大切なバラを守る台風対策 秋は台風の襲来に注意!

秋は再び美しいバラを楽しめる季節です。四季咲き性や返り咲き性のバラを育てている人にとっては、楽しみな季節ですね。しかし秋バラの前には、大きなハードルが。気候が涼しくなってきた9月は、一年で最も台風が日本に接近しやすい月です。台風の襲来はバラに大きな被害をもたらすので、その被害を最小限に抑えるための台風対策が必須。バラの専門家の河合伸志さんにその理由と対策法を伺います。
台風によるバラへの被害
激しい雨だけでなく、強風が吹き荒れる台風の襲来は、バラに大きな被害をもたらします。バラはそもそもトゲがある植物のため、強風によって枝葉が激しく揺さぶられると、枝折れが生じるだけでなく、自らのトゲで自らを傷つけてしまいます。また最悪の場合は、根元から株が折れて枯死してしまうこともあります。特に順調に生育している株ほど強風の影響を受けやすいので、事前に台風対策をしっかり行っておくことが大切です。
何より大切なのは天候情報のキャッチ

台風対策をするにあたり、何より大切なことは早期に台風の情報をキャッチすること。台風が近づく直前になってから気づいても、台風対策は間に合いません。台風に限らず、長雨や高温・低温など、天候は何かと植物の生育に大きく影響を及ぼします。植物の栽培を始めたら、マメに天候の情報を得ることは、栽培上手への早道の一つです。また、慌てて買い物に行かなくても済むように、事前に台風対策に必要な資材を揃えておくことも大切です。
優先順位を決めて台風対策の作業を
台風によっては接近してくる速度がとても速く、対策を施す時間が十分にないこともあります。台風による風雨が強くなってからの作業は危険を伴うので、そのような場合は、残念ながらできる範囲で作業をとどめます。また、そのような場合に備え、普段より優先的に作業をする株を決めておくことも大切です。風の通り道(台風によって風向きが変わるので、事前によく確認すること)になる場所に植わっている株や、枝が長く伸びている株、弱々しく倒れそうな株などを優先します。それらの株であっても、病害などで葉がない丸坊主の株は、風の抵抗を受けにくいため、葉がフサフサある株を優先します。
3つのケースのバラの台風対策
ここでは
ケース① ブッシュ・ローズやシュラブ・ローズなど地植えで自立させている
ケース② つるバラやシュラブ・ローズなど地植えで構造物に誘引している株
ケース③ 鉢植えのバラ
以上3つのケースのバラの台風対策をご紹介します。時間が限られている場合は、ケース①と②から優先的に作業を進め、順次対策を行うようにします。
ケース①
「ブッシュ・ローズやシュラブ・ローズなど
地植えで自立させている株」の台風対策
準備するもの

- 防風ネット
強風から植物を守るためのネットで、寒冷紗や漁網などでも代替えが可能。ホームセンターなどで手に入ります。 - 太めの支柱
強風で折れないような直径20㎜程度の太めのもの。長さは打ち込んだ時にバラの樹高よりやや高くなるものが理想的ですが、長すぎるものは防風ネットを巻いた時に風の抵抗が大きくなり、倒されることもあります。長さ1.5~1.8m程でとどめたほうが安全です。 - 紐
麻紐など。強風の中でも切れないよう、直径2〜3㎜程度の、太くしっかりしたものを。防風ネットのとめ具は、ビニタイやワイヤーでも代替えが可能です。 - レンガなどの重し
- ハンマー
- はさみなど紐やネットを切断するもの
作業手順
- 株の中心に支柱を立てる
株の中心にあたる場所に、支えとなる支柱を1本立てます。支柱を立てる際は、ハンマーを用いて地面にしっかりと深く打ち込む。 - 紐で株を縛る
手順1で立てた中央の支柱を基軸に、枝葉をまとめて絞り込むように紐をかけて株を結束します。1株につき、2~3段程度紐をかけ、十分に固定しましょう。 - 株の四隅に支柱を立てる
結束した株の四方を囲むように、支柱を4本立てます。支柱はハンマーを用いて手順1と同様にしっかりと地面に打ち込みます。 - 株の周囲に防風ネットを支柱に取り付ける
手順3で立てた周囲の4本の支柱に防風ネットを紐でとめつけ、株の周囲をぐるりと覆うようにネットを張ります。ネットが風で飛ぶと危険なので、1本の支柱で最低でも4~5カ所ほどとめ、風で飛ばされないようにします。株の上部はネットを張らずに空いたままの状態でも効果が得られます。2~3株をまとめて囲むことでも、効果は十分に得られます。ネットの隙間に紐を通し、しっかりと結んで固定します。 - 重しを用いて防風ネットを固定する
防風ネットが巻き上がらないよう、ネットの裾部分はレンガなどの重しを置きます。軽い重しは飛ばされる危険があるので気を付けましょう。

