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【夏の癒やし旅】フランスの美しい石壁に囲まれた「五感の庭」で多様な1,500種の植物に触れる

【夏の癒やし旅】フランスの美しい石壁に囲まれた「五感の庭」で多様な1,500種の植物に触れる

レマン湖畔に佇むフランスの「最も美しい村」イヴォワール。その古い石壁に囲まれた中心部に、知る人ぞ知る「五感の庭」があります。
中世の菜園跡を再生したこの美しい迷宮では、1,500種以上の植物を「見て、触れて、香りを嗅ぎ、味わい、耳を澄ます」という、感覚を研ぎ澄ます新感覚の散策が楽しめます。迷路のような小径を歩み進めるうちに、不思議と心が落ち着き、生命力が静かに蘇っていく――そんな究極の癒やしに満ちた美しき庭園散策を、フランス在住で庭園文化研究家の遠藤浩子さんがご案内します。

中世へタイムスリップ。レマン湖畔の美しい村から

 レマン湖畔のフランスの最も美しい村のひとつ、イヴォワールの中心にある「五感の庭」は中世インスピレーションの現代の庭。小規模ながらさまざまな個性をもったロマンチックな庭空間が広がる、小さな宝石のような庭です。

イヴォワール村
イヴォワール村の港から城塞を眺める。

湖側からイヴォワール村へのアプローチに見えるのは、ハンギングバスケットに飾られたシャレーや中世の城塞で、一気に中世の世界に迷いこんでいくよう。古い街並みの坂を登っていくと、風情のある石壁に囲まれたこの「五感の庭」があります。

イヴォワール村
中世の佇まいの村の中心の石壁に囲まれた庭園の入口。

かつて14世紀に湖上を運行する船舶を監視するために建設された城塞の近隣には、ポタジェ(菜園)がつくられていました。17世紀以来の所有者の末裔であるイヴとアンヌ=モニク・ド・イヴォワールが、その菜園跡を再生するプロジェクトに着手したのは今から40年ほど前の、1986年のこと。当時デザインを担当したのはフランスの庭園デザイナー、アラン・リシェール(1947-2014年)です。

中世の庭のイメージ

ところで、中世の庭が現在までそのまま残っていることは、残念ながらまずありません。現代の私たちが想像するヨーロッパ中世の庭のイメージは、絵画や文学作品、また近年では庭園の考古学からくるものです。中世の庭は、外敵から身を守るための石壁や垣根などで囲まれた、安全な空間、心身の休息の場として捉えられていました。

イヴォワール「五感の庭」
庭園散策のスタートは、小川が流れるアルプスの植物コーナー。エーデルワイスも満開。

中世の庭に典型的な、中心に噴水をおいた四分割の配置は、一見シンプルに見えますが、天国の4つの川、エデンの園といった多くの象徴に溢れています。さらに生垣で構成されるラビリンス(迷宮)も、中世以来の庭と深く結びつけられてきたモチーフで、迷宮は一種の人生の通過儀礼の場になぞらえられ、中心へと導かれる散策者たちは、そこで宗教的または哲学的な啓示に到達すると考えられてきました。

イヴォワールでは、そうした中世の庭を着想源として、迷路のように構成された園路を巡って、五感を覚醒する庭の空間でさまざまな植物と触れ合い、自分自身の感覚で、その世界を再発見していくような散策が仕組まれています。心地よく、大人も子どもも一緒に楽しめる体験型の散策であり、かつ、いつのまにやら不思議と心も落ち着き、生命力が静かに蘇るような、癒やしの庭でもあります。

五感を巡るラビリンス(迷宮)の庭

イヴォワール「五感の庭」
青~紫~ローズ系の鮮やかな色あいの草花で飾られた「視覚の庭」。

入り口すぐ、散策の最初を飾るのは、土地柄を反映するアルプスの草原の植物たちの植栽コーナーです。アルプスといえば山野草、エーデルワイスもしっかりこちらで確認できます。そして、ヒイラギやクマシデなどの生け垣と、エスパリエ仕立てのリンゴの木々で仕切られた迷宮に迷いこんでいきましょう。

