庭づくり、植物選びに“マンネリ”しているあなたへ、庭の面白さや植物の可能性のアンテナを刺激する植物情報「ACID NATURE 乙庭 Style」。今回は、花の少ない冬から早春の時期に開花する“ちょっと技ありな花モノ落葉樹”をピックアップ! ボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、冬から早春に活躍する樹木の魅力と品種バリエーションをご紹介します。
花の少ない冬~早春の時期に開花する、ちょっと技ありな花モノ落葉樹
ビオラやストックなどの一年草、あるいはクリスマスローズ以外は花も少ない冬の庭。特に、春~秋にナチュラルな葉をたっぷり茂らせ、高さもボリュームも出る落葉樹類に至っては、葉もない冬枯れの状態で、春はすぐそこまで来ているのは分かってはいても、少し寂しい感じがしますよね。

冬に開花する樹木は少ないので、品種選びだけでもやや難しい季節ではあるのですが、他の花が少ない時期だけに開花するととてもよく目立ちます。ですので、冬咲きの樹木を選ぶ際は、少し審美のアンテナを高くして、普段以上に慎重に選んで植えたいですね。

今回は、そんな落葉樹の中でも、花の少ない冬~早春の時期に「枯れ木に花」の様相で開花し、サクラよりも早く春の息吹きを感じさせる樹木を乙庭セレクトでご紹介します。単に「冬に咲く花木」というくくりではなく、現代的なガーデニングの傾向にマッチさせる視座からの「攻めのチョイス」ですよ。一年草以外に見どころの少ない冬の庭づくりの参考になれば幸いです。
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エッジワーシア・クリサンサ (=中国大輪ミツマタ)
和紙や紙幣の原料としても用いられる樹種ミツマタの中国原産大輪種です。

関東地方平野部では花の少ない3月頃、「枯れ木に花」の風情で、その和名のごとく「三叉(みつまた)」に分岐した枝先に、日本種のミツマタよりも大輪の黄色い花序を咲かせます。

日本の市場では「中国大輪ミツマタ」の名で流通する本種は、日本で紙の原料用に栽培されるミツマタよりも枝や幹が太くずんぐりとした雰囲気の樹姿となり、シルエットがどことなく熱帯植物のプルメリアを連想させます。

ミツマタはプルメリアとは全く別種の植物ですが、このようにシルエットの類似性を見立てるような観賞眼でウィンターガーデンに取り入れると面白い素材です。

特徴的なシルエットと葉のない状態で、枝先に大輪の黄色い花序が、冬の庭でとてもよく目立つため、海外の有名庭園でもしばしばウィンターガーデンの見どころとして植栽されています。
【DATA】
■ ジンチョウゲ科
■ 学 名:Edgeworthia chrysantha
■ 主な花期:冬~早春
■ 樹 高:2m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:日向~半日陰
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ビバーナム・ボドナンテンス ‘ドーン’
真冬から、芳香のあるピンク色の美しい花序をたくさん咲かせ、冬の庭の素敵な彩りになる、ビバーナムの中でも珍しい冬咲きの品種です。

ビバーナム・ボドナンテンスは、1930年代にビバーナム・ファレリ(V. farreri)とビバーナム・グランディフロルム (V. grandiflorum) との交配により生まれた種間交配種です。

本種 ‘ドーン’は、ボドナンテンス種の系統の中でも代表的な品種です。冬の落葉した枝にたくさん咲くピンクの芳香花から銅色がかった春の芽吹き、ちょっとゴワゴワした質感の緑葉も美しく、秋に黒みを帯びて熟す実も含め、年間を通じて多様な観賞価値も提供してくれます。

【DATA】
■ レンプクソウ科
■ 学 名:Viburnum x bodnantense ‘Dawn’
■ 主な花期:冬~早春
■ 樹 高:2~3m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:日向~半日陰
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ハマメリス (=マンサク) のバラエティ豊富な園芸品種
関東平野部では木々の芽吹きも始まらない2〜3月に、細くよじれた花弁が特徴的な花を枝いっぱいに咲かせます。日本にも自生種があり、なじみの深いマンサクの仲間、ハマメリス属。いろんな花色の品種があり、面白いですよ。

マンサクの花は、花が多く咲けばその年は豊作、花が少なければ不作というように、稲の作柄を占う植物として、日本でも古くから人々の生活と深いつながりを持っていました。

日本原種のマンサク(Hamamelis japonica)は真っ黄色の花が主ですが、海外種も含めると、ハマメリスは、オレンジや赤・赤紫など、花色が豊富。多くの交配品種も作出されており、海外の有名庭園などでも、ウィンターガーデンを彩る花モノとして重用されています。

