コロナ禍以降、我が家の快適度を追求する人が増えています。庭はリラックスできる空間として、また演出次第でリゾート感あふれる非日常的な空間として、今まで以上に住まいに欠かせない要素となっています。今回は自然を借景にした、まるで旅館か料亭のような和モダンの家と庭をご紹介します。
目次
建築と植栽が一体となったファサードガーデン
まるで旅館!? 四季折々に景色が移り変わる絵画的な玄関
住宅の外観は縦板張りの平家造りで、建物にぴったりの和の雰囲気のファサードガーデンが迎えてくれました。ご覧ください。まるで料亭か旅館のようだと思いませんか? でも、ここは個人邸なのです。敷地が公道に並行しており、一枚石の橋を渡って家に入るエントランスの演出から、すでに我が家を特別な空間にしています。
エントランスポーチの左脇には、山から採ってきたかのような、株立ちのナツハゼが紅葉していました。ナツハゼは、初夏から少しずつ紅葉が始まるツツジ科の落葉樹で、秋には黒褐色の丸い実がなり、四季折々の姿で景色に変化を与えてくれます。成長も遅いので育てやすく、和風の家になじむ樹木です。下草はシダ類やツワブキ、シモツケなど和のイメージですが、ところどころに配置されたカレックスがモダンな雰囲気もプラスしています。
小川のせせらぎで癒やされる玄関
植栽帯の真ん中には小川が流れていました。せせらぎが心地よく響き、家に入る前から癒やされます。循環式ポンプで流れをつくってありますが、水を受ける桝(ます)の防水が大変だったといいます。水を用いた自然な環境の造作は、素晴らしい効果をもたらしますが、防水や循環などのシステムをしっかり造らないと、水がよどんでボウフラがわいたり、住宅を傷める原因にもなりかねないので職人の腕が必要ですね。
一枚石の橋を渡ったエントランスポーチは、屋根つきで暗くなりがちなところを、コンクリートの洗い出しの床と白壁で明るく仕上げていました。白壁は手前の木々を美しく見せるキャンバスの役目も果たしています。床と壁の境の入隅(いりずみ)部分はベージュの砂利のスリットを設け、空間に奥行きを感じさせています。階段は踏み面を一枚板に思わせるようなデザインで、シンプルでおしゃれな和モダンイメージでまとめていました。
敷地の端に配した自然風ガーデンの効果
敷地の両端にも自然風のガーデンが配置されています。右端のガーデンはマホニアコンフューサの手前に、ビョウヤナギの黄色い花が咲き、明るくきれいですね。
左端の和風ガーデンはバークチップを敷き詰め、高木のアオハダをシンボルツリーにして、雑木風の坪庭になっています。その足元の景石の間にはシダ類に交じって、ディコンドラの葉が可愛らしく顔を出していました。たまたま、風にのってタネが飛んできたようです。
ディコンドラは、タネを低木の足元や草花の間に播いておくと葉が茂り、雑草を抑えるグラウンドカバーとしても活躍してくれます。落葉樹の多い庭では、冬場に落葉して景色が寂しくなっても、その足元を緑で覆ってくれますが、寒さに弱いという短所もあります。
これらの敷地の両端に設けられたガーデンは、建物やエクステリアのハードな印象を和らげる効果があります。このガーデンの脇には扉があり、リビング側の庭に出られるのですが、これは後ほどご紹介します。
北側に主庭を設けたワケとは
広大な田園風景を借景にした開放感あふれるリビング
玄関からホールを通り抜けると、広いリビングの窓越しに田園風景が広がっていました。窓は全開放できるようになっており、電柱や電線も見えず、内と外とが一体となるようなステキな眺望です!
正面のエノキは、住宅を建てる前にクレーンで吊って先に植栽。エノキはシェードの代わりになり、木陰を作ってくれます。風にそよぐ葉のこすれ合う音を聞きながら、ゆったりくつろげるバルコニーです。枝には巣箱が設置されているので、小鳥たちのさえずりも聞こえるようになるでしょう。
敷地の地形を生かした家と庭
平家なのに、2階からのようなこの広々とした田園の眺望は、敷地の地形を生かしたデザインによるものです。この敷地は南側のエントランスから北側の庭に向かって下る傾斜地で、バルコニーは宙に浮いているようなデザインになっています。施主は、このあまりにも広大な景色が気に入って、北側を庭にと希望しました。施主が気に入ったその景色を最大限に生かし、植栽はとてもシンプルです。
西側にはソメイヨシノを植栽。春には室内の窓越しに、花見も楽しめます。夜の花見ができるよう、地面にはスポットライトが設置してあります。
室内にも自然素材を取り入れ屋外風景と一体感を
花崗岩を使った室内デザイン
リビングの壁の一部には、ロッキーマウンテングラニッド・レッジストーンという自然石が使われていました。この石はヨーロッパ産の花崗岩で、冷害にも非常に強い石です。グレー基調の中にオフホワイトや茶色っぽい石をまばらに混ぜ合わせ、屋外のエクステリアデザインに用いられる小端積(こばづみ)のイメージで積み上げています。
その石張り壁の下部は、エタノール暖炉です。この暖炉はバイオエタノールを燃料とし、煙やすすを出しません。また、煙突や換気設備も必要ないので、掃除も容易です。
田園風景を眺めながらの至福のバスタイム
ガーデンファニチャーの奥に見えるガラス窓の空間は、バスルームです。人に見られる心配がないので、全体をガラス張りにし、自然の風景を堪能できるようになっています。リゾート地の旅館のような雰囲気です。
このように、屋外も室内もともに、大自然にフィットするデザインで統一され、なんとも癒やされる環境でした。
自然を取り入れた暮らしでストレスフリーに
なんでもモノがそろう便利な時代なのに、社会生活はさまざまな要因でストレスがたまりがちです。そんなとき、人は野山に出かけ、リラックスして、自分を取り戻したりします。
この家の見学を通し、自然は本来人間が生きるうえで一番必要なものだと改めて感じました。自然の中に身をおくことは、人間にとって至福のひとときです。
モノがそろっている都会も便利ですが、現代は地方でも仕事ができる時代になってきています。癒やしを求めて遠くへ出かけなくても、暮らしの場を自然と一体になる空間にすれば、日常が至福のときになります。暮らしの場の選択について、考えてみてはいかがでしょうか?
資料提供:
株式会社緑と暮らしの庭設計 ブランド名:sora+niwa+(そらにわ)
お庭のデザイン:佐藤 敦
Credit
写真&文 / 松下高弘 - エムデザインファクトリー主宰 -
まつした・たかひろ/長野県飯田市生まれ。元東京デザイン専門学校講師。株式会社タカショー発行の『エクステリア&ガーデンテキストブック』監修。ガーデンセラピーコーディネーター1級所持。建築・エクステリアの企画事務所「エムデザインファクトリー」を主宰し、大手ハウスメーカーやエクステリア業のセミナー企画、講師を行う。
2007年出版の『エクステリアの色とデザイン(グリーン情報)』の改訂版として、新刊『住宅+エクステリア&ガーデンの色とデザイン』が大好評販売中! 色の知識、住宅デザイン様式に合わせたエクステリア&ガーデンデザインとカラーコーディネート、プレゼンシートのレイアウト案など、多岐に渡る充実の内容! 書籍詳細はグリーン情報ホームページから。
著書
『住宅エクステリアのパース・スケッチ・イラストが上達する本』彰国社
『気持ちをつかむ住宅インテリアパース・スケッチ力でプレゼンに差をつける』彰国社
『住宅+エクステリア&ガーデンの色とデザイン』グリーン情報 など他多数
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