色の‘シャイニーブルー’。かの有名なオランダの画家レンブラントに由来するレンブラント咲きの‘レムズフェイバリット’や‘ハッピーフィート’、‘プリティープリンセス’などです。 中でも、独特の縞模様(絞り模様)のレンブラント咲きのチューリップを混植すると、ぐっと深みのある色合いに。まさに、17世紀の古い絵画を彷彿とさせてくれます。庭でちょっとした絵画鑑賞に浸れるなんて、何とも贅沢です。 ちょっと余談になりますが、調べてみたところ、レンブラント咲きの縞模様は、もともとは「モザイクウイルス」という細菌によるものだったとか。17世紀にはその原因が分からず、他のチューリップより短命だったそうです。もしかしたら、当時の画家たちは、その希少性や神秘性に魅せられていたのかもしれませんね。現在は、交配によって品種改良が進み、健康な品種が続々と出回っていますが、どれもちょっとゾワッとするような縞模様。確かに、どこかミステリアスな魅力を感じます。 和モダンなジャーマンアイリスとの競演 遅咲きのブラックチューリップは、初夏に咲くジャーマンアイリスとの競演も愉しみの一つです。 一番古株の青紫色のジャーマンアイリスは、早咲きなのでタイミングもバッチリ! 黒色&青紫色のシックな色合いと、凛とした佇まいが大好きです。また、ジャーマンアイリスの葉の色も、ブラックチューリップと同じ青灰色。シャープな葉と波打つ葉の対比も見応えがあり、花の美しさを際立たせています。さらに、隙間を埋める多年草の新芽との緑のグラデーションも瑞々しく、目に潤いを与えてくれます。 それに、どちらも洋花ですが、何処となく落ち着いた和の風情を感じるのはわたしだけでしょうか。ひと言で言えば、「和モダン」。ブラックチューリップとジャーマンアイリスが醸し出すそんな風情が、20年という長い年月を重ねたわが家の庭と今の暮らしに程よく馴染みます。 ビオラと寄せ植え 毎年、秋に仕込むチューリップとビオラの寄せ植えは、3月下旬から4月中旬が花盛り。ひと鉢ずつ色合いを変えているので、咲き揃うとそれは華やかです。寄せ植えには、一重咲きの‘ブラックヒーロー’やアプリコット色の‘ラ・ベルエポック’など八重咲きの品種も。八重咲きは重厚感があるので、地植えよりもコンパクトにまとまる鉢植えが気に入っています。少ない数でも見栄えがよく、満開時にはシャクヤクやボタンの花と見紛うほど。株元のビオラも溢れんばかりに咲き誇り、花束のようです。 さらに、鉢植えのよさは、簡単に移動できるところ。時々、寄せ植え鉢のレイアウトを変えて、芽吹きの美しい春ならではの景色を楽しみます。 さあ、いよいよ待ちに待った3月。今年の春は、チューリップと草花が、どんなカラーハーモニーを奏でてくれるでしょうか。今からワクワクしています。
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暮らし
春を呼ぶ節分のしつらえ 〜季節の節目を手作りで〜
手作りの節分飾り 旧暦の立春を新年としていた昔、その前日の節分は、現在に例えるなら大晦日。歳神様を迎える松飾りと同じように、手作りの節分飾りを大黒柱にしつらえます。 節分飾りに欠かせない柊(ヒイラギ)は、実家の庭のもの。毎年、年末になると、母が柊のほかに松竹梅や南天、椿、熊笹など、いわゆる「縁起物」の植物を送ってくれます。じつは、それら全てを植栽したのは父です。お正月飾りも、節分飾りも、こうして手作りできるのは、そのおかげ。若い頃は、あまり興味がなかった「縁起物」の植物ですが、歳を重ねる毎に、その一つひとつに家族の健康と幸福を願う父の思いが込められているような気がして、今ではとても有難く感じています。 そして、柊といえば鰯(イワシ)。焼いた鰯の頭を柊の枝に刺すとよいそうですが、室内に飾るとなると、なんとなく見た目も匂いも気になります。そこで、乾物の小さな片口鰯を代用してみたところ、なかなかいい感じに。鰯の代わりに、お多福や鬼のお面でアレンジを加えると、ちょっと目新しい節分飾りになります。 最近は、お正月飾りもおしゃれで独創性があり、見た目も華やか。節分飾りも、こんなふうにちょっとアレンジを加えてみるのも楽しいものです。 仕上げに、邪気払いのしめ縄と紙垂(しで)を結んでヤナセ杉の大黒柱に。美しい木目に映える柊のキリッとした深緑。普段あまり目にすることのない柊ですが、こうして見ると、何と端正で美しいこと。そのうえ、堅く棘のあるこの猛々しさ。きっと、鬼(邪気)も慌てて逃げていくに違いありません。 節分の花あしらい 真冬から春にかけて凛と咲き誇り、その様子から「忍耐」や「生命力」の象徴とされ、古来より「神聖な木」として日本人に親しまれてきた椿。「柊」と「椿」は、まさに「冬」から「春」へ季節の節目に相応しい花木です。嬉しいことに、実家の庭から届く椿にも花やつぼみがたくさん。もちろん、所々虫食いや傷みはありますが、それさえも愛おしく、花のないこの時季に、節分を祝う椿の花あしらいは、何よりの楽しみでもあります。 そんな野趣溢れる椿の風情を生かせるよう、器に活けるときは、あえて一種活けの投げ入れに。自然の趣はそのままに、艶やかな葉と上品な花の美しさを堪能します。また、一輪挿しにあしらうと茶花のような風情に。その無駄のない楚々とした佇まいに心が洗われます。 さらに、水を張った浅皿に満開の花を浮かべると、一枚一枚の花びらが際立ち、まるで薔薇のような華やかさ。たった一輪でこれほど魅せられる花は、なかなかありません。 春浅い室内に、凛とした空気感と春の息吹を運んでくれる表情豊かな美しい椿。わが家の節分に欠かせない、まさに「神聖な木」です。 