スズメバチに似た黄色と黒の大きな姿で飛び回るアシナガバチ。庭に飛んでくると思わず警戒してしまいますが、実際には、私たちに代わってせっせと害虫を駆除してくれるありがたい益虫なのです。性質はおとなしく、刺激しなければ刺される危険性は高くありません。有機無農薬で、メドウ(野原)のようなローズガーデンを育てる持田和樹さんが、実際に庭に取り入れているアシナガバチを活用した害虫対策の効果や、そのエピソードをご紹介します。
目次
害虫対策に効果的なアシナガバチ

私は、バラや野菜、ハーブの有機無農薬栽培を長年続けてきました。ガーデンでは、自然と調和を図りながら草や生き物を活用したアグロエコロジー(=自然と共存する持続可能な農業を目指すこと)を実践しています。
今回は、6年ほど前から取り組んでいる、アシナガバチを活用した害虫対策についてお話ししたいと思います。
アシナガバチというと毒性も強く、刺されるとかなり痛いことから、怖いという印象が強いと思います。
しかし、私はそんなアシナガバチを、あえて「養蜂」しています。ミツバチの養蜂はあっても、アシナガバチの養蜂をしているという話は聞いたことがないのではないでしょうか。正確にいうと「養蜂」というより、アシナガバチを殺さず、共生できる環境を整え、庭や畑の一員として共に仲よく暮らすことを実践しています。というのも、アシナガバチは優秀なハンターでもあるからです。それでは、彼らの大活躍について、詳しくご紹介しましょう。きっと、アシナガバチへの見方が変わりますよ。
優秀なハンター、アシナガバチ

■ アシナガバチは、1つの巣で1日あたり数百匹単位の害虫を駆除する
アシナガバチは、1日におおよそ20〜30匹の害虫を捕獲・捕食するといわれています。これは、巣にいる幼虫たちに与えるエサを確保するためで、活動が活発な初夏〜夏の時期には特に精力的に虫を狩ります。
4月くらいから越冬した女王バチが巣を作り始め、夏の害虫が増える時期に合わせてどんどん巣は成長していきます。
■ なぜそんなに多くの害虫を狩るのか?
アシナガバチの巣は、女王バチ1匹と働きバチ数十匹から成り立っています。働きバチは日中、せっせと以下のような害虫を探して飛び回ります。
捕食対象の例:
- キャベツやブロッコリーにつくモンシロチョウの幼虫(アオムシ)
- バラやツバキに発生するガの幼虫
- ナスやピーマンの葉を食べるヨトウムシ類
- サツマイモやイチゴの天敵であるハスモンヨトウ
- カキやサクラにつく毛虫類
これらを捕らえると、口で噛み砕きながら「肉団子」のように加工して巣に持ち帰り、幼虫に与えます。
このようにアシナガバチは、さまざまなガやチョウなどの幼虫類を好んで捕食します。これらの幼虫類は発生期間が長いうえに、産卵数も多いため何度も繰り返し被害にあう、ガーデナーにとって非常に厄介な害虫です。無農薬で栽培する場合、効果的な散布資材も少なく、人の手で害虫を取り続けるのはとても根気がいる作業です。しかし、高い知能を持った高性能捕食生物であるアシナガバチがいれば、私たちの代わりに無償で働いてくれるのです。
■ 行動のサイクルと捕食数の根拠
アシナガバチの行動サイクルは太陽に従っており、朝から夕方まで、何度もエサを探しに飛び立ちます。1回の外出で1匹、時に2匹の害虫を捕まえ、数時間の間に何度も巣と外を往復するため、1匹の働きバチで1日に20匹前後の害虫を捕獲することが可能です。
巣全体では10〜30匹以上の働きバチが活動するため、1つの巣で1日あたり数百匹単位の害虫が駆除されている計算になります。 夕方には働きバチが全員巣に戻ってくるので、その時に何匹いるのかも把握できます。

