害虫に悩まされないガーデニング、と聞くと、多くの人が農薬を用いる方法を思い浮かべると思います。しかし、薬剤で駆除するのではない方法で害虫被害を抑え、ローメンテナンスで美しい庭を楽しむことができるとしたらどうでしょうか?
有機無農薬で、メドウ(野原)のようなローズガーデンを育てる持田和樹さんが実践するのは、生物多様性を重視した庭づくり。花を愛でるだけでなく、生き物たちが増えることで新たな発見や四季の移り変わり、感動を味わうことのできるガーデンです。自然の力を借りた、害虫に悩まされないストレスフリーなガーデニングのポイントを解説します。
目次
無農薬栽培の秘訣は「生物多様性」

今回は、私が週に1度、隣町の畑でつくっている無農薬栽培のローズメドウガーデンで実際に取り組んでいる害虫対策について、深掘りしてお話ししたいと思います。
無農薬栽培と聞くと、難しいという印象を受けるかもしれません。しかし、私は実際に、週末1回、午前中たった数時間だけの作業でも、広い畑を無農薬栽培でバラ園にすることができました。つまり、栽培の秘訣を知れば、無農薬でもローメンテナンスで美しい庭をつくることが可能なのです。
無農薬の庭づくり、その最大の秘訣は、「生物多様性」です! 生物多様性が豊かになれば、害虫を捕食する益虫や鳥などの生き物も増えるため、害虫の繁殖が自然と抑えられ、その被害を軽減することができます。
つまり、この生物多様性が豊かであればあるほど、無農薬でも害虫に苦しめられることなく、美しい庭を実現できるのです。
それでは、生物多様性に富んだ庭づくりを、いくつかのポイントに分けて解説していきましょう。
ポイント1
多種多様な植物を育てる

多種多様な植物を育てることで生物多様性が豊かになり、生態系全体のバランスを保ちやすくなります。
ここで押さえておきたいポイントは、生き物によって好みの植物が異なることです。人間と同じように食べ物の好みは生き物それぞれにあります。どの植物があるかで増える生き物が変わるので、多種多様な植物があれば、より多くの種類の生き物を呼び込むことができるのです。専門店より百貨店のほうが、さまざまな年代層の人が集まるのと同じ感覚ですね。
それに加えて大切なポイントは、自然に生えてくる野草を取り入れること。園芸品種の花よりも野草のほうが、生き物にとって魅力的な蜜源や食草になるため、うまく取り入れることができれば生物多様性を実現し、ひいては害虫対策に役立ってくれます。

例えば、バラを育てていると必ずやってくる体長3mmほどの小さなバラゾウムシは、せっかくできたバラのつぼみを咲く直前でダメにしてしまう、厄介な害虫です。この小さくて隠れ上手なバラゾウムシも、ハエトリグモが増えれば勝手にパトロールをしてやっつけてくれます。ハエトリグモは徘徊性で、クモの巣は張りませんが、ハエを捕まえるほど俊敏な名ハンター。クモの仲間は、糸を飛ばして風に乗ってやってくるので、たとえ現時点では少なくとも、環境が豊かになれば必ず来てくれます。
クモというと、見た目が苦手な方もいらっしゃるかと思いますが、映画のスパイダーマンのように、庭や菜園では害虫をやっつけるスーパーヒーローです。ぜひクモを味方につけてみてください!
ポイント2
コンパニオンプランツを植える

家庭菜園では認知度の高いコンパニオンプランツですが、庭づくりにも応用すると、害虫を抑制する効果が期待できます。
コンパニオンプランツとは、異なる植物を近くに植えることで、相互に利益をもたらすような組み合わせの植物のことを指します。コンパニオンプランツにはいくつかのメリットがありますが、その中でも代表的な2つをご紹介しましょう。
① 害虫の抑制

例えば、コンパニオンプランツの代表格であるマリーゴールド。マリーゴールドはその香りで多くの害虫を追い払うといわれ、さらに根からは病気を引き起こすセンチュウを寄せ付けない成分を分泌し、病害虫対策に効果があるとされています。
また、ニンニクやセージなどのハーブ類は自身に害虫を寄せ付けにくくする成分を持っており、これが一緒に植えたほかの植物にもよい影響を与えることがあります。ニンニクはアリウムのような美しい花が咲きますし、セージも美しい紫やピンクの花が咲きます。どちらも料理に使えるので、一石二鳥です。

