-ガーデンライフコーディネーター-
ローズと植物のある暮らしから、心と身体、意識を整える生き方を提案。自然と調和するバラの庭や菜園づくりを通して、人と地球の健康を育む活動を行う。福祉事業所での食用バラ栽培により、「生物多様性アクション大賞2019」審査委員賞受賞。
持田和樹の記事
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ストーリー

バラを守るのは人ではなく庭? 害虫を敵にしない「命のつながり」の庭づくり
なぜ今、オールドローズなのか まるで野原に咲くバラ。自然と共につくるローズメドウガーデン。 春の朝、庭へ出ると、まだ露の残る草花の間から一輪のバラが顔をのぞかせています。それは決して華やかに自己主張するような咲き方ではありません。まるで昔からそこにあった野の花のように、風景の中へ静かに溶け込んでいます。私が長年育ててきたのは、そんなオールドローズです。 現代のモダンローズには、整った花形や鮮やかな花色、繰り返し咲くという魅力があります。けれどもオールドローズには、それとはまた異なる美しさがあります。それは「自然の中に還る美しさ」です。枝は自由に伸び、風に揺れ、周囲の草花と共に季節を彩ります。主役でありながら決して目立ちすぎない。だからこそ私は、自然風の庭であるメドーガーデンに最も似合うバラはオールドローズだと思っています。 そしてもう一つ、オールドローズには現代の私たちが忘れかけている豊かさがあります。それは、香りです。朝露をまとった花から漂うダマスクの香り。夕暮れの空気に溶け込むやわらかな芳香。香りは目には見えません。けれども、人の記憶や感情に深く触れる不思議な力を持っています。忙しい毎日の中で立ち止まり、深呼吸をする。オールドローズは、そんな時間を私たちに贈ってくれる存在なのです。 香り豊かなダマスクローズの‘イスパハン’。 私はオールドローズを育てているというよりも、風景を育てているような気持ちで庭に向き合っています。そして、その風景の中には、私たちが思っている以上に多くの命が暮らしているのです。 バラを守るのは私ではなく、庭そのもの 私は害虫を見つけても駆除しません。農薬も散布しません。病気予防のための殺菌剤も使いません。それでも毎年、庭にはたくさんのオールドローズが咲いています。この話をすると、多くの方が驚かれます。「本当にそんなことができるのですか?」と。 私自身も最初からうまくいったわけではありません。けれども長年庭と向き合う中で、一つのことに気づきました。それは、植物を守るためには植物だけを見ていてはいけないということです。 害虫駆除をしなくても、毎年たくさんの収穫に恵まれます。 私たちは害虫を見ると、すぐに敵だと思ってしまいます。しかし、自然界には害虫だけが存在することはありません。その周りにはテントウムシがいて、クモがいて、カエルやトカゲ、小鳥たちがいます。本来、自然界ではそれぞれの生き物が役割を持ち、食物連鎖の中で数のバランスを保っています。問題は虫ではありません。その仕組みが働かなくなってしまう環境なのです。 黄昏時、黄金色に輝くバラたち。 そこで私が取り組んできたのが、生物多様性を高める庭づくりでした。ローズメドウガーデンでは、バラだけでなく、さまざまな宿根草やハーブ、蜜源植物を植えています。蜜源植物とは、昆虫たちに蜜や花粉を供給する植物のこと。春から秋まで花が途切れない環境をつくることで、多くの生き物たちが暮らせるようになります。すると庭の中で、少しずつ自然の循環が動き始めます。 周りの草花や生き物に支えられ、美しく咲くオールドローズ。 バラとともに咲くジャーマンアイリス。 アブラムシが現れれば、それを食べる生き物もやってくる。昆虫が増えれば、それを目当てに鳥たちも訪れる。やがて庭そのものが、小さな生態系として機能し始めるのです。私は植物を守るために、生き物を排除する方法を選びません。むしろ、生き物たちが暮らしやすい環境を整えることで、結果として植物も守られると考えています。私にとってローメンテナンスとは、手を抜くことではありません。自然の力を借りることです。自然を管理するのではなく、自然の仕組みを信頼すること。それが、私がたどり着いたバラとの付き合い方なのです。 自然の力を借りて美しく香り高く咲くオールドローズたち。 ローズメドウガーデンの設計思想~自然の仕組みを生かす庭づくり~ ローズメドウガーデンは、単にバラと草花を混植した庭ではありません。そこには明確な目的があります。それは、美しい風景をつくること。そしてもう一つ、生き物たちが暮らしやすい環境をつくることです。 私は庭づくりをするとき、まず「花をどう見せるか」ではなく、「どんな命が暮らせるか」を考えます。春だけ咲いて終わる庭ではなく、季節を通して花が続くこと。背の高い植物、低い植物、地面を覆う植物が共存すること。昆虫が休み、鳥が身を隠せる場所があること。そんな環境を整えていくと、結果として庭は自然に安定していきます。そして、その安定こそがローメンテナンスにつながります。 ダマスクローズの‘ボッザリス’。傷つきやすい白バラも、生き物たちが守ってくれ、たくさん咲いてくれます。 管理によって維持する庭ではなく、仕組みによって支えられる庭。私はそんな庭を目指しています。だからローズメドウガーデンでは、整いすぎた美しさよりも、少しだけ自然の余白を残します。植物が自由に広がる場所。こぼれ種が芽吹く場所。昆虫たちが暮らす場所。その余白があるからこそ、庭は年々豊かになっていくのです。 こぼれ種で毎年自然と花畑になります。 花を育てるのではなく、命の舞台をつくる ネペタやオルレア(オルラヤ)、野草と共に咲くオールドローズ。 春になると、オルレアの花には虫たちが集まります。初夏にはバラの周りを蜂たちが飛び交い、三尺バーベナには蝶たちが舞います。草むらにはクモが巣を張り、夕方になると鳥たちが庭を訪れます。 私が庭づくりを始めた頃は、花を咲かせることばかり考えていました。どうしたら病気にならないだろう。どうしたらもっとたくさん咲くだろう。どうしたら美しく見えるだろう。けれども長年庭と向き合ううちに、少しずつ考え方が変わっていきました。 ある日、バラの花にとまる一匹の蜂を眺めていた時のことです。その蜂は蜜を集めると、どこかへ飛び去っていきました。しばらくすると今度は草花に蝶がやってきます。足元ではクモが巣を張り、草むらでは小さなバッタが跳ねています。その光景を見ながら、私はふと思いました。この庭は私がつくったのではない。みんなでつくっているのだ、と。 オールドローズと共に咲くジャーマンアイリスやシャクヤク。 花だけを見ていた頃には気づかなかった世界が、そこにはありました。バラは虫のために咲き、草花は蝶を呼び、草や茂みは小鳥の隠れ家になる。そして生き物たちは、それぞれの役割を果たしながら庭を支えている。庭とは植物を並べた場所ではなく、多くの命が関わり合う舞台なのかもしれません。 まずは一株のバラから 最初から広い庭を作る必要はありません。たくさんの植物を植える必要もありません。まずは一株のバラからでも十分です。 そのバラの香りを感じること。花を訪れる虫たちを眺めること。季節ごとの変化を楽しむこと。そこからすべては始まります。庭づくりとは、植物を増やすことではなく、自然との関係を育てることなのかもしれません。 このローズメドウガーデンで育まれた無農薬のオールドローズたちは、花を咲かせるだけでなく、暮らしの中にもその恵みを届けてくれます。 私が一輪一輪と向き合いながら育てたバラから生まれたローズウォーターやローズペタルを販売しております。この庭の物語の続きを、ぜひご自宅でもお楽しみください。
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ガーデンデザイン

「整える庭」に疲れた人へ。頑張らないほど美しくなる「メドウガーデン」とは?
なぜ今、「メドウガーデン」が求められているのか Lois GoBe/Shutterstock.com かつて庭は、「きれいに管理するもの」でした。花が乱れないように切り戻し、雑草を抜き、一輪でも枯れれば整え直す――もちろん、その美しさには魅力があります。けれど近年、多くの人がその“整え続ける庭”に、どこか息苦しさを感じ始めています。忙しい毎日の中で、「ちゃんと管理しなければ」という感覚は、時に庭を“癒やし”ではなく、“義務”に変えてしまうのかもしれません。 そんな今、世界中で注目されているのが、自然の風景を生かした「メドウガーデン」です。メドウとは、本来“草原”や“野原”を意味する言葉。背丈の異なる草花たちが風に揺れ、虫や鳥が訪れ、季節ごとに主役が入れ替わっていく。そこには、完璧に整えられた花壇とは違う、“生きている風景”があります。例えば、一輪だけ高く咲く花。少し倒れながら揺れる草。こぼれ種から思いがけず咲いた花。メドウガーデンでは、そんな「自然の偶然」さえ、美しさになります。 3月下旬、菜の花と杏の木。 実際に庭に立つと、人は無意識に肩の力を抜いていきます。規則正しく並んだ景色ではなく、風に任せて揺れる植物たちを見ていると、人の心もまた、“自然のリズム”を思い出していくのです。現代は、情報も予定も多すぎる時代です。だからこそ今、人は本能的に、「管理された美しさ」より、「自然にゆだねられた心地よさ」を求め始めているのかもしれません。 ナチュラルなイギリスのメドウガーデン。Gail Johnson/Shutterstock.com 海外でも近年、ナチュラリスティックガーデンと呼ばれる自然風庭園が大きな広がりを見せています。四季によって姿を変える植栽。枯れ姿まで美しい庭。虫や鳥たちも共に生きる空間。“人が自然を支配する庭”ではなく、“自然と共に育っていく庭”へ。その価値観の変化は、これからの庭づくりを大きく変えていくのかもしれません。 メドウガーデンの魅力は、単にナチュラルな見た目ではありません。風を感じること。季節の変化に気づくこと。立ち止まること。そして何より、人自身が自然の一部だったことを、静かに思い出させてくれることなのです。 3月下旬のオオイヌノフグリとネモフィラ。 メドウガーデンとは、“風景を育てる庭” メドウガーデンを初めて見た人は、よくこう言います。「まるで自然の野原みたいですね」けれどじつは、その“自然に見える風景”の中には、人と植物との確かな対話があります。 花壇のように、形を整えて完成を目指す庭ではなく、メドウガーデンは、季節とともに変化し続ける“風景”を育てていく庭です。そこでは、植物たちが互いに競い合うのではなく、譲り合いながら共に生きています。春に咲く花。初夏に伸びる草。夏の風景を支える穂。そして、秋に光を受ける枯れ姿。主役はひとつではありません。その時々で、風景の中心が自然に移り変わっていく。それがメドウガーデンの大きな魅力です。 Emils Lukso/Shutterstock.com 一般的な花壇では、「一番美しい瞬間」を長く保つことが求められます。しかしメドウガーデンでは、咲き始めの初々しさも、種を結ぶ姿も、少し乱れた風景さえ、美しさになります。だからこそ、人はどこか安心するのかもしれません。 完璧に整えられた空間にいると、私たちもまた、“整わなければならない”気持ちになります。けれど、自然の風景はパーフェクトに整ったものではありません。少し傾いた草。思いがけない場所に咲く花。風によって変わる表情。その不均一さが、人の心を静かにゆるめていくのです。 メドウガーデンを作る“高さ”と“余白” 色とりどりのリナリアとヤグルマギクが彩る4月のメドウガーデン。 メドウガーデンでは「高さ」がとても重要です。低く広がる花。中層で揺れる草花。その上を抜ける穂や細葉。植物に高低差をつくることで、庭に“奥行き”と“風の流れ”が生まれます。さらに、花だけではなく、葉の質感や茎の線、穂の動きまで風景の一部として考えることで、庭は「色を見る場所」から、“空気を感じる場所”へ変わっていきます。 そして、メドウガーデンに欠かせないのが“余白”です。花を詰め込みすぎず、風が通り抜ける空間を残す。すると植物たちは、まるで音楽のように呼吸し始めます。揺れ方。重なり方。光の透け方。その一つひとつが重なり、庭は「作品」ではなく、“生きた景色”になっていくのです。自然に見える庭ほど、じつは繊細なバランスがあります。どの花を主張させ、どこを静かに見せるか。どの時期に景色が満ち、どの季節に穂や種で魅せるか。メドウガーデンとは、花を並べる技術ではなく、時間の流れまでデザインする庭なのかもしれません。そしてその風景の中に立つとき、人はただ花を見るだけではなく、風の匂い、虫の羽音、季節の移ろい――そんな“小さな自然”に、もう一度感覚をひらいていくのです。 31日で別世界になる。季節が移ろう庭の魅力 ヤグルマギクとリナリアの後ろに広がるタンポポの綿毛の風景。 メドウガーデンの魅力をひと言で表すなら、私はこう言いたくなります。「この庭には、“完成”がない」春に咲いていた花が終わる頃、今度は別の植物がそっと景色の中心に立ち始める。まるで舞台の主役が、静かに入れ替わっていくように。4月には、タンポポやイヌフグリ、スミレなど低く広がる草花たちが、やわらかな春の光を抱きしめるように咲き始めます。まだ空気には余白があり、風が地表近くを流れていく。そこへ初夏が訪れると、草丈は一気に伸び、ヤグルマギクやアグロステンマたちが風景に高さを与えていきます。同じ場所とは思えないほど、庭の表情は変わります。そして夏になる頃には、花だけではなく、穂や種、葉の陰影までもが景色をつくり始めます。 4月上旬、あえて残したタンポポやオオイヌノフグリが咲くエリア。 アグロステンマ、ヤグルマギク、クリムゾンクローバーが共演する4月下旬の風景。 メドウガーデンでは、「満開」だけが美しいわけではありません。咲き始めの初々しさ。散り際の静けさ。種を結ぶ力強さ。植物が命を循環させていく過程そのものが、庭の風景になっていくのです。だからこそ、この庭は飽きません。毎日同じように見えて、じつは一日として同じ景色がない。朝露をまとった日。強い風に揺れる日。雨上がりに香りが立つ日。自然は常に変化し、庭もまた、その瞬間ごとに姿を変えていきます。 Pictures_for_You/Shutterstock.com 「いつも同じ美しさ」を保つことではなく、「変化すること」が魅力となるメドウガーデン。少し乱れ、少し枯れ、また次の命へつながっていく。完璧であり続けるのではなく、季節ごとに変わりながら生きていく。その姿はどこか、人の人生にも似ています。 また、ガーデンの面白さは、“一年を通して風景を設計できる”ことにもあります。春だけではなく、初夏には何が立ち上がり、真夏には何が支え、秋には何が光を受けるのか。花色だけではなく、葉の質感や草姿、穂の動きまで重ね合わせることで、庭はより自然な奥行きを持ちはじめます。 メドウガーデンを彩る一年草と宿根草 ブルーのヤグルマギク、ピンクのアグロステンマの背景に、アーティチョークの銀葉が。 ガーデンの設計で、特に重要なのが、一年草と宿根草のバランスです。一年草は、その年だけの華やかさを生み、宿根草は、庭の骨格と季節の流れを支えます。さらに、こぼれ種で次の世代が育っていくことで、庭は少しずつ“その土地らしい風景”へ変化していきます。人がすべてを決めるのではなく、自然にも選ぶ余白を残しておく。それがメドウガーデンの豊かさです。31日後、同じ場所に立ったとき。そこには、まるで別世界のような景色が広がっているかもしれません。けれどその変化は、突然生まれるものではありません。風が吹き、雨が降り、虫が訪れ、植物たちが互いに譲り合いながら、少しずつつくり上げていくものです。メドウガーデンとは、「完成した庭」を眺める場所ではなく、時間そのものが育っていく景色を、共に味わう庭なのです。 頑張らないほど美しくなるメドウガーデンの管理術 野の花が咲くメドウガーデン。Miriam Doerr Martin Frommherz/Shutterstock.com 「こんなに自然に見える庭は、きっと管理が大変でしょう?」メドウガーデンを見た人から、よくそう聞かれます。確かに、植物たちが自由に伸びやかに育つ風景には、一見すると“手をかけ続けている庭”のような印象があります。けれど実際には、メドウガーデンは“頑張りすぎない”ことで、美しく育っていく庭です。むしろ、人が管理しすぎるほど、本来の自然な魅力は失われていきます。 例えば、植物たちは本来、互いに助け合いながら生きています。背の低い植物は地面を覆い、乾燥や雑草を防ぐ。その上に中草丈の花が重なり、さらに高く伸びる草花が風を受け止める。こうして層が生まれることで、土は乾きにくくなり、強い日差しからも守られていきます。つまり、植物が増えるほど、庭は少しずつ“自分で整う力”を持ち始めるのです。これは、自然の草原と同じ仕組みです。何もない裸地では雑草が勢いよく生えますが、植物同士が地面を覆い始めると、次第に雑草は入り込めなくなります。メドウガーデンで密植が美しいのは、見た目だけではなく、自然の循環に沿っているからなのです。 カモミールとクリムゾンクローバー。 また、水やりも同じです。ガーデンや花壇では、常に人が管理し続けることを前提にしている場合があります。けれどメドウガーデンでは、水やりをほとんど必要としません。水やりを自然の雨に任せることで、植物自身が根を張ることを促し、植物本来の力を発揮させることで乾燥にも強い庭へ育っていきます。もちろん、種まき後や植え付け初期には水が必要です。しかし、土が育ち、植物同士が支え合うようになると、次第に“自然のリズム”で維持できるようになります。 5月上旬、赤く穂が色づくヒメスイバ。 そして、メドウガーデンを語る上で欠かせないのが、「こぼれ種」の存在です。花が終わり、種が落ち、翌年また思いがけない場所から芽吹いてくる。その偶然は、人が設計した以上の美しさを見せてくれることがあります。もちろん、全てを放任するわけではありません。増えすぎる植物を間引いたり、風通しを整えたり、時には景色のバランスを調整することも必要です。けれどその管理は、支配するためのものではありません。植物たちが本来持っている力を、少しだけ手助けする感覚に近いのです。 Achira22/Shutterstock.com 私は時々、庭づくりとは“育てる”というより、“邪魔をしすぎないこと”なのではないかと思います。自然には、本来、整う力があります。花が咲き、虫が集まり、微生物が土を育て、また次の命へつながっていく。人がすべてを管理しなくても、植物たちは互いに関係し合いながら、風景を育てていくのです。だからメドウガーデンでは、少し枯れた姿も、揺れながら倒れる草も、次の季節へ向かう途中の風景として受け入れていきます。完璧に整え続けなくてもいい。少し自然に委ねることで、庭はもっと豊かになっていく。それはどこか、人の生き方にも似ているのかもしれません。頑張りすぎなくてもいい。少し肩の力を抜いたとき、人も庭も、本来の美しさを取り戻していくのです。 虫も鳥も、この庭の住人たち ハルジオンとアシナガコガネ。 メドウガーデンに立っていると、ふと気づく瞬間があります。「この庭をつくっているのは、人だけではない」ということに。