植物たちも葉を落としはじめ、庭景色も落ち着いてくるシーズンですが、ガーデンではいろいろな生き物たちが日々活動をし、ガーデナーを楽しませてくれます。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんの庭も、すっかり秋景色に模様替え。秋の庭で出会う生き物やオータムガーデンに咲く花をご紹介します。冬に向けた庭支度の際に気をつけたい、ケガ防止のための安全のポイントも併せて解説します。
目次
ガーデンにも秋が到来
辺り一面、どこを見ても落ち葉、落ち葉、落ち葉! こんな素敵な光景が見られるのは、一年でもこの時期だけの、貴重な季節です。
木々は一年を通してたくさんの喜びを運んでくれます。新しい季節の始まりを告げる春の瑞々しい新葉、降り注ぐ陽射しや雨から守ってくれる夏の木陰、そして秋にはさまざまな美しい色彩へと紅葉し、目を楽しませてくれます。
日本の秋の鮮やかな美しい紅葉を知っている方からすると、色あせた落ち葉を愛でるのは不思議がられるかもしれませんが、私は落ち葉も大好き。散り敷いた葉の絨毯や、ところどころに集められた落ち葉の山など、とても魅力的です。冬の庭のどこかに、こうした落ち葉の山があったり、灌木の足元を覆うマルチングとして使われていると、嬉しくなってしまいます。
ガーデンで暮らす生き物たち
さて、ドイツでは、多くのガーデナーが庭にハリネズミたちの棲むスペースを作ろうと工夫を凝らしています。そのため、庭の静かな一角に落ち葉を積み上げ、ハリネズミたちの休息場所を作っているシーンもよく見られます。
しかし、近年のガーデンシーンでは、ロボット芝刈り機によってハリネズミたちがケガをしたり死んだりしてしまう事故も多発しています。
一般的なロボット芝刈り機は、ワイヤーを芝生の周りに設置し、芝刈りする範囲を設定します。ロボットはこのワイヤーによって刈り込むエリアや充電用ドックの位置を認識し、また大きな障害物も避ける場合が多いですが、動き回る小さな動物については配慮されません。芝刈りの作業に大いに役立つロボット芝刈り機ですが、反面、野生生物の生活にとっては異物となります。私にとっても、稼働中のロボット芝刈り機があると気になってしまい、せっかくの庭時間もなかなかくつろげません。
もっとも、中にはロボット芝刈り機を賢く利用している鳥もいます。仕事中のロボット芝刈り機についてまわっている鳥たちは、芝刈りの際驚いて飛び出す虫たちを狙っているのです。
生き生きとしたガーデンシネマ
このように、ガーデンは花を愛でるだけの場所ではなく、多くの生き物たちの生活空間にもなっています。秋の庭でも、この季節に咲く花やそれに集まる昆虫たちなどが、日々目を楽しませてくれています。最近のガーデンシーンの中で目に留まったものをいくつかご紹介しましょう。
機敏に駆け巡るスズメガの仲間
この時期、可愛らしいスズメガが庭を飛び回っています。高速で羽を動かし、素早く元気に飛び回る様は、まるでハチドリのよう。羽の動きが速いため、ブーンという羽音が聞こえます。
スズメガの口吻は3cmほどあり、普段は庭のホースのように丸まっていますが、花から吸蜜するときは伸びてストローのようになります。花々を飛び回るスズメガは有益な花粉媒介者で、特に好む花には、ゲラニウム、ダイアンサス(ナデシコ)、フロックス、ブッドレア、アベリアなどがあります。
今月のお気に入り チェリーセージ
先日、近所のナーセリーを訪れた際に目に留まったのがチェリーセージ。たくさんのスズメガがカラフルな花の周囲を忙しなく飛び回っていました。植物につけられた札によると、‘Mirage(ミラージュ)’という品種でした。
チェリーセージには、ピンク、紫、白、サーモンピンク×クリームのバイカラーなど、さまざまな花色があり、秋から初冬にかけて、庭に生き生きとしたビビッドな色をもたらします。また、チェリーセージはエディブルフラワーの一つ。花や新芽は食用でき、サラダの彩りにぴったり。香りのある葉は鹿の食害を防ぐ効果もあるそうです。ほかの害虫にも効き目があるとよいのですが!
