冬から春に美しく豪華な花が株いっぱいに咲く、洋ランのデンドロビウム・ノビル系。洋ランといっても、温室などの特別な施設はまったく必要がなく、寒さにも強いので家庭でも育てやすい植物です。洋ランならではの美しい花は、育てて咲かせると喜びもひとしおで、根強いファンはコレクションするほど。この記事では、デンドロビウム・ノビル系の特徴と性質、その仲間や育て方を栽培のプロが解説します。
目次
デンドロビウム・ノビル系の基本情報

植物名:デンドロビウム・ノビル系
学名:Dendrobium
科名:ラン科
属名:セッコク属
原産地:東南アジア、インド、ネパール、中国南部
形態:多年草
デンドロビウム・ノビル系は日本で育種が盛んに行われた洋ランで、その素晴らしさは世界に誇るレベルです。節のある太い茎のようなバルブはほぼ直立して伸び、バルブ全体を覆うようにたくさんの花を咲かせます。
冬から春に開花株が流通し、豪華で美しい花を咲かせる多くの品種があります。ギフトにも選ばれる豪華でボリュームのある大株から、テーブルの上に気軽に置けるコンパクトなサイズまで大きさも幅広くあります。花色はピンクや赤紫、白、黄色、オレンジ、緑などがあり、さまざまな色合いの複色の花も多いです。花持ちがよく、1~2カ月以上美しい花を楽しめます。
洋ランの中では特に寒さに強いほうで、家庭でも十分育てられます。近年は日本原産のセッコク(Den. moniliforme)との交配により、コンパクトで寒さに強い品種が増えています。
デンドロビウム・ノビル系の特徴・性質

園芸分類:ラン
開花時期:2~5月
草丈:20~60cm
耐寒性:弱い
耐暑性:強い
花色:花色はピンクや赤紫、白、黄色、オレンジ、緑、複色
樹上で根が付着して育つ、着生ランです。原種のノビル(Dendrobium nobile)は、東南アジアの山岳地帯などが原産です。樹木の高い位置によく着生し、充分な日光と風通しのよい環境で生育します。自生地では冬は3℃くらいまで温度が下がり、夏は40℃まで温度が上昇することもあります。また乾季には2カ月ほど雨が降らないことがあり、長期間の乾燥に耐えます。
光沢のある楕円形の葉を左右交互につけ、1年ほどで落葉します。通常育てた場合、主に春に開花します。花は落葉した古い茎に咲くものと、葉をつけた状態の新しい茎に開花するものに分かれます。現在の品種は、新しい茎に咲くタイプがほとんどです。咲き終わった茎に再び花が咲くことはありませんが、新芽の成長に蓄えた栄養分が使われます。
デンドロビウムの仲間
熱帯アジアから太平洋諸島、オセアニアなどに約1,600種が知られています。種類が多く、栽培されているデンドロビウムには以下のタイプがあります。
デンファレ

茎の先端から花茎を伸ばし、コチョウラン(ファレノプシス)のような花を付けるタイプです。直射日光を好み、高温性で最低温度を15℃以上保つ必要があります。タイなどから輸入された切り花がよく流通しています。
キンギアナム系

オーストラリア原産で、性質が強く丈夫で育てやすいです。花色はピンクや白、紫、黄色などがあります。関東地方南部や都心部などでは屋外でよく越冬します。ノビル系とほぼ同じ管理で育てます。
デンドロビウム・ノビル系の品種
ピンク・ビューティー ‘クィーン’ Dendrobium Pink Beauty ‘Queen’

濃いピンクに黄色の目が入った大輪の品種です。花付きがよく、丈夫です。
オリエンタル・スマイル ‘バタフライ’ Dendrobium Oriental Smile ‘Butterfly’

花色が変化する美しい花が咲き、ピンクや黄色の花は、あかね色に色づきます。
スプリングドリーム ‘アポロン’ Dendrobium Spring Dream ‘Apollon’

白に薄緑の目が入る清楚な美しさが魅力の品種です。非常に花付きがよく、育てやすいです。
‘スイートキャンディ’ Dendrobium ‘Sweet Candy’

以前から流通する定番の品種です。原種の特徴をよく受け継いだ美しい花がたくさん開花します。
デンドロビウム・ノビル系の栽培12カ月カレンダー
植え替え適期:4~6月
肥料:5~7月
入手時期:12~5月
デンドロビウム・ノビル系の栽培環境

適した環境・置き場所
葉焼けしない範囲で明るい場所で育ててください。また風通しのよい環境を好みます。
4月から11月上旬は、屋外で育てるとよいでしょう。4月と10月以降は直射日光に当てますが、葉焼けの心配がある5月から9月は、30~50%程度の弱めの遮光をしてください。
また地面から離した高い位置に鉢を置くようにします。コンクリートの上などに直接置くと、照り返しによる蒸れなどで株が弱ります。
生育温度
13~25℃が生育に適した温度です。夏は遮光して水分が十分なら、暑さで弱ることはありません。
冬越し
寒さに強く、関東南部や都心部の条件のよい場所では屋外で越冬することもあります。よく花を咲かせるには、室内に置いて7℃以上を保つとよいでしょう。窓の近くの日当たりのよい場所に置いてください。
デンドロビウム・ノビル系の育て方・日常の管理