これで台風対策は完了です。台風の近づく速度が早く、全ての株に手順5までの対策ができない場合は、手順2までとどめ、広く浅くの方向に対策を変更します。手順2まで進めた状態でも一定の効果が得られます。

紐で結束したこの状態は、葉の蒸れや内部の葉の日照不足につながります。早めの対策が肝心とはいえ、何日もこの状態であることは好ましくありません。台風が来る1~2日前など直前に対策をし、通過後は速やかに外しましょう。事前の準備をする場合は、中心に支柱を立てる作業のみとします。ここまででも作業を終わらせておくと、他がスムーズに進みます。
ケース②
「つるバラやシュラブ・ローズなど地植えで構造物に誘引している株」の台風対策

ブッシュ・ローズやシュラブ・ローズよりも枝が長く伸びるつるバラなどは、強風の影響をより受けやすく、株全体が大きいために周囲に防風ネットを張ることも困難です。台風が襲来する前に、風を受けにくいよう構造物に寄せるように仮誘引し、しっかりと紐で結束します。オベリスクなどでは、長く伸びた枝同士を上部で束ね、さらに支柱を立てておくとよりよいです。また、台風時の強風では、構造物ごと倒れてしまうこともあります。バラを誘引した構造物は、ぐらついていないか、地面にしっかりと固定されているかなどをあらかじめ確認し、必要に応じて補強しておきます。

ケース③
「鉢植えバラ」の台風対策

鉢植えのバラの場合、最も確実な対策は、室内や物置などの風雨の影響がない(もしくは、少ない)場所に鉢を移動することです。室内に鉢植えを取り込む場合は、ナメクジを持ち込まないように注意しましょう。その際、あると非常に便利なのがブルーシートなどの敷物。受け皿などを用意するよりも簡単に取り込むことができ、周囲も汚れず、収納の際にはコンパクトに折りたたむことができます。ベランダなどで鉢植えを栽培している場合は、一枚準備しておくと便利です。マンションのベランダなどでは、階層が上がるほど風の影響を受けやすく、また鉢植えの落下事故にもつながりかねないため、可能な限り室内に取り込みましょう。
室内に取り込むスペースがない、時間がないなどで鉢の移動ができない場合は、鉢を倒して防風ネットをかけ、レンガなどの重しを用いてネットを固定しておきます。ネットは掛けたほうがよいですが、鉢を倒すだけでも風の害を軽減できます。あまり長い間倒したままにすると、光を求めて茎が曲がってしまうので、風が収まったら速やかに元に戻します。
台風が通過したら
各種の台風対策は、風が穏やかになったら早めに元の状態に戻しましょう。上記の通り、長時間の結束は蒸れや日照不足の、倒した状態は新芽の曲がりの原因になります。
海沿いの地域では、台風により巻きあげられた海水が葉に付着し塩害が発生することがあります。塩害を防ぐためには、雨がやんだ時点で株を真水で洗い流すことが有効です。しかし、多くの台風の場合、雨がやんだ時点でも強風が吹いており、作業には危険が伴います。決して無理をせず、できる範囲で行いましょう。
台風の風にあおられたバラの茎葉には細かな傷が多数でき、病気に侵されやすい状態になります。また害虫が強風で飛ばされてくることもあり、台風の通過後は一気に病害虫が広がることがあります。そもそも8月下旬~10月上旬は秋雨による病害の発生しやすい季節です。可能であれば台風の通過後には速やかに薬剤散布行い、病害虫を防除しましょう。

●近年、地球温暖化に伴い、台風の勢力が従来よりも増しつつあります。本項の対策は今までの台風ではある程度有効ですが、今後襲来が想定されているスーパー台風や、沖縄など南方の島々に襲来する台風ではこれだけでは防ぎきれません。
Credit

アドバイス&文責/河合伸志
千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
写真/3and garden