春の朝、花の間を忙しそうに飛び回るミツバチ。風に揺れる草の上で羽を休めるチョウ。小鳥たちは種をついばみ、土の中では無数の微生物たちが静かに命を循環させています。人の目には見えなくても、この庭にはたくさんの命が暮らしています。そして、その小さな命たちこそが、庭を“生きた風景”へ育ててくれているのです。 かつて庭づくりでは、虫は「排除するもの」と考えられることが少なくありませんでした。葉を食べる虫。花を傷める虫。思い通りにならない自然。けれど、メドウガーデンに関わるほど、私は感じるようになりました。自然とは、本来、“命同士の関係”によって成り立っているのだと。例えば、ミツバチが花を巡ることで受粉が進み、種が生まれ、次の世代へ命がつながっていく。また、多様な植物があることで、特定の虫だけが大量発生しにくくなり、庭全体のバランスが保たれていきます。さらに、土の中では、菌や微生物たちが落ち葉を分解し、植物が育ちやすい環境をつくっています。つまり、庭とは単に“花を見る場所”ではなく、たくさんの命が関係し合いながら成り立つ、小さな生態系なのです。 ハルジオンが群れ咲く5月。 メドウガーデンの魅力は、その循環を感じられることにあります。朝と夕方で聞こえる鳥の声が違うこと。季節によって訪れる虫が変わること。花が終わる頃に、今度は穂や種を目当てに小鳥が集まってくること。庭は、静かに季節をつないでいます。特に印象的なのは、人が“整えすぎない”ことで、自然の豊かさが戻ってくる瞬間です。少し草を残しただけで、急にチョウが増えることがあります。農薬や化学肥料を使わないことで、土がやわらかく変わっていくこともあります。人が自然を管理するのではなく、自然と調和し協力し始めたとき、庭は驚くほど豊かな表情を見せてくれるのです。 野鳥が遊ぶドイツのメドウガーデン。Creative stock photo/Shutterstock.com 私は時々、メドウガーデンとは「人のための庭」というより、“命たちが共に生きる場所”なのではないかと思います。花だけが主役ではありません。虫も、鳥も、草も、微生物も、みんなで一つの風景をつくっている。だからこの庭には、どこか懐かしい安心感があります。人もまた、本来は自然の一部だったことを、身体が覚えているのかもしれません。風に揺れる花を見ているとき。鳥の声に耳を澄ませているとき。土の匂いを感じるとき。私たちはただ庭を眺めているのではなく、“命の循環の中”に立っているのです。そして、その感覚こそが、今、多くの人が求めている豊かさなのかもしれません。 心を回復させる庭 ddub3429/Shutterstock.com 人はなぜ、花畑を見ると立ち止まるのでしょう。なぜ風に揺れる草を見ているだけで、少し呼吸が深くなるのでしょう。メドウガーデンに立っていると、私は時々、植物には“人の感覚を取り戻す力”があるのではないかと思います。現代の暮らしは、あまりにも速く、情報が多く、人の感覚が休まる時間を失いやすくなっています。気づかないうちに、頭ばかりを使い、風を感じることも、空を見上げることも減っていく。けれど、本来の人間は、もっと自然の近くで生きていた存在でした。土の匂いで季節を感じ、空気の湿度で雨を知り、花の咲く時期で時の流れを感じていた。メドウガーデンには、そんな“人がもともと持っていた感覚”を、静かに呼び戻す力があります。 野花のヒメスイバ、キツネアザミ、イヌムギをアレンジに。 例えば、風。メドウガーデンでは、植物たちが風を「見えるもの」に変えてくれます。穂が揺れ、細い葉が流れ、花が一斉に同じ方向へ傾く。すると人は、普段は気づかなかった風の存在を感じ始めます。風を見る。それは、忙しい日常では忘れがちな感覚です。また、花に囲まれることで、人の心は不思議とやわらかくなります。特に、整いすぎていない自然な風景には、人を安心させる力があります。少し曲がった茎。咲き急がない花。それぞれ違う高さで揺れる植物たち。そこには、「そのままでいい」という空気があります。だからこそ、疲れている人ほど、自然の風景に深く癒やされるのかもしれません。 庭摘みの花を集めた花束。 私はこれまで、庭の中で人が変わっていく姿を何度も見てきました。最初は植物に興味がなかった人が、小さな芽吹きを楽しみにするようになる。忙しそうにしていた人が、いつの間にか鳥の声に耳を澄ませている。子どもたちが、虫を追いかけながら目を輝かせている。自然の中では、人は“何かになろう”としなくても、少しずつ本来の感覚へ戻っていくのです。それは大人だけではなく、子どもたちは特に、自然の中で感性を育てています。風の強さ。葉の手触り。花の香り。土の感触。五感を通して世界を感じる体験は、心の土台を育てていきます。 花を摘み取り花束にする子。 今、便利さと引き換えに、私たちは自然との距離を少しずつ失っています。けれど人の心は、本当は自然から完全には離れられないのだと思います。だからこそ、花畑に立つと安心する。風の音を聞くと、どこか懐かしく感じる。それはきっと、人の奥深くにある“自然の記憶”が反応しているからです。メドウガーデンとは、単に植物を楽しむ庭ではありません。人の感覚をひらき、呼吸を取り戻し、心を整えていく場所です。花を育てているようで、実は人自身もまた、自然に育てられているのかもしれません。 花瓶に活けた花畑の花たち。 はじめてでも育てやすいメドウガーデンおすすめ植物図鑑 メドウガーデンでは、一輪の豪華さよりも、植物同士が織りなす“風景”が大切になります。風に揺れること。季節とともに移ろうこと。虫や鳥たちが訪れること。そんな自然な景色をつくってくれる植物たちは、庭を「作品」ではなく、“生きた風景”へ変えてくれます。ここでは、初心者でも育てやすく、メドウガーデンにおすすめの植物たちをご紹介します。 〈リナリア〉 やさしい色彩と軽やかな揺れが魅力。春の風を感じるような景色をつくってくれます。 〈ネモフィラ〉 kanata_jp/Shutterstock.com 空を映したような青色が美しい花。庭に静けさと透明感を与えてくれます。 〈ヤグルマギク〉 風に揺れる細い茎と澄んだ花色が魅力。初夏の庭に軽やかな動きと奥行きを与えてくれます。 〈アグロステンマ〉 繊細な花姿が、野原のような空気感を演出。群れて咲くことで、自然な広がりが生まれます。 〈オルレア(オルラヤ)〉 pic0000/Shutterstock.com レースのような白花が、植物同士をやさしくつなぎます。抜け感のある自然な風景づくりにおすすめです。 〈クリムゾンクローバー〉 赤い花穂が草原のような景色をつくり、ミツバチたちも多く集まる植物です。 〈カスミソウ〉 Gardens by Design/Shutterstock.com 小さな白花が景色に余白をつくり、庭全体をやわらかく包み込みます。 ― 足元に広がる、小さな自然 ―おすすめの野草たち メドウガーデンでは、野草たちもまた、大切な風景の一部です。名もなき草花たちが加わることで、庭はより自然に、より豊かな表情を見せてくれます。 〈タンポポ〉 kazutaka.Japan/Shutterstock.com 春を告げる黄色い花。綿毛となって旅立つ姿まで、命の循環を感じさせてくれます。 〈スミレ〉 足元にそっと咲く、小さな花。控えめな美しさが、庭に静かなやさしさを添えます。 〈オオイヌノフグリ〉 早春の地面に広がる、小さな青い花。春の始まりを知らせる、野原の妖精のような存在です。 植物たちは、それぞれ違う高さや咲く時期を持ちながら、互いに支え合うように風景をつくっています。その姿はまるで、自然そのものが呼吸しているようです。 庭は、人が自然へ還っていく場所 Chutchawarn/Shutterstock.com 花を育てていると、時々、不思議に思うことがあります。植物たちは、誰かに褒められるために咲いているわけではありません。風が吹けば揺れ、雨が降れば受け入れ、季節が来れば、ただ静かに命を咲かせていく。その姿には、“自然に生きる”ということの本質があるように感じます。 私たちはいつの間にか、整い続けることや、効率よく生きることに追われ、自然のリズムから遠ざかってしまったのかもしれません。けれどメドウガーデンに立つと、人の心は少しずつほどけていきます。風の音に耳を澄ませること。花の香りに季節を感じること。小さな虫たちの営みに目を向けること。そんな何気ない時間の中で、人は“生きる感覚”を取り戻していくのです。 Lucy_W/Shutterstock.com メドウガーデンは、ただ花を美しく見せる庭ではありません。命が巡り、季節が移ろい、人と自然とが再びつながっていく場所。そしてそこには、完璧でなくてもいいという、自然からの静かなメッセージがあります。少し乱れてもいい。咲く時期が違ってもいい。それぞれの命が、それぞれの役割を持ちながら、一つの風景をつくっている。そんな風景の中に立つと、人はどこかほっとして、「このままでも大丈夫なのかもしれない」と、小さな安心感を取り戻していきます。 自然は、誰かを急かしたり、比べたりしません。ただ、それぞれの命を、そのまま受け入れている。だからこそ庭には、人の心をやわらかくほどいていく力があるのだと思います。私は、庭とは単に植物を育てる場所ではなく、“人が本来の自分へ戻っていく場所”なのだと思っています。花を育てているようで、本当は、私たち自身の感性や、やさしさが育てられている。風を感じること。空を見上げること。季節の変化に気づくこと。それは、自然の中にあった「生きる力」を、もう一度思い出していくことなのかもしれません。 庭をつくることは、自然を支配することではなく、自然と共に生きること。そしてその先にあるのは、“美しい庭”だけではなく、人の心まで、やわらかく変えていく風景なのだと思います。
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アレンジ

植物を枯らしてしまう人へ。育てない庭という選択|ドライフラワーで作る“時間を閉じ込めた”インドアガーデン
現代の暮らしに寄り添う花の存在 忙しい毎日の中で、ふと自然に触れたくなる瞬間はありませんか? 庭に出る時間はないけれど、部屋の中に少しだけ緑や花の気配があるだけで、心がやわらぐ。そんな経験をしたことがある方も多いでしょう。けれど、「植物を育てる場所がない……」「手入れが大変だから……」と、なかなか植物を育てることに踏み出せないこともあるかもしれません。 ドライフラワーは、植物の美しい瞬間をそのまま時間に閉じ込めた存在です。 水やりも日当たりも気にせず、そっとそこに置くだけで、部屋に自然のリズムを運んでくれます。そんなドライフラワーは、忙しい現代人の暮らしに寄り添う新しい「インドアガーデン」と言えるかもしれません。 生花のように世話をしなくてもいい。観葉植物のように環境を選ばなくてもいい。だからこそ、ドライフラワーは自由です。リビングの壁、キッチンの片隅、寝室の枕元……置く場所も、楽しみ方も、決まりはありません。 今回は、ドライフラワーを使った室内装飾を「インドアガーデン」という視点でご紹介します。あなたの暮らしの中に、静かに自然が息づく空間をつくるヒントをお届けします。 ドライフラワーだけで演出した空間。 ドライフラワーはなぜ人を惹きつけるのか ドライフラワーのある空間に額縁だけを置くと、絵画のような雰囲気に。 「植物と暮らしたい」と思いながらも、水やりや置き場所、枯らしてしまう不安から一歩を踏み出せない人は多いのではないでしょうか? そんな人にこそ、ドライフラワーは最初の一歩としておすすめの存在。生きた植物ではないけれど、確かにそこに“自然の記憶”が宿っています。 風に揺れ、太陽を浴びて育った花の時間が、そのまま部屋に持ち込まれる。それは、育てる庭とはまた違う、味わう庭のかたちです。 観葉植物や生花とは違い、ドライフラワーは「変化しない植物」です。この特徴が、空間や私たちの心に独特の作用をもたらします。 1.空間に“静けさ”が生まれる ドライフラワーには成長や動きがありません。その変化のなさが、視覚的な情報量を抑え、空間に深い静けさを生み出します。人は無意識にその静けさに同調し、思考や感情のざわつきが落ち着いていきます。 2.時間の美しさを感じさせる ドライフラワーは「枯れた姿」ではなく、時間を経た植物のもう一つの完成形です。その姿は、老いや変化、経年に対して、やさしい視点を私たちに与えてくれます。特に大人の女性に深く響く理由かもしれません。 3.空間に落ち着きをもたらすグラウンディング効果 生花や観葉植物が空間に広がりやみずみずしさをもたらすのに対し、 ドライフラワーは視線を内側へと誘い、空間を落ち着かせます。 地に足がつくような感覚や、心が穏やかに整う感覚が生まれます。 4.インテリアの質を一段引き上げる 落ち着いた色味と柔らかな質感は、空間から生活感をやわらかく引き算し、上質で洗練された雰囲気をつくります。 まるで海外の古いアトリエのような、奥行きのある空気感が生まれます。 5.感性や記憶に触れるノスタルジー ドライフラワーにはどこか懐かしさがあります。それは人の深層記憶や感性に触れ、安心感や心がゆるむ感覚をもたらします。 6.“完成された美”がある 生花が移ろいの途中にある姿だとすれば、ドライフラワーは時間を経て落ち着いた完成形。その安定感が、見る人に安心と満足感を与えます。 7.古くから親しまれてきた浄化・お守りとしての役割 古くからドライハーブやドライフラワーは、魔除けや空間の浄化、お守りに使われてきました。ドライフラワーの捉え方には諸説ありますが、水分が抜けた植物は“動きが止まった存在”とも言われ、場を静かに整える象徴として扱われることもあります。 8. 生花・観葉植物と決定的な違い ドライフラワーの最大の長所は、水も光も不要なので自由に飾ることができること。生きた植物とは違い、逆さに吊るしたり壁に掛けたりと、雑貨のようにオシャレに楽しめます。 生花は命の輝き、観葉植物は成長の喜び。ドライフラワーは「時間と共に変わる美しさであり、静かなヒーリング」です。 色褪せ、風合いが変わり、やがて静かな存在感に変わっていく……その過程を受け入れること自体が、暮らしを深くする体験になります。空間を落ち着かせ、人の心を内側へ戻し、感性をやさしく整えてくれるドライフラワーをインテリアに取り入れてみましょう。 稲の穂が実り豊かな雰囲気を演出。 実践編:飾り方のポイント 1.リビングでは「視線の高さ」を意識する 家族や来客が集まるリビングでは、天井から吊るすスワッグや壁に掛けるアレンジがおすすめ。視線が上に伸びることで、空間に広がりが生まれます。 ポイントは「どこに視線を向けさせたいか」。自然と目が行く場所に配置することが大切です。立っているときと座っているときでは視線の高さも変わるので、飾りたい場所に対して少し離れて配置を決めるとよいでしょう。また、高すぎたり低すぎたりしても違和感があります。心地よい高さに調整してみましょう。 家庭で飾るポイントは「飾りすぎないこと」。余白を作ることで、植物が主役になります。 空間に合わせた長さに切ると美しい。 2.玄関|出迎える小さな庭 風水において、玄関は家の“気”が出入りする場所とされています。ここにドライフラワーを1つ置くだけで、空間が整います。アレンジを季節ごとに入れ替えることで、玄関を整える習慣が生まれ、暮らしのリズムも自然と整っていきやすくなります。 豪華さのあるカシワバアジサイのドライ。 3.洗面所・トイレ|小さな自然が心をほどく 湿気が気になる場所では、ガラス瓶や小さな壁掛けで楽しむとよいでしょう。たった1輪でも、自然があるだけで空間の印象は変わり、落ち着いた雰囲気になります。 自宅でできる簡単ドライフラワーの作り方&ポイント ドライフラワーの作り方 stoLN team/Shutterstock.com 最も簡単なのは「吊るすだけ」。風通しのよい場所に逆さに吊るし、1〜2週間待つだけで完成します。 ドライフラワーをオシャレに作る一番のポイントは「最初が肝心」! 植物は乾燥すると固くなり、触るとボロボロと壊れやすくなってしまいます。そのため、最初の段階で素材の流れや表情を読み、どちらが表になるのか、それぞれの素材の流れや動きはどうかなどを見極め、組み合わせることが大切です。 正解はありませんので、完璧な仕上がりを目指さなくても大丈夫。少し歪んだ形こそ、自然の表情の1つだと思い、素材と向き合いあなたが感じたことや表現したい想いを大切にしてドライフラワーを作るとよいでしょう。 ドライフラワーを長持ちさせるポイント Bogdan Sonjachnyj/Shutterstock.com 直射日光と湿気を避けること。これだけでドライフラワーの日持ちは大きく変わります。 また、日光に当たると退色しやすいのですが、色褪せたら終わりではなく、褪せた色合いこそドライフラワーの魅力の1つ。色が褪せる=「劣化」ではなく「変化」であり、その変化を味わうことが心の豊かさにつながります。形が崩れたら、小さく切って贈り物に添える材料にしたり、リース作りの素材として接着剤で張り付けるなどして活用することもできます。 失敗は、別の楽しみ方への入り口。何に使えるか想像を膨らませて創作を楽しみましょう。 初心者でも失敗しないドライフラワー向き植物の選び方 コニファー‘ブルーエンジェル’ ドライフラワー作りに向いている花は、花弁が厚く、水分の少ない花。ミモザ、コニファー、ユーカリなどは失敗が少ないです。逆に水分の多い花は、無理にドライにしなくてもよいでしょう。 向き不向きを知ることが、植物と上手に付き合う第一歩。植物の種類だけでなく、ドライにするタイミングや工程、環境でも仕上がりが変わりますので、いろいろ試してみましょう。 ニガヨモギの花のドライ。つぶつぶの花が可愛らしいシルエットに。 植物の「影」をデザインする 植物のシルエットを壁紙のように演出。 ドライフラワーは、形や色を楽しむだけでなく、光を通したときに生まれる「影」もまた、大きな魅力の1つです。光の当て方によって壁や床に浮かび上がるシルエットは、植物が持つ自然の造形美を改めて感じさせ、逆光の中で見る姿も、いつもとは違う表情を見せてくれます。 植物の影が、空間や心にどのような変化を生むことが期待できるかをご紹介します。 1.空間に“自然の気配”が生まれる 植物そのものがあるだけでなく、影が加わることで、空間にいっそう自然の気配が広がります。目に見える存在以上に、やわらかな生命感が漂い、空間の緊張がゆるんでいきます。 2.呼吸がゆっくりと整う 植物の影は直線ではなく、有機的なゆらぎをもっています。このゆらぎは、見ているだけで気持ちを落ち着かせ、呼吸を深くゆっくりと整えてくれます。森林の中で感じる安らぎと、どこか似た感覚です。 3.光と影が“時間”を感じさせる 太陽の位置や照明の角度によって、影は少しずつ姿を変えます。その変化が、空間に静かな時間の流れを生み出します。忙しい日常の中で忘れがちな「余白」を、そっと思い出させてくれます。 4.部屋が“ギャラリー”のような質感になる 植物の影は、まるで壁に映し出されたアートのようです。特別な装飾をしなくても、植物と光があるだけで、空間の印象がぐっと洗練されます。 5.感性や想像力が刺激される 影ははっきりしすぎず、どこか曖昧さを残しています。