トップへ戻る

39℃の猛暑にも負けずに咲き続ける! “最強”の食用バラをご紹介

39℃の猛暑にも負けずに咲き続ける! “最強”の食用バラをご紹介

LapaiIrKrapai/Shutterstock.com

バラは見て楽しむだけではもったいない! 香り高く美味しい「食用バラ」が、近年静かなブームを呼んでいます。自分で育てれば農薬の心配もなく、芳醇なバラを心ゆくまで味わうことができます。今回は、長年にわたり有機無農薬でバラを育て、メドウ(野原)のようなローズガーデンをつくっている持田和樹さんが、数あるバラの品種の中でも“最強”の食用バラとお墨付きを与える原種のバラ「ハマナス」をご紹介。強健で育てやすく、驚くほど香り豊かで、花も実も美味しくいただける万能バラなのです。

香り高く美味しい! 食用バラの魅力

食用バラ

皆さんはバラを食したことがあるでしょうか? 近年、エディブルフラワー(食べられる花)が広く知られるようにはなってきたかと思いますが、中でもバラは香り高く美味しい品種が多く、「エディブルフラワーの女王」と言っても過言ではありません。バラはガーデンでもとても人気の高い花ですが、ただその美しさを観賞するだけではなく、無農薬栽培をすれば食べることもできるのです! 食用バラを生活に取り入れれば、心身共に美しい、バラ色の豊かな暮らしを実現してくれるでしょう。

今回は、そんな食用バラの中でも、猛暑に負けずに咲く“最強の食用バラ”を特別にご紹介します。

耐暑性が高いだけでなく耐寒性も非常に優れ、さらに四季咲きで食用向きというまさに食用バラにうってつけ! 栽培の仕方や食用バラの歴史、そしておすすめ簡単レシピも併せてご紹介します。

最強の食用バラ「ハマナス」

ハマナス
ハマナスの赤い花。

私はバラの無農薬栽培を始めて17年、食用バラ栽培の研究を始めてから7年ほど経ちます。

私が長い間バラと付き合ってきた中でトップ3に入るほど大好きなバラ、それが「ハマナス」です。

ハマナスといってもあまり聞いたことがない方も多いかもしれませんが、じつは日本を代表する原種のバラ。海岸の砂地に生えて群落を作ることもあり、夏に赤い花(まれに白花)を咲かせます。根は染料など、花はお茶などに利用され、果実はビタミンCが豊富でローズヒップとして食用になります。和名ハマナスの語源は、浜(海岸の砂地)に生え、熟した甘酸っぱい果実をナシに例えて「ハマナシ(浜梨)」という名が付けられたという説と、丸い実をナスに例えたという説があります。

浜辺に咲くハマナス
夏の浜辺に群れ咲くハマナスの花。KristineRiba/Shutterstock.com

ハマナスは北海道の花にも指定されています。北海道の海岸線に多く自生して分布の中心域であることが道花指定の理由だとされ、北海道襟裳岬や東北地方の海岸部、天橋立などが名所として知られています。

ハマナス
青森県の海岸に咲くハマナス。Hank Asia/Shutterstock.com

ハマナスはバラの品種改良に使用された原種の1つ。ハマナスを交配の親に使用した品種群を「ルゴサ系」といい、ヨーロッパに渡ったハマナスから、多くの園芸品種が作出されています。また、中国産のハマナスの近縁種で、八重咲きで茎のトゲがやや少ない品種はマイカイ(玫瑰)と呼ばれ、約1,300年ほど前から食用として栽培されています。日本で「食香バラ」として販売されているのは、主にこのマイカイの品種になります。

ハマナスが人気のない理由

ハマナス
Kabar/Shutterstock.com

私見ですが、ハマナスはバラの中ではあまり人気がない品種に思えます。検索してみても取り扱っている業者や生産者は少なく、入手することも難しいかもしれません。

その理由としては、大きく次の3つが考えられます。

①一重咲き:近年は花弁の枚数が多い品種が人気。一重咲きの素朴な姿は、観賞するには物足りなさを感じるかもしれません。
②花もちが悪い:花は1日でしぼんでしまいます。
③トゲが多い:トゲはバラの中でも一番多いほうの品種で、まさにトゲだらけ。葉の裏にも少しトゲがあります。

