【バラの無農薬栽培】長年の経験から見えた病気の意外な性質と病気対策を解説

バラの無農薬栽培というと、「難しそう」「手入れが大変そう」と思われがちですが、「ローメンテナンスな庭だからこそ無農薬」という選択肢もあります。有機無農薬で、メドウ(野原)のようなローズガーデンを育てる持田和樹さんが実践するのが、自然の働きに学ぶ庭づくり。先入観にとらわれず、病気を敵視しないことで、手入れに時間をかけなくても病害虫の被害に悩まされないストレスフリーなガーデニングが実現できます。今回は、実体験からたどり着いた、連作障害やうどんこ病、黒星病(黒点病)、赤さび病など、庭や家庭菜園でのお悩みも多い、お馴染みの病気の意外な性質や防ぎ方を解説していただきます。
目次
時間がないからこそ薬剤無散布でローメンテナンスな庭づくりを

私はバラの無農薬栽培を長年続けてきました。初めてバラを育て始めた16年前から有機無農薬栽培に関心があり、化学的な農薬は一切使わず、木酢液やニームオイルなど自然由来のものを使用して病気対策をしてきました。当時は実家で暮らしていたため、仕事前や仕事終わり、休日と手入れをする時間があり、病気対策に時間をかけられたのです。現在は実家から離れ、アパートに住んでいるので庭がありません。親戚に元田んぼだった畑を借り、週末に隣町まで出かけてバラ園と菜園づくりをしています。
実際にやってみて感じたのは、庭や畑は目の前にあるかないかで、難易度が全く違うということです。
私の場合は、庭まで車で20分かかり、週末の午前中しか手入れをする時間がありません。したがって、丁寧に病気対策をしている時間も余裕もなく、自然由来のものを使用したそれまでのやり方は全く通用しませんでした。だからこそ今は、「病気対策に何も散布していません」! むしろ散布する余裕がありません。
一般に病害虫対策に有効とされる散布剤は、農薬か天然成分かを問わず、一切使用していません。一読して信じられないかもしれませんが、本当に時間がなく、何もしていないのです。それでも美しいバラの花畑をつくることができています。
「植物本来の力を発揮させれば、何もしなくても健康に育てられる」。それが、私が実感していることです。病気という固定観念や先入観に縛られることなく、見方や捉え方を変えることで、よけいな労力を減らす。これが私のローメンテナンスな美しい庭づくりの秘訣です。
今回は、経験から学んだことを基に、私なりの病気対策についてお話ししたいと思います。
「多様性」が病気の発生を抑える鍵

皆さんは「連作障害(れんさくしょうがい)」という言葉をご存じでしょうか?
特に野菜作りでは、この連作障害という言葉をよく耳にします。同じ場所で同じ種類の植物(または同じ科に属する植物)を繰り返し栽培すると土壌環境が悪化し、植物の生育に支障が出るという現象です。
植物は、成長の過程で特定の栄養素を多く吸収します。同じ植物を繰り返し栽培すると、その植物が必要とする特定の栄養素(窒素、リン、カリウムなど)が不足し、土壌の栄養バランスが崩れます。結果として、栄養が偏った土壌になるため、植物がうまく成長できなくなります。

また、連作を続けると特定の植物に寄生する害虫や病原菌が土壌中に蓄積され、次の栽培シーズンに同じ植物を植えた場合、それらの病害虫が急激に増殖し、植物に悪影響を与えます。特に、根腐れ病や線虫などの土壌病原菌や害虫は、連作によってその数が増え、植物の健康を脅かします。
例えば、バラ園でバラしか植わっていないような状況は、土壌の栄養バランスや生態系が乱れやすく、病気が多発しやすい環境といえます。一方で自然界では、多種多様な植物が育つことで栄養バランスや生態系が整い、病害虫の発生を抑制しています。このことから分かるとおり、多様性こそが病気の発生のみならず、害虫の抑制にもつながるのです。