豆のお茶菓子でほっこりと 節分に食べると縁起のよい物といえば、真っ先に浮かぶのが恵方巻き。節分に恵方巻きを食べる文化は江戸時代末期からだそうで、そのほかにも、鬼が嫌がる鰯や厄を断ち切る蕎麦、長寿を願う大豆(福豆)など、地方によってもさまざまあるようです。わが家でも、恵方巻きは定番メニュー。さほど豪華なものではありませんが、毎年手作りしています。そして、節分のお茶菓子に欠かせないのが、椿餅とぜんざいです。 椿餅は、餡子を包んだお餅を椿の葉で挟んだ和菓子。何と、平安時代に生まれた日本最古の和菓子で源氏物語にも描かれているのだとか。葉っぱでお餅を挟む和菓子といえば、桜餅や柏餅がお馴染みですが、じつは、この椿餅から派生したものなのですね。当時は、甘葛(あまずら)という木の葛からわずかしか取れない甘味料を使って作られた、大変貴重な餅菓子だったようですが、今では、節分が近づくと和菓子屋さんに並んでいるのをよく見かけます。 以前、見よう見まねで作ってみたところ、意外と簡単で、嬉しくて毎年手作りするように。もちろん、和菓子職人さんの椿餅には及びませんが、手作りのいいところは、ちょっと不恰好でも好みの甘さや食感を加減できたり、出来たてを思う存分味わえること。さらに、餅米を蒸すほのかな甘い香りも、ストーブの上でコトコトと小豆を煮るふくよかな香りもご馳走です。そして、何より実家の庭の椿の葉で作れる有り難さ。やっぱりこれが一番です。 一枚一枚きれいに洗って並べた椿の葉は、より光沢を増し色鮮やかに。香りたつ餅米と小豆を椿の葉で挟むひと手間ひと手間に、不思議と心身が清められるような感覚を覚えます。 それにしても、平安時代の人々と同じものを作り食べられるなんて……。何だかタイムスリップしたようで嬉しくなります。 春を待ちわびる気持ちを神宿る椿の葉で挟んだ椿餅と、厄除けの小豆で作る温かいぜんざい……。その滋味深い味と香りが、新たな春へと心を誘います。
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クラフト
冬の植物で準備する「心温まるガーデンクリスマス」
スモールツリーとテーブルデコレーション 夏椿のそばに置いたテーブルは、アレンジメントを楽しむのにも便利な場所。『紅葉と実ものを愛でる花あしらい』より。 春から秋まで夏椿の木漏れ日が降り注ぐテラスのガーデンテーブルは、食事をしたりお茶を飲んだり、また時には、季節の手仕事を楽しむわが家の憩いの場所。クリスマスシーズンには、此処に手作りのスモールツリーやオーナメントを飾ってテーブルデコレーションを楽しみます。 スモールツリーは、プラスティックの受け皿に三角錐にカットした生花用のオアシスを固定し、針葉樹をツリー状に挿します。柔らかな深緑のヒムロスギ、青灰色のコニファー・ブルーバードやブルーアイス、斑入りヒバなど数種類用いると、清々しい緑のグラデーションに。 シンプルですが、これだけでも十分見栄えよく、針葉樹の凛とした美しさが堪能できます。また、小さな赤い実や木の実をあしらうと、クリスマスカラーの可愛らしい雰囲気に。ちょっと手間はかかりますが、毎年少しずつ素材を変えて作るのも楽しいものです。クリスマスのシンボルは、何といってもクリスマスツリー。初冬の空気に青々しい緑がひと際映えて、庭の景色に生気が宿ります。 そして、オーナメントは、ツリーと同じ針葉樹をあしらったキャンドルを。キャンドルホルダーの代わりに素焼きの小鉢を用います。小鉢の底にオアシスを入れキャンドルを固定したら、隙間に短くカットした針葉樹をこんもりと挿します。作り方はいたって簡単ですが、ホルダー代わりの小鉢がガーデンクリスマスにぴったり! 小鉢のサイズや、キャンドルの色や形を変えると、これまた楽しくて、つい何個も作りたくなります。 さらに、夏椿の枝に吊り下げている錆びた鋳物のランタンも、リース状に針葉樹をあしらってクリスマス仕様に。こんなふうに、ガーデンアイテムもちょっとしたアイデアで、なかなか素敵なオーナメントになります。 スモールツリーとキャンドルのオーナメントが完成したら、ガーデンテーブルの中央にツリーを飾り、その周りにキャンドルと切れ端の針葉樹や木の実を添えます。仕上げに溜まった落ち葉をパラパラと。然(さ)もないことですが、落ち葉を添えるとナチュラルで、庭の景色ともしっくり馴染むような気がします。 夕暮れ時、キャンドルを灯すと、辺りが仄かに明らんで幻想的な雰囲気に…。チラチラと優しい炎の揺らぎが、クリスマスを迎える高揚感を静かに掻き立ててくれます。 ガーデンシェッドの小窓を彩るクリスマスディスプレイ 初夏のガーデンシェッドの様子。『緑豊かなシェードガーデンづくりにおすすめの植物』より。 ガーデンシェッドの2つの小窓は、初夏にはバラとクレマチス、秋にはヘンリーヅタの紅葉が絵になる景色を醸し出してくれる気に入りの場所。殺風景になってしまうこの時季は、此処にもちょっとしたクリスマスディスプレイをします。 片方の窓辺には、フクロウの親子のオーナメントの足元にモミやコニファーを。真っ赤に染まった庭の西洋カマツカも添えると、まるで絵本の挿絵のようにほのぼのと和やかな雰囲気に。ガーデンシェッドの中も清々しい森林香に包まれ、まるで森の中にいるようなリラックスした気分になります。 そして、もう片方の小窓には、庭のローズヒップを束ねたスワッグを窓格子に。時を経た深紅のローズヒップの一粒一粒はとても小さいけれど、こうして束ねるとまるで宝石のよう。色とりどりに紅葉したヘンリーヅタと相まって、えも言われぬ美しさを放ちます。 