ここはクリニックの庭。身体や心に不安を抱える患者さんや、日々忙しく働くスタッフたちの癒やしにと、院長先生と夫人がつくった庭です。一年365日を通じて季節の花が咲き継ぎ、さまざまな表情を見せる庭とその舞台裏をご紹介します。庭を丹精する面谷ひとみさんは、毎年テーマを変えながら、草花の一部を植え替えて庭の新鮮さを演出しています。今年2022年はシャーレーポピーがバラと共演。さまざまな花色で咲く愛らしい花をご紹介します。
目次
古くから親しまれている素朴な花、シャーレーポピー
シャーレーポピーは、今年初めてチャレンジした花です。特に新しい花ではなく、古くから親しまれている「ヒナゲシ」という和名は、アグネス・チャンの歌でもよく知られていますよね。昨年、初めて苗を見かけて買いましたが、咲いてびっくり。虞美人草(グビジンソウ)という中国の伝説の美女の名前が別名になっている通り、あまりのかわいらしさに、すっかり虜になってしまいました。
バレリーナのスカートにぴったりだと思いませんか?
シャーレーポピーは花径が7〜8cm、存在感がありながらも、とても華奢な雰囲気で咲きます。花びらはシフォン生地のようにごく薄く、花を逆さにしたらバレリーナのスカートにぴったりだと思いませんか? 朝日が射すと光を通してシベや花弁の重なりが影絵のように映し出され、なんともメルヘンチック。
シャーレーポピーはもともと一重の赤色の花ですが、交雑しやすいようで、さまざまな花色が出ます。コーラルピンクや白とピンクのバイカラー、朱色、白の八重咲きなど、実際に咲くまで、こんなにいろいろな色があるとは思わなかったので、花が開くたびにびっくり、感動、ため息の連続。大人になって、こんなに毎日胸が躍ることがあるなんて、なんて幸せなんでしょう。こうした自然からのサプライズプレゼントがあるから、庭づくりはやめられません。
シャーレーポピーは一年草で、ちょうどバラと同じ頃に咲きます。うつむいたつぼみは白い毛で覆われており、この白鳥の首のような優雅な姿も可愛いのです。つぼみがだんだん上向きになってくると、もうすぐ開花という合図。咲く前日のつぼみは天を向いています。そして緑のつぼみがパカッと2つに割れて、花が開きます。開いたばかりの花は、真ん中の写真のようにクシュクシュと折り目がついています。あの緑のつぼみの中に、花びらが小さく折り畳まれてしまわれていたのだと思うと、本当に面白いです。数時間後には花びらはピンときれいになり、少しずつ花色も変化していきます。
バラとの共演にもぴったりなシャーレーポピー
シャーレーポピーは草丈が70〜80cmくらいで、ちょうどこの庭に植えている木立ち性のバラと草丈が合うのも魅力です。低すぎても花が共演できませんし、高すぎればバラがかげってしまいます。その点、シャーレーポピーはバラよりやや低めくらいで咲いてくれるので、共演にぴったり。彩りとしてしっかり活躍しながらも、茎が細く花の雰囲気も繊細なので、目立ちすぎることもなく、バラとの相性が抜群にいいのも発見でした。
写真の左端に見えるバラは、オールドローズの‘ジャック・カルティエ’。私はこのピンク色の花が大好きなのですが、まるでこの花色に合わせるように、白とピンクのグラデーションのシャーレーポピーが咲いてくれました。ここに真っ赤なポピーが咲いていたら、また違った雰囲気になると思いますが、つぼみが開くまでは何色か分からないのでドキドキします。足元のピンクの花はゲラニウム、ブルーの花はデルフィニウム‘チアブルー’などです。この少量のブルーの小花もバラやほかの花々を引き立てる名バイプレーヤー。これらの花のお話もまた改めてご紹介しますね。
華奢なシャーレーポピーの育て方
シャーレーポピーの苗を園芸店で見つけたのは、冬。米子は冬に大雪が降ることがあるので、しばらく自宅で苗を養生し、春を待って3月に植え付けをしました。ビオラの株間にシャーレーポピーの苗を置いていっているのは、この庭をデザインしてくれたガーデンデザイナーで、私のガーデニングの師匠でもある安酸友昭さん。安酸さんは花の植え替え時に庭に来てくれて、2人で役割分担しながら庭づくりをします。といっても、安酸さんはいつも苗を置く係で、私は植え付ける係です。みなさん、置く係のほうが断然楽だと思いませんか? でも適当にポンポン置いているように見えて、ちゃんと5月の景色を計算しながら配置しているので、これはとても大事な仕事なのだと安酸さんは言います。う〜ん、5月の庭を見れば納得せざるを得ません。
しばらく小さなビニールポットで養生していた苗は、ポットの中で根がグルグル回っています。このまま植えるとなかなか根が広がっていかないので、少し崩して伸びやすくしてから植えます。米子は春に強い風が吹き、植えたばかりの幼苗がクタッとなることがあるので、私はバケツの中に水を張って、そこにドボンと苗をポットごとしばらくつけてから、根を少し解いて植え付けます。その際、メネデールという植物活力液を水に薄めて入れています。根の伸びが促進されて、活着が早いようです。
4〜5月にかけて、細い茎が伸びてきます。この細さがシャーレーポピーの魅力でもあるのですが、風が強いと倒れてしまうこともあるので、この庭では倒れそうな株には支柱を添えています。しばしば公園などでポピーが見事に群生している風景がありますが、群生している場合は株同士が支え合って倒れる心配はありません。でも、この庭ではバラやほかの草花の間に、あまりぎゅうぎゅうにならないように植えているので、この細い茎では立っていられないこともあります。支柱はなるべく竹などの自然素材で、目立たぬように草丈に応じて変えます。以前、どうせ大きくなるのだから初めから高い支柱でいいやと思って立てたら、安酸さんに「これじゃあ、花を見てるんだか、支柱を見てるんだか分からん庭ですね」とダメ出しをされました。以来、あくまで支柱は目立たぬように気をつけています。
来年は種まきからシャーレーポピーに挑戦!
来年はもっといっぱいシャーレーポピーを植えようと思っています。でも安酸さんにその話をしたら、「シャーレーポピーの苗はあまり流通してなくて、そんなにたくさん入ってきませんよ」とのこと。それなら自分で種を播くしかありません。今年最後に咲く花に種をつけさせて、種採りをしてみようかなと思っているところです。こぼれ種でも咲くそうですが、この庭は植え替え時に土を耕してしまうので、どれだけ残ってくれるか分かりません。種まきをして苗を作ったほうが確実です。シャーレーポピーの種まきは9〜10月。みなさんも一緒にチャレンジしてみませんか? そしてどんな花が咲いたか、来年の春、みんなで教え合えたら楽しそうですね。
庭施工/Lovely Garden(ラブリーガーデン)
庭施工/Lovely Garden(ラブリーガーデン)
住所:鳥取県米子市両三柳839
電話番号:0859-24-1500
http://www.lovely-garden.jp/shop.html
Credit
話 / 面谷ひとみ - ガーデニスト -
おもだに・ひとみ/鳥取県米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。花を咲き継がせるテクニックが満載の『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(KADOKAWA)が好評発売中!
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撮影・取材・まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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