アシナガバチのガーデニングへの活用法と注意点
アシナガバチの捕食力を活かすためには、以下のような環境づくりが有効です。
| 工夫 | 理由と効果 |
| バラや野菜畑の近くに水場を用意する。 | アシナガバチは水を好むため、定住や巡回しやすくなる。飲み水としてだけでなく、巣を冷やすために水を利用。 |
| 農薬の使用を控える。 | アシナガバチ自体を守ることはもちろん、捕食対象の虫がいなくなると巣が保てなくなる。 |
| 巣の場所を把握し、人との距離を確保する。 | 安全を保ちながら共生できる。 |

注意すべき点
アシナガバチはおとなしい性格ですが、巣を刺激すると防衛本能で刺されることもあります。私も草刈りをしていて気付かずに巣を刺激してしまい、刺されそうになったことが時々あります。
人間に置き換えてみれば当たり前のことですが、大切な家族や子どものいる家を壊そうとしたり、襲おうとしたら人間でも必死で抵抗しますよね。それと同じでアシナガバチからしてみれば、こちらは巨人ですから、命懸けで守ろうとするのも当然です。
アシナガバチの毒性はそれなりに強いため、アレルギー体質の人や過去に刺されたことのある人などはアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。十分注意しましょう。
共生のためのポイント
アシナガバチに刺されないための工夫として重要なポイントが2つあります。
①アシナガバチの巣を見つけたら、必ず分かるように目印をつける。
支柱などを近くに立てておくと、草が伸びても目立つのでおすすめです。
②人が通る場所の近くや、人が刺激しやすい場所に巣を作らせない。
女王バチは4月頃から巣を作り始めます。小さい巣のうちは、巣を落としても襲われる危険性はほとんどありません。私が観察する限り、女王バチはとても大人しい性格です。しかし、巣が大きくなって働きバチが増え、幼虫も増えると攻撃的になりやすい傾向があります。なるべく巣が小さいうちに見つけ出し、場所が悪い巣は早めに落とすようにしましょう。
知ればもっと興味が湧く⁉ アシナガバチの豆知識&エピソードいろいろ

■ アシナガバチは人が好き
アシナガバチは、とても大人しい性格です。私が庭や畑の手入れをしていると、周囲を飛び回りながら植物のパトロールをしている姿をよく見かけます。私のことは気にせず、せっせと獲物探しに夢中になっています。新しい植物を植えていると近くに寄ってきて、さっそくパトロールをして虫がいないか丁寧に観察している様子も見られます。
もちろん、巣を刺激すると怒ることはありますが、それ以外で襲われた経験はありません。むしろ、近くに寄ってきて、まるで一緒に手入れを手伝ってくれているようです。
日常的に利用する道のすぐ近くで、巣を発見することもよくあります。そんなとき、巣から数十センチの距離まで近づいて観察していても、襲ってくることはありません。まるで、庭や畑の管理者が誰なのか、よく分かっているかのようです。
■ 手入れをしないと巣を捨ててしまう
意外かもしれませんが、アシナガバチの巣ができたから刺激しないように放っておこうと、巣のある場所の草刈りをあまりしないでおくと、高確率で巣を捨てて全員いなくなってしまいます。
ミツバチの養蜂家に聞いた話によると、ミツバチはダニに弱いとのこと。風通しが悪く過湿になると、ダニで死んでしまうことがあるそうです。この話を聞き、巣ができたらその周りの草刈りや手入れを定期的にやるようになってから、途中で巣を捨てて家出してしまうことが少なくなりました。
■ じつはアリに弱いアシナガバチ
虫の中ではとても強いイメージのあるアシナガバチですが、意外とアリに弱いという特徴があります。じつはハチの巣の付け根を観察すると、巣の色が黒くなっています。これは、アリ除けの物質でコーティングしているのだそうです。
アシナガバチの卵や幼虫を捕食対象とするアリは、アシナガバチの天敵。私も、何十倍も小さいアリに巣が襲われていて、せっかく大きくなった巣が壊滅している所を一度だけ目撃しました。確かにアリの大群に襲いかかられたら、いくら毒針と強靱なアゴを持っていても太刀打ちできないでしょう。
巣の周囲に草が覆い被さる環境ではアリに狙われる危険性も高くなるため、それもあって手入れされていない場所を嫌がるのかもしれません。