私も昔は花弁が多く可愛らしい品種が好きな時期があり、わざわざ一重のバラなんて買わなかったものです。

しかし、ハマナスにはこの3つのマイナスを覆すほどの魅力がたくさんあります。

あるバラ図鑑で、バラ好きは最後に原種の魅力にたどり着くという記述を読んだことがありますが、それを実感する品種。この記事を読めば、きっと「ハマナスを育ててみたい!」となることでしょう。

魅力満点! ハマナスの特徴13選

ハマナス
Barbara Smits/Shutterstock.com

それでは、私が実際に育ててきた体験をもとに、ハマナスの数ある魅力をご紹介しましょう。

① 四季咲き性が強い

ハマナスの花がら切り
花が終わったら花首の下を切れば、すぐに脇芽が伸びて次の花を咲かせます。

図鑑には繰り返し咲きとなっていますが、私が栽培しているかぎり他の品種よりも圧倒的に四季咲き性が強いです。花が終わるとすぐに赤い果実ができますが、花がらを切れば春から秋まで何度も咲きます。

もし花がらを切り忘れてしまっても、その下から新しい枝が自然と出てきて新たに花を咲かせてくれます。一般的に、花がらをそのままにしておくと種子に栄養が取られて次の花が咲かなくなると言われますが、ハマナスは常識を覆すほどよく咲く強い生命力があります。

② 花は中大輪 房咲きで花数が多い

ハマナス
Johnwoodkim/Shutterstock.com

ハマナスは原種では珍しく花が大きいのも特徴。また、1つの花茎にいくつものつぼみをつける房咲きになります。1つの花の花もちは悪く一日花ですが、房咲きの花が入れ替わりながら次々と咲きます。

ハマナスの白花
珍しい白花も純白で美しいです。

③ 香りが強い

ハマナスのつぼみ

バラといえば香りを楽しみたい方が多いはず。ハマナスは原種にしては珍しく香りが強いほうです。さらに優しいダマスク香に近い香りがするので、バラ好きにはたまりません。香料の採取用にも栽培される歴史があるほどです。

香りがよいことから生食、ドライともに、さまざまな用途に使いやすいです。特につぼみは触るとべたつくほど油分が多く、花とは違う強く甘い香りがします。

④ 猛暑でもよく咲く

夏のハマナス
真夏でも緑の葉が元気いっぱい。

39℃を超える猛暑日が何度も続き、元「日本一暑い街」としても有名な熊谷市のある埼玉県北部で栽培していますが、そんな猛暑にも耐え、真夏でも元気に美しく咲き続けます。ほとんどのバラが真夏は暑すぎて葉を落とし、残念な見た目になってしまう中、ハマナスはほとんど葉を落とすことなく、瑞々しい葉を広げ爽やかなグリーンで目を楽しませてくれます。

⑤ 耐寒性も高い

ハマナス
悪条件も苦にせずよく咲きます。Thorsten Schier/Shutterstock.com

北海道沿岸などに自生しているとおり、寒さにも大変強く、海の潮風にも耐えることから環境適応能力が非常に高いという特徴があります。私の栽培している場所は元田んぼで土が固いのですが、そんな土質の悪い環境でも元気に育ってくれています。

⑥病害虫に強く初心者向き

バラというと、病害虫に気をつけなければやられてしまう手がかかる花というイメージがあるかもしれません。しかし、ハマナスはバラの中でも最強クラスの強さを誇ります。樹勢が強く、うどん粉病や黒星病などの病気にも強く、更に肉厚な葉とトゲだらけの幹には害虫がほとんどつきません。農薬や有機的な散布材など何も散布しなくても元気に育ちます。

初心者の方でも安心して育てられるバラです。

⑦ 穏やかな樹形と紅葉

ハマナス
retirementbonus/Shutterstock.com

樹高は90〜120cmくらいで腰から胸の高さくらいになり、ドーム形の美しい自然樹形にまとまります。剪定にも強く、地際で切ってしまっても1年で元の樹形に戻るほどです。

また、バラは花の美しさに目が行きがちですが、ハマナスは紅葉も見られます。条件によりばらつきはありますが、秋には葉っぱが黄色~赤色に色づきます。花がない状態でも、美しい葉と樹形が春から秋まで楽しめることも魅力の1つです。

ハマナスの紅葉
ハマナスの紅葉

⑧ コンパニオンプランツになる

ハマナスと蜂

ほとんどのバラは品種改良により花弁が多くなり、蜜を求めて来る虫にとっては好ましくない形状をしています。その点、ハマナスは一重咲きのバラで、虫たちにとっては最高のご馳走を提供してくれる貴重なバラ。特に花粉を集める花蜂は好んでやって来て、激しく踊りながら大喜びで花粉を集めていきます。海外では生け垣などにも使用されるようですが、生き物にとって大切な蜜源になるだけでなく、真夏でも青々と茂ることで、生き物にほどよい日陰と隠れ家を提供してくれています。