その曖昧さが、想像力や感性をやさしく刺激します。ただ眺めているだけで、心が落ち着き、思考がゆるむ感覚が生まれます。 植物の影は、光と植物がつくり出す、もうひとつの美しさです。植物を飾るだけでなく、影まで楽しむことで、空間の奥行きや心地よさがいっそう深まります。 影の重なり方や距離で影の濃淡が変わる。 応用編①:紅葉を活かした秋のインドアガーデン 紅葉の美しさを愛でることは、秋を満喫する醍醐味です。花と同じように儚く散る一時の輝きですが、眺めるだけではもったいない。少しでも秋の美しさを長く楽しみ、生活に取り入れるアイデアをご紹介します。 左上の紅葉した木がナナカマド、白い穂のパンパスグラスとその前に咲くサザンカ、手前の黄葉がロウバイ。 1.紅葉アレンジメントのポイント 紅葉のアレンジメントの重要なポイントは「美しい瞬間に摘み取ること」です。 落ちてから拾った葉は、紫外線に当たって色褪せてしまったり、雨風や土埃で汚れていることが多いです。自宅の庭など採取できる環境であれば、ぜひ木についている美しい状態の葉を摘み取りましょう。すでに紅葉が始まっていれば簡単に採取することができます。 下の写真はナナカマドの紅葉を採取しリング状に並べたもの。同じ木から摘んだ葉ですが、そうは思えないほど個体差のある美しいグラデーションになっています。 ナナカマドの紅葉アレンジメント。 2.より美しく楽しむ為の注意点 紅葉した葉を美しい状態で長く楽しみたいのであれば、押し花のようにしっかりと重しを乗せて乾燥させることをおすすめします。植物の種類によって差はありますが、乾燥しながら内側に縮れてきてしまうことがあるからです。 私の経験では、ナナカマドやオリーブなどは内側に縮れてきてしまいました。コニファーは葉が細く固いので、ほとんど変わりなくドライにできます。 3.紅葉は葉だけでなく枝も楽しめる ナナカマドの赤く色付いた枝をロウソクに見立てたアレンジメント。 ナナカマドは、枝も赤く色づきます。このように植物によっては枝も紅葉し楽しめるものがあります。 色づいた枝もまとめて束ねると赤さが引き立ち、目を引くアレンジメントになります。アレンジの際には不要な葉を取り除き、枝の美しさが際立つよう調整するとよいでしょう。 応用編②:イチョウでつくる黄金のブーケ 黄金色のイチョウの絨毯。 イチョウも黄金色に輝く美しい葉が秋を彩る存在です。秋空の下、見て楽しむ方は多いと思いますが、簡単なアレンジメントにすれば、素敵なインテリアに生まれ変わります。 1.イチョウのブーケ イチョウの葉を束ねて作るブーケ。 イチョウの黄金色に色付いた葉を手の中で束ねていくと、まるでお花紙で作るクラフトのような、丸くて愛らしいイチョウのブーケを作ることができます。 丸みを帯びた美しい形にするためのポイントは、少し葉を丸めながら束ねること。そうすることで花のようなバランスの取れた仕上がりになります。もちろん、丸めずにそのまま束ねていっても素敵なブーケになりますよ。いろいろ試してみてください。 2.採取のポイント イチョウもなるべく落ちている葉ではなく、よい状態で木から採取することが、長く美しいアレンジメントを楽しむポイントです。 また、葉には個体差があります。色付きが浅く緑がかったものを、あえて黄金色のイチョウと一緒に取り入れることで、イチョウのブーケとは思えないような美しさになります。色だけでなく、葉の切れ込みや形にも、ウェーブが多いものや少ないもの、大きな葉や小さな葉などさまざまな個体差があります。その個性を感じ取りながら自分だけのオリジナルブーケを作ることは、とても面白みがあります。 自然と波長を合わせ、個性を活かした美しい作品ができた時は感動もひとしおです。 葉の個体差を活かしたグラデーション。 イチョウの葉を散らした演出も素敵。 応用編③:剪定枝を主役にする侘び寂びの演出 枝のドライフラワーはあまり見かけないかもしれませんが、枝も活かし方によっては侘び寂びを演出してくれる主役にもなります。 庭木を育てている方には、毎年冬になると剪定しなくてはならない枝が出る方も多いと思います。普通であればゴミになってしまいますが、大きめの花瓶や鉢に、庭木の風景を小さく再現するように仕立てることで、室内にいながら自然や季節を感じられる演出ができます。 イチョウの葉と枝、イチョウの葉のブーケで風景を演出。 サルスベリの剪定枝とセンダンの実付き剪定枝をアレンジ。 応用編④:雑草という宝物 中央の背が高い草がセイバンモロコシ。 雑草のようにどこにでもある草花には、魅力を感じない人も多いかもしれません。庭や畑では厄介者として嫌われています。 しかし、そんな雑草でも、先入観をなくして植物そのものの美しさに目を向けると、新しい魅力を発見することができます。 例えば上写真のセイバンモロコシは、土手や道端、荒れ地などさまざまな場所で普通に見かける草ですが、その高さを活かす飾り方をすれば、誰も雑草だとは思わないほどの美しいドライフラワーになります。 このセイバンモロコシやエノコログサなどのイネ科の植物は、特にドライフラワーにしやすいです。一口に雑草といってもさまざまな種類がありますので、どの草がどんなドライフラワーになるか試してみると、日常の散歩や四季の移り変わりが一層楽しくなります。 花瓶の主役にもなるセイバンモロコシ。 応用編⑤:野菜や果物をインテリアに オブジェのような玉ねぎ。 野菜や果物も、少し工夫することでドライ素材としてインテリアに取り入れることができます。 例えば玉ねぎ。玉ねぎは風通しのよい場所に置いておくと、傷みにくく、長く楽しむことができます。気温が上がると自然に芽が伸びてくることがあり、その姿は、球根植物のような生命感のあるオブジェになります。玉ねぎは芽に栄養を取られると風味や食感が落ちやすいので、インテリアとして楽しんだ後は早めに活用するか、観賞専用として割り切るのもよいでしょう。 また、柑橘類も状態のよいものをスライスし、しっかり乾燥させることで、ドライ素材として楽しめます。状態のよいものであれば、そのまま吊るしてドライフラワーにすることも可能。柑橘特有の明るい色味と丸いシルエットは、花やリーフにはない軽やかさを空間に添えてくれます。 植物だけでなく、身近な野菜や果物を取り入れることで、インドアガーデンの楽しみ方はさらに広がります。 終わりに:暮らしの中に、静かに自然を息づかせる 庭に出られない日でも、部屋の中にそっと自然の気配がある。それだけで、心の呼吸はゆるやかになり、暮らしの景色がやさしく整っていきます。 ドライフラワーは、育てる庭ではなく、味わう庭。時間を閉じ込めた植物が、日々の空間に静かなリズムをもたらし、私たちを本来の感覚へと連れ戻してくれます。 飾ることは、自然を置くことではなく、 自然とともに暮らすという選択。 あなたの部屋にも、小さなインドアガーデンを迎えてみませんか。
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樹木

39℃の猛暑にも負けずに咲き続ける! “最強”の食用バラをご紹介
香り高く美味しい! 食用バラの魅力 皆さんはバラを食したことがあるでしょうか? 近年、エディブルフラワー(食べられる花)が広く知られるようにはなってきたかと思いますが、中でもバラは香り高く美味しい品種が多く、「エディブルフラワーの女王」といっても過言ではありません。バラはガーデンでもとても人気の高い花ですが、ただその美しさを観賞するだけではなく、無農薬栽培をすれば食べることもできるのです! 食用バラを生活に取り入れれば、心身共に美しい、バラ色の豊かな暮らしを実現してくれるでしょう。 今回は、そんな食用バラの中でも、猛暑に負けずに咲く“最強のバラ”を特別にご紹介します。 耐暑性が高いだけでなく耐寒性も非常に優れ、さらに四季咲きで食用向きという、まさに食用バラにうってつけ! 栽培の仕方や食用バラの歴史、そしておすすめ簡単レシピも併せてご紹介します。 最強の食用バラ「ハマナス」 ハマナスの赤い花。 私はバラの無農薬栽培を始めて17年、食用バラ栽培の研究を始めてから7年ほど経ちます。 私が長い間バラと付き合ってきた中でトップ3に入るほど大好きなバラ、それが「ハマナス」です。 ハマナスといってもあまり聞いたことがない方も多いかもしれませんが、じつは日本を代表する原種のバラ。海岸の砂地に生えて群落を作ることもあり、夏に赤い花(まれに白花)を咲かせます。根は染料など、花はお茶などに利用され、果実はビタミンCが豊富でローズヒップとして食用になります。和名ハマナスの語源は、浜(海岸の砂地)に生え、熟した甘酸っぱい果実をナシに例えて「ハマナシ(浜梨)」という名が付けられたという説と、丸い実をナスに例えたという説があります。 夏の浜辺に群れ咲くハマナスの花。KristineRiba/Shutterstock.com ハマナスは北海道の花にも指定されています。北海道の海岸線に多く自生して分布の中心域であることが道花指定の理由だとされ、北海道襟裳岬や東北地方の海岸部、天橋立などが名所として知られています。 青森県の海岸に咲くハマナス。Hank Asia/Shutterstock.com ハマナスはバラの品種改良に使用された原種の1つ。ハマナスを交配の親に使用した品種群を「ルゴサ系」といい、ヨーロッパに渡ったハマナスから、多くの園芸品種が作出されています。また、中国産のハマナスの近縁種で、八重咲きで茎のトゲがやや少ない品種はマイカイ(玫瑰)と呼ばれ、約1,300年ほど前から食用として栽培されています。日本で「食香バラ」として販売されているのは、主にこのマイカイの品種になります。 ハマナスが人気のない理由 Kabar/Shutterstock.com 私見ですが、ハマナスはバラの中ではあまり人気がない品種に思えます。検索してみても取り扱っている業者や生産者は少なく、入手することも難しいかもしれません。 その理由としては、大きく次の3つが考えられます。 ①一重咲き:近年は花弁の枚数が多い品種が人気。一重咲きの素朴な姿は、観賞するには物足りなさを感じるかもしれません。②花もちが悪い:花は1日でしぼんでしまいます。③トゲが多い:トゲはバラの中でも一番多いほうの品種で、まさにトゲだらけ。葉の裏にも少しトゲがあります。 私も昔は花弁が多く可愛らしい品種が好きな時期があり、わざわざ一重のバラなんて買わなかったものです。 しかし、ハマナスにはこの3つのマイナスを覆すほどの魅力がたくさんあります。 あるバラ図鑑で、バラ好きは最後に原種の魅力にたどり着くという記述を読んだことがありますが、それを実感する品種。この記事を読めば、きっと「ハマナスを育ててみたい!」となることでしょう。 魅力満点! ハマナスの特徴13選 Barbara Smits/Shutterstock.com それでは、私が実際に育ててきた体験をもとに、ハマナスの数ある魅力をご紹介しましょう。 ① 四季咲き性が強い 花が終わったら花首の下を切れば、すぐに脇芽が伸びて次の花を咲かせます。 図鑑には繰り返し咲きとなっていますが、私が栽培しているかぎりでは、他の品種よりも圧倒的に四季咲き性が強いです。花が終わるとすぐに赤い果実ができますが、花がらを切れば春から秋まで何度も咲きます。 もし花がらを切り忘れてしまっても、その下から新しい枝が自然と出てきて新たに花を咲かせてくれます。一般に、花がらをそのままにしておくと種子に栄養が取られて次の花が咲かなくなるといわれますが、ハマナスはその常識を覆すほどよく咲く強い生命力があります。 ② 花は中大輪 房咲きで花数が多い Johnwoodkim/Shutterstock.com ハマナスは、原種では珍しく花が大きいのも特徴。また、1つの花茎にいくつものつぼみをつける房咲きになります。個々の花の花もちは悪く一日花ですが、房咲きの花が入れ替わりながら次々と咲きます。 珍しい白花も純白で美しいです。 ③ 香りが強い バラといえば、香りを楽しみたい方が多いはず。ハマナスは原種にしては珍しく香りが強いほうです。さらに優しいダマスク香に近い香りなので、バラ好きにはたまりません。香料の採取用にも栽培されてきた歴史があるほどです。 香りがよいことから、生食、ドライともに、さまざまな用途に使いやすいです。特につぼみは触るとべたつくほど油分が多く、花とは違う強く甘い香りがします。 ④ 猛暑でもよく咲く 真夏でも緑の葉が元気いっぱい。 元「日本一暑い街」としても有名な熊谷市のある埼玉県北部で栽培していますが、39℃を超える猛暑日が何度も続くそんな日々にも耐え、元気に美しく咲き続けます。ほとんどのバラが真夏は暑すぎて葉を落とし、残念な見た目になってしまう中、ハマナスは瑞々しい葉を広げ、爽やかなグリーンで目を楽しませてくれます。 ⑤ 耐寒性も高い 悪条件も苦にせずよく咲きます。Thorsten Schier/Shutterstock.com 北海道沿岸などに自生しているとおり、寒さにも大変強く、海の潮風にも耐えることから環境適応能力が非常に高いという特徴があります。私の栽培している場所は元田んぼで土が固いのですが、そんな土質の悪い環境でも元気に育ってくれています。 ⑥病害虫に強く初心者向き バラというと、病害虫に気をつけなければやられてしまう手がかかる花というイメージがあるかもしれません。しかし、ハマナスはバラの中でも最強クラスの耐性を誇ります。樹勢が強く、うどんこ病や黒星病などにも強く、更に肉厚な葉とトゲだらけの幹には害虫がほとんどつきません。農薬や有機的な散布剤など何も使わなくても元気に育ちます。 初心者の方でも安心して育てられるバラです。 ⑦ 穏やかな樹形と紅葉 retirementbonus/Shutterstock.com 樹高は90〜120cmで腰から胸の高さくらいになり、ドーム形の美しい自然樹形にまとまります。剪定にも強く、地際で切ってしまっても1年で元の樹形に戻るほどです。 また、バラは花の美しさに目が行きがちですが、ハマナスは紅葉も見られます。条件によりばらつきはありますが、秋には葉っぱが黄~赤に色づきます。花がない状態でも、美しい葉と樹形が春から秋まで楽しめることも魅力の1つです。 ⑧ コンパニオンプランツになる ほとんどのバラは品種改良により花弁が多くなり、蜜を求めて来る虫にとっては好ましくない形状をしています。その点、ハマナスは一重咲きで、虫たちにとっては最高のご馳走を提供してくれる貴重なバラ。特に花粉を集める花蜂は好んでやって来て、激しく踊りながら大喜びで花粉を集めていきます。海外では生け垣などにも使用されるようですが、生き物にとって大切な蜜源になるだけでなく、真夏でも青々と茂ることで、生き物にほどよい日陰と隠れ家を提供してくれています。 このような環境を作り出せるハマナスは、生物多様性の向上に貢献し、自然が持つ食物連鎖を整える効果が期待できるため、害虫を抑制したり、受粉の手助けをする蜂を呼び込むなど、ほかの植物にとって最高のコンパニオンプランツになります。 ⑨ 一重咲きだからこそ食用向き nelea33/Shutterstock.com 食用バラというと花弁を食べるイメージがあるので、花弁が多い品種のほうがいいのでは? と思う方もいることでしょう。 しかし、ハマナスは一重咲きだからこその魅力があるのです。 それは、色づいた開花前のつぼみを活用しやすいということ。中国ではハマナスの近縁種のつぼみを乾燥させたお茶が「マイカイ茶」として流通していますが、花弁が多いバラではつぼみの乾燥が中までうまくできません。その点、ハマナスは花弁が少ないからこそ、つぼみを食用に活用できるのです。 この色づいたつぼみを収穫して蜂蜜漬けやレモネード、オイル漬けなどにして楽しめます。 ⑩ ローズヒップが楽しめる ハマナスは、バラの中では一番甘酸っぱく大きな実(ローズヒップ)をつけることで有名です。 その実は北の海辺の民間薬として、日本でも古くから薬用(咳止め・健胃・婦人病)や食用(ジャム・茶・果実酒) に利用されてきました。実の中には綿と種子がぎっしり詰まっているので、果肉を食べるといっても量はあまり取れませんが、「ビタミンCの爆弾」と呼ばれるくらい栄養価が高く、美容や健康への効果が期待されています。 ほかのバラと違い、ハマナスは実が赤くなるのも早く、花が終わってから1カ月ほどで食べ頃になります。野バラ系統や園芸品種のバラの実冬前にならないと色づきませんが、ハマナスの場合、熟すスピードが驚くほど速いのが特徴です。赤い実は観賞価値が高く、食用としても活用しやすいので一石二鳥ですね。 ⑪ 地下茎で増える Andrejs Marcenko/Shutterstock.com 地下茎で増えるバラがあることを知る人はかなり少なく、相当なバラマニアでないと知らない事実なのですが、一部の原種や原種改良種、オールドローズ(ダマスク系)とハマナスは地下茎で増える性質があります。流通しているバラのほとんどが接ぎ木になっており、根は日本のノイバラを使用していることから、接ぎ木されているバラではこの性質は出ません。 挿し木苗であれば自分自身の根ですから、ハマナスの地下茎で増える性質を引き出すことができます。栽培スペースによっては地下茎で増えると困ることもあると思いますので、購入する際は、ぜひ挿し木苗なのか接ぎ木苗なのかを注意してみてください。 これを発見した時は驚きましたが、同時に、なぜ生産者が丈夫なハマナスを接ぎ木の台木に使わないのかも理解できました。ハマナスを接ぎ木に利用したら、ハマナスの根が次々に鉢の中で地下茎を伸ばし、大変なことになってしまいますね。 ⑫ 挿し木でも種まきでも増やしやすい バラの中でも挿し木がしやすい品種と、しにくい品種があります。その中でも、ハマナスは挿し木が成功しやすい品種です。また、種子からも増やしやすく、原種のバラなので同じ性質が出やすい特徴があります。 ハマナスは赤色の花が特徴ですが、私の庭では自然交配させているので、白とピンクも咲いています。ピンクはおそらく赤花と白花が交配してできたのではないかと考えています。 交配親にも使用しやすいので、交配にチャレンジしてみたい方にはうってつけの品種です。 ⑬ 誰も知らない香る葉 バラといえば花の香りが有名ですが、葉に芳香を持つものはきわめて稀です。代表的なのはスイートブライヤーという原種バラ。そして驚いたことに、ハマナスも葉を擦ると甘い香りを感じる場合があります。個体や季節による違いはありますが、花だけでなく葉も楽しめる点でユニークです。 ルゴサとは「シワがある」という意味。他のバラより肉厚で葉脈にシワが多いハマナスは、葉を擦るとほのかに甘い香りがします。 ハマナスは、ほかのバラと比較して非常に肉厚な葉を持っています。この肉厚さはほかではあまり見られませんが、やはりハマナスの血を引いたルゴサ系統にはこの特徴が引き継がれています。 なぜ葉に香りが強いのか、私なりに考察をしてみたのですが、ハマナスの葉やつぼみを触ると、ほかのバラに比べて油分が多く、ベタベタした感触があります。バラは精油の採れる植物ですが、ハマナスは非常に精油分が多いバラなのではないかと思われます。 なぜ油分が多いのかという理由は、ハマナスの生息域にあるかもしれません。東北や北海道沿岸など非常に寒さが厳しい地域に生息するため、ハマナスは耐寒性に優れるという特徴があります。