エリザベス女王がこよなく愛し、チャールズ国王が保護活動を進めるメドウ。メドウとは野の花が咲く野生の花園のこと。イギリスでは昨年、プラチナ・ジュビリーを祝してロンドン塔のお堀に、「スーパーブルーム」と名付けられた巨大メドウが出現し、話題となりました。そして、庭づくりにおいてもメドウガーデンが注目を浴びています。メドウガーデンづくりを実践する持田和樹さんが、その魅力とつくり方をご紹介します。
英国王室が愛する「メドウ」とは
メドウとは野の花が咲く野生の花園のこと。多種多様な花が入り交じり、風にそよぐ風景は、まるでリバティプリントのファブリックを広げたような素朴な愛らしさです。英国にはヒナギクやキンポウゲなどが咲き乱れる愛らしいメドウがそこここにあり、チャールズ国王は、自身の私邸ハイグローブの庭にもメドウガーデンをつくるほどの大ファン。しかし近年の調査で、英国では過去75年間に97%ものメドウが消失したという事実が判明しました。多種多様な植物が生育するメドウは単に美しいだけでなく、あらゆる昆虫や生き物の棲み処であり、生物多様性のゆりかごでもあります。長年、環境保護活動に心血を注いできたチャールズ国王(当時は皇太子)は、メドウの急速な消失を深く憂慮。
2012年、すべての郡に少なくとも1つはメドウをつくる「コロネーション・メドウ」プロジェクトを開始しました。そして、昨年2022年にはメドウを愛するエリザベス女王の戴冠70年を記念して、ロンドン塔のお堀に「スーパーブルーム」と名付けた巨大メドウがつくられました。一年草、二年草、多年草など2,000万粒の種子を播き、英国をあげてメドウガーデンを推進しています。
メドウガーデンに適した庭環境
そんな英国で話題のメドウガーデンを日本で実践している私なりのつくり方をご紹介します。規模はもちろん小さいですが、さまざまな花が一斉に咲き揃い、蝶やミツバチが行き交う様は、本当に心穏やかで幸福感あふれる風景です。さて、メドウガーデンをつくる前に、大切なことを2つあげます。
適材適所・植物特性を考慮する
①草原や野原を知ること
草原や野原を思い浮かべてみてください。上の写真のように木があまりなく、一面に草花が広がり、風に揺れている風景が思い浮かぶと思います。つまり、日当たりと風通しがよく、水はけがよいことがメドウガーデンにとって最良の条件です。大きな樹木や建物で、日陰が多くできる場所や風通しの悪い場所などでは、メドウガーデンは難しいでしょう。しかし、コンテナを利用して日当たりを確保できれば、小さくともメドウガーデンのエッセンスを味わうことは可能です。
②自分の庭の環境を知ること
①を念頭に、ご自身の庭のどこがメドウガーデンに向いているかを考えてみましょう。メドウガーデンで使う植物は、日当たりを好む草花です。その植物を半日陰などのシェードガーデンで育てても、弱々しくヒョロヒョロとした茎になり、どこもかしこも支柱が必要になるなどとても手がかかるうえ、美しく咲いてくれません。植物には適材適所があるので、向かない場所では無理してメドウガーデンを選ぶことはおすすめしません。幸いなことに日本には日陰で美しく生育する植物もたくさんあるので、もしご自身の庭が日陰環境ならば、こちらの記事をご参考に。
ミックスシードで簡単にできるメドウガーデン
メドウガーデンのポイントは、まず植物が「多種多様」であることです。そして、多種多様な植物を一斉に咲かせるためには、開花時期が揃っていることが大事。難しそうですが、ミックスシードを使えば簡単です。9〜10月には、各種苗メーカーから春に咲く花の種のミックスが販売されるので、それを利用すると簡単にメドウガーデンが作れます。気温が高くなると蒸れなどでミックスフラワーが上手に育たないことがあるので、春に咲くミックスシードがおすすめです。また、買ってきた苗を植え込むよりも、種子から育てて自然の風雨にさらされたほうが、よりナチュラルな仕上がりになります。メーカーによってはホワイトガーデンMIXやピンクガーデンMIX、ブルーガーデンMIXなど、色彩に統一感を持たせたミックスシードもあるので、好みに合わせて選ぶと楽しいですよ。
草花を熟知している方であれば、ミックスシードを買う必要はありません。好みの草花の種子を自分でブレンドすれば、満足度も上がるでしょう。組み合わせのポイントは、なるべく草丈を揃えることです。野原の植物は、似たような草丈のもので構成されており、どれか一つが突出して高かったり、ボリュームがあったりすることはありませんね。特に小さい庭では突出するものがあると、その陰に他の植物が隠れて咲かないことがあります。すると、結果的に単一の花の風景になってしまい、メドウになりません。それぞれの場所や条件に応じて、一つひとつの草丈にも留意しながら選びましょう。