水やり
4月から9月は、植え込み材料の表面が乾いたらたっぷり水やりしてください。過湿にすると根が腐りますが、特に春の温度が低い時期に根腐れが起こりやすいので注意してください。また受け皿に水を貯めると過湿になるので、避けてください。
7月から9月の晴れた日は、乾燥が激しいので1日1~2回の水やりが必要なことがあります。夏に水分が不足すると葉焼けしやすくなり、株も弱ります。一方、水分が充分な状態なら40℃近くの高温にも耐えます。
花芽を付けるために、10月からは乾燥気味に管理します。水やりは3~4日に1回を目安としてください。最低温度が10℃以下になったら、7日に1回、水やりします。与える量も夜までに乾く程度を心がけてください。
肥料
肥料は控えめに与え、与える時期を間違えないようにすることが大切です。
最低温度が10℃以上になる5月から7月に肥料を与えます。8月以降に肥料を与えると、かえって花が咲きにくくなるので注意してください。
3要素が等量、または洋ラン用の液体肥料を月に2~3回与えます。鉢花や観葉植物、シンビジュームより薄い倍率で、商品により異なりますが1,000倍程度を目安に薄めて施します。
また根が傷んだ株には、さらに根が傷むので肥料を与えないでください。
病害虫
新芽や蕾などがナメクジに食害されます。屋外で発生しやすいので注意して下さい。
冬に購入した開花株の管理
温度の低い場所(5~10℃)に置くと、花が長もちします。日照不足解消のために、窓際の日当たりのよい場所に置く必要はありません。暖房機の近くや風の当たる場所には、鉢植えを置かないようにしてください。
水やりは冬の通常通りでよく、7~10日間隔で少量与えます。与えすぎると根を傷めて、花も早く終わってしまいます。
デンドロビウム・ノビル系の植え替え

購入した鉢植えは、すぐに植え替えなくても大丈夫です。1~2年後くらいでほぼ問題ありません。
用土と鉢
①ミズゴケと素焼き鉢
②ベラポン(ヤシガラの植え込み材)とプラスチックまたは陶器製の鉢
③バークとプラスチックまたは陶器製の鉢
以上の組み合わせで植えます。
①のミズゴケは生育に定評がありますが、植えるのにコツが要ります。
②と③の組み合わせは、植えるのが簡単ですが、③は乾きすぎる欠点があります。
鉢のサイズは、根が収まる範囲で小さめのものを使います。鉢が大きすぎるとかえって通気性と水はけが悪くなり、根が傷みやすくなります。
植え替え
4月から6月が植え替えの適期です。根が成長して鉢の中に伸びるスペースが無くなる2~3年くらいの間隔で、一回り大きな鉢に植え替えるようにしてください。また根がびっしりと張っているミズゴケやベラポンは無理に崩さず、鉢増しします。無理に崩すと根の損傷が激しくなるので避けてください。腐っている根は、部分的に取り除きます。
根鉢が水分を含み、根が柔らかい状態で植え替えましょう。長い根は切らずに鉢の内側に巻きつけるようにします。底穴に鉢底ネットを敷き、発砲スチロール片を用土の1/4程度入れます。新しい植え込み材料をやや多めに足して、一回り大きな鉢にやや固めに植えます。植える際は、深植えにならないように注意してください。
植え替え後の管理
植え替え直後は、水やりを控えます。明るい日陰に置き、水やりは少量を与えます。2週間くらいは乾かし気味に管理してください。その後は徐々に水やりを多くしていきます。
植え替えて1カ月後くらいから日光に当てます。肥料は2~3カ月くらいの間は与えないようにしてください。
デンドロビウム・ノビル系の日常の手入れ

花後の手入れ
花が咲き終わったら、花茎を付け根から切り取ってください。
花が咲き終わった茎は、切らずに1~2年ほどはそのままにしてください。栄養を蓄えているので、新芽の成長に役立ちます。2年経って茎にしわがよったら、地際から切るとよいでしょう。
鉢から根がはみ出ることがありますが、切る必要はありません。根が多いほうが生育がよいです。
増やし方
バルブの上方に「高芽(たかめ)」と言われる子株ができます。高芽を育てることで、容易に増やすことができます。高芽の根が伸びたら摘み取り、小さな鉢にミズゴケで植えます。
株分けは、根を著しく傷めることが多いため、栽培上級者以外は避けたほうがよいでしょう。
デンドロビウム・ノビル系の栽培ポイント

- できるだけ日光に当てる
- 春から夏は水を十分に与える
- 10月から水やりを控える
- 5月から7月に肥料を与え、時期を間違えないように注意
洋ランのなかでも、デンドロビウム・ノビル系は強健な性質で育てやすく、初心者におすすめです。花色やサイズが豊富で、好みの一鉢を見つけることができるでしょう。株いっぱいに豪華な花が咲くので、開花株を部屋に置けば見事な華やかさです。育てるのに慣れてきたら、板付けすればおしゃれな雰囲気で楽しめます。手頃な価格で流通することも多いので、気軽に栽培に挑戦してみてください。
Credit
文 / 小川恭弘 - 園芸研究家 -

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