一枚、また一枚と散りゆく紅葉と、輝きを増すローズヒップや西洋カマツカの実は、まさに、庭からのクリスマスプレゼント。その姿が愛おしくてたまりません。 青々しい針葉樹のシンプルなドア飾り ガーデンディスプレイの仕上げに、庭の門扉とガーデンシェッドの扉にスワッグを飾ります。毎年、玄関のドア飾りと同様に少しずつデザインや色味を変えて手作りしていますが、ここ数年はシンプルなグリーンのスワッグやリースがマイブーム。 香り高いオレゴンモミ、コニファー・ブルーアイスやブルーバードの青灰色の針葉樹に木の実を添えて、ベルベットのリボンをキュッと結びます。シンプルだけど光沢のあるリッチなリボンが目を引くシックなドア飾り。ウォルナット色のわが家の玄関や庭には、やっぱりこんなドア飾りが一番馴染むようです。 クリスマスのドア飾りは、針葉樹は「生命力の象徴」、リボンは「魔除け」、リースやスワッグの形は「永遠の象徴」と、それぞれに意味があり、新春に向けた「豊作」や「幸福」の祈りなのだとか。まさに、日本で言うところのしめ縄のようなものですね。文化や習慣の違いはあれど、ドア飾りに込める想いは同じ。今年も、家族の健康と幸せを。そして、庭の草花たちの健やかな成長を願いながらクリスマスを迎えたいものです。
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暮らし
【季節の花を愛でる】心和む初秋の花あしらい
秋草に似合う器選び 花あしらいに欠かせない器は、全体のバランスや雰囲気を左右する大事なもの。花材の形状や色合い、量感、さらに季節感に合ったものを選ぶようにしています。 ホトトギスやシュウメイギク、セイヨウフジバカマなど、この時季に咲く楚々とした草花には、古瀬戸や古伊万里、李朝、フランスアンティークなどの素朴で温かみのある器を。蚤の市や骨董店で出会ったこれらの古い器は、所々にわずかなソリやカケがあるものの、経年が醸し出す趣深い風合いが、春から秋へ季節を紡いだ草花の風情によく似合います。 また、手仕事の温もりを感じる作家さんの器も気に入りの一つ。作り手の拘りが滲む個性的な器に活けると、楚々とした花も何となく垢抜けた雰囲気になります。 古いものから新しいものまで、縁あって手に入れた和洋折衷の器たち。並べてみるといつの間にこんなに増えたのかしらと呆れてしまいますが、草花の秋の装いをどの器に合わせようかとイメージするだけで、何だかワクワクしてきます。 移ろう季節を愛でながら 酷暑の夏庭に、絶えず彩りを添えてくれたアサガオとヘリオプシスは、秋へとバトンを繋いでくれる頼もしい花。暑気を癒やす朝の空気に咲くアサガオも、残暑の陽光を浴びるヘリオプシスも、この時季はどこかホッとした表情をしています。そんな花々に「ありがとう」の気持ちを込めて器にあしらいます。 つるの細いアサガオは、一輪挿しの掛花入れに。口が狭いので活けやすく、しなやかなつるの動きも生かせます。いくつかつぼみの膨らんだつるを挿しておけば、毎朝、室内でもアサガオの花を愛でることができます。 ヘリオプシスは、銅葉のアメリカテマリシモツケ‘ディアボロ’と西洋カマツカのライムグリーンの実を添えて、大らかなフランスアンティークの焦げ茶色のピッチャーに。こんなふうに、夏の花も温かみのある器に銅葉や実ものとともに活けると、初秋の風情を味わうことができます。 そういえば、夏のイメージのアサガオも季語は秋。室内に飾ると暑苦しい空気が徐々に和らいで、心なしか心地よい秋風が……。 さあ、そろそろ室内も秋の模様替えの頃合いですね。 秋を告げる庭の草花で花あしらい 毎年、秋の訪れを真っ先に告げてくれるシュウメイギクは、20年近く庭を見守り続けてきた古株です。ヒメシャラとヤマボウシの木漏れ日の下、可憐な花を湛え風にゆらゆらとなびく姿は、わが家の秋の風物詩。自然と心が安らぎます。 そんなシュウメイギクは、花付きがよく花期も長いので、花あしらいに最適です。茎が真っ直ぐで挿しやすく、中輪の柔和な花はどんな花材とも好相性。丈の長さを生かして大きめの器に活けると華やかに、小花や実物を添えて籠やピッチャーに活けると愛らしい花あしらいになります。 室内の何処に飾っても違和感なく、その場の空気をパッと秋色に変えてくれるシュウメイギク。そのたおやかな佇まいにうっとりします。 9月半ばを過ぎると、夏草の陰から白花ホトトギスとセイヨウフジバカマも咲き始め、日増しに本格的な秋の装いに。色なき風と戯れる楚々とした野趣あふれる姿に心癒やされます。こんな風情の花をあしらうときは、あえて花は足さずにカラーリーフやグラスなどの葉物を添えます。そうすると一輪一輪が引き立ち、小花でも立派な主役になります。また、清楚で控えめな花だからこそ器選びも丁寧に。 それにしても、器に挿して間近で見れば見るほど、ホトトギスもセイヨウフジバカマも何と繊細で美しいのでしょう。庭で見る姿とは違う凛とした佇まいに目を奪われます。 野草で秋の暮らしに彩りを 秋の訪れは、道端や空き地に咲く野草にも感じることができます。 例えば、フサフサの穂を揺らすエノコログサやススキ。艶やかな実を付けたヘクソカズラやカラスウリ。そして、ひときわ目を引く鮮やかなヨウシュヤマゴボウ。普段は見過ごしてしまう野草たちも、まるで「わたしを見て!」と言わんばかりに、それぞれがとびきりお洒落をしています。 そんな野草たちは、恒例行事のお月見や秋分の花あしらいにとても重宝します。 お月見には、邪気を払うススキやエノコログサ、また月と人の繋がりが強くなるといわれるつる性のカラスウリを。秋分を迎える頃には、色彩豊かなヨウシュヤマゴボウを好んであしらいます。