海外のワイルドフラワーミックスには少し注意
海外から輸入されたワイルドフラワーミックスの中には、日本の植生に影響を及ぼす外来種も交じっていることがあります。特に現在、日本で野生化して特定外来生物に指定されているオオキンケイギクやオオハンゴウソウなどの近縁種は避けたほうが無難です。また、日本では栽培禁止のケシの花の種子も交じっていることがあるので注意し、咲いてしまった場合は、抜かずに保健所へ速やかに連絡しましょう。故意でなければ罪に問われませんのでご心配なく。
メドウガーデンをより楽しむための秘訣
より上級者向けのコンビネーションは、球根植物や多年草、宿根草と組み合わせる方法です。春咲き種子ミックスは、耐寒性一年草の組み合わせが多く、それらの開花期の前後はさびしい風景になりがちです。そこで、ミックスシードが咲き出す前の早春はスイセンやムスカリなどの球根植物を、ミックスシードの花後の初夏にはシャクヤクやアイリス、サンジャクバーベナ、エキナセアなどの多年草、さらにバラなどの低木も入れると、長期間バトンタッチしながら草花が咲いてくれます。
名脇役! イネ科の植物が大活躍
私のメドウガーデンではイネ科の植物も取り入れています。種子を播いたわけではなく自然に生えたものです。海外ではオーナメントグラスとして人気が高く、日本のイネ科の植物の美しさに感動するガーデナーも少なくありません。イネ科の植物は風に揺れる動きと、カサカサという音色が美しく、目を閉じると草原にいるかのような雰囲気を醸し出してくれます。そこに風に乗ってバラや草花のほのかな香りが漂うと、五感を刺激して極上の癒やしを味わえます。
また、イネ科の植物があると、花のシルエットを浮き立たせるガーデンの引き立て役にもなり、程よい抜け感がメドウガーデンとしての美しさを格段に上げてくれます。英国ではイネ科の植物を生育させた後、デザイン的に刈り取ることで美しいグラスガーデンをつくっているケースもあります。
イネ科の植物を取り入れる際の注意
ただし肥沃な土壌だと想像以上に育ってしまうので、取り入れる前にご自身の環境でどの程度育つか検証することをおすすめします。育ちすぎる場合は、肥料を控えたり、早めに剪定するようにします。また、水はけがよくなるよう土壌改良するとよいでしょう。
【オススメのイネ科プランツ】
イヌムギ、カモジグサ、ネズミムギ、コバンソウ、オニウシケノグサなどが私のおすすめ。ちょっと郊外の道端や車道脇などをよく観察すると、ほかにも美しい品種がたくさんありますので、お気に入りの植物を見つけて取り入れてみると楽しいですよ。
メドウガーデンで害虫対策⁉
じつは、メドウガーデンをつくることで害虫が減る効果も期待できます。多種多様な草花を植えると、それらの花の蜜を求めて虫たちが集まります。その虫たちを捕食する生き物も増え、食物連鎖が健全に機能し、害虫の被害が軽減されるのです。
私はバラを栽培しているので、バラの周りに蜜源植物を植えることで害虫対策をしています。特に小さく見つけ難い厄介なバラゾウムシをクモが食べてくれるのには大助かりです。生き物たちがガーデニングの手助けをしてくれますし、彼らの営みを愛でる楽しみも増えて一石二鳥です。
メドウガーデンは種取りも醍醐味
メドウガーデンに使われている草花は一年草が多く、種子をつけるものが多いです。その種子を採取して、また秋に播くこともできます。ほとんど知られていませんが、植物はその土地の記憶を種子に残すというユニークな性質があります。つまり自分で育てた草花の種子からまた育てれば、よりその土地に馴染み、育てやすい草花になるのです。虫たちのおかげで自然交配する花もあるので、今年はなかった花色が来年は出たりすることもよくあります。そこが自家採種の面白さでもありますので、ぜひチャレンジしてみてください。
Credit
写真&文 / 持田和樹
アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。
https://www.facebook.com/kazuki.mochida.7
https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D
写真 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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