耐寒性の高さと油分は植物にとって重要な関係にあると考えられています。植物にとっての油分には、表面のワックスやクチクラ層で乾燥や寒さから保護するという効果があるためです。 しかし、単に油分が多ければ耐寒性が高いという単純なものではありません。ここで重要なことは「油分の質」です。オレイン酸やリノレン酸など不飽和度が高いと、低温でも細胞膜が固まらず流動性を保つことができ、寒さで細胞膜が壊れるのを防ぐ効果があるため、不飽和脂肪酸が多いほど耐寒性が高くなります。 不飽和脂肪酸といえば身体によい油として有名ですが、中国でハマナスの改良種が食用として千年以上もの歴史があるのも、遙か昔から薬効が高いことを実感していたからかもしれません。 ハマナスのおすすめレシピ ハマナスのつぼみは花首を折れば簡単に収穫できます。 ハマナスはオーソドックスに花弁やローズヒップを食用やお茶にすることもできますが、今回はハマナスならではの色づいたつぼみを使用したレシピを2つご紹介します。 <ローズレモネード> 夏バテ予防に効くローズレモネード。 ハマナスの色づいたつぼみは、手で簡単にポキッと収穫できます。そのつぼみを、私はレモネードにして飲んでいます。 レシピは簡単。市販のレモネードの素に、バラのつぼみとレモン、お好みでミントやレモングラス、ローズマリーなどを加えて寝かせるだけ。1日置いたら出来上がりです。希釈して炭酸割りにして飲むと、とても美味しいです。2~3週間を目安に使い切るようにしましょう。 バラを浮かべたレモネードの炭酸割り。 <バラのデトックスウォーター> バラとミントのデトックスウォーター。 デトックスウォーターとは、冷水にハーブやフルーツ、野菜などを漬け込んだもののこと。デトックスとは体内に蓄積している老廃物や有害物質などを体外に排出することをいいますが、デトックスウォーターは水分補給を促すことで老廃物の排出をサポートし、また水に溶け出したハーブなどの栄養素を摂取できるという特徴があります。 私はハマナスとミントなどのハーブを合わせた「ローズデトックスウォーター」を作って飲んでいます。作り方は簡単で、ハマナスのつぼみとバラの花、お好みのハーブを水につけておくだけ。1Lくらいはすぐに飲みきってしまうので、水を注ぎ足して2Lほど飲んだら花を交換するようにしています。 デトックスウォーターとハーブティーとの大きな違いは「苦味が少ないこと」です。 お湯を注ぐハーブティーは、熱によりタンニンなどの苦味成分が出やすいですが、水出しのデトックスウォーターは熱を加えないので、バラやハーブ本来の香りや甘みを味わえます。ハーブティーが苦手な方でも飲みやすいと思いますので、ぜひ一度作ってみてください。 見た目も美しく、香りは華やかで優しいバラの味を楽しめます。 以前、スイスに住んでいた方に聞いた話ですが、スイスではデトックスウォーターを水筒に持ち歩いて飲む人が多かったそうです。日本ではあまり聞きませんが、とても簡単で美味しく、デトックス効果も期待できます。日常生活に取り入れ、心身共に健康で豊かな生活を送ってみてはいかがでしょうか。 ハマナスのつぼみをローズマリーやレモングラスなどのハーブとともに収穫。 耐暑性も耐寒性も抜群で育てやすく、香りのよい花を味わうこともできるハマナス。ぜひ栽培にチャレンジし、暮らしの中でハマナスを活用してみてください。
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ガーデニング

何もしなくても害虫が減る⁉ 環境に優しい害虫対策<アシナガバチ養蜂>とは
害虫対策に効果的なアシナガバチ 害虫駆除を一切していないローズガーデン。 私は、バラや野菜、ハーブの有機無農薬栽培を長年続けてきました。ガーデンでは、自然と調和を図りながら草や生き物を活用したアグロエコロジー(=自然と共存する持続可能な農業を目指すこと)を実践しています。 今回は、6年ほど前から取り組んでいる、アシナガバチを活用した害虫対策についてお話ししたいと思います。 アシナガバチというと毒性も強く、刺されるとかなり痛いことから、怖いという印象が強いと思います。 しかし、私はそんなアシナガバチを、あえて「養蜂」しています。ミツバチの養蜂はあっても、アシナガバチの養蜂をしているという話は聞いたことがないのではないでしょうか。正確にいうと「養蜂」というより、アシナガバチを殺さず、共生できる環境を整え、庭や畑の一員として共に仲よく暮らすことを実践しています。というのも、アシナガバチは優秀なハンターでもあるからです。それでは、彼らの大活躍について、詳しくご紹介しましょう。きっと、アシナガバチへの見方が変わりますよ。 優秀なハンター、アシナガバチ 野菜の害虫も積極的に駆除してくれるアシナガバチ。 ■ アシナガバチは、1つの巣で1日あたり数百匹単位の害虫を駆除する アシナガバチは、1日におおよそ20〜30匹の害虫を捕獲・捕食するといわれています。これは、巣にいる幼虫たちに与えるエサを確保するためで、活動が活発な初夏〜夏の時期には特に精力的に虫を狩ります。 4月くらいから越冬した女王バチが巣を作り始め、夏の害虫が増える時期に合わせてどんどん巣は成長していきます。 ■ なぜそんなに多くの害虫を狩るのか? アシナガバチの巣は、女王バチ1匹と働きバチ数十匹から成り立っています。働きバチは日中、せっせと以下のような害虫を探して飛び回ります。 捕食対象の例: キャベツやブロッコリーにつくモンシロチョウの幼虫(アオムシ) バラやツバキに発生するガの幼虫 ナスやピーマンの葉を食べるヨトウムシ類 サツマイモやイチゴの天敵であるハスモンヨトウ カキやサクラにつく毛虫類 これらを捕らえると、口で噛み砕きながら「肉団子」のように加工して巣に持ち帰り、幼虫に与えます。 このようにアシナガバチは、さまざまなガやチョウなどの幼虫類を好んで捕食します。これらの幼虫類は発生期間が長いうえに、産卵数も多いため何度も繰り返し被害にあう、ガーデナーにとって非常に厄介な害虫です。無農薬で栽培する場合、効果的な散布資材も少なく、人の手で害虫を取り続けるのはとても根気がいる作業です。しかし、高い知能を持った高性能捕食生物であるアシナガバチがいれば、私たちの代わりに無償で働いてくれるのです。 ■ 行動のサイクルと捕食数の根拠 アシナガバチの行動サイクルは太陽に従っており、朝から夕方まで、何度もエサを探しに飛び立ちます。1回の外出で1匹、時に2匹の害虫を捕まえ、数時間の間に何度も巣と外を往復するため、1匹の働きバチで1日に20匹前後の害虫を捕獲することが可能です。 巣全体では10〜30匹以上の働きバチが活動するため、1つの巣で1日あたり数百匹単位の害虫が駆除されている計算になります。 夕方には働きバチが全員巣に戻ってくるので、その時に何匹いるのかも把握できます。 美しく咲く満開のバラ。アシナガバチのお陰で、害虫駆除をしなくても毎年たくさんの花を咲かせます。 アシナガバチのガーデニングへの活用法と注意点 アシナガバチの捕食力を活かすためには、以下のような環境づくりが有効です。 工夫理由と効果バラや野菜畑の近くに水場を用意する。アシナガバチは水を好むため、定住や巡回しやすくなる。飲み水としてだけでなく、巣を冷やすために水を利用。農薬の使用を控える。アシナガバチ自体を守ることはもちろん、捕食対象の虫がいなくなると巣が保てなくなる。巣の場所を把握し、人との距離を確保する。安全を保ちながら共生できる。 水場にいるアシナガバチ。 注意すべき点 アシナガバチはおとなしい性格ですが、巣を刺激すると防衛本能で刺されることもあります。私も草刈りをしていて気付かずに巣を刺激してしまい、刺されそうになったことが時々あります。 人間に置き換えてみれば当たり前のことですが、大切な家族や子どものいる家を壊そうとしたり、襲おうとしたら人間でも必死で抵抗しますよね。それと同じでアシナガバチからしてみれば、こちらは巨人ですから、命懸けで守ろうとするのも当然です。 アシナガバチの毒性はそれなりに強いため、アレルギー体質の人や過去に刺されたことのある人などはアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。十分注意しましょう。 共生のためのポイント アシナガバチに刺されないための工夫として重要なポイントが2つあります。 ①アシナガバチの巣を見つけたら、必ず分かるように目印をつける。 支柱などを近くに立てておくと、草が伸びても目立つのでおすすめです。 ②人が通る場所の近くや、人が刺激しやすい場所に巣を作らせない。 女王バチは4月頃から巣を作り始めます。小さい巣のうちは、巣を落としても襲われる危険性はほとんどありません。私が観察する限り、女王バチはとても大人しい性格です。しかし、巣が大きくなって働きバチが増え、幼虫も増えると攻撃的になりやすい傾向があります。なるべく巣が小さいうちに見つけ出し、場所が悪い巣は早めに落とすようにしましょう。 知ればもっと興味が湧く⁉ アシナガバチの豆知識&エピソードいろいろ ■ アシナガバチは人が好き アシナガバチは、とても大人しい性格です。私が庭や畑の手入れをしていると、周囲を飛び回りながら植物のパトロールをしている姿をよく見かけます。私のことは気にせず、せっせと獲物探しに夢中になっています。新しい植物を植えていると近くに寄ってきて、さっそくパトロールをして虫がいないか丁寧に観察している様子も見られます。 もちろん、巣を刺激すると怒ることはありますが、それ以外で襲われた経験はありません。むしろ、近くに寄ってきて、まるで一緒に手入れを手伝ってくれているようです。 日常的に利用する道のすぐ近くで、巣を発見することもよくあります。そんなとき、巣から数十センチの距離まで近づいて観察していても、襲ってくることはありません。まるで、庭や畑の管理者が誰なのか、よく分かっているかのようです。 ■ 手入れをしないと巣を捨ててしまう 意外かもしれませんが、アシナガバチの巣ができたから刺激しないように放っておこうと、巣のある場所の草刈りをあまりしないでおくと、高確率で巣を捨てて全員いなくなってしまいます。 ミツバチの養蜂家に聞いた話によると、ミツバチはダニに弱いとのこと。風通しが悪く過湿になると、ダニで死んでしまうことがあるそうです。この話を聞き、巣ができたらその周りの草刈りや手入れを定期的にやるようになってから、途中で巣を捨てて家出してしまうことが少なくなりました。 ■ じつはアリに弱いアシナガバチ 虫の中ではとても強いイメージのあるアシナガバチですが、意外とアリに弱いという特徴があります。じつはハチの巣の付け根を観察すると、巣の色が黒くなっています。これは、アリ除けの物質でコーティングしているのだそうです。 アシナガバチの卵や幼虫を捕食対象とするアリは、アシナガバチの天敵。私も、何十倍も小さいアリに巣が襲われていて、せっかく大きくなった巣が壊滅している所を一度だけ目撃しました。確かにアリの大群に襲いかかられたら、いくら毒針と強靱なアゴを持っていても太刀打ちできないでしょう。 巣の周囲に草が覆い被さる環境ではアリに狙われる危険性も高くなるため、それもあって手入れされていない場所を嫌がるのかもしれません。 アシナガバチの巣。 ■ 木の柱を削るアシナガバチ ある時、通路にある木の柱にアシナガバチがウロウロしている所を発見しました。周りの人々は殺虫剤でやっつけろと慌てていましたが、落ち着いてアシナガバチの様子を観察していると、木の柱をアゴで削り取り、巣に持ち帰っていることが分かりました。 これは、木の柱から巣の材料となる素材を集めているのです。それ以降、周りの人にアシナガバチが飛んでいてもいじめないように伝えていますが、今のところ近くを飛んでいても刺されたことは一度もありません。 ■ 不思議な出来事 ハチのネットワーク 以前、どうしてもハチの巣を撤去しなくてはならない状況で、他の人が殺虫剤で駆除したことがあります。しかしその翌日、私が歩いていると、全く別の巣のアシナガバチに突然襲われました。まるで人間に襲われ、他の巣の仲間が亡くなってしまったことを悲しみ、怒っているようでした。 この時、アシナガバチはほかの巣のハチたちとも情報交換をしていると、身をもって確信しました。こちらが優しく接していれば攻撃してくることはありませんが、こちらが敵意を見せて駆除しようとすれば、ハチも攻撃的になるのかもしれません。 ■ バラと共生するアシナガバチ 長年バラの栽培をしていて気が付いたことがあります。それは、アシナガバチは好んでバラに巣を作るということ。なぜバラを好むのかと観察していると、バラのトゲをかじっている姿を目にしたことがありました。はっきりしたことは分かりませんが、バラのトゲは巣の材料に適しているのかもしれません。 また、バラのつぼみが幼虫にかじられて傷口から汁が出ると、それにアシナガバチが引き寄せられ、周囲を丁寧にパトロールしている姿もよく見られます。この汁は、アシナガバチ以外に、アリも引き寄せる効果があるようです。バラが捕食者を呼ぶSOSの香り物質を拡散しているのかもしれません。 現代科学で次第に証明されてきていますが、植物と生物の共生関係は太古から続いています。私は、バラが用心棒としてアシナガバチと共生していると、長年の観察から実感しています。 バラのつぼみが虫にかじられると必ずパトロールしに来るアシナガバチ。 ■ 種類によって好む環境が違う アシナガバチを観察して気づいたことは、バラにはバラを好むアシナガバチがいるということ。日本には11種類のアシナガバチが生息しているとされていますが、バラに好んで巣を作るアシナガバチは、中型~小型の黄色の縞が少ないアシナガバチです。特に地面から近いバラの枝に巣を作ります。 また代表的な足が長く黄色と黒がはっきりした大型のキアシナガバチなどは、軒下などの雨の当たらない高い場所に作りたがります。 このように種類によって好む環境が異なることに注目すると、あえて好む環境を作っておき、ハチを誘導することも可能です。 バラに好んで巣を作る中型のアシナガバチ。 ■ アシナガバチのタワーマンション アシナガバチは雨風がしのげる場所に好んで巣を作るため、このような場所を用意するのも効果的。 アシナガバチを庭に呼ぶべく、私が実際に取り組んだのは、アシナガバチの巣の設置場所を整えること。直径20cmの大きなパイプを奥行き30cmの輪切りにして、それを10列くらい並べ、腰の高さほどにまで積み重ねて置いたところ、見事にアシナガバチたちが巣を作ってくれました。 パイプごとに仕切られているため、互いの巣が干渉し合うこともなく仲よく暮らしてくれる様子は、まるでパイプでできたハチのタワーマンションのようでした。 もちろん、その年の害虫の被害が減ったことは言うまでもありません。 ■ 匂いに敏感なアシナガバチ アシナガバチを誘致するうえで重要なことは、殺虫剤を散布しないことです。 アシナガバチは毎年、前年に巣を作った近くに戻ってくる習性があるそうです。それは、残っている巣の匂いやフェロモンを嗅ぎ分けて、安全な環境だと察知して戻ってくるためと考えられています。 一方で、長年観察しているうちに、殺虫剤を散布された場所は殺虫成分が残留して匂いが残っているせいか、そこには戻って来ないことがあることにも気づきました。前述のアシナガバチのタワーマンションも、毎年たくさんの巣ができていたのですが、工事の関係で殺虫剤が散布された結果、アシナガバチは来なくなってしまいました。 個人的な見解ではありますが、有機的な防虫資材も、害虫だけでなく、アシナガバチのような害虫を駆除する生き物(益虫)も嫌がって逃げてしまうと考えています。益虫がいなくなると害虫が増えることにつながり、結果的に人間の仕事が増え、庭管理に苦労することになります。 ですから、私は害虫防除のための散布剤を一切まいていません。それよりも、健全な生態系を持つ環境作りに集中することで、食物連鎖が正常に機能し、結果として害虫被害が減っています。 害虫による被害が出た場合、部分的な対処に目が向きがちですが、互いに影響し合う相互関係で成り立っている自然環境では、全体を整えることが何より重要です。 ■日本におけるスズメバチ・アシナガバチの利用と共存の歴史 アシナガバチとその巣。Kelly Marken/Shutterstock.com 日本では古くから、スズメバチやアシナガバチを農業や暮らしの中で利用・共存してきた記録があります。特に害虫駆除やタンパク源としての利用、また民俗的・文化的な側面でも関わりが見られます。 ① 害虫駆除としての利用(自然の益虫) アシナガバチやスズメバチなどは、毛虫・青虫・甲虫の幼虫などを捕まえて巣に運びます。 昔の農村では、こうした肉食性のハチを「畑の守り神」として扱い、巣を壊さずにあえて残すこともありました。 特に農薬が普及する前は、ハチによる自然の害虫制御システムが貴重な役割を果たしていました。 ② スズメバチの巣や幼虫の利用(食用・薬用) 東北地方や長野県、岐阜県、愛知県などでは、スズメバチ(特にクロスズメバチやオオスズメバチ)の幼虫や蛹を「蜂の子」として食用にし、貴重なタンパク源としてきました。蜂の子ご飯や炒り煮にして食べる文化が、今も一部地域に残っています。 成虫は焼酎に漬けて薬用酒(強壮・精力増進目的)として飲まれることもあります。 ③ 民間信仰・縁起物としての位置づけ ハチの巣は「子孫繁栄」「家内安全」の象徴とされることがあり、古い民家の軒下に巣ができると縁起がよいとされることもあります。 巣を大切に保護し、引っ越しなどの際に神社に奉納する風習が残っている地域もあります。 ■ まとめ アシナガバチは、1日に20匹以上の害虫を駆除できる、自然界の頼もしいハンターです。うまく付き合えば、無農薬や減農薬の庭づくりにおいて強力な味方になります。自然と調和したガーデニングを目指す方には、ぜひ注目してほしい存在です。 危険性は確かにありますが、それはアシナガバチの暮らしや特徴、付き合い方を知らないことに起因するものが大きいと思います。私はアシナガバチと仲よくする「養蜂」を始めてから、一度も刺されていません。やみくもに恐れるのではなく、その生態を知ることで、刺される危険性を減らすことができます。 農薬が普及する前の日本では、アシナガバチをはじめとした生き物による自然の防衛システムをうまく活用していました。私たち人間の豊かな暮らしを維持していくために、豊かな自然環境は欠かせません。環境破壊・環境汚染による地球危機といわれてる現代だからこそ、改めて自然と共生する大切さを学び、活かさなくてはならないと感じています。 私たちにできる小さな取り組みの積み重ねが、未来を守る大きな一歩になると信じています。アシナガバチの観察を始めると、子育てしている姿が愛おしく感じることや、害虫駆除をしてくれる姿に感謝の気持ちも湧いてくるものです。ぜひ、自然に優しいガーデニングを一緒に楽しんでいきましょう。
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ストーリー

ガーデニングが変える福祉の未来 〜花がつなぐ共生社会〜