できるだけ器はシンプルに、「花は野にあるように」とイメージしながら活けるだけで、意外と様になります。 こんなふうに、身近な野草をあしらうだけで、秋の行事も日々の暮らしも彩り豊かになるなんて嬉しい限り。耳をすませば、室内から虫の音も聞こえてきそうです。 秋の恵みをあしらって 実りの秋は、食欲をそそる果実が盛りだくさん。なかでも、わたしは栗が大好物で、ちょっと手間のかかる栗ご飯や渋皮煮は、この時季のご馳走です。ほくほくしたやさしい甘味はもちろん、栗のフォルムと色合いが大好きなので、毬栗や野生のドングリも籠やお皿に入れてインテリアとしても楽しんでいます。 じつは去年、花屋さんで‘サレヤロマン’という観賞用の栗を初めて目にしました。何と、丈夫な長い枝にピンポン玉ほどの青栗が鈴なりに実っているではありませんか! まさか、器に挿して楽しめるこんな可愛らしい栗があったなんて……。思いがけない出会いに心がときめきました。 帰宅後は、早速に購入した‘サレヤロマン’を同系色の黄瀬戸の古い器に。窓辺に飾ると、穏やかな陽射しにくすみ緑が映えてとっても綺麗。まるで、おしくらまんじゅうをしているような小さな青栗の姿に、ほっこりします。 大好きな栗を器に挿して楽しめる‘サレヤロマン’。また一つ、初秋の花あしらいの楽しみが増えました。
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暮らし
【庭の夏仕事】剪定&植え替え・植物活用の手づくり・涼を呼ぶ演出……小さな庭の夏支度
剪定と植え替えで庭を整えて 咲き終わった草花の剪定や植え替えは、この時季の大切な庭仕事。湿度による蒸れが原因で草花が不調を起こしやすくなるので、小まめに手を入れます。 例えば、多年草や宿根草は、花茎と傷んだ葉をカットし、ついでに周囲の雑草も抜いて株元をスッキリさせます。 バラやクレマチスは、花が終わったシュートを約1/3の長さに切り戻します。こうすると風通しがよくなり、黒点病やうどんこ病が軽減され、四季咲きのバラとクレマチは二番花も楽しめます。 また、ヤマアジサイも花首から2〜3節下をカット。よく見ると、すでに来年の花芽が小さな顔を覗かせています。以前は、退色したアジサイの風情を好んで、しばらくそのままにしていましたが、盛夏になると茶色になり見栄えが悪く…。酷暑の庭仕事をできるだけ避けるためにも、早めに剪定するようになりました。 とはいえ、ニュアンスカラーに染まったヤマアジサイは、見れば見るほど魅力的。すぐに処分してしまうのはあまりに忍びないので、ササッと束ねてブーケにします。これがまた楽しくて、時を重ねた何ともいえない色合いに、つい手を止めて見惚れてしまいます。 根気のいる草むしりや剪定作業。こんな息抜きも欠かせません。 こざっぱりした庭は、風通しもよくなって、草花が気持ちよさそう。そんな姿を見ると、こちらまで清々しい気分になり、作業の疲れも癒やされます。 そしてもう一つ、鉢植えの植え替えも大事な作業。ビオラとチューリップの寄せ植えをしていた空き鉢に、アサガオを新たに植え込みます。アサガオは、5月上旬に苗床に種まきしたものを、本葉が出たタイミングで鉢へ移植。同時に、手作りの竹格子とオベリスクも設えます。竹を使用するのは、ちょっとしたこだわりです。 アサガオは、古くから親しまれてきた日本の夏の風物詩。竹格子に絡んだアサガオのモチーフは、絵画や日用品にもよく見かけますね。確かに、滑らかでひんやりした竹の感触とアサガオの清々しさは、見た目に涼やか。季節の様相に暮らしが寄り添う日本人ならではの感性につくづく感心します。今は、便利でおしゃれな既製の格子やオベリスクもありますが、一から麻紐で竹を組み、種から育てた幼苗を植え付ける….。そんな手作業をこなしていると、古きよき日本人らしさを感じられて、ちょっと誇らしくなります。 大暑を迎える頃には、竹格子のアサガオは、ダイニングの窓辺を彩る緑のカーテンに。オベリスクのアサガオは、花の少ない庭に涼やかな彩りを添えてくれます。今年も、そんな光景を楽しみに、今はせっせと水やりにいそしみます。 木漏れ日のテラスで恒例の手仕事を 梅雨の晴れ間には、夏椿が枝葉を広げるテラスで、恒例の梅とらっきょうを仕込む準備をします。普段はガーデンテーブルでお茶や食事を楽しむ場所ですが、この時季は、梅とらっきょうを洗って乾かしたり、下処理をする、ちょっとしたキッチン代わり。翠緑の夏椿の木漏れ日の下、期間限定のキッチンはとても快適で、気持ちよく作業できます。 一つひとつ手に取る度に、思わず深呼吸したくなるような爽やかな梅の香りも、強烈ならっきょうの匂いも、どこかホッとする季節の香りです。 そして、去年からもう一つ手仕事が増えました。それは、ドクダミチンキ作り。偶然目にしたYouTubeの動画がきっかけでした。葉と花をアルコールに漬けるだけで、虫刺されやかゆみ止めになるのだとか。 ドクダミ特有の匂いは敬遠されがちですが、亡き祖母が手作りのドクダミ茶を飲んでいたせいか、昔からその匂いも白い可憐な花も親しみがあります。庭にもカラーリーフが美しい‘五色ドクダミ’を植えているほど。野生のドクダミより繁殖力は控えめですが、やはり間引きは必要です。そんなときは、切り花にして器に活けて楽しみます。ヤマアジサイやホタルブクロ、ナデシコなど和花とも相性よく、楚々とした風情に心が和みます。 とはいえ、いつの間にかあちこちに生える野生のドクダミは、花が咲くと可愛らしいのですが、放っておくとそこら中に蔓延(はびこ)って大変なことに。そんな野生のドクダミを利用して作ったのが、ドクダミチンキです。