■ 木の柱を削るアシナガバチ

ある時、通路にある木の柱にアシナガバチがウロウロしている所を発見しました。周りの人々は殺虫剤でやっつけろと慌てていましたが、落ち着いてアシナガバチの様子を観察していると、木の柱をアゴで削り取り、巣に持ち帰っていることが分かりました。
これは、木の柱から巣の材料となる素材を集めているのです。それ以降、周りの人にアシナガバチが飛んでいてもいじめないように伝えていますが、今のところ近くを飛んでいても刺されたことは一度もありません。
■ 不思議な出来事 ハチのネットワーク
以前、どうしてもハチの巣を撤去しなくてはならない状況で、他の人が殺虫剤で駆除したことがあります。しかしその翌日、私が歩いていると、全く別の巣のアシナガバチに突然襲われました。まるで人間に襲われ、他の巣の仲間が亡くなってしまったことを悲しみ、怒っているようでした。
この時、アシナガバチはほかの巣のハチたちとも情報交換をしていると、身をもって確信しました。こちらが優しく接していれば攻撃してくることはありませんが、こちらが敵意を見せて駆除しようとすれば、ハチも攻撃的になるのかもしれません。
■ バラと共生するアシナガバチ

長年バラの栽培をしていて気が付いたことがあります。それは、アシナガバチは好んでバラに巣を作るということ。なぜバラを好むのかと観察していると、バラのトゲをかじっている姿を目にしたことがありました。はっきりしたことは分かりませんが、バラのトゲは巣の材料に適しているのかもしれません。
また、バラのつぼみが幼虫にかじられて傷口から汁が出ると、それにアシナガバチが引き寄せられ、周囲を丁寧にパトロールしている姿もよく見られます。この汁は、アシナガバチ以外に、アリも引き寄せる効果があるようです。バラが捕食者を呼ぶSOSの香り物質を拡散しているのかもしれません。
現代科学で次第に証明されてきていますが、植物と生物の共生関係は太古から続いています。私は、バラが用心棒としてアシナガバチと共生していると、長年の観察から実感しています。

■ 種類によって好む環境が違う
アシナガバチを観察して気づいたことは、バラにはバラを好むアシナガバチがいるということ。日本には11種類のアシナガバチが生息しているとされていますが、バラに好んで巣を作るアシナガバチは、中型~小型の黄色の縞が少ないアシナガバチです。特に地面から近いバラの枝に巣を作ります。
また代表的な足が長く黄色と黒がはっきりした大型のキアシナガバチなどは、軒下などの雨の当たらない高い場所に作りたがります。
このように種類によって好む環境が異なることに注目すると、あえて好む環境を作っておき、ハチを誘導することも可能です。