私のローズガーデンではハーブを積極的に取り入れていて、パクチーやブロンズフェンネル、ミントも育てています。パクチーの花はサイズは小さいものの、オルレア‘ホワイトレース’によく似ていて、とても可愛らしいです。花が咲くと虫がたくさん来てくれ、害虫抑制にも役立ちますよ。もちろん食材としても利用していますが、健康によい成分が豊富なのも嬉しいですね。
ブロンズフェンネルは、銅葉が美しく庭の引き立て役になります。サラダやスープ、魚料理などさまざまな料理に使え、切る度に広がるアニスに似た甘美な香りに癒やされます。フェンネルも、花が咲くと虫たちが喜ぶ蜜源植物です。

ミントもコンパニオンプランツとして活用しています。ミントの香り成分は、餅にカビを生えにくくするほどの抗菌効果があります。土壌にはさまざまな菌類が生息しているので、病気対策として取り入れています。また、花の少ない真夏に美しい花を咲かせてくれて、さまざまな虫の蜜源になりますし、葉もバッタ類の好物のようで、生物多様性を豊かにする力はハーブの中でも最も強いのではないかと感じています。品種により香りが異なるので、お好みの香りを選んで取り入れてみてはいかがでしょうか?
私のおすすめ品種は、優しい香りの日本ハッカや北見ハッカ、銅葉が美しく香りがよいクールミントです。夏にはミント水にしたり、カルピスに浸して香りを移して飲んでいます。爽やかな味と香りで、夏バテした身体をリフレッシュさせてくれます。
取り入れる際の注意点として、よく知られているようにミントは繁殖力が強く、地下茎で増えることを考慮しておきましょう。特にアップルミントは繁殖力が強い種類です。ミントの根は深く張らないためバラの根とは干渉しにくいですが、葉が茂りすぎるとバラが蒸れることがあるため注意しましょう。
② 栄養の補完

一部の植物は、土壌に必要な栄養素を供給したり、他の植物が効率よく栄養を吸収するのを助けたりします。例えば、マメ科の植物は空気中の窒素を固定し、土壌の栄養を改善します。
私はマメ科のスイートピーをバラの近くに植えています。バラの栄養補給をスイートピーが助ける裏技です! 同時期に咲くため景色もとても華やかになり、オススメです♪ 野菜のインゲンやエンドウの仲間も花が美しいので、庭の中に野菜を入れてポタジェ風にアレンジすると、さらに庭づくりが楽しくなりますよ。
このようにコンパニオンプランツを上手に組み合わせることで、庭仕事の効率を高め、植物の健康を促進し、害虫を抑えることができるのです。
ポイント3
蜜源植物を植える

蜜源植物とは、ミツバチが蜜を集める花のこと。ミツバチに限らず、花の蜜を食料とする生き物たちにとって、生きていく上で欠かせない植物です。蜜源植物をうまく取り入れることで、生物多様性が豊かになり、自然と害虫の数を減らすことができるでしょう。
園芸品種にも蜜源植物になるものはあります。しかし観賞用に改良された美しい花は、花弁が多くなる代わりに雄しべが退化したり、本来備わっていた虫たちに必要な花粉や蜜が出なくなったものがたくさんあります。ですから、意識的に蜜源となる植物を選ぶことが大切です。また、身近な野草にもたくさんの蜜源となるものがあります。