まず、葉と花をカットして流水で洗い、テラスで半日干しを。後は、消毒した空き瓶に葉と花を分け入れ、アルコールを注ぎます。作り方も至って簡単で、ハーバリウムのような見た目もなかなか素敵です。 1週間もすれば使用可能ですが、1カ月以上置くと琥珀色になって、より効果があるのだとか。わたしは待ちきれず2週間後にスプレー瓶に移し替えて使用してみましたが、効果も使い心地も良好! 特に、首や顔周りに安心して使えるところが気に入っています。 これまでせっせと抜いていた野生のドクダミに、こんな利用価値があったなんて嬉しい限り。まさに、和漢方で「十薬」といわれる所以ですね。 出来上がったチンキは、蚊取り線香と一緒に籠に入れてスタンバイ。どちらも夏の庭仕事に欠かせない必需品です。 庭に涼を呼ぶしつらえを 夏に向けて花も緑も色褪せる庭に、みずみずしさを与えてくれるのが水生植物。中でも、ホテイアオイやフロッグピットは、浅鉢に水を張って浮かべるだけの手軽さ。お手入れも簡単なので、毎年どちらかをしつらえます。気温が上昇する夏はこまめな水換えが必要なので、持ち運びしやすい浅鉢に。根腐れ防止と水の浄化作用のあるミリオン(珪酸塩白土)を入れておくと安心です。 ホテイアオイもフロッグピットも、ひと株であっという間にモリモリに。毎年、水場を求めてやってくる小さな野鳥たちのちょっとした人気スポットになっています。 ピチャピチャと水しぶきをあげて寛(くつろ)ぐ野鳥たち。そんな愛らしい姿を早く見たいものです。 そしてもう一つ、風鈴も欠かせないアイテムです。窓辺には錫の風鈴を、夏椿の枝にもガラスの風鈴を吊します。銀色の微光を放つ錫の風鈴は、モダンでインテリア性も抜群。熱気を冷ます透き通った音色が心地よく響きます。ガラスの風鈴は、一年中吊しているクリスタルガラスのサンキャッチャーと相まってより涼しげな雰囲気に。カラカラと風になびく様にどこか郷愁を感じます。 風鈴は、夏庭の心地よいBGM。梅雨が明けると、夕暮れに聞こえてくるヒグラシの鳴き声と共に、暑気を癒やしてくれることでしょう。 夏を迎えるささやかな行事 半夏生を迎える頃には、着々と七夕の準備を始めます。わが家にとって七夕は、子どもたちが幼い頃から親しみ、大切にしてきた夏の行事。子どもたちが独立して夫婦2人の生活になった今でも、短冊に日々の感謝と願い事をしたためています。 以前は、折り紙で吹き流しや提灯、輪飾りなどさまざまなお飾りを作っていましたが、ここ数年は、折り鶴や短冊だけのシンプルな七夕飾りに。それでも年に一度、折り紙に触れながら鶴を折っていると、子供たちと過ごした七夕や楽しかった思い出が沸々と蘇り、いつの間にか忘れかけていた感情や、家族への想いが溢れてきます。慌ただしい日々の中、大切な人を想い心をリセットするひとときもよいものです。 お店で買った1本の笹に、折り鶴の短冊を木綿の糸で結んだら、七夕飾りの完成。ガラスの器に挿して和室に飾ります。 色とりどりの折り鶴は、まるで花のよう。和室の窓から見えるヤマユリも、もうじき濃厚な香りを放って夏の訪れを告げることでしょう。
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おすすめ植物(その他)
【初夏の庭】緑豊かなシェードガーデンづくりにおすすめの植物
豊かな葉物で瑞々しく 日陰や半日陰は、何となく暗くてジメジメしたイメージですが、直射日光を好まない植物たちにとっては天国。なかでも、カラーリーフなどの葉物は生き生きと育ちます。 その代表格がホスタ。日本原産のギボウシが欧米で品種改良されたものです。斑入りや青灰系、黄緑系など、色彩や模様のバリエーションに富み、ホスタだけでもシェードガーデンができると言っても過言ではないほど数多くの品種があります。しかも、もともとは日本原産なので、日本の風土にもよく馴染みます。 左/青灰系のホスタ‘エルニーニョ’。右/黄緑系のホスタ‘ゴールデンティアラ’。 もちろん、わが家の北東のシェードガーデンにも5種類のホスタを植えています。濃い緑系の‘フランシー’、青灰系の‘ハルション’と‘エルニーニョ’。黄緑系の小葉が愛らしい‘ゴールデンティアラ’。名前を忘れてしまいましたが、白い斑入りのホスタは鉢植えに。 なるべく色味が重ならないようにセレクトしているので、緑のグラデーションだけでも十分見栄えします。放射状にふわっと開く葉の形状も優雅で、夏には、ユリ科らしい薄紫色の花をいくつも立ち上げ、花のない日陰の庭に涼しげな彩りを添えてくれます。まさに、シェードガーデンの主役です。 壺の左下付近に茂る丸い葉がツワブキ。その右、写真中央でふわふわと小さな葉を四方に伸ばすのがクジャクシダ。右のフェンス沿いに生える青灰色の葉がコンテリクラマゴケ。 そんなホスタの脇役が、ツワブキやシダ類、ヒューケラです。ツワブキは、白い斑入りの‘ウキグモニシキ’。清涼感のある丸葉が美しい品種です。常緑で一年中みずみずしい葉色を保ってくれるのも嬉しいところ。昔から日本人に親しまれてきたツワブキは、落ち着いた和の風情がありシェードガーデンに似合いますね。 ニシキシダ‘ゴースト’ シダ類は、枝分かれした葉の形状が孔雀の尾羽のように華やかなクジャクシダと、褐色の葉軸とシルバーリーフのコントラストが目を引く ニシキシダ‘ゴースト’。 そして、青灰色の葉が魅力的なコンテリクラマゴケの3品種。それぞれが個性的ですが、なかでもコンテリクラマゴケは、シダ類としては珍しい這性で、極日陰のほうが青灰色が冴えて光沢感が増し、数少ない日陰のグラウンドカバーに最適です。 