春のあふれるような開花とはまた異なり、澄んだ空気の中で一輪一輪が深く色づき、濃厚に香るのが秋バラの魅力です。しかし、近年の日本の夏は過酷な猛暑が続いています。これまでのバラ栽培の教科書に書かれていた「8月末の一斉剪定」というセオリーだけでは、期待したように咲かないことも増えてきました。バラのスペシャリストの後藤みどりさんに、現代の気候に合わせた「鉢植えバラの夏剪定のコツ」を教えていただきます。剪定のタイミング、そして剪定前の今、ハサミを入れる前の管理が成否を左右します。
目次
猛暑時代の新常識。今、夏剪定は本当に必要?

かつての夏剪定は、8月末までに行うのが定説でした。しかし後藤さんは、「今の日本の残暑を考えると、一斉にハサミを入れる時期を遅らせる必要があります」と提唱します。最近の猛暑では、バラも人間と同じように夏バテします。水分が少なかったり暑すぎたりすると、バラは「生命維持に精一杯」になり、成長がピタッと止まってしまいます。7月、8月に出てきたつぼみはあえて咲かせず、早めに摘み取って株を充実させるのが、秋によい花を咲かせる重要なステップです。
「切る」メリットと「切らない」という選択肢

秋にまとまった花数で見事に咲かせたいなら、やはり剪定は不可欠です。夏の間につぼみを摘んで株を休ませることで、秋に向けての体力を温存し、涼しくなる10月中旬以降に美しい花を咲かせることができます。
一方で、スペースの限られたベランダでミニバラなどを育てている場合、秋に一斉に咲かせることにこだわらず、次々と咲かせて彩りを絶やさないスタイルもおすすめです。夏の間もポツポツと咲き続ける姿は、ベランダを明るくしてくれます。
秋の開花から逆算! 品種と地域で見極めるベストな時期

「近頃、関東地方以西の平地では、夏剪定は9月10日頃にするのが現実的です」と後藤さんは指摘します。あまり早く切りすぎると、まだ暑い9月中に咲き進んでしまい、バラが本来の色や形を発揮できないからです。
また、品種の性質に合わせて、剪定の時期をわずかにずらしましょう。
●大輪・中輪の木立ちバラ(ハイブリッド・ティーなど):9月10日前後を目安。
●シュラブ(半つる性):9月に入ったらすぐ。枝が伸びる力が強く、つぼみがつくまでに時間がかかる性質があるため、早めに剪定すると、秋の開花が揃いやすくなります。
さらに、地域による調整も必要です。標高の高い寒冷地では、7月までは咲く花を楽しみ、夏剪定は特に行わないスタイルが一般的。無理に深く剪定すると、開花までの時間がかかり、開花前に寒くなってしまうためです。その地域の気温の変化を見極めることが大切です。
剪定前が肝心! 酷暑中の株のケア3つのコツ

1 水やり
夏の水切れは株に深刻なダメージを与えます。水をしっかり与えた株と乾かし気味にした株では、花持ちが1週間以上も変わります。鉢植えは鉢底から水が流れ出るまでたっぷりと与え、鉢内の熱をクールダウンさせます。
2 活力剤と肥料の使い分け
夏バテで成長が止まった株には、まずはお盆過ぎ(8月15日以降)から活力剤を与えて根の回復を助けます。
3 病害虫対策を万全に
お盆過ぎの黒星病の治療と害虫の駆除はとても効果があります。この時、黄色い葉は取り去り、液肥を与えて新葉を育てましょう。見違えるくらいよくなっていくのが分かります。
【実践】鉢植えバラをコンパクトに仕立てる剪定術

ベランダや狭い庭でバラを育てる場合、株をコンパクトに保ちつつ、風通しを確保することが重要です。8号鉢の「ウィンディー・ナイト」を用いて、後藤さん直伝の夏剪定をステップを追って見ていきましょう。
ステップ1 「仮剪定」で株をスッキリさせる

いきなり完成形を目指して切るのではなく、まずは全体の花がらやつぼみをすべて切り落とします。これにより、株全体の枝ぶりが見えやすくなり、本番の剪定がスムーズになります。
ステップ2 基準となる「物差し枝」を決める

一番太くて立派な枝を「物差し(基準)」にします。
ステップ3 上から1/3を目安に「本剪定」

基準となる枝が決まったら、樹高の上から約1/3程度まで切り戻します。切る位置は、よい芽が出そうなしっかりとした節の上でカットします。浅い剪定になると花が小さくなってしまうため、太い枝のところまでしっかりと切り戻すのがコツです。他の枝も基準の枝の高さに合わせて切っていきます。
ステップ4 不要な枝を整理して「風の通り道」を作る

株の内側に向かって伸びている枝や、枝が重なり合っている部分は、より元気な枝を残して元から切ります。また、明らかに細い枝は思い切って整理し、太い枝に栄養を集中させます。コンパクトな樹形を維持し、光と風を株の中心まで届けることが、健やかな生育と開花につながります。

バラの夏剪定後の手入れ

剪定後には水やりをして、肥料を補給し、力強い新芽の伸びをサポートしましょう。猛暑が続いている場合、鉢植えは1日2回の水やりが必要になることもあります。
失敗しないためのポイント① 赤い新芽はどうする?

「もったいなくて切れない」という初心者の心理が、失敗の原因になることもあります。剪定時にすでに出ている赤い新芽は、そのままにしておくとそこだけが先に咲いてしまいます。秋に一斉に咲く景観を作りたいなら、思いきって切りましょう。
失敗しないためのポイント② 剪定後開花してしまったら?
剪定後すぐに小さい花が咲いてしまった場合がありますが、その場合、もう一度15cmくらい切り戻すことをおすすめします。また、9月には害虫が活躍し始めるので、先端を食べられた時も切り戻しを行うと良いでしょう。
【監修・アドバイス】

後藤みどり バラ栽培家・育種家
ごとう・みどり 育種家・コマツガーデンの代表としてエレガントで耐病性に優れたバラを続々と発表。山梨県を拠点に、園芸店「ロザ・ヴェール」やバラをコンセプトとしたカフェ「ロザ・メゾン」などを展開している。他にも、バラの栽培の楽しさを広める活動を行っている。著書も多数あり、最新刊は2026年4月発売の『鉢でも、小さなスペースでも 夢をかなえるバラづくり』(NHK出版)。
コマツガーデン https://www.komatsugarden-online.com/
ロザ・ヴェール https://rosa-verte.com/
【取材・文】
関口千鶴 エディター/ライター
せきぐち・ちづる/大学卒業後、出版社にて編集者として数多くの雑誌・書籍を手掛ける。現在は園芸や家庭菜園などのジャンルを中心に、雑誌・書籍・ウェブサイト等でフリーランスの編集者・ライターとして精力的に活動中。自宅ではコチョウランや多肉植物のほか、鉢植えのバラの栽培も楽しんでいる。
協力/コマツガーデン
Credit
写真(表記以外) / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。 2026年10月5日発売の書籍第3弾『小さな空間を生かす立体ガーデニング 玄関から始める花のある暮らし』(発行/KADOKAWA)予約受付中!
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