家庭菜園では、せっかくならオーガニックで栽培したいという方も多いはず。本来、植物たちは過保護に育てなくても、たくましく成長してくれるものです。オーガニックな家庭菜園では、虫たちが生き生きと動き回り、収穫した野菜も本来の味が楽しめます。有機無農薬でメドウ(野原)のようなガーデンをつくりバラを育てる持田和樹さんが、オーガニックな家庭菜園のコツを解説します。
目次
家庭菜園だからこそ楽しみたいオーガニック栽培
家庭菜園に興味のある方の中には、「せっかく家庭菜園をやるならオーガニックにこだわりたい」と思っている方も多いのではないでしょうか? 家庭菜園の収穫物は市場に出す訳ではないので、見た目のよさを気にしたり、規格に合わせる必要がありません。だからこそ、ぜひオーガニックに挑戦していただきたいと思います。もちろん失敗することはありますが、その過程を楽しみながら野菜を育てることこそが、オーガニック栽培の醍醐味です。
また、オーガニックのよさは、ただ野菜を育てるだけではありません。
生き物たちや自然をより身近に感じ、いろいろ観察するなかで、沢山の発見や小さな幸せを感じることができます。自然にも優しく、自分自身の心にも身体にも心地よい栄養を与えてくれるのです。
オーガニック栽培のポイント
オーガニックは難しいというイメージがありますが、大切なことは「よく観察し、自然と向き合うこと」、そして「心構え」です。
異なる環境では、同じことをやってもそれぞれ結果が変わってきます。化学的な農薬を使えばある程度病害虫などをコントロールできますが、オーガニック栽培を目指す場合は、なるべく使いません。ご自身の庭や畑とコミュニケーションをとり、心を通わせてみましょう。
今回は、私なりの「ポイント」と「心構え」、「自然との付き合い方」についてお伝えします。楽しいオーガニックライフの参考になれば幸いです。
タネから簡単! 葉物野菜ブレンド
皆さんは、タネから野菜を育てたことがあるでしょうか?
初心者でも簡単に種まきから育てられる野菜は、葉物野菜です。葉物野菜のタネは、ホームセンターや100円ショップでも安価で手に入りますよ。
種まきの際に私がおすすめしたいことは、タネをブレンドして播くこと。ブレンドすると何がいいかというと、病気に強くなります!
自然を観察するとよく分かりますが、自然の中ではさまざまな植物が混在しています。そして、それぞれが一番過ごしやすい場所を選んで育ちます。
一方、畑などで特定の単一品種ばかり育てると、土壌の生態系に偏りができ、特定の病害虫が増殖しやすくなります。また、単一品種だと同じ成分ばかり吸収してしまうため、土壌の栄養バランスにも偏りが出やすくなります。たとえ今回はうまく育ったとしても、次に育てたときに悪影響が及ぶことも(連作障害)。
タネをブレンドして播くことで、こうした偏りを防いでくれるのです。
ブレンドしてタネを播く以外にも、育てたい野菜の近くに、草丈が邪魔にならないような花を一緒に育てるのも効果的です。花がコンパニオンプランツとなって益虫を呼び寄せ、そこから生まれた食物連鎖が生態系のバランスを取り、害虫の発生を抑制してくれたり、受粉の手助けをしてくれます。
畑と花壇が入り交じるような新しいスタイルを、ぜひ試してみてください。生き物たちの躍動を感じられることも、楽しみの1つになると思います。
タネのブレンドをするときの注意点
では、ただ単にタネをブレンドすればいいかというと、そうではありません。ブレンドのポイントを解説しましょう。
系統を合わせる
失敗しないポイントは、まず「①なるべく同系統」です! 例えば、「リーフレタスを数種類組み合わせる」「アブラナ科の葉物野菜を組み合わせる」など。同系統を合わせると、だいたい同じように育つので、一方だけが淘汰される可能性が低くなります。
特性を合わせる
「②特性を合わせる」こともポイント。例えば、リーフレタスは好光性種子ですが、ここに嫌光性の特性を持つタネを混ぜてしまうと、それぞれ種まきの際の適切な深さが異なるため、どちらか一方が発芽しにくくなってしまいます。
※好光性種子は発芽に光が必要。嫌光性種子は発芽に光を嫌う。
生育環境を合わせる
また、日向が好きか日陰が好きかなど、植物の好む環境に配慮が必要です。
例えば、セリ科のミツバは、生育適温は15〜20℃で、冷涼な気候を好みます。暑さ寒さには弱く、霜に当たると枯れてしまいます。夏は乾燥しやすいので寒冷紗(かんれいしゃ)をかけるか、あまり日の当たらない半日陰で育てます。一方、同じセリ科のパクチーは、生育に適した温度は18~25℃で、真夏や真冬は苦手ですが、基本的に日当たりのよい場所を好みます。この2種を混ぜると、どちらかはうまく育たなくなってしまいます。