このような環境を作り出せるハマナスは、生物多様性の向上に貢献し、自然が持つ食物連鎖を整える効果が期待できるため、害虫を抑制したり、受粉の手助けをする蜂を呼び込むなど、他の植物にとって最高のコンパニオンプランツになります。

⑨ 一重咲きだからこそ食用向き

バラのつぼみのドライ
nelea33/Shutterstock.com

食用バラというと花弁を食べるイメージがあるので、花弁が多い品種のほうがいいのでは? と思う方もいることでしょう。

しかし、ハマナスは一重咲きだからこその魅力があるのです。

それは、色づいた開花前のつぼみを活用しやすいということ。中国ではハマナスの近縁種のつぼみを乾燥させたお茶が「マイカイ茶」として流通していますが、花弁が多いバラではつぼみの乾燥が中まで上手くできません。その点、ハマナスは花弁が少ないからこそ、つぼみを食用に活用できるのです。

この色づいたつぼみを収穫して蜂蜜漬けやレモネード、オイル漬けなどにして楽しめます。

⑩ ローズヒップが楽しめる

ハマナスの実

ハマナスは、バラの中では一番甘酸っぱく大きなローズヒップをつけることで有名です。

ハマナスの実は北の海辺の民間薬として、日本でも古くから薬用(咳止め・健胃・婦人病) と 食用(ジャム・茶・果実酒) に利用されてきました。ローズヒップの中には綿と種子がぎっしり詰まっているので、果肉を食べるといっても量はあまり取れませんが、「ビタミンCの爆弾」と呼ばれるくらい栄養価が高く、美容や健康への効果が期待されています。 他のバラと違い、果実が熟して赤くなるスピードも速く、花が終わってから1カ月ほどで食べ頃になっています。野バラ系統や園芸品種のバラは冬前にならないと色づきませんが、ハマナスはローズヒップが熟すスピードが驚くほど速いのが特徴です。赤い実の観賞価値も高いですし、食用としても活用しやすいので一石二鳥ですね。

ハマナスのローズヒップ

⑪ 地下茎で増える

ハマナス
Andrejs Marcenko/Shutterstock.com

地下茎で増えるバラがあることを知る人はかなり少なく、相当なバラマニアでないと知らない事実なのですが、一部の原種や原種改良種、オールドローズ(ダマスク系)とハマナスは地下茎で増える性質があります。流通しているバラのほとんどが接ぎ木になっており、根は日本のノイバラを使用していることから、接ぎ木されているバラではこの性質は出ません。

挿し木苗であれば自分自身の根ですから、ハマナスの地下茎で増える性質を引き出すことができます。栽培スペースによっては地下茎で増えると困ることもあると思いますので、購入する際は、ぜひ挿し木苗なのか接ぎ木苗なのかを注意してみてください。

これを発見した時は驚きましたが、同時に、なぜ生産者が丈夫なハマナスを接ぎ木の台木に使わないのかも理解できました。ハマナスを接ぎ木に利用したら、ハマナスの根が次々に鉢の中で地下茎を伸ばし、大変なことになってしまいますね。

⑫ 挿し木でも種まきでも増やしやすい

バラの中でも挿し木がしやすいバラとしにくいバラがあります。その中でも、ハマナスは挿し木が成功しやすい品種です。また、種子からも増やしやすく、原種のバラなので同じ性質が出やすい特徴があります。

ハマナスは赤色の花が特徴ですが、私の庭では自然交配させているので、白とピンクも咲いています。ピンクはおそらく赤花と白花が交配してできたのではないかと考えています。

交配親にも使用しやすいので、交配にチャレンジしてみたい方にはうってつけの品種です。

⑬ 誰も知らない香る葉

バラといえば花の香りが有名ですが、葉に芳香をもつものはきわめて稀です。代表的なのはスイートブライヤーという原種バラ。そして驚いたことに、ハマナスも葉を擦ると甘い香りを感じる場合があります。個体や季節による違いはありますが、花だけでなく葉も楽しめる点でユニークです。

ハマナスの葉
ルゴサとは「シワがある」という意味。他のバラより肉厚で葉脈にシワが多いハマナスは、葉を擦るとほのかに甘い香りがします。

ハマナスは他のバラと比較して非常に肉厚な葉を持っています。この肉厚さは他のバラではあまり見られませんが、やはりハマナスの血を引いたルゴサ系統にはこの特徴が引き継がれています。