私のバラ園では、バラ以外にも多種多様な草花を育てています。栄養を奪われてしまうのではと心配する方もいると思いますが、多種多様な草花があることで土壌の栄養や微生物のバランスが整い、バラも元気に咲いてくれます。
ポイントは、同じ科の植物ばかり植えず、違う科に属するものも植えること。
私のバラ園では、セリ科のオルレア‘ホワイトレース’やパクチー、アオイ科のマロウ、シソ科のミント系、キンポウゲ科のオダマキ、マメ科のスイートピー、ボタン科のシャクヤク、アヤメ科のアイリス、キク科のシュンギク、イネ科の野草など、多様性を意識して、さまざまな植物を取り入れています。
そうすることで自然と病気の発生を抑えるだけでなく、美しい花畑のようなガーデンに仕上がり、一石二鳥です。

雨で消えたうどんこ病

バラの病気といえば、開花直前に咲かなくなる「うどんこ病」が有名です。この病気には実家の庭を手入れしているときにも悩まされ、あと少しで咲きそうなタイミングでうどんこ病にかかり、開花せずに終わるなんてことが何回もありました。
しかし、そのうどんこ病が薬剤散布せずに予防できると聞いたら、絶対に知りたいですよね!

私がうどんこ病の意外な性質に気づいたのは、ビニールハウスで育てているバラからでした。ビニールハウス内のバラは、毎年必ずうどん粉病にかかってしまうため、病気対策としてよくいわれる風通しをよくすることを行っていましたが、まるで効果がありません。しかし、外の庭に咲くバラはうどんこ病に全くかかっていないことに気がつき、なぜなのか観察したところ、ある事実に思い至りました!
それは「雨が当たるか、当たらないか」です。

試しにビニールハウス内のバラに、株の頭から雨のようにシャワーで水をかけてみました。すると、明らかにうどんこ病の被害が減ったのです!
そのときに「人間がお風呂で汚れを落とすように、自然界では雨が汚れを落とすシャワーになっているのではないか」と気がつきました。うどんこ病の原因はカビの1種です。カビが付着したままでは病気になるはずだと思い、バラに対して申し訳ない気持ちになりました。
そこで、ビニールハウスの屋根を外したらどうなるか試してみました。すると、うどんこ病が発生しなくなったのです!
これはあまりにも衝撃的でした。なぜなら、私がいままでガーデニングの常識として教わってきた“雨が病気を運んでくる”とか、“植物に頭から水をかけるな”ということは、この現実とは真逆だったからです。
常在菌のバリアが病気を防ぐ
そこで菌についての本を読みあさり、分かってきたことがありました。
それは、私たちの肌も植物の表面も常在菌が埋め尽くしており、常在菌のバリアで病気から身を守っているということです。病気のメカニズムの1つに、この常在菌のバリアが大きく関係しているのです。
分かりやすい例えをすると、菌の繁殖は椅子取りゲームと同じ仕組みです。
健康な状態ではよい菌が椅子のすべてを埋め尽くしており、悪い菌は座れないので病気にならない。しかし、健康状態が崩れ、よい菌が弱ったり、殺菌や消毒などで常在菌のバランスが崩れて空席ができると、病気の原因になる悪い菌が椅子に座り、増殖してしまうのです。
新型コロナウイルスが大流行したときに、アルコール消毒を熱心にしている人の手は常在菌のバリアが崩壊して、酷い手荒れが続出したことをご記憶かと思います。私たちの肌も植物にも、目には見えない常在菌たちが共生していて、健康を守ってくれているんですね。この働きを知ったときは、菌に感謝の気持ちでいっぱいになりました。

そのことから考えると、水道水をバラの頭からかけてもうどんこ病が消えなかったのは、塩素などの消毒液が含まれている水道水では、常在菌も一緒に殺菌していたからかもしれません。自然の雨には消毒液など含まれておらず、常在菌がたっぷりいます。この雨が、植物の常在菌バリアを綺麗に保っているのではないでしょうか。実家の庭でも、雨があまり当たらない軒下や壁際などのバラは、顕著にうどんこ病の被害が出ていました。
だからこそ、雨が当たりやすいように工夫しただけで、うどんこ病が確かに減ったのです。自然のメカニズムは本当に凄いなと改めて感じました。
そもそも自然界では消毒も存在しませんし、木酢液やニームオイルが空から降ってくるなんてことはあり得ないのです。だとしたら、じつは手を掛けず自然に近い環境にしてあげることが、一番の病気対策になるのではないかと、自然から学ぶことができました。それ以来、木酢液などの天然成分の散布剤も一切使用していません。
枯れる前にうどんこ病になる植物たち