葉脈で折り目のついた葉もナチュラルで、春から夏の雰囲気もよく、秋には黄~オレンジ~赤へと色鮮やかな紅葉も楽しめます。日本の気候にも合い、育てやすいのも魅力。

樹高を抑えたい場合は、花後に剪定を行います。夏に翌年の花芽が形成されますので、開花後早めに剪定するとよいでしょう。
【DATA】
■ マンサク科
■ 学 名: Hamamelis cv.(各品種名は上記解説文を参照)
■ 主な花期:冬~早春
■ 樹 高:2~4m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:日向~半日陰
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カエノメレス・スペキオサ (=ボケ) の仲間
晩冬~春にかけて開花し、日本では古くから盆栽などの古典園芸でも親しまれてきた花木です。

ボケは、もともとは中国原産種で平安時代に日本に渡来し、帰化したと考えられています。日本原産種の同属にクサボケ(Chaenomeles japonica)がありますが、別種です。

ボケというと、昭和期の家の庭や鉢植えなどによく見られた樹木というイメージがあるかもしれませんね。しかし、ちょっと見立てを変えて解釈するととても面白い樹種だなと、注目しています。

棘があり叢生する樹形や、古くなると枝幹が灰黒色みを帯びて樹皮が縦に裂ける様子、そして葉の少ない状態で鮮やかな朱赤色の花を枝いっぱいに咲かせる様子などが、遠目に見るとどことなくコーデックスプランツのフォークイエリア・スプレンデンス(Fouquieria Splendens)にちょい似なんですね。近くで見ると花のつくりなど全く異なるのですが、引いて見た時に類似して見える点がとても面白いと思います。

フォークイエリア・スプレンデンスは、現地ではオコチョロ(オコティーリョ ocotillo)とも呼ばれ、メキシコ〜アメリカ南部の荒涼とした砂漠風景を象徴する植物です。残念ながらフォークイエリアには耐寒性がなく、日本での庭植えはできませんが、ボケをフォークイエリアのように見立ててアガベなどといっしょに植えてみると、日本の気候にも合い、見た目的にもクロスカルチャーで斬新な植栽観を表現できるのではないでしょうか。

また、古典園芸の時代から長く親しまれてきたことから、ボケには斑入り花や二色咲きなど花色のバラエティや、雲龍枝、変わり葉といった枝芸・葉芸の面白いものなど、多くの品種があります。その辺も踏まえて深掘りしていっても世界観が広がって面白いでしょう。
【DATA】
■ バラ科
■ 学 名: Chaenomeles speciosa (園芸品種も多い)
■ 主な花期:晩冬~春
■ 樹 高:2~4m
■ 耐寒性:強(本州以南)
■ 耐暑性:強
■ 日 照:日向
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スタキウルス・プラエコクス (=キブシ)
晩冬~春にかけて葉が出る前に、淡黄緑色の総状花序を、長さ5〜10cmのヒモ状に垂れ下げるように咲かせる日本の固有種です。

キブシは北海道から九州まで、日本の広範囲の明るい山野に分布しています。木々が芽吹く前に咲くのと、ヒモ状に垂れ下がる、ツブツブした淡黄緑色の花がたくさんついた花序の様子も珍しく雰囲気があり、この季節の庭でとてもよく目立ちます。

日本固有種だけに気候環境にも合って育てやすく、春~秋の風情も日本の野山を連想させるため、宿根草や落葉樹を多く取り入れたナチュラル志向の庭によく似合います。
また、前出のボケと同様、キブシも少し見立てを変えることで、さらに面白みが増す樹種でもあります。

皆さんは、ヨーロッパの本格ガーデンなどでウィンターガーデンの通っぽい見どころとして自慢げに植栽されることの多いガリア・エリプティカ(Garrya elliptica) という植物をご存じでしょうか。

ガリアはアメリカ西部原産のガリア科の常緑樹で、「シルクタッセルブッシュ」とも呼ばれ、花の少ない冬の時期に、キブシよりもさらに長いヒモ状に垂れる花序を咲かせます。しかし、ガリアは日本国内だとほぼ全く流通がないため、洋書などで知り欲しいと思っても、日本ではたいへん入手困難なんですね。

ガリアに見立ててキブシを植栽するというのも、日本から発信できる面白い目利きだと思いますし、持続可能性という面から見ても環境にマッチしたチョイスといえるのではないでしょうか。
【DATA】
■ キブシ科
■ 学 名: Stachyurus praecox
■ 主な花期:晩冬~春
■ 樹 高:3~5m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:日向~半日陰
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コリロプシス・スピカタ(=トサミズキ) ‘スプリング・ゴールド’
晩冬~春の時期(関東地方平野部だと3月後半頃)、葉の芽吹きに先立って、クリームイエローの下垂する花序を咲かせる、日本の土佐(高知県)の山野を主な起源とする落葉低木、トサミズキの黄金葉品種です。