ガーデニングが変える社会福祉のかたち Halfpoint/Shutterstock.com 日本では高齢化が進み、障がい者の人口も増加しています。令和5年度の内閣府資料によると、現在、1160.2万人もの方々が何らかの障がいを抱えているとされ、特に発達障害の認知が進む中、社会全体での支援が求められています。こうした中で注目されているのが、ガーデニングや園芸療法の持つ力です。 植物とふれあうことで、心が穏やかになり、自己肯定感が高まる―実際に障がい者福祉施設や地域のコミュニティで園芸活動が取り入れられ、利用者の表情や行動に変化が現れています。 今回は社会福祉士として障がい者支援に携わる仕事をしている私の経験をもとに、社会福祉という視点でガーデニングを見ていきたいと思います。 花がつなぐ障がい福祉の未来 皆さんは、障がい者の方が働く施設に行かれたことがあるでしょうか? 一般の方で、入所施設や障がい者の方が働く事業所に行ったことがあるという人はかなり少ないと思います。実際に働いていても、ほとんど関係者以外は見かけないのが現状です。 私が携わっている福祉事業所は、一般就労が困難な障がい者の方が働く事業所です。このような事業所の作業は軽作業が多く、内職に近い仕事をしている所がほとんどです。そんな環境ですから、一般の方が足を運ぶ機会が少ないのも当然です。 しかし、誰もが暮らしやすい共生社会を実現するには、やはり社会とのつながりを作ることは欠かせません。障がい者の理解促進には、普段から障がい者の方と関わる回数を増やすことが不可欠です。 障がい者と聞くとあまり縁がないイメージがありますが、じつは日本の障がい者数は年々増加傾向にあります。障がい者の総数は約1160.2万人で、国内人口の約7.6%に相当します。障害区分ごとの内訳は、身体障害者436.0万人、知的障害者109.4万人、精神障害者614.8万人です。 これはあくまで認定を受けている人の数で、近年増加している発達障害などは当事者が認識していないケースも多く、潜在的にはかなりの数になると見られます。また、病気が原因で障がい者になるケースもあり、それだけ身近な問題でもあるのです。 そんな福祉事業所で、縁あって食用の花を育てるという依頼が舞い込み、園芸が得意だった私が食用のバラを育てる事業を立ち上げることになりました。福祉施設では日本初となる生物多様性の保全と、それを活用した有機無農薬の食用バラ栽培に成功したこの取り組みは、「奇跡のバラ」と称され、2019年には生物多様性保全と新しい農業の手法が評価され、生物多様性アクション大賞で審査委員賞を受賞しました。「奇跡のバラ」の詳細は下記リンクもぜひご覧ください。 最初は興味を示さなかった利用者も、土に触れ、植物の成長を見守るうちに、自然と作業に取り組むようになりました。植物の世話を通じて、仲間とのコミュニケーションが生まれ、社会性も育まれていきました。 園芸作業に取り組むうちに、さまざまな植物や生き物の名前や特徴を覚えていき、利用者にとって一つひとつの発見がとても刺激的で楽しかったようです。また、「植物を育てることで、自分にもできることがあると実感できる」という声も聞かれました。障がいがあってもそれぞれできること、得意とすることを作業の中から見いだし、それぞれが役割分担をして個性を発揮していきました。 できないことばかりに目を向けるのではなく、長所を伸ばすことで短所を補い、できないことはほかの人にサポートしてもらうことで助け合いが生まれ、1つになる。それは、それぞれの生き物がそれぞれの役割を担い、支え合うことで成り立っている自然界のようで、私たち人間も同じであると強く実感しました。その中で、自分の手で何かを生み出し、それが社会に役立つという経験が、利用者の大きな自信につながっているということも感じました。 福祉事業所の庭や畑でバラを育て始めてからほかにも大きく変わったことは、一般の方がたくさん訪れてくださるようになったことです。花のおかげで自然と社会とのつながりができ、接客を利用者が行うなかで、普段接する機会が少ない一般の方と利用者が楽しそうに会話する姿は、とても微笑ましい光景でした。 また、花を植えてから近隣住民の方が散歩がてら見に来てくださるようになったことにも驚きました。不思議なもので、花が綺麗に咲いていると自然と声をかけられる機会も増え、「花がいつも綺麗ですね」「いつも見ていて癒やされます」など、以前は軽い挨拶をかわすだけだった地域住民の方とも会話のキャッチボールが増えたのも、嬉しい変化です。 このような経験から「花は人と人とをつなぐ架け橋になる」と私は実感しました。プライベートでも20代の頃からガーデニングを始めましたが、老若男女、さまざまな方との出会いやご縁を、花が運んできてくれました。まさに共生社会にとって花はかけがえのないものであり、これからもっと重要な存在になるのではないかと感じています。 園芸療法で変わる利用者の行動 sergey kolesnikov/Shutterstock.com 園芸作業を始めて感じた驚くべき効果は、これだけではありません。それは、今まで事業所を飛び出してしまう利用者や問題行動があった利用者の課題が、自然と減少したことです。 軽作業であれば、製品を完成させ業者に納品するだけなので、一般の方に感謝されたり喜ばれる機会がほとんどありません。また、毎日同じ単純作業だと集中力が続かなかったり、ストレスがたまりやすくなってしまうこともあり、トラブルはよくありました。 もし問題行動が多発して支援では対処しきれない場合、病院に行き薬物療法で治していくことも多いのが現状です。薬物療法は対症療法であり根本療法ではないので、やはり日常生活における何らかのストレスや環境を改善しない限り、薬を飲んでいても問題解決には至らないことがあります。しかし、花を育てて直接人から喜ばれることが増えた利用者は、それが生きがいになり、問題行動の抑制につながっていると実感しました。 植物を育てて行動障害が治まった特別支援学校の生徒 特別支援学校の先生から聞いた驚くような実話ですが、行動障害が重く、物を投げたりしてしまう生徒に植物の栽培を体験させたら、行動障害が軽減したということです。福祉現場で働いている私からすれば、物を投げる障がい者に鉢植えの植物を育てさせるのはリスクがあるので、そのチャレンジには大変驚きました。 植物を育てることで、なぜ行動障害が落ち着いたのかは定かではありませんが、私はその生徒が植物を育てることで自分自身の役割を見いだしたのではないかと思います。愛情をかけて育てる植物が日に日に変化していく様子に、やりがいや生きがいを感じたのかもしれません。 地域との絆を深める果樹活用 田舎に行くと、庭にある大きな果樹の実が取り切れずになりっぱなしの光景をよく目にします。我が家の近所に暮らすおばあちゃんからも、秋にたくさんミカンがなったので取りにおいでと誘われ、ミカンをいただきました。かなり古いミカンの木で、植えて50年くらいは経つそうですが、ミカンがなっても家族も食べる人がおらず、毎年余ってしまうそうです。 そこでミカンをいただいたお礼に、ミカンの木の剪定をすることに。高齢になると剪定作業も難しいらしく、無駄な枝がたくさん出ていたからです。この経験と私自身の福祉という仕事から、これは、果樹を通した地域交流のきっかけという社会資源になるのではないかと考えています。 今の日本は、4人に1人は高齢者という超高齢化社会になっています。とても公的な福祉サービスのみではまかないきれず、地域住民が互いに助け合える関係の構築の必要性が国からも指摘されています。高齢者だけの世帯も多くあり、見守り支援の必要性も課題です。 こうしたなか、果樹や野菜、花を通して社会とのつながりを構築し、コミュニケーションの機会を作ることや、認知症の予防、精神の安定など、社会的・身体的・精神的な健康を保つ上で、ガーデニングはかなりの効果を発揮すると感じています。 もし地域内で果物や野菜、花や種子といった物々交換をするなど、果樹や野菜・花をうまく活用したコミュニティができれば、ガーデニングを通じて地域福祉の活性化を促すことが可能となるのではないでしょうか。 園芸療法が取り入れられている場所 imacoconut/Shutterstock.com ここまでは私の実体験をお話ししてきましたが、ここで改めて園芸療法(ガーデンセラピー)についてご紹介したいと思います。園芸療法(ガーデンセラピー)は、植物や園芸活動を通じて心身の健康を促進する療法のこと。以下のような場所で活用されています。 医療・福祉施設 病院・リハビリ施設:患者のリハビリや精神的な安定のために導入(例:認知症患者のケア、ストレス緩和)。 介護施設・高齢者施設:園芸活動を通じて身体機能の維持や社会的交流を促進。 障がい者支援施設:手先の運動や感覚刺激を通じた療育の一環として利用。 教育機関 小・中・高等学校:自然体験を通じた情操教育や、特別支援教育の一環として。 大学・専門学校:園芸療法士の育成や研究。 地域コミュニティ・公園 市民農園・コミュニティガーデン:地域住民が参加し、心の健康や社会的つながりを深める。 福祉型農園:就労支援として、障がい者や高齢者が農作業を体験できる場。 企業・職場 オフィスの屋上庭園・緑化スペース:社員のストレス軽減や創造性向上を目的に導入。 ワークショップ・チームビルディング:共同作業を通じたコミュニケーション向上。 園芸療法の効果 Ivan Moreno sl/Shutterstock.com 園芸療法には、心身の健康に多面的な効果があります。 1. 身体的な効果 運動機能の維持・向上:植え付けや水やりなどの動作が軽い運動となる。 手指のリハビリ:細かい作業が巧緻性(こうちせい)を高める。 免疫力の向上:自然に触れることでストレスが減り、免疫機能が向上。 2. 精神的な効果 ストレス軽減・リラクゼーション:植物に触れることで心が落ち着く。 自尊心の向上:花が咲く、作物が収穫できるなどの達成感が得られる。 認知機能の維持・向上:認知症の進行を遅らせる効果が期待される。 3. 社会的な効果 コミュニケーションの活性化:共同作業を通じて他者との交流が生まれる。 孤独感の解消:地域や施設での活動が社会参加の機会となる。 世代間交流の促進:子どもから高齢者まで幅広い世代が関わる。 園芸療法は、自然とのふれあいを通じて「身体」「心」「社会」のバランスを整える効果があるため、今後もさまざまな場面で活用されていくことでしょう。 未来に向けて自然と共生する社会へ Ivan Kruk/Shutterstock.com 福祉の大きな目標の柱に、共生社会の実現があります。健常者・高齢者・障がい者・児童のすべてが共に支え合う社会のことです。 しかし、私は人間だけの共生社会だけでは不十分だと感じています。昨今の地球規模の気候変動や環境危機は深刻な問題です。人間だけの福祉を考えているだけでは、社会が成り立たない状況にあると思うのです。 私たちが生きていく上で欠かせない水や空気が汚れていてはダメですし、生態系が崩壊していては食料を確保することさえままなりません。自然環境も含めた共生社会の実現こそが、真に求められている時代なのではないでしょうか。 物価・資材の高騰を受け、生産者も消費者も厳しい状況です。石油由来の資材の多さ、生産過程で石油を大量に消費するという社会構造を、改めて痛感しています。 しかし、これは、身近な有機物を活用した環境に優しい循環型栽培を学ぶよい機会かもしれません。機械や石油がない時代の日本には、世界に誇る有機的で持続可能な社会や農法がありました。私の「奇跡のバラ」のストーリーでもご紹介していますが、生物多様性を活用したバラ栽培も、古くからある知恵を活用した環境に優しい循環型栽培です。 病害虫を排除しなくてはうまく育たないという固定観念を持つ方も多いと思いますが、「奇跡のバラ」は逆に全てを受け入れることで成功したというよい事例です。私たちの味方をしてくれる有益な益虫も、私たちが嫌がる害虫が支えているからこそ繁栄できるのです。病気があるからこそ免疫が付き、強くたくましく植物が育つ一面もあります。病気の原因は、植物が不健康であったり、環境が悪かったり、生態系のバランスが崩れているからこそ起きるものです。 病気そのものが悪いという一点に囚われず、全体を見て環境を整えたり、環境に配慮することで、自然と病気も治まっていきます。そういった意味では、病気は何かに気付くきっかけを与えてくれているのかもしれません。 Ocskay Mark/Shutterstock.com 自然と共生するガーデニングは、私たちの身体だけでなく心も豊かにしてくれます。これからの社会は、ガーデニングが本当の意味で「幸せ」や「豊かさ」を意味する「福祉」を実現する重要な鍵となるでしょう。 ガーデニングは、単なる個人の楽しみだけでなく、地域との結びつきを深める力も持っています。ガーデニングを通じて社会とつながり、自立を支援する取り組みは、今後さらに広がっていくでしょう。植物を育てることで、心が癒やされ、地域とのつながりが生まれる。そして、それが社会全体の共生につながっていきます。 私たち一人ひとりが、日常の中でガーデニングを取り入れることで、こうした動きをさらに広げることができます。花や緑が持つ力を信じ、誰もが心豊かに生きられる社会を目指していきたいですね。
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ガーデニング

驚くべき植物の知能! 会話する植物たちと森の賢者『マザーツリー』の知恵を庭に生かす
森の豊かさを支える「マザーツリー」 皆さんは「マザーツリー」という言葉をご存じでしょうか? これは、カナダの森林生態学者スザンヌ・シマード博士が提唱した概念で、森林の中で「母なる木」として中心的な役割を果たす大きな木たちのことを指します。映画『アバター』で、そのコンセプトを知った方もいるかもしれません。 マザーツリーは、単に大きく目立つだけではありません。他の木々や生態系全体を支える存在であり、森の健康を保つ要となっています。 マザーツリーが一体何をしているのか。それを知ることは、庭や菜園を愛する私たちにとっても、自然の力を生かした持続可能なガーデニングのヒントになります。この記事では、マザーツリーの役割と、その概念を応用した庭づくりのアイデアをご紹介したいと思います。 マザーツリーの働き ~森の母が支える生命のつながり~ Andrea Danti/Shutterstock.com まず、マザーツリーが森林で果たしている役割を少しのぞいてみましょう。その仕組みは驚きと感動に満ちています。 森林の地下には、植物の根とともに、菌根菌による広大なネットワークが広がっています。森の木々は根を通じて菌類と共生し、この「菌根ネットワーク」(ウッドワイドウェブとも)で繋がり合うことで、まるでインターネットのように相互に栄養や情報をやり取りしていると考えられています。たとえば、害虫が発生したときには「注意報」を送り、乾燥が進むと栄養を分配するなどです。そのネットワークの中でも、幼木へ栄養を送ったり、周囲に防御信号を発信するなど、中心的な役割を果たしている木々が、マザーツリーです。 今までの常識では、植物同士は栄養を奪い合い競争する、弱肉強食のようなイメージがあったかもしれません。確かにそういった一面もあると思いますが、じつは最新の科学では、植物同士が助け合いながら生きていることが次々に明らかになってきています。 若木のサポートもマザーツリーの役割 前述のとおり、子どもである苗木に栄養を優先的に送るのも、マザーツリーの大切な役割だと考えられています。日陰の中で成長が遅れがちな若木を助け、次世代の森を支えているのです。 最近まで、光が遮られて日光が当たりにくく、光合成があまりできない森や山の中で、なぜ幼い小さな木が育つのか不明でした。そこで、ある研究チームの実験で、1つのプランターに木を2本植え、片方の木には光が当たらないように遮光袋を被せて1年後にどうなるか、という実験が行われました。普通に考えれば、遮光された木は植物が生きていく上で欠かすことのできない光合成ができず、枯れるはずですが、なんと結果は枯れていませんでした。しかし、同じ条件で、今度はプランターの土に仕切りをつけて根が干渉しないようにしたところ、遮光袋を被せた木は枯れてしまうという結果になりました。 つまり、植物は互いに栄養交換していることが証明されたのです。栄養交換は、根に共生している菌の菌糸のネットワークを通して行われると考えられています。 菌根ネットワークが森林の要 アスペンの森の黄葉。Kristi Blokhin/Shutterstock.com 北米のアスペン(アメリカヤマナラシ)の森林では、マザーツリーが森林全体の健康を支える重要な存在であることが確認されています。アスペンの大木は、菌根ネットワークを介して、他の若いアスペンに炭素や水を分配しています。特に干ばつの際は、マザーツリーがネットワークを通じて水分を供給し、若木の枯死を防ぐことが観測されています。また、伐採が行われたエリアでは、若木の生存率が劇的に低下したそうです。 マザーツリー以外でも! 害虫の食害を防ぐ植物間コミュニケーション Rmdhn.co/Shutterstock.com 皆さんは、動けない植物は、ただ黙って食害される弱い存在だと思いますか? 庭で育てている植物は、害虫がついたら手入れをしてあげなければ枯れてしまうため、少なからず弱い存在だと感じているかもしれません。 しかし、地球上で最も繁栄している生き物は植物です。我々はつい人間が地球上で最も優れているかのように感じてしまいますが、太古からありとあらゆる生存戦略を繰り出し、強くたくましく繁栄し続けてきたのは、まぎれもなく植物なのです。そして、植物なしには他の生物は地球で生きていけない、生態系の基盤となる大切な一次生産者でもあります。 太古から繁栄し続けてきた理由に、動けない植物ならではの隠れた生存戦略があります。それが、害虫からの食害を防ぐ「植物間コミュニケーション」です。マザーツリー以外でもすべての植物に備わっている仕組みで、そのコミュニケーション手段は主に次の3つです。 1. 揮発性有機化合物 (VOC) の利用 植物は害虫に食べられると、周囲に揮発性有機化合物 (VOC) を放出します。この化合物は、近くの植物に「危険が迫っている」という警告信号として作用します。この信号を受け取った植物は、防御反応を活性化させ、害虫が嫌がる化学物質を生成したり、葉を硬くするなど防御を強化します。 2. システム性誘導抵抗性 (Systemic Induced Resistance) 害虫に食べられた植物自身も内部で防御反応を広げますが、その信号が根を通じて土壌中の菌根菌ネットワークを介して他の植物に伝達されることがあります。これにより、周囲の植物も防御態勢を整えます。菌根菌ネットワークは、植物同士の水分や栄養交換だけでなく、害虫の防御反応にも役立っている訳です。 3. 益虫を呼び寄せる信号 害虫が植物を食べていると、植物は特定の化学物質を放出して、害虫の天敵(たとえば寄生バチや捕食性昆虫)を呼び寄せることもあります。これにより、害虫の増殖を抑える効果があります。 <実例> トウモロコシや大豆などの植物は、アワノメイガの幼虫に食べられると、天敵の寄生バチを呼び寄せる化合物を放出します。 