早春に咲く紫色のホトケノザという野草があります。私の住んでいる地域では、春になると一面紫色に染まるホトケノザの絨毯が畑に現れます。まるで小さなラベンダー畑のように美しい光景です。
そのホトケノザが、一斉にうどんこ病になるときがあります。それが花の見頃を過ぎた頃。その後4月になると枯れて、5月にはすっかりなくなってしまうのです。
その経過を見て、植物は枯れないといつまで経っても種が落ちないため、次世代への交代を手助けしているのがうどんこ病ではないのかと感じました。うどんこ病の原因菌は土や落ち葉などにいる糸状菌というカビ菌の一種なので、土に還るために土壌細菌のうどんこ病にかかるのも納得がいきます。
同じ現象が菜の花やギシギシなどの野草でも見られます。花が咲き受粉が始まる頃になると、虫がつき、病気になり、葉がなくなっていくのです。
病気が促す植物の生育サイクル

花が咲き、実ができると、植物ホルモンのエチレンが分泌されます。このエチレンの効果に、果実の熟成と落葉・落果の促進、花の開花促進と老化という作用があります。ここから推測できるのは、開花後に病気になることは、次の世代へのサイクルを促す自然の摂理ではないかということです。
もっとも、バラのうどんこ病は開花前のつぼみにも発生するので、必ずしも枯れるためにうどんこ病になっているとは限りません。
しかし、自然界には病気の役割も多々あり、時に植物が自ら病気にかかる選択をしていることもあるのではないでしょうか。動物のようには動けない植物は、代わりに外部のものの手を借りる必要もあるでしょう。人間が病害虫と決めつけているものが、じつは植物と共生関係だという可能性は十分にあるのです。
謎の多い微生物の世界

私たちの知る病気の原因となる微生物を含め、微生物について現代で解明できているのは、なんとたったの1%程度だそう。99%は何をしているか分かっていないのです。微生物の研究は、病気を起こす原因になるものを中心に、それ以外の人間の役に立つ善玉菌などの有用菌から解明が進んでいるようです。研究にも資金が必要なので、悪い菌に効く薬を開発したり、善玉菌を活用した商品を発明するのに注力し、商売にならない菌の研究が進まないのもうなずけます。
最近では、病気の原因菌として知られてきたものが、じつはよい効果ももたらしていることが判明したという記事も見かけます。自然界は私たちが想像する以上に、病気だから悪という単純なものではないのかもしれませんね。
時が経ち研究が進めば、今の常識がじつは違っていたなんてこともあり得ますし、過去に何度も繰り返されてきた話です。だからこそ私は、あまり病気に対してネガティブなイメージは持たず、ありのままを感じるように心がけています。
暑さからバラを守る黒星病(黒点病)

黒星病もバラを代表する病気です。私も皆さんと同じように悩まされてきました。
そもそも、なぜ黒星病になるのでしょうか。
一般的には、泥はねなどにより土壌にいる病原菌が付着するためだといわれています。しかし、実際に栽培していると、どう考えても泥はねが届かない高さまで黒星病になったり、黒星病になるバラとならないバラがあったりと不思議でなりませんでした。
育てているバラの中には、夏になると毎年必ず黒星病にかかる品種があります。それをあえてそのままに放置したらどうなるか実験してみたところ、下の葉から病気になり葉が落ちていきました。
しかし、途中で気がついたことがあります。それは、上半分の新しい葉は病気になっていないということ。また、病気で古い葉が落ちて、自然と風通しがよくなっていました。
このときに思い浮かんだのが、農家が野菜を育てるときに行う「葉かき」という不要な葉を落とす技術です。もしかしたら、バラ自身が病気になり古い葉を落とすことで、葉からの蒸散量を抑えて脱水症状を防ぎつつ、風通しをよくして身体を冷やしていたのかもしれないと思いつきました。
夏の間に黒星病ですべての葉が落ちてしまうバラもありましたが、枝は緑のままで潤っていたので、夏剪定だけしてそのまま様子を見てみました。秋になり涼しくなると、まるで春に新芽が芽吹くように、新しい枝が元気よく伸びて見事な花を咲かせてくれました。
こうして観察していると、暑さ対策として植物が自ら黒星病にかかり、葉の量を調整したり休眠しているかのようです。あくまで私の考察ですので、必ずしもそうでないかもしれませんが、これをきっかけに、黒星病に対してあまり神経質にならず様子を見るようになりました。黒星病に弱く夏に葉を落としやすいバラは、もともと暑さが苦手な品種なのでしょう。
赤さび病の自然治癒

