4月の庭や花屋の店先で目を引くアイリス。その魅力は何といっても、天に向かって真っ直ぐに伸びる茎のラインです。今回、フラワー&フォトスタイリストの海野美規さんがご紹介するのは、その「垂直の美」を最大限に引き出すために、円柱形のガラスベースを使ったアレンジメント。小枝を一本通すだけの裏技で、いつものガラスベースが特別なステージに変わります。
春の光にとてもよく映える、アイリスの「青」と「黄」。枝を透かして見せることで空間の余白も楽しむ、自然の力を借りた花留めで、今だけの瑞々しい景色を楽しんでみませんか?
目次
ベースの「口径」で変わる、花の数と空間の楽しみ方

花を飾るとき、まず迷うのがベース(花器)選びではないでしょうか。じつは、ベースの口径(口の広さ)によって、必要な花の量や、表現できる雰囲気がガラリと変わります。
細身のガラスベース

一輪挿しやスリムなシリンダータイプは、花を数本挿すだけで、口元が自然に花を支えてくれます。特別な花留めも要らず、少ない本数でスマートに決まるのが魅力。忙しい日常の中で、一輪の花をスッと飾るには最高のパートナーです。
口径の広いベース

一方で、「口径の広いベース」は、たくさんの花や茎の太い花を入れられ、また中に手を入れて洗えるメンテナンスしやすさも魅力。その反面、そのまま生けようとすると花が外側に広がってしまい、中心を埋めるために大量の花材が必要になりますね。「こんなにたくさんの花は用意できない……」と、つい敬遠してしまいがちですが、ここで活躍するのが「枝物を使った花留め」です。

小枝の「つっぱり」でナチュラルな風景に

小枝の花留めは、花を支えるためだけの道具としてではなく、ベースの中の「風景」の一部にもなります。
ガラスベースの中で複雑に交差する枝のラインは、まるで自然の川底を覗いているかのよう。隠すべき存在だった花留めが、アレンジメントの奥行きを作る素敵な演出へと変わります。
小枝を内側に突っ張らせてしっかりとした支点を作ることで、口の広いベースでも、少ない花数で思い通りの場所に花を固定できます。
花で口元をぎっしり塞ぐのではなく、花留めの枝を透かして見せることで、水と空気の「余白」も生まれます。
「小枝の花留め」テクニックのポイント

ベースの内径に合わせ、少し長めにカットした小枝をベースの内側で「一文字」や「十文字」になるよう突っ張らせます。これが花留めとなり、重なり合う枝の間から花をスッと立たせることができます。
一文字留めは枝を1本、十文字留めは枝を2本花器の内側に渡す方法です。

花留めとなる枝を切る時は、花器の内径ピッタリに合わせるのではなく、5mm程度長めにカットするのがポイント。花器の内径と同じ長さにカットすると、留まらずに落ちてしまいます。枝は暫く水に浸してあげると、柔軟性が出て留めやすくなります。
花留めにセットする際は、枝を斜めにして花器に入れ、場所を決めてから、下になっている端をベースの側面を滑らせるようにして水平になるまで上に持ち上げます。十文字留めの場合はまず先に上になる枝をセットしたあと、下になる枝をセットするとよいでしょう。
アレンジに使った花

- アイリス(イエロー、ブルー)
対照的な2色を混ぜることで、単調にならずリズムが生まれます。 - キンバデマリ(アメリカテマリシモツケ‘ルテウス’)
瑞々しい葉と、枝の色、模様がナチュラル感満点です。 - ラークスパー
アイリスの垂直ラインに寄り添い、高さを出しながら優雅な動きをプラス。 - アリウム・コワニー
小さな白い花が集まった星のような姿が、直線的な構成の中に愛らしい抜け感を作ります。
アレンジの手順
1. 太めの小枝を選び、長さを合わせてカットして、ベースの内側にしっかりと固定します。

2. キンバデマリの枝を入れて、全体の輪郭を決めます。高さは、器と同じくらいに。

3. アイリスを垂直にいけます。キンバデマリの小枝が支えとなり、アイリスがしっかり自立するようになります。

4. ラークスパーを入れます。

5. アリウム・コワニーを、アイリスの合間から顔を出すように配置します。


バランスを整えて出来上がり。

アイリス・アヤメ・ショウブ・カキツバタの見分け方

「いずれアヤメかカキツバタ」という言葉がある通り、一見そっくりなこの花たち。どれがどれだか分かりにくいですよね。
私は、育つ場所で見分けるようにしています。
- ダッチアイリス、ジャーマンアイリス、アヤメは、乾いた地、水はけのよい花壇や畑
- カキツバタは、水の中、池や沼のふちなど水気が多い場所
- ハナショウブは、湿った地や半分水に浸かっているような湿地。乾地でも育つ
よく見られる場所は、種類を見分ける際の手がかりになります。
はっきりとした見分けのポイントは、花弁の付け根部分の模様。細長い黄色の模様があればハナショウブ、細長い白色の模様があればカキツバタ、そして大きな網目模様があればアヤメの花。ダッチアイリスは花弁の中央に大きめの黄色の斑が入ります。ジャーマンアイリスは豪華な花姿で花色も模様も非常に豊富にあり、花びらの付け根に毛(突起)があるのが特徴です。

今回アレンジでも使ったダッチアイリスは、地植えにしても育てやすく、毎年変わらぬ姿を見せてくれる頼もしい存在です。
驚くのはそのサービス精神! 1つの花が咲き終わった後、同じ場所から2番目のつぼみが顔を出し、再び美しい花を咲かせてくれるのです。これには、なんだかとても得をしたような、嬉しい気持ちにさせられます。
5月の節句に欠かせない「もう一つのショウブ」

端午の節句(5月5日)に無病息災を願って入る「菖蒲湯」。この時に使われるショウブは、アイリスやアヤメのような美しい花を咲かせる植物とは違います。
私たちがアレンジメントで楽しむのは花の美しいアヤメ科の(ダッチ/ジャーマン)アイリスやハナショウブ、アヤメなど。菖蒲湯に使われるのは、ショウブ科の「ショウブ」です。

ショウブの花はというと、とても地味で、ガマの穂のような小さな目立たない花(肉穂花序)を咲かせます。
葉は、揉むとスーッとした独特の強い芳香があります。日本ではこの強い香りに邪気を払う力があると信じられてきました。5月は季節の変わり目で病気にかかりやすい時期。そのため、香りの強いショウブを屋根に葺いたり、お酒に浸したり、お風呂に入れたりして、厄払いをしたということです。
武士の時代になると、「ショウブ」という響きが「尚武(武道を重んじること)」や「勝負」に通じるとして、男の子の成長を祝う縁起物として定着しました。

花の美しさはアヤメ科、香りはショウブ科。同じ名前を持ちながら役割が違うなんて、植物の世界は面白いですね。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 海野美規 - フラワー&フォトスタイリスト -

うんの・みき/フラワー&フォトスタイリスト。ハーバルセラピスト。愛犬あんとの暮らしを通じて、動物のための自然療法を学ぶ。パリで『エコール・フランセーズ・ドゥ・デコラシオン・フローラル』に入門、ディプロムを取得。『アトリエ・サンク』の山本由美氏、『From Nature』の神田隆氏に師事。『草月流』師範。フランス、ハンガリー、シンガポールでの暮らしを経て、現在日本でパリスタイル・フラワーアレンジメントの教室『Petit Salon MILOU(プチ・サロン・ミロウ)』を主宰。
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