アカシアの木は、キリンに葉を食べられると、エチレンを含む揮発性物質を放出し、周囲のアカシアが葉に毒性物質(タンニン)を増加させるよう促します。 <私の経験談> 私は無農薬栽培でバラを育てています。無農薬栽培ですから、もちろん害虫がたくさんやってきますが、私は一度も害虫取りをせずに美しいバラの花畑をつくっています。四季咲きのバラは、夏も休むことなく5月から12月まで花を咲かせてくれ、プロの農家や生産者にも驚かれています。 このようなことが可能な理由は、植物間コミュニケーションを理解し、信頼しているからにほかなりません。 人間が害虫を取らなくても森が育つように、植物自身は自立して育つだけの能力を本来備えているからです。その潜在能力や自然治癒力を妨げず発揮させることで、害虫取りをしなくて済みます。 だからといって、「何もしないほうがいいんだ」と思ってしまうのは早合点です。なぜなら、これは育てている環境に大きく左右されるため。鉢植えであれば、人工的で微生物が乏しい土であり、地面と隔たりのある環境なので、結果が全く異なります。 皆さんが育てている環境や条件、植物により、何が必要なのかは、目の前の植物や自然と向き合い感じることが大切です。 自然から学ぶ庭づくり実践編 ~マザーツリーをお手本に~ 庭づくりをするとき、素敵な草花の組み合わせや、季節ごとの彩りを考えない人はいないでしょう。そこにさらに、マザーツリーの知恵を生かし、さまざまな植物が生育する過程で与え合う影響を考慮することで、より管理が楽で持続可能な庭がデザインできます。「マザーツリー」となる植物を据えた庭づくりのアイデアを、実体験とともにご紹介しましょう。 1.「マザーツリー」を選ぶ まずは、庭の中心となる植物を選びましょう。これは必ずしも大きな木である必要はありません。あなたの庭や菜園に適した「マザーツリー」を見つけてください。 【マザーツリーの例】 果樹:ミカンやレモンなどの柑橘類は、日陰を作りながら実を楽しめる理想的なマザーツリー。 多年草の大型植物:ローズマリーやラベンダーは、香りと防虫効果を兼ね備えています。 <私の経験談> 私の実家では、祖父が植えた古い柿の木が庭の中心にあります。この木をマザーツリーとし、クレマチスを這わせて庭をつくりました。木につる植物を這わせる際には、木の周りを格子で囲む一工夫をすることで、美しく咲かせることができます。 2. マザーツリーが作り出す 微気候を利用する 微気候とは、地表近くのごく狭い範囲の気候のこと。地面の状態や植物などの環境により大きく左右されます。マザーツリーを中心に庭全体の微気候を調整することで、植物の生育環境を整えます。 【微気候の例】 日陰を作る:マザーツリーは、その葉が直射日光を和らげ、夏の猛暑から耐暑性の低い植物を保護します。大きな木であるほど、木陰の涼しさを実感できます。 風よけとして活用:風が強い地域では、マザーツリーが風よけとなって野菜や草花を守ります。強風は植物にとって大敵。例えば私の住む地域では、赤城おろしという北風が冬の間に強く吹きつけます。強風が吹くと畑の土が舞い上がり、ときに前が見えなくなるほどで、防風林のある家も多いです。花の生産者の方に、雪よりも風のほうが植物を傷めるので気をつけていると聞いたこともあります。 <私の経験談> 私の実家は周囲を家に囲まれ、さらに柿の木があったため、日当たりの悪い庭でした。しかし、その環境を逆手に取って、柿の木の下にクリスマスローズを植えることにしました。柿の木は落葉樹なので、夏の直射日光が苦手なクリスマスローズを強い日差しから守り、クリスマスローズが一番日差しを欲しがる冬には落葉して光が差し込むため、相性抜群でした。 クリスマスローズの植栽。 マザーツリーによるシェードガーデンを成功させるには、少しテクニックが必要。何もしないと、木の葉が茂って日光をほとんど遮ってしまうため、きちんと木漏れ日が差し込むよう、枝葉を剪定することが大切です。私なりのやり方ですが、木を下から見て隙間から青空が見えるように、枝葉を減らしています。適度な光が差し込むように計算して切ることで、マザーツリーも若返り、周りの植物も元気に育ちます。 3. 植物たちの「コミュニティ」を作る マザーツリーの周りには、多様な役割を持つ植物を配置しましょう。 【組み合わせる植物例】 窒素を補給する植物:マメ科の植物は、根粒菌の力で大気中の窒素を土壌に固定し、土を肥沃にします。クローバーやルピナス、スイートピー、エンドウマメなど、草花だけでなく野菜にもマメ科の植物はあります。マメ科の野菜を取り入れれば、花を楽しみながら野菜も収穫でき、一石二鳥になるでしょう。 グラウンドカバー:地を這うように広がって地面を覆う、グラウンドカバーになる植物を取り入れて、土壌の乾燥を防ぎましょう。グラウンドカバーに向く植物でも、広がるスピードや面積など被覆力には大きく差があるので、環境や用途に合うよう注意して取り入れましょう。 防虫植物:ミントやマリーゴールドなど、害虫を遠ざける効果がある植物を取り入れます。害虫忌避効果のあるハーブにはさまざまな種類があるので、環境に適したハーブを選びましょう。食用できるハーブは、植物だけでなく自分自身の健康も改善してくれます。 このように植物たちが互いに助け合う「コミュニティガーデン」を作ることで、管理の手間を減らすことができます。 <私の経験談> 私が手掛けているローズガーデンは、もとは田んぼであった土地なので土質が悪く、また週に1度の手入れしかできないので、多様な草花を取り入れることで環境を改善してローメンテナンスにしています。例えば、窒素を供給するスイートピーやクリムソンクローバーを植え、グラウンドカバーや防虫対策としてミント類を取り入れています。 ローズガーデンでは、バラがマザーツリーとしての役割を果たし、多様な草花と互いに助け合いながら豊かな生態系を育んでいます。 4. 菌根ネットワークを生かす土づくり 植物同士が相互に交流するためには、菌根ネットワークが必要。堆肥や籾殻、腐葉土など、善玉菌を増やす土壌改良資材を取り入れることで、植物の根と菌類の共生を促進します。これにより、栄養の効率的なやり取りが可能になり、植物の生育が向上します。 なるべく農薬や化学肥料を控えることも、菌根ネットワークを健全に機能させる上で重要です。また、地面を露出させないよう落ち葉や草を土壌の表面に敷くことで、菌根菌やミミズの活動を活性化します。 5. 小さなスペースでも楽しめる!「ミニ・マザーツリー」のアイデア Philippe Clement/Shutterstock.com 「広い庭がない」という方でも大丈夫! 小さなスペースでもマザーツリーのアイデアを楽しめます。 ベランダガーデン:大きな鉢に果樹(レモンやブルーベリーなど)を植え、周囲にハーブやグラウンドカバーを配置します。寄せ植え風にするとオシャレになりますが、水分や栄養が切れやすくなるので気をつけましょう。 プランター菜園:例えばトマトを中心に、バジルやチャイブを組み合わせて栄養や空間をシェアしましょう。野菜のコンパニオンプランツには相性があります。事前に調べてから組み合わせましょう。 ポタジェガーデン:野菜と花を混合させる栽培は、見た目の美しさだけでなく、食べる楽しみも生まれ、一石二鳥です。サニーレタスや紫キャベツ、ブロンズフェンネルなどのカラーリーフの野菜やハーブは、見た目がオシャレで目も楽しませてくれます。 マザーツリーから学べること 森の中でマザーツリーが果たしている役割は、私たちの庭や日常生活にも多くのヒントを与えてくれます。植物同士の助け合いや、世代を超えた支援の仕組み。これらは、庭づくりだけでなく、人間関係やコミュニティのあり方にもつながる知恵です。 私は社会福祉士として働いていますが、福祉の世界も共生社会の実現が大きなテーマであり目的です。本来の自然の仕組みやあり方を学んだとき、とても福祉の概念と近いものを感じました。むしろ自然から福祉のあり方を人間が学んだのかもしれません。 まずは1本、果樹や多年草を植えてみたり、今ある果樹や多年草にマザーツリーの考え方を取り入れて、あなたの庭を「支え合う生命の場」に変えてみてはいかがでしょうか? その庭で育つ植物たちは、きっと生き生きと輝き出すことでしょう。 自然の力を借りた庭づくりは、私たち自身も豊かな気持ちにしてくれます。マザーツリーをヒントにした庭や菜園は、植物同士の調和を生み出し、私たちの暮らしにも喜びをもたらしてくれるはず。土に触れるときは、ぜひマザーツリーの知恵を思い出してください。
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雑草対策

【雑草は役立つ?!】雑草で冬の大地の乾燥を守り、手間いらずの土壌改良&害虫対策
ローメンテナンスな庭づくりをサポートする雑草 皆さんは、庭や畑に生えてくる野花や雑草と、どうお付き合いしているでしょうか? ほとんどの方が雑草を見つけたら育たないように抜いてしまい、雑草=厄介者として扱っていることと思います。 ですが、もしそんな野花や雑草が、皆さんお困りの害虫対策に貢献してくれる優れものと知ったら、彼らに対する見方が変わるはず。今までの雑草取りの苦労からも解放され、むしろ野花や雑草が庭づくりや家庭菜園の大きな味方になってくれるでしょう。 実際に私が手がけている菜園やローズガーデンは、隣町にあるため週に1度しか手入れができません。そんな困難な状況だからこそ、あえて野花や雑草を取り入れ、自然の働きを生かすことで、ローメンテナンスかつローコストで有機無農薬栽培に成功しています。 有機無農薬で育てる庭の恵み。 秋に芽生える野花は、冬の寒さや乾燥から土を守る大地の衣 taffpixture/Shutterstock.com 秋に入り、気温が20℃前後に下がってくると、春に花が咲く野花の多くが発芽適温になります。この季節、地面に目をやると、小さな可愛い芽生えがあちらこちらで起きていることに気がつきます。こうした秋に芽生える野花の多くが、春に開花し、夏には種子をつけるサイクルです。 春の野花たち。 まだ寒さが残る3月頃には、青空のように美しいイヌフグリやハート形の種子が可愛いナズナ、群生すると赤紫色の花の絨毯をつくるホトケノザなどが、春の訪れを真っ先に感じて咲き始めます。また関東の平地では、すでに11月から春の野花が咲き始め、冬の間でも暖かな日には野花が咲く姿を目にすることもあります。 こうした秋に芽生える野花の大きな特徴は、あまり背丈が大きくならないということ。多くは冬の寒さから身を守るため草丈は低く、この時期育つ花や野菜の光合成の邪魔になりにくいのです。春になれば伸びてくるので、ある程度の草刈りや除草は必要ですが、夏の旺盛に伸びる雑草とは大きく異なり、あまり神経質に除草する必要はありません。むしろ、冬は寒さや乾燥から大地を守る役割を担ってくれるので、活用しない手はありません。 草抜きで砂漠化⁉ 土を潤す植物の役割 smtd4/Shutterstock.com 皆さんも、乾燥する冬は肌荒れを防ぐために、加湿をしたりボディクリームを塗って肌を保護・保湿しているのではないでしょうか? 洋服を重ね着し、寝るときは布団をかけて暖かくして眠りますね。 それと同じようなことが、自然にも言えます。土という地肌を乾燥から守るのは、落ち葉や枯れ草であり、秋に芽生える野花や雑草なのです。 特に積雪のない地域では、生きた野花や雑草は、湿度調整を自動でしてくれる天然の加湿器。植物が生えていないところの土は、日光や風で風化しガサガサになっていますが、植物が生えているところは冬でもしっとりと潤っています。そして雨が降らない日が続いていても、冬の早朝に散歩すると朝露が草についていることにも気が付きます。朝露もまた、土を潤す重要なファクターです。 朝露ができる仕組みは、次のとおりです。晴れた日の夜間には、「放射冷却」現象が強まります。植物の表面は熱を放射しやすく、葉や茎の表面から熱が奪われて周囲の空気よりも温度が下がると、空気中の水分が結露して朝露がつきます。さらに植物の葉や茎は、広い表面積、微細な毛や凹凸のある構造、放射冷却を促す性質など、朝露を形成し集めるのに適した条件を備えています。このように、植物は乾燥した環境でも水分を得られるよう進化してきたのです。 土壌の微生物にも必要な水 植物にとって欠かせない水ですが、植物の生育に欠かせない微生物の多くも、活動のためには適度な水分が不可欠です。ほとんどの土壌微生物は直射日光が苦手で、紫外線、乾燥、高温といった影響を避けるために、土壌の深部など保護された環境に生息しています。土壌微生物の活動を守るためには、土壌の保湿や適度な日陰を保つことが重要。その環境を整える手助けをしているのも、植物なのです。 人間にとっては雑草が生えていないほうが、綺麗で手入れが行き届いているように見えるかもしれません。しかし、生物・生態学的な視点で見ると、何も生えていない土は、植物にとってあまりよくない環境なのです。一生懸命している雑草取りが、もしかしたら砂漠化を招くことになっているかもしれません。 草花が紡ぐ食物連鎖と生命のリレー じつは早春に咲く野花は、害虫対策にもとても重要。雑草扱いして抜いてしまうのはもったいないことなのです。なぜなら、春を感じ冬の寒さから目覚めるのは草花だけでなく、虫などの小さな生き物たちも同じだからです。 こうして目覚めた生き物は、まだ食糧の少ない環境の中で生きていかなくてはなりません。早春に咲く野花には、貴重な蜜を求めて小さな虫たちがやってきます。その虫たちを糧にクモなどの捕食者が増え、その捕食者をさらに上位のトカゲやカエル、鳥などが食べて、生き物全体が食物連鎖により育まれていきます。 ここで重要なポイントは、年間を通して生き物が豊かに育つ環境を整えること。庭では夏にかけて徐々に害虫が増えてきますが、その前段階である冬の目覚めから春にかけて生まれてくる小さな生命を育むことで、春から夏にかけての害虫を抑制することができるのです。 害虫を抑制するために虫たちを育てるのは、一見矛盾するように思われるかもしれません。しかし多くの場合、この生き物たちを育む生命のリレー、食物連鎖のバランスが崩れているからこそ、害虫に悩まされるのです。 1つの野花がもたらすたくさんの恩恵 カラスノエンドウの花と、カラスノエンドウに群がるアブラムシを食べるテントウムシの幼虫。 例えば、4月頃になると咲き始めるカラスノエンドウ。このカラスノエンドウに、たくさんのアブラムシが群がっている姿をよく目にします。 アブラムシが大好物のテントウムシは、カラスノエンドウに群がるアブラムシを食べて繁殖し、アブラムシが出す甘露が大好きなアリは、アブラムシの周りに集まり周辺の害虫を抑制したり、命を終えた生き物を食べて土に還したり、アリの巣を作ることで土の中に水と空気の通り道を作ったりと、植物が生育しやすい環境を整える大きな助けになります。 また、カラスノエンドウ自体にも甘い液を分泌する蜜腺があり、アリを惹きつけ防御をしていると考えられています。アリは蜜腺の甘い液を餌として利用する一方で、カラスノエンドウに付く害虫やその卵を排除する手助けをします。一方、カラスノエンドウの草の汁を吸うアブラムシですが、彼らもじつはカラスノエンドウの生育の手助けをしているのではないかと私は考えています。植物は、葉や茎、根の成長にエネルギーを使う「栄養成長」と、花や果実、種子の形成にエネルギーを集中させる「生殖成長」とに生育の段階が分かれています。そして、この生育の切り替えに昆虫の食害が影響を与えているという研究が多くあります。 カラスノエンドウを観察していると、あえて茎の成長をアブラムシに止めさせて、種子を作る準備を手伝わせているかのようです。真実は定かではありませんが、私にはカラスノエンドウがアブラムシやアリ、テントウムシに食事を与え、まるで自分で自分を育てているかのように見えます。食べる食べられるという関係の中で、お互いが助け合いながら住みやすい環境を整えているように感じられるのです。 結果的に、庭にカラスノエンドウがあることで、アブラムシを食べるテントウムシを増やし、庭や菜園を守り土壌を豊かにするアリを呼び込むことができます。バラを育てている私は実際に、5月のバラが咲く前、4月の段階でカラスノエンドウを活用してテントウムシやアリを増やすことで、害虫対策をしています。季節ごとの現象は決して独立したものではなく、連鎖的に繋がっていくため、自然の流れや繋がりを分断せず好循環させることで、自ずと害虫は減っていきます。1つの事柄の背景には、まるで織り糸のようにさまざまな生き物や環境要因が折り重なっています。そして、庭や菜園をどのように織り上げるかは、私たち次第。自然を排除するのではなく、自然と共生する庭づくりや家庭菜園は、私たちに多くの恵みを与えてくれます。労力削減になるのはもちろん、心の面でもゆとりができ、感謝の気持ちを持って自然をじっくり味わうことができるようになります。 ホトケノザの花に乗る小さなアリ。 カラスノエンドウのような野草は、小さな虫たちと共生しているため、虫たちに合わせた小さな素朴な花を咲かせるものが多いです。園芸品種のような華やかな見た目ではなくても、野花や雑草には食物連鎖を支える大きな役目があるのです。見た目や雑草という先入観に囚われ、野の草花が持つこうした役割に気付かずにいるのは、とてももったいないこと。改めて自然の持つ可能性と豊かさに目を向けることで、新たな発見や気づきが得られることでしょう。 野花や雑草の取り入れ方のバランス 野花や雑草を庭づくりに取り入れる際に難しいのは、その取り入れ方のバランス。自然の仕組みを生かしたガーデニングであっても、一番やってはいけないことは、じつは放置です。近年、雑草を取り入れた自然栽培という栽培方法があり、私もこれに近いことをしていますが、自然が一番いいからといって、放置することがよい訳では決してありません。 面白い植物の実験に、1日3回手で撫でたナズナと、全く撫でなかったナズナの成長を記録したものがあります。実験の結果はというと、撫でたほうが愛情を注いでいるから成長した…かと思いきや、全く成長せず、小さいまま花が咲きました。一方、全く手で撫でなかったナズナはグングン元気に成長し、歴然とした差が現れました。 植物は生態系を支える一次生産者で、常に食べられる危険性があるがゆえに、草食動物に食べられないよう刺激が多い場所では小さくなったのかもしれません。いつも人が歩く場所では、確かに草は小さくなっていますよね。 人が手を入れなければ雑草は旺盛に伸び、育てている植物に覆い被さって光合成の邪魔をしてしまいます。ですから適度な草刈りや除草は欠かせません。もっとも秋に生える野草は、背丈が低く大人しいものがほとんどです。野花や雑草の特徴を把握し、それぞれを程よく残して庭に取り入れることで、生態系を豊かにし、害虫抑制を図ってみてはいかがでしょうか? 雑草抑制のために草花の種まきを 何の手入れもしなければ、庭や畑はもちろん雑草だらけになってしまいます。そこで私が取り組んでいることは、草花の種子を播くこと。さまざまな草花の種子がありますが、私はあらかじめ春に咲く秋まきのものを購入しておき、9月後半から10月の間に播いています。草花が雑草の成長を抑制しつつ花を咲かせるので、雑草取りの労力も減りますし、適度に野花が入り交じる花畑のような美しい仕上がりに。花の蜜を求めて多くの生き物が集まるため、生態系も整います。花畑を作ることで、結果的にバラや菜園の害虫や雑草を抑制してくれるのです。 種まきをしても環境に合わない草花は自然と絶え、環境に合うものが残ります。咲いた花は種子を採取し、また秋に種まきすることで、コストを削減できます。さらに植物には適応能力があり、育った環境の学習が次世代に引き継がれるため、自家採種した種子はより環境に適応して強い株になり、少しずつ育てやすくなっていきます。 こうして残った環境に合う植物は、ほとんど手がかかりませんし、元気よく育って見事な美しい花を咲かせてくれます。ありふれた草花であっても、生き生きと咲いている姿は見応え十分で、見る人を感動させてくれます。創造という無限の可能性に触れることができるガーデニング。自然や宇宙の目には見えない摂理とも繋がり、内なる自分自身とも向き合う神聖な行為だと、私は感じています。 四季折々に咲く草花や、季節ごとに移り変わる景色、生き物の営み、鳥のさえずりや虫たちの美しい演奏、土や草花の香り……五感を通して感じるすべてに癒やしがあります。小さな虫の赤ちゃんが懸命に生きて少しずつ育っていく姿を見ていると、私も嬉しい気持ちになりますし、いつも害虫が増えすぎないように整えてくれる生き物たちには「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えています。 私は害虫や益虫を区別せず、全ての生き物に感謝しています。自然界では、それぞれが影響し合い、依存しています。だからこそ、無駄な生命はなく尊い命なのです。 自然の恵みを分かち合う 植物を育てていれば、病害虫対策は尽きることのない悩みです。しかし、本来は癒やしを求めて植物を育てているはずなのに、病害虫対策に神経をすり減らしてストレスに感じてしまうのでは本末転倒。 ガーデニングや菜園では、私たち人間が楽しむために植物を育てますが、植物は本来、誰の所有物でもなく、生きとし生けるもの全てと恵みを分かち合う存在だと思います。いま地球規模で起きている環境問題も、地球や自然を人間の所有物だと思い込み、他の生命を顧みず好き勝手に独占してきた結果ではないでしょうか。 だからこそ、多少虫に食べられたとしても目くじらを立てず、恵みを分かち合う存在として温かく見守る気持ちを持つことが、いま起きている地球規模の危機を救うきっかけになると、私は信じています。