秋の庭を彩るビデンスやグラウンドカバープランツ
デイジーによく似た黄色やオレンジの花を咲かせ、カラフルな庭づくりに一役買ってくれるビデンス。‘ハッピーエンパイア’は、やや大輪の明るい黄色の花をいっぱいに咲かせる品種です。日当たりと水はけがよく、肥沃な土壌を好みます。耐寒性はさほど高くなく、気温が0℃付近や0℃を下回るようになってくると枯れてしまいますが、地域によっては冬越しできます。常緑で、花が終わった後も緑を保ちます。
小道の踏み石の隙間など、足を踏み入れる場所の植栽に向くのは、ある程度の踏圧に耐え、グラウンドカバーとして広がる植物。ダイコンドラ(ディコンドラ)は、可愛らしいハート形の葉が特徴で、種まきから簡単に育てられるので、芝生を張るよりも簡単です。庭の空いたスペースは、大雨が降ると土が流されてすべりやすくなることがあるので、こうしたグラウンドカバーを取り入れるのもおすすめです。
秋の宝物の収穫
我が家のパーマカルチャーガーデンでは、サトイモの収穫をスタートしました。大きな葉が装飾的で、非常にローメンテナンスなので、サトイモは私のお気に入りの植物の一つ。1株から驚くほどたくさんのサトイモが収穫できます。少なくとも家族で3回は美味しい食事を味わうことができました。
サトイモの収穫は、まるで宝物を掘り出しているよう。毎回驚きと大いなる収穫があります。サトイモが大好きな友人もいるので、収穫後はシェアして楽しむこともできます。
普通のスーパーではなかなか見かけない、100%オーガニック栽培のサトイモは、とても美味しいです。ヘチマとシソの種子も採種しました。こうした種子を、来年の種まきに向けてしまっておくのも、この時期の楽しい庭仕事です。
庭作業の際には安全に注意を
先日、思わず二度見してしまうような庭の剪定シーンに遭遇しました。
道路に面して高さ180cmほどの石塀で囲われた庭の近くを通ったとき、庭のご主人が石塀の横に車を停めると、車の窓を開けて、その窓の桟に乗って庭木の枝を切り始めたのです。その間わずか数分ほど。手早く作業を終えた彼は、トランクに切った枝を積み込み、車を車庫に移動させていました。
車の窓に乗っての高枝切りは見たことがありませんでしたので、素早く器用な仕事ぶりに感心しました。ただし、車の窓は足を乗せるスペースも小さく、容易に足を踏み外して事故につながりかねないので、推奨はしません。
樹高が高い樹木や灌木の枝を剪定するのは危険な作業なので、水平でぐらつかない地面に、しっかりしたはしごを立てて行うほうが安全です。剪定作業の際は、2人がペアになり、1人が剪定している間、もう1人がはしごを押さえたり、周囲の状況を確認したりできればさらによいでしょう。
私の場合、直近の庭作業中のアクシデントは、11月のことです。庭のカンナやショウガなどを切り戻している間、考え事をしていたところ、人差し指を切ってしまい、かなり出血する事態に。またいつもは、消毒液や絆創膏を入れた小さなカバンを持つようにしているのですが、その日に限って持っていませんでした。
車の中にあった除菌シートで汚れをぬぐって消毒したところ、幸いすぐに出血は止まりましたが、その日の庭作業はこれでおしまい。私のガーデナーとしてのキャリアの中で、園芸鋏でこんなケガをしたのは初めてのことです。その日は一日、自分に腹が立つやら悲しいやら、信じられない思いでした。
ガーデニング作業中のケガの予防
日常生活の中でもケガをしてしまう場面は星の数ほどあり、もちろんガーデンもそうしたシチュエーションの一つ。私のようなアクシデントを防ぐためには、園芸鋏などのガーデンツールを使う際は、必ずよく集中した状態で使い、体調が悪いときなどは避けることが大切です。
また、この季節になると、ガーデニング作業中に目を保護することの大切さをますます実感します。秋は多くの植物が種子をつけ、植物に触れたり切り戻したりすると、種子が飛び出して目に入ってしまうことがあり、そうなるとしばらく何も見えません。寒風で目が乾いたり、土埃が舞い上がったり、また小さな虫などが目の近くまで飛んでくることもあります。こうした要因で視界が一時的に悪くなると作業しづらいだけでなく、事故にもつながりかねません。
庭仕事に適した服装、特に靴も非常に大切です。ガーデナー修行を始めたばかりの頃、職場の安全性について学ぶ機会がありましたが、そのときも大きなトピックの一つが仕事に適した靴についてだったのを覚えています。ちょっと家の周りや庭に出るときは、サンダルや突っ掛けを履くのが便利ですが、庭仕事をする際はこうした靴は危険です。ガーデニング用ブーツなど、動きやすく足全体をしっかり保護してくれるものを選びましょう。服装についても注意が必要で、例えばはしごの上に立って枝を切っているとき、急にアリや毛虫などが、頭や肩、ひょっとしてシャツの内側に落ちてきたりするかもしれません。びっくりして飛びのいたりすれば大変危険です。こうした事態を防ぐためにも、首元までしっかり多い、緩すぎない服を身に着けるとよいでしょう。
何気ない庭仕事の中にも、小さな危険はたくさんあります。庭仕事をするときは、十分な時間と気力、体力があるときにしましょう。または、いっそプロのガーデナーを雇ってしまうのもいいですね。ケガに注意して、年末までに、家や庭、そして心の大掃除を済ませ、すっきりとした状態で新年を迎えましょう。
私の次のプロジェクトは、ガーデンでもっとたくさんのキノコを育てること。市場にはたくさんの種類が並んでいますが、この秋から栽培に挑戦してみたいと思います。
Credit
話 / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -
エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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