バラを守るのは人ではなく庭? 害虫を敵にしない「命のつながり」の庭づくり
農薬や殺菌剤に頼らず、生き物たちの力を活かしながらオールドローズを育てる庭があります。そこでは、蝶や蜂が花々の間を舞い、小鳥たちが羽を休め、さまざまな命が支え合いながら一つの風景をつくり出しています。
今回は、有機無農薬によるローメンテナンスなバラ栽培を実践する持田和樹さんに、命のつながりがバラを守る「ローズメドウガーデン」のつくり方を伺います。
花を育てることから始まる、自然と共にある豊かな暮らし。そんな物語を一緒に歩いてみませんか。
目次
なぜ今、オールドローズなのか

春の朝、庭へ出ると、まだ露の残る草花の間から一輪のバラが顔をのぞかせています。
それは決して華やかに自己主張するような咲き方ではありません。
まるで昔からそこにあった野の花のように、風景の中へ静かに溶け込んでいます。
私が長年育ててきたのは、そんなオールドローズです。

現代のモダンローズには、整った花形や鮮やかな花色、繰り返し咲くという魅力があります。
けれどもオールドローズには、それとはまた異なる美しさがあります。
それは「自然の中に還る美しさ」です。
枝は自由に伸び、風に揺れ、周囲の草花と共に季節を彩ります。
主役でありながら決して目立ちすぎない。
だからこそ私は、自然風の庭であるメドーガーデンに最も似合うバラはオールドローズだと思っています。
そしてもう一つ、オールドローズには現代の私たちが忘れかけている豊かさがあります。
それは、香りです。
朝露をまとった花から漂うダマスクの香り。
夕暮れの空気に溶け込むやわらかな芳香。
香りは目には見えません。
けれども、人の記憶や感情に深く触れる不思議な力を持っています。
忙しい毎日の中で立ち止まり、深呼吸をする。
オールドローズは、そんな時間を私たちに贈ってくれる存在なのです。

私はオールドローズを育てているというよりも、風景を育てているような気持ちで庭に向き合っています。
そして、その風景の中には、私たちが思っている以上に多くの命が暮らしているのです。
バラを守るのは私ではなく、庭そのもの

私は害虫を見つけても駆除しません。
農薬も散布しません。
病気予防のための殺菌剤も使いません。
それでも毎年、庭にはたくさんのオールドローズが咲いています。
この話をすると、多くの方が驚かれます。
「本当にそんなことができるのですか?」
と。
私自身も最初からうまくいったわけではありません。
けれども長年庭と向き合う中で、一つのことに気づきました。
それは、植物を守るためには植物だけを見ていてはいけないということです。

私たちは害虫を見ると、すぐに敵だと思ってしまいます。
しかし、自然界には害虫だけが存在することはありません。
その周りにはテントウムシがいて、クモがいて、カエルやトカゲ、小鳥たちがいます。
本来、自然界ではそれぞれの生き物が役割を持ち、食物連鎖の中で数のバランスを保っています。
問題は虫ではありません。
その仕組みが働かなくなってしまう環境なのです。

そこで私が取り組んできたのが、生物多様性を高める庭づくりでした。
ローズメドウガーデンでは、バラだけでなく、さまざまな宿根草やハーブ、蜜源植物を植えています。
蜜源植物とは、昆虫たちに蜜や花粉を供給する植物のこと。
春から秋まで花が途切れない環境をつくることで、多くの生き物たちが暮らせるようになります。
すると庭の中で、少しずつ自然の循環が動き始めます。


アブラムシが現れれば、それを食べる生き物もやってくる。
昆虫が増えれば、それを目当てに鳥たちも訪れる。
やがて庭そのものが、小さな生態系として機能し始めるのです。
私は植物を守るために、生き物を排除する方法を選びません。
むしろ、生き物たちが暮らしやすい環境を整えることで、結果として植物も守られると考えています。
私にとってローメンテナンスとは、手を抜くことではありません。
自然の力を借りることです。
自然を管理するのではなく、自然の仕組みを信頼すること。
それが、私がたどり着いたバラとの付き合い方なのです。

ローズメドウガーデンの設計思想
~自然の仕組みを生かす庭づくり~
ローズメドウガーデンは、単にバラと草花を混植した庭ではありません。
そこには明確な目的があります。
それは、美しい風景をつくること。
そしてもう一つ、生き物たちが暮らしやすい環境をつくることです。

私は庭づくりをするとき、まず「花をどう見せるか」ではなく、「どんな命が暮らせるか」を考えます。
春だけ咲いて終わる庭ではなく、季節を通して花が続くこと。
背の高い植物、低い植物、地面を覆う植物が共存すること。
昆虫が休み、鳥が身を隠せる場所があること。
そんな環境を整えていくと、結果として庭は自然に安定していきます。
そして、その安定こそがローメンテナンスにつながります。

管理によって維持する庭ではなく、仕組みによって支えられる庭。
私はそんな庭を目指しています。
だからローズメドウガーデンでは、整いすぎた美しさよりも、少しだけ自然の余白を残します。
植物が自由に広がる場所。
こぼれ種が芽吹く場所。
昆虫たちが暮らす場所。
その余白があるからこそ、庭は年々豊かになっていくのです。

花を育てるのではなく、命の舞台をつくる

春になると、オルレアの花には虫たちが集まります。
初夏にはバラの周りを蜂たちが飛び交い、三尺バーベナには蝶たちが舞います。
草むらにはクモが巣を張り、夕方になると鳥たちが庭を訪れます。
私が庭づくりを始めた頃は、花を咲かせることばかり考えていました。
どうしたら病気にならないだろう。
どうしたらもっとたくさん咲くだろう。
どうしたら美しく見えるだろう。
けれども長年庭と向き合ううちに、少しずつ考え方が変わっていきました。

ある日、バラの花にとまる一匹の蜂を眺めていた時のことです。
その蜂は蜜を集めると、どこかへ飛び去っていきました。
しばらくすると今度は草花に蝶がやってきます。
足元ではクモが巣を張り、草むらでは小さなバッタが跳ねています。
その光景を見ながら、私はふと思いました。
この庭は私がつくったのではない。
みんなでつくっているのだ、と。

花だけを見ていた頃には気づかなかった世界が、そこにはありました。
バラは虫のために咲き、
草花は蝶を呼び、
草や茂みは小鳥の隠れ家になる。
そして生き物たちは、それぞれの役割を果たしながら庭を支えている。
庭とは植物を並べた場所ではなく、多くの命が関わり合う舞台なのかもしれません。
まずは一株のバラから

最初から広い庭を作る必要はありません。
たくさんの植物を植える必要もありません。
まずは一株のバラからでも十分です。
そのバラの香りを感じること。
花を訪れる虫たちを眺めること。
季節ごとの変化を楽しむこと。
そこからすべては始まります。
庭づくりとは、植物を増やすことではなく、自然との関係を育てることなのかもしれません。

このローズメドウガーデンで育まれた無農薬のオールドローズたちは、花を咲かせるだけでなく、暮らしの中にもその恵みを届けてくれます。
私が一輪一輪と向き合いながら育てたバラから生まれたローズウォーターやローズペタルを販売しております。この庭の物語の続きを、ぜひご自宅でもお楽しみください。
Credit
写真&文 / 持田和樹

-ガーデンライフコーディネーター-
ローズと植物のある暮らしから、心と身体、意識を整える生き方を提案。自然と調和するバラの庭や菜園づくりを通して、人と地球の健康を育む活動を行う。福祉事業所での食用バラ栽培により、「生物多様性アクション大賞2019」審査委員賞受賞。
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