トサミズキも前出のキブシと同様、細長い花序が枝からぶら下がっているような様子で開花しますが、キブシよりも花が大きく、そして花序が短いので、よりずんぐりしたボリューム感となります。

本種は開花後に芽吹き、展開する葉色の移ろいもとても美しい品種です。まず、黄金葉にピンク色が乗ったような美しい葉色で芽吹き、春本番期にはピンクが抜けて鮮やかな黄金葉となります。その後、初夏以降は少しライムグリーンみを帯びた明るく爽やかな葉色に、秋にはアンバー~オレンジがかるように紅葉し、美しい葉色の移ろいを長く楽しめます。

日本の気候に合い、育てやすいですが、水切れにはとても弱いので、特に鉢植えの場合は注意しましょう。また、真夏の強い直射で葉焼けすることがあるので、明るい半日陰程度の場所に適します。ナチュラルな風情とデザイン性の高い葉色を兼ね備えた素敵な品種です。
【DATA】
■ マンサク科
■ 学 名: Corylopsis spicata ‘Spring Gold’
■ 主な花期:早春
■ 樹 高:2~3m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:半日陰
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コリルス アベラナ (=西洋ハシバミ) ‘レッド・マジェスティック’
ヘーゼルナッツの木としても知られる、西洋ハシバミの雲龍枝銅葉品種です。コリルス・アベラナは、ヨーロッパの大陸部から地中海沿岸にかけての地域原産で、晩冬~早春(関東地方平野部だと2月下旬~3月中旬頃)にクリーム色のフリンジ紐が枝からぶら下がっているような様子の花序を咲かせます。

本種 ‘レッドマジェスティック’ は、雲龍枝かつ銅葉の多芸品種で、冬の落葉期に現れるグネグネと荒ぶって曲がる枝姿が、西洋の不気味なおとぎ話の挿絵のような奇観を呈します。グネグネした枝と重力にしたがって垂直に下がる花序との対比もオーナメンタルで、冬枯れの庭で絶好のフォーカルポイントになりますよ。

春~秋も銅葉を楽しめ、樹が成熟すると、ヘーゼルナッツとして食用できるドングリ状の実がなります。

雲龍枝の品種全般にいえることですが、枝がグネグネと曲がって成長する分、直線的に成長する基本種よりも生育が緩慢に見えます。早く大きく育つ基本種よりも剪定の手がかからず、見た目のインパクトも強いので、ドラマチックな植栽シーンの演出におすすめです。土壌の乾燥に弱いことと、極寒地では花が傷んでしまいナッツが実りにくいことを除き、性質も強く育てやすいです。野菜やハーブ、草花を混植したポタジェのシンボルツリーとしても素敵でしょう。
【DATA】
■ カバノキ科
■ 学 名:Corylus avellana ‘Red Majestic’
■ 主な花期:早春
■ 樹 高:3m程度
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
冬庭で活躍する技アリ樹木関連のアーカイブ記事
花の少ない冬~早春に開花する、ちょっと技ありな花モノ落葉樹、いかがでしたでしょうか。
本連載「ACID NATURE 乙庭 Style」の過去記事では、本記事の樹木以外にもウィンターガーデンのおもしろい樹木素材として、新感覚に使える和風常緑樹や、冬季の幹の色やテクスチャー・枝姿を観賞する落葉樹などもご紹介しています。

●冬の庭でも活躍する技アリ素材、和を感じるカラーリーフ常緑樹 10選【乙庭Styleの植物6】

●落葉期にハッと魅せられるおもしろ枝モノ樹木 その1~サンゴミズキの仲間【乙庭Styleの植物7】

●落葉期にハッと魅せられる!おもしろ枝モノ樹木 その2~カラーステム&雲龍枝【乙庭Styleの植物8】

「順境は春の如し。出遊して花を観る。逆境は冬の如し。堅く伏して雪を看る。
春はもとより楽しむべし。冬もまた悪しからず」
(佐藤 一斎 儒学者 1772 – 1859)
Photo/ 1) tamu1500 2) TTphoto 3) Gabriela Beres 4) Wuttisit Somtui 5) Peter Turner Photography 6) Olha Solodenko 7) Earth Point 8) Rolf E. Staerk 9) Podolnaya Elena 10) nnattalli 11) Tony Baggett 12) Beach Creatives 13) Alex Manders 14) Svetlanko 15) Alexander Denisenko 16) Gabriela Beres 17) Jean-Edouard Rozey 18) Laurens Hoddenbagh 19) Yukikazu 20) Peter Turner Photography 21) Varts 22) Melanie Hobson 23) MarjanCermelj 24) Naoto Shinkai 25) mitzy 26) Tomohiro Yamashita 27) JenJ Payless2 28) COULANGES 29) Irina Borsuchenko 30) Valentyn Volkov 34) Rolf E. Staerk /Shutterstock.com
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -

おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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