このように、「生育適温や生育適性地」を考慮したブレンドも大切です。
結球性と非結球性
「結球性と非結球性」にも注意します。例えば、レタスには結球性(玉レタス)と非結球性(リーフレタス)があります。ブレンドするのであれば、非結球性のリーフレタスにしましょう。玉レタス、白菜、キャベツなど、結球性の野菜は大きく育つため、ブレンドにはあまり向いていません。これらを育てる場合は、1つの穴に一緒に播くより、別々の穴に播いて隣接する場所で育てるほうがよいでしょう。
おすすめのブレンド
誰でも簡単にできる葉物野菜のおすすめブレンドをご紹介します。
①「リーフレタスMIX(非結球性)」
リーフレタスにはさまざまな種類があります。サラダ菜のような緑のものや、赤く華やかなポリフェノールたっぷりのもの、葉にウェーブがかかるものなど、見た目も美しく楽しませてくれます。
リーフレタスは生育が早く、収穫までの期間が短いのが嬉しい野菜。さらによいところは、成長点である中心を摘まなければ、中央からどんどん葉っぱが展開されること。周りの葉っぱだけを切るように収穫していけば、長期間楽しむことができます。ここがリーフレタスの大きな魅力です。これが結球する玉レタスだと、結球するまで待つ必要があり、玉を収穫すれば終わってしまいます。
そして、最も嬉しい強みは「病害虫に強い」ことです。品種改良により耐病性が強い品種が多く、葉の苦味成分から害虫も付きにくい特性を併せ持っています。
②「アブラナ科MIX(非結球性)」
アブラナ科の葉物野菜は種類が豊富です。代表格に、小松菜や水菜、チンゲン菜、ルッコラなどがありますが、どれも成長が早く、育てやすいのが特徴です。
しかし、アブラナ科の野菜のもう1つの特徴として、特定の虫が付きやすいという傾向があります。虫食いを気にする方は、しっかりと防虫ネットを張るなどの対策が必要です。
ファイトケミカル(フィトケミカル)について
皆さんは野菜を育てるとき、虫が付かないように頑張って労力を使い、さまざまな対策を施しているのではないでしょうか? この害虫対策に追われて心身共に疲れてしまうケースはよくあります。では、害虫が付くことは、本当に悪いことなのでしょうか?
じつは、植物も一方的に食べられている訳ではありません。虫などに食べられたら直ぐに反応して、防衛物質を作り始めます。さらに、食べられている植物は周囲に危険を知らせる物質を拡散するので、虫に食べられていない周囲の植物も同じ防衛物質を生成して、害虫に備えることができるのです。
植物が生き抜くために作り出すこうした化学物質の総称を「ファイトケミカル」と呼びます。これらの化学物質は、植物が生存するためにさまざまな役割を果たしており、人間の健康にもいろいろなメリットを提供することが知られています。
以下に、ファイトケミカルの種類とその効果について、いくつか例を挙げます。
【①ポリフェノール】
ポリフェノールは抗酸化作用があり、炎症を抑制し、免疫系を強化するとされています。フラボノイドやポリフェノールは、果物や野菜、茶、赤ワインなどに多く含まれています。
【②カロテノイド】
カロテノイドは抗酸化作用があり、免疫機能を強化し、視力を保護するとされています。ベータカロテンやリコピンは、人参、トマト、パプリカなどの野菜や果物に多く含まれています。
【③フィトステロール】
フィトステロールは、コレステロール吸収を阻害するため、動脈硬化や心臓病のリスクを減少させる効果があります。ナッツ、種子、全粒穀物、植物油に多く含まれています。
【④イソフラボン】
イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをするため、更年期障害の緩和や骨密度の維持に役立つとされています。大豆製品やレンズ豆などの大豆類に多く含まれています。
これらのファイトケミカルは、植物が自然に生産するため、植物性食品に多く含まれています。バランスの取れた食事でファイトケミカルを摂取することは、健康維持や疾病予防に役立つとされています。
そして重要なことは、ファイトケミカルは害虫に食べられたときなど、植物がストレスにさらされたときに多く生成されること。つまり、害虫に少し食べられた程度なら、むしろ栄養が強化されラッキーだと思えば、躍起になって駆除する必要もありませんし、穏やかな心で自然と向き合うことができると私は感じています。
手間をなくして収穫量を上げるビニールマルチ
私は農薬や化学肥料は使わない代わりに、ビニールマルチは活用しています。
実際にビニールマルチを使うか使わないかで生育を比較して確かめましたが、ビニールマルチを使うと圧倒的に育ちがよくなり、雑草取りの手間も省けて助かっています。
ビニールマルチの長所は、以下のような点があります。