私が活用しているおすすめの野草は、スミレ、タンポポ、イヌフグリ、ナズナ、ヘビイチゴ、カタバミ、ハルジオン、ヒメジョオンなど。名前を挙げたらキリがありませんが、それくらい、私は野草を庭づくりに取り入れています。
野草のよいところは、草原のようなメドウガーデンにふさわしいナチュラルな雰囲気を作り出してくれることです。園芸品種のように目につく華やかさはありませんが、素朴で柔らかな雰囲気がバラやほかの草花を引き立ててくれます。
蜜源植物が多くなると、自然と庭に訪れる生き物が増えていきます。歩くたびに嬉しそうにチョウが飛び交い、小さな虫たちが花の上で宴を楽しみ、新しいカップルが誕生する姿を目にするたびに、私は幸せな気持ちでいっぱいになります。そんな、生き物たちが生き生きと伸びやかに躍動する庭を、蜜源植物が作り出してくれます。花を愛でるだけでなく、生き物たちが増えることで、新たな発見や四季の移り変わり、感動を味わうことのできる庭になります。
ポイント4
食草を育てる

草食の生き物たちの食べ物、つまり食草を育てることでも、害虫を減らす効果が期待できます。
例えば、イネ科の野草は野鳥の餌になります。実ができる時期になると、それを食べにスズメなどの野鳥が飛来してついばんでいる様子を目にします。彼らは同時に害虫なども食べて回るので、野鳥の惹きつけ役としてイネ科の野草は優れているのです。
ほかにもイネ科の野草は、バッタやコオロギなどの食草になるため小さな昆虫が増え、それを食べる野鳥やカエル、トカゲなどの爬虫類、カマキリやクモなどの有益な生き物が増えていくという、重要な役割を果たしてくれます。
イネ科の野草は雑草として忌み嫌われていますが、私のガーデンでは立派な名脇役。特に春に出てくるイヌムギやホソムギなどを積極的に取り入れています。美しい穂とシルエット、風になびく姿が、まるで草原のよう。風が吹けばサラサラ〜ッとイネ科特有の音色を奏で、いつも私を癒やしてくれます。これはイネ科の植物だからこその個性だと感じています。

8月に入ると、夜には秋の虫たちが盛んに鳴き始めます。秋の虫たちは野草が大好き。食草となる野草を残しておくことで、秋の虫が生きていくことができるのです。
秋の虫たちが奏でる愛のメロディーは、心を穏やかな気持ちにさせてくれます。食草を取り入れることで、日中は鳥たちの遊ぶ姿やさえずりに癒やされ、夜には秋の虫の演奏会に癒やされるナイトガーデン。そんな耳でも癒やしを感じる庭づくりをしてみませんか?
生き物はそれぞれ一流のプロフェッショナル
ガーデニングをされている方で、虫が苦手な方も多いと思います。苦手だからこそ関心が薄く、それぞれの虫や生き物が何をしているか? どんな特徴があるか? などと調べる人は少ないのではないでしょうか。
生き物にはそれぞれ役割があり、それぞれが専門家で一流のプロフェッショナルです。
人の役に立つ生き物を大きく分けると、以下の3つになります。
- 送粉者: ハチやチョウなどは花粉を運び、植物の受粉を助ける。
- 分解者: ミミズや甲虫などは死んだ植物や動物を分解し、栄養素を土壌に戻す。
- 捕食者: 鳥やカマキリ、クモなどは害虫を捕食し、植物の保護に貢献する。

それぞれの生き物は、現代の最新の科学技術を駆使しても再現できないほどの能力を秘めています。例えば、害虫を食べてくれるクモを人間が作るとしたら、莫大なお金と労力を必要とすることでしょう。しかし自然界では、人件費もかからず、指示をしなくても勝手に365日、昼夜を問わず、多様な生き物がそれぞれの役目を果たすために動いてくれています。
これほど優秀なプロフェッショナルたちを活用しない手はありません。
私も以前は庭を見回り害虫駆除に勤しんだ時期がありましたが、生物多様性が豊かになった今の庭では、「生き物を一切殺さず」にバラを咲かせたり、美しい庭を実現できています。害虫駆除にかけていた時間が必要なくなり、さらには生き物たちが土を豊かにしてくれるので、耕すことすらしなくなりました。雑草対策だけはしますが、こちらも必要最低限です。生き物たちのお陰でできた時間を有意義に使い、ほかのことを楽しんでいます。
また、心の面でもストレスが随分なくなりました。毎日、害虫対策や駆除で頭を悩ませたり、イライラすることもなく、むしろ、観察することや調べることで、新たな発見があり楽しくて仕方ありません。
生き物たちの力を借りることにより、ストレスフリーなガーデニングライフを送ることができるのです。
害虫対策に効果的なことは、害虫を駆除しないこと