イヴォワール「五感の庭」
迷路のような細い園路で繋がる、それぞれに異なるテーマの庭は、生け垣とエスパリエ仕立ての果樹で完全に囲まれ、外からは見えないようなっています。

コスモス、ラベンダー、サルビア、バラやアリウムなど、青紫~ローズ系を中心にした鮮やかな色彩に迎えられる「視覚の庭」、続く「触覚の庭」には、グラス類、トゲトゲしたアザミや、ふわっとやわらかな葉っぱの植物などを触ってみます。 

イヴォワール「五感の庭」
ふわふわとグラスが揺れる「触覚の庭」で、多彩なテクスチャーの葉っぱたちに触れてみる。

そして、次は香り高いバラやユリが咲く「嗅覚の庭」へ。クラシックな花の香りばかりでなく、チョコレートやイチゴの香りのミント、カレーやコーラなどユニークな香りが体験できます。少し高めの位置のバスケットの中に何十種類のミントやセージ、ペラルゴニウムの鉢が設けられているのは、見た目に整うばかりでなく、触って香りを嗅ぐにもちょうどよく、いいアイデアです。   

「嗅覚の庭」
「嗅覚の庭」では、ユリやバラなどの古典的な花の香りを愛で、チョコレートやカレーなど変わった香りを発見。大人も子どももウキウキしてきます。

「味覚の庭」ではステビアの鉢やカマンベールチーズの味! がする植物が展示されていて、実際葉っぱを食べてみることができます。少しずつちぎって食べられた葉っぱをみていると、私たちもポタジェにくる虫たちも、あまり違いがないのかも、とすら思ってしまうほどです。そして「聴覚」を司る、庭園全体の中心部に設られた鳥たちのための噴水に耳をすましてみましょう。 

「味覚の庭」
可愛いポタジェ(菜園)は食用植物の「味覚の庭」。ステビアなどを試食できます。

徐々に植物世界に開かれる感覚で辿り着くのが、クロワートル(回廊)と名付けられた薬草の庭。中世の修道院のクロワートルを思わせる、噴水を囲んで四分割された空間には、薬草植物園になっています。こちらはそのままでは有毒な植物もあるゆえに、味見は厳禁です。 

「クロワートル(回廊)の庭」
噴水を囲んで、薬用植物が植栽された「クロワートル(回廊)の庭」。
「魔法の植物」コーナー
「魔法の植物」コーナーには、白いケシの花やマンゴンドラ。

そして迷宮の終わりには、ルネサンス時代に大人気だった「ティサージュ」と呼ばれるモチーフの庭。香りの高い白バラと野生のオーツ麦の列がチェッカーボードのように交差する、シンプルな幾何学模様の美しい植栽です。ティサージュは「調和」を象徴するモチーフなのだそうで、人と自然の調和、生物多様性の調和、など現代の庭が目指す調和の世界をも象徴しているようなのが見事でした。

「ティサージュ」の庭
白バラと野生のオーツ麦の列が交差する、コントラストと調和がテーマのルネサンス風「ティサージュ」の庭の様子。シンプルながら印象深い。

今なお深まる植物たちの物語

2,500㎡と決して広くはない全体面積のなか、8つのテーマの庭で構成される迷宮仕立ての庭には、当初の900種から大幅に増えて、現在1,500種以上の植物が植栽され、また庭や植物の歴史から着想されるさまざまな象徴が散りばめられた、豊かな物語が語り継がれています。

イヴォワール「五感の庭」

規模の関係で庭のほとんどの手入れは手作業で行わなければならないのだそうですが、つくられて40年が経過した庭園の様子は、大きく育った樹木からはその成熟が感じられるとともに、美しく管理が行き届いており、時間を味方にして進化してきた様子が窺えるのも魅力的です。

イヴォワール「五感の庭」
西日が美しい閉園間際の庭園ではガーデナーが丁寧に花がら摘みをする姿が。

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