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土作り

水やりの前に〇〇するだけ! たったひと手間で植物が元気に育つコツをご紹介
水やりに使っている「水」は安心? Pintira18/Shutterstock.com ガーデナーの方なら、日々当たり前にしているであろう、水やり。その際、ほとんどの場合は水道水を利用すると思います。その水道水が、土に対してあまりよくない影響を与えているかもしれないと考えたことはあるでしょうか? その原因となるのは、皆さんご存じのカルキ(塩素)です。カルキは次亜塩素酸カルシウムという物質で、高い殺菌力を持つ塩素を原料にしています。水道水には基本的にこのカルキが含まれていることにより、病原菌やウイルスが殺菌され、飲料水としての安全性が保たれているのです。また、水道水に残る塩素の量には厳しい基準があり、人体に害を及ぼさないレベルに調整されています。 しかし、植物にとってはどうでしょうか? Shaplov Evgeny/Shutterstock.com 水道水が人間にはほとんど影響を及ぼさないとしても、微生物たちにとっては大問題です。なぜなら病原菌を殺菌できるということは、同じ仲間の微生物を殺菌することになるからです。 そして、植物にとって大切な土は、微生物の塊。土中に棲息するさまざまな微生物が有機物を分解し、植物が吸収できる形に変換しているのです。 何気なく行っている水やりが、植物や土に悪影響を及ぼしているなんて考える人は、ほとんどいないのではないでしょうか? 動植物に影響がある塩素 Nukopic/Shutterstock.com 残留塩素への不安から、自分自身や家族の健康によくないと考えて浄水器を使用するご家庭は多いですが、育てている大切な植物にまで同じように気を遣っている人は少ないと感じます。 私は以前、メダカや熱帯魚を飼育したことがありますが、水道水をそのまま使用すると、メダカも熱帯魚も死んでしまう恐れがあるため、タブーとされていました。そのため、水道水は必ず1日くみ置きしてカルキを抜いてから使用するか、カルキ抜き剤を活用していました。水道水の殺菌力には、それほどの影響があるということです。 水槽の場合、カルキの害を大きく受けるのが、水槽内の水をきれいにするバクテリア類です。水道水は、この有益なバクテリアにダメージを与えます。つまり、カルキが含まれたままの水は、生体の飼育に向かず、水槽内の水質が悪化してしまうケースが多いのです。 Holiday.Photo.Top/Shutterstock.com そして水中のバクテリア類に作用するのと同様に、土の中の有益な微生物に対しても、水道水は悪影響を及ぼします。 カルキを含んだ水道水を使用した場合、魚はすぐに死んでしまうので結果が分かりやすいですが、植物はそう簡単には枯れません。むしろ徐々に弱るなど、変化はゆっくりと進行することでしょう。 ちなみに、皆さんの身体の腸内細菌も微生物の塊ですから、水道水をそのまま飲むと腸内フローラが乱れ、健康に少なからず影響する可能性もあるそうです。人体に影響がないとされていても、多くの人が浄水器を使用するのは、そうした不安があるのかもしれません。 では、植物の水やりにはどのような水を使うとよいのか。それを考えるために、塩素が含まれていない水、つまり雨水と水道水との違いを考えていきましょう。 雨水が植物を元気にする! 雨水のメリットと水道水のデメリット Olga65/Shutterstock.com 水分供給という役割は同じでも、雨水は水道水と比べて、植物や土壌に異なる影響を与えることがあります。雨水と水道水の植物や土壌への影響について、比較して詳しく見てみましょう。 1. 塩素の影響 水道水には、細菌やウイルスを殺菌するための塩素が含まれています。塩素は植物に有害となる場合があり、特にデリケートな植物にとっては成長を妨げたり、根の健康に悪影響を及ぼすこともあります。さらに、土壌中の有益な微生物(バクテリアや菌類)も塩素で死滅することがあり、土壌の微生物バランスが崩れる可能性があります。 2. 窒素の供給 雨水には、植物の成長に必要な窒素が含まれています。雨が降ると大気中の窒素化合物が雨水に溶け込み、土壌に浸透します。植物はこの窒素を吸収し、葉や茎の成長を促進します。また、雷雨の後にはプラズマによって空気中の窒素が反応しやすくなって酸素と結合し、さらに植物が利用しやすい形で地上に降り注ぐため、雨後には植物がよく育つといわれています。 3. ミネラル成分の違い 雨水には、微量の窒素やカリウム、カルシウム、マグネシウムといった植物に有益なミネラルが自然に含まれています。これらは土壌に浸透して植物に吸収され、細胞の強化や代謝の促進に寄与します。特に自然環境では、山や森の中を通過して集まる雨水には豊富なミネラルが含まれています。 一方で、水道水にはこれらの成分が含まれていない場合が多く、逆に炭酸カルシウムなどの硬度成分が多い場合もあります。硬水は土壌のpHを変えてしまい、アルカリ性に傾きがちです。これにより、植物の栄養吸収が妨げられることがあります。 4. pHの違い 水道水は一般的に中性から弱アルカリ性ですが、雨水はやや酸性(pH5.5〜6.0)です。弱酸性の土壌は、多くの植物にとって良好な環境であり、土壌中の栄養素の吸収を助けます。特に植物の健康な成長をサポートする微量元素(鉄やマグネシウムなど)は、弱酸性の環境で植物に吸収されやすくなります。 一方、アルカリ性の強い環境は多くの植物に不適で、水道水によってアルカリ性が強まると鉄やマグネシウム、亜鉛といった微量栄養素の吸収が低下し、植物の成長が阻害される可能性があります。 5. 水道水に含まれるフッ素の影響 一部の地域では水道水にフッ素が添加されていますが、フッ素は植物にとって有害になる場合があります。特に、シダ類、ポトス、ランなどの感受性の高い植物はフッ素に影響されやすく、葉の縁が茶色く変色するなどの症状が現れることがあります。 ひと手間かけるだけ! 具体的な水やりの改善方法 Olya Detry/Shutterstock.com ここまで見てきたとおり、植物に優しい水やりをするためには、使用する水にも注意を払うことが大切です。そこで水やり前のワンポイントとなるのが、カルキ抜きのひと手間。蛇口から注いだ水をそのまま使うのではなく、塩素を抜くために、水道水を一晩置いてから使用するとよいでしょう。または、雨水を集めて利用する方法もおすすめ。雨水を利用すれば、ミネラル分や窒素も供給でき、水道代の節約にもなりますね。 ただし、雨水を溜めると、季節によっては蚊を発生させる原因になります。蚊が発生しないよう、水はこまめに使い切りましょう。 J.J. Gouin/Shutterstock.com 水を求めて伸びる根の性質 もう少し、水やりについて深掘りしていきましょう。 長年ガーデニングに関係していて感じることは、植物にとって重要かつ基本的な水やりを、間違って行っているケースがあるということ。水がもたらす植物への影響については考慮せずに単に「水やり」、水分の供給だけをしているということです。 植物が成長する上で、水やりを工夫するだけで育ち方が全く違うことは、ぜひお伝えしたいと思います。 Jirasak JP/Shutterstock.com 植物と水の関係を見る際、これだけは押さえておきたいポイントは、「植物は水を求めて根を伸ばす」ことです。これは「根の成長応答」として知られており、植物の根は水分や栄養分が豊富な方向へと伸びる性質を持っています。このメカニズムは 水分屈性とも呼ばれ、水分が多い環境を探して根は成長するのです。 この性質をきちんと理解することで、無駄な水やりをしなくて済み、労力を省くことができるだけでなく、植物がより元気に育ってくれます。 まずは、植物の根のメカニズムについて詳しく見ていきましょう。 1. 水分センサーの働き 植物の根には、土壌中の水分濃度を感知するセンサーがあり、より湿度の高いほうへ曲がって成長します。水分が多い方向へ成長を促進させ、水分が少ない方向へは成長を抑制することで、効率的に水を吸収できるというわけです。この仕組みがあるため、土に湿った部分と乾いた部分がある場合、植物は水が多い部分に根を伸ばし、乾燥した部分にはあまり根を広げません。 2. 水不足時の根の成長促進 水分が不足すると、植物は水分を求めて根をさらに深く、広く伸ばします。これにより、土壌の中で少しでも水分がある場所まで根を到達させ、水分を吸収しようとします。このように、植物は環境に応じて根の成長パターンを変化させることで、生存率を高めています。 3. オーキシンなどの植物ホルモンの役割 植物ホルモンの1種であるオーキシンは、根の成長に関与しており、水分の多い方向へ根が伸びるように調整します。オーキシンの働きによって、根は柔軟に方向を変え、水を求めて成長を続けます。 4. 土壌の硬さや栄養素の影響 水だけでなく、栄養素が多い方向にも根は伸びる傾向があり、水分と栄養素が揃っている場所では根がより集中的に成長します。また、根は土壌の硬さによっても成長を調整し、柔らかくて成長しやすい部分に根を伸ばすことで、効率的に水分と栄養素を吸収しています。 このように植物は水分を感知し、その方向へ根を成長させます。この働きにより、植物は少ない水分でも効率的に吸収し、生育環境に適応しています。このことを理解すると、水やりの方法について改めて見直す必要性が見えてきます。 地植えの植物に水やりは不要!? Evgenyrychko/Shutterstock.com このような根の性質を理解したうえで、水やりの実践的な方法としての重要なポイントは、「地植えに水やりは不要」ということ。 庭にしろ菜園にしろ、水やりを頑張っている方が結構います。私の親も、夏はポリタンクに水を入れてわざわざ畑に持っていき、忙しそうに水やりをしては疲れています。ですが、地植えであれば、本来こうした労力は減らしてもよいものなのです。 なぜ地植えに水やりが不要かというと、先ほど述べたとおり、「植物は水を求めて根を伸ばす」から。水やりをいつもしていると、植物はわざわざ水を求めて根を伸ばす必要がなくなります。そうすると、過保護に育った甘えん坊に。いつも水やりをしてもらうことに慣れ、自ら水を求めて根を伸ばさないので、人間が世話をしないと育たない軟弱な植物になってしまうのです。 このような植物は環境の変化にも弱く、人間が手を抜けばすぐに弱ってしまいますし、猛暑や嵐などの過酷な環境にも耐えられません。親が料理を作って子どもに与えているだけでは、子どもはいつまで経っても料理を自分で作ることができず、親がいないと食べていけなくなるような感じですね。 Lois GoBe/Shutterstock.com 良くも悪くも植物は環境適応能力と学習能力が高く、育てる人をそのまま映し出します。 植物を育てる皆さんは優しい人ばかりだと思います。しかし、その優しさが必ずしもよい結果を生む訳ではないのが、植物を育てることの難しさであり奥深さです。それは子育てと全く同じですね。 人間も植物も、生き物にとって重要なことは、「自立」させることです。 自然界の生き物はどれも自立して生きていますね。いかに自立を妨げず、それぞれの個性や潜在能力を引き出すかが、とても大切です。 JRomero04/Shutterstock.com ここで注意すべきことは、それぞれの環境を俯瞰してよく観察し、それに応じた手入れをするのが大切だということです。 先ほど、地植えならば水やり不要と言いましたが、あくまでも一般論。それを鵜呑みにするのではなく、それぞれの環境に応じた適切なケアが必要になります。 例えば、軒下や壁際は雨が当たりにくい、コンクリートに囲まれて暑くなりやすい、花壇が立ち上がっていて日差しが当たりやすいなど、庭の環境はさまざま。このような雨が当たりにくい場所や、太陽の熱で土や植物が温まりやすい場所は、通常より水分が蒸発しやすく、必要に応じて水やりが不可欠です。植物や環境を観察してしっかり向き合い、そのニーズを感じ取ることがとても大切です。 Milos Ruzicka/Shutterstock.com 物言わぬ植物だからこそ、私たちに沢山の気づきを与えてくれ、感性を豊かにする素晴らしいパートナーになってくれます。 水やりを工夫して労力を削減するだけでなく、環境にも植物にも優しい雨水を利用したり、ほんのひと手間かけて水道水のカルキ抜きをするなど、お金をかけずに大切な植物をより一層元気に育てていきましょう。
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育て方

【バラの無農薬栽培】長年の経験から見えた病気の意外な性質と病気対策を解説
時間がないからこそ薬剤無散布でローメンテナンスな庭づくりを 私はバラの無農薬栽培を長年続けてきました。初めてバラを育て始めた16年前から有機無農薬栽培に関心があり、化学的な農薬は一切使わず、木酢液やニームオイルなど自然由来のものを使用して病気対策をしてきました。当時は実家で暮らしていたため、仕事前や仕事終わり、休日と手入れをする時間があり、病気対策に時間をかけられたのです。現在は実家から離れ、アパートに住んでいるので庭がありません。親戚に元田んぼだった畑を借り、週末に隣町まで出かけてバラ園と菜園づくりをしています。 実際にやってみて感じたのは、庭や畑は目の前にあるかないかで、難易度が全く違うということです。 私の場合は、庭まで車で20分かかり、週末の午前中しか手入れをする時間がありません。したがって、丁寧に病気対策をしている時間も余裕もなく、自然由来のものを使用したそれまでのやり方は全く通用しませんでした。だからこそ今は、「病気対策に何も散布していません」! むしろ散布する余裕がありません。 一般に病害虫対策に有効とされる散布剤は、農薬か天然成分かを問わず、一切使用していません。一読して信じられないかもしれませんが、本当に時間がなく、何もしていないのです。それでも美しいバラの花畑をつくることができています。 「植物本来の力を発揮させれば、何もしなくても健康に育てられる」。それが、私が実感していることです。病気という固定観念や先入観に縛られることなく、見方や捉え方を変えることで、よけいな労力を減らす。これが私のローメンテナンスな美しい庭づくりの秘訣です。 今回は、経験から学んだことを基に、私なりの病気対策についてお話ししたいと思います。 「多様性」が病気の発生を抑える鍵 皆さんは「連作障害(れんさくしょうがい)」という言葉をご存じでしょうか? 特に野菜作りでは、この連作障害という言葉をよく耳にします。同じ場所で同じ種類の植物(または同じ科に属する植物)を繰り返し栽培すると土壌環境が悪化し、植物の生育に支障が出るという現象です。 植物は、成長の過程で特定の栄養素を多く吸収します。同じ植物を繰り返し栽培すると、その植物が必要とする特定の栄養素(窒素、リン、カリウムなど)が不足し、土壌の栄養バランスが崩れます。結果として、栄養が偏った土壌になるため、植物がうまく成長できなくなります。 Borri_Studio/Shutterstock.com また、連作を続けると特定の植物に寄生する害虫や病原菌が土壌中に蓄積され、次の栽培シーズンに同じ植物を植えた場合、それらの病害虫が急激に増殖し、植物に悪影響を与えます。特に、根腐れ病や線虫などの土壌病原菌や害虫は、連作によってその数が増え、植物の健康を脅かします。 例えば、バラ園でバラしか植わっていないような状況は、土壌の栄養バランスや生態系が乱れやすく、病気が多発しやすい環境といえます。一方で自然界では、多種多様な植物が育つことで栄養バランスや生態系が整い、病害虫の発生を抑制しています。このことから分かるとおり、多様性こそが病気の発生のみならず、害虫の抑制にもつながるのです。 私のバラ園では、バラ以外にも多種多様な草花を育てています。栄養を奪われてしまうのではと心配する方もいると思いますが、多種多様な草花があることで土壌の栄養や微生物のバランスが整い、バラも元気に咲いてくれます。 ポイントは、同じ科の植物ばかり植えず、違う科に属するものも植えること。 私のバラ園では、セリ科のオルレア‘ホワイトレース’やパクチー、アオイ科のマロウ、シソ科のミント系、キンポウゲ科のオダマキ、マメ科のスイートピー、ボタン科のシャクヤク、アヤメ科のアイリス、キク科のシュンギク、イネ科の野草など、多様性を意識して、さまざまな植物を取り入れています。 そうすることで自然と病気の発生を抑えるだけでなく、美しい花畑のようなガーデンに仕上がり、一石二鳥です。 雨で消えたうどんこ病 うどんこ病が発生したバラ。Bunina Darya /Shutterstock.com バラの病気といえば、開花直前に咲かなくなる「うどんこ病」が有名です。