以前、赤さび病が大発生し、それも耐病性の高い新しい品種にだけ赤さび病が出た年があります。
はじめは落葉性の病気だからと、黒星病と同じ感覚で様子を見ていたのですが、黒星病と異なり、赤さび病は葉だけでなく茎や芽まで侵食し始め、バラがひどく弱ってしまいました。そこで無農薬ではどうしたら克服できるのかを考え、いくつか実行してみた結果、翌年には赤さび病を減らすことに成功しました。
その方法を3つご紹介します。これは、赤さび病に限らず病気対策に共通する有効な手段です。
① 剪定をして風通しをよくする

植物に病気が発生する原因は、70〜80%が菌類によるものだとされています。
病気の原因の大半を占める菌に対し、簡単で最も有効な手段が、風通しをよくすること。風通しをよくするだけで、以下の3つの効果があります。
- 湿気を抑える: 多くの植物病原菌、特にカビや菌類は湿度の高い環境で繁殖しやすいため、風通しをよくして湿気を抑えることで、病気の発生リスクを減らせます。
- 葉の乾燥を促進: 植物の葉が濡れていると病原菌が繁殖しやすくなります。風通しがよければ、葉の水分が早く蒸発し、病原菌の繁殖条件が揃わなくなります。
- 空気循環の促進: 空気がよどむと、病原菌が集まりやすくなりますが、風が通ることで病原菌の蓄積を防ぎ、植物の健康を保つのに役立ちます。
私流の考え方では、「洗濯物理論」です。
洗濯物を干すときに風通しがよくないと乾きにくく、生乾き臭がしますよね。このニオイも菌の増殖が原因です。植物を育てるときも洗濯物を干すときと同じ感覚で、風が通るよう剪定するとよいでしょう。
風通しのよさは、じつは農薬を使うよりも効果があるという研究もあります。農薬は対症療法であって根本療法ではなく、一時的には確かに効果があっても、環境が悪ければ再発してしまうためです。
無農薬栽培をしたい方は、ぜひ剪定に力を入れてみてください。
② 剪定をして日光がよく当たるようにする

日光は植物の病気対策として非常に効果的です。植物の健康を保ち、病気を防ぐ役割を果たす日光が葉にまんべんなくいきわたるよう、剪定しましょう。日光の効果には次のようなものがあります。
- 光合成を促進: 日光が十分に当たることで植物は光合成を効率的に行い、栄養を作り出して強い免疫力を保つことができます。健康な植物は病原菌に対する抵抗力が高まります。
- 湿気を抑制: 日光が植物に直接当たることで、土壌や植物の表面が早く乾燥し、菌類やカビの繁殖条件である高湿度の環境を防ぐことができます。
- 紫外線の殺菌効果: 日光に含まれる紫外線は、植物の表面に付着している病原菌やウイルスをある程度殺菌する効果があります。特に、カビや菌類は紫外線に弱いものが多く、日光を浴びることは自然な消毒方法となります。
- 植物の成長を促す: 十分な日光は、植物の健康を支え、丈夫な茎や葉を形成するのに役立ちます。これにより、病害虫に対する防御力が強化されます。
ただし、植物によっては強い直射日光がストレスになる場合もありますので、適切な日照条件を選ぶことが重要です。
③ 有機石灰を施し、土壌のpHを整える