また、這性を生かして試しにハンギング仕立てにしてみたところ、青白い光を纏って枝垂れる様子があまりに神秘的で見惚れてしまいました。日陰のハンギングとしても活用できるなんて、何とも嬉しい限りです。 鉢植えにしたヒューケラ‘トパーズ・ジャズ’。 そして、ヒューケラ(ツボサンゴ)は、ハニーゴールドからオリーブグリーンに変化する‘トパーズ・ジャズ’。明るい葉色とレモンイエローの小花が、シェードガーデンに華やかさを添えてくれる大好きな品種です。ヒューケラは、なぜか地植えにすると消えてしまうので鉢植えで育てていますが、気軽にレイアウトを変えて楽しめるので意外と重宝しています。 バリエーション豊かな葉物は、丈夫で手間いらず。その組み合わせを考える楽しさと、ほぼ一年を通して変わらない瑞々しさは、花にも劣らない魅力があります。 特に、強い陽射しが照りつける夏は、目にも涼しく癒やされます。 つる性植物で壁面に緑を シェードガーデンをできるだけ明るく見せるために、カラーリーフのつる性植物も欠かせない一つ。わが家では、ブドウ科のヨーロッパブドウ‘プルプレア’と黄金ノブドウを庭の入り口付近に、ヘンリーヅタとアメリカヅタをガーデンシェッドの壁面に誘引しています。 壁面のアクセントとして、一年草のロフォスをハンギングに。暑さや水切れに強く、ハンギングに最適です。 ヨーロッパブドウ‘プルプレア’は、シルバーリーフがクールでお洒落。黄金ノブドウは、名前の通り輝くような黄金葉が魅力です。この2種類を庭の入り口付近の木製フェンスに誘引し、その足元にホスタとヒューケラの鉢植えを置いています。扉を開けると目に飛び込んでくるカラーリーフのハーモニーが、わが家のウェルカムリーフ。メインガーデンへと静かに誘います。 そして、ヘンリーヅタとアメリカヅタは、どちらも端正な葉の造形が魅力です。ひと株でガーデンシェッドの壁面を覆ってしまうほど生育旺盛で、植えてから2年ほどで殺風景な壁面に緑の装飾を施してくれました。特にヘンリーヅタが絡まるガーデンシェッドの窓辺が一変。 外見はもちろんのこと、内見の仄暗さに浮かぶヘンリーヅタは、まるで絵画のようです。春の褐色の葉から秋の紅葉まで、さまざまな表情を見せてくれるので、季節ごとに窓辺を飾る楽しみもできました。 そんな「絵になる景色」が、今ではシェードガーデンの見所の一つに。つる性植物のデザイン力、やっぱり素晴らしいですね! 白い花が誘う庭の入り口 ジギタリスとシノグロッサムが咲く夏のシェードガーデン。 葉物の緑が中心のシェードガーデンですが、半日陰で育つ白い花を差し色に植えています。なぜなら、日向より白色が際立ち、より一層緑が瑞々しく見えるから。 春咲くバイカオウレン(左)とユキザサ。 春はバイカオウレンとユキザサの山野草。初夏はジギタリスとシノグロッサム、秋はホトトギスが彩ります。緑に包まれて咲く白い花々は、とても静かな佇まい。目にするだけで心が安らぎます。 そして、庭の入り口の扉には、初夏になるとつるバラとスタージャスミン、クレマチスの白い花が咲き乱れ、シェードガーデンが一気に華やぎます。つるバラは一重咲きの‘キフツゲート’、クレマチスはフロリダ系の‘白万重’です。 一重咲きのつるバラ‘キフツゲート’。 ‘キフツゲート’は、とても樹勢が強く暴れん坊。冬には強剪定して何とか樹勢を抑えていますが、毎年、可憐な花をたくさん咲かせてくれます。 白い星形の極小花が降り注ぐように咲くスタージャスミンは、心が洗われるような愛らしさ。満開時は、息を呑む美しさに圧倒されます。更に、艶のある常緑の葉も、一年中緑を保ってくれるありがたい存在です。 上から、スタージャスミン、‘キフツゲート’、‘白万重’が混ざり咲く格子戸。 クレマチス ‘白万重’は、ライムグリーンとクリーム色の八重咲きが品よく、どことなく和の風情も。咲き始めから終わりまで、さまざまな表情を見せてくれる大好きなクレマチスです。クレマチスもつるバラも、日当たりを好む植物ですが、幸いにもこの2種類は、半日陰のこの場所を気に入ってくれたようです。 低木のチンシバイ(ニワナナカマド)。 さらに、スタージャスミンの側に、低木のチンシバイもふわりと寄り添います。数え切れないほどの白梅に似た小花、真珠のようなつぼみの何と清楚で可愛らしいこと。明るい黄緑色の切り込み葉と相まって、清々しい景色を醸し出しています。 シェードガーデンの白い花々の競演は、これからが見頃。甘い香りのつるバラ‘キフツゲート’とスタージャスミンが、とっておきのブレンド香を振りまいて庭へと誘います。
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一年草
春一番を花で楽しもう! ビオラとスミレの花あそび
春色のビオラのコンポート 3月になると、暖かな陽射しを浴びて可憐な花を溢れんばかりに咲かせる鉢植えのビオラたち。その姿は、まるで群舞する蝶々のように華やかです。程よく伸びた花茎に青々と繁った葉も美しく、春のビオラは切り花にも最適。さまざまな器にあしらって春一番の彩りを楽しみます。 器は、浅鉢やコンポート、リキュールグラスやミルクピッチャーなど、食器棚にあるものを用います。例えば、直径20〜25cmの浅鉢やコンポートは、縁に沿って挿すとリースのような花あしらいになります。やや大きめのフリルビオラをあしらうだけでも十分華やかですが、クリスマスローズや葉物をプラスすると色彩が豊かになります。葉ものは、ヒューケラやワイルドストロベリー、ゲラニウムなど、小ぶりで形の可愛らしいものを。 また、この時季、道端や空き地でよく見かけるカラスノエンドウもお気に入りです。