①【雑草抑制】
ビニールマルチは土の表面を覆うため、雑草の成長を抑制します。これにより、作物に十分な栄養や水が供給され、雑草による競争が減少します。
②【保湿効果】
ビニールマルチは土の表面を覆い、水分の蒸発を抑制します。これにより、土壌の乾燥を防ぎ、作物に適切な水分を供給します。特に乾燥地域や夏場の栽培に適しています。
③【土壌温度の上昇】
ビニールマルチは日光を反射し、土壌を暖かく保ちます。これにより、作物の発芽や成長を促進し、早い収穫を可能にします。特に寒冷地域や早春の栽培に適しています。
④【土壌の保護】
ビニールマルチは土の表面を覆うことで、土壌を保護します。雨や風による侵食を防ぎ、土壌中の栄養分や微生物を保持します。これにより、土壌の健康を維持し、作物の生育を支援します。
⑤【収穫量の増加】
ビニールマルチは作物の成長を促進し、雑草の競争を減らすため、収穫量を増加させる効果があります。また、収穫作業が容易になり、作業効率が向上します。
これらの長所により、生産効率が上がり、作物の品質や収量を向上させることにつながります。ビニールマルチはホームセンターに行けば安価で手に入るため、畑で露地に植える方にはおすすめの資材です。
水やりのしすぎは禁物
私の両親も家庭菜園をしていますが、重い水をタンクに入れてわざわざ畑に運び、水やりをしています。毎回「そんなことしなくてもいいのに」と言っていますが、一向にやめる気配はありません。それ以外にも、庭に水やりを何度もしている人を見かけますが、私は鉢植えや軒下など雨が当たらない場所を除き、自然の降雨に任せ水やりは不要だと考えています。
私が水やりをするのは植え付けのときだけ。後は全て自然任せにしています。
なぜなら、植物は水を求めて自然と根を伸ばすからです。水が近くにあれば根を伸ばすことをやめ、植物は雨が多い場所と勘違いしてしまいます。こうして植物が甘えると、水やりをしないと育たなくなってしまうのです。
植物を育てるのは子育てと同じで、いかに自立させるかが重要です。
本来、植物たちは厳しい自然界で生き抜く適応力を持っています。品種改良され人間の手を必要とする部分はありますが、植物は植物なりに生き抜くために、強くたくましく成長してくれるものです。介護でも、何でも手を貸してしまうことは自立を阻害し、かえって身体能力を低下させてしまいます。同じように、私たちが植物の自立を少しサポートするという感覚が大切なのです。私たちも疲れてしまいますから、過保護は禁物。ほどほどが一番です。
春にタネを播くおすすめ葉物野菜4選
最後に、春にタネを播く、初心者でも育てやすく料理に使いやすい野菜やハーブをご紹介します。
①【レタス(リーフレタス) 】
春に育てるのに適したレタスの品種が多くあります。新鮮なサラダに向いています。
②【春菊】
春菊は、春にタネを播くのが一般的です。煮物や鍋料理に使われる日本の野菜です。
③【小松菜】
春にタネを播いて育てると、柔らかくておいしい小松菜が収穫できます。サラダや炒め物に利用できます。
④【ケール】
ケールは春にもタネを播くことができ、栄養価の高い葉物野菜です。サラダやスムージーに。
これらの野菜は、春の気候に適した条件で育ち、初夏には収穫ができるでしょう。
【春にタネを播くおすすめハーブ5選】
①【バジル】
バジルは育てやすく、日当たりのよい場所でよく水やりをするだけで育ちます。パスタやピザ、サラダなどに使われることが多いです。
②【パセリ】
パセリは日陰でも育ちやすいハーブで、料理の風味付けや装飾に使われます。成長が遅いため、早めに種まきをするとよいでしょう。
③【ディル】
ディルは育てやすく、爽やかな風味が特徴です。サラダや魚料理、ソースによく使われます。
④【ルッコラ】
ルッコラは日当たりのよい場所で育てるとよく育ちます。サラダやピザ、パスタに使われることが多く、シャキシャキとした食感とピリッとした風味が特徴です。
⑤【パクチー】
パクチーは日陰でも育ちやすく、水やりをしっかり行うことが大切です。アジア料理やメキシコ料理などによく使われます。香り高い味わいが特徴です。
これらのハーブは初心者でも育てやすく、料理に幅広く使われるので、ぜひ挑戦してみてください。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 持田和樹
アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。
https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D
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