見逃しがちな土壌のpHですが、病気対策では非常に重要です。雨の多い日本は酸性雨により、自然と酸性に傾きやすい土壌です。有機石灰を施して土壌のpHを整えることを意識しましょう。
有機石灰が植物の病気対策に役立つ理由として、以下の5つが挙げられます。
- 土壌のpHを調整する
有機石灰は酸性の土壌を中和し、適切なpHバランスを保つことで、植物にとって健康な成長環境を作ります。多くの植物病原菌は酸性土壌で活発になるため、土壌のpHを調整することで、病気の発生を抑制することができます。 - カルシウムの供給
有機石灰には植物にとって必須の栄養素であるカルシウムが豊富に含まれています。カルシウムが不足すると、植物の細胞壁が弱くなり、病原菌が侵入しやすくなります。十分なカルシウムを供給することで、植物の免疫力を強化し、病気に対する抵抗力が向上します。 - 微生物環境の改善
有機質が原料である有機石灰には、土壌中の有益な微生物の活動を活発にし、土壌の健康状態が改善する効果も期待できます。健全な微生物環境は、病原菌の繁殖を抑える効果があり、植物の病気対策に役立ちます。 - 栄養素の吸収効率向上
有機石灰は土壌の養分バランスを整え、他の栄養素(特に窒素、カリウム、リンなど)の吸収効率を高めます。土壌中の栄養がうまく吸収されると、植物の健康が向上し、病気に対する耐性も強くなります。 - 根の発育促進
石灰を適切に施すことで、根の発育が促進され、植物の全体的な健全性が向上します。強く健全な根は、病原菌に対してより強い防御力を持ち、病気にかかりにくくなります。
◎おすすめはリサイクルされた天然由来の石灰
貝殻や卵殻などの自然に存在する材料から生成された石灰は、持続可能で自然への負荷が少ない資材です。これらの石灰は、土壌に必要なカルシウムやマグネシウムを自然な形で供給してくれます。
免疫力を生かした柔軟な無農薬栽培

私たちも、普段ワクチンなどの予防接種を受けたり、乳幼児は風邪を引くことで免疫を獲得して病気にかかりにくくなるといわれますよね。私はガーデニングでも免疫獲得を意識しており、病気にかかっても慌てずに様子を見たり、あえて病気で落ちた葉をそのまま土に還したりしています。早期対処や病原体の隔離が鉄則な中、なんて非常識なことをするんだと思われるかもしれませんね。
ですが、自然界では薬剤散布をしなくても病気は少なく、美しい循環と調和の中で、植物も元気に育っています。だからこそ、あえて自然な方法で栽培できないか研究と探求をしたくて仕方ないのです。
実際に、自然に近い形で病気の葉を落としておいても、バラは元気なままでスクスク育っています。むしろ、どうしてこんなに色艶がよく、丈夫で生き生きとしているのですかと驚かれることもあります。自然界には必ず反作用が働きます。病気にしろ害虫にしろ、植物は害されると必ず抵抗物質を作り、病害虫に負けない株になるのです。
ただし、これは病気に負けない株になっていればの話。人間も体力が落ちて衰弱している人が病気にかかったら薬を使うように、育てている植物が弱っていたら、私のようなスパルタなことはやめておきましょう(笑)。
目の前の植物を見て薬が必要だと感じたら、無農薬栽培にこだわらず、薬に頼ることも大切です。
適材適所が大切

そもそも病気になる原因として、育てる場所や品種が合っていないケースがあります。
私のバラ園ではオールドローズしか植えていないのですが、ガリカ系のバラはことごとく育ちませんが、ダマスク系のバラはよく育っています。このように、一口にバラといっても品種により性質が違い、植え場所の気候や風土に合わないことがあります。日当たりが好きな植物を日陰で育てることが難しいように、合わない環境では元気に育たず、病気になりやすくなります。ご自身の育てる環境をよく調べた上で、適材適所で合う植物を選ぶことが大切です。