ご存じの通り、カラスノエンドウはいわゆる雑草ですが、スイートピーに似たピンクの小花も交互に並んだ小葉も、クルンと巻いたひげも何とも愛らしく、目にするとつい手にとってしまいます。 そんなカラスノエンドウは、意外にもビオラを引き立てる名脇役。しなやかな花茎をあえて無造作にあしらうと、ナチュラルで生き生きした印象になります。極小ながら鮮やかなピンクの花もいいアクセントに。とても雑草とは思えない存在感です。 うららかな春の野辺を思わせるこんな花あしらいは、ダイニングテーブルに飾るのが最適。旬の食材やお茶菓子と合わせれば、五感が喜ぶ季節感に溢れた食卓に。家族や親しい友人と心躍るひとときを味わえます。 また、つる性植物をリース状に丸めて添えても素敵です。以前、友人の庭から分けてもらった種子付きの冬咲きクレマチスをひと枝添えてみたところ、ふわふわの綿毛を纏ったクレマチスとビロードのような濃紫色のビオラの、儚なくも凛とした美しさに見惚れました。 冬を彩ったクレマチスと、春への希望を託されたビオラ…。器の中で季節の移ろいを感じられる趣のある花あしらいができるのも、庭の草花だからこそですね。 小花を束ねたブーケのように グラスに脚と土台が付いたゴブレットやリキュールグラスなども、ビオラの花丈に程よく使い勝手のよい器。ガラス製や陶器製、素材を変えて楽しみます。 普通のグラスよりちょっとリッチなデザインなので、フリル咲きのビオラを1輪あしらうだけで様になるのも嬉しいところ。小ぶりのビオラは、数輪まとめると可憐さが際立ちます。 さらに、早咲きのスイセンやバイモユリ、ムスカリなどの球根花を添えると、春一番の彩りを束ねた小さなブーケのように。初々しい色合いとほのかな香りに癒やされます。 片手で容易に持ち運びできるので、チェストやサイドテーブル、また、キッチンカウンターなど、その日の気分で飾る場所を変えて楽しみます。たったそれだけで、部屋の空気が変わり、居心地がよくなります。 暮らしの其処此処で、ふと目にした先にある庭の花は、わたしの心の癒やし。特に、寒い冬を耐えて春一番に咲く花たちは、ポジティブな力を与えてくれます。 野趣あふれるスミレの花あしらい この時季、薄紫色の絨緞のように庭を彩るタチツボスミレ。もともとこの庭に自生していた山野草ですが、いつの間にか増えて、今では待ち遠しい春の風物詩です。 ビオラより花も葉っぱも小さく、花茎も極細で短いので、一株を根っこごと抜いて小鉢に植えたり、根洗いして浅鉢にあしらいます。そうすると、次々とつぼみも開花して自然な姿を長く堪能できます。 また、タチツボスミレと同じ山野草のユキノシタを添えると、野趣あふれる風情に。「春は足元から…」。そんな景色が眼に浮かびます。それにしても、地味な姿からか、つい見過ごしてしまうユキノシタも、こうして見ると縞模様の斑入りの丸葉が何と愛らしいこと。楚々としたスミレによくお似合いです。 心躍るスミレの砂糖菓子 一輪一輪、卵白をつけて砂糖を纏わせます。 数え切れないほど花をつけるタチツボスミレは、花をカットして砂糖漬けにするのも楽しみの一つ。スミレの砂糖漬けといえば、ウィーンのDEMELやパリのLADUREEが有名ですが、さすがにお値段もなかなかのもの。それならばと、数年前にタチツボスミレで手作りしてみたところ、意外と簡単にできました。見栄えは劣りますが、一つひとつ丁寧に砂糖を纏わせる手作業は、何だかお化粧をしているような気分。庭のスミレが、次第にお洒落なお菓子に変身する姿を目にするだけでワクワクします。 さらにもう一つ、昨春は、スミレの砂糖漬けを使って琥珀糖を作ってみました。琥珀糖は、寒天に砂糖を加え乾燥させて固めた和菓子。一説によると、何と江戸時代に誕生したお菓子だそうですが、ここ数年、カラフルな見た目の美しさから「食べる宝石」といわれ、女子に大人気ですね。老舗の和菓子屋さんやインスタグラムでも度々見かけるようになりました。 ずっと気になっていたので作り方を調べてみたところ、材料も手順もシンプルなことが分かり、早速作ってみることに。そこでふと、カラフルな色の代わりにスミレの砂糖漬けをトッピングすることを思いつきました。出来上がった琥珀糖は、ガラスのような透明感にスミレの砂糖漬けがキラキラ輝いて、とても綺麗。薄紫色のスミレの色と相まって、思いのほか品よく仕上がりました。 外側はシャリッと、噛むとプルルンとした独特な食感が味わえる琥珀糖。甘さも控えめで癖のない味は、緑茶やほうじ茶などの日本茶や紅茶にもぴったりです。 今年の春も、こんなスミレの琥珀糖をたくさん手作りして、僅かな乙女心をくすぐるような華やいだひとときを過ごせたらと思っています。
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おすすめ植物(その他)
マストバイ‘おしゃれプランツ’丈夫で、よく咲く、小さな庭のベスト9