この病気には実家の庭を手入れしているときにも悩まされ、あと少しで咲きそうなタイミングでうどんこ病にかかり、開花せずに終わるなんてことが何回もありました。 しかし、そのうどんこ病が薬剤散布せずに予防できると聞いたら、絶対に知りたいですよね! 私がうどんこ病の意外な性質に気づいたのは、ビニールハウスで育てているバラからでした。ビニールハウス内のバラは、毎年必ずうどん粉病にかかってしまうため、病気対策としてよくいわれる風通しをよくすることを行っていましたが、まるで効果がありません。しかし、外の庭に咲くバラはうどんこ病に全くかかっていないことに気がつき、なぜなのか観察したところ、ある事実に思い至りました! それは「雨が当たるか、当たらないか」です。 soohyun kim/Shutterstock.com 試しにビニールハウス内のバラに、株の頭から雨のようにシャワーで水をかけてみました。すると、明らかにうどんこ病の被害が減ったのです! そのときに「人間がお風呂で汚れを落とすように、自然界では雨が汚れを落とすシャワーになっているのではないか」と気がつきました。うどんこ病の原因はカビの1種です。カビが付着したままでは病気になるはずだと思い、バラに対して申し訳ない気持ちになりました。 そこで、ビニールハウスの屋根を外したらどうなるか試してみました。すると、うどんこ病が発生しなくなったのです! これはあまりにも衝撃的でした。なぜなら、私がいままでガーデニングの常識として教わってきた“雨が病気を運んでくる”とか、“植物に頭から水をかけるな”ということは、この現実とは真逆だったからです。 常在菌のバリアが病気を防ぐ そこで菌についての本を読みあさり、分かってきたことがありました。 それは、私たちの肌も植物の表面も常在菌が埋め尽くしており、常在菌のバリアで病気から身を守っているということです。病気のメカニズムの1つに、この常在菌のバリアが大きく関係しているのです。 分かりやすい例えをすると、菌の繁殖は椅子取りゲームと同じ仕組みです。 健康な状態ではよい菌が椅子のすべてを埋め尽くしており、悪い菌は座れないので病気にならない。しかし、健康状態が崩れ、よい菌が弱ったり、殺菌や消毒などで常在菌のバランスが崩れて空席ができると、病気の原因になる悪い菌が椅子に座り、増殖してしまうのです。 新型コロナウイルスが大流行したときに、アルコール消毒を熱心にしている人の手は常在菌のバリアが崩壊して、酷い手荒れが続出したことをご記憶かと思います。私たちの肌も植物にも、目には見えない常在菌たちが共生していて、健康を守ってくれているんですね。この働きを知ったときは、菌に感謝の気持ちでいっぱいになりました。 Alexandra Bobir/Shutterstock.com そのことから考えると、水道水をバラの頭からかけてもうどんこ病が消えなかったのは、塩素などの消毒液が含まれている水道水では、常在菌も一緒に殺菌していたからかもしれません。自然の雨には消毒液など含まれておらず、常在菌がたっぷりいます。この雨が、植物の常在菌バリアを綺麗に保っているのではないでしょうか。実家の庭でも、雨があまり当たらない軒下や壁際などのバラは、顕著にうどんこ病の被害が出ていました。 だからこそ、雨が当たりやすいように工夫しただけで、うどんこ病が確かに減ったのです。自然のメカニズムは本当に凄いなと改めて感じました。 そもそも自然界では消毒も存在しませんし、木酢液やニームオイルが空から降ってくるなんてことはあり得ないのです。だとしたら、じつは手を掛けず自然に近い環境にしてあげることが、一番の病気対策になるのではないかと、自然から学ぶことができました。それ以来、木酢液などの天然成分の散布剤も一切使用していません。 枯れる前にうどんこ病になる植物たち High Mountain/Shutterstock.com 早春に咲く紫色のホトケノザという野草があります。私の住んでいる地域では、春になると一面紫色に染まるホトケノザの絨毯が畑に現れます。まるで小さなラベンダー畑のように美しい光景です。 そのホトケノザが、一斉にうどんこ病になるときがあります。それが花の見頃を過ぎた頃。その後4月になると枯れて、5月にはすっかりなくなってしまうのです。 その経過を見て、植物は枯れないといつまで経っても種が落ちないため、次世代への交代を手助けしているのがうどんこ病ではないのかと感じました。うどんこ病の原因菌は土や落ち葉などにいる糸状菌というカビ菌の一種なので、土に還るために土壌細菌のうどんこ病にかかるのも納得がいきます。 同じ現象が菜の花やギシギシなどの野草でも見られます。花が咲き受粉が始まる頃になると、虫がつき、病気になり、葉がなくなっていくのです。 病気が促す植物の生育サイクル Kalinin Ilya/Shutterstock.com 花が咲き、実ができると、植物ホルモンのエチレンが分泌されます。このエチレンの効果に、果実の熟成と落葉・落果の促進、花の開花促進と老化という作用があります。ここから推測できるのは、開花後に病気になることは、次の世代へのサイクルを促す自然の摂理ではないかということです。 もっとも、バラのうどんこ病は開花前のつぼみにも発生するので、必ずしも枯れるためにうどんこ病になっているとは限りません。 しかし、自然界には病気の役割も多々あり、時に植物が自ら病気にかかる選択をしていることもあるのではないでしょうか。動物のようには動けない植物は、代わりに外部のものの手を借りる必要もあるでしょう。人間が病害虫と決めつけているものが、じつは植物と共生関係だという可能性は十分にあるのです。 謎の多い微生物の世界 William Edge/Shutterstock.com 私たちの知る病気の原因となる微生物を含め、微生物について現代で解明できているのは、なんとたったの1%程度だそう。99%は何をしているか分かっていないのです。微生物の研究は、病気を起こす原因になるものを中心に、それ以外の人間の役に立つ善玉菌などの有用菌から解明が進んでいるようです。研究にも資金が必要なので、悪い菌に効く薬を開発したり、善玉菌を活用した商品を発明するのに注力し、商売にならない菌の研究が進まないのもうなずけます。 最近では、病気の原因菌として知られてきたものが、じつはよい効果ももたらしていることが判明したという記事も見かけます。自然界は私たちが想像する以上に、病気だから悪という単純なものではないのかもしれませんね。 時が経ち研究が進めば、今の常識がじつは違っていたなんてこともあり得ますし、過去に何度も繰り返されてきた話です。だからこそ私は、あまり病気に対してネガティブなイメージは持たず、ありのままを感じるように心がけています。 暑さからバラを守る黒星病(黒点病) Douglas Cliff/Shutterstock.com 黒星病もバラを代表する病気です。私も皆さんと同じように悩まされてきました。 そもそも、なぜ黒星病になるのでしょうか。 一般的には、泥はねなどにより土壌にいる病原菌が付着するためだといわれています。しかし、実際に栽培していると、どう考えても泥はねが届かない高さまで黒星病になったり、黒星病になるバラとならないバラがあったりと不思議でなりませんでした。 育てているバラの中には、夏になると毎年必ず黒星病にかかる品種があります。それをあえてそのままに放置したらどうなるか実験してみたところ、下の葉から病気になり葉が落ちていきました。 しかし、途中で気がついたことがあります。それは、上半分の新しい葉は病気になっていないということ。また、病気で古い葉が落ちて、自然と風通しがよくなっていました。 このときに思い浮かんだのが、農家が野菜を育てるときに行う「葉かき」という不要な葉を落とす技術です。もしかしたら、バラ自身が病気になり古い葉を落とすことで、葉からの蒸散量を抑えて脱水症状を防ぎつつ、風通しをよくして身体を冷やしていたのかもしれないと思いつきました。 夏の間に黒星病ですべての葉が落ちてしまうバラもありましたが、枝は緑のままで潤っていたので、夏剪定だけしてそのまま様子を見てみました。秋になり涼しくなると、まるで春に新芽が芽吹くように、新しい枝が元気よく伸びて見事な花を咲かせてくれました。 こうして観察していると、暑さ対策として植物が自ら黒星病にかかり、葉の量を調整したり休眠しているかのようです。あくまで私の考察ですので、必ずしもそうでないかもしれませんが、これをきっかけに、黒星病に対してあまり神経質にならず様子を見るようになりました。黒星病に弱く夏に葉を落としやすいバラは、もともと暑さが苦手な品種なのでしょう。 赤さび病の自然治癒 コムギに発生した赤さび病。Tomasz Klejdysz/Shutterstock.com 以前、赤さび病が大発生し、それも耐病性の高い新しい品種にだけ赤さび病が出た年があります。 はじめは落葉性の病気だからと、黒星病と同じ感覚で様子を見ていたのですが、黒星病と異なり、赤さび病は葉だけでなく茎や芽まで侵食し始め、バラがひどく弱ってしまいました。そこで無農薬ではどうしたら克服できるのかを考え、いくつか実行してみた結果、翌年には赤さび病を減らすことに成功しました。 その方法を3つご紹介します。これは、赤さび病に限らず病気対策に共通する有効な手段です。 ① 剪定をして風通しをよくする VH-studio/Shutterstock.com 植物に病気が発生する原因は、70〜80%が菌類によるものだとされています。 病気の原因の大半を占める菌に対し、簡単で最も有効な手段が、風通しをよくすること。風通しをよくするだけで、以下の3つの効果があります。 湿気を抑える: 多くの植物病原菌、特にカビや菌類は湿度の高い環境で繁殖しやすいため、風通しをよくして湿気を抑えることで、病気の発生リスクを減らせます。 葉の乾燥を促進: 植物の葉が濡れていると病原菌が繁殖しやすくなります。風通しがよければ、葉の水分が早く蒸発し、病原菌の繁殖条件が揃わなくなります。 空気循環の促進: 空気がよどむと、病原菌が集まりやすくなりますが、風が通ることで病原菌の蓄積を防ぎ、植物の健康を保つのに役立ちます。 私流の考え方では、「洗濯物理論」です。 洗濯物を干すときに風通しがよくないと乾きにくく、生乾き臭がしますよね。このニオイも菌の増殖が原因です。植物を育てるときも洗濯物を干すときと同じ感覚で、風が通るよう剪定するとよいでしょう。 風通しのよさは、じつは農薬を使うよりも効果があるという研究もあります。農薬は対症療法であって根本療法ではなく、一時的には確かに効果があっても、環境が悪ければ再発してしまうためです。 無農薬栽培をしたい方は、ぜひ剪定に力を入れてみてください。 ② 剪定をして日光がよく当たるようにする katushOK/Shutterstock.com 日光は植物の病気対策として非常に効果的です。植物の健康を保ち、病気を防ぐ役割を果たす日光が葉にまんべんなくいきわたるよう、剪定しましょう。日光の効果には次のようなものがあります。 光合成を促進: 日光が十分に当たることで植物は光合成を効率的に行い、栄養を作り出して強い免疫力を保つことができます。健康な植物は病原菌に対する抵抗力が高まります。 湿気を抑制: 日光が植物に直接当たることで、土壌や植物の表面が早く乾燥し、菌類やカビの繁殖条件である高湿度の環境を防ぐことができます。 紫外線の殺菌効果: 日光に含まれる紫外線は、植物の表面に付着している病原菌やウイルスをある程度殺菌する効果があります。特に、カビや菌類は紫外線に弱いものが多く、日光を浴びることは自然な消毒方法となります。 植物の成長を促す: 十分な日光は、植物の健康を支え、丈夫な茎や葉を形成するのに役立ちます。これにより、病害虫に対する防御力が強化されます。 ただし、植物によっては強い直射日光がストレスになる場合もありますので、適切な日照条件を選ぶことが重要です。 ③ 有機石灰を施し、土壌のpHを整える FotoHelin/Shutterstock.com 見逃しがちな土壌のpHですが、病気対策では非常に重要です。雨の多い日本は酸性雨により、自然と酸性に傾きやすい土壌です。有機石灰を施して土壌のpHを整えることを意識しましょう。 有機石灰が植物の病気対策に役立つ理由として、以下の5つが挙げられます。 土壌のpHを調整する有機石灰は酸性の土壌を中和し、適切なpHバランスを保つことで、植物にとって健康な成長環境を作ります。多くの植物病原菌は酸性土壌で活発になるため、土壌のpHを調整することで、病気の発生を抑制することができます。 カルシウムの供給有機石灰には植物にとって必須の栄養素であるカルシウムが豊富に含まれています。カルシウムが不足すると、植物の細胞壁が弱くなり、病原菌が侵入しやすくなります。十分なカルシウムを供給することで、植物の免疫力を強化し、病気に対する抵抗力が向上します。 微生物環境の改善有機質が原料である有機石灰には、土壌中の有益な微生物の活動を活発にし、土壌の健康状態が改善する効果も期待できます。健全な微生物環境は、病原菌の繁殖を抑える効果があり、植物の病気対策に役立ちます。 栄養素の吸収効率向上有機石灰は土壌の養分バランスを整え、他の栄養素(特に窒素、カリウム、リンなど)の吸収効率を高めます。土壌中の栄養がうまく吸収されると、植物の健康が向上し、病気に対する耐性も強くなります。 根の発育促進石灰を適切に施すことで、根の発育が促進され、植物の全体的な健全性が向上します。強く健全な根は、病原菌に対してより強い防御力を持ち、病気にかかりにくくなります。 ◎おすすめはリサイクルされた天然由来の石灰 貝殻や卵殻などの自然に存在する材料から生成された石灰は、持続可能で自然への負荷が少ない資材です。これらの石灰は、土壌に必要なカルシウムやマグネシウムを自然な形で供給してくれます。 免疫力を生かした柔軟な無農薬栽培 私たちも、普段ワクチンなどの予防接種を受けたり、乳幼児は風邪を引くことで免疫を獲得して病気にかかりにくくなるといわれますよね。私はガーデニングでも免疫獲得を意識しており、病気にかかっても慌てずに様子を見たり、あえて病気で落ちた葉をそのまま土に還したりしています。早期対処や病原体の隔離が鉄則な中、なんて非常識なことをするんだと思われるかもしれませんね。 ですが、自然界では薬剤散布をしなくても病気は少なく、美しい循環と調和の中で、植物も元気に育っています。だからこそ、あえて自然な方法で栽培できないか研究と探求をしたくて仕方ないのです。 実際に、自然に近い形で病気の葉を落としておいても、バラは元気なままでスクスク育っています。むしろ、どうしてこんなに色艶がよく、丈夫で生き生きとしているのですかと驚かれることもあります。自然界には必ず反作用が働きます。病気にしろ害虫にしろ、植物は害されると必ず抵抗物質を作り、病害虫に負けない株になるのです。 ただし、これは病気に負けない株になっていればの話。人間も体力が落ちて衰弱している人が病気にかかったら薬を使うように、育てている植物が弱っていたら、私のようなスパルタなことはやめておきましょう(笑)。 目の前の植物を見て薬が必要だと感じたら、無農薬栽培にこだわらず、薬に頼ることも大切です。 適材適所が大切 そもそも病気になる原因として、育てる場所や品種が合っていないケースがあります。 私のバラ園ではオールドローズしか植えていないのですが、ガリカ系のバラはことごとく育ちませんが、ダマスク系のバラはよく育っています。このように、一口にバラといっても品種により性質が違い、植え場所の気候や風土に合わないことがあります。日当たりが好きな植物を日陰で育てることが難しいように、合わない環境では元気に育たず、病気になりやすくなります。ご自身の育てる環境をよく調べた上で、適材適所で合う植物を選ぶことが大切です。 肥料過多も病気の原因 JulieK2/Shutterstock.com 最後にご紹介する病気の原因は、肥料過多です。 誰しも花をたくさん咲かせたい、元気に育てたいというあまり、つい肥料をあげすぎてしまうことがあるもの。肥料の規定量はパッケージに記載されていますが、何となくであげている方も多いのではないでしょうか? 肥料が多すぎると、植物に多くの問題を引き起こし、結果として病気にかかりやすくなります。過肥が引き起こす問題は、次の5つです。 1. 塩害による根のダメージ 肥料が過剰に与えられると、肥料に含まれる塩類や土壌中の成分と反応して生み出された塩化ナトリウムにより、土壌の塩分濃度が上がります。これを「塩害」と呼びます。塩分が多いと、植物の根が水分を吸収しにくくなり、逆に根から水分が失われることもあります。この状態では、植物は水不足に陥り、弱ってしまいます。根が損傷すると病原菌が侵入しやすくなり、病気のリスクが高まります。 2. 不均衡な栄養吸収 肥料が過剰になると、特定の栄養素(例えば窒素)が過剰に供給され、他の重要な栄養素(例えばカリウムやリン)が不足することがあります。栄養素の不均衡は、植物の成長や免疫力に悪影響を及ぼします。特に窒素過多は、葉や茎が過剰に成長する一方で、根の発達が不十分で、病気に対する耐性が弱くなることがあります。 3. 成長が不自然に早くなる 肥料過多は植物の成長を促進しますが、急激な成長は植物の組織を柔らかく脆弱にします。このような軟弱な組織は、害虫や病原菌の攻撃に対して弱く、病気にかかりやすくなります。また、葉や茎が過度に成長すると、密集しすぎて風通しが悪くなり、病原菌が繁殖しやすい環境になります。 4. 土壌の微生物環境の悪化 肥料が過剰に供給されると、土壌中の有益な微生物のバランスが崩れます。特に化学肥料が多い場合、土壌中の有益な菌が減少し、病原菌が増殖しやすくなります。この結果、植物の根が弱り、病気に対する防御力が低下します。 5. 植物の免疫力低下 過剰な肥料は、植物にとってストレスとなり、免疫力を低下させます。栄養の過剰摂取は、植物の自然な防御メカニズムを損なうため、病気に対して抵抗力が弱くなります。特に、窒素過剰によって柔らかくなった葉や茎は、真菌や細菌の侵入に対して無防備になります。 肥料過多で軟弱に育った株は、人間でいえば肥満に近い状態です。万病の元ともいわれる肥満は生活習慣病の1つで、食生活が大きく関係していますよね。植物の肥料も食事と同じ。バランスのよい適切な食事が取れているかが、健康の鍵になります。 無農薬栽培でもローメンテナンスを実現 私は無農薬栽培でも、週末の限られた時間の手入れのみで美しい花畑をつくることができています。無農薬栽培は難しいというイメージがありますが、自然の力を発揮させることで、ローメンテナンスな庭づくりが可能になるのです。 これからの時代は気候変動により、今まで以上に病害虫の発生しやすい環境になると予想されます。 しかし、自然界にはもともと病害虫の多発を抑制する素晴らしいシステムや循環、調和が備わっています。それらがうまく機能するように人間がサポートすることで、植物が健康に育ち、同時に自然環境を保護することにも繋がります。 地球環境を守るという観点からも、環境負荷の少ないガーデニングが世界に広がっていくことを願っています。






