肥料過多も病気の原因

最後にご紹介する病気の原因は、肥料過多です。
誰しも花をたくさん咲かせたい、元気に育てたいというあまり、つい肥料をあげすぎてしまうことがあるもの。肥料の規定量はパッケージに記載されていますが、何となくであげている方も多いのではないでしょうか?
肥料が多すぎると、植物に多くの問題を引き起こし、結果として病気にかかりやすくなります。過肥が引き起こす問題は、次の5つです。
1. 塩害による根のダメージ
肥料が過剰に与えられると、肥料に含まれる塩類や土壌中の成分と反応して生み出された塩化ナトリウムにより、土壌の塩分濃度が上がります。これを「塩害」と呼びます。塩分が多いと、植物の根が水分を吸収しにくくなり、逆に根から水分が失われることもあります。この状態では、植物は水不足に陥り、弱ってしまいます。根が損傷すると病原菌が侵入しやすくなり、病気のリスクが高まります。
2. 不均衡な栄養吸収
肥料が過剰になると、特定の栄養素(例えば窒素)が過剰に供給され、他の重要な栄養素(例えばカリウムやリン)が不足することがあります。栄養素の不均衡は、植物の成長や免疫力に悪影響を及ぼします。特に窒素過多は、葉や茎が過剰に成長する一方で、根の発達が不十分で、病気に対する耐性が弱くなることがあります。
3. 成長が不自然に早くなる
肥料過多は植物の成長を促進しますが、急激な成長は植物の組織を柔らかく脆弱にします。このような軟弱な組織は、害虫や病原菌の攻撃に対して弱く、病気にかかりやすくなります。また、葉や茎が過度に成長すると、密集しすぎて風通しが悪くなり、病原菌が繁殖しやすい環境になります。
4. 土壌の微生物環境の悪化
肥料が過剰に供給されると、土壌中の有益な微生物のバランスが崩れます。特に化学肥料が多い場合、土壌中の有益な菌が減少し、病原菌が増殖しやすくなります。この結果、植物の根が弱り、病気に対する防御力が低下します。
5. 植物の免疫力低下
過剰な肥料は、植物にとってストレスとなり、免疫力を低下させます。栄養の過剰摂取は、植物の自然な防御メカニズムを損なうため、病気に対して抵抗力が弱くなります。特に、窒素過剰によって柔らかくなった葉や茎は、真菌や細菌の侵入に対して無防備になります。
肥料過多で軟弱に育った株は、人間でいえば肥満に近い状態です。万病の元ともいわれる肥満は生活習慣病の1つで、食生活が大きく関係していますよね。植物の肥料も食事と同じ。バランスのよい適切な食事が取れているかが、健康の鍵になります。
無農薬栽培でもローメンテナンスを実現

私は無農薬栽培でも、週末の限られた時間の手入れのみで美しい花畑をつくることができています。無農薬栽培は難しいというイメージがありますが、自然の力を発揮させることで、ローメンテナンスな庭づくりが可能になるのです。
これからの時代は気候変動により、今まで以上に病害虫の発生しやすい環境になると予想されます。
しかし、自然界にはもともと病害虫の多発を抑制する素晴らしいシステムや循環、調和が備わっています。それらがうまく機能するように人間がサポートすることで、植物が健康に育ち、同時に自然環境を保護することにも繋がります。
地球環境を守るという観点からも、環境負荷の少ないガーデニングが世界に広がっていくことを願っています。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 持田和樹

アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。
https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D
記事をシェアする
新着記事
-
ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園 【1月の様子】
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…
-
ガーデン&ショップ
「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」 ガーデナー5名の“庭づくり”をレポート!
第3回目となる「東京パークガーデンアワード」が、東京・世田谷区にある都立砧公園でキックオフ! 作庭期間は、2024年12月中旬に5日間設けられ、書類審査で選ばれた5名の入賞者がそれぞれ独自の手法で、植物選びや…
-
宿根草・多年草
豪華に咲く!人気の宿根草「ラナンキュラス・ラックス」2025年おすすめ品種ベスト5選PR
春の訪れを告げる植物の中でも、近年ガーデンに欠かせない花としてファンが急増中の「ラナンキュラス・ラックス」。咲き進むにつれさまざまな表情を見せてくれて、一度育てると誰しもが虜になる魅力的な花ですが、…