衝撃的な発言かもしれませんが、害虫対策に効果的なことは害虫を駆除しないことなのです。
なぜかというと、生き物は互いに依存し合い、相互扶助で成り立っているからです。
捕食者は、害虫と呼ばれる被捕食者がいなければ生きていくことはできません。決して人間に都合よく、捕食者だけが増えることはないのです。
このことを念頭に行動すれば、害虫を徹底的に駆除しようと思わなくなります。
理想論できれいごとのように聞こえるかもしれませんが、実際に私の庭や畑では、無農薬栽培でも驚くほど害虫の被害を抑えることができています。害虫が全くいなくなることはありませんが、逆に大きな被害もほとんどありません。
例えば、農業の世界でも深刻な問題となっているのが、病害虫の薬剤耐性です。病害虫を駆除するために薬剤を散布し続けた結果、薬剤が効かない抵抗性病害虫が増えています。除草剤を使用する雑草においても、同じ現象が起きています。
ここで問題なのが、人間の都合に合わせて病害虫だけを選択的に駆除することはできず、有益な生き物たちも駆除してしまうこと。そして、食物連鎖のピラミッドを見ても分かるとおり、上位の生き物ほど数が少なく、再生に時間がかかることです。
世界で環境に優しい栽培方法が見直されていますが、そもそも自然界は最も調和がとれていて共存共栄していく素晴らしいシステムができていると感じています。自然ですから、目の前の問題に対して即効性のある解決策はありませんし、問題がゼロになることもありません。しかし、私たちが感じている問題も、じつは大きな循環の中では必然であり、その問題が起きた原因となる根本には何があるのか考えることが重要なのです。駆除や排除は対症療法であり、根本療法ではないので、根本を変えない限りまた同じことが繰り返されることになります。
ここで忘れてはいけないことは、地植えと鉢植え、庭と室内では条件が全く違うこと。自然が豊かな環境であれば、自然の循環の中で問題が解決されていきますが、自然が少ない人工的な環境では、人間がサポートする必要があります。
そして、人間もまた自然の一部。目の前の植物や環境と向き合い、必要だと感じたらサポートしてあげてください。

人にも地球にも優しいガーデニングを目指して

私が長年にわたりバラの無農薬栽培を実践して感じたことは、自然界の中では害虫という存在はないということです。
害虫という言葉は人間が作り出したもので、自然界には全ての生命に役目があり、無駄な生命は1つもないと実感しています。人間にとっては観賞するための花を食べる虫は厄介者ですが、植物にとっては受粉を助ける大切なパートナーで、植物自身が呼び寄せていることもあります。
これは私の見解ですが、植物は動けないからこそ虫の力を借りて助けてもらっている、と考えています。
たとえ、人間目線で見ると葉を食べる害虫に見えたとしても、それは不要な葉を減らすために食べてもらって葉からの蒸散量を調整していたり、花が多すぎると実が小さくなってしまうので虫が花の咲く量を調整していたりする…その姿が、農家が行っている葉かきや摘花と全く同じだということに気が付いたときには驚きました。菜の花はモンシロチョウの幼虫に葉を食べられますが、菜の花の受粉を助けるのもまた、成長したモンシロチョウなのです。それは、植物自身が自分で餌を与え、モンシロチョウを育てているとしか思えません。 地球の歴史を振り返ると、人間が生まれる遙か昔、1億4000万年以上前から植物と昆虫は共進化を遂げてきた仲間です。地球や自然の営みから見れば、私たちの人間目線はとても小さな考えで、もっと物事を俯瞰して見ることの大切さや自然を思いやる心、自然に生かされていることの大切さに改めて気付かされます。

ガーデニングは自然と繋がるとても素敵な行為です。自然と一体となる共同作業を通して大切なことを学び、心豊かになります。
これから先の未来が持続可能な世界であるためにも、人も自然も健康になる地球に優しいガーデニングが少しでも広がることを願っています。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 持田和樹

アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。
https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D
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