なぜ葉に香りが強いのか私なりの考察をしてみたのですが、ハマナスの葉やつぼみを触ると他のバラに比べて油分が多く、ベタベタした感触があります。バラは精油の採れる植物ですが、ハマナスは非常に精油分が多いバラなのではないかと思われます。

なぜ油分が多いのかという理由は、ハマナスの生息域にあるかもしれません。東北や北海道沿岸など非常に寒さが厳しい地域に生息するため、ハマナスは耐寒性に優れるという特徴があります。耐寒性の高さと油分は植物にとって重要な関係にあると考えられています。植物にとっての油分には、表面のワックスやクチクラ層で乾燥や寒さから保護するという効果があるためです。

しかし、単に油分が多ければ耐寒性が高いという単純なものではありません。ここで重要なことは「油分の質」です。オレイン酸やリノレン酸など不飽和度が高いと、低温でも細胞膜が固まらず流動性を保つことができ、寒さで細胞膜が壊れるのを防ぐ効果があるため、不飽和脂肪酸が多いほど耐寒性が高くなります。

不飽和脂肪酸といえば身体によい油として有名ですが、中国でハマナスの改良種が食用として千年以上もの歴史があるのも、遙か昔から薬効が高いことを実感していたからかもしれません。

ハマナスのおすすめレシピ

ハマナスのつぼみ
ハマナスのつぼみは花首を折れば簡単に収穫できます。

ハマナスはオーソドックスに花弁やローズヒップを食用やお茶にすることもできますが、今回はハマナスならではの色づいたつぼみを使用したレシピを2つご紹介します。

<ローズレモネード>

ローズレモネード
夏バテ予防に効くローズレモネード。

ハマナスの色づいたつぼみは手で簡単にポキッと収穫できます。そのつぼみを私はレモネードにして飲んでいます。

レシピは簡単。市販のレモネードの素に、バラのつぼみとレモン、お好みでミントやレモングラス、ローズマリーなどを加えて寝かせるだけ。1日置いたら出来上がりです。希釈して炭酸割りにして飲むととても美味しいです。2~3週間を目安に使い切るようにしましょう。

ローズレモネードの炭酸割り
バラを浮かべたレモネードの炭酸割り。

<バラのデトックスウォーター>

バラとミントのデトックスウォーター
バラとミントのデトックスウォーター。

デトックスウォーターとは、冷水にハーブやフルーツ、野菜などを漬け込んだもののこと。デトックスとは体内に蓄積している老廃物や有害物質などを体外に排出することをいいますが、デトックスウォーターは水分補給を促すことで老廃物の排出をサポートし、また水に溶けだしたハーブなどの栄養素を摂取できるという特徴があります。

私はハマナスとミントなどのハーブを合わせた「ローズデトックスウォーター」を作って飲んでいます。作り方は簡単で、ハマナスのつぼみやバラの花にお好みのハーブを水につけておくだけ。1リットルくらいはすぐに飲みきってしまうので、水を注ぎ足して2リットルほど飲んだら花を交換するようにしています。

デトックスウォーターとハーブティーとの大きな違いは「苦味が少ないこと」です。

お湯で注ぐハーブティーは熱によりタンニンなどの苦味成分が出やすいですが、水出しのデトックスウォーターは熱を加えないので、バラやハーブ本来の香りや甘味を味わえます。ハーブティーが苦手な方でも飲みやすいと思いますので、ぜひ一度作ってみてください。

バラのデトックスウォーター
見た目も美しく、香りは華やかで優しいバラの味を楽しめます。

以前、スイスに住んでいたという方に聞いた話ですが、スイスではデトックスウォーターを水筒に持ち歩いて飲む人が多かったそうです。日本ではあまり聞きませんが、とても簡単で美味しく、デトックス効果も期待できます。日常生活に取り入れ、心身共に健康で豊かな生活を送ってみてはいかがでしょうか。

ハマナスの収穫
ハマナスのつぼみをローズマリーやレモングラスなどのハーブとともに収穫。

耐暑性も耐寒性も抜群で育てやすく、香りのよい花を味わうこともできるハマナス。ぜひ栽培にチャレンジし、暮らしの中でハマナスを活用してみてください。 

人気の記事

連載・特集

GardenStoryを
フォローする

ビギナーさん向け!基本のHOW TO