■ アシナガバチのタワーマンション

アシナガバチを庭に呼ぶべく、私が実際に取り組んだのは、アシナガバチの巣の設置場所を整えること。直径20cmの大きなパイプを奥行き30cmの輪切りにして、それを10列くらい並べ、腰の高さほどにまで積み重ねて置いたところ、見事にアシナガバチたちが巣を作ってくれました。
パイプごとに仕切られているため、互いの巣が干渉し合うこともなく仲よく暮らしてくれる様子は、まるでパイプでできたハチのタワーマンションのようでした。
もちろん、その年の害虫の被害が減ったことは言うまでもありません。
■ 匂いに敏感なアシナガバチ
アシナガバチを誘致するうえで重要なことは、殺虫剤を散布しないことです。
アシナガバチは毎年、前年に巣を作った近くに戻ってくる習性があるそうです。それは、残っている巣の匂いやフェロモンを嗅ぎ分けて、安全な環境だと察知して戻ってくるためと考えられています。
一方で、長年観察しているうちに、殺虫剤を散布された場所は殺虫成分が残留して匂いが残っているせいか、そこには戻って来ないことがあることにも気づきました。前述のアシナガバチのタワーマンションも、毎年たくさんの巣ができていたのですが、工事の関係で殺虫剤が散布された結果、アシナガバチは来なくなってしまいました。
個人的な見解ではありますが、有機的な防虫資材も、害虫だけでなく、アシナガバチのような害虫を駆除する生き物(益虫)も嫌がって逃げてしまうと考えています。益虫がいなくなると害虫が増えることにつながり、結果的に人間の仕事が増え、庭管理に苦労することになります。
ですから、私は害虫防除のための散布剤を一切まいていません。それよりも、健全な生態系を持つ環境作りに集中することで、食物連鎖が正常に機能し、結果として害虫被害が減っています。
害虫による被害が出た場合、部分的な対処に目が向きがちですが、互いに影響し合う相互関係で成り立っている自然環境では、全体を整えることが何より重要です。
■日本におけるスズメバチ・アシナガバチの利用と共存の歴史

日本では古くから、スズメバチやアシナガバチを農業や暮らしの中で利用・共存してきた記録があります。特に害虫駆除やタンパク源としての利用、また民俗的・文化的な側面でも関わりが見られます。
① 害虫駆除としての利用(自然の益虫)
- アシナガバチやスズメバチなどは、毛虫・青虫・甲虫の幼虫などを捕まえて巣に運びます。
- 昔の農村では、こうした肉食性のハチを「畑の守り神」として扱い、巣を壊さずにあえて残すこともありました。
- 特に農薬が普及する前は、ハチによる自然の害虫制御システムが貴重な役割を果たしていました。
② スズメバチの巣や幼虫の利用(食用・薬用)
- 東北地方や長野県、岐阜県、愛知県などでは、スズメバチ(特にクロスズメバチやオオスズメバチ)の幼虫や蛹を「蜂の子」として食用にし、貴重なタンパク源としてきました。蜂の子ご飯や炒り煮にして食べる文化が、今も一部地域に残っています。
- 成虫は焼酎に漬けて薬用酒(強壮・精力増進目的)として飲まれることもあります。
③ 民間信仰・縁起物としての位置づけ
- ハチの巣は「子孫繁栄」「家内安全」の象徴とされることがあり、古い民家の軒下に巣ができると縁起がよいとされることもあります。
- 巣を大切に保護し、引っ越しなどの際に神社に奉納する風習が残っている地域もあります。
■ まとめ

アシナガバチは、1日に20匹以上の害虫を駆除できる、自然界の頼もしいハンターです。うまく付き合えば、無農薬や減農薬の庭づくりにおいて強力な味方になります。自然と調和したガーデニングを目指す方には、ぜひ注目してほしい存在です。
危険性は確かにありますが、それはアシナガバチの暮らしや特徴、付き合い方を知らないことに起因するものが大きいと思います。私はアシナガバチと仲よくする「養蜂」を始めてから、一度も刺されていません。やみくもに恐れるのではなく、その生態を知ることで、刺される危険性を減らすことができます。
農薬が普及する前の日本では、アシナガバチをはじめとした生き物による自然の防衛システムをうまく活用していました。私たち人間の豊かな暮らしを維持していくために、豊かな自然環境は欠かせません。環境破壊・環境汚染による地球危機といわれてる現代だからこそ、改めて自然と共生する大切さを学び、活かさなくてはならないと感じています。
私たちにできる小さな取り組みの積み重ねが、未来を守る大きな一歩になると信じています。アシナガバチの観察を始めると、子育てしている姿が愛おしく感じることや、害虫駆除をしてくれる姿に感謝の気持ちも湧いてくるものです。ぜひ、自然に優しいガーデニングを一緒に楽しんでいきましょう。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 持田和樹

アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。
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