植えれば必ず咲く球根花、早春の妖精「スノードロップ」 スノードロップ/球根/開花期2〜3月 木枯茶色の土の中から、真っ先に顔を出すスノードロップの和名は待雪草。下萌えの頃、いち早く春を告げるスプリング・エフェメラルの一つです。その名の通り、雪のように純白で、草丈10cm足らず。花径は1〜1.5cmと極小の花です。 落葉樹の足元で朝露をまとった花弁をふっくらと閉じて咲いているスノードロップは、人差し指で触れると、今にも零れ落ちそうな雪の雫のようです。 春を心から待ちわびるガーデナーにとって、新たな季節の歓びと希望を与えてくれる特別な花。晩秋に植えると翌年の早春に出会えます。まだ植えるのは間に合います! 植えっぱなしでOKの麗しの「ジャーマンアイリス」 ジャーマンアイリス/球根/開花期5〜6月 凛とした立ち姿、波打つ大輪の花びら、芳しい香り……アイリスの仲間の中で最も華やかで優雅な花が咲くジャーマンアイリス。別名「虹の花」ともいわれる通り、花弁がバイカラーのものや覆輪になるものなど、バリエーションに富み多彩です。 わが家では、シックな紫系とピンク系の花色をセレクトして、山モミジの株元に。和の雰囲気にもしっくり馴染みます。 また、青味がかった真っ直ぐ伸びる葉も清々しく、花の前後も観賞価値が高い。多湿を避けて植えるだけで、植えっぱなしでほぼ無肥料という管理のしやすさも嬉しい特徴です。 こぼれ種でよく増える「オダマキ‘ピンクランタン’」 オダマキ‘ピンクランタン’/宿根草/開花期5〜6月 淡いピンク色の花びらと黄色いシベが優しげで温かみを感じる花姿。山野草の風鈴オダマキのような楚々とした風情もあり、春風にチラチラ揺れる様子が何とも可憐で癒やされます。同じ時期に咲く、背景のブルーベルとも調和します。 草丈40cm前後で細く伸びる茎の先に俯くように花が咲き、繊細な見かけによらず生育旺盛。耐寒性もあり、こぼれ種でよく増えるのも魅力です。 和の庭にも似合う魅惑の花色「つるバラ‘レイニー・ブルー’」 つるバラ‘レイニー・ブルー’/落葉樹/開花期5〜6月 数あるバラの中でもこのバラを選んだ一番の魅力は、何といってもロゼット咲きの灰色を帯びた薄紫の花色。そのしっとりと品のよい花姿に、どことなく和の風情を感じます。 わが家では、和室から見える場所に、野アヤメや山アジサイ、小菊など、和花と合わせて植栽しています。また、シュラブ系の小中輪房咲きなので、狭い場所に植栽できるのも嬉しいところです。‘レイニー・ブルー’と一緒に絡み咲くのはクレマチス‘ビエネッタ’。白い花びらと花心のコントラストが美しく調和します。 驚異的な開花期間を誇る「クレマチス‘白万重’」 クレマチス‘白万重’/宿根草/開花期5〜11月 端正なつぼみから、幾重にも花弁を重ね、淡黄緑色から白色へ変色しながら咲き進むクレマチス‘白万重(しろまんえ)’。表情豊かな優美な花は、花もちがよいうえ花期も長く、秋まで咲きます。 左は開花間もない頃。右は咲き進んだ頃。花形が変化する過程も楽しめます。 花の終盤には、ポンポン菊のような花姿で目を楽しませてくれます。また、半日陰でも育ち、花つきも良好。わが家では、北東の庭の入り口に植栽しています。新旧両枝咲きのフロリダ大輪系なので、冬に葉が枯れてきたら株全体の半分以下に切り詰めて、来年に向けてリセットさせます。 半日陰もOK! 「クレマチス‘カイウ’」 クレマチス‘カイウ’/宿根草/開花期5〜10月 毎年新しいつるが伸び出る性質の新枝咲きのクレマチス‘カイウ’。壺形やベル咲きの花が多い、ヴィオルナ系のグループの中で唯一、白花が咲く種類です。小指の先ほどしかない小さな小さな小輪のベル形の花は、先端がクルンと反り返るところが何とも愛らしく、花茎が細くて長いので、フワフワと浮遊しているように見えます。 また、肉厚の花は、花もちがよくて花期が長いのも嬉しいところ。見かけによらず生育旺盛で、半日陰でも育つ強健さも魅力です。 つるを無造作に活けても絵になるクレマチス‘カイウ’。 梅雨時期に庭が華やぐ「シャンデリアリリー」 左からピンクフレーバー、レッドベルベット、ピンクジャイアント。 シャンデリアリリー/球根/開花期6〜7月 カノコユリの仲間のシャンデリアリリーは、すらりと伸びた花茎に下向きの反り返った花弁の花が次々と咲き、まさにシャンデリアリリーの名に相応しいゴージャスな花姿。わが家には、ピンクフレーバー、レッドベルベット、ピンクジャイアントの3種類を植えっぱなしにしていて、一輪、また一輪と色鮮やかな花が開花する度に、庭が華やぎます。 また、梅雨の時期に開花するので、ジメジメした空気を一掃し、心まで晴れやかな気分にさせてくれます。草丈80cm以上にすらりと伸び上がるので、小さな庭で立体感のある景色になるのもメリット。年を重ねるごとに、この花の華やかさに魅了されています。 粋な模様花「アサガオ‘江戸風情’」 アサガオ‘江戸風情’/一年草/開花期7〜11月 アサガオにはさまざまな花色がありますが、この白と濃紫色の絞り模様が粋な朝顔‘江戸風情’に出会ってから、わが家の夏に欠かせない花になりました。一つとして同じ模様がなく、毎朝目にする一輪一輪が一期一会。半日花の儚さもまた、この花の魅力です。 さらに、窓辺に設えると、ハート形の葉が愛らしいグリーンカーテンとなり、夏の強い陽射しを遮ってくれます。その光景はわが家の夏の風物詩に。また、花後に実る種子を採ることで、来年、再来年と花の命を繋いでいく喜びも実感できます。 よく増える金平糖のような愛らしい花「清澄シラヤマギク」 清澄シラヤマギク/多年草/開花期10〜11月 細く分岐した褐色の花茎と薄紫色の小花が特徴の清澄シラヤマギク。満開時は、まるで金平糖を散りばめたよう。その愛らしさとフワフワと風に揺れる野趣溢れる風情に癒やされます。また、地下茎でよく増えるので、株分けして移植する楽しみもあります。菊の中で一番好きな品種です。 西洋カマツカの下で木漏れ日を浴びる程度の日差しの中、草丈70〜80cmほどになりますが、自立してくれるので、あえて切り戻しはせず自然樹形で育てています。清澄シラヤマギクと一緒に咲く黄金色の花は、アワコガネギクです。花径1cmほどの極小花で、小さな庭で咲かせても圧迫感がなく、毎年咲いてくれる長い付き合いになる植物です。